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デンマーク人女性の4価ヒトパピローマウイルスワクチン接種と自律神経機能障害の関連 住民対象自己対照症例集積解析
デンマーク人女性の4価ヒトパピローマウイルスワクチン接種と自律神経機能障害の関連 住民対象自己対照症例集積解析
Association between quadrivalent human papillomavirus vaccination and selected syndromes with autonomic dysfunction in Danish females: population based, self-controlled, case series analysis BMJ. 2020 Sep 2;370:m2930. doi: 10.1136/bmj.m2930. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】4価ヒトパピローマウイルスワクチンと慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群などの自律神経機能障害を伴う症候群の間の関連を評価すること。 【デザイン】住民対象自己対照症例集積。 【設定】デンマークの全国レジストリに記録されたICD-10診断コードを用いて特定したヒトパピローマウイルスワクチン接種および自律神経失調症症候群(慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群)に関する情報。 【参加者】2007年から2016年の間に参加した10~44歳の女性コホート137万5737例のうち自律神経失調症症候群がある女性869例。 【主要評価項目】4価ヒトパピローマウイルスワクチンを接種していない参加者と比較した同ワクチンを接種した女性参加者の慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群の複合転帰の自己対照症例集積率比(95%CI)で年齢および季節で調整した。このほか、二次解析で慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群を個別に検討した。 【結果】追跡期間1058万1902人年で、自律神経失調症症候群女性869例(慢性疲労症候群136例、複合性局所疼痛症候群535例および体位性頻脈症候群198例)を特定した。4価ヒトパピローマウイルスワクチンによって、ワクチン接種後365日のリスク期間中の自律神経機能障害を伴う各症候群の複合転帰発生率(率比0.99、95%CI 0.74~1.32)やリスク期間中の個々の症候群発生率(慢性疲労症候群[0.38、0.13~1.09]、複合性局所疼痛症候群[1.31、0.91~1.90]および体位性頻脈症候群[0.86、0.48~1.54])が有意に上昇することはなかった。 【結論】ワクチン接種導入後、全くの偶然でワクチン関連の有害事象が起こることがあると思われる。一連の結果からは、4価ヒトパピローマウイルスワクチンと慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群および体位性頻脈症候群の間の因果関係は、個別にみても複合転帰としても支持されない。最大32%のリスク上昇を正式に除外することはできないが、試験の統計的検出力からは、ワクチン接種によって各症候群発生率が上昇する可能性は低いと考えられる。 第一人者の医師による解説 研究期間後期ほど接種後発症が増加 生物学的反応以外の要素を示唆か 上坂 義和 虎の門病院脳神経内科部長 MMJ. February 2021;17(1):27 子宮頸がん予防のためのヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは大きな成果をあげてきたが、日本のほかにデンマーク、アイルランドなどで慢性疲労症候群、体位性起立性頻拍症候群、複合性局所疼痛症候群などの自律神経失調症候群が接種後有害事象として報告された。これらは散発的な報告で接種との因果関係を示す科学的根拠は乏しかったが、メディアがこぞって取り上げたことで予防接種プログラムは大きく後退した。その後英国、ノルウェー、フィンランド、オランダから上記関連を否定する報告がなされたが、ノルウェー以外は主に2価HPVワクチンでの検討であった。デンマークは国民識別番号制度を持ち医療費はすべて税金でまかなわれるため、詳細な受診情報が外来、入院とも国家レベルで登録されている。本研究ではその登録データを利用し、4価HPVワクチンに関する検討が行われた。 デンマークでは2009年から12歳の女性を対象に国レベルの4価HPVワクチン接種が開始、2012年からは20~27歳の女性に対する予防接種も開始された。本研究では2007~16年にデンマーク生まれの10~44歳の女性を対象とした。結果、137万人以上が対象となり1000万人年以上の検討がされた。52万9千人以上が4価HPVワクチン接種を1回以上受けていた。最終接種から12カ月(3回接種では計18カ月)までをリスク期間とし、自律神経失調症候群発症をその前後期間と比較する自己対照研究デザインによる検討もなされた。自律神経失調症候群は869例でみられた(発症率10万・人年あたり8.21)。このうち433例がHPVワクチン接種例であり、接種後の発症例(309例:12カ月未満72例、12カ月以降237例)は接種前の発症例(124例)よりも多かったが、研究期間の後期になるほどその傾向が顕著であった。また、慢性疲労症候群、体位性起立性頻拍症候群、複合性局所疼痛症候群の合計およびそのいずれか1つの症状をとってもリスク期間中の発症率は対照期間と比較し有意な上昇を認めなかった。最終接種から12カ月以降をリスク期間に含めて検討した場合でも非接種期間に比べ有意な発病率上昇を認めなかった。 本研究を含めてHPVワクチン接種と自律神経失調症候群の関連を検討した研究の結果は接種後の発症率上昇について否定的である。本研究で研究期間後期になるほど接種後発症(接種後50カ月以上、最大100カ月以上)が次第に増加していることは生物学的反応以外の要素が加わっていることを示唆しているように思える。
根治的前立腺全摘除術後の放射線治療のタイミング(RADICALS-RT) 第III相無作為化比較試験
根治的前立腺全摘除術後の放射線治療のタイミング(RADICALS-RT) 第III相無作為化比較試験
Timing of radiotherapy after radical prostatectomy (RADICALS-RT): a randomised, controlled phase 3 trial Lancet. 2020 Oct 31;396(10260):1413-1421. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31553-1. Epub 2020 Sep 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】前立腺がんの根治的前立腺全摘除術後の放射線治療の最適なタイミングは明らかになっていない。著者らは、前立腺特異的抗原(PSA)生化学的再発時の救済放射線療法と併用する経過観察と比較した補助放射線療法の有効性と安全性を比較すること。 【方法】根治的前立腺全摘除術後に生化学的進行が見られる1項目以上の危険因子(病理学的T分類3または4、グリーソンスコア7-10点、断端陽性、術前PSAが10ng/mL以上のいずれか)がある患者を組み入れた無作為化比較試験を実施した(RADICALS-RT試験)。試験は、試験実施の認可を受けたカナダ、デンマーク、アイルランドおよび英国の施設で実施した。患者を補助放射線療法とPSAで判定した再発(PSA 0.1ng/mL以上または連続3回以上で上昇)に応じて救済放射線療法を用いる経過観察に1対1の割合で無作為に割り付けた。盲検化は実効不可能と判断した。グリーソンスコア、切除断端、予定していた放射線スケジュール(52.5Gy/20分割または66Gy/33分割)および施設を層別化因子とした。主要評価項目は無遠隔転移生存期間に規定し、救済放射線療法(対照)による90%の改善から補助放射線療法による10年時の95%の改善を検出するデザイン(検出力80%)とした。生化学的無増悪生存期間、プロトコールにないホルモン療法非実施期間および患者方向転帰を報告する。標準的な生存解析法を用いた。ハザード比(HR)1未満を補助放射線療法良好とした。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT00541047で登録されている。 【結果】2007年11月22日から2016年12月30日の間に、1396例を無作為化し、699例(50%)を救済放射線療法群、697例(50%)を補助放射線療法群に割り付けた。割り付け群は年齢中央値65歳(IQR 60-68)で釣り合いがとれていた。追跡期間中央値4.9年(IQR 3.0-6.1)であった。補助放射線療法群に割り付けた697例中649例(93%)が6カ月以内、救済放射線療法群に割り付けた699例中228例(33%)が8カ月以内に放射線療法を実施したことを報告した。イベント169件で、5年生化学的無増悪生存率が補助放射線療法群で85%、救済放射線療法群で88%であった(HR 1.10、95%CI 0.81-1.49、P=0.56)。5年時のプロトコールにないホルモン療法非実施期間が補助放射線療法群で93%、救済放射線療法群で92%であった(HR 0.88、95%CI 0.58-1.33、P=0.53)。1年時の自己報告の尿失禁は補助放射線療法群の方が不良であった(平均スコア4.8 vs. 4.0、P=0.0023)。が補助放射線療法群の6%、救済放射線療法群の4%に2年以内にグレード3-4の尿道狭窄が報告された(P=0.020)。 【解釈】この初期結果は、根治的前立腺全摘除術後の補助放射線療法のルーチンの実施を支持するものではない。補助放射線療法によって泌尿器合併症リスクが上昇する。PSA生化学的再発時に救済放射線療法を実施する経過観察を根治的前立腺全摘除術後の現行の標準治療とすべきである。 第一人者の医師による解説 適切な救済放射線治療により 補助放射線治療とPSA制御に差はない 伊丹 純 元国立がん研究センター中央病院放射線治療科科長 MMJ. April 2021;17(2):54 前立腺全摘術は前立腺がんに対する根治療法の1つであるが、高リスク患者では半分程度に前立腺特異抗原(PSA)再発が見られる。切除断端陽性、前立腺被膜外浸潤陽性、精嚢浸潤陽性、Gleason score8以上などの再発高リスク患者には、手術に引き続き補助放射線治療が実施されることがある。それに対して、術後は経過観察とし、PSA再発をきたした場合にのみ救済放射線治療を実施する方が、放射線治療の対象を限定することができ、長期成績は補助放射線治療と変わらないとするものもある。 今回報告されたRADICALS-RT試験は術後の補助放射線治療群と経過観察群を比較した無作為化第3相試験であり、対象は再発危険因子としてpT3/pT4、Gleason score 7~10、断端陽性、治療前PSA 10ng/mL以上のいずれか1個以上を持つ前立腺全摘術の前立腺がん患者で、通常の術後照射の対象より再発リスクの低い患者も含まれる。無作為割り付け後、補助放射線治療群は2カ月以内に前立腺床に対する放射線治療を開始し、経過観察群はPSAが2回続けて0.1ng/mL以上に上昇した場合、2カ月以内に救済放射線治療を開始した。救済放射線治療はPSA 0.2ng/mL以下でより有効であることが示されており当試験の重要なポイントである。補助放射線治療、救済放射線治療ともに前立腺床±骨盤リンパ節に66Gy/33分割、または52.5Gy/20分割(約62Gy/31分割相当)の照射が実施された。2007年11月~16年12月に英連邦諸国およびデンマークから1,396人が登録され、追跡期間中央値は4.9年。無作為割り付け後5年で経過観察群のうち32%の患者で救済放射線治療が開始されていた。5年PSAの無増悪生存率は 補助放射線治療群で85%、経過観察群88%で有意差はなかった。しかし、泌尿器症状、消化器症状などは2年以内の早期およびそれ以降の晩期ともに経過観察群で有意に少なかった。 今回の試験と同時期にLancet Oncologyに同様な2件の第3相試験(1),(2)が報告され、それらを併せた3試験のメタアナリシス(3)も発表された。いずれの報告でもPSA値が0.2ng/mL程度の段階で救済療法が実施されれば経過観察群はPSA無増悪生存率で補助放射線治療群と差はないという結果であった。術後照射を必要とする高リスク群も抽出できなかった。これら3件の第3相試験とそのメタアナリシスを踏まえると、前立腺全摘術後の補助放射線治療はルーティンで実施されるべきではなく、救済療法はPSAが0.2ng/mL程度の段階で早期に開始すべきである。また、救済放射線治療の際にはホルモン療法の同時併用も考慮されるべきである。 1. Kneebone A, et al. Lancet Oncol. 2020;21(10):1331-1340. 2. Sargos P, et al. Lancet Oncol. 2020;21(10):1341-1352. 3. Vale CL, et al. Lancet. 2020;396(10260):1422-1431.
肺がん検診CTを要する高リスク喫煙者を特定するための胸部X線画像を用いた深層学習 予測モデルの開発と検証
肺がん検診CTを要する高リスク喫煙者を特定するための胸部X線画像を用いた深層学習 予測モデルの開発と検証
Deep Learning Using Chest Radiographs to Identify High-Risk Smokers for Lung Cancer Screening Computed Tomography: Development and Validation of a Prediction Model Ann Intern Med. 2020 Nov 3;173(9):704-713. doi: 10.7326/M20-1868. Epub 2020 Sep 1. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】胸部断層撮影(CT)検査を用いた肺がん検診で肺がんによる死亡を減らすことができる。メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)が定めるCTを用いた肺がん検診の適応基準では、詳細な喫煙状況が必要であり、肺がんの見逃しが多い。胸部X線画像を基に自動化した深層学習によって、CT検査の便益がある肺がん高リスクの喫煙者を多く特定できると考えられる。 【目的】電子医療記録(EMR)で入手できることの多いデータ(胸部X線画像、年齢、性別および現在の喫煙状況)を用いて長期的な肺がん発症を予測する畳み込みニューラルネットワーク(CXR-LC)を開発し、検証すること。 【デザイン】リスク予測研究。 【設定】米国肺がん検診試験。 【参加者】CXR-LCモデルはPLCO(前立腺、肺、大腸および卵巣)がん検診試験(4万1856例)で開発した。最終CXR-LCモデルは、新たなPLCOの喫煙者(5615例、追跡期間12年間)およびNLST(National Lung Screening Trial)の大量喫煙者(5493例、追跡期間6年間)で検証した。検証データでのみ結果を報告する。 【評価項目】CXR-LCで予測した最長12年間の肺がん発症率。 【結果】CXR-LCモデルは、肺がん予測の識別能(ROC曲線下面積[AUC])がCMSの適応基準よりも良好だった(PLCO AUC 0.755 vs. 0.634、P<0.001)。CXR-LCモデルの性能は、PLCOデータ(AUC:CXR-LC 0.755 vs. PLCOM2012 0.751)およびNLSTデータ(同0.659 vs. 0.650)いずれでも、11項目のデータを用いた最新のリスクスコアPLCOM2012と同等だった。ほぼ同じ規模の試験集団と比べると、CXR-LCはPLCOデータではCMSより感度が良好で(74.9% vs. 63.8%、P=0.012)、肺がんの見逃しが30.7%少なかった。決断曲線解析で、CXR-LCの純便益はCMS適応基準より大きく、PLCOM2012とほぼ同等の便益であった。 【欠点】肺がん試験の検証であり、臨床現場で検証したものではないこと。 【結論】CXR-LCモデルは、CMS適応基準やEMRから一般的に入手できる情報を用いたものよりも肺がん発症のリスクが高い喫煙者を特定できた。 第一人者の医師による解説 健診・検診とも日本での応用を検討する価値がある成果 髙井 大哉 虎の門病院呼吸器センター内科部長 MMJ. April 2021;17(2):38 米国の公的医療保険システムのメディケアは65歳以上の高齢者、身体障害、透析などが必要な腎機能障害を持つ人を対象とした連邦政府が運営する制度、メディケイドは低所得者層を対象に州政府と連邦政府が運営する制度である。検査、治療薬の適応についてはコスト的な制約が多く、その中で肺がん検診を目的とした胸部CT検査の適応は、30pack-years以上の喫煙歴があり、禁煙後15年以下の55~77歳以上であるとされている。さらに、この基準を満たす米国民のうち、実際に肺がんCT検診を受けている割合は5%未満で、およそ60%の乳がんや大腸がん検診の受診率に比べ、あまりにも少ないことが問題となっている。 本研究では、胸部X線写真上のパターンと電子カルテで得られる情報(年齢、性別、現在の喫煙状況)から、人工知能の一種で、深層学習(deep learning)を用いた畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により長期的な肺がん発症の予測を試みている。学習データセットとして、前立腺がん、肺がん、大腸がん、卵巣がんに対する検診の有用性を検証した無作為化試験(PLCO試験)で集められた胸部X線写真 の80%(41,856人分)を用いた。この集団の背景は平均年齢は62.4歳、男性51.7%、白人86.7%、現喫煙者10.5%、既喫煙者44.9%、非喫煙者45.7%、12年追跡期間の胸部X線写真異常所見あり9.0%、肺がん2.3%、死亡1.5%であった。 PLCO試験の学習セットと独立した喫煙者のみの検証セット5,615人(全体の残り20%)において、今回開発されたCXR-LCモデルによる肺がん発症予測に関するROC曲線下面積(AUC)は0.755で、これはメディケア・メディケイド推奨条件に基づく0.634に比べ有意に大きく、PLCO試験で考案されたリスクスコア(PLCOM2012)の0.761と同程度であった。PLCOM2012は詳細な喫煙歴と必ずしも入手できない危険因子情報が必要であるのに対し、人工知能を導入したことにより、CXR-LCモデルは胸部X線写真と容易に入手できる臨床情報のみで、メディケア・メディケイド推奨条件よりも高い精度で胸部CT検査の適応症例を抽出できることが示された。 本研究の対象の大多数は白人で、また医療アクセスの容易さの異なる日本でその価値を推し量るのは難しいが、胸部X線写真に最低限の臨床情報と人工知能を用いることでCT撮影を推奨するモデルは、健診・検診ともに応用が検討される価値があると考えられる。
限局性前立腺がん患者の15年間のQOL転帰 オーストラリアの住民対象前向き研究
限局性前立腺がん患者の15年間のQOL転帰 オーストラリアの住民対象前向き研究
Fifteen year quality of life outcomes in men with localised prostate cancer: population based Australian prospective study BMJ. 2020 Oct 7;371:m3503. doi: 10.1136/bmj.m3503. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】限局性前立腺がんの診断後15年間の治療関連QOLの変化を評価すること。 【デザイン】追跡期間15年以上の住民対象前向きコホート研究。 【設定】オーストラリア・ニューサウスウェールズ州。 【参加者】ニューサウスウェールズ州の有権者名簿から無作為に募集し、New South Wales Prostate Cancer Care and Outcomes Study(PCOS)に登録した70歳未満の限局性前立腺がん患者1642例と対照786例。 【主要評価項目】12項目のShort Form Health Survey(SF12)尺度、カリフォルニア大学ロサンゼルス校前立腺がん指数、拡張前立腺がん複合指標(EPIC-26)を用いて、15年間で7回の測定時に一般的な健康状態と疾患別QOLを自己申告した。比較群とした対照との調整平均差を算出した。ベースラインスコアから標準偏差(SD)の3分の1と定義した最小重要差をもって、調整平均差の臨床的重要性を評価した。 【結果】15年時、全治療群が高水準の勃起不全を報告し、62.3%(積極的監視・経過観察、53例中33例)から83.0%(神経非温存根治的前立腺摘除、141例中117例)までと治療によって異なるが、いずれも対照群(42.7%、103例中44例)よりも高率であった。1次治療に外部照射法、高線量率近接照射療法、アンドロゲン除去療法を実施した患者に腸管障害の報告が多かった。外科手術を施行した患者で特に尿失禁の自己申告率が高く、アンドロゲン除去療法を実施した患者で、10~15年時に排尿障害の報告が増加した(10年目:調整平均差-5.3、95%信頼区間-10.8~0.2、15年目:-15.9、-25.1~-6.7)。 【結論】初期に積極的治療を受けた限局性前立腺がん患者で、前立腺がん診断を受けていない対照と比べて、自己報告による長期QOLが全般的に悪化した。根治的前立腺摘除術を受けた患者では特に、長期的な性生活転帰が不良であった。治療方法を決定する際、このような長期的QOLを考慮すべきである。 第一人者の医師による解説 長期的な性機能低下と尿失禁に関して 事前に十分な情報提供が必要 米瀬 淳二 公益財団法人がん研究会有明病院泌尿器科部長 MMJ. April 2021;17(2):55 前立腺がんは、前立腺特異抗原(PSA)検診により早期発見が増え男性のがんの中で肺がんに次いで2番目に高い罹患率となった。転移のない限局がんの予後は一般的に良好で、10年の疾患特異的生存率は本論文にもあるように、ほぼ100%である。良好な生存率の陰には不必要な過剰治療が生活の質(QOL)を低下させるという反省があり、低リスク限局性前立腺がんには監視療法が行われるようになった(1)。一方、米国では過剰な早期診断は益よりも害をもたらすとして2012年にPSA検診は有害とする勧告が出され、近年転移性前立腺がんの再増加が観察されている(2)。 住民に対するPSA検診の是非はさておき、先進国では毎日多くの男性が限局性前立腺がんと診断される。この早期発見が害ではなく益をもたらすためには、早期限局がんの治療選択において本論文のようなQOL調査の結果が参考になる。限局性前立腺がんの治療には、そのリスクに応じて、即座に根治治療を行わない監視療法から、前立腺全摘術、外照射、小線源治療、内分泌療法などの選択肢がある。これまでの前立腺がん治療後のQOL調査と同様、前立腺全摘では、尿失禁、性機能障害が長期にわたって継続し、外照射では腸のわずらわしさが他の治療より強く、小線源では排尿のわずらわしさが強く、時間経過とともに性機能低下はやがて受け入れられていくという結果が示されている。この点は実臨床での印象どおりで、やはりそうかと思わせるものである。 一方、本論文の限界としては初回治療後の追加治療に関する情報がないことである。監視療法も15年の間には半数以上が何らかの介入を受けている可能性があり、外照射のほとんどは一時的なホルモン療法が先行および併用されていると考えられる。このため、これらの初回治療群のQOLの結果の解釈に注意が必要と思われる。例えばホルモン療法群に腸のわずらわしさが多いのは放射線療法を受けた患者が多く含まれていると考えられ、逆に外照射の早期の性機能低下は内分泌療法併用の影響もあるのではないかと推測される。もちろん前立腺全摘術も再発時には追加治療を受けているのでどの群でも複数治療の影響があると思われる。しかし初回治療の選択から追加治療を含めての長期QOLは貴重なデータであり、治療選択の際には提示すべき結果である。ただあくまで個人的見解であるが、15年先のQOLよりもより短期間のQOLを重視する患者さんも多いと感じている。 1. Chen RC, et al. J Clin Oncol. 2016;34(18):2182-2190. 2. Butler SS, et al. Cancer. 2020;126(4):717-724.
進行ALK陽性肺がんの1次治療に用いるロルラチニブとクリゾチニブの比較
進行ALK陽性肺がんの1次治療に用いるロルラチニブとクリゾチニブの比較
First-Line Lorlatinib or Crizotinib in Advanced ALK-Positive Lung Cancer N Engl J Med. 2020 Nov 19;383(21):2018-2029. doi: 10.1056/NEJMoa2027187. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】第3世代の未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)阻害薬ロルラチニブは、治療歴のあるALK陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対する抗腫瘍活性がある。進行ALK陽性NSCLCの1次治療に用いるロルラチニブのクリゾチニブと比較した有効性は明らかになっていない。 【方法】進行または転移性ALK陽性NSCLCがあり、転移性NSCLCに対する全身治療歴のない患者296例を対象に、ロルラチニブをクリゾチニブと比較する第III相国際共同無作為化試験を実施した。主要評価項目は、盲検下の独立中央判定で評価した無増悪生存期間とした。独立に評価した客観的奏効率、頭蓋内奏効率を副次的評価項目とした。病勢進行または死亡の期待数177件中約133件(75%)発生後に有効性の中間解析を実施するよう計画した。 【結果】12カ月時の無増悪生存率はロルラチニブ群78%(95%信頼区間[CI]70~84)、クリゾチニブ群39%(95%CI 30~48)であった(病勢進行または死亡のハザード比0.28、95%CI 0.19~0.41、P<0.001)。ロルラチニブ群の76%(95%CI 68~83)とクリゾチニブ群の58%(95%CI 49~66)に客観的奏効が認められ、測定可能な脳転移があった患者ではそれぞれ82%(95%CI 57~96)と23%(95%CI 5~54)が頭蓋内奏効を得、ロルラチニブを投与した患者の71%が頭蓋内完全奏効を得た。ロルラチニブ群で頻度が高かった有害事象は、高脂血症、浮腫、体重増加、末梢性ニューロパチー、認知障害であった。ロルラチニブは、クリゾチニブと比較すると、グレード3または4の有害事象(主に脂質値異常)が多かった(72% vs. 56%)。それぞれ7%と9%が有害事象のため治療を中止した。 【結論】治療歴のない進行ALK陽性NSCLC患者を対象とした結果の中間解析から、ロルラチニブの投与を投与した患者は、クリゾチニブを投与した患者と比べて無増悪生存期間が有意に長く、頭蓋内奏効の確率が高かった。ロルラチニブで脂質値異常の発現頻度が高かったため、グレード3または4の有害事象発現率はロルラチニブの方がクリゾチニブよりも高かった。 第一人者の医師による解説 ロルラチニブは頭蓋内病変に対して奏効 アレクチニブとの使い分けが臨床上の課題 大谷 咲子 北里大学医学部呼吸器内科診療講師/佐々木 治一郎 北里大学医学部附属新世紀医療開発センター横断的医療領域開発部門臨床腫瘍学教授 MMJ. April 2021;17(2):37 未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)融合遺伝子は、非小細胞肺がんの約3~5%に認めるドライバー遺伝子異常である。進行・再発ALK融合遺伝子陽性肺がんに対するALKチロシンキナーゼ阻害薬(ALK-TKI)治療は、プラチナ製剤併用療法との比較試験で無増悪生存期間(PFS)の有意な延長を示したクリゾチニブで確立した(1)。その後、クリゾチニブと第2世代 ALK-TKIアレクチニブの第3相比較試験(ALEX試験)の結果、アレクチニブがPFSの有意な延長を示した(2)。このような背景から日本肺癌学会の「肺癌診療ガイドライン 2020年版」では、ALK融合遺伝子陽性肺がんの1次治療としてアレクチニブを推奨している(3)。 本論文は、未治療ALK融合遺伝子陽性肺がんを対象に第3世代ALK-TKIロルラチニブをクリゾチニブと比較する国際共同無作為化第3相試験(CROWN試験)の中間報告である。本試験には日本を含む23カ国104施設が参加し、対象は未治療の進行 ALK融合遺伝子陽性肺がん患者で、ロルラチニブ群149人、クリゾチニブ群147人に割り付けられた。主要評価項目はPFS、副次評価項目は客観的奏効割合と頭蓋内病変への奏効割合とした。中間解析のデータカットオフ時の12カ月PFS率は、ロルラチニブ群78%、クリゾチニブ群39%、ハザード比(HR)0.28(P<0.001)とロルラチニブ群が有意に優れていた。客観的奏効割合(76% 対 58%)および測定可能脳転移があった患者での奏効割合(82% 対 23%)ともにロルラチニブ群の方がクリゾチニブ群に比べ高かった。さらに頭蓋内病変を有するロルラチニブ群の71%で完全奏効を認めた。ロルラチニブ群で頻度の高い有害事象は高脂血症、浮腫、体重増加、末梢神経障害、認知機能低下であった。また、ロルラチニブ群はクリゾチニブ群よりもグレード3以上の有害事象(主に高脂血症)の発生が多かった(72% 対 56%)。 ロルラチニブはこれまで既存のALK-TKI耐性後の2次治療薬として承認されていたが、CROWN試験の結果より米食品医薬品局(FDA)は1次治療薬として承認した。日本でも2021年3月現在、1次治療薬として承認申請中である。ロルラチニブは他のALK-TKIに比べ特に脳移行性が高く、頭蓋内病変を有する患者だけでなく、頭蓋内病変の発生も抑制し高い病勢制御を期待できる。一方、グレード3以上の有害事象の頻度がやや高いことから、日本ではアレクチニブとの使い分けが臨床上の課題となる。今後、脳転移の有無や患者の状態、合併症に応じて複数のALK-TKIの中から最適な薬剤を選択することが重要となる。 1. Solomon BJ, et al. N Engl J Med. 2014;371(23):2167-2177. 2. Peters S, et al. N Engl J Med. 2017;377(9):829-838. 3. 肺癌診療ガイドライン 2020 年版:183-188.
深層学習と標準法を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による前立腺がんと悪性黒色腫患者の病原性変異検出の比較
深層学習と標準法を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による前立腺がんと悪性黒色腫患者の病原性変異検出の比較
Detection of Pathogenic Variants With Germline Genetic Testing Using Deep Learning vs Standard Methods in Patients With Prostate Cancer and Melanoma JAMA. 2020 Nov 17;324(19):1957-1969. doi: 10.1001/jama.2020.20457. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】検出可能な生殖細胞系列変異があるがん患者が10%に満たず、これは病原性変異の検出が不完全であることが原因の一つになっていると思われる。 【目的】深層学習によってがん患者の病原性生殖細胞系列変異がさらに多く特定できるかを評価すること。 【デザイン、設定および参加者】2010年から2017年の間に米国と欧州で組み入れた前立腺がんと悪性黒色腫の2つのコホートの便宜的標本で、標準生殖細胞検出法と深層学習法を検討する横断的研究。 【曝露】標準法または深層学習法を用いた生殖細胞系列変異の検出。 【主要評価項目】主要評価項目は、がん素因遺伝子118個の病原性変異の検出能とし、感度、特異度、陽性適中率(PPV)および陰性適中率(NPV)で推定した。副次評価項目は、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)が指定している治療可能な遺伝子59個および臨床的に重要なメンデル遺伝子5197個の検出能とした。感度および真の特異度は、標準基準がないため算出できなかったが、真陽性変異と真陰性変異の割合を推定することとし、いずれかの方法で有効と判断した全変異で構成された参照変異一式の中から各方法を用いて特定した。 【結果】前立腺がんコホートは1072例(診断時の平均[SD]年齢63.7[7.9]歳、欧州系857例[79.9%])、悪性黒色腫コホートは1295例(診断時の平均[SD]年齢59.8[15.6]歳、女性488例[37.7%]、欧州系1060例[81.9%])を組み入れた。深層学習法の法が標準法よりも、がん素因遺伝子の病原性変異が多く検出された(前立腺がん:198個 vs. 182個、悪性黒色腫:93個 vs. 74個)。感度は、前立腺がん94.7% vs. 87.1%(差7.6%、95%CI 2.2~13.1%)、悪性黒色腫74.4% vs. 59.2%(同15.2%、3.7~26.7%)、特異度は、前立腺がん64.0% vs. 36.0%(同28.0%、1.4~54.6%)、悪性黒色腫63.4% vs. 36.6%(同26.8%、95%CI 17.6~35.9%)、PPVは前立腺がん95.7% vs. 91.9%(同3.8%、-1.0~8.4%)、悪性黒色腫54.4% vs. 35.4%(同19.0%、9.1~28.9%)、NPVは前立腺がん59.3% vs. 25.0%(差34.3%、10.9~57.6%)、悪性黒色腫80.8% vs. 60.5%(同20.3%、10.0~30.7%)であった。ACMG遺伝子をみると、前立腺がんコホートでは両方法の感度に有意差がなかったが(94.9 vs. 90.6%[差4.3%、95%CI -2.3~10.9%])、悪性黒色腫コホートでは、深層学習法の方が感度が高かった(71.6% vs. 53.7%[同17.9%、1.82~34.0%])。深層学習法はメンデリアン遺伝子でも感度が高かった(前立腺がん99.7% vs. 95.1%[同4.6%、3.0~6.3%]、悪性黒色腫91.7% vs. 86.2%[同5.5%、2.2~8.8%])。 【結論および意義】前立腺がん患者と悪性黒色腫患者を組み入れた2つの独立のコホートから成る便宜的標本で、深層学習を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による病原性変異検出の感度および特異度が、現行の標準遺伝子検査法よりも高かった。臨床転帰の観点からこの結果の意義を理解するには、さらに詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 バリアントの検出手法は 新たな手法によって改善する余地あり 水上 圭二郎(研究員)/桃沢 幸秀(チームリーダー) 理化学研究所生命医科学研究センター基盤技術開発研究チーム MMJ. June 2021;17(3):92 現在行われている遺伝学的検査の多くは、患者のDNAを次世代シークエンサーと呼ばれる機械を用いて解読し、そのデータをコンピュータを用いて解析することによって、患者の遺伝子における塩 基配列の違い(バリアント)を検出する。このようにして検出されたバリアント情報は、疾患との関連性などの臨床的な解釈を付与された後、検査結 果として報告される。医師はこの検査結果に基づき疾患の発症予測や予後判定、治療方針の決定などを行う。遺伝学的検査の過程をバリアント検出と臨床的な解釈付けの2つに分けた場合、一般的に前者は高い正確性があると認識されているため、多くの研究は後者に焦点を当てたものになっているのが現状である。 しかしながら、前者についても重要な研究が行われており、2018年にGoogle Brainチームという人工知能の研究チームより、DeepVariantというバリアント検出に深層学習を用いたソフトウエア が報告された1 。このソフトウエアは、次世代シークエンサーの生データからバリアントを検出するまでの途中過程で生じる画像を大量に学習し、未知のバリアント検出に利用するという、とてもユニークな手法を用いている。本研究では、前立腺がんとメラノーマ患者由来の大規模データを用いて、このソフトウエアとヒトゲノム解析において世界の中心的な役割を果たしてきているBroad Instituteが開発したGenome Analysis Toolkit(GATK)のHaplotypeCallerという現在最も汎用されているソフトウエアを、臨床的に重要な遺伝子のバリアントに着目し、バリアント保有者数 、感度 、特異度 、陽性・陰性的中率について比較した。 これら2つの手法を比較した結果、特にBRCA1/2などの遺伝性腫瘍関連遺伝子群において、DeepVariantは全評価項目において従来法のHaplotypeCallerに比べ性能が良いことが示された。例えば、前立腺がん患者データにおいて検出されたバリアント保有者は、DeepVariantで198人、従来法で182人だった。この要因の1つとして、DeepVariantでは集団において保有者が1人しかいないような極めて頻度が低いバリアントも高感度に検出できたことが挙げられる。一方、 DeepVariantだけ検出できないバリアントも存在したことから、検出感度を最大にするためには両者の併用も考慮する必要があるとしている。 以上のように、バリアントの検出手法はすでに確立されたものと一般的には考えられているが、深層学習など新たな手法を用いることによってま だまだ改善する余地が残されていることが、本論文では示されていた。 1. Poplin R, et al. Nat Biotechnol. 2018;36(10):983-987.
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
Key Evidence Supporting Prescription Opioids Approved by the U.S. Food and Drug Administration, 1997 to 2018 Ann Intern Med. 2020 Dec 15;173(12):956-963. doi: 10.7326/M20-0274. Epub 2020 Sep 29. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】オピオイド鎮痛薬新規承認のために米食品医薬品局(FDA)が求めた根拠についてはほとんど知られていない。 【目的】1997年から2018年の間にFDAが承認したオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)の安全性および有効性データの質を明らかにすること。 【デザイン】横断的解析。 【設定】ClinicalTrials.gov、FDA審査および査読付き出版物のデータ。 【参加者】第3相主試験に参加した疼痛患者。 【介入】FDAが承認したオピオイド鎮痛薬。 【評価項目】主試験の数、規模および期間、試験の対照群、強化デザイン採用の有無および系統的に評価した安全性転帰などの各NDAの主な特徴。 【結果】評価したNDA 48件のほとんどが新投与形態(25件、52.1%)や新剤形(9件、18.8%)の申請で、わずか1件が新規化合物の申請であった。慢性疼痛の治療を適応に承認を受けたNDA 39件のうち、1件以上の主試験で裏付けられたものはわずか21製品(試験件数28件、試験期間中央値84日、対象症例数中央値299例)しかなかった。このうち17品(81%)は、不耐症例や早期に有害事象が認められた症例、直接的便益がほとんど認められなかった患者を除外する試験デザインを基に承認を受けていた。慢性疼痛のNDAのうち、8件(20.5%)が転用の系統的評価結果を報告した統合的な安全性レビューを提出し、7件(17.9%)が非医療目的での使用を系統的に評価し、15件(38.5%)が耐性発現を評価していた。急性疼痛治療薬9製品中8製品で、1件以上の主試験によって効果が裏付けられており、この主試験(19件)の期間中央値は1日(IQR 1~2日)で、329例(中央値、IQR 199~456例)を組み入れていた。承認を受けたNDA 48件のうち1例を除く全申請は既に承認されている成分に関するものであったが、関連製品のNDAの解析から同等の結果が得られた。 【欠点】解析は承認を受けたオピオイドに限られる点。動物試験や非主試験を除外した点。NDAの安全性の根拠が慢性疼痛のみを目的として示されている点。 【結論】1997年から2018年の間に、FDAは、薬剤に忍容性があった患者という狭義に定義した患者集団が頻繁に用いられた短期間または中期間の主試験を基にオピオイドを承認した。特定の重要な安全性転帰の体系的を収集することはまれであった。 第一人者の医師による解説 オピオイド鎮痛薬の有効性と安全性 十分な検証に基づく新薬承認が望まれる 伊原 奈帆(助教)/橋口 さおり(准教授) 慶應義塾大学医学部麻酔学教室 MMJ. June 2021;17(3):91 米国ではオピオイド鎮痛薬の過剰摂取による死者が2018年には46,000人を超え、誤用や乱用なども含め社会的問題となっている。 本論文は1997〜2018年に米食品医薬品局(FDA)が承認した48のオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)を対象に、有効性および安全性の評価に関して検討した横断的研究である。 新規有効成分のNDAは1件のみで、それ以外の47件中30件はFDA既承認薬の有効性や安全性に関する審査結果に新剤形や新配合など変更・改良の情報を合わせたデータによる申請であった。慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬のNDA39件のうち、1つ以上のピボタル試験が行われていたのは21件であった。これら21件のNDAで行われた計28試験について検討したところ、試験期間中央値は84日、被験者 数中央値は299人であった。NDA21件中17件(81%)では、効果が乏しい被験者や副作用に耐えられない被験者をランダム化前に除外する慣らし期間を含むEERWデザインの試験が、最低1つは行われていた。EERWデザインの22試験において最初に登録された人数の37.2%(中央値)がランダム化前に除外されていた。 慢性疼痛のNDA39件中、29件では耐性、転用、乱用、異常使用、過剰摂取などの項目による安全性を評価していたが、10件のNDAでは評価していなかった。39件のNDAにおいて副作用を体系的に評価したものはなかったが、耐え難い副作用による脱落者などの報告は一般的に行われていた。 この結果より、FDAにより承認された慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬は、12週以内の数回の試 験に基づき、耐性や転用の評価に乏しいプールされた解析が含まれたエビデンスで承認されていたことがわかった。多くの試験で、有効性を過大評価する可能性があるEERWデザインが使用されていた。 著者らはFDAに対して有効性と安全性の評価の向上のために、1 オピオイド鎮痛薬に関する規制 ガイダンスの強化、2 副作用の体系的な評価、3 EERWデザインの試験による評価の中止、4 長期安全性に関する証拠集め、5 乱用、依存や転用などの安全性情報の市販後調査を提言している。 日本では2020年10月にオキシコンチン ®TR 錠が慢性疼痛における鎮痛の適応追加の承認を受けたが、厚生労働省は厳しい流通管理体制をとることを承認条件としている。日本でも慢性疼痛のオピオイド鎮痛薬の処方は増えてくる可能性があるため、効果的かつ安全に使用するためのデータを十分に検証していく必要がある。
治療歴のない局所再発の切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるペムブロリズマブ+化学療法とプラセボ+化学療法の比較(KEYNOTE-355) 無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験
治療歴のない局所再発の切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるペムブロリズマブ+化学療法とプラセボ+化学療法の比較(KEYNOTE-355) 無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験
Pembrolizumab plus chemotherapy versus placebo plus chemotherapy for previously untreated locally recurrent inoperable or metastatic triple-negative breast cancer (KEYNOTE-355): a randomised, placebo-controlled, double-blind, phase 3 clinical trial Lancet. 2020 Dec 5;396(10265):1817-1828. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32531-9. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】転移性トリプルネガティブ乳がんで、ペムブロリズマブ単独療法による抗腫瘍活性の持続と管理可能な安全性が示された。今回、ペムブロリズマブの併用によって、転移性トリプルネガティブ乳がんに用いる化学療法の抗腫瘍活性が増幅するかを明らかにすることを目的とした。 【方法】29カ国209施設で実施したこの無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験では、ブロック法(ブロック数6)と統合ウェブ応答の自動音声応答システムを用いて、未治療の局所再発切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がん患者をペムブロリズマブ(200mg)3週に1回+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセルまたはゲムシタビン+カルボプラチン)とプラセボ+化学療法に無作為に割り付けた。患者を化学療法の種類(タキサンまたはゲムシタビン・カルボプラチン)、試験開始時のPD-L1発現状態(統合陽性スコア[CPS]1点以上または1点未満)および術前または術後補助療法で用いた同等の化学療法による治療歴の有無で層別化した。適格基準を18歳以上、中央判定機関が確定したトリプルネガティブ乳がん、測定可能な腫瘍1個以上、中央検査機関でトリプルネガティブ乳がんの状態およびPD-L1発現を免疫組織学的に確認するために新たに採取した腫瘍検体の提供が可能、米国東海岸癌臨床試験グループの全身状態スコア0または1点、十分な臓器機能とした。スポンサー、治験担当医師、その他の施設職員(治療の割り付けを伏せなかった薬剤師を除く)および患者にペムブロリズマブと生理食塩水の投与の割り付けを伏せた。さらに、スポンサー、治験担当医師、その他の施設職員および患者に患者ごとの腫瘍PD-L1バイオマーカーの結果も知らせずにおいた。PD-L1 CPSが10以上、1以上およびITT集団のそれぞれで評価した無増悪生存期間および総生存期間を主要有効性評価項目とした。無増悪生存期間の最終的な評価はこの中間解析で実施し、総生存期間を評価すべく追跡を継続中である。無増悪生存期間に階層的検定手順を用いて、まずCPSが10以上の患者(この中間解析では事前に規定した統計学的基準がα=0.00111)、次にCPSが1以上の患者(この中間解析ではα=0.00111、CPSが10以上の患者の無増悪生存期間から得たpartial α)、最後にITT集団(この中間解析ではα=0.00111)を評価した。本試験はClinicalTrials.govにNCT02819518で登録されており、現在も進行中である。 【結果】2017年1月9日から2018年6月12日の間に1372例をふるいにかけ、847例を治療に割り付けることとし、566例をペムブロリズマブ+化学療法群、281例をプラセボ+化学療法に割り付けた。2回目の中間解析(2019年12月11日にデータカットオフ)では、追跡期間中央値がペムブロリズマブ+化学療法群25.9カ月(IQR 22.8~29.9)、プラセボ+化学療法群26.3カ月(22.7~29.7)であった。CPSが10以上の患者の無増悪生存期間中央値が、ペムブロリズマブ+化学療法群9.7カ月、プラセボ+化学療法群5.6カ月であった(進行または死亡のハザード比[HR]0.65、95%CI 0.49~0.86、片側のP=0.0012[主要目的達成]。CPSが1以上の患者の無増悪生存期間中央値がそれぞれ7.6カ月と5.6カ月(HR 0.74、0.61~0.90、片側のP=0.0014[有意差なし])、ITT集団で7.5カ月と5.6カ月(HR 0.82、0.69~0.97[検定未実施])であった。ペムブロリズマブの治療効果によってPD-L1発現が増加した。グレード3~5の治療関連有害事象発現率がペムブロリズマブ+化学療法群68%、プラセボ+化学療法群67%であり、そのうちの死亡率がペムブロリズマブ+化学療法群1%未満およびプラセボ+化学療法群0%であった。 【解釈】ペムブロリズマブ+化学療法で、CPSが10以上の転移性トリプルネガティブ乳がんの無増悪生存期間が、プラセボ+化学療法と比べて有意で臨床的意義のある改善が認められた。この結果は、転移性トリプルネガティブ乳がんの1次治療に用いる標準化学療法にペムブロリズマブを上乗せした場合の効果を示唆するものである。 第一人者の医師による解説 化学療法への上乗せ効果が示されたことで 新たな治療選択肢が増える 川端 英孝 虎の門病院乳腺内分泌外科部長 MMJ. June 2021;17(3):87 本論文は2020年に米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された第3相KEYNOTE-355試験の中間解析結果の詳報である。PD-L1発現陽性(Combined Positive Scoreが10以上)の手術不能または転移性のトリプルネガティブ乳がんの1次治療として、抗PD-1モノクローナル抗体ペムブロリズマブと化学療法の併用が、化学療法のみの場合よりも有意に無増悪生存期間(PFS)を延長できるという内容である。なお、PFSはKEYNOTE-355試験の主要評価項目の1つであるが、もう1つの主要評価項目である全生存期間(OS)の評価は未発表で試験は継続されている。 ER陰性、PR陰性、HER2陰性を特徴とするトリプルネガティブ乳がんは他のサブタイプの乳がんに比べ治療ターゲットに欠けており、進行乳がんの治療戦略としては化学療法を主体としたものになるが、早晩治療抵抗性になってしまう。免疫チェックポイント阻害薬に分類されるペムブロリズマブは単剤でも抗腫瘍活性を示し、化学療法との併用が期待されていた。今回この薬剤の化学療法への上乗せ効果が示されたことで、我々は新たな治療選択肢を手に入れたことになる。 同じ免疫チェックポイント阻害薬として先行して2019年9月20日に適応拡大の承認を日本で受けたアテゾリズマブとの比較は重要である。アテゾリズマブは抗PD-L1モノクローナル抗体でIMpassion130試験(1)においてトリプルネガティブ進行乳がんにおける化学療法への上乗せ効果を示した。2つの薬剤の標的は異なっており、それぞれの臨床試験におけるPD-L1陽性例の評価もオーバーラップが多いが別個のコンパニオン診断を用いている。また臨床試験で用いられた化学療法がIMpassion130試験ではnab-パクリタキセルであるのに対してKEYNOTE355試験ではいくつかの化学療法レジメンが用いられている。 KEYNOTE-355試験には当院も含め日本の施設も参加しており、論文発表に先立ちMSD社は2020年10月12日、ペムブロリズマブについて、手術不能または転移性のトリプルネガティブ乳がんへの適応拡大申請を行ったと発表している。執筆時点(2021年4月17日)で審査中となっているが、承認されると、このセッティングの乳がん治療薬としてアテゾリズマブに加えて、新たな免疫チェックポイント阻害薬が加わることになる。なお、マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がんにおいてはがん種横断的にペムブロリズマブの使用が承認されており、この条件を満たせば現在でもペムブロリズマブを乳がんに使用することは可能である。 1. Schmid P, et al. N Engl J Med. 2018;379(22):2108-2121.
標準治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで検討した低用量かつ高頻度のカペシタビン維持療法と経過観察が無病生存率にもたらす効果の比較 SYSUCC-001無作為化臨床試験
標準治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで検討した低用量かつ高頻度のカペシタビン維持療法と経過観察が無病生存率にもたらす効果の比較 SYSUCC-001無作為化臨床試験
Effect of Capecitabine Maintenance Therapy Using Lower Dosage and Higher Frequency vs Observation on Disease-Free Survival Among Patients With Early-Stage Triple-Negative Breast Cancer Who Had Received Standard Treatment: The SYSUCC-001 Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jan 5;325(1):50-58. doi: 10.1001/jama.2020.23370. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】乳がんのサブタイプのうち、トリプルネガティブ乳がんは標準治療後の再発率がいくぶん高く、予後が不良である。再発と死亡リスクを下げる効果的な戦略が求められている。 【目的】早期トリプルネガティブ乳がんで、標準的な術後化学療法後に用いる低用量カペシタビン維持療法の有効性と有害事象を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】2010年4月から2016年12月の間に、中国の大学病院と臨床施設計13施設で実施した無作為化臨床試験。最終追跡調査日は2020年4月30日であった。参加者(443例)は早期のトリプルネガティブ乳がん患者であり、標準的な術後化学療法を終了していた。 【介入】標準的な術後化学療法終了後、適格患者をカペシタビン650mg/m^2を1年間にわたって1日2回投与するグループ(222例)と経過観察するグループ(221例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は無病生存率であった。無遠隔転移生存率、全生存率、局所無再発生存率、有害事象を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した443例のうち、34例を最大の解析対象集団[平均年齢(SD)46(9.9)歳、T1/T2期93.1%、リンパ節転移陰性61.8%]とした(98.0%が試験を完遂)。追跡調査期間中央値61カ月(四分位範囲44~82)の後、イベント94件が発生し、内訳はカペシタビン群38件(再発37例、死亡32例)、経過観察群56件(再発56例、死亡40例)であった。推定5年無病生存率は、カペシタビン群82.8%、観察群73.0%であった(再発または死亡リスクのハザード比[HR]0.64[95%CI 0.42~0.95]、P=0.03)。追跡調査期間中央値61カ月(四分位範囲44-82)の後、イベントが94件発生し、内訳はカペシタビン群38件(再発37件、死亡32件)、観察群56件(再発56件、死亡40件)であった(再発または死亡リスクのHR 0.64、95%CI 0.42~0.95、P=0.03)。カペシタビン群と観察群を比較すると、推定5年無遠隔転移生存率は85.8% vs 75.8%(遠隔転移または死亡リスクのHR 0.60、95%CI 0.38~0.92、P=0.02)、推定5年全生存率は85.5% vs 81.3%(死亡リスクのHR 0.75、95%CI 0.47~1.19、P=0.22)、推定5年局所無再発生存率は85.0% vs 80.8%(局所再発または死亡リスクのHR 0.72、95%CI 0.46~1.13、P =0.15)であった。最も発現頻度が高かったカペシタビン関連の有害事象は手足症候群(45.2%)であり、7.7%からグレード3の有害事象が報告された。 【結論および意義】標準的な術後治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで、1年間の低用量カペシタビン維持療法によって、経過観察と比べて5年無病生存率が有意に改善した。 第一人者の医師による解説 忍容性高く5年無病生存率を10%上昇 患者選択と至適投与法のさらなる検討必要 三階 貴史 北里大学医学部乳腺・甲状腺外科学主任教授 MMJ. June 2021;17(3):88 近年、乳がん薬物療法の進歩は著しく、ホルモン受容体陽性、またはHER2陽性タイプの転移性乳 がんの予後は年単位で改善した。一方、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に関しては最近、PARP阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬が日本でも保険診療で使用されているが、いまだ予後不良である。 転移性乳がんに対する新たな分子標的治療の開発が進む一方で、経口5-FU製剤はその効果と副作用の少なさから、こと日本では術後療法への応用が1980年代から進められていた。その有効性を示す日本発のエビデンスは2000年代に入って示されたが、高リスク患者に対してはアントラサイクリン系、タキサン系薬剤が国際的な標準治療となるにつれ、高齢者など一部の患者に対する選択肢としての位置づけに留まっていた。しかし、2017年に術前化学療法後に病理学的に腫瘍の残存を認めた患者に対するカペシタビン投与が、特にTNBCで有効であることが日韓国際共同試験の結果で示され(1)、現在NCCNガイドラインでは標準治療として推奨されている(2)。 本論文はTNBC患者に標準的な手術、術前/術後化学療法、放射線療法を行った後、1,300mg/m2/日という低用量(通常2,500mg/m2/日)でカペシタビンを2週内服、1週休薬で1年間投与することの有効性と副作用を明らかにすることを目的として中国で行われた多施設共同試験の結果である。解析対象はカペシタビン群221人、経過観察 群213人、観察期間中央値は61カ月であった。その結果、主要評価項目である5年無病生存率はカペシタビン群で経過観察群よりも有意に高いことが示された(82.8%対73.0%;ハザード比[HR],0.64)。また、副次評価項目である5年無遠隔転移生存率もカペシタビン群の方が有意に高かったが (85.5%対75.8%;HR,0.60)、5年全生存率、5年無局所再発生存率の統計学的有意差は認められなかった。アジア人の経口5-FU製剤に対する忍容性は高いと考えられているが、低用量で行われた本試験でもカペシタビンの相対用量強度(予定投与量に対する実際の投与量の割合)の中央値は85%であり、主な副作用である手足症候群は全グレードで45%、グレード3で8%の発現率であった。 これまでにも乳がん術後カペシタビン投与の有効性を検討する臨床試験はいくつか行われているものの、結果はcontroversialである。いまだ日本では術後療法としての投与は保険適用外であるが、TNBCの予後を改善するためにもカペシタビン投与が必要な患者選択と至適投与法の確立が待たれる。 1. Masuda N, et al. N Engl J Med. 2017;376(22):2147-2159. 2. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology Breast Cancer (Version 4.2021) (https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/breast.pdf)
PD-L1発現率50%以上の進行非小細胞肺がんの1次治療に用いるcemiplimab単独療法 国際共同多施設非盲検第III相無作為化比較試験
PD-L1発現率50%以上の進行非小細胞肺がんの1次治療に用いるcemiplimab単独療法 国際共同多施設非盲検第III相無作為化比較試験
Cemiplimab monotherapy for first-line treatment of advanced non-small-cell lung cancer with PD-L1 of at least 50%: a multicentre, open-label, global, phase 3, randomised, controlled trial Lancet. 2021 Feb 13;397(10274):592-604. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00228-2. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)が50%以上発現している進行非小細胞肺がんの1次治療に用いるPD-L1阻害薬cemiplimabを検討することを目的とした。 【方法】国際共同多施設非盲検第III相試験、EMPOWER-Lung 1では、24カ国138試験で組み入れた適格患者(18歳以上で組織学的および細胞学的に確認した進行非小細胞肺がんがあり、ECOG全身状態0~1点、喫煙未経験者を適格とした)をcemiplimab 3週に1回350mg投与と白金製剤含む2剤併用化学療法に1対1の割合で無作為化した。病勢進行後に化学療法からcemiplimabへと交差(クロスオーバー)してもよいこととした。主要評価項目は、治療の割付を伏せられた独立審査委員会が評価する全生存期間および無増悪生存期間とした。intention-to-treat集団および使用説明書に従った22C3アッセイでPD-L1が50%以上発現した患者から成る事前に規定したPD-L1発現率50%以上の集団(FDAが試験依頼者に要請)を対象に、主要評価項目を評価した。割り付けた治療を1回以上実施した患者全例で有害事象を評価した。この試験は、ClinicalTrials.govに登録されており(NCT03088540)、進行中である。 【結果】2017年6月27日から2020年2月27日の間に、710例を無作為化した(intention-to-treat集団)。563例から成るPD-L1発現率50%以上の集団では、全生存期間中央値がcemiplimab群(283例)で未到達(95%CI 17.9~評価不能)、化学療法群(280例)で14.2カ月(11.2~17.5)であった(ハザード比[HR]0.57[0.42-0.77]、P=0.0002)。無増悪生存期間中央値はcemiplimab群8.2カ月(6.1~8.8)、化学療法群5.7カ月(4.5~6.2)であった(HR 0.54[0.43~0.68]、P<0.0001)。intention-to-treat集団でも、クロスオーバー率が高かった(74%)にも関わらず、cemiplimabで全生存期間および無増悪生存期間の有意な改善が認められた。cemiplimabで治療した355例中98例(28%)および化学療法で治療した342例中135例(39%)にグレード3~4の治療下発生有害事象が発生した。 【解釈】PD-L1発現率50%以上の進行非小細胞肺がんで検討した結果、化学療法と比べるとcemiplimab単独療法で全生存期間および無増悪生存期間が有意に改善した。この結果から、この患者集団に用いる新たな治療選択肢の可能性が示された。 第一人者の医師による解説 PD-L1 50%以上ではペムブロリズマブ、アテゾリズマブに続く選択肢 鹿毛 秀宣 東京大学大学院医学系研究科 次世代プリシジョンメディシン開発講座 特任准教授 MMJ. August 2021;17(4):112 免疫チェックポイント阻害薬は非小細胞肺がんの治療薬として重要な位置を占める。現在日本では抗 PD-1抗体であるニボルマブとペムブロリズマブ、抗 PD-L1抗体であるアテゾリズマブとデュルバルマブ、抗 CTLA-4抗体であるイピリムマブの5種類の免疫チェックポイント阻害薬が承認されている。そのうちペムブロリズマブとアテゾリズマブはPD-L1の免疫染色で高発現を示す非小細胞肺がんにおいて単剤で良好な成績を示している(1),(2)。 本研究は、根治治療の対象とならない局所進行あるいは転移を伴う非小細胞肺がん患者に、新たな抗 PD-1抗体であるセミプリマブを1次治療として単剤投与し、標準的な細胞障害性抗がん剤と比較した第3相試験である。ペムブロリズマブと同じ22C3アッセイにてPD-L1 50%以上の高発現を認めた非小細胞肺がん患者を対象とし、EGFR、ALK、ROS1遺伝子異常を認める患者および非喫煙者は除外された。喫煙者は非喫煙者よりも免疫チェックポイント阻害薬が効きやすいことはよく知られているが、治験から非喫煙者を除外する基準は新しい。 本試験でセミプリマブは主要評価項目である全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)ともに細胞障害性抗がん剤と比較して有意に延長した。奏効率は39%であり、健康関連 QOLの改善もみられた。PD-L1の発現率を50%以上~60%以下、60%超~90%未満、90%以上に分けたところ、PD-L1の発現が高い方がOS、PFS、奏効率すべてにおいて優れた結果であった。免疫関連有害事象は17%と過去の報告よりも少なく、治療関連死は3%と過去の報告と同等であった。 この結果をもって2021年2月に米食品医薬品局(FDA)はPD-L1 50%以上でEGFR・ALK・ROS1陰性の非小細胞肺がん患者を対象としてセミプリマブを承認した。日本における承認は未定であるが、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブとの使い分けは難しい。PD-L1 50%以上で効果が高いのは新規性に乏しいものの、PD-L1発現と免疫チェックポイント阻害薬の効果の関係はアッセイや薬剤により多少の差異があるため、22C3アッセイでPD-L1の発現を評価し、高発現群に抗 PD-1抗体を使用すれば効果が高いことが再現されたことは意義がある。また、PD-L1 90%以上の群で有効性がさらに高いことが第3相試験の試験開始前から規定されていたサブグループ解析で示されたのは初めてであり、同じPD-L1 50%以上でも50%に近い群にはKEYNOTE-189試験(3)に準じてペムブロリズマブ+細胞障害性抗がん剤、100%に近い群にはセミプリマブを投与するという選択肢になるかもしれない。 1. Reck M, et al. New Engl J Med. 2016;375(19):1823-1833. 2. Herbst RS, et al. New Engl J Med. 2020;383(14):1328-1339. 3. Gandhi L, et al. N Engl J Med. 2018;378(22):2078-2092.
転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるsacituzumab govitecan
転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるsacituzumab govitecan
Sacituzumab Govitecan in Metastatic Triple-Negative Breast Cancer N Engl J Med. 2021 Apr 22;384(16):1529-1541. doi: 10.1056/NEJMoa2028485. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】転移性トリプルネガティブ乳がんは予後が不良である。sacituzumab govitecanは、乳がんの大多数に発現するヒト栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)を標的とする抗体とSN-38(トポイソメラーゼI阻害薬)を特許取得済みの加水分解性リンカーで結合させた抗体薬物複合体である。 【方法】この第III相無作為化試験では、再発または難治性の転移性トリプルネガティブ乳がんを対象に、sacituzumab govitecanと医師が選択した単剤化学療法(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビンのいずれか)を比較した。主要評価項目は、脳転移のない患者の無増悪生存期間(盲検下の独立中央判定委員会が判定)とした。 【結果】脳転移がない患者468例をsacituzumab govitecan群(235例)、化学療法群(233例)に無作為化により割り付けた。年齢中央値は54歳であり、全例にタキサン系薬剤使用歴があった。無増悪期間中央値は、sacituzumab govitecan群が5.6カ月(95%CI、4.3~6.3、166件)、化学療法群が1.7カ月(95%CI、1.5~2.6、150件)であった(進行または死亡のハザード比、0.41;95%CI、0.32~0.52;P<0.001)。総生存期間中央値は、sacituzumab govitecan群が12.1カ月(95%CI、10.7~14.0)、化学療法群で6.7カ月(同5.8~7.7)であった(死亡のハザード比、0.48;95%CI、0.38~0.59、P<0.001)。 客観的奏効率はsacituzumab govitecan群が35%、化学療法群が5%であった。グレード3以上の特記すべき治療関連有害事象は、好中球減少症(sacituzumab govitecan群51%、化学療法群33%)、白血球減少症(10%、5%)、下痢(10%、1%未満)、貧血(8%、5%)、発熱性好中球減少症(6%、2%)であった。有害事象に起因する死亡が各群3例あったが、sacituzumab govitecanと関連があると判断したものはなかった。 【結論】転移性トリプルネガティブ乳がんで、sacituzumab govitecan群の無増悪生存期間および総生存期間が単剤化学療法群よりも有意に長かった。sacituzumab govitecan群の方が骨髄抑制と下痢が多かった。 第一人者の医師による解説 前治療を伴う転移性トリプルネガティブ乳がんに対する単剤での有意な予後延長 井本 滋 杏林大学医学部乳腺外科教授 MMJ. October 2021;17(5):149 ホルモン受容体陰性・HER2陰性のいわゆるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)は予後不良である。遠隔転移を伴わない浸潤がんでは、術前後のアントラサイクリン系およびタキサン系薬剤を用いた薬物療法が標準治療である。転移再発時は残りの化学療法やPD-L1陽性免疫細胞浸潤を伴う腫瘍には抗 PD-L1抗体アテゾリズマブ+ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセルの免疫化学療法が選択されるが、奏効例は限定的である。 サシツズマブゴビテカン(SG)は、トロフォブラスト細胞表面抗原2(Trop-2)を標的とするIgG1抗体とイリノテカンの活性代謝物であるSN-38を加水分解性リンカーで結合させた抗体薬物複合薬である(1)。既治療の転移性 TNBC患者108人を対象とした第1/2相試験では、奏効率は33%で奏効期間の中央値は7.7カ月であった。本論文はその第3相試験(ASCENT)の結果報告である。対象はタキサン系薬剤を含む2レジメン以上が実施された進行再発 TNBCである。進行していない脳転移例も登録されたが、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の解析からは除かれた。SG群と化学療法群(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、またはゲムシタビンの単剤投与)における有効性が比較された。その結果、脳転移を伴わないTNBC患者468人(年齢中央値 54歳)が登録され、SG群は235人、化学療法群は233人であった。PFS中央値はSG群が5.6カ月、化学療法群が1.7カ月であった(ハザード比[HR], 0.41;P<0.001)。全生存期間の中央値はそれぞれ12.1カ月と6.7カ月であった(HR, 0.48;P<0.001)。奏効率はSG群で35%、化学療法群で5%であった。グレード3以上の治療に関連する有害事象の発現率は、それぞれ好中球減少が51%と33%、白血球減少が10%と5%、下痢が10%と1%未満、貧血が8%と5%、発熱性好中球減少が6%と2%であった。有害事象に伴う死亡が各群で3人発生したが、SGに関連する死亡はなかった。サブグループ解析では、前治療におけるPD-1またはPD-L1阻害薬使用の有無、肝転移の有無、前治療の数に関わらず、SG群で化学療法群に比べPFSが改善した。以上から、標準治療が実施された転移性 TNBCでは、骨髄抑制や下痢が高頻度であるものの、SG単剤による有意な生命予後の延長が示された。 1. Bardia A, et al. N Engl J Med. 2019;380(8):741-751.
III期大腸がんで標準補助療法と併用するセレコキシブとプラセボが無病生存率にもたらす効果の比較:CALGB/SWOG 80702(Alliance)無作為化比較試験
III期大腸がんで標準補助療法と併用するセレコキシブとプラセボが無病生存率にもたらす効果の比較:CALGB/SWOG 80702(Alliance)無作為化比較試験
Effect of Celecoxib vs Placebo Added to Standard Adjuvant Therapy on Disease-Free Survival Among Patients With Stage III Colon Cancer: The CALGB/SWOG 80702 (Alliance) Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Apr 6;325(13):1277-1286. doi: 10.1001/jama.2021.2454. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】観察研究や無作為化試験から、アスピリンとシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)阻害薬に大腸のポリープおよびがんのリスク低下に関連があることが明らかになっている。転移のない大腸がんの治療に用いるCOX-2阻害薬、セレコキシブの効果は明らかになっていない。 【目的】III期大腸がんで、フルオロウラシル、ロイコボリンおよびオキサリプラチン(FOLFOX)による術後補助化学療法にセレコキシブを追加すると無病生存期率が改善するかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】Cancer and Leukemia Group B (Alliance)/Southwest Oncology Group(CALGB/SWOG) 80702試験は、米国およびカナダの市中病院および大学病院654施設で実施された2×2要因デザインの第III相試験である。2010年6月から2015年11月にかけてIII期大腸がん患者計2,526例を組み入れ、2020年8月10日まで追跡した。 【介入】患者をFOLFOX補助化学療法(2週間に1回)を3カ月実施するグループと6カ月実施するグループ、セレコキシブ(400mgを1日1回経口投与)を3年間投与する群(1,263例)とプラセボ群(1,261例)に割り付けた。本稿は、セレコキシブの無作為化の結果を中心に報告する。 【主要評価項目】主要評価項目は、無作為化から再発または全死亡が報告されるまでを評価した無病生存率とした。総生存率、有害事象、心血管系特異的事象を副次的評価項目とした。 【結果】無作為化により割り付けた2,526例(平均値[SD]年齢61.0歳[11歳]、女性1,134例[44.9%])のうち2,524例を主解析の対象とした。プロトコールの治療遵守率(セレコキシブまたはプラセボを2.75年以上投与、再発、死亡または許容できない有害事象発生までの治療継続と定義)は、セレコキシブ投与群70.8%、プラセボ群69.9%だった。セレコキシブ群の337例、プラセボ群の363例に再発または死亡が発生し、追跡期間中央値6年で、3年無病生存率はセレコキシブ群76.3%、プラセボ群73.4%であった(再発または死亡のハザード比[HR]0.89;95%CI、0.76~1.03、P=0.12)。割り付けた術後補助化学療法の継続期間中、無病生存率に対するセレコキシブ治療の効果に有意な変化は見られなかった(交互作用のP=0.61)。5年時の総生存率は、セレコキシブ群84.3%、プラセボ群81.6%であった(死亡のHR 0.86、95%CI、0.72~1.04;P=0.13)。FOLFOX投与期間中、セレコキシブ群の14.6%、プラセボ群の10.9%に高血圧(全グレード)が生じ、FOLFOX終了後、それぞれ1.7%と0.5%にグレード2以上のクレアチニン値上昇が生じた。 【結論および意義】III期大腸がん患者の標準術後補助化学療法に3年間セレコキシブ併用しても、プラセボより無病生存率を有意に改善することができなかった。 第一人者の医師による解説 COX-2阻害薬の上乗せ効果 本当にないのかの確認はさらなる検証が必要 山本 聖一郎 東海大学医学部消化器外科教授 MMJ. October 2021;17(5):151 アスピリンやシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)阻害薬を長期服用することで、大腸腺腫や大腸がんの発生のみならず、大腸がん術後の再発率が低下するとの報告がある。結腸がんステージIII術後の予後改善目的の標準補助化学療法は5-フルオロウラシル系薬剤+オキサリプラチン療法(FOLFOX療法)である。本臨床試験 はFOLFOX療法にCOX-2阻害薬セレコキシブの3年間併用で予後が改善するかを検証する優越性試験である。3年無病生存率をプラセボ群(P群)で72%、セレコキシブ群(C群)で77%と想定し、2,500人の患者登録を予定した。2,526人の登録があり、3年無病生存率はP群73.4%、C群76.3%と、C群の優越性を示すことはできなかった(ハザード比[HR],0.89;95%信頼区間[CI],0.76〜1.03;P=0.12)。また5年全生存率もP群81.6%、C群84.3%と、C群の優越性を示せなかった(HR,0.86;95% CI,0.72〜1.04;P=0.13)。有害事象に関しては、C群で高血圧のリスクがFOLFOX療法中(14.6% 対 10.9%;P=0.01)ならびに終了後(13.0%対10.0%;P=0.04)に有意に高かった。また、グレード2以上の血中クレアチニン値の上昇がFOLFOX療法終了後にC群で有意に高率であった(1.7%対0.5%;P=0.01)。これらの結果を踏まえ、本論文の結論は「結腸がんステージIII術後の補助化学療法(FOLFOX療法)にセレコキシブを3年間併用することは3年無病生存率を有意に改善しなかった」と簡潔に記載している。研究者としては、ネガティブな結果は否定できないが、影響を最小限に留めたい想いであろう。 その理由としては無病生存曲線でも全生存曲線でも常にC群の方が生存率が高く推移していること、さらに補遺資料(ウエブ上で公開)の3年無病生存率に影響を与える臨床因子のサブグループ解析では、ほぼすべての因子でC群の方が優位であった。これらの結果より、真にCOX-2阻害薬が予後を改善しないと判断するよりは3年無病生存率をP群で72%、C群で77%と想定したが、結果として2.9%の差しか得られなかったことが大きく影響したと考えられる。もしそれぞれ73%、76%と当初から想定して臨床試験を行い、実現可能性は乏しいものの6,600人以上登録できれば有意な予後改善結果を証明できた可能性が高い。73%対76%の3%の予後改善効果を実感することは困難だが、逆に言えば実感できないほどではあるがわずかな予後改善効果を有する可能性が残った、と判断するのが妥当であろう。
前立腺がんの救済放射線治療の決定に用いる18F-フルシクロビンPET/CT検査と従来の画像検査単独の比較:単一施設、非盲検、第II/III相無作為化比較試験
前立腺がんの救済放射線治療の決定に用いる18F-フルシクロビンPET/CT検査と従来の画像検査単独の比較:単一施設、非盲検、第II/III相無作為化比較試験
18 F-fluciclovine-PET/CT imaging versus conventional imaging alone to guide postprostatectomy salvage radiotherapy for prostate cancer (EMPIRE-1): a single centre, open-label, phase 2/3 randomised controlled trial Lancet. 2021 May 22;397(10288):1895-1904. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00581-X. Epub 2021 May 7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】前立腺がんの治療の決定や計画分子イメージングを用いることが多くなっている。著者らは、救済放射線治療の癌制御率改善に果たす18F-フルシクロビンPET/CT検査の役割を従来の画像検査(骨シンチグラフィとCT検査またはMRI検査)を比較することを目的とした。 【方法】単一施設非盲検第II/III相無作為化試験、EMPIRE-1では、前立腺摘除後に前立腺特異抗原(PSA)が検出されたが従来の画像検査結果で陰性(骨盤外転移、骨転移なし)であった前立腺がん患者を放射線治療決定に従来の画像検査単独に用いるグループと放射線治療+18F-フルシクロビン-PET/CT検査を用いるグループに割り付けた。コンピュータが生成した無作為化をPSA濃度、異常が示唆される病理学的所見およびアンドロゲン除去療法の意図で層別化した。18F-フルシクロビン-PET/CT検査群では、標的の描写にも用いたPET画像で放射線治療を厳格に決定した。主要評価項目は3年無事象生存率とし(生化学的再発または進行、臨床的再発または進行、全身療法の開始を事象と定義)、放射線治療を受けた患者で単変量解析および多変量解析を実施した。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT01666808として登録されており、患者の登録が終了している。 【結果】2012年9月18日から2019年3月14日にかけて165例を無作為化により割り付け、追跡期間が中央値3.52年(95%CI 2.98~3.95)となった。PET検査の結果から、18F-フルシクロビン-PET-CT検査群の4例が放射線治療を回避し、この4例は生存解析から除外した。生存期間中央値は、従来検査群(95% CI 35.2~未到達;81例中33%に事象発生)、18F-フルシクロビン-PET/CT検査群(95%未到達~未到達;76例中20%に事象発生)ともに未到達であり、3年無事象生存率が従来検査群63.0%(95%CI 49.2~74.0)、18F-フルシクロビン-PET-CT検査群75.5%(95%CI 62.5~84.6)であった(差difference 12.5; 95%CI 4.3~20.8;P=0.0028)。調整した解析で、試験群(ハザード比2.04[95%CI 1.06~3.93]、P=0.0327)に無事象生存との有意な関連が見られた。両群の毒性がほぼ同じであり、最も多い有害事象が遅発性頻尿および尿意切迫感(従来検査群81例中37例[46%]、PET群76例中31例[41%])および急性下痢(11例[14%]、16例[21%])であった。 【解釈】前立腺摘除後の救済放射線治療の方針決定や計画に18F-フルシクロビン-PET/CT検査を用いることによって生化学的再発や持続のない生存率が改善した。前立腺がん放射線治療の方針決定や計画に新たなPET放射性核種を組み込むことについて、新たな試験で検討する必要がある。 第一人者の医師による解説 新しいPET放射性核種を使用した治療決定や治療計画を期待 吉田 宗一郎 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器外科学講師 MMJ. October 2021;17(5):148 前立腺がんに対する前立腺全摘除後の放射線治療は、術後追加治療、または生化学的再発が認められた際の救済治療として行われることが多い。これらの放射線治療を行うかどうか、またいつ行うかの判断は、リスク群や病理所見、術後前立腺特異抗原(PSA)の推移などに応じて検討されている。18 F-フルシクロビン -PET/CTは、生化学的に再発した前立腺がんの再病期診断において、CTやMRIよりも優れた診断性能を有し、前立腺全摘除術後の生化学的再発に対し、3分の1以上の患者で、18 F-フルシクロビン -PET/CTにより救済放射線治療の方針が変更になることが報告されている(1)。 今回報告されたEMPIRE-1試験の目的は、前立腺全摘除後にPSA上昇が検知されるも、従来の画像検査が陰性である患者を対象とした単施設、非盲検、第2/3相無作為化試験により、18 F-フルシクロビン -PET/CTが、3年間の無イベント生存率を改善させるかどうかを明らかにすることである。対象患者は、PSA値、病理組織学的所見、ホルモン療法実施の意図で層別化され、従来の画像診断のみで行う放射線治療群、もしくは従来の画像診断に加え18 F-フルシクロビン -PET/CTを併用する放射線治療群に割り付けられた。主要評価項目は3年無イベント生存率で、イベントの定義は生化学的または臨床的な再発・進行、あるいは全身療法の開始とした。結果として、165人の患者が割り付けられ、追跡期間の中央値は3.52年であった。3年無イベント生存率は、従来の画像診断群の63.0%に対し、18 F-フルシクロビン -PET/CT群では75.5%と有意に高かった。調整後解析では、18 F-フルシクロビン -PET/CTの併用が無イベント生存率と有意に関連していた(ハザード比 , 2.04;95%信頼区間 ,1.06?3.93)。毒性は両群でほぼ同様であり、主な有害事象は遅発性の頻尿・尿意切迫感、急性下痢であった。 これまでも新規 PET放射性核種による診断精度や治療方針決定の変化についての検討が行われてきたが、今回の制がん効果を主要評価項目とした初めての前向き無作為化試験によって、前立腺全摘除術後の放射線治療の決定プロセスにおける18 Fフルシクロビン -PET/CTの導入が無イベント生存率を改善する可能性が示唆された。現在、多くの研究により前立腺特異的膜抗原を標的としたPSMAPETの良好な診断精度が示され、前立腺全摘除後の再発巣検知でもその有効性に大きな関心が寄せられている。今後、新しいPET放射性核種を使用した治療決定や治療計画についてさらなる研究が必要である。 1. Abiodun-Ojo OA, et al. J Nucl Med. 2021;62(8):1089-1096
筋層浸潤尿路上皮がんに用いるニボルマブ補助療法とプラセボの比較
筋層浸潤尿路上皮がんに用いるニボルマブ補助療法とプラセボの比較
Adjuvant Nivolumab versus Placebo in Muscle-Invasive Urothelial Carcinoma N Engl J Med. 2021 Jun 3;384(22):2102-2114. doi: 10.1056/NEJMoa2034442. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【目的】高リスク筋層浸潤尿路上皮がんの根治的手術後に用いる術後補助療法の役割は明らかになっていない。【方法】第III相多施設共同二重盲検無作為化比較試験で、根治的手術を受けた筋層浸潤尿路上皮がん患者をニボルマブ(240mg静脈内投与)群とプラセボ群に1対1の割合で割り付け、2週間ごとに最長1年間投与した。試験登録前にシスプラチンを用いた術前化学療法を実施していてもよいこととした。主要評価項目は、全患者(intention-to-treat集団)および腫瘍のPD-L1発現レベル1%以上の患者の無病生存とした。尿路外無再発生存を副次的評価項目とした。【結果】計353例をニボルマブ群、356例をプラセボ群に割り付けた。intention-to-treat集団の無病生存期間中央値は、ニボルマブ群が20.8カ月(95%CI、16.5~27.6)、プラセボ群が10.8カ月(95%CI、8.3~13.9)であった。6カ月時の無病生存率はニボルマブ群が74.9%、プラセボ群が60.3%であった(再発または死亡のハザード比、0.70;98.22%CI、0.55~0.90;P<0.001)。PD-L1発現レベルが1%以上の患者では、割合はそれぞれ74.5%と55.7%であった(ハザード比、0.55、98.72%CI、0.35~0.85、P<0.001)。intention-to-treat集団の尿路外無再発生存期間の中央値は、ニボルマブ群が22.9カ月(95%CI、19.2~33.4)、プラセボ群が13.7カ月(95%CI、8.4~20.3)であった。6カ月時の尿路外無再発生存率は、ニボルマブ群が77.0%、プラセボ群が62.7%(尿路外の再発または死亡のハザード比、0.72;95%CI、0.59~0.89)。PD-L1発現レベル1%以上の患者では、それぞれ75.3%および56.7%であった(ハザード比、0.55;95%CI 0.39~0.79)。ニボルマブ群の17.9%とプラセボ群の7.2%にグレード3以上の治療関連有害事象が発現した。ニボルマブ群では、間質性肺炎による治療関連死が2件報告された。【結論】根治的手術を受けた高リスク筋層浸潤尿路上皮がん患者を対象とした本試験では、術後ニボルマブによりintention-to-treat集団およびPD-L1発現レベル1%以上の患者の無病生存期間がプラセボよりも長くなった。 第一人者の医師による解説 日本でも21年3月に適応拡大申請 手術療法+ニボルマブがいずれ標準治療に 水野 隆一 慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室准教授 MMJ. December 2021;17(6):183 筋層浸潤性尿路上皮がんに対する標準治療は、膀胱がんであれば膀胱全摘除術、腎盂尿管がんであれば腎尿管全摘除術とされている。これらは根治を目的とした術式であるが、病理学的に固有筋層浸潤や所属リンパ節転移を認める患者における術後再発率は50%以上と報告されており、再発抑制を目的とした術後補助療法の確立は緊急の課題である。今回報告されたCheckMate274試験は、根治切除後の再発リスクが高い筋層浸潤性尿路上皮がん患者を、ニボルマブ(240mg)群とプラセボ群に1:1に割り付けて比較評価した第3相試験である。根治切除後120日以内で画像再発がない、病理学的に尿路上皮がんが確認された患者を対象とした。ニボルマブ、プラセボともに2週間ごとに最長1年間投与された。主要評価項目は、全無作為化患者(ITT)およびPD-L1発現レベル1%以上の患者における無病生存期間(DFS)、副次評価項目は尿路外無再発生存期間(NUTRFS)、疾患特異的生存期間(DSS)、全生存期間(OS)であった。探索的評価項目は、無遠隔転移生存期間(MFS)、安全性、健康関連の生活の質(QOL)などであった。その結果、ITT解析による主要評価項目DFSは、ニボルマブ群において20.8カ月と、プラセボ群10.8カ月に比べ有意に延長していた(ハザード比[HR],0.70;P<0.001)。PD-L1発現レベル1%以上の集団における6カ月時点の無病生存率もニボルマブ群74.5%、プラセボ群55.7%とニボルマブ群で有意に改善していた(HR,0.55;P<0.001)。NUTRFS、DSS、OS、MFSについても、ITT、PD-L1発現レベル1%以上の集団のどちらでもニボルマブ群で延長が認められた。グレード3以上の治療関連有害事象はニボルマブ群で17.9%、プラセボ群で7.2%に認められた。治療関連有害事象による投薬中止はニボルマブ群12.8%、プラセボ群2.0%であった。ITT、PD-L1発現レベル1%以上の集団ともに、ニボルマブ群ではプラセボ群に比べ健康関連QOLの悪化は認められなかった。本試験の結果から高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの術後補助療法として、ニボルマブがプラセボよりも有意にDFSを延長できることが明らかとなった。局所進行腎盂尿管がん患者に対するプラチナ製剤の術後補助療法によるDFS延長は示されているが、コンセンサスはない。ニボルマブは、高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの術後補助療法として2021年8月に米食品医薬品局(FDA)が承認し、日本でも21年3月に適応拡大が申請された。手術療法+ニボルマブ術後補助療法が高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの標準治療になる日は近い。
抗がん剤治療に用いる中心静脈アクセスデバイス(CAVA試験):無作為化対照試験
抗がん剤治療に用いる中心静脈アクセスデバイス(CAVA試験):無作為化対照試験
Central venous access devices for the delivery of systemic anticancer therapy (CAVA): a randomised controlled trial Lancet. 2021 Jul 31;398(10298):403-415. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00766-2. Epub 2021 Jul 21. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】中心静脈を介した全身性抗がん剤治療(SACT)の送達に、Hickman型トンネルカテーテル(Hickman)、末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)、完全埋め込み型ポート(PORT)が使用されている。この3つのデバイスで合併症の発生率とコストを比較し、SACTを受ける患者の受容性、臨床効果および費用効果を明らかにすることを目的とした。 【方法】3つの中心静脈アクセスデバイスを検討する非盲検多施設共同無作為化対照試験(Cancer and Venous Access[CAVA])を実施し、PICCとHickman(非劣性マージン10%)、PORTとHickman(優越性マージン15%)、PORTとPICC(優越性マージン15%)を比較した。英国内18カ所の腫瘍内科で、固形がんまたは血液がんのためSACT(12週以上)を受ける成人(18歳以上)を対象とした。無作為化の選択肢を4つ用意し、ヒックマン、PICC、PORT(2対2対1)、PICCとヒックマン(1対1)、PORTとヒックマン(1対1)、PORTとPICC(1対1)をそれぞれ比較することとした。最小化アルゴリズムで施設、BMI、がん種、デバイス使用歴、治療モードで層別化し、無作為化による割り付けを実施した。主要評価項目は、合併症の発生率(感染症、静脈血栓症、肺塞栓、血液吸引不能、機械的不具合、その他の複合)とし、デバイスの除去、試験からの離脱または1年後の追跡調査まで評価した。この試験はISRCTNに登録されている(ISRCTN44504648)。 【結果】2013年11月8日から2018年2月28日までに、適格性をスクリーニングした2,714例のうち1,061例を登録し、無作為化により該当する1つまたは複数の比較に割り付けた(PICCとHickmanの比較計424例、PICC 212例[50%]とHickman 212例[50%];PORTとHickmanの比較計556例、PORT 253例[46%]とHickman 303例[54%];PORTとPICCの比較計346例、PORT 147例[42%]、PICC 199例[58%])。PICC(212例中110例[52%])とHickman(212例中103例[49%])の合併症発生率がほぼ同じであった。観察された差は10%未満であったが、検出力が不十分であった可能性があるため、PICCの非劣性は確認されなかった(オッズ比[OR]1.15[95%CI 0.78~1.71])。PORTのHickmanに対する優越性が示され、合併症発生率が29%(253例中73例)と43%(303例中131例)であった(OR 0.54[95%CI 0.37~0.77])。PORTのPICCに対する優越性が示され、合併症発生率が32%(147例中47例)と47%(199例中93例)であった(OR 0.52[95%CI 0.33~0.83])。 【解釈】SACTを受ける患者のほとんどで、PORTがHickmanおよびPICCよりも有効かつ安全である。この結果から、英国National Health Serviceで、固形がんでSACTを受ける患者のほとんどが、PORTを使用すべきであることが示唆される。 第一人者の医師による解説 埋め込み型ポートが推奨されるが英国と日本では臨床背景が異なる点に留意 冲中 敬二 国立がん研究センター東病院感染症科科長・中央病院造血幹細胞移植科医員(併任) MMJ. February 2022;18(1):15 外来化学療法において、埋め込み型ポートは非常に重要な役割を果たしている。本論文は、比較的長期間使用する中心静脈アクセスデバイスである埋め込み型ポート(PORT)、トンネル型(Hickman)、末梢挿入型 (PICC)を3種類の2群間比較で評価した英国のCAVA試験の報告である(詳細版1)。これらデバイスを直接比較した無作為化試験はなく、どのアクセスを選択するか悩む際の参考となる。 CAVA試験には12週以上の抗がん剤治療(各群内訳:固形腫瘍87~97 %、血液腫瘍3~13 %)が予定されている18歳以上の患者1,061人が登録された。主要評価項目は合併症(デバイス関連感染症、静脈血栓症、ルートのつまり、故障など)の発生率であった。留置期間中央値はPICC 115日前後、Hickman 160日前後、PORT 380日前後であった。PORTの挿入は放射線科医によるものが多く(59~78%)、14~18%に予防的抗菌薬が使用された。一方 PICCの多く(67~73%)は看護師が挿入しており予防的抗菌薬の使用は2%以下であった。合併症の発生率はPICCとHickmanでは43~52%で同程度であったが、PORTでは30%前後と低かった。デバイス特異的な生活の質(QOL)はPORTが最も良好で、PICCとHickmanの間には差がなかった。総費用はPICC・PORT< Hickmanで、週当たりの費用でも同様であった。PICCとPORTの比較では総費用はPORTが高く、週当たりの費用はPICCが高かったが、後者に有意差はなかった。PORT(n=147)とPICC(n=199)の 直接比較では、挿入時の合併症はいずれも少なかった(PICC4%、PORT 0%)。PORTではカテーテル・週当たりの合併症件数が0.05であったがPICCでは0.13と多く、合併症による抜去(24% 対 38%)や静脈血栓症(2% 対 11%)の頻度もPICCが高かった。感染症の合併頻度はPORTの方が高かったが(12%vs 8%)、カテーテル・週当たりではいずれも0.02件と差はなかった。これらの結果を踏まえ、3カ月以上抗がん剤治療を受ける多くの固形がん患者ではPORTを利用すべきである、と著者らは結論している。 このような研究での課題として、問題が起きた場合に簡単に抜去できるか否かという点がある。また、今回の試験では挿入時合併症が非常に少なかったことから、処置に慣れた医療者が挿入したと考えられるが、特にPORT挿入に慣れていない医療者では動脈穿刺や気胸など挿入時の安全性も考慮する必要がある。なお、本試験ではPICCの90%以上が外来管理され、かつ大半を看護師が挿入している(研究期間中に英国で看護師によるPICCサービスが拡充された)など、日本の一般診療とは異なる点があり、今回のデータをそのまま日本に適用するのは難しい。 1. Wu O, et al. Health Technol Assess. 2021;25(47):1-126.
再発または難治性の多発性骨髄腫に用いるB細胞成熟抗原を標的とするキメラ抗原受容体T細胞療法、ciltacabtagene autoleucel(CARTITUDE-1):第Ib/II相非盲検試験
再発または難治性の多発性骨髄腫に用いるB細胞成熟抗原を標的とするキメラ抗原受容体T細胞療法、ciltacabtagene autoleucel(CARTITUDE-1):第Ib/II相非盲検試験
Ciltacabtagene autoleucel, a B-cell maturation antigen-directed chimeric antigen receptor T-cell therapy in patients with relapsed or refractory multiple myeloma (CARTITUDE-1): a phase 1b/2 open-label study Lancet. 2021 Jul 24;398(10297):314-324. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00933-8. Epub 2021 Jun 24. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】CARTITUDE-1試験では、予後が不良である再発または難治性の多発性骨髄腫患者で、2つのB細胞成熟抗原を標的とする単一ドメイン抗体、ciltacabtagene autoleucel(cilta-cel)を用いたキメラ抗原受容体T細胞療法の安全性と臨床活性を評価することを目的とした。 【方法】米国の16施設が参加したこの単群非盲検第Ib/II相試験では、ECOG全身状態スコア0または1であり、3回以上の治療歴またはプロテアソーム阻害薬および免疫調節薬に対する抵抗性があり、かつプロテアソーム阻害薬、免疫調節薬および抗CD38抗体の投与歴がある18歳以上の多発性骨髄腫患者を登録した。リンパ球枯渇開始から5~7日後にcilta-celの単回投与(目標用量CAR発現生T細胞数として0.75×106個/kg)を実施した。主要評価項目は、安全性、第II相試験の推奨用量の確認(第Ib相)および治療した全患者の奏効率(第II相)とした。奏効期間と無増悪生存期間を主な副次評価項目とした。この試験はClinicalTrials.govに登録されている(NCT03548207)。 【結果】2018年7月16日から2019年10月7日までに113例を登録した。97例(第Ib相29例、第II相68例)に、第II相試験の推奨用量となるCAR発現生T細胞として0.75×106個/kgのcilta-celを投与した。2020年9月1日の臨床カットオフ時点で、追跡期間が中央値で12.4カ月(IQR 10.6~15.2)であった。中央値で6カ月間の前治療歴のある97例にcilta-cel療法を実施した。総奏効率が97%(95%CI 91.2~99.4、97例中94例)であった。65例(67%)が厳格な完全寛解を達成し、最初の奏効までの期間は1カ月(IQR 0.9~1.0)であった。効果は経時的に深くなった。奏効期間(95%CI 15.9~評価不能)も無増悪生存期間(16.8~評価不能)も中央値に達しなかった。12ヵ月無増悪生存率は77%(95%CI 66.0~84.3)であり、総生存率が89%(80.2~93.5)であった。血液学的な有害事象が高頻度に発現した。グレード3~4の血液学的有害事象に、好中球減少症(97例中92例[95%])、貧血(66例[68%])、白血球減少症(59例[61%])、血小板減少症(58例[60%])、リンパ球減少症(48例[50%])があった。97例中92例(95%)にサイトカイン放出症候群が発現し(4%がグレード3または4)、発症までの期間が中央値で7.0日(IQR 5~8)、継続期間が中央値で4.0日(IQR 3~6)であった。サイトカイン放出症候群は、グレード5のサイトカイン放出症候群で血球貪食性リンパ組織球症を来した1例を除いて全例が回復した。20例(21%)にCAR T細胞の神経毒性が発現した(9%がグレード3または4)。試験中に14例が死亡した。6例が治療関連有害事象によるもの、5例が病勢進行によるもの、3例が治療と無関連の有害事象によるものであった。 【解釈】目標用量CAR発現生T細胞として0.75×106個/kgのcilta-cel単回投与は、治療歴の多い多発性骨髄腫患者に早期に持続的な深い寛解をもたらし、安全性は管理可能であった。本試験のデータは最近提出した薬事申請の根拠とした。 第一人者の医師による解説 現在は保険適応外 一般臨床では費用対効果を考慮した適正使用が課題 矢野 真吾 東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科教授 MMJ. February 2022;18(1):16 キメラ抗原受容体(CAR)は、腫瘍細胞の抗原を特異的に認識する受容体を人工的に作製したものであり、CAR-Tは患者末梢血由来のT細胞にCARを遺伝子導入させた再生医療等製品である。B細胞成熟抗原(BCMA)はB細胞の成熟と分化に働く膜貫通蛋白で、形質細胞や多発性骨髄腫細胞に発現している。BCMAを標的としたCAR-Tは数種類開発されており、ciltacabtagene autoleucel(cilta-cel)はBCMAの異なる2つのエピトープを認識し高い結合能を有する。 本論文は、米国で行われた再発・難治性多発性骨髄腫に対するcilta-celの第1b/2相試験の報告である。対象は、前治療数が3レジメン以上の患者、または免疫調整薬とプロテアソーム阻害薬の両方に抵抗性を示し抗 CD38抗体薬の投与を受けた患者とした。主要評価項目は第1b相試験では安全性(有害事象)、第2相試験では奏効率とされた。リンパ球除去療法後、97人(第1b相29人、第2相68人)にcilta-cel(推奨用量0.75X106 CAR-T細胞/kg)を投与した。年齢の中央値は61歳、前治療数の中央値は6レジメンであった。観察期間の中央値は12.4カ月で、cilta-celの全奏効は94人(97%)、厳格な完全奏効は65人(67%)で得られ、奏効は中央値1カ月で到達した。微小残存腫瘍は、評価可能な57人のうち53人(93%)で陰性化した。無増悪生存期間および全生存期間は中央値に未到達、12カ月の時点での無増悪生存率および全生存率はそれぞれ77%と89%であった。有害事象は97人(100%)に観察され、最も頻度が高かったのは血液毒性で、グレード 3以上の好中球減少が92人、貧血が66人、血小板減少は58人であった。感染症は56人(58%)に生じ、グレード 3以上の肺炎を8人、敗血症を4人に認めた。サイトカイン放出症候群は92人(95%)に発症したが、87人がグレード 2以下でグレード 3/4は4人であった。グレード5のサイトカイン放出症候群で1人が死亡したが、残りの91人は改善した。神経毒性は20人(21%)に生じ、グレード 3/4を9人に認めた。 Cilta-celは、濃厚な前治療歴を有する多発性骨髄腫に対して、迅速に深い寛解を得ることが期待できる。Cilta-celの投与細胞数が他のCAR-Tよりも少なく設定されているため、比較的安全に投与できる可能性がある。現在、長期的効果の評価、早期の治療ラインでの投与や外来での投与の検討が行われている。日本でもCAR-T細胞療法が普及してきている。現在 BCMAを標的としたCAR-T細胞療法は保険適応外であるが、近い将来一般臨床で用いられるようになる。費用対効果を考慮した適正使用が求められており、最新のエビデンスを蓄積していく必要がある。
急性尿閉とがんのリスク:デンマークの住民を対象としたコホート試験
急性尿閉とがんのリスク:デンマークの住民を対象としたコホート試験
Acute urinary retention and risk of cancer: population based Danish cohort study BMJ. 2021 Oct 19;375:n2305. doi: 10.1136/bmj.n2305. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】急性尿閉初回診断後の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんのリスクを評価すること。 【デザイン】全国民を対象としたコホート試験。 【設定】デンマークの全病院。 【参加者】1995年から2017年までに急性尿閉のため初めて入院した50歳以上の患者75,983例。 【主要評価項目】一般集団と比較した急性尿閉患者の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんの絶対リスクおよび超過リスク。 【結果】急性尿閉初回診断後の前立腺がんの絶対リスクは、3ヵ月時点で5.1%(3,198例)、1年時点で6.7%(4,233例)、5年時点で8.5%(5,217例)であった。追跡期間が3ヵ月以内の場合、1,000人年当たり218例の前立腺がん超過症例が検出された。3ヵ月から12ヵ月未満の追跡では、1,000人年当たり21例の超過症例数が増加したが、12ヵ月を超えるとこの超過リスクは無視できるものとなった。追跡3ヵ月以内の超過リスクは、尿路がんが1,000人年当たり56例、女性の生殖器がんが1,000人年当たり24例、大腸がんが1,000人年当たり12例、神経系がんが1,000人年当たり2例であった。検討したがん種の多くで、超過リスクは追跡3ヵ月以内に限られていたが、前立腺がんおよび尿路がんのリスクは、追跡期間が3ヵ月から12ヵ月未満でも依然として高かった。女性では、浸潤性膀胱がんの超過リスクが数年にわたって認められた。 【結論】急性尿閉は、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系不顕性がんの臨床マーカーであると考えられる。急性尿閉を発症し、原因がはっきりと分からない50歳以上の患者では、不顕性がんの可能性を検討すべきである。 第一人者の医師による解説 急性尿閉では潜伏がんを考慮すべき 見落とし減らすため画像検査の実施も考慮 宮﨑 淳 国際医療福祉大学医学部腎泌尿器外科主任教授 MMJ. February 2022;18(1):17 急性尿閉は、突然の痛みを伴う排尿不能を特徴とし、直ちに導尿などを行い、膀胱の減圧が必要である。男性における急性尿閉の発症率は年間1,000人当たり2.2 ~ 8.8人で、推定発症率は70代では10%、80代では30%と、年齢とともに著しく上昇する(1)。男女比は13:1と推定されている。急性尿閉の根本的な原因のほとんどは良性であるが、急性尿閉は前立腺がんの徴候でもあり、他の泌尿器がん、消化器がんおよび神経系がんの徴候である可能性を示唆する研究もある。 そこで本論文では、デンマーク全国規模コホートから得たデータを用いて、急性尿閉による初回入院患者約76,000人における泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんのリスクを一般集団と比較・検討した。その結果、急性尿閉の初診後の前立腺がんの絶対リスクは、3カ月後で5.1%、1年後で6.7%、5年後で8.5%であった。追跡期間3カ月以内において、前立腺がんの過剰症例が1,000人・年当たり218人検出された。さらに追跡期間3カ月~12カ月未満において1,000人・年当たり21人の過剰症例が検出されたが、12カ月を超えると過剰リスクは無視できる程度になった。追跡期間3カ月以内において、尿路系がんの過剰リスクは1,000人・年当たり56人、女性の生殖器系がんは1,000人・年当たり24人、大腸がんは1,000人・年当たり12人、神経系がんは1,000人・年当たり2人であった。ほとんどのがんで、過剰リスクは追跡期間3カ月以内に限定されたが、前立腺がんと尿路系がんのリスクは追跡期間3カ月~12カ月未満でも高いままであった。結論として、急性尿閉は、潜伏性尿路性器がん、大腸がん、神経系がんの臨床マーカーとなる可能性があるため、急性尿閉を呈し、明らかな基礎疾患を持たない50歳以上の患者には、潜伏がんを考慮すべきであると考えられた。 本研究が使用したデンマーク全国患者登録(Danish National Patient Registry)には人口約580万人の同国内のあらゆる病院に入院したすべての患者のデータが含まれていることから、今回のような全国規模の研究が可能である。この人口ベースのコホート研究において、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんが急性尿閉の原因となることが示唆された。我々泌尿器科医は、急性尿閉の患者を診察した際に前立腺肥大症と前立腺がんは常に念頭においているが、なかなか大腸がんや神経系疾患まで考慮することは少ない。見落としを減らすためにも、CTなどの画像検査を行うように心がける必要があるかもしれない。 1. Oelke M, et al. Urology. 2015;86(4):654-665.
PIK3CAの体細胞変異が孤発性海綿状血管腫を引き起こす
PIK3CAの体細胞変異が孤発性海綿状血管腫を引き起こす
Somatic PIK3CA Mutations in Sporadic Cerebral Cavernous Malformations N Engl J Med. 2021 Sep 9;385(11):996. doi: 10.1056/NEJMoa2100440. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】脳海綿状奇形(CCM)は、散発性および遺伝性の中枢神経系血管奇形としてよく知られている。家族性CCMはKRIT1(CCM1)、CCM2、PDCD10(CCM3)の機能喪失型変異と関連しているが、80%を占める散発性CCMの遺伝子原因はまだ不完全に理解されていない。 【方法】プロスタグランジンD2合成酵素(PGDS)プロモーターを用いて、ヒト髄膜腫で同定された変異を保有する2つのモデルマウスを開発した。患者から外科的に切除されたCCMの標的DNA配列決定を行い、液滴デジタルポリメラーゼ連鎖反応分析で確認した。 【結果】髄膜腫の2つの共通の遺伝的ドライバーであるPik3caH1047RまたはAKT1E17KをPGDS陽性細胞で発現するマウスでは、髄膜腫ではなく典型的なCCMのスペクトラムが発生(それぞれ22%と11%)することがわかり、88例の散発性のCCMから組織標本を解析することになった。患者の病変組織の39%と1%にそれぞれ活性化型のPIK3CAとAKT1の体細胞変異が検出された。病変の10%のみがCCM遺伝子に変異を有していた。活性化変異Pik3caH1074RとAKT1E17Kによって引き起こされる病変をマウスで解析し,PGDS発現周皮細胞を起源細胞として推定した。 【結論】散発性のCCMからの組織試料において,他のどの遺伝子における変異よりPIK3caにおける変異が大きく表れていることがわかった。家族性CCMの原因となる遺伝子の体細胞変異の寄与は比較的小さかった。(ARC対がん研究財団他より資金提供). 第一人者の医師による解説 予想外の発見を見逃さず 病態解明につなげたserendipityの重要さが伝わる論文 武内 俊樹 慶應義塾大学医学部小児科専任講師 MMJ. April 2022;18(2):51 海綿状血管腫は、比較的よく遭遇する中枢神経系の血管奇形であり、家族性あるいは孤発性に発症する。このうち、家族性海綿状血管腫は、KRIT1(CCM1)、CCM2、PDCD10(CCM3)遺伝子のいずれかの機能喪失型変異によって発症することが知られている。一方で、海綿状血管腫の80%を占める孤発性症例の原因は解明されていなかった。 本研究では、ヒト患者の髄膜腫で同定された遺伝子変異およびプロスタグランジン D2合成酵素(PGDS)プロモーターをもつ2種類の疾患モデルマウスを開発した。髄膜腫の2つの一般的なドライバー変異であるPik3caH1047RまたはAKT1E17Kのいずれかを発現するマウスにおいて、予想外に、髄膜腫ではなく海綿状血管腫が発生した(それぞれマウスの22%と11%に発生した)。これに着想を得て、孤発性海綿状血管腫患者88人の病変組織の遺伝子解析を行った。その結果、PIK3CAおよびAKT1に、機能亢進型の体細胞変異をそれぞれ39%と1%に同定した。既知の家族性海綿状血管腫の原因遺伝子に変異を認めたのは10%に過ぎなかった。さらに、Pik3caH1047RとAKT1E17K変異を有するマウスの病変部位の解析から、PGDSを発現する周皮細胞が海綿状血管腫の発生母地となっていることを突き止めた。以上の結果をまとめると、孤発性海綿状血管腫の病変組織では、PIK3CAの体細胞変異が多く認められ、他のどの遺伝子よりも大きな割合を占めていた。既知の家族性海綿状血管腫の原因遺伝子の体細胞変異によるものはむしろ少なかった。 本研究の最も重要な知見は、同じ海綿状血管腫であっても、家族性と孤発性で原因遺伝子が異なることを示した点である。一般に、家族性疾患の原因遺伝子変異が体細胞変異となった場合には、家族性疾患でみられる病変と似た病変を起こすことが多い。しかしながら、今回の研究では、孤発性海綿状血管腫は、家族性海綿状血管腫の原因遺伝子の体細胞変異によって発症しているのではなく、髄膜腫の原因として知られていたPIK3CAの体細胞変異が発症原因の多くを占めていたという驚くべき結果であった。さらに本研究で特筆すべき点は、もともと髄膜種の研究を目的に作製されたマウスにおいて、想定外の海綿状血管腫が発生したことが今回の研究成果の端緒となったことである。これらのマウスは髄膜に発現するPGDSをもつため、PGDSが海綿状血管腫の発症に関与することも突き止めることができた。予想外の発見を見逃さず当初目的としていなかった孤発性海綿状血管腫の病態解明につなげたserendipityの重要さが伝わる論文である。
切除不能進行・再発胃がんの1次治療へのニボルマブ上乗せ OSとPFSを有意に延長
切除不能進行・再発胃がんの1次治療へのニボルマブ上乗せ OSとPFSを有意に延長
First-line nivolumab plus chemotherapy versus chemotherapy alone for advanced gastric, gastro-oesophageal junction, and oesophageal adenocarcinoma (CheckMate 649): a randomised, open-label, phase 3 trial Lancet. 2021 Jul 3;398(10294):27-40. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00797-2. Epub 2021 Jun 5. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】進行性または転移性のヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性の胃または胃食道接合部腺癌に対する第一選択の化学療法は、全生存期間(OS)の中央値が1年未満である。我々は、胃、胃食道接合部、および食道腺がんにおいて、プログラム細胞死(PD)-1阻害剤を用いたファーストライン治療を評価することを目的としました。この多施設共同無作為化非盲検第3相試験(CheckMate 649)では、29カ国の175の病院およびがんセンターから、PD-リガンド1(PD-L1)の発現状況にかかわらず、前治療歴のある切除不能な非HER2陽性の胃・胃食道接合部・食道腺がんの成人患者(18歳以上)を登録しました。患者は、インタラクティブなウェブ応答技術を用いて、ニボルマブ(360mgを3週に1回または240mgを2週に1回)と化学療法(カペシタビンとオキサリプラチンを3週に1回またはロイコボリンとフルオロウラシルとオキサリプラチンを2週に1回)、ニボルマブとイピリムマブ、または化学療法単独に無作為に割り付けられました(ブロックサイズは6)。ニボルマブと化学療法の併用療法と化学療法単独療法の主要評価項目は、PD-L1複合陽性スコア(CPS)が5以上の腫瘍を有する患者を対象に、盲検化された独立中央審査によるOSまたは無増悪生存期間(PFS)とした。安全性は、割り当てられた治療を少なくとも1回受けたすべての患者で評価しました。本試験はClinicalTrials. gov, NCT02872116に登録されています。 【結果】2017年3月27日から2019年4月24日までに、適格性を評価した2687名の患者のうち、1581名の患者を治療(ニボルマブ+化学療法[n=789、50%]または化学療法単独[n=792、50%])に同時無作為に割り付けました。OSの追跡期間中央値は、ニボルマブと化学療法の併用で13-1カ月(IQR 6-7-19-1)、化学療法単独で11-1カ月(5-8-16-1)であった。PD-L1 CPSが5以上の患者(最低追跡期間12-1カ月)において、ニボルマブと化学療法の併用により、OS(ハザード比[HR]0-71[98-4%CI 0-59-0-86]、p<0-0001)およびPFS(HR 0-68[98%CI 0-56-0-81]、p<0-0001)が化学療法単独に比べて有意に改善しました。さらに、PD-L1 CPSが1以上の患者および無作為に割り付けられたすべての患者において、PFSの有益性とともに、OSの有意な改善が認められました。治療を受けた全患者のうち、ニボルマブと化学療法の併用群では782人中462人(59%)、化学療法単独群では767人中341人(44%)にグレード3~4の治療関連有害事象が認められました。両群で最も多かった(25%以上)グレードの異なる治療関連有害事象は、吐き気、下痢、末梢神経障害でした。ニボルマブと化学療法併用群で16名(2%)、化学療法単独群で4名(1%)の死亡が治療関連死とされた。 【解釈】ニボルマブは、前治療歴のない進行性胃癌、胃食道接合部癌、食道腺癌患者において、化学療法との併用により、化学療法単独と比較して、優れたOS、PFSのベネフィット、許容できる安全性プロファイルを示した初めてのPD-1阻害剤です。ニボルマブと化学療法の併用は、これらの患者さんに対する新しい標準的な第一選択治療となります 【資金提供】ブリストル・マイヤーズ スクイブ社、小野薬品工業株式会社との共同研究。 第一人者の医師による解説 新たな標準1次治療としてニボルマブ+化学療法を支持する結果 堀江 沙良、浜本 康夫(准教授) 慶應義塾大学医学部腫瘍センター MMJ. April 2022;18(2):45 ヒト上皮増殖因子受容体(HER2)陰性の切除不能・再発進行胃がんに対する化学療法による1次治療後の全生存期間(OS)は1年以下であり、予後不良である。CheckMate(CM)649試験は日本を含む29カ国で行われた切除不能な進行・再発胃がんを対象にニボルマブ(抗 PD-1抗体)+化学療法群の化学療法群に対する優越性を検討した第3相非盲検無作為化対照試験である。主要評価項目はPD-L1発現状況の指標 CPS(combined positive score)5以上の集団におけるOSと無増悪生存期間(PFS)であった。 CPS 5以上の集団のOS中央値はニボルマブ+化学療法群14.4カ月、化学療法群11.1カ月(ハザード比[HR], 0.71;P<0.0001)であり、ニボルマブ+化学療法群はOSで統計学的に有意な延長を示した。PFS中央値はニボルマブ+化学療法群7.7カ月、化学療法群6.0カ月(HR, 0.68;P<0.0001)であり、ニボルマブ+化学療法群で有意に長かった。CPS 1以上の集団および全体集団でもニボルマブ+化学療法群と化学療法群のOS中央値はそれぞれ14.0カ月と11.3カ月(HR, 0.77;P<0.0001)、13.8カ月と11.6カ月(HR, 0.80;P=0.0002)であり、いずれの集団でもニボルマブ+化学療法群の優越性が示された。PFSに関しても、両集団ともニボルマブ+化学療法群でPFS延長効果が示された。全体集団におけるグレード 3/4治療関連有害事象はニボルマブ+化学療法群では59%、化学療法群では44%に認められた。 CM 649試験の結果ではHER2陰性の進行・再発胃がん患者において、ニボルマブと化学療法の併用によってCPSに関わらずOSとPFSの延長が示された。本試験と同様、進行・再発胃がんの1次治療においてニボルマブ+化学療法を化学療法単独と比較したアジアのATTRACTION-4(AT-4)試験では、ニボルマブ併用によりPFSは有意に延長したが、OSの有意な延長は示されなかった。CM649試験との結果の違いは主に後治療の差によると考えられている。後治療の実施率はCM649試験の39%に対し、AT-4試験では66%と高く、特に日本人サブセットでは3次治療以降でニボルマブが広く使用されていた。CM649試験の結果は新たな標準1次治療としてニボルマブを支持するものであるが、高齢者や全身状態不良例における併用療法の適性、長期使用に伴う毒性についてはさらに検証が必要である。なお、PD-L1発現によりニボルマブの上乗せ効果が異なる傾向が示唆されていることから、日本胃癌学会の速報では可能な限りPD-L1検査を行うことが望ましいとし、CPS5未満では3次治療以降での使用機会の可能性を考慮し、治療戦略を慎重に検討する必要があるとしている。
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号)
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号)
老化をあざむく方法は? 鳥や哺乳類と比較して、とくにカメは、加齢に伴う老化をほとんど示さない非常に長命の動物としてよく知られています。老化の進行を理解するため、非鳥類爬虫類と両生類の107個体群(77種)のデータを用いた、野生の四肢変温動物における老化率と寿命に関する研究が実施された。Science誌2022年6月24日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 遺伝子組換えブタからヒトへの心臓異種移植、その結果は 静脈動脈の体外式膜型人工肺(ECMO)に依存し、従来の同種移植片を含む標準的な治療法の候補ではなかった非虚血性心筋症の57歳の男性に、ブタの心臓を移植した。New Engrand Journal of Medicine誌オンライン版2022年6月22日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 妊婦のワクチン接種は、乳児のCovid-19による入院のリスクを下げるか 生後6ヵ月未満の乳児は、Covid-19の合併症のリスクが高いにもかかわらず、予防接種の対象ではない。母体のCovid-19ワクチン接種後のSARS-CoV-2抗体の経胎盤移行が、乳児のCovid-19保護効果に及ぼす影響について調査が行われた。New Engrand Journal of Medicine誌オンライン版2022年6月22日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む アメリカの人種間によるがん治療とサバイバーシップ、とくに格差が大きいのは… CDCの組織である国立衛生統計センター、米国国勢調査局のデータ、NCDB(National Cancer database)のデータを元に、2022年1月1日時点における、人種間のがん治療とサバイバーシップの格差を検討した。CA:A Cancer Journal for Clinicians誌オンライン版2022年6月23日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む ARDS診療ガイドライン2021改訂のポイント 日本集中治療医学会、日本呼吸器学会、日本呼吸療法医学会が合同で作成した「ARDS診療ガイドライン2021」。本ガイドラインでは、世界で初めて小児ARDSも対象に含めて改訂が行われた。Respiratory Investigation誌オンライン版2022年6月23日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.5(2022年6月23日号) 座位時間と死亡率および心血管イベントとの関連性:低~高所得国での違いはあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.4(2022年6月16日号) 乳製品やカルシウム摂取量と前立腺がんの発症リスクの関連性:前向きコホート研究 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.3(2022年6月9日号) 運動は脳内RNAメチル化を改善し、ストレス誘発性不安を予防する ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号) 6〜11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本
スウェーデンの関節リウマチ患者におけるTumor Necrosis Factor Inhibitorsと癌の再発。全国規模の人口に基づくコホート研究
スウェーデンの関節リウマチ患者におけるTumor Necrosis Factor Inhibitorsと癌の再発。全国規模の人口に基づくコホート研究
Tumor Necrosis Factor Inhibitors and Cancer Recurrence in Swedish Patients With Rheumatoid Arthritis: A Nationwide Population-Based Cohort Study Ann Intern Med. 2018 Sep 4;169(5):291-299. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】がん既往歴のある患者における腫瘍壊死因子阻害薬(TNFi)の使用は依然として臨床上のジレンマである 【目的】関節リウマチ(RA)におけるTNFi治療ががん再発リスクの増加と関連しているかどうかを検討すること 【デザイン】全国の登録簿のリンケージに基づいた人口ベースのコホート研究。設定]スウェーデン. 【参加者】がんと診断された後、2001年から2015年の間にTNFi治療を開始したRA患者と、生物学的製剤の投与を受けたことのないRAと同一がん歴の患者をマッチングさせた. 【測定法】主要アウトカムはがんの初発再発であった.ハザード比(HR)の推定には、時間、がんの種類、がんが浸潤性かin situか(一部の患者では腫瘍、リンパ節、転移(TNM)分類システムの病期)を考慮した調整済みCox比例ハザードモデルを使用した。 【結果】TNFi治療を開始した患者467人(がん診断後の平均期間、7.9年)のうち、がんの再発は42人(9.0%;追跡調査の平均期間、5.3年)であった;同じがん歴を有する2164人のマッチアップ患者のうち、155人(7.2%;追跡調査の平均期間、4.3年)で再発があった(HR、1.06[95%CI、0.73~1.54])。がんの病期で一致させた患者サブセット、または指標となるがんの診断からTNFi治療開始までの期間が類似している患者サブセットの解析、および一致させていない解析では、ハザード比は1に近かった。 【Limitation】アウトカムアルゴリズムは一部検証されておらず、指標がんの予後が良好な患者ほどTNFi治療を受ける可能性が高い場合、チャネリングバイアスが生じる可能性があった。 【結論】本知見は、TNFi治療がRA患者におけるがん再発リスクの増加とは関連していないことを示唆しているが、有意なリスク増加を完全に排除することはできなかった。主な資金源]ALF(ストックホルム郡議会における保健医療分野の医学教育・研究に関する協定)、スウェーデン癌協会、スウェーデン戦略研究財団、スウェーデン研究評議会。 第一人者の医師による解説 レジストリデータ使用の国家規模コホート研究 エビデンス構築に貢献 岩崎 基 国立がん研究センター社会と健康研究センター疫学研究部部長 MMJ.February 2019;15(1):20 関節リウマチ患者などに対するTNF阻害療法は、その作用機序により悪性腫瘍のリスクが上昇する 可能性が懸念されている。また悪性腫瘍の既往歴・ 治療歴を有する患者がTNF阻害薬を使用した場合の再発リスクへの影響も懸念されている。再発リスクや2次がん罹患リスクとの関連を調べた先行研究は少なく、リスク上昇の報告はない。先行研究 の課題として、TNF阻害療法を受ける患者は進行がん患者が少ないなど再発リスクの低い患者が対象になっていた可能性が指摘されている。そこで、本研究では病期、診断からTNF阻害療法開始までの期間を考慮した解析を実施したが、生物学的製剤非使用群に比べて、統計学的に有意な再発リスクの上昇は観察されなかった。 本研究の方法論上の最大の特徴は、レジストリデータを用いて研究目的に合致した国家規模のコ ホートを構築している点である。本研究では、患者登録、がん登録、処方薬登録などの公的レジストリとリウマチ分野のQuality Registryを用いて、対象者の特定、治療と交絡要因に関する情報の取得、 アウトカムであるがんの再発の把握がなされた。 異なるレジストリをリンケージするために国民に付与された個人識別番号(PIN)が利用された。また、このような登録情報を疫学研究に用いる際には、 その妥当性を明らかにしておくことが重要であるが、患者登録から把握した疾患の妥当性について はすでに数多くの報告がなされている(関節リウマチ患者の陽性反応的中度は約90%)(1)。 スウェーデンの豊富なレジストリを用いて構築されたコホートにおいて、再発リスクの関連要因 を丁寧に調整した結果を示すことができた点は、 本研究の大きな成果である。一方、この規模でも十 分なサンプルサイズとは言えず、リスク上昇の可 能性は否定できない。また、観察研究のため未観察の交絡要因の影響は否定できず、情報がなく考慮できていない要因(治療開始時の病勢、喫煙など)の影響についても留意が必要である。 このように解釈の上で留意が必要ではあるが、 レジストリデータの利活用は、臨床上の疑問に答えるエビデンスの創出という点で大きな可能性を有している。日本においても、このようなレジストリデータなど、いわゆるリアルワールドデータを用いて、質の高い疫学研究が実施できる環境が整備 され、エビデンス構築に貢献できることを期待したい。 1. Ludvigsson JF, et al. BMC Public Health. 2011;11:450. doi:10.1186/1471- 2458-11-450.
原発性皮膚基底細胞癌の治療法。システマティックレビューとネットワークメタ分析。
原発性皮膚基底細胞癌の治療法。システマティックレビューとネットワークメタ分析。
Treatments of Primary Basal Cell Carcinoma of the Skin: A Systematic Review and Network Meta-analysis Ann Intern Med 2018 Oct 2;169(7):456-466. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】基底細胞癌(BCC)に対するほとんどの介入は、ヘッドツーヘッド無作為化試験で比較されていない。 【目的】成人における原発性BCCの治療法の有効性と安全性を比較評価する。 【データ入手元】開始時から2018年5月までMEDLINE、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cochrane Database of Systematic Reviews、Embaseの英語検索、ガイドラインやシステマティックレビューの文献リスト、ClinicalTrialsの検索を実施した。govを2016年8月に実施。 【研究選択】成人の原発性BCCに現在使用されている治療法の比較試験。 【データ抽出】1名の治験責任者が再発、組織学的クリアランス、臨床的クリアランス、美容的アウトカム、QOL、死亡率のデータを抽出し、2名のレビューアが抽出結果を検証した。複数の研究者が各研究のバイアスリスクを評価した。 【データ統合】無作為化試験40件と非無作為化試験5件で、9カテゴリー18件の介入を比較した。相対的な介入効果および平均アウトカム頻度は、Frequentist Network Meta-Analysesを用いて推定された。推定再発率は、切除(3.8% [95% CI, 1.5% ~ 9.5%])、モース手術(3.8% [CI, 0.7% ~ 18.2%])、掻爬およびジアテルミー(6.9% [CI, 0.9% ~ 36.6%])、外部ビーム照射(3.5% [CI, 0.7% ~ 16.8%])とほぼ同じであった。再発率は、凍結療法(22.3%[CI、10.2%~42.0%])、掻爬および凍結療法(19.9%[CI、4.6%~56.1%])、5-フルオロウラシル(18.8%[CI、10.1%~32.5%])、イミキモド(14.1%[CI、5.4%~32.4%])、およびメチル-アミノレブリン酸(18.8%[CI、10.1%~32.5%])またはアミノレブリン酸を用いた光力学療法(16.6%[CI、7.5%~32.8%])であった。美容上の良好な転帰を報告する患者の割合は、切除術(77.8%[CI, 44.8%~93.8%]) または凍結療法(51.1%[CI, 15.8%~85.4%]) に比べて、メチルアミノレブリン酸を用いた光力学的療法(93.8%[CI, 79.2%~98.3%] )またはアミノレブリン酸(95.8%[ CI, 84.2%~99.0%] )が良好であった。QOLおよび死亡率に関するデータは、定量的な統合には不十分であった。 【Limitation】データは不十分であり、効果の推定は不正確で、間接的な比較に基づく。 【結論】外科的治療および外部照射は、低リスクのBCCの治療において低い再発率を有するが、他の治療に対する比較効果についてはかなりの不確実性が存在する。高リスクのBCC亜型および費用などの重要なアウトカムに関してはギャップが残っている。 【Primary funding source】Agency for Healthcare Research and Quality.(プロスペロー:Crd42016043353)。 第一人者の医師による解説 基底細胞がんの標準治療は切除 日本ではさらなる切除範囲縮小が可能か 中村 泰大 埼玉医科大学国際医療センター皮膚腫瘍科・皮膚科教授 MMJ.April 2019;15(2) 基底細胞がんは多種ある皮膚がんの中でも世界中で最も発生数の多い皮膚がんである。基底細胞 がんの大半は小型で、局所のみで増殖し転移することはまれであるため、局所での腫瘍根絶ができれば生命予後良好である。しかし顔面を中心とした頭頸部に多く発生するため、腫瘍を根絶する治療介入の手段によっては、整容・機能面を損ねる場合がある。 現在基底細胞がんの治療は手術による切除が世界的にも標準治療と考えられている。しかし、切除以外にも凍結療法、掻爬、焼灼、光線力学的療法、レー ザー、放射線療法、5-フルオロウラシル軟膏など複数の治療があり、ランダム化比較試験などにより これら複数の治療介入の効果をすべて直接比較で きているわけではない。 本論文では基底細胞がんの個々の治療介入の効果を比較するために、これまでの臨床試験に関する文献をMEDLINE、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cochrane Database of Systematic ReviewsおよびEMBASEを用いて抽出し、18種類の治療介入を取り扱った40件のランダム化比較試験と5件の非ランダム化試験を対象に、相対的介入効果と効果の中央値をネットワークメタアナリシスにより推定した。推定局所再発率中央値は切除(3.8%)、Mohs手術(3.8%)、 外科的掻爬+焼灼(6.9%)、放射線療法(3.5%)が低 く、凍結療法(22.3%)、外科的掻爬+凍結療法 (19.9%)、5-フルオロウラシル軟膏(18.8%)、 イミキモドクリーム(14.1%)、光線力学的療法 (16.6%)で高かった。一方、本解析の限界として、 いくつかの患者条件や治療条件では母集団が少ない、あるいは解析されていないなどでエビデンスが乏しいこと、今回抽出された文献の効果推定値には不精確さがあり、直接比較ではないことにも留意する必要がある。また、高リスク基底細胞がんに対する治療介入については検討されていない。 今回の結果は米国における低リスク基底細胞がんに対する切除と放射線療法のエビデンスを再認識したものと言える。現在、日本における低リスク基底細胞がんの標準治療も切除であり、米国、日本ともに現行のガイドラインにおける側方切除範囲は4mmとされている。一方、日本人は白人と異なり色素性基底細胞がんが多く、病変境界が白人に比べ明瞭であるため切除範囲をさらに縮小できる可能性が高い。今後日本人を対象にした切除範囲縮小に関する臨床試験の施行が望まれる。
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.12(2022年8月11日号)
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慢性腰痛を軽減する最良の運動オプションとは~RCTのネットワークメタ解析 成人(18~65歳)の慢性腰痛患者における痛みと障害を軽減するために最適な運動は何かを検討するため、2021年7月までに公表された研究を6つの電子データベースより系統的に検索し、適格条件を満たした118件のRCT(9,710人)を含むネットワークメタ解析を実施した。The Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy誌2022年8月号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む AHAが新たな心血管健康状態の評価指標『Life’s Essential 8』を発表 2010年、米国心臓協会(AHA)は、疾患治療のみに焦点を当てるのではなく、集団および個人のライフコースにわたる積極的な健康増進と維持を含むパラダイムシフトを促進するため、心血管の健康という新しい概念を定義した。この度、最新のエビデンスを受け定義の更新が行われ、新たな指標として『Life’s Essential 8』が発表された。Circulation誌2022年8月2日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 寒冷による抗腫瘍効果を確認 グルコースの取り込みは、がん細胞の解糖に必須であり、脂肪組織の非ふるえ熱産生に関与しているといわれている。寒冷や薬物による褐色脂肪組織(BAT)の発熱性代謝の活性化は、脂肪細胞における血糖の取り込みを促進する。しかし、BAT活性化に関連する全体的な代謝変化が腫瘍増殖に及ぼす機能的影響はよくわかっていなかった。著者らは、担がんマウスを寒冷条件に曝し、寒冷の抗腫瘍効果を評価した。Nature誌オンライン版2022年8月3日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む COVID-19後遺症の有病率や症状は? COVID-19感染から回復した患者では、その後もさまざまな症状に悩まされているケースは少なくない。本研究は、COVID-19に関連する長期症状の特徴、有病率、重症度を分析した初めての報告である。Lancet誌2022年8月6日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 日本におけるCOVID-19ワクチンの有効性:デルタ流行期とオミクロン流行期の比較(FASCINATE研究) デルタ流行期(2021年8月~9月)およびオミクロン流行期(2022年1月~3月)における、SARS-CoV-2感染に対するワクチンの有効性を検証するため、日本の医療機関16施設による多施設共同の診断陰性例コントロール試験(FASCINATE研究)が実施された。Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2022年8月3日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号) サル痘の臨床的特徴~最新症例報告 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.10(2022年7月28日号) 小児におけるオミクロンに対するファイザー社製COVID-19ワクチンの有効性 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.9(2022年7月21日号) 慢性便秘症に効果的な食物繊維摂取量は?:RCTの系統的レビュー&メタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.8(2022年7月14日号) COVID-19後遺症の有病率、その危険因子とは ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.7(2022年7月7日号) 糖尿病の有無が影響するか、心不全に対するエンパグリフロジンの臨床転帰 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号) 老化をあざむく方法は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.5(2022年6月23日号) 座位時間と死亡率および心血管イベントとの関連性:低~高所得国での違いはあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.4(2022年6月16日号) 乳製品やカルシウム摂取量と前立腺がんの発症リスクの関連性:前向きコホート研究 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.3(2022年6月9日号) 運動は脳内RNAメチル化を改善し、ストレス誘発性不安を予防する ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号) 6〜11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.14(2022年8月25日号)
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ゼロカロリー甘味料は、耐糖能に影響を及ぼさないのか? 日常の食事中に含まれる非栄養性甘味料(NNS:いわゆるゼロカロリー甘味料)は、不活性であると考えられている。しかし、動物実験によると、NNSが微生物叢や血糖反応に影響を及ぼす可能性が示唆されている。本研究では、甘味料であるサッカリン、スクラロース、アスパルテーム、ステビアがヒトの腸内細菌や耐糖能に及ぼす影響を評価するため、健康成人120人を対象とした無作為化対照試験を実施した。Cell誌オンライン版2022年8月17日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 世界のがん負荷に影響するリスク因子は~世界疾病負担研究2019 潜在的に修正可能なリスク因子に起因するがん負担の大きさを理解することは、効果的な予防および緩和戦略の開発にとって極めて重要である。著者らは、Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)2019の結果を分析し、世界的ながん対策計画の取り組みに関する情報を報告した。Lancet誌2022年8月20日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む COVID-19感染後の神経精神医学的な後遺症リスク~100万人超のレトロスペクティブコホート研究 COVID-19は、その後数週~数ヵ月間の神経学的および精神医学的な後遺症リスクの増加と関連している。これらのリスクがいつまで続くのか、小児と成人で同様の影響を及ぼすのか、SARS-CoV-2亜型のリスクプロファイルに違いがあるのかを明らかにするため、2年間の後向きコホート研究が実施された。The lancet. Psychiatry誌オンライン版2022年8月17日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 母親の「声」は早産児の経口栄養摂取を改善するか 妊娠28~34週で出生した乳児を対象に、前向き非盲検2施設介入試験が行われた。乳児は1日2回、経口栄養を試みる前に20分間母親の声を聞かせ、その後の経口栄養摂取の割合との関連を調査した。Journal of Perinatology誌オンライン版2022年8月18日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 若返り効果が期待されるGlyNAC補給で、老化は改善するか? 酸化ストレスの上昇、ミトコンドリア機能障害、老化の特徴は、老化の重要な因子として特定されているが、高齢者においてこれらの欠陥を改善/回復させることは困難である。先行研究では、グリシンとN-アセチルシステイン(GlyNAC)を投与した高齢マウスにおいて老化の改善が報告されいる。ヒトにおいても同様の効果が得られるかを検討するための無作為化臨床試験が行われた。The Journals of Gerontology誌オンライン版2022年8月17日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.13(2022年8月18日号) 運動後の摂取はゆで卵、生卵どちらの摂取が有用か? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.12(2022年8月11日号) 慢性腰痛を軽減する最良の運動オプションとは~RCTのネットワークメタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号) サル痘の臨床的特徴~最新症例報告 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.10(2022年7月28日号) 小児におけるオミクロンに対するファイザー社製COVID-19ワクチンの有効性 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.9(2022年7月21日号) 慢性便秘症に効果的な食物繊維摂取量は?:RCTの系統的レビュー&メタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.8(2022年7月14日号) COVID-19後遺症の有病率、その危険因子とは ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.7(2022年7月7日号) 糖尿病の有無が影響するか、心不全に対するエンパグリフロジンの臨床転帰 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号) 老化をあざむく方法は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.5(2022年6月23日号) 座位時間と死亡率および心血管イベントとの関連性:低~高所得国での違いはあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.4(2022年6月16日号) 乳製品やカルシウム摂取量と前立腺がんの発症リスクの関連性:前向きコホート研究 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.3(2022年6月9日号) 運動は脳内RNAメチル化を改善し、ストレス誘発性不安を予防する ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号) 6〜11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.20(2022年10月6日号)
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CRPはがんのバイオマーカーになるか? 観察研究では、血清C反応性タンパク(CRP)と肺癌、乳癌、大腸癌のリスクとの関連が報告されているが、他の癌については一貫性がなくエビデンスも示されていない。そこで、英国バイオバンクコホートからの42万964人の癌のない参加者を対象に、CRPと癌リスクの関連を評価するための前向きコホートとメンデルランダム化による汎癌解析が実施された。BMC Medicine誌2022年9月19日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む メトホルミンは、アルツハイマー病の発生率に影響を及ぼすか? メトホルミンの使用は糖尿病患者の認知症発生率の低下と関連があることが、観察研究において示されている。しかし、一般集団における両者の因果関係はよくわかっていない。メンデルランダム化(MR)を用いた本研究で、メトホルミンとアルツハイマー病リスク低下との因果関係、その脳内での作用機序が調査された。Diabetologia誌2022年10月号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 心不全における鉄欠乏症とダパグリフロジンの効果 心不全では鉄欠乏症が一般的であり、転帰の悪化に関連している。DAPA-HF試験(心不全におけるダパグリフロジンの有害転帰の予防)における鉄欠乏の有病率とその結果、鉄代謝マーカーに対するダパグリフロジンの効果、ベースライン時の鉄の状態による心不全に対するダパグリフロジンの効果について、結果が報告された。Circulation誌2022年9月27日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む SDGsは達成されるか:低所得国・中所得国における固体燃料を使用した調理と健康への影響のマッピング 現在でも30億人以上がクリーンエネルギーを利用できず、主に固体燃料を使用して調理している。しかしながら、固体燃料の使用は、死亡に関連する家庭の大気汚染を引き起こすことがわかっている。著者らは 、2000年〜2018年の低所得国および中所得国において、固体燃料使用と有病率をマッピングする地理空間モデリング研究を行った。The Lancet Global Health誌2022年10月1日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む アセタゾラミド(ダイアモックス®)は、急性非代償性心不全に効果的か? 体液過剰(浮腫、胸水、腹水)を伴う急性非代償性心不全患者に対し、炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミド(ダイアモックス®)をループ利尿薬に追加することで、より迅速なうっ血解消が可能であるかどうかは不明である。アセタゾラミドの急性非代償性心不全への効果を検討した、多施設並行群間二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果が報告された。The New England Journal of Medicine誌2022年9月29日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.19(2022年9月29日号) 免疫チェックポイント阻害剤の奏効率は、食事によって変わるのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.18(2022年9月22日号) メタボを防ぐ腸内細菌に対して、最も悪影響を及ぼす食事は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.17(2022年9月15日号) セレブからも注目されているプチ断食は、ダイエットや心血管代謝に良い影響を及ぼすのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.16(2022年9月8日号) 長生きできる紅茶の摂取量は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.15(2022年9月1日号) 顔が似ていると、遺伝情報も似ている!? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.14(2022年8月25日号) ゼロカロリー甘味料は、耐糖能に影響を及ぼさないのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.13(2022年8月18日号) 運動後の摂取はゆで卵、生卵どちらの摂取が有用か? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.12(2022年8月11日号) 慢性腰痛を軽減する最良の運動オプションとは~RCTのネットワークメタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号) サル痘の臨床的特徴~最新症例報告 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.10(2022年7月28日号) 小児におけるオミクロンに対するファイザー社製COVID-19ワクチンの有効性 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.9(2022年7月21日号) 慢性便秘症に効果的な食物繊維摂取量は?:RCTの系統的レビュー&メタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.8(2022年7月14日号) COVID-19後遺症の有病率、その危険因子とは ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.7(2022年7月7日号) 糖尿病の有無が影響するか、心不全に対するエンパグリフロジンの臨床転帰 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号) 老化をあざむく方法は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.5(2022年6月23日号) 座位時間と死亡率および心血管イベントとの関連性:低~高所得国での違いはあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.4(2022年6月16日号) 乳製品やカルシウム摂取量と前立腺がんの発症リスクの関連性:前向きコホート研究 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.3(2022年6月9日号) 運動は脳内RNAメチル化を改善し、ストレス誘発性不安を予防する ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号) 6〜11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本
免疫チェックポイント阻害薬~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月12日号)
免疫チェックポイント阻害薬~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月12日号)
がんの治療にパラダイムシフトを起こした免疫チェックポイント阻害薬(Immune Checkpoint Inhibitor:ICI)。今回は、ICIに関する最新論文をご紹介します。ICIに関連する腎障害、血栓塞栓イベント、膵臓への影響や「抗生物質使用の影響」「悪性黒色腫の生存率は改善したのか」などの情報が盛りだくさん。ぜひご覧ください。(エクスメディオ 鷹野 敦夫) 『BIBGRAPH SEARCH』では、エクスメディオが提供する文献検索サービス「Bibgraph」より、注目キーワードで検索された最新論文をまとめてご紹介しています。 ICIに関連する急性腎障害の診断と管理 Sprangers B, et al. Nat Rev Nephrol. 2022 Sep 27.[Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 抗生物質使用は非小細胞肺癌に対するICIの効果に影響するか Martinez-Mugica Barbosa C, et al. Rev Esp Quimioter. 2022 Sep 23. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む ICIの血栓塞栓イベントリスク~WHOグローバルデータ分析 Alghamdi EA, et al. Saudi Pharm J. 2022; 30: 1193-1199. ≫Bibgraphを読む 転移性黒色腫の生存率はICI承認により改善したのか Adhikari A, et al. Cancer Epidemiol. 2022 Sep 26. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む ICIの膵臓への影響 Ashkar M, et al. Cancer Immunol Immunother. 2022 Sep 26. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら
慢性腎臓病~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月20日号)
慢性腎臓病~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月20日号)
2022年6月、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)に適応を有する唯一のMR拮抗薬フィネレノン(ケレンディア)が発売された。ここでは、CKDに関する最新論文をいくつか紹介する。フィネレノンの最新エビデンスや糖尿病性腎臓病のメタ解析結果、PPIによるCKDリスク、漢方薬の可能性など取り上げています。また「日本におけるCKDとがん発症率との関連」も必見。ぜひチェックしてみてください。(エクスメディオ 鷹野 敦夫) 『BIBGRAPH SEARCH』では、エクスメディオが提供する文献検索サービス「Bibgraph」より、注目キーワードで検索された最新論文をまとめてご紹介しています。 CKDとがん発症率との関係~日本の保健所によるプロスペクティブ研究 Miyamoto Y, et al. Nephrol Dial Transplant. 2022 Oct 16. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む MR拮抗薬フィネレノンは2型糖尿病を合併するCKD患者の死亡率を減少させるのか Filippatos G, et al. Eur Heart J Cardiovasc Pharmacother. 2022 Oct 17. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 21世紀以降、CKDに対する漢方薬治療はどう進んでいるのか Xu Y, et al. Front Pharmacol. 2022; 13: 971113. ≫Bibgraphを読む PPI使用とCKDリスクとの関連 Lu S, et al. Chem Biol Interact. 2022 Oct 13. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 糖尿病性腎臓病に対するMR拮抗薬フィネレノンの有効性と安全性~メタ解析 Dutta D, et al. Indian J Endocrinol Metab. 2022; 26: 198-205. ≫Bibgraphを読む 参考:バイエル薬品 非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬「ケレンディア®錠」を発売 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら
私の心に強く刻まれた「腫瘍内科の未来を創るのは君だ!」
私の心に強く刻まれた「腫瘍内科の未来を創るのは君だ!」
 「腫瘍内科の未来を創るのは君だ!」これまで、腫瘍内科医になるというキャリアパスを考えたことがなかった私の目に飛び込んできた言葉だ。大学の掲示板に貼ってあったポスターに書かれたこのキャッチコピーは、私の心に強く刻まれた。マッチング試験を控えた7月末、本来ならば就活対策に充てる時期に実施される腫瘍内科セミナー、行くべきか行くべきでないか。私は判断を保留することにした。 その翌月、外部の市中病院で血液内科の病院実習をしていた私は、1ヵ月の実習中に一度だけ、最も忙しい先生の外来を見学した。「私は血液内科だけでなくて腫瘍内科の専門医も持っているので、その外来もあるんですよ。これからは臓器ではなくて、遺伝子変異で治療法を決める時代になりますよ」患者さんについて細かく教えていただいたあと、最後にそう言って、先生は次の患者さんを迎えに行ってしまった。私には、病院の腫瘍患者さんを一身に背負うその先生の背中が、とても大きく見えた。 腫瘍内科の仕事とはどんなものだろう。どうしたら腫瘍内科医になれるんだろう。その時、先月大学で見たあの言葉を思い出し、参加することを決めた。取材担当:名古屋大学医学部6年 金澤 元泰 腫瘍内科は志を同じくする医師の集まり  セミナーの第一印象は、自己紹介の面白さだ。腫瘍内科の先生方は、自己紹介の時にグラフを提示することがある。自分が診ている患者さんの、がん種別の割合グラフだ。すべての先生がすべての腫瘍を診ているわけではない。それぞれの先生にバックグラウンドがあって、得意分野がある。腫瘍内科は診療科であり、ある種学問である一方で、志を同じくする医師の営みのような、そんな感触があった。 現在は、学会認定制度であるがん薬物療法専門医制度から、日本専門医機構認定の腫瘍内科専門医制度への変革期に当たるため、先行きは若干不透明である。よって、現状では学会としては、専攻医にがん薬物療法専門医の取得を目指していただきたいとの意向がある。一方で、がん薬物療法専門医から腫瘍内科専門医への更新・移行が可能になる見込みであることから、がん薬物療法専門医資格を取得しておくことは不利益にはならない。 患者さんの気持ちを受け止められる医師、それが腫瘍内科医  Cancer Journeyとは、「がんと闘うのではなく、がんと旅をする」という考え方だ。がんと診断された時、人は大きな衝撃と孤独を感じる。そして、がんはその人の人生全般に影響を与える。このような、がんは人生を根本から覆してしまうという即面から、このCancer Journeyという考え方が生まれたそうだ。中で、がん体験者の方のCancer Journeyを伺う機会とグループワークで架空の患者さんのCancer Journeyをつくるという機会を得た。 今回話を伺ったのは、流産後に絨毛がんを患った元患者さん。「いえない(言えない/癒えない)」をテーマに進んだその話は、とても興味深いものだった。医学生の立場で拝聴していると、とくに医師に対して「言えない」ことが多かったように感じた。絨毛がんの特性上、時間のない中で治療が始まったとのことだった。その際に、正しい説明を「される」だけの連続が辛く、流産の苦しみ、がんによる苦しみ、治療やこれからに対する不安、副作用や治療環境の辛さを抱えている一方で、不安や悲しみを抱えていることが、説明を理解していないと捉えられるのではないかと思い、主治医にその悩みを伝えられなかった。 治療が始まっても「言えない」経験が続いた。入院する日からしばらく主治医が出張で不在となり、引き継ぐことになった先生との関係がうまく築けなかった。通院治療に変わってからは、5日連続の治療のため毎日異なる医師の診察を受けることになり、主治医以外の先生は病状を同じように理解してくれていなかったり、副作用の訴えに親身になってもらえなかったりすることが積み重なり、自分の状況を言いづらくなっていったという。主治医に代わりがんの告知をした医師に予後を尋ねたところ「いつ死ぬかは誰にもわかりません。治療はまだありますから、前向きに頑張りましょう」と言われ、後ろ向きで答えのない問いをしてはいけないのかと思わされることもあったようだ。 そのような中、がん治療後に出会ったのが、ある婦人科の女性開業医だった。その先生は病状だけでなく、治療の辛さや、10代から抱えていた婦人科疾患のことも含めてすべてを理解してくれた。そして診察の度に「我慢しなくていいよ、なんでも言ってね」と声をかけてくれた。このような環境で受け入れられた経験から、少しずつ今の自分を受け入れて、希望を周りに伝えられるようになっていったそうだ。 この元患者さんから伺った一連のお話の中で、私は一貫して治療を把握、管理できる医師、希少ながんやAYA世代のがんにも、治療面とケア面両方で対応できる医師、がんやその治療の過程での苦しみと、その個人差を理解し、患者さんの気持ちを受け止められる医師の必要性を実感した。 患者さんの気持ちを知ることの難しさをグループワークで体感  今回のセミナーの目玉は、グループワークで架空の患者のCancer Journeyを作成する試みだ。会場の参加者は8つのグループに分けられた。与えられた条件は、年齢性別と化学療法を実施するということだけ。あとは名前や住所から、すべて自分たちで決めていく。 難しいのは、単に「症例」をつくるというだけではないという点だ。疾患に対する治療の一例を作るのではなく、患者さんの背景、考え方や価値観、がんやその治療に対する反応、周囲の人々も含めて設計する必要がある。そして、そこがこの試みの狙いであるようにも感じた。 私のグループは、知識や臨床経験は異なる学部2年生から専攻医の先生まで、さまざまなステージの参加者で構成され、乳がんに罹患した30歳女性についての検討を行った。患者背景を考える際は知識も経験も関係ない。まずは名前を高橋さんと決めた。東京のOLにしよう、優柔不断な性格かもしれない、もうすぐ結婚式ということにしたらどうか、妹がいて姪ができたことにしよう。話はどんどん弾んでいく。 背景を考えると、患者の問題点もたくさん上がってくる。結婚はどうするのか。子供は産めるのか。仕事はどうするのか。乳がんは遺伝性のものもある、妹や姪も乳がんになるのか。私たちはその中でも、結婚式に焦点を当てて話を進めることにした。 結婚式を挙げるとなると、見た目の問題が出てくる。化学療法で髪が抜けると困る。ドレスを着るから胸や脇の手術痕も嫌だ。高橋さんだったら絶対にそう思うだろう。でも、治療を待つことはできない。 化学療法は術前術後どちらに行うのでも、予後に差はない。だったら、あとが出来てしまう手術は結婚式の後にして、術前化学療法を実施するのはどうか。そうすると脱毛は避けられない。ウィッグで結婚式を挙げるというのはどうか。それを高橋さんは受け入れてくれるだろうか。このようなことを考えていくうちに、高橋さんのCancer Journeyが出来上がっていった。 2日間のセミナーの最後に、各グループのCancer Journeyを発表し合った。私たちのグループは、いかに主治医が結婚式の話を聞き出すか、高橋さんにどう結婚式を迎えてもらうかを主眼に発表を進めた。「副作用が嫌だ」という高橋さんの訴えに対して、「みんなそうです」と切り捨てるのではなく傾聴を続けていくこと、看護師さんや美容師さんとも相談しながら、複数のウィッグを使ってお色直しでイメージチェンジを提案することなどを盛り込んだ。 他のグループも、ものすごく勉強になる発表ばかりだった。遊び人のおじいさんがどう運命を受け入れていくのか、SNSはどのようにがん治療に関わってくるのか、妊孕性温存がプレッシャーになることがある、治療するために生きているわけではない。他にも多くのメッセージを受け取った。 患者さんに寄り添える医師になりたい、そう思える2日間のセミナー  私は、生命に直結する疾患を診れる医師、全身を診れる医師、患者さんに寄り添える医師になりたいと思っている。そのために今は、血液内科を目指している。今回、腫瘍内科についてみっちり学ばせてもらって、腫瘍内科の道も考えるようになった。血液内科に進むのか、腫瘍内科に進むのか、血液内科専門医取得後に腫瘍内科専門医を取得するのか。一長一短はある。会場にいらした血液内科出身の先生は、「まずは血液内科で抗がん剤治療や移植の基礎を学んだらいいよ」とアドバイスしてくださった。他にも、呼吸器や消化器出身の先生もいらっしゃった。別の診療科に軸足を置いてから腫瘍内科に取り組むと、新しいアプローチができるとも伺った。3年目から腫瘍内科に首まで浸かってみたいという思いもある。時代はそちらへ進んでいると実感した2日間だった。私のキャリアについては、今後の初期研修2年間で多くの患者さんと出会う中で考えて行くことにしたい。まずは置かれた場所で懸命に頑張っていきたいと思う。 腫瘍内科医は、一人の患者さんを臓器横断的かつ継続的に、一生涯を見届けるつもりで診ていく。そういった診療スタイルに魅力を感じる方は、とくに腫瘍内科をお勧めできると強く感じた。EBMとはエビデンスだけを重視するのではない。それをどう、個別の、目の前の患者さんに落とし込むことができるか。患者さんの価値観や全人的な悩みもすべて傾聴して受け止めて、その中でどういった治療、Journeyを共に描くのか。腫瘍内科医への扉はどんどんと開かれようとしている。その扉を誰がどう叩くのか。私もその一人でありたい。 実行委員長の高野 利実先生にもたくさんお話を伺った。高野先生は日本の腫瘍内科の先駆け的な先生だ。日本で「腫瘍内科」という概念がそこまで根付いていない中で、どうして先生は、腫瘍内科医になるというビジョンを描けたのかをぜひ伺ってみたいと思っていた。先生の答えは私にとって驚くべきものだった。先生は大学同窓会誌の編集長を務めていらして、その取材の一環でがん研の総長に取材に行かれて、そこでこれからは腫瘍内科の時代だと聞いて腫瘍内科医を目指されたとのことだった。まさに今の私とほとんど同じ境遇だった。このような機会を与えてくださった皆様に心から感謝申し上げます。 名古屋大学医学部6年 金澤 元泰 ヒポクラ × マイナビ無料会員登録はこちら▶https://www.marketing.hpcr.jp/hpcr 日本臨床腫瘍学会ホームページはこちら▶https://www.jsmo.or.jp/ 日本臨床腫瘍学会認定研修施設はこちら▶https://www.jsmo.or.jp/authorize/doc/sisetsu.pdf 京都大学医学部6年 杉本 凌太郎 福井大学医学部5年 松田 玲奈
「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」は腫瘍内科医の夢への第一歩
「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」は腫瘍内科医の夢への第一歩
 私がこのセミナーに参加を決めた理由は2つある。まず、腫瘍内科医のキャリアパスについて知りたかったからだ。医学部受験を志した時から現在まで、漠然と腫瘍内科医になるという夢を持ち続けているが、そのキャリアパスについては周囲に相談できる人がおらず、ぼんやりとしていた。腫瘍内科医になるという思いだけが1人走りし、実現するために能動的な行動ができていない自分にモヤモヤしていた。今回のセミナーには、全国でご活躍されている腫瘍内科の先生方が多く参加される。この機会にキャリアパスについて、さまざまなお話をお伺いすることができるのではないかと考え、参加を決めた。 また、私と同じように腫瘍内科医を志す医学生や研修医・専攻医の先生方との交流を通じて、刺激を受けたかったということも理由に挙げられる。このようなセミナーに参加すること自体が初めてで、不安な気持ちはあった。しかし、大学を越えて全国の学生や先生方と交流できる機会は貴重であると強く考え、一歩踏み出した。実際セミナーに参加してみて、同志との交流の時間は私にとって非常に有意義なものであったと考える。 取材担当:福井大学医学部5年 松田 玲奈 腫瘍内科医を目指すためのステップは?「キャリア相談カフェ」も利用可能に  専門研修の実際についてお話しいただいた島根大学の津端 由佳里先生は、まず専門医取得プランの全体像を示してくださった。2年の初期臨床研修後、内科専門研修(医師3-5年目)を経て内科専門医を取得する。内科専門研修と連動して、領域専門研修(医師4-6年目)を行い、各領域の専門医を取得することも可能である。そしてその後サブスペ研修(医師6-8年目)を行う。がん薬物療法専門医はサブスペ研修を経て取得する。 専門研修の実際については、大学病院、がん専門病院、一般病院の3施設での研修を比較してお話いただいた。典型的なプログラムとしては、大学病院と一般病院は腫瘍内科に在籍し,必要時にローテートする“腰落ち着け型”だという。一方、がん専門病院は基本“ローテート”で、プログラムの対象が内科専門研修修了後の医師という点が特徴である。大学院進学に関しては、システム的にやはり大学病院が並行して研修を行いやすいそうだ。ただし、がん専門病院や一般病院でも、連携している大学での取得となるが、大学院進学も可能であるというお話であった。「専門研修において3施設のどれかが秀でているわけではない」と津端先生は話された。各施設での研修のカラーを知り、自身が重要視する点や求める研修内容も含めて決める必要があるという結論に至った。 日本臨床腫瘍学会(JSMO)に入会すると、JSMOの新しい取り組みである「キャリア相談カフェ」を今後利用できるようになるという。キャリアプランに悩み、専門医取得の道筋が構築できていない私のような学生は利用させていただく他ないと考える。 治療だけではない、患者さんの“いえる”を助ける医療者に  絨毛がん経験者の藤田 理代さんのご講演も拝聴させていただいた。藤田さんは14歳から婦人科に通院、29歳で初めての妊娠をされるも、その後流産を経験された。そして間もなくして、絨毛がんが発覚した。藤田さんは自身のがん罹患の経験から、“いえなかった(言えなかった・癒えなかった)場面”と“いえる(言える・癒える)ようになった関わり”についてお話しくださった。がん発覚後、進行が早い絨毛がんの特性上、時間がない中での治療が始まった。それは医療者から「正しい説明」を「される」連続だったという。そんな中、藤田さんは流産やがん罹患による悲しみ、治療や今後に対する不安、副作用や治療環境のつらさに耳を傾けてもらえることもなく、“いえない”状況を強いられた。追い討ちをかけるような周囲からのさまざまな矢印も、藤田さんを“いえない”状況へとさらに追いやった。産婦人科の待合室で目に入る妊婦さん。子育てに奮闘する友人。絨毛がん治療後の妊娠に前向きな医療者たちなど…。周囲からの反応や声が、ご自身の本音とかけ離れており、それがさらに藤田さんを苦しめた。 そうした苦しみの中で自信を喪失した患者さんが、自ら助けを求めることの難しさを藤田さんは訴える。もしもその時、患者さん自身の本音を感じ取り、打ち明けるきっかけとなる医療者からの「声かけ」があったとしたら“いえる”ことができたかもしれないと、当時を振り返りお話された。 藤田さんが“いえた”きっかけは、2人の看護師さんとの出会いだった。それまでのがん治療の旅路で抱えてきたさまざまなつらさを、マギーズ東京の看護師さんに打ち明けた時、「やさしいのね」、そう言われたという。また、治療中の1番つらい時を知る外来化学療法室の看護師さんは特別な存在であり、その人からのひと言が、どんな「支援」よりも力になった、と藤田さんはいう。 患者さんの“病気を治す”ことに焦点を当てるだけでは、医療者として不十分なのである。個々の患者さんの気持ちを感じ取り、本音まで知ろうとする姿勢、そして声に出せるような“場”を提案できることが求められるのだと、私は思った。 初体験の「Cancer Journey」患者さんの人生に寄り添うことの重要性を実感  グループワークでは他の参加者の方と共に、がん患者さんのCancer Journeyに基づくケース・シナリオを作成した。私のグループに充てられた患者設定は「AYA世代の根治可能ながん患者さん(30歳女性)」。がん発症までの人生から、それに基づく本人の価値観や性格、家族構成まで話し合って設定した。根治可能ながんとして、疾患をステージⅠB3の子宮頸がん(脈管浸潤あり)とした。このステージの1次治療は広汎子宮全摘術+術後化学放射線療法であるが、患者さんは挙児希望のある30歳女性、結婚2年目、子ども好きの保育士(という設定)。AYA世代のがんでは、妊孕性の問題がしばしば挙げられる。今回の症例は、医学的に根治可能である、しかし本人の妊孕性の維持は難しい。このような状況における患者さん本人の心境や思い、また家族や主治医の思いについても話し合いを重ねていった。患者さんの年齢が私自身と近かったため、自身と重ねて考えてしまう場面もあった。 患者さんへの説明の仕方は1通りではない。より患者さんに寄り添った説明をするためには、患者さん本人の歩んできた人生を知ること、また知ろうとすることが大切であるとグループワークで再認識した。こんなにも詳細に1人の人生を読み解く取り組みは初めてであった。臨床現場では、疾患そのものに焦点が行きがちであるが、患者さんの人生に寄り添うことが旅路(Cancer Journey)を共にする上で重要であると実感した。 “病気を診る”のではなく“患者さんの人生をみる”医師が私の目標  「多くの人に“がんは治る病気”と認識してもらえるようにしたい、また腫瘍内科医として、そのような治療を確立させたい」これは私が本セミナー参加前に抱いていた目標である。私は祖父をがんで亡くしたことをきっかけに、こう思うようになり、当時通っていた大学を辞め、医学部に進路変更をした。そのような中、本セミナーに参加し、大きな収穫があった。それは、先生方とお話する中で得られた、新たな考えや価値観である。 がん研有明病院の高野 利実先生は、お話しさせていただいた際に次のようにおっしゃった。「治すというだけが腫瘍内科医としての仕事ではなく、治らない場合にこそ腫瘍内科医にしかできない仕事がある」「治らない患者さんに手を差し伸べ、共に歩むことができる点が腫瘍内科医の何よりも魅力だ」と。そもそも“治す”とは何を指すのか。この問いを考えたとき、いわゆる完治だけが“治す”ではなく、たとえ治らなくともがんと上手く向き合い、付き合いながら患者さん自身の人生を生きていくこと、それが“治す”であるという答えに至った。 思えば、家族のがん罹患の経験から“がん=悪”という考えが私の心の奥に根付いていたのかも知れないと、ハッとした。病気は誰でもなる、それはがんも同様だ。病気は人生の一部であり、病気によって人生が左右されてはならない。患者さん自身の人生をその人らしく生きることが何より大切である。医師として病気を治すことだけに躍起になるのではなく、同じ方向(治療目標)を向きながら、共に歩むという考えを自分の中におとし込むことができた。つまり、“病気を診る”のではなく、“患者さんの人生をみる”医師になりたいという考えに至った。 患者さんと共に成長できることも腫瘍内科の魅力  「人生の扉は他人が開けてくれる」これは奈良県総合医療センターの東 光久先生が大切にされているお言葉である。東先生は、この言葉の“他人”とは“患者さん”であるという。「医師としても人としても、患者さんとの出会いが私たちを成長させる。そして、患者さんの人生に寄り添い、共に歩む中で、私たちは患者さんから思いがけない新たな気づきやきっかけをいただいている」とお話ししてくださった。私も、患者さんお一人お一人との出会いを大切にしていきたいと改めて感じた。 ここまで“患者さんの人生に寄り添い、共に歩む”ことを中心にレポートしてきたが、どんな病気においてもこの考えは基盤になると考える。ただその中でも、がんは患者さんのそれまでの人生、またその後の人生に大きな影響を与える疾患の1つである。だからこそ腫瘍内科医は、がん患者さんの人生に深く、長く寄り添い、その人らしい人生を送るためにその患者さんにとっての最善の提案をする力が求められる。患者さんとの関わり合いの中で、人として成長させていただけること、これは腫瘍内科の魅力だと先生方とお話しさせていただき、強く感じた。また“臓器横断的”に診られることも腫瘍内科の魅力である。私が腫瘍を扱う外科ではなく、腫瘍内科を志望しているのもこの点に魅力を感じているからだ。患者さんの全身を診ることができ、そして人生をみて、共に歩む。これこそが腫瘍内科の魅力であると考える。 福井大学医学部5年 松田 玲奈 ヒポクラ × マイナビ無料会員登録はこちら▶https://www.marketing.hpcr.jp/hpcr 日本臨床腫瘍学会ホームページはこちら▶https://www.jsmo.or.jp/ 日本臨床腫瘍学会認定研修施設はこちら▶https://www.jsmo.or.jp/authorize/doc/sisetsu.pdf 名古屋大学医学部6年 金澤 元泰 京都大学医学部6年 杉本 凌太郎
実は、腫瘍内科は最高に熱くて面白い分野なんです!
実は、腫瘍内科は最高に熱くて面白い分野なんです!
 皆様は腫瘍内科について、どのような印象をお持ちでしょうか。「聞いたことはあるけど、具体的に何をするのかよく分からない」「がん治療って、内科や外科がメインで、腫瘍内科はあまり関わらないんじゃないの?」 正直、こういったイメージの方もいらっしゃるのではないかと思います。 私自身、これまで腫瘍内科についてあまり知らず、「がんの化学薬物療法を管理する診療科」という程度しか理解していませんでした。腫瘍内科のことを聞かれても、ちゃんと答える自信がありませんでした。 しかし、2日間にわたる「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」に参加して、私のイメージはガラリと変わりました。実は、腫瘍内科は最高に熱くて面白い分野なんです!取材担当:京都大学医学部6年 杉本 凌太郎 私が腫瘍内科に興味を抱いたきっかけは・・・  腫瘍内科にあまり詳しくなかった私が、なぜこのセミナーに参加したのかというと、私が志望する進路に密接に関わっているからです。 私は以前から呼吸器内科に興味を持っており、研究室でもその分野に取り組んでいました。そんな中、肺がんを患っていた祖母の薬物療法を間近で見たことをきっかけで、とくに肺がんの治療に関心を抱くようになりました。これが、私が腫瘍内科に興味を持つようになったきっかけです。 また、記事執筆の仕事をしていた際に、厚生労働省のさまざまな資料を見たことで、医療技官や行政医への道も視野に入れるようになりました。がんは高齢化や地域医療、ゲノム医療、予防医学など、医療の未来を形作る重要なテーマを含んでいます。そうした観点からも、私は腫瘍内科に興味を抱くようになったのです。 要するに、腫瘍内科への興味はあるものの、詳細はよく分からないという状況で、このセミナーはまさに私にとって良い機会でした。私は「腫瘍内科医にはどのような仕事が求められるのか?」「腫瘍内科医のやりがいとは何なのか?」「腫瘍内科医にはどのような未来が訪れるのか?」という3つの疑問を抱えてセミナーに参加し、その中で答えを見つけることを決めました。 腫瘍内科医は「患者さんや医療者と連携し、最良の時間をデザインするリーダー」  本セミナーでは、がん患者さんの人生の全期間に及ぶケース・シナリオを作成するグループワークのセッションがありました。このグループワークを通して、腫瘍内科医の役割について学ぶことができました。 例えば、治療の初期段階を考える際、腫瘍内科医には次のような役割が求められることに気がつきました。・患者さんやご家族と十分なコミュニケーションを取り、身体的な情報だけでなく、人柄や価値観などの生き方に関わる情報を引き出す。・エビデンスに基づいて治療の効果や副作用を予測し、患者さんの生き方に合わせてリスク・ベネフィットを評価し、共有する。・患者さんやご家族の意見を尊重して、共有意思決定 (Shared decision making:SDM) を行う。 特徴的だと感じたのは、「生き方」を重視するところです。がんは人生に大きな影響を及ぼす病気ですが、治療だけが全てではありません。治療は、患者さんが望む「生き方」に沿って「人生の目標」に向かって進めるように支援する手段でしかないのです。 また、実際にがんを経験された方のお話を伺う中で、情報の伝え方を個々の人生観に合わせる必要性も感じました。例えば、良い治療効果が得られる可能性があれば、希望があることを強調して励ますことで、患者さんも安心できるかもしれません。一方、患者さんが覚悟を決めていて、初めから「死」を含めた今後の見通しについて知りたいと考えているのであれば、希望を前面に打ち出したような伝え方は逆影響です。このように、患者さんの背景や考え方に合わせて情報を伝えることが重要だと感じました。また、症状や副作用が刻々と変化する中で、患者さんやご家族の思いが変化することもあるため、常に想像力を働かせながら、患者さんやご家族と密にコミュニケーションをとり続けることが重要だと学びました。 さらに、患者さんとのコミュニケーションに加えて、他の医療従事者との連携も重要です。治療を遂行するためには、さまざまな診療科や施設と協力する必要があります。各臓器の診療科や放射線診断科、検査部の協力が必要なのはもちろんのこと、化学療法の副作用を早期に発見するには、外来化学療法室や看護部、薬剤部などとの連携も必要となります。心理士や遺伝カウンセラーに、精神的苦痛や遺伝に関する相談を依頼する例もあるでしょう。がんが進行した場合には、緩和医療や看取りについての相談に加え、緩和ケア病棟やホスピス、訪問診療・訪問看護などのスタッフの協力が必要になります。若い世代の患者さんで治療を終えられた場合でも、心や身体への負担がなくなったわけではありません。一番つらい治療の時期を乗り越えるためにサポートをしてきた腫瘍内科医だからこそ、力になれることがあるはずです。 こうした役割を踏まえて、腫瘍内科医の仕事を考えるなら、「患者さんや医療者と連携し、最良の時間をデザインするリーダー」と言えるでしょう。患者さんやご家族、多様な医療従事者と協力し、最良の治療を提供し、サポートする役割が求められることがわかりました。 「高度な臨床スキル」と「患者との信頼関係」のバランスが求められる腫瘍内科医  本セミナーを通して、腫瘍内科医の素晴らしさとは、専門知識と人間関係のスキルを結集させたプロの側面にあると感じました。 腫瘍内科医は、横断的な臓器の症状や副作用に対処する必要があり、内科的な知識が不可欠です。時には医学的な判断が生死にかかわることもあるでしょう。一方で、自分の知識や経験に基づき正しい判断を行うことで、患者さんの状態が大きく好転することもあります。そうした瞬間を共有し、患者さんの健康改善に貢献できることが、腫瘍内科医の面白さだと伺いました。 また、ケーススタディでも学んだ通り、医学的に正しい判断ができても、それを患者さんに伝えられるかどうかは別の問題です。信頼関係が崩れ、適切な治療が行えないこともあるそうです。 このように、腫瘍内科医には高度な臨床スキルとコミュニケーション能力が求められ、そのバランスを取るのは決して簡単ではありません。それでも、患者さんとの信頼関係を築き、適切なケアを提供することが、腫瘍内科医のやりがいといえるでしょう。 腫瘍内科医は、がん治療の未来を創生するスペシャリスト  本セミナーの中で、腫瘍内科の現状と未来についても学ぶことができました。 がん薬物療法の発展とともに生まれた腫瘍内科は、まだ新しい分野です。このため、専門医制度が十分に整っていない側面もありますが、需要は今後ますます増加していくでしょう。日本では、年間約100万人ががんに罹患し、約38万人ががんで亡くなっています。高齢化に伴ってがん患者数および死亡者数が増加しており、その多くが腫瘍内科医の専門知識を必要としています。その一方で、がん薬物療法専門医の数は2,000人にすら達しておらず、十分とはいえません。 そして、腫瘍内科医には多様なキャリアがあるのも特徴です。これまでは、各臓器の専門診療科でがん診療の経験を積んだ医師が、がん薬物療法専門医として活動しているケースです。最近では、最初からmedical oncologistとして臓器の枠にとらわれることなく悪性腫瘍に関する専門知識を習得し、臓器を横断的に考えることができる人材の育成も必要だと言われています。 また、腫瘍内科は新しい領域であることから、抱えている課題も少なくありません。腫瘍内科を専門的に扱っていない病院も多いし、腫瘍内科がある病院でも他の部門との連携に課題があることもあります。外来化学療法の普及も進んでいません。こうした課題に対して、腫瘍内科医が取り組み、がん治療の未来を変える可能性があるのです。 例えば、まだ腫瘍内科医がいない病院に赴き、新たに腫瘍内科を立ち上げて、地域のがん診療を支える役割を果たすこともあります。外来化学療法の積極的な導入により、「入院して当たり前」というがん治療のイメージを変えることもできます。また、臨床試験への参加を通じて、新たな標準治療の確立に寄与することも可能です。腫瘍内科医は、日本の医療の未来に大きな影響を及ぼす重要な役割を果たすことができるのです。 このように、私たちは腫瘍内科という新しい分野に挑戦することで、がん患者さんひとりひとりに最適な医療を提供するだけでなく、がん治療の未来を創っていくという夢に溢れた仕事に取り組むことができるのだと知りました。 熱さを胸に日本の医療の未来を築く医師を目指す  このセミナーでわかった腫瘍内科の魅力は、まさに「熱さ」でした。 腫瘍内科医の大切な使命は、がんという厳しい病気を抱える患者さんたちが最良の形で人生を送れるよう、多職種や多診療科のチームと連携してあらゆる面からサポートすることです。その仕事は難しい一方で、やりがいに溢れています。 さらに現在、がん領域はゲノム医療や新しい種類の薬剤の登場など、急速な進化を遂げています。その変化の中で、ベテラン医師と若手医師が協力し、「がん医療の未来をより良いものにする」という夢に向かって尽力している熱い姿勢に、感銘を受けました。 ——これからは、腫瘍内科のことを聞かれたら「最高に熱くて面白い分野です!」と答えるつもりです。そして、自分自身もその熱さを胸に、日本の医療の未来を築く医師を目指したいと思います。 京都大学医学部6年 杉本 凌太郎 ヒポクラ × マイナビ無料会員登録はこちら▶https://www.marketing.hpcr.jp/hpcr 日本臨床腫瘍学会ホームページはこちら▶https://www.jsmo.or.jp/ 日本臨床腫瘍学会認定研修施設はこちら▶https://www.jsmo.or.jp/authorize/doc/sisetsu.pdf 福井大学医学部5年 松田 玲奈 名古屋大学医学部6年 金澤 元泰
第88回日本泌尿器科学会東部総会 高校生参加企画密着レポート
第88回日本泌尿器科学会東部総会 高校生参加企画密着レポート
掲載日:2023年10月20日 はじめに  さる2023年10月5~7日(於:札幌)の日程で開催された第88回日本泌尿器科学会東部総会において、 これまでには出会ったことがない、先進的な企画が実施されました。 その名も「アカデミックチャレンジ」。企画内容は地元の高校生に《医師とは?》《学会とは?》そして《泌尿器科医とは?》を学会参加を通して体感してもらうというもの。 企画担当の千葉博基先生(北海道大学)は「やってみないとわからないですが、まずはやってみることが大事」とアカデミックチャレンジを未知の企画としながらも、年明けから準備を重ねていらっしゃいました。 学会に高校生を招待するという前例のない企画でしたが、密着して見えたのは、熱い想いを持った医師たちが未来の日本医療界のため、次世代に期待を寄せる姿でした。 学会とは?  朝一番、集合した高校生たちの顔は緊張でかなり強張っているように見えました。 それもそのはず。周りは医師ばかりで、これまでに体感したことがない空気に包まれていたので無理もありません。傍から見ても制服姿の高校生が受付に集まっている様子はとても珍しい光景で、参加する高校生からも「楽しみですが、それよりも緊張が・・・」という言葉が漏れていました。 最初のプログラムはオリエンテーション。千葉先生から今回の企画主旨や学術集会、泌尿器科医とは何かという視点でお話がありました。 そもそも「学会とは?」という医療関係者にとっては「そんなこと考えたことなかったなぁ」と思わず口から漏れてしまうテーマから、研究することの意義などが高校生たちに伝えられました。 「この機械はいくらしますか?」  次に一行が向かったのは企業展示スペース。数々のメーカー企業が展示している医療機器、特に内視鏡機器を中心に見学し、最新技術に触れることでメーカーの役割や「医学の進歩=技術の進歩」であるということを身に染みて感じている高校生たちの背中が印象的でした。 とあるメーカー担当者に「この機械はいくらしますか?」と聞いた高校生が答えを聞いて、目を丸くしていた姿もあった一方で、硬性鏡を手に取った高校生が「これじゃ出血しちゃいませんか?」と先生に質問。先生も「鋭い!」と驚きの表情をされていたのは、この企画ならではの場面だったと思います。 好奇心を持ち続けることの大切さ  いよいよ、メインとなる演題聴講に向かった一行。 招請講演で腎移植に関するお話を聞いたとある高校が「全然わからなかったです」と率直に感想を述べていましたが、知的好奇心がくすぐられていたのか、わからないことが悔しいと感じているようにも見え、未知のものに触れる重要性を感じた一瞬でした。 その後は一般演題を聴講、質疑応答の時間では何が起きているんだとばかりに座長席と演者席を交互に目で追う姿がとても可愛らしく、高校生らしさが溢れていました。お昼の講演では、朝触れた内視鏡を使った処置の実映像を視聴。実際に触れたものがどうやって使われているのかわかり、すごく勉強になりましたと先生に感想を伝えている様子も見られました。 この日最後の聴講は恐竜学に関するものでした。「恐竜学」という医学とは関係のないところにあるようにも見えるテーマでしたが、高校生たちと同様に聴講している医師たちが大きく頷き、感心されている姿に、好奇心を持ち続けることの大切さを垣間見たプログラムとなりました。 次世代への期待  一日の終わりに、プログラムに参加した理由を高校生に聞いてみると「学校でチラシが配られたから」「主治医の先生に誘われたから」「医師という職業に興味があったから」と答えは様々でした。それぞれの背景がありながらも、参加した高校生全員が最後に口を揃えて述べていたのは、貴重な体験が出来たことへの感謝の言葉でした。解散後、高校生たちを見送った千葉先生は「参加した理由は色々あると思うけど、医師になるきっかけは本当に人それぞれ。この企画への参加がきっかけで、一人でも医師になってくれる人がいたら、次世代のための学会企画として、非常に大きな功績になります」と仰っていました。 「やってみないとわからない」という言葉とともに始動された企画でしたが、本総会のテーマ『次世代への期待』にも表れているように「期待=望みをかけて待ち受けること」であり、すぐに目に見える成果が得られるわけではありません。そう考えると「やってみないとわからない」ことを実践することが、これからの日本医療、医学界に大きな何かをもたらすことに繋がるのかもしれません。そんな期待を抱かせていただいたアカデミックチャレンジでした。  最後に、本取材をご快諾いただきました、大会長の篠原信雄先生、企画担当の千葉博基先生に改めて感謝申し上げます。誠にありがとうございました。 文責:ヒポクラ学会担当 カワウソくん ヒポクラ × マイナビ無料会員登録はこちら ▶https://www.marketing.hpcr.jp/hpcr 第88回日本泌尿器科学会東部総会HP ▶https://site2.convention.co.jp/88ejua 日本泌尿器科学会HP ▶https://www.urol.or.jp/
U45がん治療研究者が集結、がん関連三学会Rising Starネットワーキング開催~現地レポート編~
U45がん治療研究者が集結、がん関連三学会Rising Starネットワーキング開催~現地レポート編~
掲載日:2024年2月16日 はじめに  2024年1月27-28日、日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会の三学会主催による初めてのネットワーキングイベント「2024年がん関連三学会Rising Starネットワーキング」(於:Shimadzu Tokyo Innovation Plaza)が開催されました。     近年、がん治療の開発は急速に進み、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤、抗体医薬、ゲノム医療など、さまざまな治療法が広がりを見せ、飛躍的に進歩しています。臨床現場での早期普及のためにも、基礎研究、トランスレーショナル研究、臨床研究のスムーズな橋渡しが求められており、今後のがん治療の発展において最も重要な課題の1つであると考えられています。そのため、臨床チームと研究チームが連携して、よりスムーズな双方向性を実現するためには、基礎と臨床の垣根を超えた若手研究者同士の交流が求められていました。その垣根を超えるための第一歩となるイベントこそ、この「2024年がん関連三学会Rising Starネットワーキング」です。 初のがん関連三学会主催イベント  この度実施された「2024年がん関連三学会Rising Starネットワーキング」は、日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会の協力により実現されました。元々、がんゲノム医療や免疫療法などの新しいがん治療を臨床現場に普及させるには、基礎医学・研究を中心とした日本癌学会、がん治療に関わる横断的な役割を担う日本癌治療学会、薬物療法を中心とした日本臨床腫瘍学会が連携強化を図ることがますます重要になるとされていました。 その機運が高まった2022年の日本癌治療学会学術集会にて3学会合同特別企画として「理事長に聞く:がん関連3学会の今とこれから」が行われ、本演題のパネルディスカッションにて3学会共同で実現できる企画の必要性が示唆されたことから「がん関連三学会Rising Starネットワーキング」が実施される運びとなりました。 新進気鋭・多種多様な参加者で実施  「がん関連三学会Rising Starネットワーキング」では、それぞれの専門分野に関する発表を通じて、新たな知見の共有のみならず、研究者同士のつながりを強化・促進することで、研究と臨床とのスムーズな橋渡しを目指すべく、各学会から募集された45歳以下の若手研究者約60名が参加しました。 プログラムは二日間にわたり、口演とポスターセッションのそれぞれ30演題の発表が行われ、さまざまな研究テーマ、国籍、立場や勤務施設背景の異なる先生方による、大変に濃密で、熱く議論できる場となりました。各分野における最先端の発表が行われ、別分野の専門家から質疑が行われることで、新たな発見や、つながりが得られる貴重な時間になっていたと同時に、各分野のコラボレーションにより、研究の促進や臨床現場での応用において、追い風となることも期待されるプログラムとなっていました。  研究分野ごとにセッションが組まれることの多い学術集会では得られないメリットが見えたことも、本会の魅力であり、また、若手研究者の多くが研究と臨床とのバランスをとることに苦慮していることも感じられる内容が語られたことも注目すべきだった点と思います。勤務施設の背景により研究に対する比重は異なり、時間やコストの面での制約があることも大きな課題であると感じました。  本会に参加された先生の多くは、海外留学経験を有していることもあり、日本における医師の研究環境とのギャップに悩むことも少なくないと推察され、日本から世界に発信していく医学研究を今後ますます促進していくためには、さまざまな課題をクリアしていく必要があるものの、限られた時間の中でより効率的に研究を進めていくことが求められる現環境下においては、研究者同士の「ネットワーキング」強化が1つの答えとなるかもしれないと、強く感じました。 ネットワーキングの先に  2日間にわたるプログラムの終わりに、参加者投票によって、口演およびポスターそれぞれ3演題ずつ優秀賞が選出されました。いずれの発表も素晴らしいものであったため、投票された先生方も選出には苦慮されたことであろうと思います。  今後、弊社も研究促進の一助になれるよう、さらに多くの先生方からのアドバイスやご質問をいただける企画展開も含め、今回参加された先生方のお気持ちや研究状況を追って取材できればと考えています。    本イベントの開催を提言された野田哲生先生(公益財団法人がん研究会がん研究所所長)は閉会のご挨拶で「このイベントが開催されたのは非常に素晴らしいこと、ただ、もっと重要な事は、このネットワーキングの先に何をするかです。ぜひこの課題を持って帰ってください」、「若手といえども、非常に時間は限られています、この機会を最大限に活かすのはみなさんです」と参加者に語りかけていました。    今回、初めて実施された「がん関連三学会Rising Starネットワーキング」が今後も継続的に実施されていくことにより、若手研究者同士の交流が活発となり、研究の促進や早期臨床応用がさらに加速し、日本から世界へ新たながん治療が発信されていくことが望まれます。このような、がん関連三学会の取り組みが他領域にも波及することへの期待も非常に大きいと筆者は感じています。さまざまな研究や臨床に携わる先生方のコラボレーションが促進されることで、明日の医療の景色が明るく照らされていくことを願わずにはいられません。  最後に、本取材企画を快くご承諾いただきました、野田哲生先生、間野博行先生(日本癌学会理事長)、吉野孝之先生(日本癌治療学会理事長)、石岡千加史先生(日本臨床腫瘍学会理事長)、佐谷秀行先生(藤田医科大学がん医療研究センター)に御礼を申し上げますとともに、取材実施に関し、お力添えいただきました、がん関連3学会若手協議会の大槻雄士先生(藤田医科大学)、加藤大悟先生(大阪大学)、後藤悌先生(国立がん研究センター中央病院)に改めて感謝申し上げます。誠にありがとうございました。 左:後藤先生 中央:大槻先生 右:加藤先生 なお、本イベント所管の先生方のご感想や未来のがん研究者へのメッセージをお聞きした、「U45がん治療研究者が集結、がん関連三学会Rising Starネットワーキング開催~メッセージ編~」も現在作成中ですので、ぜひ公開をお楽しみにしていただけますと幸いです。 文責:ヒポクラ学会担当 カワウソくん カワウソくんのヒポクラリアルタイム投稿の様子もチェック! ◆1日目 ◆2日目 ※閲覧にはヒポクラ会員登録が必要です ▶医師・医学生専用SNS ヒポクラ  無料会員登録はこちら     ▶日本癌学会HP https://www.cancer.or.jp/ ▶日本癌治療学会HP https://www.jsco.or.jp/ ▶日本臨床腫瘍学会HP https://www.jsmo.or.jp/
U45がん治療研究者が集結、がん関連三学会Rising Starネットワーキング開催~メッセージ編~
U45がん治療研究者が集結、がん関連三学会Rising Starネットワーキング開催~メッセージ編~
掲載日:2024年3月13日 はじめに  2024年1月27-28日、日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会の三学会主催による初めてのネットワーキングイベント「2024年がん関連三学会Rising Starネットワーキング」(於:Shimadzu Tokyo Innovation Plaza)が開催されました。  近年、がん治療の開発は急速に進み、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤、抗体医薬、ゲノム医療など、さまざまな治療法が広がりを見せ、飛躍的に進歩しています。臨床現場での早期普及のためにも、基礎研究、トランスレーショナル研究、臨床研究のスムーズな橋渡しが求められており、今後のがん治療の発展において最も重要な課題の1つであると考えられています。そのため、臨床チームと研究チームが連携して、よりスムーズな双方向性を実現するためには、基礎と臨床の垣根を超えた若手研究者同士の交流が求められていました。その垣根を超えるための第一歩となるイベントこそ、この「2024年がん関連三学会Rising Starネットワーキング」です。 今回は本イベント運営担当の先生方ならびにオブザーバーとしてご参加された先生方から、これからの「がん治療」を担うNext Rising Star(特に研修医・医学生)に向けてメッセージをお預かりしております。基礎研究・臨床問わず、少しでも「がん治療」の道に興味がある方にはお読みいただきたいレポートとなっております。ぜひ、ご一読くださいませ。 がん治療・研究に携わることになったきっかけ 大槻 雄士 先生(藤田医科大学/日本癌学会)  外科医として臨床に従事する中で、「がんが治らない」ということに大きな衝撃を受けたのがきっかけでした。そこから、がん治療の発展に貢献したい、がん治療の開発に本当の基礎から関わっていきたい、という想いを強く持つようになり、がんの基礎研究の道に進んでいきました。 加藤 大悟 先生(大阪大学/日本癌治療学会)  泌尿器科は癌診療と移植医療を同時に行う数少ない診療科であり、興味を惹かれ入局しました。大学院では移植免疫研究を行っていましたが、表裏一体の関係にある腫瘍免疫へ興味の対象が広がり、留学先を選択しました。腫瘍免疫はさらに癌ゲノム情報と密接に関係するなど、研究を開始するとさらに他の分野も知りたくなるのが研究の魅力だと考えています。 後藤 悌 先生(国立がん研究センター中央病院/日本臨床腫瘍学会)  私ががん治療と研究に携わるようになったのは、祖母ががんを患っていた経験がきっかけです。その苦悩を通して、生と死に深く関わりたいという強い願いを持ちました。この経験が、がんという病気に立ち向かい、病と闘う人々のそばで支え続けることへの決意を固めさせました。 左:後藤先生 中央:大槻先生 右:加藤先生 ネットワーキングを通して感じたこと 大槻 雄士 先生(藤田医科大学/日本癌学会)  日本癌学会には、メディカルドクターでない研究者が沢山入会しています。そのような研究者の方々が、臨床腫瘍学会や癌治療学会の先生方とディスカッションをすることで新たなコラボレーションが生まれる現場を見ることができたのは大きなメリットであり、ここから新たながん治療の種が生まれる予感を感じることができました。 加藤 大悟 先生(大阪大学/日本癌治療学会)  臨床医と基礎研究者がお互いの長所を知る良い機会になったと思います。同様の交流が一つの学会レベルではこれまでにもありましたが、癌関連3学会として行ったことは意義深いものでした。このネットワーキングイベントから何かGroundbreakingな研究が生まれることを願っています。 後藤 悌 先生(国立がん研究センター中央病院/日本臨床腫瘍学会)  ネットワーキングイベントはがん研究の多様性を知る貴重な機会となりました。自らの研究を客観的に評価するきっかけを提供し、他の参加者の研究とのつながりから新たなステップへ進む動機付けにもなりました。今後の課題としては、このような交流をさらに深め、具体的な共同研究へと発展させる方法を模索することが挙げられます。 ご口演中の1コマ。女性研究者の方も多くご参加。 Next Rising Star(医学生・研修医)へ 大槻 雄士 先生(藤田医科大学/日本癌学会)  医学部を卒業してからの道は、以前と比べ、かなり多岐にわたります。自身が望む在り方で、日々の診療、医療への関わり方が選べます。その中に、基礎・臨床問わず、がん研究が入ってくると嬉しく思います。 加藤 大悟 先生(大阪大学/日本癌治療学会)  研究をしてみるか敬遠するか迷われている先生方に対しては、まずは少しでも始めてみることをお勧めします。何もiPS細胞を発見する様な研究だけが研究ではありません。ものの考え方が変わると思います。 後藤 悌 先生(国立がん研究センター中央病院/日本臨床腫瘍学会)  日本の医療は変革の時を迎えています。がん研究の根本は変わりませんが、日本が世界のがん治療をリードするためには、私たちが支え合い、活躍できる環境を築くことが重要です。共に前進しましょう。 外国籍の先生も多く、国際色も豊か。   オブザーバーの先生方からメッセージ~ネットワーキングをみて感じたこと~ 間野 博行 先生(国立がん研究センター研究所/日本癌学会理事長) ~Rising Starへ~  誰のまねでもない、自分だけのアプローチで、がん研究・がん医療を前に進めてください。基礎研究と応用研究は医学を進める車の両輪です。基礎研究ではThink ORIGINAL!応用研究ではThink BIG!を合い言葉に、明日のがん医療を創っていってください。 ~Next Rising Starへ~  たった一人の医学研究者の発見が、時には世界中の何万人、何十万人の命を救うこともあります。医師だからこそ臨床に即した着眼点も持てますし、患者を治したいという強い希望が、自分の研究者人生を支えてくれます。是非、一度はがん研究を覗いてみてください。またデータサイエンスはどの分野に進んでも大切です。バイオインフォマティクスは思ったより簡単ですから、基礎的なものは自分でできるようにしてくださいね。 吉野 孝之 先生(国立がん研究センター東病院/日本癌治療学会理事長) ~Rising Starへ~  全国にこんなに優秀・有望で熱意にある若手研究者が多数いるなんて夢にも思いませんでした。間違いなく、本がん関連三学会Rising Starネットワーキングは盛況でした。日本癌治療学会を代表し理事長として、本会の継続実現のために全力を尽くす所存であります。 ~Next Rising Starへ~  Rising Star、つまり先輩の若手研究者はとても優秀・有望で熱意があります。日本癌治療学会は未来のGlobal Top Leaderを育成する活動を全力で支援します。目標はRising StarからGlobal Top Leaderに、皆様におかれましてNext Rising StarからRising Starに、本ネットワーキングのステージに上がってきてください。待っています。 石岡 千加史 先生(東北大学病院/日本臨床腫瘍学会前理事長) ~Rising Starへ~  若いうちは、研究に集中する時期が必ず必要ですが、研究は日進月歩で時に基礎研究に集中し、将来のがん治療の基盤となる知識や技術を養う時期が必要です。大きく成長が期待できる時期は40歳代まで。 年を重ねると共に様々な管理業務が増えてきますので、リーダーを目指す人、大きな研究プロジェクトを進めたい人は徐々に自分と一緒に研究できるチームを組織するように意識する必要があると思います。しかし、様々な役職に就くことを拒まず、自分が経験した事がないことを恐れずチャレンジして下さい。 幅広く経験することがより視野の広い研究分野の開拓につながると思います。また、プロセスを、即ち人生を大いに楽しんでください。研究は非常に面白いし、必ず自分の人生の糧になります。頑張ってください。 ~Next Rising Starへ~  がん研究は歴史が長く基礎研究の成果が実用化されるまでには何十年もかかることもあります。先人の弛まぬ努力により今のがん医療が出来上がっています。歴史を振り返ると大きな成果を収めた研究となかなか目が出ない研究とは混在しています。大部分の研究は応用研究や日常診療に繋がりませんが、様々な研究の土台の上に今日のがん医療が成り立っていると言うことを勉強してほしいと思います。 医学生や研修医の皆さんは医療の現場の事だけが頭にあると思いますが、研究は必ず必要です。研究がなければ、医療の進歩はありません。また研究心がなければ良い医者にはなれません。皆さんは将来がん研究を通じて医療の分野をより良いものにする医師を目指しませんか。 ぜひ専門を癌の領域を選んでください。充実した人生が待っています。 佐谷 秀行 先生(藤田医科大学がん医療研究センター/日本癌学会前理事長) ~Rising Starへ~  1990年代、がん研究の価値は新しい発見にありました。それが2000年に入り、発明に重点が置かれるようになり、この10年は社会を変えるようなイノベーションへと価値観が動いています。基礎的な研究を実装化して社会を革新するためには皆さんが互いの仕事を理解して有機的に連携することが何よりも重要であり、今回のイベントでの出会いをどうか大切にしてください。 ~Next Rising Starへ~  医学を志す者は、持てる知識と技術を総動員して今目の前にいる患者を救うことと同時に、現在は治療が困難な疾患を未来に治療ができるように努力する必要があります。がんに罹患した患者の約半分はこの疾患で命を失います。このような難治がんを克服するためには基礎研究とそれを実用化するための臨床研究が必要であり、10年後は皆さんこそがその主役となることを忘れないでください。 野田 哲生 先生(公益財団法人がん研究会がん研究所所長) ~Rising Starへ~  今後、がん医療への成果創出を強く求められる研究推進には、基礎から臨床までの若手研究者間の緊密な連携こそが鍵となると考え、理事長の方々に三学会合同での活動の立ち上げを提案しました。今回、それが「ネットワーキング」として実現し、優れた若手がん研究者の熱意あふれるディスカッションを聞くことができました。今後のがん医療開発を、世界レベルで牽引することが出来るRising Starの出現を期待しています。 ~Next Rising Starへ~  「がん」は、毎年、多くの方が命を落としている疾患です。研究の進展により、その原因となる遺伝子が同定され、有効な治療薬が開発されてきましたが、未だその恩恵を受けることができない患者さんが数多くおられます。その方々に対しての有効な治療法の開発は、今後、がん研究・がん医療を引っ張る皆様のエネルギーに掛かっています。期待しています。 最後に  最後に、本取材企画を快くご承諾いただきました、野田哲生先生、間野博行先生、吉野孝之先生、石岡千加史先生、佐谷秀行先生に御礼を申し上げますとともに、取材実施に関し、お力添えいただきました、がん関連3学会若手協議会の大槻雄士先生、加藤大悟先生、後藤悌先生に改めて感謝申し上げます。  誠にありがとうございました。 文責:ヒポクラ事務局 カワウソくん 企画協力:(株)コンベンションリンケージ様 カワウソくんのヒポクラリアルタイム投稿の様子もチェック! ◆1日目 ◆2日目 ※閲覧にはヒポクラ会員登録が必要です ▶医師・医学生専用SNS ヒポクラ  無料会員登録はこちら     ▶日本癌学会HP https://www.cancer.or.jp/ ▶日本癌治療学会HP https://www.jsco.or.jp/ ▶日本臨床腫瘍学会HP https://www.jsmo.or.jp/