「脳外」の記事一覧

PIK3CAの体細胞変異が孤発性海綿状血管腫を引き起こす
PIK3CAの体細胞変異が孤発性海綿状血管腫を引き起こす
Somatic PIK3CA Mutations in Sporadic Cerebral Cavernous Malformations N Engl J Med. 2021 Sep 9;385(11):996. doi: 10.1056/NEJMoa2100440. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】脳海綿状奇形(CCM)は、散発性および遺伝性の中枢神経系血管奇形としてよく知られている。家族性CCMはKRIT1(CCM1)、CCM2、PDCD10(CCM3)の機能喪失型変異と関連しているが、80%を占める散発性CCMの遺伝子原因はまだ不完全に理解されていない。 【方法】プロスタグランジンD2合成酵素(PGDS)プロモーターを用いて、ヒト髄膜腫で同定された変異を保有する2つのモデルマウスを開発した。患者から外科的に切除されたCCMの標的DNA配列決定を行い、液滴デジタルポリメラーゼ連鎖反応分析で確認した。 【結果】髄膜腫の2つの共通の遺伝的ドライバーであるPik3caH1047RまたはAKT1E17KをPGDS陽性細胞で発現するマウスでは、髄膜腫ではなく典型的なCCMのスペクトラムが発生(それぞれ22%と11%)することがわかり、88例の散発性のCCMから組織標本を解析することになった。患者の病変組織の39%と1%にそれぞれ活性化型のPIK3CAとAKT1の体細胞変異が検出された。病変の10%のみがCCM遺伝子に変異を有していた。活性化変異Pik3caH1074RとAKT1E17Kによって引き起こされる病変をマウスで解析し,PGDS発現周皮細胞を起源細胞として推定した。 【結論】散発性のCCMからの組織試料において,他のどの遺伝子における変異よりPIK3caにおける変異が大きく表れていることがわかった。家族性CCMの原因となる遺伝子の体細胞変異の寄与は比較的小さかった。(ARC対がん研究財団他より資金提供). 第一人者の医師による解説 予想外の発見を見逃さず 病態解明につなげたserendipityの重要さが伝わる論文 武内 俊樹 慶應義塾大学医学部小児科専任講師 MMJ. April 2022;18(2):51 海綿状血管腫は、比較的よく遭遇する中枢神経系の血管奇形であり、家族性あるいは孤発性に発症する。このうち、家族性海綿状血管腫は、KRIT1(CCM1)、CCM2、PDCD10(CCM3)遺伝子のいずれかの機能喪失型変異によって発症することが知られている。一方で、海綿状血管腫の80%を占める孤発性症例の原因は解明されていなかった。 本研究では、ヒト患者の髄膜腫で同定された遺伝子変異およびプロスタグランジン D2合成酵素(PGDS)プロモーターをもつ2種類の疾患モデルマウスを開発した。髄膜腫の2つの一般的なドライバー変異であるPik3caH1047RまたはAKT1E17Kのいずれかを発現するマウスにおいて、予想外に、髄膜腫ではなく海綿状血管腫が発生した(それぞれマウスの22%と11%に発生した)。これに着想を得て、孤発性海綿状血管腫患者88人の病変組織の遺伝子解析を行った。その結果、PIK3CAおよびAKT1に、機能亢進型の体細胞変異をそれぞれ39%と1%に同定した。既知の家族性海綿状血管腫の原因遺伝子に変異を認めたのは10%に過ぎなかった。さらに、Pik3caH1047RとAKT1E17K変異を有するマウスの病変部位の解析から、PGDSを発現する周皮細胞が海綿状血管腫の発生母地となっていることを突き止めた。以上の結果をまとめると、孤発性海綿状血管腫の病変組織では、PIK3CAの体細胞変異が多く認められ、他のどの遺伝子よりも大きな割合を占めていた。既知の家族性海綿状血管腫の原因遺伝子の体細胞変異によるものはむしろ少なかった。 本研究の最も重要な知見は、同じ海綿状血管腫であっても、家族性と孤発性で原因遺伝子が異なることを示した点である。一般に、家族性疾患の原因遺伝子変異が体細胞変異となった場合には、家族性疾患でみられる病変と似た病変を起こすことが多い。しかしながら、今回の研究では、孤発性海綿状血管腫は、家族性海綿状血管腫の原因遺伝子の体細胞変異によって発症しているのではなく、髄膜腫の原因として知られていたPIK3CAの体細胞変異が発症原因の多くを占めていたという驚くべき結果であった。さらに本研究で特筆すべき点は、もともと髄膜種の研究を目的に作製されたマウスにおいて、想定外の海綿状血管腫が発生したことが今回の研究成果の端緒となったことである。これらのマウスは髄膜に発現するPGDSをもつため、PGDSが海綿状血管腫の発症に関与することも突き止めることができた。予想外の発見を見逃さず当初目的としていなかった孤発性海綿状血管腫の病態解明につなげたserendipityの重要さが伝わる論文である。
症候性頭蓋内動脈狭窄症に対するステント治療は内科的治療への優位性を示せず
症候性頭蓋内動脈狭窄症に対するステント治療は内科的治療への優位性を示せず
Effect of Stenting Plus Medical Therapy vs Medical Therapy Alone on Risk of Stroke and Death in Patients With Symptomatic Intracranial Stenosis: The CASSISS Randomized Clinical Trial JAMA. 2022 Aug 9;328(6):534-542. doi: 10.1001/jama.2022.12000. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 [重要] 以前の無作為化試験では、一般的に、症候性の重度の頭蓋内アテローム性動脈硬化性狭窄を有する患者の薬物療法にステント留置術を追加しても害があるか、または利益がないことが示されていますが、洗練された患者選択とより経験豊富な外科医が結果を改善する可能性があるかどうかは不明のままです. [目的]症候性の重度の頭蓋内アテローム性動脈硬化性狭窄症患者におけるステント留置と内科療法と内科療法単独を比較すること。重度の頭蓋内狭窄 (70%-99%) に起因する一過性脳虚血発作または非障害性、非穿通枝 (非脳幹または非大脳基底核末端動脈として定義) 領域虚血性脳卒中の合計 380 人の患者、および最新の発作から 3 週間以上の期間虚血症状の発症は、2014 年 3 月 5 日から 2016 年 11 月 10 日の間に募集され、3 年間追跡調査された (最終追跡調査: 2019 年 11 月 10 日)。単独で(n = 182)。薬物療法には、90 日間の 2 剤併用抗血小板療法(その後は 1 回の抗血小板療法)と脳卒中危険因子のコントロールが含まれていました。日から1年。 2 年目と 3 年目の適格な動脈領域での脳卒中、3 年目の死亡率を含む 5 つの二次的転帰がありました。 [73.5%]) と 343 (95.8%) が試験を完了しました。ステント留置と薬物療法のグループと薬物療法のみのグループでは、脳卒中または死亡のリスクの主要アウトカムに有意差は見られなかった (8.0% [14/176] vs 7.2% [13/181]; 差、0.4% [95] % CI、-5.0% ~ 5.9%]; ハザード比、1.10 [95% CI、0.52-2.35]; P = .82)。事前に指定された 5 つの副次的エンドポイントのうち、2 年で適格な動脈領域の脳卒中を含む有意差を示したものはありませんでした (9.9% [17/171] 対 9.0% [16/178]; 差、0.7% [95% CI、- 5.4% から 6.7%]; ハザード比、1.10 [95% CI、0.56-2.16]; P = .80) および 3 年 (11.3% [19/168] vs 11.2% [19/170]; 差、-0.2 % [95% CI、-7.0% ~ 6.5%]; ハザード比、1.00 [95% CI、0.53-1.90]; P > .99)。 3 年時点での死亡率は、ステント留置術と薬物療法を併用したグループでは 4.4% (7/160) であったのに対し、薬物療法のみのグループでは 1.3% (2/159) でした (差、3.2% [95% CI、-0.5% ~ 6.9%] ; ハザード比 3.75 [95% CI 0.77-18.13]; P = .08). [結論と関連性] 症候性の重度の頭蓋内動脈硬化性狭窄による一過性脳虚血発作または虚血性脳卒中の患者では、経皮経管血管形成術の追加と内科的治療単独と比較して、内科的治療へのステント留置術は、30日以内の脳卒中または死亡のリスク、または30日を超えて1年間の対象となる動脈領域での脳卒中のリスクに有意差はありませんでした.この調査結果は、症候性の重度の頭蓋内アテローム性動脈硬化性狭窄を有する患者の治療のための内科療法への経皮経管血管形成術およびステント留置術の追加を支持していません.[試験登録]ClinicalTrials.gov識別子: NCT01763320. 第一人者の医師による解説 頭蓋内動脈狭窄症に対する血管内治療は当面の間 限定的な患者への実施にとどまるだろう 秋山 武紀 慶應義塾大学医学部脳神経外科専任講師 MMJ.February 2023;19(1):8 頭蓋内動脈狭窄症はアジアで頻度が高く、薬物療法での脳梗塞再発率が高い疾患である。このため血管内治療(経皮的脳血管形成術および頭蓋内ステント留置術)による予後の改善が期待され、さまざまな研究が行われてきたが、SAMMPRIS試験(1)などでは血管内治療の周術期合併症リスクが非常に高い(15%前後)ために内科的治療に対する優位性を示すことができずにいた。今回、厳密な患者選択と術者限定を行うことで周術期合併症リスクが低下し、頭蓋内動脈狭窄症に対するステント治療の有益性が証明されるという仮説のもと、CASSISS(China Angioplasty and Stenting for Symptomatic Intracranial Severe Stenosis)試験が行われた。本試験は2014年3月~16年11月に患者組み入れを行い、1年以内に一過性脳虚血発作または軽症脳梗塞を発症、頭蓋内主幹動脈(内頚動脈、中大脳動脈 M1、椎骨・脳底動脈)に70 ~99%の動脈硬化性狭窄を有し、虚血発症後3週間を経過した患者358人を対象とした。穿通枝梗塞・大梗塞や進行性に増悪する神経症状を有する患者などは除外された。3年以内に頭蓋内狭窄に対する血管内治療30例以上を経験、30日後の死亡・脳梗塞発生率が15%未満である術者に限定された。治療プロトコールは抗血小板薬2剤と最善の内科的治療(LDL-C 100mg/dL、血圧140/90mmHg、HbA1c 6.5%未満、生活習慣の改善)は共通、血管内治療はバルーンおよび自己拡張型頭蓋内ステント(WingspanR)の使用という一般的な手技で行われた。 その結果、主要評価項目(30日以内の脳卒中・死亡、30日以降1年以内の支配領域における脳卒中)の発生率は血管内治療群8.0%、内科的治療群7.2%であった。副次評価項目の1つである3年以内の支配領域の脳卒中は血管内治療群11.3%、内科的治療群11.2%であり、主要、副次評価項目ともに2群間に有意差を認めなかった。すなわち、患者選択、術者限定を行っても症候性頭蓋内動脈狭窄症における血管内治療の内科的治療に対する優位性は示されなかった。 CASSISS試験は先行試験の批判に応え、血管内治療の優位性を示しやすい条件のもと行われたが、やはり内科的治療の成績を上回ることはなかった。本試験における血管内治療の周術期合併症発生率は5%であり、決して高いものではない。今後も薬物療法の進歩が続くことを考えると、それを上回る血管内治療の成績を示すことは現状のデバイスでは困難かもしれない。頭蓋内動脈狭窄症に対する血管内治療は当面の間、限定的な患者に行われることになるとともに、革新的なデバイスの開発が求められるであろう。 1. Derdeyn CP, et al. Lancet. 2014;383(9914):333-341.