ライブラリー SARS-CoV-2に対するmRNAワクチン 中間報告
An mRNA Vaccine against SARS-CoV-2 - Preliminary Report
N Engl J Med. 2020 Nov 12;383(20):1920-1931. doi: 10.1056/NEJMoa2022483. Epub 2020 Jul 14.
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上記論文の日本語要約
【背景】重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、2019年半に出現した後、世界的に広がり、ワクチン開発を急ぐ国際的な取り組みが促されている。ワクチン候補のmRNA-1273は、融合前の安定化したSARS-CoV-2スパイクタンパクをコードする。
【方法】18-55歳の健康成人45例を対象に第1相用量漸増非盲検試験を実施し、mRNA-1273ワクチン25μg、100μg、250μgいずれかの用量を28日間隔を空けて2回接種した。各用量群に15例が参加した。
【結果】ワクチン初回接種後、高用量群ほど接種後の抗体反応が高かった[酵素結合免疫吸着測定法で測定した29日目の抗S-2P抗体の幾何平均抗体価(GMT):25μg群40,227、100μg群109,209、250μg群213,526]。2回目の接種後、抗体価は上昇した(57日目のGMT:順に299,751、782,719、1,192,154)。2回目の接種後、評価した全例から2通りの方法で血清中和活性が検出され、その値は対照の回復期血清検体パネルの分布の上位半分とほぼ同じだった。参加者の半数以上に疲労、悪寒、頭痛、筋肉痛、注射部位疼痛などの非自発的な有害事象報告があった。2回目の接種の方が全身性有害事象が多く認められ、最高用量群では特に多く、250μg投与群の3例(21%)に重篤な有害事象が1つ以上報告された。
【結論】mRNA-1273ワクチンは全例で抗SARS-CoV-2免疫反応を誘導し、試験に支障を来す安全性の懸念は認められなかった。この結果は、このワクチンの開発継続を支持するものである。
第一人者の医師による解説
第3相試験では 100 μg、28日間隔の投与で94.1%の有効性
田中 栄 東京大学医学部整形外科教授
MMJ. April 2021;17(2):40
新型コロナウイルス感染症パンデミック終息に向けての切り札として期待されているワクチンの開発は驚異的なスピードで進んでおり、2020年12月には世界に先駆けて英国で承認されたアデノウイルスベクターワクチン(Oxford-AstraZeneca COVID-19ワクチン[AZD1222])の投与が開始された。今回のワクチン開発を特徴づけているのが、これまで臨床で使用されてこなかったタイプのワクチン-mRNAワクチン-の登場である。本論文は米国Moderna社が開発したmRNAワクチン mRNA-1273の第1相試験に関する報告で、オンラインでは2020年7月14日に掲載された。
SARS-CoV-2のスパイク(S)蛋白は突起様の構造を形成し、ウイルスが宿主細胞に感染する際、細胞膜上の受容体ACE(アンジオテンシン変換酵素)2と結合する重要な役割を担っている。mRNA1273ワクチンは、この一部(S-2P)を抗原として用いている。このワクチンの設計では、mRNAに人為的に変異(S2サブユニット中心ヘリックスの連続するアミノ酸2個をプロリンに置換)を導入することでウイルスが受容体に結合する前の構造(prefusion conformation)を安定的にとるように工夫している。このような構造をとることで抗体誘導能が10倍増加するという。mRNA-1273ワクチンは変異型S-2PをコードするmRNAを脂質ナノ粒子内に封入した製剤であり、動物実験では変異型S-2P蛋白そのものをアジュバントと一緒に投与した場合に比べ、mRNA型ワクチンは、抗体誘導能は同程度、T細胞免疫誘導は優れていることが報告されている。
本試験では各群15人の健常成人に対して、それぞれ25、100、250μgのmRNA-1273ワクチンを28日の間隔をあけて2回筋注した。抗S-2P抗体は用量依存性に誘導され、2回目投与後は全例で中和活性のある抗体が回復期患者血清に匹敵する程度に誘導された。試験中止が必要な重篤な(serious)有害事象はみられなかったが、ワクチン投与に伴い倦怠感、冷感、頭痛、筋痛、投与部位痛などは半数以上の被験者に生じ、特に250μg投与群では2回目投与後3人に発熱などの全身性の重症(severe)有害事象がみられた。
mRNA-1273ワクチンについてはその後の第3相無作為化プラセボ対照試験において100μg、28日間隔の投与で94.1%の有効性が示された(1)。各国で一般市民への投与が開始されており、本号が出るころにはある程度実臨床での評価が進んでいるものと思われる。
1. Baden LR, et al. N Engl J Med. 2020:NEJMoa2035389.