「循環器」の記事一覧

高リスクまたは超高リスクの重症大動脈弁狭窄症に用いる自己拡張型intra-annular留置大動脈弁と市販の経カテーテル心臓弁の比較 無作為化非劣性試験
高リスクまたは超高リスクの重症大動脈弁狭窄症に用いる自己拡張型intra-annular留置大動脈弁と市販の経カテーテル心臓弁の比較 無作為化非劣性試験
Self-expanding intra-annular versus commercially available transcatheter heart valves in high and extreme risk patients with severe aortic stenosis (PORTICO IDE): a randomised, controlled, non-inferiority trial Lancet. 2020 Sep 5;396(10252):669-683. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31358-1. Epub 2020 Jun 25. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】自己拡張型intra-annular留置経カテーテル大動脈弁置換システムPortico(Abbott Structural Heart社、米ミネソタ州セントポール)と市販大動脈弁のデザインの違いによる性能を比較する無作為化試験データが必要とされる。 【方法】この多施設共同前向き非劣性無作為化試験(Portico Re-sheathable Transcatheter Aortic Valve System US Investigational Device Exemption:PORTICO IDE)では、経カテーテル大動脈弁置換の経験が豊富な米国およびオーストラリアの医療機関52施設から、高リスクまたは超高リスクの重症症候性大動脈弁狭窄症患者を登録した。NYHA心機能分類II以上で、重症大動脈弁狭窄症の既往がない21歳以上の患者を適格とした。実施施設、手術のリスク、カテーテル挿入部位で層別化し、置換ブロック法を用いて、適格患者を第1世代Portico弁およびその送達システムと市販の弁システム(intra-annularバルーン拡張型弁Edwards-SAPIEN、SAPIEN XT、SAPIEN 3 valve[いずれも米Edwards LifeSciences社]、supra-annular自己拡張型弁CoreValve、Evolut-R、Evolut-PRO[いずれも米Medtronic社]のいずれか)に(1対1の割合で)無作為に割り付けた。施設の職員、植込み担当医師および被験者には治療の割り付けが分かるようにした。重要な検査データおよび臨床的イベントの評価者には治療の割り付けを伏せた。主要安全性評価項目は、30日時の全死因死亡、障害が残る脳卒中、輸血を要する生命を脅かす出血、透析を要する急性腎障害、重大な血管合併症の複合とした。主要評価項目は、1年時の全死因死亡または障害が残る脳卒中とした。処置後最長2年間、臨床転帰および弁の機能を評価した。Intention-to-treatで主要解析を実施し、カプラン・マイヤー法でイベント発生率を推算した。非劣性のマージンは、主要安全性評価項目で8.5%、有効性評価項目で8.0%に設定した。この試験はClinicalTrials.govにNCT02000115番で登録されており、現在も進行中である。 【結果】資金提供者による11カ月間の組み入れ停止期間があったため、2014年5月30日から2015年9月12日までの間および2015年8月21日から2017年10月10日までの間に、1034例を登録し、適格基準を満たした750例をPortico弁群(381例)と市販の弁群(369例)に割り付けた。平均年齢83(SD 7)歳、395例(52.7%)が女性であった。30日時の主要安全性評価項目をみると、Portico弁群のイベント発生率が市販の弁群よりも高かった(52例[13.8%] vs 35例[9.6%]、絶対差4.2、95%CI -0.4~8.8、信頼区間の上限[UCB]8.1%、非劣性のP=0.034、優越性のP=0.071)。1年時の主要有効性評価項目発生率は、両群同等であった(Portico弁群55例[14.8%] vs 市販の弁群48例[13.4%]、差1.5%、95%CI -3.6~6.5、UCB 5.7%、非劣性のP=0.0058、優越性のP=0.50)。2年時の死亡率(80例[22.3%]vs 70例[20.2%]、P=0.40)や障害の残る脳卒中発生率(10例[3.1%]vs 16例[5.0%]P=0.23)は両群同等であった。 【解釈】Portice弁の2年時の死亡率や障害の残る脳卒中発生率は市販されている弁とほぼ同じであったが、30日時の死亡など主要複合安全性評価項目の発生率が高かった。第1世代Portico弁およびその送達システムに市販されている他の弁を上回る優越性は認められなかった。 第一人者の医師による解説 医療機器の成績は機器性能と使用する医療者の技術に依存 learning curveの考慮が必要 戸田 宏一 大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科准教授(病院教授) MMJ. February 2021;17(1):21 高齢化に伴い高齢者の大動脈弁狭窄症に関する関心が高まっている。開心術を要さない経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は日本では2009年に導入され(1)、現在190以上の施設で年間8,000件以上実施されている。TAVIの成績は手術死亡率2%以下と優れているが、克服する問題もあり新しいデバイスに対する期待は高い。 本論文は、手術リスクの高い(STS-PROMスコア8%以上)重症大動脈弁狭窄症患者を対象に、弁植え込み部位での位置調整を容易にしたTAVI弁Portico(Abbott社)を市販のTAVI弁(SAPIENシリーズ[Edwards社]、CoreValveシリーズ[Medtronic社])と比較した多施設共同無作為化対照非劣性試験の報告である。その結果、安全性の主要評価項目である30日以内の全死亡・重症脳梗塞・輸血を要する出血・透析を要する急性腎障害・血管合併症の複合イベントの発生率は、Portico弁群の方が市販弁群よりも高かったが、非劣性の基準を満たした。30日以内全死亡率は、intention-to-treat解析ではPortico弁群の方が市販弁群よりも高いものの有意差はなかったが、per protocol解析では有意に高かった(4.3% 対 1.2%;P=0.01)。一方、有効性の主要評価項目である術後1年の全死亡・重症脳梗塞に関しては非劣性が示された。副次評価項目である術後1年の中等度以上の大動脈弁逆流はPortico弁群で有意に高く(7.8% 対 1.5%;P=0.0005)、術後30日以内のペースメーカー埋め込み率もPortico弁群で有意に高かった(27.7% 対 11.6%;P<0.001)。そのほか、術後2年までの生活の質(QOL)や心不全症状の改善について有意な群間差はなく、術後1年の6分間歩行距離でも差を認めなかった。 今回の試験においてPortico弁の優位性は示されなかったが、著者らは、①各施設のPortico弁使用数は5例と少なく経験が不十分であった可能性②研究期間の前半に比べ、後半の手術症例では、Portico弁群の術後死亡率、主要安全評価項目の改善がみられたと述べている。さらに、術後1年の中等度以上の大動脈弁逆流に関しても経験豊富な施設の多施設研究では改善がみられることから、医療技術のlearning curveの重要性を指摘している。一方、次世代Portico-FlexNav TAVI弁は今回の第1世代Portico弁よりも安全性の向上がみられ、次世代Portico弁の臨床試験が進められていると報告している。これら医療機器を用いた治療は医薬品と異なり、その成績は機器の性能と使用する医療者の技術に依存するため、機器の進歩を技術の進歩が追いかけ続けるmoving targetの状態となり、その評価を複雑にしていると思われる。 1. Maeda K, et al. Circ J. 2013;77(2):359-362.
左室駆出率が低下した心不全に用いるSGLT2阻害薬 EMPEROR-Reduced試験とDAPA-HF試験のメタ解析
左室駆出率が低下した心不全に用いるSGLT2阻害薬 EMPEROR-Reduced試験とDAPA-HF試験のメタ解析
SGLT2 inhibitors in patients with heart failure with reduced ejection fraction: a meta-analysis of the EMPEROR-Reduced and DAPA-HF trials Lancet. 2020 Sep 19;396(10254):819-829. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31824-9. Epub 2020 Aug 30. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】DAPA-HF試験(ダパグリフロジンを評価)とEMPEROR-Reduced試験(エンパグリフロジンを評価)から、糖尿病の有無を問わない左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害によって心血管死や心不全による入院の複合リスクが低下したことが示された。しかし、いずれの試験も、心血管死または全死因死亡にもたらす効果の評価および臨床的に重要な下位集団に見られた効果の特徴を明らかにするのに十分な検出力はなかった。そこで著者らは、DAPA-HF試験のデータおよびEMPEROR-Reduced試験の患者データを用いて、両試験で無作為化したHFrEF患者全例および関連下位集団を対象に、SGLT2阻害が非致命的心不全イベントおよび腎転帰にもたらす効果を推定することを目的とした。 【方法】SGLT2阻害薬が糖尿病の有無を問わないHFrEF患者の心血管転帰にもたらす効果を検討した大規模試験2件、DAPA-HF試験(ダパグリフロジンを評価)とEMPEROR-Reduced試験(エンパグリフロジンを評価)のメタ解析を実施した。主要評価項目は、全死因死亡までの時間とした。さらに、事前に規定した下位集団を対象に、心血管死または心不全による入院の複合リスクにもたらす効果も検討した。この下位集団は、2型糖尿病の状態、年齢、性別、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)治療、NYHA心機能分類、人種、心不全による入院歴、推算糸球体濾過量(eGFR)、BMIおよび地域(事後)を基にしている。イベント発生までの時間にCox比例ハザードモデル、治療の相互作用にコクランのQ検定を用いてハザード比(HR)を求めた。イベント再発の解析は、Lin-Wei-Yang-Yingモデルで得た率比を基にした。 【結果】両試験の被験者計8474例でみた推定治療効果は、全死因死亡率低下率13%(統合HR 0.87、95%CI 0.77~0.98、P=0.018)、心血管死亡率低下14%(0.86、0.76~0.98、P=0.027)であった。SGLT2阻害によって、心血管死亡または心不全による初回入院の複合リスクの相対的低下率は26%(0.74、0.68~0.82、P<0.0001)、心不全による再入院または心血管死の複合減少率は25%であった(0.75、0.68~0.84、P<0.0001)。このほか、腎転帰の複合リスクも低下した(0.62、0.43~0.90、P=0.013)。試験間の効果量の異質性を検討した検定はいずれも有意ではなかった。統合した治療効果からは、年齢、性別、糖尿病の有無、ARNIを用いた治療および試験開始時のeGFRで分類した下位集団で、一貫して便益が見られたが、NYHA心機能分類および人種で分類した下位集団では、集団による治療の交互作用が認められた。 【解釈】エンパグリフロジンとダパグリフロジンが心不全による入院にもたらす効果は、両試験を通して一貫して見られ、両薬剤によってHFrEF患者の腎転帰が改善し、全死因死亡および心血管死を抑制することが示唆された。 第一人者の医師による解説 SGLT2阻害薬は糖尿病薬に収まらず 心不全治療薬としてエビデンスの構築へ 深谷 英平 北里大学医学部循環器内科学講師 MMJ. February 2021;17(1):19 元来、糖尿病薬として登場したSGLT2阻害薬であったが、近年報告された大規模臨床試験において心不全による入院、心血管イベント、腎機能悪化の抑制を認めたことから、多面的効果が期待される薬剤へと変わってきた。さらに糖尿病の有無にかかわらず、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者を対象に同様の効果が期待できるかを検証した、エンパグリフロジンを用いたEMPERORReduced試験(1)とダパグリフロジンを用いたDAPA-HF試験(2)が相次いで発表された。両試験ともに、糖尿病の有無にかかわらずSGLT2阻害薬群において心不全入院の有意な減少を認めた一方で、患者数の限界から、心血管死や全死亡における差を見出すには至らなかった。そこで本論文では両試験を統合解析し、HFrEF患者8,474人を対象にSGLT2阻害薬の有効性を再検討した。 その結果、SGLT2阻害薬群ではプラセボ群に比べ全死亡リスクは13%低下、心血管死リスクは14%低下した。心血管死と初回心不全入院の複合リスクは26%低下、心不全再入院と心血管死の複合リスクも25%低下した。腎関連の複合エンドポイント(eGFRの低下、透析への移行、腎移植、腎不全死)についても38%のリスクの低下が認められた。サブグループ解析でも、糖尿病の有無、性別、年齢(65歳超対以下)、心不全入院の既往、腎機能低下の有無、肥満の有無(BMI 30kg/m2以上対未満)にかかわらずSGLT2阻害薬の一貫した有効性が実証された。一方、55歳未満の比較的若い年齢層、心不全機能分類 NYHA III-IVの重症例では、SGLT2阻害薬の有効性についてプラセボよりも優位な傾向はみられるが有意差は認めなかった。異なる人種間でも一貫した有効性が示され、アジア人や黒人では白人に比べSGLT2阻害薬のイベント抑制効果がさらに強い可能性も示された。ダパグリフロジンとエンパグリフロジンの間で有効性の差は認められず、SGLT2阻害薬のクラスエフェクトの可能性が示唆された。 今回のメタ解析により、HFrEF患者に対するSGLT2阻害薬のイベント抑制効果、予後改善効果が明らかとなった。日本では2020年11月にダパグリフロジンは慢性心不全への適応追加が承認され、エンパグリフロジンも適応追加が申請された。SGLT2阻害薬は単なる糖尿病の薬に収まらず、イベント抑制効果が実証された心不全治療薬の1つになった。今後も心不全治療薬としてさらなるエビデンスが構築されていくことが予想される。 1. Packer M, et al. N Engl J Med. 2020;383(15):1413-1424. 2. McMurray JJV, et al. N Engl J Med. 2019;381(21):1995-2008.
虚血性脳卒中患者の心房細動検出に用いる植込み型ループレコーダーと体外式ループレコーダーの比較:PER DIEM無作為化臨床試験
虚血性脳卒中患者の心房細動検出に用いる植込み型ループレコーダーと体外式ループレコーダーの比較:PER DIEM無作為化臨床試験
Effect of Implantable vs Prolonged External Electrocardiographic Monitoring on Atrial Fibrillation Detection in Patients With Ischemic Stroke: The PER DIEM Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jun 1;325(21):2160-2168. doi: 10.1001/jama.2021.6128. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】体外式ループレコーダーまたは植込み型ループレコーダーを用いた心電図モニタリングによる虚血性脳卒中後の心房細動(AF)または心房粗動の相対検出率は明らかになっていない。【目的】虚血性脳卒中を発症して間もない患者で、植込み型ループレコーダーを用いた12カ月間のモニタリングが従来の体外式ループレコーダーを用いた30日間のモニタリングよりもAF発生を多く検出できるかを明らかにすること。【デザイン、設定および参加者】カナダ・アルバータ州の大学病院2施設および市中病院1施設で、2015年5月から2017年11月にかけて虚血性脳卒中発症6カ月以内でAFの既往歴がない患者300例を登録し、医師主導型非盲検無作為化臨床試験を実施した。最終追跡が2018年10月であった。【介入】参加者を植込み型ループレコーダー(150例)と体外式ループレコーダー(150例)による持続的心電図モニタリングに1対1の割合で無作為化により割り付けた。参加者は、経過観察のため30日後、6カ月後および12カ月後に受診した。【主要評価項目】主要評価項目は、AF確定(definite AF)またはほぼ確実なAF(highly probable AF)(無作為化後12カ月以内に2分以上持続する新たなAFの判定)とした。新規AFのtime to event解析、虚血性脳卒中の再発、頭蓋内出血、死亡および12カ月以内に発生した機器関連の重篤な有害事象などの8項目を事前に定めた副次評価項目とした。【結果】無作為化により割り付けた300例(年齢中央値64.1歳[四分位範囲、56.1~73.7];女性121例[40.3%];CHA2DS2-VASc[うっ血性心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病、脳卒中または一過性虚血発作、血管疾患、65~74歳、性別]スコア中央値4点[四分位範囲、3~5]の原因不明の脳卒中66.3%)のうち273例(91.0%)が24時間以上の心臓モニタリングを完了し、259例(86.3%)が割り付けたモニタリングおよび12カ月間の経過観察を完遂した。主要評価項目は、植込み型ループレコーダー群の15.3%(150例中23例)、体外式ループレコーダー群の4.7%(150例中7例)に発現した(群間差、10.7%[95%CI、4.0~17.3%];リスク比、3.29[95%CI、1.45~7.42];P=0.003)。8項目の副次評価項目のうち、6項目に有意差が認められなかった。植込み型ループレコーダー群の5例(3.3%)に虚血性脳卒中が再発したのに対して、体外式ループレコーダー群では8例(5.3%)に再発を認めた(群間差、-2.0%[95%CI、-6.6~2.6%])。各群1例(0.7%)に頭蓋内出血が発生し(群間差、0%[95%CI、-1.8~1.8%])、各群3例(2.0%)が死亡し(群間差、0%[95%CI、-3.2~3.2%])、それぞれ1例(0.7%)と0例(0%)に機器関連の重篤な有害事象が発現した。【結論および意義】AFの既往歴がない虚血性脳卒中患者で、植込み型ループレコーダーによる12カ月間の心電図モニタリングのAF検出率が、30日間の体外式ループレコーダーによるモニタリングよりも有意に高かった。このモニタリング法による臨床成績および相対的な費用効果を比較する詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 社会的経済的状態と疾病の発症について 生活習慣との相互作用を含めた研究が必要 門脇 孝 虎の門病院院長 MMJ. December 2021;17(6):188 心原性脳塞栓症は最重症のノックアウト型脳梗塞をきたす。原因の大部分は高齢化で増加が予想される心房細動(AF)だが、幸い抗凝固療法によりリスクを約3分の1に低減することができる。したがって、AF診断の強化が要介護削減、健康寿命延伸のカギを握る。虚血性脳卒中(IS)は心原性に限らずAF有病率が高い。再発予防の観点からAF診断が重要だが、ホルター心電図などでは検出困難な発作性AFが多数潜在している。このような潜在性AFの検出には植込み型ループレコーダー(ILR)が極めて有用だが、その保険適用は発症原因が特定できない潜因性脳梗塞(CS)に限られる。本研究は、既知のAFがない発症半年以内のISを対象とし、4週間可能な限り体外式ループレコーダー(ELR)を装着する群と、ILRで1年間監視する群とに無作為に割り付け、2分間以上持続するAFの検出率を比較検討したものである(各群150人)。その結果、AF検出率はELR群の4.7%に対し、ILR群では15.3%と10.7%高く、リスク比は3.29であった(P=0.003)。ILRはELRより有意にAF検出率を高められるという結果が示されたことから、ILRの適応をすべてのISに拡大すべきかどうかが議論となるが、本研究の対象患者は66%がCSである上に、病型別の検出率も示されていないため、CS以外のISでの有用性は明らかでない。長時間の心電図モニタで病型別のAF検出率を検討した報告はほとんどない。参考までに、当院では入院時心電図でAFが認められないすべてのISに対し、原則1週間デュランタR(ZAIKEN)による非侵襲的心電図モニタを行っており、Stroke2021で筆者が当院の臨床データを発表した時点で7日目まで監視しえた患者は1,066人に達する(1)。病型別のAF検出率は、TIA0%、ラクナ梗塞3.9%、アテローム血栓性脳梗塞5.4%、CS10.5%であり、CS以外の病型におけるAF検出率はCSのおよそ半分以下となっている。したがって、CS以外のISではILRによるAF検出率の上乗せ効果はさほど大きくなく、侵襲的で高額なILRの適応をすべてのISに拡大するほどのメリットは得られないと予想される。潜在性AFの検出は「Thelonger,thebetter」であり、検出力の観点からはILRが最も優れるものの検査数は限られる。重要なのは検出数を増やすことであり、まずは広く実施可能で、検出力も比較的高い非侵襲的長時間心電図モニタによるAF監視の強化を優先すべきであろう。 1. 第 46 回日本脳卒中学会学術集会:虚血性脳卒中急性期の非侵襲的長時間心電図モニタによる悉皆的心房細動スクリーニングの有用性(抄録番号:卒中 O-061-2)
健康的な生活習慣および社会経済的地位と死亡率および心血管疾患との関連:2件の前向きコホート研究
健康的な生活習慣および社会経済的地位と死亡率および心血管疾患との関連:2件の前向きコホート研究
Associations of healthy lifestyle and socioeconomic status with mortality and incident cardiovascular disease: two prospective cohort studies BMJ. 2021 Apr 14;373:n604. doi: 10.1136/bmj.n604. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【目的】生活習慣全般が社会経済的状況(SES)と死亡率および心血管疾患(CVD)発症との関連に介在するかを検討し、生活習慣およびSESと健康転帰との交互作用または複合的な関連の程度を評価すること。【デザイン】住民を対象としたコホート研究。【設定】米国民健康栄養調査(US NHANES、1988~1994年および1999~2014年)とUKバイオバンク。【参加者】米国の20歳以上の成人4万4,462例および英国の37~73歳の成人39万9,537例。【曝露】世帯所得、職業または雇用状況、学歴および健康保険(US NHANESのみ)を用いた潜在クラス分析でSESを評価し、項目回答確率に従って3段階(低、中、高)に分類した。喫煙未経験、非大量飲酒(女性1日1杯以下;男性1日2杯以下;1杯のエタノール含有量は米国14g、英国8g)、身体活動量上位3分の1および質の高い食事に関する情報に基づいて、健康的な生活習慣スコアを構築した。【主要評価項目】全死因死亡率を両研究の主要評価項目とした。複数のレジストリを紐付けることにより、UKバイオバンクのCVD死亡率とCVD発症率を入手した。【結果】US NHANESでは平均追跡期間11.2年で死亡が8906件、UKバイオバンクでは平均追跡期間8.8~11.0年で死亡が2万2309件、CVD発症が6903例記録された。SESが低い成人の年齢で、調整した1,000人年当たりの死亡リスクがUS NHANESで22.5(95%CI 21.7~23.3)、UK Biobankで7.4(7.3~7.6)、年齢で調整した1,000人年当たりのCVDリスクがUKバイオバンクで2.5(2.4-2.6)であった。これに対応するSESが高い成人のリスクは、それぞれ1000人年当たり11.4(10.6~12.1)、3.3(3.1~3.5)、1.4(1.3~1.5)であった。SESが高い成人と比較すると、SESが低い成人の方が全死因死亡率(US NHANESのハザード比2.13、95%CI 1.90~2.38;UKバイオバンク1.96、1.87~2.06)、CVD死亡率(2.25、2.00-2.53)、UKバイオバンクのCVD発症率(1.65、1.52-1.79)のリスクが高かった。生活習慣が介在する割合はそれぞれ12.3%(10.7~13.9%)、4.0%(3.5~4.4%)、3.0%(2.5~3.6%)、3.7%(3.1~4.5%)であった。US NHANESで生活習慣とSESの間に有意な交互作用が認められなかった一方で、UKバイオバンクではSESが低い成人で生活習慣と転帰の間に関連を認められた。SESが高く健康的な生活習慣因子数が3または4の成人と比較すると、SESが低く健康的な生活習慣因子数が0または1の成人は、全死因死亡率(US NHANES 3.53、3.01~4.14;UKバイオバンク2.65、2.39~2.94)、CVD死亡率(2.65、2.09~3.38)およびUKバイオバンクのCVD発症(2.09、1.78-2.46)のリスクが高かった。【結論】米国および英国いずれの成人でも、不健康な生活習慣が健康の社会経済的格差に介在する割合が小さかった。そのため、健康的な生活習慣の推進のみで健康の社会経済的格差が実質的に縮小することはない。健康の社会的決定因子を改善する他の手段が必要である。それでもなお、さまざまなSES部分集団で健康的な生活習慣に低死亡率および低CVDリスクとの関連を認め、健康的な生活習慣が疾病負荷の減少に果たす重要な役割を裏付けている。 第一人者の医師による解説 社会的経済的状態と疾病の発症について 生活習慣との相互作用を含めた研究が必要 門脇 孝 虎の門病院院長 MMJ. December 2021;17(6):188 近年、疾病の発症と社会経済的格差の関係が注目されている。恵まれない社会経済的状態(socioeconomicstatus;SES)と不健康な生活習慣はともに全死亡率と心血管疾患発症率の上昇に関連することが知られている。経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも米国と英国では近年、貧富の差が拡大し、健康格差の拡大につながっていることが指摘されている(1),(2)。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行は、SESが低い人々により深刻な影響を及ぼしている(3)。これまでの研究では、低いSESは主に不健康な生活習慣を介して全死亡率や心血管疾患発症率の上昇に関与すると考えられていた。しかし、これまでSESと生活習慣のそれぞれの寄与や交絡についての詳しいデータはなかった。今回米国の国民健康栄養調査(NHANES)および英国Biobankのデータを用いた2つのコホート研究が行われ、SESと全死亡、心血管疾患発症との関連に対する生活習慣の影響などについて検討された。SESは、世帯収入や職業・雇用形態、教育水準、健康保険(米国のみ)に基づいて3段階に分類し、健康的な生活習慣も、非喫煙、大量飲酒なし、身体活動量が上位の3分の1、食事の質の高さに基づき3段階に分類した。その結果、SESと生活習慣はいずれも全死亡と心血管疾患発症に関係し、低いSESと不健康な生活習慣は、相加的に全死亡や心血管疾患発症を増加させた。例えば、高いSESかつ最も健康的な生活習慣の場合に比べ、低いSESかつ最も不健康な生活習慣の場合、全死亡・心血管死や心血管疾患発症のリスクは2.09~3.53倍に上昇した。同レベルのSESで見れば、健康的な生活習慣は全死亡や心血管疾患発症を減少させた。また、同レベルの生活習慣であっても、SESが高から低になるに従い全死亡や心血管疾患発症が増加した。今後、全死亡や心血管疾患発症を抑制するためには、SESに関わらず健康的な生活習慣の励行は重要だが、特に、SESが低い場合にはそれのみでは不十分であることがわかった。それには、低いSESに伴うさまざまな社会的資源へのアクセスの悪さや検診・治療の機会の低下など多様な要因が考えられ、それらを分析して全死亡や心血管疾患発症を低減させる社会的施策の立案・実施が重要である。日本の「健康日本21(第2次)」でも健康的な生活習慣に加え健康格差に注目しており、今後、社会経済的状態が疾病の発症に及ぼす影響について、生活習慣との相互作用を含めた同様の研究がなされる必要がある。 1. Marmot M et al. Health equity in England: e Marmot Review 10 years on.London: Institute of Health Equity (https://www.health.org.uk/publications/reports/the-marmot-review-10-years-on ) 2. Bor J, et al. Lancet. 2017;389(10077):1475-1490. 3. Niedzwiedz CL, et al. BMC Med. 2020 ;18(1):160.
検診規模拡大前後にみられる2型糖尿病の心血管リスク予測:導出および検証研究
検診規模拡大前後にみられる2型糖尿病の心血管リスク予測:導出および検証研究
Cardiovascular risk prediction in type 2 diabetes before and after widespread screening: a derivation and validation study Lancet. 2021 Jun 12;397(10291):2264-2274. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00572-9. Epub 2021 Jun 2. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】近年まで、世界のほとんどの糖尿病患者は症状が発現してから診断を受け、心血管リスクが高い。これは、ほとんどの患者が心血管予防薬を処方されていることを意味する。しかしニュージーランドでは、世界初の国家プログラムにより、2016年までに、対象となる成人の90%が糖尿病検診を受け(2012年の50%から上昇)、糖尿病を発症して間もない無症候性の患者が多く発見されている。著者らは、検診が広く実施される前に導出した心血管リスク予測式が現在検診で発見される患者のリスクをいくぶん過剰に見積もっているという仮説を立てた。【方法】検診規模拡大前後の期間を含む2004年10月27日から2016年12月30日までを検討した40万人規模のPREDICTプライマリケアコホート研究から、2型糖尿病があり、既知の心血管疾患、心不全および重大な腎機能障害がない30~74歳のニュージーランド人を特定した。糖尿病関連および腎機能の指標など事前に定めた18の予測因子とともにCox回帰モデルを用いて心血管疾患の5年リスクを推定する性別の式を導出した。検診が広く実施される前の2000~2006年に募集したNew Zealand Diabetes Cohort Study(NZDCS)で導出した同等の式と性能を比較した。【結果】4万6,652例をPREDICT-1 Diabetesサブコホートとし、このうち4,114例に追跡期間中(中央値5.2年、IQR 3.3~7.4)初発の心血管事象が発現した。ベースラインで1万4,829例(31.8%)が経口血糖降下薬およびインスリンを使用していなかった。新計算式で推定した心血管5年リスクの中央値は、女性が4.0%(IQR 2.3~6.8)、男性が7.1%(4.5~11.2)であった。古いNZDCSの式では、女性で3倍(中央値14.2%[9.7~20.0])、男性で2倍(中央値17.1%[4.5~20.0])、心血管リスクの中央値が過剰に推定された。PREDICT-1 Diabetesの式は、モデルおよび判別性能の指標もNZDCSの式よりも有意に優れていた(例、女性:R2=32%[95%CI 29~34]、HarrellのC=0.73[0.72~0.74]、RoystonのD=1.410[1.330~1.490]vs. R2=24%[21~26]、C=0.69[0.67~0.70]、D=1.147[1.107~1.187])。【解釈】国際的な治療ガイドラインではいまだに、ほとんどの糖尿病患者の血管リスクが高いと考えている。しかし、今回、ニュージーランドでは近年の糖尿病検診規模拡大によって糖尿病患者の心血管リスクが根本的に変化していることが示された。患者の多くは腎機能が正常であり、血糖降下薬を投与されておらず、心血管リスクが低い。肥満の増加、検診に用いる検査の簡易化および心血管事象を予防する新世代血糖降下薬の導入によって糖尿病検診の増加が必然となるに伴い、この結果の国際的な意味が明らかになる。現代の糖尿病集団を対象に、糖尿病関連および腎機能の予測因子を多数用いて導出した心血管リスク予測式により、不均一性を増しつつある集団から低リスク患者と高リスク患者を判別し、しかるべき非薬物療法管理や費用効果を踏まえた高価な新薬の対象者に関する情報を提供することが求められている。 第一人者の医師による解説 日本でもリスク変化の可能性 他国・以前のリスク予測式の適用には留意が必要 杉山 雄大 国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センター・医療政策研究室長 MMJ. December 2021;17(6):178 従来の糖尿病患者を対象とした心血管リスクスコアは、有症状で心血管リスクがすでに高い段階で糖尿病が発見される社会における糖尿病患者から導出されてきた。一方で、健診機会が広がり無症状でも糖尿病の診断がされるようになると、全体として糖尿病患者における心血管リスクが下がり、従来のリスクスコアではリスクの過大評価となっている可能性がある。本研究では、政策により糖尿病健診受診割合が急拡大(2012年50%→16年90%)したニュージーランドにおいて、PREDICT研究の部分コホートにおける新規心血管疾患の発症率を算出、新たな予測式を導出(derivation)・検証(validation)し、さらに2002~06年のコホートデータ(NewZealandDiabetesCohortStudy;NZDCS)から導出された2型糖尿病患者に対するリスク予測式をPREDICT研究のコホートを用いて検証することにより、上記の仮説を検討した。PREDICT研究では、ニュージーランドのプライマリケア医が心血管リスク評価を行うための標準化されたソフトウエア(PREDICT意思決定支援ソフトウエア)に情報を入れた際に患者がコホートに登録される。本研究は、PREDICT研究のコホートのうち、2004?16年に登録された心血管疾患既往のない46,652人の2型糖尿病患者を対象とした。結果として、244,840人・年において4,114件の心血管疾患が発症した(中央値5.2年;4分位範囲3.3~7.4年)。PREDICT研究、NZDCSそれぞれのリスク予測式から計算された心血管疾患の予測5年累積発症率と実際の発症率を10分位の較正プロットで比較すると、PREDICT研究からのリスク予測は観測値とほぼ一致するのに対し、NZDCSの予測式はリスクを大幅に過大評価する結果となった(女性:約3倍、男性:約2倍)。本研究は、糖尿病に対する健診が発達していない社会・時代から導出されたリスクスコア(例:フラミンガムリスクスコア)を健診の発達した社会・時代に適用すると、糖尿病患者に対するリスクを過大評価してしまうことを示唆している。また、投薬などの推奨(例:40歳以上の糖尿病患者全体に対するスタチン推奨)もリスク評価に基づくものであり、リスクの異質性を認識し、正確なリスク評価に基づいて費用対効果の高い診療をする方が望ましい、と著者らは論じている。日本でも特定健診の導入などにより未治療糖尿病患者の割合は低下しており(1)、糖尿病患者のリスクに変化が生じている可能性がある。他国・以前のリスク予測式を適用する際には、リスク予測式導出時との違い・変化に留意する必要がある。 1. 厚生労働省 . 平成 28 年国民健康・栄養調査結果の概要 . https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-KenkoukyokuGantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou_7.pdf(2021 年 10 月 18 日アクセス可能)
冠動脈血行再建術後に用いるP2Y12阻害薬単剤療法または2剤併用抗血小板薬療法:無作為化対照試験の個別患者データのメタ解析
冠動脈血行再建術後に用いるP2Y12阻害薬単剤療法または2剤併用抗血小板薬療法:無作為化対照試験の個別患者データのメタ解析
P2Y12 inhibitor monotherapy or dual antiplatelet therapy after coronary revascularisation: individual patient level meta-analysis of randomised controlled trials BMJ. 2021 Jun 16;373:n1332. doi: 10.1136/bmj.n1332. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【目的】P2Y12阻害薬単剤療法のリスクと便益を抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)と比較し、この関連性が患者の特徴によって変化するかを評価すること。【デザイン】無作為化対照試験の個別患者データのメタ解析。【データ入手元】Ovid Medline、Embaseおよびウェブサイト(www.tctmd.com、www.escardio.org、www.acc.org/cardiosourceplus)で、開始時から2020年7月16日までを検索した。筆頭著者から個別参加者データの提供を受けた。【主要評価項目】主要評価項目は、全死因死亡、心筋梗塞および脳卒中の複合とし、ハザード比1.15のマージンで非劣性を検証した。重要な安全性評価項目は、Bleeding Academic Research Consortium (BARC)出血基準3または5の出血とした。【結果】2万4,096例を対象とした試験6件のデータをメタ解析の対象とした。主要評価項目は、P2Y12阻害薬単剤療法実施患者283例(2.95%)、DAPT実施患者315例(3.27%)でみられ(ハザード比0.93、95%CI 0.79~1.09;非劣性のP=0.005;優越性のP=0.38;τ2=0.00)、intention to treat集団ではP2Y12阻害薬単剤療法実施患者303例(2.94%)、DAPT実施患者338例(3.36%)でみられた(同0.90、0.77~1.05;優越性のP=0.18;τ2=0.00)。治療効果は性別(交互作用のP=0.02)を除いた全部分集団で一定であり、P2Y12阻害薬単剤療法により、女性の主要評価項目の虚血リスクが低下するが(同0.64、0.46~0.89)、男性では低下がみられないことが示唆された(ハザード比1.00、0.83~1.19)。出血のリスクは、P2Y12阻害薬単剤療法の方がDAPTよりも低かった(97(0.89%)v 197(1.83%);ハザード比0.49、0.39~0.63;P<0.001、τ2=0.03)。この結果は、P2Y12阻害薬の種類(交互作用のP=0.02)を除いた全部分集団で一定であり、DAPTにクロピドグレルではなく新たなP2Y12阻害薬を用いると便益が大きくなることが示唆された。【結論】P2Y12阻害薬単剤療法の死亡、心筋梗塞および脳卒中のリスクはDAPTと同程度である。この関連性は性別により差があり、DAPTよりも出血リスクが低いという科学的根拠が得られた。 第一人者の医師による解説 至適な単剤抗血小板薬を規定するために 国内ではさらなる研究必要 木村 剛 京都大学大学院医学研究科・医学部循環器内科学教授 MMJ. December 2021;17(6):172 薬剤溶出性ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後には少なくとも1年間のアスピリンとP2Y12阻害薬の2剤抗血小板療法(DAPT)継続が必須とされてきた。しかしながら近年、DAPT継続に伴う大出血の増加への懸念が高まりDAPT期間短縮が模索されてきた。本研究は冠動脈血行再建後1~3カ月間のDAPT後のP2Y12阻害薬単剤とDAPTを比較した臨床試験6件の患者レベルのメタ解析である。筆者らが実施したSTOPDAPT-2試験(1)のデータも含まれている。PCI後のDAPT期間を比較した臨床試験のメタ解析はほかにも報告されているが、今回の患者レベルデータを用いたメタ解析の強みはPCI後1~3カ月以降の実際の割り付け治療実施期間中のアウトカム比較を行っている点と臨床的に重要な因子についてのサブグループ解析が可能となっている点である。結果は、P2Y12阻害薬単剤治療はDAPT継続に比べ心血管イベント(死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイント)を増加させることなく(2.95%対3.27%)、大出血を有意に減少させた(0.89%対1.83%)。サブグループ解析においては急性冠症候群と慢性冠症候群で結果は一貫していた。一方、性別に関しては女性においてP2Y12阻害薬単剤治療により心血管イベントは有意に抑制され(HR,0.64)、性別とP2Y12阻害薬単剤治療の心血管イベント抑制効果の間に有意の交互作用を認めた。しかしながらこの交互作用を説明する理論的根拠が不足しており、これは仮説形成の認識にとどめるべき所見であろうと思われる。結論として著者らは「現在得られるエビデンスをトータルにみて、本研究の結果は冠動脈血行再建後の抗血栓療法におけるパラダイムシフトを支持し、PCI後1~3カ月以降のDAPTの中心的役割に疑問を呈するものである」と結んでいる。本研究において重要なことは、単剤のP2Y12阻害薬として用いられた薬剤の大部分は新規でより強力な抗血小板作用を有するチカグレロルであるが本剤は日本の実地臨床ではほとんど使用されておらず、また日本で広く使用されているクロピドグレルの単剤治療を受けた患者は比較的少数であった点である。実際に本研究で対照薬としてクロピドグレルを用いたDAPTを受けた患者では新規P2Y12阻害薬単剤治療による大出血減少効果はみられなかった。クロピドグレルを用いたDAPTが一般的となっている日本において、心血管イベントを増やすことなく大出血を減少させる至適な単剤抗血小板薬を規定するためにはさらなる研究が必要であると思われる。 1. Watanabe H, et al. JAMA. 2019;321(24):2414-2427.
さまざまな血圧値の患者に用いる心血管疾患の1次予防および2次予防を目的とした薬剤による降圧治療 個別患者データのメタ解析
さまざまな血圧値の患者に用いる心血管疾患の1次予防および2次予防を目的とした薬剤による降圧治療 個別患者データのメタ解析
Pharmacological blood pressure lowering for primary and secondary prevention of cardiovascular disease across different levels of blood pressure: an individual participant-level data meta-analysis Lancet. 2021 May 1;397(10285):1625-1636. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00590-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】心血管疾患の併存を問わない正常血圧または正常高値血圧の患者に用いる薬剤による血圧降下作用は明らかになっていない。著者らは、治療前の収縮期血圧値別に、降圧治療が主要心血管事象リスクにもたらす作用を明らかにすべく、無作為化試験の個別患者データを解析した。【方法】薬剤による降圧治療をプラセボまたは他のクラスの降圧薬と比較した無作為化試験または治療の強度別に比較した無作為化試験計48件(各群の追跡期間1,000人年以上)の個別患者データのメタ解析を実施した。心不全患者、急性心筋梗塞などの急性期疾患の短期治療を対象とした試験を除外した。Blood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration(英オックスフォード大学)から1972年から2013年までに発表された51試験のデータを取得した。データを統合し、心血管疾患併存(無作為化割り付け前の脳卒中、心筋梗塞、虚血性心疾患などの報告)の有無、収縮期血圧全体および7段階の収縮期血圧値分類(120 mmHg未満から170mmHg以上まで)別に降圧治療効果を層別化した。主要評価項目は、主要心血管事象(脳卒中、心筋梗塞または虚血性心疾患、致命的または入院を要する心不全の複合と定義)とし、intention-to-treatで解析した。【結果】この解析では、48試験の参加者計344,716例のデータを対象とした。無作為化前の平均収縮期血圧および拡張期血圧は、心血管疾患既往歴がある参加者(157,728例)が146/84 mm Hg、心血管疾患既往例がない参加者(186,988例)が157/89 mmHgであった。試験前の参加者の血圧に大きなばらつきを認め、心血管疾患既往歴がある参加者31,239例(19.8%)および心血管疾患既往例がない参加者14,928例(8.0%)の収縮期血圧が130mmHg未満であった。降圧治療の相対的効果は、収縮期血圧低下の程度と比例していた。中央値で4.15年の追跡後(Q1~Q3 2.97~4.96)、42,324例(12.3%)に主要心血管事象が発生した。試験前に心血管疾患既往歴がなかった参加者の1000人年当たりの主要心血管事象発症率は、比較対照群が31.9(95%CI 31.3~32.5)、介入群が25.9(25.4~26.4)であった。試験前に心血管疾患既往歴があった参加者の発症率は、比較対照群39.7(95%CI 39.0~40.5)および介入群36.0(95%CI 35.3~36.7)であった。収縮期血圧5mmHgの低下による主要心血管事象のハザード比(HR)は、心血管疾患既往がない参加者が0.91(95%CI 0.89~0.94)、心血管疾患既往がある参加者が0.89(0.86~0.92)であった。層別解析で、試験前の心血管疾患既往歴の有無や収縮期血圧分類別による主要心血管事象に対する治療効果の異質性について、信頼性の高い科学的根拠はなかった。【解釈】この無作為化試験の大規模解析では、収縮期血圧5mmHg低下により、心血管疾患既往歴の有無とは関係なく、正常血圧や正常高値血圧でさえ主要心血管事象リスクが約10%低下した。この結果は、現在治療の対象外となる血圧値でも、薬剤による一定の血圧降下が心血管疾患の1次予防および2次予防に等しく有効であることを示唆している。降圧治療の適応について患者と話し合う医師は、血圧を下げることよりも心血管リスク低下の重要性を重視すべきである。 第一人者の医師による解説 降圧療法は心血管病が存在し 血圧が低くても有用なことを確認 平田 恭信 東京逓信病院名誉院長 MMJ. December 2021;17(6):170 世界的に高血圧者の数はこの30年間で倍増しており、降圧療法の重要性が高まっている。高血圧の治療法については降圧薬の使用方法などにまだ改善の余地があるが、その恩恵については議論の余地は少ない。しかし未解決の重要な問題も残っており、そのうち(1)すでに心血管病を有する高血圧者と有さない高血圧者の間で降圧療法の効果は異なるのか否か(2)その効果は投与前の血圧値によって差があるのか、特に正常~正常高値の血圧レベルでどうか──という2つの疑問を本研究では解明しようとしている。それに答えるには相当数の対象者が必要である。というのは血圧レベルが正常に近いほど、降圧治療によるリスク低減効果は小さくなることが知られているからである。臨床上のエビデンスレベルとしては関連研究のメタアナリシスが最上位に置かれているのは周知のことであるが、メタアナリシスにも弱点はあり、どの論文を解析対象とするかの選択バイアスがありうること、対象者数が他より圧倒的に多い論文が含まれると結論がそれに引っ張られてしまうことである。その点、著者であるBloodPressureLoweringTrialists’Collaborationグループはあらかじめ質の保証された降圧療法に関する臨床研究を結果の出る前から組み入れることを表明しておき、それを徐々に積み上げてきた。このことによって少なくとも論文の選択バイアスは避けられる。さらに研究対象者の個々のデータ(individualparticipant-leveldata)も解析可能なシステムを構築した。これまでも同グループにより降圧療法による合併症の抑制効果は到達した血圧値に依存し、降圧薬の種類によらないことが示されてきた。本研究でも約34万人の解析により、収縮期血圧が5mmHg低下すると心血管合併症(イベント)の発生リスクが約10%低下し、この効果は投与前に心血管病のある場合(2次予防)、未罹患の場合(1次予防)のいずれでも同様に認められた。また心血管合併症の発症リスクも脳卒中で13%、心不全で13%ならびに虚血性心疾患で8%抑制された。さらにこの効果は投与前の血圧値を7段階に分けて解析しても各レベル間の差は明らかでなく、収縮期血圧が120mmHg未満や120~129mmHgであっても認められた。このことはいわゆる治療効果のJカーブ現象は一般的には心配はないことを示している。降圧療法の目的は心血管合併症の予防にあることより、心血管病が存在して、血圧が低めであっても治療が有用なことが確認された。
急性冠症候群に用いるチカグレロル単剤療法とチカグレロル+アスピリン併用療法が大出血および心血管イベントにもたらす効果 TICO無作為化臨床試験
急性冠症候群に用いるチカグレロル単剤療法とチカグレロル+アスピリン併用療法が大出血および心血管イベントにもたらす効果 TICO無作為化臨床試験
Effect of Ticagrelor Monotherapy vs Ticagrelor With Aspirin on Major Bleeding and Cardiovascular Events in Patients With Acute Coronary Syndrome: The TICO Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Jun 16;323(23):2407-2416. doi: 10.1001/jama.2020.7580. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】短期間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)後のアスピリン投与中止が、出血抑制戦略として評価されている。しかし、チカグレロル単剤療法の戦略は、急性冠症候群(ACS)患者に対象を限定して評価されていない。 【目的】薬剤溶出性ステントで治療したACS患者で、3カ月間のDAPT後にチカグレロル単剤療法に切り替えることによってチカグレロル主体の12カ月間のDAPTより純有害臨床事象が減少するかと明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】韓国の38施設で、2015年8月から2018年10月にかけて、薬剤溶出性ステントで治療したACS患者3056例を対象に、多施設共同無作為化試験を実施した。2019年10月に追跡が終了した。 【介入】患者を3カ月間のチカグレロルとアスピリンを用いたDAPT後にチカグレロル単剤療法(1日2回90mg)へ切り替えるグループ(1527例)とチカグレロル主体の12カ月間のDAPTを実施するグループ(1529例)に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、1年後の純臨床有害事象とし、大出血および有害心脳血管イベントの複合(死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、標的病変の血行再建術のいずれか)と定義した。重大な有害心脳血管イベントを事前に副次評価項目に規定した。 【結果】無作為化した3056例[平均年齢61歳、女性628例(20%)、ST上昇型心筋梗塞36%]のうち2978例(97.4%)が試験を完遂した。主要評価項目は、3カ月間のDAPT後チカグレロル単剤療法への切り替え群の59例(3.9%)、チカグレロル主体の12カ月間のDAPT群の89例(5.9%)に発生した(絶対差-1.98%[95%CI 3.50~-0.45%]、ハザード比[HR]0.66[95%CI 0.48~0.92]、P=0.01)。事前に副次評価項目に規定した10項目中8項目に有意差が見られなかった。3カ月間のDAPT後チカグレロル単剤療法への切り替え群の1.7%、チカグレロル主体の12カ月間のDAPT群の3.0%に大出血が発生した(HR 0.56[0.34~0.91]、P=0.02)。重大な有害心脳血管イベントの発生率には、3カ月間のDAPT後チカグレロル単剤療法への切り替え群(2.3%)とチカグレロル主体の12カ月間のDAPT群(3.4%)に有意な差が見られなかった(HR 0.69[95%CI 0.45~1.06]、P=0.09)。 【結論および意義】薬剤溶出性ステントで治療した急性冠症候群で、3カ月間のDAPT後のチカグレロル単剤療法への切り替えによって、チカグレロル主体の12カ月間のDAPTよりも、1年時の大出血および有害心脳血管イベントの複合転帰が控えめだが統計的に有意に減少した。この試験で検討した患者集団および予想されるイベント発生率がこれより低い患者には、この試験で検討した治療を検討すべきである。 第一人者の医師による解説 ACS患者に新世代 DESを留置した後のDAPT期間は3カ月で良い 前村 浩二 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科循環器内科学教授 MMJ. February 2021;17(1):20 冠動脈にステントを留置した後には、ステント内血栓症を防ぐために一定期間、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を行う必要があり、通常アスピリンとP2Y12受容体拮抗薬を使用する。第1世代の薬剤溶出性ステント(DES)では留置後長期間経ってもステントが内膜に覆われず血栓を形成することがあったため、DES留置後は1年間、可能ならさらに長期間DAPTを継続することが推奨された。その後DESは改良され、第2、3世代のDESではステント血栓症は少なくなったため、DAPT期間を短縮できるとする報告が相次いでいる。 本研究は、DES留置を受けた急性冠症候群(ACS)患者に、チカグレロルとアスピリンによるDAPTを3カ月行った後に、チカグレロル単剤群とDAPT12カ月群で全臨床的有害事象を比較した試験である。その結果、1年以内の大出血と心血管イベントの複合ではチカグレロル単剤群が3.9%、12カ月DAPT群が5.9%であり単剤群の方が優れていた。この試験では新世代の極薄型ストラット生体吸収性ポリマーDESを用いたことがDAPT期間の短縮に寄与したと考えられる。また、DAPT後にアスピリン単剤でなくチカグレロル単剤にしたことも、DAPT期間短縮に寄与した可能性が高い。チカグレロルはP2Y12受容体を直接阻害するため、効果発現までの時間が短く、欧米ではACS患者に多く使用されている。しかし日本人を多く含む研究であるPHILO試験において、チカグレロルはクロピドグレルに比べ、統計学的有意差はないものの、大出血や心血管イベントが多い傾向にあった(1)。そのため日本ではクロピドグレルまたはプラスグレルが多く使用され、チカグレロルはこれらが使用できない場合のみ適応とされている。クロピドグレルを用いた試験としては、日本でDAPT1カ月+クロピドグレル単剤投与とDAPT12カ月を比較したSTOPDAPT-2試験が行われ、DAPT1カ月群の優越性が示された(2)。現在ACS患者を対象としたSTOPDAPT-2ACS試験が進行中である。 このようにDAPT期間を短縮できるという報告が相次いでいるため、日本のガイドラインが最近更新された。2020年の日本循環器学会「冠動脈疾患患者における抗血栓療法ガイドライン」フォーカスアップデート版では、ACS患者は血栓リスクが高いと考えられるため、出血リスクが低い場合のDAPT期間は3~12カ月を推奨しているが、高出血リスク患者では1~3カ月を推奨している。このようにDESの改良によりDAPT期間は以前より短くなり、個々の患者の出血リスクと血栓リスクを勘案して決定することになる。 1. Goto S, et al. Circ J. 2015;79(11):2452-2460. 2. Watanabe H, et al. JAMA. 2019;321(24):2414-2427.
入院インフルエンザ成人患者の急性心血管イベント 縦断研究
入院インフルエンザ成人患者の急性心血管イベント 縦断研究
Acute Cardiovascular Events Associated With Influenza in Hospitalized Adults : A Cross-sectional Study Ann Intern Med. 2020 Oct 20;173(8):605-613. doi: 10.7326/M20-1509. Epub 2020 Aug 25. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】インフルエンザが1年間のインフルエンザ流行期中の急性心血管イベントの負担の一因となっていると考えられる。 【目的】検査で確定したインフルエンザのため入院した成人患者で、急性心血管イベント、急性心不全(aHF)および急性虚血性心疾患(aIHD)の危険因子を調べること。 【デザイン】縦断研究。 【設定】2020-2011年から2017-2018年までのインフルエンザシーズン中の米国Influenza Hospitalization Surveillance Network。 【参加者】検査で確定したインフルエンザ感染のため入院した成人患者および医療者の指示により実施した検査でインフルエンザ感染が明らかになった成人患者。 【評価項目】国際疾病分類(ICD)第9版およびICD第10版の退院コードを用いて特定した急性心血管イベント。年齢、性別、人種・民族、喫煙状況、慢性疾患、インフルエンザ予防接種、インフルエンザ抗ウイルス薬およびインフルエンザの種類または亜型をロジスティック回帰モデルの曝露因子とし、限界調整リスク比と95%CIを推定してaHFまたはaIHDの関連因子を明らかにした。 【結果】検査で確定したインフルエンザ成人患者89,999例のうち80,261例が完全な医療記録とICDコードが入手でき(年齢中央値69[四分位範囲54-81]歳)、11.7%が急性心血管イベントを来した。最も多かったイベント(相互に排他的ではない)は、aHF(6.2%)およびaIHD(5.7%)であった。高齢、たばこ喫煙、併存心血管疾患、糖尿病および腎疾患に、検査で確定したインフルエンザ成人患者のaHFおよびaIHDリスクとの有意な関連が認められた。 【欠点】インフルエンザ検査が医療者の指示が基になっているため、検出されない症例があると思われる点。急性心血管イベントをICD退院コードで特定しており、誤分類の可能性がある点。 【結論】インフルエンザ成人入院患者の住民対象研究では、患者の約12%が急性心血管イベントを来した。インフルエンザによる急性心血管イベントを予防するため、慢性疾患がある患者には特にインフルエンザ予防接種を高率で実施すべきである。 第一人者の医師による解説 高齢、喫煙、心血管疾患既往など高リスク者に ワクチン接種を推奨すべき 平尾 龍彦(助教)/笹野 哲郎(教授) 東京医科歯科大学循環制御内科学 MMJ. April 2021;17(2):47 インフルエンザウイルス感染は上下気道症状が主であるが心合併症も報告されている。インフルエンザ急性期の心筋梗塞発症リスクは、対照期間に比べ6倍にも高まると報告されている(1)。さらにウイルス別に比べると、インフルエンザ B型、A型、RSウイルス、その他ウイルスで、それぞれ10.1倍、5.2倍、3.5倍、2.8倍となっており、特にインフルエンザに心筋梗塞が高率に合併するとされている。 本研究は、米国のインフルエンザ入院監視ネットワークを用いて、インフルエンザ急性期の急性心血管イベントを調べた横断研究である。2010~18年流行期のインフルエンザ入院患者80,261人(小児除く)を対象に、急性心不全および急性虚血性心疾患の発症を調査したところ、その11.7%に急性心血管イベントを認めた。最も多いイベントは、急性心不全(6.2%)と急性虚血性心疾患(5.7%)で、そのほか異常高血圧(1.0%)、心原性ショック(0.3%)、急性心筋炎(0.1%)、急性心膜炎(0.1%)、心タンポナーデ(0.03%)を認めた。また、曝露因子(年齢、性別、人種、喫煙、慢性疾患、ワクチン接種、抗インフルエンザウイルス薬およびインフルエンザのタイプ)と急性心血管イベントとの関連を調べたところ、有意な危険因子として、高齢、喫煙、心血管疾患の既往、糖尿病、および腎疾患が挙げられた。 本研究は、心血管イベントをICD退院コードで識別しているため誤分類が含まれているおそれはあるが、これまで報告が散見されたインフルエンザと急性心合併症の関係について、大きな集団で発症率を求めた非常に有意義な報告である。インフルエンザ感染と急性心血管イベントを介在する病態生理はいまだ明らかでないが、インフルエンザ感染がトロポニンやミオシン軽鎖の濃度上昇をもたらすことで証明されるように、全身性炎症反応による酸化ストレス促進が血行力学的変化および血栓形成を促進させることが原因と考えられている。この先20年、心血管疾患が増えることに伴う医療費の増大に加えて、心血管疾患による生活の質(QOL)低下や若年死を原因とする国全体の生産性の低下が危惧される。我々は、インフルエンザに関連した急性心血管イベントを予防するために、特に上記の危険因子をもつ患者に、積極的にワクチン接種を推奨すべきである。 1. Kwong JC, N Engl J Med. 2018;378(4):345-353.
若年成人の高血圧と長期心血管イベントの関連 系統的レビューとメタ解析
若年成人の高血圧と長期心血管イベントの関連 系統的レビューとメタ解析
Association between high blood pressure and long term cardiovascular events in young adults: systematic review and meta-analysis BMJ. 2020 Sep 9;370:m3222. doi: 10.1136/bmj.m3222. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】高血圧がある若年成人の後の心血管イベントリスクを評価し、定量化すること。 【デザイン】系統的レビューとメタ解析。 【データ入手元】開始からの2020年3月6日までMedline、EmbaseおよびWeb of Scienceを検索した。ランダム効果モデルを用いて相対リスクを統合し、95%CIを推定した。絶対リスク差を計算した。制限3次スプラインモデルで血圧と個々の転帰の間の用量反応関係を評価した。 【試験の適格基準】血圧上昇が認められる18~45歳の成人患者の有害転帰を調査した試験を適格とした。主要転帰は、全心血管イベントの複合とした。副次転帰として、冠動脈疾患、脳卒中および全死因死亡を調べた。 【結果】若年成人約450万例から成る観察研究17件を解析の対象とした。平均追跡期間は14.7年であった。至適血圧の若年成人と比べると、正常血圧の若年成人の心血管イベントリスクが高かった(相対リスク1.19、95%CI 1.08~1.31、1000人年当たりのリスク差0.37、95%CI 0.16~0.61)。血圧分類と心血管イベントリスク上昇との間に、段階的かつ漸進的な関連が認められた(正常高値血圧:相対リスク、95%CI 1.22~1.49、1000人年当たりのリスク差0.69、95%CI 0.43~0.97、第1度高血圧:1.92、1.68~2.19、1.81、1.34~2.34、第2度高血圧:3.15、2.31~4.29、4.24、2.58~6.48)。冠動脈疾患および脳卒中でほぼ同じ結果が得られた。血圧上昇による心血管イベントの人口寄与割合は、全体で23.8%(95%CI 17.9~28.8%)であった。心血管イベント1件を予防するための1年間の必要治療数は、正常血圧で2672(95%CI 1639-6250)、正常高値血圧で1450(1031~2326)、第1度高血圧で552(427~746)、第2度高血圧で236(154~388)と推定された。 【結論】若年成人の血圧が上昇すると、後の心血管イベントリスクがわずかに上昇すると思われる。血圧低下療法の便益の根拠は少ないため、積極的な介入に慎重になるべきであり、さらに詳細な調査が求められる。 第一人者の医師による解説 治療必要数が多く介入には検討が必要 一般的な運動・生活指導が重要 山岸 敬幸 慶應義塾大学医学部小児科教授 MMJ. April 2021;17(2):48 高血圧と心血管イベントリスクの関連は以前から指摘されているが、先行研究の大多数は中高年以上を対象としている。若年成人の高血圧の有病率が上昇している昨今、高い血圧に経年的に曝されることにより、その後の人生における心血管イベントのリスクが上昇するかどうかを知るために、若年層を対象とした研究が必要である。 そこで本研究では、血圧上昇を有する18~45歳の若年成人の有害事象を調査した候補論文57,519編から17件の観察コホート研究が選択されメタ解析が行われた。対象人数は計4,533,292人(1研究あたり3,490人~2,488,101人)、男女の割合は17試験の平均でそれぞれ72.5%、27.5%(研究8件は対象が男性のみ)、平均追跡期間は14.7年(4.3~56.3年)だった。血圧は2018年の欧州ガイドラインを基準として、以下の5カテゴリーに層別化された:最適血圧(収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満)、正常血圧(120~129、80~84mmHg)、正常高めの血圧(130~139、85~89mmHg)、グレード1の高血圧(140~159、90~99mmHg)、グレード2の高血圧(160mmHg以上、100mmHg以上)。 本研究の成果として、第1に血圧の層別化と心血管イベントリスクの間に段階的・連続的な関連が観察された。すなわち、血圧の段階が上がるごとに、連続的に主要評価項目である心血管イベント、ならびに副次評価項目である冠動脈疾患と脳卒中、全死亡のリスクが上昇していた。地域差はなかったが、年齢は30歳超でより顕著だった。第2に高血圧の人口寄与危険割合は高く、若年成人の心血管イベント全体の約4分の1を占めていた。一方、解析された研究17件のデザインには無視できない異質性が認められ、血圧の測定方法も統一されていなかった。母集団の年齢層、治療の状態、高血糖、高尿酸血症、脂質異常症の有無などを含めて、層別化および感度分析では統計学的な異質性を減らすことはできなかった。また、対象がすべて男性の研究と男女混合の研究の結果を合わせて解析したため、偏りが生じたおそれもある。ただし、性別の層別分析により、血圧上昇と心血管イベントリスク上昇の関連に男女差がないことは確かめられた。 重要な点として、心血管イベントリスクは正常血圧でも上昇することが判明した。比較的低いリスクではあるが、最適血圧と比較すると正常血圧のリスクも無視することはできない。また、収縮期血圧と拡張期血圧は独立して心血管イベントリスクに関連するため、若年成人では両方に注意する必要がある。臨床的意義として介入の是非については、治療必要数(NNT)が中高年層に比べ多いことから、慎重に検討すべきであると結論している。一般的な運動・生活指導が重要と思われる。
年齢および民族別の高血圧1次薬物治療と血圧低下 英国プライマリケアのコホート研究
年齢および民族別の高血圧1次薬物治療と血圧低下 英国プライマリケアのコホート研究
First line drug treatment for hypertension and reductions in blood pressure according to age and ethnicity: cohort study in UK primary care BMJ. 2020 Nov 18;371:m4080. doi: 10.1136/bmj.m4080. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】英国(UK)高血圧臨床ガイドラインで年齢と民族性に基づき推奨される治療を現在日常診療で実施される降圧治療にそのまま置き換えることができるかを検討すること。 【デザイン】観察コホート研究。 【設定】2007年1月1日から2017年12月31日までの英国のプライマリケア。 【参加者】アンジオテンシン変換酵素阻害薬・アンジオテンシン受容体遮断薬(ACEI/ARB)、カルシウム拮抗薬(CCB)、チアジド系薬の新規使用者。 【主要評価項目】年齢(55歳未満と55歳以上)、民族性(黒人と非黒人)で層別化したACEI/ARBとCCBの新規使用者で、追跡12、26、52週時の拡張期血圧の変化量を比較。CCB新規使用者とチアジド系薬新規使用者の比較を副次的解析とした。負の転帰(帯状疱疹)を用いて残存交絡を検出し、一連の正の転帰(期待される薬剤の効果)を用いて、予想した関連がこの試験デザインで特定できるかを明らかにした。 【結果】追跡調査の最初の1年間で、ACEI/ARB新規使用者8万7440例、CCB新規使用者6万7274例、チアジド系薬新規使用者2万2040例を組み入れた(1例当たりの血圧測定回数中央値4回[四分位範囲2~6回])。糖尿病がない非黒人では、55歳未満で、CCB使用によって12週時の拡張期血圧がACEI/ARB使用よりも1.69mmHg低下し(99%信頼区間-2.52~-0.86)、55歳以上では0.40mmHg低下した(-0.98~0.18)。糖尿病がない非黒人の年齢をさらに細かく6つに分類した下位集団解析では、75歳以上でのみ、CCB使用による拡張期血圧低下度がACEI/ARB使用よりも大きかった。糖尿病がない患者のうち、黒人ではCCB使用による拡張期血圧低下度がACEI/ARB使用よりも大きく(低下量の差2.15mmHg[-6.17~1.87])、これに対応する非黒人の低下血圧値の差は0.98mmHg(-1.49~-0.47)だった。 【結論】糖尿病がない非黒人では55歳未満と55歳以上ともに、CCM新規使用とACEI/ARB新規使用で同等の血圧低下が得られた。糖尿病がない黒人では、CCB新規使用者の方がACEI/ARB新規使用者よりも数値的に血圧が大きく低下したが、両年齢群ともに信頼区間の重複が見られた。この結果から、現在英国で高血圧の1次治療に用いられているアルゴリズム法からは、十分な血圧低下が得られないと思われる。治療推奨に特定の適応を設けることを考慮できるであろう。 第一人者の医師による解説 生活習慣が血圧に大きく影響 降圧薬の選択に年齢や人種は重要視されなくなる 平和 伸仁 横浜市立大学附属市民総合医療センター腎臓・高血圧内科部長 MMJ. June 2021;17(3):82 高血圧は、脳心血管病死亡の最大の危険因子である。そこで、脳心血管病を予防するため高血圧治療ガイドラインが作成されているが、各国のエビデンスや重視するポイントにより、異なった推奨がなされる場合がある。英国のガイドラインでは、(2型)糖尿病でない高血圧患者の第1選択薬として、黒人では年齢に関係なくCa拮抗薬(CCB)を推奨している。一方、非黒人では55歳未満でアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬 (ACEI)またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を、55歳以上ではCCBを推奨している。 本研究は、英国のプライマリケアにおける新規に降圧薬(CCB、ACEI、ARB、サイアザイド系利尿薬 )を開始する高血圧患者を対象として、降圧薬による治療前、治療12、26、52週間後の収縮期血圧を確認し、英国ガイドラインによる第1選択薬の推奨が適切かどうかについて同国の臨床データベースを用いたコホート研究である。 87,440人のACEI/ARB、67,274人のCCB、22,040人のサイアザイド新規使用者が抽出され1年間観察された。降圧効果の比較は、傾向スコアマッチング法を用いて検討された。まず、年齢基準が妥当かについての検討がなされた。非糖尿病で55歳未満の患者では、治療12週でACEI/ARBよりもCCBによる治療の方が降圧効果が高く、収縮期血圧の低下が大きかった(―1.69 mmHg;95% CI, ―2.52~―0.86)。しかし、26週および52週後には、両群間で差を認めていない。55歳以上においても、ACEI/ARBとCCBの間で降圧効果の差を認めていない。年齢をカテゴリー化して検討すると、75歳以上の後期高齢者でのみ、CCBがACEI/ARBよりも全経過を通じて降圧効果が高かった。次いで、人種に関する検討がなされ、CCBとACEI/ARBの降圧度は、黒人において12週でCCBの方が大きかったが、その後は消失している。なお、黒人において、12週および26週でCCBの降圧効果はサイアザイドよりも高かったが、52週後には同等となっている。 2004年から英国のガイドラインでは55歳を年齢の「しきい値」としていたが、世界のガイドラインではあまり採用されていない考え方である。今回の研究結果もこの「しきい値」を支持しない結果であった。また、人種による差もあまり大きな影響を与えていないことが示された。現代ではさまざまな人種が混じり合っていること、そして、生活習慣が血圧に大きく影響を与えることから、降圧薬を選択する際に、年齢や人種はあまり重要視されなくなる可能性がある。日本における積極的適応疾患のない高血圧患者への第1選択薬は、CCB、ARB、ACEIに加えて、少量のサイアザイド系利尿薬であることを再確認しておいていただきたい。
デンマークの低比重リポ蛋白と全死因および死因別死亡との関連 前向きコホート研究
デンマークの低比重リポ蛋白と全死因および死因別死亡との関連 前向きコホート研究
Association between low density lipoprotein and all cause and cause specific mortality in Denmark: prospective cohort study BMJ. 2020 Dec 8;371:m4266. doi: 10.1136/bmj.m4266. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】一般集団で、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)値と全死因死亡との関連、全死因死亡リスクが最も低くなるLDL-C濃度を明らかにすること。 【デザイン】前向きコホート研究。 【設定】デンマークで2003年から2015年の間に組み入れた追跡期間中央値9.4年のコペンハーゲン一般集団研究(Copenhagen General Population Study)。 【参加者】全国デンマーク国民登録システムから無作為に抽出した国民。 【主要評価項目】死亡リスクに関連を示すベースラインのLDL-C値を連続尺度(制限付き3次スプライン)およびCox比例ハザード回帰モデルを用いて先験的に定義した百分位分類で評価した。全死因死亡を主要評価項目とした。死因別死亡(心血管、がん、その他死因による死亡)を副次評価項目とした。 【結果】20-100歳の国民10万8243例のうち1万1376例(10.5%)が対象期間中に死亡した(年齢中央値81歳)。LDL-C値と全死因死亡リスクとの関連はU字形であり、低値および高値で全死因死亡リスクが高かった。LDL-C濃度3.4~3.9mmol/L(132~154mg/dL、第61-80百分位数)と比較すると、全死因死亡率の多変量補正ハザード比は、LDL-C濃度1.8mmol/L未満(70mg/dL未満、第1~5百分位数)で1.25(95%CI 1.15~1.36)、LDL-C濃度4.8mmol/L超(189mg/dL超、第96~100百分位数)で1.15(同1.05~1.27)だった。全死因死亡リスクが最も低いLDL-C値は、全体および脂質低下療法非実施下で3.6mmol/L(140mg/dL)であったのに対して、脂質低下療法実施下では2.3mmol/L(89mg/dL)であった。男女、全年齢層、がんとその他の死因による死亡でほぼ同じ結果が見られたが、心血管死ではこの結果は見られなかった。程度を問わないLDL-C値の上昇で心筋梗塞リスクが上昇した。 【結論】一般集団で、LDL-C低値または高値で全死因死亡リスクが上昇し、全死因死亡リスクが最も低くなるLDL-C値は3.6mmol/L(140mg/dL)であることが明らかになった。 第一人者の医師による解説 軽度上昇で治療開始ではなく アテローム性動脈硬化症の絶対リスクの評価が重要 平田 健一 神戸大学大学院医学研究科循環器内科学分野教授 MMJ. June 2021;17(3):83 LDLコレステロール(LDL-C)は動脈硬化性心血管疾患の危険因子であり、血中LDL-Cの高値は将来の心血管イベント発症のリスクとなることが知られている。また、脂質低下薬によるLDL-Cの低下が将来の動脈硬化性心血管イベントのリスクを低下させることが多くのランダム化比較試験により明らかとなっている。しかし、LDL-Cの値と全死亡率の関係について検討した研究では、結論が一致していない。 本研究では、コペンハーゲン市在住のデンマーク国民を対象とした前向きコホート研究「Copenhagen General Population Study」のデータが用いられた。20〜100歳の市民をランダムに選び、2003〜15年に参加の協力が得られ た108,243人(参加率43%)を登録し、追跡調査を行い、LDL-C値と全死亡率や疾患別死亡率との関連性について検討した。 本研究の結果、アテローム性動脈硬化症のリスクが低いと思われる一般集団において、全死亡のリスクが最も低いLDL-C値は3.6mmol/L(140mg/dL)であり、その値より、LDL-Cが高値や低値となると、全死亡のリスクが上昇し、LDL-C値と死亡率の間にU字型の関係が認められた。これは、動脈硬化症のリスクが低い人においては、LDL-C値は約140mg/dLが至適であることを示すものであり、一般的に考えられているLDL-Cの至適値をかなり上回っていた。がんやその他の死亡率についても同様の結果であった。一方、今までの報告のとおり、LDL-C値の上昇は、心筋梗塞および心筋梗塞による死亡のリスク上昇と強い正の相関を示しており、本研究の妥当性を裏付けていると考えられた。今回は、デンマークの白人の一般集団における結果であるが、脂質低下薬を服用していない若い韓国人を対象とした最近の研究でも本研究と同様の結果が示されている(1) 。 本研究は、「正常で健康な」レベルのLDL-C値を明らかにする重要な研究であり、LDL-C値の軽度な上昇のみで治療を開始するのではなく、脂質低下治療を開始するLDL-C値や時期を決定する際に、アテローム性動脈硬化症の絶対リスクを評価することが重要である。今後、多くの研究で同様の結果が確認された場合、臨床および公衆衛生に重要な影響を及ぼすと思われる。 1. Sung KC, et al. J Clin Med. 2019;8(10):1571.
高心血管リスク患者の主要有害心血管イベントに対する高用量オメガ3脂肪酸とコーン油の比較 STRENGTH無作為化臨床試験
高心血管リスク患者の主要有害心血管イベントに対する高用量オメガ3脂肪酸とコーン油の比較 STRENGTH無作為化臨床試験
Effect of High-Dose Omega-3 Fatty Acids vs Corn Oil on Major Adverse Cardiovascular Events in Patients at High Cardiovascular Risk: The STRENGTH Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Dec 8;324(22):2268-2280. doi: 10.1001/jama.2020.22258. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】オメガ3脂肪酸エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)によって心血管リスクが低下するかはいまだに明らかになっていない。 【目的】EPAとDHA(オメガ3 CA)のカルボン酸製剤が心血管転帰にもたらす効果、および心血管リスクが高いアテローム性異常脂質血症患者の脂質および炎症マーカーにもたらす文書化された良好な作用を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】心血管リスクが高く、高トリグリセリド血症があり、高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)が低いスタチン治療中の患者でオメガ3 CAとコーン油を比較した多施設共同二重盲検無作為化試験(2014年10月30日から2017年6月14日の間に登録、2020年1月8日に試験終了、最終患者診療日2020年5月14日)。北米、欧州、南米、アジア、オーストラリア、ニュージーランドおよび南アフリカの22カ国の大学病院および市中病院675施設で計1万3078例を無作為化した。 【介入】スタチンを含む通常治療に加えてオメガ3 CA 4g/日(6539例)と不活性対照のコーン油(6539例)を投与するグループに患者を無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要有効性評価項目は、心血管死、非致命的心筋梗塞、非致命的脳卒中、冠動脈血行再建、入院を要する不安定狭心症の複合とした。 【結果】(予定していたイベント1600件のうち)1384例に主要評価項目のイベントが発生した時点で、オメガ3 CAの臨床的便益の可能性が対照のコーン油よりも低いことが示唆された中間解析に基づき、試験は早期に中止された。1万3078例(平均年齢[SD]62.5[9.0]歳、女性35%、糖尿病70%、低比重リポタンパク質[LDL]コレステロール中央値75.0mg/dL、トリグリセリド中央値240mg/dL、HDL-C中央値36mg/dL、高感度CRP中央値2.1mg/L)のうち1万2633例(96.6%)が試験を完了し、主要評価項目の発生状況を確認した。主要評価項目は、オメガ3 CAで治療した患者の785例(12.0%)、コーン油で治療した患者の795例(12.2%)に発生した(ハザード比0.99[95%CI 0.90~1.09]、P =0.84)。オメガ3 CA群(24.7%)の方がコーン油群(14.7%)よりも、消化器系有害事象の発現率が高かった。 【結論および意義】スタチンで治療している心血管リスクが高い患者で、通常治療へのオメガ3 CA追加は、コーン油と比較した主要有害心血管イベントの複合転帰の有意差がなかった。この結果は、高リスク患者の主要有害心血管イベント減少を目的としたこのオメガ3脂肪酸製剤の使用を支持するものではない。 第一人者の医師による解説 評価が分かれるω -3脂肪酸製剤 さらなる検証と代理エンドポイントの再検討が必要 原 眞純 帝京大学医学部附属溝口病院・病院長、第四内科学講座主任教授 MMJ. June 2021;17(3):79 大規模介入試験の結果から、高用量のスタチンで低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)を十分に低下させても、心血管疾患(CVD)発症は30%程度しか減少せず、LDL-C低下だけでは解決しない残余リスクが指摘されてきた。高トリグリセライド(TG)血症は残余リスクの1つとされフィブラートやω-3脂肪酸製剤などを用いてTGを低下させる介入が試みられてきた。 本研究では、CVD既往のある2次予防患者を50%以上、糖尿病患者も約70%含む高リスク群に、最大限のスタチン投与に加えてエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の両方を含むω-3脂肪酸のカルボン酸製剤を追加投与し、心血管イベント抑制効果を検証している。その結果、心血管複合エンドポイント減少効果を示すことができない見通しとなり、研究は早期終了となった。 ω-3脂肪酸製剤に関する先行大規模試験の結果には相違がある。効果を示した研究としては、EPAのみを投与した日本のJELIS研究(1)と海外のREDUCE-IT研究(2)があるが、その他多くの研究では心血管イベント抑制効果は証明されなかった。本研究では、従来のエステル化製剤と異なり膵リパーゼによる加水分解を経ずに吸収されるカルボン酸製剤が用いられたが、この製剤が効果に影響を及ぼしたかどうかについては明らかでない。また、DHAが動脈硬化を促進するという知見は報告されていないが、DHAを含むω-3脂肪酸製剤では心血管イベント減少は証明されていない。なお、REDUCE-IT研究では、対照群においてC反応性蛋白(CRP)の上昇がみられることから、対照薬として用いた鉱物油の投与により心血管イベントが増加した結果、EPA群との有意差が得られたとの見方もある。このため、本研究では対照薬としてコーン油が選択されている。 本研究では、脂質改善効果やC反応性蛋白の低下など、ω-3脂肪酸製剤に期待される代理エンドポイントの改善は得られている。にもかかわらず心血管イベントが減少しなかったことは、これらが代理エンドポイントとして妥当でない可能性が示唆される。メンデルランダム化研究の結果などから、TGを低下させる介入がCVD発症を抑制することが示唆されているものの、TG上昇がどのような機序で動脈硬化に関わっているかには諸説あり、TG上昇に伴って増加するレムナントやsmall dense LDLなどが真の動脈硬化促進因子であることも示唆されている。評価が分かれるω-3脂肪酸製剤については、今後さらなる検証が必要であると同時に、ペマフィブラートなど、残余リスクに対する他の介入でも作用機序や有効性の指標とすべき代理エンドポイントの再検討が必要であろう。 1. Saito Y, et al. Atherosclerosis. 2008;200(1):135-140. 2. Bhatt DL, et al. N Engl J Med. 2019;380(1):11-22.
収縮期心不全に用いるomecamtiv mecarbilによる心筋ミオシン活性化
収縮期心不全に用いるomecamtiv mecarbilによる心筋ミオシン活性化
Cardiac Myosin Activation with Omecamtiv Mecarbil in Systolic Heart Failure N Engl J Med. 2021 Jan 14;384(2):105-116. doi: 10.1056/NEJMoa2025797. Epub 2020 Nov 13. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】選択的心筋ミオシン活性化薬omecamtiv mecarbilは、左室駆出率が低下した心不全の心機能を改善することが示されている。心血管転帰にもたらす効果は明らかになっていない。 【方法】左室駆出率が35%未満の収縮期心不全(入院および外来)患者8256例を標準心不全治療に加えてomecamtiv mecarbil群(薬物動態学を基に決定した用量25mg、37.5mg、50mgのいずれかを1日2回)またはプラセボ群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、心不全イベント(入院または心不全による救急受診)の初回発生または心血管死の複合とした。 【結果】中央値21.8カ月の間に、omecamtiv mecarbil群4120例中1523例(37.0%)とプラセボ群4112例中1607例(39.1%)に主要評価項目が発生した(ハザード比0.92、95%CI 0.86~0.99、P=0.03)。それぞれ808例(19.6%)、798例(19.4%)が心血管の原因で死亡した(同1.01、0.92~1.11)。カンザスシティ心筋症質問票の総合症状スコア変化量に群間差はなかった。24週時、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)中央値の試験開始時からの変化量は、omecamtiv mecarbil群の方がプラセボ群よりも10%低く、心臓トロポニンI値中央値は4ng/L高かった。心虚血と心室性不整脈イベントの発現頻度は両群同等だった。 【結論】左室駆出率が低下した心不全にomecamtiv mecarbilを投与すると、心不全イベントと心血管死の複合転帰の発生率がプラセボ投与よりも低かった。 第一人者の医師による解説 作用機序を踏まえると従来の強心薬に比べ安全性は高い さらなる臨床試験の結果に注視 佐野 元昭 慶應義塾大学医学部循環器内科准教授 MMJ. June 2021;17(3):80 左室収縮機能が低下した心不全の治療には、利尿薬、強心薬、神経内分泌因子修飾薬(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制薬、β遮断薬、ネプリライシン阻害薬)、心拍数を低下させるイバブラジン、SGLT2阻害薬などが用いられている。心臓のポンプ機能の低下による心拍出量の減少は、うっ血、浮腫や呼吸困難の原因となるだけでなく、神経内分泌因子を活性化させて心不全の病態を悪化させるため、強心薬を用いて、安全にポンプ機能を立ち上げることができれば、それに越したことはない。現在、日本でよく用いられている強心薬ピモベンダンは、心筋のCa2+感受性を増強する作用やプロテインキナーゼ A(PKA)活性化作用を介して、心筋の収縮力を高めるとともに、心筋拡張機能を改善する。ピモベンダンを心不全患者に投与すると確かに運動耐用能は改善するが、死亡率が上昇する傾向が示されたため、他の薬剤で症状が改善しない場合、不整脈の増悪に注意しながら一時的に使用する薬剤として位置づけられている。カテコラミン類似薬の強心薬デノパミンに関しても同様である。 オメカムチブメカルビルは、ミオシンに結合して心筋収縮力を増強させる新規作用機序による強心薬である(1)。β遮断薬を使用していても強心作用を発揮する。細胞内Ca2+動態に影響を与えないため不整脈による突然死を増加させるリスクは低いと考えられる。また、酸素需要を増加させずに心筋 収縮力を増強できる点も魅力的である。 今回のGALACTIC-HF試験では、症候性慢性心不全で駆出率が35%以下の患者を対象に、標準的な心不全治療に加えてオメカムチブメカルビルを投与することの安全性と有効性が評価された。その結果、プラセボ群と比較し、心血管死および全死亡を増やすことなく、初回の心不全イベント(心不全による入院または緊急受診)または心血管死の複合エンドポイントをわずかではあるが有意に低下させた(ハザード比,0.92;P=0.03)。しかし、最も期待された心不全に伴う症状、身体的制限、生活の質(QOL)の改善は認められなかった。患者の3分の1に植込み型除細動器(ICD)が装着されており、ICDで不整脈死がある程度抑制されていた集団が対象であった点も考慮する必要がある。 作用機序を踏まえると、従来の強心薬に比べ安全性がより高いと考えられるオメカムチブメカルビルに関しては、2020年末、開発・商業化権がアムジェン社からサイトキネティクス社へ移管されることが発表された。今後、国内外での承認申請の動向やさらなる臨床試験の結果を注視したい。 1. Malik FI, et al. Science. 2011;331(6023):1439-1443.
制御不良の高血圧にデジタル介入を用いた家庭でのオンラインの血圧管理と評価(HOME BP) 無作為化対照試験
制御不良の高血圧にデジタル介入を用いた家庭でのオンラインの血圧管理と評価(HOME BP) 無作為化対照試験
Home and Online Management and Evaluation of Blood Pressure (HOME BP) using a digital intervention in poorly controlled hypertension: randomised controlled trial BMJ. 2021 Jan 19;372:m4858. doi: 10.1136/bmj.m4858. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】HOME BP(Home and Online Management and Evaluation of Blood Pressure)試験は、プライマリケアでの高血圧管理に用いる血圧の自己監視と自己管理指導を組み合わせたデジタル介入を検証することを目的とした。 【デザイン】主要評価項目の自動確認による非盲検無作為化対照試験 【設定】英国の一般診療所76施設。 【参加者】治療しても高血圧制御が不良(140/90mmHg超)でインターネットが利用できる患者622例。 【介入】最小化アルゴリズムを用いて、参加者をデジタル介入を併用した血圧の自己監視(305例)と標準治療(ルーチンの高血圧治療+受診と診療医の裁量による薬剤変更、317例)に割り付けた。デジタル介入によって、患者と医療従事者に血圧結果のフィードバックが送られ、任意で生活様式の助言と動機付けの支援が利用できるようにした。高血圧患者、糖尿病患者、80歳以上の患者の目標血圧値は英国ガイドラインに従った。 【主要評価項目】主要評価項目は、試験開始時の血圧、目標血圧値、年齢および診療所で調整した1年後の収縮期血圧の差(2回目と3回目の測定値の平均)とし、欠損値に多重代入法を用いた。 【結果】1年後、552例(88.6%)からデータが入手でき、残りの70例(11.4%)は補完した。介入群では平均血圧値が151.7/86.4mmHgから138.4/80.2mmHgに、標準治療群では151.7/86.4mmHgから138.4/80.2mmHgに低下し、収縮期血圧の平均差が-3.4mmHg(95%CI -6.1~-0.8mmHg)、拡張期血圧の平均差が-0.5mmHg(同-1.9~0.9mmHg)であった。完全ケース分析では結果が同等であり、両群間の有害事象がほぼ同じであった。試験期間中にかかった費用から、1mmHg低下当たり増分費用効果比が11ポンド(15ドル、12ユーロ、95%CI 6~29ポンド)となった。 【結論】血圧の自己監視を用いた高血圧管理のHOME BPデジタル介入は、標準治療よりも1年後の収縮期血圧制御が良好で、増分費用もわずかであった。プライマリケアで導入するには、臨床現場のワークフローへの統合およびインターネットを利用しない人々がいることを考慮する必要がある。 第一人者の医師による解説 リモート自己血圧モニタに基づく降圧薬治療の呈示で クリニカルイナーシャを改善 石光 俊彦 獨協医科大学腎臓・高血圧内科教授 MMJ. June 2021;17(3):81 高血圧治療において近年のガイドラインでは疾患や病態などに応じた厳格な降圧目標が推奨されているが、英国の成人の30%近く、65歳以上では50%以上が140/90mmHg以上である。一方、さまざまな分野で医療のデジタル化が進められており、高血圧診療においても、インターネットを利用した血圧モニター、生活習慣指導や服薬管理を普 及させることにより、治療成績の向上が期待される。 英国で行われた本論文の研究(HOME BP)では、一般の実地診療医師と血圧コントロール不良(140/90mmHg超)の高血圧患者を対象として、 通常診療とオンラインによるデジタル介入を行った診療による治療効果が比較された。介入群では、オンラインで収集した患者の家庭血圧のデータを アルゴリズムにより評価し、その情報を患者と担当医師にフィードバックするとともに、それに基づいた降圧薬治療の提案や食事、運動、適正体重などの生活指導や服薬指導がインターネットを介して行われた。 12カ月後、通常治療群では平均血圧が151.6/85.3から141.8/79.8mmHgに低下したのに対し、介入群では151.7/86.4から138.3/80.2mmHgと通常治療群に比べ、−3.4/−0.5mmHg降圧が大きかった。サブグループ解析では、デジタル介入による降圧は、67歳未満の群および糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、心血管病などの合併症がない群において大きかった。質問票によると副作用の発現、服薬アドヒアランス、生活の質(QOL)は両群で有意差がなかった。介入に要した費用は患者1人あたり平均38ポンドで、収縮期血圧1mmHgの降圧増加につき11ポンドになった。 日本でも高血圧患者の73%が血圧140/90mmHg以上であり、患者および医療スタッフにおけるクリニカルイナーシャを改善する必要性が認識されている。本研究で試みられた家庭血圧モニターを中心とするオンラインの介入は、特に世界的に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行している状況において医療サービスの提供を改善する方策として有用である可能性がある。本研究でも12カ月後の継続率は89%と高く、降圧効果の増強により脳卒中が10〜15%、冠動脈疾患は5〜10%の減少が期待されるとしているが、対象者の大多数が白人であったことや67歳以上の高齢者では有意な降圧効果の増強が認められなかったことなどが、介入の適応を拡大する際に課題となると思われる。今後は、公的データベースを利用した医療費の評価やより長期の検討を行い、ガイドラインや診療報酬の算定に取り入れる方向で進められることが期待される。
一過性脳虚血発作の発症と長期的な脳卒中リスクとの関連
一過性脳虚血発作の発症と長期的な脳卒中リスクとの関連
Incidence of Transient Ischemic Attack and Association With Long-term Risk of Stroke JAMA. 2021 Jan 26;325(4):373-381. doi: 10.1001/jama.2020.25071. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】一過性脳虚血発作(TIA)とその後の脳卒中リスクの関連を正確に推定することによって、TIAを発症した患者の予防策を向上させ、脳卒中の負担を抑制させることができる。 【目的】集団のTIA発症率、TIA後の脳卒中リスクの時期と長期的傾向を明らかにすること。 【デザイン、設定、参加者】ベースラインでTIA、脳卒中の既往のない参加者1万4059例から後ろ向きに収集したデータの後ろ向きコホート研究(Framingham Heart Study)。1948年から2017年12月31日まで追跡した。TIA未発症例の標本とTIA初発例を年齢と性別で(5対1の比率で)マッチさせた。 【曝露】時間(TIA発症率の算出、時間傾向分析)、TIA(マッチさせた縦断コホート)。 【主要評価項目】主要評価項目は、TIA発症率、短期(7日、30日、90日)と長期(1~10年)で比較したTIA後の脳卒中発症率、マッチさせたTIA未発症対照例と比較したTIA後の脳卒中、3分類の期間(1954~1985年、1986~1999年、2000~2017年)別に評価したTIA後90日時脳卒中リスクの経時的な傾向。 【結果】追跡調査期間66年の参加者1万4059例(36万6209人・年)のうち435例がTIAを発症し(女性;229例、平均年齢73.47[SD 11.48]歳、男性;206例、平均年齢70.10[SD 10.64]歳)、TIA未発症の対照例2175例とマッチさせた。TIAの推定発症率は1000人・年当たり1.19であった。TIA後の追跡調査期間中央値8.86年の間に、130例(29.5%)が脳卒中を発症した。そのうち28例(21.5%)が初回TIA発症後7日以内、40例(30.8%)が30日以内、51例(39.2%)が90日以内、63例(48.5%)が1年以上経過後に脳卒中を発症した。脳卒中発症までの期間中央値は1.64年(四分位範囲0.07~6.6年)であった。年齢と性別で調整した脳卒中発症の10年累積ハザードは、TIA発症例(435例中130例が脳卒中発症)が0.46(95%CI 0.39-0.55)、マッチさせた対照のTIA未発症例(2175例中165例が脳卒中発症)が0.09(95%CI 0.08-0.11)であり、完全調整後ハザード比(HR)は4.37(95%CI 3.30-5.71、P<0.001)であった。1948~1985年(16.7%、TIA発症155例中26例が脳卒中発症)と比較したTIA後90日脳卒中リスクは、1986~1999年では11.1%(162例中18例が脳卒中発症)、2000~2017年では5.9%(118例中7例が脳卒中発症)であった。第1期(1948~1985年)と比較すると、90日間脳卒中リスクのHRは、第2期(1986~1999年)で0.60(95%CI 0.33-1.12)、第3期(2000~2017年)で0.32(95%CI 0.14-0.75)であった(傾向のP=0.005)。 【結論および意義】今回の1948~2017年を対象とした集団コホート研究で、推定粗TIA発症率は1.19/1000人・年であり、脳卒中リスクは、TIA発症後の方がマッチさせたTIA未発症の対照よりも有意に高かった。TIA発症後の脳卒中リスクは、最も近い2000~2017年の方がそれ以前の1948~1985年よりも有意に低かった。 第一人者の医師による解説 TIAは脳卒中の強い危険因子 長期間にわたる血管リスク管理を徹底すべき 犬塚 諒子/藥師寺 祐介(主任教授) 関西医科大学神経内科学講座 MMJ. August 2021;17(4):109 一過性脳虚血発作(TIA)は切迫(脳)卒中の主要な先駆症状である。近年の2次予防的介入の進歩は、TIA発症後の短期的のみならず、長期的な脳卒中発症リスクの低下をもたらしていると思われるが、既報はない。そのことを明らかにするために、本研究ではFramingham Heart Study(FHS)のデータを用い、後ろ向き検証がなされた。対象として、1948年から2017年までのFHS参加者のうち、登録時にTIAや脳卒中の既往のない14,059人が抽出された(発症率コホート)。その中で、TIAを発症した症例(TIA群)と、それらに年齢・性別をマッチさせた対照(非 TIA群)を、1:5の比で抽出した縦断的解析用の集団も用意された(調整済み縦断的コホート:それぞれn=435、n=2,175)。これら2種のコホートを用いて、① TIA発症率② TIA後の脳卒中発症率(時代的変遷も含む)が検証された。 TIAの推定発症率は1.19/1000人・年であった。また、TIA後の脳卒中発症率は中央値8.9年の追跡期間中で29.5%であり、発症までの期間中央値は1.64年であった。TIA群の脳卒中発症リスクは、非 TIA群に比べ4.4倍と有意に高かった。TIA後90日間での脳卒中発症率の時代別変遷は、1948~85年で16.7%、1986~99年で11.1%、2000~17年で5.9%であり、1948~85年と比較し、2000年以降で有意に低かった。 本研究で示された時代ごとのTIA後の脳卒中発症率の低下は、薬物療法や外科的介入(頸動脈内膜剥離術、頸動脈ステント留置術)などのエビデンス構築、および普及を反映しているものであろう。しかし、TIA後の脳卒中発症率は非 TIA群の約4倍といまだ高い結果は見逃せない。さらに、TIA後の脳卒中発症率に関しては、従来、比較的短期的なイベントとして警鐘を鳴らされてきた感が強いが、本研究結果をみると、脳卒中の発症は短期間内にプラトーに達するわけではなく、追跡期間全体にわたって増加し、かつ半数(49%)は初回 TIAから1年後以降に発症することが示されたことは特筆すべきであろう。本研究は、後ろ向き研究であることなどから、結果解釈に制限はあるものの、TIAに限った均一な集団での、これまでにない長期間の追跡研究結果としての価値がある。事実、近年における5年を超える追跡期間を有した代表的研究であるTIAregistry.org projectはTIAに加え、軽症虚血性脳卒中も含んでいた側面を持つ(1)。本研究は、TIAは完成型脳卒中の強い危険因子であり、長期間にわたる血管リスク管理を徹底すべき疾患であることを示唆している。すなわち、TIA患者を診た場合は、「脳卒中になる一歩手前の崖っぷちにいる患者」と認識し、長期間にわたる生活習慣改善や内服調整を要することを説明しなければならない。 1. Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2018;378(23):2182-2190.
心房細動の初期治療に用いる冷凍アブレーションと薬物療法
心房細動の初期治療に用いる冷凍アブレーションと薬物療法
Cryoablation or Drug Therapy for Initial Treatment of Atrial Fibrillation N Engl J Med. 2021 Jan 28;384(4):305-315. doi: 10.1056/NEJMoa2029980. Epub 2020 Nov 16. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】ガイドラインでは、心房細動患者にカテーテルアブレーションを検討する前に1種類以上の抗不整脈薬を試すことが推奨されている。しかし、1次治療にアブレーションを用いた方が洞調律の維持に有効であると思われる。 【方法】未治療の症候性発作性心房細動患者303例を、冷凍バルーンを用いたカテーテルアブレーション実施群と、初期の洞調律回復を目的とした抗不整脈薬投与群に無作為化した。心房頻脈性不整脈を検出するため、全例に植込み型心臓モニタリング機器を留置した。追跡調査期間は12カ月であった。主要評価項目は、カテーテルアブレーション実施後または抗不整脈薬投与開始91~365日後のあらゆる心房頻脈性不整脈(心房細動、心房粗動または心房頻拍)再発の初回記録とした。副次評価項目は、症候性不整脈がないこと、心房細動の負荷、QOLとした。 【結果】1年時、アブレーション群154例中66例(42.9%)、抗不整脈薬群149例中101例(67.8%)に心房頻脈性不整脈の再発が認められた(ハザード比0.48、95%CI 0.35~0.66、P<0.001)。アブレーション群の11.0%、抗不整脈薬群の26.2%に症候性の心房頻脈性不整脈の再発が認められた(ハザード比0.39、95%CI 0.22~0.68)。心房細動が発生していた時間の割合の中央値は、アブレーション群0%(四分位範囲0~0.08)、抗不整脈薬群0.13%(四分位範囲0~1.60)であった。アブレーション群の5例(3.2%)と抗不整脈薬群の6例(4.0%)に重篤な有害事象が発生した。 【結論】症候性発作性心房細動の初期治療を受けた患者を継続的な心調律モニタリングで評価した結果、カテーテルによる冷凍バルーンアブレーションの心房細動再発率が抗不整脈薬による薬物療法よりも有意に低かった。 第一人者の医師による解説 第1選択とするには安全性が非常に重要 侵襲的な手技のリスクは常に念頭に置く必要あり 五十嵐 都 筑波大学医学医療系循環器先進治療研究部門准教授/家田 真樹 筑波大学医学医療系循環器内科教授 MMJ. August 2021;17(4):114 発作性心房細動の初回治療として、ガイドラインでは抗不整脈薬をまず投与し無効な場合にカテーテルアブレーションを行うべきと記載されている(1)。しかしながら、薬物療法の心房細動抑制効果は十分とはいえず、副作用も懸念される。一方、カテーテルアブレーションを薬物療法の無効例に対して行った場合、洞調律維持に有効であったとの報告がある(2)。 今回報告されたEARLY-AF試験では、未治療の発作性心房細動患者を対象に初回治療として冷凍焼灼術(クライオバルーンアブレーション)による心房不整脈の再発抑制効果を抗不整脈薬と比較した。全患者に植込み型心電図記録計(ICM)を植え込み、不整脈を正確に検出できるようにした。その結果、1年の時点で主要評価項目である心房不整脈の再発率はアブレーション群の方が有意に低かった。副次評価項目である心房細動発症の累積時間率(burden)もアブレーション群の方が低かった。有害事象に関して両群間に有意差はなかった(アブレーション群5人:横隔神経麻痺3人、徐脈2人、抗不整脈薬群6人:wide QRS頻拍2人、失神1人、心不全1人、徐脈2人)。 先行研究では、薬物療法でコントロールが不良であった患者への後治療としてアブレーションを行っており、アブレーションの有効性が過大評価されていた可能性がある。本研究の特徴は初回治療としてアブレーションと薬物療法を比較している点と、ICMにより長期間の正確なモニターを行った点である。 最近の研究ではリズムコントロールを早期に行うことは、脳卒中を含む心血管イベントを抑制すると報告されている(3)。また心房細動は進行性の疾患であるため、早期にアブレーションを行うことで心房の線維化など組織的な変化を抑制し長期的な予後を改善させるかもしれない。しかしながら、アブレーションを第1選択とするには安全性が非常に重要な点である。本研究では有害事象発生率は2群間で差がなくアブレーションに関連した死亡、血栓塞栓イベントはなかったが、侵襲的な手技のリスクは常に念頭に置く必要がある。また、心房細動の累積時間率に関して2群間の差はそれほど大きくなくアブレーションを強く勧める根拠にはならないかもしれない。本研究は追跡期間が短いため、アブレーションの長期的な効果を含め、今後のさらなる検討が期待される。 1. Hindricks G, Eur Heart J. 2021;42(5):373-498. 2. Wilber DJ, et al. JAMA. 2010;303(4):333-340. 3. Kirchhof P, et al. N Engl J Med. 2020;383(14):1305-1316.
急性冠症候群疑い患者の高流量酸素療法と死亡リスク:実用的クラスター無作為化クロスオーバー試験
急性冠症候群疑い患者の高流量酸素療法と死亡リスク:実用的クラスター無作為化クロスオーバー試験
High flow oxygen and risk of mortality in patients with a suspected acute coronary syndrome: pragmatic, cluster randomised, crossover trial BMJ. 2021 Mar 2;372:n355. doi: 10.1136/bmj.n355. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】急性冠症候群(ACS)の疑いがある患者で、高流量酸素療法と30日死亡率の関連性を明らかにすること。 【デザイン】実用的クラスター無作為化クロスオーバー試験。 【設定】ニュージーランドの4地域。 【参加者】試験期間中、All New Zealand Acute Coronary Syndrome Quality Improvement(ANZACS-QI)レジストリまたはambulance ACS pathwayに組み入れられたACSが疑われる患者およびACSの診断が確定した患者4万872例。2万304例に高流量酸素療法、2万568例に低流量酸素療法を実施した。レジストリおよびICD-10退院コードから、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)か非STEMIの最終診断を明らかにした。 【介入】2年間にわたり、4地域を2通りの酸素療法に6カ月単位で無作為に割り付けた。高流量酸素群では、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)に関係なく、虚血症状や心電図の変化に応じて、酸素マスクによる酸素6~8L/分を供給した。低流量酸素群では、SpO2が90%を下回った場合のみ、SpO2 95%未満を目標に酸素を供給した。 【主要評価項目】登録データとの連携により明らかにした30日全死因死亡率。 【結果】両酸素療法によって管理した患者データおよび臨床データは一致していた。ACS疑い患者の30日死亡数は、高酸素群および低酸素群でそれぞれ613例(3.0%)、642例(3.1%)だった(オッズ比0.97、95%CI 0.86~1.08)。STEMI患者4159例(10%)の30日死亡率は、高酸素群および低酸素群でそれぞれ8.8%(178例)、10.6%(225例、同0.81、0.66~1.00)で、非STEMI患者1万218例(25%)では3.6%(187例)、3.5%(176例)だった(同1.05、0.85~1.29)。 【結論】ACSの疑いがある患者の大規模コホートで、高流量酸素療法に30日死亡率の上昇、低下いずれの関連も認められなかった。 第一人者の医師による解説 ST上昇型急性心筋梗塞患者では改善傾向 酸素投与の適否は担当医に委ねられべき 清末 有宏 森山記念病院循環器センター長 MMJ. October 2021;17(5):144 急性冠症候群(ACS)患者に対する酸素投与は、予後改善効果を示すエビデンスが少ないまま50年以上前から実施されてきた世界共通の治療習慣である。これはACS患者ではしばしば心不全合併などに伴い低酸素血症が合併することを考慮すれば理にかなっているが、過剰な動脈血酸素分圧上昇は冠動脈攣縮や酸化ストレスを誘発するため、近年酸素投与の有害性を指摘する報告が続いていた。 現行の各国ガイドラインはメタ解析(1)やDETO2X-AMI試験2の結果をもとに、低酸素血症の目立たない急性心筋梗塞患者への酸素投与を勧めていないが、ただ根拠となっている臨床試験にも(低酸素血症が発生しにくい)比較的低リスク患者のみが組み入れられていたり、組み入れ患者数(特に最も酸素投与の恩恵が期待できると思われるST上昇型急性心筋梗塞患者数)が十分ではないなどの研究限界が挙げられてきた。 本研究において著者らはそういった研究限界を払拭すべく、十分な患者数の確保が期待できるAll New Zealand Acute Coronary Syndrome Quality Improvementレジストリーを用い、酸素投与プロトコールをより厳密に設定し、さらにバイアスを排除すべくクラスター・クロスオーバー・デザインを採用した(4地域に分けて酸素投与プロトコールを時期により設定し、その設定を入れ替えた)。40,872人という十分な患者数が組み入れられた結果、30日全死亡に関して高用量酸素投与群では低用量酸素投与群に対するオッズ比が0.97と有益性は認められなかったが、有害性も認められなかった。さらに、ST上昇型急性心筋梗塞患者群に限れば1.8%の絶対リスク低下(8.8% 対 10.6%)が得られ、オッズ比は0.81であった。 本研究結果の解釈は論文中のディスカッションパートでも非常に慎重に議論されているが、ACS患者を日常的に診療している一臨床医として意見を述べさせていただけるのであれば、30日全死亡率1.8%の改善は臨床的に意味を持つ大きさであるし、しばしば画一的になりすぎてしまいがちなガイドラインに基づく診療方針において(つまりACS患者に対する酸素療法がどのような場合でも不適切といった認識)、対象患者を選べば酸素療法は決して有害性がないばかりか有益性も期待できる、といったポジティブな解釈もできるのではなかろうか。ACSという診断名の下には多種多様な患者が含まれるため、今回の結果を踏まえれば酸素投与の適否は各患者の担当医に委ねられてしかるべき、ということになろう。 1. Chu DK, et al. Lancet. 2018;391(10131):1693-1705. 2. Hofmann R, et al. N Engl J Med. 2017;377(13):1240-1249.
心不全と危険因子の年齢依存的な関連:統合集団ベースコホート研究
心不全と危険因子の年齢依存的な関連:統合集団ベースコホート研究
Age dependent associations of risk factors with heart failure: pooled population based cohort study BMJ. 2021 Mar 23;372:n461. doi: 10.1136/bmj.n461. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】一般集団には心不全発症の危険因子に年齢による差があるかを評価すること。 【デザイン】集団ベースの統合コホート研究。 【設定】Framingham Heart Study、Prevention of Renal and Vascular End-stage Disease StudyおよびMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis。 【参加者】若年者(55歳未満、1万1,599例)、中年者(55~64歳、5,587例)、前期高齢者(65~74歳、5,190例)、後期高齢者(75歳以上、2,299例)で層別化した心不全既往歴のない参加者計2万4,675例。 【主要評価項目】心不全発症率。 【結果】追跡調査期間中央値12.7年間にわたり、若年者138例(1%)、中年者293例(5%)、前期高齢者538例(10%)、後期高齢者412例(18%)が心不全を発症した。若年者では、心不全発症例の32%(44例)が駆出率が保たれた心不全に分類されたのに対して、後期高齢者では43%(179例)であった。若年者では高齢者と比べて、高血圧、糖尿病、現在の喫煙、心筋梗塞の既往歴などの危険因子があると相対リスクが高かった(全体の交互作用のP<0.05)。例えば、高血圧があると、若年者では心不全リスクが3倍になり(ハザード比3.02、95%CI 2.10~4.34;P<0.001)、それに対して後期高齢者ではリスクが1.4倍になった(1.43、1.13~1.81、P=0.003)。心不全発症の絶対リスクは、危険因子の有無に関係なく、若年者の方が高齢者よりも低かった。若年者の方が高齢者よりも危険因子の人口寄与危険割合が高く(75% v 53%)、モデル適合度も良好であった(C index 0.79 v 0.64)。同様に、肥満(21% v 13%)、高血圧(35% v 23%)、糖尿病(14% v 7%)、現在の喫煙(32% v 1%)の集団寄与危険割合は高齢者よりも若年者の方が高かった。 【結論】若年者の方が高齢者よりも心不全の発症率と絶対リスクが低いが、修正可能な危険因子との関連が強く寄与危険度が大きいことから、成人期にわたる予防努力の重要性が浮き彫りになった。 第一人者の医師による解説 心不全予防には生涯にわたるリスク管理が重要 ハザード比は診療に有用 諸井 雅男 東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野(大橋)教授 MMJ. October 2021;17(5):142 若年者は高齢者に比べ心不全発症率が低いことは知られているが、年齢別に心不全発症と肥満、高血圧および糖尿病などの危険因子との関係は検討されていなかった。先行研究では、電子健康記録を用いた研究で、若年者では心不全を含む心血管疾患発症や血圧上昇の相対リスク低下が認められたことや、心不全患者を対象とした研究で、若年患者は肥満、男性、糖尿病既往者で多くみられることは報告されていた(1),(2)。 本論文は、一般集団における心不全の年齢別危険因子を評価するため、米国のFramingham Heart Study、オランダのPrevention of Renal and Vascular End-stage Disease(PREVEND)研究、米国のMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis(MESA)のデータを統合解析したコホート研究の報告である。対象者は心不全歴のない24,675人で、若年者(55歳未満、11,599人)、中年者(55~64歳、5,587人)、前期高齢者(65~74歳、5,190人)、後期高齢者(75歳以上、2,299人)に層別化し、心不全の発症について追跡期間中央値12.7年において評価した。 その結果、高血圧、糖尿病、現在の喫煙、および心筋梗塞の既往といった危険因子は、高齢者と比較し、若年者でその相対的寄与が大きかった。例えば高血圧は、若年者の将来的心不全リスクを3倍上昇させたのに対し、後期高齢者では1.4倍の上昇であった。心不全発症の絶対リスクは、危険因子にかかわらず、高齢者より若年者のほうが低かった。 心不全患者が増加し続けている中で、その年齢に応じて具体的なリスクの数字を示したことは診療に有用である。50歳の男性が健診で高血圧を指摘されて受診した場合に、我々医療者は単に生活習慣の是正と降圧薬の服用を考慮するだけではなく、「高血圧者は正常血圧者に比べ12年後には3倍の心不全発症リスクがある」ことを患者に伝えることができる。一方、75歳ではそのリスクは1.4倍である。このことは、患者の価値観や希望と併せて、医療者はその介入の程度を考慮する際の1つの情報となり、その上での治療は生活の質(QOL)を高めることにつながる。人生100年時代を迎え、生命予後のみならず若年から年齢を重ねた時のQOLを考慮しそのリスク管理により心不全を予防することは、医療者には極めて重要と考える。 1. Rosengren A, et al. Eur Heart J. 2017;38(24):1926-1933. 2. Christiansen MN, et al. Circulation. 2017;135(13):1214-1223.
PCI実施患者に用いる個別化抗血小板療法と標準抗血小板療法の比較:システマティック・レビューとメタ解析
PCI実施患者に用いる個別化抗血小板療法と標準抗血小板療法の比較:システマティック・レビューとメタ解析
Guided versus standard antiplatelet therapy in patients undergoing percutaneous coronary intervention: a systematic review and meta-analysis Lancet. 2021 Apr 17;397(10283):1470-1483. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00533-X. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】経皮的冠インターベンション(PCI)を受ける患者に用いる個別化抗血小板療法は標準療法と比べて転帰が良好であるかは議論の余地がある。そこで、PCI実施患者で、個別化抗血小板療法と標準的抗血小板療法の安全性および有効性を評価した。 【方法】このシステマティック・レビューおよびメタ解析では、2020年8月20日から10月25日にかけて、MEDLINE(PubMed)、Cochrane、EmbaseおよびWeb of Scienceの各データベースで、PCIを受ける患者を対象に、血小板機能検査または遺伝子検査を用いる個別化抗血小板療法と標準的抗血小板療法を比較した無作為化比較試験および観察研究を言語を問わず検索した。レビューアー2名が個別に試験の適格性を評価し、データを抽出し、バイアスリスクを評価した。I2指標で評価した試験間の推定異質性によって、リスク比(RR)と95%CIにランダム効果または固定効果モデルを用いた。試験で定義した主要な主要有害心血管系事象および全出血を主要評価項目とした。全死因死亡、心血管系死、心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症(確定または疑い)、大出血および軽度出血を主な副次評価項目とした。この試験は、PROSPERO(CRD42021215901)で登録されている。 【結果】関連の可能性がある3,656報をスクリーニングした。患者2万743例のデータを含む無作為化比較試験11報および観察研究3報を解析の対象とした。標準療法と比べると、抗血小板療法の個別化選択で、統計的有意ではないものの(RR 0.88、0.77~1.01、P=0.069)、主要有害心血管事象(RR 0.78、95%CI 0.63~0.95、P=0.015)および出血が減少した。標準療法と比べると、個別化抗血小板療法では心血管死(RR 0.77、95%CI 0.59~1.00、P=0.049)、心筋梗塞(RR 0.76、0.60~0.96、P=0.021)、ステント血栓症(RR 0.64、0.46~0.89、P=0.011)、脳卒中(RR 0.66、0.48~0.91、P=0.010)、軽度出血(RR 0.78、0.67~0.92、P=0.0030)が少なかった。個別化抗血小板療法と標準的抗血小板療法で、全死因死亡と大出血のリスクに差はなかった。戦略によって転帰にばらつきが見られ、escalation法では安全性を損なうことなく虚血性事象が有意に減少し、de-escalation法では有効性を損なうことなく出血が有意に減少した。 【解釈】個別化抗血小板療法によって良好な安全性が保たれたまま複合評価項目および各有効性評価項目が改善し、軽度出血の出血も減少した。PCIを受ける患者の薬剤選択を最適化するため、血小板機検査または遺伝子検査を用いることが支持される。 第一人者の医師による解説 抗血小板療法のオーダーメード化には 日本でもRCTによる費用対効果分析が必要 河村 朗夫 国際医療福祉大学医学部循環器内科主任教授 MMJ. October 2021;17(5):143 冠動脈インターベンション(ステント留置など)における抗血小板療法は、死亡、心筋梗塞などの血栓性合併症を予防する優れた効果を示す一方、ときに重篤な出血性合併症を伴う。血栓性合併症と出血性合併症の双方を予防することはしばしば二律背反となる。これらの合併症の頻度は、抗血小板療法の内容のみならず、患者の体格、人種、性別などさまざまな要素により規定されるため、個々の患者における最適な抗血小板療法を決定することは重要な課題である。 本論文は、11件の無作為対照試験(RCT)と3件の観察研究から得た20,743人のデータを用いた、これまでで最大規模となるメタアナリシスの報告である。患者の血小板機能検査、あるいはクロピドグレルの代謝に影響を及ぼすことが知られているCYP2C19の遺伝子多型検査のいずれかを用いて、抗血小板療法を患者ごとに強化あるいは減弱することで、主要心血管イベントと出血を予防することができるかどうかが検証された。抗血小板療法の強化が行われた10件の研究では以下のいずれかが行われた。すなわち、クロピドグレルをプラスグレルかチカグレロルへ変更、クロピドグレルの倍量投与、あるいはシロスタゾールの追加である。一方、抗血小板療法を減弱した4件の研究では、プラスグレルやチカグレロルがクロピドグレルへ変更された。その結果、少なくとも6カ月以上の追跡期間において、個別化抗血小板療法は主要心血管イベント(相対リスク[RR],0.78;P=0.015)と、統計学的有意差には至らないものの出血も減少させた(RR, 0.88;P=0.069)。 今回のメタアナリシスには、アジア(中国、韓国)から発表されたRCTが4件、観察研究が2件含まれている。これらの報告ではいずれも抗血小板療法の強化が行われているのが興味深い。アジア人ではCYP2C19の活性が欠損する遺伝子多型の頻度が高く、クロピドグレルが活性体にならず効果が低下する可能性があることと関連していると思われるが、日本でも同様の結果が得られるのかどうかはいまだ議論の余地がある。本論文の対象研究で用いられた血小板機能測定や遺伝子多型検査は、日常診療では行われていない。最新の日米欧のガイドラインでもこれらの検査をルーチンに行うことは推奨されていない。今後さらなる知見が得られると見込まれるが、検査に要する時間や費用を考慮すると、費用対効果分析が欠かせない。
グリセミック指数、グリセミック負荷および心血管疾患と死亡
グリセミック指数、グリセミック負荷および心血管疾患と死亡
Glycemic Index, Glycemic Load, and Cardiovascular Disease and Mortality N Engl J Med. 2021 Apr 8;384(14):1312-1322. doi: 10.1056/NEJMoa2007123. Epub 2021 Feb 24. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】グリセミック指数と心血管疾患の関連性に関するデータのほとんどが高所得の欧米諸国の集団から得られたものであり、低所得または中所得の非欧米諸国から得られた情報はほとんどない。この隔たりを埋めるため、地理的に多様な大規模集団からデータを得る必要がある。 【方法】この解析は5大陸に住む35~70歳の参加者13万7,851例を対象とし、中央値9.5年にわたり追跡した。国別の食物摂取頻度調査票を用いて栄養摂取量を求め、炭水化物食品7分類の摂取量に基づきグリセミック指数とグリセミック負荷を推定した。多変量Cox frailty modelを用いてハザード比を算出した。主要評価項目は、主要心血管事象(心血管死、非致命的心筋梗塞、脳卒中、心不全)または全死因死亡の複合とした。 【結果】対象集団では、追跡期間中に死亡8,780件、主要心血管事象8,252件が発生した。グリセミック指数の最低五分位群と最高五分位群を比較する広範な調整を実施した後、心血管疾患の既往がある参加者(ハザード比1.51;95%CI、1.25~1.82)とない参加者(ハザード比1.21;95%CI、1.11~1.34)ともにグリセミック指数の高い食事で主要心血管事象または死亡のリスクが上昇することが明らかになった。主要評価項目の構成要素のうち、グリセミック指数高値には心血管死のリスク上昇との関連も認められた。グリセミック負荷に関する結果は、ベースラインで心血管疾患がある参加者ではグリセミック指数の結果とほぼ同じであったが、この関連は心血管疾患がない参加者では有意ではなかった。 【結論】本試験では、グリセミック指数の高い食事に心血管疾患および死亡のリスク上昇との関連が認められた。 第一人者の医師による解説 食事が健康に与える影響の解析において GIとGLは有用な指標 宮下 和季 慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科特任准教授 MMJ. October 2021;17(5):159 グリセミックインデックス(GI)は、ある食品を摂取した後の血糖上昇を示す指標である。ブドウ糖50gを摂取した後の血糖値 -時間曲線下面積(AUC)を100として、一定量の炭水化物(50g)を含む食品を摂取した際のAUCがGIと定義される。食後血糖が上昇しやすく長時間高血糖が持続する食品はGI値が高くなり、一般には炭水化物の中でブドウ糖を多く含む食品が高 GIとなる。糖尿病の食事管理におけるGIの有用性が1998年に報告され、食品の質を表す指標としてGIが注目されるようになった。グリセミックロード(GL)は実際に食べる量を考慮した糖負荷の指標で、GI値に各食品の炭水化物量をかけ合わせて算出する。食事が血糖値に与える影響の予測指標として、摂取カロリーを勘案するGLは、GIよりも有用と考えられている。 血糖に影響を与えにくい低 GI食により糖尿病の発症リスクが低下するとの報告があるものの、心血管病の発症や全死亡に与える影響についてはエビデンスに乏しい。GI値と心血管病の関連に関するデータは、欧米諸国から得られたものであり(1),(2)、発展途上国のデータはほとんどない。そこで本研究では、5大陸20カ国に住む35~70歳の14万人弱を対象に、中央値9.5年の追跡期間で、GI値、GL値と、主要心血管イベントの発症(心血管死、非致死的心筋梗塞、脳卒中、心不全)、全死亡との関連を検討した。質問票を用いて食事摂取量を決定し、炭水化物を7つのカテゴリーに分類してGI値とGL値を推定した。多変量 Cox解析により、GI値とGL値が心血管病および全死亡に与える影響を算出した。 GI値、GL値により参加者を5段階に分けて、広範な調整を行い検討したところ、高 GI食は、心血管病の既往や体格指数(BMI)にかかわらず、世界のどの地域においても、心血管病と全死亡のリスクを高めた。心血管病の既往のある母集団では、高GI食に伴う心血管病発症または死亡のハザード比は1.51(95%信頼区間[CI], 1.25~1.82)であった。GL値も心血管病および全死亡のリスクと同程度に関連していたが、心血管病の既往のない参加者では関連性が有意ではなかった。 以上の結果より、これまでほとんど検討されていなかった発展途上国においても、高 GI食が心血管病および全死亡のリスクとなることが明らかとなった。このことからGIとGLは、食事が健康に与える影響の解析において、有用な指標と判断された。高 GI / GL食を摂取すると、低 GI / GL食よりも、心血管病と全死亡のリスクが高まることが示された。 1. Levitan EB, et al. Am J Clin Nutr. 2007;85(6):1521-1526. 2. Nagata C, et al. Br J Nutr. 2014;112(12):2010-2017.
フロセミドの静脈注射ができない場合【在宅でできる小技シリーズ】
フロセミドの静脈注射ができない場合【在宅でできる小技シリーズ】
Point 用法用量は1日1回20mgを「静脈注射」または「筋肉内注射」 海外ではフロセミドの皮下注射も行われている 海外では持続皮下注射するポンプが使われることもある その場合に使われる薬剤はpHが調整されている 結論 ラシックス注は添付文書を読むと筋肉注射も可能で、静注が難しい場合に選択肢として考えておこう 参考 フロセミド注20mg(先発)の添付文書 https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2139005F1052_1_03/ Subcutaneous Furosemide in Heart Failure: Pharmacokinetic Characteristics of a Newly Buffered Solution https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2452302X17302632?via%3Dihub ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら { "@context": "http://schema.org", "@type": "VideoObject", "name": "フロセミドの静脈注射ができない場合【在宅でできる小技シリーズ】", "description": "腕のむくみでフロセミドの点滴NG どうする?", "thumbnailUrl": "https://xmdio-cms.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/hpkr_thum_2_211207_534550257d.png", "uploadDate": "2021-11-24T08:00:00+09:00", "duration": "PT4M28S", "embedUrl": "https://www.youtube.com/embed/KJdqlJdKCto" }
循環器専門医からみる「経口強心薬」の有効性【在宅でできる小技シリーズ】
循環器専門医からみる「経口強心薬」の有効性【在宅でできる小技シリーズ】
Point 血管拡張薬や利尿薬を合わせて使っても「良い状態」が保てない時に使う 強心薬は「心臓を強く動かす」「循環を補助する」ための薬。使用によって不整脈が増えるので注意する 大規模スタディでのエビデンスはない 使用することでQOLが上がったり、余命が延びたというエビデンスはない。ただ、個人的な経験では、使用によって動けるようになった患者もいた 結論 エビデンスは確立していないものの、QOLを改善させる、かも。 ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら { "@context": "http://schema.org", "@type": "VideoObject", "name": "循環器専門医からみる「経口強心薬」の有効性【在宅でできる小技シリーズ】", "description": "経口強心薬 アリ? ナシ?", "thumbnailUrl": "https://xmdio-cms.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/hpkr_thum_4_211213_s_f75e6181d4.png", "uploadDate": "2022-01-11T08:00:00+09:00", "duration": "PT3M37S", "embedUrl": "https://www.youtube.com/embed/sSsmVggID6c" }
フロセミドが効かない場合に疑うべきことは?【在宅でできる小技シリーズ】
フロセミドが効かない場合に疑うべきことは?【在宅でできる小技シリーズ】
Point ・フロセミドが効かない時は4つのことをチェックしよう ①アルブミンの値は十分か? →フロセミドは血中でアルブミンと結合して体を巡る ②腎血流は十分か? →フロセミドは腎臓のヘンレループに作用する薬。血流が十分でないと届かない ③腎機能障害はないか? →クレアチニン値をチェック。フロセミド投与量=クレアチニン値×1アンプル ④内服薬の場合は、注射or他の薬に切り替え →フロセミドの腸管からの吸収が落ちている可能性がある。他の薬の候補はトラセミドやアゾセミド 結論 ①低栄養 ②心拍出量の低下 ③腎機能の低下 ④消化管の吸収障害を考える ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら { "@context": "http://schema.org", "@type": "VideoObject", "name": "フロセミドが効かない場合に疑うべきことは?【在宅でできる小技シリーズ】", "description": "フロセミド 絶対に押さえておくべき4つのポイント", "thumbnailUrl": "https://xmdio-cms.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/hpkr_thum_3_211207_s_9f645bc1f4.png", "uploadDate": "2022-01-08T08:00:00+09:00", "duration": "PT4M06S", "embedUrl": "https://www.youtube.com/embed/B48yhFwmzLs" }
ST上昇は心筋梗塞を疑う 若年なら早期再分極を考えよう
ST上昇は心筋梗塞を疑う 若年なら早期再分極を考えよう
Point v2、v3のstが確かに少し上昇している⇒ v2、v3は2m以上、それ以外は1m以上の場合に心筋梗塞を疑う 20代の心筋梗塞は極めてまれ⇒ 若年男性のST上昇は、無症候性の早期細分極を疑う 結論 ST上昇はまず心筋梗塞を疑って動くこと、特にリスクや症状のない若年のST上昇では良性早期再分極症候群を考える 参考 急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版) JCS 2018 Guideline on Diagnosis and Treatment of Acute Coronary Syndrome https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_kimura.pdf ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
心エコーから見る病態と治療方針
心エコーから見る病態と治療方針
Point EFが40%を切る場合は「HFrEF(ヘフレフ)」であり、ACE阻害薬やMRA(スピロノラクトン等)の追加適応となる HFrEFはペースメーカー心の影響や高血圧性心臓病などが関係している 肺エコーのBラインの線が5本位見られたら、肺水腫を疑うが、息切れ・浮腫・体重増加・肺うっ血等が重なってきた場合に、総合的に心不全を判断する 以下のような自覚症状がある場合に、利尿薬の増量が必要 ・平地歩行でも息が上がる(NYHA Ⅲ) ・体重が日に日に増えていく ・浮腫が悪化していく 結論 ペースメーカを長期留置している人は心機能が低下することがあり、息切れなど心不全症状があれば精査・治療を行う 参考 従来はLVEFの測定にMモード法が用いられてきましたが、局所の二点間からの情報で左室全体の心機能を推定するため,局所壁運動異常や左室伝導障害を認める症例では 測定誤差を生じ、正確性に劣ると考えられるようになっています 現在最も推奨されるLVEFの測定方法は,2D断層心エコー法を用い、左室容積をベースとした disk summation法(modified Simpson法)です。その際には,心尖部四腔像と二腔像の二断面から左室容積を求めてLVEFを算出します 日本で発売されているポケットサイズのエコーでは2点間測定しかできないものが多く、正確な判断を行うにはより高性能なエコーが必要です 2021年改訂版 循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Ohte.pdf ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
脳卒中の予防を目的とした心臓手術中の左心耳閉鎖術
脳卒中の予防を目的とした心臓手術中の左心耳閉鎖術
Left Atrial Appendage Occlusion during Cardiac Surgery to Prevent Stroke N Engl J Med. 2021 Jun 3;384(22):2081-2091. doi: 10.1056/NEJMoa2101897. Epub 2021 May 15. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】手術による左心耳の閉鎖は、心房細動患者の虚血性脳卒中を予防すると言われているが、証明されていない。この手技は、別の理由による心臓手術中に施行することが可能である。 【方法】別の理由による心臓手術を予定しており、CHA2DS2-VAScスコア(0~9、スコアが高いほど脳卒中リスクが高いことを示す)が2点以上の心房細動を有する患者を対象に、多施設共同無作為化試験を実施した。患者を無作為化により、手術中に左心耳閉鎖術を施行するグループと左心耳閉鎖術を施行しないグループに割り付けた。全患者に追跡期間中、経口抗凝固薬など通常の治療を実施する予定とした。主要評価項目は、虚血性脳卒中(神経画像検査で所見がみられる一過性脳虚血発作を含む)または全身性塞栓症の発生とした。患者、試験担当者および(外科医を除く)プライマリケア医に試験群の割り付けを伏せた。 【結果】主解析は、閉鎖群2,379例、非閉鎖群2,391例を対象とした。平均年齢は71歳、CHA2DS2-VASc平均スコアは4.2点だった。参加者を平均3.8年間追跡した。92.1%が割り付けた手術を受け、76.8%が3年時点で経口抗凝固薬服用を継続していた。閉鎖群の114例(4.8%)、非閉鎖群の168例(7.0%)が脳卒中または全身性塞栓症を発症した(ハザード比、0.67;95%CI、0.53~0.85;P=0.001)。周術期出血、心不全または死亡の発生率には両試験群間に有意差は認められなかった。 【結論】心臓手術を施行した心房細動患者で、ほとんどが経口抗凝固薬の服用を継続しており、虚血性脳卒中または全身性塞栓症のリスクは心臓手術中に左心耳閉鎖術を同時に施行した方が左心耳を閉鎖しないよりも低かった。 第一人者の医師による解説 左心耳閉鎖術は抗凝固療法の脳梗塞予防効果を増強 さらなる研究を期待 浅井 徹 順天堂大学医学部心臓血管外科学教授 MMJ. February 2022;18(1):9 心房細動は高齢者によくみられ、脳梗塞の原因のうち約25%を占めている。心原性脳塞栓症の多くは心房細動に起因し、左心房にある左心耳が血栓塞栓物の発生部位と考えられている(1)。経口抗凝固薬は左心耳内の血栓形成抑制効果を有する安全な薬剤であり、心房細動のある患者で脳梗塞発症率をおよそ3分の2に低下させることが明らかになっている。しかし実際には、投薬の中断や用量のコントロールが不十分であるといった問題がある。これに対し、左心耳閉鎖術は心房細動合併患者の脳梗塞発症リスクを半永久に低下させる効果が期待されているが、ランダム化試験ではまだ証明されていない。 本論文は、心臓手術を受ける患者のうち心房細動を有するCHA2DS2-VAScスコア2以上の患者を対象に追加手技として左心耳閉鎖術の実施群(2,379人)と非実施群(2,391人)で術後遠隔期までの脳梗塞発症を比較した多施設ランダム化試験(LAAOS III試験)の報告である。左心耳閉鎖術の方法は、切除閉鎖(推奨)、ステイプラーによる切除、デバイスによる閉鎖、または左心房内からの閉鎖が用いられ、術中経食道心エコーによる確認が推奨された。手術後の患者は経口抗凝固薬を含めた通常の薬物療法を受けた。平均追跡期間は3.8年、術後3年の時点で全体の76.8%の患者が経口抗凝固療法を継続していた。その結果、主要評価項目である脳梗塞または他臓器の塞栓症の発症率は、左心耳閉鎖術実施群4.8%、非実施群7.0%であった(ハザード比 , 0.67;95%信頼区間 , 0.53~0.85;P=0.001)。また、周術期の出血合併症、心不全、死亡率で両群間に有意差はなかった。著者らは、心房細動を有する患者が心臓手術を受ける際に左心耳閉鎖術を併施した場合、併施しない場合と比較して、術後の脳梗塞または他臓器の塞栓症の発症リスクが低くなると結論づけている。 左心耳は心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の産生部位であり、左心耳の切除によって腎における塩と水の排出が損なわれ心不全が増悪する懸念があるが、今回の試験では術後早期も遠隔期も心不全による入院や死亡率に関して両群間で差を認めなかった。LAAOS III試験は、左心耳閉鎖術自体と経口抗凝固療法を比較した研究ではないため、左心耳閉鎖術が経口抗凝固療法の代用となりうるとは解釈できないが、左心耳閉鎖術が経口抗凝固療法の脳梗塞発症率をさらに3分の2ほどに低下させる効果があることを示しており、今後のさらなる研究結果が待たれるところである。 1. Blackshear JL, et al. Ann Thorac Surg. 1996;61(2):755-759.
心不全のため入院した高齢患者の身体リハビリテーション
心不全のため入院した高齢患者の身体リハビリテーション
Physical Rehabilitation for Older Patients Hospitalized for Heart Failure N Engl J Med. 2021 Jul 15;385(3):203-216. doi: 10.1056/NEJMoa2026141. Epub 2021 May 16. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】急性非代償性心不全のため入院した高齢患者は、身体的フレイル、生活の質の低下、回復の遅れおよび再入院の頻度が高い。この集団の身体的フレイルに対処する介入方法が十分に確立されていない。 【方法】多施設共同無作為化比較試験を実施し、4つの身体機能(筋力、平衡性、可動性および持久力)の強化を目的とした移行期の個別化段階的リハビリテーションによる介入を評価した。介入は、心不全による入院中または入院早期に開始し、退院後も36回の外来リハビリを実施した。主要評価項目は、3ヵ月後のShort Physical Performance Batteryスコア(総スコア0~12点、低スコアほど身体機能障害が重度であることを示す)とした。副次評価項目は、6ヵ月後の原因を問わない再入院率とした。 【結果】計349例を無作為化し、175例をリハビリテーション介入群、174例を通常治療(対照)群に割り付けた。介入前は両群の患者ともに身体機能が顕著に低下しており、97%がフレイルまたはフレイル予備軍であり、平均併存疾患数は両群ともに5疾患であった。介入群の患者継続率が82%であり、リハビリへの参加率が67%であった。介入前のShort Physical Performance Batteryスコアおよびその他の患者データを調整すると、3ヵ月後のShort Physical Performance Batteryスコアの最小二乗平均値(±SE)スコアは、介入群が8.3±0.2、対照群が6.9±0.2であった(平均群間差、1.5;95%信頼区間[CI]、0.9~2.0、P<0.001)。原因を問わない6ヵ月後の再入院率は、介入群が1.18、対照群が1.28であった(率比、0.93;95%CI、0.66~1.19)。介入群の21例(15例が心血管疾患に起因)、対照群の16例(8例が心血管疾患に起因)が死亡した。あらゆる原因による死亡率は、介入群が0.13、対照群が0.10であった(率比、1.17;95%CI、0.61~2.27)。 【結論】急性非代償性心不全のため入院したさまざまな高齢患者の集団で、多数の身体機能強化を目的とした移行期の個別化段階的リハビリテーションによる介入を早期に開始することによって、通常治療よりも身体機能が大きく改善した。 第一人者の医師による解説 死亡率と再入院率の改善には在宅医療を含めた多角的治療戦略が必要 酒向 正春 ねりま健育会病院院長 MMJ. February 2022;18(1):10 急性非代償性心不全で入院する高齢患者では、身体的フレイル、生活の質(QOL)の低下、回復の遅延、繰り返す再入院が高頻度にみられる(1)。しかし、急性心不全の高齢患者群の身体的フレイルに対するリハビリテーション(以下、リハ)治療の有効性は十分に確立されていない(2)。そこで本論文の著者らは、その有効性を検討するために米国で多施設ランダム化対照試験(REHAB-HF試験)を行った。 本試験では、入院患者27,300人のうち適格基準を満たした急性非代償性心不全の高齢患者349人が積極的リハ治療群175人(平均73.1歳)と通常ケア(対照)群174人(平均72.7歳)に無作為に割り付けられ、比較・評価された。積極的リハ治療群では、筋力強度、バランス、可動性、体力耐久性の4つの機能を強化するために、患者別のリハ介入が計画された。その介入は入院後早期に開始され、入院中継続し、退院後も外来で1回60分のセッションが週3日、12週間(計36回)継続された。主要評価項目は3カ月目のShort Physical Performance Battery(SPPB)のスコア(0から12の範囲で、スコアが低いほど重度の身体機能障害を示す)、副次評価項目は6カ月間の原因を問わない再入院率とされた。 両群は、入院時に身体機能が著しく低く、97%がフレイル状態かプレフレイル状態であり、平均5つの合併症を認めた。積極的リハ治療群の入院治療達成率は82%であり、外来を含めた治療順守率は67%であった。入院時 SPPBスコアの平均± SDは積極的リハ治療群6.0±2.8、対照群6.1±2.6であったが、3カ月の時点で積極的リハ治療群8.3±0.2、対照群6.9±0.2(群間差 , 1.5;95%信頼区間[CI], 0.9 ~ 2.0;P<0.001)となり、積極的リハ治療群で有意な改善が認められた。さらに、積極的リハ治療群では歩行バランス・速度・距離、フレイル、QOL、うつ状態が改善する傾向を示した。6カ月間の再入院件数は積極的リハ治療群194件、対照群213件(発生率比 , 0.93;95% CI, 0.66 ~ 1.19)、全死亡数は積極的リハ治療群21人(心血管系原因15人)、対照群16人(心血管系原因8人)(発生率比 , 1.17;95% CI, 0.61~2.27)であり、いずれも有意差は認められなかった。 以上より、急性非代償性心不全で入院した多様な高齢患者群に対して、入院早期から継続的に患者別に調整された積極的リハ治療を行うことにより身体機能面が大きく改善する有効性が明らかになった。死亡率と再入院率の改善には、在宅医療を含めた多角的治療戦略が必要である。 1. Warraich HJ, et al. Circ Heart Fail. 2018;11(11):e005254. 2. Mudge AM, et al. JACC Heart Fail. 2018;6(2):143-152.
大血管または小血管の病変に起因する脳卒中患者の心房細動検出に用いる長期心臓モニタリングと通常治療の効果の比較:STROKE-AF無作為化試験
大血管または小血管の病変に起因する脳卒中患者の心房細動検出に用いる長期心臓モニタリングと通常治療の効果の比較:STROKE-AF無作為化試験
Effect of Long-term Continuous Cardiac Monitoring vs Usual Care on Detection of Atrial Fibrillation in Patients With Stroke Attributed to Large- or Small-Vessel Disease: The STROKE-AF Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jun 1;325(21):2169-2177. doi: 10.1001/jama.2021.6470. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】大血管または小血管の病変に起因する虚血性脳卒中患者では、心房細動(AF)のリスクが高いと考えられておらず、この集団でのAF発症率は明らかになっていない。 【目的】12ヵ月間の追跡で検討した大血管または小血管の病変に起因する虚血性脳卒中患者のAF検出で、長期心臓モニタリングが通常治療より有効性が高いかどうかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】STROKE-AF試験は無作為化(1対1)多施設共同(米国の33施設)臨床試験であり、2016年4月から2019年7月までに患者496例を登録し、2020年8月まで主要評価項目を追跡した。60歳以上の患者または脳卒中の危険因子が1つ以上ある50~59歳の患者で、植込み型心臓モニタ(ICM)植込み前10日以内に大血管または小血管の病変に起因する指標となる脳卒中を発症した患者を適格とした。 【介入】患者を無作為化により、指標となる脳卒中から10日以内にICMを植え込む介入群(242例)、12誘導心電図やホルター心電図によるモニタリング、遠隔モニタリング、発作時心電図記録計などの施設ごとの標準治療を実施する対照群(250例)に割り付けた。 【主要評価項目】12ヵ月間での30秒以上持続したAFの発症。 【結果】無作為化した492例(平均[SD]年齢、67.1[9.4]歳;女性185例[37.6%])のうち、417例[84.8%]が12ヵ月間の追跡を終了した。CHA2DS2-VASc(うっ血性心不全、75歳以上、糖尿病、脳卒中または一過性脳虚血発作、血管疾患、65~74歳、性別)スコア中央値(四分位範囲)は5(4~6)であった。12ヵ月時点のAFの検出率は、ICM群の方が対照群よりも有意に高かった(27例[12.1%] vs 4例[1.8%];ハザード比、7.4[95%CI、2.6~21.3];P<0.001)。ICMを植え込んだICM群の221のうち、4例(1.8%)にICM処置に起因する有害事象が発現した(植込み部位感染1例、切開部出血2例、挿入部痛1例)。 【結論および意義】大血管または小血管の病変に起因する虚血性脳卒中患者にICMモニタリングを植え込んだ方が通常治療よりも12ヵ月間でAFを多く検出した。 第一人者の医師による解説 臨床的に将来の心原性脳塞栓症の発症予防に寄与するか否かはさらなる研究が必要 秋山 久尚 聖マリアンナ医科大学内科学(脳神経内科)病院教授 MMJ. February 2022;18(1):8 潜因性脳卒中・脳梗塞(cryptogenic stroke)、塞栓源不明脳塞栓症(ESUS)患者における心房細動(AF)の検出に長時間植込み型心臓モニター(ICM)が有用であることはCRYSTAL-AF試験で報告され、現在の治療ガイドラインでも継続的な心臓モニターが推奨されるに至っている。一方、大血管アテローム硬化(以下、アテローム血栓性脳梗塞)または小血管閉塞(以下、ラクナ梗塞)での発症機序は一般に動脈硬化、リポヒアリノーシスとされ、AFの寄与が高くないという考えから、長時間心臓モニターを含めたAFの検索は通常行われず、AFの検出(率)とその臨床的意義は不明である。 今回報告されたSTROKE-AF試験では、米国の包括的脳卒中センター 33施設において、2016年4月~ 2019年7月にかけてTOAST分類により心原性脳塞栓症、cryptogenic stroke、ESUSではなく、アテローム血栓性脳梗塞またはラクナ梗塞と診断された60歳以上、または50 ~ 59歳で、1つ以上の脳卒中危険因子(うっ血性心不全、高血圧、糖尿病、90日以上前の脳梗塞、その他の虚血性血管疾患など)を有する患者496人のうち4人を除外した492人(平均67.1歳、女性37.6%)を対象として登録している。これらを介入群と対照群1:1に無作為化し、介入群(242人)ではアテローム血栓性脳梗塞またはラクナ梗塞の発症後10日以内に長時間 ICM(Reveal LINQ™[Medtronic社])を植込み、対照群(250人)では短時間心電波形モニター(12誘導心電図、ホルタ心電図、テレメトリーまたはイベントレコーダー)を行い、2020年8月まで(平均331.4±90.9日)の観察期間中、どちらがAF(30秒以上持続)を検出する上で有用かを検討した。 その結果、12カ月間の追跡期間中、ICM群では27人(12.1%)、対照群では4人(1.8%)にAFが検出され(ハザード比 , 7.4)、検出時期の中央値はそれぞれ99日目と181日目、AF最長持続時間の中央値はICM群で88分であった。アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞の2病型群でのサブグループ解析では、AF検出率もICM群(それぞれ11.7%、12.6%)、対照群(2.3%、1.0%)と病型にかかわらずICM群の方が有意に高値であったが、ICM群の両病型間では有意差はなかった。また事後解析で、12カ月間における脳梗塞再発率は介入群と対照群との間で有意差はなかった。 本試験では、アテローム血栓性脳梗塞またはラクナ梗塞でのAF検出においても長時間 ICMが有用なことが明らかとなった。長時間心臓モニタリングの汎用はAF検出の重要性に新しい視点を示したが、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞におけるAF検出が、臨床的に将来の心原性脳塞栓症の発症予防に寄与するか否かはさらなる研究が必要である。
動脈血栓塞栓症のリスクが高い患者に用いる低分子ヘパリンによる術後橋渡し療法(PERIOP2試験):二重盲検無作為化比較試験
動脈血栓塞栓症のリスクが高い患者に用いる低分子ヘパリンによる術後橋渡し療法(PERIOP2試験):二重盲検無作為化比較試験
Postoperative low molecular weight heparin bridging treatment for patients at high risk of arterial thromboembolism (PERIOP2): double blind randomised controlled trial BMJ. 2021 Jun 9;373:n1205. doi: 10.1136/bmj.n1205. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心房細動患者および機械弁を留置した患者を対象に、待期手術のためにワルファリン投与を一時的に中止した場合のダルテパリンによる術後橋渡し療法について、プラセボと比較した有効性および安全性を明らかにすること。 【デザイン】前向き二重盲検無作為化比較試験。 【設定】2007年2月から2016年3月までのカナダおよびインドの血栓症研究機関10施設。 【参加者】手術前にワルファリンを一時中止する必要がある18歳以上の心房細動患者および機械弁を留置した患者計1,471例。 【介入】手術後、無作為化によりダルテパリン群(821例;1例が無作為化直後に同意撤回)またはプラセボ群(650例)に割り付けた。 【主要評価項目】術後90日以内の主要な血栓塞栓症(脳卒中、一過性脳虚血発作、近位深部静脈血栓症、肺塞栓症、心筋梗塞、末梢血管塞栓症または血管死)およびInternational Society on Thrombosis and Haemostasis基準に基づく大出血。 【結果】術後90日以内の主要な血栓塞栓症発生率は、プラセボが1.2%(650例中8件)、ダルテパリン群が1.0%(820例中8件)であった(P=0.64、リスク差-0.3%、95%CI -1.3~0.8)。大出血発生率は、プラセボ群が2.0%(650例中13件)、ダルテパリン群が1.3%(820例中11件)であった(P=0.32、同-0.7%、-2.0~0.7)。結果は、心房細動群および機械弁群で一致したものであった。 【結論】手術のためワルファリンを一時的に中止した心房細動患者および機械弁留置患者に術後のダルテパリンによる橋渡し療法を実施しても主要な血栓塞栓症予防に対して有意な便益は認められなかった。 第一人者の医師による解説 術前にヘパリン置換を行った場合機械弁患者群でも術後ヘパリン置換は血栓塞栓症予防に必要ないことを示唆 松下 正 名古屋大学医学部附属病院輸血部教授 MMJ. February 2022;18(1):20 心房細動や機械式心臓弁を有し、観血的手技のためにワルファリンの中断が必要な場合、ヘパリンによるブリッジング(いわゆるヘパリン置換)が有益であるかどうかは議論が続いている。2015年発表のBRIDGE試験では、低分子ヘパリン(LMWH)によるブリッジングは必要ないとの結論に至ったが(1)、同試験の対象者として機械弁や最近の血栓症、大出血既往や高出血リスク手技、腎機能障害など複雑なケアを受ける患者は除外されていた。本論文の著者らは、今回報告されたPERIOP2試験に先立つ単群多施設共同パイロット試験(2)において、LMWH(ダルテパリン;日本ではフラグミン®として発売。ただし保険適用は体外循環時血液凝固防止[透析]と播種性血管内凝固症[DIC]のみ)によるブリッジングを検討し、手技後の血栓症発生(発生率3.1%)の75%は手技後の出血事象により抗凝固療法を中止した患者に発生しており、一方で術前の投与は安全であると考えられたことから、今回術前にLMWHを投与し、術後のLMWHもしくはプラセボ投与による、出血イベントおよび血栓塞栓症の発生率を比較する無作為化対照試験を実施した。なおこの試験の対象者には、BRIDGE試験で除外された機械弁患者は含まれていたが、複数の機械弁、機械弁ありで脳卒中または一過性虚血発作歴のある患者は除外された。そのほか、活動性出血、血小板数10万未満、脊椎や脳外科手術、腎機能障害患者は本試験でも除外された。 対象は心房細動または機械式心臓弁を有する18歳以上の患者1,471人で、CHADS2スコアの平均は2.42、患者の41.2%が3.0以上であった。アスピリンは24.5%の患者が服用していた。手術後90日以内の国際血栓止血学会(ISTH)基準による重大な血栓塞栓症の発生率はプラセボ群1.2%(8/650)、ダルテパリン群1.0%(8/820)で有意差はなく(リスク差-0.3%;95%信頼区間[CI],-1.3 ~ 0.8;P=0.64)、大出血の発生率もプラセボ群2.0%(13/650)、ダルテパリン群1.3%(11/820)と有意差がなかった(リスク差-.7;95% CI,-2.0~0.7;P=0.32)。この結果は心房細動群と機械式心臓弁群でも一貫していた。機械弁患者には依然としてビタミン K拮抗薬が抗凝固薬として選択されており、この患者群でも重大な血栓塞栓症の予防に術後ブリッジングが必要ないことが示された。 1. Douketis JD, et al. N Engl J Med. 2015;373(9):823-833. 2. Kovacs MJ, et al. Circulation. 2004;110(12):1658-1663.
2型糖尿病に用いる新規デュアルGIP/GLP受容体作動薬tirzepatideの有効性および安全性(SURPASS-1):二重盲検無作為化第III相試験
2型糖尿病に用いる新規デュアルGIP/GLP受容体作動薬tirzepatideの有効性および安全性(SURPASS-1):二重盲検無作為化第III相試験
Efficacy and safety of a novel dual GIP and GLP-1 receptor agonist tirzepatide in patients with type 2 diabetes (SURPASS-1): a double-blind, randomised, phase 3 trial Lancet. 2021 Jul 10;398(10295):143-155. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01324-6. Epub 2021 Jun 27. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】医療が進歩したが、2型糖尿病患者の多くが治療目標を達成していない。そのため、新たな治療法の開発が求められている。食事療法および運動療法のみではコントロール不十分な2型糖尿病患者を対象に、新たなグルコース依存性インスリン刺激性ポリペプチド(GIP)受容体およびGLP-1受容体作動薬、tirzepatide単剤療法のプラセボと比較した有効性、安全性および忍容性を評価することを目的とした。 【方法】インド、日本、メキシコおよび米国の医療研究センターおよび病院計52施設で40週間にわたる二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験を実施した(SURPASS-1試験)。食事療法と運動療法のみではコントロール不十分な2型糖尿病があり、糖尿病の注射薬治療歴がない成人患者(18歳以上)を対象とした。コンピュータで生成したランダム配列を用いて、患者をtirzepatide(5mg、10mgまたは15mg)週1回投与とプラセボに1対1対1対1の割合で割り付けた。患者、治験担当医師、治験依頼者に治療の割り付けを伏せた。主要評価項目は、40週時点の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の治療前からの平均変化量とした。この試験はClinicalTrials.govにNCT03954834として登録されている。 【結果】2019年6月3日から2020年10月28日までに適格性を評価した705例のうち、478例(治療前の平均HbA1c値7.9%[63mmol/mol]、年齢54.1[SD 11.9]歳、女性231例[48%]、糖尿病罹病期間4.7年、BMI 31.9kg/m2)を無作為化によりtirzepatide 5 mg(121例[25%])、tirzepatide 10 mg(121例[25%])、tirzepatide 15 mg(121例[25%])、プラセボ(115例[24%])に割り付けた。66例(14%)が試験薬を中止し、50例(10%)が早期に試験を中止した。40週時点で、HbA1cの治療前からの変化量、空腹時血糖、体重、HbA1cの目標値7.0%未満(<53mmol/mol)達成および5.7%未満(<39mmol/mol)達成について、tirzepatide全用量のプラセボに対する優越性が示された。tirzepatide 5mg群に1.87%(20 mmol/mol)、10mg群に1.89%(21mmol/mol)、15mg群に2.07%(23mmol/mol)の治療前からの平均HbA1c値低下がみられたが、それに対してプラセボ群に0.04%の増加(+0.4mmol/mol)がみられた。その結果、プラセボと比較した治療差の推定値は、tirzepatide 5mg群が-1.91%(-21mmol/mol)、10mg群が-1.93%(-21mmol/mol)、15mgが-2.11%(-23 mmol/mol)であった(いずれもP<0.0001)。tirzepatide群の方がプラセボ群よりもHbA1c目標値7.0%未満(<53 mmol/mol;87~92% vs 20%)および6.5%未満(<48mmol/mol;81~86% vs 10%)を達成した患者の割合が多く、tirzepatide群の31–52%およびプラセボ群の1%が目標値5.7%未満(<39mmol/mol)達成した。tirzepatideにより、用量依存性に7.0~9.5kgの体重減少がみられた。tirzepatide群に最も多くみられた有害事象は、軽度ないし中等度で一過性の消化管事象であり、悪心(12~18% vs 6%)、下痢(12~14% vs 8%)、嘔吐(2~6% vs 2%)などがあった。tirzepatide群には、臨床的に重要ではない低血糖(54mg/dL[3mmol/L]未満)または重度の低血糖は報告されなかった。プラセボ群に死亡が1件発生した。 【解釈】tirzepatideにより、低血糖リスクが上昇することなく、血糖コントロールおよび体重に強固な改善が認められた。安全性はGLP-1受容体作動薬のものと一致しており、2型糖尿病の治療にtirzepatide単剤療法を用いうる可能性を示唆するものである。 第一人者の医師による解説 低血糖を伴わずに血糖を正常化させることで心血管イベント低減を期待 篁 俊成 金沢大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学教授 MMJ. February 2022;18(1):13 現在臨床応用されているグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1RA)は血糖降下作用と体重減少作用を有する。同じインクレチンであるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)もインスリン分泌を促進し、視床下部の受容体を介して体重を減少させるが、2型糖尿病におけるインスリン分泌促進作用は明確でない。食事誘発性肥満モデルマウスでは、GLP-1とGIPの併用により、満腹感が増大し、甘みへの嗜好が減少した。 チルゼパチドはGIPおよびGLP-1の両受容体を刺激する合成ペプチドで、第2B相試験ではチルゼパチド(15 mg週1回皮下投与)はプラセボやGLP-1RAのデュラグルチドに比べ血糖と体重のコントロールで優位だったが、悪心など消化器系副作用の頻度も高かった。本論文は、消化器症状の忍容性を高める目的で、より低用量のチルゼパチドを2型糖尿病患者に投与し、血糖コントロール効果と安全性を検討した第3相 SURPASS-1試験の報告である。対象患者は5、10、15 mgのチルゼパチド群またはプラセボ群に割り付けられた。 その結果、40週の時点においてチルゼパチドの全群で、プラセボ群に比べ、HbA1c、空腹時血糖、体重、HbA1c 7.0%未満 お よ び5.7%未満達成率が有意に改善した。主要評価項目である40週でのベースラインからのHbA1c平均変化量は、チルゼパチド 5mg群-1.87%、10mg群-1.89%、15mg群-2.07%に対し、プラセボ群は+0.04%であった。チルゼパチドの全群で、プラセボ群に比べ、体重もより減少した。チルゼパチド群におけるHbA1c降下は20週でプラトーに達したが、体重減少は40週まで続いた。すべてのチルゼパチド用量群で、プラセボ群と比較し、総コレステロール、中性脂肪、HOMA-Rが有意に低下し、高比重リポ蛋白コレステロールが有意に上昇した。一方、有害事象に起因する試験薬中止率、有害事象が1件以上発現した患者の割合、総有害事象数に有意な群間差はなかった。チルゼパチドの主な有害事象は軽度~中等症の嘔気・下痢・嘔吐などの消化器症状であり、経過中に軽快した。消化器症状による試験薬中止率はチルゼパチド群で2~7%、プラセボ群で1%だった。両群ともに重度低血糖と膵炎の報告はなかった。 チルゼパチド群のHbA1c 7.0%未満達成率は87~92%で、他のGLP-1RA単独療法の既報値(週1回エキセナチド 63%、デュラグルチド 61~63%、セマグルチド 72~74%)を上回る。今回チルゼパチドの用量依存性がみられなかったのは、ほぼ正常レベルまで血糖降下が得られたためと思われる。GIP受容体作動薬の心血管への作用は検討段階であるが、チルゼパチドにより低血糖を伴わずに血糖を正常化させることで、心血管イベント低減が期待される。
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
Burden, treatment use, and outcome of secondary mitral regurgitation across the spectrum of heart failure: observational cohort study BMJ. 2021 Jun 30;373:n1421. doi: 10.1136/bmj.n1421. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症(sMR)の有病率、長期転帰および治療基準を定義すること。 【デザイン】大規模コホート試験。 【設定】2010年から2020年までのオーストリア・ウィーン地域病院ネットワークのデータを用いた観察的コホート試験。 【参加者】心不全のサブタイプを問わないsMR患者13,223例。 【主要評価項目】sMRと死亡率の相関。ガイドライン診断基準により、心不全を駆出率低下、中間範囲の駆出率、駆出率維持の3つのサブタイプに分類し、患者を評価した。 【結果】1,317例(10%)が重症sMRの診断を受け、年齢上昇との相関が認められた(P<0.001)。この相関は、心不全のさまざまの重症度に認められ、駆出率が低下した患者が2,619例中656例(25%)と最も多かった。同一地域の同年齢および同性の集団と比較した重症sMR患者の死亡率が予想よりも高かった(ハザード比7.53;95%信頼区間 6.83~8.30;P<0.001)。軽症sMRやsMRがない心不全と比較すると、中等症sMRや重症sMRの死亡率が段階的に増加し、ハザード比が中等症sMRで1.29(95%信頼区間 1.20~1.38;P<0.001)、重症sMRで1.82(同1.64~2.02;P<0.001)であった。重症sMRと超過死亡率の相関は多変量解析後も変わらず、心不全の全サブグループに認められた(中間範囲の駆出率:ハザード比2.53(同2.00~3.19;P<0.001)、駆出率低下:1.70(同1.43~2.03;P<0.001)、駆出率維持:1.52(同1.25~1.85;P<0.001))。最先端の医療が利用でき、心不全の症例数も多く、弁膜疾患プログラムがあったが、重度sMRに対して弁形成術(7%)も弁置換術(5%)もほとんど施行されていなかった。低リスクの経カテーテル弁形成術(4%)もほぼ同じで、ほとんど施行されていなかった。 【結論】2次性僧帽弁逆流は全体的に頻度が高く、年齢とともに増加し、超過死亡率との相関が認められた。有害転帰との相関は心不全全体に認められたが、駆出率が中間範囲の患者と駆出率が低下している患者に特に顕著であった。このように転帰が不良であるが、外科的な弁形成術や弁置換術がほとんど施行されていない。同じく低リスクの経皮的弁形成も、治療による最も大きな便益が期待できる心不全サブタイプにさえほとんど施行されていない。今回のデータは、特に高齢化社会で心不全の増加が予想されることを踏まえて、治療に対する需要が高まっていることを示唆するものである。 第一人者の医師による解説 患者利益に資するにはエビデンス不十分 質の高い無作為化試験が望まれる 児玉 隆秀 虎の門病院循環器センター内科部長 MMJ. February 2022;18(1):11 2次性僧帽弁閉鎖不全症(sMR)は心不全患者に多くみられ、生活の質(QOL)低下や予後悪化につながる。しかし、sMRは罹患頻度が低く、先行研究の主な対象は疾患特異性や疫学的特徴の違う原発性 MRであったため、転帰や標準的治療に関する知見は不十分であった。 本論文は、心不全に合併するsMRの疫学的特徴、心不全サブタイプと予後との関連、最先端施設での治療の現状を明らかにすべく、ウィーン医科大学の医療記録と超音波データベースを用いたコホート研究の報告である。心不全とsMRを合併する患者13,223人を対象とし、心不全はHFpEF(左室駆出率[LVEF]50%以上)、HFmrEF(LVEF 40~49%)、HFrEF(LVEF 40%未満)に分類された。全死亡を主要評価項目とし、sMR重症度別に解析した。中等度以上のsMRは心不全患者の40%を占め、LVEF低下や加齢とともに重症度が増加した。重度 sMRはsMRなし/軽度に比べ、すべての心不全サブタイプで死亡率上昇と関連し、特にHFmrEFで顕著であった。重度 sMRに対する弁形成術、弁置換術または経カテーテル弁形成術の実施率は15.2%にとどまっていた。 心不全患者の予後と直結するsMRに対する介入はもっと行われて然るべきであるが、実際には十分に行われていない理由として高齢患者の併存疾患数の多さが挙げられよう。手術リスク評価において年齢、併存疾患、心不全既往、収縮機能障害は重要な要素であり、ほとんどのsMR患者は手術適応外となる。また、外科的な弁の修復・置換がsMR患者の生存率改善につながるという確かなエビデンスはなく、ガイドラインでも内科的治療の重要性が強調されている。しかし、本研究は内科的治療の恩恵があまり明確でないHFmrEF患者においてsMRの死亡リスクが最も高いことを示し、低侵襲な経カテーテル僧帽弁形成術が可能となっている今日では、このような患者群に対して僧帽弁への介入がもっと行われるべきであることを指摘している。 sMRは心不全の原因ではなく、心不全の原因疾患に起因する心臓の構造的変化により2次的に生じてくるものである。また、体液量や内科的治療によりダイナミックに変化しうる。したがって、sMRへの介入のみでは不十分であり、「弁膜症治療のガイドライン 2020年改訂版」では第1に内科的治療の重要性が明記されている。一方、僧帽弁への介入は十分なエビデンスの蓄積がないことを理由に、虚血性 sMRを除いて推奨度は高くない。今回の結果からsMRに対する僧帽弁インターベンションの無作為化試験の必要性が認識され、最適な治療の方向性が見いだされれば、意義深い研究と思われる。
心血管疾患1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関:系統的レビューとペアワイズネットワーク用量反応メタ解析
心血管疾患1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関:系統的レビューとペアワイズネットワーク用量反応メタ解析
Associations between statins and adverse events in primary prevention of cardiovascular disease: systematic review with pairwise, network, and dose-response meta-analyses BMJ. 2021 Jul 14;374:n1537. doi: 10.1136/bmj.n1537. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心血管疾患の1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関を評価し、その相関はスタチンの種類や投与量によってどのように変化するかを検討すること。 【デザイン】系統的レビューとメタ解析。 【データ入手元】既報の系統的レビューおよび2020年8月までのMedline、EmbaseおよびCochrane Central Register of Controlled Trialsを検索して試験を特定した。 【レビュー方法】心血管疾患歴のない成人を対象に、スタチンとスタチン以外の対照または他の種類のスタチンを比較した無作為化比較試験およびスタチンの投与量別に比較した無作為化比較試験を対象とした。 【主要評価項目】自己報告による筋症状、臨床的に確認した筋疾患、肝機能障害、腎機能不全、糖尿病、眼症状などのよくみられる有害事象を主要評価項目とした。心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡などを有効性の副次評価項目とした。 【データ統合】ペアワイズメタ解析を実施し、スタチンとスタチン以外の対照の間で各転帰のオッズ比および95%信頼区間を算出し、1年間投与した患者1万人当たりの事象発生件数の絶対リスク差を推定した。ネットワークメタ解析を実施し、スタチンの種類別に副作用を比較した。Emaxモデルを用いたメタ解析により各スタチンによる副作用の用量反応関係を評価した。 【結果】計62の試験を対象とし、参加者が計120,456例、平均追跡期間が3.9年であった。スタチンにより自己報告による筋症状(21報、オッズ比1.06(95%CI 1.01~1.13);絶対リスク差15(95%CI 1~29)、肝機能障害(21報、オッズ比1.33(1.12~1.58);絶対リスク差8(3~14))、腎機能不全(8報、オッズ比1.14(1.01~1.28);絶対リスク差12(1~24))および眼症状(6報、オッズ比1.23(1.04~1.47);絶対リスク差14(2~29))のリスクが上昇したが、臨床的に確認した筋疾患および糖尿病のリスクの上昇はみられなかった。このリスクの上昇は、主要心血管事象のリスク低下の価値を上回ることはなかった。アトルバスタチン、lovastatin、ロスバスタチンにそれぞれ一部の有害事象との相関が認められたが、スタチンの種類に有意差がほとんど認められなかった。Emaxで用量反応関係によりアトルバスタチンが肝機能障害に及ぼす影響が認められたが、他のスタチンと副作用の用量反応関係については結論に至らなかった。 【結論】心血管疾患の1次予防に用いるスタチンに起因する有害事象のリスクは低く、心血管疾患予防の有効性を上回るものではなかった。この結果は、スタチンのリスクと便益の比が一般的に良好であることを示唆している。安全性に関する懸念事項を考慮に入れ、治療開始前にスタチンの種類や投与量を調整することを支持する科学的根拠は少なかった。 第一人者の医師による解説 1次予防におけるスタチンより長期での安全性は今後の課題 岡﨑 啓明 自治医科大学内分泌代謝学部門准教授 MMJ. February 2022;18(1):12 コレステロール管理に関する現在のガイドラインでは、心血管リスクが高い人ほど、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)をしっかりと下げることが基本理念となっている。心血管リスクが高く再発予防を目的とした場合、スタチン服用の意義は医者にも患者にも受け止めやすいであろう。しかし、1次予防では、心血管リスクが実感しづらいこともあり、スタチンの有益性(benefit)が本当に有害性(harm)を上回るのか、悩ましく感じる局面もある。2次予防目的のスタチン使用については、これまで多くの臨床試験から、有害性よりも有益性の方が大きいことが明らかとなっている。一方、1次予防では、もともと心血管リスクが低く、スタチンの有益性は2次予防に比べれば小さくなるため、有害性についてより慎重な検討が必要となる。例えば、スタチンを服用しているためになんとなく筋肉が痛いと思ってしまう“ノセボ効果”によって、有害性が過大評価される可能性もあり(1)、有害事象の定義を明確にしながら、正しい結論を得る必要がある。 そこで本論文では、1次予防でのスタチンと有益性・有害性の関連についてメタ解析を行った。筋障害については、定義を明確にし、自覚的筋症状と、他覚的筋疾患に分けて解析した。その結果、スタチンに関連して、自覚的筋症状、肝障害、腎障害、眼障害が有意に増加したが、リスク上昇はいずれもわずかであった。他覚的筋疾患については有意な増加を認めなかった。スタチンの種別検討では、有害事象の発現率に明らかな違いは認めず、またスタチンの用量別の検討では、有害事象の用量依存性は明らかではなかった(これについては異なる試験の結果の比較という方法論的問題もあるかもしれないが)。以上から、著者らは、心血管疾患の1次予防で、スタチンの有益性は有害性を上回る、と結論している。 コレステロールは、コレステロールの高さx年数の積算値的に心血管リスクとなる(cholesterol x years risk)(2)。心血管リスクの高い人ほどコレステロールを低くする、“the lower, the better”という基本理念に加えて、生まれつきのコレステロール値が高い人(例えば家族性高コレステロール血症)ほど若いころから治療した方がよいという理念、“the lower, the earlier, the better”が確立されてきている(3)。では、何歳から処方を開始すべきかとなると、有益性 /有害性のバランスに悩んでしまうこともあるが、そのような場合にも、今回のような研究は参考となるだろう。ただし、より長期間で安全かどうかは、今回の研究からは明確ではない。古くからの治療薬だが、臨床的に重要な課題が残されている。 1. Herrett E, et al. BMJ. 2021;372:n135.(MMJ 2021 年 8 月号 ) 2. Cohen JC, et al. N Engl J Med. 2006;354(12):1264-1272. 3. Khera AV, et al. J Am Coll Cardiol. 2016;67(22):2578-2589.
Ⅰ度房室ブロック・右脚ブロック・左軸変異をみたら?
Ⅰ度房室ブロック・右脚ブロック・左軸変異をみたら?
Point ①レントゲンで肺野と心臓の状況をチェックしましょう ・肺尖部は問題なし ・肺過膨張気味 ・心拡大なし ・肺門中心性の肺血管陰影はやや増強気味 ・左の2・3弓が突出=左房拡大が疑われる ②心電図では肢誘導と胸部誘導を分けてチェックしましょう 【肢誘導】 ・Ⅰ誘導:上向き、Ⅱ誘導:下向き = 異常左軸 ⇒左脚のヘミブロックの可能性が高い 【胸部誘導】 ・P派~QRSの立ち上がりが200ms ⇒Ⅰ度房室ブロックだと考えられる ・小さなQ波が出てRSパターンが出現 ⇒ 右脚ブロック型だと考えられる ①右脚ブロック型、②左脚ヘミブロック、③Ⅰ度房室ブロック ⇒もう一本切れると、「3束ブロック(3肢ブロック)」の可能性がある ⇒全部切れてしまうと、「完全房室ブロック」・「高度房室ブロック」への進展リスクが非常に高い 結論 一度房室ブロック、右脚ブロック、左軸変異をみたら三枝ブロックを疑い、失神に注意する ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
心電図の読み方:これって心房細動?
心電図の読み方:これって心房細動?
Point ①レントゲンでは肺野と心臓の状況をチェックしましょう ・肺野:辺縁、CP angle、横隔膜の高さ、肺の過膨張、気管の変異、骨折の有無 ・心臓:縦隔の拡大、右の1・2弓、左の1・2・3・4弓の腫脹の有無 ⇒ 今回はどちらも異常は無いが、だからといって、心房細動を否定することにはならない ②心電図では肢誘導・胸部誘導に分けてチェックしましょう 【肢誘導】1) Ⅱ・Ⅲ誘導のP派 ⇒ P派が見えづらく、洞停止または心房細動が疑われる  さらにR-R間隔が不正の場合は、心房細動の可能性が高い 2) Ⅰ,Ⅱ誘導の電位の向き ⇒ どちらも上向きの電位の方が高いので、軸は正常 3) Ⅲ誘導・aVF誘導のT派 ⇒ 増高不良があり、心筋障害を疑う 【胸部誘導】1) V2誘導のP派(心房レート) ⇒ 心房レート300程度であり、心房細動(心房レート400-600程度)ではなさそう 2) 300を”R-R間隔の目盛り数”で割り、心拍数の算出 ⇒ 心拍数75~100であり、何らかの不整脈が起こっている 結論 高齢+心房レート200〜300回/分の不整脈をみたら心房頻拍を疑う。心房細動の合併があるかもしれず、ホルター心電図やエコーで評価をしよう ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
DDIRペースメーカー挿入患者の心電図の読み方
DDIRペースメーカー挿入患者の心電図の読み方
Point ①レントゲンでは肺野と心臓の状況をチェックしましょう ・肺野は肺門中心性の肺血管陰影増強しており、うっ血の可能性あり ・心拡大 ・ペースメーカーリードは「心房」「心尖部」にあり ②心電図の肢誘導・胸部誘導を分けてチェックしましょう 【肢誘導】・心尖部ペーシングは下から上に電気が流れる=Ⅱ誘導・Ⅲ誘導が下向きの波形になる ・PQR=120ms以上は、心拍は「心室」から出ている 【胸部誘導】・V2誘導で「M字型」なら右脚ブロック型であり、左室起源のPVC(心室期外収縮)や補充調律を疑う。起源は僧帽弁弁論、または心外膜側と予想。 今回のケースは、ペースメーカー電位発生→ PVCを繰り返しているように見える二段脈とは断定できないが、補充調律にしては変なリズムを刻んでいる⇒PVCが日常的に出ているのか、一度ホルター心電図を用いて精査しましょうPVCと診断する場合は、βブロッカーを追加した上で、ペーシングレートを設定する 結論 波形が一心拍ごとに変わる場合は二段脈が疑わしいが、ペースメーカー埋め込み時の場合はセンス不良も鑑別になる ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
若年男性・不完全右脚ブロック・ST上昇をみたら?
若年男性・不完全右脚ブロック・ST上昇をみたら?
Point ①P派の向き ・Ⅱ誘導、V1・V2誘導で上向き = 洞調律 ②P-R間隔 ・200ms未満のため、Ⅰ度房室ブロックなし ③QRS幅 ・100~120ms未満のため、不完全脚ブロック ④M字型の有無 ・ⅠⅡ誘導でM字型であり、右脚ブロック ⇒「若い男性」×「不完全右脚ブロック」を見たら、「ST」を見る! Brugada型心電図:V1~V3に起こる不完全右脚ブロック+STの有意な上昇のある場合・STが平坦な場合=Saddle back型⇒V2,3において2mV以上の上昇がなく、リスク因子無ければ経過観察・STが下向き(down slope型)の場合=Coved型⇒不整脈のリスクが高く、精査をしたほうが良いBrugada型心電図では、Brugada症候群(若年男性がVT(心室頻拍)や心室細動を起こす突然死症候群で、「ぽっくり病」とも呼ばれる。)のリスクがある 微妙なケースの場合は、以下の順で心電図波形を確認する1. 肋間を上げる2. ピルジカイニド投与 or 運動負荷(安息時)3. EPS(心臓電気生理学的検査)⇒ST部分の変化や、Coved型になるか、容易に不整脈が誘発されるか、失神歴がある場合等、Brugada型症候群が考えやすい場合には、ICD(埋込み型除細動器)の埋め込みを検討する 結論 若年男性・不完全右脚ブロック・ST上昇をみたらBrugada症候群を疑う 参考 日本循環器学会発刊のガイドライン https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/ ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
世界の高血圧有病率、治療率、コントロール率の傾向(地域住民研究1201件のプール解析 ; 1990-2019年)
世界の高血圧有病率、治療率、コントロール率の傾向(地域住民研究1201件のプール解析 ; 1990-2019年)
Worldwide trends in hypertension prevalence and progress in treatment and control from 1990 to 2019: a pooled analysis of 1201 population-representative studies with 104 million participants Lancet. 2021 Sep 11;398(10304):957-980. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01330-1. Epub 2021 Aug 24. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】高血圧はプライマリーヘルスケアレベルで発見することができ、低コストの治療で効果的に高血圧をコントロールすることができる。我々は,200の国と地域について,1990年から2019年までの高血圧の有病率とその発見,治療,コントロールの進展を測定することを目的とした。 【方法】我々は,血圧の測定と血圧治療に関するデータを有する人口代表研究からの30~79歳の人々に関する1990年から2019年のデータを使用した。収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上、または高血圧の薬を服用していることを高血圧と定義しました。ベイズ型階層モデルを適用して,高血圧の有病率と,高血圧の診断歴があり(検出),高血圧の治療を受けており(治療),高血圧が140/90 mm Hg未満にコントロールされている(コントロール)人の比率を推定した.モデルは,経時的な傾向が非線形であり,年齢によって異なることを許容した。 発 見】高血圧を有する30~79歳の人々の数は,世界の年齢標準化有病率が安定しているにもかかわらず,1990年の女性331(95%信頼区間306~359)万人と男性317(292~344)万人から2019年には女性626(584~668)万人と男性652(604~698)万人に倍加している。2019 年の年齢標準化高血圧有病率は,男女ともカナダとペルーで最も低く,女性は台湾,韓国,日本,スイス,スペイン,英国など西ヨーロッパの一部の国で,男性はエリトリア,バングラデシュ,エチオピア,ソロモン諸島などいくつかの低所得国および中所得国で低かった.高血圧の有病率は、女性では2カ国、男性では中・東欧、中央アジア、オセアニア、ラテンアメリカの9カ国で50%を超えています。世界的に見ると、2019年に高血圧の女性の59%(55~62人)と男性の49%(46~52人)が高血圧の診断歴を報告し、女性の47%(43~51人)と男性の38%(35~41人)が治療を受けていた。2019年の高血圧の人のコントロール率は、女性が23%(20-27)、男性が18%(16-21)でした。2019年の治療率およびコントロール率は、韓国、カナダ、アイスランドが最も高く(治療率70%以上、コントロール率50%以上)、米国、コスタリカ、ドイツ、ポルトガル、台湾がそれに続いていた。ネパール,インドネシア,サハラ以南のアフリカとオセアニアの一部の国では,治療率は女性で25%未満,男性で20%未満であった。これらの国の女性と男性、および北アフリカ、中央・南アジア、東ヨーロッパの一部の国の男性では、コントロール率が10%を下回っていました。1990年以降,ほとんどの国で治療率とコントロール率が向上しているが,サハラ以南のアフリカとオセアニアのほとんどの国では,ほとんど変化がないことがわかった.高所得国,中央ヨーロッパ,およびコスタリカ,台湾,カザフスタン,南アフリカ,ブラジル,チリ,トルコ,イランなどの一部の上位中所得国や最近の高所得国での改善が最も大きかった。 【解釈】高血圧の発見,治療,管理における改善は国によって大きく異なり,一部の中所得国は現在ほとんどの高所得国を凌駕している。一次予防による高血圧の有病率の低下と治療およびコントロールの強化という二重のアプローチは、高所得国だけでなく低所得国や中所得国の環境でも達成可能である。 第一人者の医師による解説 世界の高血圧人口はこの30年でほぼ倍増し、国ごとのばらつきが極めて大きい 苅尾 七臣 自治医科大学循環器内科学部門教授 MMJ. April 2022;18(2):41 本論文は、世界184カ国の地域住民データをプール解析したNCD Risk Factor Collaborationの報告である。今回の報告でまず驚くことは、高血圧人口(30 ~ 79歳)はこの30年でほぼ倍増したことである。次に、国ごとのばらつきが極めて大きい点である。人口増加の偏りもあり、2019年の高血圧人口の82%は低・中所得国の住民が占めていた。高血圧有病率も、低・中所得国で上昇、高所得国で低下する傾向にあるが、状況は国ごとにばらつきが大きく、高所得国でも有病率を抑制できていない国がある一方で、低・中所得国の中にも高血圧有病率の低い国がみられた。有病率に関与する因子としては、地域の風土、食文化、高血圧制圧に向けた国家の取り組みなどが考えられるが、これらを積極的に同定し、各国でいっそう取り組む必要がある。 また、高血圧コントロール率(降圧薬服用下 で140/90 mmHg未満)の上昇が高血圧人口の増加に追い付いていないことも明らかになった。2019年の世界のコントロール率は女性23%、男性18%であった。アジアでは韓国で治療率・コントロール率が高く、ネパールやインドネシアでは低かった。アジア・パシフィックで高所得国に分類される3カ国に比べ、その他の東アジア・東南アジア地域の国(低・中所得国)では血圧が高いにもかかわらず高血圧と診断されていない住民の割合が高く(29 ~ 34% vs 46 ~ 55%)、コントロール率は低かった(31 ~ 38% vs 13 ~ 17%)。これは南アジアでも同様であった(高血圧だが診断歴なし55 ~ 67%、コントロール率11 ~ 17%)。アジアの高血圧治療・コントロール状況を改善するには、まず血圧測定機会を増やし、高血圧を早期に発見し、適切に治療を行うことが重要である。ちなみに日本の高血圧有病率、治療率、コントロール率は女性でそれぞれ23、51、30%、男性でそれぞれ40、46、24%であり、アジア・パシフィック地域で高所得国に分類される3カ国中、治療率・コントロール率ともに最下位であり、決して優等生とは言い難い。 これまで、我々はアジア各国の高血圧専門家有志で作るHOPE Asia Networkで同一の家庭血圧計を用いて、アジア 11カ国・地域、15施設で家庭血圧コントロール状況を調査するAsiaBP@Home研究を行った。家庭血圧コントロール状況は36〜84%とばらつきが大きいものの、コントロール状況は比較的良好であった(1)。したがって、欧米と比較し、日本を含むアジアには早朝・夜間高血圧が多いという特徴があるが(2)、コントロール率は改善できると思われる。 1. Kario K, et al. J Clin Hypertens. 2018;20(12):1686-1695. 2. Kario K. Essential Manual of 24-Hour Blood Pressure Management: From Morning to Nocturnal Hypertension, 2nd Edition. pp. 1-384. 2022 (WileyBlackwell; ISBN 978-1-119-79936-8400)
植込み型ループレコーダーによる心房細動スクリーニングは予後を改善せず
植込み型ループレコーダーによる心房細動スクリーニングは予後を改善せず
Implantable loop recorder detection of atrial fibrillation to prevent stroke (The LOOP Study): a randomised controlled trial Lancet. 2021 Oct 23;398(10310):1507-1516. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01698-6. Epub 2021 Aug 29. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 心房細動のスクリーニングと、心房細動が検出された場合のその後の抗凝固剤による治療が、脳卒中を予防できるかどうかは不明である。植え込み型ループレコーダー(ILR)を用いて心電図を継続的に監視することで,無症状の心房細動エピソードの検出が容易になる。我々は,心房細動のスクリーニングと抗凝固薬の使用が,高リスクの人の脳卒中を予防できるかどうかを調べることを目的とした。 【方法】我々は,デンマークの4施設で無作為化対照試験を行った。対象は心房細動のない70~90歳の人で,少なくとも1つの脳卒中リスク因子(すなわち,高血圧,糖尿病,脳卒中の既往,心不全)を追加した人であった。参加者は、オンラインシステムを介して、ILRモニタリング群と通常のケア(コントロール)群に1:3の割合で無作為に割り付けられ、センターに応じて4人または8人のブロックサイズで層別された順列ブロックで行われた。ILR群では、心房細動が6分以上続いた場合、抗凝固療法が推奨された。主要評価項目は,最初の脳卒中または全身性動脈塞栓症を発症するまでの時間であった。本試験はClinicalTrials. gov, NCT02036450に登録されている。 【結果】2014年1月31日から2016年5月17日までに、6205人が対象としてスクリーニングされ、そのうち6004人が対象となり、無作為に割り付けられた。1501人(25-0%)をILRモニタリングに、4503人(75-0%)を通常ケアに割り付けた。平均年齢は74~7歳(SD 4~1)、2837人(47~3%)が女性で、5444人(90~7%)が高血圧症だった。追跡調査で失われた参加者はいなかった。中央値64-5カ月(IQR 59-3-69-8)の追跡期間中、1027人の参加者に心房細動が診断された。ILR群1501人中477人(31-8%)に対し,対照群4503人中550人(12-2%)であった(ハザード比[HR]3-17[95%CI 2-81-3-59],p<0-0001)。経口抗凝固療法が開始されたのは1036名であった。経口抗凝固療法が開始されたのは1036名で,ILR群445名(29-7%)対対照群591名(13-1%)(HR 2-72 [95%CI 2-41-3-08]; p<0-0001),主要転帰が発生したのは318名(脳卒中315名,全身性動脈塞栓症3名)で,ILR群67名(4-5%)対対照群251名(5-6%)(HR 0-80 [95%CI 0-61-1-05]; p=0-11)であった。大出血は221名に発生しました。脳卒中の危険因子を有する人において,ILRスクリーニングにより心房細動の検出および抗凝固療法の開始が3倍に増加したが,脳卒中および全身性動脈塞栓症のリスクは有意に減少しなかった。これらの知見は,すべての心房細動がスクリーニングに値するわけではなく,また,スクリーニングで検出されたすべての心房細動が抗凝固療法に値するわけではないことを示唆しているかもしれない。 【FUNDING】Innovation Fund Denmark,The Research Foundation for the Capital Region of Denmark,The Danish Heart Foundation,Aalborg University Talent Management Program,Arvid Nilssons Fond,Skibsreder Per Henriksen,R og Hustrus Fond,The AFFECT-EU Consortium (EU Horizon 2020),Lage Sophus Carl Emil Friis og hustru Olga Doris Friis’ Legat,Medtronic。 第一人者の医師による解説 短時間の心房細動発作に対する抗凝固療法の意義は再検討が必要 香坂 俊 慶應義塾大学医学部循環器内科専任講師 MMJ. April 2022;18(2):39 本論文は、脳卒中危険因子(いわゆるCHADSスコアでカウントされる項目のうち心不全、高血圧、糖尿病、脳卒中の既往のいずれか1つ以上)を有するが、心房細動(AF)とは診断されていない70〜90歳の患者を対象に行われたランダム化対照試験(LOOP試験)の報告である。登録患者は植込み型ループレコーダー(ILR)群もしくは通常ケア(対照)群に割り付けられ、ILR群でAFが検出され、発作が6分以上持続する場合には抗凝固療法が推奨された。 両群の患者は中央値で64.5カ月間追跡され、その期間内にILR群の31.8%、対照群の12.2%がAFと診断された(ハザード比[HR], 3.17;95%信頼区間[CI], 2.81〜3.59;P<0.0001)。そして、各群の29.7%と13.1%に経口抗凝固薬が開始された(HR, 2.72;95% CI, 2.41〜3.08;P<0.0001)。しかし、主要評価項目である脳卒中または全身性動脈塞栓症の発生率は、ILR群が4.5%、対照群が5.6%(HR, 0.80;95% CI, 0.61〜1.05;P=0.11)と有意な差は認めなかった。さらに、ILR群の4.3%、対照群の3.5%に出血イベントが発生していた(HR, 1.26;95% CI, 0.95〜1.69;P=0.11)。 AF発作が「6分以上持続した場合に抗凝固療法を推奨する」という規定の時間枠が緩すぎたのではないかとの批判がなされているが、おそらくは的を射ているように感じられる。実際、このLOOP試験と同じ時期に発表された、高齢者を対象とした14日間にわたる心電図スクリーニング検査の効果を検討したランダム化対照試験(STOPSTROKE試験)では、介入に関して比較的有利な結果が得られている(HR, 0.96;95% CI, 0.92〜1.00;P=0.045)(1)。このほかに周術期のAFに関しては、診療ガイドラインなどでは「30分」というカットオフが用いられ、それ以下であれば一過性の可逆的なAF、それ以上ならばその後も抗凝固療法などのケアが必要なAF、といった形で線引きがなされることが多いようである。 今後 Apple Watchなどのスマートデバイスを用いたAFの検出が広く行われていくようになることが予想される(2)。本研究の結果に鑑みても、こうしたスマートデバイスを用いたAFの診断を行う際にも、時間的なAF burden(負荷)を考慮することが大切であると考えられる。抗凝固療法は高リスク AF患者において塞栓系のイベントを抑制するために極めて有効な治療法であるが、そのリスクに対する考え方は診断の進歩と共に変化していくものと予想される。 1. Svennberg E, et al. Lancet. 2021;398(10310):1498-1506. 2. Perez MV, et al. N Engl J Med. 2019;381(20):1909-1917.
血栓回収術前のアルテプラーゼ静注療法併用 血栓回収単独療法に対し優越性、非劣性とも示されず
血栓回収術前のアルテプラーゼ静注療法併用 血栓回収単独療法に対し優越性、非劣性とも示されず
A Randomized Trial of Intravenous Alteplase before Endovascular Treatment for Stroke N Engl J Med. 2021 Nov 11;385(20):1833-1844. doi: 10.1056/NEJMoa2107727. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 急性虚血性脳卒中に対する血管内治療(EVT)の前にアルテプラーゼを静注することの価値については、特にアジア以外の地域では広く研究されていません。患者は、EVTのみを行う群と、アルテプラーゼ静注後にEVTを行う群(標準治療)に、1対1の割合で無作為に割り付けられました。主要評価項目は,90 日後の修正 Rankin スケールによる機能的転帰(範囲,0[障害なし]~6[死亡])であった.アルテプラーゼ+EVTに対するEVT単独の優越性を評価するとともに、両試験群のオッズ比の95%信頼区間の下限を0.8とするマージンで非劣性を評価した。安全性の主要評価項目は,あらゆる原因による死亡と症候性脳内出血であった。 【結果】解析対象は539例であった。90日後のmodified Rankin scaleのスコアの中央値は,EVT単独群で3(四分位範囲,2~5),アルテプラーゼ+EVT群で2(四分位範囲,2~5)であった。調整後の共通オッズ比は0.84(95%信頼区間[CI],0.62~1.15,P=0.28)で,EVT単独の優越性も非劣性も認められなかった。死亡率は,EVT 単独で 20.5%,アルテプラーゼ+EVT で 15.8%であった(調整オッズ比,1.39;95%信頼区間,0.84~2.30).症候性脳内出血は,それぞれの群で5.9%と5.3%に発生した(調整オッズ比1.30,95%CI,0.60~2.81)。 【結論】ヨーロッパの患者を対象とした無作為化試験において,脳卒中発症後90日目の障害の転帰に関して,EVT単独はアルテプラーゼ静注後にEVTを行う場合と比較して優越性も非劣性もなかった。症候性脳内出血の発生率は,両群で同等であった。(Collaboration for New Treatments of Acute Stroke コンソーシアムなどの助成を受け、MR CLEAN-NO IV ISRCTN 番号、ISRCTN80619088)。 第一人者の医師による解説 アルテプラーゼ静注併用の是非は決着せず 日本の実臨床ではアルテプラーゼ静注先行が標準 鶴田 和太郎 虎の門病院脳神経血管内治療科部長 MMJ. April 2022;18(2):37 急性期脳梗塞に対する再開通療法として、アルテプラーゼ静注療法は迅速に施行可能であり、高いエビデンスを持った治療法であるが、血管径の太い近位主幹動脈に対する効果は限定的である。一方、カテーテルを用いて行う血栓回収術は、治療設備や専門医が必要であるため施行可能な施設が限定され、治療開始までに時間を要するが、再開通率は高い。これまでアルテプラーゼ静注併用を前提とした血栓回収術の有効性・安全性のエビデンスが集積されてきた。アルテプラーゼ静注の併用は、血栓回収率を上げるという報告がある一方、血栓回収術開始までの時間が長くなることや出血性合併症のリスクが高くなるといったデメリットも考えられており、現在これら併用の是非についての検証が進行中である。 本論文は欧州人を対象とした血栓回収単独とアルテプラーゼ併用のランダム化対照試験(MR CLEAN–NO IV)の報告である。対象はアルテプラーゼ静注と血栓回収の両者が適応となる近位脳主幹動脈閉塞による脳梗塞急性期の患者で、血栓回収単独群またはアルテプラーゼ併用群(アルテプラーゼ静注 +血栓回収)に割り付けられた。主要評価項目は90日後の日常生活自立度(modified Rankin Scale;mRS)、主な安全性評価項目は全死亡、症候性頭蓋内出血とされた。対象患者539人の解析において、90日後のmRSスコア中央値は、血栓回収単独群で3(四分位範囲[IQR], 2〜5)、アルテプラーゼ併用群で2(IQR, 2〜5)であり、アルテプラーゼ併用群の優越性、非劣性とも示されなかった。全死亡、症候性頭蓋内出血の発生率についても両群でおおむね同程度であった。 脳梗塞急性期の血栓回収単独とアルテプラーゼ併用のランダム化対照試験としては、これまでに日本で行われたSKIP(1)と中国で行われたDIRECTMT(2)およびDEVT(3)の結果が報告されている。SKIPでは血栓回収単独のアルテプラーゼ併用に対する非劣性は示されなかったのに対し、DIRECTMTおよびDEVTでは非劣性が示された。 血栓回収前のアルテプラーゼ静注併用の是非については、未だ決着しておらず、進行中の他の研究結果が待たれる。日本の実臨床において、脳梗塞急性期の患者が必ずしも血栓回収を実施できる施設に搬送されるとは限らず、病院間転送が必要な患者にはアルテプラーゼ静注を先行すべきである。血栓回収単独の効率的な提供には、血栓回収適応患者を適切に血栓回収対応可能な施設に搬送するための脳卒中医療のセンター化と搬送システムの構築が喫緊の課題といえる。 1. Suzuki K, et al. JAMA. 2021;325(3):244-253. 2. Yang P, et al. N Engl J Med. 2020;382(21):1981-1993. 3. Zi W, et al. JAMA. 2021;325(3):234-243.
SGLT2阻害薬は心不全を抑制するが 大血管症への効果は2次予防例に限られる
SGLT2阻害薬は心不全を抑制するが 大血管症への効果は2次予防例に限られる
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors Versus Glucagon-like Peptide-1 Receptor Agonists and the Risk for Cardiovascular Outcomes in Routine Care Patients With Diabetes Across Categories of Cardiovascular Disease Ann Intern Med. 2021 Nov;174(11):1528-1541. doi: 10.7326/M21-0893. Epub 2021 Sep 28. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害薬とグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1 RA)は、2型糖尿病(T2D)と確立した心血管疾患(CVD)の患者を対象としたプラセボ対照試験で、いずれも心血管ベネフィットを示した。 【目的】SGLT2阻害薬とGLP-1 RAは、CVDを有するT2D患者と有しないCVD患者で差をつけて心血管ベネフィットに関連しているかを評価すること。 【デザイン】人口ベースコホート研究。 【設定】Medicareおよび米国の2つの商業請求データセット(2013年4月から2017年12月)。 【参加者】1:1の傾向スコアマッチしたCVDのある成人T2D患者およびない成人T2D患者(52 901人と133 139人のマッチペア)がSGLT2阻害剤対GLP-1 RA治療を開始。 【測定】主要アウトカムとして心筋梗塞(MI)や脳卒中の入院および心不全(HHF)による入院を挙げた。曝露前の共変量138個をコントロールして1000人年当たりのプールハザード比(HR)および率差(RD)を95%CIで推定した。 【結果】SGLT2阻害薬とGLP-1 RA療法の開始は、CVD患者におけるMIまたは脳卒中のリスクがわずかに低い(HR、0.90 [95% CI, 0.82 to 0.98]; RD, -2.47 [CI, -4.45 to -0.50])が、CVDのない患者では同等のリスク(HR, 1.07 [CI, 0.97 to 1.18]; RD, 0.38 [CI, -0.30 to 1.07])であった。SGLT2阻害薬とGLP-1 RA療法の開始は,CVD患者(HR,0.71 [CI,0.64~0.79]; RD,-4.97 [CI,-6.55~-3.39] )とCVDのない患者(HR, 0.69 [CI,0.56~0.85]; RD, -0.58 [CI, -0.])のベースラインのCVDと関係なくHHFリスク低減に関連していた。 【結論】SGLT2阻害薬とGLP-1製剤の使用は,CVDを有するT2D患者と有しないT2D患者でHHFリスクの一貫した低下と関連していたが,CVDを有する患者の方が絶対的な有益性が高かった。CVDの有無にかかわらず、T2D患者におけるMIや脳卒中のリスクには大きな違いはなかった。 第一人者の医師による解説 実臨床においてGLP-1受容体作動薬との比較がなされたが議論は続く 笹子 敬洋 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科助教 MMJ. April 2022;18(2):42 本論文に発表されたコホート研究は、米国の実臨床データを用いて、2型糖尿病においてNa+ /グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬とグルカゴン様ペプチド -1(GLP-1)受容体作動薬が心血管イベントに及ぼす影響を、組み入れ前12カ月間の心血管イベントの有無(1次予防か2次予防か)で層別化し解析したものである。主要評価項目のうち、心筋梗塞・脳卒中による入院は、GLP-1受容体作動薬と比較し、SGLT2阻害薬によって全体としては抑制されず、2次予防でのみ抑制された。一方、心不全による入院は同薬の投与により、1次・2次予防にかかわらず抑制されたが、絶対リスクの低下幅は1次予防ではわずかであった。 このような実臨床のリアルワールドデータを用いた後ろ向きコホート研究は、前向き臨床試験の課題を補うものとして期待がかけられている。例えば、本研究のような糖尿病治療薬同士の直接比較は、前向きの介入試験では難しいであろう。著者らによれば、心不全に関するSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の直接比較は初めてとのことだが、両剤が腎機能に及ぼす影響については、リアルワールドデータを用いた先行研究が報告されている(1)。 その一方で本研究では、筆者らが以前他の研究について指摘したのと同様(2)、有害事象についての解析がほとんどなされていない。前向き臨床試験であれば効果のみならず安全性にも十分な配慮が求められるが、現状でのリアルワールドデータを用いた解析では必ずしもその限りでないことに留意されたい。例えば先述のような、1次予防におけるSGLT2阻害薬の心不全に対するわずかな効果が、潜在的な有害事象のリスクを上回るかどうかは不明である。 また本研究では、前向き臨床試験において多く用いられるintention-to-treat解析でなく、薬剤の中止・切り替えも考慮したas-treatedアプローチが採用されたが、その結果マッチング後に解析対象となったのは、1次予防で計26万例以上、2次予防でも計10万例以上に上る規模であったにもかかわらず、追跡期間の中央値はわずか約7カ月であった。このようなリアルワールドデータを用いた解析において、薬剤の治療効果を長期的に評価することは必ずしも容易ではないが(2)、それを改めて目の当たりにさせられる結果でもあった。 最後に、著者らも述べているように、この研究の組み入れは2017年までであり、セマグルチドなどのより新しい薬剤が含められていない。SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬との差が今後縮まっていく可能性も考えられるが、それを明らかにするには今しばらく時間がかかりそうである。 1. Xie Y, et al. Diabetes Care. 2020;43(11):2859-2869. 2. Sasako T, et al. Kidney Int. 2022;101(2):222-224.
急性疾患で入院した患者の血栓症予防 中用量低分子ヘパリンは有益性と有害性のバランスが最も優れる
急性疾患で入院した患者の血栓症予防 中用量低分子ヘパリンは有益性と有害性のバランスが最も優れる
Anticoagulants for thrombosis prophylaxis in acutely ill patients admitted to hospital: systematic review and network meta-analysis BMJ. 2022 Jul 4;378:e070022. doi: 10.1136/bmj-2022-070022. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 [目的] 急性疾患で入院している患者の静脈血栓塞栓症を予防するための、さまざまな種類と用量の抗凝固薬の利益と害を評価すること。 [設計] システマティック レビューとネットワーク メタ分析。 [データ ソース] コクランCENTRAL、PubMed/Medline、Embase、Web of Science、臨床試験登録、および国家保健機関データベース。検索の最終更新日は 2021 年 11 月 16 日です。 [研究を選択するための適格基準] 低用量または中用量の低分子量ヘパリン、低用量または中用量の非分画ヘパリン、直接経口抗凝固薬、五糖類、プラセボを評価した、発表済みおよび未発表のランダム化比較試験。 、または入院中の急性期成人患者における静脈血栓塞栓症の予防のための介入なし。 90日またはそれに最も近いタイミングでの重大な有害事象。バイアスのリスクも、Cochrane risk-of-bias 2.0 ツールを使用して評価されました。エビデンスの質は、Confidence in Network Meta-Analysis フレームワークを使用して等級付けされました。低から中程度の質のエビデンスは、どの介入もプラセボと比較して全死因死亡率を低下させなかったことを示唆しています。五糖類(オッズ比 0.32、95% 信頼区間 0.08 ~ 1.07)、中用量の低分子量ヘパリン(0.66、0.46 ~ 0.93)、直接経口抗凝固薬(0.68、0.33 ~ 1.34)、中用量の未分画ヘパリン(0.71、 0.43 から 1.19) は、症候性静脈血栓塞栓症を軽減する可能性が最も高かった (非常に低いエビデンスから低いエビデンス)。中用量の未分画ヘパリン (2.63、1.00 ~ 6.21) および直接経口抗凝固薬 (2.31、0.82 ~ 6.47) は、大出血を増加させる可能性が最も高かった (低から中程度の質のエビデンス)。重大な有害事象に関する介入間に決定的な違いは認められませんでした(非常に低いエビデンスから低いエビデンス)。プラセボの代わりに介入を行わなかった場合と比較すると、静脈血栓塞栓症と死亡のリスクに関してはすべての積極的な介入が有利であり、大出血のリスクに関しては不利でした。結果は、事前に指定された感度およびサブグループ分析で確固たるものでした。 [結論]中用量の低分子量ヘパリンは、静脈血栓塞栓症の予防に対する利益と害の最良のバランスを与えるようです。未分画ヘパリン、特に中間用量、および直接経口抗凝固薬は、最も好ましくないプロファイルを示しました。基準治療がプラセボか介入なしかによって、介入効果に系統的な不一致が見られました。この研究の主な制限には、不正確さと研究内バイアスのために一般的に低から中程度であった証拠の質、および事後的に対処された統計的不一致が含まれます.[SYSTEMATIC REVIEW REGISTRATION] PROSPERO CRD42020173088. 第一人者の医師による解説 参考になるが現時点では最新ガイドラインに従うべき 最善の方法にはさらなる知見の蓄積が必要 児玉 隆秀 虎の門病院循環器センター内科部長 MMJ.February 2023;19(1):13 血栓症イベントの半分が現在または最近の入院に起因すると推定されており、日本における肺血栓塞栓症が発症した場合の院内死亡率は14%と報告されている(1)。死亡例の40%以上が発症から(1)時間以内とされていることから1、入院中の静脈血栓塞栓症(VTE)の予防および早期発見が予後改善には非常に重要である。欧米では抗凝固療法による介入無作為化対照試験(RCT)が多数実施されているが、入院中の急性期成人患者におけるVTE予防のための最適な抗凝固薬の種類と用量は不明であり、これまでのペアワイズメタ解析では、数種類の異なる抗凝固薬と用量の直接比較は限定的であった。 本論文は、急性疾患で入院した患者におけるVTE予防のための異なる種類と用量による抗凝固薬の有用性と有害性を評価するために行われたネットワークメタ解析の報告である。参加者90,095人を無作為に割り付けた44件のRCTを主解析の対象とし、低・中用量の未分画ヘパリン、低・中用量の低分子ヘパリン、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)、ペンタサッカライド(フォンダパリヌクス)、プラセボおよび介入なしの各群における全死亡、症候性 VTE、大出血、90日後または90日に直近の重篤な有害事象を評価した。いずれの介入もプラセボと比較して全死亡を減少させなかったが、ペンタサッカライド(オッズ比[OR], 0.32;95%CI, 0.08 ~ 1.07)、中用量低分子ヘパリン(0.66;0.46 ~ 0.93)、DOAC(0.68;0.33 ~ 1.34)および中用量未分画ヘパリン(0.71;0.43~1.19)は症候性 VTEを減少させる可能性が最も高かった。中用量未分画ヘパリン(OR, 2.63;95% CI, 1.00~ 6.21)およびDOAC(2.31;0.82 ~ 6.47)は、大出血を増加させる可能性が最も高く、重篤な有害事象に関してはそれぞれの介入間で明確な差は認められなかった。以上の結果から中用量低分子ヘパリンは、VTE予防において、有益性と有害性のバランスが最も優れており、中用量未分画ヘパリンおよびDOACは最も好ましくないプロファイルであったと報告している。 ネットワークメタ解析は薬剤同士の直接比較試験が行われる可能性の低い状況では、治療選択上の参考になるデータを提供してくれるものではあるが、前提条件についての入念な確認が必要である。本研究に採用された44試験のうち3分の1以上の試験が大出血イベントに関する情報を提供しておらず、関連する抗凝固薬の安全性において正確性に限界がある。参考になるデータではあるが、現時点では最新のガイドラインに従うしかなく、ベストプラクティスにはさらなる知見の蓄積が必要と思われる。
PCI後1年でルーチンに負荷検査を実施しても 2年間での転帰改善なし
PCI後1年でルーチンに負荷検査を実施しても 2年間での転帰改善なし
Routine Functional Testing or Standard Care in High-Risk Patients after PCI N Engl J Med. 2022 Sep 8;387(10):905-915. doi: 10.1056/NEJMoa2208335. Epub 2022 Aug 28. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 [背景] 心筋血行再建術後の特定の追跡調査アプローチを導く無作為化試験から得られたデータは限られています。定期的な機能検査を含むフォローアップ戦略が、経皮的冠動脈インターベンション (PCI) を受けたハイリスク患者の臨床転帰を改善するかどうかは不明です。 PCI から 1 年後の定期的な機能検査 (核負荷試験、運動心電図検査、負荷心エコー検査) のフォローアップ戦略、または標準治療単独への PCI。主要転帰は、あらゆる原因による死亡、心筋梗塞、または不安定狭心症による 2 年間の入院の複合でした。重要な副次的アウトカムには、侵襲的冠動脈造影と繰り返しの血行再建術が含まれていました。 38.7% が糖尿病で、96.4% が薬剤溶出性ステントで治療されていました。 2 年後、機能検査群では 849 人中 46 人 (Kaplan-Meier 推定、5.5%)、標準治療群では 857 人中 51 人 (Kaplan-Meier 推定、6.0%) で、主要転帰事象が発生した。グループ (ハザード比、0.90; 95% 信頼区間 [CI]、0.61 から 1.35; P = 0.62)。主要アウトカムの構成要素に関して、グループ間で違いはありませんでした。 2 年後、機能検査群の患者の 12.3%、標準治療群の 9.3% の患者が侵襲的冠動脈造影を受けており (差、2.99 パーセント ポイント、95% CI、-0.01 ~ 5.99)、8.1% およびそれぞれ 5.8% の患者が繰り返し血行再建術を受けていた (差、2.23 パーセンテージ ポイント; 95% CI、-0.22 ~ 4.68)。 [結論] PCI を受けた高リスク患者では、定期的な機能検査の追跡戦略は、標準治療単独と比較して、2 年で臨床転帰を改善しませんでした。 (CardioVascular Research Foundation および Daewoong Pharmaceutical から研究助成を受けた。POST-PCI ClinicalTrials.gov 番号、NCT03217877)。 第一人者の医師による解説 高リスク患者でもルーチン負荷検査実施に臨床的意義なし 背景に冠動脈ステント性能の向上 清末 有宏 森山記念病院循環器センター長 MMJ.February 2023;19(1):11 金属ステントを冠動脈に留置していた時代にはステント内再狭窄が20~30%に見られたため、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)実施後6カ月前後で再入院のうえ経皮的冠動脈造影(CAG)を必ず実施していたし、実際に20~30%の患者は再 PCIとなった。しかし2004年以降薬剤溶出性ステントの時代に突入し、免疫抑制薬の新生内膜増殖抑制作用により、ステント内再狭窄率は5~10%に低下した。第1世代薬剤溶出性ステントではポリマーによる血管炎症が問題となったが、その後第2世代、第3世代と日進月歩の勢いで進化を遂げ、近年ではどのステントを用いてもステント内再狭窄率は高リスクな背景を有する患者でなければ1~2%と驚異的な数字となっている。また同時に画像診断技術も大きく進歩し、心電図同期造影 CTによる冠動脈の描出はCAGに引けを取らないレベルまで質が高まりつつあり、各種の非侵襲的な機能的負荷試験も心筋虚血の検出において感度・特異度を上げてきている。 上記状況を踏まえPCI実施後の患者の臨床的経過観察をどのようにすべきか、ということに関しては各国の医療環境を考慮に入れながら長期にわたって世界的に議論が続いており、またその議論は常に最新のエビデンスとともにアップデートされることを余儀なくされている。日本では欧米諸国に比べ再CAGの敷居が低い時代が長く続いたが、近年は再 CAGをルーチンで実施することは推奨されていない。ガイドラインには本件に関する記載はないものの、日本のReACT試験では再 CAG実施群において非実施群に比べ冠疾患関連複合エンドポイントの改善は認められなかった(ハザード比 , 0.94;95%信頼区間[CI], 0.67~1.31)(1)。本論文のPOST-PCI試験ではさらに一歩進んで、PCI後の解剖学的または臨床的な高リスク患者に対して1年後にルーチンの機能的負荷試験(負荷心筋シンチ、運動負荷心電図、負荷心エコーのいずれか)を実施しても、2年間の冠疾患関連複合エンドポイントは非実施群と比較し改善しなかった(HR,0.90;95% CI, 0.61~1.35)。いろいろな方向性での解釈が可能な試験結果かとは思うが、一つ確実に言えることは冠動脈ステントの性能がいわば“Fire-and-forget”に耐えられるほどに向上したということであろうか。 1. Shiomi H, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2017;10(2):109-117.
英国の2200万人のデータから自己免疫疾患患者の心血管リスクを検討
英国の2200万人のデータから自己免疫疾患患者の心血管リスクを検討
Autoimmune diseases and cardiovascular risk: a population-based study on 19 autoimmune diseases and 12 cardiovascular diseases in 22 million individuals in the UK Lancet. 2022 Sep 3;400(10354):733-743. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01349-6. Epub 2022 Aug 27. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 [背景] 一部の自己免疫疾患は、心血管疾患のリスク増加と関連しています。 [METHODS]この人口ベースの研究では、Clinical Practice Research Datalink (CPRD) からのリンクされたプライマリおよびセカンダリケア記録を使用しました。 )、GOLD および Aurum データセットを使用して、2000 年 1 月 1 日から 2017 年 12 月 31 日までの間に 19 の自己免疫疾患のいずれかと新たに診断され、診断時に 80 歳未満であり、心血管疾患のない英国中の個人のコホートを収集します。診断後最大12か月。また、年齢、性別、社会経済的地位、地域、暦年が一致し、研究開始後 12 か月まで自己免疫疾患も心血管疾患もなかった最大 5 人の一致したコホートを作成しました。両方のコホートを 2019 年 6 月 30 日まで追跡調査しました。12 の心血管転帰の発生率を調査し、Cox 比例ハザード モデルを使用して、自己免疫疾患のある患者とない患者の違いを調べました。自己免疫疾患を持つ 446,449 人の適格な個人と 2,102,830 人の一致した対照を特定しました。自己免疫コホートでは、診断時の平均年齢は 46.2 歳 (SD 19.8) で、271,410 人 (60.8%) が女性で、175,039 人 (39.2%) が男性でした。 68 413 (15.3%) の自己免疫疾患患者と 231 410 人 (11.0%) の患者が、追跡期間の中央値 6.2 年 (IQR 2.7-10.8) の間に心血管疾患を発症しました。心血管疾患の発生率は、自己免疫疾患患者では 1000 患者年あたり 23.3 イベント、自己免疫疾患のない患者では 1000 患者年あたり 15.0 イベントでした (ハザード比 [HR] 1.56 [95% CI 1.52-1.59])。自己免疫疾患を伴う心血管疾患のリスクの増加は、個々の心血管疾患ごとに見られ、存在する自己免疫疾患の数とともに徐々に増加しました (1 つの疾患: HR 1.41 [95% CI 1.37-1.45]; 2 つの疾患: 2·63 [2·49-2·78]); 3 つ以上の疾患: 3.79 [3.36-4.27])、およびより若い年齢層 (年齢 <45 歳: 2.33 [2.16-2.51]; 55-64 歳: 1. 76 [1.67-1.85]; 75歳以上: 1.30 [1.24-1.36])。自己免疫疾患のうち、全身性強皮症(3・59[2・81-4・59])、アジソン病(2・83[1・96-4・09])、全身性エリテマトーデス(2・82[2・38- 3.33])、1 型糖尿病 (2.36 [2.21-2.52]) は全体的な心血管リスクが最も高かった。 、およびこれらの合併症の根底にある病態生理学的メカニズムに関するさらなる研究。 第一人者の医師による解説 若年者の自己免疫疾患患者の診療では心血管イベント発症に留意する必要 長谷川 詠子 虎の門病院リウマチ膠原病科部長代行 /腎センター内科部長代行 MMJ.February 2023;19(1):16 いくつかの自己免疫疾患は心血管イベントの増加に関与していると言われているが、関節リウマチや乾癬など特定の疾患のデータしかなく(1),(2)、心血管アウトカムは虚血性心疾患と脳卒中に限られておりサンプルサイズも小さかった。 本研究では2000~17年に新たに診断された19の自己免疫疾患患者のデータを英国の医療データベース(Clinical Practice Research Datalink;CPRD)を使用して検証した。自己免疫疾患群446,449人を年齢や性別、社会経済状況等でマッチさせた自己免疫疾患・心血管疾患のない対照群2,102,830人と比較し、12の心血管イベントの発症を調査した。 その結果、自己免疫疾患群の構成は診断時の平均年齢46.2歳、女性60.8%であった。中央値6.2年の追跡期間に、自己免疫疾患患者群の15.3%、対照群の11.0%が心血管イベントを発症した。自己免疫疾患患者群の心血管イベント発症率は23.3/1,000人・年、対照群では15.0/1,000人・年であった(ハザード比[HR], 1.56;95%信頼区間[CI], 1.52~1.59)。心血管イベント発症のリスク(HR)は、自己免疫疾患の合併数が多いほど上昇し(1疾患1.41[95% CI, 1.37~1.45]、2疾患2.63[2.49~2.78]、3疾患以上3.79[3.36~4.27])、若年者の方が高かった(45歳未満2.33[2.16~2.51]、55~64歳1.76[1.67~1.85]、75歳以上1.3[1.24~1.36])。自己免疫疾患の中では全身性強皮症(HR, 3.59;95% CI, 2.81~4.59)、アジソン病(2.83;1.96~4.09)、全身性エリテマトーデス(2.82;2.38~3.33)、1型糖尿病(2.36;2.21~2.52)において心血管イベント発症リスクが高かった。自己免疫疾患との関連が特に強かった心血管イベントの種類は、心筋炎・心膜炎(HR, 2.34)、末梢動脈疾患(2.09)、感染性心内膜炎(1.85)であった。一方、血圧、喫煙、体格指数(BMI)、コレステロール、2型糖尿病といった古典的な心血管危険因子の心血管イベント発症への寄与はわずかであった。 自己免疫疾患では心筋炎、心膜炎など自己免疫による炎症が関与していることもあれば、ステロイドや免疫抑制薬の使用で易感染性となり感染性心内膜炎を発症する場合もある。慢性炎症が持続することやステロイドによる動脈硬化の進展に伴う心血管イベントに留意が必要であるのはもちろんだが、若年であっても自己免疫疾患特有の心血管イベント発症リスクがあり留意が必要である。 1. Pujades-Rodriguez M, et al. PLoS One. 2016;11(3):e0151245. 2. Dowlatshahi EA, et al. Br J Dermatol. 2013;169(2):266-282.