「小児」の記事一覧

#01 医療が人を幸せにしている。その原点に触れられることが最大の楽しみ。
#01 医療が人を幸せにしている。その原点に触れられることが最大の楽しみ。
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 - 専門科:小児科 - 医師歴:7年目 - ジャパンハートでの活動期間:5ヶ月間 ─ 活動地での業務内容・役割を教えてください。 一般小児科外来、小児科病棟管理 ─ ジャパンハートで活動を始めた理由を教えてください。 もともと国際協力に興味がありいつか関わりたいと思っていた。ジャパンハートは参加にあたってのハードル(英語力や臨床経験年数)が低く参加しやすかった。 ─ 参加までのハードルや解決すべき課題など(仕事・お金・家族の説得など) 現地の物価が安く金銭面では思っているほど困らなかった。国内の立場を捨てて海外に飛び出すのは色々と不安があるかと思いますが、現地での経験は帰国後も必ず役立ってくると思いますしなにものにも代えがたい経験ができたと自分は思っているので、全く後悔ありません。自分は家族ができる前に行った方が気持ちが楽だと思って独身のうちに参加しましたが、現地では家族の理解も得て滞在しているスタッフも数多くいました。 ─ 言語・価値観・が違う現地の方々、また駐在している日本の医療者との活動で困ったこと、また工夫などありましたら教えてください。 様々な背景を持った方々と働くことになるので、常に相手の立場を考えること、リスペクトを忘れないこと、は大事だと思います。 ─ 現地で医療をする楽しみはなんですか? 現地の医療は、本当に困っている患者さんに、限られた医療資源でなんとか救いたい、なんとか助けたい、という思いで行う医療です。必死に患者さんと向き合っているうちに、日本では気づかなくなりがちな、医療が人の幸せのために行なっている、という当たり前でシンプルなことにハッと気づかされることと思います。医療の原点に触れられること、それが最大の楽しみだと思います。 ─ 活動地での忘れられないエピソードがあれば教えてください。 エピソードではありませんが、、、現地で出会った人たちとの出会いは本当に掛け替えのない財産です。 ─ 帰国後はどのような活動をされていますか? 僕は出発前に帰国後の職場を決めてから参加しましたが、現地では特に進路を決めることなく参加している人もいらっしゃいました。その方々も帰国後、復職されています。やはり有資格の医療職は復職しやすいと思いますし、縁故採用もまだまだ多いと思うので、思っているよりは復職のことはあまり気にされなくてもいいかもしれません。 ─ 今後の参加者へのアドバイスと、参加を迷われている方へ一言お願いします。 現地での経験は、医療人としてだけではなく一人間としての人生観をも全く新しい境地に連れて行ってくれることと思います。 (ジャパンハート 2019年7月1日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 オンライン相談会を実施中です。「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
#03 必要な経験だと心から思ったなら『一歩を踏み出すこと』。そこからです。
#03 必要な経験だと心から思ったなら『一歩を踏み出すこと』。そこからです。
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 - 専門科(経験科):家庭医 / 救急 / 総合診療 - 医師歴:6年目(2018年4月現在) - ジャパンハートでの活動期間:2018年4月~2019年3月 - 活動地:カンボジア ウドン(拠点)、ラオス パークグム & ウドムサイ、インドネシア スラウェシ島 ─ 活動地での業務内容・役割を教えてください。 カンボジアウドンにあるジャパンハート子ども医療センターでは成人患者さんの診療も行っています。 僕の役割は主に成人病棟に於ける外来患者さん、入院患者さんの診療、カンボジア人医師の教育(と言いましても、僕自身わからないことも多く、共に学び合う同僚という感覚でした。)、院長不在時の成人病棟のマネージメント全般(診療マニュアル作りや他スタッフとの調整など)でした。時に手術の際に麻酔医や助手の役割を担ったりということもありました。 その他、これはそこにいる誰もが担うことですが、ガーゼなどの診療に必要な物品を作ったりという様なことも行いました。現場で必要なことに関しては、基本的に自分にできることはやる!できないこともその場で学んでやる!という感じでした!また、院外での市民、学生向けのBLS講習や他施設の見学、他国への派遣(ラオスでの短期の外来診療、インドネシアへの災害救護支援など)もありました。 他、個人的にクラウドファンディングに挑戦して、オリジナル手洗いソングを制作し(こちらから聞けます!)、地域の子ども達への衛生教育を目的とした手洗いイベントを開催したり、カンボジアという国についてもっと知るために、『Cambodia Meetup』という異業種交流会を後半半年で毎月開催したり、カンボジア全土でBLSの認知度を上げるために、アニメーション制作会社と連携して、カンボジアオリジナルのBLSに関するアニメーションを制作したり、自分の課題意識に対して、解決するために何ができるかを考えながら、色々な活動を行いました。もちろん限られた時間の中で課題解決までには至りませんでしたが、院内で手洗い習慣を築けたり、今後の自分自身の活動にもつながりました。 ─ ジャパンハートで活動を始めた理由を教えてください。 きっかけは実にシンプルで、2017年3月にとある飲み会の場で『一回、途上国に行ってみたら良いと思うよ!』とある先生から言って頂いた事でした。 その瞬間『今行かなければいけない!』という想いが溢れたため、その日に行く事を決めました!ジャパンハートを知ったのはその先生がジャパンハート長期ボランティア経験者だったからです!偶然というか必然というか!そこから出発までの準備期間の1年間に色々と考える中で、ボランティアへの参加に期待する様になったことは『日本における”当り前”がない環境で、医師として、人として、患者さんや家族、地域、その国のために自分に何ができるのかを体感したい』『経済的な格差=命の格差となる状況がどういう状況なのか、自分自身で体感してみたい』という2つのことでした。 ─ 参加までのハードルや解決すべき課題など(仕事・お金・家族の説得など) 1番のハードルは『一歩を踏み出すこと』だと思います。もちろん、お金の面や仕事の面、家族の説得もとても大切です。僕の場合、既婚なのですが、妻に決意を述べたところ2秒で了承してくれるという恵まれた環境ではありましたが。仕事は辞めて、無給で参加しました。それでも、参加してしまえば何とかなります。 言語なども含め、不安を上げ始めればきりがないですし、その準備ができるのを待っていると、時間は刻一刻と過ぎてしまい、結局、行けなかったということになります。自分の今後にとって必要な経験だと心から思ったならば、事前準備以上に後先考えずに一歩を踏み出すということが一番大切かもしれません。 ─ 言語・価値観・が違う現地の方々、また駐在している日本の医療者との活動で困ったこと、また工夫などありましたら教えてください。 僕の場合は、人間関係で困ったのは現地スタッフよりも駐在している日本人スタッフとだった様に思います。 困ったと言うよりも僕自身の非であり反省点です。理解しているつもりでしたが、どこかで同じ日本人だから同じ価値観や課題意識を持っていると思い込んでしまい、また、1年という限られた時間に焦りを覚え、自分の課題意識や想いを一方的に押しつける様な事をしてしまいました。自分よりも長く滞在して、本当の意味で現地に貢献すべく日々奮闘している先輩達に対してです。 結果、現場の空気を乱してしまいました。関係性を再構築するためにスタッフ一人一人との『コミュニケーション』をより意識的に行いました。それを通して、現場の課題やニーズ、スタッフ一人一人の想いなどを知る事ができ、自分がどうあるべきなのかが見えた様に思います。 その経験から何をするでも現場の『ニーズ』をまず第一に大切にしないと、それは独り善がりなことであり、現場にとって迷惑でしかないことになり得るという事を理解しました。『自分』ではなく、『相手』を第一に考える事がとても大切であり、それは、途上国支援だけでなく、国内における活動に於いても言える事だと思います。この経験も僕にとって大きな学びとなりました。 カンボジア人スタッフとはそもそも宗教や言語、価値観も違い、わからない事だらけだという前提で心がけていたので、初めからコミュニケーションを密にとることを意識していました。わからないことはきちんと聞く。そうするとみんなとても親切に教えてくれます。それを通して信頼関係も築いて行けたと思います。その中でも特に価値観や環境という部分での違いに関しては、たとえそれが日本ではありえない事であったとしても、自分たちの価値観を押し付けるのではなく、現地の考えを受け入れる、そこに順応する事を意識しました。 もちろん良くできる部分は一緒に良くできるように働きかけますが、あくまでも『自分たちは今、日本ではなく、カンボジアにいる』という事を意識しました。もう1つ言うなら、自分たちは一時的にそこにいるだけの異国の人間であり、今後、カンボジアに直接的に貢献していくのはカンボジア人スタッフであり、継続的な支援のためにも、自分の利益の為に、カンボジア人スタッフの機会を奪う様なことはしないと言う事を意識しました。 僕が自分1人で好き勝手に診療するだけでは、自分がいなくなった後に、同じ質の医療を維持することは難しくなります。なので、必ず、カンボジア人医師と一緒にというのを意識しました。実際には、それも初めての事で上手く行ったり上手くいかなかったりで反省するところが多いのですが。 ─ 現地で医療をする楽しみはなんですか? 『人』を専門とする身としては 1. 日本では経験できない様な疾患、状態の患者さんの診療ができること 2. 限られた人材しかいないため、専門に関係なく、全ての患者さんを診療できること 3. 限られた資源の中での診療となるため、自分の五感やアイデアを駆使して診療を行うことが求められること(アイデアに限界はない。) 4. 日本とは全く違う環境で暮らしている人々を相手にするため、日本の地域医療以上に社会背景や価値観を意識した全人的な医療提供が求められること 5. 様々な価値観を持ったスタッフと一緒に活動ができること が、途上国診療を経験する上での醍醐味だった様に感じます。 途上国での医療は究極の地域医療でした。 ─ 活動地での忘れられないエピソードがあれば教えてください。 1年という期間での経験は、とても多彩で色濃く、忘れられないエピソードは挙げ始めればきりがないのですが、強いて一つ選ぶとしたら、カンボジアという国で1人の患者さんを病院で看取った経験です。 カンボジアでは宗教柄か、人々の間で病院で死ぬことが良しとされない様です。病院で亡くなってしまった場合、ご遺体を自宅へ連れて帰ると、死者を村や家に招き入れたと考えられ、不吉なこととされるそうです。その為、多くの患者さんや家族が、治療を行なっても助かる見込みがないのであれば、生きてる内に自宅に連れて帰りたいと希望されます。その為、治療できる可能性がまだゼロでなくても、治療を途中で止めて、自宅に帰るのを見送らなければいけないことも沢山ありました。それは赤ちゃんからおじいちゃん、おばあちゃんまで例外なくです。 医療者としては、もっと当院で治療できたのではないか、もう少し続けていたら良くなったかもしれない、などといった想いはどうしても残ってしまいます。 帰宅を見送る時はいつも力及ばず、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。 しかし、何よりも患者さん、そして家族の「価値観」を優先すべきでありその見定めの時期は逃さない様にしないといけないと思っています。そんな中、僕たちの病院で最期の時まで診て欲しいと言ってくれた患者さんが1人だけいました。 その女性は37歳という若さでこの世を去りました。 元々プノンペンの大きな病院で原因不明の重症慢性心不全で治療を受けていた彼女ですが、経済的に治療費を払えなくなり、治療中断となってしまいました。 ある時、呼吸状態が悪くなったため、僕たちの病院を訪れました。その時点で、全身状態が良くないのはもちろんですが、それ以上に精神的にも疲弊していました。医療に対しても不信感が募っていたと思います。スタッフの献身的なケアの甲斐あって、順調に回復、退院することができました。 その後も、定期的に外来通院してくださり、その度にお礼にと、たくさんの物を病院に持ってきてくださいました。いつも笑顔いっぱいで受診してくれる彼女に、僕の方が癒されていました。一時は落ち着いている様に思われた彼女でしたが、ある日急変し、緊急受診されました。ただ、厳しい状態であることは間違いなく、医療資源、マンパワーの乏しい僕たちの病院では対応が難しい状態でした。大きな病院への転院または最後を自宅で過ごしたいという希望がある場合には早い時点での自宅への帰宅を本人と旦那さんに提案させて頂きました。しかし、彼女、そして家族の希望は「ここで最期まで診て欲しい。ここにいたい。」ということでした。 カンボジアでの価値観を理解しているからこそ、医療者としてどれ程光栄なことか、その言葉の意味するところを強く感じました。 その日の夜に、僕と夜勤看護師さんの目の前で彼女は息を引き取りました。 側で眠っていた家族に声をかけ、2018年7月9日04時55分。彼女の最後の時を見届けさせて頂きました。旦那さんの許可を頂き、スタッフ10数名でお葬式に参列させて頂きました。 お葬式は自宅で催されました。実際にご家庭を見せて頂くことで、家族の生活の様子が脳裏に浮かび、お葬式の間中、想いに耽っていました。僕にとってもスタッフにとってもとても特別な経験で、それぞれ色んな想いに耽ていたことだと思います。葬式の間中、終始嬉しそうに笑顔を見せてくれる旦那さんの顔から、スタッフが如何に献身的なケアを行っていたかということが伝わってきました。 その後も、一部のスタッフからは「もっとこうしてたら」という後悔の相談がありました。僕自身、「もっと」を言い出すとキリがないくらい悔やむところはあります。 それでも、お金がなく、生活も厳しい彼女と彼女の家族の「最後までここで診て欲しい」その想いを叶えることができたのは、一つ誇っていいことなのではないかとも感じています。そして、選択肢がないからということもありますが、最後には医療者に委ねず、自分たちで生き方を決めるカンボジアの方々を間近でみていて、最後に大切なのはやはり家族なんだなと日々感じています。(「選択肢があれば医療に縋るが選択肢がない」と、あるカンボジア人の方が教えてくれました。)この方も場所は病院でしたが、最後までずっと家族がそばにいました。そこに「正しい」「正しくない」はないのですが、日本も昔はこういう文化があったのかなー。と、少し寂しくなる時があります。 色々なことが「選択できてしまう」環境にいるからこそ、「何が自分たちにとってより大切なもの」なのか、一人一人が責任を持って選択することが必要となっている気がします。そこに医療者への信頼があって、自分たちで選択して「最後を迎える場所は家族と共にここ(病院)がいい」と言ってくれるのであれば、医療者としてこんなに嬉しいことはありません。色んな意味で感慨深い忘れられない経験となりました。 ─ 帰国後はどのような活動をされていますか? 帰国後に関しては、僕の場合は少し特殊かもしれません。僕はジャパンハートに入る以前から、医師としての病院での診療と特定非営利活動法人の代表としての活動の二足のわらじを持っていました。 医師としての働きどころも正直なところ、準備はしていなかったですが、元々いた地域の病院あるいは法人の拠点がある九州の地域で、受け入れてくれるであろう場所があり、あまりそこに不安がなかったのが正直なところです。もちろん可能であれば、帰国後に帰る場所もある程度準備しておくに越した事はないとは思いますが、カンボジアでの経験を活かせる場所は日本国内でも沢山ありますし、ジャパンハートに参加した後に、働く場所に困ったという話は今の所聞いた事がないため、あまり心配しなくてもいいのではないかなとも思います。途上国での医療に触れる事で、自分自身の価値観も変わり、結局準備していたけど、そのまま現地に残ったり、全く違う道を進み始める人もいるので。 帰国後の僕は、東京都の元々いた地域にあるクリニックで、一般外来・在宅診療を含めた地域医療に携りつつ、カンボジアにいる間中断していた、総合診療専門医後期研修を再開し、専門医を修得するべく日々励んでいます。また、特定非営利活動法人の活動として、北九州市を中心に社会福祉法人さんとの医福連携事業、北九州市との官民連携事業、教育機関との連携事業などを通して、北九州市で暮らす人たちと共に、みんなで支え合う地域医療の実現を目指して、様々な活動を行っています。近い将来、僕自身も北九州市に戻って、北九州市で地域医療に従事していこうと思っていますので、その準備も行っています。 また、カンボジアでの1年間の経験をお話する機会を頂き、色々なところで講演会をさせてもらっています。講演会は色々な人に途上国の現状を知ってもらって、関心を持ってもらうだけでなく、伝える事を通して、僕の中でも1年間の経験が整理され、自分のものになっていくのを実感でき、とてもありがたい機会となっています。貴重な経験をさせてもらったからこそ、沢山の人にそれを共有することも僕の役割だと感じています。 その他、現在も2-3ヶ月に1回カンボジアを訪れて、現地調査を行っています。6月にもプノンペンを中心に訪問看護・訪問介護事業を独自に展開しているカンボジア人看護師さんに、患者さん宅訪問に同行させて頂きました。異国間の交流は、各々の国を客観視することで、互いの国をより知る事につながると感じています。これからも定期的にカンボジアを訪れながら、日本-カンボジアの両国で互いに学び合える交流ができるような仕組み作りを行っていけたらと思っています。その中で、外にいるからこそできることを模索しつつ、ジャパンハートの活動にも貢献できる様なことをしていきたいと思っています。 ─ 今後の参加者へのアドバイスと、参加を迷われている方へ一言お願いします。 参加者へのアドバイスとしては、異国のために何かをしようとか、支援をしようとか考える必要はないです。というよりも、1年間いても何もできなかったというのが正直な感想です。それでも、カンボジアの人たちは僕から何かを感じてくれましたし、僕自身は本当にたくさんのことを学ばせて頂きました。お互いに交流を通して学び合う。それでいいんだと思います。一方通行の支援なんてありえないというのが、この1年間で僕が学んだことの1つです。 また、今、参加を迷われている方は、直感的に『行った方がいい!』『行きたい!』って思えたのであれば、ぜひ色々悩む前に一歩を踏み出してみて下さい。違ったら途中で帰国すればいいんです。やる前に悩んでても何もわかりません。やってみてはじめて見える景色があります。 もちろん、行く前に色々準備をする期間も必要です。半年から1年くらい必要かもしれません。だからこそ、それ以前に悩んでいたら結局行けなかったというようなことになりかねません。『半年後、1年後から行く!』と決めて、明日から具体的に準備を始めましょう。そうしてカンボジアへ行った1人としてこれだけは言えます。行ってよかったと思えることはあっても、後悔することは絶対にありません。 (ジャパンハート 2019年7月23 日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 オンライン相談会を実施中です。「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
SARS-CoV-2による一時的な小児多臓器系炎症性症候群患児58例の臨床的特徴
SARS-CoV-2による一時的な小児多臓器系炎症性症候群患児58例の臨床的特徴
Clinical Characteristics of 58 Children With a Pediatric Inflammatory Multisystem Syndrome Temporally Associated With SARS-CoV-2 JAMA. 2020 Jul 21;324(3):259-269. doi: 10.1001/jama.2020.10369. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】新型コロナウイルス感染症2019の発症率が高い地域で、発熱および炎症を伴うまれな症候群を呈する患児の報告が浮上している。 【目的】SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)による一時的な小児多臓器系炎症性症候群(PIMS-TS)の基準を満たした入院患児の臨床所見および検査値の特徴を明らかし、他の小児炎症性疾患の特徴と比較すること。 【デザイン、設定および参加者】2020年3月23日から5月16日の間に、発熱の持続と公開されているPIMS-TSの診断基準を満たした入院患児58例(中央値9歳、33例が女児)の症例集積。最終追跡日は、2020年5月22日であった。診療記録の臨床症状および検査結果を要約し、2002年から2019年に欧米で入院した川崎病(KD)患児(1132例)、川崎病ショック症候群患児(45例)および中毒性ショック症候群患児(37例)の特徴と比較した。 【曝露】英国、米国および世界保健機関(WHO)が定義するPIMS-TSの基準を満たした患児の兆候、症状、検査および画像所見。 【主要評価項目】PIMS-TSの基準を満たした患児の臨床、検査および画像所見、他の小児炎症性疾患の特徴との比較。 【結果】PIMS-TSの基準を満たす患児58例(平均年齢9歳[IQR 5.7-14]、女児20例[34%])を特定した。58例中15例(26%)がSARS-CoV-2ポリメラーゼ連鎖反応検査の結果が陽性、46例中40例(87%)がSARS-CoV-2 IgG検査陽性であった。合わせて、58例中45例(78%)がSARS-CoV-2感染しているか、感染歴があった。全例に発熱および嘔吐(58例中26例、45%)、腹痛(58例中31例、53%)、下痢(58例中30例、52%)などの非特異的症状が見られた。58例中30例(52%)が発疹、58例中26例(45%)が結膜充血を呈した。検査所見の評価で、C反応性蛋白(229 mg/L[IQR 156-338]、全58例で評価)、フェリチン(610 μg/L[IQR 359-128]、58例中53例で評価)などで著名な炎症が認められ、58例中29例がショック(心筋機能障害の生化学的根拠あり)を来たし、強心薬および蘇生輸液投与を要した(機械的換気を実施した29例中23例[79%]を含む)。13例が米国心臓協会が定義するKDの基準を満たし、23例にKDやショックの特徴がない発熱および炎症があった。8例(14%)が冠動脈拡張または冠動脈瘤を来した。PIMS-TSとKDまたはKDショック症候群を比較すると、年齢が高く(年齢中央値9歳[IQR 5.7-14] vs. 2.7歳[IQR 1.4-4.7]および3.8歳[IQR 0.2-18])、C反応性蛋白(中央値229mg/L vs. 67mg/L[IQR 40-150 mg/L]および193mg/L[IQR 83-237])炎症マーカー高値などの臨床所見や検査所見に差が見られた。 【結論および意義】このPIMS-TSの基準を満たした患児の症例集積では、発熱や炎症から心筋障害、ショック、冠動脈瘤までさまざまな徴候、症状および疾患重症度が見られた。KDおよびKDショック症候群の患児と比較からは、この疾患に関する知見が得られ、他の小児炎症性疾患とは異なるものであることが示唆される。 第一人者の医師による解説 COVID-19重症化抑制の治療法につながる 臨床的意義の大きな研究 永田 智 東京女子医科大学小児科学講座主任教授 MMJ. February 2021;17(1):12 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高感染率地域で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)に関連した小児炎症性多系統症候群(PIMS-TS)が報告されており、川崎病との類似性が話題になった。 本論文では、2020年3月?5月に英国の8病院に入院した、英国、米国疾病対策予防センター(CDC)または世界保健機関(WHO)のPIMS-TS基準を満たした小児58人について、臨床的特徴をカルテレビューで抽出し、2002~19年に欧米の病院に入院した川崎病患者(1,132人)、川崎病ショック症候群患者(45人)、トキシックショック症候群患者(37人)と比較検討した。 これらPIMS-TS症例はSARS-CoV-2 PCR検査で58人中15人(26%)が陽性、SARS-CoV-2 IgG抗体検査で46人中40人(87%)が陽性であった。全例で発熱、約半数で嘔吐、腹痛、下痢の消化器症状を認めていた。同様に約半数は発疹や結膜充血といった川崎病類似の症候を呈していた。血清CRPは中央値22.9mg/dL(四分位範囲[IQR],15.6~33.8)、フェリチンも中央値610μg/L(IQR,359~1,280)と全般に高値であった。58人中29人(50%)が心筋機能障害を高頻度に伴うショックをきたし、そのうち23人(79%)は人工呼吸器管理を要していた。13人は米国心臓学会(AHA)の川崎病基準を満たし、興味深いことに8人は冠動脈拡張または冠動脈瘤を合併していた。 本研究では、PIMS-TS、川崎病、川崎病ショック症候群の三者が比較された。PIMS-TSでは罹患年齢の中央値が9歳(IQR,5.7~14)と一般の川崎病(中央値2.7歳)や川崎病ショック症候群(中央値3.8歳)より高かった。また、PIMS-TSの血清CRPは、川崎病(中央値6.7mg/dL)よりかなり高値の傾向にあったが、川崎病ショック症候群とは僅差であった(中央値19.3mg/dL)。 これらのPIMS-TS症例は、発熱・心筋障害・ショック・冠動脈瘤形成といった多臓器にまたがる多彩な症候を示していたが、全般に重症であった。これまで、川崎病に類似した症候をもつ他の疾患は数少なく、しかも冠動脈病変を有する疾患はほとんど報告されていない。PIMS-TSを丁寧に調べることにより、川崎病の病態発症、特に冠動脈病変の発生機序を考える上で、重要なヒントが得られる可能性がある。さらに、川崎病の標準治療である免疫グロブリン大量療法がCOVID-19の重症型であるPIMS-TSの治療に有効であることが証明されれば、COVID-19の重症化抑制に安全性の高い有効な治療選択肢が加わることになり、当検討の臨床的な意義は大きいことになる。
小児の喘息発症および喘鳴持続に関連がある大気汚染および家族関連の決定因子 全国症例対照研究
小児の喘息発症および喘鳴持続に関連がある大気汚染および家族関連の決定因子 全国症例対照研究
Air pollution and family related determinants of asthma onset and persistent wheezing in children: nationwide case-control study BMJ. 2020 Aug 19;370:m2791. doi: 10.1136/bmj.m2791. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】小児の喘息発症および喘鳴時属の危険因子(大気汚染および家族関連)を明らかにすること。 【デザイン】全国症例対照研究 【設定】デンマーク 【参加者】1997年から2014年に出生したデンマーク人小児全例。1歳から15歳まで喘息発症および喘鳴持続を追跡した。 【主要評価項目】喘息発症および喘鳴の持続。 【結果】両親に喘息がある小児(調整ハザード比2.29、95%CI 2.22~2.35)および母親が妊娠中に喫煙していた小児(1.20、1.18~1.22)の喘息発症率が高く、親が高学歴の小児(0.72、0.69~0.75)および親が高収入の小児(0.85、0.81~0.89)の喘息発症率が低かった。直径2.5μm以下および10μm以下の大気中微小粒子状物質(PM2.5およびPM10)、硝酸塩への曝露があると喘息発症および喘鳴持続のリスクが上昇し、汚染物質濃度5μg/m3増加当たりのハザード比はPM2.5で1.05(95%CI 1.03~1.07)、PM10で1.04(1.02~1.06)、二酸化窒素で1.04(1.03~1.04)だった。PM2.5の喘息および喘鳴持続との正の関連は、さまざまなモデルや感度解析の結果、唯一頑強性が維持された。 【結論】この研究結果からは、高濃度PM2.5に曝露した小児は、曝露していない小児に比べて喘息発症および喘鳴持続が起きやすいことが示唆される。この転帰に関連を示すその他の危険因子に、両親の喘息、両親の学歴および母親の妊娠中の喫煙があった。 第一人者の医師による解説 地域差が大きいPM2.5の影響 日本のエコチル調査の結果が待たれる 勝沼 俊雄 慈恵会医科大学附属第三病院小児科診療部長・教授 MMJ. February 2021;17(1):16 小児の喘息発症に関わる因子は個体因子と環境因子からなり、それらは予防対策の基本となる。個体因子は家族歴が主となり、環境因子としては吸入アレルゲン曝露と気道ウイルス感染が議論や対策の中心といえる。少なくとも近年において大気汚染の寄与を強調する傾向はみられない。 しかし今回、デンマークにおける18年に及ぶ全国規模の症例対象研究の結果を踏まえ、本論文の結語として最も強調しているのは、PM2.5の喘息・持続性喘鳴への関与でありその対策である。デンマークでは1976年に国家的な患者登録制度(National Patient Register;LPR)を開始し、本研究は上記患者レジストリに登録されている1997~2014年にデンマークで生まれた子どものデータを解析している。すなわち1歳から15歳までに喘息の診断を受けたか、2種類以上の抗喘息薬を処方された小児(122,842人)に関し、喘息の診断を受けていないランダムに選択された25倍の数の対照(3,069,943人)と比較した。 その結果、喘息・喘鳴頻度を高める因子として親の喘息(調整済みハザード比[HR], 2.29;95%信頼区間[CI], 2.22~2.35)と妊娠中の母体喫煙(HR, 1.20;95% CI, 1.18~1.22)、低める因子として親の高い教育レベル(HR, 0.72;95% CI, 0.69~0.75)と 高収入(HR, 0.85;95 % CI, 0.81~0.89)が特定された。そして大気汚染物質の中では、唯一PM2.5への曝露が喘息・喘鳴のリスクを有意に高めることが明らかとなり、PM2.5濃度が5μg/m3上昇するごとにリスクが1.05(95% CI, 1.03~1.07)倍高まるという結果が得られた。調査全体におけるPM2.5の平均値(SD)は12.2(1.5)μg/m3であった(下位5%の平均値は9.7μg/m3、上位5%は14.8g/m3)。 数年前の中国のように著しいPM2.5曝露下においては、半世紀以前の公害喘息(川崎喘息、四日市喘息など)同様、強い関与がありうると私自身は考えていた。しかしながら、本研究で示された平均約12μg/m3というPM2.5のレベルは、東京(15μg/m3程度)と大差ないレベルである。PM2.5が5μg/m3上昇するごとに小児の喘息・喘鳴リスクが5%高まるということは、喘息自体の有病率が5%であることから無視できない影響といえる。喘息の最前線で働いてきた臨床医としては実感しにくいが、PM2.5の影響は地域差が大きいであろうから日本における調査に注目したい。喘息、アレルギーを含む大規模な出生コホート調査で、2011年から始まったエコチル調査の結果が待たれる
ビタミンD低値喘息患児の重度喘息増悪にもたらすビタミンD3補給の効果 VDKA無作為化臨床試験
ビタミンD低値喘息患児の重度喘息増悪にもたらすビタミンD3補給の効果 VDKA無作為化臨床試験
Effect of Vitamin D3 Supplementation on Severe Asthma Exacerbations in Children With Asthma and Low Vitamin D Levels: The VDKA Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Aug 25;324(8):752-760. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】重度の喘息増悪は死に至ることがあり、医療費もかかる。ビタミンD3補給によって小児期の重度喘息増悪が抑制できるかは明らかになっていない。 【目的】ビタミンD3補給によって、ビタミンD低値喘息患児の重度増悪までの時間が改善するかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】Vitamin D to Prevent Severe Asthma Exacerbations(VDKA)試験は、血清25-ヒドロキシビタミンD値が30ng/mL未満で低用量吸入ステロイドを投与している6~16歳の高リスク喘息患児で、ビタミンD3補給によって重度増悪までの時間が改善するかを検討した二重盲検プラセボ対照無作為化臨床試験である。米国7施設から被験者を組み入れた。2016年2月に、400例を目標に登録を開始した。試験は無益性のため早期に(2019年3月)中止され、2019年9月に追跡を終了した。 【介入】被験者をビタミンD3群(1日当たり4000IU、96例)とプラセボ群(96例)に割り付け、48週間にわたって投与し、フルチカゾン176μg/日(6~11歳)または220μg/日(12~16歳)投与を継続した。 【主要評価項目】主要評価項目は、重度喘息増悪までの時間とした。ウイルス誘発重度増悪までの時間、試験期間の中間時点で吸入ステロイド用量が減少した被験者の割合および期間中のフルチカゾン累積投与量を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した192例(平均年齢9.8歳、女児88例[40%])のうち180(93.8%)が試験を完遂した。ビタミンD3群の36例(37.5%)およびプラセボ群の33例(34.4%)が1回以上の重度増悪を来した。プラセボと比べると、ビタミンD3補給による重度増悪までの時間の有意な短縮は見られず、増悪までの平均期間はビタミンD3群240日、プラセボ群253日だった。(平均群間差-13.1日、95%CI -42.6~16.4、調整ハザード比1.13、95%CI 0.69~1.85、P=0.63)。同様に、プラセボと比較したビタミンD3補給によるウイルス誘発重度増悪、試験期間の中間時点で吸入ステロイド用量が減少した被験者の割合および期間中のフルチカゾン累積投与量の改善度に有意差はなかった。両群の重度有害事象発現率はほぼ同じだった(ビタミンD3群11例、プラセボ群9例)。 【結論および意義】喘息が持続する低ビタミンD値の小児で、プラセボと比べてビタミンD3補給によって重度喘息増悪まで時間の有意な改善は認められなかった。この結果からは、この患者群に重度喘息増悪予防のためビタミンD3を補給することは支持されない。 第一人者の医師による解説 小児に対するプラクティスとしてのビタミンD投与は中止すべき 横山 彰仁 高知大学医学部呼吸器 ・アレルギー内科学教授 MMJ. February 2021;17(1):17 ビタミンDは肺の重要な成長因子であり、また免疫系において制御性T細胞の誘導、Th2やTh17反応の抑制、IL-10産生などを引き起こすことが知られている。さらに、気道のマイクロバイオームに影響し、平滑筋肥大を抑制しコラーゲン沈着を抑制することで気道リモデリングに抑制的に働くことも報告されている。こうした研究に一致するように、血中ビタミン D濃度が低下した患者では、重症の喘息増悪、肺機能低下、ステロイド反応性の低下などが生じることも知られている。 以上から、ビタミンDには喘息の1次予防効果が期待されるが、残念ながらその有用性は不明である。妊婦や幼児へのビタミンD補充は後年の家ダニへの感作抑制につながるとの報告もあるが、喘息発症を抑制するかは不明である。ただし、ビタミンDには、ライノウイルスの増殖を抑制し、インターフェロンによる抗ウイルス作用を促進するなど、ウイルス感染による発作を抑制する可能性はある。実際にメタ解析ではビタミンD補充は、喘息増悪のリスクを有意に低下させることが示されている。ただ、16歳以下に関しては有意な結果は得られていない。以上から、小児へのビタミンD投与は推奨されるに至っていないが、これまでの研究では、血中濃度が低い、重症増悪リスクが高い患児を対象としていないなどの問題点が指摘されていた。 本研究の利点として以下の3点が挙げられる:①参加者の血中ビタミンD濃度を測定し、濃度が低いことを確認した上で試験に登録している、②補充により実際に血中濃度が上昇したことを確認している、③前年に重症増悪歴のあるリスクが高い患児を対象とし、重症増悪発症までの期間を主要評価項目としている。 当初、本試験では重症増悪発症率で16%の絶対差を検出できるサンプルサイズの400人を目標として設定したが、予定されていた中間解析で有効性が認められず早期中止となった。最終的には目標の半分以下の192人を、48週間のプラセボ群またはビタミンD群に1:1に割り付けた。結果として、重症増悪はビタミン群で36人(37.5%)、プラセボ群で33人(34.4%)に認められ、主要評価項目である発症までの期間はもとより、ウイルス感染による重症増悪、吸入ステロイド薬の減量や累積使用量に関しても有意差は認められず、ビタミンD投与の有効性は認められなかった。 今回の結果を踏まえると、既報から小児に対しプラクティスとしてビタミン D濃度を測定し、投与する施設があるならば、中止すべきであろう。
ポルトガルの小児で検討したB群髄膜炎菌ワクチン接種とB群侵襲性髄膜炎菌感染症の関連
ポルトガルの小児で検討したB群髄膜炎菌ワクチン接種とB群侵襲性髄膜炎菌感染症の関連
Association of Use of a Meningococcus Group B Vaccine With Group B Invasive Meningococcal Disease Among Children in Portugal JAMA. 2020 Dec 1;324(21):2187-2194. doi: 10.1001/jama.2020.20449. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】小児のB群侵襲性髄膜炎菌感染症を予防するワクチンには多成分B群髄膜炎菌ワクチン(4CMenB)以外にないが、マッチさせた対照とワクチンの効果を比較した試験はない。 【目的】4CMenB接種とB群侵襲性髄膜炎菌感染症の関連を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】発生密度対症例対照研究。2014年10月から2019年3月までの間にポルトガルの小児病院31施設を受診した患者を特定し、死亡または退院まで追跡した(最終追跡2019年6月)。検査で侵襲性髄膜炎菌感染症が確定したポルトガルに居住する小児および思春期小児を対象とした。同時期に同じ病院に無関係の病態で入院した対照(通常1例につき2例)を性別、年齢および居住地でマッチさせた。 【曝露】全国データベースから取得した4CMenBによる予防接種(年齢により2~4用量を推奨)。 【主要評価項目】主要評価項目は、対照と比較した予防接種完了者のB群侵襲性髄膜炎菌感染症とした。副次評価項目は、対照と比較した予防接種完了者の全血清型侵襲性髄膜炎菌感染症および1回以上接種した対照と比較した症例の侵襲性髄膜炎菌感染症とした。 【結果】侵襲性髄膜炎菌感染症患児117例のうち、98例が組み入れ基準を満たし、82例がB型侵襲性髄膜炎菌感染症であった。69例がワクチン接種を完了する年齢に達しており、保護されていたとみなした。この69例の月齢中央値は24(四分位範囲4.5~196)カ月、42例が男児であり、入院期間中央値は8(四分位範囲0~86)日間であった。症例69例中5例(7.2%)と対照142例中33例(23.1%)がワクチン接種を完了していた(差-16.0%[95%CI -26.3%~-5.7%]、オッズ比[OR]0.21[95%CI 0.08~0.55])。全血清型の侵襲性髄膜炎菌感染症でみると、症例85例中6例(7.1%)と対照175例中39例(22.3%)がワクチン接種を完了していた(差-15.2%[95%CI -24.3%~-6.1%]、OR 0.22[95%CI 0.09~0.53])。B群感染症では、症例82例中8例(9.8%)と対照168例中50例(29.8%)が1回以上ワクチンを接種していた(差-20.0%[95%CI -30.3%~-9.7%]、OR 0.18[95%CI 0.08~0.44])。全血清型の侵襲性髄膜炎菌感染症では、症例98例中11例(11.2%)と対照201例中61例(30.3%)が1回以上ワクチンを接種して受けていた(差-19.1%[95%CI -28.8%~-9.5%]、OR 0.23[95%CI 0.11~0.49])。 【結論および意義】ポルトガルでのワクチン接種開始から最初の5年間で、侵襲性髄膜炎菌感染症を発症した小児の方が発症しなかった対照の小児よりも4CMenBワクチンを接種した割合が低かった。この結果は、臨床現場での4CMenBワクチン使用を周知するのに有用である。 第一人者の医師による解説 国内未承認のB群髄膜炎菌ワクチン 今後の承認を期待 神谷 元 国立感染症研究所実地疫学研究センター主任研究官 MMJ. December 2021;17(6):185 本論文は、ポルトガルの小児科医療機関31施設が参加し、B群髄膜炎菌(MenB)ワクチンの有効性を年齢、性別、居住地区、受診医療機関についてマッチングした症例対照研究により検討した結果の報告である。調査期間(2014年10月~19年3月)、ポルトガルではMenBワクチンは定期接種化されておらず、国内の1歳児のMenBワクチン接種率(2回)は56.7%(2018年)であった。299人の小児が参加し、MenBによる侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の予防効果をエンドポイントとした解析では、オッズ比が0.21(95%信頼区間[CI], 0.08?0.55)、他の血清群を含めたIMDの予防効果はオッズ比が0.22(95% CI, 0.09?0.53)となり、ワクチン効果(VE)は78~79%と一定の効果を認めた。また、調査期間におけるIMDの原因菌の内訳はB群が84%を占めていたが、MenBワクチン接種者でIMDを発症した11人のうち、8人はMenB、3人はそれ以外の血清群の菌による感染であった。11人の転帰は良好で合併症も認められなかった(未接種者では26%に合併症が認められた)。髄膜炎菌ワクチンは4つの血清群(A、C、W、Y)の莢膜多糖体を用いた4価ワクチン(MCV4ワクチン)が実用化されているが、B群がこのワクチンに含まれていない理由は、B群の莢膜多糖体がヒトの脳の糖鎖と構造が似ているため、ほかの血清群のようにワクチン成分として莢膜多糖体を利用できないことにある。しかし、近年の技術と研究の進歩により、外膜の表層蛋白を用いたMenBワクチンが開発され、米国、カナダ、オーストラリア、欧州では承認されている。このワクチンは、MenBに対する予防効果はもちろんのこと、髄膜炎菌に共通する外膜の表層蛋白を用いているため、ほかの血清群による髄膜炎菌感染症への予防効果も期待されている。日本では2021年7月時点でMenBワクチンは未承認であるが、国内のIMDサーベイランスの結果によると、一定の割合でMenBによるIMDが報告されている(1)。また、東京2020大会のような国際的なマスギャザリングが開催されると国内でそれまで検出されることが少ない髄膜炎菌が認められ、IMD発症事例も起こるため(2)、MenBワクチンの国内での承認が今後期待される。なお、ポルトガルではその後2020年に2カ月、4カ月、12カ月齢児にMenBワクチンを定期接種化している(3)。 1. 国立感染症研究所. IASR.2018;39:1-2. https://bit.ly/2W5FwwO 2. Kanai M, et al. Western Pac Surveill Response J. 2017;8(2):25-30. 3. ECD C. Vaccine S cheduler Pneumo co ccal Dis eas e:Recommended vaccinations https://bit.ly/39xLERD
小児期の鉛暴露とMRIで測定した中年期の脳構造の統合性の関連
小児期の鉛暴露とMRIで測定した中年期の脳構造の統合性の関連
Association of Childhood Lead Exposure With MRI Measurements of Structural Brain Integrity in Midlife JAMA. 2020 Nov 17;324(19):1970-1979. doi: 10.1001/jama.2020.19998. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】小児期の鉛曝露に脳の発達の阻害と関連があるが、脳構造の統合性にもたらす長期的な影響が未だ明らかになっていない。 【目的】小児期の鉛暴露によってMRIで測定した中年期の脳構造の統合性が低下するという仮説を検証すること。 【デザイン、設定および参加者】ダニーデン研究では、ニュージーランドで1972~1973年に出生した集団代表コホート(解析対象564例)を45歳まで(2019年4月まで)追跡した。 【曝露】11歳時に測定した小児期の鉛曝露。 【主要評価項目】45歳時のMRIで評価した脳構造の統合性(主要評価項目):灰白質(皮質厚、表面積、海馬体積)、白質(大脳白質病変、拡散異方性[理論的範囲0{完全に等方性拡散}~100{完全に異方性拡散}]およびBrain Age Gap Estimation[BrainAGE、実年齢と機械学習アルゴリズムで推定した脳年齢の差の複合指標{0:脳年齢と実年齢が同じ;正数は脳年齢が高く、負数は脳年齢が若い}])。45歳時の認知機能をウェクスラー成人知能検査第4版(WAIS-Ⅳ、IQ範囲40~160点、平均100点に標準化)を用いて客観的に、情報提供者および自己報告(zスコア単位;尺度平均0[SD 1])で主観的に評価した。 【結果】最初の参加者1,037例中997例が45歳時点で生存しており、そのうち564例(男性302例、女性262例)が11歳時に鉛検査を受けていた(追跡期間中央値34[四分位範囲33.7~34.7]年)。11歳時点の血中鉛濃度が平均10.99(SD 4.63)μg/dLであった。共変量で調整後、小児期の血中鉛濃度が5μg/dL増加するたびに、皮質表面積の1.19cm2減少(95%CI -2.35~-0.02cm2、P=0.05)、海馬体積の0.10cm3減少(95%CI -0.17~-0.03cm3、P=0.006)、拡散異方性の低下(b=-0.12、95%CI -0.24~-0.01、P=0.04)、45歳時のBrainAGEの0.77歳上昇(95%CI 0.02~1.51、P=0.05)が認められた。血中鉛濃度と対数変換した白質病変体積(b=0.05 log mm3、95%CI -0.02~0.13 log mm3、p=0.17)や平均皮質厚(b=-0.004mm、95%CI -0.012~0.004mm、p=0.39)との間に統計的な有意差は認められなかった。小児期の血中鉛濃度が5μg/dL増加するたびに、45歳時のIQスコア2.07低下(95%CI -3.39~-0.74、P=0.02)、情報提供者が評価した認知機能障害スコア0.12増加(95%CI 0.01~0.23、P=0.03)との有意な関連が認められた。小児期の血中鉛濃度と自己報告による認知的問題との間に統計学的有意な関連は認められなかった(b=-0.02ポイント、95%CI -0.10~0.07、P=0.68)。 【結論および意義】中央値で34年追跡したこの縦断的コホート研究では、小児期の血中鉛濃度高値にMRIを用いた脳構造の測定項目との関連が見られ、中年期の脳構造の統合性が低下することが示唆された。多重比較のため、第1種の過誤が生じた結果があると考えられる。 第一人者の医師による解説 脳表面積や海馬容積を減少させ 成人期脳機能と負の相関があることを示唆 高橋 孝雄(教授)/三橋 隆行(専任講師) 慶應義塾大学医学部小児科学教室 MMJ. April 2021;17(2):56 小児期の化学物質などへの曝露が知能に悪影響を与えることがこれまで指摘されてきた。具体的には、水銀、鉛、多環式芳香族炭化水素やダイオキシン類の低濃度曝露が小児の知能に悪影響を与える可能性が報告されている。鉛については、1980年代まで使用された有鉛ガソリンによる大気汚染の影響や、現在禁止されている鉛を含有した白色塗料の経口摂取があり、小児の血中鉛濃度と知能発達との関連性が報告されてきた。 本論文は、ニュージーランド・ダニーデンで1972~73年に出生し、11歳時に血中鉛濃度を測定された出生コホートを対象とした縦断的前向きコホート研究(Dunedin Study)の報告である。先行解析では鉛曝露量が増えると38歳時の知能指数が低下する相関性が示されていたことから(1)、生後小児期の血中鉛濃度と45歳時の脳構造異常との関連性を検討した。脳MRI画像をもとに各脳構造を計測した結果、血中鉛濃度の上昇に伴い脳表面積と海馬容積が減少することが明らかとなった。さらに、脳機能の参考指標となる拡散強調画像により得られる異方性比率(global fractional anisotropy)の低下や、機械学習を用いた人工知能による推定脳年齢が悪化する点も判明した。 本研究の評価できる点としては、他のコホート研究に比べ社会経済的背景による鉛曝露量の偏りがない点が挙げられる。他の先行研究では、高収入の家庭の子どもはそうでない子どもに比べ鉛曝露量が多くても知能指数が下がりにくいといった報告(2)があるが、今回、家庭の経済状況や教育レベルといったバイアスを排除し、純粋な鉛曝露の影響を明らかにできた点が評価できる。 一方、本研究の限界として、今回検出された脳構造の異常が小児期にすでに存在したのか、あるいは成人に至る過程で生じたのか不明な点が挙げられる。また、仮に生後の鉛曝露のみの影響を検出しているとしても、脳の成熟化の異常なのか、完成された脳構造の変性による表面積の減少などなのかについては不明な点が残されている。 以上の限界はあるものの、本成果は小児期の鉛曝露が小児期のみならず成人期の認知機能に悪影響を与える可能性を解剖学的な脳の構造異常により裏付けたものと評価できる。被験者の主観的な認知機能には変化がなく、また偽陽性の可能性は残されてはいるものの、鉛曝露が中年期の認知機能を悪化させている可能性が危惧される。今後は、他の化学物質についても同様の検討が行われることが必要であろう。 1. Reuben A, et al. JAMA. 2017;317 (12):1244-1251. 2. Marshall AT, et al. Nat Med. 2020;26(1):91-97.
乳児に用いるビデオ喉頭鏡の初回成功率(VISI) 多施設共同無作為化対照試験
乳児に用いるビデオ喉頭鏡の初回成功率(VISI) 多施設共同無作為化対照試験
First-attempt success rate of video laryngoscopy in small infants (VISI): a multicentre, randomised controlled trial Lancet. 2020 Dec 12;396(10266):1905-1913. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32532-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】乳児に対する直接喉頭鏡を用いた気管挿管は困難である。今回、麻酔科医による標準ブレード型ビデオ喉頭鏡によって、直接喉頭鏡と比較して気管挿管初回成功率が改善し、合併症リスクが低下するかを明らかにすることを目的とした。著者らは、ビデオ喉頭鏡による初回成功率は直接喉頭鏡よりも高いという仮説を立てた。 【方法】この多施設共同並行群間無作為化対照試験では、米国の小児病院4施設とオーストラリアの小児病院1施設の手術室で気管挿管を要するが気道確保が困難でない乳児を組み入れた。ブロック数2、4、6の置換ブロック法を用いて、患児をビデオ喉頭鏡と直接喉頭鏡に(1対1の比率で)無作為に割り付け、施設と医師の役割で層別化した。保護者に処置の割り付けを伏せた。主要評価項目は、気管挿管時に初回で成功した乳児の割合とした。解析(修正intention-to-treat[mITT]集団およびper-protocol)に一般化推定方程式モデルを用いて、在胎期間、米国麻酔学会の術前全身状態分類、体重、医師の役割および施設で層別化した。試験は、ClinicalTrials.govにNCT03396432で登録されている。 【結果】2018年6月4日から2019年8月19日の間に乳児564例を組み入れ、282例(50%)をビデオ喉頭鏡、282例(50%)を直接喉頭鏡に割り付けた。乳児の平均年齢は5.5カ月(SD 3.3)であった。ビデオ喉頭鏡群の274例と直接喉頭鏡群の278群をmITT解析の対象とした。ビデオ喉頭鏡群では254例(93%)、直接喉頭鏡では244例(88%)が初回挿管に成功した(調整絶対リスク差5.5%[95%CI 0.7~10.3]、P=0.024])。ビデオ喉頭鏡群の4例(2%)、直接喉頭鏡群の15例(5%)に重度合併症が発生した(-3.7%[-6.5~-0.9]、P=0.0087)。ビデオ喉頭鏡群(1例[1%未満])の方が直接喉頭鏡群(7例[3%])よりも食道挿管が少なかった(同-2.3[-4.3~-0.3]、P=0.028)。 【解釈】麻酔下の乳児で、標準ブレード型ビデオ喉頭鏡を用いると初回成功率が改善し、合併症も減少した。 第一人者の医師による解説 乳児に対する気管挿管はビデオ喉頭鏡の使用が望ましい 大原 卓哉(助教)/清野 由輩(講師)/山下 拓(教授) 北里大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 MMJ. June 2021;17(3):90 毎年、多くの乳児が気管挿管を必要とする全身麻酔手術を受けている。乳児は成人に比べ気管挿管時のリスクが高く、初回での気管挿管成功は重要であり、複数回の気管挿管は生命を脅かす合併症につながる可能性がある。ビデオ喉頭鏡は、気道確保が困難な乳児に対して直接喉頭鏡よりも初回成功率が高いことが報告されているが、構造的に正常な気道を持つ乳児におけるビデオ喉頭鏡の有用性については議論の余地があった。 本論文は、全身麻酔手術を受ける乳児に対する標準ブレード型ビデオ喉頭鏡を使用した気管挿管の有効性と安全性を検討した米国とオーストラリアの小児病院における多施設共同並行群間ランダム化比較試験の報告である。対象は、年齢12カ月齢未満、全身麻酔手術(30分以上の非心臓手術)、麻酔科医による気管挿管を受ける患者とされた。除外基準は、挿管困難の病歴、頭蓋顔面異常の病歴、または身体検査に基づく挿管困難が予測された患者であった。麻酔科医は、標準ブレード型ビデオ喉頭鏡(Storz C-Mac Miller Video Laryngoscope)または直接喉頭鏡のいずれかをランダムに割り当てられ、乳児に気管挿管を行った。気管チューブのサイズはガイドラインに基づいて選択され、気管挿管後24時間までの挿管関連有害事象が検討された。 最終的に274人(50%)がビデオ喉頭鏡、278人(50%)が直接喉頭鏡に割り付けられ、結果が解析された。ビデオ喉頭鏡の93%、直接喉頭鏡の88%で気管挿管に初回で成功し、特に体重6.5kg以下の乳児では、ビデオ喉頭鏡の初回成功率が直接喉頭鏡に比べ有意に高かった(92%対81%;P=0.003)。挿管試行回数も、ビデオ喉頭鏡の方が少なかった。重篤でない合併症(軽度喘鳴、喉頭痙攣[薬物 投与の必要性、緊急気管挿管を伴う]、気管支痙攣 、軽度気道外傷 、気道過敏化)の発生率は2群間で差はなかったが、ビデオ喉頭鏡では、重篤な合併症(中等度〜重度低酸素血症、食道挿管、心停止、咽頭出血)の発生が少なかった。特に、食道挿管は直接喉頭鏡では3%であったのに対し、ビデオ喉頭鏡では1%未満であった。また、ビデオ喉頭鏡では輪状軟骨圧迫の必要性が減少した。 毎年乳児への気管挿管が多く行われているが、 気管挿管中は重篤な有害事象が発生するリスクがあるため、初回成功率が5%向上することは非常に意味があると考えられる。費用的な課題はあるが、より高い初回成功率およびより少ない合併症のため標準ブレード型ビデオ喉頭鏡が広く使用されることが望まれる。
脳性麻痺患者のエクソーム解析の分子診断率
脳性麻痺患者のエクソーム解析の分子診断率
Molecular Diagnostic Yield of Exome Sequencing in Patients With Cerebral Palsy JAMA. 2021 Feb 2;325(5):467-475. doi: 10.1001/jama.2020.26148. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】脳性麻痺は、運動や姿勢に影響を及ぼすよく見られる神経発達障害であり、他の神経発達障害と併発することが多い。脳性麻痺は出生時仮死に起因することが多いが、最近の研究から、仮死が脳性麻痺症例に占める割合が10%未満であることが示唆されている。 【目的】脳性麻痺患者でエクソーム解析の分子診断率(病原性変異および病原性の可能性が高い変異の検出率)を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】2012~18年のデータを用いた臨床検査紹介コホートと2007~17年のデータを用いた医療機関主体コホートから組み入れた脳性麻痺患者の後ろ向きコホート研究。 【曝露】コピー数変異を検出するエクソーム解析。 【主要評価項目】主要評価項目は、エクソーム解析の分子診断率とした。 【結果】臨床検査紹介コホート1345例の年齢中央値は8.8歳(四分位範囲4.4~14.7歳、範囲0.1~66歳)で、601例(45%)が女性であった。医療機関主体コホート181例の年齢中央値は41.9歳(同28.0~59.6歳、範囲4.8~89歳)で、96例(53%)が女性であった。エクソーム解析の分子診断率は、臨床検査紹介コホートで32.7%(95%CI 30.2~35.2%)、医療機関主体のコホートでは10.5%(同6.0~15.0%)であった。分子診断率は、知的障害、てんかん、自閉症スペクトラム障害がない患者の11.2%(同6.4~16.2%)から、上記の3疾患がある患者の32.9%(同25.7~40.1%)まで幅があった。遺伝子229個(1526例のうち29.5%)から病原性変異および病原性の可能性が高い変異が同定され、そのうち2例以上(1526例のうち20.1%)に遺伝子86個の変異があり、両コホートから変異がある遺伝子10個が独立して同定された。 【結論および意義】エクソーム解析を実施した脳性麻痺患者の2つのコホートで、病原性変異および病原性の可能性が高い変異の有病率は、主に小児患者から成るコホートで32.7%、主に成人患者から成るコホートで10.5%であった。一連の結果の臨床的意義を理解するために、さらに詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 脳性麻痺児にエクソーム解析が行われれば、3分の1で病的バリアントを検出 武内 俊樹 慶應義塾大学医学部小児科専任講師 MMJ. June 2021;17(3):86 脳性麻痺は、脳を原因とする運動や姿勢の異常であるが、実際には、運動障害に限らず、知的障害や発達障害を合併することも多い。これまで脳性麻痺は、胎児期や分娩時の低酸素虚血が主な原因と考えられてきたが、近年では、明らかな分娩時低酸素虚血に起因するものは、脳性麻痺の10%程度を占めるに過ぎないことがわかってきた。また、知的障害や自閉症の多くについて、コピー数変異、遺伝子変異・多型と関連していることがわかってきている。 本論文は、脳性麻痺の小児・成人患者におけるエクソーム解析による分子遺伝学的診断率(病的バリアントおよび病的と思われるバリアントの有病率)を明らかにすることを目的とした後方視的研究の報告である。2012~18年にエクソーム解析を受けた「臨床検査室紹介コホート」(1,345人、年齢中央値8.8歳)、および主に民間医療機関(Geisinger)共同ゲノム解析プロジェクト(DiscovEHR)において2007~17年にエクソーム解析を受けた「医療機関登録コホート(181人、年齢中央値41.9歳)の2群に分けて検討した。病的および病的と思われるバリアントの有病率は、「臨床検査室紹介コホート」では32.7%(95%信頼区間[CI], 30.2 ~ 35.2%)、「医療機関登録コホート」では10.5%(95% CI, 6.0 ~ 15.0%)であった。 本研究の意義は、大規模な脳性麻痺の集団に対してエクソーム解析を行った場合に、かなりの頻度で病的バリアントが検出されることを明らかにした点である。特に、小児を中心とする「臨床検査室紹介コホート」における病的バリアントの有病率は、一般的な、未診断疾患患者に対するエクソーム解析の診断率に近い。すなわち、「脳性麻痺」という臨床診断の有無にかかわらず、原因不明の知的障害、運動障害の小児においては、両親も含めたトリオのエクソーム解析を行うことで、3割ほどで分子遺伝学的診断を得ることができる。本研究の限界点として、保険病名をもとに抽出した後方視的研究であり脳性麻痺の定義が厳密ではないこと、また「医療機関登録コホート」の患者は成人であり、両親が高齢のため、両親と本人のデータの比較ができていない点が挙げられる。診断法が進歩した今日でも、運動障害、知的障害・発達障害の原因を特定することは容易ではないが、日本における脳性麻痺児においても、エクソーム解析が行われれば、本研究と同程度の頻度で、症状を説明しうる遺伝子異常が検出されると類推される。
韓国の思春期女子で検討したヒトパピローマウイルスワクチン接種と重篤な有害事象の関連
韓国の思春期女子で検討したヒトパピローマウイルスワクチン接種と重篤な有害事象の関連
Association between human papillomavirus vaccination and serious adverse events in South Korean adolescent girls: nationwide cohort study BMJ. 2021 Jan 29;372:m4931. doi: 10.1136/bmj.m4931. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】韓国の思春期女子のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種と重篤な有害事象の関連を明らかにすること。 【デザイン】コホート研究。 【設定】2017年1月から2019年12月までの全国予防接種登録情報システムと全国保健情報データベースをひも付けた大規模データベース。 【参加者】2017年に予防接種を受けた11~14歳の女子44万1399例。38万2020例がHPVワクチンを接種し、5万9379例がHPVワクチンを接種していなかった。 【主要評価項目】内分泌疾患、消化器疾患、心血管疾患、筋骨格系疾患、血液疾患、皮膚疾患および神経疾患など重篤な有害事象33項目を評価項目とした。主解析にコホートデザイン、2次解析に自己対照リスク期間デザインを用いた。両解析ともにHPVワクチン接種後1年間を各転帰のリスク期間とした。主解析では、ポワソン回帰分析を用いてHPVワクチン接種群とHPV未接種群を比較した発生率および調整率比を推定し、2次解析では条件付きロジスティック回帰分析を用いて調整相対リスクを推定した。 【結果】事前に規定した33項目の有害事象は、コホート解析では、橋本甲状腺炎(10万人年当たりの発生率:ワクチン接種群52.7 vs. 36.3、調整率比1.24、95%CI 0.78~1.94)、関節リウマチ(同168.1 vs. 145.4、0.99、0.79~1.25)などにはHPVとの関連は認められなかったが、例外として片頭痛リスクの上昇が認められた(10万人年当たりの発生率:ワクチン接種群1235.0 vs ワクチン未接種群920.9、調整率比1.11、95%CI 1.02~1.22)。自己対照リスク期間を用いた2次解析から、HPVワクチン接種に片頭痛(調整率比0.67、95%CI 0.58~0.78)も含めた重篤な有害事象との関連がないことが示された。追跡調査期間にばらつきがあったり、ワクチンの種類が異なったりしても、結果に頑健性があった。 【結論】HPVワクチン接種50万回以上の全国規模のコホート研究では、コホート研究および自己対照リスク期間解析いずれを用いても、HPVワクチン接種と重篤な有害事象の間の関連性を裏付ける科学的根拠が認められなかった。病態生理学および対象母集団を考慮に入れ、片頭痛に関する一貫性のない結果を慎重に解釈すべきである。 第一人者の医師による解説 思春期女子へのHPVワクチン接種と 重篤な有害事象の関連を示すエビデンスはない 中野 貴司 川崎医科大学小児科学教授 MMJ. August 2021;17(4):124 著者らは、韓国の大規模データベースを用いて11~14歳の思春期女子におけるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種と重篤な有害事象との関連を評価した。重篤な有害事象として以下の33種類の疾病・病態を選択した:(1)内分泌疾患(グレーブス病、橋本甲状腺炎、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、1型糖尿病)、(2)消化器疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎、消化性潰瘍、膵炎)、(3)心血管疾患(レイノー病、静脈血栓塞栓症、血管炎、低血圧)、(4)筋骨格疾患と全身性疾患(強直性脊椎炎、ベーチェット症候群、若年性特発性関節炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス)、(5)血液疾患(血小板減少性紫斑病、IgA血管炎)、(6)皮膚疾患(結節性紅斑、乾癬)、(7)神経疾患(ベル麻痺、てんかん、ナルコレプシー、麻痺、片頭痛、ギラン・バレー症候群、視神経炎、神経痛と神経炎、脳内出血、錐体外路・運動障害)、(8)結核。接種ワクチンの種類は、接種者382,020人中、4価ワクチン295,365人、2価ワクチン86,655人であった。HPVワクチン非接種群59,379人は日本脳炎ワクチンまたはTdapワクチンの接種を受けた。平均観察期間は、HPVワクチン接種群とHPVワクチン非接種群でそれぞれ407,400人・年と60,500人・年であった。 1次解析ではコホート解析、2次解析では自己対照リスク間隔解析を用いた。両解析とも接種後1年のリスク期間を設定し、HPVワクチン接種群と非接種群について、1次解析では有害事象ごとに発生率と調整比率をポアソン回帰を用いて推定した。2次解析では条件付きロジスティック回帰分析を用いて、調整相対リスクを推定した。 33種類の重篤な有害事象について、1次解析の結果では片頭痛を除いてHPVワクチンとの関連を認めなかった。片頭痛についてはHPVワクチン接種群で有意なリスク上昇が観察されたが、95%信頼区間(CI)は1に近かった(1.11/100,000人・年;95% CI, 1.02 ~ 1.22)。2次解析の結果は、片頭痛(調整相対リスク, 0.67;95%CI, 0.58~0.78)を含めて、すべての有害事象についてHPVワクチン接種群における有意なリスク上昇は観察されなかった。感度解析やサブグループ解析の結果もおおむね合致していた。 以上より、HPVワクチン接種と重篤な有害事象の関連を示すエビデンスはないと考えられた。ただし片頭痛については一部の解析でリスク上昇が認められ、その病態生理と関心のある集団を考慮して、注意して解釈する必要がある。