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FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症~知っておきたい希少疾患
ー 骨の痛みとリン代謝 ーFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症をどう見抜くか
取材協力:協和キリン株式会社
くる病・骨軟化症の分類と、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症とは何か
くる病・骨軟化症は、骨の石灰化障害により小児ではくる病、成人では骨軟化症として現れる疾患群である。原因は大きく以下の3つに分類される。 ● ビタミンD欠乏性 ● ビタミンD依存性 ● 低リン血症性このうち低リン血症性くる病・骨軟化症は、腎尿細管でのリン再吸収障害により慢性的な低リン血症を呈し、さらに原因別に複数の疾患が含まれる。その中心的な病態を担うのが、腎でのリン再吸収を抑制するホルモンFGF23[線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor 23: FGF23)]の過剰作用である。代表的な疾患がX染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)と腫瘍性骨軟化症(TIO)であり、本稿ではこのFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症を取り上げる。
FGF23過剰がもたらすリン低下のメカニズム
骨の石灰化にはカルシウムだけでなくリンが不可欠である。FGF23が過剰に作用すると腎尿細管でのリン再吸収が抑制され、慢性的な低リン血症が持続する。これにより、小児ではくる病、成人では骨軟化症が生じる。臨床現場では「骨=カルシウム」という認識がまだまだ強く、リンの重要性が十分に意識されていないことも少なくない。しかし、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の本態はリン代謝異常であり、診断の出発点は「血清リンを測ること」にある。
XLHとTIO:共通点と相違点
X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)XLHは遺伝性疾患で、約70%が家族性とされる。出生時から病態を有し、小児期には歩行開始後に下肢変形(O脚・X脚)が顕在化する。低身長、動揺性歩行、駆けっこが遅い、転びやすいなどが診断の契機となる。成人期には骨痛、偽骨折、骨折が問題となり、骨折は骨粗鬆症が原因で起こる骨折と起こりやすい部位が異なる。偽骨折は骨を横断しない骨折様病変で、慢性的な骨脆弱性を背景に出現する。従来治療(ビタミンD製剤・リン酸製剤)は長期使用で腎機能障害や副甲状腺機能亢進症を招くリスクがあり、加齢とともに合併症が増える点も課題である。腫瘍性骨軟化症(TIO)TIOは後天性で、FGF23産生腫瘍が原因となる。有病率は1~5万人に1人で、男女差はない(1)。大人で発症することが多いが、まれに子どもでの発症も報告されている。「かつてない痛み」として自覚されることもある。骨粗鬆症や変形性関節症と誤診されやすく、原因となる腫瘍は1cm未満と小さく、全身のどこの骨や軟部組織にでも発生する可能性があるため、見つけにくいことが多いと言われている。専門医の「整形の先生による画像診断にリン値の確認が伴えば、診断は一気に近づく」といった期待の声もある。
患者さんが語る質の異なる「痛み」の表現
患者が訴える痛みはときに特徴的で、「まるで骨を糸ノコで切られるような痛み」や、「足先から脳天までピーンと走る痛み」など、痛みの程度が通常の疼痛とは異なることが想像される。 XLH:幼少期から痛みに慣れてしまい、治療開始後に初めて「痛みがあった」と気づく例がある TIO:成人発症のため「これまで経験したことのない痛み」として自覚されるこうした痛みの質的特徴も、診断のヒントとなる。
構造的に血清リンが測定されにくい現状
血清リンは多くの診療科でルーチン検査に含まれないこともあり、さらに症状が非特異的であるため、低リン血症を想起しにくい構造が日常診療に存在している。診断の鍵は低リン血症の確認である。血液検査では、血清アルカリホスファターゼ(ALP)値が高値で、無機リン(P)値が低値となり、まれに低カルシウム血症が同時に認められることがある。 ● 治療抵抗性の骨粗鬆症 ● 原因不明の慢性骨痛 ● 繰り返す骨折こうした“違和感”を覚えたときに血清リンを測定することが、診断への現実的アプローチとなる。また、XLHでは、家族や親族の中に低身長であったり、骨折を繰り返していたりする患者がいる場合、診断の手がかりとなることがある。
トランジションの課題:小児から成人へ
XLHは小児期に診断されても、骨端線閉鎖後に症状が軽減し、治療が中断される例がある。本人に病名が十分伝わらないまま成人を迎え、「むかし何か薬を飲んでいた」という記憶だけが残るケースもある。成人XLHでは、小児期からの診療がそのまま継続され、成人期に入っても小児科でフォローされるケースが少なくないとされる。一方で、成人診療科へのトランジションが十分に整備されておらず、移行が円滑に進まない現状がある(2)。XLHが進行性かつ生涯にわたる疾患であるという認識を、医療者間で共有することが重要である。
抗FGF23抗体療法:病態に即した新たな選択肢
抗FGF23抗体製剤クリースビータ(ブロスマブ)は、FGF23と結合してその過剰な作用を中和し、腎でのリン再吸収を改善する。従来の補充療法とは異なり、病態の中心であるFGF23過剰に直接作用する治療である。2025年に公表された「X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症の診療ガイドライン」においても、小児・成人ともにブロスマブの有用性が複数のクリニカルクエスチョンで示されており、治療選択肢として明確に位置づけられている(3)。 ● 小児:下肢変形の改善、成長促進 ● 成人:骨痛軽減、骨折リスク低減、QOL向上在宅自己注射が可能で、プレフィルドシリンジ製剤の導入により利便性も向上した。一方で薬剤費は高額であり、指定難病の医療費助成制度の理解が治療継続に影響する(4)。
潜在患者と今後の課題
XLHの有病率は約2万人に1人と推定されており(5)、国内には一定数の患者が存在すると考えられている。一方で、実際に診断に至っていない患者も多く、未診断のまま潜在しているケースが少なくないとの指摘がある。TIOは有病率が1~5万人に1人程度とされる希少疾患であるが、診断が難しいこともあり、こちらも未診断の患者が多く存在すると考えられている。「リンを測る」というシンプルな行為が、未診断の患者を見つける第一歩となる。日常診療で遭遇する頻度は高くないものの、「いつもと違う」と感じた場面で低リン血症を念頭に置けるかどうかが診断の糸口になる。《参考》 患者さん・ご家族向け情報サイト本記事で取り上げたXLHや骨軟化症について、患者さんやご家族が情報を得られる場として、「くるこつ広場」(https://www.kurukotsu.com)では疾患解説や患者さん同士の交流に関する情報が掲載されている。
(文責:エクスメディオ編集チーム)
参考資料1)古家美菜絵,伊東伸朗.Clinical Calciumu 2018;28(10):1351-13572) Kubota T. X-Linked Hypophosphatemia Transition and Team Management. Endocrines. 2022.3) 2025年「X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症 診療ガイドライン」。小児・成人ともにブロスマブの有用性がCQで示されている。4) 厚生労働省「難病法に基づく医療費助成制度」。自己負担上限額は受診単位で決まり、通院頻度が負担に影響。5)Endo I,et al.Endocr J.2015;62:811-816. XLHの推定発生率は約20,000人に1人であった。