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第87回日本血液学会学術集会 清井大会長インタビュー
第87回日本血液学会学術集会 清井大会長インタビュー
掲載日:2025年10月1日 来る2025年10月10日(金)~12日(日)、神戸国際会議場ほかで開催される第87回日本血液学会学術集会の会長を務める、日本血液学会理事で学術・統計調査委員会なども担当される清井仁氏(名古屋大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学教授)に、今大会への思いや注目のプログラム、国際学会との連携、多様な参加者への期待、そして若手医師やヒポクラ血液内科Proユーザーへのメッセージなどを伺いました。 ―大会長をお引き受けになったお気持ちをお聞かせください。  専門分野の研究を長く続ける中で、学会は非常に大きな節目であり、重要なイベントです。その大役を引き受けることになり、光栄であると同時に、責任の重さも感じています。 ―今回のテーマは「めぐりつながる」ですが、そこに込められた思いを教えてください。  まず大切にしたかったのは「連続性」です。コロナ禍で一度は集まれなくなりましたが、再びオンサイトでフルスペックの学会が開催できるようになってから、会場の熱気や盛り上がりを強く感じました。「やはり学会は、人が集まってこそ」と実感しました。 今回、本来は名古屋で開催したかったのですが、会場の改修工事がコロナの影響で遅れ、神戸での開催となりました。これも一種の“巡り合わせ”でもあります。私自身が関西出身という縁もあり、これまで出雲、名古屋と移り住む中で、多くの人とのご縁に支えられて今があります。 また、私たちの教室の創始者である勝沼精蔵先生のご出身が神戸であったことも、今回のテーマ「めぐりつながる」と深く重なっています。難しく考えるより、こうした“偶然のつながり”を大切にしたい。それが過去から未来へと続く連続性につながると考え、このテーマを掲げました。 ”偶然のつながり”を大切にしたい。 ―今回の学会で特に力を入れているセッションや企画はありますか。  特定の一つというより、シンポジウムや企画はこれまでも学会として大事に続けてきたものです。プログラム企画委員の先生方がそれぞれ工夫して、一流の研究者を招聘し準備してくれています。 例えば「女性シンポジウム」。コロナで来日できなかった前ASH会長のStephanie J Lee(ステファニー・J・リー)先生に、今回ようやく参加いただけます。海外リーダーを交えたセッションが実現するのは大きな意味があります。偶然にもASHとEHAの現会長がいずれも女性で、ロールモデル的な側面も感じます。さらに、EHAのKonstanze Döhner(コンスタンツェ・ドーナー)先生はご主人ともども白血病分野のトップリーダーで、ご夫婦で特別講演に来ていただけることになりました。これも「縁」ですね。 ゲノム関連については、今年から「ヘムサイト」パネル検査が保険収載され、臨床で実際に使われるようになりました。その現状を受けて、臨床現場での課題をディスカッションできるセッションを企画しています。 また、自分が長年関わってきた海外試験のデータや薬に関する研究についても、海外の親しい研究者を招聘してシンポジウムを組んでいます。個人的にも思い入れがあります。 ―海外学会との連携についての印象を教えてください。 非常に大事だと思います。ASHやEHAはもちろんですが、アジアとのジョイントセッションも毎回行われています。単に「ドラッグ・ラグ」だけではなく、国によっては治療が受けられない現状もある。逆に中国・韓国・シンガポールなどは日本以上に進んでいる領域もあります。 そうした「国ごとの事情」を踏まえて議論することは大切です。今回もアジアンジョイントセッションでそうしたテーマを取り上げています。医療の多様性を学べる貴重な機会になると思います。 ―若手医師にとって学会はどんな場であってほしいとお考えですか。  若手にとっては学びの場であると同時に、自分の発表に対して指導を受けられる場でもあります。最先端の研究や臨床に触れることはもちろん、研究者としてのマインドを感じてもらえることも大切です。 また、普段の職場を離れて交流し、息抜きやリフレッシュの場になることもあります。先輩や他施設の仲間と交流する中で、モチベーションを高めてもらえるといいですね。そうした雰囲気を、毎年の成長につなげてほしいと思います。 ―最先端技術(ゲノム・分子分類など)が進む中で、学会はどう機能すべきでしょうか。  大学病院と市中病院では状況が異なります。ゲノム検査は研究レベルでは以前から行われていますが、日常診療で応用できる施設はまだ限られている。ただし、知識を仕入れておくことは重要です。実際にできなくても、知っていれば「紹介につなげられる」可能性がある。知識を整理し、臨床の意識を高める場になることが大事だと思います。 また、臨床経験を共有することで新しい臨床試験や研究課題(クリニカルクエスチョン)につながるヒントにもなります。学会はそうした「次の一歩」を考える場でもあると思います。 臨床の意識を高め、ヒントにもなる。 ―血液内科 Proのようなオンラインコミュニティへの期待について。  自分たちが当たり前と思っている診療においても、他の方法が有る場合があることを認識することが重要です。だからこそ、多様な立場の先生方との交流は大切です。EBMやガイドラインは基本ですが、地域的・社会的背景によっても治療方針が影響を受けるケースもあります。 そうした現場の工夫や経験を共有できる場は大変有意義だと思います。学会では声の大きい人ばかりが目立つこともありますが、オンラインコミュニティならざっくばらんに議論できる。 「病気を治す」のでなく、「病気を持つ患者さんを治す」と考えるには、社会的背景や患者さんの考え方も含めて議論する必要があります。そうした情報交換の場としてぜひ発展してほしいですね。 ―最後に今回の学会に参加される先生方へのメッセージをお願いします。  血液疾患はサンプルを得やすい分、疾患研究や薬の開発が先行してきた分野です。その一方で「一人ひとりの患者を大事に診ること」が極めて重要です。それが次の研究や治療法の改善につながります。 学会は最新の研究や治療を知る場であると同時に、人と人との交流の場です。そして、参加できるということは、誰かが現場で患者さんを見て支えてくれているからこそ、です。 参加される皆さまには、知識や経験を「お土産」として持ち帰り、現場で一緒に働く仲間や患者さんに還元していただければと思います。そうした積み重ねが、次の研究や治療につながっていくと信じています。 学会開催概要名称:第87回日本血液学会学術集会 会期:2025年10月10日(金)~12日(日) 会場:神戸国際会議場・神戸国際展示場・神戸ポートピアホテル 〒650-0046 兵庫県神戸市中央区港島中町6丁目9−1 会長:清井 仁(名古屋大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学) テーマ:めぐり つながる 開催形式:現地中心に開催(一部プログラムをライブ配信・後日オンデマンド予定) 大会HP:https://www.jshem.or.jp/87/index.html
「なぜ」を問い続ける医療を ― CAR-Tの現在地と次の一手《血液内科Pro エキスパートインタビュー》
「なぜ」を問い続ける医療を ― CAR-Tの現在地と次の一手《血液内科Pro エキスパートインタビュー》
大阪大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科では、堅固な臨床基盤と人材育成を重視し、現時点で提供可能な最良の血液疾患治療を追求するとともに、CAR-T細胞療法をはじめとした細胞・遺伝子治療の実施拠点としての機能強化を進めています。 同大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学 教授の保仙直毅先生に、臨床と研究の両輪で牽引される診療のあり方と、CAR-Tの現在地・未来について伺いました。 CAR-T細胞療法の現在地 ― CAR-T細胞療法は、血液内科の現場でどのように受け止められているのでしょうか?  CAR-Tは、悪性リンパ腫や多発性骨髄腫といった一部の血液がんにおいて、すでに一般的な治療の選択肢として受け入れられています。臨床現場にいる血液内科医にとっては、“特別な治療”ではなくなってきた印象がありますね。 ただ、日本で承認されたのは2019年と、まだ5年しか経っていません。そのため、実際には治療の適応が限られており、急性骨髄性白血病(AML)やT細胞性の疾患など、未だ対象とならない疾患も多いのが現状です。世界中で、より多くの患者さんに届けられるよう、新たなCAR-Tの開発が進められています。 CAR-NK細胞の可能性と、未来の治療オプション ― 次世代の細胞療法としてCAR-NK細胞にも注目が集まっていますが、現状はいかがでしょうか?  CAR-NK細胞については、アメリカのMDアンダーソンや日本の研究グループでも開発が進んでいます。臨床試験で有効性が示されつつある段階ですが、CAR-T細胞に完全に置き換わるような治療には、まだなっていません。 ただ、他人の細胞やiPS細胞を用いる“オフ・ザ・シェルフ”の考え方は非常に魅力的です。製造コストやスピードの課題を解決できる可能性がありますので、今後に大いに期待しています。 ― 先生ご自身も研究に関わられているのですか?  はい、私自身もCAR-T細胞やCAR-NK細胞に関する研究に携わっています。どの技術が将来的に主流になるかはまだ分かりませんが、選択肢を広げていくことが重要だと考えています。 「なぜ治らないのか」を出発点に ~臨床医の研究視点~ ― 研究者として、臨床医であることの強みはどこにあるとお考えですか?  臨床現場にいると、“なぜこの患者さんは治らないのか”という問いに常に直面します。この“なぜ”が、研究の出発点になります。 私たちは、臨床での気づきや違和感を実感として持っています。それを研究に還元できるのが、臨床医の強みです。単に文献で読んだデータではなく、自分の手で見て、触れている実感から出てくる研究テーマには、リアリティがあります。 ― 現場での問いを、研究という形で未来につなげるのですね。  はい。そしてもう一つ大切なのは、日本発の医療技術を育てていくことです。海外の技術を使い続けるだけでなく、私たち自身が手を動かし、臨床の現場から新しい治療を生み出す必要があります。 エビデンスと経験 ~医学と医療のギャップ~ ― 新しい治療法を導入する際、どのように判断されているのでしょうか?  やはり、臨床試験でしっかりとしたエビデンスがあることは大前提になります。ただし、実際の医療現場では、教科書通りにいかないケースも多いです。患者さん一人ひとりの状態は異なりますから、医学と医療の間にはいつもギャップがあります。 エビデンスだけに頼るのではなく、自分や周囲の経験、患者さんの背景まで含めて判断する必要があります。血液内科プロのようなコミュニティで、他の先生方の経験や考えを共有する場は非常に有意義だと感じています。 未来を担う血液内科医に向けて ~問いを持つ習慣を忘れないでほしい~ ― 若い先生方や学生に向けて、何かメッセージはありますか?  一番伝えたいのは、“なぜ”を問い続ける習慣を持ってほしいということです。薬が効く理由、副作用が出る理由、患者さんがよくならない理由……すべてに“なぜ”を考えることが内科医の基本だと思っています。 岸本忠三先生が書かれた本のタイトルに、『なぜかと問いかける内科学』というものがあります。それを実践していきたいと思います。 ― 研究の道に進みたいと思っている若手医師に、何かアドバイスはありますか?  もしやりたいことがあるのなら、さっさとやってください。『時間がない』『お金がない』『タイミングが悪い』といった理由で、結局やらない人が多いですが、行動することでしか世界は変わりません。 大学院への進学や海外留学も、今は以前に比べてずっとハードルが下がっています。病院の中や日本の中だけで完結しない視点を、ぜひ持ってほしいですね。
治癒を見据えた免疫療法の時代へ―“最先端”を日常にするための挑戦《血液内科Pro エキスパートインタビュー》
治癒を見据えた免疫療法の時代へ―“最先端”を日常にするための挑戦《血液内科Pro エキスパートインタビュー》
東海大学附属病院では、神奈川県央・湘南地区から静岡東部までと、首都圏の大学病院の中でも群を抜いて広い医療圏をカバーし、地域の血液疾患の患者さんの診断から、治験・造血幹細胞移植・CAR-Tを含めた治療まで一貫して行っています。同大学医学部血液・腫瘍内科学准教授の鈴木利貴央先生に、広域医療圏で最先端を担うお立場から、免疫細胞療法の現在地と未来について伺いました。 “最先端”を日常にするために~CAR-T運用を支える現場の経験~ ― 2023 年から開始されたCAR-Tを、どのように導入・組織化されてきたか教えてください。  組織化にあたっては、同種移植に経験が豊富にあった輸血室の協力を得られたことから、アベクマの治験を通して、経験数を増やすことができたことが大きいです。 最初は苦労した点が多く、輸血室の中で、ベテランのスタッフだけでなく、複数人のスタッフで安定して運用していくためにはどうしたらよいか、特に技術・知見の蓄積が課題でした。例えば、アメリカ規格のバッグへの対応や点滴のスムーズな実施等、様々な問題などがありました。 さらに、病棟側ではCRSやICANSなど、CAR-T特有の有害事象への対応も課題でした。初期は情報が限られ、対応の指針が乏しかったため、コメディカルのスタッフに対して今起こっている事象について言語化し、対応方法やマネジメントの整備を進めました。 こうした多職種の協働により、導入から2年経過したところで、マネジメントできる体制が整ってきています。 ― 症例選びについてはいかがですか?  導入初期は、前治療が奏功せず、全身状態が悪い患者さんが多かったので、有害事象の発症も多く、マネジメントに苦労した時期が続きました。しかし最近では、より早い治療ラインからCAR-Tを適応できるようになってきたため、有害事象のマネジメントで苦労する経験も減ってきたと感じています。 より早い段階、より最適なタイミングで、候補者を紹介いただけるような関係構築を施設間で進めています。 経験を“地域の力”に~信頼から広がる連携、つながる治療~ ― 多施設連携や地域包括医療の実現に向けて、大切にされていることを教えてください。  CAR-Tの提供体制をつくるうえで、信頼関係の構築が一番大切です。紹介元や周辺医療機関との情報共有では、電話やメールを柔軟に使い分け、紹介時の診療情報は可能な限りタイムラグなく共有できるよう工夫しています。最近では県内だけでなく、フォロー体制を考慮しながら県外からの患者さんも受け入れています。 また、大学関連施設とは年2回の合同カンファレンス、骨髄腫関連施設とは定期的な研究会で交流し、顔の見える関係性をつくり、個別の相談にも応じるなど、日常的なやりとりの中で信頼関係を構築しています。 ― 地域の中で知見がつながった事例はありますか?  治験や先進治療で得られた経験は、問い合わせを受けた際などに、お答えするようにしています。導入を検討している他院にご紹介することで、安心して治療に臨めるようにしたいと思います。 治癒を見据えた免疫療法の時代へ ― 最後に、「今後の実臨床において実現したいこと」や「患者さんに届けたい医療のかたち」があればお聞かせください。  免疫療法をより早い段階で治療に組み込むことで、疾患を治癒できる可能性が高まり、患者にとって大きなメリットになると考えています。免疫療法の欠点として、投与量に制限があるため、既存の骨髄腫治療薬と併用し、より早い段階で免疫療法を行うことで治癒を目指すことが重要になると思います。 骨髄腫などの血液疾患が不治の病と言われていた時代から、一部の免疫療法で治癒が期待できる時代になりました。診断時に絶望する患者に対し、有効な治療法があることを伝え、治療を頑張れるような治療薬が増えることを願っています。
第86回日本血液学会学術集会 会長インタビュー
第86回日本血液学会学術集会 会長インタビュー
掲載日:2024年10月1日 来る2024年10月11日(金)~13日(日)、国立京都国際会館にて開催される第86回日本血液学会学術集会会長で、日本血液学会副理事長もお務めになられる高折 晃史 先生(京都大学医学部付属病院 病院長)に今大会への想いをはじめ、注目のプログラム、若手血液内科医やヒポクラ 血液内科 Proユーザーへのメッセージなどをお聞きしました。 「再会を深化させたい」 ―大会テーマ「交流の深化」に込めた想いをお聞かせください。  昨年5月から新型コロナウイルス感染症が5類感染症となったことで“ポストコロナ”の時代に入り、人々が再会を始めました。そのような時流を捉えて、前大会長の豊嶋 崇徳 先生(北海道大学)が昨年の学術集会のテーマを「再会」と設定され、本格的な対面開催を再開いたしました。  今年は、それをさらに進化・深化させたいという想いから「交流の深化」をテーマに掲げました。それまで会えなかった人々が再会し、さまざまな形での交流を深めていただきたいと考えています。  例えば「医師と患者さん」「医師と医療従事者」「若い医師と経験豊富な医師」「基礎研究者と臨床医」「男性医師と女性医師」「地方と都市部」など、さらには「日本の学会と諸外国の学会」という多彩な視点で交流を深めたいという想いが今回のテーマを決めた理由となります。  また、日本血液学会としても、長いコロナの期間に研修医になったバーチャル空間の学会しか参加したことがない方に、会場に足を運ぶ価値を感じていただきたいと思っており、若い先生方に限らず、ヒポクラ 血液内科 Proなど、普段はWEBで交流をされている先生方にも、会場で直接交流することで、新たな出会いが生まれてほしいと考えています。近年は、交流によって、研究や臨床での学びが生まれるという機会も少なくなりましたので、「人々の交流を復活させる」という点に強い意義を感じています。  そのため、今大会は“再会を深化させる学術集会”として位置づけているところとなります。 ―さまざまな分野に分かれている血液領域において、参加者同士のつながりはどのように意識されていますか。  例えば、消化器系の大きな学会ですと、さまざまな関連学会がありますよね。もちろん、血液分野でもいくつかの関連学会が存在していますが、基本的には血液領域の学会としては、唯一の学会という認識ではおります。そのため、職種を問わず、さまざまな分野が一堂に集まりますので、成人だけでなく、小児、移植、凝固、輸血など、すべての運用を網羅できる、すべての知識を学べる場が日本血液学会の学術集会だと思っています。ですので、ぜひ、さまざまな分野の先生方にご参加いただきたいと思っています。 学術集会への想いを語る、高折先生 コミュニティへマトロジスト、血液ゲノムなど最新の議論が目白押し ―注目のプログラムや企画についてお聞かせください。  “メインのシンポジウム”では、それぞれの分野・疾患で、最先端であり、一流の先生方に海外からも来ていただいてお話をいただきます。また、毎年盛り上がりを見せている“女性医師のシンポジウム”も、前理事長の赤司 浩一 先生(九州大学)と三谷 絹子 先生(獨協医科大学)が中心になって、今年も熱い議論がなされると期待しています。  今回が初めての、大きな取組としましては「地域や地方の血液内科医」、例えば、地域で血液内科のクリニックを開業されている先生や、医療過疎地で血液内科医をされている先生、いわゆる“コミュニティへマトロジスト”のセッションを設けて、地域で頑張っている先生方にも発表していただくことを企画しています。  そのほかに注目すべきプログラムですと、JSH(日本血液学会)とASH(アメリカ血液学会)での合同シンポジウム、また、EHA(欧州血液学会)との合同シンポジウムも通常通りの開催を予定しているのに加え、JSH会員がトラベルグラント制度でEHAに参加しているのと同じように、EHAからトラベルグラントを受けているヨーロッパの血液内科医との交流を深める企画もあります。このJSHとEHAのトラベルアワード受賞者による交流セッションや、ドイツ血液学会との合同WEBシンポジウムは非常に見どころです。  特別講演では、山中 伸弥 先生(京都大学iPS細胞研究所)に「iPS細胞についての最新研究」のご発表をしていただきますし、Tak W. Mak(Princess Margaret Cancer Centre,Canada)先生には、「白血病の代謝」について、最新の研究成果について、ご発表をいただきますので、こちらも注目です。    もう一つ、注目のプログラムとしては、この秋に承認される“血液ゲノム検査”のセッションです。血液ゲノム検査を用いた診療が、おそらく来年の春以降には始まりますので、ゲノム医療をどのように医療現場で実施していくかというシンポジウムは、今大会の目玉の一つになると考えています。  ただし、それもいろいろな病院でできるわけではなく、一部のがんゲノム連携病院でしかできないので、どういう形で実臨床の現場に持ち込むかなど、今後の課題も語られるセッションになるか思います。 ―コミュニティへマトロジストのセッションについて、詳しくお聞かせください。  血液内科医が地域で足りない状況というのは、地域ごとにさまざまな問題があって非常に難しいところです。  例えば、大阪ですと大きな病院がいっぱいありますが、患者さんを帰すための小さなクリニックも多くあり、双方の医療機関同士の連携が良く、上手く対応ができています。一方、私の関わっている京都には、大きい病院はあるけれども、小さな血液内科のクリニックというのがほとんどありません。他にも、沖縄の場合は、血液を診られる病院自体がほとんどない状態で、琉球大学の先生方がアルバイトとして出向く形で、地域の患者さんを診ています。  地方というのは、ご存じの通り、都市部と違って医療過疎・医療格差があります。“元々血液内科医が少ない”、“医師が少ない”という状況でも、患者数はそれなりにいますし、昔と違って「治療法がない」ということもなく、専門医に掛かれば長生きできるような病気がいっぱいあります。一方で、“輸血”が近くで受けられないことなどは非常に大きな問題であると考えています。  このように、それぞれの地域の、それぞれの現状があるので、コミュニティへマトロジストのセッションでは、そのような問題を「うちはこうやっています」などの意見交換が出来る、貴重な場になればと思っています。 弊社代表のインタビューに答える、高折先生 「若い先生たちには、自分のフィールドを広げてほしい」 ―海外の学会との合同セッションについて、詳しくお聞かせください。  実は、先ほどお話しした、トラベルグラント受賞者の若手研究者、臨床医を交流させたいという取り組みは、EHAの強い希望もあり、今回が初めての企画実施となります。  EHAの学術集会では、受賞した若手血液内科医を集めて、学会期間の前日に、丸一日かけて、教育セッションをしたり、有名な先生と座談会をするという企画をしています。ただ、今回はさまざまな事情から、そのままの形で企画をすることが現実的に難しいところもあり、学会のセッション内で、さまざまな分野の若い医師たちで交流を深めていただくことを考えています。  海外学会との交流については、国際交流委員会の三谷 絹子 先生が、ずっとご尽力してこられて、ASH、EHAとも非常に良好な関係を築かれており、常にJSHのことをリスペクトしていただいています。そういったご尽力もあり、必ずASH、EHAともにプレジデントにご来日いただいた上で、企画講演の実施もできていますし、ジョイントシンポジウムも継続して行うことができています。  また近年では、それに加えて、諸外国、特にアジアの血液学会の先生方も多くいらっしゃいます。そのため、英語のセッションも多く企画していますので、ぜひ積極的に参加していただければと思います。 ―若手の先生方に向けて、学会活用法をご教示ください。  単に口演を聞くだけではなくて、ベテランの先生でも、同世代の先生でもいいので、そこに来ている先生方と直接お話をするなどして、知り合い、交流を深めていくことで、自分のフィールドを広げてほしいと考えています。  私たちの世代の経験で見ると、学会の会場で、同じ研究・分野の先生と知り合って共同研究が生まれるということはよくあることでしたが、WEBでの交流がメインになると、なかなかそういうことも生まれづらくなってしまうのかな、という印象です。単に研究だけのことではなく、臨床の情報交換もできますよ、とお伝えしたいです。  また、シンポジウムは10プログラムあり、それぞれの分野の最先端の話になりますので、ぜひ勉強したいという人はシンポジウムに参加して欲しいと思いますし、一方で自分がやっていることを深めたい、という場合には、一般口演を聞いて、他の方がどのような発表をされているかなどを聞いて、参考にしていただきたいと思います。 「演題数は過去最高の1,344演題。大規模な学会に」 ―最後に、学会参加者や読者(血液内科 Proユーザー)へメッセージをお願いいたします。  今大会は、演題数も過去最高の1,344演題となっていますので、かなり会場全体にわたって企画を準備しています。血液内科Pro(エクスメディオ社)をはじめ、企業ブースもたくさんありますし、ポスター会場も3つに分かれているなど、現地会場はとても大規模な学会となりますので、そういったところも活用しつつ、ヒポフェス #86JSH(血液内科Pro)のほうでも、忌憚のない意見交換がなされることを期待しています。  また、京都らしい学会にしているところも特徴です。毎日会場内で、表千家 久田家の方に、お点前を頂戴する形で、お茶をいただいたり、オープニングイベントでは、華道家元池坊の池坊 専好さんに“いけばな”をお願いしています。海外からの先生方も多く来られる予定ですので、お土産も京都らしいものをたくさん用意しています。  最後になりますが、演題数は昨年記録した最高数を今年も更新しました。学会参加者数でみても、日本血液学会会員数が約8,000名ほどであるのに対して、昨年の学会参加者は8,082名となっており、今年はそれ以上の参加者が来場されることも期待しております。  血液の分野はさまざまな薬剤、技術が進歩しており、今問題となっている最新の課題をキャッチアップするために多くの方が参加されますので、そういう意味でも非常に活気のある学術集会になると考えております。  第86回日本血液学会学術集会へのご参加を、お待ちしております。 インタビュー後の高折先生 学会開催概要名称:第86回日本血液学会学術集会 会期:2024年10月11日(金)~13日(日) 会場:国立京都国際会館 〒606-0001 京都府京都市左京区岩倉大鷺町422番地 会長:高折 晃史 先生(京都大学大学院医学研究科 血液内科学) テーマ:交流の深化 開催形式:現地開催中心に開催(一部プログラムをライブ配信・後日オンデマンド予定) 大会HP:http://www.jshem.or.jp/86/index.html 
「国民からの脳神経内科への期待」と「医師からの多様な働き方への希望」の双方に応える良医育成の取り組み【北里大学医学部脳神経内科学】
「国民からの脳神経内科への期待」と「医師からの多様な働き方への希望」の双方に応える良医育成の取り組み【北里大学医学部脳神経内科学】
【北里大学医学部脳神経内科学の先生方】左から、永井俊行 助教、中村幹昭 助教、西山和利 主任教授、北村英二 准教授、井島大輔 助教。 北里大学病院外観(同院提供)開 設:1971 年所在地:神奈川県相模原市南区北里 1-15-1病院長:髙相晶士 北里大学病院は、主に慢性期の医療を専門とする「東病院」と急性期を専門とする「本院」の 2 院体制だったところ、2020 年に「東病院」の機能が「本院」に移転・統合され、1,135床(2023 年 4 月 1 日現在)の病床数で慢性期から急性期までを扱う地域医療の拠点となっている。 このように幅広い疾患の患者さんに対応する北里大学の環境は「時代に即した脳神経内科医の育成において 1 つのモデルケースを提示しうる」と、北里大学医学部脳神経内科学主任教授であり、2022 年から日本神経学会代表理事を務める西山和利先生は語る。 本記事では西山先生と同教室の先生方に、国民の健康福祉に貢献するこれからの脳神経内科医像や、その充足に向けた北里大学のお取り組みについてお話しいただいた。取材日・場所/ 2023 年 11 月 16 日・北里大学病院 脳神経疾患の医療ニーズが高まっている 西山本日は脳神経内科の現状やこれからの専門医育成について、当教室の取り組みも交え、頭痛が専門の北村先生、脳卒中が専門の井島先生、神経免疫疾患が専門の中村先生、てんかんが専門の永井先生と一緒にお話ししていきたいと思います。北里大学医学部脳神経内科学 主任教授西山和利 北村 近年、大学病院でもクリニックでも、社会の超高齢化に伴い認知症・神経変性疾患などが増えている 1)ことを肌身で感じます。患者さんから「パーキンソン病と診断されてから誰にも診てもらえず、ようやく先生にたどりつきました」と言われるようなケースもしばしば。医療ニーズに対して、脳神経内科医の供給が追いついていないようです。 井島 脳卒中も、血管内治療や t-PA 療法のような内科的治療が登場してきている一方で、その技術をもった脳神経内科医は限られるのが現状です。まだまだ救える患者さんがいるはずなのです。 中村 神経免疫疾患も、専門の脳神経内科医がもっといれば…という気持ちです。症状が「倦怠感」や「愁訴」と扱われ診断がつかない患者さんもまだ多くおられますし、多発性硬化症や視神経脊髄炎等、この数年で治療選択肢の増えた疾患もあるなかで、専門医の役割が大きくなっています。 永井 てんかんも、従来は主に小児科・精神科・脳神経外科で診られていたところ、最近では成人で神経変性疾患に起因するもの等、脳神経内科への紹介が必要なケースが増えているようです。 北村 頭痛のような若年領域の疾患にも、大きなアンメットニーズが存在しますね。片頭痛だけで日本に 800〜 1,000 万人の患者さんがいるとされるなか、専門家による医療を受けられるケースは半数にも達しません 2)。 中村 若年女性の患者さんが多い神経免疫疾患では、妊娠・出産を考慮した治療を行える専門医の育成も急務になってきています。 西山 いまのお話からも、老若男女問わず、脳神経内科に対する国民の医療ニーズはこれからも高まると予想できますね。ところが、いま日本神経学会に所属しているいわゆる脳神経内科医は約 9,800 名 3)で、日本脳神経外科学会の約 10,500 名 4)や日本精神神経学会の約 20,000名5)と較べても少ないのが現状です。参考として、米国では脳神経内科医が脳神経外科医の約 2.5 倍6)います。日本神経学会としては、国民の皆さまに適切な医療を提供するため、日本においても少なくともいまの 2 倍の脳神経内科医が必要だと考えています。 多様なキャリアパスの魅力を発信し、脳神経内科医の充足を実現したい 西山 では、どうすれば脳神経内科医を充足できるか。 日本神経学会代表理事としては、まず脳神経内科医像のアップデートが必要だと考えています。  従来の脳神経内科医のイメージは「難しい診断学に熟達し、難病を中心にいかなる患者さんにも対応する医師」という、若い先生方にとって敷居の高いものではなかったでしょうか。たしかに、神経内科専門医(日本神経学会認定)を取得するうえで、脳神経疾患全般をある程度診られるだけの知識は求められます。ですが昨今、難病だけでなく、脳卒中・てんかん・頭痛・認知症といったコモンディジーズの診療、あるいは在宅医療など、専門医の取得後は個々人の興味にフォーカスを絞りながらキャリアアップしていく、新しい働き方が広がってきていますよね。 永井 選択肢が多く、一人ひとりの生き方・働き方にあった居場所をみつけやすいのは、本当に脳神経内科の魅力だと思います。私の場合、急性期に強い内科医への憧れが、脳波やてんかんを中心にキャリアを積むことで実現できつつあります。北里大学医学部脳神経内科学 助教永井俊行 西山 急性期に興味がある方なら、米国で「ニューロ・インテンシビスト」とよばれるような集中治療専門の脳神経内科医も日本では人材不足であり、将来性のある選択肢だと思われます。 北村 西山先生のお話にあった頭痛 1 つとっても、都市部であれば専門クリニックで開業が可能と言われます。専門を軸に自分のペースで働きたい方にも、脳神経内科は向いているはずです。 井島 脳卒中の血管内治療の専門医も、循環器内科と違いまだ成り手が多くないため、都市部・地方を問わず求められている人材です。デバイスが進歩し、手先の器用さがあまり問題にならなくなってきたことも相まって、将来性のある選択肢だと思います。 北村 在宅医療も、難病で寝たきりの患者さんの全身管理を得意とする脳神経内科医が、強みを発揮できる領域ですね。 西山 いま若い先生方に総合診療も人気ですが、脳神経内科のバックグラウンドをもつ総合診療医は、全身も脳も診られるため現場で大変に重宝されるようです。 中村 脳神経内科は新しい治療が続々と登場する変革期にありますので、研究に興味がある方にとっても、自身がその変化に携われるかもしれない、魅力ある領域ではないでしょうか。 私の親の世代では、脳神経内科は「わからない・治らない・諦めないの 3 ない(第三内科)だ」と言われていたそうですが、もはや過去の話だと感じます。北里大学医学部脳神経内科学 助教中村幹昭 西山 先人たちの何十年にもわたる「諦めない」努力が、いま結実しつつありますね。今後、米国で進められている希少疾患に対する核酸医薬を用いた個別化治療7)のような取り組みが日本で行われるようになると、そこでの脳神経内科の役割も大きいと考えられています。こうした新しい働き方を学会をあげて周知・サポートすることで、より多様な人材が活躍する脳神経内科へと飛躍していきたいと考えています。 Column脳神経内科医向きの人材西山 「脳神経内科は難しい、だから成績優秀な人しかなれない」と言われることもありますが、いま実際に活躍している先生方に共通なのは「興味」と「情熱」だけですよね。成績はまったく関係ない。 井島 野球でもピッチャーとキャッチャーでまったく適性が違うように、脳神経内科もそれくらい多様なポジションがある領域ですからね。「野球したい」という気持ちさえあれば野球ができるのと一緒です。 西山 脳に興味があると脳神経外科や精神科も選択肢に入ると思いますが、「労働時間にある程度融通をきかせたい」「分子レベルで病態を理解したい」「自分で患者さんを診て、論理的に診断をつけるのが好き」といった方には、脳神経内科をおすすめできそうです。 永井 血液検査で一発診断というのではなくて、患者さんをじっくり診ながら病巣診断していくプロセスは、間違いなく脳神経内科の魅力ですね。 中村 そして、脳神経内科には「諦めない」人が多いですよね。難渋例ほど何かできないか、常に考えている。そういう意識を仲間と共有しながら仕事したい人には、よい環境だと思います。 あらゆる専門家が互いを尊重し成長できる環境づくり〜「北里モデル」の実践① 西山 難病の患者さんに優しい心で寄り添い、治療を開発するというキャリアは、脳神経内科の王道であり続けると思います。一方で前述のように、これからはコモンディジーズの得意な脳神経内科医も求められています。 では、コモンディジーズに興味をもってくださった若い先生方のキャリアパスを整えるには、どうすればよいでしょうか。第一に、教育・研修に携わる側の医師が、慢性期から急性期まで、またレアな疾患からコモンな疾患まで、幅広い疾患に興味をもつ環境が重要だと思われます。日本神経学会としても、あらゆるキャリアが尊重され、互いの専門性を活かし合うコミュニティを目指しているところです。まずは当教室で実践し、その成果を「北里モデル」として全国に発信していくことで、脳神経内科の認知度の向上やリクルートにすこしでもお役に立てればと願っています。実際に当教室での研修を選び、学んできた先生方は、どのようにお感じでしょうか? 井島 私はもともと急性期医療、特に脳卒中に携わりたかったのですが、研修中に脳神経疾患の診断学全般にも興味をもったことが、脳神経内科に入局する決め手になりました。 西山 一般に、脳卒中を専門にすると時間的な拘束が厳しくなりがちで、他の疾患はまったく診る機会のない先生もいると聞き及びますが、井島先生はいかがですか。 井島 当教室では、外来でそれ以外の患者さんを担当する機会の方が多いくらいです。脳卒中から難病まで、幅広い知識と経験を得られる環境にやりがいを感じています。 永井 私は内科志望だったのですが、診断のつかない患者さんの話を聞き、診察し、病巣を考えて…という脳神経内科のプロセスが、「自分のなりたかった医者らしい医者だな」と感じ、入局を決めました。その後、前述のようにてんかんと出会い、国内留学もさせていただいて、専門医の道が拓けてきています。たくさんの症例を診られ、わからないことは専門の先生に聞けて、自分が専門のことは他の先生に情報提供することでまた学びを得られる、切磋琢磨できる職場です。 北村 私は内科研修でふれた難病の全人的医療に感銘を受け、当教室を選びました。「わからないことだらけ」という印象もあったのですが、裏を返せば「一生学び続けられるだろう」という魅力を感じたのも一因です。 入局後、当時の教授だった坂井文彦先生と、出向先で出会った今井昇先生の薫陶を受け、頭痛を専門とするようになりました。頭痛という、一般に興味の対象とされにくい機能性疾患について、世界的な臨床・研究が行われてきた当教室ならではのキャリアだと思います。北里大学医学部脳神経内科学 准教授北村英二 中村 私は臨床実習で教えていただいた症候学が本当におもしろく、当教室 1 択に心が決まりました。その後、新しい治療法が登場し「治らなかった患者さんが治るようになる」という実感を得られる喜びから、神経免疫疾患を専門とするに至りました。はじめて難病のインフォームド・コンセントに同席した時の「どうにかこの疾患を治したい」という気持ちをモチベーションに、研究にも従事しています。 西山 やはり選択肢の豊富な教育・診療環境は、「脳神経内科医になる」という選択やキャリアにポジティブに働きそうですね。 ワーク・ファミリー・バランスと臨床経験を両立させる環境づくり〜「北里モデル」の実践② 西山 「北里モデル」のもう 1 つの側面として、多様な働き方の実現の観点から、ワーク・ライフ・バランス /ワーク・ファミリー・バランスを重視した組織づくりを行っています。 井島 医師の働き方改革が進むいま、卒後 7 年目の神経内科専門医取得までの限られた時間で、必要な知識をいかに効率よく身につけるかは切実な問題です。専攻医研修プログラムでは、3 年間のうち 1 年間は外部施設への出向が必要なため、当教室で研修可能な 2 年間でいかに多くの症例を診られるかが鍵になってきます。そこで有効なのが、当教室の特徴であるチーム制です。チームは3 つあり、外来・病棟すべての患者さんの情報を共有しながら、屋根瓦方式で診療と教育を行っていきます。北里大学医学部脳神経内科学 助教井島大輔 西山 主治医制だと専攻医が担当できる症例数は限られるわけですが、チーム制であれば、8:30 〜 17:00 の業務時間でもたくさんの症例を経験できるわけですね。 中村 大学院で基礎研究メインの生活を送ってからまた臨床に戻った際も、効率よく技術を取り戻すことができました。 井島 チーム制は、当学では脳神経内科が最初に導入したシステムで、病棟医も各チーム 2 〜 3 人いるため、当直明けは基本的に帰宅できる、休暇も当番制で取得できるといったメリットもあります。 西山 当教室では産休・育休も、性別を問わず希望どおり取得できていますね。 井島 チーム制の他に、効率的な成長を促すシステムとして、チーフレジデント制があります。専攻医研修プログラムの修了後には必ず、チーフレジデントとしてすべての入院患者さんのマネジメントを担当する制度です。 西山 責任ある立場は人を育てます。皆さん卒後 6 年目にして、どのような症例にも物怖じしないだけの臨床力を身につけていただいています。 永井 それぞれのチームに各疾患の専門医がバランスよく割り振られていて、興味ある領域については、早い段階で専門医から直接修練を受けられるようになっているのも、嬉しいシステムだと感じていました。 井島 実際、脳卒中に興味があれば 3 年目の先生でも血管内治療に参加していただけるような、臨機応変なプログラムになっていますね。まさに多様なキャリアの希望に応える体制です。 西山 特に、開業したり市中病院で働いたりする計画の先生には、できるだけキャリアの助けになる専門医資格も取得していただきたいと考えています。 北村 神経内科専門医は必須として、脳卒中専門医(日本脳卒中学会認定)、頭痛専門医(日本頭痛学会認定)、認知症専門医(日本認知症学会認定)をもっていれば脳神経内科医として困らないと言われます。当教室でも、これらを取得する先生は多いです。 中村 「◯◯専門医をとりたいなら△△病院での研修が必要」といったケースも全国的にはあると聞きますが、当学は自施設だけで受験要件を満たす環境が整っているのは、若手にとってありがたいことです。 西山 話に出た脳卒中、頭痛、認知症にてんかん専門医(日本てんかん学会認定)を加えた 4 大コモンディジーズ、他にも臨床遺伝専門医(人類遺伝学会認定)、臨床神経生理専門医(日本臨床神経生理学会認定)、脳神経血管内治療専門医(日本脳神経血管内治療学会認定)、リハビリテーション科専門医(日本リハビリテーション医学会認定)等も当学だけで受験資格を満たせます。「良医」であるためには、まず生活の基盤がしっかりしていなければなりません。若い先生方の生活やキャリアを第一に医局を運営すること。それが、当学の目標である「良医」の育成につながると信じています。そして、当学で培った経験をもとに、日本神経学会の代表理事として、本邦の脳神経内科領域全体の発展に注力していきたいと考えています。(了) 参考文献 1)厚生労働省:令和 2 年 患者調査 傷病分類編(傷病別年次推移表) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/dl/r02syobyo.pdf (2024 年 1 月 26 日閲覧) 2)Sakai F & Igarashi H:Prevalence of migraine in Japan : a nationwidesurvey. Cephalalgia, 17:15-22, 1997 3)日本医学会:日本医学会分科会一覧 No.53 日本神経学会 https://jams.med.or.jp/members-s/53.html (2023 年 12 月 1 日閲覧) 4)日本医学会:日本医学会分科会一覧 No.47 日本脳神経外科学会 https://jams.med.or.jp/members-s/47.html (2023 年 12 月 1 日閲覧) 5)日本医学会:日本医学会分科会一覧 No.23 日本精神神経学会 https://jams.med.or.jp/members-s/23.html (2023 年 12 月 1 日閲覧) 6)AAMC:Physician Specialty Data Report: Active Physicians in the LargestSpecialties by Major Professional Activity, 2021 https://www.aamc.org/data-reports/workforce/data/active-physicians-largest-specialties-majorprofessional-activity-2021 (2023 年 12 月 1 日閲覧) 7)FDA:FDA In Brief: FDA Takes New Steps Aimed at Advancing Development of Individualized Medicines to Treat Genetic Diseases  https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-brief-fdatakes-new-steps-aimed-advancing-development-individualized-medicinestreat-genetic (2023 年 12 月 1 日閲覧) MEMO 脳神経内科医育成の「北里モデル」 ◎脳神経内科は多様なキャリアパスが特長であり魅力であるため、あらゆる働き方が尊重され成長できる環境の整備が、人材の充実につながる。 ◎幅広い疾患を効率的に経験できる診療体制の構築が、結果として良医の育成と、国民の健康福祉への貢献につながる。 写真撮影/日向正樹(tsukada.inc) 版権・著作:中外製薬株式会社 medical forum CHUGAI Vol.28-No.1より引用
これからの医師キャリア、新しい大学医局の発展に携わってみませんか?
これからの医師キャリア、新しい大学医局の発展に携わってみませんか?
PR記事 帝京大学医学部附属病院血液内科/帝京大学医学部血液腫瘍研究室のPR記事を訪れてくださりありがとうございます。 帝京大学医学部附属病院血液内科/帝京大学医学部血液腫瘍研究室 帝京大学医学部血液内科は、現在スタッフ6名、シニアレジデント1名+初期研修医で活動しています。血液内科病棟は30床(そのうち、無菌室 クラス100 4床、クラス10000 8床)で、3チーム体制で各チーム約10人ずつ担当し、幅広い血液疾患の診療を行っております。 大学病院でありながら、市中病院に近い部分もあり、患者さんの多くは診断前に当院を受診されることがほとんどです。入院患者のほとんどは血液腫瘍の患者さんですが、外来では血友病、ITP、AIHA、PNHなど非腫瘍性疾患の患者さんも多数通院されています。 入院診療では、新規薬剤も含めた化学療法から自家移植・同種移植まで行っています。膠原病領域など血内以外でも話題となってきているCAR-T療法についても、今後導入する予定です。病棟ナースは血液疾患看護に精通しており、また大学病院にありがちと聞く、採血、末梢点滴確保、輸血、抗がん剤投与などを医師が行わなければいけない、ということは全くありません。LTFUナースや移植コーディネータ(HCTC)、血内専属薬剤師も常勤しチーム医療を提供しています。当院では全科で、入院患者さんが重症化した場合は院内ICUにて麻酔科Drが全身管理をサポートしてくれる体制ができているのも特長です。 実質、専攻医以上のスタッフは、血内診療に専念できます。心のこもった医療を提供できるように、小所帯ながら一生懸命頑張っております。 16階西 血液内科病棟スタッフ Specialist×Generalist!そして研究も!新しいカタチの大学医局がアピールです 若く新しいグループですので、なにより自由度が高いです。良い意味で、大学医局らしさがないと筆者は感じています。上述の通り新体制になったばかりなので、医局人事で関連病院へ出向を命じられるようなことはありません(小所帯なので、医局人事なんてものはできません…笑)。 勤務時間は、専攻医は9時〜17時、スタッフは9時から19時(土曜は午前のみ出勤義務)とされており、日勤帯はもちろん血液内科業務を行います。勤務時間の制約は緩く、看護師さんに迷惑にならない程度にそれぞれにあった時間帯(17時に終了して外勤当直に出たり、研究室へ行ったり…)で仕事をしています。 当直帯では、総合内科業務(病棟+ER)を行います。帝京大学には血液内科学講座という独立した講座は存在せず、内科学講座の中の血液部門という位置づけであるためです。当直帯は各内科グループから寄せ集め6人体制で、主当直(11年目以上、助教~講師レベル)1人、副当直(6~10年目、助手レベル)1人、シニア(専攻医や大学院生)2人、初期研修医2人です。原則として、シニアが第一線で勤務し、主・副当直は基本的に司令塔になります。大学当直の回数は、主・副当直は月1-2回、シニアは2-3回です。 ご存じの通り大学勤務だけでは収入不足であり、平日1日は外勤日(研究日)となっており、他院で総合内科外来を行うことができます。余裕があれば、以上に加えて外勤当直を自由に入れることも可能です。よって、平日日勤はSpecialistとして、外勤や当直ではGeneralistとして働くことができます。筆者は、週1回外勤(寝当直)を加えて月5-6回の当直をし、Specialist×Generalistという新しいカタチで働き都内中心部で生活できています。 また、大学病院としての役割である学生への教育も熱心に行っており、VR、XRを用いた最先端の骨髄穿刺の教育も行っています。講義や実習にて血液内科の面白さを少しでも多くの学生に伝えられるよう努力しております。あと、夏休みと冬休みも1週間ずつしっかり取れるのもアピールポイントですかね。 最先端のVRマルク教育も 研究にも非常に力を入れています。私立大学では有数の実験力を有しており、新しい治療法の確立を目指して、最終的には全ての血液がん患者さんが治癒することを目標としています。田代教授は、Baylor College of Medicineに4年間留学経験があり、AMLに対するCAR-T細胞療法の開発をメインテーマに、C-type lectin like molecule 1(CLL-1)という多くのAMLに発現する蛋白に対するCAR-Tの開発を留学時代に行い、そこから発展させた研究を行っています。また白崎講師は、Dana-Farber Cancer Instituteに5年間の留学経験があり、CRISPR-CAS9を用いた遺伝子編集により予後不良因子を持つがん特異的な治療薬の開発など、世界において最先端の研究を精力的に行なっています。さまざまなテーマでコラボレーションしながら研究室を発展させています。 さらに社会研究として、世界を変えるべく廃棄薬の再利用を発案し、日本国内に提言しており、これにより世界の医療格差を少しでも無くし、発展途上国と先進国の医療格差を小さくするような取り組みも行っています。研究風景VR教育などから研究室に興味を持って訪れてくれた学生が現在3名研究室に所属し、基礎研究をともに行っています。今まさに活気が出始めている教室で、実験に参加することによって研究をしている人にしか分からない深い考察が臨床においてきっと役に立つはずです。もちろん、臨床中心でやりたいスタッフが実験を強要されるようなことはありません。 とにかく、新しいことを取り入れることに積極的な、大学病院と市中病院の要素を兼ね備えたSpecialist×Generalistが活躍できる医局です。(なお、こちら文章作成にも、ChatGPTの力を一部借りてみています!) 血内をやってみたい!新しい職場を探している先生方へ!! 血液内科をやりたいと思っても、これから初めて経験するとなると歴史ある大病院はハードルが高くないでしょうか。現に筆者も総合内科・GIMを5年間やってきた血内初心者で、新しい就職先を探す際、血内経験がないので中々受け入れてもらえませんでした。無給医局員だったり、移植中心だと初学者には難しいかも…のように。 帝京大学血液内科は、誰でもWelcomeです(皆さんの力を求めています!)し、移植治療を含め血液疾患全般の臨床経験と最先端の研究技術を提供できる上、タイミングよく総合内科出身の医師が複数集まってきたため幅広い総合内科診療も教育できます。ご存じの通り血液内科医は、Specialistとしての専門力と、Generalistとしての幅広い総合内科力が必要になります。専攻医の場合には、某有名研修病院との連携プログラムも組めるようにもなっており、それが叶えられる、まさに今、おいしい職場と思います。田代教授は、「新しいものにも積極的に取り組んでいけるような雰囲気を大切にしたい。スタッフ一人ひとりがやりたいことができる環境を作っていくのが私の役割です。」とおっしゃっております。 新たに就任した田代晴子教授の下、常に前を見てグループの発展を目指しています。Specialist×Generalist、そして研究もできるProfessionalistを目指し、帝京大学医学部血液内科であなたの医師人生の新たな一歩を踏み出しませんか。特に医師キャリアをこれから作っていく専攻医の皆さん!熱意と情熱を持ったワクワクする挑戦を心から歓迎します。 誰でもWelcome! 【専攻医オリジナルプログラム例】アレンジ可能です 【フェロー(スタッフ)オリジナルプログラム例】アレンジ可能です Google form:https://forms.gle/yrbv7Lc1KFNzUrqr9 Mail:teikyohemonc2@gmail.com ※2024年6月8日(土)に、当科先行説明会を行います。 参加申し込みフォームはこちらです:https://forms.gle/J4QD2wZtwDCMg8d86  » https://www.teikyohem.org/ 公式Instagram » https://www.instagram.com/teikyo_med_hemonc/ 当科紹介YouTube » https://www.youtube.com/watch?v=ScAvtvqbmxo 
『赤血球形態から推測される血液疾患』教科書には書いていない血球の目視分類解説⑤
『赤血球形態から推測される血液疾患』教科書には書いていない血球の目視分類解説⑤
今回の企画では、血液内科専門医の先生方が知っておきたい、けど教科書には載っていない…そんな血球の目視分類のポイントについて、国立病院機構九州がんセンター 臨床検査科技師長 牟田 正一先生 に解説いただき、その解説の中で気になるポイントを 大阪国際がんセンター 血液内科副部長 藤 重夫先生 にお伺いしました!第5回目は、『赤血球形態から推測される血液疾患』についてです。 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):検査値上のポイント 今回のシリーズの最後のテーマとして、赤血球形態から推測される血液疾患について解説させて頂きます。このような疾患のひとつとして、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)があります。スライドにはTTPの症例の検査値データを示します。ここで注目すべきポイントは、まず一つ目は血小板数(PLT)です。PLTが2週間前の前回計測時は12.5万/μLであったのに対し、入院時の検査所見では、2万/μL以下と急激に減少している点です。もう一点は肝機能検査の異常です。肝臓にSOLが指摘されていますので、矛盾しないデータとなっています。次のスライドで肝機能検査からみるフローチャートをお示しします。このフローチャートは血液疾患か否かの鑑別を説明する際によく掲示している資料です。血液疾患で注視すべきなのはLDHです。肝臓の細胞破壊のマーカーのひとつですが、赤血球や白血球にも含まれる酵素であり、血液疾患で高値を示すマーカーです。LDHをALTで割って15を超える場合は血液疾患の可能性が高くなります。本症例も計算してみると、LDH/ALT=32.7と高い数値を示しています。血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):血液形態のポイント 血小板減少における末梢血標本の観察のポイントを掲示します。このスライドの④は血小板減少に加え、破砕赤血球が出現していると血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)や播種性血管内凝固症候群(DIC)が疑われます。破砕赤血球が出現する機序は、血管中の血栓を赤血球が通過する際に壊れてしまうためです。末梢血液像実際の形態像を掲載していきます。まずは末梢血液像です。2枚の画像中に血小板が全く見られません。貧血が認められず血小板数が正常であれば、赤血球:血小板=20:1程度の比率でみられます。この画像からも血小板減少が読み取れます。赤血球所見としては、破砕赤血球と多染性赤血球、大小不同症、赤芽球が認められます。破砕赤血球以外の所見からは赤血球の造血亢進が考えられます。藤先生 :破砕赤血球は技師の方の場合、どういうときに特に見ようとするのでしょうか?牟田先生:やはり、血小板減少の時には破砕赤血球の有無の確認は必須です。逆に破砕赤血球が出現している場合は血小板数や凝固・線溶系検査を確認します。報告は必要によっては赤血球中の破砕赤血球の割合をパーセンテージで報告します。藤先生 :正常と破砕の区別に関して、明確に定義はあるのでしょうか?牟田先生:現在、日本検査血液学会のワーキンググループで検討が進められています。ポイントは「ちぎれたような部分」があるでしょうか。破砕赤血球ができる機序としては、血栓や心臓弁などが有る場所を赤血球が通過する際に引っかかって壊れるためです。壊れた赤血球は小さくなりますが、ヘモグロビン量は比較的残っているため、色が濃くなる(高色素性)のが特徴かと思います。骨髄像骨髄像を提示します。骨髄は正形成でM/E比は0.57と赤芽球系細胞が優勢で幼若な赤芽球が目立ちます(画像の左側と中央)。巨核球はやや増加しておりアズール好性型が多く観察されます(画像の右側)。この骨髄像は、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の血小板血栓による赤血球の破壊と血小板消費を補う赤血球と血小板の造血亢進の所見と考えます。血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):診断へのアクセスここまでTTPの検査値と形態所見のポイントを示しましたが、診断の全体像を復習的に掲示します。 初めに、①急激な血小板減少があれば、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)・播種性血管内凝固症候群(DIC)・特発性血小板減少性紫斑病(ITP)・血球貪食症候群(HPS)などを疑います。②末梢血像では、白血球分類に異常がなく、赤血球形態に破砕赤血球、多染性赤血球、大小不同症、赤芽球出現 が認められました。この時点で血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)あるいは播種性血管内凝固症候群(DIC)に絞られます。③両疾患の鑑別として、FDPやD-ダイマーが有用です。FDPに大きな異常がないことからDICは否定的です。④AST、LDH、T-Bが高値、追加検査の網状赤血球が高値、ハプトグロビンが低値で溶血が疑われます。これは破砕赤血球の出現と合致します。⑤骨髄検査で巨核球の増生と形態異常や遺伝子・染色体検査に異常がないことを確認します。このような流れで血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診断にアクセスします。その他の臨床的に意義の高い赤血球形態異常 その他の臨床的に意義の高い赤血球形態異常として球状赤血球と涙滴赤血球があります。球状赤血球の機序は、 遺伝性球状赤血球症では赤血球膜蛋白の異常で起こり、自己免疫性溶血性貧血では補体や抗体が結合した赤血球膜をマクロファージに貪食され膜を過剰に失って球状化します。涙滴赤血球の機序は、骨髄繊維症で起こる脾臓や肝臓による髄外造血では脱核が円滑に進まず有核赤血球が末梢血に出現します。有核赤血球が脾臓通過時に静脈洞内皮間隙に引っ掛かり脱核される時に赤血球が変形すると言われています。破砕赤血球、球状赤血球、涙滴赤血球は赤血球形態異常の中でも疾患特異性が高くそれらの報告は重要です。藤先生 :私の勤務施設では造血幹細胞移植を多く行うこともあり、画像上で破砕赤血球が確認された場合、移植後の微小血管障害なのかはよく議論になります。そのため技師さんにパーセンテージを出してもらうことがありますが、牟田先生の前述の通り、破砕赤血球か否かの基準が難しいと感じます。ちなみにですが、透析は破砕赤血球などとはあまり関係ないでしょうか?牟田先生:透析が関するか、という話はあまり聞かないですね…。藤先生 :急に伺って申し訳ないです。勤務先施設はがんセンターなので、あまり人工弁の方はおらず、透析の方がたまにいるので、少々お伺いさせて頂きました。もう一点お伺いとなりますが、勤務先施設でも最近は海外出身の患者が増えてきています。マラリアや遺伝性の疾患が日本人より多いと感じるのですがいかがですか?牟田先生:おっしゃる通り、ヘモグロビンS症の鎌状赤血球などアフリカ系の方に見られますね。地中海性貧血と呼ばれるサラセミアでは小型の標的赤血球が観察されます。また、年間に数件はマラリア原虫の確認の依頼があります。Fin.お二人の先生に今回は赤血球の形態異常を軸として、鑑別のポイントや各細胞の画像所見の具体例をお話頂きました。現場でしか知らない、強化書に中々載っていない内容をお教え頂き、より多くの先生方に知って頂きたい・お役立て頂きたいことを記事として発信できることが大変嬉しいです!当シリーズは今回の第5回目で終了となりますが、多くの先生方にお役立て頂ければと考えております。また、血液内科の先生方が他にも聞いてみたい内容など、ご意見をお待ちしております!牟田 正一先生、藤 重夫先生への記事に関するご質問やご意見・この記事に関する他の先生方のコメントなどは、血液内科医同士で臨床相談ができるオンライン医局®️︎ 血液内科 Pro(無料会員登録)からご覧ください。 この記事に関するご質問やご意見・他の先生のコメントはこちら▶https://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/JTgBRLucnG無料会員登録はこちら▶https://www.marketing.hpcr.jp/hematology 文責:ヒポクラ事務局 血液内科 Pro とは 750名近くの血液内科医が参加するオンライン医局®️︎です。これまで100件以上の臨床相談(=会員医師が投稿した症例に対して、他の会員医師が意見・情報を伝える)が行われています。 難治例や再発・臨床試験の対象にならない高齢者・合併症がある方など、幅広い治療の選択肢があるような症例を経験豊富な先生から勉強できるサービスとして、血液内科の先生方に利用されています。 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら 『巨赤芽球性貧血・寒冷凝集症・骨髄異形成症候群』教科書には書いていない血球の目視分類解説④
『巨赤芽球性貧血・寒冷凝集症・骨髄異形成症候群』教科書には書いていない血球の目視分類解説④
『巨赤芽球性貧血・寒冷凝集症・骨髄異形成症候群』教科書には書いていない血球の目視分類解説④
今回の企画では、血液内科専門医の先生方が知っておきたい、けど教科書には載っていない…そんな血球の目視分類のポイントについて、国立病院機構九州がんセンター 臨床検査科技師長 牟田 正一先生 に解説いただき、その解説の中で気になるポイントを 大阪国際がんセンター 血液内科副部長 藤 重夫先生 にお伺いしました!第4回目は、『巨赤芽球性貧血・寒冷凝集症・骨髄異形成症候群』についてです。 検査値上での鑑別において、注意すべき症例 ここでは、形態像の確認の前に、検査値上での鑑別において、注意すべき症例としてAとBの2症例を提示します。赤血球恒数のMCVが症例A・B共に130を超える高値となっています。MCHCは、症例Aは正常域ですが、症例Bは40を超え異常値を示しています。では、この症例AとBについて、形態像を交えて解説していきましょう。巨赤芽球性貧血と寒冷凝集の鑑別 症例Aは巨赤芽球性貧血です。巨赤芽球性貧血はビタミンB12または葉酸の欠乏による核酸代謝異常に伴うDNA合成の阻害によって核の成熟が遅れ細胞分裂に障害が起こります。骨髄中の赤芽球系細胞は、分化成熟において核は未熟のままで細胞質は成熟する成熟乖離が見られる巨赤芽球となり、大きな赤血球が産生されMCVが高くなります。また、顆粒球系細胞も細胞分裂に障害が起こり、4倍体核の細胞は過分葉好中球となります。症例Bは寒冷凝集素による赤血球凝集が見られます。赤血球凝集が起こると血球計数機では赤血球が偽低値、ヘマトクリット偽低値、MCVとMCHCが偽高値となります。ヘモグロビン値は正確に測定されますので計算項目のMCHCが偽高値となります。MCHCは通常37g/dLを超えませんので、症例Bの血算値からは赤血球凝集が疑われ血液像を確認します。赤血球凝集の対処法は採血管を37℃で15分以上加温後、直ちに測定します。加温により赤血球凝集が消失して、赤血球数とMCVが正しく測定され、ヘマトクリット値とMCHCが正しく算出されます。前述のスライドの症例Bは加温後、赤血球数222万/μLが380万/μL、ヘマトクリット値29.7%が39.6%、MCV133.7fLが103.7fL、MCHC41.0g/dLが31.6g/dLとなりました。強い赤血球凝集では肉眼でも採血管内の血球にザラツキが確認できます。藤先生 :寒冷凝集で特徴的な所見があるのが参考になりました。普段、病院内の室温はある程度安定していると思うのですが、温度の管理について注意する必要はあるのでしょうか?牟田先生:生体内は37℃前後なので赤血球凝集は起こりませんが、寒冷凝集素を持っている症例は室温で採血管内で赤血球凝集が起こることがありますので注意が必要です。検査値上での鑑別ポイントをまとめた資料です。 赤血球凝集の場合には、赤血球が偽低値、ヘマトクリット偽低値、MCV偽高値、MCHC偽高値となります。 巨赤芽球性貧血:赤芽球系細胞の形態所見のポイントここでは赤芽球の分化・成熟過程から画像上の鑑別のポイントをみていきましょう。 スライド上段は正常な赤芽球系細胞の分化・成熟段階です。前赤芽球は細胞径20~25μmで細胞質は塩基好性を呈し、クロマチン構造は繊細顆粒状で濃く染まった核小体が認められます。好塩基性赤芽球は細胞径16~20μmで細胞質は前赤芽球と同等の塩基好性を呈し、クロマチン構造は前赤芽球の繊細顆粒状と比べると微細顆粒状です。多染性赤芽球は細胞径12~18μmでヘモグロビン合成が盛んになり細胞質は赤血球の色調が混じってきます。核はクロマチン凝集が徐々に進み塊状となります。正染性赤芽球は細胞径8~10μmでヘモグロビン合成がほぼ完了しますので細胞質は赤血球と同等の色調になり、クロマチンは濃縮し無構造となります。下段は巨赤芽球性貧血の分化・成熟段階の巨赤芽球です。前赤芽球と好塩基性赤芽球では正常な赤芽球と比べ大きな変化は見られませんので、この段階で巨赤芽球と判定するのは困難です。多染性赤芽球になると細胞質の成熟に比べクロマチン凝集が弱くスポンジ状となり、核と細胞質の成熟乖離が分かりやすくなるので巨赤芽球を判定に適しています。細胞径は細胞分裂に障害があるため正常赤芽球の各成熟段階と比べ大型となり、大きな赤血球が産生されます。 藤先生 :スライドの図で表せば左側、幼若な細胞では区別がしにくいため、ある程度成熟が進んだ右側の細胞で区別をするのが良さそうですね。牟田先生:藤先生のおっしゃる通りです。 骨髄異形成症候群の鑑別 骨髄異形成症候群:形態所見上の鑑別ポイントここからは骨髄異形成症候群(MDS)についての三系統の細胞の異形成について見ていきましょう。当資料は、WHO分類2017及び厚生労働省の特発性造血障害に関する調査研究班において作成された、MDSの形態診断アトラスに掲載されている内容です。赤文字の環状鉄芽球、低分葉好中球、脱顆粒または低顆粒好中球、微小巨核球はカテゴリーAとして特に重要視される異形成所見となります。 骨髄異形成症候群:赤芽球系細胞の異形成のポイント赤芽球の異形成は多様な形状を示します。ここではどのような異形成を示すかをスライド中に示します。 核融解  :核の成熟不良によるクロマチン凝集の不足から不規則なクロマチン塊となります。核辺縁不整:正常であれば核は丸い形状ですが、形が整わず、核形が不整となっています。核分裂異常:核が正常に分裂できず、多核になっている状態です。核間架橋 :核の分裂異常で核同士が糸で繋がっている形状です。異常多核型:大型巨赤芽球で細胞分裂障害が考えられ、それに伴う異常な核分裂を起こした細胞です。PAS陽性赤芽球:赤芽球は本来陰性ですが、骨髄異形成症候群や赤芽球性白血病では陽性化する場合があります。一般的に上段の成熟型はびまん性に、下段の未熟型は顆粒状に観察されます。 骨髄異形成症候群:好中球系細胞の異形成のポイント次に、好中球系細胞の異形成について見ていきましょう。小型好中球:赤血球と同程度の小さいサイズになります。注意点として標本の厚い部分では細胞が縮まるので周囲に正常サイズの好中球が認められる観察位置での判定が重要です。大型好中球 :正常サイズの好中球の2倍以上の大きい細胞です。低分葉好中球:単核もあれば2核のものもあります。偽Peleger Huetとも呼ばれます。過分葉好中球:正常好中球は3~5核ですが、6核以上の細胞を過分葉好中球と判定します。顆粒減少・脱顆粒:矢印の細胞はほとんど顆粒がないため無顆粒好中球です。判定基準は研究班で異なりますが70~80%以上の顆粒が消失している場合は顆粒減少・脱顆粒と判定します。スライド下の細胞は顆粒消失が50%以下ですので顆粒減少・脱顆粒と判定されません。その他、デーレ小体やアウエル小体といった形状も特徴的です。藤先生 :顆粒減少は、70~80%以上というのは細胞質中の領域の70~80%という解釈で宜しいでしょうか?牟田先生:おっしゃるとおりです。細胞質中の領域を表しています。この領域の70~80%に顆粒がないことを確認していきます。牟田先生:顆粒減少・脱顆粒の所見は骨髄異形成症候群と巨赤芽球性貧血の鑑別に有用です。巨赤芽球性貧血では顆粒減少・脱顆粒が認められるのは稀です。藤先生:両者の異形成は赤芽球系細胞では類似していますので、顆粒減少・脱顆粒は鑑別に有用な所見ですね。牟田先生:検査値ではLDが骨髄異形成症候群と巨赤芽球性貧血の鑑別に有用です。骨髄異形成症候群では300 IU/Lを超える症例は少ないですが、巨赤芽球性貧血では300 IU/Lを超える症例が多いです。 骨髄異形成症候群:骨髄巨核球の異形成のポイント次に、骨髄巨核球の形態異常について見ていきましょう。 正常な骨髄巨核球は背塾段階、サイズ、核分裂状態にバリエーションが多いので以下の3点に絞って異形成を判定しましょう。微小巨核球:細胞質が成熟していても(アズール色素好性:赤紫色)サイズが前骨髄球と同等以下の微小な巨核球です。単核巨核球:細胞質が成熟していも(アズール色素好性:赤紫色)単核のままの巨核球です。※細胞質が成熟する前(塩基好性:濃青色)の前巨核球の単核は異常と判定されません。核分離異常巨核球:正常では核が重なり合うか核糸で繫がっていますが、核が分離している核分離異常の巨核球です。藤先生 :巨核球は探すのが大変だったりしますね。牟田先生:そうですね、少ない場合には大変ですね…。巨核球は標本の引き終わりや辺縁に集まりやすいのでそこを観察します。巨核球が極端に少ない場合には複数枚の標本を観察します。先ずは弱拡大で巨核球を探して中拡大で判定します。微小巨核球は弱拡大では見落とす可能性がありますので注意が必要です。 骨髄異形成症候群:特異的な異形成 ここまで、MDSにおける3系統の細胞の異形成に触れてきましたが、こちらのスライドでは改めて特異的な異形成をまとめています。微小巨核球、低分葉(偽ペルゲル)、低(脱)顆粒、環状赤芽球が定義されていますが、これらは比較的初心者でも判定しやすく有用と言えます。また、微小巨核球と偽ペルゲル核異常は予後に関係するとの報告もあります。Fin.お二人の先生に今回は巨赤芽球性貧血と骨髄異形成症候群を軸として、鑑別のポイントや各細胞の形態所見の具体例をお話頂きました。牟田先生による寒冷凝集の対応のお話なども含み、現場でしか知らない、教科書に中々載っていない内容をお教え頂き、より多くの先生方に知って頂きたい・お役立て頂きたいことを記事として発信できることが大変嬉しいです!今後も当シリーズを予定しております。ぜひ、血液内科の先生方が聞いてみたい内容など、ご意見をお待ちしております!牟田 正一先生、藤 重夫先生への記事に関するご質問やご意見・この記事に関する他の先生方のコメントなどは、血液内科医同士で臨床相談ができるオンライン医局®️︎ 血液内科 Pro(無料会員登録)からご覧ください。 この記事に関するご質問やご意見・他の先生のコメントはこちら▶https://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/JtpbA9haqU無料会員登録はこちら▶https://www.marketing.hpcr.jp/hematology 文責:ヒポクラ事務局 血液内科 Pro とは 750名近くの血液内科医が参加するオンライン医局®️︎です。これまで100件以上の臨床相談(=会員医師が投稿した症例に対して、他の会員医師が意見・情報を伝える)が行われています。 難治例や再発・臨床試験の対象にならない高齢者・合併症がある方など、幅広い治療の選択肢があるような症例を経験豊富な先生から勉強できるサービスとして、血液内科の先生方に利用されています。 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら 『特定の遺伝子異常を有するAML』教科書には書いていない血球の目視分類解説③ 『赤血球形態から推測される血液疾患』教科書には書いていない血球の目視分類解説⑤
『特定の遺伝子異常を有するAML』教科書には書いていない血球の目視分類解説③
『特定の遺伝子異常を有するAML』教科書には書いていない血球の目視分類解説③
今回の企画では、血液内科専門医の先生方が知っておきたい、けど教科書には載っていない…そんな血球の目視分類のポイントについて、国立病院機構九州がんセンター 臨床検査科技師長 牟田 正一先生 に解説いただき、その解説の中で気になるポイントを 大阪国際がんセンター 血液内科副部長 藤 重夫先生 にお伺いしました!第3回目は、『特定の遺伝子異常を有するAML』についてです。ご存知のとおり、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)の病型分類では、白血病細胞の染色体核型・遺伝子変異解析が必要ですが、今回は、特定の遺伝子異常を有するAMLの中でも、特徴的な形態像を有するAMLを例示していきます。さっそく、みていきましょう! AML t(8;21)(q22;q22);RUNX1-RUNX1T1 まず、AML t(8;21)(q22;q22);RUNX1-RUNX1T1の特徴的な形態像についてです。スライドに示すような部分が特徴であり、形態診断時のポイントとなります。藤先生 :細胞の辺縁が好塩基性に染まるのは、何らかのメカニズム的な理由はあるのでしょうか?牟田先生:その理由は不明瞭ですね…ただ、他にはみられない特徴、となっています。藤先生 :顆粒減少やアウエル小体を見る上で、注視するポイントはどこでしょうか?牟田先生:スライド中の上段中央の画像を少し拡大して掲示します。アウエル小体は写真のようにやや長く2~3本が束になっていたり、核に突き刺さるような形状に見えます。顆粒減少の基準は研究グループによって異なりますが、全体の70-80%程度顆粒が減少していると低顆粒と判定します。牟田先生:AML t(8;21)(q22;q22)の血液学的特徴として、スライドに示す12項目が挙げられます。藤先生 :項目を掲示頂きありがとうございます。この項目のうち、『4)成熟好中球に核の形態異常や異常顆粒がある』というのは、異形成によるものか、MDS関連か、と聞かれることがあります。AML t(8;21)(q22;q22);RUNX1-RUNX1T1の場合には、MDS関連は別物と考え、多少異形成が示されても、それはAML t(8;21)~の特徴であると理解していいものでしょうか。牟田先生:おっしゃる通り、MDSはまた別の話になりますので、藤先生のご理解の通りで宜しいかと思います。ただし、MDSの既往がある場合は、MDS時の異形成と比較して観察することが必要です。AML t(8;21)(q22;q22);RUNX1-RUNX1T1は、経験を重ねた技師の方であれば経験則的に鑑別できることが多いと思われます。では、他の類型についても見ていきましょう。 AML inv(16)(p13.1q22);CBFβ-MYH11 Point:急性骨髄性単球性白血病の形態所見に加えて、異常好酸球の増加が特徴的です。 AML t(9;11)(q21.3;q23.3);KMT2A-MLLT3 Point:t(9;11)(q21.3;q23.3)を有するAMLは、急性単球性白血病によく見られます。 AML with t(6;9)(p23;q34);DEK-NUP214 Point:好塩基球が増加していることがあるため、白血病で好塩基球が目立つようなことがあれば疑うようにすべきです。 AML with t(6;9)(p23;34.1);DEK-NUP214について、症例を3例提示します。 特徴として、年齢が若い、しばしば好塩基球の増加と、多血球系の異形成がみられます。 AML with inv(3)(q21.3q26.2) or t(3;3)(q21.3;q26.2);GATA2,MECOM 多血球系の異形成が見られ、特に巨核球系の異形成が著明にみられます。また、白血病にも関わらず、血小板が正常または増えていることなどが特徴です。そのため、白血病なのに血小板が多いときにまず疑うべき疾患です。 牟田先生:特定の遺伝子異常を有するAMLは遺伝子検査で診断されますが、中には特徴的な形態所見を有しているAMLが存在します。造血器腫瘍は遺伝子検査やフローサイトメトリー検査で確定診断されますが、形態検査は早期診断・治療効果判定・経済的効果などに貢献できる重要な検査と考えます。血球の画像をみていただく意義の一つになればと思います。Fin. 第3回目では、AMLの遺伝子変異毎の画像上での違いに関して、牟田先生に多くの画像を頂きました。取材チームとしては、お恥ずかしながら、AMLの中でも画像上でここまで違いがあるとは全く知らず…驚きの連続でした!今後も当シリーズを予定しております。ぜひ、血液内科の先生方が聞いてみたい内容など、ご意見をお待ちしております! 牟田 正一先生、藤 重夫先生への記事に関するご質問やご意見・この記事に関する他の先生方のコメントなどは、血液内科医同士で臨床相談ができるオンライン医局®️︎ 血液内科 Pro(無料会員登録)からご覧ください。 この記事に関するご質問やご意見・他の先生のコメントはこちら▶https://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/UAfPWXcbLj無料会員登録はこちら▶https://www.marketing.hpcr.jp/hematology 文責:ヒポクラ事務局 血液内科 Pro とは 750名近くの血液内科医が参加するオンライン医局®️︎です。これまで100件以上の臨床相談(=会員医師が投稿した症例に対して、他の会員医師が意見・情報を伝える)が行われています。 難治例や再発・臨床試験の対象にならない高齢者・合併症がある方など、幅広い治療の選択肢があるような症例を経験豊富な先生から勉強できるサービスとして、血液内科の先生方に利用されています。 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら 『急性前骨髄性白血病(APL)』教科書には書いていない血球の目視分類解説② 『巨赤芽球性貧血・寒冷凝集症・骨髄異形成症候群』教科書には書いていない血球の目視分類解説④
『急性前骨髄性白血病(APL)』教科書には書いていない血球の目視分類解説②
『急性前骨髄性白血病(APL)』教科書には書いていない血球の目視分類解説②
今回の企画では、血液内科専門医の先生方が知っておきたい、けど教科書には載っていない…そんな血球の目視分類のポイントについて、国立病院機構九州がんセンター 臨床検査科技師長 牟田 正一先生 に解説いただき、その解説の中で気になるポイントを 大阪国際がんセンター 血液内科副部長 藤 重夫先生 にお伺いしました!第2回目は、『急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)』についてです。APLは重篤なDIC(disseminated intravascular coagulation:播種性血管内凝固症候群)のリスクの高さから、早期診断・治療が重要です。早期診断においては、末梢血のAPL細胞を見逃さず、迅速に臨床に報告することが求められます。ただ、このAPL細胞の判定には、多様な細胞の見極めが求められます。早速、APLの画像の特徴を掲示しつつ、解説していきます。 APLの画像上の特徴 [a]はAPL細胞の特徴であるアウエル小体が束になったファゴット細胞が多く認められます。そのため比較的容易に形態学的にAPLと診断されます。[c]はファゴット細胞は見られませんが、核が2核状、鉄アレイ状、ねじれ等の核形不整が著しく、細胞質にアズール顆粒が豊富に充満しています。これらもAPL細胞に特徴的な所見であり、形態学的にAPLが疑われます。[b]はAPL細胞のペルオキシダーゼ染色で強陽性に染色されています。これもAPL細胞の特徴的所見です。 APLの画像所見の注意点 APLの症例の中には、白血球数が低値で、APL細胞の出現率が低い事例もあります。鑑別の難度は高いですが、白血球低値の状況で鑑別出来ずに臨床に戻してしまうと、重篤になりえるため、注意して見なければならないポイントです。そのような症例では、前述の掲示した特徴とも重複しますが、APL細胞の形態学的特徴(①~⑤)である核形不整、豊富なアズール顆粒などを見極めて判定することが見落とし防止になり重要です。一方、APL細胞にはアズール顆粒が乏しい形態学的なvariant typeが存在しますので注意が必要です。[d]はAML-M3-variant type、[e]はAML-M4(急性骨髄単球性白血病)です。双方ともに核形不整が著しく、アズール顆粒が乏しいため鑑別を要します。鑑別にはペルオキシダーゼ染色が有用です。[f]のAPL-variant typeは強陽性で、[g]のAML-M4は陰性から弱陽性となります。 藤先生 :お話頂いたとおり、APLはアズール顆粒が目立つ場合は分かりやすいですが、顆粒が少ないと、単球との区別が確かに分かりにくいですね。色調や顆粒の大きさ、そのあたりで比べた場合には若干の違いはあるのでしょうか?牟田先生:そうですね、スライド左上のPB①②③は典型的なAPL細胞よりは顆粒が微細ですが、正常単球の顆粒と比べるとアズール好性が強く濃い色調を呈しています。ただし、経験が少ない人は①②③を単球と判定する可能性がありますので注意が必要です。同一標本の正常細胞と比べることがポイントと考えられます。白血球数が低値でAPL細胞の出現率が低い場合は、APL細胞の多様性を理解して判定することが重要です。 APLに対するATRAの分化誘導療法 APLの治療では分化誘導療法後に化学療法を実施するため、ATRA投与後の細胞判定は重要であり、APL細胞から分化誘導された細胞を成熟型APLとして判定しています。 ここではAPLに対するATRAの分化誘導療法の画像上の変化を示しています。投与後2週間程度でアウエル小体を持った好中球や偽ペルゲル様好中球が認められ、分化誘導が進んでいると判断されます。分化誘導療法が順調であれば、1~2ヶ月で正常な細胞が立ち上がってきます。もう少し時系列を刻んで、症例ベースで見ていきましょう。 ATRA投与7日後 この細胞像はvariant typeのATRA投与7日後のAPL細胞です。この時点ではまだ分化が進んでおらず、ATRA投与前の形態と殆ど変化はありません。 ATRA投与14日以降 投与14日後では、一部の細胞で核に分葉が見られ、成熟傾向が認められます。この段階では、APL細胞と成熟型APL細胞が混在しています。投与21日後では、殆どが成熟型APL細胞になります。正常好中球と比べるとクロマチン凝集が乏しいと思われます。投与28日後では、クロマチン凝集が乏しい成熟型APL細胞と、正常と思われる好中球が混在しています。投与35日後では、ほぼ正常と思われる好中球となり、形態学的には分化誘導が完了した形態像と考えられます。ATRA投与後にAPL細胞から分化した成熟型APL細胞と正常好中球をしっかりと鑑別することが重要となります。藤先生 :詳細な症例ベースでのご解説、ありがとうございます。長期的に細胞の異常が残存するということに注意をすべきであると理解できました。 Fin. 第2回目では、APLにフォーカスをあて、お二人の先生に診断と治療のポイントに対し、解説や質疑を頂きました。具体的な症例を通し、取材側も勉強させて頂きました!今後も当シリーズを予定しております。ぜひ、血液内科の先生方が聞いてみたい内容など、ご意見をお待ちしております! 牟田 正一先生、藤 重夫先生への記事に関するご質問やご意見・この記事に関する他の先生方のコメントなどは、血液内科医同士で臨床相談ができるオンライン医局®️︎ 血液内科 Pro(無料会員登録)からご覧ください。 この記事に関するご質問やご意見・他の先生のコメントはこちら▶https://hpcr.jp/app/pro/hematology/post/3rN9zKW4TP無料会員登録はこちら▶https://www.marketing.hpcr.jp/hematology 文責:ヒポクラ事務局 血液内科 Pro とは 750名近くの血液内科医が参加するオンライン医局®️︎です。これまで100件以上の臨床相談(=会員医師が投稿した症例に対して、他の会員医師が意見・情報を伝える)が行われています。 難治例や再発・臨床試験の対象にならない高齢者・合併症がある方など、幅広い治療の選択肢があるような症例を経験豊富な先生から勉強できるサービスとして、血液内科の先生方に利用されています。 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら 『特徴的な形態のリンパ系疾患』教科書には書いていない血球の目視分類解説① 『特定の遺伝子異常を有するAML』教科書には書いていない血球の目視分類解説③