【皮膚がん専門医が解説】メラノーマ(悪性黒色腫)の診断ポイント①~ダーモスコピーでも見逃しやすいホクロ、メラノーマと診断できる?~
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【皮膚がん専門医が解説】メラノーマ(悪性黒色腫)の診断ポイント①~ダーモスコピーでも見逃しやすいホクロ、メラノーマと診断できる?~

悪性黒色腫とも呼ばれるメラノーマは、悪性度が高く転移しやすいがんとして知られており、早期発見・治療が重要です。
近年ではダーモスコープを用いたダーモスコピー検査の普及により、メラノーマの診断精度は肉眼所見のみと比較して格段に向上していますが、なかには鑑別が難しく見逃しやすいホクロもあります。

そこで今回の記事では、皮膚科専門医の先生方が知っておきたいメラノーマ診断のポイントについて、国立がん研究センター東病院 皮膚悪性腫瘍指導専門医 陣内駿一先生に解説いただきました!
■監修:陣内駿一 医師 国立がん研究センター東病院 皮膚腫瘍科 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医 日本皮膚科学会認定皮膚悪性腫瘍指導専門医 国立がん研究センター東病院 皮膚悪性腫瘍指導専門医 陣内駿一先生
■あわせて読みたい メラノーマ(悪性黒色腫)の診断ポイントを皮膚がんの専門医が解説②~ダーモスコピーでも鑑別が難しい良性腫瘍、メラノーマと診断できる?~

― 陣内先生のメラノーマ診断に関するご経歴を教えてください。

陣内先生:国立がん研究センター中央病院にて、5年間で800~900名のメラノーマ症例をカンファレンスで共有し、さらに担当レジデントとしても診療を行っていました。一般の皮膚科クリニックだと1年に2~3名来院される程度であるため、多くの症例を経験してきたと自負しています。また、AI(人工知能)に1,600枚のメラノーマ画像を含む5,800枚の皮膚腫瘍画像を学習させ、皮膚腫瘍判定システムの開発を行った実績もあります。
メラノーマの診断精度を上げるためにはやはり症例の数をこなすことが大切だと考えています。

メラノーマ診断のポイントとは~実際の症例で解説~


― 先生が今まで診断された症例をもとに、メラノーマ診断のポイントついて教えてください。

陣内先生:まずは典型的な症例を頭に入れておくことで、メラノーマの見逃しを防ぐことができます。
ホクロ(良性) メラノーマ(悪性)
肉眼所見ホクロ(良性) メラノーマ(悪性)
特徴高齢女性、右頬11mm
常色で弾性軟の皮膚結節
高齢女性、右頬30mm以上
白色~茶褐色色素斑、色むらあり
ダーモスコピー画像ホクロ(良性)ダーモスコピー メラノーマ(悪性)ダーモスコピー
メラノーマ(悪性)ダーモスコピー
特徴ベースは常色のドーム状結節で、中央にpseudonetwork(※1)を認める。 Regression(※2)を思わせる脱色素斑、pseudonetworkを認める。また周辺の境界がやや不明瞭である。
※1pseudonetwork:偽ネットワークともいい、褐色の線で構成される網目構造のこと。
※2Regression:白色消退のこと。

陣内先生:メラノーマと診断した理由としては、大型の病変であるほかに、白色~茶褐色の色むらがあったことです。基本的な診断ポイントさえ押さえておけば難しくはありません。

メラノーマの基本的な診断ポイント~ABCDE基準~

A:Asymmetry(非対称性の病変):形が左右非対称である。
B:Border irregularity(不規則な形):輪郭がギザギザしている。
C:Color variegation(多彩な色調):色むらがある。
D: Diameter enlargement(大型の病変):直径が6㎜以上である。
E:Evolution(経過の変化):大きさや形、色、症状に変化がある。

Abbasi NR, et al. JAMA 2004; 292(22): 2771-2776.

陣内先生:次の症例は、一見ホクロかメラノーマか臨床診断が付けきれなかった症例です。2か所に見られる色素斑にはどちらともPFPパターン(※3)を認めます。しかし一方にはPRPも認めました。臨床診断はホクロだと9割方思いましたが、診断的治療のため全切除生検を行いました。結果としては幸い、ホクロ(色素性母斑)でした。

肉眼所見 ダーモスコピー画像
ホクロ(色素性母斑)肉眼所見 ホクロ(色素性母斑)ダーモスコピー画像
特徴
中年女性、右足小指内側に2か所色素斑あり。両方にPEPパターンを認め、左側の色素斑にはPRP(※4)も認められる。

※3PFP:皮溝平行パターンのこと。※4PRP:皮丘平行パターンのこと。
※3・4:一般にPFPはホクロ、PRPはメラノーマに多い特徴とされるが、診断特異度は100%ではないことに注意する。

メラノーマの診断には対象の皮疹だけでなく周辺もよく視診することがポイント


― その他に陣内先生が重要視されている診断のポイントはありますか?

陣内先生:対象の皮疹(色素斑)を視診した際に、良性腫瘍と言える根拠しか出てこなければ、恐らくそれは良性腫瘍だと思います。しかしながら少しでも疑問に思う所見を認めた時には、正直に患者さんに「自分は●●と思う」と説明するといいと思います。
また対象の皮疹だけを見るのではなく周辺も視診してください。周囲に色素性母斑や脂漏性角化症などの良性腫瘍があり、大きさや濃さを比較して異質ではないかを確認することが重要です。つまり、対象となる皮疹に異質な印象を受けるどうかが大事なポイントだと思います。隆起や出血、痂皮等認めた場合には診断の閾値を下げる必要があります。

― メラノーマと判断がつきにくく生検も困難な場合はどう対応されますか?

陣内先生:臨床診断で判断に迷った場合、病理診断に頼ることになりますが、患者さん全員にできるわけではないので、その場合は経過を追うことで皮疹の経時的な変化で診断を付けていきます。また色素性母斑と診断していても、定期的な診察を希望される方もいらっしゃいます。私は患者さんと相談し3~6か月ごとに定期的に通院してもらっています。その際には、過去のデータと比較できるように、必ず写真を撮るようにしています。症例の中には1年以上観察をして、明確な悪性所見が出てきて分かったケースもあります。カルテに所見の記述のみを残して経過を追っていくのでは、診療としては不十分です。記述の内容だけでは比較できません。また患者さんが気にしてご自身のスマートフォン等で写真を撮っている場合もあり、それも手助けになります。
他に臨床診断でメラノーマと想定し生検をしても、確定診断ができない場合もあります。その場合は臨床診断と天秤にかけながら最終的な診断を行っていきます。

患者さんを家族と思い、メラノーマと疑わしい症例は生検や他の医師への相談が大切


― メラノーマと疑われる症例を見るときに先生が意識されていることはありますか?

陣内先生:メラノーマではないかと常に考えて診察を行うようにしています。患者さんの希望があれば、医師が不要と感じた場合でも生検・切除を行うべきだと個人的には考えています。理由は、まれにその中に皮膚がんが隠れていることがあるからです。トレーニングを積んだ我々でも見分けがつきにくい症例が必ず存在します。患者さんが不安を感じていて、切除希望があるのに安易に「大丈夫ですよ」と言って返しては、いつか痛い目に合います。
医師は自身の限られた診断精度から、無意識的に陽性的中率を上げようと診察していると思っています。しかしながら偽陽性でも(メラノーマでないものをメラノーマと思っても)いいんです。偽陽性が増えたとしても見逃されるメラノーマの数は減りません。偽陽性を恐れないことでメラノーマの見逃しを防ぐことができます。もちろん結果として、偽陽性と判明するまで、一時的に患者さんにストレスを与えてしまうかもしれませんが、見逃されるよりはまだマシです。患者さんを家族だと思って、疑わしき症例は他の医師に相談する、または(積極的に)生検を行うことが大切です。
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― ありがとうございました。皮膚悪性腫瘍指導専門医が、豊富な診療経験と高度な技術に基づき、メラノーマを診断されていることがよくわかりました。

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