「SGLT2阻害薬」の記事一覧

2型糖尿病に用いる血糖降下薬の有効性比較 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
2型糖尿病に用いる血糖降下薬の有効性比較 系統的レビューおよびネットワークメタ解析
Comparative Effectiveness of Glucose-Lowering Drugs for Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Network Meta-analysis Ann Intern Med. 2020 Aug 18;173(4):278-286. doi: 10.7326/M20-0864. Epub 2020 Jun 30. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】2型糖尿病の治療には、薬理学的に幾つか選択肢がある。 【目的】2型糖尿病成人患者に用いる血糖降下薬の便益と有害性を比較すること。 【データ入手元】数件のデータベース(開始から2019年12月18日まで)および2020年4月10日時点のClinicalTrials.gov。 【試験選択】介入期間が24週間以上あり、血糖降下薬の死亡率、血糖値および血管転帰を評価した英語の無作為化試験 【データ抽出】2人1組でデータを抽出し、バイアスリスクを評価した。 【データ統合】9つの薬剤分類で21通りの糖尿病治療法を検討した試験453件を対象とした。介入に、単剤療法(134試験)、メトホルミン主体の併用療法(296試験)、単剤療法とメトホルミン主体の併用療法の比較(23試験)があった。治療歴がなく心血管リスクが低い患者で治療による差は見られなかった。メトホルミンを用いた基礎療法にインスリン治療またはグルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体作動薬を併用した治療が、HbA1c低下量が最も大きかった。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが低い患者で、死亡率および血管転帰に臨床的に意味のある差は見られなかった(298試験)。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが高い患者で、経口セマグルチド、エンパグリフロジン、リラグルチド、エキセナチド徐放製剤およびダパグリフロジンの使用によって全死因死亡率が低下した(21試験)。このほか、経口セマグルチド、エンパグリフロジンおよびリラグルチドで、心血管死も減少した。セマグルチド皮下投与およびデュラグルチドで、脳卒中のオッズが低下した。ナトリウム/グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬投与で、心不全による入院および末期腎臓病の発生率が低下した。セマグルチド皮下投与で網膜症発症率、カナグリフロジンで下肢切断率が低下した。 【欠点】心血管リスクが低い患者の推定て、心血管リスクの定義が一定でなく、確実性が弱い点。 【結論】心血管リスクが低い糖尿病患者では、治療による血管転帰には差がない。メトホルミン基礎療法を実施している心血管リスクが高い患者では、特定のGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬が特定の心血管転帰に良好な作用をもたらす。 第一人者の医師による解説 血糖降下薬の効果をネットワークメタアナリシスで間接比較 原井 望1)、辻本 哲郎3)、森 保道2) 虎の門病院本院内分泌代謝科 1)医員、2)部長、3)虎の門病院分院糖尿病内分泌科医長 MMJ. February 2021;17(1):22 2型糖尿病の治療選択肢は多種多様であり、病態に合わせた個別化医療が重要である。そのような中で、今回紹介するのは成人2型糖尿病に対する血糖降下薬の有効性および有害性を系統的レビュー(SR)とネットワークメタアナリシス(NMA)で検討した論文である。主要文献データベースおよびClinical Trials.govデータベースを用いて、介入期間24週以上、血糖降下薬の効果を血糖転帰、死亡率、血管転帰で評価している無作為化試験を抽出し、21種類の血糖降下薬(9薬剤クラス)が含まれた453試験を対象とした。これらを試験介入前の背景治療と心血管リスクで分類し、各薬剤による血糖改善効果(HbA1cのベースラインからの変化量)や死亡率、血管転帰などを評価した。背景治療は、薬物未使用(単剤療法)群とメトホルミンベースの治療群に分類した。 結果は、どちらの群でも各薬剤によりHbA1cは低下した中で、メトホルミンベースの治療群ではGLP-1受容体作動薬、またはインスリンを追加した群のHbA1c低下効果が大きかった。心血管リスクの高い患者では、経口セマグルチド、エンパグリフロジン、リラグルチド、エキセナチド徐放製剤、ダパグリフロジンで死亡率が低下した。前者3薬剤は心血管死も減少させた。そのほか、SGLT-2阻害薬は心不全入院や末期腎不全を減少させた。皮下セマグルチドで糖尿病網膜症、カナグリフロジンで下肢切断の増加が示唆された。本研究の限界として、心血管リスクの定義が一貫してないこと、心血管リスクの低い患者に対するいくつかの推定値は信頼度が低いことがあげられる。 さまざまな大規模臨床研究でGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬の心血管保護作用や腎保護作用が発表されており、本論文でも同様の結果であった。ADA/EASD Consensus Report 2019(1)でも、動脈硬化性心疾患や慢性腎臓病、心不全の合併または高リスク状態の2型糖尿病患者に対しては、メトホルミンに続く2次治療薬としてGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬が推奨されている。今回の論文は、NMAを採用したことで直接比較データのない血糖降下薬間の間接比較が可能となり、臨床的意義があると考える。一方、試験間の類似性や均質性、一致性が成り立っていないと結果の妥当性に問題が生じるため注意が必要である。2型糖尿病患者の治療法を選択する上で、患者の病態や合併症、ライフステージを把握するとともに、薬剤の有効性や、副作用、合併症抑制に関するエビデンスの情報は重要であり、今後もさらなるエビデンスの蓄積や検討が必要である。 1. Buse JB, et al. Diabetes Care. 2020;43(2):487-493.
左室駆出率が低下した心不全に用いるSGLT2阻害薬 EMPEROR-Reduced試験とDAPA-HF試験のメタ解析
左室駆出率が低下した心不全に用いるSGLT2阻害薬 EMPEROR-Reduced試験とDAPA-HF試験のメタ解析
SGLT2 inhibitors in patients with heart failure with reduced ejection fraction: a meta-analysis of the EMPEROR-Reduced and DAPA-HF trials Lancet. 2020 Sep 19;396(10254):819-829. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31824-9. Epub 2020 Aug 30. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】DAPA-HF試験(ダパグリフロジンを評価)とEMPEROR-Reduced試験(エンパグリフロジンを評価)から、糖尿病の有無を問わない左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害によって心血管死や心不全による入院の複合リスクが低下したことが示された。しかし、いずれの試験も、心血管死または全死因死亡にもたらす効果の評価および臨床的に重要な下位集団に見られた効果の特徴を明らかにするのに十分な検出力はなかった。そこで著者らは、DAPA-HF試験のデータおよびEMPEROR-Reduced試験の患者データを用いて、両試験で無作為化したHFrEF患者全例および関連下位集団を対象に、SGLT2阻害が非致命的心不全イベントおよび腎転帰にもたらす効果を推定することを目的とした。 【方法】SGLT2阻害薬が糖尿病の有無を問わないHFrEF患者の心血管転帰にもたらす効果を検討した大規模試験2件、DAPA-HF試験(ダパグリフロジンを評価)とEMPEROR-Reduced試験(エンパグリフロジンを評価)のメタ解析を実施した。主要評価項目は、全死因死亡までの時間とした。さらに、事前に規定した下位集団を対象に、心血管死または心不全による入院の複合リスクにもたらす効果も検討した。この下位集団は、2型糖尿病の状態、年齢、性別、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)治療、NYHA心機能分類、人種、心不全による入院歴、推算糸球体濾過量(eGFR)、BMIおよび地域(事後)を基にしている。イベント発生までの時間にCox比例ハザードモデル、治療の相互作用にコクランのQ検定を用いてハザード比(HR)を求めた。イベント再発の解析は、Lin-Wei-Yang-Yingモデルで得た率比を基にした。 【結果】両試験の被験者計8474例でみた推定治療効果は、全死因死亡率低下率13%(統合HR 0.87、95%CI 0.77~0.98、P=0.018)、心血管死亡率低下14%(0.86、0.76~0.98、P=0.027)であった。SGLT2阻害によって、心血管死亡または心不全による初回入院の複合リスクの相対的低下率は26%(0.74、0.68~0.82、P<0.0001)、心不全による再入院または心血管死の複合減少率は25%であった(0.75、0.68~0.84、P<0.0001)。このほか、腎転帰の複合リスクも低下した(0.62、0.43~0.90、P=0.013)。試験間の効果量の異質性を検討した検定はいずれも有意ではなかった。統合した治療効果からは、年齢、性別、糖尿病の有無、ARNIを用いた治療および試験開始時のeGFRで分類した下位集団で、一貫して便益が見られたが、NYHA心機能分類および人種で分類した下位集団では、集団による治療の交互作用が認められた。 【解釈】エンパグリフロジンとダパグリフロジンが心不全による入院にもたらす効果は、両試験を通して一貫して見られ、両薬剤によってHFrEF患者の腎転帰が改善し、全死因死亡および心血管死を抑制することが示唆された。 第一人者の医師による解説 SGLT2阻害薬は糖尿病薬に収まらず 心不全治療薬としてエビデンスの構築へ 深谷 英平 北里大学医学部循環器内科学講師 MMJ. February 2021;17(1):19 元来、糖尿病薬として登場したSGLT2阻害薬であったが、近年報告された大規模臨床試験において心不全による入院、心血管イベント、腎機能悪化の抑制を認めたことから、多面的効果が期待される薬剤へと変わってきた。さらに糖尿病の有無にかかわらず、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者を対象に同様の効果が期待できるかを検証した、エンパグリフロジンを用いたEMPERORReduced試験(1)とダパグリフロジンを用いたDAPA-HF試験(2)が相次いで発表された。両試験ともに、糖尿病の有無にかかわらずSGLT2阻害薬群において心不全入院の有意な減少を認めた一方で、患者数の限界から、心血管死や全死亡における差を見出すには至らなかった。そこで本論文では両試験を統合解析し、HFrEF患者8,474人を対象にSGLT2阻害薬の有効性を再検討した。 その結果、SGLT2阻害薬群ではプラセボ群に比べ全死亡リスクは13%低下、心血管死リスクは14%低下した。心血管死と初回心不全入院の複合リスクは26%低下、心不全再入院と心血管死の複合リスクも25%低下した。腎関連の複合エンドポイント(eGFRの低下、透析への移行、腎移植、腎不全死)についても38%のリスクの低下が認められた。サブグループ解析でも、糖尿病の有無、性別、年齢(65歳超対以下)、心不全入院の既往、腎機能低下の有無、肥満の有無(BMI 30kg/m2以上対未満)にかかわらずSGLT2阻害薬の一貫した有効性が実証された。一方、55歳未満の比較的若い年齢層、心不全機能分類 NYHA III-IVの重症例では、SGLT2阻害薬の有効性についてプラセボよりも優位な傾向はみられるが有意差は認めなかった。異なる人種間でも一貫した有効性が示され、アジア人や黒人では白人に比べSGLT2阻害薬のイベント抑制効果がさらに強い可能性も示された。ダパグリフロジンとエンパグリフロジンの間で有効性の差は認められず、SGLT2阻害薬のクラスエフェクトの可能性が示唆された。 今回のメタ解析により、HFrEF患者に対するSGLT2阻害薬のイベント抑制効果、予後改善効果が明らかとなった。日本では2020年11月にダパグリフロジンは慢性心不全への適応追加が承認され、エンパグリフロジンも適応追加が申請された。SGLT2阻害薬は単なる糖尿病の薬に収まらず、イベント抑制効果が実証された心不全治療薬の1つになった。今後も心不全治療薬としてさらなるエビデンスが構築されていくことが予想される。 1. Packer M, et al. N Engl J Med. 2020;383(15):1413-1424. 2. McMurray JJV, et al. N Engl J Med. 2019;381(21):1995-2008.
ナトリウム・グルコース共役輸送体2阻害薬と糖尿病性ケトアシドーシスのリスク 多施設共同コホート研究
ナトリウム・グルコース共役輸送体2阻害薬と糖尿病性ケトアシドーシスのリスク 多施設共同コホート研究
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and the Risk for Diabetic Ketoacidosis : A Multicenter Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Sep 15;173(6):417-425. doi: 10.7326/M20-0289. Epub 2020 Jul 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬によって糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のリスクが上昇する可能性がある。 【目的】SGLT2阻害薬によって、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害薬と比較して、2型糖尿病患者のDKAリスクが上昇するかを評価すること。 【デザイン】住民対象コホート研究;2013年から2018年の間のprevalent new-user design(ClinicalTrials.gov、NCT04017221)。 【設定】カナダ7地域と英国の電子医療記録データベース。 【患者】time-conditional傾向スコアを用いて、SGLT2阻害薬新規使用者20万8757例をDPP-4阻害薬使用者20万8757例とマッチングさせた。 【評価項目】コックス比例ハザードモデルで、DPP-4阻害薬使用者と比較したSGLT2阻害薬使用者のDKAの施設ごとのハザード比と95%CIを推定し、ランダム効果モデルを用いて統合した。二次解析では、分子、年齢、性別およびインスリン投与歴で層別化した。 【結果】全体で、37万454人・年の追跡で、521例がDKAの診断を受けた(1000人年当たりの発生率1.40、95%CI 1.29-1.53)。SGLT2阻害薬によってDPP-4阻害薬と比較してDKAリスクが上昇した(発生率2.03、CI 1.83 to 2.25、0.75、CI 0.63-0.89、ハザード比2.85、CI 1.99-4.08)。分子固有のハザード比は、ダパグリフロジン1.86(CI 1.11-3.10)、エンパグリフロジン2.52(CI 1.23-5.14)、カナグリフロジン3.58(CI 2.13-6.03)であった。この関連は年齢および性別では修正されず、インスリン投与歴があるとリスクが低下すると思われた。 【欠点】測定できない交絡因子がある点、患者の大多数の臨床検査データがない点、分子別の解析を実施した施設が少ない点。 【結論】SGLT2阻害薬でDKAリスクが約3倍になり、分子別の解析からクラス効果が示唆された。 第一人者の医師による解説 DPP-4阻害薬に比べ約3倍の発症リスク インスリンの存在がカギ 関根 信夫 JCHO東京新宿メディカルセンター院長 MMJ. April 2021;17(2):49 腎近位尿細管でのブドウ糖再吸収抑制により尿糖排泄を促すという、一見シンプルな機序により血糖降下作用を発揮するSGLT2阻害薬は、近年、心血管イベントをはじめとする合併症予防における優位性(1)から注目され、その使用が劇的に増加している。SGLT2阻害薬は血糖改善・体重減少作用に加え、心不全の発症・入院を減少させ、腎症の進展抑止に寄与する。米国糖尿病学会(ADA)により、特に心血管疾患・心不全・腎症合併例における積極的使用が推奨されている(2)。一方、副作用については尿路・性器感染症のリスク上昇が明らかであるが、代謝面で注目されたのが糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の発症である。その機序としてはインスリン欠乏や脱水などを基盤にケトン体産生が増加することが想定されている。特筆すべきは、比較的低い血糖レベルでもDKAを生じうることであり(“正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス”とも言われる)、極端な糖質制限によるリスクにも注意しなければならない。 本研究はカナダと英国のプライマリケア・データベースを活用したコホート研究であり、2013年1月~18年6月にSGLT2阻害薬を新規に処方された患者、またはDPP-4阻害薬投与を受けている患者を対象に、各薬剤群208,757人という大規模レベルでDKA発症について後ろ向きに比較検討したものである。結果、期間中521人(発症率比1.40人 /1,000人・年)がDKAを発症し入院した。このうちSGLT2阻害薬群ではDPP-4阻害薬群に比べ有意なDKA発症増加が認められた(発症率比2.03対0.75/1,000人・年;ハザード比[HR]2.85)。SGLT2阻害薬の薬剤別HRは、ダパグリフロジン1.86、エンパグリフロジン2.52、カナグリフロジン3.58と、基本的にはクラスエフェクトと考えられるものの、カナグリフロジンのリスクが最も高かった。同薬のSGLT2選択性が比較的低いことが理由として推察されるものの、結論を出すには慎重であるべきである。 なお、SGLT2阻害薬は1型糖尿病でのインスリンへの併用が保険適用となったが、DKA発症リスクが極めて高い1型糖尿病では、なお一層の注意が必要である。本研究でもあらかじめインスリンを投与された患者ではDKA発症リスクが低いという結果が得られており、ポイントはインスリンの“存在”と想定される。すなわち、1型糖尿病においては十分量のインスリンが投与されていること、2型糖尿病ではインスリン療法が行われているか、内因性インスリン分泌が十分あることが、DKA発症リスクを軽減することにつながるものと考えられる。 1. Zelniker TA, et al. Lancet. 2019;393(10166):31-39. 2. American Diabetes Association. Diabetes Care. 2021;44(Suppl 1):S111-S124.
1999~2018年の米国の成人にみられる糖尿病の治療とコントロールの傾向
1999~2018年の米国の成人にみられる糖尿病の治療とコントロールの傾向
Trends in Diabetes Treatment and Control in U.S. Adults, 1999-2018 N Engl J Med. 2021 Jun 10;384(23):2219-2228. doi: 10.1056/NEJMsa2032271. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】糖尿病の治療および危険因子のコントロールの現在の傾向を記録することにより、公衆衛生に関する政策や計画に有用な情報が得られる。 【方法】National Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)に参加した米国の糖尿病成人のデータを横断的に解析し、1999年から2018年にかけての糖尿病の治療と危険因子のコントロールに関する全国的な傾向を評価した。 【結果】1999年から2010年代前半にかけて、参加者の糖尿病コントロールが改善したが、その後は停滞し、低下した。2007~2010年の期間から2015~2018年の期間までに、糖尿病を有する成人NHANES参加者のうち、血糖コントロール(糖化ヘモグロビン値7%未満)を達成した人の割合は、57.4%(95%CI、52.9~61.8)から50.5%(95%CI、45.8~55.3)に低下した。2000年代前半に脂質コントロール(非高比重リポタンパクコレステロール値130mg/dL未満)が大きく改善したのち、2007~2010年(52.3%;95%CI、49.2~55.3)から2015~2018年(55.7%;95%CI、50.8~60.5)までにわずかな改善がみられた。血圧コントロール(140/90 mmHg未満)を達成した参加者の割合は、2011~2014年から2015~2018年までに74.2%(95%CI、70.7~77.4)から70.4%(95%CI、66.7~73.8)に低下した。3つの目標を同時に達成した参加者の割合は、2010年以降頭打ちとなり、2015~2018年は22.2%(95%CI、17.9~27.3)であった。何らかの血糖降下薬または降圧薬を使用した参加者の割合は、2010年以降変化がみられず、スタチンを使用した参加者の割合は2014年以降横ばいとなった。併用療法使用者の割合は、2010年以降、血圧コントロールが不良な参加者では低下し、血糖コントロールが不良な参加者では頭打ちになった。 【結論】糖尿病を有する成人NHANES参加者で、1999年から2010年代前半までの10年以上にわたり向上がみられたのち、血糖と血圧のコントロールが低下したが、脂質のコントロールが横ばいとなった。 第一人者の医師による解説 低血糖回避の重要性が認識され、低血糖が生じにくい薬剤の上市による生命予後改善が期待 入江 潤一郎 慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科准教授 MMJ. February 2022;18(1):14 全世界で糖尿病患者は増加の一途を辿っているが、実臨床における糖尿病治療の変遷は明らかではない。本研究では、米国の大規模な国民健康栄養調査(NHANES)のデータ(1999~2018年)を用いて、糖尿病と診断されている成人6,653人について、糖尿病関連の指標の検討を行った。 血糖管理に関しては、HbA1c値7.0%未満を達成した人の割合は、57.4%(2007 ~ 10年)から50.5%(2015 ~ 18年)に低下していた。しかし、その10年前である1999 ~ 2002年 の44.0%より上昇していた。血圧管理に関しては、収縮期 /拡張期血圧140/90mmHg未満を達成している人の割合が、74.2%(2011 ~ 14年)から70.4%(2015 ~ 18年)に低下していた。脂質に関しては、非高比重リポ蛋白(non-HDL)コレステロール値130mg/dL未満を達成している人の割合は、52.3%(2007 ~ 10年)から55.7%(2015~18年)に上昇を認めた。血糖・血圧・脂質の3つの管理目標をすべて達成した人の割合は、2007 ~ 10年には24.9%、2015 ~ 18年には22.2%と増減を認めなかった。糖尿病治療薬に関しては、1999年と比較し、2018年ではメトホルミン、インスリンの使用が増えた一方で、スルフォニル尿素薬、チアゾリジン薬の使用が減少していた。また2003年以降はNa+/グルコース共役輸送担体(SGLT)2阻害薬やグルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体作動薬の使用が増加していた。 これまで、DCCT(米国・カナダ)やUKPDS(英国)など、糖尿病患者の血糖管理が合併症に与える影響を検討した大規模研究から、厳格な血糖管理によりHbA1c値を低くすることが、糖尿病合併症の発症・進展を抑制できることが示されていた。これらの結果に基づき、HbA1c値を下げることは心血管事故死も予防すると考えられていたが、2008年に発表されたACCORD試験とADVANCE試験では、対象によっては厳格な血糖管理によっても心血管事故死の抑制が得られないことが明らかになった。その理由として、血糖値をより低く管理しようとすると、一部の糖尿病患者では低血糖のリスクが高くなり、不整脈や昏睡などが生じ、全死亡が増加した可能性が考えられた。その結果、低血糖を回避することの重要性が認識されるようになり、糖尿病患者の血糖管理目標が患者に応じて緩和されるようになったため、2015 ~ 18年の血糖管理が悪化した可能性がある。これらの試験以降、ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬など、低血糖を起こしにくい薬剤が上市されており、今後はこれらの薬を用いた糖尿病患者の生命予後の改善が期待される。 臨床試験略号:DCCT;Diabetes Control and Complications Trial、UKPDS;UK Prospective Diabetes Study、ACCORD;Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes、ADVANCE;Action in Diabetes and Vascular Disease
SGLT2阻害薬は心不全を抑制するが 大血管症への効果は2次予防例に限られる
SGLT2阻害薬は心不全を抑制するが 大血管症への効果は2次予防例に限られる
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors Versus Glucagon-like Peptide-1 Receptor Agonists and the Risk for Cardiovascular Outcomes in Routine Care Patients With Diabetes Across Categories of Cardiovascular Disease Ann Intern Med. 2021 Nov;174(11):1528-1541. doi: 10.7326/M21-0893. Epub 2021 Sep 28. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害薬とグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1 RA)は、2型糖尿病(T2D)と確立した心血管疾患(CVD)の患者を対象としたプラセボ対照試験で、いずれも心血管ベネフィットを示した。 【目的】SGLT2阻害薬とGLP-1 RAは、CVDを有するT2D患者と有しないCVD患者で差をつけて心血管ベネフィットに関連しているかを評価すること。 【デザイン】人口ベースコホート研究。 【設定】Medicareおよび米国の2つの商業請求データセット(2013年4月から2017年12月)。 【参加者】1:1の傾向スコアマッチしたCVDのある成人T2D患者およびない成人T2D患者(52 901人と133 139人のマッチペア)がSGLT2阻害剤対GLP-1 RA治療を開始。 【測定】主要アウトカムとして心筋梗塞(MI)や脳卒中の入院および心不全(HHF)による入院を挙げた。曝露前の共変量138個をコントロールして1000人年当たりのプールハザード比(HR)および率差(RD)を95%CIで推定した。 【結果】SGLT2阻害薬とGLP-1 RA療法の開始は、CVD患者におけるMIまたは脳卒中のリスクがわずかに低い(HR、0.90 [95% CI, 0.82 to 0.98]; RD, -2.47 [CI, -4.45 to -0.50])が、CVDのない患者では同等のリスク(HR, 1.07 [CI, 0.97 to 1.18]; RD, 0.38 [CI, -0.30 to 1.07])であった。SGLT2阻害薬とGLP-1 RA療法の開始は,CVD患者(HR,0.71 [CI,0.64~0.79]; RD,-4.97 [CI,-6.55~-3.39] )とCVDのない患者(HR, 0.69 [CI,0.56~0.85]; RD, -0.58 [CI, -0.])のベースラインのCVDと関係なくHHFリスク低減に関連していた。 【結論】SGLT2阻害薬とGLP-1製剤の使用は,CVDを有するT2D患者と有しないT2D患者でHHFリスクの一貫した低下と関連していたが,CVDを有する患者の方が絶対的な有益性が高かった。CVDの有無にかかわらず、T2D患者におけるMIや脳卒中のリスクには大きな違いはなかった。 第一人者の医師による解説 実臨床においてGLP-1受容体作動薬との比較がなされたが議論は続く 笹子 敬洋 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科助教 MMJ. April 2022;18(2):42 本論文に発表されたコホート研究は、米国の実臨床データを用いて、2型糖尿病においてNa+ /グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬とグルカゴン様ペプチド -1(GLP-1)受容体作動薬が心血管イベントに及ぼす影響を、組み入れ前12カ月間の心血管イベントの有無(1次予防か2次予防か)で層別化し解析したものである。主要評価項目のうち、心筋梗塞・脳卒中による入院は、GLP-1受容体作動薬と比較し、SGLT2阻害薬によって全体としては抑制されず、2次予防でのみ抑制された。一方、心不全による入院は同薬の投与により、1次・2次予防にかかわらず抑制されたが、絶対リスクの低下幅は1次予防ではわずかであった。 このような実臨床のリアルワールドデータを用いた後ろ向きコホート研究は、前向き臨床試験の課題を補うものとして期待がかけられている。例えば、本研究のような糖尿病治療薬同士の直接比較は、前向きの介入試験では難しいであろう。著者らによれば、心不全に関するSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の直接比較は初めてとのことだが、両剤が腎機能に及ぼす影響については、リアルワールドデータを用いた先行研究が報告されている(1)。 その一方で本研究では、筆者らが以前他の研究について指摘したのと同様(2)、有害事象についての解析がほとんどなされていない。前向き臨床試験であれば効果のみならず安全性にも十分な配慮が求められるが、現状でのリアルワールドデータを用いた解析では必ずしもその限りでないことに留意されたい。例えば先述のような、1次予防におけるSGLT2阻害薬の心不全に対するわずかな効果が、潜在的な有害事象のリスクを上回るかどうかは不明である。 また本研究では、前向き臨床試験において多く用いられるintention-to-treat解析でなく、薬剤の中止・切り替えも考慮したas-treatedアプローチが採用されたが、その結果マッチング後に解析対象となったのは、1次予防で計26万例以上、2次予防でも計10万例以上に上る規模であったにもかかわらず、追跡期間の中央値はわずか約7カ月であった。このようなリアルワールドデータを用いた解析において、薬剤の治療効果を長期的に評価することは必ずしも容易ではないが(2)、それを改めて目の当たりにさせられる結果でもあった。 最後に、著者らも述べているように、この研究の組み入れは2017年までであり、セマグルチドなどのより新しい薬剤が含められていない。SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬との差が今後縮まっていく可能性も考えられるが、それを明らかにするには今しばらく時間がかかりそうである。 1. Xie Y, et al. Diabetes Care. 2020;43(11):2859-2869. 2. Sasako T, et al. Kidney Int. 2022;101(2):222-224.
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号)
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号)
SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 国内外でSARS-CoV-2オミクロンBA.2株への置き換わりが急激に進んでいる。BA.2株の感染性・病原性、COVID-19回復者やワクチン接種者の血漿のBA.2に対する中和活性、治療用モノクローナル抗体と抗ウイルス剤への有用性の検討が行われた。Nature誌2022年5月18日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む ワクチン未接種のSARS-CoV-2オミクロン感染と交差免疫の検討 オミクロン感染による、他変異株に対する交差免疫の検討が行われた。ワクチン接種有無による、交差免疫発現の違いが示唆された。Nature誌2022年5月18日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 糖尿病におけるSGLT2阻害薬間の心血管転帰の比較 SGLT2阻害剤の個々の薬剤間で心血管予後を比較したデータは少ない。日本における大規模なリアルワールドデータ(25,315例)を用いて,個々のSGLT2阻害剤間のその後の心血管リスクを検討した。Cardiovascular Diabetology誌2022年5月18日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 5〜11歳の米国の子供におけるCOVID-19ワクチンBNT-162b2接種の安全性 5~11歳の小児に対する承認後のCOVID-19ワクチンBNT-162b2(Pfizer/BioNTech)の安全性データ、特に青年・若年成人で見られた心筋炎の有害事象が限定的である。米国のCOVID-19ワクチン接種プログラムの最初の4カ月間に観察された有害事象を検証した。Pediatrics誌2022年5月18日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 食事中のコレステロール、血清コレステロール、卵の消費量と全死亡率・心血管疾患起因死亡率との関連 人間の健康に対する外因性(食事)・内因性(血清)コレステロールへの影響評価は不十分である。食事性コレステロール、卵の消費量、血清コレステロール値と全死亡率、CVD死亡率に関する前向きコホート研究及び、システマティックレビューとメタアナリシスを行った。Circulation誌2022年5月17日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号)
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号)
6〜11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 mRNA-1273(モデルナワクチン)の小児に対する安全性、免疫原性、有効性は不明である。第2-3相試験を通して、小児(6~11歳)に対する安全性、第3相試験の若年成人(18~25歳)の免疫反応に対する非劣性、及びCOVID-19の感染頻度を確認した。The New England Journal of Medicine誌2022年5月26日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む COPDの急性増悪に対する硫酸マグネシウムの投与 硫酸マグネシウムは気管支拡張作用があり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪時の補助的な治療法として期待されている。11件のRCTを対象とし、硫酸マグネシウムの静脈内投与は、プラセボと比較して、入院数の減少、入院期間の短縮、および呼吸困難スコアの改善等に影響があるかを検討した。The Cochrane Database of Systematic Reviews誌2022年5月26日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む ヒト猿痘の臨床的特徴と管理:英国における後ろ向き観察研究 2018年から2021年の間に英国で診断されたサル痘の7人の患者における臨床的特徴、長期的なウイルス学的所見、および適応外抗ウイルス薬への反応を確認した。The Lancet. Infectious diseases誌2022年5月24日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 妊娠糖尿病と妊娠の有害事象:系統的レビューとメタアナリシス 妊娠糖尿病と、妊娠の有害転帰との関連を調べるため、1990年1月1日から2021年11月1日までの論文について、系統的レビューとメタ分析を行った。BMJ誌2022年5月25日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 2型糖尿病の第一選択薬として使用されたSGLT2阻害薬とメトホルミンの心血管系イベント比較:コホート研究 メトホルミンまたはSGLT2阻害薬の第一選択薬の使用に関連する心血管イベントリスクに関するエビデンスは限られている。米国の大規模な商業データベースとメディケアデータベースの請求データ(2013年4月から2020年3月)を用いて、コホート研究を行った。Annals of Internal Medicine誌2022年5月24日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本
ナトリウムグルコースコトランスポーター2阻害剤と重篤な有害事象のリスク:全国規模の登録に基づくコホート研究。
ナトリウムグルコースコトランスポーター2阻害剤と重篤な有害事象のリスク:全国規模の登録に基づくコホート研究。
Sodium glucose cotransporter 2 inhibitors and risk of serious adverse events: nationwide register based cohort study BMJ 2018 Nov 14 ;363 :k4365 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】ナトリウムグルコースコトランスポーター2(SGLT2)阻害剤の使用と現在懸念されている7つの重篤な有害事象との関連を評価する。 【デザイン】登録ベースのコホート研究。 【設定】2013年7月から2016年12月までスウェーデンおよびデンマークの調査。 【参加者】SGLT2阻害薬(ダパグリフロジン61%、エンパグリフロジン38%、カナグリフロジン1%)の新規ユーザー17 213人とアクティブコンパレータであるグルカゴン様ペプチド1(GLP1)受容体作動薬の新規ユーザー17 213人の傾向スコアマッチコホートを作成した。 【主要評および測定法】主要アウトカムは、病院記録から特定した下肢切断、骨折、糖尿病性ケトアシドーシス、急性腎障害、重症尿路感染症、静脈血栓塞栓症、急性膵炎であった。ハザード比および95%信頼区間はCox比例ハザードモデルを用いて推定した。 【結果】SGLT2阻害薬の使用は、GLP1受容体作動薬と比較して、下肢切断のリスク上昇と関連していた(発生率2.7<i>v1.1イベント/1000人年、ハザード比2.32、95%信頼区間1.37~3.91)、糖尿病性ケトアシドーシス(1.3<i>v0.6, 2.14, 1.01~4.52 )があったが、骨折(15.4<i>v13.9、 1.11, 0.93~1.33 )、急性腎臓障害(2.1<i>v3)には関係しなかった。3 v 3.2, 0.69, 0.45~1.05), 重篤な尿路感染症 (5.4 v 6.0, 0.89, 0.67~1.05) 。19),静脈血栓塞栓症(4.2v 4.1, 0.99, 0.71~1.38) または急性膵炎(1.3v 1.2, 1.16, 0.64~2.12 )であった。 【結論】2カ国の全国規模の登録の分析では,GLP1受容体作動薬と比較してSGLT2阻害薬の使用は,下肢切断と糖尿病性ケトアシドーシスのリスク上昇と関連していたが,現在懸念されている他の重篤な有害事象とは関連がなかった。 第一人者の医師による解説 リスクの評価を行ったうえでSGLT2阻害薬を開始することが必要 木下 智絵 川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学/加来 浩平 川崎医科大学学長付特任教授 MMJ.April 2019;15(2) 本論文は、SGLT2阻害薬で懸念される7項目の有害事象を評価するため、GLP-1受容体作動薬を対照にスウェーデンとデンマークの日常診療データを用いた大規模コホート研究の報告である。両群の患者背景は傾向スコアマッチさせている。その結果、SGLT2阻害薬はGLP-1受容体作動薬に比べ、 下肢切断と糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のリスクが高く、他の有害事象に差はなかった。サブグループ解析としてインスリン治療の有無でのDKA リスク、末梢動脈疾患や下肢切断歴の有無による下肢切断リスクも同様の結果であった。 ダパグリフロジン 61%、エンパグリフロジン 38%、カナグリフロジン 1%と使用率に差が大きく、薬剤別の評価はできていない。CANVAS Programでカナグリフロジンによる下肢切断リスク上昇が注目されたが、機序は不明である。仮説として体液量減少との関連が示唆されているが、他の大規模 RCTではリスク上昇は認めず、SGLT2阻 害薬に共通のものかも含めて議論がある(1)。また、 本研究で両群の下肢切断発生率は1,000人 /年あたり2.7対1.1と非常に低く、既報の1.5~5.0 の 範囲内であった(2)。日本での年間下肢切断率 は 0.05%で海外報告の10分の1程度とされ、既往例を除けば、SGLT2阻害薬のメリットが相殺されるとは考えにくい。 一方、本研究におけるDKA発現率は対照群に比べ有意差はあるが低い(1,000人 /年あたり1.3 対0.6)。デンマークにおける2型糖尿病のDKA 発現率 は1,000人 /年 あたり1~2例 である。 SGLT2阻害薬に関連したDKAでは、多くが代謝的ストレス状態(手術、高強度の運動、心筋梗塞、脳卒中、重症感染症、長時間の空腹状態など)の高リスク患者であった。また、EMPA-REG OUTCOME やCANVAS ProgramではDKA発現率にプラセボ群との有意差はなかったことから、『SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation』(3)に留意して適切に治療を行うことで、SGLT2阻害薬に 関連したDKAの多くは回避できると考える。 最後に、1型糖尿病患者 へ のSGLT2阻害薬処方も可能となり、高リスク患者が含まれる可能性がある。SGLT2阻害薬のメリットを享受するためにも、より安全性に配慮し、DKA、足潰瘍、下肢切断の既往の確認、末梢動脈疾患などリスクを評価したうえで使用を開始することが望まれる。 1. Scheen AJ. Nat Rev Endocrinol. 2018;14(6):326-328. 2. Yuan Z, et al. Diabetes Obes Metab. 2018;20(3):582-589. 3. 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommen-dation」http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page= article&storyid=48
ナトリウム-グルコースコトランスポーター-2阻害薬と重症尿路感染症のリスク。人口ベースのコホート研究。
ナトリウム-グルコースコトランスポーター-2阻害薬と重症尿路感染症のリスク。人口ベースのコホート研究。
Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and the Risk for Severe Urinary Tract Infections: A Population-Based Cohort Study Ann Intern Med 2019;171:248-256. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】ナトリウム-グルコースコトランスポーター2(SGLT-2)阻害薬による重症尿路感染症(UTI)のリスクを評価した先行研究では、相反する知見が報告されている。 【目的】SGLT-2阻害薬の使用を開始した患者が、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬やグルカゴン様ペプチド-1受容体(GLP-1)アゴニストの使用を開始した患者と比較して、重篤な尿路感染症(UTI)のリスクが高いかどうかを評価すること。 【デザイン】人口ベースのコホート研究 【設定】米国の大規模コホート研究2件(2013年3月)。症例数は1,000例を超えているが、そのうちの1,000例を超えているのは、1,000例以上である。対象者は18歳以上、2型糖尿病、SGLT-2阻害薬とDPP-4阻害薬(コホート1)またはGLP-1アゴニスト(コホート2)の使用を開始した患者であった。 測定 【方法】一次アウトカムは重篤なUTIイベントであり、一次UTI、UTIを伴う敗血症、腎盂腎炎の入院と定義した。 【結果】2つのデータベースの中から、傾向スコアを1:1でマッチングさせた後、コホート1では123,752人、コホート2では111,978人の患者が同定された。コホート1では、新たにSGLT-2阻害薬を投与された人の重篤なUTIイベントは61件(1000人年あたりの発生率[IR]1.76)であったのに対し、DPP-4阻害薬投与群では57件(IR、1.77)であった(HR、0.98[95%CI、0.68~1.41])。コホート2では、SGLT-2阻害薬投与群では73件(IR、2.15)のイベントが発生したのに対し、GLP-1アゴニスト群では87件(IR、2.96)(HR、0.72 [CI、0.53~0.99])であった。結果は、感度解析において、年齢、性別、虚弱性のいくつかのサブグループ内で、カナグリフロジンとダパグリフロジンを個別に投与した場合でも、ロバストなものでした。さらに、SGLT-2阻害薬は外来UTIリスクの増加とは関連していなかった(コホート1:HR、0.96 [CI、0.89~1.04]、コホート2:HR、0.91 [CI、0.84~0.99])。 【限界】本試験所見の一般化可能性は、商用保険加入患者に限定されている可能性がある。 【結論】日常臨床でみられる大規模コホートにおいて、SGLT-2阻害薬治療を開始した患者における重度および非重度の尿路イベントのリスクは、他の第2選択抗糖尿病薬による治療を開始した患者におけるリスクと同程度であった。 第一人者の医師による解説 高齢者などの高リスク患者 引き続き注意が必要 稲垣 暢也 京都大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学教授 MMJ.February 2020;16(1) SGLT2阻害薬は性器感染症を増加させることは 広く認められているが、尿路感染症との関連については不明な点が多い。また、米食品医薬品局(FDA) は2015年、SGLT2阻害薬の添付書類に重症尿路 感染症に関する警告を加えたが、服用時にみられる尿路感染症の多くは軽度~中等度であり、重症尿路感染症との関係は不明である。 本論文は、2013年3月~ 15年9月に、米国の 2つの民間保険請求データベースを用いて、18歳 以上の2型糖尿病患者を対象に実施されたコホート研究の報告である。コホート 1(123,752人) では、SGLT2阻害薬 またはDPP-4阻害薬 を開始 した患者の間で、コホート 2(111,978人)では、 SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬を開始 した患者の間で比較検討が行われた。それぞれのコホートにおいて、1:1の傾向スコアマッチングを 行っている。主要評価項目は重症尿路感染症(初回 尿路感染症、尿路感染症による敗血症、または腎盂腎炎による入院の複合)とし、副次評価項目は抗菌薬で外来治療を行った尿路感染症(非重症尿路感染 症)とした。 そ の 結果、主要評価項目 で あ る 重症尿路感染 症 の 発生率 は、コ ホ ー ト 1でSGLT2阻害薬群 1.76/1,000人・年、DPP-4阻害薬群1.77/1,000 人・年と有意差はなく(相対リスク[RR], 0.98; 95%信頼区間[CI], 0.68 ~ 1.41)、コホート 2で は、SGLT2阻害薬群2.15 /1,000人・年、GLP-1 受容体作動薬群2.96 /1,000人・ 年 で、SGLT2 阻害薬群においてやや低かった(RR, 0.72;95% CI, 0.53 ~ 0.99)。副次評価項目の非重症尿路感 染症についても、両コホートにおいて、SGLT2阻害薬群で有意に多いという結果は得られなかった。 SGLT2阻害薬を新たに開始した患者をそれぞれ5万人以上含むリアルワールドの本コホート研 究では、SGLT2阻害薬による重症・非重症の尿路感染症の増加は認められなかった。しかし、本研究では、尿路感染症の既往やリスク(水腎症、膀胱尿 管逆流、脊髄損傷、カテーテル使用など)がある患者、 腎機能障害や妊娠糖尿病、がんなどの患者、老人ホー ムやホスピス入所患者などが除外されている点や、 糖尿病の罹病期間、体格指数(BMI)、HbA1cなどに関する情報が不足している点に注意すべきである。 今後、重症尿路感染症のリスクが特に高い高齢者など、高リスク患者については、さらなるエビデンス が必要であるとともに、引き続き尿路感染症に注意する必要があると思われる。
ダパグリフロジンが糖尿病がない心不全患者の心不全悪化と心血管死にもたらす効果
ダパグリフロジンが糖尿病がない心不全患者の心不全悪化と心血管死にもたらす効果
Effect of Dapagliflozin on Worsening Heart Failure and Cardiovascular Death in Patients With Heart Failure With and Without Diabetes JAMA. 2020 Mar 27;323(14):1353-1368. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者に追加治療が必要である。ナトリウム・グルコース輸送体2(SGLT2)阻害薬は、糖尿病がないHFrEF患者にも有効な治療であると考えられる。 【目的】糖尿病の有無を問わずHFrEF患者に用いるダパグリフロジンの効果を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】20カ国410施設で実施された第III相無作為化試験の探索的解析。2017年2月15日から2018年8月17日にかけて、NYHA分類II~IV、左室駆出率が40%以下で、血漿NT-proBNP値が上昇した患者を組み入れ、2019年6月19日まで追跡した。 【介入】推奨治療に追加したダパグリフロジン1日1回10mgまたはプラセボ。 【主要転帰または評価項目】主要転帰は心不全の悪化または心血管死の複合とした。この転帰は、試験開始時の糖尿病の有無で、さらに糖尿病がない患者では糖化ヘモグロビン値5.7%以上と5.7%未満に分けて解析した。 【結果】無作為化した4744例(平均年齢66歳、23%が女性、55%が非糖尿病)のうち4742例が試験を完遂した。糖尿病がない患者で、主要転帰はダパグリフロジン群1298例中171例(13.2%)、プラセボ群1307例中231例(17.7%)に発生した(HR 0.73、95%CI 0.60~0.88)。糖尿病患者では、主要転帰はダパグリフロジン群1075例中215例(20.0%)、プラセボ群1064例中271例(25.5%)に発生した(同0.75、0.63~0.90、交互作用のP=0.80)。糖尿病がなく糖化ヘモグロビン値5.7%未満の患者で、主要転帰はダパグリフロジン群438例中53例(12.1%)、プラセボ群419例中71例(16.9%)に発生した(同0.67、0.47~0.96)。糖化ヘモグロビン値5.7%以上の患者で、主要転帰はダパグリフロジン群860例中118例(13.7%)、プラセボ群888例中160例(18.0%)に発生した(同0.74、0.59~0.94)、交互作用のP=0.72)。糖尿病がない患者でダパグリフロジン群の7.3%、プラセボ群の6.1%、糖尿病患者のそれぞれ7.8%、7.8%に有害事象として体液減少が報告された。糖尿病がない患者でダパグリフロジン群の4.8%、プラセボ群の6.0%、糖尿病患者でそれぞれ8.5%、8.7%に腎有害事象が報告された。 【結論および意義】このHFrEF患者を対象とした無作為化試験の探索的解析では、ダパグリフロジンを推奨治療に追加すると、プラセボと比べて、糖尿病の有無に関係なく心不全の悪化または心血管死を有意に抑制した。 第一人者の医師による解説 細胞外液量減少を介した心負荷減少が心不全改善に寄与の可能性 長田太助 自治医科大学医学部内科学講座腎臓内科学部門教授・附属病院副病院長 MMJ. October 2020; 16 (5):131 EMPA-REG outcome試験(1)を皮切りに、この数年でNa+ /グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬による心血管予後の改善効果を示した大規模臨床試験が次々と発表された(2)。ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬を使ったSAVORTIMI53試験では心不全が増加したのに対し、同じ糖尿病薬でもSGLT2阻害薬は心不全の悪化を抑制することが強く印象づけられた。「心不全患者だけを集めてSGLT2阻害薬を投与した場合、心不全悪化は抑制されるのか?」と誰しも疑問に思うことだろう。DAPA-HF試験(3)がその答えを提示した。同試験ではNYHAクラス II ~ IVで駆出率(EF)40%未満の心不全患者4,744人をダパグリフロジン(DAPA)10mg/日群とプラセボ群に無作為に割り付け、約2年間観察した。主要評価項目(心不全悪化と心血管死亡の複合アウトカム)の発生率はDAPA群16.3%、プラセボ群21.2%、ハザード比(HR)は0.74で統計学的に有意であった。  本研究では、これと同じ母集団を使い、糖尿病群(2,139人)と非糖尿病群(2,605人)に分けたpost hoc解析が実施された。2019年の報告(3)では、複合アウトカム(心不全悪化と心血管死亡)発生率は糖尿病の有無で差がなかったと報告され、糖尿病薬が非糖尿病患者でも心不全を抑制した結果は衝撃だったが、今回はさらに詳しく糖尿病の有無で差が検証された。主要評価項目は本試験と同じで、その発生率は糖尿病群においてDAPA群20.0%、プラセボ群25.5%(HR, 0.75)、非糖尿病群ではDAPA群13.2%、プラセボ群17.7%(HR, 0.73)であり、それぞれの群内で有意差はあったが、糖尿病の有無間で有意な交互作用はなかった。腎機能悪化以外の2次評価項目を含めて結果はすべて同様で、DAPAの心不全悪化抑制効果は糖尿病の有無ならびにベースライン HbA1c値の高低によらずほぼ一定であることも示された。  血糖値改善作用によらないのであれば、DAPAによる心不全抑制機序は何であろうか。本論文でDAPAには糖尿病の有無によらずヘマトクリット値を上げる作用があることが示されており、細胞外液量減少を介した心負荷減少が心不全の改善に寄与している可能性がある。そのほかにもhypoxia-inducible factor (HIF)1活性化とエリスロポエチン産生増加、心筋の線維化抑制作用、ケトン体産生を介した心筋のエネルギー効率改善、交感神経抑制作用など諸説あるが、SGLT2阻害薬の心不全改善作用の正確な機序はまだ不明である。機序が明らかになれば、心不全の薬だが血糖降下作用もある薬とSGLT2阻害薬の立ち位置が変わるのかもしれない。 1. Zinman B et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 2. Zelniker TA et al. Lancet. 2019;393:31-39. 3. McMurray et al. N Engl J Med. 2019;381:1995-2008.