ライブラリー 心臓手術を受けた患者における尿中dickkopf-3、急性腎障害、およびその後の腎機能喪失の関連性:観察的コホート研究
Association between urinary dickkopf-3, acute kidney injury, and subsequent loss of kidney function in patients undergoing cardiac surgery: an observational cohort study
Lancet 2019 ;394 (10197):488 -496 .
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【背景】心臓手術は、術後の急性腎障害(AKI)とその後の腎機能低下の高いリスクと関連している。我々は、AKIとその後の腎機能低下のリスクのある患者の術前識別のための腎尿細管ストレスマーカーである尿中dickkopf-3(DKK3)の臨床的有用性を検討した。
【方法】この観察的コホート研究では、派生コホートの心臓手術を受けた患者と検証コホートの心臓手術を受けた患者(RenalRIP試験)を対象とした。本研究は,ザールランド大学医療センター(ドイツ・ホンブルグ,派生コホート)で待機的心臓手術を受けた連続患者と,前向きRenalRIP多施設試験(検証コホート)に登録された待機的心臓手術を受けた患者(Cleveland Clinical Foundationスコア6以上に基づいて選択),および遠隔虚血性前処置または偽手術にランダムに割り付けられた患者で構成されている。術前のDKK3とクレアチニンの尿中濃度の比(DKK3:クレアチニン)と、Kidney Disease Improving Global Outcomes基準に従って定義された術後AKI、および推定糸球体濾過量によって決定されるその後の腎機能低下との関連性を評価した。
【結果】派生コホートの733例において、クレアチニンに対するDKK3の尿中濃度が471pg/mgより高いことは、ベースラインの腎機能とは無関係に、AKIの有意なリスク上昇と関連していた(オッズ比[OR]1-65、95%CI 1-10-2-47、p=0-015)。臨床検査値や他の検査値と比較して、尿中DKK3:クレアチニン濃度はAKI予測を有意に改善した(net reclassification improvement 0-32, 95% CI 0-23-0-42, p<0-0001)。尿中DKK3:クレアチニン濃度の高値は、退院時および中央値820日(IQR733~910)の追跡調査後の腎機能の有意な低下と独立して関連していた。RenalRIP試験において、術前の尿中DKK3:471pg/mgより高いクレアチニン濃度は、471pg/mg以下のDKK3と比較して、90日後のAKI(OR 1-94, 95% CI 1-08-3-47, p=0-026)、持続性腎機能障害(OR 6-67, 1-67-26-61, p=0-0072 )、透析依存(OR 13-57, 1-50-122-77, p=0-020)に対するリスクが有意に高くなることと関連しました。471pg/mgより高い尿中DKK3:クレアチニン濃度は、偽手術を受けた患者のみAKI(OR 2-79, 95% CI 1-45-5-37)および持続的腎機能障害(OR 3-82, 1-32-11-05)の有意に高いリスクと関連しており、遠隔虚血性前処理(AKI OR 1-35, 0-76-2-39 and persistent renal dysfunction OR 1-05, 0-12-9-45)には関連していないことが明らかになった。
【解釈】術前の尿中DKK3は、術後AKIとその後の腎機能低下の独立した予測因子である。尿中DKK3は予防的治療戦略が有効な患者を特定するのに役立つかもしれない。
第一人者の医師による解説
ヨーロッパ系人種対象の研究だが 尿中 DKK3はAKI予防に有用なツール
新田 孝作 東京女子医科大学腎臓内科教授
MMJ.February 2020;16(1)
心臓手術後の急性腎障害(AKI)発症率は30%弱と報告されている(1)。近年、心臓手術患者の高齢化と併存疾患割合の上昇に伴い、AKI発症率も上昇しつつある。一部の患者では、AKI後も腎機能の低下が認められ、AKIから慢性腎臓病(CKD)への移行 (AKI-CKD transition)として知られている。
今回報告されたドイツの観察コホート研究では、 ストレス下の腎尿細管細胞で発現されるWnt/β - カテニンシグナル調節糖蛋白 dickkopf-3(DKK3) に 着目し、心臓手術患者 に お け るAKI発症 とAKI 後の腎機能低下の予測因子として尿中 DKK3を検討した。対象は導出コホート 733人、検証コホー ト 216人(RenalRIP試験参加者)で、導出コホー トでは待機的心臓手術を受けた患者を退院後に中 央値820日間追跡 した。
そ の 結果、AKIは 導出 コ ホートの患者733人中193人(26%)に発症した。術前の尿中 DKK3高値は術後 AKI発症と有意に関連していた。この関連は、登録時の推算糸球 体濾過量(eGFR)などの交絡因子で補正後も維持 され、機械学習アプローチにより裏付けられた。術前の尿中 DKK3値が471pg/mg Cr超の患者では、471pg/mg Cr以下 の 患者 よりもAKI発症リ スクが有意に高かった。完全補正後のモデルでは、 登録時 のeGFR値 が 正常(90mL/分 /1.73m2 超)または低値(90mL/分 /1.73m2以下)の患 者 に お い て、尿中 DKK3高値 はAKI発症 リ ス ク 上昇と関連していた。
また、術前の尿中 DKK3値 が471pg/mg Cr以下 の 患者 に お け る 退院時 の eGFR値 は76.6mL/分 /1.73m2で あ っ た。対 照的 に、術前 の 尿中 DKK3値 が471pg/mg Cr 超 の 患者 で は 補正後 のeGFRが 有意 に 低 かった (72.3mL/分 /1.73m2)。中央値820日 の 追跡 後、登録時の尿中 DKK3値が471pg/mg Cr以下 の患者では、eGFRは67.0mL/分 /1.73m2であったが、尿中 DKK3値が471pg/mg Cr超の患者では、eGFRは63.1mL/分 /1.73m2であった。術前 の尿中 DKK3値が高いと、AKI後の中等度・重度の eGFR低下およびCKDに進行するリスクが高まっていた。
対象集団がヨーロッパ系人種であり、他の人種に適用できるかどうかは今後確認する必要はあるが、 今回の結果から、尿中 DKK3は心臓手術後にAKI を発症するリスクの高い患者を特定し、特に入院中のAKI発症を予測するのみならず、その後の腎機能低下も予測することが示された。尿中DKK3 は予防が有用な患者を特定するための新しいツー ルとなり得ると言える。
1. Neugarten J. et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2016; 11(12): 2113–2122.