「リハビリテーション」の記事一覧

転帰不良リスクがある患者に対象を絞ったリハビリによる人工膝関節全置換後の転帰改善効果 無作為化比較試験
転帰不良リスクがある患者に対象を絞ったリハビリによる人工膝関節全置換後の転帰改善効果 無作為化比較試験
Targeting rehabilitation to improve outcomes after total knee arthroplasty in patients at risk of poor outcomes: randomised controlled trial BMJ. 2020 Oct 13;371:m3576. doi: 10.1136/bmj.m3576. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】人工膝関節全置換後の転帰不良が予測される患者に対象を絞った場合、漸進的な外来理学療法が、単回理学療法や自宅での運動主体の介入より優れた転帰をもたらすかを評価すること。 【デザイン】並行群間無作為化比較試験。 【設定】術後の理学療法を提供する英国の二次および三次医療機関13施設。 【参加者】術後6週時に、オックスフォード膝スコアで人工膝関節全置換後の転帰が不良のリスクがあると判定した変形性膝関節症患者334例。163例を理学療法士主導の外来リハビリ、171例を自宅での運動主体の介入に割り付けた。 【介入】理学療法士が全例をレビューし、6週間にわたる18回の理学療法士主導の外来リハビリ(1週間ごとにプログラムを修正する漸進的目標指向型の1対1の機能リハビリ)または理学療法士のレビュー後在宅での運動を軸にした介入(理学療法士の漸進的介入なし)を実施した 【主要評価項目】52週時のOxford膝スコア群間差4点を主要評価項目とし、臨床的意義があると考えた。術後14、26、52週時に測定した疼痛および機能の患者報告転帰を副次評価項目とした。 【結果】334例を無作為化した。8例が追跡不能であった。介入の遵守率が85%を超えていた。52週時のOxford膝スコアの群間差は1.91点(95%CI -0.18-3.99)で、外来リハビリ群の方が良好だった(P=0.07)。全測定時点のデータを解析するとOxford膝スコアの群間差は2.25点で臨床的意義がなかった(同0.61-3.90、P=0.01)。52週時やそれ以前の測定時点での平均疼痛(0.25点、-0.78-0.28、P=0.36)および疼痛悪化(0.22点、-0.71-0.41、P=0.50)の副次評価項目に群間差は見られず、転帰に対する満足度(オッズ比1.07、95%CI 0.71-1.62、P=0.75)および介入後の機能(4.64秒、95%CI -14.25-4.96、P=0.34)にも差がなかった。 【結論】人工膝関節全置換後の転帰不良リスクがある患者に実施する外来の理学療法士主導のリハビリに、理学療法士1名のレビューと自宅での運動を軸にした介入に対する優越性はなかった。主要評価項目および副次評価項目にも臨床的意義のある差は認められなかった。 第一人者の医師による解説 人工膝関節全置換術後の医療資源の提供計画に 再考の余地を与える研究 島田 洋一 秋田大学副学長・大学院整形外科学講座教授 MMJ. April 2021;17(2):57 人工膝関節全置換術(TKA)は、末期変形性膝関節症に対して最も多く施行される手術で、今後も件数の増加が予想されている。この手術は、痛みを軽減し、身体機能を改善するのに効果的だが、約20%の患者で術後の結果に不満が残ると言われており、満足度を向上させるのに理学療法は非常に重要である。しかし、現在、明確なガイドラインは存在せず、術前に、術後成績の予測は困難であることが明らかになっている。 本論文で報告された無作為化並行群間比較試験(TRIO試験)では、術後早期(6週間)時、機能やパフォーマンスの低く、痛みのレベルが高い、単純なタスクを実行するのが難しい患者334人の参加者のうち、163人は6週間のセラピスト主導の漸進的な入力ありの外来リハビリテーションに、171人は在宅運動ベースで、漸進的な入力なしのプロトコルに割り付けられ、主に患者立脚型臨床成績Oxford knee score(OKS)を比較した。 Intention-to-treat(ITT)解析では、術後1年OKS群間差の調整平均は1.91(95%信頼区間[CI],0.18~3.99)であり、セラピスト主導群で高値となった(P=0.07)。両群ともにOKSは臨床的に意味のある4点以上改善した。全時点(術後14、26、52週)のデータを解析しても群間差は2.25点であった(95% CI, 0.61~3.90;P=0.01)。Timed up go test(椅子から立ち上がり、3m先の目印を回って、再び椅子に座るまでの時間を測定)では有意差がなかった。1年後の満足度について群間差はなかったが、セラピスト主導群では疼痛軽減と身体活動を行う能力に対する満足度が有意に高値であった。 TKA術後リハビリテーションのプロトコルや提供方法に関する医学的根拠は依然として不足しており、最善のTKA術後の理学療法と、行政や保険者による医療サービスへの適切な資金提供の根拠が依然として不明瞭である。本研究では、転帰不良リスクが高い患者層を選択的にリクルートして、TKA術後理学療法において積極的に外来でセラピスト主導のリハビリテーションを促進する明らかな利点がないことが明らかになった。単に患者に高リスク群であることを認識させ、理学療法士による在宅運動に基づくレジメンの指導を通じてハンズオフリハビリテーションを提供するだけで、外来でのセラピスト主導のリハビリテーションと同等の結果を得るのに十分である可能性がある。
前十字靱帯断裂に対する早期再建術とリハビリテーション+待機遅延再建術の比較:COMPARE無作為化比較試験
前十字靱帯断裂に対する早期再建術とリハビリテーション+待機遅延再建術の比較:COMPARE無作為化比較試験
Early surgical reconstruction versus rehabilitation with elective delayed reconstruction for patients with anterior cruciate ligament rupture: COMPARE randomised controlled trial BMJ. 2021 Mar 9;372:n375. doi: 10.1136/bmj.n375. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】前十字靭帯(ACL)断裂によく用いられる2通りの治療法に、2年間にわたる膝の症状および機能、スポーツへの復帰に対する患者の認識に対する臨床的に意義のある差があるかを評価すること。 【デザイン】多施設共同非盲検並行群間無作為化比較試験(COMPARE試験)。 【設定】2011年5月から2016年4月までのオランダの病院6施設。 【参加者】6施設から募集した18~65歳の急性期ACL断裂患者。3、6、9、12、24カ月時に患者を評価した。 【介入】85例を早期にACL再建術を施行するグループ、82例を3カ月間のリハビリ後に任意で遅延ACL再建術を施行するグループ(初期に非外科的治療実施)に無作為化により割り付けた。 【主要評価項目】24カ月間にわたる各評価時点で、International Knee Documentation Committee(最高スコア100点)スコアにより、膝の症状および機能、スポーツへの復帰に対する患者の認識を評価した。 【結果】2011年5月から2016年4月までの間に167例を組み入れ、2通りの治療法に無作為化により割り付けた(平均年齢31.3歳、女性67例[40%])。163例(98%)が試験を完遂した。リハビリ後任意遅延ACL再建術群では、追跡調査期間中に41例(50%)に再建術を施行した。24カ月後、早期ACL再建術群はInternational Knee Documentation Committeeスコアが有意に良好であった(P=0.026)が、臨床的な意義は認められなかった(84.7点 v 79.4点、群間差5.3点、95%CI 0.6~9.9)。追跡3カ月後、リハビリ後任意遅延ACL再建術群のIKDCスコアは有意に良好であった(P=0.002、群間差-9.3点、同-14.6~-4.0)。追跡9カ月後、IKDCスコア変化量は、早期ACL再建術群の方が良好であった。12カ月後、両群の差は小さくなった。追跡期間中、早期ACL再建術群では、4例に再断裂、3例に対側ACL断裂が発生したのに対して、リハビリ後の任意遅延ACL再建術群では2例に再断裂、1例に対側ACL断裂が発生した。 【結論】急性期ACL断裂患者で、早期再建術の方がリハビリ後待機再建術よりも、2年追跡時の膝の症状および機能、スポーツへの復帰に対する認識が改善した。この結果は有意(P=0.026)ではあったが、臨床的に意義があるかは明らかになっていない。試験結果の解釈には、リハビリ群に割り付けた患者の50%に再建術が不要であったことを考慮に入れる必要がある。 第一人者の医師による解説 膝前十字靱帯損傷には早期手術が成績良好もリハビリで半数は手術回避 久保田 光昭(准教授)/石島 旨章(主任教授) 順天堂大学医学部整形外科学講座 MMJ. October 2021;17(5):152 膝前十字靭帯(ACL)再建術を受傷後早期に行うべきか、あるいは術前リハビリを行ったのちに手術を行うべきかについて検討したランダム化対照試験(RCT)はない。本論文は、2011〜16年にオランダの6施設で行われた初回ACL単独損傷に対し、早期手術とリハビリ後選択的待機手術の術後成績を比較検討したRCTである。 対象は18〜65歳で、早期手術群は受傷後6週間以内にACL再建術を行い、リハビリ群は最低3カ月間のリハビリ後に手術を受けるかどうか患者本人が選択した。167人(早期手術群85人、リハビリ群82人)が対象となり、リハビリ群のうち50%(41人)は受傷後平均10.6ヵ月で手術を行った。主観的膝評価法であるIKDC(international knee documentation committee)スコアは3カ月経過時点ではリハビリ群が有意に良好だが、6カ月〜2年まで早期手術群が有意に良好な成績であった(P=0.026)。また2年経過時点でのKOOS(knee injury and osteoarthritis outcome score)スポーツとQOLサブカテゴリ、そしてLysholmスコアは、いずれも早期手術群が有意に良好な成績であった。 今回のRCTでは、2年経過の膝の症状および機能の改善、そしてスポーツ復帰に関し、早期手術群の方が良好な結果であった。しかし、リハビリ待機群のうち半数が手術を必要としなかったことを考慮すると、本研究の結果の臨床的な位置づけについては注意を要する。また、両群間の差は臨床的有意義 な 差(minimal clinically important difference;MCID)も認めなかった。過去の報告では、ACL受傷後リハビリ行った後に手術を必要としたのは、2年で39%、5年で51%であった(1),(2)。ACL再建術を選択する理由は、膝崩れを繰り返すことで高まる2次性の半月板や軟骨損傷のリスクを低下させることである。しかし、早期手術群にも多くの半月板損傷を認め、ACL再建術を行っても半月板損傷の発生を完全に防止することは困難であり、ACL損傷は変形性膝関節症(OA)のリスクを高める(2)。リハビリ群の半数が治療に満足していなかったために早期の手術を選択したのか否かを検証する必要がある。ACL損傷は半月板損傷そしてOA発生のリスクが高まるため、ACL再建術の実施時期についての本研究は挑戦的ではあるが、どちらの方法がOA予防に有効であるかという視点での長期の経過観察が必要である。 1. Frobell RB, et al. N Engl J Med. 2010;363(4):331-342. 2. Lie MM, et ak. Br J Sports Med. 2019;53(18):1162-1167.
虚血性脳卒中後の上肢機能障害に用いるリハビリと迷走神経刺激(VNS-REHAB):無作為化盲検ピボタルデバイス試験
虚血性脳卒中後の上肢機能障害に用いるリハビリと迷走神経刺激(VNS-REHAB):無作為化盲検ピボタルデバイス試験
Vagus nerve stimulation paired with rehabilitation for upper limb motor function after ischaemic stroke (VNS-REHAB): a randomised, blinded, pivotal, device trial Lancet. 2021 Apr 24;397(10284):1545-1553. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00475-X. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】虚血性脳卒中後に長期的な上肢機能障害がよく起こるが、リハビリテーションと迷走神経刺激の組み合わせによって改善すると思われる。著者らは、この方法が脳卒中後の上肢障害改善に安全で有効な治療であることを明らかにすることを目的とした。 【方法】英国および米国の脳卒中リハビリテーション施設19箇所で実施されたこのピボタル無作為化三十盲検シャム対象試験は、虚血性脳卒中から9カ月以上経過し、中等度ないし重度の上肢機能障害が残る患者をリハビリテーション+迷走神経刺激(VNS群)とリハビリテーション+シャム刺激(対照群)に(1対1の割合で)割り付けた。ResearchPoint Global社(米テキサス州オースティン)がSAS PROC PLAN(米SAS Institute Software社)を用いて無作為化を実施し、地域(米国 vs 英国)、年齢(30歳以下 vs 30歳超)、治療開始前のFugl-Meyer Assessment-Upper Extremity(FMA-UE)スコア(20~35点 vs 36~50点)で層別化した。参加者、評価者および治療実施者に割り付けを伏せた。全参加者に迷走神経刺激装置を留置した。VNS群は、0.8mA、100μs、30Hzの刺激を0.5秒間受けた。対照群は、0mAの刺激を受けた。参加者は、6週間にわたり施設内で治療を受けた後(1週間に3回、計18回)、自宅で運動プログラムを継続した。主要評価項目は、施設内での治療完了初日の障害の変化とし、FMA-UEスコアで測定した。施設内治療完了から90日後にもFMA-UEの奏効率を評価した(副次評価項目)。全解析はintention-to-treatで実施した。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT03131960として登録されている。 【結果】2017年10月2日から2019年9月12日までの間に、108例を無作為化により割り付けた(VNS群53例、対照群55例)。106例が試験を完遂した(各群1例が脱落)。施設内治療完了初日、平均FMA-UEスコアはVNS群では5.0点(SD 4.4)、対照群では2.4点(3.8)上昇した(群間差2.6点、95%CI 1.0~4.2、P=0.0014)。施設内での治療から90日後、VNS群53例中23例(47%)、対照群55例中13例(24%)がFDA-UEスコアの臨床的に意義のある効果を達成した(群間差24%、6~41、P=0.0098)。対照群に手術関連の重篤な有害事象が1件発生した(声帯麻痺)。 【解釈】リハビリテーションと組み合わせた迷走神経刺激は、虚血性脳卒中後の中等度ないし重度上肢機能障害の新たな治療選択肢となる可能性がある。 第一人者の医師による解説 対象患者の障害程度の見極めと 治療の侵襲性と介入時期等についての議論が必要 赤倉 奈穂実/早乙女 貴子(医長) 東京都立神経病院リハビリテーション科/髙橋 一司 東京都立神経病院院長 MMJ. October 2021;17(5):141 虚血性脳卒中後に多くの患者で上肢機能障害が残存することは知られているが、これまでに上肢機能障害に対する効果が報告された治療法はわずかである。 脳卒中後の脳神経細胞には可塑性があることが指摘されている。迷走神経刺激(VNS)は皮質全体でアセチルコリンやノルエピネフリンなどの可塑性を促進する神経調節物質の放出を引き起こす。VNSを運動と同期的に行うことでシナプス再編成と残存神経の動員を促し、上肢の運動機能を回復させることが、動物実験で示されている(1),(2)。 本論文は、脳卒中後遺症のある患者を対象にVNS治療を英国と米国の19の脳卒中リハビリテーション施設で実施した無作為化三重盲検比較試験の報告である。年齢22~80歳、発症後9カ月~10年、中等度~重度(Fugl-Meyer Assessment-Upper Extremity[FMA-UE]スコア,20〜50点[最高得点は66点])の上肢機能障害を有する片側テント上虚血性脳卒中患者108人にVNS装置の植込み術を行った後、VNS刺激+リハビリテーション(VNS群53人)または偽刺激+リハビリテーション(対照群55人)のいずれかを週3回・6週間施設内で実施、その後自宅での運動プログラムを継続した。リハビリテーションプログラムは、リーチと把握、物体の裏返し、食事動作などの患者ごとに個別化した難易度の課題を反復して行った。 プログラム終了時の評価では、FMA-UEスコアの平均値は、ベースラインに比べ、VNS群で5.0点、対照群2.4点改善し、2群間に有意差が認められた。プログラム終了後90日目にFMA-UEスコアで臨床的に意義がある6ポイント以上の改善が得られたのは、VNS群では23/53人(47%)、対照群では13/55人(24%)であり、2群間の差は有意であった。手術に関連した重篤な有害事象は、対照群で1件(声帯麻痺)であり、これはてんかんやうつ病に対するVNS治療でみられる頻度と相違なかった。著者らはVNSが脳卒中後遺症としての上肢機能障害を改善させる新しい戦略になりうると結論付けている。 この治療法の課題として、運動神経回路の回復には上肢の運動が必要であり、対象となる患者の障害の程度を見極める必要があることや、介入時期、治療の侵襲性についても、さらなる議論が必要である。脳卒中後の中等度〜重度の上肢機能障害に対するリハビリテーションとVNSの組み合わせは新規治療として可能性を秘めている。 1. Engineer ND, et al. Front Neurosci. 2019;13:280. 2. Meyers EC, et al. Stroke. 2018;49(3):710-717.
心不全のため入院した高齢患者の身体リハビリテーション
心不全のため入院した高齢患者の身体リハビリテーション
Physical Rehabilitation for Older Patients Hospitalized for Heart Failure N Engl J Med. 2021 Jul 15;385(3):203-216. doi: 10.1056/NEJMoa2026141. Epub 2021 May 16. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】急性非代償性心不全のため入院した高齢患者は、身体的フレイル、生活の質の低下、回復の遅れおよび再入院の頻度が高い。この集団の身体的フレイルに対処する介入方法が十分に確立されていない。 【方法】多施設共同無作為化比較試験を実施し、4つの身体機能(筋力、平衡性、可動性および持久力)の強化を目的とした移行期の個別化段階的リハビリテーションによる介入を評価した。介入は、心不全による入院中または入院早期に開始し、退院後も36回の外来リハビリを実施した。主要評価項目は、3ヵ月後のShort Physical Performance Batteryスコア(総スコア0~12点、低スコアほど身体機能障害が重度であることを示す)とした。副次評価項目は、6ヵ月後の原因を問わない再入院率とした。 【結果】計349例を無作為化し、175例をリハビリテーション介入群、174例を通常治療(対照)群に割り付けた。介入前は両群の患者ともに身体機能が顕著に低下しており、97%がフレイルまたはフレイル予備軍であり、平均併存疾患数は両群ともに5疾患であった。介入群の患者継続率が82%であり、リハビリへの参加率が67%であった。介入前のShort Physical Performance Batteryスコアおよびその他の患者データを調整すると、3ヵ月後のShort Physical Performance Batteryスコアの最小二乗平均値(±SE)スコアは、介入群が8.3±0.2、対照群が6.9±0.2であった(平均群間差、1.5;95%信頼区間[CI]、0.9~2.0、P<0.001)。原因を問わない6ヵ月後の再入院率は、介入群が1.18、対照群が1.28であった(率比、0.93;95%CI、0.66~1.19)。介入群の21例(15例が心血管疾患に起因)、対照群の16例(8例が心血管疾患に起因)が死亡した。あらゆる原因による死亡率は、介入群が0.13、対照群が0.10であった(率比、1.17;95%CI、0.61~2.27)。 【結論】急性非代償性心不全のため入院したさまざまな高齢患者の集団で、多数の身体機能強化を目的とした移行期の個別化段階的リハビリテーションによる介入を早期に開始することによって、通常治療よりも身体機能が大きく改善した。 第一人者の医師による解説 死亡率と再入院率の改善には在宅医療を含めた多角的治療戦略が必要 酒向 正春 ねりま健育会病院院長 MMJ. February 2022;18(1):10 急性非代償性心不全で入院する高齢患者では、身体的フレイル、生活の質(QOL)の低下、回復の遅延、繰り返す再入院が高頻度にみられる(1)。しかし、急性心不全の高齢患者群の身体的フレイルに対するリハビリテーション(以下、リハ)治療の有効性は十分に確立されていない(2)。そこで本論文の著者らは、その有効性を検討するために米国で多施設ランダム化対照試験(REHAB-HF試験)を行った。 本試験では、入院患者27,300人のうち適格基準を満たした急性非代償性心不全の高齢患者349人が積極的リハ治療群175人(平均73.1歳)と通常ケア(対照)群174人(平均72.7歳)に無作為に割り付けられ、比較・評価された。積極的リハ治療群では、筋力強度、バランス、可動性、体力耐久性の4つの機能を強化するために、患者別のリハ介入が計画された。その介入は入院後早期に開始され、入院中継続し、退院後も外来で1回60分のセッションが週3日、12週間(計36回)継続された。主要評価項目は3カ月目のShort Physical Performance Battery(SPPB)のスコア(0から12の範囲で、スコアが低いほど重度の身体機能障害を示す)、副次評価項目は6カ月間の原因を問わない再入院率とされた。 両群は、入院時に身体機能が著しく低く、97%がフレイル状態かプレフレイル状態であり、平均5つの合併症を認めた。積極的リハ治療群の入院治療達成率は82%であり、外来を含めた治療順守率は67%であった。入院時 SPPBスコアの平均± SDは積極的リハ治療群6.0±2.8、対照群6.1±2.6であったが、3カ月の時点で積極的リハ治療群8.3±0.2、対照群6.9±0.2(群間差 , 1.5;95%信頼区間[CI], 0.9 ~ 2.0;P<0.001)となり、積極的リハ治療群で有意な改善が認められた。さらに、積極的リハ治療群では歩行バランス・速度・距離、フレイル、QOL、うつ状態が改善する傾向を示した。6カ月間の再入院件数は積極的リハ治療群194件、対照群213件(発生率比 , 0.93;95% CI, 0.66 ~ 1.19)、全死亡数は積極的リハ治療群21人(心血管系原因15人)、対照群16人(心血管系原因8人)(発生率比 , 1.17;95% CI, 0.61~2.27)であり、いずれも有意差は認められなかった。 以上より、急性非代償性心不全で入院した多様な高齢患者群に対して、入院早期から継続的に患者別に調整された積極的リハ治療を行うことにより身体機能面が大きく改善する有効性が明らかになった。死亡率と再入院率の改善には、在宅医療を含めた多角的治療戦略が必要である。 1. Warraich HJ, et al. Circ Heart Fail. 2018;11(11):e005254. 2. Mudge AM, et al. JACC Heart Fail. 2018;6(2):143-152.
仮想現実~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月19日号)
仮想現実~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月19日号)
近年、さまざまな医療分野においても仮想現実(virtual reality:VR)を用いた介入が注目されており、エビデンスも増加している。そのような中、2022年10月10日には大塚製薬が統合失調症向けVR支援プログラムを提供することを発表した。今回紹介する論文では、統合失調症、緩和ケア、慢性腰痛、妊婦のストレスに対するVR介入効果や肥満や喫煙、アルコールなどに対するVRのシステマティックレビューの結果をご紹介します。(エクスメディオ 鷹野 敦夫) 『BIBGRAPH SEARCH』では、エクスメディオが提供する文献検索サービス「Bibgraph」より、注目キーワードで検索された最新論文をまとめてご紹介しています。 統合失調症患者にVRを用いたリハビリテーション介入は受け入れられるのか Manghisi VM, et al. Games Health J. 2022 Sep 8.[Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 終末期の緩和ケアに対するVRの可能性 Guenther M, et al. BMC Palliat Care. 2022; 21: 169. ≫Bibgraphを読む VRによるスーパーヒーローの具現化で慢性腰痛患者のボディイメージが改善? Harvie DS, et al. Disabil Rehabil Assist Technol. 2022 Oct 18. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む ストレス軽減にVRでの緑地環境露出が有効~妊婦を対象とした研究 Sun Y, et al. Environ Res. 2022 Oct 5. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 喫煙、栄養、アルコール、身体活動、肥満に対するVR介入の有効性~システマティックレビュー Tatnell P, et al. Int J Environ Res Public Health. 2022; 19: 10821. ≫Bibgraphを読む 参考:大塚製薬とジョリーグッド、統合失調症向けVR支援プログラム「FACEDUO(フェイスデュオ)」を提供開始 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら