ライブラリー 変形性膝関節症の症状および滑膜炎による関節水腫の治療に用いるCurcuma longa抽出物の有効性:無作為化比較試験
Effectiveness of Curcuma longa Extract for the Treatment of Symptoms and Effusion-Synovitis of Knee Osteoarthritis : A Randomized Trial
Ann Intern Med. 2020 Dec 1;173(11):861-869. doi: 10.7326/M20-0990. Epub 2020 Sep 15.
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上記論文の日本語要約
【背景】変形性関節症の現行の薬物療法は最適なものではない。
【目的】症候性変形性膝関節症および滑膜炎による関節水腫がある患者で、膝の症状と関節水腫の軽減に対するウコン(Curcuma longa:CL)抽出物の有効性を明らかにすること。
【デザイン】無作為化二重盲検プラセボ対照試験(オーストラリアニュージーランド臨床試験レジストリ:ACTRN12618000080224)。
【設定】オーストラリア・南タスマニアの患者を対象とした単施設試験。
【参加者】超音波検査で滑膜炎による関節水腫が認められた症候性変形性膝関節症患者70例
【介入】1日当たり2錠を12週間にわたって投与するCL(36例)とマッチさせたプラセボ(34例)。
【評価項目】主要評価項目は、視覚的アナログ尺度(VAS)を用いた膝疼痛スコアおよび磁気共鳴画像法(MRI)で描出された関節液量の変化とした。主な副次評価項目は、Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)の疼痛スコアおよび軟骨の質の変化とした。各項目を12週間にわたって評価した。
【結果】CL群のVAS疼痛スコアがプラセボと比べて-9.1mm(95%CI -17.8、-0.4、P=0.039)改善したが、関節液量には変化がなかった(3.2mL、CI -0.3~6.8mL)。このほか、CL群ではWOMAC疼痛スコアが改善した(-47.2mm、CI -81.2~-13.2、P=0.006)が、外側大腿骨軟骨のT2緩和時間には改善が見られなかった(-0.4ms、CI -1.1~0.3ms)。有害事象発現率はCL群(14例、39%とプラセボ群(18例、53%)で同等であり(P=0.16)、CL群の2件、プラセボ群の5件が治療関連と考えられた。
【欠点】規模が中程度で、短期間であった点。
【結論】CLは、膝の疼痛に対してプラセボよりも有効であったが、滑膜炎による関節水腫や軟骨の質には影響がなかった。一連の結果の臨床的意義を評価すべく、さらに大規模な多施設共同試験が必要である。
第一人者の医師による解説
生薬(Curcuma longa)による変形性膝関節症治療のエビデンス 大規模で長期の臨床試験を期待
沢田 哲治 東京医科大学病院リウマチ・膠原病内科教授
MMJ. June 2021;17(3):74
変形性関節症(osteoarthritis;OA)は加齢を素因として緩徐に進行する軟骨の変性疾患であり、遠位指節間関節や手根中手関節、脊椎、下肢荷重関節などに疼痛や運動障害をきたす疾患である。X線像では骨棘形成や軟骨下骨硬化像、骨囊胞などの骨変化や関節裂隙狭小化(軟骨菲薄化)がみられる。非炎症性疾患と見なされているが、MRIでは滑膜病変やT2強調像の高信号領域として検出される骨髄 病変(bone marrow lesion)を認め、その病態形成に局所的な炎症機転の関与が示唆されている。
OAの進行を停止または逆転させる治療法はなく、対症療法として非薬物療法(運動療法、減量指導、装具使用、温熱療法など)、薬物療法、関節内注射(副腎皮質ステロイドやヒアルロン酸)、外科的療法などが行われる。疼痛緩和の薬物療法としてアセトアミノフェン内服、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)内服、外用NSAID貼付などが行われるが、効果不十分なことも少なくない。また、NSAID内服では消化管障害や心血管系障害のリスクも懸念される。ウコン(turmeric)はアジアの熱帯地方で自生または栽培されるショウガ科の生薬である。カレー粉として料理に使われるが、主成分のクルクミンは利胆作用などのほかに抗炎症作用も有することが示されている(1)。
本論文の著者らは、ウコン抽出物の疼痛緩和効果を検証するため、関節水腫-滑膜炎を伴う膝OA患者70人を対象にランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。その結果、12週後のMRI画像上の関節液-滑膜炎量の改善は認められなかったが、ウコン抽出物の経口投与により疼痛と機能障害は有意に改善することが示された。日本の中川らの報告(2)を含むランダム化比較試験(試験期間は16週以下)のメタ解析でも、その有用性が示されている(3)。一方、臨床試験では重篤な副作用は報告されていないが、健康食品としてのウコン摂取では肝障害の発生がまれながら報告されている(https://www.med.or.jp/people/knkshoku/ukon.html)。今後ウコンの長期的有用性と安全性を確認するため、より大規模で長期にわたる臨床試験の実施が 期待される。
なお、日本では、関節水腫を伴う膝OAの漢方製剤として、防已黄耆湯が用いられることが多く、患者の臨床症状に合わせて越婢加朮湯や薏苡仁湯なども用いられている。ウコンは生薬であるが、これ らの漢方製剤には含まれていない。
1. Hoppstädter J, et al. J Biol Chem. 2016;291(44):22949-22960.
2. Nakagawa Y, et al. J Orthop Sci. 2014;19(6):933-939.
3. Wang Z, et al. Curr Rheumatol Rep. 2021;23(2):11.