「BMJ」の記事一覧

冠動脈バイパス術後の抗血栓療法:系統的レビューとネットワークメタ解析。
冠動脈バイパス術後の抗血栓療法:系統的レビューとネットワークメタ解析。
Antithrombotic treatment after coronary artery bypass graft surgery: systematic review and network meta-analysis BMJ 2019 ;367:l5476. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】冠動脈バイパスグラフト手術を受ける患者における伏在静脈グラフト不全を予防する異なる経口抗血栓薬の効果を評価する。 デザイン]系統的レビューとネットワークメタ分析。 【データ入手元】インセプションから2019年1月25日までのMedline、エンベース、Web of Science、CINAHL、Cochrane Libraryのデータを用いた。の適格基準。研究選択について冠動脈バイパス移植術後の伏在静脈グラフト不全を予防するために経口抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)を投与した参加者(18歳以上)の無作為化対照試験。 【MAIN OUTCOME MEASURES】主要評価項目は伏在静脈グラフト不全、主要安全評価項目は大出血であった。副次的評価項目は心筋梗塞と死亡であった。 【結果】このレビューで3266件の引用が確認され、20件の無作為化対照試験に関連する21件の論文がネットワークメタ解析に含まれた。これら20の試験は4803人の参加者からなり、9つの異なる介入(8つの活性と1つのプラセボ)を調査した。中程度の確度のエビデンスは、アスピリン単独療法と比較して、伏在静脈グラフト不全を減らすために、アスピリン+チカグレロル(オッズ比0.50、95%信頼区間0.31~0.79、治療必要数10)またはアスピリン+クロピドグレル(0.60、0.42~0.86、19)による抗血小板2重療法の使用を支持している。本試験では,抗血栓療法の違いによる大出血,心筋梗塞,死亡の違いを示す強力なエビデンスは得られなかった。感度解析の可能性は否定できないが,含まれるすべての解析で試験間の異質性と非干渉性は低かった.グラフトごとのデータを用いた感度分析では、効果推定値に変化はなかった。 【結論】このネットワークメタ分析の結果は、冠動脈バイパスグラフト術後の伏在静脈グラフト不全を予防するために、アスピリンにチカグレロルまたはクロピドグレルを追加することの重要な絶対的利益を示唆するものであった。手術後の二重抗血小板療法は、重要な患者アウトカムに対して薬物介入の安全性と有効性のプロファイルをバランスよく調整し、患者に合わせるべきである。[STUDY REGISTRATION]PROSPERO 登録番号 CRD42017065678. 第一人者の医師による解説 DAPTにおける心血管イベント予防と出血リスク上昇 長期的で大規模な検証を期待 北村 律 北里大学医学部心臓血管外科准教授 MMJ.April 2020;16(2) 冠動脈バイパス(CABG)術後の大伏在静脈グラフト閉塞は、術後1年以内に30~40%、10年以上では70%の確率で生じるという報告もある(1),(2)。 しかしながら、採取の容易さ、ハンドリングの良さなどの理由から、多くの患者で大伏在静脈グラフトが用いられる。術後の大伏在静脈グラフト閉塞予防のために、近年、アスピリンにクロピドグレル やチカグレロルなどのチエノピリジン系抗血小板薬を追加する抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を 用いることも多い。この効果についてのネットワークメタアナリシスが本論文である。 検討の対象は、主要医学文献データベース上にある2019年1月までに発表された論文のうち、18 歳以上、大伏在静脈を用いたCABG、複数の経口抗血栓薬またはプラセボとの比較、大伏在静脈グラフト閉塞を検討した論文3,266編から選ばれた、 解析に適切な20件のランダム化対照試験(RCT)である。術後経口抗血栓薬として、単剤療法にはアスピリン、クロピドグレル、チカグレロル、ビタミン K拮抗薬(ワルファリンなど)、リバーロキサバン、 2剤併用療法にはアスピリン+クロピドグレル、アスピリン+チカグレロル、アスピリン+リバーロキサバン、合計8種類が含まれた。有効性のエンドポイントは静脈グラフト閉塞、安全性のエンドポ イントは大出血、全死亡と心筋梗塞に設定している。 合計4,803人の患者が解析の対象となっており、 年齢は44~83歳、83%が男性、83%が待機手術であった。術後観察期間は1カ月~8年で、大伏在静脈開存はカテーテル検査かCTで評価された。 検討された薬剤すべてがグラフト閉塞を予防することが示されたが、アスピリン単剤と比較して、 アスピリン+チカグレロル(オッズ比[OR], 0.50; 95% CI, 0.31~0.79)、アスピリン+クロピド グレル(OR, 0.60;95% CI, 0.42~0.86)が有意にグラフト閉塞を予防することが示された。出血リスクに関する検討では薬剤間で有意差を認めず、いずれもプラセボと比較して出血リスクを上昇させる傾向にあったが、有意差はなかった。全死亡に関する検討では10件のRCT(1,921人)、心筋梗塞に関しては12件のRCT(3,994人)が 対象となったが、薬剤間で有意差を認めなかった。 RCT20件のうち、ランダム化バイアスのリスクが低いと判断されたのは5件のみであった。 DAPTによるCABG術後の心血管イベント予防効果および出血リスクの上昇については、より長期的かつ大規模な研究による検証が期待される。 1. Cooper GJ et al. Eur J Cardiothorac Surg. 1996;10(2):129-140. 2. Windecker S et al. Eur Heart J. 2014;35(37):2541-2619
薬剤耐性結核菌の伝播性と病勢進行の可能性:前向きコホート研究
薬剤耐性結核菌の伝播性と病勢進行の可能性:前向きコホート研究
Transmissibility and potential for disease progression of drug resistant Mycobacterium tuberculosis: prospective cohort study BMJ 2019 ;367 :l5894 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】肺結核患者の家庭内接触者における表現型薬剤耐性と結核感染・発病リスクとの関連を測定すること 【設定】2009年9月から2012年9月までのペルー、リマの106地区の保健所 【デザイン】前向きコホート研究。 【参加者】結核の指標患者3339人の家庭内接触者10 160人を、患者の薬剤耐性プロファイルに基づいて分類した:6189人がMycobacterium tuberculosisの薬剤感受性株に、1659人がイソニアジドまたはリファンピシンに耐性の株に、1541人が多剤耐性(イソニアジドとリファンピシンに耐性)株に暴露されていた。 【結果】多剤耐性結核患者の家庭内接触者は、薬剤感受性結核患者の家庭内接触者と比較して、フォローアップ終了時までに感染するリスクが8%(95%信頼区間4%~13%)高くなることが示された。結核疾患発症の相対ハザードは、多剤耐性結核に曝露した家庭内連絡者と薬剤感受性結核に曝露した家庭内連絡者で差がなかった(調整ハザード比 1.28、95%信頼区間 0.9~1.83) 【結論】多剤耐性結核患者の家庭内連絡者は、薬剤感受性結核に曝露した連絡者と比較して結核感染リスクが高かった。結核疾患の発症リスクは、両群の接触者の間で差はなかった。このエビデンスは、ガイドライン作成者に、薬剤耐性結核と薬剤感受性結核を対象として、感染と疾患の早期発見と効果的な治療などの行動をとるように促すものである。 【TRIAL REGISTRATION】ClinicalTrials. gov NCT00676754. 第一人者の医師による解説 多剤耐性結核の制圧 耐性獲得防止だけでなく早期診断・治療戦略の開発が必要 加藤 誠也 公益財団法人結核予防会結核研究所所長 MMJ.February 2020;16(1) 薬剤耐性(AMR)対策は世界的に大きな問題とされており、結核がAMRの3分の1を占めているとされている。結核に関しては抗結核薬のイドニア ジドとリファンピシンの両剤に耐性の結核を多剤耐性結核という。薬剤耐性結核の発生原因は細胞分裂の過程で発生する耐性菌が、不適切な治療や治療中断によって選択的に増殖することによる。したがって、対策は適正な治療を確実に行うことによって耐性菌の増殖を防ぐこととされてきた。 この考え方の背景には、耐性菌は変異によって感染性や病原性が損なわれているために、感染や発病は感受性菌に比べ大きな問題でないという前提がある。本研究は感受性菌と多剤耐性菌の患者家族を12カ月間追跡することによって、感染状況(ツベルクリン反応結果)と発病者を算出し、この前提の妥当性を検証した。 その結果、多剤耐性菌は感受性菌よりも感染のリスクが8%高く、発病可能性は耐性菌と感受性菌で差がなかった。なお、結核菌の耐性 変異による発育適合性(fitness)の影響については諸説がある。本研究では家族内感染者に菌陽性に なりにくい小児が多かったため、分子疫学的な検証 が十分にされなかったが、Yangらは上海における分子疫学研究によって、多剤耐性結核患者の73% が感染によることを示した(1) 。 これらの結果から多剤耐性結核対策として、耐性菌の増殖を防ぐための適正治療と服薬遵守の推進のみならず、感染防止のため薬剤耐性菌の早期診断と効果的な治療の必要性が示唆された。しかし、薬剤感受性検査は診断後2~3カ月かかり、その間は適切な治療が行われないため、多剤耐性結核患者の感染性低下は感受性菌感染者に比べ遅いことになる。したがって、対策として既存のツールのみならず、薬剤耐性の早期診断・治療の戦略を開発する 必要がある。 診断のためには、結核菌の全ゲノム解析の活用が考えられるが、そのためには薬剤耐性 遺伝子の知見を集積して解析ツールの精度を十分に高くすること、および結核菌遺伝子を簡便に高濃度に抽出する技術が必要である。また、治療のためには従来の薬剤と異なる作用機序を持つ新薬とそれを組み合わせた安全かつ効果的な治療レジメンの開発が必要である。 1. Yang C et al. Lancet Infect Dis. 2017;17(3):275-284.
50歳における理想的な心血管系の健康と認知症発生率との関連:Whitehall IIコホート研究の25年フォローアップ。
50歳における理想的な心血管系の健康と認知症発生率との関連:Whitehall IIコホート研究の25年フォローアップ。
Association of ideal cardiovascular health at age 50 with incidence of dementia: 25 year follow-up of Whitehall II cohort study BMJ 2019 Aug 7 ;366:l4414. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】50歳時点のLife Simple 7心血管系健康スコアと認知症発症率との関連を検討する。 【デザイン】前向きコホート研究 【設定】ロンドンの公務員部門(Whitehall II研究、研究開始1985-88)。 【参加者】50歳時点で心血管健康スコアに関するデータを有する7899人。 【対象】心血管健康スコアは、4つの行動的指標(喫煙、食事、身体活動、肥満指数)と3つの生物的指標(空腹時血糖値、血中コレステロール、血圧)を含み、3点スケール(0、1、2)でコード化されている。心血管健康スコアは7つの指標の合計(スコア範囲0~14)であり,心血管健康不良(スコア0~6),中間(7~11),最適(12~14)に分類された。 【主要アウトカム指標】2017年までの病院,精神保健サービス,死亡登録へのリンクを通じて特定された認知症の発症。 【結果】追跡期間中央値24.7年間に347例の認知症発症が記録された。心血管健康度が低い群における認知症の発症率が1000人年当たり3.2(95%信頼区間2.5~4.0)であるのに対し,1000人年当たりの絶対率の差は,心血管健康度が中程度の群では-1.5(95%信頼区間-2.3~-0.7),心血管健康度が最適の群では-1.9(-2.8~-1.1)であった。心血管系の健康スコアが高いほど、認知症のリスクは低かった(心血管系の健康スコアが1ポイント上がるごとにハザード比0.89(0.85~0.95))。行動学的および生物学的下位尺度についても、認知症との同様の関連が認められた(下位尺度1ポイント増加あたりのハザード比はそれぞれ0.87(0.81~0.93)および0.91(0.83~1.00))。50歳時点での心血管健康と認知症との関連は、追跡期間中に心血管疾患のない状態が続いた人においても見られた(心血管健康スコア1点増につきハザード比0.89(0.84~0.95))。 【結論】中年期にライフシンプル7理想心血管健康勧告を遵守することは、その後の認知症のリスク低減と関連していた。 第一人者の医師による解説 日本の特定健診 認知症予防にも結びつく可能性を示唆 長田 乾 横浜総合病院臨床研究センター長 MMJ.February 2020;16(1) 米国心臓協会(AHA)によれば、Lifeʼs Simple 7、 すなわち、禁煙、食事、運動習慣、体重の行動学的 4因子と、血圧、血糖、血清コレステロールの生物 学的3因子の合計7項目からなるCardiovascular Health Score(CVHS)が高い群は、低い群と比較し、冠動脈疾患や脳卒中の発症リスクが低いことが示されている(1)。高齢者では、CVHSが認知機能低下や認知症のリスクとも関連するとする報告はあるが、追跡期間が短い研究や高齢期の危険因子を評 価している研究が多く、必ずしも結果は一致しない。 本論文は、50歳の時に評価したCVHSと25年後 の認知症発症リスクの関連を検討した前向きコホー ト研究の報告である。対象は、英国 Whitehall II研 究の登録住民のうち、心血管疾患や認知症の既往が なく、50歳時にCVHSの評価を行った7,899人。 CVHSは、喫煙、果物・野菜の摂取量、1週間の運動量、体格指数(BMI)、空腹時血糖、総コレステロール、 収縮期・拡張期血圧をそれぞれ2、1、0点の尺度で 評価し、総点が12~14点を「最良群」、7~11点 を「中間群」、0~6点を「不良群」と判定した。不良群と比較して、中間群や最良群には、白人、高学歴、 高収入の人が多く含まれていた。認知症の診断にはNational Health Serviceのデータを用いた。 結果は、中央値24.7年の観察期間中に347人が認知症を発症し、1,000人・年あたりの同発症率は不良群3.2、中間群1.8、最良群1.3であった。社会経済的背景で補正した解析では、認知症発症リスク(ハザード比)は、不良群を1とすると中間群0.61、 最良群0.57で、CVHS1点上昇あたり0.88~0.89 と低下した。行動学的4因子および生物学的3因子についても同様の傾向がみられ、50歳時のCVHS は老年期の認知症発症リスクと密接に関連していた。ただし、観察期間中に心血管イベントを発症しなかった群でもCVHSは認知症発症リスクと関連したことから、老年期の認知症は心血管イベントですべて説明できるわけではなかった。サブ解析において3テスラ MRIで計測した全脳容積や灰白質容積は、CVHSと相関したが、海馬容積は相関しなかった。 実臨床では、中年期からLifeʼs Simple 7に含まれる心血管因子を厳格に管理することが老年期の認知症予防につながると考えられる。日本で40~ 74歳の被保険者を対象に行われている特定健康診査には、Lifeʼs Simple 7のうち5項目が含まれており、メタボリックシンドロームのみならず、老年期の認知症の予防にも結びつく可能性が示唆される。 1. AHA Life's Simple 7 ウエブサイト(https://bit.ly/2Nl4MHJ)
肉食者、魚食者、菜食者における18年間の追跡調査での虚血性心疾患および脳卒中のリスク:前向きEPIC-Oxford研究の結果。
肉食者、魚食者、菜食者における18年間の追跡調査での虚血性心疾患および脳卒中のリスク:前向きEPIC-Oxford研究の結果。
Risks of ischaemic heart disease and stroke in meat eaters, fish eaters, and vegetarians over 18 years of follow-up: results from the prospective EPIC-Oxford study BMJ 2019 Sep 4 ;366:l4897 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】菜食主義と虚血性心疾患および脳卒中のリスクとの関連を検討する。 【デザイン】前向きコホート研究。 【設定】非肉食者の割合が多い英国のコホートであるEPIC-Oxford研究は、1993年から2001年にかけて英国全土で募集した。 【参加者】虚血性心疾患、脳卒中、狭心症(または心血管疾患)の既往がない188名の参加者は、ベースライン時およびその後の2010年頃に収集した食事情報に基づいて、肉食者(魚、乳製品、卵を摂取するかどうかに関わらず肉を摂取する参加者、n=24 428)、魚食者(魚を摂取するが肉を食べない、n=7506)、菜食主義者を含む菜食者(n=16 254)の異なる3食グループに区分されました(n=28 364)。 【主要評価項目】2016年までの記録連結により特定された虚血性心疾患および脳卒中(虚血型および出血型を含む)の発症例。 【結果】18.1年間の追跡で虚血性心疾患2820例、全脳卒中1072例(虚血性脳卒中519例、出血性脳卒中300例)が記録された。社会人口学的およびライフスタイルの交絡因子で調整した後、魚食者と菜食者は肉食者に比べて虚血性心疾患の発生率がそれぞれ13%(ハザード比0.87、95%信頼区間0.77~0.99)および22%(0.78、0.70~0.87)低かった(不均一性についてはP<0.001)。この差は,10 年間で人口 1000 人当たりの虚血性心疾患の症例数が,肉食者よりもベジタリアンの方が 10 人少ない(95%信頼区間 6.7~13.1 人少ない)ことに相当する.虚血性心疾患との関連は、自己申告の高血中コレステロール、高血圧、糖尿病、肥満度を調整すると一部弱まった(すべての調整でベジタリアンのハザード比 0.90、95%信頼区間 0.81~1.00 )。一方、ベジタリアンは肉食の人に比べて脳卒中の発症率が20%高く(ハザード比1.20、95%信頼区間1.02~1.40)、これは10年間で人口1000人あたり3人多い(95%信頼区間0.8~5.4多い)ことに相当し、ほとんどが出血性脳卒中の発症率が高いためであった。脳卒中の関連は、疾患の危険因子をさらに調整しても減衰しなかった。 【結論】英国におけるこの前向きコホートでは、魚食者と菜食者は肉食者よりも虚血性心疾患の割合が低かったが、菜食者は出血性脳卒中と全脳卒中の割合が高かった。 第一人者の医師による解説 肥満、高血圧、糖尿病は少なく LDLコレステロールの低値が影響か 的場 圭一郎1 /宇都宮 一典2 東京慈恵会医科大学 1)内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科講師 2)総合健診・予防医学センターセンター長(臨床専任教授) MMJ.February 2020;16(1) 近年の健康志向の高まりや動物福祉の観点から、 菜食者は世界的に増加している。菜食者における虚血性心疾患の発症リスクは非菜食者に比べて低いと考えられているが、これに関する大規模かつ前向きな研究は限られている。また、脳卒中リスクとの関連性についてはこれまでエビデンスがない。 本論文は、英国 Oxford大学のTongらが、同国コホート(EPIC-Oxford)における虚血性心疾患・脳卒中・狭心症の既往がない参加者48,188人を対象に、虚血性心疾患と脳卒中のリスクを調べた長 期前向き観察研究の報告である。研究開始時(1993 ~2001年)と2010年前後での食習慣に基づき、 対象者を①魚、乳製品または卵の摂取を問わず、肉を摂取する肉食群、②魚は摂取するが肉は摂取しない魚食群、③完全菜食主義者(vegan)を含む菜食群に分け、虚血性心疾患および脳卒中の発症につ いて検討した。 その結果、肉食群と比較して、虚血性心疾患の発症リスクは魚食群で13%低下、菜食群では22% 低下した。しかし、菜食群では脳卒中の発症リスクが20%上昇しており、これは主に脳出血の増加が原因であった。 肉食群に比べて、菜食群と魚食群で虚血性心疾患 が少なかった背景には、これら2群において肥満 や高血圧、脂質異常症、糖尿病が少なかったことが 関連していると思われる。一方、脳出血が菜食群で多い理由として、LDLコレステロールの低値や動物性食品に含まれる何らかの成分の不足を著者らは 想定している。EPIC-Oxfordコホートの菜食者では 血中のビタミン B12やビタミン D、必須アミノ酸、 n-3系多価不飽和脂肪酸が低値であり、脳出血増加との関連性が示唆される。しかし、人種を問わず同じ傾向がみられるか否かは不明であり、背景因子の解明にはさらなる検討が必要である。
食事脂肪の質と2型糖尿病の遺伝的リスク:個人参加者データのメタアナリシス。
食事脂肪の質と2型糖尿病の遺伝的リスク:個人参加者データのメタアナリシス。
Quality of dietary fat and genetic risk of type 2 diabetes: individual participant data meta-analysis BMJ 2019 ;366:l4292 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】2型糖尿病の遺伝的負担が、食事脂肪の質と2型糖尿病発症率との関連を修飾するかどうかを調査する。 【デザイン】個々の参加者データのメタ解析。 【データ入手元】適格な前向きコホート研究は、主要医学データベース(Medline、Embase、Scopus)の電子検索及び研究者との議論を通じて1970年1月から2017年2月に発表された研究中から系統的に調達された。[レビュー 【方法】ゲノムワイド遺伝子データが利用可能なコホート研究またはマルチコホートコンソーシアムから、ヨーロッパ系の参加者における食事脂肪の質と2型糖尿病の発生率に関するデータを探した。5年以上経過した前向きコホート研究が対象となった。2型糖尿病の遺伝的リスクプロファイルは、公表されている効果量によって重み付けされた68変量の多遺伝子リスクスコアによって特徴づけられた。食事は、有効なコホート特異的食事評価ツールを用いて記録された。 【結果】15の前向きコホート研究からの102 305人の参加者のうち、中央値12年(四分位範囲9.4~14.2)のフォローアップ後に2型糖尿病2例が記録された。多遺伝子リスクスコアのリスクアレルが10増加するごとの2型糖尿病のハザード比は1.64(95%信頼区間1.54~1.75,I2=7.1%,τ2=0.003)であった。炭水化物の代わりに多価不飽和脂肪と総オメガ6多価不飽和脂肪の摂取量を増やすことは、2型糖尿病のリスク低下と関連し、ハザード比は0.90(0.82~0.98、I2=18.0%、τ2=0.006;エネルギー5%当たり)、0.99(0.97~1.00、I2=58.8%、τ2=0.001:1g/日の増加あたり)であった。炭水化物の代わりに一価不飽和脂肪を増やすと、2型糖尿病のリスクが高くなった(ハザード比1.10、95%信頼区間1.01~1.19、I2=25.9、τ2=0.006、エネルギー5%当たり)。多価不飽和脂肪と2型糖尿病リスクとの全体的な関連については、研究効果が小さいという証拠が検出されたが、オメガ6多価不飽和脂肪および一価不飽和脂肪との関連については検出されなかった。2型糖尿病リスクに関する食事脂肪と多遺伝子リスクスコアとの有意な相互作用(相互作用についてはP>0.05)は認められなかった。 【結論】これらのデータは、遺伝的負担と食事脂肪の質がそれぞれ2型糖尿病の発症と関連していることを示すものである。この知見は、2型糖尿病の一次予防のために、食事脂肪の質に関する推奨を個々の2型糖尿病遺伝子リスクプロファイルに合わせることを支持せず、食事脂肪は2型糖尿病遺伝子リスクの範囲にわたって2型糖尿病リスクと関連することを示唆している。 第一人者の医師による解説 牛脂、豚脂にも多い単価不飽和脂肪酸 どの食材から摂取したかが重要 柳川 達生 練馬総合病院内科・副院長、医療の質向上研究所・主任研究員 MMJ.February 2020;16(1) 本論文は、2型糖尿病発症と既知のリスク遺伝子および脂肪酸量・質との関連を検討したメタ解析の報告である。主要医療データベース検索(1970 ~2017年)により、北米・欧州系102,350人のデータが収集された。68の2型糖尿病リスク遺伝子を選定、それぞれの相対的効果で重み付けし遺伝要因をスコア化している。 食事は半定量的食品頻度調査などから、脂肪酸別の摂取量をベースラインと累積平均で算出。交絡因子で補正後、以下の項目で糖尿病発症リスクが評価された:(1)遺伝要因 のリスクスコア値との関連(2)炭水化物を減らして等カロリーの総脂肪または各種脂肪酸に置換(3) 脂肪酸の種類と遺伝子リスクスコアの相互作用。 追跡期間中央値12年 で20,015人 が2型糖尿病を発症し、主な結果は以下のとおりであった:(1) 遺伝子リスクスコア 10ポイント増加あたりの発症ハザード比(HR)は1.64、(2)炭水化物を総多価不飽和脂肪酸(ほぼω3[エイコサペンタエン酸、 ドコサヘキサエン酸など]とω6[リノール酸など]) あるいはω6多価不飽和脂肪酸で等カロリー置換 した場合のHRはそれぞれ0.90と0.99、(3)炭水化物を総単価不飽和脂肪酸で等カロリー置換した場合のHRは1.10、(4)脂肪酸と遺伝子リスクスコアに相互作用はなかった。 これらの結果を解釈すると、炭水化物を総多価不飽和脂肪酸(ほぼω3とω6)に置換するとリスクが低下するが、ω6脂肪酸の影響はニュートラルであったことから、ω3脂肪酸のリスク低減寄与が大きいことが示唆される。 一方、炭水化物を単価不飽和脂肪酸(主にω9[オレイン酸など])に置換すると発症リスクは上昇するが、ω9の由来する食材の影響が重要であると考える。牛脂、豚脂は50%弱 がω9脂肪酸で、飽和脂肪酸は30 ~ 40%である。 オリーブ油は80%弱がω9である。地中海地域であれば、オリーブ油などからのω9摂取割合が高い[1]。 今回のメタ解析に含まれた研究は非地中海諸国によるもので、肉類などがω9の主な供給源と考えられる。肉過剰摂取は発症リスクである[2]。どの食材からω9を摂取しているかが重要である。 脂肪酸の種類と遺伝要因の相互作用は認められなかったが、アルコール脱水素酵素の遺伝子型は代謝に影響するのと同様に、脂肪酸代謝に影響する遺伝子型が糖尿病発症に影響する可能性はありえる。また、食事調査では加工食品などの主要油脂であるパーム油(脂肪酸組成はほぼ牛脂)のデータが 反映されているか疑問である。世界で最も消費されている植物油であり影響は大きい。 1. 柳川達生 . 月刊糖尿病「地中海食の応用と糖尿病の管理」. 2019; 11(5): 74-79. 2.Feskens EJ et al. Curr Diab Rep. 2013 Apr. 13(2):298-306
高糖度スナックの20%値上げが英国における肥満の有病率に与える潜在的影響:モデル化研究。
高糖度スナックの20%値上げが英国における肥満の有病率に与える潜在的影響:モデル化研究。
Potential impact on prevalence of obesity in the UK of a 20% price increase in high sugar snacks: modelling study BMJ 2019 ;366 :l4786 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】高糖度スナックの20%値上げが肥満度指数(BMI)と肥満の有病率に与える潜在的影響を推定する。 【デザイン】モデル化研究。 【対象】英国の一般成人人口。 【参加者】英国のKantar FMCG(fast moving consumer goods)パネルから製品レベルの家庭支出に関するデータを有する324世帯、2012年1月から2013年12月まで。データを用いて、高糖度スナックの20%値上げに伴うエネルギー(kcal、1kcal=4.18kJ=0.00418MJ)購入量の変化を推定した。National Diet and Nutrition Survey(2012~16年)の第5~8波の成人2544人のデータを用いて、BMIと肥満の有病率の変化を推定した。 【主要アウトカム指標】高糖質スナックの3カテゴリー(菓子類(チョコレート含む)、ビスケット、ケーキ)の20%の値上げが、1人当たりの家庭用エネルギー購入に及ぼす影響について。値上げによる健康アウトカムは、体重、BMI(過体重ではない(BMI<25)、過体重(BMI≧25および<30)、肥満(BMI≧30))、および肥満の有病率の変化として測定された。結果は、世帯収入とBMIで層別化した。 【結果】収入グループを合わせた場合、高糖質スナックの20%価格上昇に対するエネルギー消費の平均減少量は8.9×103 kcal(95%信頼区間の-13.1×103~-4.2×103 kcal)と推算された。静的減量モデルを用いると,BMIはすべてのカテゴリーと所得グループにわたって平均0.53(95%信頼区間-1.01~-0.06)減少すると推定された.この変化により,1年後の英国における肥満の有病率は2.7%ポイント(95%信頼区間-3.7~-1.7%ポイント)減少する可能性がある.高糖度スナックの20%値上げがエネルギー購入に与える影響は、肥満と分類される低所得世帯で最も大きく、太り過ぎではないと分類される高所得世帯で最も小さかった。 【結論】高糖度スナックを20%値上げすると、エネルギー摂取、BMI、肥満の有病率を減少させることができた。この知見は、英国の文脈におけるものであり、砂糖入り飲料の同様の値上げについてモデル化されたものの2倍であった。 第一人者の医師による解説 肥満対策としての砂糖入り菓子への課税 選択肢として浮上 久保田 康彦 大阪がん循環器病予防センター/磯 博康 大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学 MMJ.February 2020;16(1) 砂糖の多い菓子を20%値上げすることで、値上げ翌年の肥満者の割合が2.7%低下する可能性が、 今回報告された英国のモデル研究で示された。 この40年間で世界の肥満者の割合は3倍にも上昇し(1)、世界中で肥満対策が進められている。砂糖は肥満の最も重要な危険因子の1つであり、肥満対策の1つとして、砂糖の主な摂取源と考えられる 清涼飲料水に対する課税がメキシコ、ハンガリー、 フィンランドなどで導入されてきた。その結果、清涼飲料水の購入量が減少し、世界保健機関(WHO) も砂糖入り清涼飲料水に対する課税を推奨してい る。しかしながら、英国では清涼飲料水よりも菓子の方が砂糖の摂取源として多いため、砂糖入り菓子の値上げがどの程度肥満解消につながるかは、 同国内の今後の肥満対策案を立てるためにも重要な研究となる。   本研究では、UK Kantar社(英国のマーケティン グ企業)が所有する商品ごとの家計支出や摂取エ ネルギー量などに関するデータ(対象:36,324世帯、期間:2012年1月~ 13年12月)と国民栄養 調査データ(対象:2,544人、期間:2012年~16年) を用いて行われた。前者を用いて需要の価格弾力 性(PED)を計算し、消費エネルギー変化を推定した。 さらに後者を用いて消費エネルギー変化に伴う体格指数(BMI)の変化を推定した。 砂糖入り菓子の価格を20%上げることで、平均で年間8,900kcal分の摂取エネルギーが減少すると推定された。BMIはそれに伴い0.53 kg/m2 低下すると推定された。このBMI低下は、英国における肥満者が2.7%減少することに相当する。価格上昇による摂取エネルギー減少度が最も大きかったグループは肥満かつ低収入群で、最も小さかったグループは非肥満かつ高収入群であった。砂糖入り飲料水に関しても同様の検討を行ったが、20% 価格上昇の効果は砂糖入り菓子の半分であった。 本研究の結果は肥満対策として砂糖入り菓子に対する増税の根拠となりうる。砂糖入り菓子に対 する増税は、食事に関する健康格差是正に貢献する可能性があり、政策評価に関するさらなる研究が望まれる。 1. World Health Organization. Obesity and Overweight URL:https://bit.ly/2ZYPfmo
股関節骨折緊急手術における心筋傷害に対する遠隔虚血性プレコンディショニングの効果(PIXIE試験):第Ⅱ相無作為化臨床試験。
股関節骨折緊急手術における心筋傷害に対する遠隔虚血性プレコンディショニングの効果(PIXIE試験):第Ⅱ相無作為化臨床試験。
The effect of remote ischaemic preconditioning on myocardial injury in emergency hip fracture surgery (PIXIE trial): phase II randomised clinical trial BMJ 2019 Dec 4;367:l6395. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】股関節骨折手術を受ける患者において遠隔虚血プレコンディショニング(RIPC)が心筋損傷を予防するかどうかを検討する。 【デザイン】第II相、多施設、無作為化、観察者盲検、臨床試験。 【設定】デンマークの3大学病院、2015-17。 【参加者】股関節骨折手術を受ける心血管リスク因子保有患者648人。286名がRIPCに、287名が標準診療(対照群)に割り付けられた。 【介入】RIPC手順は、手術前に上腕に止血帯を装着して開始され、5分間の前腕虚血と5分間の再灌流の4サイクルからなる。 【MAIN OUTCOME MEASURES】Original primary outcome is myocardial injury within four days of surgery, defined as a peak plasma cardiac troponin I concentration of 45 ng/L or more caused by ischaemia.当初のkey outcomeは、手術後4日以内の心筋損傷とした。修正後の主要転帰は、血漿中ピーク心筋トロポニンI濃度が45ng/L以上または高感度トロポニンIが24ng/L以上と定義された術後4日以内の心筋損傷とした(主要転帰は検査の都合により変更された)。副次的転帰は,術後最初の 4 日間の血漿トロポニン I のピーク値とトロポニン I の総発現量(心臓トロポニン I と高感度トロポニン I),周術期の心筋梗塞,主要有害事象,術後 30 日以内の全死因死亡,術後滞在期間,集中治療室での滞在期間であった.いくつかの予定された副次的アウトカムは別の場所で報告される。 【結果】無作為化された648例のうち573例がintention-to-treat解析に含まれた(平均年齢79(SD 10)歳、399例(70%)が女性)。主要転帰はRIPC群168例中25例(15%),対照群158例中45例(28%)で発生した(オッズ比0.44,95%信頼区間0.25~0.76,P=0.003)。修正主要転帰は,RIPC 群では 286 例中 57 例(20%),対照群では 287 例中 90 例(31%)で発生した(0.55, 0.37~0.80;P=0.002).心筋梗塞はRIPC群10例(3%)と対照群21例(7%)に発生した(0.46, 0.21~0.99; P=0.04)。他の臨床的二次アウトカム(主要有害心血管イベント、30日全死亡、術後滞在期間、集中治療室滞在期間)の群間差について確固たる結論を出すには統計力が不十分であった。 【結論】RIPCは緊急股関節骨折手術後の心筋損傷および梗塞のリスクを低減させた。RIPCが手術後の主要な有害心血管イベントを全体的に予防すると結論づけることはできない。この知見は、より長期の臨床転帰と死亡率を評価するための大規模な臨床試験を支持するものである。 【TRIAL REGISTRATION】ClinicalTrials. gov NCT02344797。 第一人者の医師による解説 簡便で安全な処置による効果で意義深い より大規模な検証を期待 阪本 英二 国立循環器病研究センター研究所血管生理学部血管機能研究室室長 MMJ.April 2020;16(2) 全世界で年間2億人以上の人が心血管系以外の手術を受けており、その合併症は7~11%である(1) 。また、その術後30日内の死亡は0.8~1.5%(1)で、少なくとも3分の1は心血管系の合併症が原因である。心臓以外の手術において虚血が原因で起こる心筋障害(myocardial injury in non-cardiac surgery;MINS)は術後30日内に起こり、重要な予後決定因子であるが、それに対する有効な予防策は確立されていない。本論文は、股関節骨折手術において、直前に前腕に巻いたマンシェットで遠隔性の虚血プレコンディショニング(RIPC)を行った場合、術後の予後改善に対する効果を解析した、 多施設共同ランダム化第 II相臨床試験(PIXIE試験)の報告である。 本試験では、2015年2月~17年9月に股関節骨折手術を受けたデンマーク人をRIPC群(286人)と対照群(287人)にランダムに割り付けて心筋障害の発生率が比較された。RIPCは手術直前に5 分間の虚血と5分間の再灌流を4回繰り返すことでなされ、術前および術後4日以内に血中トロポニン I値が測定された。主要評価項目として、術後の血中トロポニン I値が基準値(心筋型トロポニン Iの場合は45ng/L、高感度トロポニン Iの場合は 24ng/L)以上の場合にMINSとし、それが虚血性であるか否かを心電図で判定した。また、副次評価項目は、トロポニン Iのピーク値と総放出量(AUC)、 術後30日以内の心筋梗塞、死には至らないが重篤な心血管系イベント、術後入院期間、集中治療室 (ICU)滞在期間、そして術後30日時点のあらゆる 原因の死亡とした。 結果であるが、主要評価項目である虚血性の血中トロポニン I値の上昇は、RIPC群では57人(20%)、対照群では90人(31%)で発生した(オッズ比[OR], 0.55;95% CI, 0.37~ 0.80;P=0.002)。副次評価項目では、術後30 日以内の心筋梗塞がRIPC群では10人(3%)、対照群では21人(7%)で発生した(OR, 0.46;95% CI, 0.21~0.99;P=0.04)。それ以外の副次評価項目に有意差は認められなかった。 本試験は、RIPCという簡便で安全な処置によって、股関節術後のMINSならびに心筋梗塞を有意に減少させた点で意義深い。ただし、対象患者全体の70%が女性で平均年齢が79歳と偏りもみられるため、今後のより大規模な研究でさらなる検討が待たれる。さらに、RIPCは今回の股関節骨折手術のみでなく、他の心血管系以外の手術においても術後のMINSならびに心筋梗塞に対する予防効果があるかは興味深く、今後の研究が期待される。 1. Haynes AB et al. N Engl J Med. 2009;360(5):491-499.
英国の国民保健サービスのパフォーマンスと他の高所得国との比較:観察的研究。
英国の国民保健サービスのパフォーマンスと他の高所得国との比較:観察的研究。
Performance of UK National Health Service compared with other high income countries: observational study BMJ 2019 Nov 27 ;367:l6326 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】英国国民保健サービス(NHS)は、持続的な財政圧迫、需要の増加、社会的ケアの削減に直面していることから、他の高所得国の医療制度と比較してどのように機能しているかを明らかにする。 【デザイン】ユーロスタットや経済協力開発機構などの主要国際機関の二次データを用いた観察研究 【設定】英国および高所得比較対象9か国の医療制度。 【主なアウトカム指標】人口と医療保障、医療と社会支出、構造的能力、利用、医療へのアクセス、医療の質、人口の健康という7つの領域にわたる79指標。 【結果】英国は2017年に調査した他のすべての国と比較して、一人当たりの医療費が最も少なく(英国3825ドル(2972円、3392ユーロ)、平均5700ドル)、支出の伸びはやや低かった(過去4年間の国内総生産比は平均0.07%に対し、0.02%)。英国は、利用率(入院数)が平均レベルであるにもかかわらず、アンメットニーズが最も低く、一人当たりの医師と看護師の数も最低レベルであった。英国は平均寿命(平均 81.7 歳に対し 81.3 歳)と乳がん、子宮頸がん、結腸がん、直腸がんなどのがんの生存率が平均をわずかに下回っていた。腹部手術後の術後敗血症(10万人退院あたり英国2454人、平均2058人)、急性心筋梗塞の30日死亡率(英国7.1%、平均5.5%)、虚血性脳炎(英国9.6%、平均6.6%)など、いくつかの医療サービスのアウトカムが悪かったが、英国は、平均を下回っていた。6%)、関節手術後の深部静脈血栓症は平均より低く、医療関連感染も少なかった。 【結論】NHSは、医療サービスの成果を含め、良好なパフォーマンスを示しているが、支出、患者の安全、国民の健康はすべて平均以下からせいぜい平均であった。これらの結果を総合すると、NHSが人口動態の圧力が高まっているときに同等の健康成果を達成したいのであれば、労働力と長期ケアの供給を増やすためにもっと支出し、社会支出の減少傾向を減らして比較対象国の水準に合わせる必要があるかもしれないことが示唆される。 第一人者の医師による解説 医療従事者確保や介護へさらに資金を投入しなければ 公共医療システム維持は困難 西岡 祐一(助教)/今村 知明(教授) 奈良県立医科大学公衆衛生学講座 MMJ.April 2020;16(2) 英国の英国保健サービス(UK National Health Service;NHS)は1948年に設立された世界で 最も包括的な公共医療システムの1つである(1)。近年 NHSは「患者の需要を満たす」「費用の負担を減 らす」という2つの相反する問題に直面している。 世界のあらゆるヘルスケアサービスが同じ問題に直面しており、患者の需要と医療・介護費用のバランスは難しい。実際、英国では2010年から17年までのヘルスケアの需要増大に比較し、費用の負 担は増えていないと言われている(2)。英国の現状と目指すべき方向性を提案するために、著者らは、NHSと高所得国、経済協力開発機構(OECD)加盟国35カ国、欧州連合(EU)加盟国28カ国のヘルス ケアデータを用いて医療費、アクセス、質、予後などさまざまな指標について記述疫学研究を実施した。 英国の1人当たりの医療費は高所得国で最も低く、 OECDやEUの平均程度であった。英国の平均寿命、さまざまな悪性腫瘍の5年生存率は、高所得国の平均よりやや低い傾向にあった。関節手術後の深部静脈血栓症や医療関連感染症の発生率は高所得国の平均より低かったが、健康指標水準は高所得国で最も悪く、さらに過去10年間で増悪傾向であった。 また、英国ではEU国籍の医療従事者が2015年以降急速に減少している。英国のEU離脱に関連していると考えられているが、特に人口当たりの看護師数は急速に減少している。このように社会情勢の変化も相まって、このままでは英国が他の高所 得国と同じレベルの公共医療システムを維持できなくなる可能性がある。 NHSが他の高所得国と同等の健康指標水準を達成するために、あるいは健康指標の悪化に歯止めをかけるためには、人口当たりの医師数、看護師数や介護費用など他の国と比べて低い水準にあるもの、健康指標が悪化しているものに積極的に資金を投入していく必要がある。 本研究は、他国との比較により英国の現状や指標の推移を明らかにしただけでなく、データに基づいた政策提言を行った。さらに、英国のEU離脱など予測困難な社会情勢の変化により、ヘルスケアサービスが影響を受けたことを示唆する有用な分析例である(3)。ただし、本研究では独立して設定・運営されている英国の4つの構成国(イングランド、 スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)の全体を集計しており、構成国間で差がある可能性 もあり、解釈には注意が必要である。引き続き、ヘルスケア関連のデータベースを用いた疫学研究が増加し、医学のさらなる発展につながることを期待したい。 1. Klein R et al. N Engl J Med. 2004;350(9):937-942. 2. Mossialos E et al. Lancet. 2018;391(10125):1001-1003. 3. Goddard AF et al. JAMA. 2016;316(14):1445-1446.
成人期における体重の変化と全死因および特定原因による死亡率との関係:前向きコホート研究。
成人期における体重の変化と全死因および特定原因による死亡率との関係:前向きコホート研究。
Weight change across adulthood in relation to all cause and cause specific mortality: prospective cohort study BMJ 2019 Oct 16;367:l5584. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】成人期における体重変化と死亡率の関連を検討する。 【デザイン】前向きコホート研究。 【設定】米国国民健康・栄養調査(NHANES)1988~94年および1999~2014年。 【参加者】ベースラインで体重と身長を測定し、若年成人期(25歳)と中年成人期(ベースラインの10年前)の体重を思い出した40歳以上の36051人。 【主要アウトカム指標】ベースラインから2015年12月31日までの全死因および原因別死亡率。 【結果】平均12.3年の追跡期間に10500人が死亡している。標準体重のままの参加者と比較して,若年期から中年期にかけて非肥満から肥満のカテゴリーに移行した参加者は,全死因死亡率および心疾患死亡率のリスクがそれぞれ22%(ハザード比1.22,95%信頼区間1.11~1.33)および49%(1.49,1.21~1.83)高くなることが示された。この期間に肥満から非肥満の体格指数に変化しても、死亡リスクとの有意な関連はなかった。成人期中期から後期にかけての肥満から非肥満への体重変化パターンは、全死因死亡率(1.30、1.16から1.45)および心疾患死亡率(1.48、1.14から1.92)のリスク上昇と関連していたが、この期間に非肥満カテゴリーから肥満に移行しても死亡リスクとは有意な関連はなかった。成人期を通じて肥満を維持することは、一貫して全死因死亡リスクの増加と関連していた;ハザード比は、若年から中年期にかけては1.72(1.52から1.95)、若年から晩年期にかけては1.61(1.41から1.84)、中期から晩年期にかけては1.20(1.09から1.32)であった。最大過体重は、成人期を通じて死亡率との関連が非常に緩やかであるか、あるいは無効であった。様々な体重変化のパターンとがん死亡率との間に有意な関連は認められなかった。 【結論】成人期を通じて安定した肥満、若年期から成人期中期までの体重増加、および成人期中期から後期までの体重減少は、死亡率のリスク増加と関連していた。この知見は、成人期を通じて正常な体重を維持すること、特に成人期初期の体重増加を防ぐことが、その後の人生における早すぎる死亡を防ぐために重要であることを示唆している。 第一人者の医師による解説 成人期を通した正常体重の維持と成人早期での体重増加予防が重要 中神 朋子 東京女子医科大学糖尿病・代謝内科教授 MMJ.April 2020;16(2) 肥満は世界的に重要な公衆衛生問題であり、日本でもライフスタイルの多様化と食文化の欧米化により問題視されている。日本の平成30年の国民栄養調査によると、肥満者(BMI 25 kg/m2以上)の割合は男性32.2%、女性 21.9%で、この10年間で大きな変化はないが、その割合は低くない。 本論文は、1988~94年および1999~2014 年の米国民健康栄養調査(NHANES)の40歳以 上36,051人を対象に死亡リスクと成人期の体 格指数(BMI)の変化を検討した前向きコホート研 究の報告である。平均12.3年の追跡で、10,500 件 の 死亡 が 確認 さ れ た。「 成人早期(25歳時)」、 「成人中期(NHANES登録の10年前)」、「成人後期 (NHANES登録時)」の3時点のBMIを調査し、2時点間のBMI変化と全死亡、原因別死亡のリスクと の関連を解析した。 その結果、正常体重(BMI 25 kg/m2未満)維持群に比べ、成人早期から中期に肥 満(BMI 30.0 kg/m2以上)に移行した群では全 死亡および心疾患死のリスクが上昇したのに対し(それぞれハザード比[HR], 1.22、1.49)、同時期の非肥満(BMI 30.0 kg/m2未満)への移行と死亡 リスクに有意な関連は認められなかった。一方、正常体重維持群に比べ、成人中期から後期に非肥満へ移行した群では、全死亡および心疾患死のリスク は有意に上昇したが(それぞれHR, 1.30、1.48)、 同時期の肥満への移行と死亡リスクに有意な関連はなかった。成人期を通じて肥満維持群では全死亡および心疾患死のリスクに一貫した上昇がみられた。なお、BMI変化とがん死のリスクに関連は認められなかった。 本研究において成人中期から後期に非肥満へ移行した群で全死亡および心疾患死のリスクが上昇したことは印象的である。成人早期から中期への体重増加は主に脂肪量の蓄積を反映すると考えられるが、中期から後期への体重減少は、通常、併存疾患と除脂肪体重の減少および脂肪量の増加を伴うと考えられる(1), (2)。 本研究には、意図的な体重変化、併存疾患などによる意図的ではない体重変化を区別できていない点、人種差など考慮すべき余地があり、この結果が日本人に当てはまるかどうかはまだわからない。しかし、成人期を通じて正常体重を維持すること、特に成人早期の体重増加の予防がその後の早期死亡リスクの抑制において重要であることを示唆しており意義深い。 第39回日本肥満学会で「神戸宣言2018」が採択され、肥満症*対策を領域横断的に推進することが示された。肥満症の撲滅を目指した肥満に対する意識と取り組みは大きく変わりつつあり、目が離せない。 *肥満に起因・関連する健康障害を有する、または健康障害が予想される内臓脂肪が過剰に蓄積し、減量治療を必要とする状態。 1. Fontana L et al. Aging Cell. 2014;13(3):391-400. 2. Ferrucci L et al. Arch Intern Med. 2007;167(8):750-751.
12月の連休期間中の退院後の死亡と再入院:コホート研究。
12月の連休期間中の退院後の死亡と再入院:コホート研究。
Death and readmissions after hospital discharge during the December holiday period: cohort study BMJ 2018 Dec 10 ;363:k4481 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】12月の休暇期間に退院した患者は、他の時期に退院した患者よりも外来でのフォローアップが少なく、死亡や再入院の割合が高いかどうかを明らかにする。 【デザイン】集団ベースの後向きコホート研究。 【設定】カナダ、オンタリオ州の急性期病院、2002年4月1日から2016年1月31日まで。 【参加者】12月の2週間の休暇期間に緊急入院後に自宅退院した小児および成人217 305人と、11月下旬および1月の2つの対照期間に退院した小児および成人453 641人を比較した。 主要アウトカム指標]主要アウトカムは30日以内の死亡または再入院(救急部への受診または緊急再入院として定義)であった。副次的アウトカムは、死亡または再入院、および退院後7日以内と14日以内の医師による外来でのフォローアップであった。一般化推定方程式を用いた多変量ロジスティック回帰により,患者,入院,病院の特徴を調整した。 【結果】休暇期間中に退院した患者217 305(32.4%)と対照期間中に退院した453 641(67.6%)は,ベースラインの特徴や過去の医療利用がほぼ同じであった。休日期間に退院した患者は,退院後7日以内(36.3%v 47.8%,調整オッズ比0.61,95%信頼区間0.60~0.62)および14日以内(59.5%v 68.7%,0.65,0.64~0.66)において医師との経過観察を受けていない傾向が強かった。休暇期間中に退院した患者は、30日目の死亡または再入院のリスクも高かった(25.9% v 24.7%, 1.09, 1.07 to 1.10)。この相対的な増加は、7日目(13.2% v 11.7%, 1.16, 1.14~1.18) と14日目(18.6% v 17.0%, 1.14, 1.12~1.15 )でもみられた。患者10万人あたり,休日期間中の退院に起因する14日以内のフォローアップ予約の減少は2999件,死亡の超過は26件,入院の超過は188件,救急外来の超過は483件だった。 【結論】12月の休日期間中に退院した患者は,外来でのフォローアップが速やかに受けられず,死亡または30日以内の再入院リスクが高くなると考えられる。 第一人者の医師による解説 退院後の外来フォローアップの確実な実施が重要 山口 直人 済生会保健・医療・福祉総合研究所研究部門長 MMJ.August 2019;15(4) 本論文は、カナダ・オンタリオ州で2002年4 月~16年1月に急性期病院に緊急入院した患者の中で、クリスマスから新年までの年末休暇期間(2 週間)に退院した小児・成人患者217,305人(年末休暇中退院群)および、その前後の11月あるいは1月に退院した患者453,641人(対照期間中退 院群)を対象として、退院後の死亡・再入院リスクなどを比較した後ろ向きコホート研究の報告である。ただし、新生児、産科入院、緩和ケア入院、長期 入院(100日超)は除外し、退院後の行き先が介護 施設、リハビリテーション施設などの場合も除外した。統計解析ではロジスティック回帰分析を用いて、 患者、入院、病院の特性で補正している。 年末休暇中退院群において退院後30日以内に死亡・再入院した割合は25.9%で、対照期間中退院群の24.7%と比較して、リスクは1.09倍(95% 信頼区間[CI], 1.07~1.10)と有意に高く、退院後7日以内、14日以内の比較でも同様の傾向であった。また、退院後7日以内に医師による退院後フォローアップを受けた割合は、年末休暇中退院群では 36.3%で、対照期間中退院群の47.8%よりも有意に低く、退院後14日以内の比較でも同様の傾向 であった。 退院後30日以内の死亡・再入院リスクが年末休暇中退院群で高かったことは、この群が退院時点ですでに高リスクであった可能性を示唆するが、実際は逆に低リスクであったことが解析で示されている。したがって、退院後のフォローアップが十分 になされなかったことが死亡・再入院リスクが高くなった原因となっている可能性が考えられる。退院後に医師によるフォローアップを受けた割合が年末休暇中退院群で低かったことが原因となって、 退院後の死亡・再入院リスクを高めたことを示す直接的なエビデンスは、この研究では得られていないが、年末休暇中は医師を中心とした医療スタッフが手薄となることが背景となっていることは十分に考えられる。 また、年末休暇中に退院した患者 の側でも休暇中には医師の受診を控える傾向があった可能性も考えられる。いずれにしても、国全体が長期休暇中に退院させる場合には、退院後のフォローアップが十分になされるように配慮することが必要であるといえよう。わが国では2019年に新天皇の御即位に合わせて10連休という過去に例を見ない長期休暇が実現したが、このような場合に医療機関が考慮すべき事項として重要な示唆を与える研究といえる。