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発作性心房細動と高血圧を有する患者の心房細動の再発に対する腎除神経とカテーテルアブレーションの併用とカテーテルアブレーションのみの併用の効果。The ERADICATE-AF Randomized Clinical Trial.
発作性心房細動と高血圧を有する患者の心房細動の再発に対する腎除神経とカテーテルアブレーションの併用とカテーテルアブレーションのみの併用の効果。The ERADICATE-AF Randomized Clinical Trial.
Effect of Renal Denervation and Catheter Ablation vs Catheter Ablation Alone on Atrial Fibrillation Recurrence Among Patients With Paroxysmal Atrial Fibrillation and Hypertension: The ERADICATE-AF Randomized Clinical Trial JAMA 2020 Jan 21;323(3):248-255. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】腎除神経は心臓の交感神経活動を低下させ、心房細動に対する抗不整脈効果をもたらす可能性がある。 【目的】肺静脈隔離術に腎除神経を追加することで、長期的な抗不整脈効果が高まるかどうかを検討する。 【デザイン、設定、参加者】Evaluate Renal Denervation in Addition to Catheter Ablation to Eliminate Atrial Fibrillation(ERADICATE-AF)試験は、ロシア連邦、ポーランド、ドイツの心房細動のカテーテルアブレーションを行う5つの紹介センターで行われた、研究者主導の多施設、単盲検、無作為化臨床試験である。2013年4月から2018年3月までに、少なくとも1種類の降圧薬を服用しているにもかかわらず高血圧で、発作性心房細動があり、アブレーションの予定がある患者302人が登録された。フォローアップは2019年3月に終了した。 【介入】患者を肺静脈隔離単独(n=148)または肺静脈隔離+腎除神経(n=154)に無作為に割り付けた。肺静脈の電位をすべて除去することをエンドポイントとした完全な肺静脈隔離と、灌流チップ付きアブレーションカテーテルを用いて、両腎動脈の遠位から近位までスパイラルパターンで個別の部位に高周波エネルギーを供給する腎除神経。 【主なアウトカムと評価】主要エンドポイントは、12ヵ月後の心房細動、心房粗動、または心房頻拍からの解放であった。 【結果】無作為化された302名の患者(年齢中央値60歳[四分位範囲55~65歳]、男性182名[60.3%])のうち、283名(93.7%)が試験を完了した。全員が指定された手術を無事に受けた。12ヵ月後の心房細動,粗動,頻脈の消失は,肺静脈隔離術のみを受けた148例中84例(56.5%)と,肺静脈隔離術と腎除神経術を受けた154例中111例(72.1%)に認められた(ハザード比,0.57;95%CI,0.38~0.85;P=0.006).事前に規定された5つの副次的エンドポイントのうち、4つが報告され、3つはグループ間で差がありました。ベースラインから12ヵ月後の平均収縮期血圧は,隔離のみの群では151 mm Hgから147 mm Hgに,腎除神経群では150 mm Hgから135 mm Hgに低下した(群間差:-13 mm Hg,95% CI,-15~-11 mm Hg,P < 0.001).手続き上の合併症は、隔離のみのグループで7人(4.7%)、腎除神経グループで7人(4.5%)に発生した。 【結論と関連性】発作性心房細動と高血圧を有する患者において、カテーテルアブレーションに腎除神経を追加した場合、カテーテルアブレーションのみの場合と比較して、12ヵ月後に心房細動が起こらない可能性が有意に増加した。本試験の結果を解釈する際には、正式なシャムコントロールの腎除神経術が行われていないことを考慮する必要がある。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01873352。 第一人者の医師による解説 交感神経活性の抑制 降圧とともに臨床的に有用と示した点に意義 藤田英雄 自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・総合医学第1講座主任教授 MMJ.June 2020;16(3) 発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションによる肺静脈隔離の有効性は確立されているが、 10~30%の再発率があり改善の余地がある。交感神経活性を抑制する腎デナベーション治療(腎交 感神経除神経術)を加えることで有効性が向上するか否かを検証するため、多施設単盲検無作為化試験 「ERADICATE-AF」が研究者主導で実施され、その 成績が本論文に報告された。 本試験では、高血圧合併発作性心房細動患者302人をカテーテルアブレーション単独群(148人)と 併用群(154人)に無作為に割り付け、12カ月後の心房細動+心房粗動+心房頻拍 の 無再発 を 主要評価項目とした。 主要エンドポイントは単独群84人 (56.5%)、併用群111人(72.1%)で得られ(ハザー ド 比[HR], 0.57;95 % 信頼区間[CI], 0.38~ 0.85;P=0.006)、併用群で有意に無再発例が多く、さらに副次評価項目の1つである治療後の平 均収縮期血圧値の低下は、単独群では151mmHg (ベースライン)から147mmHgであったのに対し、 併用群 で は150mmHgか ら135mmHgへ と より大幅な低下が示された(群間差:-13mmHg; 95% CI,-15 ~-11mmHg;P<0.001)。手技関連合併症は、単独群7人(4.7%)、併用群7人 (4.5%)ですべてがアブレーションによるものであった。 これらの結果から著者らは、単独群にシャム手術を施行していない限界を考慮しつつも高血圧合併発作性心房細動患者に対し、カテーテルアブレーションは腎デナベーションの併用によって心房性不整脈の再発を有意に抑制できたと結論づけた。 今回の結果は、腎デナベーション併用治療の有効性を示唆し、その機序として交感神経活性の抑制 が降圧とともに臨床的に有用であることを示した点に意義がある。腎デナベーション治療はかつて 薬物治療抵抗性高血圧への非薬物療法としての期待を集めたが、2014年のSIMPLICITY-HTN3試験において有効性を示すことができなかった。 しかしながら、その後カテーテル開発競争の中で改良が進み、SPYRAL HTN-OFF MED Pivotal試験(1) では薬物投与なく有意な降圧効果が確認されるなど新たな治療法として復活しつつあり、現状ではその広い適応は医療経済的に困難であるとしても、 心房細動治療の今後の方向性を示す貴重な試験結 果といえよう。 1.Böhm M et al. Lancet. 2020 May 2;395(10234):1444-1451.
化学療法誘発性心筋症患者における心臓再同期療法と左室駆出率の変化との関連性。
化学療法誘発性心筋症患者における心臓再同期療法と左室駆出率の変化との関連性。
Association of Cardiac Resynchronization Therapy With Change in Left Ventricular Ejection Fraction in Patients With Chemotherapy-Induced Cardiomyopathy JAMA 2019 ;322 (18):1799 -1805. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】化学療法誘発性心筋症の発生率は増加しており、臨床転帰不良と関連している。 【目的】化学療法誘発性心筋症患者における心臓再同期療法(CRT)と心機能改善、および臨床改善との関連性を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】Multicenter Automatic Defibrillator Implantation Trial-Chemotherapy-Induced Cardiomyopathyは、米国内の心臓腫瘍学プログラムを有する12の三次センターで2014年11月21日から2018年6月21日の間に実施した非対照・前向き・コホートスタディである。左室駆出率低下(LVEF≦35%)、New York Heart AssociationクラスII-IV心不全症状、広QRS複合体のため、化学療法による心筋症が確立した患者30名をCRT植え込み、CRT植え込み後6ヶ月間フォローアップを行った。最終フォローアップ日は2019年2月6日。 【曝露】標準治療によるCRT植え込み。 【主要アウトカムと測定】主要エンドポイントはCRT開始後のベースラインから6ヶ月後までのLVEFの変化とした。副次的評価項目は全死亡,左室収縮末期容積と拡張末期容積の変化とした。 【結果】登録された30例(平均[SD]年齢,64[11]歳,女性26例[87%],73%に乳癌歴,20%にリンパ腫または白血病歴)において,26例で一次エンドポイントのデータが,23例で二次エンドポイントのデータが利用可能であった。患者は左脚ブロックのある非虚血性心筋症で、LVEF中央値は29%、平均QRS時間は152msであった。CRTを行った患者では、6ヵ月後の平均LVEFが28%から39%に統計的に有意に改善した(差、10.6% [95% CI, 8.0%-13.3%]; P < .001)。これには,LV 収縮末期容積の 122.7 から 89.0 mL への減少(差 37.0 mL [95% CI,28.2-45.8]),LV 拡張末期容積の 171.0 から 143.2 mL への減少(差 31.9 mL [95% CI,22.1-41.6]) が伴った(いずれも P<.001 ).有害事象は、処置に関連した気胸(1例)、装置ポケットの感染(1例)、およびフォローアップ中に入院を必要とした心不全(1例)であった。 【結論と関連性】化学療法による心筋症の患者を対象としたこの予備的研究では、CRTは6ヵ月後のLVEFの改善と関連していた。この知見は、サンプルサイズが小さいこと、フォローアップ期間が短いこと、対照群を設定していないことにより制限される。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT02164721 第一人者の医師による解説 がん患者へのCRT導入 有望だが原疾患の予後も勘案する必要 諏訪 惠信(助教)/塩島 一朗(教授) 関西医科大学第二内科学講座 MMJ.April 2020;16(2) 抗がん剤の進歩によって、がん患者の長期生存が可能となった。しかし、その中にはアントラサイクリン系薬剤に代表される心毒性を有する抗がん剤によって心不全に至った化学療法関連心筋症の患者が含まれる。アントラサイクリン系薬剤は用量依存的に心毒性を発現させることが知られているが、その有効性から現在も頻用されている。抗がん剤の影響で左脚ブロックを合併した化学療法関連心筋症患者に対する治療を検討した報告は少な い。特に心臓再同期療法(CRT)を用いた多施設前向きコホート研究の報告は本論文が初めてとなる。 組み入れ基準は、2014年11月~18年6月に 米国の腫瘍循環器内科を有する12施設で化学療法を受けた18~80歳の患者で、化学療法によって CRTの適応クラス 1または2に至った患者である。 患者は、化学療法前に心機能障害がないこと、かつがん治療終了後少なくとも6カ月間に収縮機能障 害を伴う臨床的心不全の発症がないことが確認されている。CRT導入から6カ月後に心臓超音波検査が行われ、心尖部2腔像と4腔像のSimpson法 で左室容積と左室駆出率が計測された。主要評価項目は6カ月後の左室駆出率の変化、副次評価項目は 全死亡および左室容積の変化とされた。NYHA心機能分類の変化や左房サイズの変化も検討された。 登録患者は30人( 平均年齢61歳、女性87 %) であった。原疾患は乳がん73%、リンパ腫または白血病20%、肉腫7%であった。83%の患者 にアントラサイクリン系薬剤が投与された(平 均投与量307 mg/m2)。心不全重症度は、NYHA II 57%、NYHA III 43%であった。登録時の薬物 療法は、β遮断薬93%、アンジオテンシン 変換酵素(ACE)阻害薬77%、ループ 利尿薬93%であった。CRT導入から6カ月後に左室駆出率の平均は28から39%に有意に改善した。左室収縮末期容積(122.7→89.0mL)および拡張末期容積 (171.0→143.2mL)も有意に改善した。死亡例はなく、6カ月後に左房容積は60.3から47.9ml に改善し、NYHA II 患者の19%、III患者の69%で改善が得られた。小規模な研究であるが、化学療法関連心筋症に対するCRTの有望性を示しており、さらなる研究が期待される。 日本循環器学会の「不整脈非薬物治療ガイドライ ン」(1)によると、1年以上の余命が期待できない患者へのCRTは推奨クラス 3の適応となっており、化学療法関連心筋症患者に導入する場合は心不全のみならず原疾患の予後も勘案して治療を提案する必要がある。 1. 日本循環器学会 / 日本不整脈心電学会合同ガイドライン:不整脈非薬物治 療ガイドライン (2018 年改訂版 ) URL:https://bit.ly/3bXESEE
慢性腎臓病患者におけるBaclofenと脳症の関連性。
慢性腎臓病患者におけるBaclofenと脳症の関連性。
Association of Baclofen With Encephalopathy in Patients With Chronic Kidney Disease JAMA 2019 ;322 (20):1987 -1995. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】少なくとも30の症例報告が、慢性腎臓病(CKD)患者における筋弛緩薬バクロフェンと脳症の関連性を示している。 【目的】CKD患者で、バクロフェンを1日20mg以上と1日20mg未満で新規処方した場合の30日間の脳症リスクを比較することである。副次的目的は,バクロフェン使用者と非使用者の脳症リスクを比較することであった。 デザイン・設定・参加者】カナダ・オンタリオ州(2007~2018年)における,リンクした医療データを用いたレトロスペクティブな人口ベースコホート研究であった。参加者は,CKD(推定糸球体濾過量[eGFR]<60 mL/min/1.73 m2で透析を受けていないと定義)を有する高齢者(66歳以上)15 942名であった。一次コホートは、バクロフェンを新たに処方された患者に限定し、二次コホートの参加者は新規使用者と非使用者とした。 【 暴露】経口バクロフェン20mg/日以上 vs 20mg/日未満の処方。 【主要アウトカムと測定】バクロフェン開始後30日以内にせん妄、意識障害、一過性意識変化、一過性脳虚血発作、特定できない認知症と主病名を定義した脳症の入退院。ベースラインの健康状態の指標で比較群のバランスをとるために、傾向性スコアに治療の逆確率加重を用いた。加重リスク比(RR)は修正ポアソン回帰で、加重リスク差(RD)は二項回帰で求めた。事前に規定したサブグループ解析をeGFRカテゴリー別に実施した。 【結果】主要コホートはCKD患者15 942例(女性9699例[61%],年齢中央値77歳[四分位範囲71~82],バクロフェン開始量20 mg/日以上9707例[61%],<20 mg/日6235例[39%])より構成された。主要転帰である脳症による入院は,バクロフェンを 1 日 20 mg 以上で開始した患者 108/9707 例(1.11%),バクロフェンを 1 日 20 mg 未満で開始した患者 26/6235 例(0.42%)で発生した;重み付け RR,3.54(95% CI,2.24~5.59),重み付け RD,0.80%(95% CI,0.55%~1.04%).サブグループ解析では,絶対リスクはeGFRが低いほど徐々に増加した(重み付けRD eGFR 45~59,0.42%[95% CI,0.19%-0.64%];eGFR 30~44,1.23%[95% CI,0.62%-1.84%];eGFR <30,2.90%[95% CI,1.30%-4.49%],P for interaction,<.001]).非使用者284 263人との二次比較では、バクロフェン使用者の両群で脳症のリスクが高かった(<20 mg/d加重RR, 5.90 [95% CI, 3.59 to 9.70] および≥20 mg/d加重RR, 19.8 [95% CI, 14.0 to 28.0] )。 【結論と関連性】バクロフェンを新規処方されたCKD高齢者において、30日の脳症発生率は低用量と比べ高用量処方者において増加した。検証された場合、これらのリスクはバクロフェン使用の利益と釣り合うものでなければならない。 第一人者の医師による解説 腎排泄型のバクロフェン 脳症発症機序は不明だが臨床上重要な問題を提起 中嶋 秀人 日本大学医学部内科学系神経内科学分野教授 MMJ.April 2020;16(2) バクロフェンは中枢作用型γ -アミノ酪酸受容体 アゴニストであり、筋弛緩薬として脳血管障害、変性疾患、脊椎疾患などによる痙縮の治療に用いられるほか、三叉神経痛や胃食道逆流症にも使用されることがある。またアルコール依存症においては腹側線条体で上昇しているドパミンをバクロフェンが抑制的に調節すると考えられ、その治療効果を示唆する報告もある。 他の多くの筋弛緩薬が肝代謝型であるのに対して、バクロフェンは腎排泄 型のため腎機能低下に伴い排泄半減期が延長する。これまでバクロフェンの使用により脳症を発症した慢性腎臓病(CKD)症例が報告されていることより、腎機能の低下する高齢者においてバクロフェン関連脳症のリスクが上昇することが危惧される。 本論文は、カナダ・オンタリオ州の患者情報を登録したデータベースを利用し、新規にバクロフェンを 処方した66歳以上 のCKD(推算糸球体濾過 量[eGFR] 60 mL/分 /1.73 m2未満であるが透析を受けていないものと定義)患者15,942人を対象に、バクロフェン投与量20mg/日以上群と 20mg/日未満群に分け、バクロフェン投与開始から30日以内の脳症入院リスクを比較した後ろ向きコホート研究の報告である。なお、脳症は、せん妄、見当識障害、一過性の意識の変化、一過性脳虚 血発作、分類不能な認知症の診断として規定された。 その結果、主要評価項目であるバクロフェン開始後 30日以内の脳症による入院は20mg/日以上群で 1.11%、20mg/日未満群では0.42%に発生し、高用量群で脳症入院リスクが上昇した(重み付けリスク比[RR], 3.54[95% CI, 2.24~5.59];重み付けリスク差[RD], 0.80%[0.55~1.04%])。 また、バクロフェン開始から入院までの期間の中央値 は、20mg/日以上群では3日間( 四分位範囲 [IQR], 2~5)、20mg/日未満群 では8日間(3 ~12)であった。さらに、バクロフェン非使用者 284,263人の脳症発症率は0.06%であり、バクロフェン 20mg/日未満群、20mg/日以上群とも脳症入院リスクが高かった(重み付けRRはそれぞれ5.90[95 % CI, 3.59~9.70]、19.8[14.0 ~28.0])。 バクロフェンには眠気、めまい、ふらつきなどの副作用があるが、過剰な血中バクロフェンが脳症を起こす機序については不明な点も多い。しかし、新規にバクロフェンが開始された高齢 CKD患者において、低用量群に比べて高用量群では、より高頻度かつより早期に脳症が発症することから、臨床上重要な問題を提起しており、興味深い研究結果と考えられる。
敗血症および重症急性呼吸不全患者におけるビタミンC輸液の臓器不全および炎症・血管傷害のバイオマーカーに対する効果。CITRIS-ALI Randomized Clinical Trial(CITRIS-ALI無作為化臨床試験).
敗血症および重症急性呼吸不全患者におけるビタミンC輸液の臓器不全および炎症・血管傷害のバイオマーカーに対する効果。CITRIS-ALI Randomized Clinical Trial(CITRIS-ALI無作為化臨床試験).
Effect of Vitamin C Infusion on Organ Failure and Biomarkers of Inflammation and Vascular Injury in Patients With Sepsis and Severe Acute Respiratory Failure: The CITRIS-ALI Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Oct 1;322(13):1261-1270. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】ビタミンCの静脈内投与は、敗血症や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に伴う炎症と血管障害を抑制することが実験的に示唆されている。 【目的】敗血症およびARDS患者におけるビタミンC静脈内投与の臓器不全スコアおよび炎症と血管障害の生体マーカーに対する効果を明らかにすることである。 【デザイン・設定・参加者】CITRIS-ALI試験は、米国内の医療集中治療室7施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照多施設試験で、24時間以内に発症した敗血症およびARDSの患者(N=167)が登録された。試験実施期間は2014年9月から2017年11月、最終フォローアップは2018年1月。 【介入】患者をビタミンCの点滴静注(ブドウ糖5%水煮、N=84)またはプラセボ(ブドウ糖5%水煮のみ、N=83)に6時間おきに96時間無作為に割り付けました。 【主要評価項目】ベースラインから96時間後までのmodified Sequential Organ Failure Assessment score(範囲:0~20、スコアが高いほど機能障害が強い)により評価した臓器障害の変化、および0、48、96、168時間で測定した炎症(CRP値)と血管損傷(トロンボモデュリン値)の血漿バイオマーカーであった。 【結果】無作為化された167例(平均[SD]年齢:54.8歳[16.7],男性90例[54%])中,103例(62%)が60日目まで試験を完了した。主要評価項目であるベースラインから96時間後までの平均modified Sequential Organ Failure Assessment scoreの変化(ビタミンC群9.8から6.8[3点]、プラセボ群10.3から6.8[3.5点];差、-0.10;95%CI、-1.23から1.03;P = .86 )またはCRP値(54.1対46.1μg/ml;差、7.94。 【結論と関連性】敗血症とARDSの患者を対象としたこの予備的研究では、プラセボと比較したビタミンCの96時間点滴は、臓器機能障害のスコアまたは炎症と血管損傷のマーカーに有意な改善をもたらさなかった。敗血症とARDSの他の転帰に対するビタミンCの潜在的な役割を評価するために、さらなる研究が必要である。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier.NCT02106975:NCT02106975。 第一人者の医師による解説 全死亡率には有意な改善効果 今後の研究継続を期待 射場 敏明 順天堂大学大学院医学研究科救急・災害医学教授 MMJ.April 2020;16(2) セプシスでは以前からビタミン C欠乏がみられることが知られており、またビタミン Cは抗炎 症作用や血管内皮保護作用を有することが報告されている(1)。そこで著者らは、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)合併セプシス患者に対するビタミン C静 脈投与の有用性をCITRIS-ALI試験で検討し、その結果を報告した。同試験は米国の7つの集中治療室で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。167人のARDS合併セプシス患者が登録され、介入群と対照群でそれぞれ6時間ごとに96 時間ビタミン C(50 mg/kg;n=84)もしくはプラセボ(n= 83)が静脈内投与された。主要評価項目として、治療開始から96時間までのSequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコアの改善、168時間までの炎症マーカー(CRP)の変動、 および血管障害マーカー(可溶性トロンボモジュリン)の変化が設定された。 その結果、SOFAスコアの改善に関して両群間に有意差はみられなかった(ビタミンC群:9.8→6.8; プラセボ群:10.3→6.8;変化の差 , -0.10)。 さらにCRP値(54.1 対 46.1μ g/mL;差 , 7.94 μ g/mL)、可溶性トロンボモジュリン値(14.5 対 13.8 ng/mL;差 , 0.69 ng/mL)についても有意差はなかった。したがって、ARDS合併セプシス患者においてビタミン Cの96時間注入による臓器障害、炎症反応、血管障害の改善効果は確認できなかった、と結論された。しかし、副次評価項目の全死亡率について統計学的に有意な改善効果が認められていることから(ハザード比 , 0.55;P= 0.01)、セプシスに対するビタミン Cの効果についてはさらなる検討が必要と考えられる。 CITRIS-ALI試験のベースは単施設後ろ向き研究におけるビタミン Cの劇的な予後改善効果である (オッズ比 , 0.13)(2)。この先行研究では院内死亡の改善以外にも昇圧薬使用期間の短縮やSOFAの改善が示されており、期待値が高まっていた。 本試験でやや奇異に感じられたのは、主要評価項目をセプシスの研究で伝統的に設定されてきた全死亡率の改善ではなく、SOFAスコアの改善、 CRPや可溶性トロンボモジュリンの低下としたことである。これは全死亡率の改善に関わる要因は多岐にわたるため、その達成が困難であると予想されることから、より直接的な指標を選択した結果であろうと考えられる。しかし結果としてそのことが裏目に出てしまったことについては、ただただ臨床試験デザインの難しさを感じる。今回の研究では目標は達成されなかったが、ビタミン C は安価で重篤な副作用もないと予想されることから、今後も研究が継続されることが期待される。 1. Wilson JXe et al. Subcell Biochem. 2012;56:67-83. 2. Marik PE et al. Chest. 2017;151(6):1229-1238. ビタミンC静注は急性呼吸窮迫症候群  合併セプシスの臓器障害を改善せず
急性骨髄性白血病の小児および若年成人患者における侵襲性真菌症に対するカスポファンギンとフルコナゾールの予防投与効果。無作為化臨床試験。
急性骨髄性白血病の小児および若年成人患者における侵襲性真菌症に対するカスポファンギンとフルコナゾールの予防投与効果。無作為化臨床試験。
Effect of Caspofungin vs Fluconazole Prophylaxis on Invasive Fungal Disease Among Children and Young Adults With Acute Myeloid Leukemia: A Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Nov 5;322(17):1673-1681. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】急性骨髄性白血病の小児、青年、若年成人は、酵母とカビの両方による生命を脅かす侵襲性真菌症のリスクが高い。 【目的】急性骨髄性白血病化学療法後の好中球減少時の侵襲性真菌症および侵襲性アスペルギルス症に対してカスフォンギンとフルコナゾールの予防の有効性を比較することである。 【デザイン、設定および参加者】この多施設共同無作為化オープンラベル臨床試験は、米国およびカナダの115施設で治療を受けている新規診断のde novo、再発、二次性急性骨髄性白血病の3カ月から30歳の患者を登録した(2011年4月から2016年11月、最終フォローアップ2018年6月30日) 【介入】参加者を最初の化学療法サイクルでカスフォンギンを用いた予防(n=257)またはフルコナゾール(n=260)にランダムに割り付けた。 【主要アウトカムおよび測定法】主要アウトカムは、盲検中央判定による侵襲性真菌症の証明または可能性の判定であった。副次的アウトカムは、侵襲性アスペルギルス症、経験的抗真菌療法、および全生存とした。 【結果】2回目の中間有効性解析と394人の患者に基づく予定外の無益性解析で無益性が示唆されたため、試験は登録が締め切られた。無作為化された517名(年齢中央値9歳[範囲:0~26歳],女性44%)のうち,508名(98%)が試験を完遂した。23 件の証明または可能性のある侵襲性真菌症イベント(カスポファンギン 6 件対フルコナゾール 17 件)には、カビ 14 件、酵母 7 件、さらに分類されない真菌 2 件が含まれていた。5ヵ月間の侵襲性真菌症の累積発生率は,カスポファンギン群3.1%(95% CI, 1.3%-7.0%) vs フルコナゾール群7.2%(95% CI, 4.4%-11.8%)(overall P = .03)であった(logank検定).また、証明または可能性のある侵襲性アスペルギルス症の累積発生率は、カスポファンギン群で0.5%(95%CI、0.1%-3.5%)、フルコナゾール群で3.1%(95%CI、1.4%-6.9%)だった(ログランクテストによる全P = 0.046)。経験的抗真菌療法(カスポファンギン 71.9% vs フルコナゾール 69.5%、全体 P = 0.78、log-rank 検定)および 2 年全生存率(カスポファンギン 68.8% vs フルコナゾール 70.8%、全体 P = 0.66 log-rank 検定)は統計的に有意差を認めないこととなりました。最も一般的な毒性は、低カリウム血症(カスポファンギン22 vs フルコナゾール13)、呼吸不全(カスポファンギン6 vs フルコナゾール9)、アラニントランスアミナーゼ上昇(カスポファンギン4 vs フルコナゾール8)だった。 【結論と関連性】急性骨髄性白血病の小児、青年、若年成人において、フルコナゾールと比較してカスポファンギンで予防を行うと侵入真菌症発生率は著しく低下する結果となった。本結果は、カスポファンギンが侵襲性真菌症に対する予防薬として考慮される可能性を示唆しているが、無益性を示唆すると思われる予定外の中間解析による早期終了により、研究の解釈には限界がある。 【試験登録】 ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01307579. 第一人者の医師による解説 至適予防法検証には 抗糸状菌活性のあるアゾール系とキャンディン系の比較必要 宮入 烈 国立成育医療研究センター感染症科診療部長 MMJ.April 2020;16(2) 深在性真菌症は小児の急性骨髄性白血病(AML) 患者の予後を左右する重大な合併症である。成人AMLでは、ポサコナゾールの予防的投与が欧米のガイドラインで推奨されている。一方、小児 AML ではいまだに抗糸状菌活性の乏しいフルコナゾールが推奨されている。本論文は、糸状菌および酵母に活性が期待できるカスポファンギンの予防効果をフルコナゾールと比較するため、米国を中心に実施された多施設共同ランダム化比較試験の報告 である。最終的に508人が主解析の対象となり、カスポファンギン群における深在性真菌症の5カ月累積発生率は3.1%でフルコナゾール群の7.2% と有意差が示され、アスペルギルス感染症確定例の発生も有意に少なかった。より有効な選択肢のエビデンス構築にかかわる重要な知見と言えるが、考察すべきポイントが2点挙げられる。 従来、フルコナゾールはカンジダなど酵母による感染症の治療や予防には有効であるが、予後を左右するアスペルギルス症など糸状菌には無効であり問題視されていた。抗糸状菌活性があるカスポファンギンがより有効であるという今回の結果は想定内であったが、真菌症予防としてこの2剤の比較が最適であったかというと疑念が残る。内服可能で抗アスペルギルス活性のあるボリコナゾールなどのアゾール系薬剤との比較が今後の課題と思われる。 著者らは、カスポファンギン投与下の深在性真菌症発生率は成人におけるポサコナゾール 経口投与と同等であり、ポサコナゾールによる有害事象発生率の高さに言及しているが、カスポファンギンの点滴静注投与による不利益については触れていない。 本試験は進行中に独立データモニタリング委員会の指摘により臨時の解析が行われた。そこで、無益性の判定により早期中止となったものの、最終解析で有意差が認められたことは特筆すべきである。大規模なランダム化比較試験は、被験者への負担を伴い、多大な労力と資金がつぎ込まれることから、早期中止により効率化が期待される。 その一方で、今回のように有益な検討が早期に中止される可能性もあることは従来から指摘されている。今回、中間解析と最終解析で結果が一致しなかった理由として、中間解析では侵襲性真菌感染症のない患者の解析が早い段階で行われたため、発生率が低くみつもられたこと、中間解析が行われている間も患者登録が続けられ最終解析に114人が追加されたことが挙げられている。今後の中間解析の在り方について示唆を含む検討といえる。
重症小児患者における多臓器不全症候群に対する新鮮赤血球輸血と標準発行赤血球輸血の効果。無作為化臨床試験
重症小児患者における多臓器不全症候群に対する新鮮赤血球輸血と標準発行赤血球輸血の効果。無作為化臨床試験
Effect of Fresh vs Standard-issue Red Blood Cell Transfusions on Multiple Organ Dysfunction Syndrome in Critically Ill Pediatric Patients: A Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Dec 10;322(22):2179-2190 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】重症小児患者に対する赤血球保存年齢の臨床的影響は、大規模な無作為化臨床試験で検討されていない。 【目的】重症小児において、新鮮赤血球(7日以下保存)の輸血が、標準発行赤血球の使用と比較して新規または進行性の多臓器不全症候群を減らすかどうかを判断することである。 【デザイン・設定・参加者】The Age of Transfused Blood in Critically-Ill Children試験は、2014年2月から2018年11月にかけて50の三次医療施設で行われた国際多施設共同盲検化無作為化臨床試験であった。集中治療室入室後7日以内に最初の赤血球輸血が行われた、生後3日~16歳の小児患者を対象とした。合計15568人の患者をスクリーニングし、13308人を除外した。 【介入】患者を新鮮赤血球または標準発行赤血球のいずれかを投与するよう無作為に割り付けた。合計1538人の患者が無作為化され、新鮮赤血球群768人、標準発行群770人となった。 法]主要アウトカム指標は、新規または進行性の多臓器不全症候群で、28日間または退院または死亡まで測定された。 【結果】無作為化された1538名のうち、1461名(95%)が一次解析に含まれ(年齢中央値1.8歳、女子47.3%)、そのうち新鮮赤血球群に728名、標準発行群に733名が無作為に割り付けられた。保存期間の中央値は,新鮮群 5 日(四分位範囲 [IQR], 4~6 日)に対して標準発行群 18 日(IQR, 12~25 日)であった(P < 0.001).新規または進行性の多臓器不全症候群については,新鮮赤血球群(728 例中 147 例[20.2%])と標準発行赤血球群(732 例中 133 例[18.2%])に有意差はなく,未調整絶対リスク差は 2.0%(95% CI,-2.0%~6.1%;P = .33)であった.敗血症の有病率は,新鮮群では 25.8%(619 例中 160 例),標準発行群では 25.3%(608 例中 154 例)であった.急性呼吸窮迫症候群の有病率は,新鮮群では 6.6%(619 例中 41 例),標準発行群では 4.8%(608 例中 29 例)であった.集中治療室での死亡率は新鮮群4.5%(728例中33例)に対して標準発行群3.5%(732例中26例)だった(P = .34)。 【結論と関連性】重症小児患者において、新鮮赤血球の使用は標準発行赤血球と比較して新規または進行性の多臓器不全症候群(死亡率を含む)の発生率を低減しなかった。 【試験登録】 ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01977547。 第一人者の医師による解説 血液製剤の保存期間 どの年齢でも予後悪化の因子でない可能性 寺田 類/岡崎 仁(教授) 東京大学医学部附属病院輸血部 MMJ.April 2020;16(2) 赤血球製剤の保存期間が長くなると、製剤中の赤血球のviabilityは低下し、赤血球の重要な役割である酸素運搬能が低下してくる。保存期間の長い赤血球製剤を重症患者に輸血すると臓器不全の発生率や死亡率が上昇するのではないかと危惧され、今までに多くの観察研究や無作為化試験が行われてきた。しかし、赤血球の保存期間と死亡率や多臓器 機能障害スコアの変化に有意な関係性は見いだされていない。 しかし、こうした研究のほとんどは成人を対象としたもので、新生児や心臓外科手術患者など重症小児患者では保存期間による違いが予後に影響するかどうかは不明である。また、重症小児患者に対してどの程度の保存期間の赤血球製剤を使用するかは、病院や血液製剤センターの方針などにより一律ではないのが現状である(1)。 そこで本論文で報告された多施設共同無作為化試験では、重症小児患者において、血液製剤の保存期間が死亡率や患者予後と強く相関する多臓器不全の新規発症・増悪に与える影響を調べている。対象は、米国、カナダ、フランスなど50施設の小児集中治療室(PICU)で輸血を受けた生後3日から16歳までの患者で、保存期間7日以内(中央値 , 5日)の赤血球を輸血した群728人と、標準的な 保存期間(中央値 , 18日)の赤血球を輸血した群 733人の転帰が比較された。 その結果、主要評価項目である多臓器不全の増悪に加え、副次評価項目の28、90日死亡率、敗血症や急性呼吸促迫症候群(ARDS)、院内感染の発生率に関して保存期間の違いによる有意差は認められなかった。また、年齢、施設、国、性別、合併症、疾患の重症度で調整した解析でも結果は変わらなかった。 日本における赤血球製剤の使用期限は採血後21 日で、世界的な使用期限42日の半分であり、元来保存期間の短い製剤が供給されている。しかし、献血者の減少や少子高齢化による血液製剤の不足が懸念されている昨今においては、いつでも重症小児患者に優先的に保存期間の短い新鮮な赤血球製剤を供給できるかは必ずしも定かではない。 今回の結果が日本人にも同様に当てはめられるのか、また死亡などの重要な因子以外に与える影響についての検討も今後必要ではあるが、血液製剤を運用する病院や血液センター、また治療を受ける側としても意味のある1つの結果と言えるだろう。 どの年齢においても、現状での保存期間による製剤の変化は臨床上、患者の予後に影響を与えるまでの変化ではないのかもしれない。 1. Spinella PC et al. Transfusion. 2010;50(11):2328-2335.
片頭痛の急性期治療における痛みと最も煩わしい関連症状に対するウブロゲパントとプラセボの効果。ACHIEVE II Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
片頭痛の急性期治療における痛みと最も煩わしい関連症状に対するウブロゲパントとプラセボの効果。ACHIEVE II Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
Effect of Ubrogepant vs Placebo on Pain and the Most Bothersome Associated Symptom in the Acute Treatment of Migraine: The ACHIEVE II Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Nov 19;322(19):1887-1898. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】Ubrogepantは、片頭痛の急性期治療薬として検討されている経口カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体拮抗薬である。 【目的】片頭痛発作1回の急性期治療におけるubrogepantの有効性と忍容性をプラセボと比較して評価することである。 【デザイン・設定・参加者】米国で実施した第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照単発臨床試験(ACHIEVE II)(プライマリーケアおよび研究クリニック99施設、2016年8月26日~2018年2月26日)。参加者は、月に2~8回の片頭痛発作を経験している前兆のある片頭痛または前兆のない片頭痛の成人である。 【介入】中等度または重度の疼痛強度の片頭痛発作に対してウブロゲパント50mg(n=562)、ウブロゲパント25mg(n=561)またはプラセボ(n=563)である。【主要評価項目及び測定 【方法】有効性の主要評価項目は、服用後2時間における疼痛緩和及び参加者が指定した最も煩わしい片頭痛関連症状(羞明、幻覚、吐き気のうち)の消失とした。 【結果】無作為化参加者1686名のうち1465名が試験治療を受け(安全集団、平均年齢41.5歳、女性90%)、1465名のうち1355名が有効性として評価可能であった(92.5%)。2時間後の痛みの消失は、ウブロゲパント50mg群では464人中101人(21.8%)、ウブロゲパント25mg群では435人中90人(20.7%)、プラセボ群では456人中65人(14.3%)に認められました(50mg vs プラセボの絶対差、7.5%、95%CI, 2.6%-12.5%; P = .01; 25mg vs プラセボ, 6.4%; 95%CI、 1.5%-11.5%; P = .03)。2時間後に最も煩わしい関連症状がなかったと報告されたのは、ウブロゲパント50mg群463人中180人(38.9%)、ウブロゲパント25mg群434人中148人(34.1%)、そしてプラセボ群456人中125人(27.4%)であった。4%)であった(50mg対プラセボの絶対差、11.5%;95%CI、5.4-17.5%;P = .01;25mg対プラセボ、6.7%;95%CI、0.6-12.7%;P = .07)。いずれかの投与後48時間以内に最も多く見られた有害事象は、吐き気(50 mg、488人中10人[2.0%];25 mg、478人中12人[2.5%];およびプラセボ、499人中10人[2.0%])およびめまい(50 mg、488人中7人[1.4%];25 mg、478人中10人[2.1%];プラセボ、499人中8人[1.6%])であった。 【結論と妥当性】成人の片頭痛患者において、ウブロゲパントの急性期治療では、プラセボと比較して、50mgと25mgの用量で2時間後の痛みの解放率が有意に高く、50mgの用量でのみ2時間後の最も煩わしい片頭痛関連症状の欠如がみられた。ウブロゲパントの他の片頭痛急性期治療に対する有効性を評価し、非選択的患者集団におけるウブロゲパントの長期安全性を評価するために、さらなる研究が必要です。 【試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT02867709。 第一人者の医師による解説 トリプタン無効例や禁忌例の第1選択候補 反復投与での安全性検証が必要 今井 昇 静岡赤十字病院脳神経内科部長 MMJ.June 2020;16(3) 片頭痛は急性期に頭痛だけではなく随伴症状により日常生活が著しく障害される神経疾患である。 片頭痛の急性期治療にトリプタン系薬剤や非ステ ロイド系抗炎症薬(NSAID)が使用されているが、効果が不十分である、あるいは副作用や禁忌項目のために使用できない患者は多い。 多くの研究によりカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は片頭痛の病態に重要な役割を演じていることが示され、CGRPを標的とした治療薬が開発されている。すでに抗 CGRPモノクロー ナル抗体は2019年に欧米で片頭痛予防薬として上市されている。ユブロゲパントは小分子の経口 CGRP受容体拮抗薬で、片頭痛急性期治療薬として開発された。多施設ランダム化二重盲検プラセボ 対照第 IIb相試験において、ユブロゲパントの有効性が5用量(1、10、25、50、100mg)で検討され、 25、50、100mgはプラセボに比べ服薬2時間後 の頭痛消失率が有意に高かった。 本論文は、ユブロゲパント 25、50mgの有効性 と安全性を評価するために、米国99施設で実施された多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照第 III 相(ACHIEVE II)試験の報告である。18 ~ 65歳(平 均41.5歳)の前兆のない片頭痛または前兆のある 片頭痛の病歴を1年以上有し、発作に中等度以上の光過敏、音過敏、悪心のいずれかの随伴症状が認められる1,686人(女性90%)を対象に、中等度・ 重度の発作に対してユブロゲパント 25、50mg、 またはプラセボが投与された。主要評価項目は投与2時間後の頭痛消失と最も負担となる随伴症状(最 大負担随伴症状)の消失。最大負担随伴症状の内訳 は光過敏57%、音過敏26%、悪心17%。 解析の 結果、2時間後 の 頭痛消失率 は50mg群21.8%、 25mg群20.7%、プラセボ群14.3%で、50mg群、 25mg群ともにプラセボ群と比較し有意な頭痛改 善効果が示された(それぞれP=0.01、P=0.03)。 最大負担随伴症状 の 消失率 は50mg群38.9 %、 25mg群34.1%、プラセボ群27.4%で、50mg 群のみプラセボ群に対し有意な効果が認められた(P =0.01)。投与48時間以内の重篤な有害事象はなく、主な事象は悪心、めまいで各群に有意差はなかった。 本試験におけるユブロゲパント 50mgの有効性と安全性は、トリプタン系薬剤で報告されているものとおおむね同程度であることが示唆される。現在他の経口 CGRP受容体拮抗薬の開発も進んでいる。経口 CGRP受容体拮抗薬はトリプタン系薬 剤やNSAIDでみられる心血管・消化器への影響が少ないと考えられており、新しい片頭痛急性期治 療薬として期待される。ただ、以前開発された経口 CGRP受容体拮抗薬は肝機能障害のため開発中止に至った経緯を考慮すると、今後反復投与での安全性の確認が必要と思われる。
男性への葉酸と亜鉛の補給が不妊治療を受けているカップルの精液の質と生児に及ぼす影響。A Randomized Clinical Trial.
男性への葉酸と亜鉛の補給が不妊治療を受けているカップルの精液の質と生児に及ぼす影響。A Randomized Clinical Trial.
Effect of Folic Acid and Zinc Supplementation in Men on Semen Quality and Live Birth Among Couples Undergoing Infertility Treatment: A Randomized Clinical Trial JAMA 2020 Jan 7;323(1):35-48. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】男性不妊治療のために販売されている栄養補助食品は、精液の質を改善するという限られた先行エビデンスに基づいて、葉酸と亜鉛を含むのが一般的である。 【目的】毎日の葉酸と亜鉛の補給が、精液の質と出生に及ぼす影響を明らかにする。不妊治療を計画しているカップル(n=2370,男性は18歳以上,女性は18~45歳)を,2013年6月~2017年12月に米国の生殖内分泌学・不妊治療研究センター4施設に登録した。精液採取のための最後の6カ月間の研究訪問は2018年8月中に行われ、ライブバースおよび妊娠情報のチャート抽出は2019年4月中に完了した。 【介入】男性は、研究センターと計画している不妊治療(体外受精、研究サイトでのその他の治療、外部クリニックでのその他の治療)によってブロック無作為化され、葉酸5mgおよび元素亜鉛30mg(n=1185)またはプラセボ(n=1185)のいずれかを6カ月間毎日投与された。 【結果】無作為化された2370人の男性(平均年齢33歳)のうち、1773人(75%)が6カ月後の最終診察に参加した。すべてのカップルの出生成績が得られ、1629人(69%)の男性が無作為化後6カ月の時点で分析用の精液を入手していた。生児出生数は治療群間で有意な差はなかった(葉酸・亜鉛群404[34%],プラセボ群416[35%],リスク差-0.9%[95%CI,-4.7%~2.8%])。無作為化後6カ月の時点で,ほとんどの精液品質パラメータ(精子濃度,運動性,形態,体積,総運動精子数)は治療群間で有意な差はなかった。葉酸と亜鉛の補給により,統計的に有意なDNA断片化の増加が認められた(DNA断片化の割合の平均は,葉酸と亜鉛群で29.7%,プラセボ群で27.2%,平均差は2.4%[95%CI,0.5~4.4%])。消化器症状は、葉酸および亜鉛の補給により、プラセボと比較してより多く見られた(腹部の不快感または痛み:それぞれ66[6%]対40[3%]、吐き気:50[4%]対24[2%]。50[4%]対24[2%]、および嘔吐。 【結論と関連性】不妊治療を受けようとしている一般的なカップルにおいて、男性パートナーが葉酸と亜鉛のサプリメントを使用しても、プラセボと比較して、精液の質やカップルの生児率を有意に改善することはできませんでした。これらの知見は、不妊治療における男性パートナーによる葉酸と亜鉛の補給の使用を支持するものではありません。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01857310。 第一人者の医師による解説 結果の解釈は慎重に 適応を絞れば効果がある可能性も 岩月 正一郎(助教)/安井 孝周(教授) 名古屋市立大学大学院医学研究科腎・泌尿器科学分野 MMJ.June 2020;16(3) 近年、不妊症に対するサプリメントへの関心が高まっており、男性不妊を対象としたサプリメントの多くは葉酸と亜鉛が含まれている。最近のメタアナリシスにおいて、亜鉛と葉酸は男性不妊症患者の精子濃度や精子正常形態率を改善することが示された(1)。しかしこの報告で参照された論文は、結果のばらつきが大きく、大規模な研究が望まれてきた。 本論文では、米国内の不妊治療中カップル 2,370 組を対象とし、男性に1日に葉酸 5 mgと亜鉛 30 mgもしくはプラセボを6カ月間服用する群に無作為に割り付け、6カ月後の精液所見の変化およびその間の不妊治療の成績を比較した。 その結果、精液検査所見に変化はないばかりか、葉酸と亜鉛を投与すると、精子のDNA断片化率がプラセボ群 の27.2%に対して29.7%に上昇していた(精子 DNA断片化は精子への障害を表す指標で、30%以 下が正常範囲内である)。さらに、出産率にも変化はなく、むしろ葉酸と亜鉛を投与すると、プラセボ群に比べ、早産率が1.49倍に上昇していたという。 副作用についても、葉酸・亜鉛群で主に悪心・嘔吐 といった消化器症状が増加していた。 しかし本論文にはいくつかの制限がある。特に今回の知見が男性不妊症患者一般に当てはまるか どうかは慎重に吟味する必要があり、その理由として大きな問題点が3つ挙げられる。1つ目は対象の偏りである。確かに本研究は多数の男性を対象としたランダム化比較試験である。しかし参加した夫婦には男性不妊、女性不妊が混在しており、対象集団の8割近くの男性の精液検査所見は正常であった。2つ目は葉酸・亜鉛群でDNA断片化率と早期産の割合が有意に上昇したとあるが、プラセボ 群との差はわずかで、いずれも正常範囲内であることから臨床的意義は不明である。3つ目は、対象男性の投薬開始前(ベースライン)の葉酸と亜鉛の 血中濃度に関する情報がないことである。 2019 年の1年間に筆者らの施設を受診した男性不妊症 患者114人の血中亜鉛濃度を測定したところ、潜在性亜鉛欠乏(60μg/dL以上80μg/dL未満)は 36人(31.6%)、亜鉛欠乏(60μg/dL未満)は4 人(3.5%)であり、予想していた以上に亜鉛欠乏の患者の存在が明らかになった。亜鉛に限って言えば、対象を限定した亜鉛補充の有効性はさらに検証されるべきで、葉酸についても同様のことが予想される。 本研究は、エビデンスの乏しい不妊症に対する補助療法についての大規模なランダム比較試験として意義のある報告である。しかし、その結果の解釈は慎重に行うべきであると考えられる。 1.Irani M et al. Urol J. 2017;14(5):4069-4078.
2017年の集中治療室患者における感染症の有病率および転帰。
2017年の集中治療室患者における感染症の有病率および転帰。
Prevalence and Outcomes of Infection Among Patients in Intensive Care Units in 2017 JAMA 2020 Apr 21;323(15):1478-1487. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】集中治療室(ICU)の患者では、感染が頻繁に発生している。)感染の種類、原因病原体、転帰に関する最新の情報は、予防、診断、治療、資源配分の政策立案に役立ち、介入研究のデザインに役立つ可能性がある。 【目的】世界のICUにおける感染の流行と転帰、利用可能な資源に関する情報を提供する。 【デザイン、設定、参加者】88か国1150施設での縦断追跡調査付き24時間点有病率調査。2017年9月13日08:00から始まる24時間の間に参加ICUで治療を受けたすべての成人患者(18歳以上)を対象とした。最終フォローアップ日は2017年11月13日。 【曝露】感染症診断および抗生物質の受領。 【主要アウトカムおよび測定】感染症と抗生物質曝露の有病率(横断的デザイン)および全原因院内死亡(経時的デザイン)。 【結果】対象患者15202例(平均年齢61.1歳[SD、17.3歳]、男性9181例[60.4%])において、感染症データが得られたのは15165例(99.8%)で、8135例(54%)が感染症の疑いまたは証明、そのうちICU感染症の1760例(22%)であった。合計10 640人(70%)の患者が少なくとも1種類の抗生物質を投与された。感染が疑われるまたは証明された患者の割合は,オーストラレーシアの43%(141/328)からアジアおよび中東の60%(1892/3150)であった.感染が疑われたまたは証明された8135人の患者のうち,5259人(65%)が少なくとも1つの微生物学的培養が陽性であった。これらの患者の67%(n=3540)でグラム陰性微生物が,37%(n=1946)でグラム陽性微生物が,16%(n=864)で真菌性微生物が同定された。感染が疑われる,あるいは感染が証明された患者の院内死亡率は30%(2404/7936)であった.マルチレベル解析では,ICU 内感染は市中感染と比較して高い死亡リスクと独立して関連していた(オッズ比 [OR], 1.32 [95% CI, 1.10-1.60]; P = 0.003).抗生物質耐性微生物のうち,バンコマイシン耐性腸球菌(OR,2.41 [95% CI,1.43-4.06]; P = .001),第3世代セファロスポリンおよびカルバペネム系抗生物質を含むβラクタム系抗生物質に耐性を示すクレブシエラ(OR,1.29 [95% CI,1.02-1.63]; P = .03)またはカルバペネム耐性アシネトバクター種への感染(OR,1.40 [95% CI, 1.08-1.81]; P = .01)は、他の微生物による感染と比較して、死亡リスクの高さと独立して関連していた。 【結論と関連性】2017年9月にICUに入院した世界中の患者のサンプルにおいて、感染の疑いまたは証明がある割合は高く、院内死亡のかなりのリスクを伴うものであった。 第一人者の医師による解説 88カ国、1 ,150施設での自発調査 患者背景などに差 解釈には考慮必要 萬 知子 杏林大学医学部麻酔科学教室主任教授 MMJ.August 2020;16(4) 本論文は、世界の集中治療室(ICU)における感染率観察調査研究の報告である。2017年9月13日午前8時から24時間の調査を、88カ国、1,150施設で行った。総患者数15,202人の感染率は54%であった。地域別では、最も低いオーストラリアの43%から、最も高いアジア・中東の60%までと幅があった。国民総所得別のICU患者感染率は、低~下位中所得国58%、上位中所得国59%、高所得国50%であった。 感染のうち市中感染は44 %、病院関連感染は35%、ICU関連感染は22%であった。感染部位は気道60%、腹腔18%、血液(血流感染)15%であった。抗菌薬投与の実施率は70%(予防的28%、治療目的51%)であった。 検体培養陽性率は65%で、検出菌はグラム陰性菌67%、グラム陽性菌37%、真菌16%であった。市中感染の57 %、病院関連感染の71%、ICU関連感染の78%からグラム陰性菌が分離され、その内訳はクレブジエラ属27 %、大腸菌 25 %、緑膿菌属24%、アシネトバクター属17%であった。グラム陽性菌陽性患者の割合は、市中感染42%、病院関連感染37%、ICU関連感染31%であった。感染の危険因子は、男性、合併症(慢性閉塞性肺疾患、がん、糖尿病、慢性腎不全、HIV、免疫抑制)、調査日前のICU長期滞在であった。感染率は各国内の病院間でバラツキが有意に大きかった。 感染者の院内死亡率は30 %であった。院内死亡の危険因子は、ICU関連感染(対市中)、高齢、Simplified Acute Physiological Score II高値、転移がん、心不全(NYHA III ~ IV)、HIV感染、肝硬変、人工呼吸、腎代替療法、院内急変(対術後)であった。薬剤耐性菌のみに限ると、バンコマイシン耐性腸球菌、広域(第3世代セフェム、カルバペネムを含む)βラクタマーゼ産生クレブジエラ属、カルバペネム耐性アシネトバクター属が独立した院内死亡の危険因子であった。したがって、抗菌薬の適正使用監視が重要である。 本研究の限界は、自発参加のため世界のICUを網羅していないことである。大多数の参加施設は欧州、中国、南米であり、低~下位中所得国の施設は全体の6%のみである。地域により、患者背景、疾患、医療体制、ICU入室基準、医療資源、看護師数、感染防御対策、抗菌薬適正使用監視体制などに差があった。感染に対するこれらの影響は本研究では明らかでないが、調査結果の解釈にはこれらの要素を考慮する必要はあろう。
慢性膵炎患者の疼痛に対する早期手術と内視鏡ファーストアプローチの効果。The ESCAPE Randomized Clinical Trial.
慢性膵炎患者の疼痛に対する早期手術と内視鏡ファーストアプローチの効果。The ESCAPE Randomized Clinical Trial.
Effect of Early Surgery vs Endoscopy-First Approach on Pain in Patients With Chronic Pancreatitis: The ESCAPE Randomized Clinical Trial JAMA 2020 Jan 21;323(3):237-247. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】疼痛を伴う慢性膵炎の患者に対しては、内科的治療や内視鏡的治療が奏功しない限り、外科的治療は延期される。観察研究では、早期の手術が疾患の進行を緩和し、より良い疼痛コントロールを提供し、膵臓の機能を維持する可能性が示唆されている。 【目的】早期の手術が内視鏡優先のアプローチよりも臨床転帰の点で有効であるかどうかを明らかにする。 【デザイン・設定・参加者】ESCAPE試験は、Dutch Pancreatitis Study Groupに参加しているオランダの30の病院が参加した非盲検の多施設無作為化臨床優越試験である。2011年4月から2016年9月まで、慢性膵炎で主膵管が拡張しており、激しい痛みのために処方されたオピオイドを最近になって使用し始めた患者(強オピオイドを2カ月以下、弱オピオイドを6カ月以下)計88人を対象とした。18カ月の追跡期間は2018年3月に終了した。 【介入】無作為化後6週間以内に膵臓ドレナージ手術を受けた早期手術群に無作為化された44人と、内科的治療、必要に応じて砕石を含む内視鏡検査、必要に応じて手術を受けた内視鏡検査優先アプローチ群に無作為化された44人がいた。[法]主要アウトカムは痛みで、Izbicki疼痛スコアで測定し、18カ月間で積分した(範囲、0~100[スコアが上がると痛みの重症度が増す])。副次的評価項目は、追跡調査終了時の疼痛緩和、介入回数、合併症、入院回数、膵臓機能、QOL(36項目からなるショートフォーム健康調査[SF-36]で測定)、死亡率であった。 【結果】無作為に割り付けられた88名の患者(平均年齢52歳、女性21名(24%))のうち、85名(97%)が試験を完了した。18ヵ月間の追跡調査では、早期手術群の患者は、内視鏡による初回アプローチ群に無作為に割り付けられた群の患者よりもIzbicki疼痛スコアが低かった(37対49、群間差:-12ポイント[95%CI, -22~-2]、P =0.02)。フォローアップ終了時に完全または部分的な疼痛緩和が得られたのは、早期手術群では40例中23例(58%)であったのに対し、内視鏡的アプローチ優先群では41例中16例(39%)であった(P = 0.10)。介入の総数は早期手術群で少なかった(中央値、1対3、P < 0.001)。治療の合併症(27%対25%)、死亡率(0%対0%)、入院、膵臓の機能、およびQOLは、早期手術と内視鏡検査優先アプローチとの間に有意な差はなかった。 【結論と関連性】慢性膵炎患者において、早期手術と内視鏡検査優先アプローチとを比較した場合、18カ月間の統合では、痛みのスコアが低くなった。しかし、経時的な差の持続性を評価し、研究結果を再現するにはさらなる研究が必要である。 【臨床試験登録】ISRCTN Identifier:ISRCTN識別子:STRECTN45877994。 第一人者の医師による解説 内視鏡的治療が選択される患者群も想定 引き続き長期の検討評価を 宅間 健介(助教)/五十嵐 良典(主任教授) 東邦大学医療センター大森病院消化器内科 MMJ.August 2020;16(4) 慢性膵炎は持続する炎症と線維化が進行し、最終的に膵が荒廃する疾患であり、主要徴候の約80%は疼痛である。主膵管狭窄や膵石症を伴うことが多く、膵液うっ滞による膵管内や膵間質内圧の上昇などにより持続疼痛や急性膵炎をきたし、それがさらなる病態進行の原因となる。 疼痛は生活の質(QOL)を低下させ、特に欧米では多用される麻薬鎮痛薬の長期使用による依存などの副作用が懸念されており、疼痛コントロールは極めて重要である。膵切除術・膵管ドレナージ術などの手術療法や膵管ステントを用いた内視鏡的ドレナージ術は膵管内の減圧が得られ、疼痛緩和や外分泌機能改善などに有用な治療とされる。 本研究では主膵管拡張および疼痛を伴う慢性膵炎患者88人を対象に、薬物療法から内視鏡的治療を第1選択として行う群(44 人)と早期手術療法を第1選択とした群(44人)の疼痛コントロールが比較された。主要評価項目である疼痛はIzbicki pain scoreで評価された。 観察期間18カ月における疼痛スコアは早期手術療法群が内視鏡的治療群よりも低く、疼痛コントロールに優れていることを示した。観察終了時での完全・部分的疼痛緩和について統計学的有意差はなく、観察中の合併症発生率、死亡率、入院回数、膵機能変化、QOLも群間差はなかった。内視鏡的治療群では膵石や膵管狭窄の程度により体外式衝撃波結石破砕療法(ESWL= Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy)、膵管ステントが用いられ治療介入回数が多かった。また疼痛の持続する治療困難例が24例(62%)に認められ、19人は手術療法に移行・待機となった。 一方、早期手術療法群は単一の介入で明瞭な結果となり、鎮痛に対する早期手術療法の優位性を示した。過去の報告(1),(2)でも外科手術は、より早期の介入ほど鎮痛効果を示し、治療初期のオピオイド使用と内視鏡的治療は早期手術療法に比べ疼痛の軽減が低いことが示されており、今回の結果に一致している。 日本ではESWLによる膵石破砕術や膵管ステント留置術が保険診療として認可されたことにより、広く認知・普及している。患者も心情的に内科的治療を第1選択とする傾向にある。本研究において主膵管内膵石の完全除去例に関しては早期手術療法に近い鎮静効果を示しており、内視鏡的治療を第1と考慮する患者群も想定される。臨床症状や病態を含めた的確な選択と今後の膵管鏡やレーザー、ESWLなどの技術革新に期待しつつ、機能温存や悪性疾患合併などの長期にわたる治療効果評価が必要であろう。 1. Cahen DL et al. N Engl J Med. 2007;356(7):676-684. 2. Díte P et al. Endoscopy. 2003;35(7):553-558.