『特定の遺伝子異常を有するAML』教科書には書いていない血球の目視分類解説③
医師インタビュー

『特定の遺伝子異常を有するAML』教科書には書いていない血球の目視分類解説③

今回の企画では、血液内科専門医の先生方が知っておきたい、けど教科書には載っていない…そんな血球の目視分類のポイントについて、国立病院機構九州がんセンター 臨床検査科技師長 牟田 正一先生 に解説いただき、その解説の中で気になるポイントを 大阪国際がんセンター 血液内科副部長 藤 重夫先生 にお伺いしました!

第3回目は、『特定の遺伝子異常を有するAML』についてです。

ご存知のとおり、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)の病型分類では、白血病細胞の染色体核型・遺伝子変異解析が必要ですが、今回は、特定の遺伝子異常を有するAMLの中でも、特徴的な形態像を有するAMLを例示していきます。

さっそく、みていきましょう!

AML t(8;21)(q22;q22);RUNX1-RUNX1T1

AML t(8;21)(q22;q22);RUNX1-RUNX1T1

まず、AML t(8;21)(q22;q22);RUNX1-RUNX1T1の特徴的な形態像についてです。
スライドに示すような部分が特徴であり、形態診断時のポイントとなります。

藤先生 :細胞の辺縁が好塩基性に染まるのは、何らかのメカニズム的な理由はあるのでしょうか?

牟田先生:その理由は不明瞭ですね…ただ、他にはみられない特徴、となっています。

藤先生 :顆粒減少やアウエル小体を見る上で、注視するポイントはどこでしょうか?

牟田先生:スライド中の上段中央の画像を少し拡大して掲示します。
著明な核小体や長いアウエル小体

アウエル小体は写真のようにやや長く2~3本が束になっていたり、核に突き刺さるような形状に見えます。
顆粒減少の基準は研究グループによって異なりますが、全体の70-80%程度顆粒が減少していると低顆粒と判定します。

牟田先生:AML t(8;21)(q22;q22)の血液学的特徴として、スライドに示す12項目が挙げられます。
AML t(8;21)(q22;q22)の血液学的特徴10例

藤先生 :項目を掲示頂きありがとうございます。
この項目のうち、『4)成熟好中球に核の形態異常や異常顆粒がある』というのは、異形成によるものか、MDS関連か、と聞かれることがあります。
AML t(8;21)(q22;q22);RUNX1-RUNX1T1の場合には、MDS関連は別物と考え、多少異形成が示されても、それはAML t(8;21)~の特徴であると理解していいものでしょうか。

牟田先生:おっしゃる通り、MDSはまた別の話になりますので、藤先生のご理解の通りで宜しいかと思います。
ただし、MDSの既往がある場合は、MDS時の異形成と比較して観察することが必要です。
AML t(8;21)(q22;q22);RUNX1-RUNX1T1は、経験を重ねた技師の方であれば経験則的に鑑別できることが多いと思われます。

では、他の類型についても見ていきましょう。

AML inv(16)(p13.1q22);CBFβ-MYH11

Point:急性骨髄性単球性白血病の形態所見に加えて、異常好酸球の増加が特徴的です。

AML inv(16)(p13.1q22);CBFβ-MYH11

AML t(9;11)(q21.3;q23.3);KMT2A-MLLT3

Point:t(9;11)(q21.3;q23.3)を有するAMLは、急性単球性白血病によく見られます。

AML t(9;11)(q21.3;q23.3);KMT2A-MLLT3

AML with t(6;9)(p23;q34);DEK-NUP214

Point:好塩基球が増加していることがあるため、白血病で好塩基球が目立つようなことがあれば疑うようにすべきです。

AML with t(6;9)(p23;q34);DEK-NUP214

AML with t(6;9)(p23;34.1);DEK-NUP214について、症例を3例提示します。
AML with t(6;9)(p23;34.1);DEK-NUP214について、症例を3例

特徴として、年齢が若い、しばしば好塩基球の増加と、多血球系の異形成がみられます。

AML with inv(3)(q21.3q26.2) or t(3;3)(q21.3;q26.2);GATA2,MECOM

多血球系の異形成が見られ、特に巨核球系の異形成が著明にみられます。
また、白血病にも関わらず、血小板が正常または増えていることなどが特徴です。
そのため、白血病なのに血小板が多いときにまず疑うべき疾患です。
AML with inv(3)(q21.3q26.2)  or  t(3;3)(q21.3;q26.2);GATA2,MECOM

牟田先生:特定の遺伝子異常を有するAMLは遺伝子検査で診断されますが、中には特徴的な形態所見を有しているAMLが存在します。
造血器腫瘍は遺伝子検査やフローサイトメトリー検査で確定診断されますが、形態検査は早期診断・治療効果判定・経済的効果などに貢献できる重要な検査と考えます。
血球の画像をみていただく意義の一つになればと思います。

Fin.

第3回目では、AMLの遺伝子変異毎の画像上での違いに関して、牟田先生に多くの画像を頂きました。取材チームとしては、お恥ずかしながら、AMLの中でも画像上でここまで違いがあるとは全く知らず…驚きの連続でした!
今後も当シリーズを予定しております。
ぜひ、血液内科の先生方が聞いてみたい内容など、ご意見をお待ちしております!


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