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新世代ガドリニウム造影剤による腎性全身性線維症リスク 系統的レビュー
新世代ガドリニウム造影剤による腎性全身性線維症リスク 系統的レビュー
Risk for Nephrogenic Systemic Fibrosis After Exposure to Newer Gadolinium Agents: A Systematic Review Ann Intern Med. 2020 Jul 21;173(2):110-119. doi: 10.7326/M20-0299. Epub 2020 Jun 23. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】従来のガドリニウム造影剤(GBCA)と比較した新世代GBCA投与後の腎性全身性線維症(NSF)リスクは明らかになっていない。 【目的】腎機能の観点から見て従来GBCAと比べた新世代GBCAのNSFリスクについての科学的根拠を統合すること。 【データ入手元】MEDLINE、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled TrialsおよびWeb of Scienceで、開始から2020年5月5日までの英語の文献を検索した。 【試験の選択】GBCA曝露後に発生したNSFを評価した無作為化試験、コホート試験および症例対照試験 【データ抽出】1名がデータを要約し、もう1名が検証した。検証ツールを用いて、2人1組でバイアスリスクを評価した。 【データ統合】対象とした試験32件のうち、20件が新世代GBCA曝露後のNSFリスクを評価し、12件(コホート試験11件および症例対照試験1件)が新旧GBCAのNSFリスクを比較していた。新世代GBCAに曝露した8万3291例でNSFを発症した症例はなかった(正確95%CI 0.0001-0.0258)。新旧GBCAのリスクを比較した12件(対象11万8844例)で、従来GBCA投与後に37例(正確95%CI 0.0001-0.0523)、新世代GBCA投与後に4例(3例confounded)がNSFを発症した。急性腎障害患者および慢性腎不全のリスクがある患者のデータは不十分であった。 【欠点】試験に異質性があり、メタ解析ができなかった点。曝露および転帰の把握が不十分であったため、ほとんどの試験でバイアスリスクが高かった点。 【結論】新世代GBCA暴露後のNSF発症が非常にまれであったが、急性腎障害患者や慢性腎不全の危険因子がある患者のデータが乏しかったため、この集団での安全性に関する結論を示すことができない。 第一人者の医師による解説 腎障害患者へのガドリニウム造影剤使用 これまで同様に慎重な判断が必要 渡谷 岳行 東京大学大学院医学系研究科 生体物理医学専攻放射線診断学准教授 MMJ. February 2021;17(1):26 2007年、米国食品医薬品局(FDA)は腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis;NSF)の発症に、ガドリニウム含有 MRI造影剤の関連が疑われるという警告を行った。現在ではNSFの発症には、造影剤のキレートから遊離したガドリニウム原子の組織沈着が関与していると言われており、NSFの発症には①造影剤分子におけるガドリニウム原子の安定性②腎機能の2つの因子が強く関与していると考えられている。 米国放射線学会(ACR)はガドリニウム造影剤をNSFの報告数が多いGroup I、報告数の少ないGroup II、報告数は少ないがデータの少ないGroup IIIに分類している。本研究ではGroup IIとIIIを新世代の造影剤と位置づけて、文献報告をレビューしている。20の文献が新世代造影剤によるNSF発症率のアセスメントに採用され、95%信頼区間(CI)の上限は0.0258であった。12の文献が新世代と旧世代造影剤のNSF発症率の比較に採用され、旧世代の95% CI上限は0.0523、新世代では0.0204であった。旧世代(Group I)の造影剤に比べ、新世代造影剤の発症リスクが低いことが示されたが、本研究で採用された文献のほとんどは、メーカー主導の市販後臨床試験を除き、被験者が少数の研究に基づくものである。また、それらの中でも腎障害を有する被験者の割合は低く、高リスク群に対する評価が十分なされているとは言えない。この点は本論文内でも言及されている。 NSFは稀な合併症とはいえ一度発症すると有効な治療法が確立されておらず、致死率も低くないため十分なデータを集めること自体が難しい領域である。現在の日本では新世代造影剤が十分に普及している状況ではあるが、腎障害患者へのガドリニウム造影剤使用の適応については、これまで同様に慎重な判断を行っていく必要があると考えられる。
COVID-19患者の病理解剖所見および静脈血栓塞栓症 前向きコホート試験
COVID-19患者の病理解剖所見および静脈血栓塞栓症 前向きコホート試験
Autopsy Findings and Venous Thromboembolism in Patients With COVID-19: A Prospective Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Aug 18;173(4):268-277. doi: 10.7326/M20-2003. Epub 2020 May 6. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】新型コロナウイルス、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって、世界で21万人以上が死亡している。しかし、死因やウイルス病理学的特徴についてはほとんど明らかになっていない。 【目的】病理解剖、死亡時画像診断およびウイルス学的検査のデータから臨床的特徴を検証し、比較すること。 【デザイン】前向きコホート試験。 【設定】ドイツ・ハンブルク州から委託され、大学病院1施設で実施したPCR検査でCOVID-19診断が確定した患者の病理解剖。 【患者】COVID-19陽性で死亡した最初の連続症例12例。 【評価項目】死後CT検査、組織学的およびウイルス学的解析を含む死体解剖を実施した。臨床データおよび疾患の経過を評価した。 【結果】患者の平均年齢は73歳(範囲52~87歳)、患者の75%が男性であり、病院内(10例)または外来病棟(2例)で死亡が発生した。冠動脈疾患、喘息または慢性閉塞性呼吸器疾患が最も頻度の高い併存疾患であった(それぞれ50%、25%)。解剖から、12例中7例(58%)に深部静脈血栓症があったことが明らかになったが、いずれも死亡前に静脈血栓塞栓症の疑いはなかった。4例では肺塞栓が直接的な死因であった。死後CT検査で8例に両肺にコンソリデーションを伴う網状浸潤影、病理組織学的検査で8例にびまん性肺胞傷害が認められた。全例の肺から高濃度のSARS-CoV-2 RNAが検出された。10例中6例からウイルス血症、12例中5例からは肝臓や腎臓、心臓からも高濃度のウイルスRNAが検出された。 【欠点】検体数が少ない点。 【結論】静脈血栓塞栓症が高頻度に見られることから、COVID-19による凝固障害が重要な役割を演じていることが示唆される。COVID-19による死亡の分子的構造および全体の発生率、死亡を抑制するための有望な治療法を明らかにすべく、詳細な研究が必要とされる。 第一人者の医師による解説 死に至る病態はびまん性肺胞傷害で急速悪化のケースと 合併症により徐々に衰弱するケースか 福澤 龍二 国際医療福祉大学大学院医学研究科基礎医学研究分野・医学部病理学教授 MMJ. February 2021;17(1):8 本論文は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)12例(全例基礎疾患あり)の臨床像、血液、凝固系、PCRなどの検査所見、死後のCT、病理解剖所見を報告している。剖検による死因として全例に肺病変が挙げられ、2種類の肺病理像に分類できる。 (1)間質性肺炎(IP)─びまん性肺胞傷害(DAD):8例は、IPが先行しDADに進展した症例であった。血液、肺、その他複数の臓器からSARS-CoV-2が検出され、ウイルス血症による全身への播種、IPとの関連が示唆される。 (2)気管支肺炎(BP):残り4例は、末梢気道への好中球浸潤を主体とするBPであった。間質性病変はなく、経気道的な細菌感染が示唆される。このようなウイルス性IPの組織像が明確でない症例でも、肺組織からウイルスが検出されていることから、ウイルスが気道上皮細胞に感染し、粘液線毛クリアランスを低下させることが細菌感染の一因と思われる。 肺病理像に基づいて、血液凝固異常との関連をみると、IP-DAD症例8例中6例に深在静脈血栓が形成され、4例は肺塞栓を伴っていた。全例が病院外で突然死または集中治療室で死亡している。重篤な呼吸障害を起こすDADに加え、肺塞栓を高頻度に認める解剖所見は死亡時の状況を反映している。一方、BPの症例では、肺塞栓はなく、静脈血栓を1例のみ認めた。全例が一般病棟で支持療法中に死亡しており、経過は緩徐で、IP-DADに比べ血液凝固異常は起こりにくい病態であることが示唆される。 以上から、COVID-19により死に至る病態は以下の2つが想定される:①IPが先行し、DAD発症により急速に呼吸状態が悪化し、重症化する(急性呼吸促迫症候群)。また、血液凝固異常の頻度が高く、肺塞栓症の併発は循環動態をも悪化させ、急死に至らしめる。全身性病態へ進展する背景には、ウイルスの全身播種とこれに対する宿主の過剰防御反応(サイトカインストーム)が想定され、過剰な免疫反応がCOVID-19関連死の最大の誘因と考えられる②合併症(BP増悪や敗血症への進展)により徐々に衰弱し死亡すると思われる病態。これらの症例ではIP(肺胞壁の炎症・免疫応答)がみられないことから、ウイルスは肺胞上皮までは感染していないか、しても複製量が少なく肺外に拡がりにくい可能性がある。このため、過剰な免疫反応が起こりにくく、DADに至らず、凝固異常の頻度も低いと推測される。 〈脚注〉 IP:多くはウイルスが原因である。上気道粘膜に侵襲したウイルスが肺胞に至り、肺胞壁にリンパ球主体の炎症が起き、肺野にびまん性に拡がりやすい。DAD:急性呼吸促迫症候群の肺病理像で、肺胞壁の毛細血管から肺胞内への滲出性変化(硝子膜の形成)を特徴とする。誘発因子は肺炎、敗血症など。 BP:細菌の気道感染により発症する。気管支・肺胞内に炎症を起こす局所的な肺炎で、炎症は好中球が主体である。
2型糖尿病に用いる血糖降下薬の有効性比較 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
2型糖尿病に用いる血糖降下薬の有効性比較 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
Comparative Effectiveness of Glucose-Lowering Drugs for Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Network Meta-analysis Ann Intern Med. 2020 Aug 18;173(4):278-286. doi: 10.7326/M20-0864. Epub 2020 Jun 30. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】2型糖尿病の治療には、薬理学的に幾つか選択肢がある。 【目的】2型糖尿病成人患者に用いる血糖降下薬の便益と有害性を比較すること。 【データ入手元】数件のデータベース(開始から2019年12月18日まで)および2020年4月10日時点のClinicalTrials.gov。 【試験選択】介入期間が24週間以上あり、血糖降下薬の死亡率、血糖値および血管転帰を評価した英語の無作為化試験 【データ抽出】2人1組でデータを抽出し、バイアスリスクを評価した。 【データ統合】9つの薬剤分類で21通りの糖尿病治療法を検討した試験453件を対象とした。介入に、単剤療法(134試験)、メトホルミン主体の併用療法(296試験)、単剤療法とメトホルミン主体の併用療法の比較(23試験)があった。治療歴がなく心血管リスクが低い患者で治療による差は見られなかった。メトホルミンを用いた基礎療法にインスリン治療またはグルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体作動薬を併用した治療が、HbA1c低下量が最も大きかった。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが低い患者で、死亡率および血管転帰に臨床的に意味のある差は見られなかった(298試験)。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが高い患者で、経口セマグルチド、エンパグリフロジン、リラグルチド、エキセナチド徐放製剤およびダパグリフロジンの使用によって全死因死亡率が低下した(21試験)。このほか、経口セマグルチド、エンパグリフロジンおよびリラグルチドで、心血管死も減少した。セマグルチド皮下投与およびデュラグルチドで、脳卒中のオッズが低下した。ナトリウム/グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬投与で、心不全による入院および末期腎臓病の発生率が低下した。セマグルチド皮下投与で網膜症発症率、カナグリフロジンで下肢切断率が低下した。 【欠点】心血管リスクが低い患者の推定て、心血管リスクの定義が一定でなく、確実性が弱い点。 【結論】心血管リスクが低い糖尿病患者では、治療による血管転帰には差がない。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが高い患者では、特定のGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬が特定の心血管転帰に良好な作用をもたらす。 第一人者の医師による解説 血糖降下薬の効果をネットワークメタアナリシスで間接比較 原井 望1)、辻本 哲郎3)、森 保道2) 虎の門病院本院内分泌代謝科 1)医員、2)部長、3)虎の門病院分院糖尿病内分泌科医長 MMJ. February 2021;17(1):22 2型糖尿病の治療選択肢は多種多様であり、病態に合わせた個別化医療が重要である。そのような中で、今回紹介するのは成人2型糖尿病に対する血糖降下薬の有効性および有害性を系統的レビュー(SR)とネットワークメタアナリシス(NMA)で検討した論文である。主要文献データベースおよびClinical Trials.govデータベースを用いて、介入期間24週以上、血糖降下薬の効果を血糖転帰、死亡率、血管転帰で評価している無作為化試験を抽出し、21種類の血糖降下薬(9薬剤クラス)が含まれた453試験を対象とした。これらを試験介入前の背景治療と心血管リスクで分類し、各薬剤による血糖改善効果(HbA1cのベースラインからの変化量)や死亡率、血管転帰などを評価した。背景治療は、薬物未使用(単剤療法)群とメトホルミンベースの治療群に分類した。 結果は、どちらの群でも各薬剤によりHbA1cは低下した中で、メトホルミンベースの治療群ではGLP-1受容体作動薬、またはインスリンを追加した群のHbA1c低下効果が大きかった。心血管リスクの高い患者では、経口セマグルチド、エンパグリフロジン、リラグルチド、エキセナチド徐放製剤、ダパグリフロジンで死亡率が低下した。前者3薬剤は心血管死も減少させた。そのほか、SGLT-2阻害薬は心不全入院や末期腎不全を減少させた。皮下セマグルチドで糖尿病網膜症、カナグリフロジンで下肢切断の増加が示唆された。本研究の限界として、心血管リスクの定義が一貫してないこと、心血管リスクの低い患者に対するいくつかの推定値は信頼度が低いことがあげられる。 さまざまな大規模臨床研究でGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬の心血管保護作用や腎保護作用が発表されており、本論文でも同様の結果であった。ADA/EASD Consensus Report 2019(1)でも、動脈硬化性心疾患や慢性腎臓病、心不全の合併または高リスク状態の2型糖尿病患者に対しては、メトホルミンに続く2次治療薬としてGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬が推奨されている。今回の論文は、NMAを採用したことで直接比較データのない血糖降下薬間の間接比較が可能となり、臨床的意義があると考える。一方、試験間の類似性や均質性、一致性が成り立っていないと結果の妥当性に問題が生じるため注意が必要である。2型糖尿病患者の治療法を選択する上で、患者の病態や合併症、ライフステージを把握するとともに、薬剤の有効性や、副作用、合併症抑制に関するエビデンスの情報は重要であり、今後もさらなるエビデンスの蓄積や検討が必要である。 1. Buse JB, et al. Diabetes Care. 2020;43(2):487-493.
ナトリウム・グルコース共役輸送体2阻害薬と糖尿病性ケトアシドーシスのリスク 多施設共同コホート研究
ナトリウム・グルコース共役輸送体2阻害薬と糖尿病性ケトアシドーシスのリスク 多施設共同コホート研究
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and the Risk for Diabetic Ketoacidosis : A Multicenter Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Sep 15;173(6):417-425. doi: 10.7326/M20-0289. Epub 2020 Jul 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬によって糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のリスクが上昇する可能性がある。 【目的】SGLT2阻害薬によって、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害薬と比較して、2型糖尿病患者のDKAリスクが上昇するかを評価すること。 【デザイン】住民対象コホート研究;2013年から2018年の間のprevalent new-user design(ClinicalTrials.gov、NCT04017221)。 【設定】カナダ7地域と英国の電子医療記録データベース。 【患者】time-conditional傾向スコアを用いて、SGLT2阻害薬新規使用者20万8757例をDPP-4阻害薬使用者20万8757例とマッチングさせた。 【評価項目】コックス比例ハザードモデルで、DPP-4阻害薬使用者と比較したSGLT2阻害薬使用者のDKAの施設ごとのハザード比と95%CIを推定し、ランダム効果モデルを用いて統合した。二次解析では、分子、年齢、性別およびインスリン投与歴で層別化した。 【結果】全体で、37万454人・年の追跡で、521例がDKAの診断を受けた(1000人年当たりの発生率1.40、95%CI 1.29-1.53)。SGLT2阻害薬によってDPP-4阻害薬と比較してDKAリスクが上昇した(発生率2.03、CI 1.83 to 2.25、0.75、CI 0.63-0.89、ハザード比2.85、CI 1.99-4.08)。分子固有のハザード比は、ダパグリフロジン1.86(CI 1.11-3.10)、エンパグリフロジン2.52(CI 1.23-5.14)、カナグリフロジン3.58(CI 2.13-6.03)であった。この関連は年齢および性別では修正されず、インスリン投与歴があるとリスクが低下すると思われた。 【欠点】測定できない交絡因子がある点、患者の大多数の臨床検査データがない点、分子別の解析を実施した施設が少ない点。 【結論】SGLT2阻害薬でDKAリスクが約3倍になり、分子別の解析からクラス効果が示唆された。 第一人者の医師による解説 DPP-4阻害薬に比べ約3倍の発症リスク インスリンの存在がカギ 関根 信夫 JCHO東京新宿メディカルセンター院長 MMJ. April 2021;17(2):49 腎近位尿細管でのブドウ糖再吸収抑制により尿糖排泄を促すという、一見シンプルな機序により血糖降下作用を発揮するSGLT2阻害薬は、近年、心血管イベントをはじめとする合併症予防における優位性(1)から注目され、その使用が劇的に増加している。SGLT2阻害薬は血糖改善・体重減少作用に加え、心不全の発症・入院を減少させ、腎症の進展抑止に寄与する。米国糖尿病学会(ADA)により、特に心血管疾患・心不全・腎症合併例における積極的使用が推奨されている(2)。一方、副作用については尿路・性器感染症のリスク上昇が明らかであるが、代謝面で注目されたのが糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の発症である。その機序としてはインスリン欠乏や脱水などを基盤にケトン体産生が増加することが想定されている。特筆すべきは、比較的低い血糖レベルでもDKAを生じうることであり(“正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス”とも言われる)、極端な糖質制限によるリスクにも注意しなければならない。 本研究はカナダと英国のプライマリケア・データベースを活用したコホート研究であり、2013年1月~18年6月にSGLT2阻害薬を新規に処方された患者、またはDPP-4阻害薬投与を受けている患者を対象に、各薬剤群208,757人という大規模レベルでDKA発症について後ろ向きに比較検討したものである。結果、期間中521人(発症率比1.40人 /1,000人・年)がDKAを発症し入院した。このうちSGLT2阻害薬群ではDPP-4阻害薬群に比べ有意なDKA発症増加が認められた(発症率比2.03対0.75/1,000人・年;ハザード比[HR]2.85)。SGLT2阻害薬の薬剤別HRは、ダパグリフロジン1.86、エンパグリフロジン2.52、カナグリフロジン3.58と、基本的にはクラスエフェクトと考えられるものの、カナグリフロジンのリスクが最も高かった。同薬のSGLT2選択性が比較的低いことが理由として推察されるものの、結論を出すには慎重であるべきである。 なお、SGLT2阻害薬は1型糖尿病でのインスリンへの併用が保険適用となったが、DKA発症リスクが極めて高い1型糖尿病では、なお一層の注意が必要である。本研究でもあらかじめインスリンを投与された患者ではDKA発症リスクが低いという結果が得られており、ポイントはインスリンの“存在”と想定される。すなわち、1型糖尿病においては十分量のインスリンが投与されていること、2型糖尿病ではインスリン療法が行われているか、内因性インスリン分泌が十分あることが、DKA発症リスクを軽減することにつながるものと考えられる。 1. Zelniker TA, et al. Lancet. 2019;393(10166):31-39. 2. American Diabetes Association. Diabetes Care. 2021;44(Suppl 1):S111-S124.
肺がん検診CTを要する高リスク喫煙者を特定するための胸部X線画像を用いた深層学習 予測モデルの開発と検証
肺がん検診CTを要する高リスク喫煙者を特定するための胸部X線画像を用いた深層学習 予測モデルの開発と検証
Deep Learning Using Chest Radiographs to Identify High-Risk Smokers for Lung Cancer Screening Computed Tomography: Development and Validation of a Prediction Model Ann Intern Med. 2020 Nov 3;173(9):704-713. doi: 10.7326/M20-1868. Epub 2020 Sep 1. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】胸部断層撮影(CT)検査を用いた肺がん検診で肺がんによる死亡を減らすことができる。メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)が定めるCTを用いた肺がん検診の適応基準では、詳細な喫煙状況が必要であり、肺がんの見逃しが多い。胸部X線画像を基に自動化した深層学習によって、CT検査の便益がある肺がん高リスクの喫煙者を多く特定できると考えられる。 【目的】電子医療記録(EMR)で入手できることの多いデータ(胸部X線画像、年齢、性別および現在の喫煙状況)を用いて長期的な肺がん発症を予測する畳み込みニューラルネットワーク(CXR-LC)を開発し、検証すること。 【デザイン】リスク予測研究。 【設定】米国肺がん検診試験。 【参加者】CXR-LCモデルはPLCO(前立腺、肺、大腸および卵巣)がん検診試験(4万1856例)で開発した。最終CXR-LCモデルは、新たなPLCOの喫煙者(5615例、追跡期間12年間)およびNLST(National Lung Screening Trial)の大量喫煙者(5493例、追跡期間6年間)で検証した。検証データでのみ結果を報告する。 【評価項目】CXR-LCで予測した最長12年間の肺がん発症率。 【結果】CXR-LCモデルは、肺がん予測の識別能(ROC曲線下面積[AUC])がCMSの適応基準よりも良好だった(PLCO AUC 0.755 vs. 0.634、P<0.001)。CXR-LCモデルの性能は、PLCOデータ(AUC:CXR-LC 0.755 vs. PLCOM2012 0.751)およびNLSTデータ(同0.659 vs. 0.650)いずれでも、11項目のデータを用いた最新のリスクスコアPLCOM2012と同等だった。ほぼ同じ規模の試験集団と比べると、CXR-LCはPLCOデータではCMSより感度が良好で(74.9% vs. 63.8%、P=0.012)、肺がんの見逃しが30.7%少なかった。決断曲線解析で、CXR-LCの純便益はCMS適応基準より大きく、PLCOM2012とほぼ同等の便益であった。 【欠点】肺がん試験の検証であり、臨床現場で検証したものではないこと。 【結論】CXR-LCモデルは、CMS適応基準やEMRから一般的に入手できる情報を用いたものよりも肺がん発症のリスクが高い喫煙者を特定できた。 第一人者の医師による解説 健診・検診とも日本での応用を検討する価値がある成果 髙井 大哉 虎の門病院呼吸器センター内科部長 MMJ. April 2021;17(2):38 米国の公的医療保険システムのメディケアは65歳以上の高齢者、身体障害、透析などが必要な腎機能障害を持つ人を対象とした連邦政府が運営する制度、メディケイドは低所得者層を対象に州政府と連邦政府が運営する制度である。検査、治療薬の適応についてはコスト的な制約が多く、その中で肺がん検診を目的とした胸部CT検査の適応は、30pack-years以上の喫煙歴があり、禁煙後15年以下の55~77歳以上であるとされている。さらに、この基準を満たす米国民のうち、実際に肺がんCT検診を受けている割合は5%未満で、およそ60%の乳がんや大腸がん検診の受診率に比べ、あまりにも少ないことが問題となっている。 本研究では、胸部X線写真上のパターンと電子カルテで得られる情報(年齢、性別、現在の喫煙状況)から、人工知能の一種で、深層学習(deep learning)を用いた畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により長期的な肺がん発症の予測を試みている。学習データセットとして、前立腺がん、肺がん、大腸がん、卵巣がんに対する検診の有用性を検証した無作為化試験(PLCO試験)で集められた胸部X線写真 の80%(41,856人分)を用いた。この集団の背景は平均年齢は62.4歳、男性51.7%、白人86.7%、現喫煙者10.5%、既喫煙者44.9%、非喫煙者45.7%、12年追跡期間の胸部X線写真異常所見あり9.0%、肺がん2.3%、死亡1.5%であった。 PLCO試験の学習セットと独立した喫煙者のみの検証セット5,615人(全体の残り20%)において、今回開発されたCXR-LCモデルによる肺がん発症予測に関するROC曲線下面積(AUC)は0.755で、これはメディケア・メディケイド推奨条件に基づく0.634に比べ有意に大きく、PLCO試験で考案されたリスクスコア(PLCOM2012)の0.761と同程度であった。PLCOM2012は詳細な喫煙歴と必ずしも入手できない危険因子情報が必要であるのに対し、人工知能を導入したことにより、CXR-LCモデルは胸部X線写真と容易に入手できる臨床情報のみで、メディケア・メディケイド推奨条件よりも高い精度で胸部CT検査の適応症例を抽出できることが示された。 本研究の対象の大多数は白人で、また医療アクセスの容易さの異なる日本でその価値を推し量るのは難しいが、胸部X線写真に最低限の臨床情報と人工知能を用いることでCT撮影を推奨するモデルは、健診・検診ともに応用が検討される価値があると考えられる。
入院インフルエンザ成人患者の急性心血管イベント 縦断研究
入院インフルエンザ成人患者の急性心血管イベント 縦断研究
Acute Cardiovascular Events Associated With Influenza in Hospitalized Adults : A Cross-sectional Study Ann Intern Med. 2020 Oct 20;173(8):605-613. doi: 10.7326/M20-1509. Epub 2020 Aug 25. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】インフルエンザが1年間のインフルエンザ流行期中の急性心血管イベントの負担の一因となっていると考えられる。 【目的】検査で確定したインフルエンザのため入院した成人患者で、急性心血管イベント、急性心不全(aHF)および急性虚血性心疾患(aIHD)の危険因子を調べること。 【デザイン】縦断研究。 【設定】2020-2011年から2017-2018年までのインフルエンザシーズン中の米国Influenza Hospitalization Surveillance Network。 【参加者】検査で確定したインフルエンザ感染のため入院した成人患者および医療者の指示により実施した検査でインフルエンザ感染が明らかになった成人患者。 【評価項目】国際疾病分類(ICD)第9版およびICD第10版の退院コードを用いて特定した急性心血管イベント。年齢、性別、人種・民族、喫煙状況、慢性疾患、インフルエンザ予防接種、インフルエンザ抗ウイルス薬およびインフルエンザの種類または亜型をロジスティック回帰モデルの曝露因子とし、限界調整リスク比と95%CIを推定してaHFまたはaIHDの関連因子を明らかにした。 【結果】検査で確定したインフルエンザ成人患者89,999例のうち80,261例が完全な医療記録とICDコードが入手でき(年齢中央値69[四分位範囲54-81]歳)、11.7%が急性心血管イベントを来した。最も多かったイベント(相互に排他的ではない)は、aHF(6.2%)およびaIHD(5.7%)であった。高齢、たばこ喫煙、併存心血管疾患、糖尿病および腎疾患に、検査で確定したインフルエンザ成人患者のaHFおよびaIHDリスクとの有意な関連が認められた。 【欠点】インフルエンザ検査が医療者の指示が基になっているため、検出されない症例があると思われる点。急性心血管イベントをICD退院コードで特定しており、誤分類の可能性がある点。 【結論】インフルエンザ成人入院患者の住民対象研究では、患者の約12%が急性心血管イベントを来した。インフルエンザによる急性心血管イベントを予防するため、慢性疾患がある患者には特にインフルエンザ予防接種を高率で実施すべきである。 第一人者の医師による解説 高齢、喫煙、心血管疾患既往など高リスク者に ワクチン接種を推奨すべき 平尾 龍彦(助教)/笹野 哲郎(教授) 東京医科歯科大学循環制御内科学 MMJ. April 2021;17(2):47 インフルエンザウイルス感染は上下気道症状が主であるが心合併症も報告されている。インフルエンザ急性期の心筋梗塞発症リスクは、対照期間に比べ6倍にも高まると報告されている(1)。さらにウイルス別に比べると、インフルエンザ B型、A型、RSウイルス、その他ウイルスで、それぞれ10.1倍、5.2倍、3.5倍、2.8倍となっており、特にインフルエンザに心筋梗塞が高率に合併するとされている。 本研究は、米国のインフルエンザ入院監視ネットワークを用いて、インフルエンザ急性期の急性心血管イベントを調べた横断研究である。2010~18年流行期のインフルエンザ入院患者80,261人(小児除く)を対象に、急性心不全および急性虚血性心疾患の発症を調査したところ、その11.7%に急性心血管イベントを認めた。最も多いイベントは、急性心不全(6.2%)と急性虚血性心疾患(5.7%)で、そのほか異常高血圧(1.0%)、心原性ショック(0.3%)、急性心筋炎(0.1%)、急性心膜炎(0.1%)、心タンポナーデ(0.03%)を認めた。また、曝露因子(年齢、性別、人種、喫煙、慢性疾患、ワクチン接種、抗インフルエンザウイルス薬およびインフルエンザのタイプ)と急性心血管イベントとの関連を調べたところ、有意な危険因子として、高齢、喫煙、心血管疾患の既往、糖尿病、および腎疾患が挙げられた。 本研究は、心血管イベントをICD退院コードで識別しているため誤分類が含まれているおそれはあるが、これまで報告が散見されたインフルエンザと急性心合併症の関係について、大きな集団で発症率を求めた非常に有意義な報告である。インフルエンザ感染と急性心血管イベントを介在する病態生理はいまだ明らかでないが、インフルエンザ感染がトロポニンやミオシン軽鎖の濃度上昇をもたらすことで証明されるように、全身性炎症反応による酸化ストレス促進が血行力学的変化および血栓形成を促進させることが原因と考えられている。この先20年、心血管疾患が増えることに伴う医療費の増大に加えて、心血管疾患による生活の質(QOL)低下や若年死を原因とする国全体の生産性の低下が危惧される。我々は、インフルエンザに関連した急性心血管イベントを予防するために、特に上記の危険因子をもつ患者に、積極的にワクチン接種を推奨すべきである。 1. Kwong JC, N Engl J Med. 2018;378(4):345-353.
肥満減量手術と全死因死亡の関連 国民皆保険制度下の一般住民を対象としたマッチドコホート研究
肥満減量手術と全死因死亡の関連 国民皆保険制度下の一般住民を対象としたマッチドコホート研究
Association Between Bariatric Surgery and All-Cause Mortality: A Population-Based Matched Cohort Study in a Universal Health Care System Ann Intern Med. 2020 Nov 3;173(9):694-703. doi: 10.7326/M19-3925. Epub 2020 Aug 18. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】肥満減量手術後の死亡率は過去に調査されているが、コホート選択のバイアス、追跡調査の網羅性および交絡因子の収集によって結果の推定が制限されている。 【目的】肥満減量手術と全死因死亡の間の関連を明らかにすること。 【デザイン】一般住民を対象としたマッチドコホート研究。 【設定】カナダ・オンタリオ州。 【参加者】2010年10月から2016年12月の間に肥満減量手術を受けた患者1万3679例およびマッチさせた非手術患者1万3679例。 【介入】肥満減量手術。 【評価項目】主要評価項目は全死因死亡とし、原因別の死亡率を副次評価項目とした。患者を年齢、性別、BMIおよび糖尿病罹患期間でマッチさせた。 【結果】肥満減量手術を受けた患者1万3679例を非手術患者1万3679例とマッチさせた。追跡期間中央値4.9年後の全死因死亡率は、手術群1.4%(197例)、非手術群2.5%(340例)であり、手術群の方が全死因死亡の調整ハザード比(HR)が低かった(HR 0.68[95%CI 0.57~0.81])。55歳以上の患者の絶対リスクが3.3%(CI 2.3~4.3%)低く、手術群の方が死亡ハザード比が低かった(HR 0.53[CI 0.41~0.69])。男女でほぼ同じ相対的効果が認められたが、この関連は絶対的に男性の方が大きかった。このほか、肥満手術に心血管死亡率(HR 0.53[0.34~0.84])とがん死亡率(HR 0.54[0.36~0.80])の低下との関連が認められた。 【欠点】観察的デザインでは因果推論に限界がある点。 【結論】肥満減量手術によって全死因死亡率、心血管死亡率およびがん死亡率が大幅に低下した。手術群に見られた死亡率の低下は、ほとんどの下位集団でも有意であった。最も大きな絶対効果は、男性および55歳以上の患者に認められた。 第一人者の医師による解説 日本で保険適用のある腹腔鏡下スリーブ状胃切除術 長期的効果が明らかになることを期待 山内 敏正(教授)/庄嶋 伸浩(特任准教授) 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科 MMJ. June 2021;17(3):84 全死亡は重要なアウトカムであり、代謝指標や、がんなど肥満に関連する健康障害を反映する。減量・代謝改善手術は、数百~数千人規模の30以上の研究において、全死亡リスクを2~8割低下させることが報告されている。例えば、Swedish Obese Subjects(SOS)研究によると、肥満症の外科的治療群では内科的治療群に比べ全死亡(ハザード比[HR], 0.77)、心血管死(0.70)、がん死(0.77)のリスクが低下し、補正後余命中央値が3年長かった(1)。 本論文は、カナダ・オンタリオ州保健データベースを活用し、減量・代謝改善手術と全死亡の関連を検討したコホート研究の報告である。手術群と非手術(対照)群は年齢、性別、BMI、糖尿病の病歴でマッチングされ、さらに社会的経済的状況などでバイアスが補正された。減量・代謝改善手術としてルーワイ胃バイパス術(RYGB)が87.3%に、スリーブ状胃切除術が12.7%に実施され、手術群では全死亡(HR,0.68)、心血管死(0.53)、がん死(0.54)のリスクが低く、特に55歳以上において全死亡のリスクが低かった(HR,0.53)。これらの結果から、胃バイパス術による肥満症の改善は死亡リスクを低下させる可能性が示された。今後、軽度な肥満症、若年成人や高齢者の肥満症において、さらに日本で保険適用のある腹腔鏡下スリーブ状胃切除術に関して、肥満症手術の死亡に対する長期的な効果が明らかとなることが望まれる。 日本では、6カ月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないBMI 35kg/m2以上で、糖尿病、高血圧、脂質異常症、または睡眠時無呼吸症候群のうち1つ以上を合併した高度肥満症に対して、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が2014年に保険収載され、20年に適応拡大された。 日本肥満症治療学会(龍野一郎 理事長)、日本糖尿病学会(植木浩二郎 理事長)、日本肥満学会(門脇 孝理事長)の監修による「日本人の肥満2型糖尿病患者に対する減量・代謝改善手術に関するコンセンサスステートメント」で、2型糖尿病に対する減量・代謝改善手術 の 適応基準 とし て、受診時BMI 35kg/m2以上の2型糖尿病で、糖尿病専門医や肥満症専門医による6カ月以上の治療でもBMI 35kg/m2以上が継続する場合、血糖コントロールの状態に関わらず減量・代謝改善手術が治療選択肢として推奨されている。また受診時BMI32 kg/m2以上の2型糖尿病では、糖尿病専門医や肥満症専門医による治療で、6カ月以内に5%以上の体重減少が得られないか得られても血糖コントロールが不良な場合(HbA1c 8.0%以上)には、減量・代謝改善手術を治療選択肢として検討すべきとされている。本ステートメントにより、減量・代謝改善手術がさらに安全で効果的に推進されている。 1. Carlsson LMS, et al. N Engl J Med. 2020;383(16):1535-1543.
関節リウマチに用いる低用量グルココルチコイドの重篤な感染症リスク コホート研究
関節リウマチに用いる低用量グルココルチコイドの重篤な感染症リスク コホート研究
Risk for Serious Infection With Low-Dose Glucocorticoids in Patients With Rheumatoid Arthritis : A Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Dec 1;173(11):870-878. doi: 10.7326/M20-1594. Epub 2020 Sep 22. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】関節リウマチ(RA)やその他の慢性疾患の管理に低用量グルココルチコイドが頻繁に用いられているが、長期投与の安全性は明らかになっていないままである。 【目的】安定した疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)療法を実施しているRAに用いる低用量グルココルチコイド長期投与による入院を要する感染症リスクを定量化すること。 【デザイン】後ろ向きコホート研究。 【設定】2006年から2015年のメディケア請求データおよびOptumの匿名化したClinformatics Data Martデータベース。 【患者】6カ月以上にわたって安定したDMARDレジメンを受けている成人RA患者。 【評価項目】逆確率重み付け(IPTW)法を用いてグルココルチコイド用量(非投与、5mg/日以下、5-10mg/日、10mg/日超)と入院を要する感染症との関連を評価し、重み付けモデルで1年累積発症率を推定した。 【結果】メディケアから17万2041例で24万7297件、Optumから4万4118例で5万8279件のデータを特定した。6カ月間の安定したDMARD療法後、メディケア患者の47.1%とOptum患者の39.5%がグルココルチコイドの投与を受けていた。メディケア患者の入院を要する感染症の1年累積発症率は、グルココルチコイド非投与で8.6%であったのに対して、5mg/日以下11.0%(95%CI 10.6~11.5%)、5~10mg/日14.4%(同13.8~15.1%)、10mg/日超17.7%(同16.5~19.1%)だった(いずれも非投与との比較のP<0.001)。Optum患者の入院を要する感染症の1年累積発症率は、グルココルチコイド非投与で4.0%であったのに対して、5mg/日以下5.2%(同4.7~5.8%)、5~10mg/日8.1%(同7.0~9.3%)、10mg/日超10.6%(同8.5~13.2%)であった(いずれも非投与との比較のP<0.001)。 【欠点】残存交絡およびグルココルチコイド容量の誤分類の可能性がある点。 【結論】安定したDMARD療法を受けている患者で、グルココルチコイドによって重篤な感染症リスクが用量依存的に上昇し、5mg/日の用量でさえ、わずかではあるが有意なリスクが認められた。臨床医は、低用量グルココルチコイドの便益とこのリスクの可能性のバランスをとるべきである。 第一人者の医師による解説 欧米に比べて小さい日本人 ステロイドを中止可能とする治療を模索すべき 山岡 邦宏 北里大学医学部膠原病・感染内科学主任教授 MMJ. June 2021;17(3):73 低用量ステロイドは関節リウマチ(RA)を含めた慢性疾患の治療において多く用いられている。しかし、その長期使用における安全性は明確となっていない。そこで、著者らは一定量の抗リウマチ薬で治療中のRA患者で長期間の低用量ステロイド使用と入院を要する重篤感染症の危険因子について後方視的研究を行った。解析には米国で65歳以上の高齢者と障害者を対象とした公的医療保険であるメディケア(平均年齢68.7歳)と米国大規模医療請求および統合実験室データベース(平均年齢57.6歳)であるOptum Clinformaticsの2つの異なるデータが用いられた。ステロイド用量を0mg/日(非使用)、5mg/日以下、5超~10mg/日、10mg/日超に分けてそれぞれのデータベース別に解析が行われた。6カ月間の一定量の抗リウマチ薬の使用が確認された患者でステロイド投与が行われていた割合はメディケア47.1%、Optum39.5%であった。1年後における入院を要した感染症の割合は、メディケアの場合、ステロイド0mg/日群の8.6%に対して5mg/日以下群で11.0%、5超~10mg/日群で14.4%、10mg/日超群で17.7%であった。一方、Optumでは、ステロイド0mg/日群の4.0%に対して、5mg/日以下群で5.2%、5超~10 mg/日群で8.1%、10mg/日群で10.6%であった。これらの結果より、米国の異なる2つの大規模データベースにおいてステロイドは用量依存的に入院を要する重篤感染症のリスクとなることが明らかとなり、たとえステロイドの用量が5mg/日以下でも0mg/日と比較すると有意にリスクが高いことが示された。 日本でもRA治療の実臨床ではいまだ多くの患者でステロイド投与が行われている。特に、疼痛・腫脹の制御目的に少量投与が年余にわたり行われていることがある。欧米では5mg/日以下であればRA患者では安全性が担保されているとされることが多いが、本論文からは一概にそうとは言えない。また、体重、体格指数(BMI)が欧米に比べて小さい日本人における低用量ステロイドの危険性は本論文以上である可能性を考慮して、他剤を用いてステロイドを中止可能とする治療を模索すべきであることを示唆している。
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
1997~2018年に米食品医薬品局が承認した処方オピオイドを支持する主要な根拠
Key Evidence Supporting Prescription Opioids Approved by the U.S. Food and Drug Administration, 1997 to 2018 Ann Intern Med. 2020 Dec 15;173(12):956-963. doi: 10.7326/M20-0274. Epub 2020 Sep 29. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】オピオイド鎮痛薬新規承認のために米食品医薬品局(FDA)が求めた根拠についてはほとんど知られていない。 【目的】1997年から2018年の間にFDAが承認したオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)の安全性および有効性データの質を明らかにすること。 【デザイン】横断的解析。 【設定】ClinicalTrials.gov、FDA審査および査読付き出版物のデータ。 【参加者】第3相主試験に参加した疼痛患者。 【介入】FDAが承認したオピオイド鎮痛薬。 【評価項目】主試験の数、規模および期間、試験の対照群、強化デザイン採用の有無および系統的に評価した安全性転帰などの各NDAの主な特徴。 【結果】評価したNDA 48件のほとんどが新投与形態(25件、52.1%)や新剤形(9件、18.8%)の申請で、わずか1件が新規化合物の申請であった。慢性疼痛の治療を適応に承認を受けたNDA 39件のうち、1件以上の主試験で裏付けられたものはわずか21製品(試験件数28件、試験期間中央値84日、対象症例数中央値299例)しかなかった。このうち17品(81%)は、不耐症例や早期に有害事象が認められた症例、直接的便益がほとんど認められなかった患者を除外する試験デザインを基に承認を受けていた。慢性疼痛のNDAのうち、8件(20.5%)が転用の系統的評価結果を報告した統合的な安全性レビューを提出し、7件(17.9%)が非医療目的での使用を系統的に評価し、15件(38.5%)が耐性発現を評価していた。急性疼痛治療薬9製品中8製品で、1件以上の主試験によって効果が裏付けられており、この主試験(19件)の期間中央値は1日(IQR 1~2日)で、329例(中央値、IQR 199~456例)を組み入れていた。承認を受けたNDA 48件のうち1例を除く全申請は既に承認されている成分に関するものであったが、関連製品のNDAの解析から同等の結果が得られた。 【欠点】解析は承認を受けたオピオイドに限られる点。動物試験や非主試験を除外した点。NDAの安全性の根拠が慢性疼痛のみを目的として示されている点。 【結論】1997年から2018年の間に、FDAは、薬剤に忍容性があった患者という狭義に定義した患者集団が頻繁に用いられた短期間または中期間の主試験を基にオピオイドを承認した。特定の重要な安全性転帰の体系的を収集することはまれであった。 第一人者の医師による解説 オピオイド鎮痛薬の有効性と安全性 十分な検証に基づく新薬承認が望まれる 伊原 奈帆(助教)/橋口 さおり(准教授) 慶應義塾大学医学部麻酔学教室 MMJ. June 2021;17(3):91 米国ではオピオイド鎮痛薬の過剰摂取による死者が2018年には46,000人を超え、誤用や乱用なども含め社会的問題となっている。 本論文は1997〜2018年に米食品医薬品局(FDA)が承認した48のオピオイド鎮痛薬の新薬承認申請(NDA)を対象に、有効性および安全性の評価に関して検討した横断的研究である。 新規有効成分のNDAは1件のみで、それ以外の47件中30件はFDA既承認薬の有効性や安全性に関する審査結果に新剤形や新配合など変更・改良の情報を合わせたデータによる申請であった。慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬のNDA39件のうち、1つ以上のピボタル試験が行われていたのは21件であった。これら21件のNDAで行われた計28試験について検討したところ、試験期間中央値は84日、被験者 数中央値は299人であった。NDA21件中17件(81%)では、効果が乏しい被験者や副作用に耐えられない被験者をランダム化前に除外する慣らし期間を含むEERWデザインの試験が、最低1つは行われていた。EERWデザインの22試験において最初に登録された人数の37.2%(中央値)がランダム化前に除外されていた。 慢性疼痛のNDA39件中、29件では耐性、転用、乱用、異常使用、過剰摂取などの項目による安全性を評価していたが、10件のNDAでは評価していなかった。39件のNDAにおいて副作用を体系的に評価したものはなかったが、耐え難い副作用による脱落者などの報告は一般的に行われていた。 この結果より、FDAにより承認された慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬は、12週以内の数回の試 験に基づき、耐性や転用の評価に乏しいプールされた解析が含まれたエビデンスで承認されていたことがわかった。多くの試験で、有効性を過大評価する可能性があるEERWデザインが使用されていた。 著者らはFDAに対して有効性と安全性の評価の向上のために、1 オピオイド鎮痛薬に関する規制 ガイダンスの強化、2 副作用の体系的な評価、3 EERWデザインの試験による評価の中止、4 長期安全性に関する証拠集め、5 乱用、依存や転用などの安全性情報の市販後調査を提言している。 日本では2020年10月にオキシコンチン ®TR 錠が慢性疼痛における鎮痛の適応追加の承認を受けたが、厚生労働省は厳しい流通管理体制をとることを承認条件としている。日本でも慢性疼痛のオピオイド鎮痛薬の処方は増えてくる可能性があるため、効果的かつ安全に使用するためのデータを十分に検証していく必要がある。
SARS-CoV-2ワクチン接種の可能性に対する態度 米国成人を対象とした調査
SARS-CoV-2ワクチン接種の可能性に対する態度 米国成人を対象とした調査
Attitudes Toward a Potential SARS-CoV-2 Vaccine : A Survey of U.S. Adults Ann Intern Med. 2020 Dec 15;173(12):964-973. doi: 10.7326/M20-3569. Epub 2020 Sep 4. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、またたく間に世界的大流行を引き起こした。ワクチン開発が異例の早さで進んでいる。利用できるようになれば、ワクチン接種と接種対象者を最大限に拡大することが重要になるであろう。 【目的】米国成人の代表的標本でCOVID-19に対するワクチン接種を受ける意志を評価し、ワクチン接種躊躇の予測因子や理由を明らかにすること。 【デザイン】2020年4月16~20日の間に実施した横断的調査。 【設定】米国の成人居住者の代表的標本。 【参加者】米国世帯人口の約97%に当たるAmeriSpeakの確率パネルから抽出した成人約1000例。 【評価項目】COVID-19ワクチン接種の意志を「コロナウイルスのワクチンができたら接種したいですか」という質問で測定した。回答選択肢を「はい」「いいえ」「分からない」とした。「いいえ」または「分からない」と回答した回答者に理由を聞いた。 【結果】AmeriSpeakパネル会員計991例が回答した。全体の57.6%(571例)がワクチン接種の意向を示し、31.6%(313例)が「分からない」と回答、10.8%(107例)にワクチンを接種する意志がなかった。ワクチン接種躊躇(「いいえ」または「分からない」の回答)と関連を示す独立の因子に、若年齢、黒人、低学歴および前年のインフルエンザワクチン非接種があった。ワクチン接種躊躇の理由に、ワクチンに対する懸念、詳しい情報の必要性、反ワクチンの姿勢や信念、および信頼感の欠如があった。 【欠点】ワクチンが販売される前および大流行が米国に大きな影響を及ぼす前にワクチン接種の意志を調査した。ワクチンの受容性を高める特定の情報や因子に関する質問がなかった。調査の回答率は16.1%であった。 【結論】コロナウイルス大流行中に実施したこの全国調査から、成人の約10人に3人がCOVID-19のワクチンを接種したいか分からず、10人に1人がワクチンを接種する意志がなかった。ワクチンが完成したときにCOVID-19ワクチンに対する受容性を増やすため、目標を定めた多方面からの努力が必要とされる。 第一人者の医師による解説 新型コロナワクチンのさまざまな情報提供の必要性を示唆 山岸 由佳 愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学教授(特任) MMJ. June 2021;17(3):75 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界的に大規模な影響をもたらし、現在パンデミック を抑制する最も有望な手段として世界の複数の研究者が効果的なCOVID-19ワクチン(以下ワクチン)の開発に取り組んでいる。現在これまでにないスケジュールで複数のワクチンが開発され大規模な第3相試験が行われているが、一部で懐疑的な見方もされており、ワクチンが利用可能となったときにワクチンの普及に課題が生じる可能性がある。そこで事前に接種の意向調査を行ったのが本研究である。 本研究は、2020年4月16〜20日に実施された横断調査で、米国の世帯人口のおよそ97%をカバーするAmeriSpeakの確率的調査パネルから抽出されたおよそ1,000人の成人を対象とした。参加者全体の57.6%がワクチンの接種を「受けるつもりである」、31.6%が「わからない」、10.8%が「受けるつもりはない」と回答した。接種に積極的ではない参加者の特徴として、年齢が低い,女性、黒人またはヒスパニック系、教育水準が低い、世帯収入が低い、世帯規模が大きい、インフルエンザワクチンを接種したことがあると答えた確率が低いなどが挙げられた。またワクチン接種をためらう理由としては、ワクチン特有の不安、より多くの情報が必要、反ワクチン的な態度や信念、信頼感の欠如などが挙げられた。 COVID-19大流行時に実施された今回の全国調査から、成人の約10人に3人がワクチン接種を受け入れるかどうか確信が持てていないことが明らかになった。ワクチンが利用可能になった場合、その受容性を高めるためには、ターゲットを絞った多角的な取り組みが必要となることが明らかとなった。本研究の限界として、参加者のワクチン接種の意思は、ワクチンが入手可能になる前で、かつパンデミックの影響が米国の狭い範囲に及んでいるときに調査され、さらにアンケートの回答率は16.1%であったことである。 日本国内ではワクチン接種が可能となるまでの期間、何度も流行の波が押し寄せたが、主要な海外 に比べ接種開始が遅れたことは否めない。また3種類のワクチンが契約となったものの(執筆時点で) 開始されたのは1種類のみであること、医療従事者を先行としたものの十分行きわたらないまま高齢者への接種が開始され準備に十分な時間がとれたとはいえない状況であった。しかし、この流行の波を抑えるにはワクチンしかないという機運が高まっていたこと、接種までの準備期間に諸外国を中心に有効性および安全性などのさまざまな情報がもたらされたことから、少なくとも医療従事者においては接種の意向がはっきりしてきていると思われる。
変形性膝関節症の症状および滑膜炎による関節水腫の治療に用いるCurcuma longa抽出物の有効性:無作為化比較試験
変形性膝関節症の症状および滑膜炎による関節水腫の治療に用いるCurcuma longa抽出物の有効性:無作為化比較試験
Effectiveness of Curcuma longa Extract for the Treatment of Symptoms and Effusion-Synovitis of Knee Osteoarthritis : A Randomized Trial Ann Intern Med. 2020 Dec 1;173(11):861-869. doi: 10.7326/M20-0990. Epub 2020 Sep 15. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】変形性関節症の現行の薬物療法は最適なものではない。 【目的】症候性変形性膝関節症および滑膜炎による関節水腫がある患者で、膝の症状と関節水腫の軽減に対するウコン(Curcuma longa:CL)抽出物の有効性を明らかにすること。 【デザイン】無作為化二重盲検プラセボ対照試験(オーストラリアニュージーランド臨床試験レジストリ:ACTRN12618000080224)。 【設定】オーストラリア・南タスマニアの患者を対象とした単施設試験。 【参加者】超音波検査で滑膜炎による関節水腫が認められた症候性変形性膝関節症患者70例 【介入】1日当たり2錠を12週間にわたって投与するCL(36例)とマッチさせたプラセボ(34例)。 【評価項目】主要評価項目は、視覚的アナログ尺度(VAS)を用いた膝疼痛スコアおよび磁気共鳴画像法(MRI)で描出された関節液量の変化とした。主な副次評価項目は、Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)の疼痛スコアおよび軟骨の質の変化とした。各項目を12週間にわたって評価した。 【結果】CL群のVAS疼痛スコアがプラセボと比べて-9.1mm(95%CI -17.8、-0.4、P=0.039)改善したが、関節液量には変化がなかった(3.2mL、CI -0.3~6.8mL)。このほか、CL群ではWOMAC疼痛スコアが改善した(-47.2mm、CI -81.2~-13.2、P=0.006)が、外側大腿骨軟骨のT2緩和時間には改善が見られなかった(-0.4ms、CI -1.1~0.3ms)。有害事象発現率はCL群(14例、39%とプラセボ群(18例、53%)で同等であり(P=0.16)、CL群の2件、プラセボ群の5件が治療関連と考えられた。 【欠点】規模が中程度で、短期間であった点。 【結論】CLは、膝の疼痛に対してプラセボよりも有効であったが、滑膜炎による関節水腫や軟骨の質には影響がなかった。一連の結果の臨床的意義を評価すべく、さらに大規模な多施設共同試験が必要である。 第一人者の医師による解説 生薬(Curcuma longa)による変形性膝関節症治療のエビデンス 大規模で長期の臨床試験を期待 沢田 哲治 東京医科大学病院リウマチ・膠原病内科教授 MMJ. June 2021;17(3):74 変形性関節症(osteoarthritis;OA)は加齢を素因として緩徐に進行する軟骨の変性疾患であり、遠位指節間関節や手根中手関節、脊椎、下肢荷重関節などに疼痛や運動障害をきたす疾患である。X線像では骨棘形成や軟骨下骨硬化像、骨囊胞などの骨変化や関節裂隙狭小化(軟骨菲薄化)がみられる。非炎症性疾患と見なされているが、MRIでは滑膜病変やT2強調像の高信号領域として検出される骨髄 病変(bone marrow lesion)を認め、その病態形成に局所的な炎症機転の関与が示唆されている。 OAの進行を停止または逆転させる治療法はなく、対症療法として非薬物療法(運動療法、減量指導、装具使用、温熱療法など)、薬物療法、関節内注射(副腎皮質ステロイドやヒアルロン酸)、外科的療法などが行われる。疼痛緩和の薬物療法としてアセトアミノフェン内服、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)内服、外用NSAID貼付などが行われるが、効果不十分なことも少なくない。また、NSAID内服では消化管障害や心血管系障害のリスクも懸念される。ウコン(turmeric)はアジアの熱帯地方で自生または栽培されるショウガ科の生薬である。カレー粉として料理に使われるが、主成分のクルクミンは利胆作用などのほかに抗炎症作用も有することが示されている(1)。 本論文の著者らは、ウコン抽出物の疼痛緩和効果を検証するため、関節水腫-滑膜炎を伴う膝OA患者70人を対象にランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。その結果、12週後のMRI画像上の関節液-滑膜炎量の改善は認められなかったが、ウコン抽出物の経口投与により疼痛と機能障害は有意に改善することが示された。日本の中川らの報告(2)を含むランダム化比較試験(試験期間は16週以下)のメタ解析でも、その有用性が示されている(3)。一方、臨床試験では重篤な副作用は報告されていないが、健康食品としてのウコン摂取では肝障害の発生がまれながら報告されている(https://www.med.or.jp/people/knkshoku/ukon.html)。今後ウコンの長期的有用性と安全性を確認するため、より大規模で長期にわたる臨床試験の実施が 期待される。 なお、日本では、関節水腫を伴う膝OAの漢方製剤として、防已黄耆湯が用いられることが多く、患者の臨床症状に合わせて越婢加朮湯や薏苡仁湯なども用いられている。ウコンは生薬であるが、これ らの漢方製剤には含まれていない。 1. Hoppstädter J, et al. J Biol Chem. 2016;291(44):22949-22960. 2. Nakagawa Y, et al. J Orthop Sci. 2014;19(6):933-939. 3. Wang Z, et al. Curr Rheumatol Rep. 2021;23(2):11.
COVID-19入院患者の経過 コホート研究
COVID-19入院患者の経過 コホート研究
Patient Trajectories Among Persons Hospitalized for COVID-19 : A Cohort Study Ann Intern Med. 2021 Jan;174(1):33-41. doi: 10.7326/M20-3905. Epub 2020 Sep 22. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】米国コホートでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化や死亡の危険因子が調査されていない。 【目的】COVID-19の重症化や死亡を予測する入院時の因子を明らかにすること。 【デザイン】後ろ向きコホート解析。 【設定】メリーランドおよびワシントンDC地域の病院5軒。 【患者】2020年3月4日から4月24日の間にCOVID-19のため入院した連続症例832例を2020年7月27日まで追跡した。 【評価項目】世界保健機関のCOVID-19重症度尺度で分類した患者の経過(軌道)および転帰。死亡および重症化または死亡の複合を主要転帰とした。 【結果】患者の年齢中央値が64歳(1~108歳)、47%が女性、40%が黒人、16%がラテンアメリカ系であり、21%が介護施設居住者であった。全体で、131例(16%)が死亡し、694例(83%)が退院した(523例[63%]が軽症ないし中等症、171例[20%]が重症)。死亡例のうち66例(50%)が介護施設居住者であった。入院時に軽症ないし中等症であった787例のうち302例(38%)が重症または死亡へと進行し、第2病日までに181例(60%)、第4病日までに238例(79例)が死亡した。年齢、介護施設居住、併存疾患、肥満、呼吸器症状、呼吸数、発熱、リンパ球絶対数、低アルブミン血症、トロポニン値、CRPおよびこの一連の因子の相互作用によって疾患進行の確率が大きく異なっていた。入院時に見られた因子のみを用いると、院内での疾患進行を予測するモデルの第2病日、第4病日および第7病日の曲線下面積がそれぞれ0.85、0.79および0.79であった。 【欠点】試験は単一の医療システムで実施された。 【結論】人口統計学的変数および臨床変数の組み合わせに、COVID-19重症化または死亡および早期発症との強い関連が認められた。COVID-19 Inpatient Risk Calculator(CIRC)は入院時に見られた因子を用いて作成したものであり、臨床および資源の割り当ての決定に有用である。 第一人者の医師による解説 重症化や死亡リスク予測のためのRisk Calculator作成 5 ~ 90%の確率で予測 小倉 翔/荒岡秀樹(部長) 虎の門病院臨床感染科 MMJ. June 2021;17(3):76 2019年末に中国の武漢で肺炎の原因として確認されたSARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急速に全世界へと拡大し、現在も世界の各地域で大きな脅威となり、社会経済活動や医療リソースを圧迫し続けている。入院時に予後不良を予測する因子を特定することにより、人工呼吸器や治療薬など潜在的に不足している医療資源の割り当てや、治療の方向性に関する患者や家族との話し合いに、有益な情報を提供できる可能性がある。 本研究は米国の5つの病院を含む単一の医療システム(Johns Hopkins Medicine)における後方視的コホート解析である。研究期間中に、832人の患者がCOVID-19で入院した。最終評価時において、694人(83%)の患者が退院し、131人(16%)が死亡し、7人(0.8%)が重症で入院したままだった。退院した患者のうち、523人(63%)は軽度〜中等症で、171人(21%)は重症であった。入院時からの臨床経過によると、45人(5%)の患者は病院到着時にすでに重症の状態であり、残りの787人の患者のうち、120人(15%)が12時間までに、149人(19%)が24時間までに、185人(24%)が48時間までに、215人(27%)が72時間までに、244人(31%)が96時間までに重症化または死亡した。重症化または死亡までの期間の中央値は1.1日(四分位範囲,0.07〜3.4日)だった。体格指数(BMI)、呼吸器症状、C反応性蛋白(CRP)値、呼吸数、アルブミン値および38.0°Cを超える発熱が年齢に関係なく重症化または死亡と関連していた。死亡のみを評価した場合、重要な危険因子には、年齢、ナーシングホームからの入院(75歳未満)、複数の併存疾患(CCI*で計算)、およびSaO2/FiO2 比が含まれた。これらのデータをもとに、重症疾患 または死亡のリスク(累積発生率)を予測するためのCOVID-19 Inpatient Risk Calculator(CIRC)が作成された(https://rsconnect.biostat.jhsph.edu/covid_predict/で入手可能)。 本研究では、米国におけるCOVID-19による入院患者の疾患経過と重症化または死亡に関連する危険因子が検討された。これらの危険因子の組み合わせにより、5%程度から90%を超える確率で重症化もしくは死亡が予測された。 本研究は、データが米国における単一の医療システムから取得されている点や、発症日のデータがないために疾患全体の経過が明確でない点が限界として挙げられる。 *CCI(Charlson Comorbidity Index):慢性疾患に関連する17の状態についてスコア化し評価し た指標
米国成人で検討した末梢神経障害と全死因および心血管死亡率 前向きコホート研究
米国成人で検討した末梢神経障害と全死因および心血管死亡率 前向きコホート研究
Peripheral Neuropathy and All-Cause and Cardiovascular Mortality in U.S. Adults : A Prospective Cohort Study Ann Intern Med. 2021 Feb;174(2):167-174. doi: 10.7326/M20-1340. Epub 2020 Dec 8. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】糖尿病がない患者でも末梢性神経障害(PN)が多く見られることを示す根拠が増えている。しかし、PNの後遺症は一般集団では定量化されていない。 【目的】米国一般成人のPNと全死因および心血管死亡率の関連を評価すること。 【デザイン】前向きコホート研究。 【設定】1999~2004年のNHANES(全国健康栄養調査)。 【参加者】PNの標準モノフィラメント検査を受けた40歳以上の成人7116例。 【評価項目】Cox回帰分析を用いて、人口統計学的因子および心血管危険因子で調整後のPNと全死因および心血管死亡率の関連を、参加者全体に加えて糖尿病の有無で層別化して評価した。 【結果】全体のPN有病率(±SE)は、13.5%±0.5%(糖尿病患者27.0%±1.4%、非糖尿病患者11.6%±0.5%)であった。追跡期間中央値13年間の間に2128例が死亡し、そのうち488例が心血管系の原因によるものであった。1000人年当たりの全死因死亡率は、糖尿病+PN患者で57.6(95%CI 48.4~68.7)、PN+糖尿病患者で34.3(同30.3~38.8)、糖尿病+非PN患者で27.1(同23.4~31.5)、非糖尿病+非PN患者で13.0(同12.1~14.0)であった。調整後モデルで、糖尿病患者で、PNに全死因死亡(ハザード比1.49、CI 1.15~1.94)および心血管死亡(同1.66、1.07~2.57)との有意な関連が認められた。非糖尿病患者では、PNに全死因死亡との有意な関連が認められたが(同1.31、1.15~1.50)、調整後のPNと心血管死亡の関連は統計学的に有意ではなかった(同1.27、0.98~1.66)。 【欠点】心血管疾患の有無が自己報告であった点、PNをモノフィラメント検査のみで定義した点。 【結論】末梢神経障害は、米国成人の間でよく見られ、糖尿病がなくても死亡との独立の関連が認められた。この結果からは、足底感覚の鈍化が、これまで認識されていなかった一般集団の死亡の危険因子であることが示唆される。 第一人者の医師による解説 末梢神経障害の有病率は高く 温痛覚試験など足病変リスク評価を積極的に 伊藤 努 慶應義塾大学医学部外科学(心臓血管)准教授 MMJ. August 2021;17(4):115 末梢神経障害(peripheral neuropathy;PN)は末梢神経に起こる疾患の総称でさまざまな原因や病態による。糖尿病性 PNは原因として最も多く、一方で糖尿病の3大合併症(神経障害、網膜症、腎症)の中でも最も早期に発症し頻度も高いとされる。最近の欧米の横断的研究によると、成人糖尿病患者のPN有病率は6~51%と報告され(1)、1、2型の病型以外にも年齢、糖尿病罹病期間、血糖コントロールの状態などが発症に影響する。日本の糖尿病患者のPN有病率は2008年のデータでは47.1%と報告された。 糖尿病性 PNは多彩で全身性、局所性とあるが、多くは全身性の遠位性対称性多発神経障害と呼ばれる感覚運動神経障害と自律神経障害である。温痛覚や自律神経は小径神経線維であり、触圧覚・運動神経である大径神経線維よりも神経線維脱落障害が優位に先行する。したがって、しびれや痛み、起立性低血圧・神経因性膀胱など自律神経障害も糖尿病初期より出現してくる。糖尿病性 PNの病期が進行すると感覚低下により外傷、炎症に気付かず足病変の発生は著明に上昇する。米国の報告では足潰瘍の推定有病率は6%、糖尿病患者の25%は生涯の中で足潰瘍を発症し、そのうち14~28%が下肢切断を要すと報告され、糖尿病患者においてPNの予防、早期診断、早期治療は重要である。 本研究では、糖尿病が原因ではないPNに着目し、1999~2004年のNational Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)に基づき40歳以上の一般成人7,116人を対象とし、心血管死亡率との関連が評価された。PN有病率は全体で13.5%、糖尿病患者では27.0%、非糖尿病患者では11.6%であった。糖尿病(DM)の有無とPNの有無の組み合わせによる4群で全死亡率(1,000人・年)を比較すると、DM(+)/PN(+)で57.6、DM(-)/PN(+)で34.3、DM(+)/PN(-)で27.1、DM(-)/PN(-)で13.0、同様に心血管死亡率を比較するとそれぞれ、19.7、7.3、7.6、2.4であった。糖尿病患者におけるPNの存在は死亡の危険因子であることはよく知られているが、糖尿病の有無にかかわらず全死亡、心大血管死亡いずれにもPNは関連していると報告した。その理由は明確ではないが、PNは心臓自律神経障害のリスク上昇、あるいは全身性の無症候性微小血管病変の存在を反映している可能性を指摘している。 今回の検討ではPNをモノフィラメントを用いた感覚低下のみで評価していること、原因を例えば中毒性、免疫介在性、ビタミン欠乏など特定できていないこと、PN罹病期間などが明確でないなど今後も検討の余地はあるものの、非糖尿病性患者であってもPNの存在が死亡の独立した危険因子であることを示したという点で興味深い。 1. Hicks CW, et al. Curr Diab Rep. 2019;19(10):86.
変形性膝関節症に用いる段階的運動プログラム 無作為化比較試験
変形性膝関節症に用いる段階的運動プログラム 無作為化比較試験
Stepped Exercise Program for Patients With Knee Osteoarthritis : A Randomized Controlled Trial Ann Intern Med. 2021 Mar;174(3):298-307. doi: 10.7326/M20-4447. Epub 2020 Dec 29. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】変形性膝関節症の運動療法を患者のニーズに応じて効率良く提供するため、科学的根拠に基づいた枠組みが必要である。 【目的】変形性膝関節症患者に用いる段階的運動プログラム(STEP-KOA)を検討すること。 【デザイン】無作為化比較試験(ClinicalTrials.gov、NCT02653768)。 【設定】米国退役軍人省の2施設。 【参加者】症候性変形性膝関節症患者345例(平均年齢60歳、女性15%、有色人種67%)。 【介入】参加者をSTEP-KOA群または対照の関節炎に関する教育(AE)群に2対1の割合で無作為化した。STEP-KOA群では、3カ月間のオンラインの運動プログラム(第1段階)を開始した。第1段階終了時に疼痛および機能改善に関する治療成績の判定基準を満たさなかった参加者が第2段階へと移行し、2週間に1回、3カ月間にわたって電話で運動に関するコーチングを受けた。第2段階終了時に治療成績の判定基準を満たさなかった患者は、来院して対面理学療法を受ける第3段階へと移行した。AE群には2週間に1回、教材を郵送した。 【評価項目】Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)スコアで主要評価項目を評価した。線形混合モデルを用いて、9カ月時のSTEP-KOA群およびAE群のスコアを比較した。 【結果】STEP-KOA群では、65%(230例中150例)が第2段階へ、35%(230例中81例)が第3段階へ進んだ。全対象者の試験開始時の推定WOMACスコアは47.5点(95%CI 45.7-49.2)であった。9カ月の追跡調査時、推定WOMAC平均スコアは、STEP-KOA群の方がAE群より6.8点(同-10.5--3.2点)低く、改善度が大きいことが示された。 【欠点】参加者のほとんどが男性退役軍人であった点、追跡調査が短かった点。 【結論】STEP-KOAを実施した退役軍人に、対照群と比べて変形性膝関節症の症状が中等度の改善が見られた。変形性膝関節症の運動療法を実施する際、STEP-KOAは有効であると思われる。 第一人者の医師による解説 膝運動療法への関心向上のため 効果的戦略の開発にさらなる研究必要 佐々木 正 医療法人社団慶洋会ケイアイクリニック整形外科 MMJ. August 2021;17(4):122 変形性膝関節症(膝 OA)患者の大部分は運動不足であり、理学療法の使用率は大幅に低い。膝 OAに対する運動関連サービスを、患者のニーズに応じて効率的に提供するためにはエビデンスに基づいたモデルの作成が求められる。 本研究は、そのような背景の下、モデルとして、膝 OA患者に対する段階的運動プログラム(STEPKOA)についての調査を目的として行われた。参加者は米国退役軍人の母集団から選出された症候性膝 OA患者345人(平均年齢60歳、女性15%、有色67%)である。参加者は、STEP-KOAまたは膝関節教育(AE)対照群に割り付けられた。STEPKOAの介入は、インターネットベースの3カ月間の運動プログラムから開始(ステップ 1)。ステップ 1後の疼痛および機能の改善に関する応答基準を満たさなかった参加者は、2段階目の3カ月間の運動活動に進んだ(ステップ 2)。ステップ 2以降に応答基準を満たさなかった参加者は、対人理学療法の訪問に進んだ(ステップ 3)。AE群は2週間ごとにメールで教材を受け取った。STEP-KOA群の65%がステップ 2に、35%がステップ 3に進んだ。主要評価項目はWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis index(WOMAC)スコアで評価した。3、6カ月目の応答基準は、WOMACスコアで評価し、OMERACT-OARSIレスポンダー基準のセットを用いた( Outcome Measures in Rheumatology?Osteoarthritis Research Society International)。WOMACは世界的に用いられる膝 OAのQOL indexであるが、日本ではなじみが少ない。WOMACは、下肢の痛み(5項目)、こわばり(2項目)、機能(17項目)をリッカート尺度で評価する。 全サンプルのベースライン WOMACスコアは47.5であった。9カ月後の追跡調査では、STEPKOA群の推定平均 WOMACは、AE群に比べて6.8ポイント低く、緩やかな改善がみられた。結論として、STEP-KOA戦略は膝 OAの運動療法を提供するのに効率的である可能性がある。 本研究の対象集団には、参加者が退役軍人に限られる、男女比が膝 OAの一般的な男女比1:4と大差がある、平均年齢が低いという特徴があり、今回の結果から導かれる結論には限界がある。さらに、参加者のX線写真の評価が含まれていないため、重症度の判定は難しい。ネットベースの運動プログラムの内容の詳述がなく、ウエブのアクセスでは個人差が大きいことも問題である。 参加者の脱落率が25%と高く、参加者が介入に関心がなかった可能性があり、集計の信頼度が下がる。一般に、運動療法に対するモチベーションは高いとはいいがたい。効果的な戦略の開発にはさらなる研究が必要である。
全年齢層に適用可能な血清クレアチニン値に基づく新たな糸球体濾過量推定式の開発および検証 統合データの横断解析
全年齢層に適用可能な血清クレアチニン値に基づく新たな糸球体濾過量推定式の開発および検証 統合データの横断解析
Development and Validation of a Modified Full Age Spectrum Creatinine-Based Equation to Estimate Glomerular Filtration Rate : A Cross-sectional Analysis of Pooled Data Ann Intern Med. 2021 Feb;174(2):183-191. doi: 10.7326/M20-4366. Epub 2020 Nov 10. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】小児用Chronic Kidney Disease in Children Study(CKiD)推定式および成人用Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)推定式は、糸球体濾過量(GFR)推定に推奨される血清クレアチニン(SCr)を基にした計算式である。しかし、いずれの式も、両者を組み合わせたとしても、欠点があり、特に思春期から成人期への移行中にGFRが大幅に変動し、若年成人のGFRが過剰に推定される問題がある。全年齢層対象(FAS)式はこの問題を解決するものであるが、SCr値が低いとGFRを過剰に推定する。 【目的】FASとCKD-EPI式の特徴を組み合わせたSCrに基づく改定FAS式を開発し、検証すること。 【デザイン】開発および検証に別々の統合データを用いた横断解析。 【設定】GFRを測定した研究および臨床試験(13件)。 【参加者】7試験の参加者計1万1251例(開発および内部検証データ)および6試験の参加者計8378例(外部検証データ)。 【評価項目】新たなGFR推定式の開発に、外因性マーカー(参照方式)、SCr値、年齢、性別および身長を用いた。 【結果】新たな推定式、European Kidney Function Consortium(EKFC)式は、全年齢(2~90歳、小児で-1.2 mL/min/1.73m^2[95%CI -2.7~0.0 mL/min/1.73m^2]、成人で-0.9 mL/min/1.73m^2[CI, -1.2~-0.5mL/min/1.73m^2])およびSCr全範囲(40~490µmol/L[0.45~5.54 mg/dL])でバイアスが小さく、CKiD式、CKD-EPI式と比べて30%を超える推定誤差もほとんどなかった(小児で6.5%[CI 3.8~9.1%]、成人で3.1%[CI 2.5~3.6%]。 【欠点】黒人が対象に含まれていない点。 【結論】新たなEKFC式は、広く用いられているSCR値からGFRを推定する式と比べて、正確性および精度が改善した。 第一人者の医師による解説 全年齢層に適用できる推算式 長期にわたる腎機能の経過観察を可能に 後藤 淳郎 医療法人社団永康会 中目黒クリニック院長 MMJ. August 2021;17(4):120 腎機能障害は将来の末期腎不全だけでなく心血管イベントさらには死亡とも関連することから、腎機能は臨床における重要な指標である。主要な腎機能を代表する糸球体濾過量(GFR)の正確な測定は、手技やコストの面から容易ではなく、濾過の指標となるイヌリンなどの外因性物質を体内に投与し複数回採血・採尿を行う必要がある。クレアチニン(Cr)やシスタチン Cなど内因性物質のクリアランスを利用すればGFRを算出できるが、やはり採血・採尿は必要である。そこで、血清クレアチニン値と年齢、性、人種などを組み合わせたGFR推算式が各種考案されて日常臨床で使用されている。わが国では日本人でのイヌリン・クリアランスを基準に作成された式が広く普及し、慢性腎臓病(CKD)の病期分類に利用されている。 一方、世界的には1〜16歳のCKDを有する小児で作成されたChronic disease in Children Study(CKiD)式と健常人なら びにCKDを有する成人で作成されたChronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)式がKidney Disease Improving Global Outcome(KDIGO)のガイドラインで推奨されて広く用いられている。両式ともGFRが過剰に評価される年齢層や対象があり、小児から成人に移行する年齢ではCrはほぼ不変なのにGFRが大きく変動するなどの限界が指摘され、この点を解決すべくfull age spectrum (FAS)式が提案されたが、解決には至っていなかった。 今回 FAS式とCKD-EPI式を組み合わせて、血清Cr値に基づく推算GFR式として発表されたEuropean Kidney Function Consortium(EKFC)式は、CKiD式、CKD-EPI式に比べて、より正確にGFRを推算できることが本論文で示されている。EKFC式は、まず7研究11,251人の個々の成績から導かれ、その妥当性が内部検証された。次に異なる6研究8,378人での成績を用いてさらに検証が加えられた。EKFC式では2〜90歳の年齢を通じて、また0.45〜5.54mg/dLの広範な血清Cr値を通じ標準法による基準値とのバイアスが小さく、30%超の推算誤差がCKiD式、CKD-EPI式に比べて少なく正確度が高まること、さらにEKFC式では小児と成人の境界年齢でもGFR値がスムーズに変化することが確認された。ただし、白人のみの成績であり、黒人など他人種へ適用できるかは問題点として残る。 1つの推算式で小児から青年期さらに壮年期への移行に伴ってeGFR推算がスムーズにできれば確かに長期にわたる腎機能の経過観察が可能となり、全年齢層での疫学調査や腎疾患の長期追跡研究などに役立つことが期待される。
交感神経刺激薬ミドドリン 血管迷走神経性失神予防に有意な効果
交感神経刺激薬ミドドリン 血管迷走神経性失神予防に有意な効果
Midodrine for the Prevention of Vasovagal Syncope : A Randomized Clinical Trial Ann Intern Med. 2021 Oct;174(10):1349-1356. doi: 10.7326/M20-5415. Epub 2021 Aug 3. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】血管迷走神経性失神の再発はよくあることであり、治療への反応も悪く、身体的外傷やQOLの低下を引き起こす。ミドドリンは、血管迷走神経性失神患者におけるティルトテスト時の低血圧および失神を予防する。 【目的】ミドドリンが通常の臨床条件下で血管迷走神経性失神を予防できるかどうかを判断する。 【デザイン】無作為化、二重盲検、プラセボ対照の臨床試験。(ClinicalTrials. gov: NCT01456481)。 【設定】カナダ、米国、メキシコ、英国の25の大学病院。【患者】血管迷走神経性失神を再発し、重篤な併存疾患がない患者。【介入】患者を1対1でプラセボまたはミドドリンにランダムに割り当て、12ヶ月間追跡調査した。 【測定】主要アウトカム指標は、追跡期間中に少なくとも1回の失神エピソードがあった患者の割合とした。 【結果】この試験には、前年度に中央値で6回の失神エピソードがあった133人の患者(年齢中央値32歳、女性73%)が参加した。プラセボ投与群に比べ、ミドドリン投与群では失神が1回以上発生した患者は少なかった(66例中28例[42%] vs 67例中41例[61%])。相対リスクは0.69(95%CI、0.49~0.97、P = 0.035)であった。絶対的なリスクの減少は19%ポイント(CI,2~36%ポイント)であり,1人の患者の失神を防ぐために必要な治療数は5.3(CI,2.8~47.6)であった。最初の失神までの時間はミドドリンで長かった(ハザード比,0.59[CI,0.37~0.96];P = 0.035;log-rank P = 0.031).副作用は両群で同様であった。【LIMITATION】試験規模が小さい、若年で健康な患者、観察期間が比較的短い、1施設の患者の割合が高い。 【結論】ミドドリンは健康で若年で失神の負荷が高い患者の失神の再発を抑制できる。 【主要資金源】The Canadian Institutes of Health Research(カナダ保健研究所)。 第一人者の医師による解説 ミドドリンは保険適応外 待たれる日本人での使用実績の蓄積 柴 信行 国際医療福祉大学医学部循環器内科学教授・国際医療福祉大学病院副院長 MMJ. April 2022;18(2):40 失神は日常診療で頻繁に遭遇する病態である。共通の病態生理は「脳全体の一過性低灌流」であり、最多の原因は血管迷走神経反射などによる神経調節性失神とされ、全体の35 ~ 65%を占める(1)。血管迷走神経性失神は、交感神経抑制による血管拡張と迷走神経緊張による徐脈がさまざまなバランスをもって生じる結果発生するとされ、自律神経調節の関与を背景として、長時間の立位、精神的・肉体的ストレス、環境要因などが誘因となる。併存疾患がなければ一般に生命予後良好だが、転倒による外傷や生活の質の低下などが問題となる。診断は、器質的疾患の除外・特徴的な症状・必要に応じてチルト試験によって行われる。多くの薬物療法が試みられてきたが(2)、クラス I適応となる治療薬はなく、病態に対する十分な理解を前提として、生活習慣の改善を行い、誘因を避け、関連する薬剤の中止を検討し、前駆症状があれば回避法を学ぶといった予防が重要である(1)。 交感神経刺激薬(α1刺激薬)であるミドドリンは末梢血管を収縮させ静脈還流減少を予防し、反射性血管拡張に拮抗して血圧低下を予防する作用があり、日本循環器学会のガイドラインではクラスIIaとして推薦されているが十分なエビデンスはなかった(1)。 本論文は、併存症のない血管迷走神経性失神以外は健常な患者133人を対象とした4カ国多施設共同無作為化試験(POST 4試験)の報告である。対象者はCalgary Syncope Symptom Score(3)が2点以上で、試験開始前1年間に6回(中央値)の失神を経験しており、年齢中央値は32歳であった。試験薬は日中に4時間あけて1日3回投与され、実薬群の最終投与量は中央値で1回7.5mgであった。実薬群において以下の有意な効果が認められた:(1)1回以上の失神を経験した患者の割合の低下(42% 対 61%)、(2)治療必要数(NNT)は5.3、(3)失神再発の相対リスクは0.69。この結果は年齢・性別・失神既往数・心拍数・地域による影響を受けなかったが、収縮期血圧120mmHg超の群では120mmHg以下の群に比べ失神再発の相対リスクが低かった(0.53対 0.92)。著者らは「考察」において、(1)対象者は失神既往の多い患者であるため、軽症者での臨床的意義は高くない可能性があること、(2)高血圧を併存する高齢者には使用が制限されることなどを述べている。 日本ではミドドリンの保険適応病名は本態性低血圧と起立性低血圧であり、通常1日4 mgを2回に分けて経口投与するが、重症の場合は1日8 mgまで増量できる。本剤を含めて、日本人の血管迷走神経性失神治療に関する薬物療法のエビデンスの蓄積が待たれる。 1. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン;失神の診断・治療ガイドライン(2012 年改訂版) 2. Vyas A, et al. Int J Cardiol. 2013;167(5):1906-1911. 3. Sheldon R, et al. Eur Heart J. 2006;27(3):344-350.
SGLT2阻害薬は心不全を抑制するが 大血管症への効果は2次予防例に限られる
SGLT2阻害薬は心不全を抑制するが 大血管症への効果は2次予防例に限られる
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors Versus Glucagon-like Peptide-1 Receptor Agonists and the Risk for Cardiovascular Outcomes in Routine Care Patients With Diabetes Across Categories of Cardiovascular Disease Ann Intern Med. 2021 Nov;174(11):1528-1541. doi: 10.7326/M21-0893. Epub 2021 Sep 28. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害薬とグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1 RA)は、2型糖尿病(T2D)と確立した心血管疾患(CVD)の患者を対象としたプラセボ対照試験で、いずれも心血管ベネフィットを示した。 【目的】SGLT2阻害薬とGLP-1 RAは、CVDを有するT2D患者と有しないCVD患者で差をつけて心血管ベネフィットに関連しているかを評価すること。 【デザイン】人口ベースコホート研究。 【設定】Medicareおよび米国の2つの商業請求データセット(2013年4月から2017年12月)。 【参加者】1:1の傾向スコアマッチしたCVDのある成人T2D患者およびない成人T2D患者(52 901人と133 139人のマッチペア)がSGLT2阻害剤対GLP-1 RA治療を開始。 【測定】主要アウトカムとして心筋梗塞(MI)や脳卒中の入院および心不全(HHF)による入院を挙げた。曝露前の共変量138個をコントロールして1000人年当たりのプールハザード比(HR)および率差(RD)を95%CIで推定した。 【結果】SGLT2阻害薬とGLP-1 RA療法の開始は、CVD患者におけるMIまたは脳卒中のリスクがわずかに低い(HR、0.90 [95% CI, 0.82 to 0.98]; RD, -2.47 [CI, -4.45 to -0.50])が、CVDのない患者では同等のリスク(HR, 1.07 [CI, 0.97 to 1.18]; RD, 0.38 [CI, -0.30 to 1.07])であった。SGLT2阻害薬とGLP-1 RA療法の開始は,CVD患者(HR,0.71 [CI,0.64~0.79]; RD,-4.97 [CI,-6.55~-3.39] )とCVDのない患者(HR, 0.69 [CI,0.56~0.85]; RD, -0.58 [CI, -0.])のベースラインのCVDと関係なくHHFリスク低減に関連していた。 【結論】SGLT2阻害薬とGLP-1製剤の使用は,CVDを有するT2D患者と有しないT2D患者でHHFリスクの一貫した低下と関連していたが,CVDを有する患者の方が絶対的な有益性が高かった。CVDの有無にかかわらず、T2D患者におけるMIや脳卒中のリスクには大きな違いはなかった。 第一人者の医師による解説 実臨床においてGLP-1受容体作動薬との比較がなされたが議論は続く 笹子 敬洋 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科助教 MMJ. April 2022;18(2):42 本論文に発表されたコホート研究は、米国の実臨床データを用いて、2型糖尿病においてNa+ /グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬とグルカゴン様ペプチド -1(GLP-1)受容体作動薬が心血管イベントに及ぼす影響を、組み入れ前12カ月間の心血管イベントの有無(1次予防か2次予防か)で層別化し解析したものである。主要評価項目のうち、心筋梗塞・脳卒中による入院は、GLP-1受容体作動薬と比較し、SGLT2阻害薬によって全体としては抑制されず、2次予防でのみ抑制された。一方、心不全による入院は同薬の投与により、1次・2次予防にかかわらず抑制されたが、絶対リスクの低下幅は1次予防ではわずかであった。 このような実臨床のリアルワールドデータを用いた後ろ向きコホート研究は、前向き臨床試験の課題を補うものとして期待がかけられている。例えば、本研究のような糖尿病治療薬同士の直接比較は、前向きの介入試験では難しいであろう。著者らによれば、心不全に関するSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の直接比較は初めてとのことだが、両剤が腎機能に及ぼす影響については、リアルワールドデータを用いた先行研究が報告されている(1)。 その一方で本研究では、筆者らが以前他の研究について指摘したのと同様(2)、有害事象についての解析がほとんどなされていない。前向き臨床試験であれば効果のみならず安全性にも十分な配慮が求められるが、現状でのリアルワールドデータを用いた解析では必ずしもその限りでないことに留意されたい。例えば先述のような、1次予防におけるSGLT2阻害薬の心不全に対するわずかな効果が、潜在的な有害事象のリスクを上回るかどうかは不明である。 また本研究では、前向き臨床試験において多く用いられるintention-to-treat解析でなく、薬剤の中止・切り替えも考慮したas-treatedアプローチが採用されたが、その結果マッチング後に解析対象となったのは、1次予防で計26万例以上、2次予防でも計10万例以上に上る規模であったにもかかわらず、追跡期間の中央値はわずか約7カ月であった。このようなリアルワールドデータを用いた解析において、薬剤の治療効果を長期的に評価することは必ずしも容易ではないが(2)、それを改めて目の当たりにさせられる結果でもあった。 最後に、著者らも述べているように、この研究の組み入れは2017年までであり、セマグルチドなどのより新しい薬剤が含められていない。SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬との差が今後縮まっていく可能性も考えられるが、それを明らかにするには今しばらく時間がかかりそうである。 1. Xie Y, et al. Diabetes Care. 2020;43(11):2859-2869. 2. Sasako T, et al. Kidney Int. 2022;101(2):222-224.
スウェーデンの関節リウマチ患者におけるTumor Necrosis Factor Inhibitorsと癌の再発。全国規模の人口に基づくコホート研究
スウェーデンの関節リウマチ患者におけるTumor Necrosis Factor Inhibitorsと癌の再発。全国規模の人口に基づくコホート研究
Tumor Necrosis Factor Inhibitors and Cancer Recurrence in Swedish Patients With Rheumatoid Arthritis: A Nationwide Population-Based Cohort Study Ann Intern Med. 2018 Sep 4;169(5):291-299. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】がん既往歴のある患者における腫瘍壊死因子阻害薬(TNFi)の使用は依然として臨床上のジレンマである 【目的】関節リウマチ(RA)におけるTNFi治療ががん再発リスクの増加と関連しているかどうかを検討すること 【デザイン】全国の登録簿のリンケージに基づいた人口ベースのコホート研究。設定]スウェーデン. 【参加者】がんと診断された後、2001年から2015年の間にTNFi治療を開始したRA患者と、生物学的製剤の投与を受けたことのないRAと同一がん歴の患者をマッチングさせた. 【測定法】主要アウトカムはがんの初発再発であった.ハザード比(HR)の推定には、時間、がんの種類、がんが浸潤性かin situか(一部の患者では腫瘍、リンパ節、転移(TNM)分類システムの病期)を考慮した調整済みCox比例ハザードモデルを使用した。 【結果】TNFi治療を開始した患者467人(がん診断後の平均期間、7.9年)のうち、がんの再発は42人(9.0%;追跡調査の平均期間、5.3年)であった;同じがん歴を有する2164人のマッチアップ患者のうち、155人(7.2%;追跡調査の平均期間、4.3年)で再発があった(HR、1.06[95%CI、0.73~1.54])。がんの病期で一致させた患者サブセット、または指標となるがんの診断からTNFi治療開始までの期間が類似している患者サブセットの解析、および一致させていない解析では、ハザード比は1に近かった。 【Limitation】アウトカムアルゴリズムは一部検証されておらず、指標がんの予後が良好な患者ほどTNFi治療を受ける可能性が高い場合、チャネリングバイアスが生じる可能性があった。 【結論】本知見は、TNFi治療がRA患者におけるがん再発リスクの増加とは関連していないことを示唆しているが、有意なリスク増加を完全に排除することはできなかった。主な資金源]ALF(ストックホルム郡議会における保健医療分野の医学教育・研究に関する協定)、スウェーデン癌協会、スウェーデン戦略研究財団、スウェーデン研究評議会。 第一人者の医師による解説 レジストリデータ使用の国家規模コホート研究 エビデンス構築に貢献 岩崎 基 国立がん研究センター社会と健康研究センター疫学研究部部長 MMJ.February 2019;15(1):20 関節リウマチ患者などに対するTNF阻害療法は、その作用機序により悪性腫瘍のリスクが上昇する 可能性が懸念されている。また悪性腫瘍の既往歴・ 治療歴を有する患者がTNF阻害薬を使用した場合の再発リスクへの影響も懸念されている。再発リスクや2次がん罹患リスクとの関連を調べた先行研究は少なく、リスク上昇の報告はない。先行研究 の課題として、TNF阻害療法を受ける患者は進行がん患者が少ないなど再発リスクの低い患者が対象になっていた可能性が指摘されている。そこで、本研究では病期、診断からTNF阻害療法開始までの期間を考慮した解析を実施したが、生物学的製剤非使用群に比べて、統計学的に有意な再発リスクの上昇は観察されなかった。 本研究の方法論上の最大の特徴は、レジストリデータを用いて研究目的に合致した国家規模のコ ホートを構築している点である。本研究では、患者登録、がん登録、処方薬登録などの公的レジストリとリウマチ分野のQuality Registryを用いて、対象者の特定、治療と交絡要因に関する情報の取得、 アウトカムであるがんの再発の把握がなされた。 異なるレジストリをリンケージするために国民に付与された個人識別番号(PIN)が利用された。また、このような登録情報を疫学研究に用いる際には、 その妥当性を明らかにしておくことが重要であるが、患者登録から把握した疾患の妥当性について はすでに数多くの報告がなされている(関節リウマチ患者の陽性反応的中度は約90%)(1)。 スウェーデンの豊富なレジストリを用いて構築されたコホートにおいて、再発リスクの関連要因 を丁寧に調整した結果を示すことができた点は、 本研究の大きな成果である。一方、この規模でも十 分なサンプルサイズとは言えず、リスク上昇の可 能性は否定できない。また、観察研究のため未観察の交絡要因の影響は否定できず、情報がなく考慮できていない要因(治療開始時の病勢、喫煙など)の影響についても留意が必要である。 このように解釈の上で留意が必要ではあるが、 レジストリデータの利活用は、臨床上の疑問に答えるエビデンスの創出という点で大きな可能性を有している。日本においても、このようなレジストリデータなど、いわゆるリアルワールドデータを用いて、質の高い疫学研究が実施できる環境が整備 され、エビデンス構築に貢献できることを期待したい。 1. Ludvigsson JF, et al. BMC Public Health. 2011;11:450. doi:10.1186/1471- 2458-11-450.
心房細動に対する抗凝固療法の臨床的純益に及ぼす脳卒中発症率のばらつきの影響
心房細動に対する抗凝固療法の臨床的純益に及ぼす脳卒中発症率のばらつきの影響
Effect of Variation in Published Stroke Rates on the Net Clinical Benefit of Anticoagulation for Atrial Fibrillation Ann Intern Med. 2018 Oct 16 ;169 (8 ):517 -527 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】抗凝固療法を受けていない非弁膜症性心房細動(AF)患者の脳卒中発症率は、発表された研究によって大きく異なり、その結果、AFにおける抗凝固療法の正味の臨床的利益に与える影響は不明である。 【目的】発表されたAFの脳卒中発症率のばらつきが、抗凝固療法の正味の臨床的利益に与える影響を明らかにする。ワルファリンをベースケースとし,非ビタミンK拮抗薬の経口抗凝固薬(NOAC)を二次解析でモデル化した。 【設定】地域在住の成人。【対象】心房細動を発症した成人33 434人。 【測定】質調整生命年(QALYs)。 【結果】33 434人のうち,CHA2DS2-VASc(うっ血性心不全,高血圧,年齢,糖尿病,脳卒中,血管疾患)のスコアが2以上であったのは27 179人であった。これらの患者に対するワルファリンによる抗凝固療法の人口利益は,ATRIA(AnTicoagulation and Risk Factors In Atrial Fibrillation)試験の脳卒中発生率を用いた場合に最も少なく,Danish National Patient Registryの脳卒中発生率を用いた場合に最も多かった(6290QALYs[95%CI,±2.3%] vs. 24 110QALYs[CI,±1.9%],P<0.001)。抗凝固療法の最適なCHA2DS2-VAScスコアの閾値は、ATRIAの脳卒中率を用いて3以上、スウェーデンのAFコホート研究の脳卒中率を用いて2以上、SPORTIF(Stroke Prevention using ORal Thrombin Inhibitor in atrial Fibrillation)研究の脳卒中率を用いて1以上、デンマークのNational Patient Registryの脳卒中率を用いて0以上であった。NOACによる頭蓋内出血の割合が低いことを考慮すると、CHA2DS2-VAScスコアの最適な閾値は減少したが、これらの閾値はまだ大きく異なっていた。 【Limitation】測定された利益は他の集団に一般化しない可能性がある。 【結論】抗凝固療法を受けていない患者の心房細動による脳卒中発生率の公表値のばらつきは、抗凝固療法の正味の臨床的利益に何倍ものばらつきをもたらしている。ガイドラインは、抗凝固療法を推奨するための現在の脳卒中リスクスコアの閾値の不確実性をよりよく反映すべきである。[主要な資金源]なし。 第一人者の医師による解説 抗凝固療法のNCBを勘案したスコアの日本版推奨閾値の検討必要 矢坂 正弘 国立病院機構九州医療センター脳血管センター部長 MMJ.April 2019;15(2) 抗凝固療法未施行の非弁膜症性心房細動(AF)患者における公表されている脳卒中発症率は研究ごとに大きく異なるが、その変動が抗凝固療法のnet clinical benefit(NCB)に及ぼす影響は明らかにされていない。そこで、著者らは代表的な4つの研究(ATRIA、SPORTIF、Swedish AFコホート研究、 Danish National Patient Registry)から抗凝固療法未施行の非弁膜症性 AF患者における公表されているCHA2DS2 -VAScスコアごとの脳梗塞発症率を調べ、既報の脳梗塞、頭蓋内出血、頭蓋外大出血の発症率などを用い、マルコフモデルを作成し、 質調整生存年(QALY)を指標としたNCBをAF患者33,434人で算出した。4研究間でQALYが異なるか否かを明らかにするとともに、抗凝固療法で最大の益が得られるCHA2DS2 -VAScスコア閾値を求めた(1)。 その結果、CHA2 DS2 -VAScスコア 2以上に 27,179人が該当し、ワルファリンを用いた抗凝固療法のQALYは、ATRIAデータを用いた場合が最も小さく(6,290 QALY;95% CI, ±2.3%)、 Danish National Patient Registryデータを用いた場合が最も大きく(24,110 QALY;95% CI, ±1.9%)、両者で約4倍の差があった(P< 0.001)。ワルファリンによる抗凝固療法のため最適 CHA2DS2 -VAScスコア閾値は、ATRIAを用いると3以上、Swedish AFコホートでは2以上、 SPORTIFで は1以上、Danish National Patient Registryで は0以上であった。直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を 用いた抗凝固療法 のQALYは ATRIAデータを用いた場合が最も小さく(7,080 QALY;95 % CI, ±1.5 %)、Danish National Patient Registryデータを用いた場合が最も大きく(24,770 QALY;95% CI, ±2.0%)、両者 で約4倍の差があった。抗凝固療法のための最適 CHA2DS2 -VAScスコア閾値は、ATRIAを用いる と2以上、Swedish AFコホートやSPORTIFでは 1以上、Danish National Patient Registryでは0 以上となった。著者らは、抗凝固療法未施行の非弁膜症性 AF患者における脳卒中発症率の変動は、抗凝固療法のNCBに影響を及ぼすので、ガイドラインではこの脳梗塞発症率の不確実性をリスク閾値の設定に反映させるべきであると結んでいる。 日本ではAF有病率が米国 の3分の2程度(2)で、 同等のリスクスコアでも脳梗塞発症率は低いと報告されている(3)ことから、日本でもワルファリンやDOACのNCBを勘案したCHADS2スコアや CHA2DS2 -VAScスコアの至適推奨閾値の検討が望まれる。 1. Shah SJ, et al. Ann Intern Med. 2018;169(8):517-527. 2. 日本循環器学会「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013 年改訂版)」 委員会:http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf(2019 年 3 月 4 日閲覧) 3. Suzuki S, et al. Circ J. 2015;79(2):432-438.
血圧低下時の腎臓障害バイオマーカーと慢性腎臓病の発症。ケースコントロール研究
血圧低下時の腎臓障害バイオマーカーと慢性腎臓病の発症。ケースコントロール研究
Kidney Damage Biomarkers and Incident Chronic Kidney Disease During Blood Pressure Reduction: A Case-Control Study Ann Intern Med 2018 Nov 6 ;169 (9 ):610 -618 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】収縮期血圧(SBP)の集中的な低下における慢性腎臓病(CKD)の発症率の上昇が、内在性の腎障害を伴うかどうかは不明である。 【目的】SPRINT(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)のSBP管理集中(120mmHg未満)群と標準(140mmHg未満)群のCKD発症例とマッチドコントロール例、および発症例間での腎障害バイオマーカーの変化を比較することである。 【デザイン】SPRINT内のネステッド症例対照研究 【設定】ベースラインで腎臓病のない成人高血圧患者 【参加者】試験のフォローアップ中にCKDを発症した症例参加者(n=162)(集中群128人、標準群34人)と、CKD発症のない対照者(n=162)で、年齢、性、人種、ベースラインの推定糸球体ろ過率、ランダム化群でマッチさせた 【測定法】腎障害の尿中バイオマーカー9項目をベースラインと1年後に測定した。線形混合効果モデルを用いて1年間のバイオマーカーの変化を推定した。 【結果】ベースライン時の尿中アルブミン、腎障害分子-1、単球性化学誘引蛋白-1の濃度が高いほど、CKD発症のオッズが高いことと有意に関連した(2倍当たりの調整オッズ比。それぞれ、1.50 [95% CI, 1.14 to 1.98], 1.51 [CI, 1.05 to 2.17], および 1.70 [CI, 1.13 to 2.56]).血圧介入1年後、集中治療群のCKD症例参加者は、マッチさせた対照参加者に比べ、アルブミン-クレアチニン比(ACR)、インターロイキン18、抗キチナーゼ3様タンパク質1(YKL-40)、ウロモジュリンが有意に減少していた。標準群の症例に比べ、集中治療群ではACR、β2-マイクログロブリン、α1-マイクログロブリン、YKL-40、ウロモジュリンの減少が有意に大きかった 【Limitation】バイオマーカーの測定はベースラインと1年のみであった。 【結論】SBPを集中的に低下させる設定におけるCKDの発症は、腎障害バイオマーカーのレベルの上昇よりもむしろ低下を伴っており、したがって本質的な障害よりも腎血流の良性変化を反映している可能性がある。 【Primary funding source】National Institute for Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所)、Philippines, Inc. 第一人者の医師による解説 厳格降圧による心血管イベント予防の方向性の正しさを支持 後藤 淳郎 日本赤十字社医療センター腎臓内科/中目黒クリニック院長 MMJ.April 2019;15(2) 最近の高血圧ガイドラインに大きな影響を及ぼしているSPRINT研究の主な成果は標準降圧(収縮 期血圧 SBP<140mmHg)に比べ厳格降圧(SBP <120)により心血管イベント・死亡とも約25% 減少することを示したことである。一方、厳格降圧は慢性腎臓病(CKD)リスクを3倍ほど高めることが示唆されていた。その論文については筆者がすでにコメントしている(1)。 今回の論文は開始時のCKD非該当症例で厳格降圧によって観察されたeGFR減少が実際の腎障害 を反映しているのかどうかを開始時と1年後で腎障害マーカー 9種類の尿中濃度を測定することで検討した。開始後にCKDを発症した162人(厳格 降圧群128人、標準降圧群34人)と年齢、性、人種、 開始時 eGFR、降圧群をマッチさせたCKD非発症 例162人を対象とした症例対照研究である。腎障害マーカーは主に糸球体障害を示す尿アルブミン /クレアチニン(ACR)、尿細管障害を示すインター ロイキン -18・kidney injury molecule 1(KIM-1)・ 好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)・ monocyte chemoattractant protein-1(MCP1)、尿細管障害・修復を示す抗キチナーゼ 3様蛋 白(YKL-40)、近位尿細管機能異常を示す β2 -ミ クログロブリン(β2M)・α1 -ミクログロブリン (α1M)およびヘンレループ蛋白産生を示すウロモジュリンである。 結果、開始時のACR、KIM-1、MCP-1が高値なほどCKD発症リスクが高く、厳格降圧群のCKD発症例ではCKD非発症例に比べて開始後にACR、YKL40、ウロモジュリンの低下が著明であり、標準降圧群 のCKD発症例 に比べてACR、β2M、α1M、 YKL-40、ウロモジュリンの低下が明らかであった。 以上の結果は厳格降圧で腎障害マーカーは上昇せず、むしろ低下していることを明瞭に示しており、厳格降圧で実際に腎障害が生じたとは考え難い。 厳格降圧でのeGFR減少は主に全身血圧低下に伴って腎血流量が減少したためであると考えるのが妥当である。通常、腎循環自己調節能の範囲内の降圧であれば腎血流量も維持されるが、高血圧患者では自己調節能が上方にシフトしているので、血圧低下に伴う腎血流量減少も目立ちやすい。   CKD発症例では降圧群を問わず開始時 SBPが高く、厳格降圧群のCKD発症例では開始後の必要 な降圧薬数が多かった。また厳格降圧群では降圧度 が大きいほどCKD発症率が高かった(2)。これらも 降圧に伴う血行動態の変化がeGFR減少に大きく関与していることを支持する。 以上から高血圧治療では厳格降圧によって心血管イベント・全死亡を予防・阻止する方向性が正しいことが支持されたと言える。 1. MMJ 2018;14(2):54-55. 2. Magriço R, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2018;13(1):73-80.
妊娠中のβ-ブロッカー使用と先天性奇形のリスク。国際コホート研究
妊娠中のβ-ブロッカー使用と先天性奇形のリスク。国際コホート研究
β-Blocker Use in Pregnancy and the Risk for Congenital Malformations: An International Cohort Study Ann Intern Med 2018 Nov 20 ;169 (10 ):665 -673 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】β-ブロッカーは、妊娠中によく使用される降圧薬の一種である。 【目的】β-ブロッカーへの第1期曝露に関連する主要な先天奇形のリスクを推定する。 【デザイン】コホート研究 【設定】北欧5か国の健康登録および米国のメディケイドデータベース 【患者】高血圧の診断を受けた妊婦およびその子孫。 【測定】ベータブロッカーの第1期への曝露が評価された。アウトカムは、主要な先天性奇形、心奇形、唇裂または口蓋裂、中枢神経系(CNS)奇形とした。 【結果】北欧コホートでは高血圧性妊娠の女性3577人,米国コホートでは14900人のうち,それぞれ682人(19.1%),1668人(11.2%)が第1期にβブロッカーに曝露されていた。β遮断薬に関連するプールされた調整相対リスク(RR)および1000人曝露あたりのリスク差(RD1000)は、1.07(95%CI、0.89から1.30)および3.0(CI、-6.6から12.6)であった。6)、心奇形では1.12(CI, 0.83~1.51) と2.1(CI, -4.3~8.4) 、唇裂または口蓋裂では1.97(CI, 0.74~5.25) と1.0(CI, -0.9~3.0) であった。中枢神経系奇形については,調整済みRRは1.37(CI,0.58~3.25),RD1000は1.0(CI,-2.0~4.0)であった(米国のコホートデータのみによる) 【Limitation】解析対象が生児に限られており,曝露が調剤に基づいており,唇または口蓋裂と中枢神経系奇形はアウトカム数が少ないことが示された。 【結論】母親の妊娠第1期におけるβ遮断薬の使用は、測定された交絡因子とは無関係に、奇形全体や心奇形のリスクの大きな上昇と関連しないことが示唆された。 【Primary funding source】Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human DevelopmentおよびSöderström König Foundation。 第一人者の医師による解説 大規模データによる国際コホート研究ならではの重要な知見 犬塚 亮 東京大学医学部附属病院小児科講師(外来医長) MMJ.April 2019;15(2) 高血圧合併妊娠の頻度は全妊婦の0.5~5%とされるが(1)、加重型妊娠高血圧腎症・常位胎盤早期 剥離・早産・胎児発育不全の増加などのさまざまな周産期リスクと関連することが知られているため、 適切な降圧薬治療により高血圧の重症化を防止することが重要である。β遮断薬は、Ca拮抗薬やメチルドパと並び妊娠中に使用される頻度が高い降圧薬であるが、妊婦への投与に関する安全性のデータはまだ十分でない。 妊娠中のβ遮断薬投与の影響に関して、現在得られているヒトのデータの多くは観察研究によるもので、β遮断薬への曝露の有無でリスクを比較すると、高血圧などの背景疾患の有病率が異なるため、 β遮断薬の投与による影響と背景疾患の違いによる影響を区別することができない。特に著者らの先行研究において、高血圧の合併自体が先天奇形のリスク上昇に関係することが示されており、β遮断薬への曝露の影響を知るためには、「高血圧」と いう交絡因子を除く必要がある。 本研究は、高血圧合併妊婦 を対象にした 北欧・ 米国6カ国の国際コホート研究である。北欧では 3,577人中682人(19.1%)、米国では14,900 人中1,668人(11.2%)で妊娠第1期にβ遮断薬 が使用されていた。β遮断薬投与群と降圧薬無投与 群で傾向スコアを用いてマッチングして比較したところ、先天奇形全般、先天性心疾患、口唇口蓋裂、 中枢神経異常のいずれの発生率においても、有意差を認めなかった。 本研究では、大規模データを用いることで、高血圧合併妊娠のみを解析対象とすることができ、重 要な交絡因子である「高血圧」の有無に関して、2群 の背景をそろえることができている。また、傾向スコアを用いることで、β遮断薬を実際に使用された群と、使用されてもおかしくなかった(が実際に は投与されなかった)群を比較することで、その他の背景因子についても補正している。医療習慣の 異なる北欧と米国で同様の結果が得られたことも 研究結果の正しさを支持している。一方で、研究の限界として、収集されていない背景因子については補正ができていないこと、妊娠中のβ遮断薬の使用に関して臨床的により問題になる胎児発育不全に関する解析が行われていないこと、などが挙げられる。しかし、本研究の結果は倫理的にランダム化比較試験を行うことが困難である妊娠という状況において、β遮断薬の安全性を支持する非常に重要な知見である。 1. 妊娠高血圧症候群の診療指針 2015̶Best Practice Guide̶日本妊娠高血圧学会
原発性皮膚基底細胞癌の治療法。システマティックレビューとネットワークメタ分析。
原発性皮膚基底細胞癌の治療法。システマティックレビューとネットワークメタ分析。
Treatments of Primary Basal Cell Carcinoma of the Skin: A Systematic Review and Network Meta-analysis Ann Intern Med 2018 Oct 2;169(7):456-466. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】基底細胞癌(BCC)に対するほとんどの介入は、ヘッドツーヘッド無作為化試験で比較されていない。 【目的】成人における原発性BCCの治療法の有効性と安全性を比較評価する。 【データ入手元】開始時から2018年5月までMEDLINE、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cochrane Database of Systematic Reviews、Embaseの英語検索、ガイドラインやシステマティックレビューの文献リスト、ClinicalTrialsの検索を実施した。govを2016年8月に実施。 【研究選択】成人の原発性BCCに現在使用されている治療法の比較試験。 【データ抽出】1名の治験責任者が再発、組織学的クリアランス、臨床的クリアランス、美容的アウトカム、QOL、死亡率のデータを抽出し、2名のレビューアが抽出結果を検証した。複数の研究者が各研究のバイアスリスクを評価した。 【データ統合】無作為化試験40件と非無作為化試験5件で、9カテゴリー18件の介入を比較した。相対的な介入効果および平均アウトカム頻度は、Frequentist Network Meta-Analysesを用いて推定された。推定再発率は、切除(3.8% [95% CI, 1.5% ~ 9.5%])、モース手術(3.8% [CI, 0.7% ~ 18.2%])、掻爬およびジアテルミー(6.9% [CI, 0.9% ~ 36.6%])、外部ビーム照射(3.5% [CI, 0.7% ~ 16.8%])とほぼ同じであった。再発率は、凍結療法(22.3%[CI、10.2%~42.0%])、掻爬および凍結療法(19.9%[CI、4.6%~56.1%])、5-フルオロウラシル(18.8%[CI、10.1%~32.5%])、イミキモド(14.1%[CI、5.4%~32.4%])、およびメチル-アミノレブリン酸(18.8%[CI、10.1%~32.5%])またはアミノレブリン酸を用いた光力学療法(16.6%[CI、7.5%~32.8%])であった。美容上の良好な転帰を報告する患者の割合は、切除術(77.8%[CI, 44.8%~93.8%]) または凍結療法(51.1%[CI, 15.8%~85.4%]) に比べて、メチルアミノレブリン酸を用いた光力学的療法(93.8%[CI, 79.2%~98.3%] )またはアミノレブリン酸(95.8%[ CI, 84.2%~99.0%] )が良好であった。QOLおよび死亡率に関するデータは、定量的な統合には不十分であった。 【Limitation】データは不十分であり、効果の推定は不正確で、間接的な比較に基づく。 【結論】外科的治療および外部照射は、低リスクのBCCの治療において低い再発率を有するが、他の治療に対する比較効果についてはかなりの不確実性が存在する。高リスクのBCC亜型および費用などの重要なアウトカムに関してはギャップが残っている。 【Primary funding source】Agency for Healthcare Research and Quality.(プロスペロー:Crd42016043353)。 第一人者の医師による解説 基底細胞がんの標準治療は切除 日本ではさらなる切除範囲縮小が可能か 中村 泰大 埼玉医科大学国際医療センター皮膚腫瘍科・皮膚科教授 MMJ.April 2019;15(2) 基底細胞がんは多種ある皮膚がんの中でも世界中で最も発生数の多い皮膚がんである。基底細胞 がんの大半は小型で、局所のみで増殖し転移することはまれであるため、局所での腫瘍根絶ができれば生命予後良好である。しかし顔面を中心とした頭頸部に多く発生するため、腫瘍を根絶する治療介入の手段によっては、整容・機能面を損ねる場合がある。 現在基底細胞がんの治療は手術による切除が世界的にも標準治療と考えられている。しかし、切除以外にも凍結療法、掻爬、焼灼、光線力学的療法、レー ザー、放射線療法、5-フルオロウラシル軟膏など複数の治療があり、ランダム化比較試験などにより これら複数の治療介入の効果をすべて直接比較で きているわけではない。 本論文では基底細胞がんの個々の治療介入の効果を比較するために、これまでの臨床試験に関する文献をMEDLINE、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cochrane Database of Systematic ReviewsおよびEMBASEを用いて抽出し、18種類の治療介入を取り扱った40件のランダム化比較試験と5件の非ランダム化試験を対象に、相対的介入効果と効果の中央値をネットワークメタアナリシスにより推定した。推定局所再発率中央値は切除(3.8%)、Mohs手術(3.8%)、 外科的掻爬+焼灼(6.9%)、放射線療法(3.5%)が低 く、凍結療法(22.3%)、外科的掻爬+凍結療法 (19.9%)、5-フルオロウラシル軟膏(18.8%)、 イミキモドクリーム(14.1%)、光線力学的療法 (16.6%)で高かった。一方、本解析の限界として、 いくつかの患者条件や治療条件では母集団が少ない、あるいは解析されていないなどでエビデンスが乏しいこと、今回抽出された文献の効果推定値には不精確さがあり、直接比較ではないことにも留意する必要がある。また、高リスク基底細胞がんに対する治療介入については検討されていない。 今回の結果は米国における低リスク基底細胞がんに対する切除と放射線療法のエビデンスを再認識したものと言える。現在、日本における低リスク基底細胞がんの標準治療も切除であり、米国、日本ともに現行のガイドラインにおける側方切除範囲は4mmとされている。一方、日本人は白人と異なり色素性基底細胞がんが多く、病変境界が白人に比べ明瞭であるため切除範囲をさらに縮小できる可能性が高い。今後日本人を対象にした切除範囲縮小に関する臨床試験の施行が望まれる。
はしか、おたふくかぜ、風疹のワクチン接種と自閉症。全国規模のコホート研究。
はしか、おたふくかぜ、風疹のワクチン接種と自閉症。全国規模のコホート研究。
Measles, Mumps, Rubella Vaccination and Autism: A Nationwide Cohort Study Ann Intern Med. 2019 Apr 16;170(8):513-520. doi: 10.7326/M18-2101. Epub 2019 Mar 5. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】麻疹・おたふくかぜ・風疹(MMR)ワクチンと自閉症との関連性の仮説は、引き続き懸念を引き起こし、ワクチン接種を困難にしている。 【目的】MMRワクチンが、子ども、子どものサブグループ、接種後の時間帯で自閉症のリスクを高めるかどうかを評価する。 【デザイン】全国規模のコホート研究。 【設定】デンマーク。 【参加者】1999年から2010年12月31日までにデンマークで生まれた657 461人の小児を対象とし、1歳以降2013年8月31日まで追跡調査を行った。 測定 【方法】デンマークの人口登録を用い、MMRワクチン接種、自閉症診断、他の小児ワクチン、自閉症の兄弟歴、自閉症危険因子に関する情報をコホート内の小児と関連づけた。Cox比例ハザード回帰を用いた自閉症診断までの期間の生存分析により,年齢,出生年,性別,他の小児用ワクチン,兄弟の自閉症歴,自閉症リスク因子(疾患リスクスコアに基づく)を調整し,MMRワクチン接種状況に応じた自閉症のハザード比を推定した。 【結果】5025 754人年の追跡期間に,6517名が自閉症と診断された(発生率,10万人年当たり129.7名分)。MMRワクチン接種児とMMRワクチン非接種児を比較すると、完全調整済み自閉症ハザード比は0.93(95%CI、0.85~1.02)であった。同様に、自閉症の兄弟歴、自閉症リスク因子(疾患リスクスコアに基づく)、他の小児予防接種、または接種後の特定の期間によって定義された小児のサブグループにおいても、MMR接種後の自閉症リスクの増加は一貫して認められなかった。 【限定】個々の医療カルテのレビューは行わなかった。 【結論】本研究は、MMR接種が自閉症リスクを増加させず、感受性児の自閉症を誘発せず、接種後の自閉症例の集積と関連がないことを強く支持するものであった。統計的検出力を高め、感受性の高いサブグループと症例の集積の仮説に取り組むことで、これまでの研究に新たな一歩を踏み出すことができた。 第一人者の医師による解説 大規模コホートで示された 臨床的に非常に重要な知見 宇野 洋太 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神疾患病態研究部室長 MMJ.June 2019;15(3) 本研究の目的は、麻疹・ムンプス・風疹(MMR) ワクチンと自閉症発症の関係を調べることである。 MMRと 自閉症発症 の 関係 は、1998年 にLancet 誌に掲載され、後に取り下げとなった論文に端を発した仮説である。その後、2014年にはワクチン 接種と自閉症発症の関係を調べたメタアナリシス が発表された。解析に採用されたMMRと自閉症の 関係を調査した研究(2編のコホート研究および4 編の症例対照研究)はすべて両者が無関係であることを報告しており、当然メタアナリシスの結果 も同様であった。さらにその後、2編の研究(1),(2)が報告されているが、そのいずれも同様の結果を述べている。つまり最初の仮説が提唱された後、今日に至るまでの20年以上の間、主要な観察研究のいずれにおいてもMMR接種後、自閉症発症リスクの上昇がみられることを示したものはない。それにもかかわらず、この仮説への懸念やワクチン接種への抵抗感は十分払拭されたとはいえないため本研究が実施されるに至った。 本研究ではデンマークの全国コホートを用い、 1999~2010年に生まれた子ども657,461人 を1歳から2013年8月31日まで、自閉症の診断、 MMRを含むワクチンの接種歴、自閉症の同胞(兄 弟姉妹)歴などに関して調べた。 観察されたのは5,025,754人・年で、6,517 人が自閉症と診断された。MMR非接種児と比較し、 MMR接種児における自閉症の補正ハザード比は 0.93(95%信頼区間[CI], 0.85~1.02)であった。 その他、同胞歴、自閉症の危険因子、他のワクチン 接種歴、ワクチン接種から診断に至るまでの期間などを考慮したサブグループでも同様の結果であった。つまり本研究もMMRの接種が自閉症発症のリスクを上昇させないというこれまでの先行研究の結果を強く支持するものであった。 本論文の仮説となっているLancet誌に掲載された論文は、方法論的、また倫理的な問題から取り下げとなり、その筆者は医師免許剥奪となっている。 さらに日本を含む世界各国で広く観察研究、また動物を使っての介入研究も実施されたが、いずれにおいてもネガティブな結果が示されている。つまり科学的に仮説としてすら成立していないわけであるが、それが発展し、MMRのみならずチメロサール含有ワクチン、混合ワクチン、生後早期のワクチン接種などと自閉症発症リスクの問題が都市 伝説的に不安視され、それに基づく除去療法なども行われている現状がある。著者の述べる通り、これらの不安に対し引き続き科学的根拠を示すことが必要で、臨床的に非常に重要な知見が本論文によってさらに重ねられた。 1. Jain A, et al.JAMA. 2015;313(15):1534-1540.(MMJ, February 2016;12, 1: 40-41) 2. Uno Y, et al.Vaccine. 2015;33(21):2511-2516.
心不全患者における心房細動のカテーテルアブレーション。無作為化対照試験のメタアナリシス。
心不全患者における心房細動のカテーテルアブレーション。無作為化対照試験のメタアナリシス。
Catheter Ablation of Atrial Fibrillation in Patients With Heart Failure: A Meta-analysis of Randomized Controlled Trials Ann Intern Med 2019 Jan 1 ;170 (1):41 -50. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 この記事は訂正されました。原著(PDF)はSupplementとして本論文に添付されています。 【背景】心房細動(AF)と心不全(HF)はしばしば併存し、罹患率と死亡率のリスク上昇と関連している。 【目的】成人AFおよびHF患者において、カテーテルアブレーションと薬剤治療の有益性と有害性を比較することである。 【データ入手元】ClinicalTrials. gov、PubMed、Web of Science(Clarivate Analytics)、EBSCO Information Services、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Google Scholar、2005年1月1日から2018年10月1日までの各種学術会議セッションを対象とする。 【研究選択】英語で発表された、少なくとも6ヶ月のフォローアップがあり、成人の心房細動とHFにおけるカテーテルアブレーションと薬物療法の臨床転帰を比較した無作為化対照試験(RCT)。 【データ抽出】研究者2名が独立してデータを抽出し、研究の質を評価。 [Data Synthesis] 775例を含むRCT 6例が包括基準に合致した。薬物療法と比較して、心房細動アブレーションは全死亡(9.0% vs. 17.6%;リスク比[RR], 0.52[95% CI, 0.33~0.81]) およびHF入院(16.4% vs. 27.6%; RR, 0.60[CI, 0.39~0.93]) を減少させた。アブレーションにより,左室駆出率(LVEF)(平均差,6.95%[CI,3.0%~10.9%]),6分間歩行試験距離(平均差,20.93 m[CI,5.91~35.95 m]),ピーク酸素消費量(Vo2max)(平均差,3.95%[CI])が改善された.17 mL/kg/分[CI, 1.26~5.07 mL/kg/分])、QOL(Minnesota Living with Heart Failure Questionnaireスコアの平均差、-9.02点[CI, -19.75~1.71 点])であることがわかりました。重篤な有害事象はアブレーション群でより多かったが、アブレーション群と薬物療法群の差は統計的に有意ではなかった(7.2% vs 3.8%;RR、1.68 [CI, 0.58~4.85])[Limitation]Results driven primarily by 1 clinical trial, possible patient selection bias in the ablation group, lack of patient-level data, open-label trial design, and heterogeneous follow-up length among trials. 【結論】カテーテルアブレーションは、全死亡、HF入院、LVEF、6分間歩行試験距離、Vo2max、QOLの改善において従来の薬物療法より優れており、重篤な有害事象は統計的に有意に増加しなかった。 【Primary funding source】該当なし。 第一人者の医師による解説 RCTが4件進行中 アブレーション効果がより明確になることを期待 井上 博 富山県済生会富山病院顧問 MMJ.June 2019;15(3) 心房細動は、自覚症状、心臓ポンプ機能の低下、 心原性塞栓症、生命予後の悪化など、さまざまな不利益をもたらす。そこで、心房細動を抗不整脈薬で抑制(リズムコントロール)すれば、心拍数をコントロールするだけの治療(レートコントロール)に 比べメリットが得られるのではないかという仮説を検証するために、1990年代後半にいくつかの比較試験が行われた(例、AFFIRM(1))。しかし、いずれの試験でも治療効果の差は認められなかった。抗不整脈薬のもつ悪影響(心機能抑制、催不整脈作用)が原因と考えられた。心不全は心房細動を誘発し、 心房細動は心機能を抑制するという悪循環が形成される。また抗不整脈薬は心不全では使用しにくいという限界がある。心房細動に対するカテーテル・ アブレーションの有効性(洞調律維持効果)が確立されて以来、心不全を対象とした小規模な無作為比較試験(RCT)で、アブレーションが薬物療法に比べ心機能改善効果に優れ生命予後も良いことが示された。 そこで、本研究では心不全を合併した心房細動に対するアブレーションの効果を薬物療法(リズム、 レートコントロール)と比較したRCT 6件を対象にメタアナリシスを行った。結果、アブレーション群では薬物療法群に比べ、全死亡や心不全による入院の減少、左室駆出率や6分間歩行距離、QOLスコアの改善が認められた。 本研究はRCTのメタアナリシスを用いており、 方法論的にはエビデンスレベルは最高位にある。 しかしながら、患者数は全体で775人に過ぎず、1 試験当たりの人数も50~363人とばらつきが大きい。心不全による入院や左室駆出率、6分間歩行 距離の評価対象は500人余りかそれ以下で十分は言えない。さらにメタアナリシス全体の結果が最大の患者数をもつ1つの試験に大きく影響されていることにも注意が必要である。 心不全に限らず心房細動アブレーションの効果を検討したスウェーデンのコホート研究(対象 5,000人)では、薬物療法に比べてアブレーションは全死亡を抑制している(2)。最近のRCT(対象約 2,000人 )の結果でも、実際にその治療を受けた患者対象の解析において、アブレーションは薬物療 法に比べ死亡率を有意に抑制した(3)。 高周波エネルギーを用いた古典的な心房細動アブレーションに加えて、冷凍アブレーションやレーザーアブレーションといった新たな手技も導入されつつある。さらに心不全を合併した心房細動に対するアブレーションの効果を検討するRCTが4 件進行中である。近い将来、アブレーションの位置付けはより明確になることが期待される。 1. AFFIRM Investigators. N Engl J Med. 2002;347(23):1825-1833. 2. Friberg L, et al. Eur Heart J. 2016;37(31):2478-2487. 3. Packer DL, et al. JAMA. 2019;321(13):1261-1274.
肺塞栓症の救急外来患者に対する安全な外来管理の増加。プラグマティックな対照試験。
肺塞栓症の救急外来患者に対する安全な外来管理の増加。プラグマティックな対照試験。
Increasing Safe Outpatient Management of Emergency Department Patients With Pulmonary Embolism: A Controlled Pragmatic Trial Ann Intern Med 2018 Dec 18 ;169 (12):855 -865 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】救急部(ED)で急性肺塞栓症(PE)を発症した低リスク患者の多くは、外来診療が可能であるにもかかわらず、入院している。在宅退院の阻害要因の一つは、どの患者が安全に入院を見送ることができるかを特定することの難しさである。 【目的】急性肺塞栓症患者のケア現場でのリスク層別化と意思決定を促進する統合電子臨床判断支援システム(CDSS)の効果を評価する。 【デザイン】対照的プラグマティック試験である。(ClinicalTrials. gov: NCT03601676)。 【設定】統合医療提供システム(Kaiser Permanente Northern California)の地域ED全21施設。 【患者】急性PEを有する成人ED患者。【Intervention】便宜上選択した10施設の介入施設で、16か月の試験期間の9か月目(2014年1月から2015年4月)に多角的な技術・教育介入を行い、残りの11施設を同時対照として使用。 【測定法】主要アウトカムとしてEDまたはEDに基づく短期(24時間未満)外来観察ユニットからの自宅退院を挙げた。有害事象は、5日以内のPE関連症状による再診、30日以内の静脈血栓塞栓症の再発、大出血、全死因死亡であった。 【結果】介入施設でPEと診断された適格患者881名と対照施設822名において、介入施設では調整後の自宅退院が増加したが(介入前17.4%、介入後28.0%)、対照施設では同時に増加せず(介入前15.1%、介入後14.5%)、差分法にて比較した。差分比較では11.3%ポイント(95%CI、3.0~19.5%ポイント、P = 0.007)であった。CDSSの導入に伴うPEに関連した5日間の再診や30日間の主要な有害転帰の増加は認められなかった。 【結論】急性PEを有するED患者に対する医療現場の意思決定を医師が支援するCDSSの導入と構造的な推進により、外来管理が安全に増加した。 【Primary funding source】Garfield Memorial National Research FundとThe Permanente Medical Group Delivery Science and Physician Researcher Programsを基に作成。 第一人者の医師による解説 妥当な結論 ガイドラインの内容に保証を与える有意義な研究 佐藤 徹 杏林大学病院循環器内科教授 MMJ.June 2019;15(3) 本論文は、世界中のガイドラインで使用されている急性肺塞栓症の重症度指標(Pulmonary Embolism Severity Index;PESI)スコアが 低値で在宅治療の除外項目に該当しない患者を入院させずに在宅治療とするデジタル判定戦略(integrated electronic clinical decision support system;CDSS)の妥当性と安全性を検討したeSPEED試験の報告である。米国の21の 一般病院で前向きに、CDSSを使う病院と使わない病院、使う前と後で比較しており、結論はCDSSを使用した方が在宅治療の割合が高く、安全性は変わらなかった、というものである。 PESIは10の臨床的特徴とバイタルサインからなり、その合計得点によりⅠ~Ⅴに重症度が分類され、ⅠとIIで在宅治療が推奨される。介入前8カ 月の 観察期間の後、16カ 月 のCDSSによる 技術的・教育的介入期間があり、介入後8カ月の観察期間が設けられている。11病院がCDSSを使用し、10病院が使用していない。使用した病院はCDSS を病院内で推進できる指導者がいる病院としており、無作為に決められたものではない。使用した病院の患者の方が結果的にやや軽症であった。介入群881人、対照群822人の患者が対象となり、 在宅治療を受けた割合は前者で17.4%、後者が 15.1%であったが、前者の在宅治療達成率は介入 期間後に28%へと有意に上昇した。5日以内の再入院が介入群で介入前9人、介入後8人、対照群でそれぞれ6人と3人で、1カ月以内の有害事象も両群とも1人とわずかであった。 CDSSを使うかどうかは担当医師がこのアルゴリズムにアクセスするかどうかで決まり、実際3 分の2の患者で使用されていた。判定は「在宅/入院を推奨する」という形で提示され、最終決定は主治医が行うようになっている。このシステムの教育と使用率向上のために複数の手段が講じられおり、多施設研究ながら細かいところまで方法の均一性が図られている。 筆者の評価は、結果については先行研究(1)のとおりでPESIが低値で除外項目を考慮すれば在宅治療で構わないという結論は妥当であり、ガイドラインの内容に保証を与える有意義な研究と考える。 それにしても、治療法の有効性に関する前向き試験の施行能力は欧米とますます差がついていると感じ、新しい治療法の試験施設として日本が一層避けられる現状をみると寂しくなる。欧米への追従がすべて正しいとは言えないが、新しい治療法の エビデンス作りは日本でも必要なものと私は思う。 1. Vinson DR, et al. Appl Clin Inform. 2015;6(2):318-333.
クローン病における標準インフリキシマブとバイオシミラーの有効性・安全性。フランスにおける同等性試験
クローン病における標準インフリキシマブとバイオシミラーの有効性・安全性。フランスにおける同等性試験
Effectiveness and Safety of Reference Infliximab and Biosimilar in Crohn Disease: A French Equivalence Study Ann Intern Med 2019 Jan 15 ;170 (2 ):99 -107 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】CT-P13は、一部の炎症性関節炎に対する有効性と安全性が確認されたリファレンス製品(RP)であるインフリキシマブのバイオシミラーである。それに基づいてクローン病(CD)の治療薬として承認されたが、CDにおける効果を検討する特別な試験は行われていない。 【目的】インフリキシマブ未使用のCD患者におけるCT-P13とRPの有効性と安全性を比較する。 【デザイン】比較同等コホート試験。 【設定】フランス全国の健康行政データベースSynds(Système National des Données de Santé)(2015年3月1日から2017年6月30日)。[患者]15歳以上で、RP(n=2551)またはCT-P13(n=2499)による治療を開始し、他にインフリキシマブの適応がないCD患者5050例。 【測定】主要評価項目は、死亡、CD関連手術、全原因入院、他の生物学的療法の払い戻しによる複合エンドポイントとした。同等性は、多変量限界CoxモデルにおけるCT-P13とRPのハザード比(HR)の95%CIが事前に指定したマージン(0.80~1.25)内に位置することと定義した。 【結果】全体で、RP群1147例とCT-P13群952例が複合エンドポイントを達成した(それぞれ838例と719例の入院を含む)。主要評価項目の多変量解析では、CT-P13はRPと同等であった(HR、0.92[95%CI、0.85~0.99])。安全性アウトカムでは、重篤な感染症(HR、0.82[CI、0.61~1.11])、結核(HR、1.10[CI、0.36~3.34])、固体または血液がん(HR、0.66[CI、0.33~1.32])は2群間差なしとされた。 【Limitation】SNDSには、関連するすべての臨床データ(例えば、疾患活動性)が含まれていない。 【結論】このリアルワールドデータの解析は、インフリキシマブ未使用のCD患者に対するCT-P13の有効性がRPの有効性と同等であることを示すものであった。安全性については差が認められなかった。 第一人者の医師による解説 バイオシミラーの普及 医療費縮小に寄与 日本人での研究に期待 日比 紀文 北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター特任教授 MMJ.June 2019;15(3) 炎症性腸疾患(IBD)と総称される潰瘍性大腸炎およびクローン病(CD)は、以前日本では希少な難治性疾患であったが、現在の患者数は両疾患合わせて27万人超と一般的な疾患となった。根本治療はなく、治療の中心は炎症抑制に加え免疫異常の是正で、寛解導入療法に加え長期の寛解維持療法が求められる(1)。生物学的製剤抗 TNF-α抗体は、慢性炎症性疾患治療のパラダイムシフトを起こしたが、高分子のため低分子ジェネリック薬のような同等な抗体製剤の作製は困難とされていた。しかし技術進歩により、抗体製剤でもオリジナル製品とほとんど違いのないバイオシミラーが実現し、種々の分野で応用されている。IBDでの抗 TNF-α抗体バ イオシミラーは、関節リウマチの臨床試験(2)から外挿されたもので、IBDにおける同等性/同質性に関する本格的な臨床試験はなかった。 本論文は、フランスの全国的な健康行政データベース(SNDS)を用いて、CDにおける有効性と安全性について抗 TNF-α抗体バイオシミラー(CTP13;患者952人)と同オリジナル製品(インフリ キシマブ;1,147人)を比較したコホート研究の報告である。有効性の主要評価項目「死亡・CD関連 手術・入院・他の生物学的製剤の払い戻し」について多変量解析で差がなく、安全性についても「重症 感染症・結核・固形/血液悪性腫瘍」で差はなく、リアルワールドでの成績として両者の同等性を証明した貴重な報告である。 一方、本研究は詳細な臨床データに欠け、選択基準がまったく偏っていないわけではないことから、 ランダム化二重盲検試験が求められる。最近、国際的なランダム化二重盲検試験の結果が報告され(3)、 6週での寛解導入において差はなく、30週後にオリジナル製品継続またはバイオシミラーへのスイッチ、バイオシミラー継続またはオリジナル製品へスイッチの4群でも治療効果に差がなかった。安全性の差もなく、同等性が裏付けられた。 生物学的製剤は今後も使用が増加する傾向にあるが、価格が高価であることより医療経済的には問題視されている。同等性をもつバイオシミラーの普及は医療費の縮小に寄与することが考えられ、今後大いに期待される。IBDでもすでに北欧や英国を中心に欧州の多くの国でバイオシミラーが汎用されるようになってきている。 一方、日本ではIBDに対して医療費支援があり、 バイオシミラー使用による患者側および医療提供側への利点が少なく、現状では欧米に比べてどれだけ利用されうるか判然としていない。しかし、厚生労働省でもジェネリック薬と同様に今後バイオシミラー使用を勧めており、日本人でのオリジナル製品との同等性が証明されれば徐々に使用が増加するものと考えられる。 1. 日比紀文、他.日本臨床 2017;75(3):364-369 2. Yoo DH, et al. Ann Rheum Dis. 2013;72(10):1613-1620. 3. Ye BD, et al. Lancet. 2019;393(10182):1699-1707.
子宮不妊症のレシピエントに対する死亡ドナーからの子宮移植後の生着。
子宮不妊症のレシピエントに対する死亡ドナーからの子宮移植後の生着。
Livebirth after uterus transplantation from a deceased donor in a recipient with uterine infertility Lancet 2018 Dec 22 ;392 (10165 ):2697 -2704 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】生ドナーからの子宮移植は、2014年のスウェーデンでの成功により不妊治療の現実となり、世界中の子宮移植センターとプログラムに刺激を与えている。しかし、我々の知る限り、死亡ドナー子宮を介した生着例はなく、長期の虚血後も子宮が生存しているかなど、その実現可能性と生存率に疑問が投げかけられている。 【方法】2016年9月、ブラジル・サンパウロ大学ダス・クリニカス病院にて、先天性子宮欠如(Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser[MRKH]症候群)の32歳女性が、くも膜下出血で死亡したドナーからの子宮移植を受けた。ドナーは45歳で、過去に3回の経膣分娩の経験があった。レシピエントは移植4ヶ月前に体外受精を1回行い、8個の凍結保存胚盤胞が得られた。 【所見】レシピエントは術後順調に回復し、8日間の入院観察後に退院した。免疫抑制はプレドニゾロンとチモグロブリンで行い、タクロリムスとミコフェナール酸モフェチル(MMF)で移植後5カ月まで継続し、MMFに代わってアザチオプリンが投与された。初潮は移植後37日目に起こり、その後は定期的(26-32日ごと)に起こった。移植後7ヶ月目に最初の単一胚移植を行い、妊娠した。ドップラー超音波による子宮動脈、胎児臍帯動脈、中大脳動脈の血流速度波形異常はなく、妊娠中の胎児発育障害もなかった。移植後および妊娠期間中に拒絶反応は認められなかった.2017年12月15日、妊娠36週付近で帝王切開分娩が行われた。出生時の女児は2550gで、妊娠年齢に相応しく、アプガースコアは1分9、5分10、10分10で、母体とともに産後7カ月経過後も健康で正常に発育している。子宮は出産と同じ手術で摘出され、免疫抑制療法は中止された。 【解釈】我々の知る限り、MRKH症候群の患者において、死亡ドナーからの子宮移植後に出産した世界初の症例を報告するものである。この結果は、死体ドナーからの移植による子宮不妊治療の概念実証であり、生体ドナーや生体ドナー手術を必要とせず、すべての子宮因子不妊の女性に健康な妊娠への道を開くものです。 【FUNDING】Fundação de Amparo à Pesquisa do Estado de São Paulo and Hospital das Clínicas, University of São Paulo, Brazil. 第一人者の医師による解説 挙児希望の新たな選択肢 社会、倫理、経済的課題の解決必要 末岡 浩 慶應義塾大学医学部産婦人科准教授 MMJ.June 2019;15(3) 生殖補助技術を代表とする生殖医療の発展は、めざましいものがあり、多くの不妊患者に対する治療法が開発され、多様な原因への対策がとれるようになった。しかし、子宮を持たない女性に対する子どもを産むための解決法はなく、代理母による出産が唯一の手段であった。これに対し、提供者からの子宮を移植し、自身で妊娠・出産をする子宮移植の技術が新たな選択肢として検討されてきた。 本論文はブラジルで死亡女性から摘出した子宮を子宮無形成の女性に移植し、その後、体外受精によって作製し、凍結、保存していた胚を子宮に移植して妊娠・出産した経験を報告したものである。本法については医学的な課題のみならず、社会、倫理的な課題も多く存在し、さらに経済的課題も議論されている。 医学的な課題を1つひとつ経験しながら解決するために、摘出子宮の条件、保管方法と時間、手術の方法とその後の免疫抑制、感染防止、血栓の防止、児への影響など新たな疑問について多く議論され、 報告されている。これまでサウジアラビア、トルコ、 スウェーデンで実施された子宮移植の報告がなされている。子宮移植はとりもなおさず妊娠のため の手術であるため、その後の妊娠・出産の報告も行われてきた。しかし、なお多くの条件を解析する必要があり、今後のデータ集積が待たれるところで ある。本事例が過去の報告と異なる点は、移植した 子宮が死亡した女性から摘出したものであったことである。 脳出血で死亡した45歳の女性から摘出した子宮を、32歳の先天的に子宮が形成されていないMayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群の女性に移植し、7カ月後に凍結胚をその子宮に戻して妊娠し、妊娠35週の時点で予定された帝王切開で分娩したものである。この条件として提供者の子宮に病変はなく、3回の分娩を経験している良好な子宮であり、移植者についても卵巣からの排卵に問題はなく、全身状態に課題はないことが確認されている。子宮摘出から移植完了までに要した時間は7時間50分であり、子宮組織への障害の面では妊娠成立の成功から8時間程度までは可能であることを示している。また、妊娠経過は良好で、児の発育に問題はなく、出生時の児体重は2,550g であり、妊娠中の合併症の発生もなかったことが報告されている。 先天的・後天的な理由で子宮を有さない女性が 挙児を希望する際の新たな選択肢として今後のマイルストーンとなることが示された。その一方で、 技術の確立のみならず、実施するうえでの環境整備もまた、大きな解決すべき課題と考えられる。
心房細動患者における血栓塞栓症予防のための介入。システマティックレビュー。
心房細動患者における血栓塞栓症予防のための介入。システマティックレビュー。
Interventions for Preventing Thromboembolic Events in Patients With Atrial Fibrillation: A Systematic Review Ann Intern Med 2018 Dec 4 ;169 (11):774 -787. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】心房細動(AF)における血栓塞栓性合併症を予防する治療法の安全性と有効性の比較は依然として不明である。 【目的】非弁膜症AFの成人における血栓塞栓性イベントと出血性合併症を予防する内科治療と手技療法の有効性を比較する。 【データソース】複数のデータベースにおける2000年1月1日から2018年2月14日までの英語による研究。 【研究選択】2名の査読者が独立して引用文献をスクリーニングし、血栓塞栓または出血性合併症を報告した非弁膜症性AFの成人における脳卒中を予防する治療の比較研究を特定した。 データ抽出]2名の査読者が独立してデータを抽出し、研究の質および適用性の評価を行い、エビデンス強度を評価した。 データ統合]220編の論文のデータを対象とした。脳卒中または全身性塞栓症の予防において、ダビガトランとアピキサバンはワルファリンより優れており、リバーロキサバンとエドキサバンは同程度であった。大出血のリスク低減については,アピキサバンとエドキサバンが優れており,リバーロキサバンとダビガトランはワルファリンと同程度であった.ダビガトランの治療効果は腎機能障害のある患者でも同様であり(相互作用 P > 0.05),75 歳未満の患者ではダビガトランの方が出血率が低かった(相互作用 P < 0.001).アピキサバンによる治療の有益性は,腎機能障害,糖尿病,脳卒中の既往を含む多くのサブグループで一貫していた(すべてで交互作用P > 0.05).出血リスクの減少は,糸球体濾過量が 50 mL/min/1.73 m2 未満の患者で最も大きかった(P = 0.003).脳卒中,糖尿病,心不全の既往のある患者では,リバーロキサバンとエドキサバンに同様の治療効果が認められた(すべてで相互作用P>0.05)。 【限定】不均一な研究集団,介入,結果。 【結論】利用できる直接作用型経口抗凝固薬(DOACs)は非弁膜症性AF患者において,少なくともウォルファリンと同等以上に有効かつ安全であった。DOACは、いくつかの患者サブグループで同様の効果を示し、幅広い非弁膜症性心房細動の患者に対して安全で有効であると思われた。(PROSPERO: CRD42017069999). 第一人者の医師による解説 間接比較だが DOAC間にも有効性と安全性で優劣ある可能性 後岡 広太郎(特任講師)/下川 宏明(教授) 東北大学大学院医学系研究科循環器内科学 MMJ.August 2019;15(4) 心房細動(atrial fibrillation;AF)による全身性塞栓症の予防にワルファリンが 使用され てきたが、近年、直接型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant;DOAC)が 登場し、DOACとワルファリンを比較した大規模比較試験(ROCKET AF、ARISTOTLE、RE-LY、ENGAGE AF)が行われた(1)。 本研究は上記4試験を含む6の臨床試験と111 の観察研究から系統的レビューを行い、AF患者におけるDOACとワルファリンと左心耳閉鎖デバイスの全身性塞栓症予防の有効性と安全性を比較した。本研究の知見として以下の4つが挙げられる: ①脳梗塞または全身性塞栓症の予防効果において、 ワルファリンと比較して、ダビガトランとアピキサバンの優越性が示され、リバーロキサバンとエドキサバンは同程度であった②大出血のリスクは ワルファリンと比較して、アピキサバンとエドキ サバンはリスクを低下させ、リバーロキサバンとダビガランは同程度であった③ワルファリンと比較して第Ⅹ a因子阻害薬全体としては、脳出血・ 頭蓋内出血・全死亡の減少と関連した④ワルファリンと比較して、左心耳閉鎖デバイスは大出血のリスクが低く、脳梗塞減少の傾向を認めたが、植え込みに伴う合併症が多かった。 本研究結果からAFの塞栓症予防においてDOAC はワルファリンと有効性と安全性が少なくとも同等であることが示された。いくつかのDOACは他のDOACに比べて有効性や安全性で優れている可能性が示唆され、本研究結果は臨床医のDOACの 選択に影響するかもしれない。また、左心耳閉鎖バイスは出血リスクが非常に高い患者への1つの選択肢にとどまることが示唆された。 本研究 の 問題点 は、間接比較 で あ り、各臨床試 験の研究デザイン、患者背景、主要評価項目の定義の違いを考慮していない点が挙げられる。例えばRE-LYやARISTOTLEはCHADS2ス コ ア0点 以上 のAF患者 が 登録 さ れ た が、ROCKET AFと ENGAGE AFでは、より塞栓リスクが高い2点以 上のAF患者が登録された(1)。また、日本のリアルワールドデータである伏見 AFレジストリからは DOACとワルファリン間で脳梗塞・大出血イベント発生率に違いはなかったことが報告され(2)、実臨床ではDOAC開始時に薬剤の選択よりも用量の選 択やアドヒアランスの確認を行うことがより重要と考えられる。 1. Camm AJ, et al. Europace. 2018;20(1):1-11. 2. Yamashita Y, et al. Circ J. 2017;81(9):1278-1285.
心臓血管疾患の一次予防のためのアスピリン使用の指針となる出血リスクの予測。コホート研究
心臓血管疾患の一次予防のためのアスピリン使用の指針となる出血リスクの予測。コホート研究
Predicting Bleeding Risk to Guide Aspirin Use for the Primary Prevention of Cardiovascular Disease: A Cohort Study Ann Intern Med 2019 Mar 19 ;170 (6):357 -368. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】アスピリンの絶対的ベネフィットを推定するために多くの心血管リスクの予後モデルを用いることができるが、その可能性が高いハームを推定するための出血リスクモデルはほとんどない。 【目的】心血管疾患(CVD)の一次予防のためにアスピリンを考慮する可能性がある人たちの予後出血リスクモデルを開発する。 【デザイン】前向きコホート研究 【設定】ニュージーランドのプライマリケア 【対象】2007年から2016年までにCVDリスクを評価した30歳から79歳の385 191名で、研究コホートとした。アスピリンの適応または禁忌のある者、および既に抗血小板療法または抗凝固療法を受けている者は除外した。 測定】各性について、大出血リスクを予測するためにCox比例ハザードモデルを開発し、参加者は初めて除外基準を満たした日、死亡日、研究終了日のうち最も早い時点で打ち切られた(2017年6月30日)。主なモデルには、以下の予測因子が含まれていた。人口統計学的特性(年齢,民族,社会経済的剥奪),臨床測定値(収縮期血圧,総高密度リポ蛋白コレステロール比),早期CVDの家族歴,病歴(喫煙,糖尿病,出血,消化性潰瘍疾患,癌,慢性肝疾患,慢性膵炎,アルコール関連),薬剤使用(非ステロイド抗炎症薬,コルチコステロイド,選択性セロトニン再取込阻害薬)である。 【結果】1 619 846人年の追跡期間中に,4442人が大出血イベントを起こした(うち313人[7%]が致死的であった)。主要モデルは,5年出血リスクの中央値を女性で1.0%(四分位範囲,0.8%~1.5%),男性で1.1%(四分位範囲,0.7%~1.6%)と予言した。限界】ヘモグロビン値、血小板数、肥満度は、欠損値が多いため主要モデルから除外され、ニュージーランド以外の集団でのモデルの外部検証は行われていない。 【結論】CVDの一次予防のためにアスピリンを検討している人において、アスピリンの絶対的な出血の害を推定するために使用できる予後出血リスクモデルを開発した【Primary funding source】The Health Research Council of New Zealand. 第一人者の医師による解説 アスピリンによる心血管疾患1次予防の最適化を支援する重要な報告 高下 純平/豊田 一則(副院長) 国立循環器病研究センター脳血管内科 MMJ.August 2019;15(4) 2016年、米国予防医学特別作業部会(USPSTF) は、今後10年間の心血管疾患発症リスクが10% 以上で、高い出血リスクを持たない50~59歳の 成人に対し、心血管疾患と大腸がんの両疾患への1次予防として、アスピリンの低用量使用を推奨した(1)。しかし、心血管疾患に対するアスピリン投与のベネフィットやリスクは、年齢、性別、併存する血管疾患の危険因子によって大きく異なるため、利益と危険性を勘案して慎重に判断する必要があり、 予測モデルを使用したネットクリニカルベネフィッ トの推定が有用である。 心血管疾患の予防におけるアスピリン投与の有益性についての予測モデルは、数多く報告されているものの、出血性合併症の 予測モデルはあまり報告されていなかった。そこで、 著者らは 心血管疾患がなく、抗凝固・抗血小板療法を受けていない集団における出血性合併症の予 測モデルを作成し検証を行った。 2007~16年に心血管疾患の危険因子を評価された30~79歳の 385,191人を対象とした前向きコホート研究である。性別ごとに年齢、人種、社会経済的特性などの背景因子や、収縮期血圧、コレステロール値、心 血管疾患の家族歴、喫煙、糖尿病、出血の既往、潰瘍 性病変、悪性腫瘍の有無や服用薬(非ステロイド系 抗炎症薬、ステロイド、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)をもとにCox比例ハザードモデルを作成した。 結果は、1,619,846人・年の追跡期間中に、 4,442人が大出血イベントを発症し、作成したモ デルでは、5年間の出血率の中央値は、女性で1.0% (四分位範囲[IQR], 0.8~1.5%)、男性で1.1% (0.7~1.6%)と算出された。また、過去の報告と同様、高齢、喫煙、糖尿病などの既知の危険因子が出血性合併症のリスクともなることが明らかにされた。 このモデルを使用して算出された出血性合併症 のリスクを、Antithrombotic Trialists’ Collaborationのメタ解析で報告された心血管疾患 イベントの発症率(2)と比較することで、心血管疾患 の1次予防としてのアスピリン導入を最適化することができるのではないかと結んでいる。心血管疾患の既往がなく、また抗凝固・抗血小板療法を受けていない集団が、アスピリン服用を始めることで起こりうる出血性合併症の推定発症率は低い。これは大変貴重な知見であるとともに、心血管疾患の1次予防におけるアスピリン投与の意思決定を 支援する重要な報告と考える。 1. Bibbins-Domingo K, et al. Ann Intern Med. 2016;164(12):836-845. 2. Baigent C, et al. Lancet. 2009;373(9678):1849-1860.
肺炎で入院した患者における過剰な抗生物質治療期間と有害事象。多施設共同コホート研究。
肺炎で入院した患者における過剰な抗生物質治療期間と有害事象。多施設共同コホート研究。
Excess Antibiotic Treatment Duration and Adverse Events in Patients Hospitalized With Pneumonia: A Multihospital Cohort Study Ann Intern Med 2019 ;171 (3):153 -163. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】無作為化試験で、最も短い有効期間を超える抗生物質治療による有益性は示されていない。 【目的】過剰な抗生物質治療期間に関連する予測因子と転帰を検討する。 【デザイン】レトロスペクティブコホート研究。 【設定】ミシガン病院医療安全コンソーシアムの43病院。 【患者】肺炎の一般診療患者6481例。 測定】主要アウトカムは過剰抗生物質治療期間の割合(30日間あたりの超過日数)であった。過剰日数は、実際の治療期間から各患者の最も短い有効(期待)治療期間(臨床的安定までの時間、病原体、肺炎分類[市中肺炎 vs. 医療関連]に基づく)を差し引くことで算出された。負の二項一般化推定方程式(GEE)を用いて率比を算出し、30日目の治療期間超過率の予測因子を評価した。30日後にカルテと電話で評価された患者の転帰は、患者特性および治療の確率を調整したロジットGEEを用いて評価した。 【結果】患者の3分の2(67.8%[6481例中4391例])が過剰な抗生物質治療を受けた。退院時に処方された抗生物質が過剰期間の93.2%を占めた。呼吸器培養または非培養診断検査を受けた患者、入院期間が長い患者、過去90日間に高リスクの抗生物質を投与された患者、市中肺炎の患者、退院時に抗生物質治療期間の合計が記録されていない患者は、過剰な治療を受ける可能性がより高かった。過剰な治療は,死亡,再入院,救急外来受診,Clostridioides difficile 感染症などの有害転帰の割合の低下と関連はなかった.治療が1日増えるごとに、退院後に患者から報告された抗生物質関連の有害事象の確率が5%上昇した。 【限定】レトロスペクティブデザイン;30日後の結果を報告するためにすべての患者に連絡できたわけではない。 【結論】肺炎で入院した患者はしばしば過剰な抗生物質治療を受けていた。過剰な抗生物質投与は、患者が報告する有害事象と関連していた。今後の介入は、過剰な治療を減らし、退院時の記録を改善することでアウトカムが改善するかどうかに焦点を当てるべきである。 【Primary funding source】BCBSM Value Partnershipsプログラムの一環としてBlue Cross Blue Shield of Michigan(BCBSM)およびBlue Care Networkが実施した。 第一人者の医師による解説 退院時の抗菌薬処方は93%で過剰 適正使用のさらなる徹底を 舘田 一博 東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授 MMJ.February 2020;16(1) 高齢化進行と相まって肺炎の頻度は年々上昇している。特に入院を要する重症肺炎は高齢者における死亡の原因として極めて重要である。本論文は、米国ミシガン州における43病院6,481人の 肺炎入院患者を対象とした抗菌薬の使用状況に関する後ろ向きコホート研究の報告である。著者らは、患者状態の安定化、病原体の種類、肺炎分類(市 中肺炎[CAP]・医療関連肺炎[HCAP])な ど か ら 適正な抗菌薬投与期間を推定し、実際の投与期間と の差をもとに過剰期間の抗菌薬投与(過剰投与)に関する解析を行っている。 その結果、検討された患者6,481人のうち67.8%において抗菌薬の過剰な投与が行われていた可能性が示された。解析対象患者全体の抗菌薬投与期間は中央値で8日であり(CAP患者では8日、HCAP患者では9日)、過剰投与日数の中央値は全体で2日(CAP患者では2日、HCAP患者では1日)であった。また著者らは、本研究の結果から退院時に処方される抗菌薬の 93.2%が過剰投与ではないかという結論に達している。 退院時に処方される抗菌薬として最も頻度の高い薬剤はフルオロキノロン系薬剤(31.3%)で、続いてアジスロマイシンとアモキシシリン / クラブラン酸が多かった。抗菌薬の過剰投与と思 わ れ る 状態は、死亡率、再入院率、救急診療受診、 Clostridioides diffi cile感染症の発生率などとは 関連していなかった。ただし、退院後の患者からの報告として約5%の患者から抗菌薬に関連すると思われる副反応(adverse event)の報告がみられていた。 本研究結果は、改めて肺炎入院患者における抗菌薬の過剰投与と、これと関連する抗菌薬副反応の問題をクローズアップしている。特に著者らは、退院時に処方される抗菌薬の適正使用に関して、 “discharge stewardship”という概念を提唱しており興味深い。 耐性菌の増加と蔓延が、人類への脅威として取り上げられている中で、抗菌薬の適正使用のさらなる徹底は極めて重要な課題である。本研究により、入院肺炎患者における抗菌薬の過剰投与の実態が改めて示され、特に退院時に処方される抗菌薬の重要性が明らかにされたことは意義がある。日本でも、退院時に“もしものことがないように”という意味で過剰な抗菌薬の処方が行われている可能性は十分に考えられる。本論文を参考に、日本における肺炎入院患者における抗菌薬の適正使用、特に退院時の処方の実際を明らかにする研究の実施が期待される。
ナトリウム-グルコースコトランスポーター-2阻害薬と重症尿路感染症のリスク。人口ベースのコホート研究。
ナトリウム-グルコースコトランスポーター-2阻害薬と重症尿路感染症のリスク。人口ベースのコホート研究。
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and the Risk for Severe Urinary Tract Infections: A Population-Based Cohort Study Ann Intern Med 2019;171:248-256. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】ナトリウム-グルコースコトランスポーター2(SGLT-2)阻害薬による重症尿路感染症(UTI)のリスクを評価した先行研究では、相反する知見が報告されている。 【目的】SGLT-2阻害薬の使用を開始した患者が、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬やグルカゴン様ペプチド-1受容体(GLP-1)アゴニストの使用を開始した患者と比較して、重篤な尿路感染症(UTI)のリスクが高いかどうかを評価すること。 【デザイン】人口ベースのコホート研究 【設定】米国の大規模コホート研究2件(2013年3月)。症例数は1,000例を超えているが、そのうちの1,000例を超えているのは、1,000例以上である。対象者は18歳以上、2型糖尿病、SGLT-2阻害薬とDPP-4阻害薬(コホート1)またはGLP-1アゴニスト(コホート2)の使用を開始した患者であった。 測定 【方法】一次アウトカムは重篤なUTIイベントであり、一次UTI、UTIを伴う敗血症、腎盂腎炎の入院と定義した。 【結果】2つのデータベースの中から、傾向スコアを1:1でマッチングさせた後、コホート1では123,752人、コホート2では111,978人の患者が同定された。コホート1では、新たにSGLT-2阻害薬を投与された人の重篤なUTIイベントは61件(1000人年あたりの発生率[IR]1.76)であったのに対し、DPP-4阻害薬投与群では57件(IR、1.77)であった(HR、0.98[95%CI、0.68~1.41])。コホート2では、SGLT-2阻害薬投与群では73件(IR、2.15)のイベントが発生したのに対し、GLP-1アゴニスト群では87件(IR、2.96)(HR、0.72 [CI、0.53~0.99])であった。結果は、感度解析において、年齢、性別、虚弱性のいくつかのサブグループ内で、カナグリフロジンとダパグリフロジンを個別に投与した場合でも、ロバストなものでした。さらに、SGLT-2阻害薬は外来UTIリスクの増加とは関連していなかった(コホート1:HR、0.96 [CI、0.89~1.04]、コホート2:HR、0.91 [CI、0.84~0.99])。 【限界】本試験所見の一般化可能性は、商用保険加入患者に限定されている可能性がある。 【結論】日常臨床でみられる大規模コホートにおいて、SGLT-2阻害薬治療を開始した患者における重度および非重度の尿路イベントのリスクは、他の第2選択抗糖尿病薬による治療を開始した患者におけるリスクと同程度であった。 第一人者の医師による解説 高齢者などの高リスク患者 引き続き注意が必要 稲垣 暢也 京都大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学教授 MMJ.February 2020;16(1) SGLT2阻害薬は性器感染症を増加させることは 広く認められているが、尿路感染症との関連については不明な点が多い。また、米食品医薬品局(FDA) は2015年、SGLT2阻害薬の添付書類に重症尿路 感染症に関する警告を加えたが、服用時にみられる尿路感染症の多くは軽度~中等度であり、重症尿路感染症との関係は不明である。 本論文は、2013年3月~ 15年9月に、米国の 2つの民間保険請求データベースを用いて、18歳 以上の2型糖尿病患者を対象に実施されたコホート研究の報告である。コホート 1(123,752人) では、SGLT2阻害薬 またはDPP-4阻害薬 を開始 した患者の間で、コホート 2(111,978人)では、 SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬を開始 した患者の間で比較検討が行われた。それぞれのコホートにおいて、1:1の傾向スコアマッチングを 行っている。主要評価項目は重症尿路感染症(初回 尿路感染症、尿路感染症による敗血症、または腎盂腎炎による入院の複合)とし、副次評価項目は抗菌薬で外来治療を行った尿路感染症(非重症尿路感染 症)とした。 そ の 結果、主要評価項目 で あ る 重症尿路感染 症 の 発生率 は、コ ホ ー ト 1でSGLT2阻害薬群 1.76/1,000人・年、DPP-4阻害薬群1.77/1,000 人・年と有意差はなく(相対リスク[RR], 0.98; 95%信頼区間[CI], 0.68 ~ 1.41)、コホート 2で は、SGLT2阻害薬群2.15 /1,000人・年、GLP-1 受容体作動薬群2.96 /1,000人・ 年 で、SGLT2 阻害薬群においてやや低かった(RR, 0.72;95% CI, 0.53 ~ 0.99)。副次評価項目の非重症尿路感 染症についても、両コホートにおいて、SGLT2阻害薬群で有意に多いという結果は得られなかった。 SGLT2阻害薬を新たに開始した患者をそれぞれ5万人以上含むリアルワールドの本コホート研 究では、SGLT2阻害薬による重症・非重症の尿路感染症の増加は認められなかった。しかし、本研究では、尿路感染症の既往やリスク(水腎症、膀胱尿 管逆流、脊髄損傷、カテーテル使用など)がある患者、 腎機能障害や妊娠糖尿病、がんなどの患者、老人ホー ムやホスピス入所患者などが除外されている点や、 糖尿病の罹病期間、体格指数(BMI)、HbA1cなどに関する情報が不足している点に注意すべきである。 今後、重症尿路感染症のリスクが特に高い高齢者など、高リスク患者については、さらなるエビデンス が必要であるとともに、引き続き尿路感染症に注意する必要があると思われる。
慢性腎臓病における経口抗凝固剤治療の有益性と有害性。A Systematic Review and Meta-analysis.
慢性腎臓病における経口抗凝固剤治療の有益性と有害性。A Systematic Review and Meta-analysis.
Benefits and Harms of Oral Anticoagulant Therapy in Chronic Kidney Disease: A Systematic Review and Meta-analysis Ann Intern Med 2019 ;171 (3 ):181 -189 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】慢性腎臓病(CKD)における経口抗凝固療法の効果は不明である。 【目的】透析依存性の末期腎臓病(ESKD)を含むCKDステージ3~5の成人におけるビタミンK拮抗薬(VKA)と非ビタミンK経口抗凝固薬(NOAC)の有益性と有害性を評価する。[データ源]MEDLINE,EMBASE,Cochraneデータベースの英文検索(開始から2019年2月まで),レビュー書誌,ClinicalTrials. gov(2019年2月25日)。 【研究選択】CKD患者の任意の適応でVKAまたはNOACを評価した無作為化対照試験で,有効性または出血のアウトカムを報告したもの。 【データ抽出】2人の著者が独立してデータを抽出し,バイアスのリスクを評価し,エビデンスの確実性を評価した。 【データ合成】心房細動(AF)(11試験)、静脈血栓塞栓症(VTE)(11試験)、血栓予防(6試験)、透析アクセス血栓症の予防(8試験)、心房細動以外の心血管疾患(9試験)のために抗凝固療法を受けた34,082人を対象とした45試験を対象とした。ESKD患者を対象とした8試験を除くすべての試験で、クレアチニンクリアランスが20 mL/min未満または推定糸球体濾過量が15 mL/min/1.73 m2未満の被験者を除外した。心房細動では、VKAと比較して、NOACは脳卒中または全身性塞栓症のリスクを低減し(リスク比、0.79[95%CI、0.66~0.93];高確度エビデンス)、出血性脳卒中のリスクを低減した(RR、0.48[CI、0.30~0.76];中確度エビデンス)。VKAと比較して、VTEの再発またはVTE関連死に対するNOACの効果は不確かであった(RR, 0.72 [CI, 0.44 to 1.17]; 確実性の低いエビデンス)。すべての試験を合わせると、NOACはVKAと比較して大出血リスクを減少させるようであった(RR, 0.75 [CI, 0.56 to 1.01]; 確信度の低いエビデンス)。 【Limitation】進行したCKDまたはESKDに関するエビデンスは乏しい;大規模試験のサブグループからのデータがほとんどである。 【結論】早期CKDにおいて、NOACはVKAよりも優れたベネフィット・リスクプロファイルを有していた。進行したCKDまたはESKDについては,VKAまたはNOACの有益性または有害性を確立するには十分な証拠がなかった。[主たる資金源]なし。(prospero: crd42017079709)。 第一人者の医師による解説 進行期~末期腎不全ではエビデンス不足 田中 哲洋 東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科准教授 MMJ.February 2020;16(1) 慢性腎臓病(CKD)では静脈血栓塞栓症(VTE)や 心房細動(AF)のリスクが正常腎機能者よりも高い。 AFを合併すると脳梗塞や全身性塞栓症、うっ血性 心不全、心筋梗塞、死亡のリスクが高まり、VTE合 併も死亡リスクを上昇させる。ガイドラインでは 非弁膜症性 AF患者に対する脳梗塞予防、大手術後 の 患者 や 急性疾患入院患者 のVTE予防、VTE再発 予防として抗凝固療法を推奨している。しかし、AF を合併する進行期 CKDや末期腎不全(ESKD)患者では、腎機能正常者よりも経口抗凝固薬の処方が少 なく、その理由として出血リスクの上昇、有用性が 明確でないこと、ワルファリン関連のカルシフィラ キシスや腎症などが挙げられる。実際、抗凝固薬の臨床試験では全体の約90%でCKD患者は除外されていた。 昨今、腎機能正常者を対象に非ビタミン K拮抗 経口抗凝固薬(NOAC)の有効性と安全性の知見が 蓄積されつつある。そこで本論文では、CKDステー ジ 3 ~ 5の 患者 に お け る 経口抗凝固療法 のリス ク・ベネフィットが検討された。ビタミン K拮抗薬 (VKA)およびNOACを用いた45試験からデータ を抽出した。 クレアチニンクリアランス 20 mL/ 分未満またはeGFR 15ml/分 /1.73m2未満の患者を除外した早期 CKD患者群において、AFに対する抗凝固療法としてNOACはVKAと比較し脳梗塞 や全身性塞栓症のリスクを低下させ、出血性梗塞のリスクも低下させた。VTEに対する抗凝固療法では、NOACのVKAに対する優位性は明らかでなかった。また、NOAC̶プラセボ間にリスクに関する差はなかった。 すべての試験を統合すると、NOACは VKAよりも大出血のリスクを低下させる傾向を示した。ESKD患者を含めた試験は8試験のみで、多くはワルファリンによる透析アクセス血栓症予防 を評価していた。ワルファリンは透析アクセス血 栓症やカテーテル機能不全のリスクを低下させた が、出血性合併症への影響は未知であった。 経口抗凝固療法の治療利益は、どの程度の腎機能障害までリスクを上回るのであろうか? 観察研究において、AF合併 ESKD患者ではワルファリン使用によって塞栓性脳梗塞のリスクは低下せず、出血性脳梗塞のリスクは2倍上昇していた。NOAC はVKAに比べ、腎機能正常者や早期 CKD患者の出 血性脳梗塞リスクを低下させることを考えると、 ESKD患者にも潜在的な利益があるようである。 し かし、最近報告 さ れ たAF合併 ESKD患者 の 後ろ向きコホート研究をみる限り、NOACやVKAの 間に脳梗塞や全身性塞栓症のリスクに差はない。 今後見込 ま れ るAF合併 ESKD患者 の 試験、す な わ ちRENAL-AF試験(NCT02942407)お よ び AXADIA試験(NCT02933697)によって有効性 と安全性の評価がなされるであろう。
入院中の成人のせん妄を予防するための抗精神病薬。系統的レビュー。
入院中の成人のせん妄を予防するための抗精神病薬。系統的レビュー。
Antipsychotics for Preventing Delirium in Hospitalized Adults: A Systematic Review Ann Intern Med 2019;171:474-484. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】せん妄は、基礎的な医学的問題によって引き起こされる、注意力と認知力の障害を特徴とする急性障害である。抗精神病薬はせん妄の予防に用いられるが,その有益性と有害性は不明である。 【目的】成人におけるせん妄予防のための抗精神病薬の有益性と有害性を評価する系統的レビューを行う。 【データソース】研究設定,発表言語,追跡期間による制限なしに,開始時から2019年7月までPubMed,Embase,CENTRAL,CINAHL,PsycINFOを使用。 【研究選択】抗精神病薬とプラセボまたは別の抗精神病薬を比較した無作為化対照試験(RCT),および比較群を有する前向き観察研究。 【データ抽出】1名の査読者がデータを抽出しエビデンスの強さを評定し,2名の査読者がデータを確認した。2名の査読者が独立してバイアスのリスクを評価した。 データの統合]合計14件のRCTが含まれた。せん妄予防に使用されるハロペリドールとプラセボの間には、せん妄の発生率または期間、入院期間(証拠の強さが高い[SOE])、死亡率に差はなかった。認知機能、せん妄の重症度(不十分なSOE)、不適切な継続、および鎮静(不十分なSOE)に対するハロペリドールの効果を判断するエビデンスはほとんど見いだせなかった。第二世代抗精神病薬が術後設定におけるせん妄発生率を低下させる可能性があるという証拠は限られている。抗精神病薬の短期使用が神経学的有害性と関連するというエビデンスはほとんどない。いくつかの試験では、有害となりうる心臓への影響が抗精神病薬の使用により頻繁に発生していた。 【Limitation】抗精神病薬の投与量、抗精神病薬の投与経路、転帰の評価、有害事象には大きな異質性があった。 【結論】現在のエビデンスは、せん妄の予防のためのハロペリドールや第2世代抗精神病薬のルーチン使用を支持しない。第二世代抗精神病薬が術後患者のせん妄の発生率を低下させる可能性があるという限られたエビデンスはあるが、さらなる研究が必要である。今後の試験では,標準化されたアウトカム指標を用いる必要がある.(プロスペロー:Crd42018109552). 第一人者の医師による解説 今後は第2世代抗精神病薬と非薬理学的介入との比較研究が必要 中村 暖(助教)/岩波 明(主任教授)昭和大学病院附属東病院精神神経科 MMJ.April 2020;16(2) せん妄は、短期間のうちに注意力と認知機能が障害される意識障害の一種で、症状に変動性がみられるのが特徴である。身体疾患や手術などが原因で発症することが多く、発症後に日常生活動作 (ADL)や認知機能の低下、死亡率の上昇を引き起こすことが報告されている。このため、せん妄による2次障害の発生率や死亡率を低下させるためには、 せん妄の治療に加えて発症の予防が非常に重要となる。 せん妄予防を目的とした薬物投与については、 抗精神病薬の使用が複数の研究で報告されているが(1)-(3)、有効性と有害性について統一的な見解は得られていない。そもそも臨床の現場では、症状のない段階での抗精神病薬の使用自体に対する抵抗感が根強いため、予防的投与の有効性に関しての検討は臨床的な観点からも非常に重要である。 本論文は、せん妄の発症予防を目的とした抗精神病薬の有用性と有害性に関する大規模な系統的レビューである。せん妄の発症予防効果に関して、ハ ロペリドールまたは第2世代抗精神病薬とプラセボ、あるいはハロペリドールと第2世代抗精神病薬を比較した14件のランダム化比較試験を解析した。各文献から得られたデータの解析に際しては、認知機能、入院期間、せん妄の重症度、鎮静作用、抗精神病薬の不適切な継続投与、せん妄の発症率、せん妄の持続期間、死亡率、心臓・神経系の障害について評価をした。 せん妄の発症率と持続期間、入院期間、死亡率について、ハロペリドールとプラセボの間で差はみられなかった。認知機能、せん妄の重症度、抗精神病薬の不適切な使用、鎮静作用に関しても、ハロペ リドールの有効性を示す結果は得られなかった。一方で術後の予防投与に限り、第2世代抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン)はプラセボと比較してせん妄の発症率を有意に低下させていた。神経系 の障害に関して差が認められなかった一方、心臓 の障害は抗精神病薬の使用によってより高い頻度で生じることが明らかになった。 結論として、成人の入院患者におけるせん妄の発症抑制を目的としたハロペリドールの予防投与は有用ではないことがわかった。術後せん妄の発症予防に関して第2世代抗精神病薬の有効性を支持する結果が得られたが、先行研究では非薬理学 的介入が術後せん妄の発症予防に有効であるとの報告もあるため、今後はこうした非薬理学的介入との比較研究が必要である。 1.Wang W et al. Crit Care Med. 2012;40(3):731-739. 2.Al-Aama T et al. Int J Geriatr Psychiatry. 2011;26(7):687-694. 3.Larsen KA et al. Psychosomatics. 2010;51(5):409-418
一次予防のためのアスピリンによる心血管系の利益と出血の害の個別化された予測。有益性-有害性分析。
一次予防のためのアスピリンによる心血管系の利益と出血の害の個別化された予測。有益性-有害性分析。
Personalized Prediction of Cardiovascular Benefits and Bleeding Harms From Aspirin for Primary Prevention: A Benefit-Harm Analysis Ann Intern Med 2019;171:529-539. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】一部の患者において、心血管疾患(CVD)の一次予防のためのアスピリンのベネフィットが出血の害を上回るかは不明である。 【目的】アスピリンが純ベネフィットをもたらすと考えられるCVDを持たない人を特定することである。 【デザイン】性別リスクスコアと2019年のメタアナリシスによるCVDと大出血に対するアスピリンの比例効果の推定値に基づく個別ベネフィット・ハーム分析 【設定】ニュージーランドのプライマリケア 【参加者】2012年から2016年にCVDリスク評価を受けた30~79歳のCVDが確立されていない245 028人(女性43.6%)。 【測定】各参加者について、5年間の大出血を引き起こしそうな数(大出血リスクスコア×大出血リスクに対するアスピリンの比例効果)から、予防できそうなCVDイベント数(CVDリスクスコア×CVDリスクに対するアスピリンの比例効果)を差し引き、アスピリンのネット効果を算出した。 【結果】1回のCVDイベントが1回の大出血と同等の重症度と仮定した場合、5年間のアスピリン治療による純益は女性の2.5%、男性の12.1%となり、1回のCVDイベントが2回の大出血と同等と仮定した場合は女性の21.4%、男性の40.7%に増加する可能性があることがわかった。純益サブグループは純害サブグループに比べ、ベースラインのCVDリスクが高く、ほとんどの確立したCVDリスク因子のレベルが高く、出血特異的リスク因子のレベルが低かった 【Limitation】リスクスコアと効果推定値は不確実であった。アスピリンのがん転帰への影響は検討されていない。 【結論】CVDを持たない一部の人にとって、アスピリンは正味の利益をもたらす可能性が高い。 【Primary funding source】ニュージーランド保健研究評議会。 第一人者の医師による解説 リスク予測モデル活用で 個別化した1次予防戦略立案の可能性 邑井 洸太 国立循環器病研究センター心臓血管内科冠疾患科/安田 聡 国立循環器病研究センター心臓血管内科部門長・副院長 MMJ.April 2020;16(2) アスピリンは心筋梗塞、脳梗塞、心不全入院といった心血管イベントを抑制する一方で、消化管や頭蓋内などにおける出血のリスクを上昇させる。すでに心血管疾患を有する患者に対する2次予防を目的とした場合、一般的にアスピリンのメリットは デメリットを上回るとされているが、1次予防での有用性は不明である(1)。近年、リスクモデルによる予測が実用化されている(2)。本研究では、心血管疾患の既往のない集団においてアスピリン服用によって享受できる利益(心血管イベント抑制)は害(出血)を上回るかどうかをリスク予測モデルで検証した。 本研究では、ニュージーランドのプライマリケア領域で広く使用されているウエブベースの意思決定支援プログラム「PREDICT」が用いられた。解析対象は2012 ~ 16年にPREDICTを利用して心血管イベントリスクが算出された患者245,028 人(女性106,902人、男性138,126人)。算出時 の入力データに加えて、ナショナルデータベースとも紐付けされて心血管リスクなどの患者情報が抽出された。各患者から得られた情報をリスク予測 モデルに落とし込み、5年間アスピリンを服用した場合に予測される心血管イベント(虚血性心疾患による緊急入院または死亡、脳梗塞、脳出血、末梢血管障害、うっ血性心不全)予防効果と大出血(出血による入院、出血による死亡)リスクを算出した。 その結果、1つの心血管イベントと1つの大出血イベントを対等とした場合、女性では2.5%、男性では12.1%においてアスピリンは大出血リスクを上回る心血管イベント抑制効果をもたらした。さらに1つの心血管イベントと2つの大出血イベントを対等とした場合、女性では21.4%、男性では40.7%の患者においてアスピリンの利益が勝る結果となった。なお、今回の対象集団では、高齢、ベースラインの動脈硬化危険因子が多い、降圧薬や脂質低下薬を服用している、がんや出血の既往が少ないなどの特徴がみられた。 本研究の結果から、1次予防目的のアスピリン服用によって利益を享受できる集団は一定数存在 しうることが示唆された。こういった解析対象は ニュージーランドの住民に限定されており、各イベントの重み付けが均一であるという制限はあるものの、将来的には予後予測ツールを用いて個別化した1次予防戦略を立案できる可能性が示された。 1. Hennekens CH et al. Nat Rev Cardiol. 2012;9(5):262-263. 2. Go DC Jr et al. Circulation. 2014;129(25 Suppl 2):S49-73.
医療従事者の燃え尽き症候群とケアの質との関連性を示す証拠。A Systematic Review and Meta-analysis.
医療従事者の燃え尽き症候群とケアの質との関連性を示す証拠。A Systematic Review and Meta-analysis.
Evidence Relating Health Care Provider Burnout and Quality of Care: A Systematic Review and Meta-analysis Ann Intern Med 2019 Oct 15;171(8):555-567. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】医療従事者の燃え尽きが患者ケアの質の低下に寄与しているかどうかは不明である。 【目的】燃え尽きとケアの質の全体的な関係を推定し、発表された研究がこの関係を誇張して推定しているかどうかを評価する。 【データソース】MEDLINE、PsycINFO、Health and Psychosocial Instruments (EBSCO)、Mental Measurements Yearbook (EBSCO)、EMBASE (Elsevier)、Web of Science (Clarivate Analytics)を対象に、言語制限なしで、創刊から2019年5月28日までの期間で検索した。研究の選択]言語を問わず、医療従事者のバーンアウトと患者ケアの質との関連を定量化した査読付き出版物。 【データの抽出】2人の査読者が独立して研究を選択し、バーンアウトとケアの質の関連の測定値を抽出し、Ioannidis(過剰有意性)およびEgger(小規模研究効果)検定を用いて潜在的なバイアスを評価した。 【データの統合】合計11703件の引用を同定し、そこから123件、142人の研究集団、241 553人の医療従事者を対象とした出版物を選択した。ケアの質に関するアウトカムは、ベストプラクティス(n=14)、コミュニケーション(n=5)、医療過誤(n=32)、患者アウトカム(n=17)、品質と安全(n=74)の5つのカテゴリーに分類された。燃え尽き症候群とケアの質との関係は非常に不均質であった(I2 = 93.4%~98.8%)。燃え尽き症候群とケアの質の組み合わせ114件のうち、58件は質の低いケアに関連する燃え尽き症候群であり、6件は質の高いケアに関連する燃え尽き症候群であり、50件は有意な効果を示さなかった。過剰な有意性が明らかになった(統計的に有意な結果が得られると予測された研究の62%に対して、観察された研究の73%、P = 0.011)。このバイアスの可能性を示す指標は、最も信頼性の低い品質指標であるベストプラクティスと品質と安全性で最も顕著であった。 【限界】研究は主に観察的であり、因果関係も方向性も決定できなかった。 【結論】医療従事者の燃え尽き症候群は、発表された文献において質の低いケアと頻繁に関連している。真の効果の大きさは、報告されているよりも小さいかもしれない。今後の研究では、誇張された効果量推定のリスクを減らすために、結果を事前に規定する必要がある。 【主な資金源】Stanford Maternal and Child Health Research Institute. 第一人者の医師による解説 対象とした論文の内容が不均一 さらなる厳密な研究必要 饗場郁子1)/玉腰暁子2) 1)独立行政法人国立病院機構東名古屋病院脳神経内科臨床研究部長、 2)北海道大学大学院医学研究院社会医学分野公衆衛生学教室教授 MMJ.April 2020;16(2) 近年、医療提供者の燃え尽き症候群(バーンアウト)が問題になっている。バーンアウトとは、 1974年にアメリカの心理学者 Freudenbergerが 提唱した概念で、対人的サービスを提供する職種において、元来活発に仕事をしていた人が「燃え尽 きたように」意欲を失う状態を指す(1)。バーンアウトは、情緒的消耗感(仕事を通じて情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態)、脱人格化(患者 に対する無情で非人間的な対応で、防衛反応の1つ)、 個人的達成感の低下の3要素から構成される。バーンアウト評価には上記3要素を評価するMaslach Burnout Inventory(MBI)を用いるのが一般的で、 日本語版も存在する(2)。 これまでに多数の研究で医療提供者のバーンアウトは患者に提供するケアの質の低下と関連すると報告されているが、その多くは後方視的な観察研究で、測定方法にばらつきがあり、バイアスのリスクが懸念されている(3)。 そこで本論文では、言語を問わず当該テーマを扱っている査読付き論文を対象としたメタアナリシスが行われた。論文レビューは2人が独立して行い、必要な情報を抽出し、潜在的なバイアスとして過度な有意性をIoannidis テストにより検討した。 結果として、バーンアウトとケアの質の関連は非常に異質性が大きく(I2 = 93.4~98.8% )、検討した研究114件のうち、58件ではケアの質の低さと、6件ではケアの質の高さと関連していたが、 50件では有意な効果が示されなかった。統計学的に有意な結果が得られると期待される論文数と実際に有意な報告をした論文数を比較した結果、過度に有意な報告がなされていると考えられた(62% 対 73%;P= 0.011)。この指標が示す潜在的なバイアスは、ケアの質を5分類した場合、日常収集される情報に基づいて後方視的な研究で用いられることが多い「ベストプラクティス」と「品質と安全性」で顕著に観察された。 結論として、医療提供者のバーンアウトはしばしばケアの質の低下と関連すると報告されてきたものの厳密な研究はほとんど存在せず、効果の大きさは報告されたものよりも小さい可能性があった。 バーンアウトを減らすことでケアの質が向上するか、ケアの質を向上させることでバーンアウトが軽減するかは不明であり、これらの答えを出すには、適切なpowerのあるデザインされたランダム化試 験が不可欠である。 1.Freudenberger HJ. J Social Issues.1974;30:159-165. 2. 久保真人.セレクション社会心理学(サイエンス社), 2004. 3. Dewa CS et al. BMJ Open. 2017;7(6):e015141.
ヒトの便中における種々のマイクロプラスチックの検出。プロスペクティブ・ケースシリーズ。
ヒトの便中における種々のマイクロプラスチックの検出。プロスペクティブ・ケースシリーズ。
Detection of Various Microplastics in Human Stool: A Prospective Case Series Ann Intern Med 2019 Oct 1;171(7):453-457. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】マイクロプラスチックは自然環境中に遍在している。マイクロプラスチックの摂取は海洋生物で報告されており、粒子が食物連鎖に入る可能性がある。 【目的】ヒトの糞便にマイクロプラスチックがあるかどうかを調べ、ヒトがマイクロプラスチックを不本意に摂取しているかどうかを調べる。 【デザイン】段階的な指示に従って食事日記を書き、便を採取したプロスペクティブケースシリーズ。 【参加者】33歳から65歳の健康なボランティア8名 【測定方法】化学物質消化後、フーリエ変換赤外顕微鏡を用いて、便サンプル中の一般的な10種類のマイクロプラスチックの存在と形状を分析した。 【結果】8つの便サンプル全てがマイクロプラスチック陽性であった。ヒトの便10gあたり中央値で20個のマイクロプラスチック(大きさ50-500μm)が同定された。全体として9種類のプラスチックが検出され、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートが最も多く検出された。 【結論】ヒトの便からは様々なマイクロプラスチックが検出され、異なる供給源から不用意に摂取されたことが示唆された。マイクロプラスチックの摂取の程度と人間の健康への潜在的影響についてさらなる研究が必要である。 第一人者の医師による解説 生体検体中のマイクロプラスチック 検出方法のさらなる研究必要 石橋 由基/岡村 智教(教授)  慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 MMJ.April 2020;16(2) プラスチックの生産量は年間3億5000万トンになり、指数関数的に増加している。マイクロプラスチックは5mm以下のプラスチック粒子と定義されることが多いが、それによる水中、地上、空気の汚染ならびに健康への影響が懸念されている。いくつかの先行研究では、動物において胃腸の組織や臓器への移行が確認されている。 しかし、人体への影響に関する疫学研究はいまだ不十分であり、世界保健機関(WHO)は「プラスチック粒子、特にナノレベルの粒子の物理的なハザードに関連する毒性の確かな結論を引き出す十分な情報はないが、 懸念であることを示唆する信頼できる情報はない」と述べている(1),(2)。 本研究では、日本(東京)を含む8カ国、8人のボランティアから便を採取し、便中のマイクロプラスチックを分析した。また曝露要因を調べるために、採取前6~7日間の食事内容や生活習慣を調査した。結果として8検体すべての便サンプルがマイクロプラスチック検査で陽性を示し、便10gあたり中 央値20個のマイクロプラスチックが確認された。 全体として、9種類のプラスチックが検出され、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートが最も多かった。便中のマイクロプラスチックに関する報告は本研究が初であり、その点でこの研究は新しい知見を追加している。しかしながら、結果の解釈には注意が必要である。   まず著者らも研究の限界として言及しているように、サンプル数が少なく、サンプルの代表性に問題がある。さらにマイクロプラスチック測定上の問題として、(1)前処理に使用した固定剤(ブロノポール)がポリマー特性に与える影響に関する検討が論文中で示されていない(2)定量結果の精度を確認するためのポジティブコントロールについての記載がない(3)ネガティブコントロールの詳細が示されていない(標準誤差、サンプル数も含めた報告が必要である)(4)検査の際の実験室環境に関する情報が記載されていない──などの問題 が挙げられる。 上記は水中におけるマイクロプラスチック調査に用いられる測定品質の評価基準(3)であるが、便中の測定でも同様の基準が必要と考えられる。その意味で、今後は健康への影響のエビデンスだけでなく、生体検体中のマイクロプラスチック測定のバリデーションに関する研究の蓄積も求められている。 1. 国立医薬品食品衛生研究所:食品安全情報(化学物質) No.20 (2019) 別添     【WHO】情報シート:飲料水中マイクロプラスチック . URL: https://bit.ly/2PRcfA7 2. WHO (2019). Information sheet: Microplastics in drinking-water. URL:https://bit.ly/2QdT56n 3.Koelmans AA et al. Water Res. 2019;155:410-422.
術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチドと非心臓手術後の心血管系イベント。コホート研究。
術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチドと非心臓手術後の心血管系イベント。コホート研究。
Preoperative N-Terminal Pro-B-Type Natriuretic Peptide and Cardiovascular Events After Noncardiac Surgery: A Cohort Study Ann Intern Med 2020 Jan 21;172(2):96-104. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】予備データでは、術前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)が非心臓手術を受ける患者におけるリスク予測を改善する可能性が示唆されている。 【目的】術前NT-proBNPが、術後30日以内の非心臓手術後の血管死と心筋損傷の複合に対して、臨床リスクスコア以上の予測価値を持つかどうかを明らかにする。 【デザイン】前向きコホート研究 【設定】9か国16病院【患者】入院で非心臓手術を受けた45歳以上の患者10402例。 【測定】すべての患者は術前にNT-proBNP値を測定し、術後3日まで毎日トロポニンT値を測定した。 【結果】多変量解析では、術前のNT-proBNP値が100 pg/mL未満(基準群)と比較して、100~200 pg/mL、200~1500 pg/mL、1500 pg/mL以上では調整ハザード比2.27(95%CI 1.0)と関連することが示された。27(95% CI, 1.90 to 2.70),3.63(CI, 3.13 to 4.21),5.82(CI, 4.81 to 7.05),主要転帰の発生率はそれぞれ 12.3%(1843 例中 226 例), 20.8%(2608 例中 542 例), 37.5%(595 例中 223 例)であった.臨床的層別化(すなわちRevised Cardiac Risk Index[RCRI])にNT-proBNPの閾値を追加したところ,1000人あたり258人の絶対的な再分類が正味で改善された。術前のNT-proBNP値も30日全死亡と統計的に有意に関連していた(100pg/mL未満[発生率、0.3%]、100~200pg/mL未満[発生率、0.7%]、200~1500pg/mL未満[発生率、1.4%]、1500pg/mL以上[発生率、4.0%])。 【結論】術前NT-proBNPは、非心臓手術後30日以内の血管死およびMINSと強く関連しており、RCRIに加えて心臓リスク予測を改善する。【Primary funding source】カナダ保健研究機構。 第一人者の医師による解説 バイオマーカーでの予測 実臨床への応用には課題 阿古 潤哉 北里大学医学部循環器内科学教授 MMJ.June 2020;16(3) 非心臓手術周術期に生じる心血管イベント、特に心筋梗塞の発症は周術期の合併症として非常に重要である。心血管イベントの発生率が高い欧米諸国において、非心臓手術の際の周術期リスク評価は、手術の適応を考えるうえでも重要な要素となる。今まで、周術期のリスク評価ツールとしては Revised Cardiac Risk Index(RCRI)が提唱されてきたが、RCRIの予後予測能力はそれほど高いものではないとされていた。 本研究は、非心臓手術 の 周術期 イ ベ ン ト を 評 価するために行われた前向きコホート研究であるVISION試験 の サ ブ 解析 と し て 実施 さ れ た。 VISION試験では2007年8月~13年10月に9カ国16施設から18,920人の患者が組み入れら れ た。 多変量解析 の 結果、術前 のNT-ProBNP値は主要評価項目である術後30日以内の血管死お よ びMINS(myocardial injury after noncardiac surgery;心臓手術後の心筋障害)からなる複合イ ベントの発生を予測した。さらに、RCRI単独のリスク評価より、RCRIにNT-ProBNPを加えた方が イベント予測に有用であった。論文中のイベント 累積発生曲線をみると、心不全評価にも用いられるこのマーカーは非常に高い予測能を有することが 一目瞭然である。 RCRIは、6つの要素(冠動脈疾患、心不全、脳血管 疾患、インスリンを必要とする糖尿病、腎不全、高リスク手術)の有無で手術のリスクを評価する方法である。比較的簡便であるがためにガイドラインでも推奨されているが、必ずしも予測能が良好ではないという問題点があった。今回、非常に大きい患者数のコホートを用いて、NT-proBNPの有用性に関して力強いデータを出したことが本研究の強みと言える。 しかし、いくつかの点は指摘しておく必要がある。 本研究では、血管死およびMINSが主要評価項目として採用されたが、ほとんどのイベントはMINS であった。MINSは具体的には心筋マーカーの上昇である。MINSが長期にどのようなイベントと関連してくるのかは、VISION試験の既報で述べられているが(1)、まだ他のコホートでは十分には検証されていない。 また、RCRIのc統計量は0.69で、NTproBNPを加えることにより0.75に改善する、すなわち予測能が改善すると著者らは報告しているが、この臨床的意義の大きさは不明である。また、 NT-proBNPの上昇が認められた時にどのような 介入が必要であるのかはまったく不明である。とはいえ、リスク評価にバイオマーカーが取り入れられる流れは間違いなさそうである。その意味で、今回の研究が最初の重要な一歩であることは評価できる。 1. Vascular Events In Noncardiac Surgery Patients Cohort Evaluation (VISION) Study Investigators. JAMA. 2012;307(21):2295-2304.
男性における血友病の有病率および出生時有病率の確立。全国登録によるメタ分析的アプローチ。
男性における血友病の有病率および出生時有病率の確立。全国登録によるメタ分析的アプローチ。
Establishing the Prevalence and Prevalence at Birth of Hemophilia in Males: A Meta-analytic Approach Using National Registries Ann Intern Med 2019 Oct 15;171(8):540-546. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】血友病の有病率には大きなばらつきが観察され、疾病負担の確実な推定を妨げている。 【目的】血友病の有病率と出生時の有病率、および関連する寿命の不利益を推定する。 【デザイン】登録データのランダム効果メタ分析。 【設定】オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、ニュージーランド、イギリス。【参加】男性血友病AまたはB患者。 【測定】男性人口に対する症例の割合としての血友病有病率、出生年別の男性出生児に対する症例の割合としての出生時血友病有病率、有病率と出生時有病率の1-比率としての余命の不利益、高所得国での有病率と出生時有病率に基づく世界の予想患者数。 【結果】有病率は(男性10万対)17.1であった。出生時有病率(男性10万人当たり)は、全重症度血友病A24.6例、重症度血友病A9.5例、全重症度血友病B5.0例、重症度血友病B1.5例であり、血友病A・重症度血友病A・重症度血友病B・重症度血友病Bは、それぞれ1例、1例で、血友病Aは1例である。高所得国の平均寿命の不利は、血友病Aで30%、重症血友病Aで37%、血友病Bで24%、重症血友病Bで27%。世界の血友病患者の予想数は1 125 000、そのうち重症血友病は418 000と考えられる。 【限定】併存疾患や民族の調整には詳細は不十分だった。 【結論】血友病の流行はこれまでの推定より高い。血友病患者は依然として余命のハンディがある。出生時の有病率を確立することは、失われた生命年数、障害のある生命年数、疾病負担を評価するためのマイルストーンとなる。【Primary funding source】なし。 第一人者の医師による解説 発展途上国には未診断患者が多数 公平なリソース普及の基盤となる成果 森 美佳1)、瀧 正志2) 1)聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院小児科助教、2)聖マリアンナ医科大学小児科学特任教授 MMJ.June 2020;16(3) 血友病は、凝固第 VIII因子または第 IX因子の遺伝子変異により先天的に凝固因子が欠乏し、止血困難をきたす疾患である。治療の進歩により、凝固因子製剤や新規治療薬を用いて出血を制御できるようになったが、発展途上国では、治療のみならず血友病の診断でさえも国家の医療制度の限界を超えている。世界的な血友病の疾病負担の推定には、正確な有病率の情報が必要だが、従来の報告は均一性に乏しい。 本研究では、世界血友病連盟(WFH)のデータおよび口統計委員会が、先進6カ国(オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、ニュージーランド、英国)の全国患者レジストリを用いて、男性の血友病 AおよびBの有病率を、3カ国(カナダ、フランス、英国)のレジストリより出生時有病率および余命損失率(1-有病率 /出生時有病率 )をランダム効果メタ解析で推算している。 その結果、男性10万人あたりの有病率は、血友病 Aの全重症度で17.1、重症で6.0、血友病 Bの全重症度で3.8、重症で1.1であった。出生時の有病率は、それぞれ24.6、9.5、5.0、1.5であった。全重症度の有病率は各国間で不均一性を認めたが、 重症の血友病 AまたはBに限ると各国間で有意な不均一性は認めなかった。得られた有病率を世界の男性人口38億人に適用すると、血友病患者数は 112.5万人、そのうち重度患者数は41.8万人と 推定された。また余命損失率は血友病 Aの全重症度で30%、重症で37%、血友病 Bの全重症度で 24%、重症で27%であった。 有病率は、疾病負担の推定に必要な基本情報であるとともに、各国の診断能力、患者登録の報告効率や有効性、経済能力が反映されうる。WFHの既報では世界の血友病患者は推定47.5万人であったが(1)、本研究の先進国の有病率をもとに推定された世界の血友病患者数は、この報告よりも大幅に多く、 発展途上国では未診断の患者や適切な治療を受けられていない患者が多数いると推測される。また余命損失率の結果より、先進国でも依然として血友病患者の平均余命が悪いことが明らかとなった。 本研究には、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症などの合併症や民族性を考慮した調整が不十分という限界はあるが、長期間にわたる全国患者登録データを使用した信頼性の高い有病率および出生時有病率の報告である。今回の結果は、世界的な血友病の疾病負担の推測に向けた非常に重要なマイルストーンであり、治療の適切さの指標および公平なリソースの普及のための基盤となりうるだろう。 1.Pierce GF et al. Haemophilia. 2018;24(2):229-235.
慢性不眠症障害と閉塞性睡眠時無呼吸症候群の管理について。2019年米国退役軍人省および米国国防総省の臨床実践ガイドラインのあらすじ。
慢性不眠症障害と閉塞性睡眠時無呼吸症候群の管理について。2019年米国退役軍人省および米国国防総省の臨床実践ガイドラインのあらすじ。
The Management of Chronic Insomnia Disorder and Obstructive Sleep Apnea: Synopsis of the 2019 U.S. Department of Veterans Affairs and U.S. Department of Defense Clinical Practice Guidelines Ann Intern Med 2020 Mar 3;172(5):325-336. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【説明】2019年9月、米国退役軍人省(VA)と米国国防総省(DoD)は、慢性不眠症障害と閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の患者を評価・管理するための新しい共同臨床診療ガイドラインを承認した。このガイドラインは、医療チームに、これらの疾患のいずれかを有するVAおよびDoD患者の個々のニーズや嗜好をスクリーニング、評価、治療、管理するための枠組みを与えることを目的としている。 【方法】2017年10月、VA/DoD Evidence-Based Practice Work Groupは、臨床関係者を含み、信頼できる臨床実践ガイドラインのためのInstitute of Medicineの10etsに準拠したVA/DoD合同ガイドライン作成作業を開始した。ガイドラインパネルは、キー・クエスチョンを設定し、体系的に文献を検索・評価し、1ページのアルゴリズムを3つ作成し、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムを用いて41の推奨事項を進めた。 [推奨事項]本シノプシスは、OSAと慢性不眠症の診断と評価、OSAの治療と管理、慢性不眠症の治療と管理の3つの分野におけるガイドラインの主要な推奨事項をまとめたものである。また、3つの臨床実践アルゴリズムも掲載しています。 第一人者の医師による解説 長期的な心血管系合併症抑制について 患者の納得を得る必要 巽 浩一郎 千葉大学真菌医学研究センター 呼吸器生体制御学研究部門特任教授 MMJ.August 2020;16(4) 睡眠呼吸障害(SDB)を内科的視点から評価・治療してきた医師向けの解説になることを最初にお断りしておく。今回発表された米国の診療ガイドラインは診療担当医のみでなく医療チーム構成員のために作成されたものだ。日本では、「眠れない」は心療内科専門医、「眠くて日常生活に支障がある」は睡眠時無呼吸疑いで呼吸器内科医・耳鼻科医の中で睡眠医療に従事している医師への受診が一般的である。しかし、不眠・傾眠を含めたSDBに関係する症状は混在していることもあり、これらを全体としてどのように捉えるべきかの基本的考え方が本ガイドラインでは以下のように解説されている。 不眠などの精神症状を主に訴える患者に対して、ベンゾジアゼピン系薬剤による薬物療法は簡便であるが推奨されていない。心の健康を害している患者は、現実の世界での心の悩みを適切に認知できなくなっている。つらいと感じていることからの逃避が起きている。認知行動療法は、心の悩みを自分自身で適切に認知できるような手助けをする、そしてどのような思考をするとより心が楽になれるかの手助けをする治療法である。 筆者は、閉塞型睡眠時無呼吸により眠気を感じている、無呼吸を放置したために脳血管障害などの心血管系合併症を比較的若年で起こした患者に遭遇することがある。本ガイドラインでは、閉塞性無呼吸に対する持続陽圧呼吸療法(CPAP)の有用性は確立されており、適応例にはまず試みるべき治療であると述べている。 しかし、CPAPはマスク装着が困難、鼻閉が生じる、口が渇く、睡眠中に覚醒してしまうなどさまざまの有害事象が生じうる。CPAPアドヒアランスを向上させるために、教育的指導が必要になる場合もある。CPAPは無呼吸低呼吸指数(AHI)を低下させる効果がある。しかし眠気の改善が得られない、血圧の値が下がらない(筆者は脳血管障害イベント抑制に役立てば問題なしと考える)、生活の質(QOL)が改善しない場合もある。それでもCPAP治療を継続すべきが基本的な考え方である。長期的に心血管系合併症を抑制する可能性が高いという利点を患者に納得していただく必要がある。 AHI≧15の中等症以上の無呼吸患者で、明らかな眠気がない場合、CPAPを開始して初めて自覚症状の改善に気づく場合もある。CPAP継続が困難な場合、マウスピース作成という手がある。AHI低下効果はCPAPほどではないが、自覚症状など十分な効果が期待できる。筆者の経験から、マウスピースの最大の問題点は自歯がないと作成が困難なことであり、高齢者では作成できない場合もある。
2型糖尿病患者におけるSodium-Glucose Cotransporter-2阻害剤による痛風リスクの評価。人口ベースのコホート研究。
2型糖尿病患者におけるSodium-Glucose Cotransporter-2阻害剤による痛風リスクの評価。人口ベースのコホート研究。
Assessing the Risk for Gout With Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors in Patients With Type 2 Diabetes: A Population-Based Cohort Study Ann Intern Med 2020 Feb 4;172(3):186-194. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】高尿酸血症は2型糖尿病患者に多く、痛風の原因となることが知られています。ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害剤は、グルコースの再吸収を防ぎ、血清尿酸値を下げる。 【目的】SGLT2阻害剤を処方された成人とグルカゴン様ペプチド-1(GLP1)受容体作動薬を処方された成人の痛風の発生率を比較することである。 【デザイン】人口ベースの新規使用者コホート研究 【設定】2013年3月から2017年12月の米国全国規模の商業保険データベース [患者]SGLT2阻害剤を新たに処方された2型糖尿病患者とGLP1アゴニストを新たに処方された患者と1対1の傾向スコアマッチングを実施した。痛風の既往がある、または以前に痛風特異的な治療を受けていた人は除外した。 【測定】主要アウトカムは、痛風の新規診断であった。Cox比例ハザード回帰を用いて主要アウトカムのハザード比(HR)と95%CIを推定した。 【結果】本研究では、SGLT2阻害薬またはGLP1作動薬を新たに処方された2型糖尿病の成人295907人が同定された。痛風発症率は、SGLT2阻害薬を処方された患者(1000人年あたり4.9件)がGLP1作動薬を処方された患者(1000人年あたり7.8件)よりも低く、HRは0.64(95%CI、0.57~0.72)、率の差は-2.9(CI、-3.6~-2.1)となっていた。限界】未測定の交絡、データの欠損(すなわち検査データの不完全さ)、痛風のベースラインリスクが低い。 【結論】SGLT2阻害剤を処方された2型糖尿病成人は、GLP1アゴニストを処方された成人と比較して痛風の割合が低いことが示された。ナトリウム・グルコース共輸送体-2阻害剤は、成人の2型糖尿病患者の痛風リスクを低減する可能性があるが、この観察を確認するためには今後の研究が必要である。 【Primary funding source】Brigham and Women’s Hospital. 第一人者の医師による解説 糖尿病患者の痛風リスク低下 臨床的意味の議論必要 山中 寿 山王メディカルセンター院長 MMJ.August 2020;16(4) 本論文は、糖尿病治療薬であるナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬が痛風関節炎を減らすかどうかを検討したコホート研究の報告である。全米民間保険データベースを用い、18 歳以上の痛風の既往のない2型糖尿病患者で、新たにSGLT2阻害薬とグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬を処方された295,907人を対象とした。 平均年齢は54歳、52%が女性、3分の2に高血圧合併、約4分の1がインスリン治療を受けていた。ベースラインの調整には傾向スコアマッチングが用いられた。1年間の痛風関節炎の頻度は、SGLT2阻害薬を処方された患者で4.9 / 1,000人・年、GLP-1受容体作動薬を処方された患者で7.8 /1,000人・年、この差はハザード比で0.64(95% CI, 0.57~0.72)に相当し、SGLT2 阻害薬の方が痛風発症が少なかった。 SGLT2阻害薬に血清尿酸値を低下する作用があることは以前から知られている。機序としては、SGLT2阻害薬が、同じく尿細管にあって尿酸を再吸収する尿酸輸送体URAT1を阻害して尿酸排泄を促すためと考えられる(1)。しかし、血清尿酸値を低下させることが痛風を減少させるかどうかはわからないために、今回の研究が行われた。骨密度を上昇させることが骨折の頻度を低下させるかどうか、と同じ種類のClinical Questionである。 本研究では、仮説どおりの結果が証明された。ただし、本研究は保険データベースを用いた検討であるので、臨床検査値のデータはなく、血清尿酸値が低下した結果として痛風が減ったかどうかはわからない。また、一般に糖尿病患者の血清尿酸値は低いことが知られており、痛風発症のリスクも低い。糖尿病患者の尿酸値を低下させることが、どのような臨床的意味があるかは議論されなければならない問題である。 なお、本論文中に高尿酸血症治療薬のフェブキソスタットはアロプリノールよりも心血管死のリスクが高いというCARES試験(2)の結果が紹介されているが、この臨床試験の評価に関しては意見が分かれており、否定的な意見の方が説得力がある(3)。読者に認識していただければ幸いである。 1. Nespoux J et al. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2020;29(2):190-198. 2. Becker MA et al. N Engl J Med. 2005;353(23):2450-2461. 3. Choi H et al. Arthritis Rheumatol. 2018;70(11):1702-1709.
米国における45歳までのヒトパピローマウイルスワクチン接種の有効性と費用対効果。
米国における45歳までのヒトパピローマウイルスワクチン接種の有効性と費用対効果。
Effectiveness and Cost-Effectiveness of Human Papillomavirus Vaccination Through Age 45 Years in the United States Ann Intern Med 2020 Jan 7;172(1):22-29. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】米国では、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの定期接種年齢は11~12歳であり、女性は26歳まで、男性は21歳までキャッチアップ接種が可能である。成人女性および男性に対する9価HPVワクチンの使用に関する米国の接種方針が見直されている。 【目的】米国の現行のHPV接種プログラムを27歳から45歳の女性および22歳から45歳の男性に拡大した場合の集団レベルの追加効果と費用対効果を評価する。 【デザイン】HPV感染と関連疾患の個人ベースの感染動態モデルであるHPV-ADVISE (Agent-based Dynamic model for VaccInation and Screening Evaluation) を用い、年齢別の米国データにキャリブレーションした。 【データソース】公開データ。【対象者】米国の27歳から45歳の女性、22歳から45歳の男性【時間軸】100年【視点】ヘルスケア部門【介入】9価HPVワクチン接種【アウトカム指標】予防したHPV関連アウトカムと費用対効果比 【基本ケース分析結果】モデルは、現在の米国でのHPVワクチン接種プログラムが、HPV関連アウトカムの予防と費用対効果比率を高めると予測するものであった。米国のHPVワクチン接種プログラムは、100年間で性器いぼとグレード2または3の子宮頸部上皮内新生物の診断数をそれぞれ82%、80%、59%、39%、子宮頸がんおよび非子宮頸部HPV関連がんの症例を減らし、コスト節約(対接種なし)となることを予測する。一方,ワクチン接種を 45 歳の女性および男性に拡大すると,これらのアウトカムをそれぞれさらに 0.4,0.4,0.2,0.2 パーセントポイント減少させると予測される.30歳、40歳、45歳までの女性および男性へのワクチン接種は、得られる質調整生命年あたり、それぞれ83万ドル、184万3000ドル、147万1000ドルの費用がかかると予測される(現行のワクチン接種と比較して)。 【感度解析結果】結果は、自然免疫および感染後の進行率、過去のワクチン接種率、ワクチン効果に関する仮定に対して最も敏感であった。 【限界】26歳以降の感染によるHPV関連疾患の割合や、現行のHPVワクチン接種プログラムによる群発効果の程度については不確実である。 【結論】現行のHPVワクチン接種プログラムは費用節約になると予測される。ワクチン接種を高齢者まで拡大しても、追加的な健康上の利益は小さく、現在の推奨よりも増分費用効果比が大幅に高くなると予測される。 【Primary funding source】疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention.) 第一人者の医師による解説 各国の実情に合わせた接種年齢設定が重要 日本での接種再普及時には幅広い年齢へのキャッチアップ接種の検討必要 上田 豊 大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学講師 MMJ.August 2020;16(4) ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは2006 年にHPV-6・11・16・18 型に対する4 価ワクチン、2007年にはHPV-16・18型に対する2価ワクチンが海外で承認された。さらに、HPV-6・11・16・18・31・33・45・52・58型のHPV感染を予防する9価ワクチンが2014年に米国で承認され、現在では70を超える国・地域で承認されている。HPVワクチンにより子宮頸がんなどの減少が期待されるが、男性に多い中咽頭がんの多くもHPV感染が原因とされ、海外では男子への接種も進んでいる。男子への接種は集団免疫の観点からも意義が大きい。 性交渉が感染経路として重要であるため、初交前にワクチン接種を行うことが効果的である。米国では11 ~ 12歳の男女を標準的な接種対象としており、他の国々でも同様のプログラムが組まれている。また、その時期に接種が行われなかった場合には、米国では女性には26歳、男性には21歳までの9価ワクチンのキャッチアップ接種が承認されている。 本研究では、米国でのこれまでの接種状況などをもとにHPV-ADVISE (Agent-based Dynamic model for Vaccination and Screening Evaluation)を用いて、接種上限年齢を男女とも45歳まで引き上げることの有効性および費用対効果の予測が行われた。 現状のプログラムにより、生涯のコンジローマ、子宮頸部前がん病変(CIN2・3)、子宮頸がんおよびHPV関連がんの診断数はそれぞれ82、80、59、39%減少させられるが、接種上限年齢を男女とも45歳に引き上げることによる追加減少効果はそれぞれ0.4、0.4、0.2、0.2%分と予測された。一方、30、40、45 歳までの女性と男性へのワクチン接種には、現在のプログラムと比較して、質調整生存年(QALY)あたりそれぞれ830 ,000、1,843 ,000、1,471,000ドルのコストがかかると算出された。 これらの結果からは、HPVワクチンの接種上限年齢を45歳まで引き上げるメリットは限定的と考えられるが、本研究で行われていた感度分析においては、費用対効果がワクチンの接種率や有効性に大きく依存することも示されている。日本ではHPVワクチンは積極的勧奨の差し控えにより、事実上停止状態となっており、9価ワクチンや男子への接種も承認されていない(執筆時点)。日本におけるHPVワクチン再普及時には対象年齢への接種に加え、幅広い年齢へのキャッチアップ接種についても検討する必要があるものと考えられる。
男性におけるテストステロン治療の有効性と安全性。米国内科学会による臨床実践ガイドラインのためのエビデンスレポート。
男性におけるテストステロン治療の有効性と安全性。米国内科学会による臨床実践ガイドラインのためのエビデンスレポート。
Efficacy and Safety of Testosterone Treatment in Men: An Evidence Report for a Clinical Practice Guideline by the American College of Physicians Ann Intern Med 2020 Jan 21;172(2):105-118. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】米国では過去20年間に成人男性におけるテストステロン治療率が上昇している。 【目的】性腺機能低下症の基礎となる器質的原因を持たない男性に対するテストステロン治療の有益性と有害性を評価する。 【データソース】複数の電子データベースの英語検索(1980年1月から2019年5月)及び系統的レビューの参考文献リスト。 【研究選択】経皮または筋肉内テストステロン療法をプラセボまたは無治療と比較評価し、事前に指定した患者中心のアウトカムを報告した6カ月以上継続した38件の無作為化対照試験(RCT)、および20件の長期観察研究、U.データ抽出】研究者1名によるデータ抽出を2名が確認し、研究者2名がバイアスのリスクを評価し、証拠の確実性は合意によって決定した。 【データ統合】研究では、年齢、症状、テストステロンの適用基準が異なる、主に高齢の男性が登録された。テストステロン療法は、効果の大きさは小さいものの、テストステロン値が低い男性の性的機能およびQOLを改善した(低~中程度の確実性を有する証拠)。テストステロン療法は、身体機能、抑うつ症状、エネルギーと活力、または認知にはほとんど影響を及ぼさなかった。試験で報告された有害性の証拠は、ほとんどの有害性アウトカムについて不十分または確実性が低いと判断された。心血管イベントまたは前立腺がんを評価するための検出力がある試験はなく、試験ではこれらの疾患のリスクが高い男性は除外されることが多かった。観察研究では、適応症および禁忌による交絡が制限された。 【Limitation】期間が1年を超える試験はほとんどなく、最小重要アウトカム差がしばしば確立または報告されず、RCTは重要な有害性を評価する検出力がなかった、18~50歳の男性におけるデータがほとんどなく、低テストステロンの定義が異なり、試験の参加基準も様々であった。【結論】性腺機能低下の原因となることが知られている医学的条件が確立されていないテストステロン値が低い高齢男性では、テストステロン療法は性的機能およびQOLにわずかな改善をもたらすかもしれないが、老化の他の一般的症状にはほとんどまたは全く有益でない。長期的な有効性と安全性は不明である [主な資金源]American College of Physicians.(プロスペロー:Crd42018096585). 第一人者の医師による解説 ARTの有用性や安全性 日本人を含めた大規模、長期的な臨床研究を期待 小川 純人 東京大学大学院医学系研究科老年病学准教授 MMJ.August 2020;16(4) 男性において、加齢による性ホルモンレベルの低下は男性更年期障害と関連し、late-onsethypogonadism(LOH)症候群として理解されている。LOH症候群の症状、徴候としては、(1)性欲と勃起の頻度や質の減退、(2)知的活動や認知機能の低下ならびに気分変調(疲労感、抑うつなど)、(3)睡眠障害、(4)筋量減少や筋力低下に伴う除脂肪体重の減少、(5)内臓脂肪の増加、(6)皮膚と体毛の変化、(7)骨量低下や骨折リスク上昇などが挙げられる。 LOH症候群では、不定愁訴で受診する場合も少なくなく、Aging Males’ Symptoms( AMS)スコアなどの質問票を通じた問診、スクリーニング、他疾患との鑑別に加えて、血中テストステロン濃度の測定をはじめとするホルモン学的検査を中心に、男性性腺機能を評価することが大切である。LOH症候群に対しては、アンドロゲン補充療法(ART)が考慮される場合も少なくないが、その前提として前立腺がん、PSA高値、うっ血性心不全などの除外基準を評価する。 本論文ではLOH男性に対するARTに関する臨床ガイドライン(米国内科医学会)の基礎となるエビデンスについて系統的レビューを行った。そこでは、65歳以上の男性にART(経皮薬または注射薬)を実施し、最低6カ月間の観察期間を有した38件のランダム化比較試験と20件の長期観察研究を対象にメタアナリシスが行われた。 その結果、全般的な性機能の改善、AMSスコアに基づくQOLの改善について、ARTにわずかな効果が認められ、その効果は経皮薬、注射薬いずれにおいてもほぼ同等であった。一方、疲労感、活力低下、身体機能低下、認知機能低下など加齢に伴う諸症状に対しては、ARTによる有意な改善効果は認められなかった。また、ARTに伴う心血管イベントや前立腺がんのリスクについては有意差など明らかな結果が得られなかった。 実臨床においてLOH症候群に対してARTを行う際には、『加齢男性性腺機能低下症候群診療の手引き(日本泌尿器科学会/日本Men’s Health医学会編)』(1)などに基づき、患者本人の意向、性機能・QOL改善の可能性、有害事象リスク、費用などを事前に十分話し合うことが大切である。また、ART開始後は前立腺特異抗原(PSA)を含む定期的な血液検査に加えて、臨床症状や治療効果を定期的にフォローアップすることが重要である。本研究を含め、これまでに行われたランダム化比較試験は患者数も少なく治療・観察期間も短いものが多い。今後、ARTの有用性や安全性について、日本人を含めた大規模かつ長期的な臨床研究が期待される。 1. 日本Men's Health 医学会:資料公開サイト http://www.mens-health.jp/wp-content/uploads/2018/08/LOHguidelines.pdf
移植患者のサイトメガロウイルス血症予防に用いるポックスウイルスベクターサイトメガロウイルスワクチン 第II相無作為化臨床試験
移植患者のサイトメガロウイルス血症予防に用いるポックスウイルスベクターサイトメガロウイルスワクチン 第II相無作為化臨床試験
Poxvirus Vectored Cytomegalovirus Vaccine to Prevent Cytomegalovirus Viremia in Transplant Recipients: A Phase 2, Randomized Clinical Trial Ann Intern Med. 2020 Mar 3;172(5):306-316. doi: 10.7326/M19-2511. Epub 2020 Feb 11. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】Triplexワクチンは、造血幹細胞移植(HCT)後間もないサイトメガロウイルス(CMV)特異的T細胞の増強およびCMV再活性化の予防を目的に開発された。 【目的】Triplexの安全性および有効性を明らかにすること。 【デザイン】初めて患者を対象とする第II相試験(ClinicalTrials.gov:NCT02506933)。 【設定】米国のHCTセンター3施設。 【参加者】CMV再活性化のリスクが高いCMV血清反応陽性のHCTレシピエント102例。 【介入】HCT後28日時および56日時にTriplexまたはプラセボの筋肉内注射。Triplexは、免疫優性CMV抗原を発現する組み換え弱毒ポックスウイルス(改変ワクシニアアンカラ) 【評価項目】主要転帰は、CMVイベント(CMV DNA値≧1250IU/mL、抗ウイルス治療を要するCMV血症、末端臓器障害のいずれか)、非再発死亡、重度(グレード3または4)の移植片対宿主病(GVHD)とし、いずれもHCT後100日間にわたって評価し、注射に起因するかその疑いがあるグレード3または4の有害事象(AE)はワクチン投与後2週間以内に評価した。 【結果】計102例(各群51例)が初回ワクチン接種、91例(89.2%)が2回目のワクチン接種を完了した(Triplex 46例、プラセボ51例)。Triplex群5例(9.8%)、プラセボ群10例(19.6%)にCMVの再活性化が確認された(ハザード比0.46、95%CI 0.16-1.4、P=0.075)。Triplex群に初回ワクチン接種から100日以内の非再発死亡や重度AE、ワクチン接種2週間以内のワクチン接種によるグレード3または4のAEはなかった。注射後の重度急性GVHD発生率は両群で同等だった(ハザード比1.1、CI 0.53-2.4、P=0.23)。Triplex群の長期持続pp65特異的エフェクターメモリー表現型T細胞レベルがプラセボ群より高かった。 【欠点】プラセボ群のCMVイベント発生率が予想以上に低かったことで試験の検出力が低下した点。 【結論】ワクチンによる安全性の懸念は特定されなかった。TriplexはCMV特異的免疫反応を誘発増強し、Triplexワクチンを接種した患者にCMV血症はほとんど見られなかった。 第一人者の医師による解説 安全性を有しより効果が確実な サイトメガロウイルスワクチンに期待 新庄 正宜 慶應義塾大学医学部小児科専任講師 MMJ. October 2020; 16 (5):145 サイトメガロウイルス(CMV)ワクチン(1)には、弱毒性のキメラワクチン(全ウイルスを抗原)、体内では増殖が不可能 なdisabled infectious single cycle(DISC)ワクチンであるV160(全ウイルスを抗原)、MF59アジュバントを含むgB/MF59(gBを抗原)、DNAワクチンのVCL-CT02(pp65、IE1、gBを抗原)やASP0113(gB、pp65を抗原)、そしてウイルスベクターワクチンとして、AVX601(gB、pp65、IE1を抗原)と今回のMVATriplex(pp65、IE1、IE2を抗原)などがある。これらは、その効果、免疫原性、持続性などの問題や臨床試験中である事情を有することから、実用化に至っていない。  本論文とは別の報告ではあるが、移植患者へのCMVワクチンの応用については、DNAワクチンのASP0113(上述)の研究(第 III相試験)が知られている。しかし、CMV抗体陽性の造血幹細胞移植患者に対して、移植後1年間の全死亡数やCMV感染症の発生率などの主要評価項目で、有意な効果は認められなかった。また、腎移植患者においても有効性は示されなかった(第 II相試験)(アステラス製薬 ニュース https://www.astellas.com/jp/ja/news より)。いずれも局所部位反応以外の問題はなかった。  さて、本論文で報告された第 II相ランダム化試験は、CMVの再活性を予防するために、ポックスウイルスをベクターとした筋注ワクチン(Triplex)もしくはプラセボを、CMV抗体陽性の造血幹細胞移植患者(合計102人)に2回(移植後28日目と56日目)接種し、CMVの再活性化や安全性を評価したものである。非再発死亡やグレード 3~4の有害事象はいずれもわずかであった。移植後100日以内のCMV感染症(ウイルス DNA 1,250 IU/ml以上、治療を要するウイルス血症、またはCMV末期臓器疾患[EOD])はワクチン接種群で少ない傾向(9.8% 対 19.6%)にあったが、重症の急性移植片対宿主病(GVHD)はワクチン接種群で多い傾向(15.7% 対 7.8%)にあった。いずれも差があると言い切ることはできなかった(P>0.05)。今回は、プラセボ群で30%程度の発症があると見込んだために、効果に有意差が出なかったことが考えられた。メモリーフェノタイプ T細胞はワクチン接種群で有意に多く、移植後365日目までは高い傾向を示した。  移植患者に対するCMVワクチンは、いずれも高い安全性を有しているようであるが、現時点で有効とはいえない。より効果が確実なCMVワクチンの登場に期待したい。 1. 南修司郎. サイトメガロウイルスワクチン.耳喉頭頸.2020 ;92 (4):326-329.
高感度心筋トロポニンを用いた症候性患者からの誘発性心筋虚血の除外 コホート研究
高感度心筋トロポニンを用いた症候性患者からの誘発性心筋虚血の除外 コホート研究
Using High-Sensitivity Cardiac Troponin for the Exclusion of Inducible Myocardial Ischemia in Symptomatic Patients: A Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Feb 4;172(3):175-185. doi: 10.7326/M19-0080. Epub 2020 Jan 7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】症候性安定冠動脈疾患(CAD)患者の監視に最適な非侵襲的方法は明らかになっていない。 【目的】症候性CAD患者の誘発性心筋虚血の除外に超低濃度の高感度心筋トロポニンI(hs-cTnI)を用いた新たなアプローチを応用すること。 【デザイン】前向き診断コホート研究(ClinicalTrials.gov:NCT01838148)。 【設定】大学病院。 【参加者】誘発性心筋虚血の疑いで紹介されたCADの連続症例1896例。 【評価項目】単一光子放射断層撮影(SPECT)による心筋血流シンチグラフィ、可能であれば冠動脈造影および冠血流予備量比を用いて、誘発性心筋虚血の有無を判定した。判定を伏せておいたスタッフがhs-cTn濃度を測定した。ほぼ無症状のCAD患者から事前に得たhs-cTnIカットオフ値2.5ng/Lを評価した。事前に規定した誘発性心筋虚血の除外の目標診断精度の基準を陰性適中率(NPV)90%以上かつ感度90%以上とした。hs-cTnTアッセイの測定値、さらに分析感度の高い代替hs-cTnI検査(検出限界0.1 ng/L)を基に感度解析を実施した。 【結果】全体で865例(46%)から誘発性心筋虚血が検出された。誘発性心筋虚血除外のカットオフ値2.5ng/LのMPVは70(95%CI 64-75%)、感度90%(CI 88-92%)だった。いずれの値も事前に定義した目標診断能の基準に達したhs-cTnIのカットオフ値は得られなかった。別のhs-cTnIまたは高感度心筋トロポニンT(hs-cTnT)検査でも、目標診断能の基準に達したカットオフ値はなく。hs-cTnT濃度5ng未満がNPV 66%(CI 59-72%)、hs-cTnI濃度2ng/L未満がNPV 68%(CI 62-74%)だった。 【欠点】中央判定を用いた大規模単施設診断研究でデータを生成した点。 【結論】症候性CADで、hs-cTnIカットオフ値2.5ng/Lの超低濃度hs-cTnでは、安全に誘発性心筋虚血を除外することができない。 第一人者の医師による解説 採血だけの高感度心筋トロポニン 低侵襲による心筋虚血リスク評価は多くの福音 島田 俊夫 静岡県立総合病院臨床研究部統括部長 MMJ. October 2020; 16 (5):134 高感度心筋トロポニン(hsCTn)は急性心筋梗塞、急性心筋炎、慢性心筋炎、心筋症、抗がん剤による心筋障害、心不全などで上昇することが報告されている。急性心筋梗塞の診断に関してはガイドラインも存在し適用がほぼ確立されている(1)。hsCTn検査のメリットとして、採血のみで心筋障害の有無を短時間で低侵襲的に診断できる、入院が不要、無駄な侵襲性の高い検査を回避できる、医療費の削減につながることなどが挙げられ、導入への期待は大きい。心筋トロポニンは3種類(トロポニンI、T、C)あり、臓器特異性のあるIとTが使用されている。 本論文は、hsCTnを使って安定な冠動脈疾患患者で誘発心筋虚血を評価できるか検証したチャレンジングなコホート研究の報告である。結果の詳細は原著に委ねるとして、筆者が作成した2×2分割表を詳細に分析すれば論文の内容を正確に理解できよう。そのためにはBayes乗法の定理の理解が必要であるが詳細は省略する(2)。 研究対象は安定冠動脈疾患患者1,896人で、表から有病率46%(865/1,896)が検査前確率になる。SPECT虚血陽性面積10%未満を陽性とした場合を例に示す。hsCTnIのカットオフ値は2.5ng/Lである3。本研究の関心対象は陰性結果であり、検査後オッズ =検査前オッズ×陰性尤度比=0.84×0.5=0.42であった。以上から検査後確率 =0.42/(1+0.42)=0.3で、検査前確率0.46から0.3に低下した。陽性の場合は陰性尤度比を陽性尤度比に替えると検査後確率は0.485になる。検査前確率0.46から検査後確率0.485とわずかに上がった。SPECT誘発心筋虚血面積10%以上を陽性と判定した場合、陰性において検査前確率0.14から検査後確率0.07に低下、陽性の場合は検査後確率0.15で変わらなかった。比較対照に用いたhsCTnT(エレクシス)、超 hsCTnI(エレナ)の結果もやや劣るか、同等であった。現段階では、採血によるhsCTnによる誘発心筋虚血の診断/除外は難しいが、低侵襲による心筋虚血リスク評価は多くの福音をもたらすため研究達成を期待したい。 筆者らも“健康集団(約1,000人)”を対象に血清 hsCTnI/Tを測定し、四分位数群の下位群と上位群でFraminghamリスクスコアを比較すると上位群のスコアが有意に高く、本論文の内容は意味深長だと受け止めている。 1. ygesen K, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;72(18):2231-2264. 2. 島田俊夫 , et al. 臨床病理 2016;64:133-141. 3. Hammadah M, et al. Ann Intern Med. 2018;169(11):751-760.
アルツハイマー型認知症治療に用いる処方薬と栄養補助食品の便益と有害性
アルツハイマー型認知症治療に用いる処方薬と栄養補助食品の便益と有害性
Benefits and Harms of Prescription Drugs and Supplements for Treatment of Clinical Alzheimer-Type Dementia Ann Intern Med . 2020 May 19;172(10):656-668. doi: 10.7326/M19-3887. Epub 2020 Apr 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】アルツハイマー型認知症(CATD)の薬物治療の効果が明らかになっていない。 【目的】CATD治療に用いる処方薬と栄養補助食品の効果に関する根拠をまとめえること。 【データ入手元】電子文献データベース(開始から2019年11月)、ClinicalTrials.gov(2019年10月)および文献の系統的レビュー。 【試験選択】処方薬と栄養補助食品を用いた高齢CATDの治療を検討し、認知機能や生活機能、全般的評価、認知症の行動と心理症状(BPSD)、有害性を報告した英語の試験。最短治療期間を24週間とした(一部のBPSDは2週間以上)。 【データ抽出】バイアスリスク(ROB)が低度または中等度を示す試験を解析した。レビュアー2人がROBを等級付けした。レビュアー1人がデータを抽出し、別の1人が抽出の精度を検証した。 【データ合成】非BPSD転帰(ほとんどが26週間以下)を報告した試験55件とBPSD(ほとんどが観察期間12週間以下)を報告した12件を解析した。CATDの重症度全般にわたって、主に低強度の根拠から、プラセボと比較したコリンエステラーゼ阻害薬で認知機能が平均してわずかに改善し(標準化平均差[SMD]中央値0.30[範囲0.24-0.52])、生活機能は差がないか、わずかな改善を示し(SMD中央値0.19[範囲-0.10-0.22])、臨床全般印象度に中等度以上の改善の尤度に差がなく(絶対リスク差中央値4%[範囲2-4])、有害事象による治療中止が多かった。コリンエステラーゼ阻害薬を投与する中等症ないし重症CATDで、低強度ないし不十分な根拠から、プラセボと比較してメマンチン追加で一貫性はないが認知機能が改善し、臨床全般印象度も改善を示したが、機能は改善が見られなかった。BPSDに用いる処方薬やあらゆる転帰に及ぼす栄養補助食品の効果に関する根拠が不十分であった。 【欠点】ほとんどの薬剤で高強度のROBを示す試験がほとんどなく、特に栄養補助食品、有効成分の比較、BPSD、長期間の試験に関するものが顕著であった。 【結論】コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンで短期間の認知機能低下が抑制され、コリンエステラーゼ阻害薬でわずかな機能低下抑制が報告されたが、プラセボとの差に臨床的な重要性があるか明らかではなかった。BPSDの薬物治療、あらゆる転帰にもたらす栄養補助食品の効果に関する根拠がほとんど不十分であった。 第一人者の医師による解説 BPSDへの効果やサプリメント類の効果は エビデンス不十分で判断できず 佐藤 謙一郎 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学/岩坪 威 東京大学大学院医学研究科神経病理学教授 MMJ. December 2020;16(6):165 アルツハイマー型認知症(AD)に対する治療として2008年にまとめられた系統的レビュー(1)、また米国家庭医療学会(AAFP)および米国内科医学会(ACP)より発表されたガイドライン(2)においては、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)およびN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬(メマンチン)は、プラセボと比較し、認知機能を統計学的に有意に改善するとされたものの、これらの薬剤使用により臨床的に重要な認知機能・生活機能の改善がどの程度得られるかは不明であった。また日常臨床においては周辺症状(BPSD)に対しても、これらの薬剤はしばしば用いられるが、BPSDに対する効果も不明であった。さらには、ビタミン Dやその他のサプリメント類の効果などについても不明であった。そこで本論文では、AAFPの新ガイドライン出版を見据えて、2008年のエビデンスからさらにアップデートし、上記治療薬・サプリメントの認知機能・生活機能、BPSDなどに対する効果および有害事象について、バイアスリスクが低~中等度の臨床試験を対象に系統的レビューを行った。  解析対象とした試験66件のうち55件がBPSD以外のアウトカムを報告しており、ほとんどの試験で観察期間は26週以下と短期間であった。また12件の試験がBPSDをアウトカムとして報告しており、そのほとんどの観察期間は12週以下とさらに短期間であった。コリンエステラーゼ阻害薬は、プラセボと比較し、認知機能を小幅に改善し、生活機能についてはほとんど改善せず、また有害事象による中止率が高かった。特に中等度以上のADにおいては、(エビデンスは不十分ながらも)メマンチンをコリンエステラーゼ阻害薬に加えた場合、プラセボと比較し、認知機能は改善するが生活機能は改善しなかった。BPSDに対する処方薬のエビデンス、また全アウトカムに対するサプリメント類のエビデンスは不十分であった。  結論としては、既存のコリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチンの認知機能・生活機能に対する効果の位置付けに大きな変化はない。また、今回追加的に検討したBPSDに対する効果やサプリメント類による治療効果についてはエビデンスが不十分で判断できない、という結論になる。 1. Raina P, et al. Ann Intern Med. 2008;148(5):379-397. 2. Qaseem A, et al. Ann Intern Med. 2008;148(5):370-378.
認知機能障害が疑われる高齢者でアルツハイマー型認知症と軽度認知障害や認知機能正常者を見分ける簡易認知機能検査
認知機能障害が疑われる高齢者でアルツハイマー型認知症と軽度認知障害や認知機能正常者を見分ける簡易認知機能検査
Brief Cognitive Tests for Distinguishing Clinical Alzheimer-Type Dementia From Mild Cognitive Impairment or Normal Cognition in Older Adults With Suspected Cognitive Impairment: A Systematic Review Ann Intern Med . 2020 May 19;172(10):678-687. doi: 10.7326/M19-3889. Epub 2020 Apr 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】簡易アルツハイマー型認知症(CATD)を検出する認知機能検査の精度と有害性は明らかになっていない。 【目的】認知機能障害が疑われる高齢者でCATDを検出する簡易認知機能検査の精度と有害性に関する科学的根拠をまとめること。 【データ入手元】電子文献データベース(開始から2019年11月まで)と系統的レビューの文献。 【試験選択】高齢者を対象に、既存の診断基準で定義したCATDを軽度認知障害(MCI)または認知機能正常を区別する簡易認知機能検査(個別検査;記憶検査、実行機能検査および言語検査;簡易総合検査)の精度を評価した英語の対照観察試験。リスクバイアス(ROB)が低度または中等度を示した試験を解析対象とした。 【データ抽出】レビュアー2人がROBを等級付けした。レビュアー1人がデータを抽出した、もう1人が抽出精度を検証した。 【データ合成】57試験が解析基準を満たした。多くの簡易個別認知機能検査で、正常認知機能とCATDを見分ける感度および特異度が良好で、個別検査(時計描画検査:感度中央値0.79、特異度中央値0.88[8試験]、Mini-Mental State Examination[MMSE]:0.88と0.94[7試験]、Montreal Cognitive Assessment:0.94と0.94[2試験]、Brief Alzheimer Screen:0.92と0.97[1試験])、記憶検査(記憶遅延再生:0.89と0.94[5試験])および言語検査(意味流暢性課題:0.92と0.89[9試験])が検討されていた。軽度CATDと正常認知機能、CATDとMCIを見分ける精度が低かった。検査の有害性を報告した試験はなかった。 【欠点】試験の規模が小さかった点、複数の試験で評価した測定基準がほとんどなかった点、別の検査やスコア、カットオフ値、検査の組み合わせを直接比較した試験がほとんどなかった点。 【結論】多くの簡易個別認知機能検査で、高齢者のCATDと正常認知機能を正確に見分けることができるが、軽度CATDと正常認知機能、CATDとMCIを見分ける場合は精度が低下した。検査が有害であることを報告した試験はなかった。 第一人者の医師による解説 簡易認知機能検査によりさらに詳細な検査を行うべき「候補」を決めるとよい 福井 俊哉 花咲会かわさき記念病院病院長 MMJ. December 2020;16(6):166 臨床的にアルツハイマー病が示唆される認知症(clinical Alzheimer-type dementia;CATD)の診断は認知症を専門としないプライマリケア医にとっては結構難しい。CATDの診断は、詳細な病歴、問診、身体的診察、形態的・機能的画像所見、脳脊髄液バイオマーカーに加えて、記憶・判断・視空間認知・実行機能などを質的・量的に評価する詳細な認知検査の結果に基づいて総合的に下されるが、この過程は認知機能低下を有する患者と非専門医にとって負担が大きい。残念ながらいまだに簡易認知機能検査がCATDを軽度認知障害(MCI)や認知機能正常者(以下、正常者)から区別できるというエビデンスはない。本論文ではこの点に焦点を当て、簡易認知機能検査の認知症診断能力に関する英語論文を網羅し、どの検査がこの目的に対して有用かについてレビューを行った。論文の引用基準として、CATD/MCIが既存の診断基準(NINCDSADRDA/Petersen criteriaなど)に基づいていること(正常者の定義はさまざま)、各認知機能レベル群25人以上であること、関連因子がもたらすバイアスのリスクが中等度以下であること、検査をすることのデメリット(社会的偏見や不要な治療)について考察されていることなどが設定されている。これらの条件を満たした横断的対照観察研究は57/5,007編あった。  個別的認知機能検査(時計描画検査、記憶検査、言語検査)および総合的認知機能検査(Mini-Mental State Examination[MMSE]、Montreal Cognitive Assessment[MoCA]、Brief Alzheimer Screen)が検討された。CATDと正常者の鑑別において、MMSE、MoCA、BriefAlzheimer Screen、記憶遅延再生、意味性語想起の感度・特異度は高く90%を超えていた。さらにCATDが重度になると、感度・特異度は上がる傾向にあった。一方、CATDとMCI、また軽度CATDと正常者の鑑別においては各検査とも感度・特異度が80%程度に低下した。検査施行が有害であったとの報告はなかった。  結論は、「簡易認知機能検査 は 中等度以上のCATDを正常者から区別する感度・特異度は高いが、CATDとMCI、軽度CATDと正常者を区別する能力は低い」である。将来、CATD/MCI/正常者を正確に診断する簡易認知機能検査を開発する必要があると締めくくられている。実臨床では簡易認知機能検査を用いてCATDを「推定」し、詳しい診断過程を必要とする「候補」を決定するとよい。
日常診療で心房細動患者に用いるリバーロキサバンと比較したアピキサバンの有効性と安全性 コホート研究
日常診療で心房細動患者に用いるリバーロキサバンと比較したアピキサバンの有効性と安全性 コホート研究
Effectiveness and Safety of Apixaban Compared With Rivaroxaban for Patients With Atrial Fibrillation in Routine Practice: A Cohort Study Ann Intern Med . 2020 Apr 7;172(7):463-473. doi: 10.7326/M19-2522. Epub 2020 Mar 10. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】アピキサバンとリバーロキサバンは成人心房細動患者に最もよく処方される直接経口抗凝固薬であるが、安全性と有効性を直接比較したデータはない。 【目的】非弁膜症性心房細動の成人患者でアピキサバンとリバーロキサバンの安全性と有効性を比較すること。 【デザイン】新規使用者、実薬対照、後ろ向きコホート研究。 【設定】2012年12月28日から2019年1月1日までの米国の全国民間健康保険請求データベース 【参加者】新たにアピキサバン(5万9172例)またはリバーロキサバン(4万706例)を処方された成人。 【評価項目】主要有効性評価項目は、虚血性脳卒中または体塞栓の複合とした。主要安全性評価項目は、頭蓋内出血または症渇感出血の複合とした。 【結果】アピキサバンを新たに処方された3万9351例をリバーロキサバンを新たに処方された3万9351例と傾向スコアでマッチさせた。平均年齢が69歳、40%が女性で、平均追跡期間が新規アピキサバン使用者288日、新規リバーロキサバン使用者291日であった。虚血性脳卒中または体塞栓の発生率は、リバーロキサバンを処方された成人で1000人年当たり8.0であったのに比較すると、アピキサバンを処方された成人で1000人年当たり6.6であった(HR 0.82、95%CI 0.68-0.98、1000人年当たりの率比-1.4、CI 0.0-2.7)。このほか、アピキサバンを処方された成人で、消化管出血または頭蓋内出血の発生率(1000人年当たり12.9)がリバーロキサバンを処方された成人(1000人年当たり21.9)よりも低く、ハザード比0.58(CI, 0.52 to 0.66)と1000人年当たりの率比-9.0(同6.9-11.1)に相当した。 【欠点】未測定の交絡因子、検査データが不完全な点。 【結論】日常診療で、アピキサバンを処方した心房細動の成人患者がリバーロキサバンを処方した患者と比べると、虚血性脳卒中や体塞栓、出血の発生率が低かった。 第一人者の医師による解説 用量の違いに注意必要だが NVAF患者へのDOAC選択はアピキサバンが最適か 児玉 隆秀 虎の門病院循環器センター内科部長 MMJ. December 2020;16(6):167 経口抗凝固薬は心房細動に関連する虚血性脳卒中のリスクをおよそ70%低下させることができる。日本では現在4種類の直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が使用可能で、世界的に最も処方数が多いのはアピキサバンとリバーロキサバンである。今までこの2剤の安全性と有効性を直接比較した大規模データは発表されていなかった。  本研究では米国の保険データベースを用いて、アピキサバンまたはリバーロキサバンを新規に処方された非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象に、傾向スコア解析法を用いて有効性と安全性を検証した。有効性の主要評価項目は虚血性脳卒中またはその他塞栓症の複合イベント、安全性のそれは頭蓋内出血または消化管出血の複合イベント。アピキサバン群59,172人、リバーロキサバン群40,706人の中から傾向スコアマッチング(1:1)を行った結果、各群の患者数は39,351人で傾向性は良好に調整された。有効性評価項目のイベント発生率はアピキサバン群6.6/1,000人・年,リバーロキサバン群8.0/1,000人・年(ハザード比[HR], 0.82)、安全性評価項目のイベント発生率はアピキサバン群12.9/1,000人・年,リバーロキサバン群21.9/1,000人・年(HR, 0.58)とアピキサバン群の方が有効性・安全性ともに優れていた。70歳以上に対象を絞り込んだサブグループ解析でも同様の結果であった。  本研究は傾向スコア解析法を用いたコホート研究であり、収集不可能なパラメータがある以上、すべての交絡因子を完全に排除することはできない。しかしながら、それぞれ4万人近い患者を可能な限りのパラメータを用いて厳密に交絡因子を調整した解析結果と考えれば、リアルワールドデータとして実臨床に応用可能である。注意すべき点としては、日本におけるリバーロキサバンの用量は15mg1日1回で海外の用量(20mg 1日1回)と異なるため、海外のデータをそのまま適応しづらい点にある。ただし、本研究から有効性のみでなく安全性においてもリバーロキサバンに対しアピキサバンが優位であることを考えると、用量の少ない日本の臨床に適応できるデータと考える。日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同の「不整脈薬物療法ガイドライン2020年改訂版」でも大出血リスクの低いDOACとしてリバーロキサバンは選択肢から除外されており(クラス IIa)、1日2回投与という服薬コンプライアンスに影響を与える因子を排除できれば、NVAF患者にリバーロキサバンではなくアピキサバンを選択することは妥当であるといえよう。
PCI後の心房細動に用いる2剤併用療法と3剤併用療法の比較 系統的レビューとメタ解析
PCI後の心房細動に用いる2剤併用療法と3剤併用療法の比較 系統的レビューとメタ解析
Dual Versus Triple Therapy for Atrial Fibrillation After Percutaneous Coronary Intervention: A Systematic Review and Meta-analysis Ann Intern Med . 2020 Apr 7;172(7):474-483. doi: 10.7326/M19-3763. Epub 2020 Mar 17. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の非弁膜症性心房細動(AF)に用いる3剤併用療法(ビタミンK拮抗薬+アスピリン+P2Y12阻害薬)と比較した2剤併用療法(直接経口抗凝固薬[DOAC]+P2Y12阻害薬)の安全性と有効性は明らかになっていない。 【目的】PCI後のAFで、3剤併用療法と比較した2剤療法が出血と虚血性転帰にもたらす効果を明らかにすること。 【データ入手元】PubMed、EMBASE、Cochrane Library(開始から2019年12月31日まで)およびClinicalTrials.govの言語の制約なしの検索、医学雑誌のウェブサイト、文献一覧。 【試験の選択】PCI後のAF成人患者を対照に、2剤併用療法と3剤併用療法が出血、死亡率および虚血性事象にもたらす効果を比較した無作為化比較試験。 【データ抽出】独立した調査員2人がデータを要約し、根拠の質を評価し、根拠の質を等級付けした。 【データ合成】7953例を検討した試験4件を選択した。追跡期間中央値は1年、高度の根拠の質で、3剤併用療法と比べると、2剤併用療法で大出血のリスクが低下した(リスク差-0.013、95%CI -0.025--0.002)。低度の根拠の質で、3剤併用療法と比べると、2剤併用療法によって全死亡(同0.004、-0.010-0.017)、心血管死(同0.001、-0.011-0.013)、心筋梗塞(同0.003、同-0.010-0.017)、ステント血栓症(同0.003、-0.005-0.010)および脳卒中(同-0.003、-0.010-0.005)のリスクが低下した。この効果の信頼区間の上限値は2剤併用療法でのリスク上昇の可能性対応する。 【欠点】試験デザイン、DOAC用量およびP2Y12阻害薬の種類の異質性。 【結論】PCI後の成人AFで、2剤併用療法で3剤併用療法に比べて出血リスクが低下するが、死亡と虚血性事象のリスクにもたらす効果はいまだに明らかになっていない。 第一人者の医師による解説 血栓事象や死亡は不変だが 2剤併用療法選択のエビデンスは強固に 清末 有宏 東京大学医学部附属病院循環器内科助教 MMJ. December 2020;16(6):168 冠動脈ステント留置後のステント血栓症予防療法については、冠動脈ステントが実用化された1990年ごろから現在まで実に30年来の議論が続いており、いまだ最終結論にたどり着いていない。その主な理由としては、次々と新しい冠動脈ステント(金属ステント→第1~3世代薬剤溶出性ステント)および抗血栓薬が登場していることが推察される。また日本では経皮的冠動脈形成術(PCI)施行患者の高齢化が進み、心房細動(AF)合併率が上昇していることも抗血栓療法を取り巻く状況をさらに複雑化している。PCI施行患者レジストリーのCREDO-Kyotoで は8.3%にAFの合併が(1)、心房細動患者レジストリーのJ-RHYTHMでは10.1%に冠動脈疾患の合併が報告されており(2)、合併率は年々上昇していると考えられる。AF合併患者においてはPCI後に標準的な抗血小板療法に、AFに標準的な抗凝固療法を加えた適切な抗血栓療法を考える必要があり、一部効果がオーバーラップするため、その併用はそれぞれの単独療法とは別途検討が必要になる。  本論文はこのような背景の下、AF合併のPCI施行患者について、近年非弁膜症性AFに標準的に用いられるようになった直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)にP2Y12阻害薬のみを併用する2剤併用療法と、古典的にワルファリンに抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)、つまりアスピリンとP2Y12阻害薬を併用する3剤併用療法を比較して、出血事象、血栓事象、死亡のそれぞれをメタアナリシスで検討している。最終的に選定された解析対象は、現在日本で発売されている4種のDOACのそれぞれの主要大規模ランダム化対照試験であるPIONEER AF-PCI、RE-DUAL PCI、AUGUSTUS、ENTRUST-AF PCIの4試験であった。結果として、2剤併用療法の選択により統計学的有意な出血事象の減少を認め、血栓事象および死亡は有意差を認めなかった。これはRE-DUAL PCIとAUGUSTUSのそれぞれの単独試験と全く同じ結果であり、残りのPIONEER AF-PCIとENTRUST-AF PCIでも同様の傾向であった。研究の限界として各試験のDOAC投与量や投与方法の不均一性が指摘されており、それに対する統計解析方法における既報との細かい差異などが述べられているが、実臨床家の治療方針選択行動に大きく影響する内容ではないと考える。  以上の結果を踏まえ、DOAC各単独試験の結果を踏まえ、すでに各国ガイドラインで採用されている2剤併用療法の優越性が本論文によって強化されたと言え、筆者は実臨床家が2剤併用療法を選択する際のエビデンスがより強固なものとなったと考える。 1. Goto K, et al. Am J Cardiol. 2014;114(1):70-78. 2. Atarashi H, et al. Circ J. 2011;75(6):1328-1333.
70歳以上の女性を対象とした年1回のマンモグラフィ検診と乳がん死亡率
70歳以上の女性を対象とした年1回のマンモグラフィ検診と乳がん死亡率
Continuation of Annual Screening Mammography and Breast Cancer Mortality in Women Older Than 70 Years Ann Intern Med . 2020 Mar 17;172(6):381-389. doi: 10.7326/M18-1199. Epub 2020 Feb 25. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】無作為化試験から、50-69歳の間に乳がん検診を開始し、10年間継続することによって乳がん死亡率が低下することが明らかになっている。しかし、マンモグラフィ検診を中止しても安全かどうか、いつ中止したら安全かを検討した試験はない。米国では、75歳以上の女性の推定52%がマンモグラフィ検診を受検している。 【目的】乳がん検診が70-84歳のメディケア受給者の乳がん死亡率にもたらす効果を推定すること。 【デザイン】年1回のマンモグラフィ検診継続と検診中止の2通りの検診法を検討した大規模住民対象観察試験 【設定】2000-08年の米国のメディケアプログラム。 【参加者】平均余命10年以上で、乳がん診断歴がなく、マンモグラフィ検診を受診した70-84歳のメディケア受益者105万8013例。 【評価項目】8年間の乳がんによる死亡、発症率、治療および年齢層別のマンモグラフィ検診の陽性的中率。 【結果】70-84歳の女性で、検診継続と検診中止の間の8年間の乳がんによる死亡リスクの差は1000人当たり-1.0件(95%CI -2.3-0.1)と推定された(ハザード比0.78、95%CI 0.63-0.95、マイナスのリスク差から継続が支持される)。75-84歳では、対応するリスク差は1000人当たり0.07(CI -0.93-1.3)だった(ハザード比1.00、CI 0.83-1.19)。 【欠点】入手できたメディケアデータからは、検診後8年間しか追跡できなかった。観察データを用いた試験と同じように、推定は残存交絡の影響を受けている可能性がある。 【結論】75歳を過ぎてからの年1回の乳がん検診継続によって、継続中止よりも8年間の乳がん死亡率が大幅に低下することは示されなかった。 第一人者の医師による解説 高齢化社会に向け いつ、安全にマンモグラフィ検診を終了できるかを示唆 菊池 真理 がん研有明病院画像診断部 乳腺領域担当部長/大野 真司 がん研有明病院副院長・乳腺センター長 MMJ. December 2020;16(6):170 マンモグラフィ検診の上限の年齢設定に関しては、最新のメタアナリシスで「50~69歳での乳がん検診の開始とその後10年間の継続で10,000人当たり21.3人の乳がん死を防げる」としているが(1)、75歳以上を対象としたランダム化比較試験は存在せず、75歳以上では死亡率低減効果は不明で、いつ安全に検診マンモグラフィを終了できるかどうかを検討した試験はない。米国では75歳以上の女性の52%がマンモグラフィ検診を受診している。また、日本の対策型検診では年齢の上限は規定されていない。女性はどのくらいの期間乳がん検診を継続するべきかという、臨床上重要な問いに対応する研究のエビデンスは限定的であり、今後の研究の展望もはっきりしていない。  本論文は、70~84歳のメディケア加入者(米国の65歳以上の老人や身体障害者を対象とする公的医療保険制度)の乳がん死における乳がん検診の効果の推定を目的とした人口ベースの大規模観察研究の報告である。今後10年以上生存する可能性が高く、マンモグラフィ検診の受診歴があり、乳がんと診断されたことのない70歳以上のメディケア加入女性1,058,013人が参加し、年1回の乳がん検診継続と乳がん検診中止の2つの検診方策群で比較している。その結果、70~74歳で検診を継続する場合、乳がんによる8年死亡率は1,000人当たり1人低減することを示唆した。一方、75歳以上で検診を継続した場合、同リスクの差は1,000人当たり0.07人となり、検診は死亡率に影響しないとみられた。これは、より高齢の女性では、循環器疾患や神経疾患などの競合する原因による死亡率が加齢とともに乳がん死亡率を追い抜くというランダム化臨床試験(1)における仮説と一致していた。研究の限界として、観察データを用いるどの研究とも同様に、残留交絡の影響を受ける点が挙げられる。  日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」では、日本の簡易生命表から算出される年齢ごとの10年後の生存率(60歳95.6%、65歳93.2%、70歳88.5%、75歳78.8%、80歳61.4%)を踏まえて、75歳超では「検診外発見乳がんでの生存率を年齢の因子だけで下回る可能性が高い」との考察より、日本における「乳がんマンモグラフィ検診の至適年齢は40~75歳と考えられる」としており(2)、本論文はこれを裏付ける結果となっている。  高齢化に伴う受給者増加、給付費増大による医療財政の逼迫は米国だけでなく、日本も同様に抱えている問題である。本研究の知見は今後、限られた財源の中で高齢者の対策型検診の扱いを考慮する上で一助になると考える。 1. Nelson HD, et al. Ann Intern Med. 2016;164(4):244-255. 2. 乳癌診療ガイドライン 2 疫学・診断編 2018 年版(第 4 版): 200-202.
無症候性甲状腺機能低下症と甲状腺機能低下症状がある高齢者に用いるレボチロキシン療法 無作為化試験の二次解析
無症候性甲状腺機能低下症と甲状腺機能低下症状がある高齢者に用いるレボチロキシン療法 無作為化試験の二次解析
L-Thyroxine Therapy for Older Adults With Subclinical Hypothyroidism and Hypothyroid Symptoms: Secondary Analysis of a Randomized Trial Ann Intern Med . 2020 Jun 2;172(11):709-716. doi: 10.7326/M19-3193. Epub 2020 May 5. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】レボチロキシンを無症候性甲状腺機能低下症(SCH)成人患者の甲状腺機能低下症は改善しないが、治療前の症状による大きな負担には便益があると思われる。 【目的】レボチロキシンによって、高齢SCH患者の甲状腺機能低下症状と疲労感および症状負担が改善するかを明らかにすること。 【デザイン】無作為化プラセボ対照試験TRUST(Thyroid Hormone Replacement for Untreated Older Adults with Subclinical Hypothyroidism Trial)の二次解析(ClinicalTrials.gov、NCT01660126)。 【設定】スイス、アイルランド、オランダおよびスコットランド。 【参加者】持続するSCH(甲状腺刺激ホルモン値が3カ月間以上4.60-19.9mIU/Lで遊離サイロキシン値正常)があり、転帰の完全データが得られた65歳以上の患者638例 【介入】レボチロキシンまたはマッチさせたプラセボ。 【評価項目】症状の負担が軽い患者と比較した症状の負担が重い患者(甲状腺機能低下症状スコア30点超、または疲労スコア40点超)の甲状腺関連QOL患者報告転帰質問票の甲状腺機能低下症状スコアと疲労感スコアの1年後の変化(範囲0-100点、高いほど症状が多いことを示す)。 【結果】132例が甲状腺機能低下症状スコア30点超、133例が疲労スコア40点超だった。症状の負担が重いグループでは、1年後の甲状腺機能低下症状スコアはレボチロキシン投与群(グループ内の平均変化量マイナス12.3点、95%CI マイナス16.6-マイナス8.0)、プラセボ投与群(同-10.4、CI マイナス15.3-マイナス5.4)で同等の改善度を示し、調整後の群間差はマイナス2.0(CI マイナス5.5-1.5、P=0.27)であった。疲労スコア改善度も、レボチロキシン投与群(グループ内の平均変化量マイナス8.9、CI マイナス14.5-マイナス3.3)、プラセボ投与群(同-10.9、CI -16.0--5.8)でほぼ同じで、調整後の群間差は0.0(CI -4.1-4.0、P=0.99)であった。ベースラインの甲状腺機能低下症状スコアまたは疲労スコアがプラセボと比較したレボチロキシンの効果に影響を及ぼす根拠はなかった(それぞれ相互作用のP=0.20、0.82)。 【欠点】事後解析である点、対象数が少ない点、1年後の転帰データが得られた患者のみを対象とした調査出会った点。 【結論】試験開始時に症状の負担が重かったSCH高齢患者で、レボチロキシンによってプラセボと比較して甲状腺機能低下症状や疲労感が改善することがなかった。 第一人者の医師による解説 TSH高値の場合でも 補充療法の必要性の判断は慎重を期すべき 鳴海 覚志 国立成育医療研究センター分子内分泌研究部 基礎内分泌研究室長 MMJ. December 2020;16(6):171 現在、さまざまなホルモンの血中濃度を日常臨床で測定できる。甲状腺機能の指標である血清甲状腺刺激ホルモン(TSH)値は、甲状腺機能亢進症での低値(0.01mU/L以下)から機能低下症での高値(重症例では数百mU/L)まで数万倍の振れ幅がある。この広いダイナミックレンジゆえに、甲状腺ホルモン分泌能の低下がごくわずかであっても検出可能であり、これが潜在性甲状腺機能低下症(SCH)(血中甲状腺ホルモン値低下を伴わない血清TSH値のみの上昇)という特有の状態を生み出している。TSH値が正常上限から10mU/Lの範囲に収まるようなSCHの中でも軽症な場合について、米国甲状腺学会(ATA)ガイドラインでは「甲状腺機能低下症状を疑う、抗甲状腺ペルオキシダーゼ[TPO]抗体陽性である、動脈硬化性心血管疾患およびこれらのリスク状態である、などの場合、甲状腺ホルモン補充療法を考慮すべき」と記載しており(1)、米国では実際に補充療法が広く行われている。  このような状況下、本論文のもととなったTRUST試験(2)では、65歳以上のSCH患者を対象にランダム化比較試験を行い、補充療法群とプラセボ群の間で甲状腺機能低下症状スコアおよび生活の質(QOL)スコアの介入1年後の変化に有意差はないことが示されていた。しかし、甲状腺機能低下症状が相対的に強いSCH患者に対する補充療法の効果についての疑義がなお残ったため、TRUST試験のデータを用いた2次研究が今回行われた。本研究ではTRUST試験の参加者(65歳以上のSCH患者638人)を試験開始時点の症状がより強い群(甲状腺機能低下症スコア高値、疲労スコア高値、QOL低値、握力低値の4項目)とそれ以外の群に分け、プラセボに対する補充療法の相対的効果(スコア変化の差)が評価された。結果、上述した4項目いずれにおいても、症状の強さによらず補充療法の有用性が示唆されるサブグループはなかった。  高齢者では、血清TSH値の分布が年齢依存的に高値へシフトすることが知られている。これが治療不要な人体の自然な変化なのか、治療にメリットがある臓器機能低下なのかはいまだ結論の出ていない問題である。TRUST試験と今回の報告は前者の可能性を支持するものと捉えられる。高齢者の血清 TSH値の評価には年齢の要因を加味する必要があるし、TSH高値を検出した場合でも、補充療法の必要性の判断については慎重を期すべきであろう。 1. Jonklaas J, et al. Thyroid. 2014;24(12):1670-1751. 2. Stott DJ, et al. N Engl J Med. 2017;376(26):2534-2544.