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酸素投与不要の細気管支炎入院患児に対するパルスオキシメータによる持続的監視実施率
酸素投与不要の細気管支炎入院患児に対するパルスオキシメータによる持続的監視実施率
Prevalence of Continuous Pulse Oximetry Monitoring in Hospitalized Children With Bronchiolitis Not Requiring Supplemental Oxygen JAMA. 2020 Apr 21;323(15):1467-1477. doi: 10.1001/jama.2020.2998. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】酸素投与の必要がない入院中の細気管支炎患児へのパルスオキシメータ使用は、米国のガイドラインで推奨されていない。 【目的】細気管支炎患児へのパルスオキシメータ持続的使用率の評価。 【デザイン、設定および参加者】2018年12月1日から2019年3月31日にかけて、Pediatric Research in Inpatient Settings (PRIS) Networkに参加する米国およびカナダの56施設の小児病棟で多施設共同横断研究を実施した。酸素投与中でない生後8週~23カ月の細気管支炎患児の恣意的標本を対象とした。超早産、チアノーゼ性先天性心疾患、肺高血圧症、在宅呼吸サポート、神経筋疾患、免疫不全、癌がある患児を除外した。 【曝露】酸素投与中でない細気管支炎による入院。 【主要転帰および評価項目】主要転帰はパルスオキシメータの持続的使用とし、直接観察して測定した。パルスオキシメータの持続的使用の割合を以下の変数を用いてリスク標準化した――夜間(午後11時~午前7時)、早産と合わせた月齢、酸素補充療法または高流量酸素療法離脱後の時間、原疾患発症後の無呼吸またはチアノーゼの有無、神経学的障害および経管栄養の有無。 【結果】標本は、独立小児病院33施設、病院内小児病院14施設および地域病院9施設に入院した3612例を対象とした。標本内の59%が男児、56%が白人、15%が黒人で、48%が生後8週間~5カ月、28%が6~11カ月、16%が12~17カ月、9%が18~23カ月であった。全体のパルスオキシメータの持続的使用率は46%(95%CI 40~53%)で、酸素補充療法や高流量鼻カニューレ酸素療法を実施している患者がいなかった。病院別の調製前パルスオキシメータの持続的使用率は、2~92%と幅があった。リスクを標準化すると、資料率が6~82%になった。級内相関係数から観察された変数の27%(同19~36%)が評価対象外の病院別の因子によるものであった。 【結論および意義】酸素投与中でない入院中の細気管支炎患児の恣意的標本で、パルスオキシメータの持続的使用が頻繁に実施されており、病院によって大きな差があった。この患者集団ではガイドラインや科学的根拠に基づいた持続的監視の適応がないため、過度に使用されているものと思われる。 第一人者の医師による解説 酸素投与中止後はパルスオキシメータを外すべきなのか? 高瀬 真人 日本医科大学多摩永山病院小児科部長 MMJ. October 2020; 16 (5):139 急性細気管支炎は乳幼児期(2歳未満)にRSウイルス(RSV)に初感染した際などに多く経験される急性の閉塞性換気障害で、特に月齢の若い乳児では突然の呼吸停止で死亡する例もあり、恐れられている。喘息急性増悪とは異なり気管支拡張薬に対する反応性が乏しいことが特徴である。日本でも米国、欧州と同様に乳児期最大の入院原因である。エビデンスの確立した特異的治療は存在せず、入院例では経口摂取不良に対する点滴補液や低酸素血症に対する酸素投与などの支持療法が行われ、重症例では人工呼吸管理も行われる。米国小児科学会(AAP)のガイドラインでは、本症で入院中のパルスオキシメータによる持続的 SpO2モニタリングについて、予後に影響なく入院期間を長引かせる疑いからスポット測定での代替が推奨され、Society of Hospital Medicineは“Choosing Wisely Recommendations”において過剰な診療の例に挙げている(1)。  本論文では、米国とカナダの小児医療機関56施設に2018年12月~19年3月に急性期病棟(集中治療室以外)に入院した2歳未満の急性細気管支炎症例(合計3,612人)を対象に酸素投与中でない入院期間における持続的 SpO2モニタリングの実施率を調査した結果、病院によって2%から92%(平均46%)と大差を認め、過剰診療がいまだに多く行われているとの評価に至っている。  ところでAAPのガイドラインでは酸素投与中止後の持続的 SpO2モニタリングを行わない方向性を示してはいるが、これは低いエビデンスレベルに基づく弱い推奨である。その後発表されたランダム化対照試験でも、入院期間の短縮効果は示されていない(2)。今回の研究では持続的 SpO2モニタリング実施率に大差が認められたが、それと平均在院日数との相関が検討されていないのは残念である。  ちなみに、米国では5歳未満のRSV感染症死亡数が年間100~500人と推計されているが(3)、日本では5歳未満のRSV感染症死亡数は2018年には3人、急性細気管支炎による死亡数はゼロで、死亡率は極めて低い(厚生労働省:人口動態統計)。米国では医療費の高騰に対してエビデンスに基づかない治療をやめて費用対効果を最大化することが喫緊の課題となっており、“Choosing Wisely Campaign”の隆盛に結びついているが、わが国では安全第一の意識が強く、呼吸器疾患で入院中の乳幼児からパルスオキシメータを一刻も早く外そうという機運はあまり高まりそうにない。 1. Quinonez RA, et al. J Hosp Med. 2013;8:479-485. 2. McCulloh R, et al. JAMA Pediatr. 2015;169:898-904. 3. CDC ウエブサイト〈https://bit.ly/3kka9Wy〉