『急性前骨髄性白血病(APL)』教科書には書いていない血球の目視分類解説②
医師インタビュー

『急性前骨髄性白血病(APL)』教科書には書いていない血球の目視分類解説②

今回の企画では、血液内科専門医の先生方が知っておきたい、けど教科書には載っていない…そんな血球の目視分類のポイントについて、国立病院機構九州がんセンター 臨床検査科技師長 牟田 正一先生 に解説いただき、その解説の中で気になるポイントを 大阪国際がんセンター 血液内科副部長 藤 重夫先生 にお伺いしました!

第2回目は、『急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)』についてです。

APLは重篤なDIC(disseminated intravascular coagulation:播種性血管内凝固症候群)のリスクの高さから、早期診断・治療が重要です。
早期診断においては、末梢血のAPL細胞を見逃さず、迅速に臨床に報告することが求められます。ただ、このAPL細胞の判定には、多様な細胞の見極めが求められます。

早速、APLの画像の特徴を掲示しつつ、解説していきます。

APLの画像上の特徴

APLの画像上の特徴

[a]はAPL細胞の特徴であるアウエル小体が束になったファゴット細胞が多く認められます。そのため比較的容易に形態学的にAPLと診断されます。

[c]はファゴット細胞は見られませんが、核が2核状、鉄アレイ状、ねじれ等の核形不整が著しく、細胞質にアズール顆粒が豊富に充満しています。これらもAPL細胞に特徴的な所見であり、形態学的にAPLが疑われます。

[b]はAPL細胞のペルオキシダーゼ染色で強陽性に染色されています。これもAPL細胞の特徴的所見です。

APLの画像所見の注意点

APLの画像所見の注意点

APLの症例の中には、白血球数が低値で、APL細胞の出現率が低い事例もあります。
鑑別の難度は高いですが、白血球低値の状況で鑑別出来ずに臨床に戻してしまうと、重篤になりえるため、注意して見なければならないポイントです。

そのような症例では、前述の掲示した特徴とも重複しますが、APL細胞の形態学的特徴(①~⑤)である核形不整、豊富なアズール顆粒などを見極めて判定することが見落とし防止になり重要です。

一方、APL細胞にはアズール顆粒が乏しい形態学的なvariant typeが存在しますので注意が必要です。
[d]はAML-M3-variant type、[e]はAML-M4(急性骨髄単球性白血病)です。双方ともに核形不整が著しく、アズール顆粒が乏しいため鑑別を要します。鑑別にはペルオキシダーゼ染色が有用です。[f]のAPL-variant typeは強陽性で、[g]のAML-M4は陰性から弱陽性となります。

藤先生 :お話頂いたとおり、APLはアズール顆粒が目立つ場合は分かりやすいですが、顆粒が少ないと、単球との区別が確かに分かりにくいですね。
色調や顆粒の大きさ、そのあたりで比べた場合には若干の違いはあるのでしょうか?

牟田先生:そうですね、スライド左上のPB①②③は典型的なAPL細胞よりは顆粒が微細ですが、正常単球の顆粒と比べるとアズール好性が強く濃い色調を呈しています。
ただし、経験が少ない人は①②③を単球と判定する可能性がありますので注意が必要です。同一標本の正常細胞と比べることがポイントと考えられます。
白血球数が低値でAPL細胞の出現率が低い場合は、APL細胞の多様性を理解して判定することが重要です。

APLに対するATRAの分化誘導療法

APLの治療では分化誘導療法後に化学療法を実施するため、ATRA投与後の細胞判定は重要であり、APL細胞から分化誘導された細胞を成熟型APLとして判定しています。
APLに対するATRAの分化誘導療法

ここではAPLに対するATRAの分化誘導療法の画像上の変化を示しています。
投与後2週間程度でアウエル小体を持った好中球や偽ペルゲル様好中球が認められ、分化誘導が進んでいると判断されます。

分化誘導療法が順調であれば、1~2ヶ月で正常な細胞が立ち上がってきます。

もう少し時系列を刻んで、症例ベースで見ていきましょう。

ATRA投与7日後

variant typeのATRA投与7日後のAPL細胞

この細胞像はvariant typeのATRA投与7日後のAPL細胞です。
この時点ではまだ分化が進んでおらず、ATRA投与前の形態と殆ど変化はありません。

ATRA投与14日以降

variant typeのATRA投与14日後のAPL細胞

投与14日後では、一部の細胞で核に分葉が見られ、成熟傾向が認められます。
この段階では、APL細胞と成熟型APL細胞が混在しています。

投与21日後では、殆どが成熟型APL細胞になります。
正常好中球と比べるとクロマチン凝集が乏しいと思われます。

投与28日後では、クロマチン凝集が乏しい成熟型APL細胞と、正常と思われる好中球が混在しています。

投与35日後では、ほぼ正常と思われる好中球となり、形態学的には分化誘導が完了した形態像と考えられます。

ATRA投与後にAPL細胞から分化した成熟型APL細胞と正常好中球をしっかりと鑑別することが重要となります。

藤先生 :詳細な症例ベースでのご解説、ありがとうございます。
長期的に細胞の異常が残存するということに注意をすべきであると理解できました。

Fin.

第2回目では、APLにフォーカスをあて、お二人の先生に診断と治療のポイントに対し、解説や質疑を頂きました。具体的な症例を通し、取材側も勉強させて頂きました!
今後も当シリーズを予定しております。
ぜひ、血液内科の先生方が聞いてみたい内容など、ご意見をお待ちしております!


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