「小児」の記事一覧

#01 医療が人を幸せにしている。その原点に触れられることが最大の楽しみ。
#01 医療が人を幸せにしている。その原点に触れられることが最大の楽しみ。
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 - 専門科:小児科 - 医師歴:7年目 - ジャパンハートでの活動期間:5ヶ月間 ─ 活動地での業務内容・役割を教えてください。 一般小児科外来、小児科病棟管理 ─ ジャパンハートで活動を始めた理由を教えてください。 もともと国際協力に興味がありいつか関わりたいと思っていた。ジャパンハートは参加にあたってのハードル(英語力や臨床経験年数)が低く参加しやすかった。 ─ 参加までのハードルや解決すべき課題など(仕事・お金・家族の説得など) 現地の物価が安く金銭面では思っているほど困らなかった。国内の立場を捨てて海外に飛び出すのは色々と不安があるかと思いますが、現地での経験は帰国後も必ず役立ってくると思いますしなにものにも代えがたい経験ができたと自分は思っているので、全く後悔ありません。自分は家族ができる前に行った方が気持ちが楽だと思って独身のうちに参加しましたが、現地では家族の理解も得て滞在しているスタッフも数多くいました。 ─ 言語・価値観・が違う現地の方々、また駐在している日本の医療者との活動で困ったこと、また工夫などありましたら教えてください。 様々な背景を持った方々と働くことになるので、常に相手の立場を考えること、リスペクトを忘れないこと、は大事だと思います。 ─ 現地で医療をする楽しみはなんですか? 現地の医療は、本当に困っている患者さんに、限られた医療資源でなんとか救いたい、なんとか助けたい、という思いで行う医療です。必死に患者さんと向き合っているうちに、日本では気づかなくなりがちな、医療が人の幸せのために行なっている、という当たり前でシンプルなことにハッと気づかされることと思います。医療の原点に触れられること、それが最大の楽しみだと思います。 ─ 活動地での忘れられないエピソードがあれば教えてください。 エピソードではありませんが、、、現地で出会った人たちとの出会いは本当に掛け替えのない財産です。 ─ 帰国後はどのような活動をされていますか? 僕は出発前に帰国後の職場を決めてから参加しましたが、現地では特に進路を決めることなく参加している人もいらっしゃいました。その方々も帰国後、復職されています。やはり有資格の医療職は復職しやすいと思いますし、縁故採用もまだまだ多いと思うので、思っているよりは復職のことはあまり気にされなくてもいいかもしれません。 ─ 今後の参加者へのアドバイスと、参加を迷われている方へ一言お願いします。 現地での経験は、医療人としてだけではなく一人間としての人生観をも全く新しい境地に連れて行ってくれることと思います。 (ジャパンハート 2019年7月1日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 オンライン相談会を実施中です。「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
#03 必要な経験だと心から思ったなら『一歩を踏み出すこと』。そこからです。
#03 必要な経験だと心から思ったなら『一歩を踏み出すこと』。そこからです。
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 - 専門科(経験科):家庭医 / 救急 / 総合診療 - 医師歴:6年目(2018年4月現在) - ジャパンハートでの活動期間:2018年4月~2019年3月 - 活動地:カンボジア ウドン(拠点)、ラオス パークグム & ウドムサイ、インドネシア スラウェシ島 ─ 活動地での業務内容・役割を教えてください。 カンボジアウドンにあるジャパンハート子ども医療センターでは成人患者さんの診療も行っています。 僕の役割は主に成人病棟に於ける外来患者さん、入院患者さんの診療、カンボジア人医師の教育(と言いましても、僕自身わからないことも多く、共に学び合う同僚という感覚でした。)、院長不在時の成人病棟のマネージメント全般(診療マニュアル作りや他スタッフとの調整など)でした。時に手術の際に麻酔医や助手の役割を担ったりということもありました。 その他、これはそこにいる誰もが担うことですが、ガーゼなどの診療に必要な物品を作ったりという様なことも行いました。現場で必要なことに関しては、基本的に自分にできることはやる!できないこともその場で学んでやる!という感じでした!また、院外での市民、学生向けのBLS講習や他施設の見学、他国への派遣(ラオスでの短期の外来診療、インドネシアへの災害救護支援など)もありました。 他、個人的にクラウドファンディングに挑戦して、オリジナル手洗いソングを制作し(こちらから聞けます!)、地域の子ども達への衛生教育を目的とした手洗いイベントを開催したり、カンボジアという国についてもっと知るために、『Cambodia Meetup』という異業種交流会を後半半年で毎月開催したり、カンボジア全土でBLSの認知度を上げるために、アニメーション制作会社と連携して、カンボジアオリジナルのBLSに関するアニメーションを制作したり、自分の課題意識に対して、解決するために何ができるかを考えながら、色々な活動を行いました。もちろん限られた時間の中で課題解決までには至りませんでしたが、院内で手洗い習慣を築けたり、今後の自分自身の活動にもつながりました。 ─ ジャパンハートで活動を始めた理由を教えてください。 きっかけは実にシンプルで、2017年3月にとある飲み会の場で『一回、途上国に行ってみたら良いと思うよ!』とある先生から言って頂いた事でした。 その瞬間『今行かなければいけない!』という想いが溢れたため、その日に行く事を決めました!ジャパンハートを知ったのはその先生がジャパンハート長期ボランティア経験者だったからです!偶然というか必然というか!そこから出発までの準備期間の1年間に色々と考える中で、ボランティアへの参加に期待する様になったことは『日本における”当り前”がない環境で、医師として、人として、患者さんや家族、地域、その国のために自分に何ができるのかを体感したい』『経済的な格差=命の格差となる状況がどういう状況なのか、自分自身で体感してみたい』という2つのことでした。 ─ 参加までのハードルや解決すべき課題など(仕事・お金・家族の説得など) 1番のハードルは『一歩を踏み出すこと』だと思います。もちろん、お金の面や仕事の面、家族の説得もとても大切です。僕の場合、既婚なのですが、妻に決意を述べたところ2秒で了承してくれるという恵まれた環境ではありましたが。仕事は辞めて、無給で参加しました。それでも、参加してしまえば何とかなります。 言語なども含め、不安を上げ始めればきりがないですし、その準備ができるのを待っていると、時間は刻一刻と過ぎてしまい、結局、行けなかったということになります。自分の今後にとって必要な経験だと心から思ったならば、事前準備以上に後先考えずに一歩を踏み出すということが一番大切かもしれません。 ─ 言語・価値観・が違う現地の方々、また駐在している日本の医療者との活動で困ったこと、また工夫などありましたら教えてください。 僕の場合は、人間関係で困ったのは現地スタッフよりも駐在している日本人スタッフとだった様に思います。 困ったと言うよりも僕自身の非であり反省点です。理解しているつもりでしたが、どこかで同じ日本人だから同じ価値観や課題意識を持っていると思い込んでしまい、また、1年という限られた時間に焦りを覚え、自分の課題意識や想いを一方的に押しつける様な事をしてしまいました。自分よりも長く滞在して、本当の意味で現地に貢献すべく日々奮闘している先輩達に対してです。 結果、現場の空気を乱してしまいました。関係性を再構築するためにスタッフ一人一人との『コミュニケーション』をより意識的に行いました。それを通して、現場の課題やニーズ、スタッフ一人一人の想いなどを知る事ができ、自分がどうあるべきなのかが見えた様に思います。 その経験から何をするでも現場の『ニーズ』をまず第一に大切にしないと、それは独り善がりなことであり、現場にとって迷惑でしかないことになり得るという事を理解しました。『自分』ではなく、『相手』を第一に考える事がとても大切であり、それは、途上国支援だけでなく、国内における活動に於いても言える事だと思います。この経験も僕にとって大きな学びとなりました。 カンボジア人スタッフとはそもそも宗教や言語、価値観も違い、わからない事だらけだという前提で心がけていたので、初めからコミュニケーションを密にとることを意識していました。わからないことはきちんと聞く。そうするとみんなとても親切に教えてくれます。それを通して信頼関係も築いて行けたと思います。その中でも特に価値観や環境という部分での違いに関しては、たとえそれが日本ではありえない事であったとしても、自分たちの価値観を押し付けるのではなく、現地の考えを受け入れる、そこに順応する事を意識しました。 もちろん良くできる部分は一緒に良くできるように働きかけますが、あくまでも『自分たちは今、日本ではなく、カンボジアにいる』という事を意識しました。もう1つ言うなら、自分たちは一時的にそこにいるだけの異国の人間であり、今後、カンボジアに直接的に貢献していくのはカンボジア人スタッフであり、継続的な支援のためにも、自分の利益の為に、カンボジア人スタッフの機会を奪う様なことはしないと言う事を意識しました。 僕が自分1人で好き勝手に診療するだけでは、自分がいなくなった後に、同じ質の医療を維持することは難しくなります。なので、必ず、カンボジア人医師と一緒にというのを意識しました。実際には、それも初めての事で上手く行ったり上手くいかなかったりで反省するところが多いのですが。 ─ 現地で医療をする楽しみはなんですか? 『人』を専門とする身としては 1. 日本では経験できない様な疾患、状態の患者さんの診療ができること 2. 限られた人材しかいないため、専門に関係なく、全ての患者さんを診療できること 3. 限られた資源の中での診療となるため、自分の五感やアイデアを駆使して診療を行うことが求められること(アイデアに限界はない。) 4. 日本とは全く違う環境で暮らしている人々を相手にするため、日本の地域医療以上に社会背景や価値観を意識した全人的な医療提供が求められること 5. 様々な価値観を持ったスタッフと一緒に活動ができること が、途上国診療を経験する上での醍醐味だった様に感じます。 途上国での医療は究極の地域医療でした。 ─ 活動地での忘れられないエピソードがあれば教えてください。 1年という期間での経験は、とても多彩で色濃く、忘れられないエピソードは挙げ始めればきりがないのですが、強いて一つ選ぶとしたら、カンボジアという国で1人の患者さんを病院で看取った経験です。 カンボジアでは宗教柄か、人々の間で病院で死ぬことが良しとされない様です。病院で亡くなってしまった場合、ご遺体を自宅へ連れて帰ると、死者を村や家に招き入れたと考えられ、不吉なこととされるそうです。その為、多くの患者さんや家族が、治療を行なっても助かる見込みがないのであれば、生きてる内に自宅に連れて帰りたいと希望されます。その為、治療できる可能性がまだゼロでなくても、治療を途中で止めて、自宅に帰るのを見送らなければいけないことも沢山ありました。それは赤ちゃんからおじいちゃん、おばあちゃんまで例外なくです。 医療者としては、もっと当院で治療できたのではないか、もう少し続けていたら良くなったかもしれない、などといった想いはどうしても残ってしまいます。 帰宅を見送る時はいつも力及ばず、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。 しかし、何よりも患者さん、そして家族の「価値観」を優先すべきでありその見定めの時期は逃さない様にしないといけないと思っています。そんな中、僕たちの病院で最期の時まで診て欲しいと言ってくれた患者さんが1人だけいました。 その女性は37歳という若さでこの世を去りました。 元々プノンペンの大きな病院で原因不明の重症慢性心不全で治療を受けていた彼女ですが、経済的に治療費を払えなくなり、治療中断となってしまいました。 ある時、呼吸状態が悪くなったため、僕たちの病院を訪れました。その時点で、全身状態が良くないのはもちろんですが、それ以上に精神的にも疲弊していました。医療に対しても不信感が募っていたと思います。スタッフの献身的なケアの甲斐あって、順調に回復、退院することができました。 その後も、定期的に外来通院してくださり、その度にお礼にと、たくさんの物を病院に持ってきてくださいました。いつも笑顔いっぱいで受診してくれる彼女に、僕の方が癒されていました。一時は落ち着いている様に思われた彼女でしたが、ある日急変し、緊急受診されました。ただ、厳しい状態であることは間違いなく、医療資源、マンパワーの乏しい僕たちの病院では対応が難しい状態でした。大きな病院への転院または最後を自宅で過ごしたいという希望がある場合には早い時点での自宅への帰宅を本人と旦那さんに提案させて頂きました。しかし、彼女、そして家族の希望は「ここで最期まで診て欲しい。ここにいたい。」ということでした。 カンボジアでの価値観を理解しているからこそ、医療者としてどれ程光栄なことか、その言葉の意味するところを強く感じました。 その日の夜に、僕と夜勤看護師さんの目の前で彼女は息を引き取りました。 側で眠っていた家族に声をかけ、2018年7月9日04時55分。彼女の最後の時を見届けさせて頂きました。旦那さんの許可を頂き、スタッフ10数名でお葬式に参列させて頂きました。 お葬式は自宅で催されました。実際にご家庭を見せて頂くことで、家族の生活の様子が脳裏に浮かび、お葬式の間中、想いに耽っていました。僕にとってもスタッフにとってもとても特別な経験で、それぞれ色んな想いに耽ていたことだと思います。葬式の間中、終始嬉しそうに笑顔を見せてくれる旦那さんの顔から、スタッフが如何に献身的なケアを行っていたかということが伝わってきました。 その後も、一部のスタッフからは「もっとこうしてたら」という後悔の相談がありました。僕自身、「もっと」を言い出すとキリがないくらい悔やむところはあります。 それでも、お金がなく、生活も厳しい彼女と彼女の家族の「最後までここで診て欲しい」その想いを叶えることができたのは、一つ誇っていいことなのではないかとも感じています。そして、選択肢がないからということもありますが、最後には医療者に委ねず、自分たちで生き方を決めるカンボジアの方々を間近でみていて、最後に大切なのはやはり家族なんだなと日々感じています。(「選択肢があれば医療に縋るが選択肢がない」と、あるカンボジア人の方が教えてくれました。)この方も場所は病院でしたが、最後までずっと家族がそばにいました。そこに「正しい」「正しくない」はないのですが、日本も昔はこういう文化があったのかなー。と、少し寂しくなる時があります。 色々なことが「選択できてしまう」環境にいるからこそ、「何が自分たちにとってより大切なもの」なのか、一人一人が責任を持って選択することが必要となっている気がします。そこに医療者への信頼があって、自分たちで選択して「最後を迎える場所は家族と共にここ(病院)がいい」と言ってくれるのであれば、医療者としてこんなに嬉しいことはありません。色んな意味で感慨深い忘れられない経験となりました。 ─ 帰国後はどのような活動をされていますか? 帰国後に関しては、僕の場合は少し特殊かもしれません。僕はジャパンハートに入る以前から、医師としての病院での診療と特定非営利活動法人の代表としての活動の二足のわらじを持っていました。 医師としての働きどころも正直なところ、準備はしていなかったですが、元々いた地域の病院あるいは法人の拠点がある九州の地域で、受け入れてくれるであろう場所があり、あまりそこに不安がなかったのが正直なところです。もちろん可能であれば、帰国後に帰る場所もある程度準備しておくに越した事はないとは思いますが、カンボジアでの経験を活かせる場所は日本国内でも沢山ありますし、ジャパンハートに参加した後に、働く場所に困ったという話は今の所聞いた事がないため、あまり心配しなくてもいいのではないかなとも思います。途上国での医療に触れる事で、自分自身の価値観も変わり、結局準備していたけど、そのまま現地に残ったり、全く違う道を進み始める人もいるので。 帰国後の僕は、東京都の元々いた地域にあるクリニックで、一般外来・在宅診療を含めた地域医療に携りつつ、カンボジアにいる間中断していた、総合診療専門医後期研修を再開し、専門医を修得するべく日々励んでいます。また、特定非営利活動法人の活動として、北九州市を中心に社会福祉法人さんとの医福連携事業、北九州市との官民連携事業、教育機関との連携事業などを通して、北九州市で暮らす人たちと共に、みんなで支え合う地域医療の実現を目指して、様々な活動を行っています。近い将来、僕自身も北九州市に戻って、北九州市で地域医療に従事していこうと思っていますので、その準備も行っています。 また、カンボジアでの1年間の経験をお話する機会を頂き、色々なところで講演会をさせてもらっています。講演会は色々な人に途上国の現状を知ってもらって、関心を持ってもらうだけでなく、伝える事を通して、僕の中でも1年間の経験が整理され、自分のものになっていくのを実感でき、とてもありがたい機会となっています。貴重な経験をさせてもらったからこそ、沢山の人にそれを共有することも僕の役割だと感じています。 その他、現在も2-3ヶ月に1回カンボジアを訪れて、現地調査を行っています。6月にもプノンペンを中心に訪問看護・訪問介護事業を独自に展開しているカンボジア人看護師さんに、患者さん宅訪問に同行させて頂きました。異国間の交流は、各々の国を客観視することで、互いの国をより知る事につながると感じています。これからも定期的にカンボジアを訪れながら、日本-カンボジアの両国で互いに学び合える交流ができるような仕組み作りを行っていけたらと思っています。その中で、外にいるからこそできることを模索しつつ、ジャパンハートの活動にも貢献できる様なことをしていきたいと思っています。 ─ 今後の参加者へのアドバイスと、参加を迷われている方へ一言お願いします。 参加者へのアドバイスとしては、異国のために何かをしようとか、支援をしようとか考える必要はないです。というよりも、1年間いても何もできなかったというのが正直な感想です。それでも、カンボジアの人たちは僕から何かを感じてくれましたし、僕自身は本当にたくさんのことを学ばせて頂きました。お互いに交流を通して学び合う。それでいいんだと思います。一方通行の支援なんてありえないというのが、この1年間で僕が学んだことの1つです。 また、今、参加を迷われている方は、直感的に『行った方がいい!』『行きたい!』って思えたのであれば、ぜひ色々悩む前に一歩を踏み出してみて下さい。違ったら途中で帰国すればいいんです。やる前に悩んでても何もわかりません。やってみてはじめて見える景色があります。 もちろん、行く前に色々準備をする期間も必要です。半年から1年くらい必要かもしれません。だからこそ、それ以前に悩んでいたら結局行けなかったというようなことになりかねません。『半年後、1年後から行く!』と決めて、明日から具体的に準備を始めましょう。そうしてカンボジアへ行った1人としてこれだけは言えます。行ってよかったと思えることはあっても、後悔することは絶対にありません。 (ジャパンハート 2019年7月23 日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 オンライン相談会を実施中です。「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
SARS-CoV-2による一時的な小児多臓器系炎症性症候群患児58例の臨床的特徴
SARS-CoV-2による一時的な小児多臓器系炎症性症候群患児58例の臨床的特徴
Clinical Characteristics of 58 Children With a Pediatric Inflammatory Multisystem Syndrome Temporally Associated With SARS-CoV-2 JAMA. 2020 Jul 21;324(3):259-269. doi: 10.1001/jama.2020.10369. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】新型コロナウイルス感染症2019の発症率が高い地域で、発熱および炎症を伴うまれな症候群を呈する患児の報告が浮上している。 【目的】SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)による一時的な小児多臓器系炎症性症候群(PIMS-TS)の基準を満たした入院患児の臨床所見および検査値の特徴を明らかし、他の小児炎症性疾患の特徴と比較すること。 【デザイン、設定および参加者】2020年3月23日から5月16日の間に、発熱の持続と公開されているPIMS-TSの診断基準を満たした入院患児58例(中央値9歳、33例が女児)の症例集積。最終追跡日は、2020年5月22日であった。診療記録の臨床症状および検査結果を要約し、2002年から2019年に欧米で入院した川崎病(KD)患児(1132例)、川崎病ショック症候群患児(45例)および中毒性ショック症候群患児(37例)の特徴と比較した。 【曝露】英国、米国および世界保健機関(WHO)が定義するPIMS-TSの基準を満たした患児の兆候、症状、検査および画像所見。 【主要評価項目】PIMS-TSの基準を満たした患児の臨床、検査および画像所見、他の小児炎症性疾患の特徴との比較。 【結果】PIMS-TSの基準を満たす患児58例(平均年齢9歳[IQR 5.7-14]、女児20例[34%])を特定した。58例中15例(26%)がSARS-CoV-2ポリメラーゼ連鎖反応検査の結果が陽性、46例中40例(87%)がSARS-CoV-2 IgG検査陽性であった。合わせて、58例中45例(78%)がSARS-CoV-2感染しているか、感染歴があった。全例に発熱および嘔吐(58例中26例、45%)、腹痛(58例中31例、53%)、下痢(58例中30例、52%)などの非特異的症状が見られた。58例中30例(52%)が発疹、58例中26例(45%)が結膜充血を呈した。検査所見の評価で、C反応性蛋白(229 mg/L[IQR 156-338]、全58例で評価)、フェリチン(610 μg/L[IQR 359-128]、58例中53例で評価)などで著名な炎症が認められ、58例中29例がショック(心筋機能障害の生化学的根拠あり)を来たし、強心薬および蘇生輸液投与を要した(機械的換気を実施した29例中23例[79%]を含む)。13例が米国心臓協会が定義するKDの基準を満たし、23例にKDやショックの特徴がない発熱および炎症があった。8例(14%)が冠動脈拡張または冠動脈瘤を来した。PIMS-TSとKDまたはKDショック症候群を比較すると、年齢が高く(年齢中央値9歳[IQR 5.7-14] vs. 2.7歳[IQR 1.4-4.7]および3.8歳[IQR 0.2-18])、C反応性蛋白(中央値229mg/L vs. 67mg/L[IQR 40-150 mg/L]および193mg/L[IQR 83-237])炎症マーカー高値などの臨床所見や検査所見に差が見られた。 【結論および意義】このPIMS-TSの基準を満たした患児の症例集積では、発熱や炎症から心筋障害、ショック、冠動脈瘤までさまざまな徴候、症状および疾患重症度が見られた。KDおよびKDショック症候群の患児と比較からは、この疾患に関する知見が得られ、他の小児炎症性疾患とは異なるものであることが示唆される。 第一人者の医師による解説 COVID-19重症化抑制の治療法につながる 臨床的意義の大きな研究 永田 智 東京女子医科大学小児科学講座主任教授 MMJ. February 2021;17(1):12 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高感染率地域で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)に関連した小児炎症性多系統症候群(PIMS-TS)が報告されており、川崎病との類似性が話題になった。 本論文では、2020年3月?5月に英国の8病院に入院した、英国、米国疾病対策予防センター(CDC)または世界保健機関(WHO)のPIMS-TS基準を満たした小児58人について、臨床的特徴をカルテレビューで抽出し、2002~19年に欧米の病院に入院した川崎病患者(1,132人)、川崎病ショック症候群患者(45人)、トキシックショック症候群患者(37人)と比較検討した。 これらPIMS-TS症例はSARS-CoV-2 PCR検査で58人中15人(26%)が陽性、SARS-CoV-2 IgG抗体検査で46人中40人(87%)が陽性であった。全例で発熱、約半数で嘔吐、腹痛、下痢の消化器症状を認めていた。同様に約半数は発疹や結膜充血といった川崎病類似の症候を呈していた。血清CRPは中央値22.9mg/dL(四分位範囲[IQR],15.6~33.8)、フェリチンも中央値610μg/L(IQR,359~1,280)と全般に高値であった。58人中29人(50%)が心筋機能障害を高頻度に伴うショックをきたし、そのうち23人(79%)は人工呼吸器管理を要していた。13人は米国心臓学会(AHA)の川崎病基準を満たし、興味深いことに8人は冠動脈拡張または冠動脈瘤を合併していた。 本研究では、PIMS-TS、川崎病、川崎病ショック症候群の三者が比較された。PIMS-TSでは罹患年齢の中央値が9歳(IQR,5.7~14)と一般の川崎病(中央値2.7歳)や川崎病ショック症候群(中央値3.8歳)より高かった。また、PIMS-TSの血清CRPは、川崎病(中央値6.7mg/dL)よりかなり高値の傾向にあったが、川崎病ショック症候群とは僅差であった(中央値19.3mg/dL)。 これらのPIMS-TS症例は、発熱・心筋障害・ショック・冠動脈瘤形成といった多臓器にまたがる多彩な症候を示していたが、全般に重症であった。これまで、川崎病に類似した症候をもつ他の疾患は数少なく、しかも冠動脈病変を有する疾患はほとんど報告されていない。PIMS-TSを丁寧に調べることにより、川崎病の病態発症、特に冠動脈病変の発生機序を考える上で、重要なヒントが得られる可能性がある。さらに、川崎病の標準治療である免疫グロブリン大量療法がCOVID-19の重症型であるPIMS-TSの治療に有効であることが証明されれば、COVID-19の重症化抑制に安全性の高い有効な治療選択肢が加わることになり、当検討の臨床的な意義は大きいことになる。
小児の喘息発症および喘鳴持続に関連がある大気汚染および家族関連の決定因子 全国症例対照研究
小児の喘息発症および喘鳴持続に関連がある大気汚染および家族関連の決定因子 全国症例対照研究
Air pollution and family related determinants of asthma onset and persistent wheezing in children: nationwide case-control study BMJ. 2020 Aug 19;370:m2791. doi: 10.1136/bmj.m2791. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】小児の喘息発症および喘鳴時属の危険因子(大気汚染および家族関連)を明らかにすること。 【デザイン】全国症例対照研究 【設定】デンマーク 【参加者】1997年から2014年に出生したデンマーク人小児全例。1歳から15歳まで喘息発症および喘鳴持続を追跡した。 【主要評価項目】喘息発症および喘鳴の持続。 【結果】両親に喘息がある小児(調整ハザード比2.29、95%CI 2.22~2.35)および母親が妊娠中に喫煙していた小児(1.20、1.18~1.22)の喘息発症率が高く、親が高学歴の小児(0.72、0.69~0.75)および親が高収入の小児(0.85、0.81~0.89)の喘息発症率が低かった。直径2.5μm以下および10μm以下の大気中微小粒子状物質(PM2.5およびPM10)、硝酸塩への曝露があると喘息発症および喘鳴持続のリスクが上昇し、汚染物質濃度5μg/m3増加当たりのハザード比はPM2.5で1.05(95%CI 1.03~1.07)、PM10で1.04(1.02~1.06)、二酸化窒素で1.04(1.03~1.04)だった。PM2.5の喘息および喘鳴持続との正の関連は、さまざまなモデルや感度解析の結果、唯一頑強性が維持された。 【結論】この研究結果からは、高濃度PM2.5に曝露した小児は、曝露していない小児に比べて喘息発症および喘鳴持続が起きやすいことが示唆される。この転帰に関連を示すその他の危険因子に、両親の喘息、両親の学歴および母親の妊娠中の喫煙があった。 第一人者の医師による解説 地域差が大きいPM2.5の影響 日本のエコチル調査の結果が待たれる 勝沼 俊雄 慈恵会医科大学附属第三病院小児科診療部長・教授 MMJ. February 2021;17(1):16 小児の喘息発症に関わる因子は個体因子と環境因子からなり、それらは予防対策の基本となる。個体因子は家族歴が主となり、環境因子としては吸入アレルゲン曝露と気道ウイルス感染が議論や対策の中心といえる。少なくとも近年において大気汚染の寄与を強調する傾向はみられない。 しかし今回、デンマークにおける18年に及ぶ全国規模の症例対象研究の結果を踏まえ、本論文の結語として最も強調しているのは、PM2.5の喘息・持続性喘鳴への関与でありその対策である。デンマークでは1976年に国家的な患者登録制度(National Patient Register;LPR)を開始し、本研究は上記患者レジストリに登録されている1997~2014年にデンマークで生まれた子どものデータを解析している。すなわち1歳から15歳までに喘息の診断を受けたか、2種類以上の抗喘息薬を処方された小児(122,842人)に関し、喘息の診断を受けていないランダムに選択された25倍の数の対照(3,069,943人)と比較した。 その結果、喘息・喘鳴頻度を高める因子として親の喘息(調整済みハザード比[HR], 2.29;95%信頼区間[CI], 2.22~2.35)と妊娠中の母体喫煙(HR, 1.20;95% CI, 1.18~1.22)、低める因子として親の高い教育レベル(HR, 0.72;95% CI, 0.69~0.75)と 高収入(HR, 0.85;95 % CI, 0.81~0.89)が特定された。そして大気汚染物質の中では、唯一PM2.5への曝露が喘息・喘鳴のリスクを有意に高めることが明らかとなり、PM2.5濃度が5μg/m3上昇するごとにリスクが1.05(95% CI, 1.03~1.07)倍高まるという結果が得られた。調査全体におけるPM2.5の平均値(SD)は12.2(1.5)μg/m3であった(下位5%の平均値は9.7μg/m3、上位5%は14.8g/m3)。 数年前の中国のように著しいPM2.5曝露下においては、半世紀以前の公害喘息(川崎喘息、四日市喘息など)同様、強い関与がありうると私自身は考えていた。しかしながら、本研究で示された平均約12μg/m3というPM2.5のレベルは、東京(15μg/m3程度)と大差ないレベルである。PM2.5が5μg/m3上昇するごとに小児の喘息・喘鳴リスクが5%高まるということは、喘息自体の有病率が5%であることから無視できない影響といえる。喘息の最前線で働いてきた臨床医としては実感しにくいが、PM2.5の影響は地域差が大きいであろうから日本における調査に注目したい。喘息、アレルギーを含む大規模な出生コホート調査で、2011年から始まったエコチル調査の結果が待たれる
ビタミンD低値喘息患児の重度喘息増悪にもたらすビタミンD3補給の効果 VDKA無作為化臨床試験
ビタミンD低値喘息患児の重度喘息増悪にもたらすビタミンD3補給の効果 VDKA無作為化臨床試験
Effect of Vitamin D3 Supplementation on Severe Asthma Exacerbations in Children With Asthma and Low Vitamin D Levels: The VDKA Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Aug 25;324(8):752-760. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】重度の喘息増悪は死に至ることがあり、医療費もかかる。ビタミンD3補給によって小児期の重度喘息増悪が抑制できるかは明らかになっていない。 【目的】ビタミンD3補給によって、ビタミンD低値喘息患児の重度増悪までの時間が改善するかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】Vitamin D to Prevent Severe Asthma Exacerbations(VDKA)試験は、血清25-ヒドロキシビタミンD値が30ng/mL未満で低用量吸入ステロイドを投与している6~16歳の高リスク喘息患児で、ビタミンD3補給によって重度増悪までの時間が改善するかを検討した二重盲検プラセボ対照無作為化臨床試験である。米国7施設から被験者を組み入れた。2016年2月に、400例を目標に登録を開始した。試験は無益性のため早期に(2019年3月)中止され、2019年9月に追跡を終了した。 【介入】被験者をビタミンD3群(1日当たり4000IU、96例)とプラセボ群(96例)に割り付け、48週間にわたって投与し、フルチカゾン176μg/日(6~11歳)または220μg/日(12~16歳)投与を継続した。 【主要評価項目】主要評価項目は、重度喘息増悪までの時間とした。ウイルス誘発重度増悪までの時間、試験期間の中間時点で吸入ステロイド用量が減少した被験者の割合および期間中のフルチカゾン累積投与量を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した192例(平均年齢9.8歳、女児88例[40%])のうち180(93.8%)が試験を完遂した。ビタミンD3群の36例(37.5%)およびプラセボ群の33例(34.4%)が1回以上の重度増悪を来した。プラセボと比べると、ビタミンD3補給による重度増悪までの時間の有意な短縮は見られず、増悪までの平均期間はビタミンD3群240日、プラセボ群253日だった。(平均群間差-13.1日、95%CI -42.6~16.4、調整ハザード比1.13、95%CI 0.69~1.85、P=0.63)。同様に、プラセボと比較したビタミンD3補給によるウイルス誘発重度増悪、試験期間の中間時点で吸入ステロイド用量が減少した被験者の割合および期間中のフルチカゾン累積投与量の改善度に有意差はなかった。両群の重度有害事象発現率はほぼ同じだった(ビタミンD3群11例、プラセボ群9例)。 【結論および意義】喘息が持続する低ビタミンD値の小児で、プラセボと比べてビタミンD3補給によって重度喘息増悪まで時間の有意な改善は認められなかった。この結果からは、この患者群に重度喘息増悪予防のためビタミンD3を補給することは支持されない。 第一人者の医師による解説 小児に対するプラクティスとしてのビタミンD投与は中止すべき 横山 彰仁 高知大学医学部呼吸器 ・アレルギー内科学教授 MMJ. February 2021;17(1):17 ビタミンDは肺の重要な成長因子であり、また免疫系において制御性T細胞の誘導、Th2やTh17反応の抑制、IL-10産生などを引き起こすことが知られている。さらに、気道のマイクロバイオームに影響し、平滑筋肥大を抑制しコラーゲン沈着を抑制することで気道リモデリングに抑制的に働くことも報告されている。こうした研究に一致するように、血中ビタミン D濃度が低下した患者では、重症の喘息増悪、肺機能低下、ステロイド反応性の低下などが生じることも知られている。 以上から、ビタミンDには喘息の1次予防効果が期待されるが、残念ながらその有用性は不明である。妊婦や幼児へのビタミンD補充は後年の家ダニへの感作抑制につながるとの報告もあるが、喘息発症を抑制するかは不明である。ただし、ビタミンDには、ライノウイルスの増殖を抑制し、インターフェロンによる抗ウイルス作用を促進するなど、ウイルス感染による発作を抑制する可能性はある。実際にメタ解析ではビタミンD補充は、喘息増悪のリスクを有意に低下させることが示されている。ただ、16歳以下に関しては有意な結果は得られていない。以上から、小児へのビタミンD投与は推奨されるに至っていないが、これまでの研究では、血中濃度が低い、重症増悪リスクが高い患児を対象としていないなどの問題点が指摘されていた。 本研究の利点として以下の3点が挙げられる:①参加者の血中ビタミンD濃度を測定し、濃度が低いことを確認した上で試験に登録している、②補充により実際に血中濃度が上昇したことを確認している、③前年に重症増悪歴のあるリスクが高い患児を対象とし、重症増悪発症までの期間を主要評価項目としている。 当初、本試験では重症増悪発症率で16%の絶対差を検出できるサンプルサイズの400人を目標として設定したが、予定されていた中間解析で有効性が認められず早期中止となった。最終的には目標の半分以下の192人を、48週間のプラセボ群またはビタミンD群に1:1に割り付けた。結果として、重症増悪はビタミン群で36人(37.5%)、プラセボ群で33人(34.4%)に認められ、主要評価項目である発症までの期間はもとより、ウイルス感染による重症増悪、吸入ステロイド薬の減量や累積使用量に関しても有意差は認められず、ビタミンD投与の有効性は認められなかった。 今回の結果を踏まえると、既報から小児に対しプラクティスとしてビタミン D濃度を測定し、投与する施設があるならば、中止すべきであろう。
ポルトガルの小児で検討したB群髄膜炎菌ワクチン接種とB群侵襲性髄膜炎菌感染症の関連
ポルトガルの小児で検討したB群髄膜炎菌ワクチン接種とB群侵襲性髄膜炎菌感染症の関連
Association of Use of a Meningococcus Group B Vaccine With Group B Invasive Meningococcal Disease Among Children in Portugal JAMA. 2020 Dec 1;324(21):2187-2194. doi: 10.1001/jama.2020.20449. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】小児のB群侵襲性髄膜炎菌感染症を予防するワクチンには多成分B群髄膜炎菌ワクチン(4CMenB)以外にないが、マッチさせた対照とワクチンの効果を比較した試験はない。 【目的】4CMenB接種とB群侵襲性髄膜炎菌感染症の関連を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】発生密度対症例対照研究。2014年10月から2019年3月までの間にポルトガルの小児病院31施設を受診した患者を特定し、死亡または退院まで追跡した(最終追跡2019年6月)。検査で侵襲性髄膜炎菌感染症が確定したポルトガルに居住する小児および思春期小児を対象とした。同時期に同じ病院に無関係の病態で入院した対照(通常1例につき2例)を性別、年齢および居住地でマッチさせた。 【曝露】全国データベースから取得した4CMenBによる予防接種(年齢により2~4用量を推奨)。 【主要評価項目】主要評価項目は、対照と比較した予防接種完了者のB群侵襲性髄膜炎菌感染症とした。副次評価項目は、対照と比較した予防接種完了者の全血清型侵襲性髄膜炎菌感染症および1回以上接種した対照と比較した症例の侵襲性髄膜炎菌感染症とした。 【結果】侵襲性髄膜炎菌感染症患児117例のうち、98例が組み入れ基準を満たし、82例がB型侵襲性髄膜炎菌感染症であった。69例がワクチン接種を完了する年齢に達しており、保護されていたとみなした。この69例の月齢中央値は24(四分位範囲4.5~196)カ月、42例が男児であり、入院期間中央値は8(四分位範囲0~86)日間であった。症例69例中5例(7.2%)と対照142例中33例(23.1%)がワクチン接種を完了していた(差-16.0%[95%CI -26.3%~-5.7%]、オッズ比[OR]0.21[95%CI 0.08~0.55])。全血清型の侵襲性髄膜炎菌感染症でみると、症例85例中6例(7.1%)と対照175例中39例(22.3%)がワクチン接種を完了していた(差-15.2%[95%CI -24.3%~-6.1%]、OR 0.22[95%CI 0.09~0.53])。B群感染症では、症例82例中8例(9.8%)と対照168例中50例(29.8%)が1回以上ワクチンを接種していた(差-20.0%[95%CI -30.3%~-9.7%]、OR 0.18[95%CI 0.08~0.44])。全血清型の侵襲性髄膜炎菌感染症では、症例98例中11例(11.2%)と対照201例中61例(30.3%)が1回以上ワクチンを接種して受けていた(差-19.1%[95%CI -28.8%~-9.5%]、OR 0.23[95%CI 0.11~0.49])。 【結論および意義】ポルトガルでのワクチン接種開始から最初の5年間で、侵襲性髄膜炎菌感染症を発症した小児の方が発症しなかった対照の小児よりも4CMenBワクチンを接種した割合が低かった。この結果は、臨床現場での4CMenBワクチン使用を周知するのに有用である。 第一人者の医師による解説 国内未承認のB群髄膜炎菌ワクチン 今後の承認を期待 神谷 元 国立感染症研究所実地疫学研究センター主任研究官 MMJ. December 2021;17(6):185 本論文は、ポルトガルの小児科医療機関31施設が参加し、B群髄膜炎菌(MenB)ワクチンの有効性を年齢、性別、居住地区、受診医療機関についてマッチングした症例対照研究により検討した結果の報告である。調査期間(2014年10月~19年3月)、ポルトガルではMenBワクチンは定期接種化されておらず、国内の1歳児のMenBワクチン接種率(2回)は56.7%(2018年)であった。299人の小児が参加し、MenBによる侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の予防効果をエンドポイントとした解析では、オッズ比が0.21(95%信頼区間[CI], 0.08?0.55)、他の血清群を含めたIMDの予防効果はオッズ比が0.22(95% CI, 0.09?0.53)となり、ワクチン効果(VE)は78~79%と一定の効果を認めた。また、調査期間におけるIMDの原因菌の内訳はB群が84%を占めていたが、MenBワクチン接種者でIMDを発症した11人のうち、8人はMenB、3人はそれ以外の血清群の菌による感染であった。11人の転帰は良好で合併症も認められなかった(未接種者では26%に合併症が認められた)。髄膜炎菌ワクチンは4つの血清群(A、C、W、Y)の莢膜多糖体を用いた4価ワクチン(MCV4ワクチン)が実用化されているが、B群がこのワクチンに含まれていない理由は、B群の莢膜多糖体がヒトの脳の糖鎖と構造が似ているため、ほかの血清群のようにワクチン成分として莢膜多糖体を利用できないことにある。しかし、近年の技術と研究の進歩により、外膜の表層蛋白を用いたMenBワクチンが開発され、米国、カナダ、オーストラリア、欧州では承認されている。このワクチンは、MenBに対する予防効果はもちろんのこと、髄膜炎菌に共通する外膜の表層蛋白を用いているため、ほかの血清群による髄膜炎菌感染症への予防効果も期待されている。日本では2021年7月時点でMenBワクチンは未承認であるが、国内のIMDサーベイランスの結果によると、一定の割合でMenBによるIMDが報告されている(1)。また、東京2020大会のような国際的なマスギャザリングが開催されると国内でそれまで検出されることが少ない髄膜炎菌が認められ、IMD発症事例も起こるため(2)、MenBワクチンの国内での承認が今後期待される。なお、ポルトガルではその後2020年に2カ月、4カ月、12カ月齢児にMenBワクチンを定期接種化している(3)。 1. 国立感染症研究所. IASR.2018;39:1-2. https://bit.ly/2W5FwwO 2. Kanai M, et al. Western Pac Surveill Response J. 2017;8(2):25-30. 3. ECD C. Vaccine S cheduler Pneumo co ccal Dis eas e:Recommended vaccinations https://bit.ly/39xLERD
小児期の鉛暴露とMRIで測定した中年期の脳構造の統合性の関連
小児期の鉛暴露とMRIで測定した中年期の脳構造の統合性の関連
Association of Childhood Lead Exposure With MRI Measurements of Structural Brain Integrity in Midlife JAMA. 2020 Nov 17;324(19):1970-1979. doi: 10.1001/jama.2020.19998. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】小児期の鉛曝露に脳の発達の阻害と関連があるが、脳構造の統合性にもたらす長期的な影響が未だ明らかになっていない。 【目的】小児期の鉛暴露によってMRIで測定した中年期の脳構造の統合性が低下するという仮説を検証すること。 【デザイン、設定および参加者】ダニーデン研究では、ニュージーランドで1972~1973年に出生した集団代表コホート(解析対象564例)を45歳まで(2019年4月まで)追跡した。 【曝露】11歳時に測定した小児期の鉛曝露。 【主要評価項目】45歳時のMRIで評価した脳構造の統合性(主要評価項目):灰白質(皮質厚、表面積、海馬体積)、白質(大脳白質病変、拡散異方性[理論的範囲0{完全に等方性拡散}~100{完全に異方性拡散}]およびBrain Age Gap Estimation[BrainAGE、実年齢と機械学習アルゴリズムで推定した脳年齢の差の複合指標{0:脳年齢と実年齢が同じ;正数は脳年齢が高く、負数は脳年齢が若い}])。45歳時の認知機能をウェクスラー成人知能検査第4版(WAIS-Ⅳ、IQ範囲40~160点、平均100点に標準化)を用いて客観的に、情報提供者および自己報告(zスコア単位;尺度平均0[SD 1])で主観的に評価した。 【結果】最初の参加者1,037例中997例が45歳時点で生存しており、そのうち564例(男性302例、女性262例)が11歳時に鉛検査を受けていた(追跡期間中央値34[四分位範囲33.7~34.7]年)。11歳時点の血中鉛濃度が平均10.99(SD 4.63)μg/dLであった。共変量で調整後、小児期の血中鉛濃度が5μg/dL増加するたびに、皮質表面積の1.19cm2減少(95%CI -2.35~-0.02cm2、P=0.05)、海馬体積の0.10cm3減少(95%CI -0.17~-0.03cm3、P=0.006)、拡散異方性の低下(b=-0.12、95%CI -0.24~-0.01、P=0.04)、45歳時のBrainAGEの0.77歳上昇(95%CI 0.02~1.51、P=0.05)が認められた。血中鉛濃度と対数変換した白質病変体積(b=0.05 log mm3、95%CI -0.02~0.13 log mm3、p=0.17)や平均皮質厚(b=-0.004mm、95%CI -0.012~0.004mm、p=0.39)との間に統計的な有意差は認められなかった。小児期の血中鉛濃度が5μg/dL増加するたびに、45歳時のIQスコア2.07低下(95%CI -3.39~-0.74、P=0.02)、情報提供者が評価した認知機能障害スコア0.12増加(95%CI 0.01~0.23、P=0.03)との有意な関連が認められた。小児期の血中鉛濃度と自己報告による認知的問題との間に統計学的有意な関連は認められなかった(b=-0.02ポイント、95%CI -0.10~0.07、P=0.68)。 【結論および意義】中央値で34年追跡したこの縦断的コホート研究では、小児期の血中鉛濃度高値にMRIを用いた脳構造の測定項目との関連が見られ、中年期の脳構造の統合性が低下することが示唆された。多重比較のため、第1種の過誤が生じた結果があると考えられる。 第一人者の医師による解説 脳表面積や海馬容積を減少させ 成人期脳機能と負の相関があることを示唆 高橋 孝雄(教授)/三橋 隆行(専任講師) 慶應義塾大学医学部小児科学教室 MMJ. April 2021;17(2):56 小児期の化学物質などへの曝露が知能に悪影響を与えることがこれまで指摘されてきた。具体的には、水銀、鉛、多環式芳香族炭化水素やダイオキシン類の低濃度曝露が小児の知能に悪影響を与える可能性が報告されている。鉛については、1980年代まで使用された有鉛ガソリンによる大気汚染の影響や、現在禁止されている鉛を含有した白色塗料の経口摂取があり、小児の血中鉛濃度と知能発達との関連性が報告されてきた。 本論文は、ニュージーランド・ダニーデンで1972~73年に出生し、11歳時に血中鉛濃度を測定された出生コホートを対象とした縦断的前向きコホート研究(Dunedin Study)の報告である。先行解析では鉛曝露量が増えると38歳時の知能指数が低下する相関性が示されていたことから(1)、生後小児期の血中鉛濃度と45歳時の脳構造異常との関連性を検討した。脳MRI画像をもとに各脳構造を計測した結果、血中鉛濃度の上昇に伴い脳表面積と海馬容積が減少することが明らかとなった。さらに、脳機能の参考指標となる拡散強調画像により得られる異方性比率(global fractional anisotropy)の低下や、機械学習を用いた人工知能による推定脳年齢が悪化する点も判明した。 本研究の評価できる点としては、他のコホート研究に比べ社会経済的背景による鉛曝露量の偏りがない点が挙げられる。他の先行研究では、高収入の家庭の子どもはそうでない子どもに比べ鉛曝露量が多くても知能指数が下がりにくいといった報告(2)があるが、今回、家庭の経済状況や教育レベルといったバイアスを排除し、純粋な鉛曝露の影響を明らかにできた点が評価できる。 一方、本研究の限界として、今回検出された脳構造の異常が小児期にすでに存在したのか、あるいは成人に至る過程で生じたのか不明な点が挙げられる。また、仮に生後の鉛曝露のみの影響を検出しているとしても、脳の成熟化の異常なのか、完成された脳構造の変性による表面積の減少などなのかについては不明な点が残されている。 以上の限界はあるものの、本成果は小児期の鉛曝露が小児期のみならず成人期の認知機能に悪影響を与える可能性を解剖学的な脳の構造異常により裏付けたものと評価できる。被験者の主観的な認知機能には変化がなく、また偽陽性の可能性は残されてはいるものの、鉛曝露が中年期の認知機能を悪化させている可能性が危惧される。今後は、他の化学物質についても同様の検討が行われることが必要であろう。 1. Reuben A, et al. JAMA. 2017;317 (12):1244-1251. 2. Marshall AT, et al. Nat Med. 2020;26(1):91-97.
乳児に用いるビデオ喉頭鏡の初回成功率(VISI) 多施設共同無作為化対照試験
乳児に用いるビデオ喉頭鏡の初回成功率(VISI) 多施設共同無作為化対照試験
First-attempt success rate of video laryngoscopy in small infants (VISI): a multicentre, randomised controlled trial Lancet. 2020 Dec 12;396(10266):1905-1913. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32532-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】乳児に対する直接喉頭鏡を用いた気管挿管は困難である。今回、麻酔科医による標準ブレード型ビデオ喉頭鏡によって、直接喉頭鏡と比較して気管挿管初回成功率が改善し、合併症リスクが低下するかを明らかにすることを目的とした。著者らは、ビデオ喉頭鏡による初回成功率は直接喉頭鏡よりも高いという仮説を立てた。 【方法】この多施設共同並行群間無作為化対照試験では、米国の小児病院4施設とオーストラリアの小児病院1施設の手術室で気管挿管を要するが気道確保が困難でない乳児を組み入れた。ブロック数2、4、6の置換ブロック法を用いて、患児をビデオ喉頭鏡と直接喉頭鏡に(1対1の比率で)無作為に割り付け、施設と医師の役割で層別化した。保護者に処置の割り付けを伏せた。主要評価項目は、気管挿管時に初回で成功した乳児の割合とした。解析(修正intention-to-treat[mITT]集団およびper-protocol)に一般化推定方程式モデルを用いて、在胎期間、米国麻酔学会の術前全身状態分類、体重、医師の役割および施設で層別化した。試験は、ClinicalTrials.govにNCT03396432で登録されている。 【結果】2018年6月4日から2019年8月19日の間に乳児564例を組み入れ、282例(50%)をビデオ喉頭鏡、282例(50%)を直接喉頭鏡に割り付けた。乳児の平均年齢は5.5カ月(SD 3.3)であった。ビデオ喉頭鏡群の274例と直接喉頭鏡群の278群をmITT解析の対象とした。ビデオ喉頭鏡群では254例(93%)、直接喉頭鏡では244例(88%)が初回挿管に成功した(調整絶対リスク差5.5%[95%CI 0.7~10.3]、P=0.024])。ビデオ喉頭鏡群の4例(2%)、直接喉頭鏡群の15例(5%)に重度合併症が発生した(-3.7%[-6.5~-0.9]、P=0.0087)。ビデオ喉頭鏡群(1例[1%未満])の方が直接喉頭鏡群(7例[3%])よりも食道挿管が少なかった(同-2.3[-4.3~-0.3]、P=0.028)。 【解釈】麻酔下の乳児で、標準ブレード型ビデオ喉頭鏡を用いると初回成功率が改善し、合併症も減少した。 第一人者の医師による解説 乳児に対する気管挿管はビデオ喉頭鏡の使用が望ましい 大原 卓哉(助教)/清野 由輩(講師)/山下 拓(教授) 北里大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 MMJ. June 2021;17(3):90 毎年、多くの乳児が気管挿管を必要とする全身麻酔手術を受けている。乳児は成人に比べ気管挿管時のリスクが高く、初回での気管挿管成功は重要であり、複数回の気管挿管は生命を脅かす合併症につながる可能性がある。ビデオ喉頭鏡は、気道確保が困難な乳児に対して直接喉頭鏡よりも初回成功率が高いことが報告されているが、構造的に正常な気道を持つ乳児におけるビデオ喉頭鏡の有用性については議論の余地があった。 本論文は、全身麻酔手術を受ける乳児に対する標準ブレード型ビデオ喉頭鏡を使用した気管挿管の有効性と安全性を検討した米国とオーストラリアの小児病院における多施設共同並行群間ランダム化比較試験の報告である。対象は、年齢12カ月齢未満、全身麻酔手術(30分以上の非心臓手術)、麻酔科医による気管挿管を受ける患者とされた。除外基準は、挿管困難の病歴、頭蓋顔面異常の病歴、または身体検査に基づく挿管困難が予測された患者であった。麻酔科医は、標準ブレード型ビデオ喉頭鏡(Storz C-Mac Miller Video Laryngoscope)または直接喉頭鏡のいずれかをランダムに割り当てられ、乳児に気管挿管を行った。気管チューブのサイズはガイドラインに基づいて選択され、気管挿管後24時間までの挿管関連有害事象が検討された。 最終的に274人(50%)がビデオ喉頭鏡、278人(50%)が直接喉頭鏡に割り付けられ、結果が解析された。ビデオ喉頭鏡の93%、直接喉頭鏡の88%で気管挿管に初回で成功し、特に体重6.5kg以下の乳児では、ビデオ喉頭鏡の初回成功率が直接喉頭鏡に比べ有意に高かった(92%対81%;P=0.003)。挿管試行回数も、ビデオ喉頭鏡の方が少なかった。重篤でない合併症(軽度喘鳴、喉頭痙攣[薬物 投与の必要性、緊急気管挿管を伴う]、気管支痙攣 、軽度気道外傷 、気道過敏化)の発生率は2群間で差はなかったが、ビデオ喉頭鏡では、重篤な合併症(中等度〜重度低酸素血症、食道挿管、心停止、咽頭出血)の発生が少なかった。特に、食道挿管は直接喉頭鏡では3%であったのに対し、ビデオ喉頭鏡では1%未満であった。また、ビデオ喉頭鏡では輪状軟骨圧迫の必要性が減少した。 毎年乳児への気管挿管が多く行われているが、 気管挿管中は重篤な有害事象が発生するリスクがあるため、初回成功率が5%向上することは非常に意味があると考えられる。費用的な課題はあるが、より高い初回成功率およびより少ない合併症のため標準ブレード型ビデオ喉頭鏡が広く使用されることが望まれる。
脳性麻痺患者のエクソーム解析の分子診断率
脳性麻痺患者のエクソーム解析の分子診断率
Molecular Diagnostic Yield of Exome Sequencing in Patients With Cerebral Palsy JAMA. 2021 Feb 2;325(5):467-475. doi: 10.1001/jama.2020.26148. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】脳性麻痺は、運動や姿勢に影響を及ぼすよく見られる神経発達障害であり、他の神経発達障害と併発することが多い。脳性麻痺は出生時仮死に起因することが多いが、最近の研究から、仮死が脳性麻痺症例に占める割合が10%未満であることが示唆されている。 【目的】脳性麻痺患者でエクソーム解析の分子診断率(病原性変異および病原性の可能性が高い変異の検出率)を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】2012~18年のデータを用いた臨床検査紹介コホートと2007~17年のデータを用いた医療機関主体コホートから組み入れた脳性麻痺患者の後ろ向きコホート研究。 【曝露】コピー数変異を検出するエクソーム解析。 【主要評価項目】主要評価項目は、エクソーム解析の分子診断率とした。 【結果】臨床検査紹介コホート1345例の年齢中央値は8.8歳(四分位範囲4.4~14.7歳、範囲0.1~66歳)で、601例(45%)が女性であった。医療機関主体コホート181例の年齢中央値は41.9歳(同28.0~59.6歳、範囲4.8~89歳)で、96例(53%)が女性であった。エクソーム解析の分子診断率は、臨床検査紹介コホートで32.7%(95%CI 30.2~35.2%)、医療機関主体のコホートでは10.5%(同6.0~15.0%)であった。分子診断率は、知的障害、てんかん、自閉症スペクトラム障害がない患者の11.2%(同6.4~16.2%)から、上記の3疾患がある患者の32.9%(同25.7~40.1%)まで幅があった。遺伝子229個(1526例のうち29.5%)から病原性変異および病原性の可能性が高い変異が同定され、そのうち2例以上(1526例のうち20.1%)に遺伝子86個の変異があり、両コホートから変異がある遺伝子10個が独立して同定された。 【結論および意義】エクソーム解析を実施した脳性麻痺患者の2つのコホートで、病原性変異および病原性の可能性が高い変異の有病率は、主に小児患者から成るコホートで32.7%、主に成人患者から成るコホートで10.5%であった。一連の結果の臨床的意義を理解するために、さらに詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 脳性麻痺児にエクソーム解析が行われれば、3分の1で病的バリアントを検出 武内 俊樹 慶應義塾大学医学部小児科専任講師 MMJ. June 2021;17(3):86 脳性麻痺は、脳を原因とする運動や姿勢の異常であるが、実際には、運動障害に限らず、知的障害や発達障害を合併することも多い。これまで脳性麻痺は、胎児期や分娩時の低酸素虚血が主な原因と考えられてきたが、近年では、明らかな分娩時低酸素虚血に起因するものは、脳性麻痺の10%程度を占めるに過ぎないことがわかってきた。また、知的障害や自閉症の多くについて、コピー数変異、遺伝子変異・多型と関連していることがわかってきている。 本論文は、脳性麻痺の小児・成人患者におけるエクソーム解析による分子遺伝学的診断率(病的バリアントおよび病的と思われるバリアントの有病率)を明らかにすることを目的とした後方視的研究の報告である。2012~18年にエクソーム解析を受けた「臨床検査室紹介コホート」(1,345人、年齢中央値8.8歳)、および主に民間医療機関(Geisinger)共同ゲノム解析プロジェクト(DiscovEHR)において2007~17年にエクソーム解析を受けた「医療機関登録コホート(181人、年齢中央値41.9歳)の2群に分けて検討した。病的および病的と思われるバリアントの有病率は、「臨床検査室紹介コホート」では32.7%(95%信頼区間[CI], 30.2 ~ 35.2%)、「医療機関登録コホート」では10.5%(95% CI, 6.0 ~ 15.0%)であった。 本研究の意義は、大規模な脳性麻痺の集団に対してエクソーム解析を行った場合に、かなりの頻度で病的バリアントが検出されることを明らかにした点である。特に、小児を中心とする「臨床検査室紹介コホート」における病的バリアントの有病率は、一般的な、未診断疾患患者に対するエクソーム解析の診断率に近い。すなわち、「脳性麻痺」という臨床診断の有無にかかわらず、原因不明の知的障害、運動障害の小児においては、両親も含めたトリオのエクソーム解析を行うことで、3割ほどで分子遺伝学的診断を得ることができる。本研究の限界点として、保険病名をもとに抽出した後方視的研究であり脳性麻痺の定義が厳密ではないこと、また「医療機関登録コホート」の患者は成人であり、両親が高齢のため、両親と本人のデータの比較ができていない点が挙げられる。診断法が進歩した今日でも、運動障害、知的障害・発達障害の原因を特定することは容易ではないが、日本における脳性麻痺児においても、エクソーム解析が行われれば、本研究と同程度の頻度で、症状を説明しうる遺伝子異常が検出されると類推される。
韓国の思春期女子で検討したヒトパピローマウイルスワクチン接種と重篤な有害事象の関連
韓国の思春期女子で検討したヒトパピローマウイルスワクチン接種と重篤な有害事象の関連
Association between human papillomavirus vaccination and serious adverse events in South Korean adolescent girls: nationwide cohort study BMJ. 2021 Jan 29;372:m4931. doi: 10.1136/bmj.m4931. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】韓国の思春期女子のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種と重篤な有害事象の関連を明らかにすること。 【デザイン】コホート研究。 【設定】2017年1月から2019年12月までの全国予防接種登録情報システムと全国保健情報データベースをひも付けた大規模データベース。 【参加者】2017年に予防接種を受けた11~14歳の女子44万1399例。38万2020例がHPVワクチンを接種し、5万9379例がHPVワクチンを接種していなかった。 【主要評価項目】内分泌疾患、消化器疾患、心血管疾患、筋骨格系疾患、血液疾患、皮膚疾患および神経疾患など重篤な有害事象33項目を評価項目とした。主解析にコホートデザイン、2次解析に自己対照リスク期間デザインを用いた。両解析ともにHPVワクチン接種後1年間を各転帰のリスク期間とした。主解析では、ポワソン回帰分析を用いてHPVワクチン接種群とHPV未接種群を比較した発生率および調整率比を推定し、2次解析では条件付きロジスティック回帰分析を用いて調整相対リスクを推定した。 【結果】事前に規定した33項目の有害事象は、コホート解析では、橋本甲状腺炎(10万人年当たりの発生率:ワクチン接種群52.7 vs. 36.3、調整率比1.24、95%CI 0.78~1.94)、関節リウマチ(同168.1 vs. 145.4、0.99、0.79~1.25)などにはHPVとの関連は認められなかったが、例外として片頭痛リスクの上昇が認められた(10万人年当たりの発生率:ワクチン接種群1235.0 vs ワクチン未接種群920.9、調整率比1.11、95%CI 1.02~1.22)。自己対照リスク期間を用いた2次解析から、HPVワクチン接種に片頭痛(調整率比0.67、95%CI 0.58~0.78)も含めた重篤な有害事象との関連がないことが示された。追跡調査期間にばらつきがあったり、ワクチンの種類が異なったりしても、結果に頑健性があった。 【結論】HPVワクチン接種50万回以上の全国規模のコホート研究では、コホート研究および自己対照リスク期間解析いずれを用いても、HPVワクチン接種と重篤な有害事象の間の関連性を裏付ける科学的根拠が認められなかった。病態生理学および対象母集団を考慮に入れ、片頭痛に関する一貫性のない結果を慎重に解釈すべきである。 第一人者の医師による解説 思春期女子へのHPVワクチン接種と 重篤な有害事象の関連を示すエビデンスはない 中野 貴司 川崎医科大学小児科学教授 MMJ. August 2021;17(4):124 著者らは、韓国の大規模データベースを用いて11~14歳の思春期女子におけるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種と重篤な有害事象との関連を評価した。重篤な有害事象として以下の33種類の疾病・病態を選択した:(1)内分泌疾患(グレーブス病、橋本甲状腺炎、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、1型糖尿病)、(2)消化器疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎、消化性潰瘍、膵炎)、(3)心血管疾患(レイノー病、静脈血栓塞栓症、血管炎、低血圧)、(4)筋骨格疾患と全身性疾患(強直性脊椎炎、ベーチェット症候群、若年性特発性関節炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス)、(5)血液疾患(血小板減少性紫斑病、IgA血管炎)、(6)皮膚疾患(結節性紅斑、乾癬)、(7)神経疾患(ベル麻痺、てんかん、ナルコレプシー、麻痺、片頭痛、ギラン・バレー症候群、視神経炎、神経痛と神経炎、脳内出血、錐体外路・運動障害)、(8)結核。接種ワクチンの種類は、接種者382,020人中、4価ワクチン295,365人、2価ワクチン86,655人であった。HPVワクチン非接種群59,379人は日本脳炎ワクチンまたはTdapワクチンの接種を受けた。平均観察期間は、HPVワクチン接種群とHPVワクチン非接種群でそれぞれ407,400人・年と60,500人・年であった。 1次解析ではコホート解析、2次解析では自己対照リスク間隔解析を用いた。両解析とも接種後1年のリスク期間を設定し、HPVワクチン接種群と非接種群について、1次解析では有害事象ごとに発生率と調整比率をポアソン回帰を用いて推定した。2次解析では条件付きロジスティック回帰分析を用いて、調整相対リスクを推定した。 33種類の重篤な有害事象について、1次解析の結果では片頭痛を除いてHPVワクチンとの関連を認めなかった。片頭痛についてはHPVワクチン接種群で有意なリスク上昇が観察されたが、95%信頼区間(CI)は1に近かった(1.11/100,000人・年;95% CI, 1.02 ~ 1.22)。2次解析の結果は、片頭痛(調整相対リスク, 0.67;95%CI, 0.58~0.78)を含めて、すべての有害事象についてHPVワクチン接種群における有意なリスク上昇は観察されなかった。感度解析やサブグループ解析の結果もおおむね合致していた。 以上より、HPVワクチン接種と重篤な有害事象の関連を示すエビデンスはないと考えられた。ただし片頭痛については一部の解析でリスク上昇が認められ、その病態生理と関心のある集団を考慮して、注意して解釈する必要がある。
脊髄性筋萎縮症I型に用いるrisdiplam
脊髄性筋萎縮症I型に用いるrisdiplam
Risdiplam in Type 1 Spinal Muscular Atrophy N Engl J Med. 2021 Mar 11;384(10):915-923. doi: 10.1056/NEJMoa2009965. Epub 2021 Feb 24. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】脊髄性筋萎縮症I型は、機能性生存運動ニューロン(SMN)タンパク低値によって生じるまれな進行性神経筋疾患である。risdiplamは、SMN2のRNA前駆体スプライシングを修飾し、機能性SMNタンパク値を上昇させる経口投与可能な小分子である。 【方法】支えなしで座位が保持できない1-7カ月齢の脊髄性筋萎縮症I型乳児を対象にrisdiplamを検討した、2段階から成る第II/III相非盲検試験のパート1の結果を報告する。主要評価項目は、安全性、薬物動態、薬力学(血中SMNをタンパク濃度など)およびパート2で用いるrisdiplamの用量決定とした。5秒間以上の支えなしでの座位保持能を探索的評価項目とした。 【結果】乳児計21例を組み入れた。4例を低用量群とし、12カ月時の最終用量を1日当たり0.08mg/kgとした。17例を高用量群とし、12カ月時の最終用量を1日当たり0.2mg/kgとした。ベースラインの血中SMNタンパク濃度中央値は低用量群1.31ng/mL、高用量群2.54ng/mLであり、12カ月時に中央値はそれぞれ3.05ng/mL、5.66ng/mLまで増加し、ベースラインの中央値のそれぞれ3.0倍、1.9倍となった。重篤な有害事象に肺炎、気道感染、急性呼吸不全があった。本稿発表時点では、4例が呼吸器合併症のため死亡している。高用量群の7例が支えなしで5秒間以上座位が保持できたが、低用量群では1例も認められなかった。試験のパート2に用いる用量には高用量(1日当たり0.2mg/kg)を用いることが決定した。 【結論】脊髄性筋萎縮症I型乳児で、経口risdiplamを用いた治療によって血中機能性SMNタンパク発現量が増加した。 第一人者の医師による解説 リスジプラムは全身に作用 有効性と安全性の追加検証を期待 佐橋 健太郎 名古屋大学医学部附属病院脳神経内科講師/勝野 雅央 名古屋大学大学院医学研究科神経内科学教授 MMJ. August 2021;17(4):111 脊髄性筋萎縮症(SMA)は主にSMN1遺伝子欠失変異によるSMN蛋白欠乏により、脳幹や脊髄の下位運動ニューロン変性に伴う、進行性筋力低下、筋萎縮をきたす予後不良の遺伝性疾患である。SMA最多の重症の1型は6カ月齢までに発症し、座位保持能を獲得できず、呼吸筋麻痺により寿命は中央値10.5カ月(1)とされる。ヒトはSMN1重複遺伝子であるSMN2を有するが、mRNA前駆体のエクソン 7の選択的スプライシングによりSMN2からは機能性 SMN蛋白が十分に産生されない。治療薬としては、核酸医薬ヌシネルセンや低分子化合物リスジプラムによるSMN2スプライシング制御治療や、組換えアデノウイルスベクター製剤オナセムノゲン アベパルボベクによるSMN遺伝子補充療法が開発されており、リスジプラムは全身に作用する特色がある。 本論文は、リスジプラム開発元 F. Hoffmann-La Roche社による研究支援のもと、1型 SMN乳児21人(中央値6.7カ月齢:他試験より経過が長い例(2),(3))を対象に実施されたリスジプラム第2/3相非盲検単一群試験(FIREFISH試験)のパート 1の報告である。主要評価項目は安全性、薬物動態、薬力学と、パート 2のための投与量選択とし、また事後分析による探索的評価項目として、永続的な呼吸補助の必要のない無イベント生存、支持なしで5秒以上の座位保持能 (BSID-Ⅲの第22項)、CHOPINTENDとHINE-2運動機能スコアなどが設定された。その結果、12カ月の観察期間で低用量、高用量コホートともに血漿 SMN蛋白上昇が示されたが(それぞれベースライン値の3.0、1.9倍)、個人内の測定値のばらつきが問題として挙げられた。全体21人中19人で無イベント生存、高用量コホート 7人で座位保持能獲得が確認され、また自然歴ではほぼ観察されない運動機能スコアの改善が特に高用量コホートでみられている。一方、重篤な有害事象として肺炎、気道感染がみられた。死亡例の原因は呼吸器合併症であり、SMAに伴う呼吸不全と分類されているが、多くが高用量コホートであり、薬剤関連性の可能性除外も必要と考えられる。最終的にパート 2では高用量のリスジプラム使用が支持されており、さらにリアルワールド設定に近い2?25歳の、重症度の下がる2/3型対象のプラセ ボ 対照二重盲検第2/3相試験(SUNFISH試験:NCT02908685)も進行中であり、リスジプラムの有効性と安全性についての追加検証が待たれる。 略 号:BSID- Ⅲ(Bayley Scales of Infant and Toddler Development, third edition)、CHOP-INTEND (Children's Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders)、HINE-2(Hammersmith Infant Neuromuscular Examination) Finkel RS, et al. Neurology. 2014;83(9):810-817. Finkel RS, et al. N Engl J Med. 2017;377(18):1723-1732. Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2017;377(18):1713-1722.
原発性高シュウ酸尿症1型に用いるRNAi治療薬lumasiran
原発性高シュウ酸尿症1型に用いるRNAi治療薬lumasiran
Lumasiran, an RNAi Therapeutic for Primary Hyperoxaluria Type 1 N Engl J Med. 2021 Apr 1;384(13):1216-1226. doi: 10.1056/NEJMoa2021712. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】原発性高シュウ酸尿症1型(PH1)は、肝臓でシュウ酸が過剰に産生されることによって生じるまれな遺伝性疾患であり、腎結石や腎石灰化症、腎不全、全身性シュウ酸症を引き起こす。開発中のRNA干渉(RNAi)治療薬、lumasiranは、グリコール酸オキシダーゼを標的として肝臓でのシュウ酸の産生を抑制する。 【方法】この第III相二重盲検試験では、6歳以上のPH1患者をlumasiran群とプラセボ群に(2対1の割合で)割り付け、6カ月間皮下投与した(ベースラインと1、2、3、6カ月時に投与)。主要評価項目は、ベースラインから6カ月時までの24時間尿中シュウ酸排泄量の変化率(3~6カ月時までの平均変化率)とした。ベースラインから6カ月時までの血漿中シュウ酸値の変化率(3~6カ月時までの平均変化率)と6カ月時に24時間尿中シュウ酸排泄量が正常範囲上限の1.5倍以下であった患者の割合を副次評価項目とした。 【結果】計39例を無作為化し、26例をlumasiran群、13例をプラセボ群に割り付けた。24時間尿中シュウ酸排泄量の変化率の最小二乗平均差(lumasiran-プラセボ)は-53.5%ポイントであり(P<0.001)、lumasiran群では65.4%低下し、1カ月時に効果が認められた。階層的に検討した全副次評価項目の群間差は有意であった。血漿中シュウ酸値の変化率の差(lumasiran-プラセボ)は-39.5%ポイントであった(P<0.001)。6カ月時の24時間尿中シュウ酸排泄量が正常範囲上限の1.5倍以下であった患者の割合は、lumasiran群84%、プラセボ群0%であった(P<0.001)。lumasiran群の38%に軽度かつ一過性の注射部位反応が報告された。 【結論】lumasiranは、PH1の進行性腎不全の原因となる尿中シュウ酸排泄を抑制した。lumasiranを投与した患者の大多数は、6カ月間の治療後に正常値または正常値に近い値を示した。 第一人者の医師による解説 臓器移植に代わるPH1患者の革新的根治治療薬 他の希少疾患でのRNAi治療薬の開発を期待 笠原 群生 国立成育医療研究センター臓器移植センター長・副院長 MMJ. August 2021;17(4):125 高シュウ酸尿症1型(PH1)は常染色体劣性遺伝疾患で、肝臓のペルオキシソームに局在するアラニン・グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ(AGT)の欠損により、シュウ酸が過剰に産生される疾患である。過剰なシュウ酸はシュウ酸カルシウムとなり、腎結石・腎不全・全身のシュウ酸カルシウム沈着(皮膚、骨、網膜、心血管など)をきたす予後不良の疾患である。発症頻度は10万人に1人~100万人に1人の希少疾患である。小児期に腎結石で発症する患者が多いが、診断が困難で43%の患者が腎不全となってから診断され、14%が15.5歳(中央値)で死亡すると報告されている(1)。根治手術には肝移植が有効であるが、併存する進行性の腎不全により肝腎同時移植が必要な患者もある。 ルマシランはRNA干渉治療薬でAGT上流にあるグリコール酸オキシダーゼをエンコードするmRNAを阻害することで、肝臓でのシュウ酸産生を抑制する。今回の研究は、6歳以上で慢性腎臓病(CKD)ステージ 3以下の遺伝子診断されたPH1患者にルマシランを6カ月間使用し、皮下(3mg/kgを最初の1 ~ 3カ月は月1回、その後3カ月ごとに1回)投与群(26人)とプラセボ群(13人)に割り付け比較検討する、無作為化二重盲検第3相試験として実施された。ルマシラン投与群で推定糸球体濾過量(eGFR)に変化を認めなかったが、24時間尿中シュウ酸排泄量および血漿シュウ酸濃度で有意な低下を認めた。腎結石症状もルマシラン投与群で減少した。ルマシラン投与による主な有害事象は皮下注射部位の発赤・痛み・掻痒感であったが、一過性であった。ルマシランはPH1患者に安全に投与可能で、尿中シュウ酸排泄量を正常値近くまで減少することが可能であった。 PH1患者にはビタミン B6内服や水分摂取などの治療法が試みられてきたが、進行性の腎障害、腎不全、骨病変、眼病変、心機能不全を認めることがあり、肝移植や肝腎移植が適用されてきた。ルマシランは臓器移植に代わるPH1患者の革新的な根治治療薬になりえ、希少疾患患者のアンメット・メディカル・ニーズに応える薬剤である。今後他の希少疾患でRNAi治療薬の基礎的研究・臨床応用が期待される。 1. Mandrile G, et al. Kidney Int. 2014;86(6):1197-1204.
全年齢層に適用可能な血清クレアチニン値に基づく新たな糸球体濾過量推定式の開発および検証 統合データの横断解析
全年齢層に適用可能な血清クレアチニン値に基づく新たな糸球体濾過量推定式の開発および検証 統合データの横断解析
Development and Validation of a Modified Full Age Spectrum Creatinine-Based Equation to Estimate Glomerular Filtration Rate : A Cross-sectional Analysis of Pooled Data Ann Intern Med. 2021 Feb;174(2):183-191. doi: 10.7326/M20-4366. Epub 2020 Nov 10. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】小児用Chronic Kidney Disease in Children Study(CKiD)推定式および成人用Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)推定式は、糸球体濾過量(GFR)推定に推奨される血清クレアチニン(SCr)を基にした計算式である。しかし、いずれの式も、両者を組み合わせたとしても、欠点があり、特に思春期から成人期への移行中にGFRが大幅に変動し、若年成人のGFRが過剰に推定される問題がある。全年齢層対象(FAS)式はこの問題を解決するものであるが、SCr値が低いとGFRを過剰に推定する。 【目的】FASとCKD-EPI式の特徴を組み合わせたSCrに基づく改定FAS式を開発し、検証すること。 【デザイン】開発および検証に別々の統合データを用いた横断解析。 【設定】GFRを測定した研究および臨床試験(13件)。 【参加者】7試験の参加者計1万1251例(開発および内部検証データ)および6試験の参加者計8378例(外部検証データ)。 【評価項目】新たなGFR推定式の開発に、外因性マーカー(参照方式)、SCr値、年齢、性別および身長を用いた。 【結果】新たな推定式、European Kidney Function Consortium(EKFC)式は、全年齢(2~90歳、小児で-1.2 mL/min/1.73m^2[95%CI -2.7~0.0 mL/min/1.73m^2]、成人で-0.9 mL/min/1.73m^2[CI, -1.2~-0.5mL/min/1.73m^2])およびSCr全範囲(40~490µmol/L[0.45~5.54 mg/dL])でバイアスが小さく、CKiD式、CKD-EPI式と比べて30%を超える推定誤差もほとんどなかった(小児で6.5%[CI 3.8~9.1%]、成人で3.1%[CI 2.5~3.6%]。 【欠点】黒人が対象に含まれていない点。 【結論】新たなEKFC式は、広く用いられているSCR値からGFRを推定する式と比べて、正確性および精度が改善した。 第一人者の医師による解説 全年齢層に適用できる推算式 長期にわたる腎機能の経過観察を可能に 後藤 淳郎 医療法人社団永康会 中目黒クリニック院長 MMJ. August 2021;17(4):120 腎機能障害は将来の末期腎不全だけでなく心血管イベントさらには死亡とも関連することから、腎機能は臨床における重要な指標である。主要な腎機能を代表する糸球体濾過量(GFR)の正確な測定は、手技やコストの面から容易ではなく、濾過の指標となるイヌリンなどの外因性物質を体内に投与し複数回採血・採尿を行う必要がある。クレアチニン(Cr)やシスタチン Cなど内因性物質のクリアランスを利用すればGFRを算出できるが、やはり採血・採尿は必要である。そこで、血清クレアチニン値と年齢、性、人種などを組み合わせたGFR推算式が各種考案されて日常臨床で使用されている。わが国では日本人でのイヌリン・クリアランスを基準に作成された式が広く普及し、慢性腎臓病(CKD)の病期分類に利用されている。 一方、世界的には1〜16歳のCKDを有する小児で作成されたChronic disease in Children Study(CKiD)式と健常人なら びにCKDを有する成人で作成されたChronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)式がKidney Disease Improving Global Outcome(KDIGO)のガイドラインで推奨されて広く用いられている。両式ともGFRが過剰に評価される年齢層や対象があり、小児から成人に移行する年齢ではCrはほぼ不変なのにGFRが大きく変動するなどの限界が指摘され、この点を解決すべくfull age spectrum (FAS)式が提案されたが、解決には至っていなかった。 今回 FAS式とCKD-EPI式を組み合わせて、血清Cr値に基づく推算GFR式として発表されたEuropean Kidney Function Consortium(EKFC)式は、CKiD式、CKD-EPI式に比べて、より正確にGFRを推算できることが本論文で示されている。EKFC式は、まず7研究11,251人の個々の成績から導かれ、その妥当性が内部検証された。次に異なる6研究8,378人での成績を用いてさらに検証が加えられた。EKFC式では2〜90歳の年齢を通じて、また0.45〜5.54mg/dLの広範な血清Cr値を通じ標準法による基準値とのバイアスが小さく、30%超の推算誤差がCKiD式、CKD-EPI式に比べて少なく正確度が高まること、さらにEKFC式では小児と成人の境界年齢でもGFR値がスムーズに変化することが確認された。ただし、白人のみの成績であり、黒人など他人種へ適用できるかは問題点として残る。 1つの推算式で小児から青年期さらに壮年期への移行に伴ってeGFR推算がスムーズにできれば確かに長期にわたる腎機能の経過観察が可能となり、全年齢層での疫学調査や腎疾患の長期追跡研究などに役立つことが期待される。
思春期および若年成人期の1型糖尿病に用いるハイブリッド型クローズドループシステム2種の比較(FLAIR):多施設共同無作為化クロスオーバー試験
思春期および若年成人期の1型糖尿病に用いるハイブリッド型クローズドループシステム2種の比較(FLAIR):多施設共同無作為化クロスオーバー試験
A comparison of two hybrid closed-loop systems in adolescents and young adults with type 1 diabetes (FLAIR): a multicentre, randomised, crossover trial Lancet. 2021 Jan 16;397(10270):208-219. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32514-9. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】1型糖尿病の管理は困難である。著者らは、思春期および若年成人期の1型糖尿病患者を対象に、市販のハイブリッド型クローズドループシステムと開発中の新たなシステムを用いた結果を比較した。 【方法】この多施設共同無作為化クロスオーバー試験(Fuzzy Logic Automated Insulin Regulation[FLAIR])では、米国4施設、ドイツ、イスラエルおよびスロベニア各1施設の大学病院内分泌科で、1年以上前に1型糖尿病の臨床診断を受け、インスリンポンプまたは多数の1日1回インスリン注射を用いており、HbA1cが7.0~11.0%(53~97mmol/mol)の14~39歳の患者を募集した。試験に用いるポンプと持続グルコースモニタの使い方を指導する導入期間ののち、参加者をコンピュータが生成した数列を用いて、置換ブロックデザイン(ブロックの長さ2または4)で、治療前のHbA1cおよび登録時のMiniMed 670G system(Medtronic社)使用の有無で層別化した上で、最初の12週間をMiniMed 670G hybrid closed-loop system(670G)と開発中の高機能ハイブリッド型クローズドループシステム(Medtronic社)に(1対1の割合で)割り付け、その後の12週間をウォッシュアウト期間を設けずにもう一方のグループに交差させた。使用するシステムの性質上、遮蔽化は不可能であった。主要評価項目は、6時00分から23時59分(日中など)までの間に血糖値が180mg/dL(>10.0mmol/L)を超えた時間の割合および24時間のうち血糖値が54mg/dL(<3.0mmol/L)を下回った時間の割合とし、持続グルコースモニタで測定し、非劣性を評価した(非劣性のマージン2%)。intention to treatで解析することとした。治療を割り付けた患者全例で安全性を評価した。この試験はClinicalTrials.govにNCT03040414で登録されており、現在は終了している。 【結果】2019年6月3日から8月22日の間に113例を試験に組み入れた。平均年齢が19歳(SD 4)、70例(62%)が女性であった。日中の血糖値が180mg/dL(>10.0mmol/L)を超えた時間の平均割合が ベースラインで42%(SD 13)、670Gシステム使用中で37%(9)、高機能ハイブリッド型クローズドループシステム使用中で34%(9)であった(平均差[高機能ハイブリッド型クローズドループシステム-670Gシステム]-3.00%[95%CI -3.97~-2.04];P<0.0001)。24時間のうち血糖値が54mg/dL(<3.0mmol/L)を下回った時間の平均割合が試験開始前で0.46%(SD 42)、670Gシステム使用中で0.50%(0.35)、高機能ハイブリッド型クローズドループシステム使用中で0.46%(同0.33)であった(平均差[高機能ハイブリッド型クローズドループシステム-670Gシステム]-0.06%[95%CI ~0.11~-0.02];非劣性のP<0.0001)。高機能ハイブリッド型クローズドループシステム群で重篤な低血糖発作が1件発生したが、試験治療と関連がないと考えられ、670G群では1件もなかった。 【解釈】市販のMiniMed 670Gと比べると、開発中の高機能ハイブリッド型クローズドループシステムを用いた思春期および若年成人期の1型糖尿病患者で、低血糖発作が増えることなく高血糖が減少した。社会経済的因子のため十分なサービスを受けられていない集団や、妊婦、低血糖症状を自覚できない患者で高機能ハイブリッド型クローズドループシステムを検証すれば、この技術をさらに有効に活用することができるであろう。 第一人者の医師による解説 糖尿病合併症やQOLの改善など より長期の研究で検討する必要あり 長澤 薫 虎の門病院内分泌代謝科糖尿病・代謝部門特任医長 MMJ. October 2021;17(5):146 思春期や若年成人期の1型糖尿病患者の血糖コントロールは難易度が高く、やりがいのある課題である。本論文は、従来より使用されているハイブリッド型クローズドループシステム(HCLS;患者のグルコース値のアルゴリズムに基づき、ベーサルインスリンの投与量を調整するシステム)MiniMed670G(Medtronic社)と、現在開発中の次世代型のアドバンストハイブリッド型クローズドループシステム(AHCLS;従来の機能に加え、5分おきの自動修正ボーラスなど人工膵臓のアルゴリズムを用い、より強化されたインスリン調整機能が搭載されたシステム)(Medtronic社)の多施設共同無作為化クロスオーバー比較試験(FLAIR試験)の報告である。 米国、ドイツ、イスラエル、スロベニアの4カ国、計7つの専門施設で、診断後1年以上の14~29歳の1型糖尿病患者113人を対象とした。参加者のHbA1c値は7.0~11.0%で、ポンプの使用方法を習得するrun-in期間の後、初めにHCLSを使用する群とAHCLSを使用する群の2群に無作為に割り付け、12週間それぞれの機器を使用後、washout期間を設けずにクロスオーバーし、もう一方のインスリンポンプを12週間使用した。 主要評価項目は日中(6~24時)のグルコース値180mg/dL超、1日におけるグルコース値54mg/dL未満の時間の割合とされた(非劣性を検証、マージン 2%)。その結果、グルコース値180mg/dL超の時間はベースライン 42%であったが、HCLS使用期間は37%、AHCLS使用期間は34%と、HCLSに比べAHCLS使用期間では-3.0%(95%信頼区間[CI], -3.97~-2.04;P<0.0001)と高グルコース値の割合は有意に低下した。グルコース値54mg/dL未満の割合はベースライン 0.46%、HCLS使用期間は0.5%、AHCLS使用期間は0.46%と、AHCLS使用期間では-0.06%(95% CI, -0.11 ~-0.02;非劣性 P<0.0001)と有意な上昇は認められなかった。 AHCLS使用期間で1例の重症低血糖を認めたが、機器との関連はなかった。本試験はHCLSとAHCLSを直接無作為化クロスオーバーで比較した最初の論文で、AHCLSは従来型に比べ、低血糖を増やすことなく、有意に高血糖を減少させた。AHCLSのような進化したインスリン自動注入システムが高血糖、低血糖、自己管理の負担を減少させ、さらには糖尿病合併症、患者の生活の質(QOL)を改善するか否か、より長期の研究で検討する必要がある。実用化にあたっては適切なターゲット血糖値、アクティブインスリン(インスリンの作用時間)の設定など、さらなる議論も要するであろう。
初回再発を認めた高リスクB細胞性急性リンパ性白血病患児の無事象生存期間にもたらすブリナツモマブと化学療法の作用の比較:無作為化臨床試験
初回再発を認めた高リスクB細胞性急性リンパ性白血病患児の無事象生存期間にもたらすブリナツモマブと化学療法の作用の比較:無作為化臨床試験
Effect of Blinatumomab vs Chemotherapy on Event-Free Survival Among Children With High-risk First-Relapse B-Cell Acute Lymphoblastic Leukemia: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Mar 2;325(9):843-854. doi: 10.1001/jama.2021.0987. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】ブリナツモマブは、CD3/CD19を標的とした二重特異性T細胞誘導作用を有する抗体製剤であり、再発または難治性B細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)患児に有効である。 【目的】初回再発を認めた高リスクB-ALL患児で、同種造血幹細胞移植前のブリナツモマブによる3回目地固め療法後の無事象生存期間を地固め化学療法と比較すること。 【デザイン、設定および参加者】この第III相無作為化試験では、2015年11月から2019年7月までの間に患者を登録した(データ打ち切り日、2019年7月17日)。13カ国47施設で、無作為化時に形態学的完全寛解(M1 marrow、骨髄中芽球細胞5%未満)またはM2 marrow(骨髄中芽球細胞5%以上25%未満)で、28日齢を超える18歳未満の初回再発高リスクB-ALL患児を登録した。 【介入】患者をブリナツモマブ1サイクル(54例、15μg/m2/日、4週間、持続点滴静注)と3コース目地固め化学療法(54例)に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は無事象生存率とした(事象:再発、死亡、二次がんまたは完全寛解未達成)。有効性に関する主な副次評価項目は全生存率とした。微小残存病変陰性化および有害事象発現率をその他の副次評価項目とした。 【結果】計108例を無作為化により割り付け(年齢中央値5.0歳[四分位範囲{IQR}4.0~10.5]、女児51.9%、M1 marrow 97.2%)、全例を解析対象とした。本試験への登録は、予め定めた中止基準に従って、早期有効中止となった。追跡期間中央値22.4カ月(IQR 8.1~34.2)での事象発生率は、ブリナツモマブ群31%、地固め化学療法群57%であった(log-rank検定のP<0.001、ハザード比0.33、95%CI 0.18~0.61)。ブリナツモマブ群の8例(14.8%)、地固め化学療法群の16例(29.6%)が死亡した。全生存のハザード比は0.43(95%CI 0.18~1.01)だった。ブリナツモマブ群の微小残存病変陰性化が地固め化学療法群よりも多かった(90%[49例中44例] vs. 54%[48例中26例]、差35.6%[95%CI 15.6~52.5])。致命的な有害事象は報告されなかった。ブリナツモマブ群と地固め化学療法群を比較すると、重篤な有害事象発現率はそれぞれ24.1% vs 43.1%、グレード3以上の有害事象発現率は57.4% vs 82.4%であった。ブリナツモマブ群の2例に治療中止に至る有害事象が報告された。 【結論および意義】初回再発を認めた高リスクB-ALL患児で、同種造血幹細胞移植前のブリナツモマブ1サイクルによる治療によって、多剤強化標準化学療法に比べ、追跡調査期間中央値22.4カ月で無事象生存率が改善した。 第一人者の医師による解説 安全に深い寛解を達成し 同種造血幹細胞移植の成績向上に寄与することを示唆 森 毅彦 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科血液内科学教授 MMJ. October 2021;17(5):150 小児急性リンパ性白血病(ALL)は成人のそれとは異なり、標準的な多剤併用化学療法により高い治癒率を得ることができる。しかし、再発した場合の予後は不良であり、その根治のためには同種造血幹細胞移植(HSCT)が実施される。同種HSCTは移植後の合併症による死亡と移植後のALL再発が、その成績に大きく影響する。移植後再発のリスクは残存腫瘍が少ないほど低いため、深い寛解を達成して移植に臨むのが理想的である。そのために毒性の強い化学療法を行ってきたが、近年、新規治療法が導入されてきている。その1つがブリナツモマブであり、bispecifi c T-cell engager(BiTE)抗体と呼ばれ、異なる抗原結合部位をもつ2重特異性抗体である。B細胞性腫瘍が発現するCD19と抗腫瘍効果を発揮するT細胞表面上のCD3を標的としている。小児再発・治療抵抗性 ALLを対象とした試験において39%の寛解率、そのうちの約半数が微少残存腫瘍の消失を達成した(1)。 本論文は再発後の治療で寛解を達成した小児高リスクALL患者を対象に、同種HSCT前の3回目地固め療法(1コース)をブリナツモマブ単剤と多剤併用化学療法に無作為に割り付けた臨床試験の結果を示したものである。この治療後に同種HSCTを実施する患者が対象であり、年齢中央値は5歳であった。本試験は中間評価にてブリナツモマブ群の成績が優れていたことから、早期に中止となった。24カ月無イベント生存率はブリナツモマブ群66.2%、化学療法群27.1%と有意差がみられた。24カ月再発率も24.9%と70.8%、微少残存腫瘍陰性化率も90%と54%と有意差がみられた。重篤な有害事象はブリナツモマブ群で少なかった。ブリナツモマブにより安全に深い寛解を達成し、同種HSCTの成績向上に寄与することが示唆された。 本研究の限界としては、小児を対象としていること、化学療法により寛解を達成した患者を対象としていること、1コースのブリナツモマブと化学療法を比較している点などが挙げられる。実診療では若年・成人のALL患者も多く、ブリナツモマブを非寛解例に使用することや複数コース使用するケースも多い。またブリナツモマブ以外にもCD19を標的としたchimeric antigen receptor T-cell (CAR-T)療法やCD22を標的とした抗体薬物複合体のイノツズマブ オゾガマイシンも実診療で使用可能となっており、これらの薬剤との比較や併用療法などの有効性・安全性を評価する試験が実施されることで、再発ALLの最適な治療法の発展につながっていくと考えられる。 1.von Stackelberg A, et al. J Clin Oncol. 2016;34(36):4381-4389.
栄養不良の小児への細菌叢を標的とした食事介入
栄養不良の小児への細菌叢を標的とした食事介入
A Microbiota-Directed Food Intervention for Undernourished Children N Engl J Med. 2021 Apr 22;384(16):1517-1528. doi: 10.1056/NEJMoa2023294. Epub 2021 Apr 7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】世界で3,000万人以上の小児が中等度急性栄養不良の状態にある。現在の治療は効果に乏しく、この病態の原因について明らかになっていない点も多い。中等度急性栄養不良の小児では、腸内細菌叢の発達が阻害されている。 【方法】この試験では、スラムに居住し中等度急性栄養不良がある12~18カ月齢のバングラデシュ人小児123例に、細菌を標的とした補完食のプロトタイプ(microbiota-directed complementary food prototype:MDCF-2)またはすぐに食べられる栄養補助食(ready-to-use supplementary food:RUSF)を提供した。補充は3カ月間にわたり1日2回実施し、その後1カ月間モニタリングした。介入開始前、介入期間中の2週に1回および4カ月時、身長に対する体重、年齢に対する体重、年齢に対する身長のzスコアを求め、上腕中央部周囲長を計測した。介入開始前と3カ月時、介入開始前と4カ月時で、この関連表現型の変化率を比較した。このほか、タンパク質4,977種の血漿濃度と糞便中の細菌群209種の量を測定した。 【結果】小児118例(各試験群59例)が介入を完遂した。身長に対する体重と年齢に対する体重のzスコアの変化率は、1カ月間の追跡調査を含む試験期間中、MDCF-2が成長にもたらす便益と一致していた。MDCF-2の摂取に、血漿タンパク質70種の濃度と関連細菌群21種の量に見られた変化の度合いとの関連が認められ、この変化の度合いには身長に対する体重のzスコアと正の相関が認められた(タンパク質と細菌群、いずれの比較でもP<0.001)。このタンパク質には、骨成長や神経発達の媒介因子が含まれていた。 【結論】この結果は、中等度急性栄養不良の小児に用いる栄養補助食としてMDCF-2を支持し、細菌叢の構成要素を標的とした操作が小児の成長につながる機序を知る上での手掛かりをもたらすものである。 第一人者の医師による解説 危険性がなくコスト面でも有利 適応年齢や継続的な投与の必要性が今後の検討課題 金森 豊 国立成育医療研究センター小児外科系専門診療部外科診療部長 MMJ. October 2021;17(5):157 本論文の臨床試験には先行研究(1)があり、腸内細菌叢の成熟が遅れた低栄養児に対して、腸内細菌叢を正常栄養児の年齢相応の状態に誘導する補助栄養剤MDCF(microbiota-directed complementary food)の開発が報告されている。今回はそのうちの1製剤(MDCF-2)の有効性が従来の補助栄養剤(ready-to-use supplementary food;RUSF)と無作為化対照試験で比較された。バングラデシュ・ダッカのミルプール地域在住の中等度の低栄養児(身長体重比がコホート中央値の−2〜−3SD未満)118人がMDCF-2またはRUSFを3カ月間投与され、投与終了後1カ月間追跡された。その結果、MDSF-2群では、RUSFと比較し、身長体重比と年齢体重比のz-スコアが増加傾向を示した。また、身長体重比の上昇と変化量が有意な正の相関を示す蛋白として、骨成長および中枢神経系の成長に関連する蛋白が特定された。これらの蛋白群はMDCF-2群で増加が顕著であった。また、腸内細菌叢の変化から、身長体重比のz-スコアと正の相関を示す21種の細菌が特定された。これらはMDCF-2群で有意に増加しており、正常発達している児の腸内細菌叢に近づいていることが示唆された。一方、RUSF群では有意な変化がみられなかった。 腸内細菌叢の異常がさまざまな疾患と関連していることは最近多くの研究が示しており、低栄養の改善に腸内細菌叢が関与していることは想像に難くない。実際、低栄養の改善を目的に腸内細菌叢をコントロールしようという研究は活発である。1つの方法論は、プロバイオティクスという概念に包含される、宿主に有用な細菌の腸管内投与である。古くはビフィズス菌や乳酸菌などの単独投与が行われたが、最近では糞便移植や有用と考えられるいくつかの細菌を選別して投与する方法などが脚光を浴びている。しかし、有用菌の選別や有害菌の除去などに問題があり、コストの面からも難しい側面を持つ。そこで今回の報告のような、腸内細菌叢を宿主にとって有利な方向に誘導する栄養補助食品(プレバイオティクスと呼んでもいい方法論)の開発が注目される。この方法は大量に菌を投与するような危険性がなく、コストの面でも有利で、発展途上国などに多い低栄養児に応用するには有利である。本研究もそのような利点を十分に考慮に入れた研究で、今後のさらなる発展が期待される報告である。一方、この方法論が世界的にどの地域でも通用するかどうか、また適応年齢の制限がないかどうか、継続的な投与が必要かどうか、など今後検討するべき点も多い。 1. Gehrig JL, et al. Science. 2019;365(6449):eaau4732.
反復性急性中耳炎に用いる鼓膜換気チューブ留置術と薬物療法の比較
反復性急性中耳炎に用いる鼓膜換気チューブ留置術と薬物療法の比較
Tympanostomy Tubes or Medical Management for Recurrent Acute Otitis Media N Engl J Med. 2021 May 13;384(19):1789-1799. doi: 10.1056/NEJMoa2027278. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】反復性急性中耳炎の小児に用いる鼓膜換気チューブ留置について、公式な推奨事項が一致していない。 【方法】6カ月以内に3回以上急性中耳炎を発症したか、12カ月以内に4回以上急性中耳炎を発症し、そのうち1回以上が6カ月以内の発症であった6~35カ月齢の小児を鼓膜換気チューブ留置術群と発症時に抗菌薬を投与する薬物療法群に無作為化により割り付けた。主要評価項目は、2年間の1人年当たりの急性中耳炎平均発症回数(発症率)とした。 【結果】主解析のintention-to-treat解析の結果、2年間の1人年当たりの急性中耳炎発症率(±SE)は、鼓膜チューブ群1.48±0.08、薬物療法群1.56±0.08であった(P=0.66)。鼓膜換気チューブ群の10%が鼓膜換気チューブ留置術を受けず、薬物療法群の16%が親の要望で鼓膜換気チューブ留置術を受けたため、per-protocol解析を実施すると、対応する発症率はそれぞれ1.47±0.08、1.72±0.11となった。主解析の副次評価項目で、結果にばらつきが見られた。急性中耳炎初回発症までの期間、発症に伴う臨床所見、事前に定めた治療失敗の基準を満たす患児の割合は、鼓膜換気チューブの方が良好であった。耳漏が見られた日数の累積は、薬物治療の方が良好であった。大きな差が認められなかった項目に、急性中耳炎発症頻度の分布、重症と考えられた急性中耳炎の割合、呼吸器分離菌の抗菌薬耐性があった。試験関連の有害事象は、試験の副次評価項目に含まれるもののみであった。 【結論】反復性急性中耳炎がある6~35カ月齢の小児で、2年間の急性中耳炎発症率は、鼓膜換気チューブ留置術と薬物療法で有意な差がなかった。 第一人者の医師による解説 耳鼻咽喉科医と小児科医で推奨度の違う鼓膜チューブ留置術 適応については再度見直しが必要 神崎 晶 慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科専任講師 MMJ. October 2021;17(5):158 鼓膜チューブ留置術は、新生児期以降の小児では頻繁に行われる手術であり、全身麻酔のリスク、留置チューブの閉塞、体外への逸脱、中耳腔への落下、鼓膜構造的変化穿孔残存や軽度伝音難聴の可能性がある。 米国では反復性(再発性)急性中耳炎の小児に対する鼓膜チューブ留置術に関する推奨が耳鼻咽喉科医向けと小児科医向けで異なっており(耳鼻咽喉科医の方が本施術に積極的である)、確実なエビデンスに乏しいことから、著者らは本試験により鼓膜チューブ留置術の有効性を検討した。対象は年齢が生後6〜35カ月で、(1)6カ月以内に急性中耳炎のエピソードが3回以上、または(2)12カ月以内に急性中耳炎のエピソードが4回以上あり、そのうち少なくとも1回は6か月以内に発生していた小児であった。対象児を鼓膜チューブ留置術もしくは抗菌薬による薬物療法群にランダムに割り付けた。その結果、2年の経過観察期間における人・年あたりの急性中耳炎の平均エピソード数(率)(±SE)は、鼓膜チューブ留置群1.48±0.08、薬物療法群1.56±0.08であり(P=0.66)、有意差はなかった。 小児の反復性急性中耳炎に対する鼓膜チューブ留置術の適応は、米国の耳鼻咽喉科ガイドラインでは「中耳の滲出液が少なくとも片耳に存在する場合」としているが、小児科ガイドラインでは「臨床医が提供しても良い選択肢の1つ」としており、推奨度に差がある。日本の「小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版(金原出版)」のCQ3-9(P73-75)では、有効とする論文と生活の質(QOL)に寄与しないとする論文もあり、限定的な効果としている。このように、これまであいまいな点が多かったが、今回の論文で、鼓膜チューブ留置術の適応については再度見直しを要することとなる。 なお、小児では、鼻と耳をつなぐ耳管が太くて短いことから反復性急性中耳炎や滲出性中耳炎の原因として、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの鼻疾患との関連性が指摘されている。本報告では、各群におけるアレルギー性鼻炎を含む割合については触れられておらず、この点について検討の余地がある。また、鼓膜チューブ留置術は反復性急性中耳炎以外に、滲出液が中耳に貯留して難聴をきたす滲出性中耳炎に対して行う場合の方が多いが、本結論が滲出性中耳炎に対しても同様に当てはまるのかどうかは今後の研究が待たれる。
重症左横隔膜ヘルニアに対する胎児手術の無作為化試験
重症左横隔膜ヘルニアに対する胎児手術の無作為化試験
Randomized Trial of Fetal Surgery for Severe Left Diaphragmatic Hernia N Engl J Med. 2021 Jul 8;385(2):107-118. doi: 10.1056/NEJMoa2027030. Epub 2021 Jun 8. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】観察研究から、胎児鏡下気管閉塞術(FETO)により、孤発性先天性横隔膜ヘルニアのため重度の肺低形成を来した胎児の生存率が向上することが示されているが、無作為化試験によるデータがない。 【方法】FETOなどの出生前手術の経験がある施設で非盲検試験を実施し、左側の重症孤発性先天性横隔膜ヘルニアの単生児を妊娠した女性を無作為化により、妊娠27~29週にFETOを施行するグループと待期的治療を実施するグループに1対1の割合で割り付けた。両群ともに、出生後に標準的な治療を実施した。主要評価項目は、新生児集中治療室の生存退室とした。優越性に関する中間解析を5回実施することを事前に定め、群逐次デザインを用いた。最大症例数を116例とした。 【結果】3回目の中間解析ののち、有効性が認められたため試験は早期に中止された。80例を対象としたintention-to-treat解析で、FETO群の出生児の40%(40例中16例)および待期的治療群の出生児の15%(40例中6例)が新生児集中治療室退室まで生存した(相対リスク2.67、95%CI 1.22-6.11、両側のP=0.009)。生後6ヵ月までの生存率は、生存退室率とほぼ同じであった(相対リスク、2.67;95%CI、1.22~6.11)。早期前期破水の発生率は、FETO群の女性の方が待期的治療群の女性よりも高く(47% vs. 11%;相対リスク、4.51;95%CI、1.83~11.9)、早産の発生率も同様であった(75% vs. 29%;相対リスク、2.59;95%CI、1.59~4.52)。胎児鏡下バルーン抜去に伴う胎盤裂傷のため緊急分娩後に1例が死亡し、バルーン抜去失敗のため1例が死亡した。試験中止後にデータが得られた11例を追加した解析で、FETO群の生存退室率が36%、待機的治療群では14%であった(相対リスク、2.65;95%CI、1.21~6.09)。 【結論】左側の重症孤発性先天性横隔膜ヘルニア胎児で、在胎27~29週時点でのFETO施行により、待期的治療群より生存退室率の有意な便益が得られ、この便益は生後6ヵ月まで持続した。FETOにより早期前期破水と早産のリスクが上昇した。 第一人者の医師による解説 出生前治療の有効性を示唆する注目すべき前向き研究 黒田 達夫 慶應義塾大学医学部小児外科教授 MMJ. February 2022;18(1):18 先天性横隔膜ヘルニアは横隔膜に形成不全による欠損孔があり、そこを通して腹部臓器が胸腔内に脱出する疾患である。胎生期の肺は脱出臓器により圧排され、欠損側のみならず対側の肺までもが低形成となり、生後に重篤な呼吸障害を呈する。死亡率は日本小児外科学会の2020年の集計でも4.7%に上り、特に重症例では世界的にも3割近い。この疾患は胎生期からの病態により肺低形成を来すため、古くから出生前治療の適応と考えられてきた。歴史的には1990年にHarrisonらが母体を開腹して妊娠子宮を開き、胎児手術を行った成功例を報告しているが、侵襲が大きい治療で成績は悪かった。その後、ボストンのグループが、胎生期の気道に閉塞機転のある場合に胎児肺発育が助長される現象を発見し、以後、本疾患に対する出生前治療として気管の閉塞が試みられてきた。 本論文で述べられているfetoscopic endoluminal tracheal occlusion(FETO)はその最終到達点といえる手技で、母体の経腹的に挿入された胎児鏡を胎児気管まで進め、胎児気管内でバルーンを膨らませてこれを分娩直前まで気管内に留置することにより胎児の肺発育を促進しようとするものである。この手技の有用性について今世紀はじめに欧米でそれぞれ臨床試験が行われた。先天性横隔膜ヘルニアの危険因子に健側肺容積を頭囲で除して標準化したlung-to-head ratio (LHR)があるが、米国ではLHR 1.4未満の重症例を対象に生後治療例とFETO施行例の生存率を比較した。その結果、生後治療例の生存率77%に対してFETO施行例の生存率は73%で出生前治療による有意の成績改善が得られず、以後、米国におけるFETO施行は限定的になっている。一方、その2年後に出された欧州の臨床試験の報告では、対象をLHR 0.9未満の超重症例にしたところ、生後治療例の生存率9%に対してFETO施行例では63.3%が生存したとしており、欧州ではその後も世界中に呼び掛けてFETOの臨床試験を継続していた。 本論文はその最新の成績として日本を含む世界12カ 国 のFETO施行群40例 と 通常治療群40例の成績を比較した報告で、FETO施行群の生存率が40%と先行報告よりも低いものの、通常治療群の生存率15%を大きく上まわったとする。これより従来の主張と変わらず、FETOは超重症例に対しては生後治療よりも有意に有効であると結論している。一方で米国の研究者の間では、医療レベルや臨床試験体制の異なる多くの国が参加している臨床試験でのデータの質の担保や、適応基準などを疑問視する向きもある。ともあれ出生前治療の有効性を示唆する前向き研究の報告として、注目すべきものと思われる。
思春期児を対象としたBNT162b2 Covid-19ワクチンの安全性、免疫原性および有効性
思春期児を対象としたBNT162b2 Covid-19ワクチンの安全性、免疫原性および有効性
Safety, Immunogenicity, and Efficacy of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Adolescents N Engl J Med. 2021 Jul 15;385(3):239-250. doi: 10.1056/NEJMoa2107456. Epub 2021 May 27. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対するワクチンは、ごく最近まで16歳未満の小児への緊急使用が許可されていなかった。この集団を保護し、対面学習や人の集まりを促進し、集団免疫に貢献するため、安全かつ有効なワクチンが必要である。 【方法】この進行中の国際共同プラセボ対照観察者盲検試験では、参加者を無作為によりBNT162b2ワクチン30μgを21日間隔で2回注射するグループとプラセボを注射するグループに1対1の割合で割り付けた。12~15歳にみられるBNT162b2に対する免疫応答の16~25歳の免疫応答に対する非劣性を免疫原性の目的とした。12~15歳のコホートで安全性(反応原性および有害事象)および確定した新型コロナウイルス感染症2019罹患(Covid-19;発症、2回目接種から7日以上経過後)に対する有効性を評価した。 【結果】全体で、12~15歳の思春期児2,260例に接種した。1,131例にBNT162b2、1,129例にプラセボを投与した。他の年齢群にみられたように、BNT162b2は安全性と副反応が良好で、反応原性事象も主に一過性で軽度から中等度であった(主に注射部位疼痛[79~86%]、疲労[60~66%]、頭痛[55~65%])。ワクチンに起因する重篤な有害事象はなく、重度の有害事象も全体的に少なかった。12~15歳の参加者にみられた2回目接種後SARS-CoV-2 50%中和抗体価の16~25歳に対する幾何平均比は、1.76(95%信頼区間[CI]、1.47~2.10)であり、両側95%信頼区間の下限が0.67を超える非劣性基準を満たし、12~15歳のほうが応答が大きいことが示された。SARS-CoV-2感染歴の根拠がない参加者では、BNT162b2接種群に2回目接種から7日以上経過後のCOVID-19発症例はいなかったが、プラセボ接種群に16例認められた。観察されたワクチンの有効性は100%(95%CI、75.3~100)であった。 【結論】12~15歳の小児に接種したBNT162b2ワクチンは、安全性が良好で、若年成人よりも免疫応答が大きく、COVID-19に対する高い有効性が示された。 第一人者の医師による解説 思春期児童は接種後の血管迷走神経反射の発生率が高く 対策を取ることが重要 新井 智 国立感染症研究所感染症疫学センター第11室室長 MMJ. February 2022;18(1):4 本論文は、ファイザー・ビオンテック社製のメッセンジャー RNAワクチン(BNT162b2)を評価している第1/2/3相試験(C4591001試験)の一部として、米国内の12 ~ 15歳の思春期児童約2,300人をBNT162b2 30μg群とプラセボ(生理食塩水)群に1:1の比で無作為に割り付け安全性、免疫原性、有効性を比較し、さらに米国以外の国からも登録した16 ~ 25歳の青年集団約1,100人と免疫応答での非劣性の検証等を行った結果の報告 である。1回目接種 受けたBNT162b2群1,131人とプラセボ群1,129人、2回目接種を受けたそれぞれ1,124人と1,117人の解析結果から、BNT162b2 30μ g接種における12 ~ 15歳の思春期児童の副反応は、全体的に一過性で軽度~中等度であった。最も頻度が高かった局所反応は注射部位の疼痛で79 ~ 86%、頻度の高かった全身性反応は倦怠感(60 ~ 66%)、頭痛(55 ~ 65%)、悪寒(28 ~ 42%)、筋肉痛(24 ~ 32%)であった。局所反応の頻度は1回目接種時の方が高かったが(1回目86%、2回目79%)、全身性反応の倦怠感、頭痛、悪寒、筋肉痛のいずれも2回目接種時の方が高頻度にみられた。 また、12 ~ 15歳の思春期児童と16 ~ 25歳の青年集団におけるBNT162b2 30μg接種の比較を行ったところ、12 ~ 15歳の思春期児童の1、2回目接種時の副反応発生率は、16 ~ 25歳の青年集団とほとんど違いがなく(16 ~ 25歳の青年:倦怠感60 ~ 66%、頭痛54 ~ 61%、悪寒25 ~40%、筋肉痛27 ~ 41%)、安全性に違いは認められなかった。有効性の指標である50%中和幾何平均抗体価(GMT)は、2回目接種1カ月後の12 ~15歳の思春期児童群では1,283.0、16 ~ 25歳の青年群では730.8、両集団間の幾何平均比は1.76(95%信頼区間 , 1.47 ~ 2.10)であり、免疫応答は12 ~ 15歳の思春期児童群の方が良好であった。 BNT162b2やモデルナ製スパイクバックのメッセンジャー RNAワクチンでは、初回よりも2回目接種の方が発熱、倦怠感、頭痛、悪寒などの全身性反応の発生割合が高い(1),(2)。これらの副反応への対応に関してはアセトアミノフェンの服用も選択肢として提案されており、事前に十分な情報提供を行い安心して接種を受けられる環境の提供が重要である。思春期児童では、ワクチン接種後の血管迷走神経反射の発生割合が他の年齢群に比べ高いため、横たわって接種を受ける、あるいは接種後30分程度様子を見るなど対策を取ることも重要である。 1. Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383(27):2603-2615. 2. Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384(5):403-416.
重度 SGA児の陣痛発来前の介入的分娩 学業成績を悪化させる恐れ
重度 SGA児の陣痛発来前の介入的分娩 学業成績を悪化させる恐れ
Association Between Iatrogenic Delivery for Suspected Fetal Growth Restriction and Childhood School Outcomes JAMA. 2021 Jul 13;326(2):145-153. doi: 10.1001/jama.2021.8608. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】胎児発育制限(FGR)が疑われる乳児の適時分娩は、死産防止と未熟児の最小化のバランスが重要であり、特にFGRが疑われる乳児の多くは正常に成長しているため。 【目的】FGRの疑いによる異所性出産と小児期の学校でのアウトカムとの関連について検討する。 【デザイン、設定および参加者】オーストラリア・ビクトリア州の2003年1月1日から2013年12月31日までの妊娠32週以上の出生の周産期データと、準備校、学校3・5・7年生での発達・教育テストのスコアを関連付けた後向き全人口コホート研究である。フォローアップは2019年に終了した。 【曝露】FGRの疑い有無、FGRの疑いに対する異所性分娩(分娩前の早期誘発または帝王切開と定義)の有無、妊娠年齢に対する小児の有無(SGA)であった。 【主要評および測定法】副次的アウトカムは,学校入学時に5つの発達領域のうち2つ以上が下位10パーセンタイルであること,3,5,7年生において5つの教育領域のうち2つ以上が国の最低基準以下であることとした。 【結果】出生集団705 937人の乳児において,出生時の平均妊娠期間は39.1週(SD,1.5),平均出生体重は3426(SD,517)gであった。出生集団は、発達の結果が181 902人、教育の結果が425 717人の子どもにつながった。FGRが疑われない重症SGA児(出生時体重3%未満)と比較して、FGRが疑われて出産した重症SGA児は早く生まれていた(平均妊娠週数37.9週 vs 39.4週)。また,就学時の発達不良のリスクも有意に高かった(16.2% vs 12.7%,絶対差 3.5%[95% CI,0.5%-6.5]); 調整オッズ比[aOR],1.5%[0.5%]).36 [95% CI, 1.07-1.74] )および3,5,7年生での教育的アウトカム不良(例えば,7年生では:13.4% vs 10.5%; 絶対差は2.9% [95% CI, 0.4%-5.5%]; aOR, 1.33 [95% CI, 1.04-1.70] )であった.)FGR の疑いで分娩された正常な成長(出生時体重≧10 パーセンタイル)の乳児と FGR の疑いがない乳児の間には,発達の結果において有意差はなかった(8.6% 対 8.1%; 絶対差 0.5% [95% CI, -1.1% ~ 2.0%] ); aOR, 1.17 [95% CI, 0.95 ~ 1.70])。45])または第3学年、第5学年、第7学年の教育的アウトカムが、早生まれ(平均妊娠週数、38.0週 vs 39.1週)であるにもかかわらず、低下した。 【結論と関連性】オーストラリアのビクトリア州で実施したこの探索的研究では、FGRの疑いがある重症SGA児の異所性出産は、FGRの疑いがない重症SGA児と比較してより悪い学校アウトカムと関連していた。FGRが疑われる正常な発育の乳児の異所性分娩は、FGRが疑われない正常な発育の乳児と比較して、より悪い学校での転帰とは関連しなかった。 第一人者の医師による解説 日本でも新生児集中治療後の児の中長期的なデータベースの構築が必要 飛彈 麻里子 慶應義塾大学医学部小児科准教授 MMJ. April 2022;18(2):52 子宮内胎児発育遅延(fetal growth restriction;FGR)と児の出生体重が10パーセンタイル未満(small for gestational age;SGA)は 混同されやすいが、出生時体重で明確に定義されるSGAと異なり、FGRは定義や診断基準、適正な管理方法が確立していない(1)。日本産科婦人科学会の診療ガイドライン(産科編)2020では、FGRを超音波検査で算出される胎児推定体重およびその経時的変化、羊水過少の有無や胎児腹囲計測値などから、総合的かつ臨床的に診断する、としている(2)。 FGRの原因は、胎児因子、母体因子、胎児付属物因子と多様だが、原因に関わらず、出生児がSGAだった場合は、周産期死亡や成長後の精神発達遅滞、生活習慣病罹患との関連が示唆されている。胎児の状態を慎重に評価し、臍帯血流や胎児頭囲成長の異常出現時には医療的介入による分娩とし、胎外での児の治療を適切な時期に始めることが、児の予後改善に寄与するとされている。一方で、在胎期間はすべての病態において、児の予後に最も強い影響を与える因子であり、臨床の場では産科と小児科との総合的な判断で分娩の時期を決定することになる(2)。 本論文は、FGRを指摘されていたSGAでは計画的分娩(陣痛発来前の分娩誘導による経腟分娩や帝王切開分娩)が学業成績不良と関連する可能性を報告した。この結果は、欧州の大規模無作為化比較試験(3)など既存の報告とは反対の結果である。著者らも認めているように、本研究には複数の重要な限界があり、この結果をそのまま臨床に応用することはできない。しかし、1つの州という医療や教育の条件が統一されている環境下での、10年間にわたる母集団70万人以上を背景とする42万人以上の学業評価の結果という膨大なコホート研究であり、今後さらに洗練された報告が期待される。 一方で、本論文は日本の新生児医療の課題を改めて浮き彫りにする。国際的に高く評価され、多くの重症 SGAを救命している我が国の新生児医療だが、新生児集中治療室退院後のフォローアップデータは限られている。特に学業成果については標準化された評価指標がなく、国内の施設間比較ですら困難である。本論文の結論に疑問を持つ日本の小児科医は多いと思うが、反論するための国内のデータは乏しい。すでに関係者間では認識されている課題だが、子どもたちによりよい医療を提供するためにも、日本の中長期的なフォローアップデータベースの構築が必要である。 1. Fetal Growth Restriction: ACOG Practice Bulletin, Number 227. Obstet Gynecol. 2021;137(2):e16-e28. 2. 産婦人科診療ガイドライン産科編(2020).「CQ307-1: 胎児発育不全(FGR)のスクリーニングは?」「CQ307-2:胎児発育不全(FGR)の取り扱いは?」https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2020.pdf(2022 年 2 月閲覧) 3. Walker DM, et al. Am J Obstet Gynecol. 2011;204(1):34.e1-9.
PIK3CAの体細胞変異が孤発性海綿状血管腫を引き起こす
PIK3CAの体細胞変異が孤発性海綿状血管腫を引き起こす
Somatic PIK3CA Mutations in Sporadic Cerebral Cavernous Malformations N Engl J Med. 2021 Sep 9;385(11):996. doi: 10.1056/NEJMoa2100440. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】脳海綿状奇形(CCM)は、散発性および遺伝性の中枢神経系血管奇形としてよく知られている。家族性CCMはKRIT1(CCM1)、CCM2、PDCD10(CCM3)の機能喪失型変異と関連しているが、80%を占める散発性CCMの遺伝子原因はまだ不完全に理解されていない。 【方法】プロスタグランジンD2合成酵素(PGDS)プロモーターを用いて、ヒト髄膜腫で同定された変異を保有する2つのモデルマウスを開発した。患者から外科的に切除されたCCMの標的DNA配列決定を行い、液滴デジタルポリメラーゼ連鎖反応分析で確認した。 【結果】髄膜腫の2つの共通の遺伝的ドライバーであるPik3caH1047RまたはAKT1E17KをPGDS陽性細胞で発現するマウスでは、髄膜腫ではなく典型的なCCMのスペクトラムが発生(それぞれ22%と11%)することがわかり、88例の散発性のCCMから組織標本を解析することになった。患者の病変組織の39%と1%にそれぞれ活性化型のPIK3CAとAKT1の体細胞変異が検出された。病変の10%のみがCCM遺伝子に変異を有していた。活性化変異Pik3caH1074RとAKT1E17Kによって引き起こされる病変をマウスで解析し,PGDS発現周皮細胞を起源細胞として推定した。 【結論】散発性のCCMからの組織試料において,他のどの遺伝子における変異よりPIK3caにおける変異が大きく表れていることがわかった。家族性CCMの原因となる遺伝子の体細胞変異の寄与は比較的小さかった。(ARC対がん研究財団他より資金提供). 第一人者の医師による解説 予想外の発見を見逃さず 病態解明につなげたserendipityの重要さが伝わる論文 武内 俊樹 慶應義塾大学医学部小児科専任講師 MMJ. April 2022;18(2):51 海綿状血管腫は、比較的よく遭遇する中枢神経系の血管奇形であり、家族性あるいは孤発性に発症する。このうち、家族性海綿状血管腫は、KRIT1(CCM1)、CCM2、PDCD10(CCM3)遺伝子のいずれかの機能喪失型変異によって発症することが知られている。一方で、海綿状血管腫の80%を占める孤発性症例の原因は解明されていなかった。 本研究では、ヒト患者の髄膜腫で同定された遺伝子変異およびプロスタグランジン D2合成酵素(PGDS)プロモーターをもつ2種類の疾患モデルマウスを開発した。髄膜腫の2つの一般的なドライバー変異であるPik3caH1047RまたはAKT1E17Kのいずれかを発現するマウスにおいて、予想外に、髄膜腫ではなく海綿状血管腫が発生した(それぞれマウスの22%と11%に発生した)。これに着想を得て、孤発性海綿状血管腫患者88人の病変組織の遺伝子解析を行った。その結果、PIK3CAおよびAKT1に、機能亢進型の体細胞変異をそれぞれ39%と1%に同定した。既知の家族性海綿状血管腫の原因遺伝子に変異を認めたのは10%に過ぎなかった。さらに、Pik3caH1047RとAKT1E17K変異を有するマウスの病変部位の解析から、PGDSを発現する周皮細胞が海綿状血管腫の発生母地となっていることを突き止めた。以上の結果をまとめると、孤発性海綿状血管腫の病変組織では、PIK3CAの体細胞変異が多く認められ、他のどの遺伝子よりも大きな割合を占めていた。既知の家族性海綿状血管腫の原因遺伝子の体細胞変異によるものはむしろ少なかった。 本研究の最も重要な知見は、同じ海綿状血管腫であっても、家族性と孤発性で原因遺伝子が異なることを示した点である。一般に、家族性疾患の原因遺伝子変異が体細胞変異となった場合には、家族性疾患でみられる病変と似た病変を起こすことが多い。しかしながら、今回の研究では、孤発性海綿状血管腫は、家族性海綿状血管腫の原因遺伝子の体細胞変異によって発症しているのではなく、髄膜腫の原因として知られていたPIK3CAの体細胞変異が発症原因の多くを占めていたという驚くべき結果であった。さらに本研究で特筆すべき点は、もともと髄膜種の研究を目的に作製されたマウスにおいて、想定外の海綿状血管腫が発生したことが今回の研究成果の端緒となったことである。これらのマウスは髄膜に発現するPGDSをもつため、PGDSが海綿状血管腫の発症に関与することも突き止めることができた。予想外の発見を見逃さず当初目的としていなかった孤発性海綿状血管腫の病態解明につなげたserendipityの重要さが伝わる論文である。
小児集中治療室での呼吸器離脱プロトコル 人工呼吸器装着日数の短縮はわずか
小児集中治療室での呼吸器離脱プロトコル 人工呼吸器装着日数の短縮はわずか
Effect of a Sedation and Ventilator Liberation Protocol vs Usual Care on Duration of Invasive Mechanical Ventilation in Pediatric Intensive Care Units: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Aug 3;326(5):401-410. doi: 10.1001/jama.2021.10296. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】小児集中治療室で乳幼児や小児を侵襲的な機械的人工呼吸から解放するための最適な戦略に関するエビデンスは限られている。 【目的】鎮静と人工呼吸器解放のプロトコルによる介入が、長期の機械的人工呼吸が必要と予想される乳幼児や小児の侵襲的機械的人工呼吸の期間を短縮するかどうかを明らかにする。 【デザイン、設定および参加者】英国の17の病院施設(18の小児集中治療室)を対象に、通常のケアからプロトコル介入まで順次無作為化した、実用的な多施設、ステップウェッジ、クラスター無作為化臨床試験を実施した。2018年2月から2019年10月にかけて、長期の機械的換気が必要と予想される重症の乳幼児と小児8843人を募集した。最終追跡日は2019年11月11日であった。 【介入】小児集中治療室では、通常のケア(n=4155人の乳幼児と小児)または鎮静と人工呼吸器解放のプロトコル介入(n=4688人の乳幼児と小児)が行われ、鎮静レベルの評価、人工呼吸器解放の可能性をテストするための自発呼吸試験を実施する準備ができているかどうかのスクリーニングを毎日行い、鎮静と準備のスクリーニングを見直し、患者に関連する目標を設定するための毎日のラウンドを行った。 【主要評および測定法】主要アウトカムは、人工呼吸を開始してから最初に抜管に成功するまでの侵襲的機械換気の期間であった。治療効果の主要な推定値は、長期の機械的人工呼吸が必要と予想される乳幼児と小児について、暦時間とクラスター(病院部位)を調整したハザード比(95%CI)であった。 【結果】本試験を完了した乳幼児と小児は8843人(年齢中央値、8カ月[四分位範囲、1~46カ月]、42%が女性)であった。抜管成功までの時間(中央値)は、通常のケアと比較してプロトコルによる介入のほうが有意に短かった(それぞれ64.8時間対66.2時間、調整後中央値の差:-6.1時間[四分位範囲:-8.2~-5.3時間]、調整後ハザード比1.11[95%CI、1.02~1.20]、P = 0.02)。重篤な有害事象である低酸素症は、通常のケアでは11人(0.3%)であったのに対し、プロトコルによる介入では9人(0.2%)で発生し、血管以外のデバイスの脱落はそれぞれ2人(0.04%)と7人(0.1%)で発生した。 【結論と関連性】長期の機械的換気が必要と予想される乳幼児と小児において、鎮静と人工呼吸器の解放のプロトコルによる介入は、通常のケアと比較して、最初の抜管成功までの時間を統計的に有意に短縮する結果となった。しかし、この効果の大きさの臨床的重要性は不明である。 【臨床試験登録】isrctn.org Identifier:ISRCTN16998143。 第一人者の医師による解説 小児では抜管前評価で呼吸器離脱が見送られる特殊な事情も理解を 秋山 類(大学院研究生)/清水 直樹(主任教授) 聖マリアンナ医科大学小児科学講座 MMJ. April 2022;18(2):48 小児集中治療室(PICU)に入室する患者は侵襲的人工呼吸(MV)が必要となる。MV管理は、これに関連した肺炎や肺障害などを併発する可能性があり、早期離脱が必要となる。成人ではABCDEバンドル(※)を導入し、院内死亡率が低下した(1)。小児ではMVからの離脱プロトコル化を検証した研究はエビデンス不足であった。 英国の18PICUが鎮痛鎮静とMV離脱のプロトコル化を目指してSedation AND Weaning In hildren(SANDWICH)に参加している。全施設が集中治療医により管理され、うち8割は年間入室患者数が500を超える。本研究では、まず各施設は従来群として診療を行った。各施設に決められた日程でプロトコル訓練を実施し、以後は介入群として診療した。プロトコル内容は鎮痛鎮静の評価と目標設定、自発呼吸トライアル(SBT)適否の選別、SBT実施、多職種の回診である。期間は2018年2月〜19年10月、24時間以上のMVが必要と想定される8,843人を対象とした。 結果、MV装着時間の中央値は介入群64.8、従来群66.2と1.4時間の短縮だった(各施設の症例数などの調節後では6.1時間)。またPICU入室日数の中央値は両群5日で差がなく、入院期間は有意に延長した(介入群9.6、従来群9.1日)。抜管成功、計画外抜管、再挿管のいずれも有意差はなかった。介入群では抜管後の非侵襲的陽圧換気の装着が有意に多かった。 研究計画時は、MV装着期間が1日短縮すると想定していたが、実際にはわずかだった。原因として、幅広い患者層(心疾患と呼吸器疾患が各3割、神経疾患は1割、内因性疾患による予定外入室が6割前後)、SBT実施が少ない、が挙げられる。プロトコルのうちSBT実施以外の遵守率は40〜90%だが、SBT実施の遵守率は15〜60%であった。SBT非実施の理由は、分泌物や気道浮腫により気道確保が必要、意識の覚醒が不十分、再手術を想定、血管作動薬の投与が多量、筋力低下などであった。 本研究では、抜管の前提を満たさない患者が含まれ、MV装着時間の短縮がわずかだったと考える。今後はSANDWICHプロトコルにSBT非実施となる患者の選別段階を組み込む必要があるかもしれない。本研究は集中治療医の管理する比較的大規模なPICUで実施されており、有害事象が抑制された可能性がある。日本では、集中治療医が24時間管理するのは半数、年間入院患者数が500を超えるのは18%である(2)。本研究結果を日本国内で適用する際には、これらの背景の差異も考慮する必要がある。 ※ ABCDE バンドル;A:毎日の覚醒トライアル、B:毎日の呼吸器離脱トライアル、C:鎮静・鎮痛薬の選択、D:せん妄のモニタリングと管理、E:早期離床をまとめて行う介入。バンドルとは bundle で束の意味。 1. Balas MC, et al. Crit Care Med. 2014;42(5):1024-1036. 2. 日本集中治療医学会小児集中治療委員会 . わが国における小児集中治療室の現状調査 . 日集中医誌 2019;26:217-225.
小児の市中肺炎へのアモキシシリン投与 高用量、長期である必要なし
小児の市中肺炎へのアモキシシリン投与 高用量、長期である必要なし
Effect of Amoxicillin Dose and Treatment Duration on the Need for Antibiotic Re-treatment in Children With Community-Acquired Pneumonia: The CAP-IT Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Nov 2;326(17):1713-1724. doi: 10.1001/jama.2021.17843. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】小児市中肺炎(CAP)に対するアモキシシリン経口投与の最適な用量と期間は明らかではない。 【目的】低用量アモキシシリンが高用量に対して非劣性であるか、3日間の治療が7日間に対して非劣性であるかどうかを明らかにする。 【デザイン、設定および参加者】2017年2月から2019年4月の間に英国28病院、アイルランド1病院の救急部および入院病棟から退院時にアモキシシリンで治療した臨床的に診断された6ヶ月以上の小児824人を登録し、最終試験訪問は2019年5月21日とした多施設無作為2×2要因非劣性試験を実施した。 【介入】小児を、低用量(35~50mg/kg/d:n=410)または高用量(70~90mg/kg/d:n=404)で、短期間(3日間:n=413)または長期間(7日間:n=401)のアモキシシリン経口投与に1:1に無作為化した。 【主要評および測定法】主要アウトカムはランダム化後28日以内の呼吸器感染に対する臨床的指示による抗生物質の再処置であった。非劣性マージンは8%であった。副次的アウトカムは、保護者が報告した9つのCAP症状の重症度/期間、3つの抗生物質関連有害事象、および結核菌Streptococcus pneumoniae分離株の表現型抵抗性であった。 【結果】4群のいずれかに無作為化された824名のうち、814名が少なくとも1回の試験薬投与を受け(年齢中央値[IQR]2.5歳[1.6-2.7]、男性421名[52%]、女性393名[48%])、789名(97%)で主要評価項目を確認することができた。)低用量と高用量の比較では,低用量12.6%と高用量12.4%(差:0.2%[1-sided 95% CI -∞~4.0] ),3日投与と7日投与12.5%(差:0.1%[1-sided 95% CI -∞~3.9] )で主要アウトカム発現が認められた。両群とも非劣性が示され、投与量と投与期間の間に有意な相互作用は認められなかった(P = 0.63)。事前に規定した14の副次的エンドポイントのうち、咳嗽期間(中央値12日 vs 10日;ハザード比[HR]、1.2[95%CI、1.0~1.4];P = .04)および咳による睡眠障害(中央値、4日 vs 4日;HR、1.2 [95%CI, 1.0 ~ 1.4];P = .03)については3日 vs 7日治療でのみ有意差がみられた。重症CAPの小児のサブグループでは、主要エンドポイントは、低用量投与者の17.3%対高用量投与者の13.5%(差、3.8%[1サイド95%CI、-∞~10%];相互作用のP値=0.18)、3日間治療者の16.0%対7日間治療者の14.8%で発生した(差、1.2%[1サイド95%CI、-∞~7.結論と意義】救急部または病棟から退院した(48時間以内)CAPの小児において、抗生物質の再処置の必要性に関して、低用量の外来経口アモキシシリンは高用量に対して非劣性、3日間の期間は7日間に対して非劣性であった。しかし、この結果を解釈する際には、疾患の重症度、治療環境、以前に受けた抗生物質、非劣性マージンの許容度について考慮する必要がある。 【臨床試験登録】ISRCTN Identifier:ISRCTN76888927。 第一人者の医師による解説 重症・抗菌薬先行投与例の評価、咳の持続・不眠症状などについて検証必要 中村 敦 名古屋市立大学大学院医学研究科臨床感染制御学教授 MMJ. April 2022;18(2):50 欧州における有病率調査では、小児の救急患者はプライマリケアと比較して死亡率が高く、抗菌薬を必要とする深刻な細菌感染の可能性があり、下気道感染症が2番目に多い。入院を要する5歳未満の小児市中肺炎(CAP)患者の約3分の1は細菌が関与するとされており、抗菌薬が投与され続ける場合が多い。しかし、治癒を達成しつつ薬物曝露を最小限に抑えるために抗菌薬治療を最適化することは重要である。小児 CAPの治療について抗菌薬の異なる投与期間を比較した試験はほとんどなく、用量と期間の両方を同時に比較した試験はない。アモキシシリン(AMPC)は幼児のCAPの第1選択抗菌薬として広く推奨されているが、その最適な投与量は不明である。 本論文は、英国・アイルランド 29施設において小児 CAPに対する経口 AMPC治療を低用量群(35〜50mg/kg/日)と高用量群(70〜90 mg/kg/日)、短期群(3日間)と長期群(7日間)の2×2群にランダム化して非劣性を検証したCAP-IT試験の報告である。治療開始後28日以内の呼吸器感染症に対するAMPC以外の抗菌薬再治療の有無を主要評価項目とし、親から報告されたCAP症状の重症度と期間、AMPC投与と関連する有害事象、28日目の鼻咽頭分離肺炎球菌のペニシリン感受性などを副次評価項目としている。 4群にランダム化され救急部門または病棟から48時間以内に退院した824人のうち、814人(年齢中央値2.5歳)が少なくとも1回のAMPC投与を受けた。主要評価項目の抗菌薬再治療率は低用量群12.6%、高用量群12.4%、短期群12.5%、長期群12.5%と、投与量と投与期間の間に有意な相互作用はなく、非劣性であった(P=0.63)。副次評価項目では、咳の持続時間(P=0.04)、咳による睡眠障害(P=0.03)のみ短期群と長期群の間で有意差がみられたが、AMPCの投与量、期間による咳の重症度、有害事象、分離菌のペニシリン感受性に有意差はなかった。有害事象のうち皮膚発疹は長期群に多くみられ、治療の完遂率は短期群が高かった。 最近 SAFER試験で小児 CAPに対する5日間と10日間の高用量 AMPC治療で同等の治癒率が示され(1)、成人 CAPの3日間のβ -ラクタム療法が8日間の治療に劣らないことも報告された(2)。本研究でも小児 CAPに対するAMPCの低用量、短期投与は高用量、長期投与に対し抗菌薬の再治療の必要性に関して非劣性が示された。ただし重症例の用量比較、抗菌薬前投与例の用量および投与期間の比較では、有意ではないものの非劣性基準を満たしておらず、肺炎の重症度や治療背景、抗菌薬前投与、非劣性マージンの妥当性について検証する必要がある。 1. Pernica JM, et al. JAMA Pediatr. 2021;175(5):475-482. 2. Dinh A, et al. Lancet. 2021;397(10280):1195-1203.