「心不全」の記事一覧

シリーズ紹介
シリーズ紹介
「緩和ケア」と聞いて、どんな疾患を思い浮かべますか? 多くの人は「がん」と答えるのではないでしょうか。でも、急速に高齢化が進む日本で、今ニーズが高まっているのが心不全患者への緩和ケアなのです。心不全は予後が悪く、大きな苦痛を伴います。専門家は心不全緩和ケアの重要性を訴え続けていますが、医療従事者にも浸透していないのが実情です。このシリーズでは、心不全緩和ケアの現場で働く医療従事者が、たくさんの心不全患者についての物語を紹介します。循環器内科医だけでなく、全ての医療従事者、一般の人にも心不全緩和ケアについて知ってもらいたいと思っています。 この記事は事実を基に一部創作を交えて構成しています。 <原案> 大森崇史(おおもり たかし) 飯塚病院連携医療・緩和ケア科医師。専門は総合内科、循環器内科、緩和ケア。地域密着型の循環器緩和ケアの確立を目指す「九州心不全緩和ケア深論プロジェクト」の中心メンバーで、心不全緩和ケアの普及、啓発、実践に取り組んでいる。 <企画、文、構成> ヒポクラ × マイナビ編集部 藤野基文・竹村昌敏・山下英里子 <イラスト> オオカワマリ 第1話「飯田太郎さんのこと」 へ ※バナーをクリックするとヒポクラ コンサルト内で 大森崇史 先生に質問できます。
第1章 第1話 飯田太郎さんのこと
第1章 第1話 飯田太郎さんのこと
第1章:2人の患者 第1話:飯田太郎さんのこと A病院5階にある循環器内科の医局の窓からは、四季折々の花が咲く中庭が見える。4月下旬の良く晴れた暖かな日、淡い紫色の藤の花が咲き誇る藤棚の脇に、妻の飯田春子さん(仮名、72歳)の押す車椅子に乗って散歩をする太郎さん(仮名、75歳)の姿があった。 循環器内科医の小倉誠二医師(仮名、38歳)は窓から離れると、院内PHSを同僚に託し、面談室に向かった。 10分ほどたって、飯田さん夫婦が面談室に入ってきた。患者や家族に病状を話す時に使うこの部屋は、約15平方メートルの広さで、南向きの窓からは明るい日が差し込む。小倉医師と飯田さん夫婦以外には誰もいない。外の音はほとんど聞こえず、静かだ。 部屋の中央にある机に、小倉医師と飯田さん夫婦は向かい合って座った。患者の太郎さん本人は車椅子のリクライニングを倒し、リラックスした様子に見える。一方で、春子さんは少し緊張しているようだ。 「今日はありがとうございます。中庭を散歩されているのが見えました」。小倉医師は静かに語りかけた。「今まで治療を頑張ってこられましたね。今日は、ここまでの経過の整理と今後の治療のお話をさせていただこうと思います。もし、分からないことがあったり、聞くのがつらくなったりしたら、いつでもおっしゃってください」 太郎さんは3年前、拡張相肥大型心筋症と診断され、ここ1年間は心不全の増悪で2回ほど入院している。そして今は、3日前に38度の発熱があったため、A病院に入院中だ。既に熱は下がり、容体は落ち着いているが、身体機能の低下は確実に進行している。小倉医師は、飯田さん夫婦と、経過や今後の治療方針の共有が必要な時期だと考えていた。 前の日の夕方、小倉医師は病室で太郎さんに聞いた。「飯田さん、最近調子はどうですか」 「ちょっと、きついね。どんどんきつくなる」。太郎さんはため息交じりに答えた。 小倉医師は「きつい中、本当によく頑張っていらっしゃいますね」と言葉をかける。太郎さんの思いを受け止め、少しでも精神的負担が緩和されるように。 少しの沈黙の後、太郎さんが口を開いた。「先生……。こんなことが、いつまで続くのかな」 「いつまで続くのか、心配ですよね。もしよろしければ、今後の病状と治療について、奥様と一緒にお話をさせてもらいたいと思うのですが。どうですか」 「ぜひ、そうしてください」。太郎さんは静かにそう答えた。 第2話「胸ポケットの中の『SHARE』」へ
第1章 第2話 胸ポケットの中の「SHARE」
第1章 第2話 胸ポケットの中の「SHARE」
第1章:2人の患者 第2話:胸ポケットの中の「SHARE」 面談当日、小倉医師は病院に到着した春子さんに呼び出された。 「先生、もしよろしければ、私にだけ先に聞かせてくれませんか。主人は悪いんでしょう? もし悪いのなら、本人には話さないでくれませんか。先生の前では強がっていますが、本当は弱い人なんです」。深刻そうな顔をした春子さんが訴える。 ゆっくり大きくうなずいて、小倉医師はこう語りかけた。「そうなんですね。教えてくださり、ありがとうございます。私もできることなら本人には悪い話はしたくないと思っています。ですが、本人も明らかに体調の悪化を自覚しています。病状をとても気にされていますので、きちんとお話しした方がいいと考えました。本人の体調、伝え方や受け止め方に配慮しますので、少しずつお話しさせてもらえませんか」 春子さんはジッと考えた後、「そうですか。分かりました」と小さな声で答えた。 面談で小倉医師は、これまでの病状の経過と今後起こりうることを伝えた上で、緩和ケアについて紹介した。そして将来の悪化を見据え、今後の過ごし方についてACP(医療者や家族と話し合いを行っていくこと)を開始する時期だと説明した。 完治は望めないこと、徐々に寛解と増悪を繰り返すようになること、突然死の可能性があること……。説明を聞いている途中で、春子さんは泣き出してしまった。小倉医師は、春子さんの前にティッシュペーパーの箱をそっと置き、落ち着くのを待った。 約40分の面談が終わった。「よく分かりました。もう少し妻と話し合いたいと思います」。そう言って太郎さんは、春子さんに車椅子を押されて面談室を出て行った。 飯田さん夫婦を見送った後、小倉医師は今の面談を振り返った。悪い知らせを伝える際のスキル「SHARE(※)」に当てはめながら、やり取りを一つ一つ見直していく。 SHAREは、Supportive environment▽How to deliver the bad news▽Additional Information▽Reassurance and emotional support――の頭文字を取っており、悪い知らせを伝える際に医師が実践すべき態度や行動を示している。 小倉医師はSHAREの詳細をメモした紙を、常に胸ポケットに入れている。紙を開いて読み返す。 S:支持的な場の設定。死や予後、告知の話は非常にデリケート。人通りの多い廊下や待合室などで行うのは避け、落ち着いて話せる時間、場所、雰囲気を用意する。また、医師が別件で電話対応をするようなことはしない。患者の家族に時間の余裕がない時に面談を設定することは避ける。患者の体調の良い時間帯を選び、ゆっくり座れたり、横になったりしながら話を聞ける環境を用意する。 H:悪い知らせの伝え方。伝える時の言葉の選び方は非常に重要。まどろっこしい表現は避け、率直に伝えなくてはならない。また、患者と家族が病状の経過を共有できているか、話の内容を理解できているのかについて確認しながら話を進める。 A:付加的な医学情報。その情報が患者や家族にとって必要な情報か。患者や家族が、その情報を受け止められる心理状態にあるのか。医師の説明の場合は、特に注意をしなくてはならない。 RE:安心感と情緒的サポート。患者の感情を受け止め、情緒的なサポートを行う。例えば、患者や家族が説明中に泣き出して「もうこれ以上話を聞きたくない」と言ったとしても、文字通り受け取って説明を切り上げてはいけない。その言葉の裏にある感情を考える。「おつらいですよね」と声をかけたり、ハンカチを渡したりして、気持ちが落ち着くのを待つことも大事なコミュニケーション。 「“今回は”大丈夫だ。太郎さんも春子さんもきちんと理解してくれたはず。冷静に今後の治療方針について話し合えるだろう」 面談室を出て医局に戻りながら、小倉医師は3カ月前に担当した、ある患者のことを思い出していた。 第3話「福山芳雄さんの記憶」へ
第1章 第3話 福山芳雄さんの記憶
第1章 第3話 福山芳雄さんの記憶
第1章:2人の患者 第3話:福山芳雄さんの記憶 「あと10回! あと10回電気ショックをしてください!」 心肺蘇生処置の停止を提案した小倉医師に、絞り出すような声で泣きながら訴える福山豊美さん(仮名、78歳)。夫の芳雄さん(仮名、78歳)の心肺蘇生処置は30分間続けており、もう改善は見込めない。それでも、豊美さんの訴えに応え、小倉医師は何十回も電気的除細動を芳雄さんに繰り返した。 臨終を伝えた後、ベッドに横たわる夫の亡きがらを呆然と見下ろす豊美さんの姿が忘れられない。 福山さん夫婦に子供はおらず、二人暮らしだった。芳雄さんは自宅にいたところ、体が動かなくなり、A病院に救急搬送されてきた。1カ月ほど前から強い倦怠感を訴えていて、3日前からは足の色が赤紫色に変色していたという。 診察した小倉医師は下肢末梢動脈疾患の疑いがあると判断。2日後にカテーテル治療を行うことにし、入院してもらうことにした。しかし、入院翌日に突然、芳雄さんは心肺停止状態に陥る。緊急カテーテル検査を行うと、下肢だけでなく冠動脈も高度狭窄状態であることが分かった。蘇生には成功したものの、気管切開をし、長期間の集中治療を余儀なくされた。 入院中に心機能は著しく低下し、下肢の潰瘍やでん部の褥瘡(じょくそう)から感染症を繰り返す状態になった。芳雄さんの全身の身体機能の低下から、小倉医師は「心不全、感染症それぞれは治療できても、回復して帰宅することは難しい」と考えていた。 ある日、小倉医師は病院の廊下でばったり豊美さんに会った。芳雄さんの今後の治療方針について相談しようと、豊美さんをデイルームに誘った。日曜日のデイルームは多くの見舞客や患者が集まってにぎやかだった。ちょうど空いていた中央のテーブルに向かい合って座った。 「芳雄さんの状態なのですが、先日、ドブタミンを……ドブタミンは強心薬ですね。それを中止できるところまではこぎつけたんです。でも、どうやら細菌感染があるようで、CRPの値が上がっているんです。今使っているCVカテーテルに感染している可能性があって、入れ替える必要がありそうです。それから、スワンガンツという血行動態……血の流れですね」 とりあえず必要なことを伝えたいと一気に話した。豊美さんは聞いているのか聞いていないのか分からない表情でうつむいている。続きを話そうとした時、小倉医師のPHSが鳴った。循環器内科の同僚の医師からの問い合わせだった。後で詳しく話すことを伝えて通話を終えた。 「失礼しました」。どこまで話したのかを思い出す。「えっと……。そう、スワンガンツでしたね。これを評価するカテーテル検査をすると……」。必要なことを話し終えた。豊美さんは相変わらずうつむいたままだ。「もしかすると、治すのは難しいかもしれません。ただ、治療を続ければーー」 「先生……私には難しいことは分かりません」。顔を上げた豊美さんが小倉医師の言葉を遮った。「もう、これ以上悪い話をしないでください。まだまだ頑張れるって言ってください。本人も励ましてもらいたいと思っているはずですから」 「そうですか」。小倉医師はそれ以上何も言えなかった。 芳雄さんの状態は日に日に悪化していった。そして、芳雄さんの最期の日を迎える。 その日、医局で書類の整理をしていた小倉医師のPHSが鳴った。看護師から芳雄さんの急変を知らせる電話だった。病室に駆けつけると、芳雄さんは心室頻拍を起こしていた。心肺蘇生と電気的除細動を行い、抗不整脈薬を使用した。しかし、心室頻拍は止まらなかった。下肢血管障害のため、補助循環装置は使えない。そして、30分間に及ぶ心肺蘇生が続き、その後の何十回にも及ぶ電気的除細動が行われた。 「いったい自分はどうすればよかったのか」 その夜、小倉医師は同僚の緩和ケア医に相談した。緩和ケア医は、芳雄さんの件について詳細に話を聞き、SHAREのスキルと照らし合わせて一つ一つアドバイスをしてくれた。メモを取りながら真剣に話を聞いた。疾患の治療と同様に、患者や家族への対応スキルを身に付けることの大切さを知った。 終末期であることを担当医が告知できないために、家族に強い悲嘆を残してしまうことがある。 もし、自分がきちんと対応をしていれば、芳雄さんはもっと良い最期を迎えられたはずだ。豊美さんの悲しみもだいぶ違った形になっていただろう。 「自分の患者から第二の芳雄さんは出さない」。小倉医師はそう誓い、SHAREの詳細をメモした紙を胸のポケットにしまった。 ※参考文献:内富庸介、藤森麻衣子著 『がん医療におけるコミュニケーション・スキル 悪い知らせをどう伝えるか』 医学書院
第2章 第1話 過信と思い込みの結果
第2章 第1話 過信と思い込みの結果
第2章:果たされなかった約束 第1話:過信と思い込みの結果 赤村太郎さん(仮名、70歳)が死亡してから2週間がたった。 5月下旬のある日、赤村さんの主治医だった循環器内科の田川賢治医師(仮名、30歳)は当直を終え、病院内のカフェでコーヒーを飲んでいた。午前9時。すでに午前中の診療が始まっているため院内は多くの人が行き交っているが、カフェはまだ空席が目立つ。 「先生も当直明けですか?」。声をかけられて田川医師が顔を上げると、緩和ケアチームの山崎直樹医師(仮名、45歳)がコーヒーを持って立っていた。 「山崎先生、その節はありがとうございました。今、ちょうど赤村さんのことを思い出していました。どうしても引っかかっちゃって。あの時、DNAR(do not attempt resuscitation:心肺蘇生を行わないこと)をちゃんと確認しておけばと……」 「ちょっとお話をする時間はありますか?」。田川医師がうなずくと、山崎医師は向かいの席に座った。 ×     ×     × 「父さん、今日は暑いぐらいだ。由布岳が山開きだってさ」 九州地方のA病院のICUで、感染防護用のエプロンと手袋を身に付けた赤村正さん(仮名、45歳)が、父の赤村太郎さんに語りかけた。反応はない。 心臓と足の血管狭窄に加え、MRSA肺炎と腎不全を併発した太郎さん。気管挿管され、ECMO(注)が挿入され、口や鼻、首、手、足にはたくさんの管がつなげられている。四肢は採血に伴う内出血で痛々しい。意識はないが、時折眉間にしわを寄せ、苦しそうな表情を浮かべる。 毎日午後3時になると、1日に10分だけ許されている面会のために、長男の正さんは妻と一緒に病院を訪れる。 田川医師は少し離れた所から、正さん夫妻の様子を何とも言えない重い気持ちで見つめていた。 「ぐったりしていて、足の色が悪い」と救急隊から入電があり、太郎さんがA病院に搬送されてきたのは10日前のことだ。下肢閉塞性動脈硬化症が疑われ、循環器急患当番だった田川医師がER(救急救命室)に呼ばれた。 田川医師は1年前に循環器内科の後期研修を終え、今は下肢血管治療の専門研修中だ。現在9例の治療を成功させている。やる気に満ち溢れ、下肢血管治療が必要な急患を待ち望んでいた。 太郎さんを診察すると、ひざの裏の膝窩(しっか)動脈の触れが悪かった。おそらく太ももを通る浅大腿(せんだいたい)動脈が狭窄しているのだろう。顔色は白く、血圧は80~100mmHgと低めで推移していた。ただ、ぐったりしている理由が分からない。全身の状態よりも下肢血管の治療のことで頭がいっぱいだった田川医師は「まあ、足の病変のせいということでいいだろう」と深く考えなかった。 翌日、循環器病棟で太郎さんを担当している新人の女性看護師から、心停止時に心肺蘇生を行うかどうか(治療コード)を確認するよう依頼された。 「何を言っているんだ! これから治療をする患者が、急変時のDNARを希望するわけはないだろう」。田川医師は強い口調で答えた。 「すいません……」。看護師は萎縮した様子で、カルテに「FULL CODE(心肺蘇生を実施する)」と記載した。 足の血管治療を行う前日、その病棟看護師から、太郎さんが10秒ほど意識消失をしたという報告を受けた。何か嫌な予感がした。田川医師の指導医が繰り返し「足は第2の心臓である」と言っていたことを思い出したのだ。足の血管が狭窄している人は心臓の血管も狭窄しているという意味だ。意識消失をしたということは心臓が悪い可能性がある。念のため太郎さんの様子を確認した方がいいと考え、病室に向かおうとした。 ちょうどその時、患者の急変を知らせるハリーコールが鳴り響いた。 「コードブルー。コードブルー。循環器病棟305号室」 田川医師が病室に駆けつけると、そこには心肺蘇生措置を受けている太郎さんの姿があった。 ここにきて全てがつながった。顔色が悪いのも、血圧が低いのも、下肢の色が悪いのも、ぐったりしているのも、心臓に異常があり、それに伴うショックを起こす直前の状態だったからだ。 すぐに心臓カテーテル室に太郎さんを移動させ、太ももの付け根からから親指ほどの太さのあるシース(管)を挿入しECMOを始動させた。足の血管も確かに狭窄はしていたが、心臓はさらに重症で3本の冠動脈はいずれも高度狭窄がみられた。 冠動脈の最低限の治療によって何とか一命を取り留め、太郎さんはICUに入室した。 病院からの連絡を受けて駆け付けた正さん夫妻は、経過、病状、今後の治療についての田川医師からの説明を黙って聞いていた。何か質問がないかと尋ねると、正さんが言った。「実は、父は蘇生措置を希望していなかったんです」 田川医師の心臓がドクンと大きく鳴った。血の気が引くのを感じた。 (注)ECMO 経皮的補助循環装置。心臓や肺が悪く、全身の血液循環が保たれなかったり、血液に酸素を取り込むこと(酸素化)ができなくなったりした患者に使用する。ボールペンほどの太さ(外径約8mm)のシース(管)を両側の太ももに1本ずつ、または太ももと首に1本ずつ挿入して使用する。血液を体から取り出して人工肺に送り、二酸化炭素を除去した上で酸素を加えて体内に戻す。 第2話「太郎さんが望んでいた最期の迎え方」へ
第2章 第2話 太郎さんが望んでいた最期の迎え方
第2章 第2話 太郎さんが望んでいた最期の迎え方
第2章:果たされなかった約束 第2話:太郎さんが望んでいた最期の迎え方 「実は、父は蘇生措置を希望していなかったんです」 冠動脈の高度狭窄で心停止に陥り、蘇生措置で一命を取り留めた赤村太郎さん(70)の長男正さん(45)は、主治医の田川賢治医師(30)にそう言った。 4年前にくも膜下出血のために64歳で亡くなった太郎さんの妻(正さんの母)のことが関係しているという。 妻の状態は最初からかなり悪かったが、太郎さんは治療を熱望した。医師や看護師は懸命に治療を行ったが効果はなく、体に繋がる管は徐々に増えていった。そのまま意識は戻らず、半年間の闘病の末に病院で亡くなった。 妻の三回忌の準備をしている時、太郎さんは「もし自分が悪くなっても、一切の蘇生措置は行わないでほしい。母さんみたいな治療は望まない」と正さん夫妻に話したという。 「本当は入院をした時にお伝えした方がよかったんでしょうけど、今回は足の病気だと思っていたので、まさかこんなことになるとは考えてもいませんでしたから。それに、そんなことをいきなり先生に言っても困るでしょうし。でも、蘇生措置をしてもらったことはありがたいと思っています。こうして生きている父と会えたのですから……」 正さんの話す姿には無念さがにじみ出ており、田川医師は言葉通りに受け止めることはできなかった。 ×     ×     × 「入院時に赤村さんとDNAR(do not attempt resuscitation:心肺蘇生を行わないこと)の話をしておけばよかったと、そのことばかり考えてしまうんですよ」。病院のカフェの天井を遠い目で見ながら田川医師が言った。 「そんなに自分を責めないでください」。向かいの席に座っている緩和ケアチームの山崎直樹医師(43)が静かに言葉をかける。「もちろん、入院時にDNARについての書面を過去に作ったことがあるかどうかを確認するのはとても大切なことです。ただ、もしあったとしても、患者の気持ちがその時点で変わっていない保証はありませんし、救急外来で無理に指示を決めてもらう必要はありません」 「DNARは大きく3つのパターンに分けられるんです」。山崎医師は詳しい説明を続けた。 1つ目は「あらかじめ価値観などについての話し合いが適切なプロセスで行われた上で、DNARを患者本人・代理意思決定者が希望する場合」だ。事前に価値観や人生観をゆっくり話し合った上で、本人から確認が取れるのが理想だ。 2つ目は「患者・代理意思決定者に対し、医療者からCPR(心肺蘇生法)の中止を推奨する場合」。救急現場では医療者も家族もDNARについて冷静に考えられるものではない。ただ、医療者は、CPRで蘇生する見込みが少なかったり、蘇生してもものすごくQOL(生活の質)が下がる可能性が高かったりすることを想像できる。そういう時に、代理意思決定者にDNARについて話をする必要がある。 3つ目は「CPRが無益なものと考えられ、医療者から一方的に中止する場合」だ。30分くらいCPRをしたり、がん末期でCPRの効果がほぼないと考えられたりする際にこれが当てはまる。 田川医師は山崎医師の説明を聞きながら、「太郎さんは1つ目のパターンで、本人からも家族からもDNARの意思が確認できたはずだ」と振り返っていた。 ×     ×     × 太郎さんがICUに入室してから5日間が経過した。改善の見込みがないことは明らかだった。ECMO(注)を外す前段階として徐々に出力を落とす「weaning」を試みると血圧が下がってしまう。さらに、MRSA肺炎や腎不全も併発した。 救命処置を希望していなかった太郎さんは、治療を受けながら延命し続けるこの状況をどう思っているのだろう。 人工呼吸器とECMOの駆動音が響くICUで、田川医師は意識がない患者を前に途方に暮れていた。 (注)ECMO 経皮的補助循環装置。心臓や肺が悪く、全身の血液循環が保たれなかったり、血液に酸素を取り込むこと(酸素化)ができなくなったりした患者に使用する。ボールペンほどの太さ(外径約8mm)のシース(管)を両側の太ももに1本ずつ、または太ももと首に1本ずつ挿入して使用する。血液を体から取り出して人工肺に送り、二酸化炭素を除去した上で酸素を加えて体内に戻す。 第3話「田川医師の本音」へ
第2章 第3話 田川医師の本音
第2章 第3話 田川医師の本音
第2章:果たされなかった約束 第3話:田川医師の本音 A病院では毎朝、ICUチームと循環器チームによるカンファレンスが行われる。 冠動脈の狭窄で心停止に陥り、蘇生措置で一命を取り留めた赤村太郎さん(70)については、「終末期状態であり、治療方針を変更した方がいいのではないか」という声がいくつか上がった。 ただ主治医で循環器内科の田川賢治医師(30)としては、1%でも回復の可能性が残っているのならばそれにかけたいという思いがあった。また、現状への責任を感じており、終末期であることを認めることができなかった。 みんなが考え込む中、ICUチームの看護師から緩和ケアチームへのコンサルテーションについて提案があった。 田川医師は悩んだ末、決して前向きにではなかったが、看護師の提案を受け入れることにした。「早期からの緩和ケア」「非がんの緩和ケア」というものが最近話題になっているのをどこかで耳にしたことがあったのと、状況改善に向けて何かに救いを求めたい気持ちがあるのも、また事実だったからだ。 その日の午後、緩和ケアチームの医師と看護師が田川医師の所にやってきた。医師は山崎直樹、看護師は小泉茜と名乗った。何となく院内で顔を見かけたことがある程度で、ほとんど知らない2人だ。 田川医師は顔をしかめていた。「もし、治療の中止や、麻薬や鎮静薬の投与を提案されたら、きっぱりと断ろう」。そう身構えていた。 まず田川医師から、これまでの状況について説明を行った。ショック状態に陥ったが蘇生に成功したこと、患者本人は家族にDNAR(do not attempt resuscitation:心肺蘇生を行わないこと)を希望すると伝えていたこと、しかし田川医師たちがその希望を知ったのは患者がICUに入室した後だったこと、今は長男夫妻も治療を希望していること、改善の見込みは極めて低いが完全にゼロとはいえないこと――。何かに追い立てられるかのように、一気にしゃべった。 山崎医師と小泉看護師は、じっと田川医師の話を聞いていた。説明が終わると、小泉看護師が「先生、本当によく頑張ってこられたんですね」と優しい声で言った。まさかそんな言葉をかけられるとは思っていなかった田川医師は、驚くと共に目頭が熱くなるのを感じた。何か肩の荷が下り、救われたような気がした。 「私はどうすればいいんですかね」。田川医師の口から、思わず本音がこぼれた。 後は止まらなかった。「本当は、来院時に心臓のことまで疑って、もっとしっかり状態を観察したり、検査を早めたりしておけばよかったと後悔しているんです。いつもはDNARかどうかを最初に確認するのに、この人だけはそれをしなかった。何としても治療したい、DNARと言われたらそれができなくなる。そんな思いが巡っていたんです」 山崎医師と小泉看護師は、相槌を打ちながら真剣な表情で話を聞いていた。山崎医師が言う。「そういう葛藤の中、ここまで治療を続けてこられたんですね」 緩和ケアチームの2人と話しているうちに、田川医師の中から「何としても治療を続ける」という意地のような思いが消えていった。太郎さんにとって何がベストなケアなのかだけを考えるようになった。 「ECMO(注)をいつまで続けるべきなのか。人工呼吸器の設定をこれからも強化していくべきなのか。強心剤はどこまで増量すべきなのか。治療の方針については悩みが尽きません」。そう田川医師が言うと、山崎医師が「赤村さんの『ケアのゴール』についての話し合いって、今まで行いましたか?」と聞いた。 ケアのゴール――。田川医師には聞き馴染みのない言葉だった。 山崎医師が続ける。「救急や集中治療においては、治療手段から治療方法を考えることが一般的だと思います。例えば、挿管という手段を行うのか行わないのかを事前に示すことで、その後の治療方法が決まるということです。一方で緩和ケアが中心になる場合は、患者の嗜好や人生観からゴールを設定するという考え方があります」 「例えば、家族と過ごす時間を何より大切にする患者さんだったら、それがかなえられる環境を整えます。たとえそれが医療的介入を減らさなければならなくなっても、患者さんの意思の尊重を重視します。そのためには、この患者さんがどんな人生を送り、どんなことを好んでいて、どんな人生の閉じ方をしたいのかについて話すことが大切です」と小泉看護師が補足した。 太郎さんは、もう話すことはできない。田川医師は「もっと早く話し合っておけば良かったのですが……」とうなだれた。 「今からでもできることがあります。一緒に長男夫妻からお話を聞いてみましょう」と山崎医師が提案した。 (注)ECMO 経皮的補助循環装置。心臓や肺が悪く、全身の血液循環が保たれなかったり、血液に酸素を取り込むこと(酸素化)ができなくなったりした患者に使用する。ボールペンほどの太さ(外径約8mm)のシース(管)を両側の太ももに1本ずつ、または太ももと首に1本ずつ挿入して使用する。血液を体から取り出して人工肺に送り、二酸化炭素を除去した上で酸素を加えて体内に戻す。 第4話「太郎さんがくれたもの」へ
第2章 第4話 太郎さんがくれたもの
第2章 第4話 太郎さんがくれたもの
第2章:果たされなかった約束 第4話:太郎さんがくれたもの 緩和ケアチームを交えて話し合うことについて、主治医で循環器内科の田川賢治医師(40)は、患者の家族がどんな反応を示すのか不安だった。だが、長男夫妻は特に抵抗感はないようで快く受け入れてくれた。 面談室には、田川医師、緩和ケアチームの山崎直樹医師(43)と小泉茜看護師(38)、患者の長男である赤村正さん(45)夫妻の計5人が集まった。 まず田川医師が患者の赤村太郎さん(70)の病状を改めて説明した。心臓と足の血管狭窄があり、心停止に陥ったが心肺蘇生で一命を取り留めたこと、ただし現状では改善の見込みはほとんどなく、延命治療を続けている状態にあること。 その後、緩和ケアチームの山崎医師と小泉看護師が話を引き継いだ。2人はしばらく、天気や正夫妻の子供のことなど医療とは関係のない話をした。 そして、山崎医師が「正さんからみて、太郎さんってどんな人でしたか?」と質問した。 正さんは、時々目を閉じて、懐かしむように父太郎さんのことを話してくれた。 太郎さんは証券会社に勤めており、いつもとても忙しそうだった。特にバブルの頃はほとんど家に帰ってくることがなく、正さんとしばしば衝突したという。 大学生のころに登山部に入っていたほど山登りが好きで、最近も年に1~2回は1人で山に出かけていた。几帳面な性格で、今まで登った山については、そこで撮影した写真と共に記録ノートを作っている。先日、そのノートを太郎さんと正さんで見ていた時、正さんが小さい頃によく親子2人で登った由布岳の写真がたくさん出てきた。久しぶりに今年、ミヤマキリシマが見ごろを迎える5月下旬~6月中旬のどこかで、2人で由布岳に登ろうと約束をしていたのだそうだ。 また、太郎さんの妻は4年前にくも膜下出血で亡くなっている。妻が倒れたのは、太郎さんの定年祝いを兼ね、夫妻でヨーロッパ旅行に出発する2日前だったという。 田川医師は太郎さんのことを何も知らなかったことに愕然とした。どんな仕事をしていたのかも、山登りが好きだったことも聞いていない。太郎さんの妻がくも膜下出血で亡くなったことは正さんから伝えられていたが、定年祝いの旅行直前に発症したことは初耳だった。何も言えないまま、山崎医師と小泉看護師が話を進めていくのを聞いているしかなかった。 そして、話はケアのゴールのことに移っていった。 正さんは「母が半年間の闘病の末に体中管だらけになって、意識が戻らずに亡くなったことに後悔があったようです。母さんみたいな死に方はしたくないと言っていました。それから、父は医療のドキュメンタリーやドラマを見るのが好きでした。ストーリーの中で管に繋がれた患者が出てくると、『俺はここまでして生きたくないなぁ』とも話していましたね。『最期はピンピンコロリといきたいわ』なんて」と太郎さんの思いを話した。 結局その時は、ECMO(注)や人工呼吸器を外すかどうかの結論には至らなかった。緩和ケアチームも一緒に治療を考えていくことを約束し、正さん夫妻は帰っていった。 しかしその晩、太郎さんは急激に状態が悪化し、死亡した。 ×     ×     × いつの間にか、病院内のカフェは席がほぼ埋まっていた。 田川医師は山崎医師の話に注意深く耳を傾けている。 「赤村さんのような人も、それはかなり少ないですが、いるんですよ。だから、救急現場でもDNAR(do not attempt resuscitation:心肺蘇生を行わないこと)について確認することが重要なんです。ただ、いきなり話すのではなく、まず過去にDNARやACP(Advance Care Planning:終末期医療や介護について話し合うこと)について医療者や代理意思決定者と話し合ったことがあるかどうかを聞いてみてください。そして次に、QOL(生活の質)を踏まえた上で延命が何よりも大切かどうかを確認する必要があります。これがYesであれば、無理やりDNARを推奨しても話は平行線になります。いったんその議論は止めて、まず治療を優先したほうがいいでしょう」 「もし、Noだったら? その時はどんな対応をすべきなのでしょうか」 「DNARを強く勧めるのではなく、まずCPR(心肺蘇生法)とは何なのか、なぜ必要でどれくらい効果が見込め、本人の希望と合致しそうか――について一緒に考えてみてください。そして最後に、決まったことを確認してください。救急外来での本人や家族の決定は変わりやすいことも知られていますので、無理に決める必要はありません。話し方一つで、より患者さんの思いに寄り添った意思決定ができます」 「なるほど――。山崎先生とお話しせずにいたら、赤村さんのこともどうなっていたか分かりませんし、将来的には、自分の医学的予想に従ってDNARを一方的に患者や家族に提示するようなことがあったかもしれません」。田川医師はため息をつきながら小さく首を横に振った。 「私もね、あの時こうやっておけばよかったとか、自分が担当じゃなければもっと良い結果になったんじゃないかと悩むことがあります。自分が無知なために、患者や家族を傷つけることがあるのではないかと怖くなることがあります。でも、自分を責めるだけでは起きてしまったことは変わりませんし、起こるかもしれないことを恐れていたら何もできなくなってしまいます。DNARについて深く考え、知るきっかけを作ってくれた赤村さんに感謝し、前に進むべきなのではないでしょうか」 少しの沈黙の後、田川医師が立ち上がった。「さて、そろそろ行きます。今日は、もう休みなんですよ。帰りがけに登山用品店で登山靴を買おうと思います。次の休みに由布岳に登ってみようかなと。ミヤマキリシマ、咲いてますかね」 (注)ECMO 経皮的補助循環装置。心臓や肺が悪く、全身の血液循環が保たれなかったり、血液に酸素を取り込むこと(酸素化)ができなくなったりした患者に使用する。ボールペンほどの太さ(外径約8mm)のシース(管)を両側の太ももに1本ずつ、または太ももと首に1本ずつ挿入して使用する。血液を体から取り出して人工肺に送り、二酸化炭素を除去した上で酸素を加えて体内に戻す。
左室駆出率が低下した心不全に用いるSGLT2阻害薬 EMPEROR-Reduced試験とDAPA-HF試験のメタ解析
左室駆出率が低下した心不全に用いるSGLT2阻害薬 EMPEROR-Reduced試験とDAPA-HF試験のメタ解析
SGLT2 inhibitors in patients with heart failure with reduced ejection fraction: a meta-analysis of the EMPEROR-Reduced and DAPA-HF trials Lancet. 2020 Sep 19;396(10254):819-829. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31824-9. Epub 2020 Aug 30. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】DAPA-HF試験(ダパグリフロジンを評価)とEMPEROR-Reduced試験(エンパグリフロジンを評価)から、糖尿病の有無を問わない左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害によって心血管死や心不全による入院の複合リスクが低下したことが示された。しかし、いずれの試験も、心血管死または全死因死亡にもたらす効果の評価および臨床的に重要な下位集団に見られた効果の特徴を明らかにするのに十分な検出力はなかった。そこで著者らは、DAPA-HF試験のデータおよびEMPEROR-Reduced試験の患者データを用いて、両試験で無作為化したHFrEF患者全例および関連下位集団を対象に、SGLT2阻害が非致命的心不全イベントおよび腎転帰にもたらす効果を推定することを目的とした。 【方法】SGLT2阻害薬が糖尿病の有無を問わないHFrEF患者の心血管転帰にもたらす効果を検討した大規模試験2件、DAPA-HF試験(ダパグリフロジンを評価)とEMPEROR-Reduced試験(エンパグリフロジンを評価)のメタ解析を実施した。主要評価項目は、全死因死亡までの時間とした。さらに、事前に規定した下位集団を対象に、心血管死または心不全による入院の複合リスクにもたらす効果も検討した。この下位集団は、2型糖尿病の状態、年齢、性別、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)治療、NYHA心機能分類、人種、心不全による入院歴、推算糸球体濾過量(eGFR)、BMIおよび地域(事後)を基にしている。イベント発生までの時間にCox比例ハザードモデル、治療の相互作用にコクランのQ検定を用いてハザード比(HR)を求めた。イベント再発の解析は、Lin-Wei-Yang-Yingモデルで得た率比を基にした。 【結果】両試験の被験者計8474例でみた推定治療効果は、全死因死亡率低下率13%(統合HR 0.87、95%CI 0.77~0.98、P=0.018)、心血管死亡率低下14%(0.86、0.76~0.98、P=0.027)であった。SGLT2阻害によって、心血管死亡または心不全による初回入院の複合リスクの相対的低下率は26%(0.74、0.68~0.82、P<0.0001)、心不全による再入院または心血管死の複合減少率は25%であった(0.75、0.68~0.84、P<0.0001)。このほか、腎転帰の複合リスクも低下した(0.62、0.43~0.90、P=0.013)。試験間の効果量の異質性を検討した検定はいずれも有意ではなかった。統合した治療効果からは、年齢、性別、糖尿病の有無、ARNIを用いた治療および試験開始時のeGFRで分類した下位集団で、一貫して便益が見られたが、NYHA心機能分類および人種で分類した下位集団では、集団による治療の交互作用が認められた。 【解釈】エンパグリフロジンとダパグリフロジンが心不全による入院にもたらす効果は、両試験を通して一貫して見られ、両薬剤によってHFrEF患者の腎転帰が改善し、全死因死亡および心血管死を抑制することが示唆された。 第一人者の医師による解説 SGLT2阻害薬は糖尿病薬に収まらず 心不全治療薬としてエビデンスの構築へ 深谷 英平 北里大学医学部循環器内科学講師 MMJ. February 2021;17(1):19 元来、糖尿病薬として登場したSGLT2阻害薬であったが、近年報告された大規模臨床試験において心不全による入院、心血管イベント、腎機能悪化の抑制を認めたことから、多面的効果が期待される薬剤へと変わってきた。さらに糖尿病の有無にかかわらず、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者を対象に同様の効果が期待できるかを検証した、エンパグリフロジンを用いたEMPERORReduced試験(1)とダパグリフロジンを用いたDAPA-HF試験(2)が相次いで発表された。両試験ともに、糖尿病の有無にかかわらずSGLT2阻害薬群において心不全入院の有意な減少を認めた一方で、患者数の限界から、心血管死や全死亡における差を見出すには至らなかった。そこで本論文では両試験を統合解析し、HFrEF患者8,474人を対象にSGLT2阻害薬の有効性を再検討した。 その結果、SGLT2阻害薬群ではプラセボ群に比べ全死亡リスクは13%低下、心血管死リスクは14%低下した。心血管死と初回心不全入院の複合リスクは26%低下、心不全再入院と心血管死の複合リスクも25%低下した。腎関連の複合エンドポイント(eGFRの低下、透析への移行、腎移植、腎不全死)についても38%のリスクの低下が認められた。サブグループ解析でも、糖尿病の有無、性別、年齢(65歳超対以下)、心不全入院の既往、腎機能低下の有無、肥満の有無(BMI 30kg/m2以上対未満)にかかわらずSGLT2阻害薬の一貫した有効性が実証された。一方、55歳未満の比較的若い年齢層、心不全機能分類 NYHA III-IVの重症例では、SGLT2阻害薬の有効性についてプラセボよりも優位な傾向はみられるが有意差は認めなかった。異なる人種間でも一貫した有効性が示され、アジア人や黒人では白人に比べSGLT2阻害薬のイベント抑制効果がさらに強い可能性も示された。ダパグリフロジンとエンパグリフロジンの間で有効性の差は認められず、SGLT2阻害薬のクラスエフェクトの可能性が示唆された。 今回のメタ解析により、HFrEF患者に対するSGLT2阻害薬のイベント抑制効果、予後改善効果が明らかとなった。日本では2020年11月にダパグリフロジンは慢性心不全への適応追加が承認され、エンパグリフロジンも適応追加が申請された。SGLT2阻害薬は単なる糖尿病の薬に収まらず、イベント抑制効果が実証された心不全治療薬の1つになった。今後も心不全治療薬としてさらなるエビデンスが構築されていくことが予想される。 1. Packer M, et al. N Engl J Med. 2020;383(15):1413-1424. 2. McMurray JJV, et al. N Engl J Med. 2019;381(21):1995-2008.
収縮期心不全に用いるomecamtiv mecarbilによる心筋ミオシン活性化
収縮期心不全に用いるomecamtiv mecarbilによる心筋ミオシン活性化
Cardiac Myosin Activation with Omecamtiv Mecarbil in Systolic Heart Failure N Engl J Med. 2021 Jan 14;384(2):105-116. doi: 10.1056/NEJMoa2025797. Epub 2020 Nov 13. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】選択的心筋ミオシン活性化薬omecamtiv mecarbilは、左室駆出率が低下した心不全の心機能を改善することが示されている。心血管転帰にもたらす効果は明らかになっていない。 【方法】左室駆出率が35%未満の収縮期心不全(入院および外来)患者8256例を標準心不全治療に加えてomecamtiv mecarbil群(薬物動態学を基に決定した用量25mg、37.5mg、50mgのいずれかを1日2回)またはプラセボ群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、心不全イベント(入院または心不全による救急受診)の初回発生または心血管死の複合とした。 【結果】中央値21.8カ月の間に、omecamtiv mecarbil群4120例中1523例(37.0%)とプラセボ群4112例中1607例(39.1%)に主要評価項目が発生した(ハザード比0.92、95%CI 0.86~0.99、P=0.03)。それぞれ808例(19.6%)、798例(19.4%)が心血管の原因で死亡した(同1.01、0.92~1.11)。カンザスシティ心筋症質問票の総合症状スコア変化量に群間差はなかった。24週時、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)中央値の試験開始時からの変化量は、omecamtiv mecarbil群の方がプラセボ群よりも10%低く、心臓トロポニンI値中央値は4ng/L高かった。心虚血と心室性不整脈イベントの発現頻度は両群同等だった。 【結論】左室駆出率が低下した心不全にomecamtiv mecarbilを投与すると、心不全イベントと心血管死の複合転帰の発生率がプラセボ投与よりも低かった。 第一人者の医師による解説 作用機序を踏まえると従来の強心薬に比べ安全性は高い さらなる臨床試験の結果に注視 佐野 元昭 慶應義塾大学医学部循環器内科准教授 MMJ. June 2021;17(3):80 左室収縮機能が低下した心不全の治療には、利尿薬、強心薬、神経内分泌因子修飾薬(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制薬、β遮断薬、ネプリライシン阻害薬)、心拍数を低下させるイバブラジン、SGLT2阻害薬などが用いられている。心臓のポンプ機能の低下による心拍出量の減少は、うっ血、浮腫や呼吸困難の原因となるだけでなく、神経内分泌因子を活性化させて心不全の病態を悪化させるため、強心薬を用いて、安全にポンプ機能を立ち上げることができれば、それに越したことはない。現在、日本でよく用いられている強心薬ピモベンダンは、心筋のCa2+感受性を増強する作用やプロテインキナーゼ A(PKA)活性化作用を介して、心筋の収縮力を高めるとともに、心筋拡張機能を改善する。ピモベンダンを心不全患者に投与すると確かに運動耐用能は改善するが、死亡率が上昇する傾向が示されたため、他の薬剤で症状が改善しない場合、不整脈の増悪に注意しながら一時的に使用する薬剤として位置づけられている。カテコラミン類似薬の強心薬デノパミンに関しても同様である。 オメカムチブメカルビルは、ミオシンに結合して心筋収縮力を増強させる新規作用機序による強心薬である(1)。β遮断薬を使用していても強心作用を発揮する。細胞内Ca2+動態に影響を与えないため不整脈による突然死を増加させるリスクは低いと考えられる。また、酸素需要を増加させずに心筋 収縮力を増強できる点も魅力的である。 今回のGALACTIC-HF試験では、症候性慢性心不全で駆出率が35%以下の患者を対象に、標準的な心不全治療に加えてオメカムチブメカルビルを投与することの安全性と有効性が評価された。その結果、プラセボ群と比較し、心血管死および全死亡を増やすことなく、初回の心不全イベント(心不全による入院または緊急受診)または心血管死の複合エンドポイントをわずかではあるが有意に低下させた(ハザード比,0.92;P=0.03)。しかし、最も期待された心不全に伴う症状、身体的制限、生活の質(QOL)の改善は認められなかった。患者の3分の1に植込み型除細動器(ICD)が装着されており、ICDで不整脈死がある程度抑制されていた集団が対象であった点も考慮する必要がある。 作用機序を踏まえると、従来の強心薬に比べ安全性がより高いと考えられるオメカムチブメカルビルに関しては、2020年末、開発・商業化権がアムジェン社からサイトキネティクス社へ移管されることが発表された。今後、国内外での承認申請の動向やさらなる臨床試験の結果を注視したい。 1. Malik FI, et al. Science. 2011;331(6023):1439-1443.
心不全と危険因子の年齢依存的な関連:統合集団ベースコホート研究
心不全と危険因子の年齢依存的な関連:統合集団ベースコホート研究
Age dependent associations of risk factors with heart failure: pooled population based cohort study BMJ. 2021 Mar 23;372:n461. doi: 10.1136/bmj.n461. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】一般集団には心不全発症の危険因子に年齢による差があるかを評価すること。 【デザイン】集団ベースの統合コホート研究。 【設定】Framingham Heart Study、Prevention of Renal and Vascular End-stage Disease StudyおよびMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis。 【参加者】若年者(55歳未満、1万1,599例)、中年者(55~64歳、5,587例)、前期高齢者(65~74歳、5,190例)、後期高齢者(75歳以上、2,299例)で層別化した心不全既往歴のない参加者計2万4,675例。 【主要評価項目】心不全発症率。 【結果】追跡調査期間中央値12.7年間にわたり、若年者138例(1%)、中年者293例(5%)、前期高齢者538例(10%)、後期高齢者412例(18%)が心不全を発症した。若年者では、心不全発症例の32%(44例)が駆出率が保たれた心不全に分類されたのに対して、後期高齢者では43%(179例)であった。若年者では高齢者と比べて、高血圧、糖尿病、現在の喫煙、心筋梗塞の既往歴などの危険因子があると相対リスクが高かった(全体の交互作用のP<0.05)。例えば、高血圧があると、若年者では心不全リスクが3倍になり(ハザード比3.02、95%CI 2.10~4.34;P<0.001)、それに対して後期高齢者ではリスクが1.4倍になった(1.43、1.13~1.81、P=0.003)。心不全発症の絶対リスクは、危険因子の有無に関係なく、若年者の方が高齢者よりも低かった。若年者の方が高齢者よりも危険因子の人口寄与危険割合が高く(75% v 53%)、モデル適合度も良好であった(C index 0.79 v 0.64)。同様に、肥満(21% v 13%)、高血圧(35% v 23%)、糖尿病(14% v 7%)、現在の喫煙(32% v 1%)の集団寄与危険割合は高齢者よりも若年者の方が高かった。 【結論】若年者の方が高齢者よりも心不全の発症率と絶対リスクが低いが、修正可能な危険因子との関連が強く寄与危険度が大きいことから、成人期にわたる予防努力の重要性が浮き彫りになった。 第一人者の医師による解説 心不全予防には生涯にわたるリスク管理が重要 ハザード比は診療に有用 諸井 雅男 東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野(大橋)教授 MMJ. October 2021;17(5):142 若年者は高齢者に比べ心不全発症率が低いことは知られているが、年齢別に心不全発症と肥満、高血圧および糖尿病などの危険因子との関係は検討されていなかった。先行研究では、電子健康記録を用いた研究で、若年者では心不全を含む心血管疾患発症や血圧上昇の相対リスク低下が認められたことや、心不全患者を対象とした研究で、若年患者は肥満、男性、糖尿病既往者で多くみられることは報告されていた(1),(2)。 本論文は、一般集団における心不全の年齢別危険因子を評価するため、米国のFramingham Heart Study、オランダのPrevention of Renal and Vascular End-stage Disease(PREVEND)研究、米国のMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis(MESA)のデータを統合解析したコホート研究の報告である。対象者は心不全歴のない24,675人で、若年者(55歳未満、11,599人)、中年者(55~64歳、5,587人)、前期高齢者(65~74歳、5,190人)、後期高齢者(75歳以上、2,299人)に層別化し、心不全の発症について追跡期間中央値12.7年において評価した。 その結果、高血圧、糖尿病、現在の喫煙、および心筋梗塞の既往といった危険因子は、高齢者と比較し、若年者でその相対的寄与が大きかった。例えば高血圧は、若年者の将来的心不全リスクを3倍上昇させたのに対し、後期高齢者では1.4倍の上昇であった。心不全発症の絶対リスクは、危険因子にかかわらず、高齢者より若年者のほうが低かった。 心不全患者が増加し続けている中で、その年齢に応じて具体的なリスクの数字を示したことは診療に有用である。50歳の男性が健診で高血圧を指摘されて受診した場合に、我々医療者は単に生活習慣の是正と降圧薬の服用を考慮するだけではなく、「高血圧者は正常血圧者に比べ12年後には3倍の心不全発症リスクがある」ことを患者に伝えることができる。一方、75歳ではそのリスクは1.4倍である。このことは、患者の価値観や希望と併せて、医療者はその介入の程度を考慮する際の1つの情報となり、その上での治療は生活の質(QOL)を高めることにつながる。人生100年時代を迎え、生命予後のみならず若年から年齢を重ねた時のQOLを考慮しそのリスク管理により心不全を予防することは、医療者には極めて重要と考える。 1. Rosengren A, et al. Eur Heart J. 2017;38(24):1926-1933. 2. Christiansen MN, et al. Circulation. 2017;135(13):1214-1223.
フロセミドの静脈注射ができない場合【在宅でできる小技シリーズ】
フロセミドの静脈注射ができない場合【在宅でできる小技シリーズ】
Point 用法用量は1日1回20mgを「静脈注射」または「筋肉内注射」 海外ではフロセミドの皮下注射も行われている 海外では持続皮下注射するポンプが使われることもある その場合に使われる薬剤はpHが調整されている 結論 ラシックス注は添付文書を読むと筋肉注射も可能で、静注が難しい場合に選択肢として考えておこう 参考 フロセミド注20mg(先発)の添付文書 https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2139005F1052_1_03/ Subcutaneous Furosemide in Heart Failure: Pharmacokinetic Characteristics of a Newly Buffered Solution https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2452302X17302632?via%3Dihub ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら { "@context": "http://schema.org", "@type": "VideoObject", "name": "フロセミドの静脈注射ができない場合【在宅でできる小技シリーズ】", "description": "腕のむくみでフロセミドの点滴NG どうする?", "thumbnailUrl": "https://xmdio-cms.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/hpkr_thum_2_211207_534550257d.png", "uploadDate": "2021-11-24T08:00:00+09:00", "duration": "PT4M28S", "embedUrl": "https://www.youtube.com/embed/KJdqlJdKCto" }
循環器専門医からみる「経口強心薬」の有効性【在宅でできる小技シリーズ】
循環器専門医からみる「経口強心薬」の有効性【在宅でできる小技シリーズ】
Point 血管拡張薬や利尿薬を合わせて使っても「良い状態」が保てない時に使う 強心薬は「心臓を強く動かす」「循環を補助する」ための薬。使用によって不整脈が増えるので注意する 大規模スタディでのエビデンスはない 使用することでQOLが上がったり、余命が延びたというエビデンスはない。ただ、個人的な経験では、使用によって動けるようになった患者もいた 結論 エビデンスは確立していないものの、QOLを改善させる、かも。 ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら { "@context": "http://schema.org", "@type": "VideoObject", "name": "循環器専門医からみる「経口強心薬」の有効性【在宅でできる小技シリーズ】", "description": "経口強心薬 アリ? ナシ?", "thumbnailUrl": "https://xmdio-cms.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/hpkr_thum_4_211213_s_f75e6181d4.png", "uploadDate": "2022-01-11T08:00:00+09:00", "duration": "PT3M37S", "embedUrl": "https://www.youtube.com/embed/sSsmVggID6c" }
フロセミドが効かない場合に疑うべきことは?【在宅でできる小技シリーズ】
フロセミドが効かない場合に疑うべきことは?【在宅でできる小技シリーズ】
Point ・フロセミドが効かない時は4つのことをチェックしよう ①アルブミンの値は十分か? →フロセミドは血中でアルブミンと結合して体を巡る ②腎血流は十分か? →フロセミドは腎臓のヘンレループに作用する薬。血流が十分でないと届かない ③腎機能障害はないか? →クレアチニン値をチェック。フロセミド投与量=クレアチニン値×1アンプル ④内服薬の場合は、注射or他の薬に切り替え →フロセミドの腸管からの吸収が落ちている可能性がある。他の薬の候補はトラセミドやアゾセミド 結論 ①低栄養 ②心拍出量の低下 ③腎機能の低下 ④消化管の吸収障害を考える ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら { "@context": "http://schema.org", "@type": "VideoObject", "name": "フロセミドが効かない場合に疑うべきことは?【在宅でできる小技シリーズ】", "description": "フロセミド 絶対に押さえておくべき4つのポイント", "thumbnailUrl": "https://xmdio-cms.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/hpkr_thum_3_211207_s_9f645bc1f4.png", "uploadDate": "2022-01-08T08:00:00+09:00", "duration": "PT4M06S", "embedUrl": "https://www.youtube.com/embed/B48yhFwmzLs" }
ST上昇は心筋梗塞を疑う 若年なら早期再分極を考えよう
ST上昇は心筋梗塞を疑う 若年なら早期再分極を考えよう
Point v2、v3のstが確かに少し上昇している⇒ v2、v3は2m以上、それ以外は1m以上の場合に心筋梗塞を疑う 20代の心筋梗塞は極めてまれ⇒ 若年男性のST上昇は、無症候性の早期細分極を疑う 結論 ST上昇はまず心筋梗塞を疑って動くこと、特にリスクや症状のない若年のST上昇では良性早期再分極症候群を考える 参考 急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版) JCS 2018 Guideline on Diagnosis and Treatment of Acute Coronary Syndrome https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_kimura.pdf ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
心エコーから見る病態と治療方針
心エコーから見る病態と治療方針
Point EFが40%を切る場合は「HFrEF(ヘフレフ)」であり、ACE阻害薬やMRA(スピロノラクトン等)の追加適応となる HFrEFはペースメーカー心の影響や高血圧性心臓病などが関係している 肺エコーのBラインの線が5本位見られたら、肺水腫を疑うが、息切れ・浮腫・体重増加・肺うっ血等が重なってきた場合に、総合的に心不全を判断する 以下のような自覚症状がある場合に、利尿薬の増量が必要 ・平地歩行でも息が上がる(NYHA Ⅲ) ・体重が日に日に増えていく ・浮腫が悪化していく 結論 ペースメーカを長期留置している人は心機能が低下することがあり、息切れなど心不全症状があれば精査・治療を行う 参考 従来はLVEFの測定にMモード法が用いられてきましたが、局所の二点間からの情報で左室全体の心機能を推定するため,局所壁運動異常や左室伝導障害を認める症例では 測定誤差を生じ、正確性に劣ると考えられるようになっています 現在最も推奨されるLVEFの測定方法は,2D断層心エコー法を用い、左室容積をベースとした disk summation法(modified Simpson法)です。その際には,心尖部四腔像と二腔像の二断面から左室容積を求めてLVEFを算出します 日本で発売されているポケットサイズのエコーでは2点間測定しかできないものが多く、正確な判断を行うにはより高性能なエコーが必要です 2021年改訂版 循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Ohte.pdf ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
心不全のため入院した高齢患者の身体リハビリテーション
心不全のため入院した高齢患者の身体リハビリテーション
Physical Rehabilitation for Older Patients Hospitalized for Heart Failure N Engl J Med. 2021 Jul 15;385(3):203-216. doi: 10.1056/NEJMoa2026141. Epub 2021 May 16. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】急性非代償性心不全のため入院した高齢患者は、身体的フレイル、生活の質の低下、回復の遅れおよび再入院の頻度が高い。この集団の身体的フレイルに対処する介入方法が十分に確立されていない。 【方法】多施設共同無作為化比較試験を実施し、4つの身体機能(筋力、平衡性、可動性および持久力)の強化を目的とした移行期の個別化段階的リハビリテーションによる介入を評価した。介入は、心不全による入院中または入院早期に開始し、退院後も36回の外来リハビリを実施した。主要評価項目は、3ヵ月後のShort Physical Performance Batteryスコア(総スコア0~12点、低スコアほど身体機能障害が重度であることを示す)とした。副次評価項目は、6ヵ月後の原因を問わない再入院率とした。 【結果】計349例を無作為化し、175例をリハビリテーション介入群、174例を通常治療(対照)群に割り付けた。介入前は両群の患者ともに身体機能が顕著に低下しており、97%がフレイルまたはフレイル予備軍であり、平均併存疾患数は両群ともに5疾患であった。介入群の患者継続率が82%であり、リハビリへの参加率が67%であった。介入前のShort Physical Performance Batteryスコアおよびその他の患者データを調整すると、3ヵ月後のShort Physical Performance Batteryスコアの最小二乗平均値(±SE)スコアは、介入群が8.3±0.2、対照群が6.9±0.2であった(平均群間差、1.5;95%信頼区間[CI]、0.9~2.0、P<0.001)。原因を問わない6ヵ月後の再入院率は、介入群が1.18、対照群が1.28であった(率比、0.93;95%CI、0.66~1.19)。介入群の21例(15例が心血管疾患に起因)、対照群の16例(8例が心血管疾患に起因)が死亡した。あらゆる原因による死亡率は、介入群が0.13、対照群が0.10であった(率比、1.17;95%CI、0.61~2.27)。 【結論】急性非代償性心不全のため入院したさまざまな高齢患者の集団で、多数の身体機能強化を目的とした移行期の個別化段階的リハビリテーションによる介入を早期に開始することによって、通常治療よりも身体機能が大きく改善した。 第一人者の医師による解説 死亡率と再入院率の改善には在宅医療を含めた多角的治療戦略が必要 酒向 正春 ねりま健育会病院院長 MMJ. February 2022;18(1):10 急性非代償性心不全で入院する高齢患者では、身体的フレイル、生活の質(QOL)の低下、回復の遅延、繰り返す再入院が高頻度にみられる(1)。しかし、急性心不全の高齢患者群の身体的フレイルに対するリハビリテーション(以下、リハ)治療の有効性は十分に確立されていない(2)。そこで本論文の著者らは、その有効性を検討するために米国で多施設ランダム化対照試験(REHAB-HF試験)を行った。 本試験では、入院患者27,300人のうち適格基準を満たした急性非代償性心不全の高齢患者349人が積極的リハ治療群175人(平均73.1歳)と通常ケア(対照)群174人(平均72.7歳)に無作為に割り付けられ、比較・評価された。積極的リハ治療群では、筋力強度、バランス、可動性、体力耐久性の4つの機能を強化するために、患者別のリハ介入が計画された。その介入は入院後早期に開始され、入院中継続し、退院後も外来で1回60分のセッションが週3日、12週間(計36回)継続された。主要評価項目は3カ月目のShort Physical Performance Battery(SPPB)のスコア(0から12の範囲で、スコアが低いほど重度の身体機能障害を示す)、副次評価項目は6カ月間の原因を問わない再入院率とされた。 両群は、入院時に身体機能が著しく低く、97%がフレイル状態かプレフレイル状態であり、平均5つの合併症を認めた。積極的リハ治療群の入院治療達成率は82%であり、外来を含めた治療順守率は67%であった。入院時 SPPBスコアの平均± SDは積極的リハ治療群6.0±2.8、対照群6.1±2.6であったが、3カ月の時点で積極的リハ治療群8.3±0.2、対照群6.9±0.2(群間差 , 1.5;95%信頼区間[CI], 0.9 ~ 2.0;P<0.001)となり、積極的リハ治療群で有意な改善が認められた。さらに、積極的リハ治療群では歩行バランス・速度・距離、フレイル、QOL、うつ状態が改善する傾向を示した。6カ月間の再入院件数は積極的リハ治療群194件、対照群213件(発生率比 , 0.93;95% CI, 0.66 ~ 1.19)、全死亡数は積極的リハ治療群21人(心血管系原因15人)、対照群16人(心血管系原因8人)(発生率比 , 1.17;95% CI, 0.61~2.27)であり、いずれも有意差は認められなかった。 以上より、急性非代償性心不全で入院した多様な高齢患者群に対して、入院早期から継続的に患者別に調整された積極的リハ治療を行うことにより身体機能面が大きく改善する有効性が明らかになった。死亡率と再入院率の改善には、在宅医療を含めた多角的治療戦略が必要である。 1. Warraich HJ, et al. Circ Heart Fail. 2018;11(11):e005254. 2. Mudge AM, et al. JACC Heart Fail. 2018;6(2):143-152.
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
Burden, treatment use, and outcome of secondary mitral regurgitation across the spectrum of heart failure: observational cohort study BMJ. 2021 Jun 30;373:n1421. doi: 10.1136/bmj.n1421. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症(sMR)の有病率、長期転帰および治療基準を定義すること。 【デザイン】大規模コホート試験。 【設定】2010年から2020年までのオーストリア・ウィーン地域病院ネットワークのデータを用いた観察的コホート試験。 【参加者】心不全のサブタイプを問わないsMR患者13,223例。 【主要評価項目】sMRと死亡率の相関。ガイドライン診断基準により、心不全を駆出率低下、中間範囲の駆出率、駆出率維持の3つのサブタイプに分類し、患者を評価した。 【結果】1,317例(10%)が重症sMRの診断を受け、年齢上昇との相関が認められた(P<0.001)。この相関は、心不全のさまざまの重症度に認められ、駆出率が低下した患者が2,619例中656例(25%)と最も多かった。同一地域の同年齢および同性の集団と比較した重症sMR患者の死亡率が予想よりも高かった(ハザード比7.53;95%信頼区間 6.83~8.30;P<0.001)。軽症sMRやsMRがない心不全と比較すると、中等症sMRや重症sMRの死亡率が段階的に増加し、ハザード比が中等症sMRで1.29(95%信頼区間 1.20~1.38;P<0.001)、重症sMRで1.82(同1.64~2.02;P<0.001)であった。重症sMRと超過死亡率の相関は多変量解析後も変わらず、心不全の全サブグループに認められた(中間範囲の駆出率:ハザード比2.53(同2.00~3.19;P<0.001)、駆出率低下:1.70(同1.43~2.03;P<0.001)、駆出率維持:1.52(同1.25~1.85;P<0.001))。最先端の医療が利用でき、心不全の症例数も多く、弁膜疾患プログラムがあったが、重度sMRに対して弁形成術(7%)も弁置換術(5%)もほとんど施行されていなかった。低リスクの経カテーテル弁形成術(4%)もほぼ同じで、ほとんど施行されていなかった。 【結論】2次性僧帽弁逆流は全体的に頻度が高く、年齢とともに増加し、超過死亡率との相関が認められた。有害転帰との相関は心不全全体に認められたが、駆出率が中間範囲の患者と駆出率が低下している患者に特に顕著であった。このように転帰が不良であるが、外科的な弁形成術や弁置換術がほとんど施行されていない。同じく低リスクの経皮的弁形成も、治療による最も大きな便益が期待できる心不全サブタイプにさえほとんど施行されていない。今回のデータは、特に高齢化社会で心不全の増加が予想されることを踏まえて、治療に対する需要が高まっていることを示唆するものである。 第一人者の医師による解説 患者利益に資するにはエビデンス不十分 質の高い無作為化試験が望まれる 児玉 隆秀 虎の門病院循環器センター内科部長 MMJ. February 2022;18(1):11 2次性僧帽弁閉鎖不全症(sMR)は心不全患者に多くみられ、生活の質(QOL)低下や予後悪化につながる。しかし、sMRは罹患頻度が低く、先行研究の主な対象は疾患特異性や疫学的特徴の違う原発性 MRであったため、転帰や標準的治療に関する知見は不十分であった。 本論文は、心不全に合併するsMRの疫学的特徴、心不全サブタイプと予後との関連、最先端施設での治療の現状を明らかにすべく、ウィーン医科大学の医療記録と超音波データベースを用いたコホート研究の報告である。心不全とsMRを合併する患者13,223人を対象とし、心不全はHFpEF(左室駆出率[LVEF]50%以上)、HFmrEF(LVEF 40~49%)、HFrEF(LVEF 40%未満)に分類された。全死亡を主要評価項目とし、sMR重症度別に解析した。中等度以上のsMRは心不全患者の40%を占め、LVEF低下や加齢とともに重症度が増加した。重度 sMRはsMRなし/軽度に比べ、すべての心不全サブタイプで死亡率上昇と関連し、特にHFmrEFで顕著であった。重度 sMRに対する弁形成術、弁置換術または経カテーテル弁形成術の実施率は15.2%にとどまっていた。 心不全患者の予後と直結するsMRに対する介入はもっと行われて然るべきであるが、実際には十分に行われていない理由として高齢患者の併存疾患数の多さが挙げられよう。手術リスク評価において年齢、併存疾患、心不全既往、収縮機能障害は重要な要素であり、ほとんどのsMR患者は手術適応外となる。また、外科的な弁の修復・置換がsMR患者の生存率改善につながるという確かなエビデンスはなく、ガイドラインでも内科的治療の重要性が強調されている。しかし、本研究は内科的治療の恩恵があまり明確でないHFmrEF患者においてsMRの死亡リスクが最も高いことを示し、低侵襲な経カテーテル僧帽弁形成術が可能となっている今日では、このような患者群に対して僧帽弁への介入がもっと行われるべきであることを指摘している。 sMRは心不全の原因ではなく、心不全の原因疾患に起因する心臓の構造的変化により2次的に生じてくるものである。また、体液量や内科的治療によりダイナミックに変化しうる。したがって、sMRへの介入のみでは不十分であり、「弁膜症治療のガイドライン 2020年改訂版」では第1に内科的治療の重要性が明記されている。一方、僧帽弁への介入は十分なエビデンスの蓄積がないことを理由に、虚血性 sMRを除いて推奨度は高くない。今回の結果からsMRに対する僧帽弁インターベンションの無作為化試験の必要性が認識され、最適な治療の方向性が見いだされれば、意義深い研究と思われる。
Ⅰ度房室ブロック・右脚ブロック・左軸変異をみたら?
Ⅰ度房室ブロック・右脚ブロック・左軸変異をみたら?
Point ①レントゲンで肺野と心臓の状況をチェックしましょう ・肺尖部は問題なし ・肺過膨張気味 ・心拡大なし ・肺門中心性の肺血管陰影はやや増強気味 ・左の2・3弓が突出=左房拡大が疑われる ②心電図では肢誘導と胸部誘導を分けてチェックしましょう 【肢誘導】 ・Ⅰ誘導:上向き、Ⅱ誘導:下向き = 異常左軸 ⇒左脚のヘミブロックの可能性が高い 【胸部誘導】 ・P派~QRSの立ち上がりが200ms ⇒Ⅰ度房室ブロックだと考えられる ・小さなQ波が出てRSパターンが出現 ⇒ 右脚ブロック型だと考えられる ①右脚ブロック型、②左脚ヘミブロック、③Ⅰ度房室ブロック ⇒もう一本切れると、「3束ブロック(3肢ブロック)」の可能性がある ⇒全部切れてしまうと、「完全房室ブロック」・「高度房室ブロック」への進展リスクが非常に高い 結論 一度房室ブロック、右脚ブロック、左軸変異をみたら三枝ブロックを疑い、失神に注意する ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
SGLT2阻害薬は心不全を抑制するが 大血管症への効果は2次予防例に限られる
SGLT2阻害薬は心不全を抑制するが 大血管症への効果は2次予防例に限られる
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors Versus Glucagon-like Peptide-1 Receptor Agonists and the Risk for Cardiovascular Outcomes in Routine Care Patients With Diabetes Across Categories of Cardiovascular Disease Ann Intern Med. 2021 Nov;174(11):1528-1541. doi: 10.7326/M21-0893. Epub 2021 Sep 28. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害薬とグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1 RA)は、2型糖尿病(T2D)と確立した心血管疾患(CVD)の患者を対象としたプラセボ対照試験で、いずれも心血管ベネフィットを示した。 【目的】SGLT2阻害薬とGLP-1 RAは、CVDを有するT2D患者と有しないCVD患者で差をつけて心血管ベネフィットに関連しているかを評価すること。 【デザイン】人口ベースコホート研究。 【設定】Medicareおよび米国の2つの商業請求データセット(2013年4月から2017年12月)。 【参加者】1:1の傾向スコアマッチしたCVDのある成人T2D患者およびない成人T2D患者(52 901人と133 139人のマッチペア)がSGLT2阻害剤対GLP-1 RA治療を開始。 【測定】主要アウトカムとして心筋梗塞(MI)や脳卒中の入院および心不全(HHF)による入院を挙げた。曝露前の共変量138個をコントロールして1000人年当たりのプールハザード比(HR)および率差(RD)を95%CIで推定した。 【結果】SGLT2阻害薬とGLP-1 RA療法の開始は、CVD患者におけるMIまたは脳卒中のリスクがわずかに低い(HR、0.90 [95% CI, 0.82 to 0.98]; RD, -2.47 [CI, -4.45 to -0.50])が、CVDのない患者では同等のリスク(HR, 1.07 [CI, 0.97 to 1.18]; RD, 0.38 [CI, -0.30 to 1.07])であった。SGLT2阻害薬とGLP-1 RA療法の開始は,CVD患者(HR,0.71 [CI,0.64~0.79]; RD,-4.97 [CI,-6.55~-3.39] )とCVDのない患者(HR, 0.69 [CI,0.56~0.85]; RD, -0.58 [CI, -0.])のベースラインのCVDと関係なくHHFリスク低減に関連していた。 【結論】SGLT2阻害薬とGLP-1製剤の使用は,CVDを有するT2D患者と有しないT2D患者でHHFリスクの一貫した低下と関連していたが,CVDを有する患者の方が絶対的な有益性が高かった。CVDの有無にかかわらず、T2D患者におけるMIや脳卒中のリスクには大きな違いはなかった。 第一人者の医師による解説 実臨床においてGLP-1受容体作動薬との比較がなされたが議論は続く 笹子 敬洋 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科助教 MMJ. April 2022;18(2):42 本論文に発表されたコホート研究は、米国の実臨床データを用いて、2型糖尿病においてNa+ /グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬とグルカゴン様ペプチド -1(GLP-1)受容体作動薬が心血管イベントに及ぼす影響を、組み入れ前12カ月間の心血管イベントの有無(1次予防か2次予防か)で層別化し解析したものである。主要評価項目のうち、心筋梗塞・脳卒中による入院は、GLP-1受容体作動薬と比較し、SGLT2阻害薬によって全体としては抑制されず、2次予防でのみ抑制された。一方、心不全による入院は同薬の投与により、1次・2次予防にかかわらず抑制されたが、絶対リスクの低下幅は1次予防ではわずかであった。 このような実臨床のリアルワールドデータを用いた後ろ向きコホート研究は、前向き臨床試験の課題を補うものとして期待がかけられている。例えば、本研究のような糖尿病治療薬同士の直接比較は、前向きの介入試験では難しいであろう。著者らによれば、心不全に関するSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の直接比較は初めてとのことだが、両剤が腎機能に及ぼす影響については、リアルワールドデータを用いた先行研究が報告されている(1)。 その一方で本研究では、筆者らが以前他の研究について指摘したのと同様(2)、有害事象についての解析がほとんどなされていない。前向き臨床試験であれば効果のみならず安全性にも十分な配慮が求められるが、現状でのリアルワールドデータを用いた解析では必ずしもその限りでないことに留意されたい。例えば先述のような、1次予防におけるSGLT2阻害薬の心不全に対するわずかな効果が、潜在的な有害事象のリスクを上回るかどうかは不明である。 また本研究では、前向き臨床試験において多く用いられるintention-to-treat解析でなく、薬剤の中止・切り替えも考慮したas-treatedアプローチが採用されたが、その結果マッチング後に解析対象となったのは、1次予防で計26万例以上、2次予防でも計10万例以上に上る規模であったにもかかわらず、追跡期間の中央値はわずか約7カ月であった。このようなリアルワールドデータを用いた解析において、薬剤の治療効果を長期的に評価することは必ずしも容易ではないが(2)、それを改めて目の当たりにさせられる結果でもあった。 最後に、著者らも述べているように、この研究の組み入れは2017年までであり、セマグルチドなどのより新しい薬剤が含められていない。SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬との差が今後縮まっていく可能性も考えられるが、それを明らかにするには今しばらく時間がかかりそうである。 1. Xie Y, et al. Diabetes Care. 2020;43(11):2859-2869. 2. Sasako T, et al. Kidney Int. 2022;101(2):222-224.
女性と比較した男性の心不全治療薬至適用量の特定 前向き観察コホート研究
女性と比較した男性の心不全治療薬至適用量の特定 前向き観察コホート研究
Identifying optimal doses of heart failure medications in men compared with women: a prospective, observational, cohort study Lancet. 2019 Oct 5;394(10205):1254-1263. doi: 10.1016/S0140-6736(19)31792-1. Epub 2019 Aug 22. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者にガイドラインが推奨するアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)およびβ遮断薬の用量は、薬剤の薬物動態に性差があることが知られているにもかかわらず、男女でほぼ同じである。著者らは、HFrEF患者に用いるACE阻害薬またはARBおよびβ遮断薬の至適用量に性差があると仮定を立てた。 【方法】欧州11カ国で実施した前向き試験BIOSTAT-CHFの事後解析を実施した。この試験は、手順従ってACE阻害薬またはARBおよびβ遮断薬の投与開始と用量漸増を推奨された心不全患者を対象としたものである。著者らは、左室駆出率が40%未満の患者のみを対象とし、試験開始3カ月以内に死亡した患者を除外した。あらゆる原因による死亡または心不全による入院までの期間の複合を主要転帰とした。男性3539例、女性961例のHFrEF患者から成る独立コホートASIAN-HFで結果を検証した。 【結果】BIOSTAT-CHFのHFrEF患者(男性1308例、女性402例)で、女性のほうが男性よりも高齢(74歳vs. 70歳、P<0.0001)、低体重(72kg vs. 85kg、P<0.0001)、低身長(162cm vs. 174cm、P<0.0001)だったが、BMIに有意な差はなかった。ほぼ同じ割合の男女でガイドラインが推奨するACE阻害薬またはARB[99例(25%)vs. 304例(23%)、P=0.61]およびβ阻害薬[57例(14%) vs. 168(13%)例、P=0.54]の目標用量に達していた。死亡または心不全による入院のハザード比が最も低かったのは、男性ではACE阻害薬またはARBおよびβ遮断薬の推奨用量100%を服用していた患者であったが、女性は推奨用量のわずか50%でリスクが約30%も低く、増量してもリスクはそれ以上低下しなかった。この性差は、年齢、体表面積などの変数で補正した後もなお認められた。ASIAN-HFレジストリでは、ACE阻害薬およびβ遮断薬いずれもほぼ同じパターンが見られ、女性は推奨用量の50%でリスクが約30%低く、増量してもそれ以上の便益は見られなかった。 【解釈】この試験から、HFrEF女性患者は男性よりもACE阻害薬またはARBおよびβ遮断薬を減量する必要があることが示唆される。これは、男性と比較した女性の真の至適薬物療法が何であるかという問題を提起するものである。 第一人者の医師による解説 男女により標準治療薬の至適用量に差があることに注意が必要 瀧本 英樹 東京大学医学部附属病院循環器内科講師 MMJ. October 2020; 16 (5):133 左室駆出率(LVEF)が低下した心不全患者に対するガイドラインに準じた治療(guideline-directed medical therapy;GDMT)では現在、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬を少量から導入し、性別関係なく推奨量まで漸増する。しかし、薬物の体内分布、代謝、病態には性差があり、至適用量は男女で異なる可能性が高い。  本論文はこの仮説を、欧州11カ国のBIOSTATCHF試験 の 事後解析により検証、さらにアジア11地域のASIAN-HF試験で検証した。BIOSTATCHF試験はGDMTが奏効しない要因を調べる前向き観察研究であり、2010~12年に患者登録が行われた。ACE阻害薬 /ARB、β遮断薬投与が不十分な心不全患者について、登録後3カ月間に治療薬を増量・最適化、その後6カ月間は用量を維持して評価した(追跡期間の中央値は21カ月)。対象となったLVEF 40%未満の男性1,308人と女性402人をβ遮断薬、ACE阻害薬 /ARBの推奨量到達度で4群(0%、1~49%、50~99%、100%以上)にわけて全死亡と心不全入院の複合エンドポイントを評価すると、β遮断薬、ACE阻害薬 /ARBとも女性では50~99%、男性では100%以上で最もリスクが低かった。推奨量到達度と相対リスクの関係を解析すると、β遮断薬に関して女性では推奨量の60%でリスクが最も低いU字型曲線を示し、男性では30~100%でリスクが低かった。ACE阻害薬 /ARBに関して、女性では推奨量の40%で最もリスクが低く、それ以上で低下しなかったが、男性は増量に伴ってリスクが低下し、推奨量100%で最もリスクが低くなった。  ASIAN-HF試験に登録されたLVEF40%以下の男性3,539人、女性961人を対象とした解析でもほぼ同様の結果であり、女性においてβ遮断薬は推奨量の40~50%、ACE阻害薬 /ARBは推奨量の60%で十分な相対リスク低下効果を得ることができ、それ以上でリスク低下を認めなかった。一方、男性ではβ遮断薬は推奨量100%で最も相対リスクが低く、ACE阻害薬 /ARBは推奨量50%以上でリスク低下が得られた。  すなわち、女性の心不全治療において、これら薬物は人種によらず推奨量の約半量が適切であることが示された。この機序については検討されていないが、薬物の代謝、血中濃度、副作用、病態形成の性差が考えられよう。これからは性差を考慮した医療を適切に提供することが求められている。
ダパグリフロジンが糖尿病がない心不全患者の心不全悪化と心血管死にもたらす効果
ダパグリフロジンが糖尿病がない心不全患者の心不全悪化と心血管死にもたらす効果
Effect of Dapagliflozin on Worsening Heart Failure and Cardiovascular Death in Patients With Heart Failure With and Without Diabetes JAMA. 2020 Mar 27;323(14):1353-1368. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者に追加治療が必要である。ナトリウム・グルコース輸送体2(SGLT2)阻害薬は、糖尿病がないHFrEF患者にも有効な治療であると考えられる。 【目的】糖尿病の有無を問わずHFrEF患者に用いるダパグリフロジンの効果を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】20カ国410施設で実施された第III相無作為化試験の探索的解析。2017年2月15日から2018年8月17日にかけて、NYHA分類II~IV、左室駆出率が40%以下で、血漿NT-proBNP値が上昇した患者を組み入れ、2019年6月19日まで追跡した。 【介入】推奨治療に追加したダパグリフロジン1日1回10mgまたはプラセボ。 【主要転帰または評価項目】主要転帰は心不全の悪化または心血管死の複合とした。この転帰は、試験開始時の糖尿病の有無で、さらに糖尿病がない患者では糖化ヘモグロビン値5.7%以上と5.7%未満に分けて解析した。 【結果】無作為化した4744例(平均年齢66歳、23%が女性、55%が非糖尿病)のうち4742例が試験を完遂した。糖尿病がない患者で、主要転帰はダパグリフロジン群1298例中171例(13.2%)、プラセボ群1307例中231例(17.7%)に発生した(HR 0.73、95%CI 0.60~0.88)。糖尿病患者では、主要転帰はダパグリフロジン群1075例中215例(20.0%)、プラセボ群1064例中271例(25.5%)に発生した(同0.75、0.63~0.90、交互作用のP=0.80)。糖尿病がなく糖化ヘモグロビン値5.7%未満の患者で、主要転帰はダパグリフロジン群438例中53例(12.1%)、プラセボ群419例中71例(16.9%)に発生した(同0.67、0.47~0.96)。糖化ヘモグロビン値5.7%以上の患者で、主要転帰はダパグリフロジン群860例中118例(13.7%)、プラセボ群888例中160例(18.0%)に発生した(同0.74、0.59~0.94)、交互作用のP=0.72)。糖尿病がない患者でダパグリフロジン群の7.3%、プラセボ群の6.1%、糖尿病患者のそれぞれ7.8%、7.8%に有害事象として体液減少が報告された。糖尿病がない患者でダパグリフロジン群の4.8%、プラセボ群の6.0%、糖尿病患者でそれぞれ8.5%、8.7%に腎有害事象が報告された。 【結論および意義】このHFrEF患者を対象とした無作為化試験の探索的解析では、ダパグリフロジンを推奨治療に追加すると、プラセボと比べて、糖尿病の有無に関係なく心不全の悪化または心血管死を有意に抑制した。 第一人者の医師による解説 細胞外液量減少を介した心負荷減少が心不全改善に寄与の可能性 長田太助 自治医科大学医学部内科学講座腎臓内科学部門教授・附属病院副病院長 MMJ. October 2020; 16 (5):131 EMPA-REG outcome試験(1)を皮切りに、この数年でNa+ /グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬による心血管予後の改善効果を示した大規模臨床試験が次々と発表された(2)。ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬を使ったSAVORTIMI53試験では心不全が増加したのに対し、同じ糖尿病薬でもSGLT2阻害薬は心不全の悪化を抑制することが強く印象づけられた。「心不全患者だけを集めてSGLT2阻害薬を投与した場合、心不全悪化は抑制されるのか?」と誰しも疑問に思うことだろう。DAPA-HF試験(3)がその答えを提示した。同試験ではNYHAクラス II ~ IVで駆出率(EF)40%未満の心不全患者4,744人をダパグリフロジン(DAPA)10mg/日群とプラセボ群に無作為に割り付け、約2年間観察した。主要評価項目(心不全悪化と心血管死亡の複合アウトカム)の発生率はDAPA群16.3%、プラセボ群21.2%、ハザード比(HR)は0.74で統計学的に有意であった。  本研究では、これと同じ母集団を使い、糖尿病群(2,139人)と非糖尿病群(2,605人)に分けたpost hoc解析が実施された。2019年の報告(3)では、複合アウトカム(心不全悪化と心血管死亡)発生率は糖尿病の有無で差がなかったと報告され、糖尿病薬が非糖尿病患者でも心不全を抑制した結果は衝撃だったが、今回はさらに詳しく糖尿病の有無で差が検証された。主要評価項目は本試験と同じで、その発生率は糖尿病群においてDAPA群20.0%、プラセボ群25.5%(HR, 0.75)、非糖尿病群ではDAPA群13.2%、プラセボ群17.7%(HR, 0.73)であり、それぞれの群内で有意差はあったが、糖尿病の有無間で有意な交互作用はなかった。腎機能悪化以外の2次評価項目を含めて結果はすべて同様で、DAPAの心不全悪化抑制効果は糖尿病の有無ならびにベースライン HbA1c値の高低によらずほぼ一定であることも示された。  血糖値改善作用によらないのであれば、DAPAによる心不全抑制機序は何であろうか。本論文でDAPAには糖尿病の有無によらずヘマトクリット値を上げる作用があることが示されており、細胞外液量減少を介した心負荷減少が心不全の改善に寄与している可能性がある。そのほかにもhypoxia-inducible factor (HIF)1活性化とエリスロポエチン産生増加、心筋の線維化抑制作用、ケトン体産生を介した心筋のエネルギー効率改善、交感神経抑制作用など諸説あるが、SGLT2阻害薬の心不全改善作用の正確な機序はまだ不明である。機序が明らかになれば、心不全の薬だが血糖降下作用もある薬とSGLT2阻害薬の立ち位置が変わるのかもしれない。 1. Zinman B et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 2. Zelniker TA et al. Lancet. 2019;393:31-39. 3. McMurray et al. N Engl J Med. 2019;381:1995-2008.
駆出率が低下した心不全に用いる包括的疾患修飾薬物療法の生涯にわたる便益の推測 無作為化比較試験3件の比較分析
駆出率が低下した心不全に用いる包括的疾患修飾薬物療法の生涯にわたる便益の推測 無作為化比較試験3件の比較分析
Estimating lifetime benefits of comprehensive disease-modifying pharmacological therapies in patients with heart failure with reduced ejection fraction: a comparative analysis of three randomised controlled trials Lancet . 2020 Jul 11;396(10244):121-128. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30748-0. Epub 2020 May 21. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】駆出率が低下した心不全(HFrEF)に3つの薬剤クラス(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬[MRA]またはアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬[ARNI]、ナトリウム・グルコース共益輸送担体2[SGLT2]阻害薬)を用いると、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)とβ遮断薬を用いた従来療法よりも死亡率が低下する。各クラスはこれまで別々の基礎療法で検討されていたが、併用療法として予想される便益は知られていない。ここに、これまで報告された無作為化比較試験3件のデータを用いて、慢性HFrEFに用いる包括的治療と従来治療によって獲得される無イベント生存および全生存を推定した。 【方法】このcross-trial解析では、3件のきわめて重要な試験、EMPHASIS-HF(2737例)、PARADIGM-HF(8399例)およびDAPA-HF(4744例)を間接的に比較することによって、慢性HFrEFに用いる総括的疾患修飾薬物療法(ARNI、β遮断薬、MRAおよびSGLT2阻害薬)の従来の薬物療法と比較した治療効果を推定した。主要評価項目は、心血管死または心不全による初回の入院の複合とした。このほか、3つの評価項目を個別に評価し、総死亡率を評価した。この関連のある治療効果は長い期間をかけて一貫して見られると仮定して、EMPHASIS-HF試験の対照群(ACE阻害薬またはARBとβ遮断薬)で、包括的疾患修飾療法によって長期的に得られる無イベント生存および全生存の増加分を見積もった。 【結果】従来療法と比較して包括的疾患修飾療法が主要評価項目(心血管死または心不全による入院)にもたらす帰属集計効果のハザード比(HR)は0.38(95%CI 0.30-0.47)だった。このほか、心血管死単独(HR 0.50、95%CI 0.37-0.67)、心不全による入院単独(同0.32、0.24-0.43)、全死因死亡(0.53、0.40-0.70)のハザード比も有利であった。従来療法に比べると、包括的疾患修飾薬物療法によって心血管死または心不全による初回入院が2.7年(80歳時)から8.3年(55歳時)、生存が1.4年(80歳時)から6.3年(55歳時)長くなると推定された。 【解釈】HFrEFで、早期包括的疾患修飾薬物療法で得られると推定される治療効果はきわめて大きく、新たな標準的治療としてARNI、β遮断薬、MRAおよびSGLT2阻害薬の併用を支持するものである。 第一人者の医師による解説 ARNI、SGLT2阻害薬、MRAの導入 生命予後改善に有用 鈴木 秀明(助教)/安田 聡(教授) 東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野 MMJ. December 2020;16(6):169 日本における死亡総数は、心疾患による死亡が悪性新生物に次ぎ2番目に多い。心疾患の内訳では心不全死が最多を占め、心不全入院患者数は依然増加し続けている。駆出率が低下した心不全(HFrEF)では、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)とβ遮断薬のエビデンスは確立しており、この2剤に加えミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)、Na+/グルコース共役輸送担体(SGLT)2阻害薬の導入は生命予後をさらに改善することが報告されている。しかし心不全治療の現場において、HFrEF患者に対するARNI、SGLT2阻害薬、MRAの導入は必ずしも進んでいない。  本研究では、HFrEFに対するARNI、SGLT2阻害薬、MRAの有用性を示した3件の臨床試験(それぞれPARADIGM-HF[n=8,399]、DAPA-HF[n=4,744]、EMPHASIS-HF[n=2,737])を比較することで、ACE阻害薬/ARB+β遮断薬の2剤が導入されたHFrEF患者に対し、ARNI・SGLT2阻害薬・MRAの3剤導入が与える効果について検証が行われた。結果として、これら3剤の導入は、1次エンドポイントである心血管死・心不全入院を62%減少させ(ハザード比[HR], 0.38)、心血管死(HR, 0.50)、心不全入院(HR, 0.32)、全死亡(HR, 0.53)も減少させた。こうした予後改善効果は、55歳、80歳時点の導入において心血管死・心不全入院をそれぞれ8.3年、2.7年間遅らせ、全死亡を6.3年、1.4年間遅らせることに相当すると推定された。  本研究の限界として、①新しいランダム化比較試験を行ったわけではなく、過去の臨床試験を比較検討した内容、②薬物の中止やアドヒアランスを考慮していない、③有害事象や費用面の検討を行っていない、④イバブラジン(HCNチャネル遮断薬)やベルイシグアト(可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬)といったHFrEFにエビデンスのある他の薬剤や、デバイスなどの非薬物治療の効果を検討していない、などが挙げられる。しかし、こうした点を考慮しても、ACE阻害薬/ ARB+β遮断薬の2剤による従来治療に加え、ARNI・SGLT2阻害薬・MRAの3剤を導入することはHFrEF患者の生命予後を改善する上で有用であることが本研究で改めて明らかになったと言えよう。
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.20(2022年10月6日号)
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CRPはがんのバイオマーカーになるか? 観察研究では、血清C反応性タンパク(CRP)と肺癌、乳癌、大腸癌のリスクとの関連が報告されているが、他の癌については一貫性がなくエビデンスも示されていない。そこで、英国バイオバンクコホートからの42万964人の癌のない参加者を対象に、CRPと癌リスクの関連を評価するための前向きコホートとメンデルランダム化による汎癌解析が実施された。BMC Medicine誌2022年9月19日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む メトホルミンは、アルツハイマー病の発生率に影響を及ぼすか? メトホルミンの使用は糖尿病患者の認知症発生率の低下と関連があることが、観察研究において示されている。しかし、一般集団における両者の因果関係はよくわかっていない。メンデルランダム化(MR)を用いた本研究で、メトホルミンとアルツハイマー病リスク低下との因果関係、その脳内での作用機序が調査された。Diabetologia誌2022年10月号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 心不全における鉄欠乏症とダパグリフロジンの効果 心不全では鉄欠乏症が一般的であり、転帰の悪化に関連している。DAPA-HF試験(心不全におけるダパグリフロジンの有害転帰の予防)における鉄欠乏の有病率とその結果、鉄代謝マーカーに対するダパグリフロジンの効果、ベースライン時の鉄の状態による心不全に対するダパグリフロジンの効果について、結果が報告された。Circulation誌2022年9月27日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む SDGsは達成されるか:低所得国・中所得国における固体燃料を使用した調理と健康への影響のマッピング 現在でも30億人以上がクリーンエネルギーを利用できず、主に固体燃料を使用して調理している。しかしながら、固体燃料の使用は、死亡に関連する家庭の大気汚染を引き起こすことがわかっている。著者らは 、2000年〜2018年の低所得国および中所得国において、固体燃料使用と有病率をマッピングする地理空間モデリング研究を行った。The Lancet Global Health誌2022年10月1日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む アセタゾラミド(ダイアモックス®)は、急性非代償性心不全に効果的か? 体液過剰(浮腫、胸水、腹水)を伴う急性非代償性心不全患者に対し、炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミド(ダイアモックス®)をループ利尿薬に追加することで、より迅速なうっ血解消が可能であるかどうかは不明である。アセタゾラミドの急性非代償性心不全への効果を検討した、多施設並行群間二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果が報告された。The New England Journal of Medicine誌2022年9月29日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.19(2022年9月29日号) 免疫チェックポイント阻害剤の奏効率は、食事によって変わるのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.18(2022年9月22日号) メタボを防ぐ腸内細菌に対して、最も悪影響を及ぼす食事は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.17(2022年9月15日号) セレブからも注目されているプチ断食は、ダイエットや心血管代謝に良い影響を及ぼすのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.16(2022年9月8日号) 長生きできる紅茶の摂取量は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.15(2022年9月1日号) ゼロカロリー甘味料は、耐糖能に影響を及ぼさないのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.14(2022年8月25日号) ゼロカロリー甘味料は、耐糖能に影響を及ぼさないのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.13(2022年8月18日号) 運動後の摂取はゆで卵、生卵どちらの摂取が有用か? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.12(2022年8月11日号) 慢性腰痛を軽減する最良の運動オプションとは~RCTのネットワークメタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号) サル痘の臨床的特徴~最新症例報告 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.10(2022年7月28日号) 小児におけるオミクロンに対するファイザー社製COVID-19ワクチンの有効性 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.9(2022年7月21日号) 慢性便秘症に効果的な食物繊維摂取量は?:RCTの系統的レビュー&メタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.8(2022年7月14日号) COVID-19後遺症の有病率、その危険因子とは ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.7(2022年7月7日号) 糖尿病の有無が影響するか、心不全に対するエンパグリフロジンの臨床転帰 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号) 老化をあざむく方法は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.5(2022年6月23日号) 座位時間と死亡率および心血管イベントとの関連性:低~高所得国での違いはあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.4(2022年6月16日号) 乳製品やカルシウム摂取量と前立腺がんの発症リスクの関連性:前向きコホート研究 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.3(2022年6月9日号) 運動は脳内RNAメチル化を改善し、ストレス誘発性不安を予防する ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号) 6〜11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本