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新世代ガドリニウム造影剤による腎性全身性線維症リスク 系統的レビュー
新世代ガドリニウム造影剤による腎性全身性線維症リスク 系統的レビュー
Risk for Nephrogenic Systemic Fibrosis After Exposure to Newer Gadolinium Agents: A Systematic Review Ann Intern Med. 2020 Jul 21;173(2):110-119. doi: 10.7326/M20-0299. Epub 2020 Jun 23. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】従来のガドリニウム造影剤(GBCA)と比較した新世代GBCA投与後の腎性全身性線維症(NSF)リスクは明らかになっていない。 【目的】腎機能の観点から見て従来GBCAと比べた新世代GBCAのNSFリスクについての科学的根拠を統合すること。 【データ入手元】MEDLINE、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled TrialsおよびWeb of Scienceで、開始から2020年5月5日までの英語の文献を検索した。 【試験の選択】GBCA曝露後に発生したNSFを評価した無作為化試験、コホート試験および症例対照試験 【データ抽出】1名がデータを要約し、もう1名が検証した。検証ツールを用いて、2人1組でバイアスリスクを評価した。 【データ統合】対象とした試験32件のうち、20件が新世代GBCA曝露後のNSFリスクを評価し、12件(コホート試験11件および症例対照試験1件)が新旧GBCAのNSFリスクを比較していた。新世代GBCAに曝露した8万3291例でNSFを発症した症例はなかった(正確95%CI 0.0001-0.0258)。新旧GBCAのリスクを比較した12件(対象11万8844例)で、従来GBCA投与後に37例(正確95%CI 0.0001-0.0523)、新世代GBCA投与後に4例(3例confounded)がNSFを発症した。急性腎障害患者および慢性腎不全のリスクがある患者のデータは不十分であった。 【欠点】試験に異質性があり、メタ解析ができなかった点。曝露および転帰の把握が不十分であったため、ほとんどの試験でバイアスリスクが高かった点。 【結論】新世代GBCA暴露後のNSF発症が非常にまれであったが、急性腎障害患者や慢性腎不全の危険因子がある患者のデータが乏しかったため、この集団での安全性に関する結論を示すことができない。 第一人者の医師による解説 腎障害患者へのガドリニウム造影剤使用 これまで同様に慎重な判断が必要 渡谷 岳行 東京大学大学院医学系研究科 生体物理医学専攻放射線診断学准教授 MMJ. February 2021;17(1):26 2007年、米国食品医薬品局(FDA)は腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis;NSF)の発症に、ガドリニウム含有 MRI造影剤の関連が疑われるという警告を行った。現在ではNSFの発症には、造影剤のキレートから遊離したガドリニウム原子の組織沈着が関与していると言われており、NSFの発症には①造影剤分子におけるガドリニウム原子の安定性②腎機能の2つの因子が強く関与していると考えられている。 米国放射線学会(ACR)はガドリニウム造影剤をNSFの報告数が多いGroup I、報告数の少ないGroup II、報告数は少ないがデータの少ないGroup IIIに分類している。本研究ではGroup IIとIIIを新世代の造影剤と位置づけて、文献報告をレビューしている。20の文献が新世代造影剤によるNSF発症率のアセスメントに採用され、95%信頼区間(CI)の上限は0.0258であった。12の文献が新世代と旧世代造影剤のNSF発症率の比較に採用され、旧世代の95% CI上限は0.0523、新世代では0.0204であった。旧世代(Group I)の造影剤に比べ、新世代造影剤の発症リスクが低いことが示されたが、本研究で採用された文献のほとんどは、メーカー主導の市販後臨床試験を除き、被験者が少数の研究に基づくものである。また、それらの中でも腎障害を有する被験者の割合は低く、高リスク群に対する評価が十分なされているとは言えない。この点は本論文内でも言及されている。 NSFは稀な合併症とはいえ一度発症すると有効な治療法が確立されておらず、致死率も低くないため十分なデータを集めること自体が難しい領域である。現在の日本では新世代造影剤が十分に普及している状況ではあるが、腎障害患者へのガドリニウム造影剤使用の適応については、これまで同様に慎重な判断を行っていく必要があると考えられる。
COVID-19患者の病理解剖所見および静脈血栓塞栓症 前向きコホート試験
COVID-19患者の病理解剖所見および静脈血栓塞栓症 前向きコホート試験
Autopsy Findings and Venous Thromboembolism in Patients With COVID-19: A Prospective Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Aug 18;173(4):268-277. doi: 10.7326/M20-2003. Epub 2020 May 6. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】新型コロナウイルス、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって、世界で21万人以上が死亡している。しかし、死因やウイルス病理学的特徴についてはほとんど明らかになっていない。 【目的】病理解剖、死亡時画像診断およびウイルス学的検査のデータから臨床的特徴を検証し、比較すること。 【デザイン】前向きコホート試験。 【設定】ドイツ・ハンブルク州から委託され、大学病院1施設で実施したPCR検査でCOVID-19診断が確定した患者の病理解剖。 【患者】COVID-19陽性で死亡した最初の連続症例12例。 【評価項目】死後CT検査、組織学的およびウイルス学的解析を含む死体解剖を実施した。臨床データおよび疾患の経過を評価した。 【結果】患者の平均年齢は73歳(範囲52~87歳)、患者の75%が男性であり、病院内(10例)または外来病棟(2例)で死亡が発生した。冠動脈疾患、喘息または慢性閉塞性呼吸器疾患が最も頻度の高い併存疾患であった(それぞれ50%、25%)。解剖から、12例中7例(58%)に深部静脈血栓症があったことが明らかになったが、いずれも死亡前に静脈血栓塞栓症の疑いはなかった。4例では肺塞栓が直接的な死因であった。死後CT検査で8例に両肺にコンソリデーションを伴う網状浸潤影、病理組織学的検査で8例にびまん性肺胞傷害が認められた。全例の肺から高濃度のSARS-CoV-2 RNAが検出された。10例中6例からウイルス血症、12例中5例からは肝臓や腎臓、心臓からも高濃度のウイルスRNAが検出された。 【欠点】検体数が少ない点。 【結論】静脈血栓塞栓症が高頻度に見られることから、COVID-19による凝固障害が重要な役割を演じていることが示唆される。COVID-19による死亡の分子的構造および全体の発生率、死亡を抑制するための有望な治療法を明らかにすべく、詳細な研究が必要とされる。 第一人者の医師による解説 死に至る病態はびまん性肺胞傷害で急速悪化のケースと 合併症により徐々に衰弱するケースか 福澤 龍二 国際医療福祉大学大学院医学研究科基礎医学研究分野・医学部病理学教授 MMJ. February 2021;17(1):8 本論文は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)12例(全例基礎疾患あり)の臨床像、血液、凝固系、PCRなどの検査所見、死後のCT、病理解剖所見を報告している。剖検による死因として全例に肺病変が挙げられ、2種類の肺病理像に分類できる。 (1)間質性肺炎(IP)─びまん性肺胞傷害(DAD):8例は、IPが先行しDADに進展した症例であった。血液、肺、その他複数の臓器からSARS-CoV-2が検出され、ウイルス血症による全身への播種、IPとの関連が示唆される。 (2)気管支肺炎(BP):残り4例は、末梢気道への好中球浸潤を主体とするBPであった。間質性病変はなく、経気道的な細菌感染が示唆される。このようなウイルス性IPの組織像が明確でない症例でも、肺組織からウイルスが検出されていることから、ウイルスが気道上皮細胞に感染し、粘液線毛クリアランスを低下させることが細菌感染の一因と思われる。 肺病理像に基づいて、血液凝固異常との関連をみると、IP-DAD症例8例中6例に深在静脈血栓が形成され、4例は肺塞栓を伴っていた。全例が病院外で突然死または集中治療室で死亡している。重篤な呼吸障害を起こすDADに加え、肺塞栓を高頻度に認める解剖所見は死亡時の状況を反映している。一方、BPの症例では、肺塞栓はなく、静脈血栓を1例のみ認めた。全例が一般病棟で支持療法中に死亡しており、経過は緩徐で、IP-DADに比べ血液凝固異常は起こりにくい病態であることが示唆される。 以上から、COVID-19により死に至る病態は以下の2つが想定される:①IPが先行し、DAD発症により急速に呼吸状態が悪化し、重症化する(急性呼吸促迫症候群)。また、血液凝固異常の頻度が高く、肺塞栓症の併発は循環動態をも悪化させ、急死に至らしめる。全身性病態へ進展する背景には、ウイルスの全身播種とこれに対する宿主の過剰防御反応(サイトカインストーム)が想定され、過剰な免疫反応がCOVID-19関連死の最大の誘因と考えられる②合併症(BP増悪や敗血症への進展)により徐々に衰弱し死亡すると思われる病態。これらの症例ではIP(肺胞壁の炎症・免疫応答)がみられないことから、ウイルスは肺胞上皮までは感染していないか、しても複製量が少なく肺外に拡がりにくい可能性がある。このため、過剰な免疫反応が起こりにくく、DADに至らず、凝固異常の頻度も低いと推測される。 〈脚注〉 IP:多くはウイルスが原因である。上気道粘膜に侵襲したウイルスが肺胞に至り、肺胞壁にリンパ球主体の炎症が起き、肺野にびまん性に拡がりやすい。DAD:急性呼吸促迫症候群の肺病理像で、肺胞壁の毛細血管から肺胞内への滲出性変化(硝子膜の形成)を特徴とする。誘発因子は肺炎、敗血症など。 BP:細菌の気道感染により発症する。気管支・肺胞内に炎症を起こす局所的な肺炎で、炎症は好中球が主体である。
2型糖尿病に用いる血糖降下薬の有効性比較 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
2型糖尿病に用いる血糖降下薬の有効性比較 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
Comparative Effectiveness of Glucose-Lowering Drugs for Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Network Meta-analysis Ann Intern Med. 2020 Aug 18;173(4):278-286. doi: 10.7326/M20-0864. Epub 2020 Jun 30. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】2型糖尿病の治療には、薬理学的に幾つか選択肢がある。 【目的】2型糖尿病成人患者に用いる血糖降下薬の便益と有害性を比較すること。 【データ入手元】数件のデータベース(開始から2019年12月18日まで)および2020年4月10日時点のClinicalTrials.gov。 【試験選択】介入期間が24週間以上あり、血糖降下薬の死亡率、血糖値および血管転帰を評価した英語の無作為化試験 【データ抽出】2人1組でデータを抽出し、バイアスリスクを評価した。 【データ統合】9つの薬剤分類で21通りの糖尿病治療法を検討した試験453件を対象とした。介入に、単剤療法(134試験)、メトホルミン主体の併用療法(296試験)、単剤療法とメトホルミン主体の併用療法の比較(23試験)があった。治療歴がなく心血管リスクが低い患者で治療による差は見られなかった。メトホルミンを用いた基礎療法にインスリン治療またはグルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体作動薬を併用した治療が、HbA1c低下量が最も大きかった。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが低い患者で、死亡率および血管転帰に臨床的に意味のある差は見られなかった(298試験)。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが高い患者で、経口セマグルチド、エンパグリフロジン、リラグルチド、エキセナチド徐放製剤およびダパグリフロジンの使用によって全死因死亡率が低下した(21試験)。このほか、経口セマグルチド、エンパグリフロジンおよびリラグルチドで、心血管死も減少した。セマグルチド皮下投与およびデュラグルチドで、脳卒中のオッズが低下した。ナトリウム/グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬投与で、心不全による入院および末期腎臓病の発生率が低下した。セマグルチド皮下投与で網膜症発症率、カナグリフロジンで下肢切断率が低下した。 【欠点】心血管リスクが低い患者の推定て、心血管リスクの定義が一定でなく、確実性が弱い点。 【結論】心血管リスクが低い糖尿病患者では、治療による血管転帰には差がない。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが高い患者では、特定のGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬が特定の心血管転帰に良好な作用をもたらす。 第一人者の医師による解説 血糖降下薬の効果をネットワークメタアナリシスで間接比較 原井 望1)、辻本 哲郎3)、森 保道2) 虎の門病院本院内分泌代謝科 1)医員、2)部長、3)虎の門病院分院糖尿病内分泌科医長 MMJ. February 2021;17(1):22 2型糖尿病の治療選択肢は多種多様であり、病態に合わせた個別化医療が重要である。そのような中で、今回紹介するのは成人2型糖尿病に対する血糖降下薬の有効性および有害性を系統的レビュー(SR)とネットワークメタアナリシス(NMA)で検討した論文である。主要文献データベースおよびClinical Trials.govデータベースを用いて、介入期間24週以上、血糖降下薬の効果を血糖転帰、死亡率、血管転帰で評価している無作為化試験を抽出し、21種類の血糖降下薬(9薬剤クラス)が含まれた453試験を対象とした。これらを試験介入前の背景治療と心血管リスクで分類し、各薬剤による血糖改善効果(HbA1cのベースラインからの変化量)や死亡率、血管転帰などを評価した。背景治療は、薬物未使用(単剤療法)群とメトホルミンベースの治療群に分類した。 結果は、どちらの群でも各薬剤によりHbA1cは低下した中で、メトホルミンベースの治療群ではGLP-1受容体作動薬、またはインスリンを追加した群のHbA1c低下効果が大きかった。心血管リスクの高い患者では、経口セマグルチド、エンパグリフロジン、リラグルチド、エキセナチド徐放製剤、ダパグリフロジンで死亡率が低下した。前者3薬剤は心血管死も減少させた。そのほか、SGLT-2阻害薬は心不全入院や末期腎不全を減少させた。皮下セマグルチドで糖尿病網膜症、カナグリフロジンで下肢切断の増加が示唆された。本研究の限界として、心血管リスクの定義が一貫してないこと、心血管リスクの低い患者に対するいくつかの推定値は信頼度が低いことがあげられる。 さまざまな大規模臨床研究でGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬の心血管保護作用や腎保護作用が発表されており、本論文でも同様の結果であった。ADA/EASD Consensus Report 2019(1)でも、動脈硬化性心疾患や慢性腎臓病、心不全の合併または高リスク状態の2型糖尿病患者に対しては、メトホルミンに続く2次治療薬としてGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬が推奨されている。今回の論文は、NMAを採用したことで直接比較データのない血糖降下薬間の間接比較が可能となり、臨床的意義があると考える。一方、試験間の類似性や均質性、一致性が成り立っていないと結果の妥当性に問題が生じるため注意が必要である。2型糖尿病患者の治療法を選択する上で、患者の病態や合併症、ライフステージを把握するとともに、薬剤の有効性や、副作用、合併症抑制に関するエビデンスの情報は重要であり、今後もさらなるエビデンスの蓄積や検討が必要である。 1. Buse JB, et al. Diabetes Care. 2020;43(2):487-493.
ナトリウム・グルコース共役輸送体2阻害薬と糖尿病性ケトアシドーシスのリスク 多施設共同コホート研究
ナトリウム・グルコース共役輸送体2阻害薬と糖尿病性ケトアシドーシスのリスク 多施設共同コホート研究
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and the Risk for Diabetic Ketoacidosis : A Multicenter Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Sep 15;173(6):417-425. doi: 10.7326/M20-0289. Epub 2020 Jul 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬によって糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のリスクが上昇する可能性がある。 【目的】SGLT2阻害薬によって、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害薬と比較して、2型糖尿病患者のDKAリスクが上昇するかを評価すること。 【デザイン】住民対象コホート研究;2013年から2018年の間のprevalent new-user design(ClinicalTrials.gov、NCT04017221)。 【設定】カナダ7地域と英国の電子医療記録データベース。 【患者】time-conditional傾向スコアを用いて、SGLT2阻害薬新規使用者20万8757例をDPP-4阻害薬使用者20万8757例とマッチングさせた。 【評価項目】コックス比例ハザードモデルで、DPP-4阻害薬使用者と比較したSGLT2阻害薬使用者のDKAの施設ごとのハザード比と95%CIを推定し、ランダム効果モデルを用いて統合した。二次解析では、分子、年齢、性別およびインスリン投与歴で層別化した。 【結果】全体で、37万454人・年の追跡で、521例がDKAの診断を受けた(1000人年当たりの発生率1.40、95%CI 1.29-1.53)。SGLT2阻害薬によってDPP-4阻害薬と比較してDKAリスクが上昇した(発生率2.03、CI 1.83 to 2.25、0.75、CI 0.63-0.89、ハザード比2.85、CI 1.99-4.08)。分子固有のハザード比は、ダパグリフロジン1.86(CI 1.11-3.10)、エンパグリフロジン2.52(CI 1.23-5.14)、カナグリフロジン3.58(CI 2.13-6.03)であった。この関連は年齢および性別では修正されず、インスリン投与歴があるとリスクが低下すると思われた。 【欠点】測定できない交絡因子がある点、患者の大多数の臨床検査データがない点、分子別の解析を実施した施設が少ない点。 【結論】SGLT2阻害薬でDKAリスクが約3倍になり、分子別の解析からクラス効果が示唆された。 第一人者の医師による解説 DPP-4阻害薬に比べ約3倍の発症リスク インスリンの存在がカギ 関根 信夫 JCHO東京新宿メディカルセンター院長 MMJ. April 2021;17(2):49 腎近位尿細管でのブドウ糖再吸収抑制により尿糖排泄を促すという、一見シンプルな機序により血糖降下作用を発揮するSGLT2阻害薬は、近年、心血管イベントをはじめとする合併症予防における優位性(1)から注目され、その使用が劇的に増加している。SGLT2阻害薬は血糖改善・体重減少作用に加え、心不全の発症・入院を減少させ、腎症の進展抑止に寄与する。米国糖尿病学会(ADA)により、特に心血管疾患・心不全・腎症合併例における積極的使用が推奨されている(2)。一方、副作用については尿路・性器感染症のリスク上昇が明らかであるが、代謝面で注目されたのが糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の発症である。その機序としてはインスリン欠乏や脱水などを基盤にケトン体産生が増加することが想定されている。特筆すべきは、比較的低い血糖レベルでもDKAを生じうることであり(“正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス”とも言われる)、極端な糖質制限によるリスクにも注意しなければならない。 本研究はカナダと英国のプライマリケア・データベースを活用したコホート研究であり、2013年1月~18年6月にSGLT2阻害薬を新規に処方された患者、またはDPP-4阻害薬投与を受けている患者を対象に、各薬剤群208,757人という大規模レベルでDKA発症について後ろ向きに比較検討したものである。結果、期間中521人(発症率比1.40人 /1,000人・年)がDKAを発症し入院した。このうちSGLT2阻害薬群ではDPP-4阻害薬群に比べ有意なDKA発症増加が認められた(発症率比2.03対0.75/1,000人・年;ハザード比[HR]2.85)。SGLT2阻害薬の薬剤別HRは、ダパグリフロジン1.86、エンパグリフロジン2.52、カナグリフロジン3.58と、基本的にはクラスエフェクトと考えられるものの、カナグリフロジンのリスクが最も高かった。同薬のSGLT2選択性が比較的低いことが理由として推察されるものの、結論を出すには慎重であるべきである。 なお、SGLT2阻害薬は1型糖尿病でのインスリンへの併用が保険適用となったが、DKA発症リスクが極めて高い1型糖尿病では、なお一層の注意が必要である。本研究でもあらかじめインスリンを投与された患者ではDKA発症リスクが低いという結果が得られており、ポイントはインスリンの“存在”と想定される。すなわち、1型糖尿病においては十分量のインスリンが投与されていること、2型糖尿病ではインスリン療法が行われているか、内因性インスリン分泌が十分あることが、DKA発症リスクを軽減することにつながるものと考えられる。 1. Zelniker TA, et al. Lancet. 2019;393(10166):31-39. 2. American Diabetes Association. Diabetes Care. 2021;44(Suppl 1):S111-S124.
肺がん検診CTを要する高リスク喫煙者を特定するための胸部X線画像を用いた深層学習 予測モデルの開発と検証
肺がん検診CTを要する高リスク喫煙者を特定するための胸部X線画像を用いた深層学習 予測モデルの開発と検証
Deep Learning Using Chest Radiographs to Identify High-Risk Smokers for Lung Cancer Screening Computed Tomography: Development and Validation of a Prediction Model Ann Intern Med. 2020 Nov 3;173(9):704-713. doi: 10.7326/M20-1868. Epub 2020 Sep 1. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】胸部断層撮影(CT)検査を用いた肺がん検診で肺がんによる死亡を減らすことができる。メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)が定めるCTを用いた肺がん検診の適応基準では、詳細な喫煙状況が必要であり、肺がんの見逃しが多い。胸部X線画像を基に自動化した深層学習によって、CT検査の便益がある肺がん高リスクの喫煙者を多く特定できると考えられる。 【目的】電子医療記録(EMR)で入手できることの多いデータ(胸部X線画像、年齢、性別および現在の喫煙状況)を用いて長期的な肺がん発症を予測する畳み込みニューラルネットワーク(CXR-LC)を開発し、検証すること。 【デザイン】リスク予測研究。 【設定】米国肺がん検診試験。 【参加者】CXR-LCモデルはPLCO(前立腺、肺、大腸および卵巣)がん検診試験(4万1856例)で開発した。最終CXR-LCモデルは、新たなPLCOの喫煙者(5615例、追跡期間12年間)およびNLST(National Lung Screening Trial)の大量喫煙者(5493例、追跡期間6年間)で検証した。検証データでのみ結果を報告する。 【評価項目】CXR-LCで予測した最長12年間の肺がん発症率。 【結果】CXR-LCモデルは、肺がん予測の識別能(ROC曲線下面積[AUC])がCMSの適応基準よりも良好だった(PLCO AUC 0.755 vs. 0.634、P<0.001)。CXR-LCモデルの性能は、PLCOデータ(AUC:CXR-LC 0.755 vs. PLCOM2012 0.751)およびNLSTデータ(同0.659 vs. 0.650)いずれでも、11項目のデータを用いた最新のリスクスコアPLCOM2012と同等だった。ほぼ同じ規模の試験集団と比べると、CXR-LCはPLCOデータではCMSより感度が良好で(74.9% vs. 63.8%、P=0.012)、肺がんの見逃しが30.7%少なかった。決断曲線解析で、CXR-LCの純便益はCMS適応基準より大きく、PLCOM2012とほぼ同等の便益であった。 【欠点】肺がん試験の検証であり、臨床現場で検証したものではないこと。 【結論】CXR-LCモデルは、CMS適応基準やEMRから一般的に入手できる情報を用いたものよりも肺がん発症のリスクが高い喫煙者を特定できた。 第一人者の医師による解説 健診・検診とも日本での応用を検討する価値がある成果 髙井 大哉 虎の門病院呼吸器センター内科部長 MMJ. April 2021;17(2):38 米国の公的医療保険システムのメディケアは65歳以上の高齢者、身体障害、透析などが必要な腎機能障害を持つ人を対象とした連邦政府が運営する制度、メディケイドは低所得者層を対象に州政府と連邦政府が運営する制度である。検査、治療薬の適応についてはコスト的な制約が多く、その中で肺がん検診を目的とした胸部CT検査の適応は、30pack-years以上の喫煙歴があり、禁煙後15年以下の55~77歳以上であるとされている。さらに、この基準を満たす米国民のうち、実際に肺がんCT検診を受けている割合は5%未満で、およそ60%の乳がんや大腸がん検診の受診率に比べ、あまりにも少ないことが問題となっている。 本研究では、胸部X線写真上のパターンと電子カルテで得られる情報(年齢、性別、現在の喫煙状況)から、人工知能の一種で、深層学習(deep learning)を用いた畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により長期的な肺がん発症の予測を試みている。学習データセットとして、前立腺がん、肺がん、大腸がん、卵巣がんに対する検診の有用性を検証した無作為化試験(PLCO試験)で集められた胸部X線写真 の80%(41,856人分)を用いた。この集団の背景は平均年齢は62.4歳、男性51.7%、白人86.7%、現喫煙者10.5%、既喫煙者44.9%、非喫煙者45.7%、12年追跡期間の胸部X線写真異常所見あり9.0%、肺がん2.3%、死亡1.5%であった。 PLCO試験の学習セットと独立した喫煙者のみの検証セット5,615人(全体の残り20%)において、今回開発されたCXR-LCモデルによる肺がん発症予測に関するROC曲線下面積(AUC)は0.755で、これはメディケア・メディケイド推奨条件に基づく0.634に比べ有意に大きく、PLCO試験で考案されたリスクスコア(PLCOM2012)の0.761と同程度であった。PLCOM2012は詳細な喫煙歴と必ずしも入手できない危険因子情報が必要であるのに対し、人工知能を導入したことにより、CXR-LCモデルは胸部X線写真と容易に入手できる臨床情報のみで、メディケア・メディケイド推奨条件よりも高い精度で胸部CT検査の適応症例を抽出できることが示された。 本研究の対象の大多数は白人で、また医療アクセスの容易さの異なる日本でその価値を推し量るのは難しいが、胸部X線写真に最低限の臨床情報と人工知能を用いることでCT撮影を推奨するモデルは、健診・検診ともに応用が検討される価値があると考えられる。
入院インフルエンザ成人患者の急性心血管イベント 縦断研究
入院インフルエンザ成人患者の急性心血管イベント 縦断研究
Acute Cardiovascular Events Associated With Influenza in Hospitalized Adults : A Cross-sectional Study Ann Intern Med. 2020 Oct 20;173(8):605-613. doi: 10.7326/M20-1509. Epub 2020 Aug 25. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】インフルエンザが1年間のインフルエンザ流行期中の急性心血管イベントの負担の一因となっていると考えられる。 【目的】検査で確定したインフルエンザのため入院した成人患者で、急性心血管イベント、急性心不全(aHF)および急性虚血性心疾患(aIHD)の危険因子を調べること。 【デザイン】縦断研究。 【設定】2020-2011年から2017-2018年までのインフルエンザシーズン中の米国Influenza Hospitalization Surveillance Network。 【参加者】検査で確定したインフルエンザ感染のため入院した成人患者および医療者の指示により実施した検査でインフルエンザ感染が明らかになった成人患者。 【評価項目】国際疾病分類(ICD)第9版およびICD第10版の退院コードを用いて特定した急性心血管イベント。年齢、性別、人種・民族、喫煙状況、慢性疾患、インフルエンザ予防接種、インフルエンザ抗ウイルス薬およびインフルエンザの種類または亜型をロジスティック回帰モデルの曝露因子とし、限界調整リスク比と95%CIを推定してaHFまたはaIHDの関連因子を明らかにした。 【結果】検査で確定したインフルエンザ成人患者89,999例のうち80,261例が完全な医療記録とICDコードが入手でき(年齢中央値69[四分位範囲54-81]歳)、11.7%が急性心血管イベントを来した。最も多かったイベント(相互に排他的ではない)は、aHF(6.2%)およびaIHD(5.7%)であった。高齢、たばこ喫煙、併存心血管疾患、糖尿病および腎疾患に、検査で確定したインフルエンザ成人患者のaHFおよびaIHDリスクとの有意な関連が認められた。 【欠点】インフルエンザ検査が医療者の指示が基になっているため、検出されない症例があると思われる点。急性心血管イベントをICD退院コードで特定しており、誤分類の可能性がある点。 【結論】インフルエンザ成人入院患者の住民対象研究では、患者の約12%が急性心血管イベントを来した。インフルエンザによる急性心血管イベントを予防するため、慢性疾患がある患者には特にインフルエンザ予防接種を高率で実施すべきである。 第一人者の医師による解説 高齢、喫煙、心血管疾患既往など高リスク者に ワクチン接種を推奨すべき 平尾 龍彦(助教)/笹野 哲郎(教授) 東京医科歯科大学循環制御内科学 MMJ. April 2021;17(2):47 インフルエンザウイルス感染は上下気道症状が主であるが心合併症も報告されている。インフルエンザ急性期の心筋梗塞発症リスクは、対照期間に比べ6倍にも高まると報告されている(1)。さらにウイルス別に比べると、インフルエンザ B型、A型、RSウイルス、その他ウイルスで、それぞれ10.1倍、5.2倍、3.5倍、2.8倍となっており、特にインフルエンザに心筋梗塞が高率に合併するとされている。 本研究は、米国のインフルエンザ入院監視ネットワークを用いて、インフルエンザ急性期の急性心血管イベントを調べた横断研究である。2010~18年流行期のインフルエンザ入院患者80,261人(小児除く)を対象に、急性心不全および急性虚血性心疾患の発症を調査したところ、その11.7%に急性心血管イベントを認めた。最も多いイベントは、急性心不全(6.2%)と急性虚血性心疾患(5.7%)で、そのほか異常高血圧(1.0%)、心原性ショック(0.3%)、急性心筋炎(0.1%)、急性心膜炎(0.1%)、心タンポナーデ(0.03%)を認めた。また、曝露因子(年齢、性別、人種、喫煙、慢性疾患、ワクチン接種、抗インフルエンザウイルス薬およびインフルエンザのタイプ)と急性心血管イベントとの関連を調べたところ、有意な危険因子として、高齢、喫煙、心血管疾患の既往、糖尿病、および腎疾患が挙げられた。 本研究は、心血管イベントをICD退院コードで識別しているため誤分類が含まれているおそれはあるが、これまで報告が散見されたインフルエンザと急性心合併症の関係について、大きな集団で発症率を求めた非常に有意義な報告である。インフルエンザ感染と急性心血管イベントを介在する病態生理はいまだ明らかでないが、インフルエンザ感染がトロポニンやミオシン軽鎖の濃度上昇をもたらすことで証明されるように、全身性炎症反応による酸化ストレス促進が血行力学的変化および血栓形成を促進させることが原因と考えられている。この先20年、心血管疾患が増えることに伴う医療費の増大に加えて、心血管疾患による生活の質(QOL)低下や若年死を原因とする国全体の生産性の低下が危惧される。我々は、インフルエンザに関連した急性心血管イベントを予防するために、特に上記の危険因子をもつ患者に、積極的にワクチン接種を推奨すべきである。 1. Kwong JC, N Engl J Med. 2018;378(4):345-353.
肥満減量手術と全死因死亡の関連 国民皆保険制度下の一般住民を対象としたマッチドコホート研究
肥満減量手術と全死因死亡の関連 国民皆保険制度下の一般住民を対象としたマッチドコホート研究
Association Between Bariatric Surgery and All-Cause Mortality: A Population-Based Matched Cohort Study in a Universal Health Care System Ann Intern Med. 2020 Nov 3;173(9):694-703. doi: 10.7326/M19-3925. Epub 2020 Aug 18. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】肥満減量手術後の死亡率は過去に調査されているが、コホート選択のバイアス、追跡調査の網羅性および交絡因子の収集によって結果の推定が制限されている。 【目的】肥満減量手術と全死因死亡の間の関連を明らかにすること。 【デザイン】一般住民を対象としたマッチドコホート研究。 【設定】カナダ・オンタリオ州。 【参加者】2010年10月から2016年12月の間に肥満減量手術を受けた患者1万3679例およびマッチさせた非手術患者1万3679例。 【介入】肥満減量手術。 【評価項目】主要評価項目は全死因死亡とし、原因別の死亡率を副次評価項目とした。患者を年齢、性別、BMIおよび糖尿病罹患期間でマッチさせた。 【結果】肥満減量手術を受けた患者1万3679例を非手術患者1万3679例とマッチさせた。追跡期間中央値4.9年後の全死因死亡率は、手術群1.4%(197例)、非手術群2.5%(340例)であり、手術群の方が全死因死亡の調整ハザード比(HR)が低かった(HR 0.68[95%CI 0.57~0.81])。55歳以上の患者の絶対リスクが3.3%(CI 2.3~4.3%)低く、手術群の方が死亡ハザード比が低かった(HR 0.53[CI 0.41~0.69])。男女でほぼ同じ相対的効果が認められたが、この関連は絶対的に男性の方が大きかった。このほか、肥満手術に心血管死亡率(HR 0.53[0.34~0.84])とがん死亡率(HR 0.54[0.36~0.80])の低下との関連が認められた。 【欠点】観察的デザインでは因果推論に限界がある点。 【結論】肥満減量手術によって全死因死亡率、心血管死亡率およびがん死亡率が大幅に低下した。手術群に見られた死亡率の低下は、ほとんどの下位集団でも有意であった。最も大きな絶対効果は、男性および55歳以上の患者に認められた。 第一人者の医師による解説 日本で保険適用のある腹腔鏡下スリーブ状胃切除術 長期的効果が明らかになることを期待 山内 敏正(教授)/庄嶋 伸浩(特任准教授) 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科 MMJ. June 2021;17(3):84 全死亡は重要なアウトカムであり、代謝指標や、がんなど肥満に関連する健康障害を反映する。減量・代謝改善手術は、数百~数千人規模の30以上の研究において、全死亡リスクを2~8割低下させることが報告されている。例えば、Swedish Obese Subjects(SOS)研究によると、肥満症の外科的治療群では内科的治療群に比べ全死亡(ハザード比[HR], 0.77)、心血管死(0.70)、がん死(0.77)のリスクが低下し、補正後余命中央値が3年長かった(1)。 本論文は、カナダ・オンタリオ州保健データベースを活用し、減量・代謝改善手術と全死亡の関連を検討したコホート研究の報告である。手術群と非手術(対照)群は年齢、性別、BMI、糖尿病の病歴でマッチングされ、さらに社会的経済的状況などでバイアスが補正された。減量・代謝改善手術としてルーワイ胃バイパス術(RYGB)が87.3%に、スリーブ状胃切除術が12.7%に実施され、手術群では全死亡(HR,0.68)、心血管死(0.53)、がん死(0.54)のリスクが低く、特に55歳以上において全死亡のリスクが低かった(HR,0.53)。これらの結果から、胃バイパス術による肥満症の改善は死亡リスクを低下させる可能性が示された。今後、軽度な肥満症、若年成人や高齢者の肥満症において、さらに日本で保険適用のある腹腔鏡下スリーブ状胃切除術に関して、肥満症手術の死亡に対する長期的な効果が明らかとなることが望まれる。 日本では、6カ月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないBMI 35kg/m2以上で、糖尿病、高血圧、脂質異常症、または睡眠時無呼吸症候群のうち1つ以上を合併した高度肥満症に対して、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が2014年に保険収載され、20年に適応拡大された。 日本肥満症治療学会(龍野一郎 理事長)、日本糖尿病学会(植木浩二郎 理事長)、日本肥満学会(門脇 孝理事長)の監修による「日本人の肥満2型糖尿病患者に対する減量・代謝改善手術に関するコンセンサスステートメント」で、2型糖尿病に対する減量・代謝改善手術 の 適応基準 とし て、受診時BMI 35kg/m2以上の2型糖尿病で、糖尿病専門医や肥満症専門医による6カ月以上の治療でもBMI 35kg/m2以上が継続する場合、血糖コントロールの状態に関わらず減量・代謝改善手術が治療選択肢として推奨されている。また受診時BMI32 kg/m2以上の2型糖尿病では、糖尿病専門医や肥満症専門医による治療で、6カ月以内に5%以上の体重減少が得られないか得られても血糖コントロールが不良な場合(HbA1c 8.0%以上)には、減量・代謝改善手術を治療選択肢として検討すべきとされている。本ステートメントにより、減量・代謝改善手術がさらに安全で効果的に推進されている。 1. Carlsson LMS, et al. N Engl J Med. 2020;383(16):1535-1543.
関節リウマチに用いる低用量グルココルチコイドの重篤な感染症リスク コホート研究
関節リウマチに用いる低用量グルココルチコイドの重篤な感染症リスク コホート研究
Risk for Serious Infection With Low-Dose Glucocorticoids in Patients With Rheumatoid Arthritis : A Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Dec 1;173(11):870-878. doi: 10.7326/M20-1594. Epub 2020 Sep 22. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】関節リウマチ(RA)やその他の慢性疾患の管理に低用量グルココルチコイドが頻繁に用いられているが、長期投与の安全性は明らかになっていないままである。 【目的】安定した疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)療法を実施しているRAに用いる低用量グルココルチコイド長期投与による入院を要する感染症リスクを定量化すること。 【デザイン】後ろ向きコホート研究。 【設定】2006年から2015年のメディケア請求データおよびOptumの匿名化したClinformatics Data Martデータベース。 【患者】6カ月以上にわたって安定したDMARDレジメンを受けている成人RA患者。 【評価項目】逆確率重み付け(IPTW)法を用いてグルココルチコイド用量(非投与、5mg/日以下、5-10mg/日、10mg/日超)と入院を要する感染症との関連を評価し、重み付けモデルで1年累積発症率を推定した。 【結果】メディケアから17万2041例で24万7297件、Optumから4万4118例で5万8279件のデータを特定した。6カ月間の安定したDMARD療法後、メディケア患者の47.1%とOptum患者の39.5%がグルココルチコイドの投与を受けていた。メディケア患者の入院を要する感染症の1年累積発症率は、グルココルチコイド非投与で8.6%であったのに対して、5mg/日以下11.0%(95%CI 10.6~11.5%)、5~10mg/日14.4%(同13.8~15.1%)、10mg/日超17.7%(同16.5~19.1%)だった(いずれも非投与との比較のP<0.001)。Optum患者の入院を要する感染症の1年累積発症率は、グルココルチコイド非投与で4.0%であったのに対して、5mg/日以下5.2%(同4.7~5.8%)、5~10mg/日8.1%(同7.0~9.3%)、10mg/日超10.6%(同8.5~13.2%)であった(いずれも非投与との比較のP<0.001)。 【欠点】残存交絡およびグルココルチコイド容量の誤分類の可能性がある点。 【結論】安定したDMARD療法を受けている患者で、グルココルチコイドによって重篤な感染症リスクが用量依存的に上昇し、5mg/日の用量でさえ、わずかではあるが有意なリスクが認められた。臨床医は、低用量グルココルチコイドの便益とこのリスクの可能性のバランスをとるべきである。 第一人者の医師による解説 欧米に比べて小さい日本人 ステロイドを中止可能とする治療を模索すべき 山岡 邦宏 北里大学医学部膠原病・感染内科学主任教授 MMJ. June 2021;17(3):73 低用量ステロイドは関節リウマチ(RA)を含めた慢性疾患の治療において多く用いられている。しかし、その長期使用における安全性は明確となっていない。そこで、著者らは一定量の抗リウマチ薬で治療中のRA患者で長期間の低用量ステロイド使用と入院を要する重篤感染症の危険因子について後方視的研究を行った。解析には米国で65歳以上の高齢者と障害者を対象とした公的医療保険であるメディケア(平均年齢68.7歳)と米国大規模医療請求および統合実験室データベース(平均年齢57.6歳)であるOptum Clinformaticsの2つの異なるデータが用いられた。ステロイド用量を0mg/日(非使用)、5mg/日以下、5超~10mg/日、10mg/日超に分けてそれぞれのデータベース別に解析が行われた。6カ月間の一定量の抗リウマチ薬の使用が確認された患者でステロイド投与が行われていた割合はメディケア47.1%、Optum39.5%であった。1年後における入院を要した感染症の割合は、メディケアの場合、ステロイド0mg/日群の8.6%に対して5mg/日以下群で11.0%、5超~10mg/日群で14.4%、10mg/日超群で17.7%であった。一方、Optumでは、ステロイド0mg/日群の4.0%に対して、5mg/日以下群で5.2%、5超~10 mg/日群で8.1%、10mg/日群で10.6%であった。これらの結果より、米国の異なる2つの大規模データベースにおいてステロイドは用量依存的に入院を要する重篤感染症のリスクとなることが明らかとなり、たとえステロイドの用量が5mg/日以下でも0mg/日と比較すると有意にリスクが高いことが示された。 日本でもRA治療の実臨床ではいまだ多くの患者でステロイド投与が行われている。特に、疼痛・腫脹の制御目的に少量投与が年余にわたり行われていることがある。欧米では5mg/日以下であればRA患者では安全性が担保されているとされることが多いが、本論文からは一概にそうとは言えない。また、体重、体格指数(BMI)が欧米に比べて小さい日本人における低用量ステロイドの危険性は本論文以上である可能性を考慮して、他剤を用いてステロイドを中止可能とする治療を模索すべきであることを示唆している。
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
Key Evidence Supporting Prescription Opioids Approved by the U.S. Food and Drug Administration, 1997 to 2018 Ann Intern Med. 2020 Dec 15;173(12):956-963. doi: 10.7326/M20-0274. Epub 2020 Sep 29. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】オピオイド鎮痛薬新規承認のために米食品医薬品局(FDA)が求めた根拠についてはほとんど知られていない。 【目的】1997年から2018年の間にFDAが承認したオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)の安全性および有効性データの質を明らかにすること。 【デザイン】横断的解析。 【設定】ClinicalTrials.gov、FDA審査および査読付き出版物のデータ。 【参加者】第3相主試験に参加した疼痛患者。 【介入】FDAが承認したオピオイド鎮痛薬。 【評価項目】主試験の数、規模および期間、試験の対照群、強化デザイン採用の有無および系統的に評価した安全性転帰などの各NDAの主な特徴。 【結果】評価したNDA 48件のほとんどが新投与形態(25件、52.1%)や新剤形(9件、18.8%)の申請で、わずか1件が新規化合物の申請であった。慢性疼痛の治療を適応に承認を受けたNDA 39件のうち、1件以上の主試験で裏付けられたものはわずか21製品(試験件数28件、試験期間中央値84日、対象症例数中央値299例)しかなかった。このうち17品(81%)は、不耐症例や早期に有害事象が認められた症例、直接的便益がほとんど認められなかった患者を除外する試験デザインを基に承認を受けていた。慢性疼痛のNDAのうち、8件(20.5%)が転用の系統的評価結果を報告した統合的な安全性レビューを提出し、7件(17.9%)が非医療目的での使用を系統的に評価し、15件(38.5%)が耐性発現を評価していた。急性疼痛治療薬9製品中8製品で、1件以上の主試験によって効果が裏付けられており、この主試験(19件)の期間中央値は1日(IQR 1~2日)で、329例(中央値、IQR 199~456例)を組み入れていた。承認を受けたNDA 48件のうち1例を除く全申請は既に承認されている成分に関するものであったが、関連製品のNDAの解析から同等の結果が得られた。 【欠点】解析は承認を受けたオピオイドに限られる点。動物試験や非主試験を除外した点。NDAの安全性の根拠が慢性疼痛のみを目的として示されている点。 【結論】1997年から2018年の間に、FDAは、薬剤に忍容性があった患者という狭義に定義した患者集団が頻繁に用いられた短期間または中期間の主試験を基にオピオイドを承認した。特定の重要な安全性転帰の体系的を収集することはまれであった。 第一人者の医師による解説 オピオイド鎮痛薬の有効性と安全性 十分な検証に基づく新薬承認が望まれる 伊原 奈帆(助教)/橋口 さおり(准教授) 慶應義塾大学医学部麻酔学教室 MMJ. June 2021;17(3):91 米国ではオピオイド鎮痛薬の過剰摂取による死者が2018年には46,000人を超え、誤用や乱用なども含め社会的問題となっている。 本論文は1997〜2018年に米食品医薬品局(FDA)が承認した48のオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)を対象に、有効性および安全性の評価に関して検討した横断的研究である。 新規有効成分のNDAは1件のみで、それ以外の47件中30件はFDA既承認薬の有効性や安全性に関する審査結果に新剤形や新配合など変更・改良の情報を合わせたデータによる申請であった。慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬のNDA39件のうち、1つ以上のピボタル試験が行われていたのは21件であった。これら21件のNDAで行われた計28試験について検討したところ、試験期間中央値は84日、被験者 数中央値は299人であった。NDA21件中17件(81%)では、効果が乏しい被験者や副作用に耐えられない被験者をランダム化前に除外する慣らし期間を含むEERWデザインの試験が、最低1つは行われていた。EERWデザインの22試験において最初に登録された人数の37.2%(中央値)がランダム化前に除外されていた。 慢性疼痛のNDA39件中、29件では耐性、転用、乱用、異常使用、過剰摂取などの項目による安全性を評価していたが、10件のNDAでは評価していなかった。39件のNDAにおいて副作用を体系的に評価したものはなかったが、耐え難い副作用による脱落者などの報告は一般的に行われていた。 この結果より、FDAにより承認された慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬は、12週以内の数回の試 験に基づき、耐性や転用の評価に乏しいプールされた解析が含まれたエビデンスで承認されていたことがわかった。多くの試験で、有効性を過大評価する可能性があるEERWデザインが使用されていた。 著者らはFDAに対して有効性と安全性の評価の向上のために、1 オピオイド鎮痛薬に関する規制 ガイダンスの強化、2 副作用の体系的な評価、3 EERWデザインの試験による評価の中止、4 長期安全性に関する証拠集め、5 乱用、依存や転用などの安全性情報の市販後調査を提言している。 日本では2020年10月にオキシコンチン ®TR 錠が慢性疼痛における鎮痛の適応追加の承認を受けたが、厚生労働省は厳しい流通管理体制をとることを承認条件としている。日本でも慢性疼痛のオピオイド鎮痛薬の処方は増えてくる可能性があるため、効果的かつ安全に使用するためのデータを十分に検証していく必要がある。
SARS-CoV-2ワクチン接種の可能性に対する態度 米国成人を対象とした調査
SARS-CoV-2ワクチン接種の可能性に対する態度 米国成人を対象とした調査
Attitudes Toward a Potential SARS-CoV-2 Vaccine : A Survey of U.S. Adults Ann Intern Med. 2020 Dec 15;173(12):964-973. doi: 10.7326/M20-3569. Epub 2020 Sep 4. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、またたく間に世界的大流行を引き起こした。ワクチン開発が異例の早さで進んでいる。利用できるようになれば、ワクチン接種と接種対象者を最大限に拡大することが重要になるであろう。 【目的】米国成人の代表的標本でCOVID-19に対するワクチン接種を受ける意志を評価し、ワクチン接種躊躇の予測因子や理由を明らかにすること。 【デザイン】2020年4月16~20日の間に実施した横断的調査。 【設定】米国の成人居住者の代表的標本。 【参加者】米国世帯人口の約97%に当たるAmeriSpeakの確率パネルから抽出した成人約1000例。 【評価項目】COVID-19ワクチン接種の意志を「コロナウイルスのワクチンができたら接種したいですか」という質問で測定した。回答選択肢を「はい」「いいえ」「分からない」とした。「いいえ」または「分からない」と回答した回答者に理由を聞いた。 【結果】AmeriSpeakパネル会員計991例が回答した。全体の57.6%(571例)がワクチン接種の意向を示し、31.6%(313例)が「分からない」と回答、10.8%(107例)にワクチンを接種する意志がなかった。ワクチン接種躊躇(「いいえ」または「分からない」の回答)と関連を示す独立の因子に、若年齢、黒人、低学歴および前年のインフルエンザワクチン非接種があった。ワクチン接種躊躇の理由に、ワクチンに対する懸念、詳しい情報の必要性、反ワクチンの姿勢や信念、および信頼感の欠如があった。 【欠点】ワクチンが販売される前および大流行が米国に大きな影響を及ぼす前にワクチン接種の意志を調査した。ワクチンの受容性を高める特定の情報や因子に関する質問がなかった。調査の回答率は16.1%であった。 【結論】コロナウイルス大流行中に実施したこの全国調査から、成人の約10人に3人がCOVID-19のワクチンを接種したいか分からず、10人に1人がワクチンを接種する意志がなかった。ワクチンが完成したときにCOVID-19ワクチンに対する受容性を増やすため、目標を定めた多方面からの努力が必要とされる。 第一人者の医師による解説 新型コロナワクチンのさまざまな情報提供の必要性を示唆 山岸 由佳 愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学教授(特任) MMJ. June 2021;17(3):75 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界的に大規模な影響をもたらし、現在パンデミック を抑制する最も有望な手段として世界の複数の研究者が効果的なCOVID-19ワクチン(以下ワクチン)の開発に取り組んでいる。現在これまでにないスケジュールで複数のワクチンが開発され大規模な第3相試験が行われているが、一部で懐疑的な見方もされており、ワクチンが利用可能となったときにワクチンの普及に課題が生じる可能性がある。そこで事前に接種の意向調査を行ったのが本研究である。 本研究は、2020年4月16〜20日に実施された横断調査で、米国の世帯人口のおよそ97%をカバーするAmeriSpeakの確率的調査パネルから抽出されたおよそ1,000人の成人を対象とした。参加者全体の57.6%がワクチンの接種を「受けるつもりである」、31.6%が「わからない」、10.8%が「受けるつもりはない」と回答した。接種に積極的ではない参加者の特徴として、年齢が低い,女性、黒人またはヒスパニック系、教育水準が低い、世帯収入が低い、世帯規模が大きい、インフルエンザワクチンを接種したことがあると答えた確率が低いなどが挙げられた。またワクチン接種をためらう理由としては、ワクチン特有の不安、より多くの情報が必要、反ワクチン的な態度や信念、信頼感の欠如などが挙げられた。 COVID-19大流行時に実施された今回の全国調査から、成人の約10人に3人がワクチン接種を受け入れるかどうか確信が持てていないことが明らかになった。ワクチンが利用可能になった場合、その受容性を高めるためには、ターゲットを絞った多角的な取り組みが必要となることが明らかとなった。本研究の限界として、参加者のワクチン接種の意思は、ワクチンが入手可能になる前で、かつパンデミックの影響が米国の狭い範囲に及んでいるときに調査され、さらにアンケートの回答率は16.1%であったことである。 日本国内ではワクチン接種が可能となるまでの期間、何度も流行の波が押し寄せたが、主要な海外 に比べ接種開始が遅れたことは否めない。また3種類のワクチンが契約となったものの(執筆時点で) 開始されたのは1種類のみであること、医療従事者を先行としたものの十分行きわたらないまま高齢者への接種が開始され準備に十分な時間がとれたとはいえない状況であった。しかし、この流行の波を抑えるにはワクチンしかないという機運が高まっていたこと、接種までの準備期間に諸外国を中心に有効性および安全性などのさまざまな情報がもたらされたことから、少なくとも医療従事者においては接種の意向がはっきりしてきていると思われる。