『巨赤芽球性貧血・寒冷凝集症・骨髄異形成症候群』教科書には書いていない血球の目視分類解説④
医師インタビュー

『巨赤芽球性貧血・寒冷凝集症・骨髄異形成症候群』教科書には書いていない血球の目視分類解説④

今回の企画では、血液内科専門医の先生方が知っておきたい、けど教科書には載っていない…そんな血球の目視分類のポイントについて、国立病院機構九州がんセンター 臨床検査科技師長 牟田 正一先生 に解説いただき、その解説の中で気になるポイントを 大阪国際がんセンター 血液内科副部長 藤 重夫先生 にお伺いしました!

第4回目は、『巨赤芽球性貧血・寒冷凝集症・骨髄異形成症候群』についてです。

検査値上での鑑別において、注意すべき症例

ここでは、形態像の確認の前に、検査値上での鑑別において、注意すべき症例としてAとBの2症例を提示します。
注意すべき症例『巨赤芽球性貧血・寒冷凝集症・骨髄異形成症候群』

赤血球恒数のMCVが症例A・B共に130を超える高値となっています。
MCHCは、症例Aは正常域ですが、症例Bは40を超え異常値を示しています。

では、この症例AとBについて、形態像を交えて解説していきましょう。

巨赤芽球性貧血と寒冷凝集の鑑別

症例Aは巨赤芽球性貧血

症例Aは巨赤芽球性貧血です。
巨赤芽球性貧血はビタミンB12または葉酸の欠乏による核酸代謝異常に伴うDNA合成の阻害によって核の成熟が遅れ細胞分裂に障害が起こります。骨髄中の赤芽球系細胞は、分化成熟において核は未熟のままで細胞質は成熟する成熟乖離が見られる巨赤芽球となり、大きな赤血球が産生されMCVが高くなります。また、顆粒球系細胞も細胞分裂に障害が起こり、4倍体核の細胞は過分葉好中球となります。

症例Bは寒冷凝集素による赤血球凝集が見られます。赤血球凝集が起こると血球計数機では赤血球が偽低値、ヘマトクリット偽低値、MCVとMCHCが偽高値となります。ヘモグロビン値は正確に測定されますので計算項目のMCHCが偽高値となります。MCHCは通常37g/dLを超えませんので、症例Bの血算値からは赤血球凝集が疑われ血液像を確認します。赤血球凝集の対処法は採血管を37℃で15分以上加温後、直ちに測定します。加温により赤血球凝集が消失して、赤血球数とMCVが正しく測定され、ヘマトクリット値とMCHCが正しく算出されます。前述のスライドの症例Bは加温後、赤血球数222万/μLが380万/μL、ヘマトクリット値29.7%が39.6%、MCV133.7fLが103.7fL、MCHC41.0g/dLが31.6g/dLとなりました。強い赤血球凝集では肉眼でも採血管内の血球にザラツキが確認できます。

藤先生 :寒冷凝集で特徴的な所見があるのが参考になりました。
普段、病院内の室温はある程度安定していると思うのですが、温度の管理について注意する必要はあるのでしょうか?

牟田先生:生体内は37℃前後なので赤血球凝集は起こりませんが、寒冷凝集素を持っている症例は室温で採血管内で赤血球凝集が起こることがありますので注意が必要です。

検査値上での鑑別ポイントをまとめた資料です。

血球計数機測定上の注意

赤血球凝集の場合には、赤血球が偽低値、ヘマトクリット偽低値、MCV偽高値、MCHC偽高値となります。

巨赤芽球性貧血:赤芽球系細胞の形態所見のポイント


ここでは赤芽球の分化・成熟過程から画像上の鑑別のポイントをみていきましょう。

巨赤芽球性貧血:赤芽球系細胞の形態所見のポイント

スライド上段は正常な赤芽球系細胞の分化・成熟段階です。
前赤芽球は細胞径20~25μmで細胞質は塩基好性を呈し、クロマチン構造は繊細顆粒状で濃く染まった核小体が認められます。好塩基性赤芽球は細胞径16~20μmで細胞質は前赤芽球と同等の塩基好性を呈し、クロマチン構造は前赤芽球の繊細顆粒状と比べると微細顆粒状です。多染性赤芽球は細胞径12~18μmでヘモグロビン合成が盛んになり細胞質は赤血球の色調が混じってきます。核はクロマチン凝集が徐々に進み塊状となります。正染性赤芽球は細胞径8~10μmでヘモグロビン合成がほぼ完了しますので細胞質は赤血球と同等の色調になり、クロマチンは濃縮し無構造となります。

下段は巨赤芽球性貧血の分化・成熟段階の巨赤芽球です。前赤芽球と好塩基性赤芽球では正常な赤芽球と比べ大きな変化は見られませんので、この段階で巨赤芽球と判定するのは困難です。多染性赤芽球になると細胞質の成熟に比べクロマチン凝集が弱くスポンジ状となり、核と細胞質の成熟乖離が分かりやすくなるので巨赤芽球を判定に適しています。細胞径は細胞分裂に障害があるため正常赤芽球の各成熟段階と比べ大型となり、大きな赤血球が産生されます。

藤先生 :スライドの図で表せば左側、幼若な細胞では区別がしにくいため、ある程度成熟が進んだ右側の細胞で区別をするのが良さそうですね。

牟田先生:藤先生のおっしゃる通りです。

骨髄異形成症候群の鑑別

骨髄異形成症候群:形態所見上の鑑別ポイント


ここからは骨髄異形成症候群(MDS)についての三系統の細胞の異形成について見ていきましょう。

骨髄異形成症候群:形態所見上の鑑別ポイント

当資料は、WHO分類2017及び厚生労働省の特発性造血障害に関する調査研究班において作成された、MDSの形態診断アトラスに掲載されている内容です。
赤文字の環状鉄芽球、低分葉好中球、脱顆粒または低顆粒好中球、微小巨核球はカテゴリーAとして特に重要視される異形成所見となります。

骨髄異形成症候群:赤芽球系細胞の異形成のポイント


赤芽球の異形成は多様な形状を示します。
ここではどのような異形成を示すかをスライド中に示します。

骨髄異形成症候群:赤芽球系細胞の異形成のポイント

核融解  :核の成熟不良によるクロマチン凝集の不足から不規則なクロマチン塊となります。

核辺縁不整:正常であれば核は丸い形状ですが、形が整わず、核形が不整となっています。

核分裂異常:核が正常に分裂できず、多核になっている状態です。

核間架橋 :核の分裂異常で核同士が糸で繋がっている形状です。

異常多核型:大型巨赤芽球で細胞分裂障害が考えられ、それに伴う異常な核分裂を起こした細胞です。

PAS陽性赤芽球:赤芽球は本来陰性ですが、骨髄異形成症候群や赤芽球性白血病では陽性化する場合があります。一般的に上段の成熟型はびまん性に、下段の未熟型は顆粒状に観察されます。

骨髄異形成症候群:好中球系細胞の異形成のポイント


次に、好中球系細胞の異形成について見ていきましょう。

骨髄異形成症候群:好中球系細胞の異形成のポイント

小型好中球:赤血球と同程度の小さいサイズになります。注意点として標本の厚い部分では細胞が縮まるので周囲に正常サイズの好中球が認められる観察位置での判定が重要です。

大型好中球 :正常サイズの好中球の2倍以上の大きい細胞です。

低分葉好中球:単核もあれば2核のものもあります。偽Peleger Huetとも呼ばれます。

過分葉好中球:正常好中球は3~5核ですが、6核以上の細胞を過分葉好中球と判定します。

顆粒減少・脱顆粒:矢印の細胞はほとんど顆粒がないため無顆粒好中球です。判定基準は研究班で異なりますが70~80%以上の顆粒が消失している場合は顆粒減少・脱顆粒と判定します。スライド下の細胞は顆粒消失が50%以下ですので顆粒減少・脱顆粒と判定されません。

その他、デーレ小体やアウエル小体といった形状も特徴的です。

藤先生 :顆粒減少は、70~80%以上というのは細胞質中の領域の70~80%という解釈で宜しいでしょうか?

牟田先生:おっしゃるとおりです。細胞質中の領域を表しています。この領域の70~80%に顆粒がないことを確認していきます。

牟田先生:顆粒減少・脱顆粒の所見は骨髄異形成症候群と巨赤芽球性貧血の鑑別に有用です。巨赤芽球性貧血では顆粒減少・脱顆粒が認められるのは稀です。

藤先生:両者の異形成は赤芽球系細胞では類似していますので、顆粒減少・脱顆粒は鑑別に有用な所見ですね。

牟田先生:検査値ではLDが骨髄異形成症候群と巨赤芽球性貧血の鑑別に有用です。骨髄異形成症候群では300 IU/Lを超える症例は少ないですが、巨赤芽球性貧血では300 IU/Lを超える症例が多いです。

骨髄異形成症候群:骨髄巨核球の異形成のポイント


次に、骨髄巨核球の形態異常について見ていきましょう。

骨髄異形成症候群:骨髄巨核球の異形成のポイント

正常な骨髄巨核球は背塾段階、サイズ、核分裂状態にバリエーションが多いので以下の3点に絞って異形成を判定しましょう。

微小巨核球:細胞質が成熟していても(アズール色素好性:赤紫色)サイズが前骨髄球と同等以下の微小な巨核球です。

単核巨核球:細胞質が成熟していも(アズール色素好性:赤紫色)単核のままの巨核球です。※細胞質が成熟する前(塩基好性:濃青色)の前巨核球の単核は異常と判定されません。

核分離異常巨核球:正常では核が重なり合うか核糸で繫がっていますが、核が分離している核分離異常の巨核球です。

藤先生 :巨核球は探すのが大変だったりしますね。

牟田先生:そうですね、少ない場合には大変ですね…。巨核球は標本の引き終わりや辺縁に集まりやすいのでそこを観察します。巨核球が極端に少ない場合には複数枚の標本を観察します。先ずは弱拡大で巨核球を探して中拡大で判定します。微小巨核球は弱拡大では見落とす可能性がありますので注意が必要です。

骨髄異形成症候群:特異的な異形成


骨髄異形成症候群:特異的な異形成

ここまで、MDSにおける3系統の細胞の異形成に触れてきましたが、こちらのスライドでは改めて特異的な異形成をまとめています。
微小巨核球、低分葉(偽ペルゲル)、低(脱)顆粒、環状赤芽球が定義されていますが、これらは比較的初心者でも判定しやすく有用と言えます。また、微小巨核球と偽ペルゲル核異常は予後に関係するとの報告もあります。

Fin.

お二人の先生に今回は巨赤芽球性貧血と骨髄異形成症候群を軸として、鑑別のポイントや各細胞の形態所見の具体例をお話頂きました。牟田先生による寒冷凝集の対応のお話なども含み、現場でしか知らない、教科書に中々載っていない内容をお教え頂き、より多くの先生方に知って頂きたい・お役立て頂きたいことを記事として発信できることが大変嬉しいです!

今後も当シリーズを予定しております。

ぜひ、血液内科の先生方が聞いてみたい内容など、ご意見をお待ちしております!

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文責:ヒポクラ事務局

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