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股関節骨折における加速手術と標準治療の比較(HIP ATTACK):国際無作為化比較試験。
股関節骨折における加速手術と標準治療の比較(HIP ATTACK):国際無作為化比較試験。
Accelerated surgery versus standard care in hip fracture (HIP ATTACK): an international, randomised, controlled trial Lancet 2020 Feb 29;395(10225):698-708. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】観察研究では、股関節骨折患者において、手術の迅速化は転帰の改善と関連することが示唆されている。HIP ATTACK試験では、手術の迅速化が死亡率や重大な合併症を減らすかどうかを評価した。 【方法】HIP ATTACK試験は、17か国69病院で行われた国際無作為化対照試験である。手術が必要な45歳以上の股関節骨折の患者を対象とした。研究担当者は、中央コンピューター無作為化システムにより、無作為にブロックサイズを変えながら、患者を加速手術(診断後6時間以内に手術の目標)または標準治療のいずれかに無作為に割り付けた(1対1)。主要アウトカムは、無作為化後90日目における死亡率と主要合併症(死亡率、非致死的心筋梗塞、脳卒中、静脈血栓塞栓症、敗血症、肺炎、生命を脅かす出血、大出血)の複合であった。患者、医療従事者、および試験スタッフは治療割り付けを認識していたが、転帰判定者は治療割り付けをマスクされた状態で行われた。患者は intention-to-treat の原則に従って分析された。本研究はClinicalTrials. gov(NCT02027896)に登録されている。 【所見】2014年3月14日から2019年5月24日までに、27701人の患者がスクリーニングされ、そのうち7780人が適格であった。このうち2970人が登録され、加速手術(n=1487)または標準治療(n=1483)を受けるよう無作為に割り付けられた。股関節骨折の診断から手術までの時間の中央値は、加速手術群で6時間(IQR4-9)、標準治療群で24時間(10-42)であった(p<0-0001)。加速手術に割り付けられた140人(9%)と標準ケアに割り付けられた154人(10%)が死亡し,ハザード比(HR)は0~91(95%CI 0~72~1~14),絶対リスク減少(ARR)は1%(-1~3,p=0~40)であった.主要合併症は、加速手術に割り付けられた321人(22%)と標準治療に割り付けられた331人(22%)に発生し、HRは0-97(0-83~1-13)、ARRは1%(-2~4、p=0-71)であった。 【解釈】股関節骨折の患者では、加速手術は標準治療に比べて死亡率や主要合併症を複合したリスクを有意には下げなかった【財源】カナダ保健研究機構(Canadian Institutes of Health Research. 第一人者の医師による解説 6時間以内の手術は有用だが 24時間以内の手術なら問題ないという解釈も可能 田島 康介 藤田医科大学病院救急科教授 MMJ.June 2020;16(3) 大腿骨近位部骨折は全世界で年間150万人以上の高齢者が受傷し、早期手術、早期離床を目指すことで合併症や日常生活動作(ADL)および生命予後を改善することが数多く報告されており(1),(2)、欧米では入院後24~48時間以内に手術を提供することが標準的治療となっている。日本では日本整形外科学会の2013年度調査によると手術までの平均待機日数は4.4日であるが、早期に手術を行う施設が昨今増加している。 このような背景から、著者らは、超早期手術により患者の疼痛や安静をより早期に解除することが 合併症や死亡率の改善につながるかどうかを検討するため、欧米・アジア(日本を含まない)など17 カ国69施設で無作為化対照試験(HIP ATTACK)を実施した。45歳以上で転倒などの低エネルギーによる外傷で受傷した患者を対象とし、登録患者 2,970人が超早期群(診断後6時間以内に手術)と 標準治療群に無作為に割り付けられた。患者背景、 既往歴、内服歴、社会歴などに差はなかった。 手術 90日後の超早期群と標準治療群の比較において、主要評価項目である死亡率(9% 対 10%[標準]) および複数の重大合併症発生率(22% 対 22%) に関して有意差はなく、副次評価項目である心筋梗塞(6% 対 5%)、心不全(2% 対 2%)、静脈血栓塞栓症(肺塞栓症、深部静脈血栓症)(1% 対 1%)、 大出血(6% 対 5%)、敗血症(5% 対 5%)のいずれも有意差はなかった。しかし、敗血症以外の感染症(11% 対 14%;P=0.032)、脳卒中(<1% 対 1%;P=0.047)、せん妄(9% 対 12%;P= 0.0089)は超早期群で有意に発生率が低かった。 既報では72、48、24時間と手術待機時間が短いほどさまざまな合併症が減少するとされ、生命予後にも医療経済的にも有利とされている1。超早期手術は術前検査が不十分であるとの指摘もあるが、今回の試験では各パラメータに差はなかった。骨折を受傷した患者は手術まで床上安静を強いられ疼痛からも解除されないことを考えると、むしろせん妄の発生率が低下するなど超早期手術は安全かつ有用であるとも言える。 日本の現状として、予定手術でうまった手術室の予定を調整して超早期手術を提供することは困難な施設が多いであろう。また、死亡率と合併症発生率に有意差がなかったことは、逆に超早期手術を行わず24時間以内に手術が行えれば問題ないという解釈も成り立つ。最後に、本試験の術後90日 死亡率(9~10%)は日本の標準的な報告よりも高いことを言及しておきたい。 1. Simunovic N et al. CMAJ. 2010;182(15):1609-1616. 2. Nyholm AM et al. J Bone Joint Surg Am. 2015;97(16):1333-1339.