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股関節骨折緊急手術における心筋傷害に対する遠隔虚血性プレコンディショニングの効果(PIXIE試験):第Ⅱ相無作為化臨床試験。
股関節骨折緊急手術における心筋傷害に対する遠隔虚血性プレコンディショニングの効果(PIXIE試験):第Ⅱ相無作為化臨床試験。
The effect of remote ischaemic preconditioning on myocardial injury in emergency hip fracture surgery (PIXIE trial): phase II randomised clinical trial BMJ 2019 Dec 4;367:l6395. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】股関節骨折手術を受ける患者において遠隔虚血プレコンディショニング(RIPC)が心筋損傷を予防するかどうかを検討する。 【デザイン】第II相、多施設、無作為化、観察者盲検、臨床試験。 【設定】デンマークの3大学病院、2015-17。 【参加者】股関節骨折手術を受ける心血管リスク因子保有患者648人。286名がRIPCに、287名が標準診療(対照群)に割り付けられた。 【介入】RIPC手順は、手術前に上腕に止血帯を装着して開始され、5分間の前腕虚血と5分間の再灌流の4サイクルからなる。 【MAIN OUTCOME MEASURES】Original primary outcome is myocardial injury within four days of surgery, defined as a peak plasma cardiac troponin I concentration of 45 ng/L or more caused by ischaemia.当初のkey outcomeは、手術後4日以内の心筋損傷とした。修正後の主要転帰は、血漿中ピーク心筋トロポニンI濃度が45ng/L以上または高感度トロポニンIが24ng/L以上と定義された術後4日以内の心筋損傷とした(主要転帰は検査の都合により変更された)。副次的転帰は,術後最初の 4 日間の血漿トロポニン I のピーク値とトロポニン I の総発現量(心臓トロポニン I と高感度トロポニン I),周術期の心筋梗塞,主要有害事象,術後 30 日以内の全死因死亡,術後滞在期間,集中治療室での滞在期間であった.いくつかの予定された副次的アウトカムは別の場所で報告される。 【結果】無作為化された648例のうち573例がintention-to-treat解析に含まれた(平均年齢79(SD 10)歳、399例(70%)が女性)。主要転帰はRIPC群168例中25例(15%),対照群158例中45例(28%)で発生した(オッズ比0.44,95%信頼区間0.25~0.76,P=0.003)。修正主要転帰は,RIPC 群では 286 例中 57 例(20%),対照群では 287 例中 90 例(31%)で発生した(0.55, 0.37~0.80;P=0.002).心筋梗塞はRIPC群10例(3%)と対照群21例(7%)に発生した(0.46, 0.21~0.99; P=0.04)。他の臨床的二次アウトカム(主要有害心血管イベント、30日全死亡、術後滞在期間、集中治療室滞在期間)の群間差について確固たる結論を出すには統計力が不十分であった。 【結論】RIPCは緊急股関節骨折手術後の心筋損傷および梗塞のリスクを低減させた。RIPCが手術後の主要な有害心血管イベントを全体的に予防すると結論づけることはできない。この知見は、より長期の臨床転帰と死亡率を評価するための大規模な臨床試験を支持するものである。 【TRIAL REGISTRATION】ClinicalTrials. gov NCT02344797。 第一人者の医師による解説 簡便で安全な処置による効果で意義深い より大規模な検証を期待 阪本 英二 国立循環器病研究センター研究所血管生理学部血管機能研究室室長 MMJ.April 2020;16(2) 全世界で年間2億人以上の人が心血管系以外の手術を受けており、その合併症は7~11%である(1) 。また、その術後30日内の死亡は0.8~1.5%(1)で、少なくとも3分の1は心血管系の合併症が原因である。心臓以外の手術において虚血が原因で起こる心筋障害(myocardial injury in non-cardiac surgery;MINS)は術後30日内に起こり、重要な予後決定因子であるが、それに対する有効な予防策は確立されていない。本論文は、股関節骨折手術において、直前に前腕に巻いたマンシェットで遠隔性の虚血プレコンディショニング(RIPC)を行った場合、術後の予後改善に対する効果を解析した、 多施設共同ランダム化第 II相臨床試験(PIXIE試験)の報告である。 本試験では、2015年2月~17年9月に股関節骨折手術を受けたデンマーク人をRIPC群(286人)と対照群(287人)にランダムに割り付けて心筋障害の発生率が比較された。RIPCは手術直前に5 分間の虚血と5分間の再灌流を4回繰り返すことでなされ、術前および術後4日以内に血中トロポニン I値が測定された。主要評価項目として、術後の血中トロポニン I値が基準値(心筋型トロポニン Iの場合は45ng/L、高感度トロポニン Iの場合は 24ng/L)以上の場合にMINSとし、それが虚血性であるか否かを心電図で判定した。また、副次評価項目は、トロポニン Iのピーク値と総放出量(AUC)、 術後30日以内の心筋梗塞、死には至らないが重篤な心血管系イベント、術後入院期間、集中治療室 (ICU)滞在期間、そして術後30日時点のあらゆる 原因の死亡とした。 結果であるが、主要評価項目である虚血性の血中トロポニン I値の上昇は、RIPC群では57人(20%)、対照群では90人(31%)で発生した(オッズ比[OR], 0.55;95% CI, 0.37~ 0.80;P=0.002)。副次評価項目では、術後30 日以内の心筋梗塞がRIPC群では10人(3%)、対照群では21人(7%)で発生した(OR, 0.46;95% CI, 0.21~0.99;P=0.04)。それ以外の副次評価項目に有意差は認められなかった。 本試験は、RIPCという簡便で安全な処置によって、股関節術後のMINSならびに心筋梗塞を有意に減少させた点で意義深い。ただし、対象患者全体の70%が女性で平均年齢が79歳と偏りもみられるため、今後のより大規模な研究でさらなる検討が待たれる。さらに、RIPCは今回の股関節骨折手術のみでなく、他の心血管系以外の手術においても術後のMINSならびに心筋梗塞に対する予防効果があるかは興味深く、今後の研究が期待される。 1. Haynes AB et al. N Engl J Med. 2009;360(5):491-499.