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『特徴的な形態のリンパ系疾患』教科書には書いていない血球の目視分類解説①
第1回目は、『特徴的な形態のリンパ系疾患』についてです。
反応性(異形)リンパ球と異常リンパ球
まず、疾患の話に入る前に、反応性(異形)リンパ球と異常リンパ球について説明します。反応性(異型)リンパ球の定義についてです。
〝異型〟とは正常のリンパ球と比べると異常にみえるという意味です。
何らかの抗原刺激に反応した細胞の変化像とみなされ、健常者でも数%みられることがあります。
形態学的特徴が5つ挙げられ、①②が必須条件になります。(日本検査血液学会)
① 細胞径16μm(赤血球の約2倍)以上
② 細胞質の好塩基性が強い
③ クロマチンの幼若化(網状化)or 粗剛化
④ 核小体を認める
⑤ バラエティに富んだ形態像
正常リンパ球と反応性(異型)リンパ球のそれぞれの特徴を細胞同定パラメータ毎に示しています。
反応性リンパ球の見分け方のポイントは、
一つがリンパ球の大きさで、何かしらの刺激が原因で反応性リンパ球が赤血球の2倍以上の大きさになることと、二つめが細胞質の塩基性が強くなる点、画像でいえば青みが強くなる点です。
もう一点、正常標本よりも多彩な細胞像が顕著となることも挙げられます。
藤先生 :細胞質の塩基性に関してはどのように判断するのが宜しいですか?
牟田先生:同一標本上の正常と思われるリンパ球と比較して判断するのが良いと考えます。
異常リンパ球様細胞の定義
つぎに、異常リンパ球様細胞の定義です。反応性(異型)リンパ球は〝反応性の形態変化〟という定義でした。
異常リンパ球は〝腫瘍性の形態変化〟と定義されます。
形態学的特徴が5つ挙げられます。
① 細胞径の異常
② 核の異常
③ N/C比高、merge大*、時に裸核様
④ 細胞質(好塩基性増強/異常顆粒出現等)
⑤ 単調的な同一形態像
*=核と細胞質の接する部分をmergeと称し、2/3以上であれば“大”と表現している。
反応性リンパ球と異常リンパ球のそれぞれの特徴を細胞同定パラメータ毎に示しています。
藤先生 :反応性リンパ球と異常リンパ球との区別ですが、画像でいえば、核の辺縁は若干波打っている感じがあっても切れ込みはないといった感じで理解していけばいいですか?
牟田先生:そうですね、反応性リンパ球は、核縁はスムーズな形で、若干へこみがあったとしても切れ込みやねじれはないといえます。
藤先生 :反応性リンパ球と異常リンパ球の核網違いの説明がいつも難しいなと感じるのですが、今回のようにリンパ球系であれば、どのようにみるとわかりやすいですか?
牟田先生:図中の細胞同定パラメータでいえば、クロマチン構造のところになります。
正常から反応性(異型)のリンパ球、いわゆる腫瘍性でないものは、平坦で盛り上がりもなく、均一的な感じです。一方で異常リンパ球の場合には、疾患毎によって様々です。
⇒クロマチンが増量したという表現をし、濃く染まっています。
e.:びまん性大細胞性リンパ腫
⇒中~大型で、クロマチン構造が繊細となり核小体を認めることがあります。
f.:バーキットリンパ腫
⇒クロマチンがレース状になり繊細と表現され、核小体がみられ幼若化しています。
また、バーキットリンパ腫は著明な空胞が特徴的です。
g.:濾胞性リンパ腫
⇒核の鋭い切れ込みが特徴的です。
藤先生 :お話をお伺いすると“透け感”のような表現が適切でしょうか?
牟田先生:“ティッシュを広げてを光にかざしている感じ”が伝わりやすいかもしれません。正常リンパ球はコピー用紙のように平坦な感じに対し、腫瘍性の方はティッシュが透けたような感じですね。
藤先生 :これはわかりやすいですね、教科書にも書いていない。笑
牟田先生:説明する時にはわかりやすいかなと考え、そのような表現を使っています。笑
特徴的な形態のリンパ系疾患
では、特徴的な形態のリンパ系疾患を見ていきましょう。(ATLは後述にて説明。)①伝染性単核症
これは反応性リンパ球なので、大きいものもあればやや中型くらいのものもあり、標本の中で多様性があるのが特徴です。
②ヘアリーセル白血病
右側の写真は毛羽立っていて、左側は目玉焼きのようになっているのが分かると思います。
これは標本の厚みが影響していて、厚いところは乾燥に時間がかかるため、右側の写真のように元の細胞形態に戻ろうとして毛羽立ちが出てきます。
左側は伸展標本の引き終わりの薄い部分で、強制乾燥により引き延ばされた状態のままの細胞形態を呈しています。
リンパ球系疾患を疑うときは、強制乾燥と自然乾燥の2つの標本を作って観察しています。
③セザリー症候群
藤先生 :自院の技師さんからも、よく標本の盛り上がりが…という話をするのですが、このセザリーの右側の細胞だと立体構造がありそうとわかりますが、左側だとどう判断されるのですか?
牟田先生:左側も折りたたまれたような感じになっていますが、ピントを動かしながら見ていくと、顕微鏡上でももう少し表現されます。どうしても写真だとフォーカスが一点なのでこのような見え方になってしまいます。
④濾胞性リンパ腫
濾胞性リンパ腫は切れ込みが特徴的ですが、すべての細胞にある訳ではありません。
そのため、濾胞性リンパ腫を疑う時、このような特徴的な細胞を探すことがポイントです。
特に、濾胞性リンパ腫の診断がついていて、骨髄浸潤の有無を判定する時などしっかりと観察しています。
⑤バーキットリンパ腫
バーキット腫は細胞質の空胞が特徴的ですが、確定診断にはフローサイトメトリーや遺伝子での診断が必要です。
⑥大顆粒リンパ球性白血病
この疾患名で注意が必要なのは、“大”は顆粒球でなく、リンパ球のことです。
つまり、大きなリンパ球、赤血球の2倍(15μm)以上あるリンパ球の中にアズール顆粒が3つ以上ある細胞が、大顆粒リンパ球です。
大顆粒リンパ球が6ヶ月以上、2,000/μL以上持続して認められると診断されます。
慢性的経過の中で血球減少症の原因となる白血病ですので、末梢血液像の所見は重要です。
藤先生 :ちょっとくらい顆粒のある大きなリンパ球は正常な方にもみられそうですが、腫瘍かどうかの判断は均一性があるかどうかの視点で問題ないですか?
牟田先生:そうですね、大顆粒リンパ球性白血病は、Tリンパ球の腫瘍性なので、核網も同じような形で、均一性があると言えます。
⑦アグレッシブNK細胞
アグレッシブNK細胞も顆粒を持つことが多いですが、細胞異型性が強く、悪そうな顔つきなどと表現することがあります。経過が非常に急激に悪化しますので、アグレッシブNK細胞が疑われる場合は迅速な報告が重要です。
ATL細胞について
ATL細胞についてです。ATL細胞の特徴はフラワーセルです。
正常なリンパ球は丸い核なのに対して、ATLは花びらのような核になります。
ただし、慢性型、くすぶり型、発症前のキャリアでは核の異型性が乏しく、見落としや判定困難な細胞があります。
慢性型ATLの場合
図は慢性型ATLの同一標本中の細胞です。
右側の緑枠は正常リンパ球、左側がATL細胞と判定したものです。
慢性型の場合は、細胞量も多く核形不整や切れ込みがある程度見られますので鑑別は可能と考えます。
実際に、核に異型性があるものをしっかりと捉えると、目視とフローサイト法でほぼ一致した結果となります。
ATLのキャリアの場合
ATLのキャリアの場合です。
キャリアではATL細胞の出現率が低くなり、細胞の異型性も軽度となるので慎重な判定が求められます。
キャリアをしっかり判定できると、早期発見や早期診断に繋がり、患者の予後に大きく影響を与えるため、より重要であるといえます。
この写真のATL細胞の出現率(%)は全リンパ球(正常リンパ球+ATL細胞)に対しての出現率(%)です。
藤先生 :こちらに挙げられているATL細胞は細胞質がほとんどないので、典型的なフラワーセルとは判定しようがないと思いますが、その場合はどのあたりを判定ポイントにするのでしょうか。
牟田先生:図の右側の正常リンパ球は核膜不整がなく、細胞質が認められ、N/C比はやや低い細胞となります。
図の左側のATL細胞は、核に切れ込みやねじれなどの不整などの核異型、N/C比、merge(核と細胞質の接する部分)が高い、クロマチンの増量(核の濃染)などをポイントとして判定すると、フローサイト法とほぼ一致した結果となります。
抗HTLV-1抗体陽性検体は、軽度でも核の切れ込み、ねじれ、へこみなどがある細胞は積極的にATL細胞と判定すべきと考えます。
正常リンパ球とATL細胞の境界領域
最後に、正常リンパ球とATL細胞の境界領域の細胞写真です。
正常小型リンパ球は不整核形は見られず、核縁がスムーズです。
対して小型ATL細胞では、核形にねじれ、切れ込み、核膜不整、複雑なくびれ、2核状などが認められます。
CCR4による免疫染色でも証明されています。
ATLの細胞診断基準をまとめると、急性型は著しい核形不整(フラワーセルl)、大型化、核小体、クロマチンの繊細化または増量などを鑑別点とします。
キャリア、くすぶり型、慢性型、リンパ腫型に出現する小型ATL細胞では境界域が不明瞭のため下記3項目の注視が必要です。
① 核形不整:切れ込み・捻じれ・核膜不整・複雑なくびれ・2核
② クロマチン濃度:正常と比べると増量・濃染 している
③ N/C比・merge (核と細胞質の接する部分) が高い
藤先生 :CELLAVISION®関連でお伺いしたいのですが。
顕微鏡では1,000倍で油浸で見るのが分かりやすいと思うのですが、CELLAVISION®の機械で読み込んだ画像ではそれよりは劣るのでしょうか?
牟田先生:前述のATL細胞の判定基準の検討の写真はCELLAVISION®を用いた撮影で、10年前の画像です。最新のversionはさらに画像が良くなっていますが、顕微鏡の1000倍(油浸)と比べると解像度は劣ります。
CELLAVISION®は、同一撮影条件のため、画像の比較をするのに適しています。
また、本検討では36症例で約5,000個の細胞を撮影を行ったため、労力的にも有用でした。
藤先生 :当施設でもCELLAVISION®DC-1があり、塗抹標本から読み込んで自動判定できています。
自動判定にATLという分類はないのですが、単球のところにたまにATLが入るみたいです。
単球とATLの見分け方を簡単に教えてもらえますか?
牟田先生:ATL細胞と単球は一部の症例で同じような核形不整を呈することがあり鑑別を要します。
先ずは核クロマチン構造を見てみるべきでしょう。
単球の核クロマチンは、レース状でティッシュのような薄い構造ですが、ATL細胞は核クロマチンが増量し濃く見えます。
芽球化するようなATLでは核クロマチンが繊細となり鑑別するのが困難な場合があります。
そのような症例は細胞質が鑑別のポイントとなります。
単球は細胞質に微細な顆粒が豊富に充満しているので灰青色のくすんだ色をしています。
一方、ATL細胞(リンパ球)は青み(好塩基性)があっても透明感があり、鑑別のポイントとなります。
また、明らかなATL細胞と単球と比べてどちらの細胞の特徴に似ているかで判定する比較類進法をお勧めします。
Fin.
お二人の先生にリンパ系疾患の目視分類に関して、ざっくばらんに解説や質疑を頂きました。取材側も先生方が楽しみながらの対談を拝聴できました!
今後も当シリーズを予定しております。
ぜひ、血液内科の先生方が聞いてみたい内容など、ご意見をお待ちしております!
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文責:ヒポクラ事務局
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