ライブラリー 世界貿易センタービル災害後の消防士における長期的な心血管疾患リスク。
Long-term Cardiovascular Disease Risk Among Firefighters After the World Trade Center Disaster
JAMA Network Open 2019 ;2 (9):e199775
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【重要性】2001年9月11日以降の世界貿易センタービル(WTC)曝露と長期的な心血管疾患(CVD)転帰との関連を検討した既報の研究では、様々な知見が報告されている。
【目的】ニューヨーク市消防局(FDNY)の消防士において、WTC曝露がCVDリスクの上昇と関連しているかどうかを評価すること。 デザイン・設定・参加者]このコホート研究では、FDNY男性消防士において2001年9月11日から2017年12月31日の間にWTC曝露とCVDリスクの関連について評価された。多変量Cox回帰分析を用いて、WTC曝露の2つの指標:WTC現場への到着時間およびWTC現場での勤務期間と関連したCVDリスクを推定した。データ解析は2018年5月1日から2019年3月8日まで実施した。
【主要評および測定法】主要CVDアウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症、冠動脈手術または血管形成術、またはCVD死亡であった。二次アウトカム(全CVD)には,すべての一次アウトカムイベント,または以下のいずれかを含む:一過性脳虚血発作;狭心症治療薬の使用または介入なしの心臓カテーテル治療のいずれかとして定義される安定狭心症;心筋症;およびその他のCVD(大動脈瘤,末梢動脈血管介入,頸動脈外科手術)。
【結果】男性消防士9796人(2001年9月11日の平均[SD]年齢は40.3[7.4]歳、7210人[73.6%]が喫煙歴なし)において489件の主要アウトカムイベントが発生した。)CVDの年齢調整後の発症率は、WTCへの曝露が多い消防士ほど高かった。CVDの主要転帰の多変量調整ハザード比(HR)は、最も早く到着したグループで、遅く到着したグループと比較して1.44(95%CI、1.09-1.90)であった。同様に、WTC敷地内で6ヵ月以上働いた人と、それ以下の期間しか働かなかった人では、CVDイベントを発症する可能性が高かった(HR、1.30;95%CI、1.05-1.60)。高血圧(HR, 1.41; 95% CI, 1.10-1.80), 高コレステロール血症(HR, 1.56; 95% CI, 1.28-1.91), 糖尿病(HR, 1.99; 95% CI, 1.33-2.98), および喫煙(現在: HR, 2.13; 95% CI, 1.68-2.70; 前: HR, 1.55; 95% CI, 1.23-1.95 )などの確立したCVD危険因子が、多変量モデルでCVDとの関連性が顕著であった。結論と妥当性】本研究の結果は,より大きなWTC被曝と長期的なCVDリスクとの間に有意な関連があることを示唆するものであった。この知見は、災害の生存者の健康状態を長期にわたって監視することの重要性を補強するものと思われる。
第一人者の医師による解説
日本でも自衛隊、消防、警察など救援従事者の長期の健康管理を考えるべき
竹石 恭知 福島県立医科大学医学部循環器内科学講座主任教授
MMJ.April 2020;16(2)
本論文は、米国同時多発テロ発生時にニューヨー ク市の世界貿易センタービル(WTC)崩壊現場で活動した消防士を対象に、災害現場での活動が長期の心血管疾患(CVD)発症と関連するかどうかを調査したコホート研究の報告である。対象者は男性消防士9,796人で、2001年9月11日時点の平均年齢は40.3歳、90%以上が非ヒスパニック系の白人、 約74%は非喫煙者であった。評価対象は2017年 12月31日までに発症したCVDであった。主要評価項目は 心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症、冠動脈バイパス術または冠動脈インターベンションの施行、CVD死とされた。本論文ではWTC曝露量を急性期とそれ以降の2種類の指標で解析している。 急性期曝露との関連については、WTCに9月11日 の午前中に到着した群、同日の午後に到着した群、12日以降に到着した群に分け、CVD発症率を比較した。また、WTCは2002年7月24日に閉鎖されたが、急性期以降のWTC曝露を評価するため、 WTC崩壊現場の活動期間が6カ月以上の群と6カ月未満の群で比較がなされた。
その結果、2017年12月までの16年間にわたる追跡期間中に主要評価項目のイベントが489件発生した(心筋梗塞120、脳卒中61、冠動脈バイパス術71、冠動脈インターベンション 236、うっ血性心不全1、CVD死6)。CVD発症リスクは、9月 12日以降の到着群と比較し、11日午前到着群では 1.44倍、11日午後到着群では1.24倍高かった。 また、WTC現場活動期間が6カ月以上の群では、6 カ月未満の群と比較し、CVD発症リスクが1.30倍高かった。一過性脳虚血発作、安定狭心症、大動脈瘤、末梢動脈疾患といったすべてのCVDを含めた解析でも、早期に現場に到着したほど、また現場活動期間が長いほど、CVD発症リスクが高かった。従来から知られているCVD危険因子である高血圧、脂質 異常、糖尿病、喫煙は、この対象群でも、CVD発症と有意に関連していた。
WTC崩壊現場の災害活動により深く関わった消防士では長期のCVD発症リスクが上昇することが明らかになった。この結果から、災害後の長期にわたる健康管理が重要であることが示された。日本でも被災者の支援に加えて、自衛隊、消防、警察など救援に従事された方々の健康管理を今後、考えるべきである。