ライブラリー オピオイド漸減に過剰摂取や精神的危機を引き起こす危険性
Association of Dose Tapering With Overdose or Mental Health Crisis Among Patients Prescribed Long-term Opioids
JAMA. 2021 Aug 3;326(5):411-419. doi: 10.1001/jama.2021.11013.
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【重要性】オピオイド関連の死亡率や国の処方ガイドラインにより、慢性疼痛に対して長期的にオピオイド療法を処方されている患者において、用量の漸減が行われている。過量投与や精神衛生上の危機など、漸減に関連するリスクに関する情報は限られている。
【目的】安定した長期高用量オピオイドを処方された患者において、オピオイドの漸減と過量投与や精神衛生上の危機の割合に関連があるかを評価する。 デザイン・設定・参加者】2008年から2019年のOptumLabs Data Warehouseからの非識別医療・薬局請求と登録データを用いたレトロスペクティブコホートスタディである。12か月のベースライン期間に安定した高用量(平均50モルヒネミリグラム当量/日)のオピオイドを処方され、少なくとも2か月のフォローアップを受けた米国の成人が対象となった。
【曝露】オピオイドテーパリング、7か月のフォローアップ期間内の60日の重なった6週間のいずれかの期間に平均日用量が少なくとも15%相対減少したと定義される。最大月間投与量減少速度は、同期間中に計算された。
【主要評および測定法】最大12か月の追跡期間中に、(1)薬物過剰摂取または離脱、(2)メンタルヘルス危機(うつ、不安、自殺企図)のための救急または病院受診が発生した。離散時間負の二項回帰モデルにより,テーパリング(対テーパリングなし)および減量速度の関数としてアウトカムの調整済み発生率比(aIRR)を推定した。
【結果】ベースライン期間203 920人の安定した期間を経て,113 618人が最終コホートに含まれることになった。漸減を受けた患者の54.3%が女性で(漸減を受けなかった患者では53.2%)、平均年齢は57.7歳(58.3歳)、商業保険に加入していたのは38.8%(41.9%)であった。漸減後の患者期間は、100人年当たり9.3件の過量投与イベントと関連しており、漸減しない期間では100人年当たり5.5件であった(調整後発生率差、100人年当たり3.8件[95%CI、3.0-4.6];aIRR、1.68 [95%CI 、1.53-1.85])。テーパリングは、非テーパリング期間の100人年当たり3.3件と比較して、100人年当たり7.6件のメンタルヘルスクライシスイベントの調整後発生率と関連していた(調整後発生率差、100人年当たり4.3件[95%CI、3.2~5.3];aIRR、2.28[95%CI、1.96~2.65])。月間の最大減量速度を10%増加させると、過剰摂取のaIRRは1.09(95%CI、1.07-1.11)、精神衛生上の危機は1.18(95%CI、1.14-1.21)となった。
【結論と関連性】安定した長期高用量オピオイド療法を処方されている患者では、テーパーリングイベントは過剰摂取および精神衛生上の危機のリスク上昇と有意に関連することが示された。これらの知見はテーパリングの潜在的な害について疑問を投げかけるものであるが,観察研究デザインにより解釈は限定的である。
第一人者の医師による解説
長期間、高用量オピオイドを処方されている患者では拙速な漸減は有害
松本 俊彦 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長/薬物依存症センター センター長
MMJ. April 2022;18(2):36
北米では、医師による安易なオピオイド鎮痛薬の処方が災いして、過剰摂取による死亡者の急増、深刻な社会問題(「オピオイドクライシス」)を招いている(1)。このため、各種の治療ガイドラインでは、慢性疼痛に対して長期処方されているオピオイドの漸減が推奨されているが(2)、同時に、漸減が、患者の過剰摂取や精神的危機、違法オピオイドへのアクセスを高める可能性も指摘されている。しかし、漸減の有害性リスクに関する検証は十分になされていない。
本論文において著者らは、高用量オピオイドを長期間処方されている患者に対する漸減療法が、過剰摂取や精神的危機の発生と関連するのかどうかを、後ろ向きコホート研究のデザインで検討している。米国の医療関連データベース Optum Labs Data Warehouseを用いて、モルヒネ換算50mg/日以上のオピオイドを1年以上継続投与され、2カ月間以上の追跡を受けた患者113,618人のうち、追跡期間中に漸減(1日の平均投与量にして15%以上の減量と定義)が行われた患者を特定した。この患者データを用いて、追跡期間中における漸減実施期間と非実施期間との間で、薬物の過剰摂取や精神的危機(うつ病、不安、自殺企図)といった有害事象の発生頻度を比較した。
検討の結果、オピオイドの漸減は、過剰摂取で3.8件 /100人・年(95%信頼区間[CI], 3.0〜4.6)、精神的危機で4.3件 /100人・年(95% CI, 3.2〜5.3)の増加と関連していた。精神的危機の種類別にみると、漸減はうつ病2.46件 /100人・年(95%CI, 2.05 ~ 2.96)、不安障害1.79件 /100人・年(95 % CI, 1.48 ~ 2.15)、自殺企図3.30件/100人・年(95% CI, 2.19 ~ 4.98)といった有害事象の増加につながった。さらに、漸減速度と有害事象の関連についての検討では、月あたりの減量速度を10%速めると、過剰摂取は1.09件/100人・年(95% CI, 1.07〜1.11)、精神的危機は1.18件 /100人・年(95% CI, 1.14〜1.21)増えることが明らかにされた。
慢性疼痛に対して高用量オピオイド治療を漫然と長期間続けるのは問題であり、処方医は常に漸減の可能性を探るべきなのは言うまでもない。しかし、拙速な漸減は有害事象を引き起こすリスクもある。現状では、日本は北米のような悲劇的状況とはほど遠いが、数年前よりオピオイドの非がん性疼痛への適応拡大がなされ、痛みの臨床現場にも高用量オピオイド長期使用患者は徐々に増えつつある2。その意味で、臨床医が知っておくべき情報といえよう。
1. 山口重樹ら . 精神科治療学 . 2020;35(7):777-782.
2. 木村嘉之ら . 日本臨牀 . 2019;77(12):2065-2070.