ライブラリー ナトリウムグルコースコトランスポーター2阻害剤と重篤な有害事象のリスク:全国規模の登録に基づくコホート研究。
Sodium glucose cotransporter 2 inhibitors and risk of serious adverse events: nationwide register based cohort study
BMJ 2018 Nov 14 ;363 :k4365 .
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【目的】ナトリウムグルコースコトランスポーター2(SGLT2)阻害剤の使用と現在懸念されている7つの重篤な有害事象との関連を評価する。
【デザイン】登録ベースのコホート研究。
【設定】2013年7月から2016年12月までスウェーデンおよびデンマークの調査。
【参加者】SGLT2阻害薬(ダパグリフロジン61%、エンパグリフロジン38%、カナグリフロジン1%)の新規ユーザー17 213人とアクティブコンパレータであるグルカゴン様ペプチド1(GLP1)受容体作動薬の新規ユーザー17 213人の傾向スコアマッチコホートを作成した。
【主要評および測定法】主要アウトカムは、病院記録から特定した下肢切断、骨折、糖尿病性ケトアシドーシス、急性腎障害、重症尿路感染症、静脈血栓塞栓症、急性膵炎であった。ハザード比および95%信頼区間はCox比例ハザードモデルを用いて推定した。
【結果】SGLT2阻害薬の使用は、GLP1受容体作動薬と比較して、下肢切断のリスク上昇と関連していた(発生率2.7<i>v1.1イベント/1000人年、ハザード比2.32、95%信頼区間1.37~3.91)、糖尿病性ケトアシドーシス(1.3<i>v0.6, 2.14, 1.01~4.52 )があったが、骨折(15.4<i>v13.9、 1.11, 0.93~1.33 )、急性腎臓障害(2.1<i>v3)には関係しなかった。3 v 3.2, 0.69, 0.45~1.05), 重篤な尿路感染症 (5.4 v 6.0, 0.89, 0.67~1.05) 。19),静脈血栓塞栓症(4.2v 4.1, 0.99, 0.71~1.38) または急性膵炎(1.3v 1.2, 1.16, 0.64~2.12 )であった。
【結論】2カ国の全国規模の登録の分析では,GLP1受容体作動薬と比較してSGLT2阻害薬の使用は,下肢切断と糖尿病性ケトアシドーシスのリスク上昇と関連していたが,現在懸念されている他の重篤な有害事象とは関連がなかった。
第一人者の医師による解説
リスクの評価を行ったうえでSGLT2阻害薬を開始することが必要
木下 智絵 川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学/加来 浩平 川崎医科大学学長付特任教授
MMJ.April 2019;15(2)
本論文は、SGLT2阻害薬で懸念される7項目の有害事象を評価するため、GLP-1受容体作動薬を対照にスウェーデンとデンマークの日常診療データを用いた大規模コホート研究の報告である。両群の患者背景は傾向スコアマッチさせている。その結果、SGLT2阻害薬はGLP-1受容体作動薬に比べ、 下肢切断と糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のリスクが高く、他の有害事象に差はなかった。サブグループ解析としてインスリン治療の有無でのDKA リスク、末梢動脈疾患や下肢切断歴の有無による下肢切断リスクも同様の結果であった。
ダパグリフロジン 61%、エンパグリフロジン 38%、カナグリフロジン 1%と使用率に差が大きく、薬剤別の評価はできていない。CANVAS Programでカナグリフロジンによる下肢切断リスク上昇が注目されたが、機序は不明である。仮説として体液量減少との関連が示唆されているが、他の大規模 RCTではリスク上昇は認めず、SGLT2阻 害薬に共通のものかも含めて議論がある(1)。また、 本研究で両群の下肢切断発生率は1,000人 /年あたり2.7対1.1と非常に低く、既報の1.5~5.0 の 範囲内であった(2)。日本での年間下肢切断率 は 0.05%で海外報告の10分の1程度とされ、既往例を除けば、SGLT2阻害薬のメリットが相殺されるとは考えにくい。
一方、本研究におけるDKA発現率は対照群に比べ有意差はあるが低い(1,000人 /年あたり1.3 対0.6)。デンマークにおける2型糖尿病のDKA 発現率 は1,000人 /年 あたり1~2例 である。 SGLT2阻害薬に関連したDKAでは、多くが代謝的ストレス状態(手術、高強度の運動、心筋梗塞、脳卒中、重症感染症、長時間の空腹状態など)の高リスク患者であった。また、EMPA-REG OUTCOME やCANVAS ProgramではDKA発現率にプラセボ群との有意差はなかったことから、『SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation』(3)に留意して適切に治療を行うことで、SGLT2阻害薬に 関連したDKAの多くは回避できると考える。
最後に、1型糖尿病患者 へ のSGLT2阻害薬処方も可能となり、高リスク患者が含まれる可能性がある。SGLT2阻害薬のメリットを享受するためにも、より安全性に配慮し、DKA、足潰瘍、下肢切断の既往の確認、末梢動脈疾患などリスクを評価したうえで使用を開始することが望まれる。
1. Scheen AJ. Nat Rev Endocrinol. 2018;14(6):326-328.
2. Yuan Z, et al. Diabetes Obes Metab. 2018;20(3):582-589.
3. 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommen-dation」http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page= article&storyid=48