「Ann Intern Med」の記事一覧

慢性腎臓病における経口抗凝固剤治療の有益性と有害性。A Systematic Review and Meta-analysis.
慢性腎臓病における経口抗凝固剤治療の有益性と有害性。A Systematic Review and Meta-analysis.
Benefits and Harms of Oral Anticoagulant Therapy in Chronic Kidney Disease: A Systematic Review and Meta-analysis Ann Intern Med 2019 ;171 (3 ):181 -189 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】慢性腎臓病(CKD)における経口抗凝固療法の効果は不明である。 【目的】透析依存性の末期腎臓病(ESKD)を含むCKDステージ3~5の成人におけるビタミンK拮抗薬(VKA)と非ビタミンK経口抗凝固薬(NOAC)の有益性と有害性を評価する。[データ源]MEDLINE,EMBASE,Cochraneデータベースの英文検索(開始から2019年2月まで),レビュー書誌,ClinicalTrials. gov(2019年2月25日)。 【研究選択】CKD患者の任意の適応でVKAまたはNOACを評価した無作為化対照試験で,有効性または出血のアウトカムを報告したもの。 【データ抽出】2人の著者が独立してデータを抽出し,バイアスのリスクを評価し,エビデンスの確実性を評価した。 【データ合成】心房細動(AF)(11試験)、静脈血栓塞栓症(VTE)(11試験)、血栓予防(6試験)、透析アクセス血栓症の予防(8試験)、心房細動以外の心血管疾患(9試験)のために抗凝固療法を受けた34,082人を対象とした45試験を対象とした。ESKD患者を対象とした8試験を除くすべての試験で、クレアチニンクリアランスが20 mL/min未満または推定糸球体濾過量が15 mL/min/1.73 m2未満の被験者を除外した。心房細動では、VKAと比較して、NOACは脳卒中または全身性塞栓症のリスクを低減し(リスク比、0.79[95%CI、0.66~0.93];高確度エビデンス)、出血性脳卒中のリスクを低減した(RR、0.48[CI、0.30~0.76];中確度エビデンス)。VKAと比較して、VTEの再発またはVTE関連死に対するNOACの効果は不確かであった(RR, 0.72 [CI, 0.44 to 1.17]; 確実性の低いエビデンス)。すべての試験を合わせると、NOACはVKAと比較して大出血リスクを減少させるようであった(RR, 0.75 [CI, 0.56 to 1.01]; 確信度の低いエビデンス)。 【Limitation】進行したCKDまたはESKDに関するエビデンスは乏しい;大規模試験のサブグループからのデータがほとんどである。 【結論】早期CKDにおいて、NOACはVKAよりも優れたベネフィット・リスクプロファイルを有していた。進行したCKDまたはESKDについては,VKAまたはNOACの有益性または有害性を確立するには十分な証拠がなかった。[主たる資金源]なし。(prospero: crd42017079709)。 第一人者の医師による解説 進行期~末期腎不全ではエビデンス不足 田中 哲洋 東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科准教授 MMJ.February 2020;16(1) 慢性腎臓病(CKD)では静脈血栓塞栓症(VTE)や 心房細動(AF)のリスクが正常腎機能者よりも高い。 AFを合併すると脳梗塞や全身性塞栓症、うっ血性 心不全、心筋梗塞、死亡のリスクが高まり、VTE合 併も死亡リスクを上昇させる。ガイドラインでは 非弁膜症性 AF患者に対する脳梗塞予防、大手術後 の 患者 や 急性疾患入院患者 のVTE予防、VTE再発 予防として抗凝固療法を推奨している。しかし、AF を合併する進行期 CKDや末期腎不全(ESKD)患者では、腎機能正常者よりも経口抗凝固薬の処方が少 なく、その理由として出血リスクの上昇、有用性が 明確でないこと、ワルファリン関連のカルシフィラ キシスや腎症などが挙げられる。実際、抗凝固薬の臨床試験では全体の約90%でCKD患者は除外されていた。 昨今、腎機能正常者を対象に非ビタミン K拮抗 経口抗凝固薬(NOAC)の有効性と安全性の知見が 蓄積されつつある。そこで本論文では、CKDステー ジ 3 ~ 5の 患者 に お け る 経口抗凝固療法 のリス ク・ベネフィットが検討された。ビタミン K拮抗薬 (VKA)およびNOACを用いた45試験からデータ を抽出した。 クレアチニンクリアランス 20 mL/ 分未満またはeGFR 15ml/分 /1.73m2未満の患者を除外した早期 CKD患者群において、AFに対する抗凝固療法としてNOACはVKAと比較し脳梗塞 や全身性塞栓症のリスクを低下させ、出血性梗塞のリスクも低下させた。VTEに対する抗凝固療法では、NOACのVKAに対する優位性は明らかでなかった。また、NOAC̶プラセボ間にリスクに関する差はなかった。 すべての試験を統合すると、NOACは VKAよりも大出血のリスクを低下させる傾向を示した。ESKD患者を含めた試験は8試験のみで、多くはワルファリンによる透析アクセス血栓症予防 を評価していた。ワルファリンは透析アクセス血 栓症やカテーテル機能不全のリスクを低下させた が、出血性合併症への影響は未知であった。 経口抗凝固療法の治療利益は、どの程度の腎機能障害までリスクを上回るのであろうか? 観察研究において、AF合併 ESKD患者ではワルファリン使用によって塞栓性脳梗塞のリスクは低下せず、出血性脳梗塞のリスクは2倍上昇していた。NOAC はVKAに比べ、腎機能正常者や早期 CKD患者の出 血性脳梗塞リスクを低下させることを考えると、 ESKD患者にも潜在的な利益があるようである。 し かし、最近報告 さ れ たAF合併 ESKD患者 の 後ろ向きコホート研究をみる限り、NOACやVKAの 間に脳梗塞や全身性塞栓症のリスクに差はない。 今後見込 ま れ るAF合併 ESKD患者 の 試験、す な わ ちRENAL-AF試験(NCT02942407)お よ び AXADIA試験(NCT02933697)によって有効性 と安全性の評価がなされるであろう。
男性における血友病の有病率および出生時有病率の確立。全国登録によるメタ分析的アプローチ。
男性における血友病の有病率および出生時有病率の確立。全国登録によるメタ分析的アプローチ。
Establishing the Prevalence and Prevalence at Birth of Hemophilia in Males: A Meta-analytic Approach Using National Registries Ann Intern Med 2019 Oct 15;171(8):540-546. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】血友病の有病率には大きなばらつきが観察され、疾病負担の確実な推定を妨げている。 【目的】血友病の有病率と出生時の有病率、および関連する寿命の不利益を推定する。 【デザイン】登録データのランダム効果メタ分析。 【設定】オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、ニュージーランド、イギリス。【参加】男性血友病AまたはB患者。 【測定】男性人口に対する症例の割合としての血友病有病率、出生年別の男性出生児に対する症例の割合としての出生時血友病有病率、有病率と出生時有病率の1-比率としての余命の不利益、高所得国での有病率と出生時有病率に基づく世界の予想患者数。 【結果】有病率は(男性10万対)17.1であった。出生時有病率(男性10万人当たり)は、全重症度血友病A24.6例、重症度血友病A9.5例、全重症度血友病B5.0例、重症度血友病B1.5例であり、血友病A・重症度血友病A・重症度血友病B・重症度血友病Bは、それぞれ1例、1例で、血友病Aは1例である。高所得国の平均寿命の不利は、血友病Aで30%、重症血友病Aで37%、血友病Bで24%、重症血友病Bで27%。世界の血友病患者の予想数は1 125 000、そのうち重症血友病は418 000と考えられる。 【限定】併存疾患や民族の調整には詳細は不十分だった。 【結論】血友病の流行はこれまでの推定より高い。血友病患者は依然として余命のハンディがある。出生時の有病率を確立することは、失われた生命年数、障害のある生命年数、疾病負担を評価するためのマイルストーンとなる。【Primary funding source】なし。 第一人者の医師による解説 発展途上国には未診断患者が多数 公平なリソース普及の基盤となる成果 森 美佳1)、瀧 正志2) 1)聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院小児科助教、2)聖マリアンナ医科大学小児科学特任教授 MMJ.June 2020;16(3) 血友病は、凝固第 VIII因子または第 IX因子の遺伝子変異により先天的に凝固因子が欠乏し、止血困難をきたす疾患である。治療の進歩により、凝固因子製剤や新規治療薬を用いて出血を制御できるようになったが、発展途上国では、治療のみならず血友病の診断でさえも国家の医療制度の限界を超えている。世界的な血友病の疾病負担の推定には、正確な有病率の情報が必要だが、従来の報告は均一性に乏しい。 本研究では、世界血友病連盟(WFH)のデータおよび口統計委員会が、先進6カ国(オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、ニュージーランド、英国)の全国患者レジストリを用いて、男性の血友病 AおよびBの有病率を、3カ国(カナダ、フランス、英国)のレジストリより出生時有病率および余命損失率(1-有病率 /出生時有病率 )をランダム効果メタ解析で推算している。 その結果、男性10万人あたりの有病率は、血友病 Aの全重症度で17.1、重症で6.0、血友病 Bの全重症度で3.8、重症で1.1であった。出生時の有病率は、それぞれ24.6、9.5、5.0、1.5であった。全重症度の有病率は各国間で不均一性を認めたが、 重症の血友病 AまたはBに限ると各国間で有意な不均一性は認めなかった。得られた有病率を世界の男性人口38億人に適用すると、血友病患者数は 112.5万人、そのうち重度患者数は41.8万人と 推定された。また余命損失率は血友病 Aの全重症度で30%、重症で37%、血友病 Bの全重症度で 24%、重症で27%であった。 有病率は、疾病負担の推定に必要な基本情報であるとともに、各国の診断能力、患者登録の報告効率や有効性、経済能力が反映されうる。WFHの既報では世界の血友病患者は推定47.5万人であったが(1)、本研究の先進国の有病率をもとに推定された世界の血友病患者数は、この報告よりも大幅に多く、 発展途上国では未診断の患者や適切な治療を受けられていない患者が多数いると推測される。また余命損失率の結果より、先進国でも依然として血友病患者の平均余命が悪いことが明らかとなった。 本研究には、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症などの合併症や民族性を考慮した調整が不十分という限界はあるが、長期間にわたる全国患者登録データを使用した信頼性の高い有病率および出生時有病率の報告である。今回の結果は、世界的な血友病の疾病負担の推測に向けた非常に重要なマイルストーンであり、治療の適切さの指標および公平なリソースの普及のための基盤となりうるだろう。 1.Pierce GF et al. Haemophilia. 2018;24(2):229-235.
術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチドと非心臓手術後の心血管系イベント。コホート研究。
術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチドと非心臓手術後の心血管系イベント。コホート研究。
Preoperative N-Terminal Pro-B-Type Natriuretic Peptide and Cardiovascular Events After Noncardiac Surgery: A Cohort Study Ann Intern Med 2020 Jan 21;172(2):96-104. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】予備データでは、術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)が非心臓手術を受ける患者におけるリスク予測を改善する可能性が示唆されている。 【目的】術前NT-proBNPが、術後30日以内の非心臓手術後の血管死と心筋損傷の複合に対して、臨床リスクスコア以上の予測価値を持つかどうかを明らかにする。 【デザイン】前向きコホート研究 【設定】9か国16病院【患者】入院で非心臓手術を受けた45歳以上の患者10402例。 【測定】すべての患者は術前にNT-proBNP値を測定し、術後3日まで毎日トロポニンT値を測定した。 【結果】多変量解析では、術前のNT-proBNP値が100 pg/mL未満(基準群)と比較して、100~200 pg/mL、200~1500 pg/mL、1500 pg/mL以上では調整ハザード比2.27(95%CI 1.0)と関連することが示された。27(95% CI, 1.90 to 2.70),3.63(CI, 3.13 to 4.21),5.82(CI, 4.81 to 7.05),主要転帰の発生率はそれぞれ 12.3%(1843 例中 226 例), 20.8%(2608 例中 542 例), 37.5%(595 例中 223 例)であった.臨床的層別化(すなわちRevised Cardiac Risk Index[RCRI])にNT-proBNPの閾値を追加したところ,1000人あたり258人の絶対的な再分類が正味で改善された。術前のNT-proBNP値も30日全死亡と統計的に有意に関連していた(100pg/mL未満[発生率、0.3%]、100~200pg/mL未満[発生率、0.7%]、200~1500pg/mL未満[発生率、1.4%]、1500pg/mL以上[発生率、4.0%])。 【結論】術前NT-proBNPは、非心臓手術後30日以内の血管死およびMINSと強く関連しており、RCRIに加えて心臓リスク予測を改善する。【Primary funding source】カナダ保健研究機構。 第一人者の医師による解説 バイオマーカーでの予測 実臨床への応用には課題 阿古 潤哉 北里大学医学部循環器内科学教授 MMJ.June 2020;16(3) 非心臓手術周術期に生じる心血管イベント、特に心筋梗塞の発症は周術期の合併症として非常に重要である。心血管イベントの発生率が高い欧米諸国において、非心臓手術の際の周術期リスク評価は、手術の適応を考えるうえでも重要な要素となる。今まで、周術期のリスク評価ツールとしては Revised Cardiac Risk Index(RCRI)が提唱されてきたが、RCRIの予後予測能力はそれほど高いものではないとされていた。 本研究は、非心臓手術 の 周術期 イ ベ ン ト を 評 価するために行われた前向きコホート研究であるVISION試験 の サ ブ 解析 と し て 実施 さ れ た。 VISION試験では2007年8月~13年10月に9カ国16施設から18,920人の患者が組み入れら れ た。 多変量解析 の 結果、術前 のNT-ProBNP値は主要評価項目である術後30日以内の血管死お よ びMINS(myocardial injury after noncardiac surgery;心臓手術後の心筋障害)からなる複合イ ベントの発生を予測した。さらに、RCRI単独のリスク評価より、RCRIにNT-ProBNPを加えた方が イベント予測に有用であった。論文中のイベント 累積発生曲線をみると、心不全評価にも用いられるこのマーカーは非常に高い予測能を有することが 一目瞭然である。 RCRIは、6つの要素(冠動脈疾患、心不全、脳血管 疾患、インスリンを必要とする糖尿病、腎不全、高リスク手術)の有無で手術のリスクを評価する方法である。比較的簡便であるがためにガイドラインでも推奨されているが、必ずしも予測能が良好ではないという問題点があった。今回、非常に大きい患者数のコホートを用いて、NT-proBNPの有用性に関して力強いデータを出したことが本研究の強みと言える。 しかし、いくつかの点は指摘しておく必要がある。 本研究では、血管死およびMINSが主要評価項目として採用されたが、ほとんどのイベントはMINS であった。MINSは具体的には心筋マーカーの上昇である。MINSが長期にどのようなイベントと関連してくるのかは、VISION試験の既報で述べられているが(1)、まだ他のコホートでは十分には検証されていない。 また、RCRIのc統計量は0.69で、NTproBNPを加えることにより0.75に改善する、すなわち予測能が改善すると著者らは報告しているが、この臨床的意義の大きさは不明である。また、 NT-proBNPの上昇が認められた時にどのような 介入が必要であるのかはまったく不明である。とはいえ、リスク評価にバイオマーカーが取り入れられる流れは間違いなさそうである。その意味で、今回の研究が最初の重要な一歩であることは評価できる。 1. Vascular Events In Noncardiac Surgery Patients Cohort Evaluation (VISION) Study Investigators. JAMA. 2012;307(21):2295-2304.
ヒトの便中における種々のマイクロプラスチックの検出。プロスペクティブ・ケースシリーズ。
ヒトの便中における種々のマイクロプラスチックの検出。プロスペクティブ・ケースシリーズ。
Detection of Various Microplastics in Human Stool: A Prospective Case Series Ann Intern Med 2019 Oct 1;171(7):453-457. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】マイクロプラスチックは自然環境中に遍在している。マイクロプラスチックの摂取は海洋生物で報告されており、粒子が食物連鎖に入る可能性がある。 【目的】ヒトの糞便にマイクロプラスチックがあるかどうかを調べ、ヒトがマイクロプラスチックを不本意に摂取しているかどうかを調べる。 【デザイン】段階的な指示に従って食事日記を書き、便を採取したプロスペクティブケースシリーズ。 【参加者】33歳から65歳の健康なボランティア8名 【測定方法】化学物質消化後、フーリエ変換赤外顕微鏡を用いて、便サンプル中の一般的な10種類のマイクロプラスチックの存在と形状を分析した。 【結果】8つの便サンプル全てがマイクロプラスチック陽性であった。ヒトの便10gあたり中央値で20個のマイクロプラスチック(大きさ50-500μm)が同定された。全体として9種類のプラスチックが検出され、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートが最も多く検出された。 【結論】ヒトの便からは様々なマイクロプラスチックが検出され、異なる供給源から不用意に摂取されたことが示唆された。マイクロプラスチックの摂取の程度と人間の健康への潜在的影響についてさらなる研究が必要である。 第一人者の医師による解説 生体検体中のマイクロプラスチック 検出方法のさらなる研究必要 石橋 由基/岡村 智教(教授)  慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 MMJ.April 2020;16(2) プラスチックの生産量は年間3億5000万トンになり、指数関数的に増加している。マイクロプラスチックは5mm以下のプラスチック粒子と定義されることが多いが、それによる水中、地上、空気の汚染ならびに健康への影響が懸念されている。いくつかの先行研究では、動物において胃腸の組織や臓器への移行が確認されている。 しかし、人体への影響に関する疫学研究はいまだ不十分であり、世界保健機関(WHO)は「プラスチック粒子、特にナノレベルの粒子の物理的なハザードに関連する毒性の確かな結論を引き出す十分な情報はないが、 懸念であることを示唆する信頼できる情報はない」と述べている(1),(2)。 本研究では、日本(東京)を含む8カ国、8人のボランティアから便を採取し、便中のマイクロプラスチックを分析した。また曝露要因を調べるために、採取前6~7日間の食事内容や生活習慣を調査した。結果として8検体すべての便サンプルがマイクロプラスチック検査で陽性を示し、便10gあたり中 央値20個のマイクロプラスチックが確認された。 全体として、9種類のプラスチックが検出され、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートが最も多かった。便中のマイクロプラスチックに関する報告は本研究が初であり、その点でこの研究は新しい知見を追加している。しかしながら、結果の解釈には注意が必要である。   まず著者らも研究の限界として言及しているように、サンプル数が少なく、サンプルの代表性に問題がある。さらにマイクロプラスチック測定上の問題として、(1)前処理に使用した固定剤(ブロノポール)がポリマー特性に与える影響に関する検討が論文中で示されていない(2)定量結果の精度を確認するためのポジティブコントロールについての記載がない(3)ネガティブコントロールの詳細が示されていない(標準誤差、サンプル数も含めた報告が必要である)(4)検査の際の実験室環境に関する情報が記載されていない──などの問題 が挙げられる。 上記は水中におけるマイクロプラスチック調査に用いられる測定品質の評価基準(3)であるが、便中の測定でも同様の基準が必要と考えられる。その意味で、今後は健康への影響のエビデンスだけでなく、生体検体中のマイクロプラスチック測定のバリデーションに関する研究の蓄積も求められている。 1. 国立医薬品食品衛生研究所:食品安全情報(化学物質) No.20 (2019) 別添     【WHO】情報シート:飲料水中マイクロプラスチック . URL: https://bit.ly/2PRcfA7 2. WHO (2019). Information sheet: Microplastics in drinking-water. URL:https://bit.ly/2QdT56n 3.Koelmans AA et al. Water Res. 2019;155:410-422.
医療従事者の燃え尽き症候群とケアの質との関連性を示す証拠。A Systematic Review and Meta-analysis.
医療従事者の燃え尽き症候群とケアの質との関連性を示す証拠。A Systematic Review and Meta-analysis.
Evidence Relating Health Care Provider Burnout and Quality of Care: A Systematic Review and Meta-analysis Ann Intern Med 2019 Oct 15;171(8):555-567. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】医療従事者の燃え尽きが患者ケアの質の低下に寄与しているかどうかは不明である。 【目的】燃え尽きとケアの質の全体的な関係を推定し、発表された研究がこの関係を誇張して推定しているかどうかを評価する。 【データソース】MEDLINE、PsycINFO、Health and Psychosocial Instruments (EBSCO)、Mental Measurements Yearbook (EBSCO)、EMBASE (Elsevier)、Web of Science (Clarivate Analytics)を対象に、言語制限なしで、創刊から2019年5月28日までの期間で検索した。研究の選択]言語を問わず、医療従事者のバーンアウトと患者ケアの質との関連を定量化した査読付き出版物。 【データの抽出】2人の査読者が独立して研究を選択し、バーンアウトとケアの質の関連の測定値を抽出し、Ioannidis(過剰有意性)およびEgger(小規模研究効果)検定を用いて潜在的なバイアスを評価した。 【データの統合】合計11703件の引用を同定し、そこから123件、142人の研究集団、241 553人の医療従事者を対象とした出版物を選択した。ケアの質に関するアウトカムは、ベストプラクティス(n=14)、コミュニケーション(n=5)、医療過誤(n=32)、患者アウトカム(n=17)、品質と安全(n=74)の5つのカテゴリーに分類された。燃え尽き症候群とケアの質との関係は非常に不均質であった(I2 = 93.4%~98.8%)。燃え尽き症候群とケアの質の組み合わせ114件のうち、58件は質の低いケアに関連する燃え尽き症候群であり、6件は質の高いケアに関連する燃え尽き症候群であり、50件は有意な効果を示さなかった。過剰な有意性が明らかになった(統計的に有意な結果が得られると予測された研究の62%に対して、観察された研究の73%、P = 0.011)。このバイアスの可能性を示す指標は、最も信頼性の低い品質指標であるベストプラクティスと品質と安全性で最も顕著であった。 【限界】研究は主に観察的であり、因果関係も方向性も決定できなかった。 【結論】医療従事者の燃え尽き症候群は、発表された文献において質の低いケアと頻繁に関連している。真の効果の大きさは、報告されているよりも小さいかもしれない。今後の研究では、誇張された効果量推定のリスクを減らすために、結果を事前に規定する必要がある。 【主な資金源】Stanford Maternal and Child Health Research Institute. 第一人者の医師による解説 対象とした論文の内容が不均一 さらなる厳密な研究必要 饗場郁子1)/玉腰暁子2) 1)独立行政法人国立病院機構東名古屋病院脳神経内科臨床研究部長、 2)北海道大学大学院医学研究院社会医学分野公衆衛生学教室教授 MMJ.April 2020;16(2) 近年、医療提供者の燃え尽き症候群(バーンアウト)が問題になっている。バーンアウトとは、 1974年にアメリカの心理学者 Freudenbergerが 提唱した概念で、対人的サービスを提供する職種において、元来活発に仕事をしていた人が「燃え尽 きたように」意欲を失う状態を指す(1)。バーンアウトは、情緒的消耗感(仕事を通じて情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態)、脱人格化(患者 に対する無情で非人間的な対応で、防衛反応の1つ)、 個人的達成感の低下の3要素から構成される。バーンアウト評価には上記3要素を評価するMaslach Burnout Inventory(MBI)を用いるのが一般的で、 日本語版も存在する(2)。 これまでに多数の研究で医療提供者のバーンアウトは患者に提供するケアの質の低下と関連すると報告されているが、その多くは後方視的な観察研究で、測定方法にばらつきがあり、バイアスのリスクが懸念されている(3)。 そこで本論文では、言語を問わず当該テーマを扱っている査読付き論文を対象としたメタアナリシスが行われた。論文レビューは2人が独立して行い、必要な情報を抽出し、潜在的なバイアスとして過度な有意性をIoannidis テストにより検討した。 結果として、バーンアウトとケアの質の関連は非常に異質性が大きく(I2 = 93.4~98.8% )、検討した研究114件のうち、58件ではケアの質の低さと、6件ではケアの質の高さと関連していたが、 50件では有意な効果が示されなかった。統計学的に有意な結果が得られると期待される論文数と実際に有意な報告をした論文数を比較した結果、過度に有意な報告がなされていると考えられた(62% 対 73%;P= 0.011)。この指標が示す潜在的なバイアスは、ケアの質を5分類した場合、日常収集される情報に基づいて後方視的な研究で用いられることが多い「ベストプラクティス」と「品質と安全性」で顕著に観察された。 結論として、医療提供者のバーンアウトはしばしばケアの質の低下と関連すると報告されてきたものの厳密な研究はほとんど存在せず、効果の大きさは報告されたものよりも小さい可能性があった。 バーンアウトを減らすことでケアの質が向上するか、ケアの質を向上させることでバーンアウトが軽減するかは不明であり、これらの答えを出すには、適切なpowerのあるデザインされたランダム化試 験が不可欠である。 1.Freudenberger HJ. J Social Issues.1974;30:159-165. 2. 久保真人.セレクション社会心理学(サイエンス社), 2004. 3. Dewa CS et al. BMJ Open. 2017;7(6):e015141.
一次予防のためのアスピリンによる心血管系の利益と出血の害の個別化された予測。有益性-有害性分析。
一次予防のためのアスピリンによる心血管系の利益と出血の害の個別化された予測。有益性-有害性分析。
Personalized Prediction of Cardiovascular Benefits and Bleeding Harms From Aspirin for Primary Prevention: A Benefit-Harm Analysis Ann Intern Med 2019;171:529-539. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】一部の患者において、心血管疾患(CVD)の一次予防のためのアスピリンのベネフィットが出血の害を上回るかは不明である。 【目的】アスピリンが純ベネフィットをもたらすと考えられるCVDを持たない人を特定することである。 【デザイン】性別リスクスコアと2019年のメタアナリシスによるCVDと大出血に対するアスピリンの比例効果の推定値に基づく個別ベネフィット・ハーム分析 【設定】ニュージーランドのプライマリケア 【参加者】2012年から2016年にCVDリスク評価を受けた30~79歳のCVDが確立されていない245 028人(女性43.6%)。 【測定】各参加者について、5年間の大出血を引き起こしそうな数(大出血リスクスコア×大出血リスクに対するアスピリンの比例効果)から、予防できそうなCVDイベント数(CVDリスクスコア×CVDリスクに対するアスピリンの比例効果)を差し引き、アスピリンのネット効果を算出した。 【結果】1回のCVDイベントが1回の大出血と同等の重症度と仮定した場合、5年間のアスピリン治療による純益は女性の2.5%、男性の12.1%となり、1回のCVDイベントが2回の大出血と同等と仮定した場合は女性の21.4%、男性の40.7%に増加する可能性があることがわかった。純益サブグループは純害サブグループに比べ、ベースラインのCVDリスクが高く、ほとんどの確立したCVDリスク因子のレベルが高く、出血特異的リスク因子のレベルが低かった 【Limitation】リスクスコアと効果推定値は不確実であった。アスピリンのがん転帰への影響は検討されていない。 【結論】CVDを持たない一部の人にとって、アスピリンは正味の利益をもたらす可能性が高い。 【Primary funding source】ニュージーランド保健研究評議会。 第一人者の医師による解説 リスク予測モデル活用で 個別化した1次予防戦略立案の可能性 邑井 洸太 国立循環器病研究センター心臓血管内科冠疾患科/安田 聡 国立循環器病研究センター心臓血管内科部門長・副院長 MMJ.April 2020;16(2) アスピリンは心筋梗塞、脳梗塞、心不全入院といった心血管イベントを抑制する一方で、消化管や頭蓋内などにおける出血のリスクを上昇させる。すでに心血管疾患を有する患者に対する2次予防を目的とした場合、一般的にアスピリンのメリットは デメリットを上回るとされているが、1次予防での有用性は不明である(1)。近年、リスクモデルによる予測が実用化されている(2)。本研究では、心血管疾患の既往のない集団においてアスピリン服用によって享受できる利益(心血管イベント抑制)は害(出血)を上回るかどうかをリスク予測モデルで検証した。 本研究では、ニュージーランドのプライマリケア領域で広く使用されているウエブベースの意思決定支援プログラム「PREDICT」が用いられた。解析対象は2012 ~ 16年にPREDICTを利用して心血管イベントリスクが算出された患者245,028 人(女性106,902人、男性138,126人)。算出時 の入力データに加えて、ナショナルデータベースとも紐付けされて心血管リスクなどの患者情報が抽出された。各患者から得られた情報をリスク予測 モデルに落とし込み、5年間アスピリンを服用した場合に予測される心血管イベント(虚血性心疾患による緊急入院または死亡、脳梗塞、脳出血、末梢血管障害、うっ血性心不全)予防効果と大出血(出血による入院、出血による死亡)リスクを算出した。 その結果、1つの心血管イベントと1つの大出血イベントを対等とした場合、女性では2.5%、男性では12.1%においてアスピリンは大出血リスクを上回る心血管イベント抑制効果をもたらした。さらに1つの心血管イベントと2つの大出血イベントを対等とした場合、女性では21.4%、男性では40.7%の患者においてアスピリンの利益が勝る結果となった。なお、今回の対象集団では、高齢、ベースラインの動脈硬化危険因子が多い、降圧薬や脂質低下薬を服用している、がんや出血の既往が少ないなどの特徴がみられた。 本研究の結果から、1次予防目的のアスピリン服用によって利益を享受できる集団は一定数存在 しうることが示唆された。こういった解析対象は ニュージーランドの住民に限定されており、各イベントの重み付けが均一であるという制限はあるものの、将来的には予後予測ツールを用いて個別化した1次予防戦略を立案できる可能性が示された。 1. Hennekens CH et al. Nat Rev Cardiol. 2012;9(5):262-263. 2. Go DC Jr et al. Circulation. 2014;129(25 Suppl 2):S49-73.
入院中の成人のせん妄を予防するための抗精神病薬。系統的レビュー。
入院中の成人のせん妄を予防するための抗精神病薬。系統的レビュー。
Antipsychotics for Preventing Delirium in Hospitalized Adults: A Systematic Review Ann Intern Med 2019;171:474-484. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】せん妄は、基礎的な医学的問題によって引き起こされる、注意力と認知力の障害を特徴とする急性障害である。抗精神病薬はせん妄の予防に用いられるが,その有益性と有害性は不明である。 【目的】成人におけるせん妄予防のための抗精神病薬の有益性と有害性を評価する系統的レビューを行う。 【データソース】研究設定,発表言語,追跡期間による制限なしに,開始時から2019年7月までPubMed,Embase,CENTRAL,CINAHL,PsycINFOを使用。 【研究選択】抗精神病薬とプラセボまたは別の抗精神病薬を比較した無作為化対照試験(RCT),および比較群を有する前向き観察研究。 【データ抽出】1名の査読者がデータを抽出しエビデンスの強さを評定し,2名の査読者がデータを確認した。2名の査読者が独立してバイアスのリスクを評価した。 データの統合]合計14件のRCTが含まれた。せん妄予防に使用されるハロペリドールとプラセボの間には、せん妄の発生率または期間、入院期間(証拠の強さが高い[SOE])、死亡率に差はなかった。認知機能、せん妄の重症度(不十分なSOE)、不適切な継続、および鎮静(不十分なSOE)に対するハロペリドールの効果を判断するエビデンスはほとんど見いだせなかった。第二世代抗精神病薬が術後設定におけるせん妄発生率を低下させる可能性があるという証拠は限られている。抗精神病薬の短期使用が神経学的有害性と関連するというエビデンスはほとんどない。いくつかの試験では、有害となりうる心臓への影響が抗精神病薬の使用により頻繁に発生していた。 【Limitation】抗精神病薬の投与量、抗精神病薬の投与経路、転帰の評価、有害事象には大きな異質性があった。 【結論】現在のエビデンスは、せん妄の予防のためのハロペリドールや第2世代抗精神病薬のルーチン使用を支持しない。第二世代抗精神病薬が術後患者のせん妄の発生率を低下させる可能性があるという限られたエビデンスはあるが、さらなる研究が必要である。今後の試験では,標準化されたアウトカム指標を用いる必要がある.(プロスペロー:Crd42018109552). 第一人者の医師による解説 今後は第2世代抗精神病薬と非薬理学的介入との比較研究が必要 中村 暖(助教)/岩波 明(主任教授)昭和大学病院附属東病院精神神経科 MMJ.April 2020;16(2) せん妄は、短期間のうちに注意力と認知機能が障害される意識障害の一種で、症状に変動性がみられるのが特徴である。身体疾患や手術などが原因で発症することが多く、発症後に日常生活動作 (ADL)や認知機能の低下、死亡率の上昇を引き起こすことが報告されている。このため、せん妄による2次障害の発生率や死亡率を低下させるためには、 せん妄の治療に加えて発症の予防が非常に重要となる。 せん妄予防を目的とした薬物投与については、 抗精神病薬の使用が複数の研究で報告されているが(1)-(3)、有効性と有害性について統一的な見解は得られていない。そもそも臨床の現場では、症状のない段階での抗精神病薬の使用自体に対する抵抗感が根強いため、予防的投与の有効性に関しての検討は臨床的な観点からも非常に重要である。 本論文は、せん妄の発症予防を目的とした抗精神病薬の有用性と有害性に関する大規模な系統的レビューである。せん妄の発症予防効果に関して、ハ ロペリドールまたは第2世代抗精神病薬とプラセボ、あるいはハロペリドールと第2世代抗精神病薬を比較した14件のランダム化比較試験を解析した。各文献から得られたデータの解析に際しては、認知機能、入院期間、せん妄の重症度、鎮静作用、抗精神病薬の不適切な継続投与、せん妄の発症率、せん妄の持続期間、死亡率、心臓・神経系の障害について評価をした。 せん妄の発症率と持続期間、入院期間、死亡率について、ハロペリドールとプラセボの間で差はみられなかった。認知機能、せん妄の重症度、抗精神病薬の不適切な使用、鎮静作用に関しても、ハロペ リドールの有効性を示す結果は得られなかった。一方で術後の予防投与に限り、第2世代抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン)はプラセボと比較してせん妄の発症率を有意に低下させていた。神経系 の障害に関して差が認められなかった一方、心臓 の障害は抗精神病薬の使用によってより高い頻度で生じることが明らかになった。 結論として、成人の入院患者におけるせん妄の発症抑制を目的としたハロペリドールの予防投与は有用ではないことがわかった。術後せん妄の発症予防に関して第2世代抗精神病薬の有効性を支持する結果が得られたが、先行研究では非薬理学 的介入が術後せん妄の発症予防に有効であるとの報告もあるため、今後はこうした非薬理学的介入との比較研究が必要である。 1.Wang W et al. Crit Care Med. 2012;40(3):731-739. 2.Al-Aama T et al. Int J Geriatr Psychiatry. 2011;26(7):687-694. 3.Larsen KA et al. Psychosomatics. 2010;51(5):409-418
心臓血管疾患の一次予防のためのアスピリン使用の指針となる出血リスクの予測。コホート研究
心臓血管疾患の一次予防のためのアスピリン使用の指針となる出血リスクの予測。コホート研究
Predicting Bleeding Risk to Guide Aspirin Use for the Primary Prevention of Cardiovascular Disease: A Cohort Study Ann Intern Med 2019 Mar 19 ;170 (6):357 -368. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】アスピリンの絶対的ベネフィットを推定するために多くの心血管リスクの予後モデルを用いることができるが、その可能性が高いハームを推定するための出血リスクモデルはほとんどない。 【目的】心血管疾患(CVD)の一次予防のためにアスピリンを考慮する可能性がある人たちの予後出血リスクモデルを開発する。 【デザイン】前向きコホート研究 【設定】ニュージーランドのプライマリケア 【対象】2007年から2016年までにCVDリスクを評価した30歳から79歳の385 191名で、研究コホートとした。アスピリンの適応または禁忌のある者、および既に抗血小板療法または抗凝固療法を受けている者は除外した。 測定】各性について、大出血リスクを予測するためにCox比例ハザードモデルを開発し、参加者は初めて除外基準を満たした日、死亡日、研究終了日のうち最も早い時点で打ち切られた(2017年6月30日)。主なモデルには、以下の予測因子が含まれていた。人口統計学的特性(年齢,民族,社会経済的剥奪),臨床測定値(収縮期血圧,総高密度リポ蛋白コレステロール比),早期CVDの家族歴,病歴(喫煙,糖尿病,出血,消化性潰瘍疾患,癌,慢性肝疾患,慢性膵炎,アルコール関連),薬剤使用(非ステロイド抗炎症薬,コルチコステロイド,選択性セロトニン再取込阻害薬)である。 【結果】1 619 846人年の追跡期間中に,4442人が大出血イベントを起こした(うち313人[7%]が致死的であった)。主要モデルは,5年出血リスクの中央値を女性で1.0%(四分位範囲,0.8%~1.5%),男性で1.1%(四分位範囲,0.7%~1.6%)と予言した。限界】ヘモグロビン値、血小板数、肥満度は、欠損値が多いため主要モデルから除外され、ニュージーランド以外の集団でのモデルの外部検証は行われていない。 【結論】CVDの一次予防のためにアスピリンを検討している人において、アスピリンの絶対的な出血の害を推定するために使用できる予後出血リスクモデルを開発した【Primary funding source】The Health Research Council of New Zealand. 第一人者の医師による解説 アスピリンによる心血管疾患1次予防の最適化を支援する重要な報告 高下 純平/豊田 一則(副院長) 国立循環器病研究センター脳血管内科 MMJ.August 2019;15(4) 2016年、米国予防医学特別作業部会(USPSTF) は、今後10年間の心血管疾患発症リスクが10% 以上で、高い出血リスクを持たない50~59歳の 成人に対し、心血管疾患と大腸がんの両疾患への1次予防として、アスピリンの低用量使用を推奨した(1)。しかし、心血管疾患に対するアスピリン投与のベネフィットやリスクは、年齢、性別、併存する血管疾患の危険因子によって大きく異なるため、利益と危険性を勘案して慎重に判断する必要があり、 予測モデルを使用したネットクリニカルベネフィッ トの推定が有用である。 心血管疾患の予防におけるアスピリン投与の有益性についての予測モデルは、数多く報告されているものの、出血性合併症の 予測モデルはあまり報告されていなかった。そこで、 著者らは 心血管疾患がなく、抗凝固・抗血小板療法を受けていない集団における出血性合併症の予 測モデルを作成し検証を行った。 2007~16年に心血管疾患の危険因子を評価された30~79歳の 385,191人を対象とした前向きコホート研究である。性別ごとに年齢、人種、社会経済的特性などの背景因子や、収縮期血圧、コレステロール値、心 血管疾患の家族歴、喫煙、糖尿病、出血の既往、潰瘍 性病変、悪性腫瘍の有無や服用薬(非ステロイド系 抗炎症薬、ステロイド、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)をもとにCox比例ハザードモデルを作成した。 結果は、1,619,846人・年の追跡期間中に、 4,442人が大出血イベントを発症し、作成したモ デルでは、5年間の出血率の中央値は、女性で1.0% (四分位範囲[IQR], 0.8~1.5%)、男性で1.1% (0.7~1.6%)と算出された。また、過去の報告と同様、高齢、喫煙、糖尿病などの既知の危険因子が出血性合併症のリスクともなることが明らかにされた。 このモデルを使用して算出された出血性合併症 のリスクを、Antithrombotic Trialists’ Collaborationのメタ解析で報告された心血管疾患 イベントの発症率(2)と比較することで、心血管疾患 の1次予防としてのアスピリン導入を最適化することができるのではないかと結んでいる。心血管疾患の既往がなく、また抗凝固・抗血小板療法を受けていない集団が、アスピリン服用を始めることで起こりうる出血性合併症の推定発症率は低い。これは大変貴重な知見であるとともに、心血管疾患の1次予防におけるアスピリン投与の意思決定を 支援する重要な報告と考える。 1. Bibbins-Domingo K, et al. Ann Intern Med. 2016;164(12):836-845. 2. Baigent C, et al. Lancet. 2009;373(9678):1849-1860.
子宮不妊症のレシピエントに対する死亡ドナーからの子宮移植後の生着。
子宮不妊症のレシピエントに対する死亡ドナーからの子宮移植後の生着。
Livebirth after uterus transplantation from a deceased donor in a recipient with uterine infertility Lancet 2018 Dec 22 ;392 (10165 ):2697 -2704 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】生ドナーからの子宮移植は、2014年のスウェーデンでの成功により不妊治療の現実となり、世界中の子宮移植センターとプログラムに刺激を与えている。しかし、我々の知る限り、死亡ドナー子宮を介した生着例はなく、長期の虚血後も子宮が生存しているかなど、その実現可能性と生存率に疑問が投げかけられている。 【方法】2016年9月、ブラジル・サンパウロ大学ダス・クリニカス病院にて、先天性子宮欠如(Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser[MRKH]症候群)の32歳女性が、くも膜下出血で死亡したドナーからの子宮移植を受けた。ドナーは45歳で、過去に3回の経膣分娩の経験があった。レシピエントは移植4ヶ月前に体外受精を1回行い、8個の凍結保存胚盤胞が得られた。 【所見】レシピエントは術後順調に回復し、8日間の入院観察後に退院した。免疫抑制はプレドニゾロンとチモグロブリンで行い、タクロリムスとミコフェナール酸モフェチル(MMF)で移植後5カ月まで継続し、MMFに代わってアザチオプリンが投与された。初潮は移植後37日目に起こり、その後は定期的(26-32日ごと)に起こった。移植後7ヶ月目に最初の単一胚移植を行い、妊娠した。ドップラー超音波による子宮動脈、胎児臍帯動脈、中大脳動脈の血流速度波形異常はなく、妊娠中の胎児発育障害もなかった。移植後および妊娠期間中に拒絶反応は認められなかった.2017年12月15日、妊娠36週付近で帝王切開分娩が行われた。出生時の女児は2550gで、妊娠年齢に相応しく、アプガースコアは1分9、5分10、10分10で、母体とともに産後7カ月経過後も健康で正常に発育している。子宮は出産と同じ手術で摘出され、免疫抑制療法は中止された。 【解釈】我々の知る限り、MRKH症候群の患者において、死亡ドナーからの子宮移植後に出産した世界初の症例を報告するものである。この結果は、死体ドナーからの移植による子宮不妊治療の概念実証であり、生体ドナーや生体ドナー手術を必要とせず、すべての子宮因子不妊の女性に健康な妊娠への道を開くものです。 【FUNDING】Fundação de Amparo à Pesquisa do Estado de São Paulo and Hospital das Clínicas, University of São Paulo, Brazil. 第一人者の医師による解説 挙児希望の新たな選択肢 社会、倫理、経済的課題の解決必要 末岡 浩 慶應義塾大学医学部産婦人科准教授 MMJ.June 2019;15(3) 生殖補助技術を代表とする生殖医療の発展は、めざましいものがあり、多くの不妊患者に対する治療法が開発され、多様な原因への対策がとれるようになった。しかし、子宮を持たない女性に対する子どもを産むための解決法はなく、代理母による出産が唯一の手段であった。これに対し、提供者からの子宮を移植し、自身で妊娠・出産をする子宮移植の技術が新たな選択肢として検討されてきた。 本論文はブラジルで死亡女性から摘出した子宮を子宮無形成の女性に移植し、その後、体外受精によって作製し、凍結、保存していた胚を子宮に移植して妊娠・出産した経験を報告したものである。本法については医学的な課題のみならず、社会、倫理的な課題も多く存在し、さらに経済的課題も議論されている。 医学的な課題を1つひとつ経験しながら解決するために、摘出子宮の条件、保管方法と時間、手術の方法とその後の免疫抑制、感染防止、血栓の防止、児への影響など新たな疑問について多く議論され、 報告されている。これまでサウジアラビア、トルコ、 スウェーデンで実施された子宮移植の報告がなされている。子宮移植はとりもなおさず妊娠のため の手術であるため、その後の妊娠・出産の報告も行われてきた。しかし、なお多くの条件を解析する必要があり、今後のデータ集積が待たれるところで ある。本事例が過去の報告と異なる点は、移植した 子宮が死亡した女性から摘出したものであったことである。 脳出血で死亡した45歳の女性から摘出した子宮を、32歳の先天的に子宮が形成されていないMayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群の女性に移植し、7カ月後に凍結胚をその子宮に戻して妊娠し、妊娠35週の時点で予定された帝王切開で分娩したものである。この条件として提供者の子宮に病変はなく、3回の分娩を経験している良好な子宮であり、移植者についても卵巣からの排卵に問題はなく、全身状態に課題はないことが確認されている。子宮摘出から移植完了までに要した時間は7時間50分であり、子宮組織への障害の面では妊娠成立の成功から8時間程度までは可能であることを示している。また、妊娠経過は良好で、児の発育に問題はなく、出生時の児体重は2,550g であり、妊娠中の合併症の発生もなかったことが報告されている。 先天的・後天的な理由で子宮を有さない女性が 挙児を希望する際の新たな選択肢として今後のマイルストーンとなることが示された。その一方で、 技術の確立のみならず、実施するうえでの環境整備もまた、大きな解決すべき課題と考えられる。
心房細動患者における血栓塞栓症予防のための介入。システマティックレビュー。
心房細動患者における血栓塞栓症予防のための介入。システマティックレビュー。
Interventions for Preventing Thromboembolic Events in Patients With Atrial Fibrillation: A Systematic Review Ann Intern Med 2018 Dec 4 ;169 (11):774 -787. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】心房細動(AF)における血栓塞栓性合併症を予防する治療法の安全性と有効性の比較は依然として不明である。 【目的】非弁膜症AFの成人における血栓塞栓性イベントと出血性合併症を予防する内科治療と手技療法の有効性を比較する。 【データソース】複数のデータベースにおける2000年1月1日から2018年2月14日までの英語による研究。 【研究選択】2名の査読者が独立して引用文献をスクリーニングし、血栓塞栓または出血性合併症を報告した非弁膜症性AFの成人における脳卒中を予防する治療の比較研究を特定した。 データ抽出]2名の査読者が独立してデータを抽出し、研究の質および適用性の評価を行い、エビデンス強度を評価した。 データ統合]220編の論文のデータを対象とした。脳卒中または全身性塞栓症の予防において、ダビガトランとアピキサバンはワルファリンより優れており、リバーロキサバンとエドキサバンは同程度であった。大出血のリスク低減については,アピキサバンとエドキサバンが優れており,リバーロキサバンとダビガトランはワルファリンと同程度であった.ダビガトランの治療効果は腎機能障害のある患者でも同様であり(相互作用 P > 0.05),75 歳未満の患者ではダビガトランの方が出血率が低かった(相互作用 P < 0.001).アピキサバンによる治療の有益性は,腎機能障害,糖尿病,脳卒中の既往を含む多くのサブグループで一貫していた(すべてで交互作用P > 0.05).出血リスクの減少は,糸球体濾過量が 50 mL/min/1.73 m2 未満の患者で最も大きかった(P = 0.003).脳卒中,糖尿病,心不全の既往のある患者では,リバーロキサバンとエドキサバンに同様の治療効果が認められた(すべてで相互作用P>0.05)。 【限定】不均一な研究集団,介入,結果。 【結論】利用できる直接作用型経口抗凝固薬(DOACs)は非弁膜症性AF患者において,少なくともウォルファリンと同等以上に有効かつ安全であった。DOACは、いくつかの患者サブグループで同様の効果を示し、幅広い非弁膜症性心房細動の患者に対して安全で有効であると思われた。(PROSPERO: CRD42017069999). 第一人者の医師による解説 間接比較だが DOAC間にも有効性と安全性で優劣ある可能性 後岡 広太郎(特任講師)/下川 宏明(教授) 東北大学大学院医学系研究科循環器内科学 MMJ.August 2019;15(4) 心房細動(atrial fibrillation;AF)による全身性塞栓症の予防にワルファリンが 使用され てきたが、近年、直接型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant;DOAC)が 登場し、DOACとワルファリンを比較した大規模比較試験(ROCKET AF、ARISTOTLE、RE-LY、ENGAGE AF)が行われた(1)。 本研究は上記4試験を含む6の臨床試験と111 の観察研究から系統的レビューを行い、AF患者におけるDOACとワルファリンと左心耳閉鎖デバイスの全身性塞栓症予防の有効性と安全性を比較した。本研究の知見として以下の4つが挙げられる: ①脳梗塞または全身性塞栓症の予防効果において、 ワルファリンと比較して、ダビガトランとアピキサバンの優越性が示され、リバーロキサバンとエドキサバンは同程度であった②大出血のリスクは ワルファリンと比較して、アピキサバンとエドキ サバンはリスクを低下させ、リバーロキサバンとダビガランは同程度であった③ワルファリンと比較して第Ⅹ a因子阻害薬全体としては、脳出血・ 頭蓋内出血・全死亡の減少と関連した④ワルファリンと比較して、左心耳閉鎖デバイスは大出血のリスクが低く、脳梗塞減少の傾向を認めたが、植え込みに伴う合併症が多かった。 本研究結果からAFの塞栓症予防においてDOAC はワルファリンと有効性と安全性が少なくとも同等であることが示された。いくつかのDOACは他のDOACに比べて有効性や安全性で優れている可能性が示唆され、本研究結果は臨床医のDOACの 選択に影響するかもしれない。また、左心耳閉鎖バイスは出血リスクが非常に高い患者への1つの選択肢にとどまることが示唆された。 本研究 の 問題点 は、間接比較 で あ り、各臨床試 験の研究デザイン、患者背景、主要評価項目の定義の違いを考慮していない点が挙げられる。例えばRE-LYやARISTOTLEはCHADS2ス コ ア0点 以上 のAF患者 が 登録 さ れ た が、ROCKET AFと ENGAGE AFでは、より塞栓リスクが高い2点以 上のAF患者が登録された(1)。また、日本のリアルワールドデータである伏見 AFレジストリからは DOACとワルファリン間で脳梗塞・大出血イベント発生率に違いはなかったことが報告され(2)、実臨床ではDOAC開始時に薬剤の選択よりも用量の選 択やアドヒアランスの確認を行うことがより重要と考えられる。 1. Camm AJ, et al. Europace. 2018;20(1):1-11. 2. Yamashita Y, et al. Circ J. 2017;81(9):1278-1285.