『赤血球形態から推測される血液疾患』教科書には書いていない血球の目視分類解説⑤
医師インタビュー

『赤血球形態から推測される血液疾患』教科書には書いていない血球の目視分類解説⑤

今回の企画では、血液内科専門医の先生方が知っておきたい、けど教科書には載っていない…そんな血球の目視分類のポイントについて、国立病院機構九州がんセンター 臨床検査科技師長 牟田 正一先生 に解説いただき、その解説の中で気になるポイントを 大阪国際がんセンター 血液内科副部長 藤 重夫先生 にお伺いしました!

第5回目は、『赤血球形態から推測される血液疾患』についてです。

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):検査値上のポイント

今回のシリーズの最後のテーマとして、赤血球形態から推測される血液疾患について解説させて頂きます。
このような疾患のひとつとして、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)があります。
スライドにはTTPの症例の検査値データを示します。

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):検査値上のポイント

ここで注目すべきポイントは、まず一つ目は血小板数(PLT)です。
PLTが2週間前の前回計測時は12.5万/μLであったのに対し、入院時の検査所見では、2万/μL以下と急激に減少している点です。
もう一点は肝機能検査の異常です。肝臓にSOLが指摘されていますので、矛盾しないデータとなっています。
次のスライドで肝機能検査からみるフローチャートをお示しします。
このフローチャートは血液疾患か否かの鑑別を説明する際によく掲示している資料です。

血液疾患で注視すべきLDH

血液疾患で注視すべきなのはLDHです。
肝臓の細胞破壊のマーカーのひとつですが、赤血球や白血球にも含まれる酵素であり、血液疾患で高値を示すマーカーです。

LDHをALTで割って15を超える場合は血液疾患の可能性が高くなります。
本症例も計算してみると、LDH/ALT=32.7と高い数値を示しています。

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):血液形態のポイント

血小板減少における末梢血標本の観察のポイントを掲示します。
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):血液形態のポイント

このスライドの④は血小板減少に加え、破砕赤血球が出現していると血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)や播種性血管内凝固症候群(DIC)が疑われます。破砕赤血球が出現する機序は、血管中の血栓を赤血球が通過する際に壊れてしまうためです。

末梢血液像

実際の形態像を掲載していきます。まずは末梢血液像です。
末梢血液像

2枚の画像中に血小板が全く見られません。貧血が認められず血小板数が正常であれば、赤血球:血小板=20:1程度の比率でみられます。この画像からも血小板減少が読み取れます。赤血球所見としては、破砕赤血球と多染性赤血球、大小不同症、赤芽球が認められます。破砕赤血球以外の所見からは赤血球の造血亢進が考えられます。

藤先生 :破砕赤血球は技師の方の場合、どういうときに特に見ようとするのでしょうか?

牟田先生:やはり、血小板減少の時には破砕赤血球の有無の確認は必須です。逆に破砕赤血球が出現している場合は血小板数や凝固・線溶系検査を確認します。
報告は必要によっては赤血球中の破砕赤血球の割合をパーセンテージで報告します。

藤先生 :正常と破砕の区別に関して、明確に定義はあるのでしょうか?

牟田先生:現在、日本検査血液学会のワーキンググループで検討が進められています。
ポイントは「ちぎれたような部分」があるでしょうか。
破砕赤血球ができる機序としては、血栓や心臓弁などが有る場所を赤血球が通過する際に引っかかって壊れるためです。壊れた赤血球は小さくなりますが、ヘモグロビン量は比較的残っているため、色が濃くなる(高色素性)のが特徴かと思います。

骨髄像

骨髄像を提示します。
骨髄像

骨髄は正形成でM/E比は0.57と赤芽球系細胞が優勢で幼若な赤芽球が目立ちます(画像の左側と中央)。
巨核球はやや増加しておりアズール好性型が多く観察されます(画像の右側)。
この骨髄像は、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の血小板血栓による赤血球の破壊と血小板消費を補う赤血球と血小板の造血亢進の所見と考えます。

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):診断へのアクセス

ここまでTTPの検査値と形態所見のポイントを示しましたが、診断の全体像を復習的に掲示します。

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):診断へのアクセス
初めに、
①急激な血小板減少があれば、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)・播種性血管内凝固症候群(DIC)・特発性血小板減少性紫斑病(ITP)・血球貪食症候群(HPS)などを疑います。

②末梢血像では、白血球分類に異常がなく、赤血球形態に破砕赤血球、多染性赤血球、大小不同症、赤芽球出現 が認められました。この時点で血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)あるいは播種性血管内凝固症候群(DIC)に絞られます。

③両疾患の鑑別として、FDPやD-ダイマーが有用です。FDPに大きな異常がないことからDICは否定的です。

④AST、LDH、T-Bが高値、追加検査の網状赤血球が高値、ハプトグロビンが低値で溶血が疑われます。これは破砕赤血球の出現と合致します。

⑤骨髄検査で巨核球の増生と形態異常や遺伝子・染色体検査に異常がないことを確認します。

このような流れで血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診断にアクセスします。

その他の臨床的に意義の高い赤血球形態異常

その他の臨床的に意義の高い赤血球形態異常

その他の臨床的に意義の高い赤血球形態異常として球状赤血球と涙滴赤血球があります。
球状赤血球の機序は、 遺伝性球状赤血球症では赤血球膜蛋白の異常で起こり、自己免疫性溶血性貧血では補体や抗体が結合した赤血球膜をマクロファージに貪食され膜を過剰に失って球状化します。
涙滴赤血球の機序は、骨髄繊維症で起こる脾臓や肝臓による髄外造血では脱核が円滑に進まず有核赤血球が末梢血に出現します。有核赤血球が脾臓通過時に静脈洞内皮間隙に引っ掛かり脱核される時に赤血球が変形すると言われています。
破砕赤血球、球状赤血球、涙滴赤血球は赤血球形態異常の中でも疾患特異性が高くそれらの報告は重要です。

藤先生 :私の勤務施設では造血幹細胞移植を多く行うこともあり、画像上で破砕赤血球が確認された場合、移植後の微小血管障害なのかはよく議論になります。
そのため技師さんにパーセンテージを出してもらうことがありますが、牟田先生の前述の通り、破砕赤血球か否かの基準が難しいと感じます。
ちなみにですが、透析は破砕赤血球などとはあまり関係ないでしょうか?

牟田先生:透析が関するか、という話はあまり聞かないですね…。

藤先生 :急に伺って申し訳ないです。勤務先施設はがんセンターなので、あまり人工弁の方はおらず、透析の方がたまにいるので、少々お伺いさせて頂きました。

もう一点お伺いとなりますが、勤務先施設でも最近は海外出身の患者が増えてきています。
マラリアや遺伝性の疾患が日本人より多いと感じるのですがいかがですか?

牟田先生:おっしゃる通り、ヘモグロビンS症の鎌状赤血球などアフリカ系の方に見られますね。
地中海性貧血と呼ばれるサラセミアでは小型の標的赤血球が観察されます。また、年間に数件はマラリア原虫の確認の依頼があります。

Fin.

お二人の先生に今回は赤血球の形態異常を軸として、鑑別のポイントや各細胞の画像所見の具体例をお話頂きました。現場でしか知らない、強化書に中々載っていない内容をお教え頂き、より多くの先生方に知って頂きたい・お役立て頂きたいことを記事として発信できることが大変嬉しいです!

当シリーズは今回の第5回目で終了となりますが、多くの先生方にお役立て頂ければと考えております。

また、血液内科の先生方が他にも聞いてみたい内容など、ご意見をお待ちしております!

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文責:ヒポクラ事務局

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