ライブラリー 乳児のアトピー性皮膚炎予防のための皮膚保湿剤と早期補完食(PreventADALL) 多施設共同多因子クラスター無作為化試験
Skin emollient and early complementary feeding to prevent infant atopic dermatitis (PreventADALL): a factorial, multicentre, cluster-randomised trial
Lancet . 2020 Mar 21;395(10228):951-961. doi: 10.1016/S0140-6736(19)32983-6. Epub 2020 Feb 19.
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上記論文の日本語要約
【背景】乳児期早期の皮膚保湿剤によってアトピー性皮膚炎が予防でき、早期補完食導入によって高リスク乳児の食物アレルギーが減少すると思われる。この試験は、一般の乳児で、生後2週間の定期的な皮膚保湿剤使用や生後12-16週齢の間の早期補完食導入によって生後12カ月時までのアトピー性皮膚炎発症を抑制できるかを明らかにすることを目的とした。
【方法】この住民対象の2×2要因無作為化臨床試験は、ノルウェー・オスロ市のオスロ大学病院およびエーストフォール病院トラスト、スウェーデン・ストックホルム市のカロリンスカ大学病院で実施された。妊娠18週時のルーチンの超音波検査実施時に出生前の乳児を登録し、2015年から2017年の間に出生した新生児を以下のクラスターごとに無作為に割り付けた――(1)スキンケアに関して特別な助言はしないが、乳児の栄養に関して国の指針に従うよう助言した対照群(非介入群)、(2)皮膚保湿剤使用(入浴剤やクリーム;皮膚介入群)、(3)ピーナツ、牛乳、小麦、卵の補完食早期導入(食物介入群)、(4)皮膚および食物介入(複合介入群)。コンピュータ生成クラスター無作為化法を用いて、参加者を92の地理的居住地域と3カ月ごと8期間を基に(1対1対1対1の割合で)割り付けた。1週間当たり4日以上、保護者に介入方法を指導した。主要転帰は生後12カ月までのアトピー性皮膚炎とし、介入の割り付けをふせておいた試験担当医師による3、6、12カ月時の診察を基に判定した。12カ月間の追跡期間を完遂後、アトピー性皮膚炎を評価し、UK Working PartyとHanifin and Rajka(12カ月時のみ)の診断基準を満たしているかを診断した。主要有効性解析は、無作為化した全例を対象としたintention-to-treat解析で実施した。2020年に全例の3歳時の診察が終了するとき、食物アレルギーの結果を報告することとした。これは、ORAACLE(the Oslo Research Group of Asthma and Allergy in Childhood; the Lung and Environment)が実施した試験である。この試験は、clinicaltrials.govにNCT02449850番で登録されている。
【結果】2014年12月9日から2016年10月31日の間に、女性2697例を登録し、2015年4月14日から2017年4月17日の間に出生した新生児2397例を組み入れた。非介入群の乳児596例中48例(8%)、皮膚介入群575例中64例(11%)、食物介入群642例中58例(9%)、複合介入群583例中31例(5%)にアトピー性皮膚炎が見られた。皮膚保湿剤、補完食早期導入ともにアトピー性皮膚炎の発症を抑制できず、皮膚介入のリスク差3.1%(95%CI -0.3-6.5)、食物介入で1.0%(-2.1-4.1)となり、対照を支持するものであった。介入による安全性の懸念はなかった。皮膚介入群、食物介入群および複合介入群で報告された皮膚症状や徴候(掻痒、浮腫、皮膚乾燥、蕁麻疹)は、非介入群と比べて頻度は高くなかった。
【解釈】早期皮膚保湿剤や早期補完食導入では、生後12カ月までのアトピー性皮膚炎発症を抑制することができなかった。試験は、生後12カ月までのアトピー性皮膚炎を予防するために、乳児にこの介入法を用いることを支持するものではない。
第一人者の医師による解説
スキンケア方法や離乳食の開始法、その頻度の影響を検討する必要あり
大矢 幸弘 国立成育医療研究センターアレルギーセンター センター長
MMJ. December 2020;16(6):160
アレルギー家系の乳児に新生児期から保湿剤を塗布するスキンケアを行うことでアトピー性皮膚炎の発症予防効果を示した100人規模の2つのランダム化比較試験(RCT)が2014年に発表された(1),(2)。その後、離乳食を3カ月という早期から開始した場合と生後6カ月から開始する場合を比較したEAT試験が2016年に発表され、卵とピーナツに関してはそれぞれのアレルギーの予防効果が示されている(3)。また、コホート研究の中には、離乳食の開始が早い方が食物アレルギーだけでなくアトピー性皮膚炎の発症も少ないという報告もある。
本研究は、生後2週間からバスオイルによる保湿スキンケアと生後12~16週で離乳食を早期開始するという2つの介入の単独または併用を対照群と比較する4群比較 RCTである。主要評価項目は生後12カ月時点でのアトピー性皮膚炎(UK Working PartyまたはHanifinとRajkaの診断基準)と3歳時での食物アレルギーであるが、今回の論文では前者のみ報告されている。対象は、今回解説を併載したBEEP試験のような高リスク家系ではなく一般人口の乳児である。スキンケア介入は、水8Lあたり0.5dLのバスオイルを入れて5~10分入浴し顔全体にクリームを塗布し、石鹸は使用しない。早期離乳食介入は、生後12~16週にピーナツバター、1週遅れて牛乳、翌週小麦のおかゆ、4週目にスクランブルエッグを開始する。スキンケア、離乳食とも週4日以上の実行が指示された。
主要評価項目アトピー性皮膚炎の発症率は、非介入群8%(48/596)、スキンケア群11%(64/575)、早期離乳食群9%(58/642)、併用介入群5%(31/583)であり、介入によるアトピー性皮膚炎の発症予防は実証できなかった。ちなみに、バスオイルを週平均4.5日以上実行した割合はスキンケア群32%、併用介入群33%、週平均5.5日以上はそれぞれ13%と14%であった。早期離乳食のアドヒアランス(4種類のうち3種類以上を生後18週までに開始し、週3~5日以上、5週間以上実施)率は食事介入単独群35%、併用介入群27%であった。
このようにスキンケアを週7日実施した参加者がほとんどいないRCTでスキンケアによるアトピー性皮膚炎の予防効果を実証することは困難と思われるが、研究が行われた北欧では、毎日入浴する習慣がなく実行可能性を考慮して週4日以上というプロトコールとなった。バスオイルでの入浴と入浴後に保湿剤を塗布する効果が同じかどうかは不明であるが、BEEP試験と同じく、中途半端なスキンケアではアトピー性皮膚炎は予防できないという結果を示している。
1. Horimukai K, et al. J Allergy Clin Immunol. 2014;134(4):824-830.e6.
2. Simpson EL, et al. J Allergy Clin Immunol. 2014;134(4):818-823.
3. Perkin MR, et al. N Engl J Med. 2016 May 5;374(18):1733-1743.