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デンマーク人女性の4価ヒトパピローマウイルスワクチン接種と自律神経機能障害の関連 住民対象自己対照症例集積解析
デンマーク人女性の4価ヒトパピローマウイルスワクチン接種と自律神経機能障害の関連 住民対象自己対照症例集積解析
Association between quadrivalent human papillomavirus vaccination and selected syndromes with autonomic dysfunction in Danish females: population based, self-controlled, case series analysis BMJ. 2020 Sep 2;370:m2930. doi: 10.1136/bmj.m2930. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】4価ヒトパピローマウイルスワクチンと慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群などの自律神経機能障害を伴う症候群の間の関連を評価すること。 【デザイン】住民対象自己対照症例集積。 【設定】デンマークの全国レジストリに記録されたICD-10診断コードを用いて特定したヒトパピローマウイルスワクチン接種および自律神経失調症症候群(慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群)に関する情報。 【参加者】2007年から2016年の間に参加した10~44歳の女性コホート137万5737例のうち自律神経失調症症候群がある女性869例。 【主要評価項目】4価ヒトパピローマウイルスワクチンを接種していない参加者と比較した同ワクチンを接種した女性参加者の慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群の複合転帰の自己対照症例集積率比(95%CI)で年齢および季節で調整した。このほか、二次解析で慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群を個別に検討した。 【結果】追跡期間1058万1902人年で、自律神経失調症症候群女性869例(慢性疲労症候群136例、複合性局所疼痛症候群535例および体位性頻脈症候群198例)を特定した。4価ヒトパピローマウイルスワクチンによって、ワクチン接種後365日のリスク期間中の自律神経機能障害を伴う各症候群の複合転帰発生率(率比0.99、95%CI 0.74~1.32)やリスク期間中の個々の症候群発生率(慢性疲労症候群[0.38、0.13~1.09]、複合性局所疼痛症候群[1.31、0.91~1.90]および体位性頻脈症候群[0.86、0.48~1.54])が有意に上昇することはなかった。 【結論】ワクチン接種導入後、全くの偶然でワクチン関連の有害事象が起こることがあると思われる。一連の結果からは、4価ヒトパピローマウイルスワクチンと慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群の間の因果関係は、個別にみても複合転帰としても支持されない。最大32%のリスク上昇を正式に除外することはできないが、試験の統計的検出力からは、ワクチン接種によって各症候群発生率が上昇する可能性は低いと考えられる。 第一人者の医師による解説 研究期間後期ほど接種後発症が増加 生物学的反応以外の要素を示唆か 上坂 義和 虎の門病院脳神経内科部長 MMJ. February 2021;17(1):27 子宮頸がん予防のためのヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは大きな成果をあげてきたが、日本のほかにデンマーク、アイルランドなどで慢性疲労症候群、体位性起立性頻拍症候群、複合性局所疼痛症候群などの自律神経失調症候群が接種後有害事象として報告された。これらは散発的な報告で接種との因果関係を示す科学的根拠は乏しかったが、メディアがこぞって取り上げたことで予防接種プログラムは大きく後退した。その後英国、ノルウェー、フィンランド、オランダから上記関連を否定する報告がなされたが、ノルウェー以外は主に2価HPVワクチンでの検討であった。デンマークは国民識別番号制度を持ち医療費はすべて税金でまかなわれるため、詳細な受診情報が外来、入院とも国家レベルで登録されている。本研究ではその登録データを利用し、4価HPVワクチンに関する検討が行われた。 デンマークでは2009年から12歳の女性を対象に国レベルの4価HPVワクチン接種が開始、2012年からは20~27歳の女性に対する予防接種も開始された。本研究では2007~16年にデンマーク生まれの10~44歳の女性を対象とした。結果、137万人以上が対象となり1000万人年以上の検討がされた。52万9千人以上が4価HPVワクチン接種を1回以上受けていた。最終接種から12カ月(3回接種では計18カ月)までをリスク期間とし、自律神経失調症候群発症をその前後期間と比較する自己対照研究デザインによる検討もなされた。自律神経失調症候群は869例でみられた(発症率10万・人年あたり8.21)。このうち433例がHPVワクチン接種例であり、接種後の発症例(309例:12カ月未満72例、12カ月以降237例)は接種前の発症例(124例)よりも多かったが、研究期間の後期になるほどその傾向が顕著であった。また、慢性疲労症候群、体位性起立性頻拍症候群、複合性局所疼痛症候群の合計およびそのいずれか1つの症状をとってもリスク期間中の発症率は対照期間と比較し有意な上昇を認めなかった。最終接種から12カ月以降をリスク期間に含めて検討した場合でも非接種期間に比べ有意な発病率上昇を認めなかった。 本研究を含めてHPVワクチン接種と自律神経失調症候群の関連を検討した研究の結果は接種後の発症率上昇について否定的である。本研究で研究期間後期になるほど接種後発症(接種後50カ月以上、最大100カ月以上)が次第に増加していることは生物学的反応以外の要素が加わっていることを示唆しているように思える。
根治的前立腺全摘除術後の放射線治療のタイミング(RADICALS-RT) 第III相無作為化比較試験
根治的前立腺全摘除術後の放射線治療のタイミング(RADICALS-RT) 第III相無作為化比較試験
Timing of radiotherapy after radical prostatectomy (RADICALS-RT): a randomised, controlled phase 3 trial Lancet. 2020 Oct 31;396(10260):1413-1421. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31553-1. Epub 2020 Sep 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】前立腺がんの根治的前立腺全摘除術後の放射線治療の最適なタイミングは明らかになっていない。著者らは、前立腺特異的抗原(PSA)生化学的再発時の救済放射線療法と併用する経過観察と比較した補助放射線療法の有効性と安全性を比較すること。 【方法】根治的前立腺全摘除術後に生化学的進行が見られる1項目以上の危険因子(病理学的T分類3または4、グリーソンスコア7-10点、断端陽性、術前PSAが10ng/mL以上のいずれか)がある患者を組み入れた無作為化比較試験を実施した(RADICALS-RT試験)。試験は、試験実施の認可を受けたカナダ、デンマーク、アイルランドおよび英国の施設で実施した。患者を補助放射線療法とPSAで判定した再発(PSA 0.1ng/mL以上または連続3回以上で上昇)に応じて救済放射線療法を用いる経過観察に1対1の割合で無作為に割り付けた。盲検化は実効不可能と判断した。グリーソンスコア、切除断端、予定していた放射線スケジュール(52.5Gy/20分割または66Gy/33分割)および施設を層別化因子とした。主要評価項目は無遠隔転移生存期間に規定し、救済放射線療法(対照)による90%の改善から補助放射線療法による10年時の95%の改善を検出するデザイン(検出力80%)とした。生化学的無増悪生存期間、プロトコールにないホルモン療法非実施期間および患者方向転帰を報告する。標準的な生存解析法を用いた。ハザード比(HR)1未満を補助放射線療法良好とした。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT00541047で登録されている。 【結果】2007年11月22日から2016年12月30日の間に、1396例を無作為化し、699例(50%)を救済放射線療法群、697例(50%)を補助放射線療法群に割り付けた。割り付け群は年齢中央値65歳(IQR 60-68)で釣り合いがとれていた。追跡期間中央値4.9年(IQR 3.0-6.1)であった。補助放射線療法群に割り付けた697例中649例(93%)が6カ月以内、救済放射線療法群に割り付けた699例中228例(33%)が8カ月以内に放射線療法を実施したことを報告した。イベント169件で、5年生化学的無増悪生存率が補助放射線療法群で85%、救済放射線療法群で88%であった(HR 1.10、95%CI 0.81-1.49、P=0.56)。5年時のプロトコールにないホルモン療法非実施期間が補助放射線療法群で93%、救済放射線療法群で92%であった(HR 0.88、95%CI 0.58-1.33、P=0.53)。1年時の自己報告の尿失禁は補助放射線療法群の方が不良であった(平均スコア4.8 vs. 4.0、P=0.0023)。が補助放射線療法群の6%、救済放射線療法群の4%に2年以内にグレード3-4の尿道狭窄が報告された(P=0.020)。 【解釈】この初期結果は、根治的前立腺全摘除術後の補助放射線療法のルーチンの実施を支持するものではない。補助放射線療法によって泌尿器合併症リスクが上昇する。PSA生化学的再発時に救済放射線療法を実施する経過観察を根治的前立腺全摘除術後の現行の標準治療とすべきである。 第一人者の医師による解説 適切な救済放射線治療により 補助放射線治療とPSA制御に差はない 伊丹 純 元国立がん研究センター中央病院放射線治療科科長 MMJ. April 2021;17(2):54 前立腺全摘術は前立腺がんに対する根治療法の1つであるが、高リスク患者では半分程度に前立腺特異抗原(PSA)再発が見られる。切除断端陽性、前立腺被膜外浸潤陽性、精嚢浸潤陽性、Gleason score8以上などの再発高リスク患者には、手術に引き続き補助放射線治療が実施されることがある。それに対して、術後は経過観察とし、PSA再発をきたした場合にのみ救済放射線治療を実施する方が、放射線治療の対象を限定することができ、長期成績は補助放射線治療と変わらないとするものもある。 今回報告されたRADICALS-RT試験は術後の補助放射線治療群と経過観察群を比較した無作為化第3相試験であり、対象は再発危険因子としてpT3/pT4、Gleason score 7~10、断端陽性、治療前PSA 10ng/mL以上のいずれか1個以上を持つ前立腺全摘術の前立腺がん患者で、通常の術後照射の対象より再発リスクの低い患者も含まれる。無作為割り付け後、補助放射線治療群は2カ月以内に前立腺床に対する放射線治療を開始し、経過観察群はPSAが2回続けて0.1ng/mL以上に上昇した場合、2カ月以内に救済放射線治療を開始した。救済放射線治療はPSA 0.2ng/mL以下でより有効であることが示されており当試験の重要なポイントである。補助放射線治療、救済放射線治療ともに前立腺床±骨盤リンパ節に66Gy/33分割、または52.5Gy/20分割(約62Gy/31分割相当)の照射が実施された。2007年11月~16年12月に英連邦諸国およびデンマークから1,396人が登録され、追跡期間中央値は4.9年。無作為割り付け後5年で経過観察群のうち32%の患者で救済放射線治療が開始されていた。5年PSAの無増悪生存率は 補助放射線治療群で85%、経過観察群88%で有意差はなかった。しかし、泌尿器症状、消化器症状などは2年以内の早期およびそれ以降の晩期ともに経過観察群で有意に少なかった。 今回の試験と同時期にLancet Oncologyに同様な2件の第3相試験(1),(2)が報告され、それらを併せた3試験のメタアナリシス(3)も発表された。いずれの報告でもPSA値が0.2ng/mL程度の段階で救済療法が実施されれば経過観察群はPSA無増悪生存率で補助放射線治療群と差はないという結果であった。術後照射を必要とする高リスク群も抽出できなかった。これら3件の第3相試験とそのメタアナリシスを踏まえると、前立腺全摘術後の補助放射線治療はルーティンで実施されるべきではなく、救済療法はPSAが0.2ng/mL程度の段階で早期に開始すべきである。また、救済放射線治療の際にはホルモン療法の同時併用も考慮されるべきである。 1. Kneebone A, et al. Lancet Oncol. 2020;21(10):1331-1340. 2. Sargos P, et al. Lancet Oncol. 2020;21(10):1341-1352. 3. Vale CL, et al. Lancet. 2020;396(10260):1422-1431.
肺がん検診CTを要する高リスク喫煙者を特定するための胸部X線画像を用いた深層学習 予測モデルの開発と検証
肺がん検診CTを要する高リスク喫煙者を特定するための胸部X線画像を用いた深層学習 予測モデルの開発と検証
Deep Learning Using Chest Radiographs to Identify High-Risk Smokers for Lung Cancer Screening Computed Tomography: Development and Validation of a Prediction Model Ann Intern Med. 2020 Nov 3;173(9):704-713. doi: 10.7326/M20-1868. Epub 2020 Sep 1. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】胸部断層撮影(CT)検査を用いた肺がん検診で肺がんによる死亡を減らすことができる。メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)が定めるCTを用いた肺がん検診の適応基準では、詳細な喫煙状況が必要であり、肺がんの見逃しが多い。胸部X線画像を基に自動化した深層学習によって、CT検査の便益がある肺がん高リスクの喫煙者を多く特定できると考えられる。 【目的】電子医療記録(EMR)で入手できることの多いデータ(胸部X線画像、年齢、性別および現在の喫煙状況)を用いて長期的な肺がん発症を予測する畳み込みニューラルネットワーク(CXR-LC)を開発し、検証すること。 【デザイン】リスク予測研究。 【設定】米国肺がん検診試験。 【参加者】CXR-LCモデルはPLCO(前立腺、肺、大腸および卵巣)がん検診試験(4万1856例)で開発した。最終CXR-LCモデルは、新たなPLCOの喫煙者(5615例、追跡期間12年間)およびNLST(National Lung Screening Trial)の大量喫煙者(5493例、追跡期間6年間)で検証した。検証データでのみ結果を報告する。 【評価項目】CXR-LCで予測した最長12年間の肺がん発症率。 【結果】CXR-LCモデルは、肺がん予測の識別能(ROC曲線下面積[AUC])がCMSの適応基準よりも良好だった(PLCO AUC 0.755 vs. 0.634、P<0.001)。CXR-LCモデルの性能は、PLCOデータ(AUC:CXR-LC 0.755 vs. PLCOM2012 0.751)およびNLSTデータ(同0.659 vs. 0.650)いずれでも、11項目のデータを用いた最新のリスクスコアPLCOM2012と同等だった。ほぼ同じ規模の試験集団と比べると、CXR-LCはPLCOデータではCMSより感度が良好で(74.9% vs. 63.8%、P=0.012)、肺がんの見逃しが30.7%少なかった。決断曲線解析で、CXR-LCの純便益はCMS適応基準より大きく、PLCOM2012とほぼ同等の便益であった。 【欠点】肺がん試験の検証であり、臨床現場で検証したものではないこと。 【結論】CXR-LCモデルは、CMS適応基準やEMRから一般的に入手できる情報を用いたものよりも肺がん発症のリスクが高い喫煙者を特定できた。 第一人者の医師による解説 健診・検診とも日本での応用を検討する価値がある成果 髙井 大哉 虎の門病院呼吸器センター内科部長 MMJ. April 2021;17(2):38 米国の公的医療保険システムのメディケアは65歳以上の高齢者、身体障害、透析などが必要な腎機能障害を持つ人を対象とした連邦政府が運営する制度、メディケイドは低所得者層を対象に州政府と連邦政府が運営する制度である。検査、治療薬の適応についてはコスト的な制約が多く、その中で肺がん検診を目的とした胸部CT検査の適応は、30pack-years以上の喫煙歴があり、禁煙後15年以下の55~77歳以上であるとされている。さらに、この基準を満たす米国民のうち、実際に肺がんCT検診を受けている割合は5%未満で、およそ60%の乳がんや大腸がん検診の受診率に比べ、あまりにも少ないことが問題となっている。 本研究では、胸部X線写真上のパターンと電子カルテで得られる情報(年齢、性別、現在の喫煙状況)から、人工知能の一種で、深層学習(deep learning)を用いた畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により長期的な肺がん発症の予測を試みている。学習データセットとして、前立腺がん、肺がん、大腸がん、卵巣がんに対する検診の有用性を検証した無作為化試験(PLCO試験)で集められた胸部X線写真 の80%(41,856人分)を用いた。この集団の背景は平均年齢は62.4歳、男性51.7%、白人86.7%、現喫煙者10.5%、既喫煙者44.9%、非喫煙者45.7%、12年追跡期間の胸部X線写真異常所見あり9.0%、肺がん2.3%、死亡1.5%であった。 PLCO試験の学習セットと独立した喫煙者のみの検証セット5,615人(全体の残り20%)において、今回開発されたCXR-LCモデルによる肺がん発症予測に関するROC曲線下面積(AUC)は0.755で、これはメディケア・メディケイド推奨条件に基づく0.634に比べ有意に大きく、PLCO試験で考案されたリスクスコア(PLCOM2012)の0.761と同程度であった。PLCOM2012は詳細な喫煙歴と必ずしも入手できない危険因子情報が必要であるのに対し、人工知能を導入したことにより、CXR-LCモデルは胸部X線写真と容易に入手できる臨床情報のみで、メディケア・メディケイド推奨条件よりも高い精度で胸部CT検査の適応症例を抽出できることが示された。 本研究の対象の大多数は白人で、また医療アクセスの容易さの異なる日本でその価値を推し量るのは難しいが、胸部X線写真に最低限の臨床情報と人工知能を用いることでCT撮影を推奨するモデルは、健診・検診ともに応用が検討される価値があると考えられる。
限局性前立腺がん患者の15年間のQOL転帰 オーストラリアの住民対象前向き研究
限局性前立腺がん患者の15年間のQOL転帰 オーストラリアの住民対象前向き研究
Fifteen year quality of life outcomes in men with localised prostate cancer: population based Australian prospective study BMJ. 2020 Oct 7;371:m3503. doi: 10.1136/bmj.m3503. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】限局性前立腺がんの診断後15年間の治療関連QOLの変化を評価すること。 【デザイン】追跡期間15年以上の住民対象前向きコホート研究。 【設定】オーストラリア・ニューサウスウェールズ州。 【参加者】ニューサウスウェールズ州の有権者名簿から無作為に募集し、New South Wales Prostate Cancer Care and Outcomes Study(PCOS)に登録した70歳未満の限局性前立腺がん患者1642例と対照786例。 【主要評価項目】12項目のShort Form Health Survey(SF12)尺度、カリフォルニア大学ロサンゼルス校前立腺がん指数、拡張前立腺がん複合指標(EPIC-26)を用いて、15年間で7回の測定時に一般的な健康状態と疾患別QOLを自己申告した。比較群とした対照との調整平均差を算出した。ベースラインスコアから標準偏差(SD)の3分の1と定義した最小重要差をもって、調整平均差の臨床的重要性を評価した。 【結果】15年時、全治療群が高水準の勃起不全を報告し、62.3%(積極的監視・経過観察、53例中33例)から83.0%(神経非温存根治的前立腺摘除、141例中117例)までと治療によって異なるが、いずれも対照群(42.7%、103例中44例)よりも高率であった。1次治療に外部照射法、高線量率近接照射療法、アンドロゲン除去療法を実施した患者に腸管障害の報告が多かった。外科手術を施行した患者で特に尿失禁の自己申告率が高く、アンドロゲン除去療法を実施した患者で、10~15年時に排尿障害の報告が増加した(10年目:調整平均差-5.3、95%信頼区間-10.8~0.2、15年目:-15.9、-25.1~-6.7)。 【結論】初期に積極的治療を受けた限局性前立腺がん患者で、前立腺がん診断を受けていない対照と比べて、自己報告による長期QOLが全般的に悪化した。根治的前立腺摘除術を受けた患者では特に、長期的な性生活転帰が不良であった。治療方法を決定する際、このような長期的QOLを考慮すべきである。 第一人者の医師による解説 長期的な性機能低下と尿失禁に関して 事前に十分な情報提供が必要 米瀬 淳二 公益財団法人がん研究会有明病院泌尿器科部長 MMJ. April 2021;17(2):55 前立腺がんは、前立腺特異抗原(PSA)検診により早期発見が増え男性のがんの中で肺がんに次いで2番目に高い罹患率となった。転移のない限局がんの予後は一般的に良好で、10年の疾患特異的生存率は本論文にもあるように、ほぼ100%である。良好な生存率の陰には不必要な過剰治療が生活の質(QOL)を低下させるという反省があり、低リスク限局性前立腺がんには監視療法が行われるようになった(1)。一方、米国では過剰な早期診断は益よりも害をもたらすとして2012年にPSA検診は有害とする勧告が出され、近年転移性前立腺がんの再増加が観察されている(2)。 住民に対するPSA検診の是非はさておき、先進国では毎日多くの男性が限局性前立腺がんと診断される。この早期発見が害ではなく益をもたらすためには、早期限局がんの治療選択において本論文のようなQOL調査の結果が参考になる。限局性前立腺がんの治療には、そのリスクに応じて、即座に根治治療を行わない監視療法から、前立腺全摘術、外照射、小線源治療、内分泌療法などの選択肢がある。これまでの前立腺がん治療後のQOL調査と同様、前立腺全摘では、尿失禁、性機能障害が長期にわたって継続し、外照射では腸のわずらわしさが他の治療より強く、小線源では排尿のわずらわしさが強く、時間経過とともに性機能低下はやがて受け入れられていくという結果が示されている。この点は実臨床での印象どおりで、やはりそうかと思わせるものである。 一方、本論文の限界としては初回治療後の追加治療に関する情報がないことである。監視療法も15年の間には半数以上が何らかの介入を受けている可能性があり、外照射のほとんどは一時的なホルモン療法が先行および併用されていると考えられる。このため、これらの初回治療群のQOLの結果の解釈に注意が必要と思われる。例えばホルモン療法群に腸のわずらわしさが多いのは放射線療法を受けた患者が多く含まれていると考えられ、逆に外照射の早期の性機能低下は内分泌療法併用の影響もあるのではないかと推測される。もちろん前立腺全摘術も再発時には追加治療を受けているのでどの群でも複数治療の影響があると思われる。しかし初回治療の選択から追加治療を含めての長期QOLは貴重なデータであり、治療選択の際には提示すべき結果である。ただあくまで個人的見解であるが、15年先のQOLよりもより短期間のQOLを重視する患者さんも多いと感じている。 1. Chen RC, et al. J Clin Oncol. 2016;34(18):2182-2190. 2. Butler SS, et al. Cancer. 2020;126(4):717-724.
進行ALK陽性肺がんの1次治療に用いるロルラチニブとクリゾチニブの比較
進行ALK陽性肺がんの1次治療に用いるロルラチニブとクリゾチニブの比較
First-Line Lorlatinib or Crizotinib in Advanced ALK-Positive Lung Cancer N Engl J Med. 2020 Nov 19;383(21):2018-2029. doi: 10.1056/NEJMoa2027187. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】第3世代の未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)阻害薬ロルラチニブは、治療歴のあるALK陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対する抗腫瘍活性がある。進行ALK陽性NSCLCの1次治療に用いるロルラチニブのクリゾチニブと比較した有効性は明らかになっていない。 【方法】進行または転移性ALK陽性NSCLCがあり、転移性NSCLCに対する全身治療歴のない患者296例を対象に、ロルラチニブをクリゾチニブと比較する第III相国際共同無作為化試験を実施した。主要評価項目は、盲検下の独立中央判定で評価した無増悪生存期間とした。独立に評価した客観的奏効率、頭蓋内奏効率を副次的評価項目とした。病勢進行または死亡の期待数177件中約133件(75%)発生後に有効性の中間解析を実施するよう計画した。 【結果】12カ月時の無増悪生存率はロルラチニブ群78%(95%信頼区間[CI]70~84)、クリゾチニブ群39%(95%CI 30~48)であった(病勢進行または死亡のハザード比0.28、95%CI 0.19~0.41、P<0.001)。ロルラチニブ群の76%(95%CI 68~83)とクリゾチニブ群の58%(95%CI 49~66)に客観的奏効が認められ、測定可能な脳転移があった患者ではそれぞれ82%(95%CI 57~96)と23%(95%CI 5~54)が頭蓋内奏効を得、ロルラチニブを投与した患者の71%が頭蓋内完全奏効を得た。ロルラチニブ群で頻度が高かった有害事象は、高脂血症、浮腫、体重増加、末梢性ニューロパチー、認知障害であった。ロルラチニブは、クリゾチニブと比較すると、グレード3または4の有害事象(主に脂質値異常)が多かった(72% vs. 56%)。それぞれ7%と9%が有害事象のため治療を中止した。 【結論】治療歴のない進行ALK陽性NSCLC患者を対象とした結果の中間解析から、ロルラチニブの投与を投与した患者は、クリゾチニブを投与した患者と比べて無増悪生存期間が有意に長く、頭蓋内奏効の確率が高かった。ロルラチニブで脂質値異常の発現頻度が高かったため、グレード3または4の有害事象発現率はロルラチニブの方がクリゾチニブよりも高かった。 第一人者の医師による解説 ロルラチニブは頭蓋内病変に対して奏効 アレクチニブとの使い分けが臨床上の課題 大谷 咲子 北里大学医学部呼吸器内科診療講師/佐々木 治一郎 北里大学医学部附属新世紀医療開発センター横断的医療領域開発部門臨床腫瘍学教授 MMJ. April 2021;17(2):37 未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)融合遺伝子は、非小細胞肺がんの約3~5%に認めるドライバー遺伝子異常である。進行・再発ALK融合遺伝子陽性肺がんに対するALKチロシンキナーゼ阻害薬(ALK-TKI)治療は、プラチナ製剤併用療法との比較試験で無増悪生存期間(PFS)の有意な延長を示したクリゾチニブで確立した(1)。その後、クリゾチニブと第2世代 ALK-TKIアレクチニブの第3相比較試験(ALEX試験)の結果、アレクチニブがPFSの有意な延長を示した(2)。このような背景から日本肺癌学会の「肺癌診療ガイドライン 2020年版」では、ALK融合遺伝子陽性肺がんの1次治療としてアレクチニブを推奨している(3)。 本論文は、未治療ALK融合遺伝子陽性肺がんを対象に第3世代ALK-TKIロルラチニブをクリゾチニブと比較する国際共同無作為化第3相試験(CROWN試験)の中間報告である。本試験には日本を含む23カ国104施設が参加し、対象は未治療の進行 ALK融合遺伝子陽性肺がん患者で、ロルラチニブ群149人、クリゾチニブ群147人に割り付けられた。主要評価項目はPFS、副次評価項目は客観的奏効割合と頭蓋内病変への奏効割合とした。中間解析のデータカットオフ時の12カ月PFS率は、ロルラチニブ群78%、クリゾチニブ群39%、ハザード比(HR)0.28(P<0.001)とロルラチニブ群が有意に優れていた。客観的奏効割合(76% 対 58%)および測定可能脳転移があった患者での奏効割合(82% 対 23%)ともにロルラチニブ群の方がクリゾチニブ群に比べ高かった。さらに頭蓋内病変を有するロルラチニブ群の71%で完全奏効を認めた。ロルラチニブ群で頻度の高い有害事象は高脂血症、浮腫、体重増加、末梢神経障害、認知機能低下であった。また、ロルラチニブ群はクリゾチニブ群よりもグレード3以上の有害事象(主に高脂血症)の発生が多かった(72% 対 56%)。 ロルラチニブはこれまで既存のALK-TKI耐性後の2次治療薬として承認されていたが、CROWN試験の結果より米食品医薬品局(FDA)は1次治療薬として承認した。日本でも2021年3月現在、1次治療薬として承認申請中である。ロルラチニブは他のALK-TKIに比べ特に脳移行性が高く、頭蓋内病変を有する患者だけでなく、頭蓋内病変の発生も抑制し高い病勢制御を期待できる。一方、グレード3以上の有害事象の頻度がやや高いことから、日本ではアレクチニブとの使い分けが臨床上の課題となる。今後、脳転移の有無や患者の状態、合併症に応じて複数のALK-TKIの中から最適な薬剤を選択することが重要となる。 1. Solomon BJ, et al. N Engl J Med. 2014;371(23):2167-2177. 2. Peters S, et al. N Engl J Med. 2017;377(9):829-838. 3. 肺癌診療ガイドライン 2020 年版:183-188.
深層学習と標準法を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による前立腺がんと悪性黒色腫患者の病原性変異検出の比較
深層学習と標準法を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による前立腺がんと悪性黒色腫患者の病原性変異検出の比較
Detection of Pathogenic Variants With Germline Genetic Testing Using Deep Learning vs Standard Methods in Patients With Prostate Cancer and Melanoma JAMA. 2020 Nov 17;324(19):1957-1969. doi: 10.1001/jama.2020.20457. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】検出可能な生殖細胞系列変異があるがん患者が10%に満たず、これは病原性変異の検出が不完全であることが原因の一つになっていると思われる。 【目的】深層学習によってがん患者の病原性生殖細胞系列変異がさらに多く特定できるかを評価すること。 【デザイン、設定および参加者】2010年から2017年の間に米国と欧州で組み入れた前立腺がんと悪性黒色腫の2つのコホートの便宜的標本で、標準生殖細胞検出法と深層学習法を検討する横断的研究。 【曝露】標準法または深層学習法を用いた生殖細胞系列変異の検出。 【主要評価項目】主要評価項目は、がん素因遺伝子118個の病原性変異の検出能とし、感度、特異度、陽性適中率(PPV)および陰性適中率(NPV)で推定した。副次評価項目は、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)が指定している治療可能な遺伝子59個および臨床的に重要なメンデル遺伝子5197個の検出能とした。感度および真の特異度は、標準基準がないため算出できなかったが、真陽性変異と真陰性変異の割合を推定することとし、いずれかの方法で有効と判断した全変異で構成された参照変異一式の中から各方法を用いて特定した。 【結果】前立腺がんコホートは1072例(診断時の平均[SD]年齢63.7[7.9]歳、欧州系857例[79.9%])、悪性黒色腫コホートは1295例(診断時の平均[SD]年齢59.8[15.6]歳、女性488例[37.7%]、欧州系1060例[81.9%])を組み入れた。深層学習法の法が標準法よりも、がん素因遺伝子の病原性変異が多く検出された(前立腺がん:198個 vs. 182個、悪性黒色腫:93個 vs. 74個)。感度は、前立腺がん94.7% vs. 87.1%(差7.6%、95%CI 2.2~13.1%)、悪性黒色腫74.4% vs. 59.2%(同15.2%、3.7~26.7%)、特異度は、前立腺がん64.0% vs. 36.0%(同28.0%、1.4~54.6%)、悪性黒色腫63.4% vs. 36.6%(同26.8%、95%CI 17.6~35.9%)、PPVは前立腺がん95.7% vs. 91.9%(同3.8%、-1.0~8.4%)、悪性黒色腫54.4% vs. 35.4%(同19.0%、9.1~28.9%)、NPVは前立腺がん59.3% vs. 25.0%(差34.3%、10.9~57.6%)、悪性黒色腫80.8% vs. 60.5%(同20.3%、10.0~30.7%)であった。ACMG遺伝子をみると、前立腺がんコホートでは両方法の感度に有意差がなかったが(94.9 vs. 90.6%[差4.3%、95%CI -2.3~10.9%])、悪性黒色腫コホートでは、深層学習法の方が感度が高かった(71.6% vs. 53.7%[同17.9%、1.82~34.0%])。深層学習法はメンデリアン遺伝子でも感度が高かった(前立腺がん99.7% vs. 95.1%[同4.6%、3.0~6.3%]、悪性黒色腫91.7% vs. 86.2%[同5.5%、2.2~8.8%])。 【結論および意義】前立腺がん患者と悪性黒色腫患者を組み入れた2つの独立のコホートから成る便宜的標本で、深層学習を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による病原性変異検出の感度および特異度が、現行の標準遺伝子検査法よりも高かった。臨床転帰の観点からこの結果の意義を理解するには、さらに詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 バリアントの検出手法は 新たな手法によって改善する余地あり 水上 圭二郎(研究員)/桃沢 幸秀(チームリーダー) 理化学研究所生命医科学研究センター基盤技術開発研究チーム MMJ. June 2021;17(3):92 現在行われている遺伝学的検査の多くは、患者のDNAを次世代シークエンサーと呼ばれる機械を用いて解読し、そのデータをコンピュータを用いて解析することによって、患者の遺伝子における塩 基配列の違い(バリアント)を検出する。このようにして検出されたバリアント情報は、疾患との関連性などの臨床的な解釈を付与された後、検査結 果として報告される。医師はこの検査結果に基づき疾患の発症予測や予後判定、治療方針の決定などを行う。遺伝学的検査の過程をバリアント検出と臨床的な解釈付けの2つに分けた場合、一般的に前者は高い正確性があると認識されているため、多くの研究は後者に焦点を当てたものになっているのが現状である。 しかしながら、前者についても重要な研究が行われており、2018年にGoogle Brainチームという人工知能の研究チームより、DeepVariantというバリアント検出に深層学習を用いたソフトウエア が報告された1 。このソフトウエアは、次世代シークエンサーの生データからバリアントを検出するまでの途中過程で生じる画像を大量に学習し、未知のバリアント検出に利用するという、とてもユニークな手法を用いている。本研究では、前立腺がんとメラノーマ患者由来の大規模データを用いて、このソフトウエアとヒトゲノム解析において世界の中心的な役割を果たしてきているBroad Instituteが開発したGenome Analysis Toolkit(GATK)のHaplotypeCallerという現在最も汎用されているソフトウエアを、臨床的に重要な遺伝子のバリアントに着目し、バリアント保有者数 、感度 、特異度 、陽性・陰性的中率について比較した。 これら2つの手法を比較した結果、特にBRCA1/2などの遺伝性腫瘍関連遺伝子群において、DeepVariantは全評価項目において従来法のHaplotypeCallerに比べ性能が良いことが示された。例えば、前立腺がん患者データにおいて検出されたバリアント保有者は、DeepVariantで198人、従来法で182人だった。この要因の1つとして、DeepVariantでは集団において保有者が1人しかいないような極めて頻度が低いバリアントも高感度に検出できたことが挙げられる。一方、 DeepVariantだけ検出できないバリアントも存在したことから、検出感度を最大にするためには両者の併用も考慮する必要があるとしている。 以上のように、バリアントの検出手法はすでに確立されたものと一般的には考えられているが、深層学習など新たな手法を用いることによってま だまだ改善する余地が残されていることが、本論文では示されていた。 1. Poplin R, et al. Nat Biotechnol. 2018;36(10):983-987.
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
Key Evidence Supporting Prescription Opioids Approved by the U.S. Food and Drug Administration, 1997 to 2018 Ann Intern Med. 2020 Dec 15;173(12):956-963. doi: 10.7326/M20-0274. Epub 2020 Sep 29. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】オピオイド鎮痛薬新規承認のために米食品医薬品局(FDA)が求めた根拠についてはほとんど知られていない。 【目的】1997年から2018年の間にFDAが承認したオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)の安全性および有効性データの質を明らかにすること。 【デザイン】横断的解析。 【設定】ClinicalTrials.gov、FDA審査および査読付き出版物のデータ。 【参加者】第3相主試験に参加した疼痛患者。 【介入】FDAが承認したオピオイド鎮痛薬。 【評価項目】主試験の数、規模および期間、試験の対照群、強化デザイン採用の有無および系統的に評価した安全性転帰などの各NDAの主な特徴。 【結果】評価したNDA 48件のほとんどが新投与形態(25件、52.1%)や新剤形(9件、18.8%)の申請で、わずか1件が新規化合物の申請であった。慢性疼痛の治療を適応に承認を受けたNDA 39件のうち、1件以上の主試験で裏付けられたものはわずか21製品(試験件数28件、試験期間中央値84日、対象症例数中央値299例)しかなかった。このうち17品(81%)は、不耐症例や早期に有害事象が認められた症例、直接的便益がほとんど認められなかった患者を除外する試験デザインを基に承認を受けていた。慢性疼痛のNDAのうち、8件(20.5%)が転用の系統的評価結果を報告した統合的な安全性レビューを提出し、7件(17.9%)が非医療目的での使用を系統的に評価し、15件(38.5%)が耐性発現を評価していた。急性疼痛治療薬9製品中8製品で、1件以上の主試験によって効果が裏付けられており、この主試験(19件)の期間中央値は1日(IQR 1~2日)で、329例(中央値、IQR 199~456例)を組み入れていた。承認を受けたNDA 48件のうち1例を除く全申請は既に承認されている成分に関するものであったが、関連製品のNDAの解析から同等の結果が得られた。 【欠点】解析は承認を受けたオピオイドに限られる点。動物試験や非主試験を除外した点。NDAの安全性の根拠が慢性疼痛のみを目的として示されている点。 【結論】1997年から2018年の間に、FDAは、薬剤に忍容性があった患者という狭義に定義した患者集団が頻繁に用いられた短期間または中期間の主試験を基にオピオイドを承認した。特定の重要な安全性転帰の体系的を収集することはまれであった。 第一人者の医師による解説 オピオイド鎮痛薬の有効性と安全性 十分な検証に基づく新薬承認が望まれる 伊原 奈帆(助教)/橋口 さおり(准教授) 慶應義塾大学医学部麻酔学教室 MMJ. June 2021;17(3):91 米国ではオピオイド鎮痛薬の過剰摂取による死者が2018年には46,000人を超え、誤用や乱用なども含め社会的問題となっている。 本論文は1997〜2018年に米食品医薬品局(FDA)が承認した48のオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)を対象に、有効性および安全性の評価に関して検討した横断的研究である。 新規有効成分のNDAは1件のみで、それ以外の47件中30件はFDA既承認薬の有効性や安全性に関する審査結果に新剤形や新配合など変更・改良の情報を合わせたデータによる申請であった。慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬のNDA39件のうち、1つ以上のピボタル試験が行われていたのは21件であった。これら21件のNDAで行われた計28試験について検討したところ、試験期間中央値は84日、被験者 数中央値は299人であった。NDA21件中17件(81%)では、効果が乏しい被験者や副作用に耐えられない被験者をランダム化前に除外する慣らし期間を含むEERWデザインの試験が、最低1つは行われていた。EERWデザインの22試験において最初に登録された人数の37.2%(中央値)がランダム化前に除外されていた。 慢性疼痛のNDA39件中、29件では耐性、転用、乱用、異常使用、過剰摂取などの項目による安全性を評価していたが、10件のNDAでは評価していなかった。39件のNDAにおいて副作用を体系的に評価したものはなかったが、耐え難い副作用による脱落者などの報告は一般的に行われていた。 この結果より、FDAにより承認された慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬は、12週以内の数回の試 験に基づき、耐性や転用の評価に乏しいプールされた解析が含まれたエビデンスで承認されていたことがわかった。多くの試験で、有効性を過大評価する可能性があるEERWデザインが使用されていた。 著者らはFDAに対して有効性と安全性の評価の向上のために、1 オピオイド鎮痛薬に関する規制 ガイダンスの強化、2 副作用の体系的な評価、3 EERWデザインの試験による評価の中止、4 長期安全性に関する証拠集め、5 乱用、依存や転用などの安全性情報の市販後調査を提言している。 日本では2020年10月にオキシコンチン ®TR 錠が慢性疼痛における鎮痛の適応追加の承認を受けたが、厚生労働省は厳しい流通管理体制をとることを承認条件としている。日本でも慢性疼痛のオピオイド鎮痛薬の処方は増えてくる可能性があるため、効果的かつ安全に使用するためのデータを十分に検証していく必要がある。
治療歴のない局所再発の切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるペムブロリズマブ+化学療法とプラセボ+化学療法の比較(KEYNOTE-355) 無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験
治療歴のない局所再発の切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるペムブロリズマブ+化学療法とプラセボ+化学療法の比較(KEYNOTE-355) 無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験
Pembrolizumab plus chemotherapy versus placebo plus chemotherapy for previously untreated locally recurrent inoperable or metastatic triple-negative breast cancer (KEYNOTE-355): a randomised, placebo-controlled, double-blind, phase 3 clinical trial Lancet. 2020 Dec 5;396(10265):1817-1828. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32531-9. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】転移性トリプルネガティブ乳がんで、ペムブロリズマブ単独療法による抗腫瘍活性の持続と管理可能な安全性が示された。今回、ペムブロリズマブの併用によって、転移性トリプルネガティブ乳がんに用いる化学療法の抗腫瘍活性が増幅するかを明らかにすることを目的とした。 【方法】29カ国209施設で実施したこの無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験では、ブロック法(ブロック数6)と統合ウェブ応答の自動音声応答システムを用いて、未治療の局所再発切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がん患者をペムブロリズマブ(200mg)3週に1回+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセルまたはゲムシタビン+カルボプラチン)とプラセボ+化学療法に無作為に割り付けた。患者を化学療法の種類(タキサンまたはゲムシタビン・カルボプラチン)、試験開始時のPD-L1発現状態(統合陽性スコア[CPS]1点以上または1点未満)および術前または術後補助療法で用いた同等の化学療法による治療歴の有無で層別化した。適格基準を18歳以上、中央判定機関が確定したトリプルネガティブ乳がん、測定可能な腫瘍1個以上、中央検査機関でトリプルネガティブ乳がんの状態およびPD-L1発現を免疫組織学的に確認するために新たに採取した腫瘍検体の提供が可能、米国東海岸癌臨床試験グループの全身状態スコア0または1点、十分な臓器機能とした。スポンサー、治験担当医師、その他の施設職員(治療の割り付けを伏せなかった薬剤師を除く)および患者にペムブロリズマブと生理食塩水の投与の割り付けを伏せた。さらに、スポンサー、治験担当医師、その他の施設職員および患者に患者ごとの腫瘍PD-L1バイオマーカーの結果も知らせずにおいた。PD-L1 CPSが10以上、1以上およびITT集団のそれぞれで評価した無増悪生存期間および総生存期間を主要有効性評価項目とした。無増悪生存期間の最終的な評価はこの中間解析で実施し、総生存期間を評価すべく追跡を継続中である。無増悪生存期間に階層的検定手順を用いて、まずCPSが10以上の患者(この中間解析では事前に規定した統計学的基準がα=0.00111)、次にCPSが1以上の患者(この中間解析ではα=0.00111、CPSが10以上の患者の無増悪生存期間から得たpartial α)、最後にITT集団(この中間解析ではα=0.00111)を評価した。本試験はClinicalTrials.govにNCT02819518で登録されており、現在も進行中である。 【結果】2017年1月9日から2018年6月12日の間に1372例をふるいにかけ、847例を治療に割り付けることとし、566例をペムブロリズマブ+化学療法群、281例をプラセボ+化学療法に割り付けた。2回目の中間解析(2019年12月11日にデータカットオフ)では、追跡期間中央値がペムブロリズマブ+化学療法群25.9カ月(IQR 22.8~29.9)、プラセボ+化学療法群26.3カ月(22.7~29.7)であった。CPSが10以上の患者の無増悪生存期間中央値が、ペムブロリズマブ+化学療法群9.7カ月、プラセボ+化学療法群5.6カ月であった(進行または死亡のハザード比[HR]0.65、95%CI 0.49~0.86、片側のP=0.0012[主要目的達成]。CPSが1以上の患者の無増悪生存期間中央値がそれぞれ7.6カ月と5.6カ月(HR 0.74、0.61~0.90、片側のP=0.0014[有意差なし])、ITT集団で7.5カ月と5.6カ月(HR 0.82、0.69~0.97[検定未実施])であった。ペムブロリズマブの治療効果によってPD-L1発現が増加した。グレード3~5の治療関連有害事象発現率がペムブロリズマブ+化学療法群68%、プラセボ+化学療法群67%であり、そのうちの死亡率がペムブロリズマブ+化学療法群1%未満およびプラセボ+化学療法群0%であった。 【解釈】ペムブロリズマブ+化学療法で、CPSが10以上の転移性トリプルネガティブ乳がんの無増悪生存期間が、プラセボ+化学療法と比べて有意で臨床的意義のある改善が認められた。この結果は、転移性トリプルネガティブ乳がんの1次治療に用いる標準化学療法にペムブロリズマブを上乗せした場合の効果を示唆するものである。 第一人者の医師による解説 化学療法への上乗せ効果が示されたことで 新たな治療選択肢が増える 川端 英孝 虎の門病院乳腺内分泌外科部長 MMJ. June 2021;17(3):87 本論文は2020年に米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された第3相KEYNOTE-355試験の中間解析結果の詳報である。PD-L1発現陽性(Combined Positive Scoreが10以上)の手術不能または転移性のトリプルネガティブ乳がんの1次治療として、抗PD-1モノクローナル抗体ペムブロリズマブと化学療法の併用が、化学療法のみの場合よりも有意に無増悪生存期間(PFS)を延長できるという内容である。なお、PFSはKEYNOTE-355試験の主要評価項目の1つであるが、もう1つの主要評価項目である全生存期間(OS)の評価は未発表で試験は継続されている。 ER陰性、PR陰性、HER2陰性を特徴とするトリプルネガティブ乳がんは他のサブタイプの乳がんに比べ治療ターゲットに欠けており、進行乳がんの治療戦略としては化学療法を主体としたものになるが、早晩治療抵抗性になってしまう。免疫チェックポイント阻害薬に分類されるペムブロリズマブは単剤でも抗腫瘍活性を示し、化学療法との併用が期待されていた。今回この薬剤の化学療法への上乗せ効果が示されたことで、我々は新たな治療選択肢を手に入れたことになる。 同じ免疫チェックポイント阻害薬として先行して2019年9月20日に適応拡大の承認を日本で受けたアテゾリズマブとの比較は重要である。アテゾリズマブは抗PD-L1モノクローナル抗体でIMpassion130試験(1)においてトリプルネガティブ進行乳がんにおける化学療法への上乗せ効果を示した。2つの薬剤の標的は異なっており、それぞれの臨床試験におけるPD-L1陽性例の評価もオーバーラップが多いが別個のコンパニオン診断を用いている。また臨床試験で用いられた化学療法がIMpassion130試験ではnab-パクリタキセルであるのに対してKEYNOTE355試験ではいくつかの化学療法レジメンが用いられている。 KEYNOTE-355試験には当院も含め日本の施設も参加しており、論文発表に先立ちMSD社は2020年10月12日、ペムブロリズマブについて、手術不能または転移性のトリプルネガティブ乳がんへの適応拡大申請を行ったと発表している。執筆時点(2021年4月17日)で審査中となっているが、承認されると、このセッティングの乳がん治療薬としてアテゾリズマブに加えて、新たな免疫チェックポイント阻害薬が加わることになる。なお、マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がんにおいてはがん種横断的にペムブロリズマブの使用が承認されており、この条件を満たせば現在でもペムブロリズマブを乳がんに使用することは可能である。 1. Schmid P, et al. N Engl J Med. 2018;379(22):2108-2121.
標準治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで検討した低用量かつ高頻度のカペシタビン維持療法と経過観察が無病生存率にもたらす効果の比較 SYSUCC-001無作為化臨床試験
標準治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで検討した低用量かつ高頻度のカペシタビン維持療法と経過観察が無病生存率にもたらす効果の比較 SYSUCC-001無作為化臨床試験
Effect of Capecitabine Maintenance Therapy Using Lower Dosage and Higher Frequency vs Observation on Disease-Free Survival Among Patients With Early-Stage Triple-Negative Breast Cancer Who Had Received Standard Treatment: The SYSUCC-001 Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jan 5;325(1):50-58. doi: 10.1001/jama.2020.23370. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】乳がんのサブタイプのうち、トリプルネガティブ乳がんは標準治療後の再発率がいくぶん高く、予後が不良である。再発と死亡リスクを下げる効果的な戦略が求められている。 【目的】早期トリプルネガティブ乳がんで、標準的な術後化学療法後に用いる低用量カペシタビン維持療法の有効性と有害事象を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】2010年4月から2016年12月の間に、中国の大学病院と臨床施設計13施設で実施した無作為化臨床試験。最終追跡調査日は2020年4月30日であった。参加者(443例)は早期のトリプルネガティブ乳がん患者であり、標準的な術後化学療法を終了していた。 【介入】標準的な術後化学療法終了後、適格患者をカペシタビン650mg/m^2を1年間にわたって1日2回投与するグループ(222例)と経過観察するグループ(221例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は無病生存率であった。無遠隔転移生存率、全生存率、局所無再発生存率、有害事象を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した443例のうち、34例を最大の解析対象集団[平均年齢(SD)46(9.9)歳、T1/T2期93.1%、リンパ節転移陰性61.8%]とした(98.0%が試験を完遂)。追跡調査期間中央値61カ月(四分位範囲44~82)の後、イベント94件が発生し、内訳はカペシタビン群38件(再発37例、死亡32例)、経過観察群56件(再発56例、死亡40例)であった。推定5年無病生存率は、カペシタビン群82.8%、観察群73.0%であった(再発または死亡リスクのハザード比[HR]0.64[95%CI 0.42~0.95]、P=0.03)。追跡調査期間中央値61カ月(四分位範囲44-82)の後、イベントが94件発生し、内訳はカペシタビン群38件(再発37件、死亡32件)、観察群56件(再発56件、死亡40件)であった(再発または死亡リスクのHR 0.64、95%CI 0.42~0.95、P=0.03)。カペシタビン群と観察群を比較すると、推定5年無遠隔転移生存率は85.8% vs 75.8%(遠隔転移または死亡リスクのHR 0.60、95%CI 0.38~0.92、P=0.02)、推定5年全生存率は85.5% vs 81.3%(死亡リスクのHR 0.75、95%CI 0.47~1.19、P=0.22)、推定5年局所無再発生存率は85.0% vs 80.8%(局所再発または死亡リスクのHR 0.72、95%CI 0.46~1.13、P =0.15)であった。最も発現頻度が高かったカペシタビン関連の有害事象は手足症候群(45.2%)であり、7.7%からグレード3の有害事象が報告された。 【結論および意義】標準的な術後治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで、1年間の低用量カペシタビン維持療法によって、経過観察と比べて5年無病生存率が有意に改善した。 第一人者の医師による解説 忍容性高く5年無病生存率を10%上昇 患者選択と至適投与法のさらなる検討必要 三階 貴史 北里大学医学部乳腺・甲状腺外科学主任教授 MMJ. June 2021;17(3):88 近年、乳がん薬物療法の進歩は著しく、ホルモン受容体陽性、またはHER2陽性タイプの転移性乳 がんの予後は年単位で改善した。一方、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に関しては最近、PARP阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬が日本でも保険診療で使用されているが、いまだ予後不良である。 転移性乳がんに対する新たな分子標的治療の開発が進む一方で、経口5-FU製剤はその効果と副作用の少なさから、こと日本では術後療法への応用が1980年代から進められていた。その有効性を示す日本発のエビデンスは2000年代に入って示されたが、高リスク患者に対してはアントラサイクリン系、タキサン系薬剤が国際的な標準治療となるにつれ、高齢者など一部の患者に対する選択肢としての位置づけに留まっていた。しかし、2017年に術前化学療法後に病理学的に腫瘍の残存を認めた患者に対するカペシタビン投与が、特にTNBCで有効であることが日韓国際共同試験の結果で示され(1)、現在NCCNガイドラインでは標準治療として推奨されている(2)。 本論文はTNBC患者に標準的な手術、術前/術後化学療法、放射線療法を行った後、1,300mg/m2/日という低用量(通常2,500mg/m2/日)でカペシタビンを2週内服、1週休薬で1年間投与することの有効性と副作用を明らかにすることを目的として中国で行われた多施設共同試験の結果である。解析対象はカペシタビン群221人、経過観察 群213人、観察期間中央値は61カ月であった。その結果、主要評価項目である5年無病生存率はカペシタビン群で経過観察群よりも有意に高いことが示された(82.8%対73.0%;ハザード比[HR],0.64)。また、副次評価項目である5年無遠隔転移生存率もカペシタビン群の方が有意に高かったが (85.5%対75.8%;HR,0.60)、5年全生存率、5年無局所再発生存率の統計学的有意差は認められなかった。アジア人の経口5-FU製剤に対する忍容性は高いと考えられているが、低用量で行われた本試験でもカペシタビンの相対用量強度(予定投与量に対する実際の投与量の割合)の中央値は85%であり、主な副作用である手足症候群は全グレードで45%、グレード3で8%の発現率であった。 これまでにも乳がん術後カペシタビン投与の有効性を検討する臨床試験はいくつか行われているものの、結果はcontroversialである。いまだ日本では術後療法としての投与は保険適用外であるが、TNBCの予後を改善するためにもカペシタビン投与が必要な患者選択と至適投与法の確立が待たれる。 1. Masuda N, et al. N Engl J Med. 2017;376(22):2147-2159. 2. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology Breast Cancer (Version 4.2021) (https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/breast.pdf)
PD-L1発現率50%以上の進行非小細胞肺がんの1次治療に用いるcemiplimab単独療法 国際共同多施設非盲検第III相無作為化比較試験
PD-L1発現率50%以上の進行非小細胞肺がんの1次治療に用いるcemiplimab単独療法 国際共同多施設非盲検第III相無作為化比較試験
Cemiplimab monotherapy for first-line treatment of advanced non-small-cell lung cancer with PD-L1 of at least 50%: a multicentre, open-label, global, phase 3, randomised, controlled trial Lancet. 2021 Feb 13;397(10274):592-604. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00228-2. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)が50%以上発現している進行非小細胞肺がんの1次治療に用いるPD-L1阻害薬cemiplimabを検討することを目的とした。 【方法】国際共同多施設非盲検第III相試験、EMPOWER-Lung 1では、24カ国138試験で組み入れた適格患者(18歳以上で組織学的および細胞学的に確認した進行非小細胞肺がんがあり、ECOG全身状態0~1点、喫煙未経験者を適格とした)をcemiplimab 3週に1回350mg投与と白金製剤含む2剤併用化学療法に1対1の割合で無作為化した。病勢進行後に化学療法からcemiplimabへと交差(クロスオーバー)してもよいこととした。主要評価項目は、治療の割付を伏せられた独立審査委員会が評価する全生存期間および無増悪生存期間とした。intention-to-treat集団および使用説明書に従った22C3アッセイでPD-L1が50%以上発現した患者から成る事前に規定したPD-L1発現率50%以上の集団(FDAが試験依頼者に要請)を対象に、主要評価項目を評価した。割り付けた治療を1回以上実施した患者全例で有害事象を評価した。この試験は、ClinicalTrials.govに登録されており(NCT03088540)、進行中である。 【結果】2017年6月27日から2020年2月27日の間に、710例を無作為化した(intention-to-treat集団)。563例から成るPD-L1発現率50%以上の集団では、全生存期間中央値がcemiplimab群(283例)で未到達(95%CI 17.9~評価不能)、化学療法群(280例)で14.2カ月(11.2~17.5)であった(ハザード比[HR]0.57[0.42-0.77]、P=0.0002)。無増悪生存期間中央値はcemiplimab群8.2カ月(6.1~8.8)、化学療法群5.7カ月(4.5~6.2)であった(HR 0.54[0.43~0.68]、P<0.0001)。intention-to-treat集団でも、クロスオーバー率が高かった(74%)にも関わらず、cemiplimabで全生存期間および無増悪生存期間の有意な改善が認められた。cemiplimabで治療した355例中98例(28%)および化学療法で治療した342例中135例(39%)にグレード3~4の治療下発生有害事象が発生した。 【解釈】PD-L1発現率50%以上の進行非小細胞肺がんで検討した結果、化学療法と比べるとcemiplimab単独療法で全生存期間および無増悪生存期間が有意に改善した。この結果から、この患者集団に用いる新たな治療選択肢の可能性が示された。 第一人者の医師による解説 PD-L1 50%以上ではペムブロリズマブ、アテゾリズマブに続く選択肢 鹿毛 秀宣 東京大学大学院医学系研究科 次世代プリシジョンメディシン開発講座 特任准教授 MMJ. August 2021;17(4):112 免疫チェックポイント阻害薬は非小細胞肺がんの治療薬として重要な位置を占める。現在日本では抗 PD-1抗体であるニボルマブとペムブロリズマブ、抗 PD-L1抗体であるアテゾリズマブとデュルバルマブ、抗 CTLA-4抗体であるイピリムマブの5種類の免疫チェックポイント阻害薬が承認されている。そのうちペムブロリズマブとアテゾリズマブはPD-L1の免疫染色で高発現を示す非小細胞肺がんにおいて単剤で良好な成績を示している(1),(2)。 本研究は、根治治療の対象とならない局所進行あるいは転移を伴う非小細胞肺がん患者に、新たな抗 PD-1抗体であるセミプリマブを1次治療として単剤投与し、標準的な細胞障害性抗がん剤と比較した第3相試験である。ペムブロリズマブと同じ22C3アッセイにてPD-L1 50%以上の高発現を認めた非小細胞肺がん患者を対象とし、EGFR、ALK、ROS1遺伝子異常を認める患者および非喫煙者は除外された。喫煙者は非喫煙者よりも免疫チェックポイント阻害薬が効きやすいことはよく知られているが、治験から非喫煙者を除外する基準は新しい。 本試験でセミプリマブは主要評価項目である全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)ともに細胞障害性抗がん剤と比較して有意に延長した。奏効率は39%であり、健康関連 QOLの改善もみられた。PD-L1の発現率を50%以上~60%以下、60%超~90%未満、90%以上に分けたところ、PD-L1の発現が高い方がOS、PFS、奏効率すべてにおいて優れた結果であった。免疫関連有害事象は17%と過去の報告よりも少なく、治療関連死は3%と過去の報告と同等であった。 この結果をもって2021年2月に米食品医薬品局(FDA)はPD-L1 50%以上でEGFR・ALK・ROS1陰性の非小細胞肺がん患者を対象としてセミプリマブを承認した。日本における承認は未定であるが、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブとの使い分けは難しい。PD-L1 50%以上で効果が高いのは新規性に乏しいものの、PD-L1発現と免疫チェックポイント阻害薬の効果の関係はアッセイや薬剤により多少の差異があるため、22C3アッセイでPD-L1の発現を評価し、高発現群に抗 PD-1抗体を使用すれば効果が高いことが再現されたことは意義がある。また、PD-L1 90%以上の群で有効性がさらに高いことが第3相試験の試験開始前から規定されていたサブグループ解析で示されたのは初めてであり、同じPD-L1 50%以上でも50%に近い群にはKEYNOTE-189試験(3)に準じてペムブロリズマブ+細胞障害性抗がん剤、100%に近い群にはセミプリマブを投与するという選択肢になるかもしれない。 1. Reck M, et al. New Engl J Med. 2016;375(19):1823-1833. 2. Herbst RS, et al. New Engl J Med. 2020;383(14):1328-1339. 3. Gandhi L, et al. N Engl J Med. 2018;378(22):2078-2092.