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変形性膝関節症に用いる段階的運動プログラム 無作為化比較試験
変形性膝関節症に用いる段階的運動プログラム 無作為化比較試験
Stepped Exercise Program for Patients With Knee Osteoarthritis : A Randomized Controlled Trial Ann Intern Med. 2021 Mar;174(3):298-307. doi: 10.7326/M20-4447. Epub 2020 Dec 29. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】変形性膝関節症の運動療法を患者のニーズに応じて効率良く提供するため、科学的根拠に基づいた枠組みが必要である。 【目的】変形性膝関節症患者に用いる段階的運動プログラム(STEP-KOA)を検討すること。 【デザイン】無作為化比較試験(ClinicalTrials.gov、NCT02653768)。 【設定】米国退役軍人省の2施設。 【参加者】症候性変形性膝関節症患者345例(平均年齢60歳、女性15%、有色人種67%)。 【介入】参加者をSTEP-KOA群または対照の関節炎に関する教育(AE)群に2対1の割合で無作為化した。STEP-KOA群では、3カ月間のオンラインの運動プログラム(第1段階)を開始した。第1段階終了時に疼痛および機能改善に関する治療成績の判定基準を満たさなかった参加者が第2段階へと移行し、2週間に1回、3カ月間にわたって電話で運動に関するコーチングを受けた。第2段階終了時に治療成績の判定基準を満たさなかった患者は、来院して対面理学療法を受ける第3段階へと移行した。AE群には2週間に1回、教材を郵送した。 【評価項目】Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)スコアで主要評価項目を評価した。線形混合モデルを用いて、9カ月時のSTEP-KOA群およびAE群のスコアを比較した。 【結果】STEP-KOA群では、65%(230例中150例)が第2段階へ、35%(230例中81例)が第3段階へ進んだ。全対象者の試験開始時の推定WOMACスコアは47.5点(95%CI 45.7-49.2)であった。9カ月の追跡調査時、推定WOMAC平均スコアは、STEP-KOA群の方がAE群より6.8点(同-10.5--3.2点)低く、改善度が大きいことが示された。 【欠点】参加者のほとんどが男性退役軍人であった点、追跡調査が短かった点。 【結論】STEP-KOAを実施した退役軍人に、対照群と比べて変形性膝関節症の症状が中等度の改善が見られた。変形性膝関節症の運動療法を実施する際、STEP-KOAは有効であると思われる。 第一人者の医師による解説 膝運動療法への関心向上のため 効果的戦略の開発にさらなる研究必要 佐々木 正 医療法人社団慶洋会ケイアイクリニック整形外科 MMJ. August 2021;17(4):122 変形性膝関節症(膝 OA)患者の大部分は運動不足であり、理学療法の使用率は大幅に低い。膝 OAに対する運動関連サービスを、患者のニーズに応じて効率的に提供するためにはエビデンスに基づいたモデルの作成が求められる。 本研究は、そのような背景の下、モデルとして、膝 OA患者に対する段階的運動プログラム(STEPKOA)についての調査を目的として行われた。参加者は米国退役軍人の母集団から選出された症候性膝 OA患者345人(平均年齢60歳、女性15%、有色67%)である。参加者は、STEP-KOAまたは膝関節教育(AE)対照群に割り付けられた。STEPKOAの介入は、インターネットベースの3カ月間の運動プログラムから開始(ステップ 1)。ステップ 1後の疼痛および機能の改善に関する応答基準を満たさなかった参加者は、2段階目の3カ月間の運動活動に進んだ(ステップ 2)。ステップ 2以降に応答基準を満たさなかった参加者は、対人理学療法の訪問に進んだ(ステップ 3)。AE群は2週間ごとにメールで教材を受け取った。STEP-KOA群の65%がステップ 2に、35%がステップ 3に進んだ。主要評価項目はWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis index(WOMAC)スコアで評価した。3、6カ月目の応答基準は、WOMACスコアで評価し、OMERACT-OARSIレスポンダー基準のセットを用いた( Outcome Measures in Rheumatology?Osteoarthritis Research Society International)。WOMACは世界的に用いられる膝 OAのQOL indexであるが、日本ではなじみが少ない。WOMACは、下肢の痛み(5項目)、こわばり(2項目)、機能(17項目)をリッカート尺度で評価する。 全サンプルのベースライン WOMACスコアは47.5であった。9カ月後の追跡調査では、STEPKOA群の推定平均 WOMACは、AE群に比べて6.8ポイント低く、緩やかな改善がみられた。結論として、STEP-KOA戦略は膝 OAの運動療法を提供するのに効率的である可能性がある。 本研究の対象集団には、参加者が退役軍人に限られる、男女比が膝 OAの一般的な男女比1:4と大差がある、平均年齢が低いという特徴があり、今回の結果から導かれる結論には限界がある。さらに、参加者のX線写真の評価が含まれていないため、重症度の判定は難しい。ネットベースの運動プログラムの内容の詳述がなく、ウエブのアクセスでは個人差が大きいことも問題である。 参加者の脱落率が25%と高く、参加者が介入に関心がなかった可能性があり、集計の信頼度が下がる。一般に、運動療法に対するモチベーションは高いとはいいがたい。効果的な戦略の開発にはさらなる研究が必要である。