ライブラリー 物理的距離の保持、マスクおよび保護めがね着用によるヒトからヒトへのSARS-CoV-2感染およびCOVID-19の予防 系統的レビューおよびメタ解析
Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis
Lancet. 2020 Jun 27;395(10242):1973-1987. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31142-9. Epub 2020 Jun 1.
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上記論文の日本語要約
【背景】重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)はCOVID-19の原因であり、密接な接触を通してヒトとヒトとの間で広がる。著者らは、医療現場および非医療現場(地域など)での物理的距離の保持、マスク着用および眼の保護がウイルス伝播にもたらす効果を調べることを目的とした。
【方法】ヒトからヒトへの感染を避けるための最適な距離を調べ、マスクおよび保護めがね着用によるウイルス伝播予防効果を評価するため、系統的レビューおよびメタ解析を実施した。WHOおよびCOVID-19関連の標準的データベース21件から、SARS-CoV-2、重症急性呼吸器症候群を引き起こすベータコロナウイルス、中東呼吸器症候群のデータを取得した。データベース開始から2020年5月3日までのデータを検索し、言語は問わないが、比較試験や、妥当性、実行可能性、資源の利用および公平性に関する因子を特定した。記録をふるいにかけデータを抽出し、二重にバイアスリスクを評価した。頻度論的統計、ベイズ・メタ解析、ランダム効果メタ回帰解析を実施した。Cochrane法とGRADEアプローチに従って、根拠の確実性を評価した。この試験は、PROSPEROにCRD42020177047番で登録されている。
【結果】16カ国6大陸の観察的研究172件を特定した。無作為化試験はなく、44件が医療現場および非医療現場で実施した比較試験(対象計2万5697例)だった。1m未満の物理的距離と比べると、1m以上の距離でウイルスの伝播率が低く(1万736例、統合調整オッズ比[aOR]0.18、95%CI 0.09-0.38、リスク差[RD]-10.2%、95%CI -11.5--7.5、中等度の確実性)、距離が長くなるほど保護効果が高くなった(1m当たりの相対リスク[RR]の変化2.02、交互作用のP=0.041、中等度の確実性)。マスクの着用で感染リスクが大幅に低下し(2697例、aOR 0.15、95%CI 0·07-0.34、RD -14.3%、-15.9--10.7、低度の確実性)、使い捨てサージカルマスクや同等のマスク(再利用可能な12-16層の綿マスクなど)と比べるとN95や同等のマスクの方が関連が強かった(交互作用のP=0.090、事後確率95%未満、低度の確実性)。このほか、保護めがねでも感染率が低下した(3713例、aOR 0.22、95%CI 0.12-0.39、RD -10.6%、95%CI -12.5--7.7、低度の確実性)。未調整の試験、下位集団解析や感度解析からほぼ同じ結果が得られた。
【解釈】この系統的レビューおよびメタ解析の結果は、1m以上の物理的距離を支持し、政策決定者にモデルおよび接触者追跡の定量的推定を提供するものである。この結果および関連因子から、公共の場および医療現場でのマスク、医療用レスピレーターおよび保護めがねの最適な着用を広めるべきである。この介入の根拠を示す頑強な無作為化試験が必要であるが、現在の入手可能な科学的根拠の系統的評価は中間的なガイダンスになると思われる。
第一人者の医師による解説
44試験のメタ解析の結果 有用なエビデンス さらに今後の研究の蓄積が必要
荒岡 秀樹 虎の門病院臨床感染症科部長
MMJ. February 2021;17(1):14
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の主な感染様式は飛沫感染と接触感染であり、特殊な状況下(例、換気の悪い空間)では一部空気感染を示唆する報告もある。なかでも飛沫感染をどのように防止するかが感染予防の最優先事項と考えられている。本論文は、コロナウイルス(SARS-CoV-2、SARS、MERS)における感染予防法(身体的距離[physical distancing]、マスク、眼の保護)の効果を調べた44試験(患者25,697人)のメタ解析の報告である。
解析の結果、1m以上の身体的距離は、1m未満の身体的距離と比較して、ウイルス伝播を低下させることが証明された(補正オッズ比[aOR], 0.18;95%信頼区間[CI], 0.09~0.38;中程度の確実性)。この予防効果は距離が離れるほど強くなることも明らかとなった(中程度の確実性)。また、マスクの着用は感染のリスクを大幅に低下させた(aOR, 0.15;95% CI, 0.07~0.34;低い確実性)。マスクの感染リスク低下効果は市中よりも医療現場でより大きいことが示唆された。N95マスクはサージカルマスクと比較して予防効果が大きいことが示された。さらに、眼の保護も感染の減少と関連していた(aOR, 0.22;95% CI, 0.12~0.39;低い確実性)。
本研究は世界保健機関(WHO)の支援を受けて実施され、完全な系統的レビューの方法を遵守していることが強みである。また、GRADEアプローチに従って、証拠の確実性を評価している。2020年5月3日までの関連データを検索し、新型コロナウイルスのパンデミックが他の世界的な地域に広がる前に中国からのデータを含めて評価している。一方、本研究の限界として、対象の研究はいずれもランダム化されていないこと、多くの研究で身体的距離に関する正確な情報が提供されておらず推測が含まれること、ほとんどの研究がSARSとMERSについて報告したものであること、などが挙げられる。
今回のメタ解析の結果は、SARS-CoV-2に対する感染予防のランダム化試験がない状況下で、非常に有益な情報を私たちに与えるものである。1m以上の身体的距離が重要で、2m以上の距離はより有用な可能性がある。さらに、医療現場および市中でのマスク着用、眼の保護の重要性を明らかにした。本論文は、2020年5月3日までのエビデンスをまとめ、大変有用なものであるが、これ以降のSARS-CoV-2に特化した感染予防のエビデンスにも注目していきたい。