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敗血症・敗血症性ショックに対するβ-ラクタム系抗菌薬の長時間静注:間欠静注よりも90日死亡抑制で有用
Prolonged vs Intermittent Infusions of β-Lactam Antibiotics in Adults With Sepsis or Septic Shock: A Systematic Review and Meta-Analysis
JAMA. 2024 Aug 27;332(8):638-648. doi: 10.1001/jama.2024.9803.
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ 論文検索による機械翻訳です。
重要性:敗血症または敗血症性ショックを有する重症成人において、β-ラクタム系抗生物質の長期輸注が臨床的に重要な転帰を改善するかどうかについては不明確である。
目的:敗血症または敗血症性ショックの重篤な成人において、β-ラクタム系抗生物質の長期注入が、間欠注入と比較して死亡リスクの低下と関連するかどうかを明らかにすること。 データの出典一次検索はMEDLINE(PubMed経由)、CINAHL、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、ClinicalTrials.govで、開始時から2024年5月2日まで実施した。
試験の選択:敗血症または敗血症性ショックの重症成人において、βラクタム系抗生物質の長期(持続または延長)注入と間欠注入を比較したランダム化臨床試験。
データの抽出と統合:データの抽出とバイアスのリスクは、2人のレビュアーが独立して評価した。エビデンスの確実性は、Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluationのアプローチにより評価した。一次解析手法としてベイジアンフレームワーク、二次解析手法として頻出主義フレームワークを用いた。 主要アウトカムと評価基準主要アウトカムは全死因90日死亡率であった。副次的アウトカムは集中治療室(ICU)死亡率および臨床的治癒であった。
結果:敗血症または敗血症性ショックの重症成人9108人(年齢中央値54歳;IQR、48~57;男性5961人[65%])を対象とした18の適格ランダム化臨床試験から、17試験(参加者9014人)が主要転帰にデータを提供した。β-ラクタム系抗菌薬の長期輸注と間欠輸注を比較したプール推定全死因90日死亡リスク比は0.86(95%信頼区間、0.72-0.98;I2=21.5%;高確率)であり、長期輸注が90日死亡率の低下と関連する事後確率は99.1%であった。β-ラクタム系抗生物質の長期注入は、集中治療室での死亡リスクの低下(リスク比、0.84;95%信頼区間、0.70-0.97;高い確実性)および臨床的治癒の増加(リスク比、1.16;95%信頼区間、1.07-1.31;中程度の確実性)と関連していた。
結論と意義:敗血症または敗血症性ショックを発症した集中治療室の成人において、β-ラクタム系抗生物質の長期輸注の使用は、間欠的な輸注と比較して90日死亡リスクの低下と関連していた。今回のエビデンスは、臨床医が敗血症および敗血症性ショックの管理における標準治療として長期輸注を考慮するための高い確実性を示している。
試験登録:PROSPERO Identifier:CRD42023399434。
第一人者の医師による解説
長時間静注と間欠静注の比較結果は 評価の視点により異なる
山岸 由佳 高知大学医学部臨床感染症学講座教授
MMJ.April 2025;21(1):25
本論文は、β -ラクタム系抗菌薬の長時間静注あるいは間欠静注の敗血症・敗血症性ショックの成人例における有用性を検討したメタ解析の報告である。これまでもその時の最新データ(既報)を用いたメタ解析がなされており、2020年以降報告された主なメタ解析結果について、古いものから順に紹介する。
Kondoらは、敗血症・敗血症性ショックの成人患者を対象にβ -ラクタム系抗菌薬の長時間静注と間欠静注を比較した13件の無作為化対照試験(RCT)についてメタ解析を行った(1) 。その結果、長時間静注群では主要評価項目の院内死亡率は低下しなかった(リスク比[RR], 0.69)。目標血漿濃度の達成と臨床的治癒は長時間静注群で有意に改善した(それぞれRRが0.40、0.84)。しかし、有害事象と薬剤耐性菌の発生率では両群間に有意差は認められなかった。Kiranらは、成人の重症急性感染症患者を対象に抗緑膿菌β -ラクタム系抗菌薬の長時間静注と間欠静注の臨床効果と安全性について、RCT20件のメタ解析を行った(2)。全死亡リスクは間欠静注群よりも長時間静注群の方が有意に低かった(RR,0 .77)。長時間静注による治療は臨床的効果が有意に高かった(RR, 1.09)。微生物学的効果(RR,1.12)、有害事象(RR, 0 .96)および重篤な有害
事象(RR, 0.99)について有意差はなかった。Liらは、成人の敗血症患者を対象に、β -ラクタム系抗菌薬の長時間静注と間欠静注を比較したRCT9件のメタ解析を行った(3)。その結果、間欠静注群と比較し長時間静注群では30日全死亡率が有意に低下した(RR, 0 .82)。また院内死亡率、ICU内死亡率はいずれも低下し臨床的治癒が増加した。長期予後での有益性は認められていない。Zhaoらは、成人の敗血症患者を対象にβ -ラクタム系抗菌薬の長時間静注と間欠静注を比較したRCT15 件についてメタ解析を行った(4)。その結果、長時間静注群では全死亡率の有意な低下(RR, 0.83)、臨床的改善(RR, 1.16)が認められた。微生物学的効果(RR,1.10)、有害事象(RR, 0.91)について有意差はなかった。特にサンプル数が各群20人を超える研究(RR, 0.84)、2010年以降に実施された研究(RR,0 .84)、主にグラム陰性菌による感染症患者を含む研究(RR, 0 .81)、初期負荷投与(RR, 0 .84)およびペニシリン系抗菌薬の使用(RR, 0.61)において有効性が確認された。
以上のように、これまで報告された敗血症・敗血症性ショックの成人患者に対するβ -ラクタム系抗菌薬の長時間静注あるいは間欠静注の有用性は報告年数や評価項目によってさまざまである。今回の論文は長時間静注が90日死亡率の低下と関連していることを示した新規性のある結論であった。
1. Kondo Y, et al. J Intensive Care. 2020;8:77.
2. Kiran P, et al. J Infect Chemother. 2023;29(9):855-862.
3. Li X, et al. Ann Intensive Care. 2023;13(1):121.
4. Zhao Y, et al. Ann Intensive Care. 2024;14(1):30.