ライブラリー 若年者・高齢者を対象としたプライムブーストレジメンで投与するChAdOx1 nCoV-19ワクチンの安全性および免疫原性(COV002):第II/III相単盲検無作為化対照試験
Safety and immunogenicity of ChAdOx1 nCoV-19 vaccine administered in a prime-boost regimen in young and old adults (COV002): a single-blind, randomised, controlled, phase 2/3 trial
Lancet. 2021 Dec 19;396(10267):1979-1993. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32466-1. Epub 2020 Nov 19.
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上記論文の日本語要約
【背景】高齢者(70歳以上)がCOVID-19を発症すると重症化リスクや死亡リスクが高く、有効なワクチンを開発すれば、優先的接種の対象となる。ワクチンの免疫原性は、免疫老化の結果として高齢者で悪化することが多い。若年成人を対象とした新たなチンパンジーアデノウイルスベクター型ワクチンChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)の免疫原性は既に報告している。今回は、対象者を70歳以上の高齢成人にも広げて、このワクチンの安全性と免疫原性を報告する。
【方法】この第II/III相単盲検無作為化対照試験(COV002)の第II相段階の報告では、英国の臨床研究施設2施設で、18歳以上の健康な成人を18~55歳、56~69歳、70歳以上の下位集団に分けて登録した。重度または治療不応の併存疾患やフレイルスコア高値(65歳以上の場合)がない被験者を適格とした。まず、被験者を低用量コホートに組み入れ、ブロック無作為化法を用いて、年齢、用量群および施設で層別化して、各年齢群内でChAdOx1 nCoV-19筋肉内投与(ウイルス粒子2.2×10^10個)と対照ワクチンMenACWYに割り付けることとし、18~55歳群はChAdOx1 nCoV-19の2回投与とMenACWYの2回投与に1対1の割合、56~69歳群はChAdOx1 nCoV-19単回投与、MenACWY単回投与、ChAdOx1 nCoV-19の2回投与、MenACWYの2回投与に3対1対3対1の割合、70歳以上群はChAdOx1 nCoV-19単回投与、MenACWY単回投与、ChAdOx1 nCoV-19の2回投与、MenACWYの2回投与に5対1対5対1の割合で無作為に割り付けた。初回投与と2回目投与の間隔は、28日間空けることとした。その後、被験者を標準投与コホート(ChAdOx1 nCoV-19ウイルス粒子3.5-6.5×10^10個)に組み入れ、18~55歳群をChAdOx1 nCoV-19の2回投与とMenACWYの2回投与に5対1の割合で割り付けたほかは、同じ無作為化手順を採用した。被験者と治験責任医師にワクチンの割付を伏せ、ワクチンを投与するスタッフには割り付けを伏せずにおいた。この報告の目的は、55歳以上の成人を対象とした単回投与および2回投与スケジュールの安全性、液性免疫および細胞性免疫原性を評価することである。施設内標準化ELISA、複合免疫アッセイおよび生重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)マイクロ中和アッセイ(MNA80)を用いて、ベースラインおよび各ワクチン接種から追加免疫投与1年後までの液性反応を評価した。ex-vivoのIFN-γ酵素結合免疫スポットアッセイを用いて、細胞応答を評価した。試験の複合主要転帰は、ウイルス学的に判定した症候性COVID-19症例数で測定した有効性および重篤な有害事象の発現で測定した安全性とした。ワクチンを投与した被験者を割り付けた投与群別に解析した。ここに、安全性、反応原性、細胞性および液性免疫反応に関する初期結果を報告する。本試験は現在進行中であり、ClinicalTrials.gov(NCT04400838)、ISRCTN(15281137)に登録されている。
【結果】2020年5月30日から8月8日の間に被験者560例を組み入れ、18~55歳群160例をChAdOx1 nCoV-19群100例、MenACWY群60例に、56~69歳群160例をそれぞれ120例、40例に、70歳以上群240例をそれぞれ200例、40例に割り付けた。7例が割り付けた2回投与レジメンの追加免疫投与を受けず、1例が誤ったワクチン接種を受け、3例に検体の表示に誤りがあったため、免疫原性の解析から除外した。解析対象とした552例のうち280例(50%)が女性であった。ChAdOx1 nCoV-19群の方が対照ワクチン群よりも局所反応と全身反応が多く、性質は既報とほぼ同じ(注射部位疼痛、発熱感、筋肉痛、頭痛)であったが、高齢者(56歳以上)では若年者よりも少なかった。ChAdOx1 nCoV-19の標準的な2回投与を受けた被験者では、初回免疫投与後、18~55歳群49例中43例(88%)、56~69歳群30例中22例(73%)、70歳以上群49例中30例(61%)が局所反応、それぞれ42例(86%)、23例(77%)、32例(65%)が全身反応を報告した。2020年10月26日現在、試験期間中に重篤な有害事象が13件発生したが、試験ワクチンとの関連があるものはないと考えられた。ワクチン2回投与群では、年齢層別コホート3群の追加免疫投与28日後の抗スパイクSARS-CoV-2 IgG反応中央値がほぼ同じであった(標準用量群:18~55歳20,713任意単位[AU]/mL[IQR:13,898~33,550]、39例;56~69歳16,170AU/mL[10,233~40,353]、26例;70歳以上17,561AU/mL[9,705~37,796]、47例;P=0.68)。全年齢層群の追加免疫投与後の中和抗体価がほぼ同じであった(標準投与群の第42日のMNA80中央値:18~55歳193[IQR 113~238]、39例;56~69歳144[119~347]、20例;70歳以上161[73~323]、47例;P=0.40)。追加免疫投与後14日目までに209例中208例(99%以上)に中和抗体反応が認められた。ChAdOx1 nCoV-19標準単回投与後14日目にT細胞反応がピークとなった(末梢血単核球100万個当たりのスポット形成細胞[SFC]中央値は、18~55歳1187個[IQR 841~2428]、24例;56~69歳797個[383~1817]、29例;70歳以上977個[458~1914]、48例)。
【解釈】ChAdOx1 nCoV-19の忍容性は、高齢者の方が若年成人よりも高いと考えられ、全年齢層群の追加免疫投与後の免疫原性がほぼ同じであった。全年齢層と併存疾患がある者を対象にこのワクチンの有効性をさらに詳細に評価することが必要である。
第一人者の医師による解説
日本での本ワクチンの承認や接種の検討において 非常に重要なデータ
齋藤 昭彦 新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野教授
MMJ. April 2021;17(2):41
アデノウイルスベクターワクチン(ChAdOx1nCoV-19)の安全性と免疫原性については、第1・2相試験ですでに報告されたが(1)、今回報告された第2・3相単盲検ランダム化対照試験では、対象年齢を広げ、70歳以上の高齢者を含めた集団を対象に同様の検討を行った。試験参加者は計560例で、英国の2つの臨床研究施設で行われた。対象は、18~55歳、56~69歳、70歳以上の3群に分けられ、年齢が高くなるほどSARS-CoV-2ワクチンへの割り付け比が高くなるように設定された(18~55歳では62.5%、56~69歳では75.0%、70歳以上では83.3%)。重症またはコントロールできていない基礎疾患を有する人は除外された。参加者はSARS-CoV-2ワクチン群(2.2X1010ウイルス粒子/ワクチン)もしくは対照ワクチン(髄膜炎菌ワクチン)を接種された後、液性・細胞性免疫の評価、有効性、そして安全性が評価された。
その結果、局所と全身の反応の頻度は、SARSCoV-2ワクチン群の方が対照ワクチン群に比べ高かったが、それぞれの副反応の頻度は過去の報告と同様で、56歳以上の成人ではそれより若い人に比べ低かった。SARS-CoV-2ワクチン2回接種者における初回接種後の局所反応の頻度は、18~55歳で88%、56~69歳で73%、70歳以上で61%、全身反応はそれぞれ86%、77%、65%であった。ワクチンと関係のある重篤な副反応はみられなかった。SARS-CoV-2ワクチン2回接種者において、追加接種後28日目の抗スパイク蛋白IgG値の中央値、中和抗体価に関して年齢群間に差は認めなかった。追加接種後14日目までに99%超の接種者に中和抗体の反応を認めた。T細胞の反応は、初回接種後14日目にピークとなった。
ChAdOx1 nCoV-19は、アストラゼネカ社がこれまで研究開発してきたアデノウイルスベクターを用いたワクチンの技術(2)を応用した製品である。新興コロナウイルスであるSARS、MARSに対するワクチンの研究を行ってきた成果が活かされている。今回の結果は、若年成人だけでなく、高齢者でもより安全に接種でき、追加接種後の免疫原性は全年齢において同様であった。今回のSARSCoV-2感染は、年齢が高くなると重症化リスクが高まるため(3)、特に高齢者におけるワクチンの安全性と免疫原性のデータは非常に重要である。このワクチンは、今後、日本に輸入され、また、国内のワクチン会社でも技術移転により製造され、それらが国内で接種される予定である(執筆時点)。このデータは、今後の日本における本ワクチンの承認、接種を検討する上で、非常に重要なものとなるであろう。
1. Folegatti PM, et al. Lancet. 2020;396(10249):467-478.
2. Gilbert SC, et al. Vaccine. 2017;35(35 Pt A):4461-4464.
3. O'Driscoll M, et al. Nature. 2021;590(7844):140-145.