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アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬とCOVID-19診断および死亡率の関連
アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬とCOVID-19診断および死亡率の関連
Association of Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitor or Angiotensin Receptor Blocker Use With COVID-19 Diagnosis and Mortality JAMA. 2020 Jul 14;324(2):168-177. doi: 10.1001/jama.2020.11301. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)/アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)によってコロナウイルス感染症(COVID-19)に感染しやすくなり、ウイルスの機能性受容体、アンジオテンシン変換酵素2の発現が亢進することによって転帰が悪化すると思われる。 【目的】ACEI/ARBの使用とCOVID-19の診断およびCOVID-19患者の転帰との関連を調べること。 【デザイン、設定および参加者】COVID-19患者の転帰を調べるため、デンマークの全国レジストリのデータを用いて後ろ向きコホート研究を実施した。ICD-10コードを用いて2020年2月22日から5月4日までのCOVID-19患者を特定し、診断日から転帰または試験期間終了日(2020年5月4日)まで追跡した。COVID-19の感受性を調べるため、コホート内症例対照デザインのCox回帰モデルを用いて、2020年2月1日から同年5月4日まで他の降圧薬を比較したACEI/ARB使用とCOVID-19診断発生率との関連を検討した。 【曝露】発症日前6カ月間の処方と定義したACEI/ARBの使用。 【主要評価項目】この後ろ向きコホート研究で、主要評価項目は死亡とし、死亡または重症COVID-19の複合転帰を副次評価項目とした。コホート内症例対照の感受性解析では、転帰はCOVID-19診断とした。 【結果】この後ろ向きコホート研究には、COVID-19患者4480例を組み入れた(年齢中央値54.7歳[四分位範囲40.9-72.0歳]、47.9%が男性)。ACEI/ARB使用者895例(20.0%)および非使用者3585例(80.0%)であった。ACEI/ARB者の18.1%、非使用者の7.3%が30日以内に死亡したが、この関連は、年齢、性別および既往例で調整した後、有意差はなくなった(調整後ハザード比[HR]、0.83、95%CI 0.67-1.03)。ACEI/ARB使用者の31.9%、非使用者の14.2%に、30日以内に死亡または重症COVID-19が発生した(調整HR 1.04、95%CI 0.89-1.23)。COVID-19感受性を検討するコホート内症例対照研究では、高血圧の既往歴があるCOVID-19患者571例(年齢中央値73.9歳、54.3%が男性)を年齢および性別でマッチさせたCOVID-19がない対照5710例と比較した。COVID-19患者の86.5%がACEI/ARBを使用していたのに対し、対照は85.4%で、他の降圧薬と比較するとACEI/ARBにCOVID-19高発症率との有意な関連は認められなかった(調整HR 1.05、95%CI 0.80-1.36)。 【結論および意義】高血圧患者のACEI/ARB使用歴にCOVID-19診断またはCOVID-19患者の死亡または重症化との有意な関連は認められなかった。この結果から、COVID-19大流行下で臨床的に示唆されるACEI/ARB投与中止は支持されるものではない。 第一人者の医師による解説 COVID-19の流行に際し ACEI/ARBの服薬変更は不要の可能性を示唆 岩部 真人、二木 寛之、岩部 美紀、山内 敏正 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 MMJ. February 2021;17(1):9 現在世界中でパンデミックを引き起こしている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、一度は感染拡大の速度が緩んだようにみえた。しかし各種規制緩和などの影響でいわゆる第2波とも呼ぶべき再拡大が各国で起きており、日本でも感染者数は下げ止まっているなど、いまだ予断を許さない状況が続いている。 COVID-19を引き起こす病原体SARS-CoV-2はアンジオテンシン変換酵素(ACE)2を介して細胞内に侵入することが示されている(1)。一方、降圧薬のACE阻害薬(ACEI)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)はACE2の発現を上昇させることが知られており(2)、COVID-19の罹患率、重症化率および死亡率への影響が懸念されてきた。ACEIやARBは降圧薬として第1選択となることも多く、投薬対象人口も非常に大きいことから、この関係を検証することは急務とされ、さまざまなコホートで研究が行われている。 本研究はデンマークでのデータを基に、重症化率・死亡率についてはACEI/ARB使用中の患者を含むCOVID-19患者4,480人を対象とした後ろ向きコホート研究により、罹患率についてはコホート内症例対照研究により検討したものである。まず重症化率・死亡率について、ACEI/ARB使用中の895人を含むCOVID-19患者4,480人のコホートで年齢、性別、既往歴について補正すると、ACEI/ARB使用者と非使用者の間で死亡率に有意な差はなかった(ハザード比[HR], 0.83)。同様に死亡率または重症化率についても両群間に有意差はなかった(HR, 1.04)。次に罹患率について、高血圧の既往のあるCOVID-19患者571人と年齢、性別がマッチした高血圧の既往のある非COVID-19患者5,710人との間で比較検討された。その結果、両群間のACEI/ARB使用率に有意な差は なく、ACEI/ARBの使用はCOVID-19の罹患率を上昇させていなかった(HR, 1.05)。 2019年12月以降COVID-19は世界的に拡大し、それから1年が経過しようとしている。COVID-19の病態メカニズムについて、いまだ明らかになっていないことは多いが、疫学的にさまざまな情報が集約されつつある。ACEI/ARBについては、特にSARS-CoV-2はACE2を介して細胞内に侵入することが明らかになり、COVID-19流行初期は服薬に伴うリスクが懸念されていた。しかしながらその後、本研究結果を含めACEI/ARBはCOVID-19の罹患率、重症化率、死亡率を上昇させないことが明らかになり、各学会からもACEI/ARBの使用継続を支持する声明が世界的に出されている。一方、本研究を含めて現在のエビデンスは、ほぼすべて後ろ向き研究の結果であり、各国で進行中の前向き研究に対して、今後も注視し続ける必要がある。 1. Wang Q, et al. Cell. 2020;181(4):894-904. 2. Vaduganathan M, et al. N Engl J Med. 2020;382(17):1653-1659.
SARS-CoV-2による一時的な小児多臓器系炎症性症候群患児58例の臨床的特徴
SARS-CoV-2による一時的な小児多臓器系炎症性症候群患児58例の臨床的特徴
Clinical Characteristics of 58 Children With a Pediatric Inflammatory Multisystem Syndrome Temporally Associated With SARS-CoV-2 JAMA. 2020 Jul 21;324(3):259-269. doi: 10.1001/jama.2020.10369. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】新型コロナウイルス感染症2019の発症率が高い地域で、発熱および炎症を伴うまれな症候群を呈する患児の報告が浮上している。 【目的】SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)による一時的な小児多臓器系炎症性症候群(PIMS-TS)の基準を満たした入院患児の臨床所見および検査値の特徴を明らかし、他の小児炎症性疾患の特徴と比較すること。 【デザイン、設定および参加者】2020年3月23日から5月16日の間に、発熱の持続と公開されているPIMS-TSの診断基準を満たした入院患児58例(中央値9歳、33例が女児)の症例集積。最終追跡日は、2020年5月22日であった。診療記録の臨床症状および検査結果を要約し、2002年から2019年に欧米で入院した川崎病(KD)患児(1132例)、川崎病ショック症候群患児(45例)および中毒性ショック症候群患児(37例)の特徴と比較した。 【曝露】英国、米国および世界保健機関(WHO)が定義するPIMS-TSの基準を満たした患児の兆候、症状、検査および画像所見。 【主要評価項目】PIMS-TSの基準を満たした患児の臨床、検査および画像所見、他の小児炎症性疾患の特徴との比較。 【結果】PIMS-TSの基準を満たす患児58例(平均年齢9歳[IQR 5.7-14]、女児20例[34%])を特定した。58例中15例(26%)がSARS-CoV-2ポリメラーゼ連鎖反応検査の結果が陽性、46例中40例(87%)がSARS-CoV-2 IgG検査陽性であった。合わせて、58例中45例(78%)がSARS-CoV-2感染しているか、感染歴があった。全例に発熱および嘔吐(58例中26例、45%)、腹痛(58例中31例、53%)、下痢(58例中30例、52%)などの非特異的症状が見られた。58例中30例(52%)が発疹、58例中26例(45%)が結膜充血を呈した。検査所見の評価で、C反応性蛋白(229 mg/L[IQR 156-338]、全58例で評価)、フェリチン(610 μg/L[IQR 359-128]、58例中53例で評価)などで著名な炎症が認められ、58例中29例がショック(心筋機能障害の生化学的根拠あり)を来たし、強心薬および蘇生輸液投与を要した(機械的換気を実施した29例中23例[79%]を含む)。13例が米国心臓協会が定義するKDの基準を満たし、23例にKDやショックの特徴がない発熱および炎症があった。8例(14%)が冠動脈拡張または冠動脈瘤を来した。PIMS-TSとKDまたはKDショック症候群を比較すると、年齢が高く(年齢中央値9歳[IQR 5.7-14] vs. 2.7歳[IQR 1.4-4.7]および3.8歳[IQR 0.2-18])、C反応性蛋白(中央値229mg/L vs. 67mg/L[IQR 40-150 mg/L]および193mg/L[IQR 83-237])炎症マーカー高値などの臨床所見や検査所見に差が見られた。 【結論および意義】このPIMS-TSの基準を満たした患児の症例集積では、発熱や炎症から心筋障害、ショック、冠動脈瘤までさまざまな徴候、症状および疾患重症度が見られた。KDおよびKDショック症候群の患児と比較からは、この疾患に関する知見が得られ、他の小児炎症性疾患とは異なるものであることが示唆される。 第一人者の医師による解説 COVID-19重症化抑制の治療法につながる 臨床的意義の大きな研究 永田 智 東京女子医科大学小児科学講座主任教授 MMJ. February 2021;17(1):12 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高感染率地域で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)に関連した小児炎症性多系統症候群(PIMS-TS)が報告されており、川崎病との類似性が話題になった。 本論文では、2020年3月?5月に英国の8病院に入院した、英国、米国疾病対策予防センター(CDC)または世界保健機関(WHO)のPIMS-TS基準を満たした小児58人について、臨床的特徴をカルテレビューで抽出し、2002~19年に欧米の病院に入院した川崎病患者(1,132人)、川崎病ショック症候群患者(45人)、トキシックショック症候群患者(37人)と比較検討した。 これらPIMS-TS症例はSARS-CoV-2 PCR検査で58人中15人(26%)が陽性、SARS-CoV-2 IgG抗体検査で46人中40人(87%)が陽性であった。全例で発熱、約半数で嘔吐、腹痛、下痢の消化器症状を認めていた。同様に約半数は発疹や結膜充血といった川崎病類似の症候を呈していた。血清CRPは中央値22.9mg/dL(四分位範囲[IQR],15.6~33.8)、フェリチンも中央値610μg/L(IQR,359~1,280)と全般に高値であった。58人中29人(50%)が心筋機能障害を高頻度に伴うショックをきたし、そのうち23人(79%)は人工呼吸器管理を要していた。13人は米国心臓学会(AHA)の川崎病基準を満たし、興味深いことに8人は冠動脈拡張または冠動脈瘤を合併していた。 本研究では、PIMS-TS、川崎病、川崎病ショック症候群の三者が比較された。PIMS-TSでは罹患年齢の中央値が9歳(IQR,5.7~14)と一般の川崎病(中央値2.7歳)や川崎病ショック症候群(中央値3.8歳)より高かった。また、PIMS-TSの血清CRPは、川崎病(中央値6.7mg/dL)よりかなり高値の傾向にあったが、川崎病ショック症候群とは僅差であった(中央値19.3mg/dL)。 これらのPIMS-TS症例は、発熱・心筋障害・ショック・冠動脈瘤形成といった多臓器にまたがる多彩な症候を示していたが、全般に重症であった。これまで、川崎病に類似した症候をもつ他の疾患は数少なく、しかも冠動脈病変を有する疾患はほとんど報告されていない。PIMS-TSを丁寧に調べることにより、川崎病の病態発症、特に冠動脈病変の発生機序を考える上で、重要なヒントが得られる可能性がある。さらに、川崎病の標準治療である免疫グロブリン大量療法がCOVID-19の重症型であるPIMS-TSの治療に有効であることが証明されれば、COVID-19の重症化抑制に安全性の高い有効な治療選択肢が加わることになり、当検討の臨床的な意義は大きいことになる。
ビタミンD長期的補給がうつまたはうつ症状リスクおよび気分スコアの変化にもたらす効果 無作為化試験
ビタミンD長期的補給がうつまたはうつ症状リスクおよび気分スコアの変化にもたらす効果 無作為化試験
Effect of Long-term Vitamin D3 Supplementation vs Placebo on Risk of Depression or Clinically Relevant Depressive Symptoms and on Change in Mood Scores: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Aug 4;324(5):471-480. doi: 10.1001/jama.2020.10224. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】25-ヒドロキシビタミンD値が低いと後にうつ病リスクが高くなるが、長期にわたる高用量摂取を検討した大規模試験がほとんどない。 【目的】ビタミンD3補給が後のうつ病リスクおよび気分スコアにもたらす効果を検証すること。 【デザイン、設定および参加者】米国で成人2万5871例を対照に心血管疾患とがんの予防を検討した無作為化試験VITALの補助的試験、VITAL-DEP(Vitamin D and Omega-3 Trial-Depression Endpoint Prevention)に50歳以上の男女1万8353例が参加した。1万6657例にうつ病発症リスク(うつ病既往歴なし)、1696例にうつ病再発リスク(うつ病既往歴があるが、過去2年間うつ病の治療を受けていない)があった。2011年11月から2014年3月にかけて無作為化し、2017年12月31日に割り付けた治療が終了し、この日が最終追跡日となった。 【介入】2×2要因デザインを用いて、ビタミンD3(コレカルシフェロール1日当たり2000IU)、魚油またはプラセボに無作為化。9181例をビタミンD3、9172例をマッチさせたプラセボに割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、うつ病または治療を要するうつ症状のリスク(総発症例数および再発例数)および気分スコア(8項目から成る患者健康質問票うつ尺度[PHQ-8]、0[症状なし]から24点[症状が多い]、臨床的意義のある最小変化量は0.5点)の平均差。 【結果】無作為化した1万8353例(平均年齢67.5[SD 7.1]歳、女性49.2%)の治療期間中央値は5.3年間で、90.5%が試験を完了した(試験終了時生存していた参加者の93.5%)。ビタミンD3群(うつ病または治療を要するうつ症状609例、1000人年当たり12.9)とプラセボ群(同625例、13.3)のうつ病または治療を要するうつ症状のリスクに有意差は見られず(ハザード比0.97、95%CI 0.87-1.09、P=0.62)、うつ病発症または再発に群間差はなかった。時間の経過に伴う気分スコアの変化に治療群間の有意差は見られず、PHQ-8スコアの平均変化量も有意差はなかった(気分スコアの平均変化量0.01点、95%CI -0.04-0.05)。 【結論および意義】試験開始時に治療を要するうつ症状がない50歳以上の男女を中央値5.3年間追跡した結果、プラセボを比較して、ビタミンD3治療によってうつ病の発症や再発、治療を要するうつ症状、気分スコアの変化に有意な差は認められなかった。この結果は、うつ病予防のための成人へのビタミンD3投与は支持するものではない。 第一人者の医師による解説 大規模 RCTによる長期介入でも効果は確認できず 山口 智史/佐々木 司(教授) 東京大学大学院教育学研究科健康教育学分野 MMJ. February 2021;17(1):15 うつ病は疾病負荷の主要因の1つとなっている(1)。特に、高齢者のうつ病は十分に治療されていないケースが多いため(2)、医療において、高齢者のうつ病予防は重要な領域である。高齢者では、血中ビタミンD濃度が低い場合に抑うつリスクが高いことが、横断研究のメタ解析によって示されている(3)。しかし、ビタミンD濃度を上昇させる介入がうつ病予防に有効であるかどうかについては十分に検討されていない。今回報告されたVITAL-DEP試験は、ビタミン Dのサプリメントを毎日服用することで、うつ病の予防が可能であるかを5年にわたる介入により検証した、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験である。 試験対象者は、50歳以上の男女で、研究参加時点までにうつ病の診断を受けたことがない人か、うつ病既往があっても寛解後2年以上経過している人である。主要評価項目は2つあり、1つ目は、うつ病の発症および再発の有無である(うつ病の発症および再発は、医師によるうつ病の診断を受けたかどうか、うつ病の治療を受けているかどうか、うつ症状を測る質問票[PHQ-8]で点数がカットオフ以上となったかどうかのいずれかを指す)。2つ目は、PHQ-8で測ったうつ症状の長期的変化である。割り付けられた参加者は18,353人、このうち57.5%が5年間研究に参加し続けた。追跡調査は年1回の郵送による質問票で行われ、うつ病の発症と再発の確認、うつ症状の測定が行われた。また、割り付けられた錠剤の3分の2以上を服用したと回答し、プロトコール遵守とみなされた参加者は毎年の調査で90%を超えていた。ビタミンD服用群9,181人中、うつ病が発症または再発した人は609人であった(12.9/1,000人・年)。一方、プラセボ群では9,172人中625人であった(13.3/1,000人・年)。うつ病の発症・再発に関して、ビタミンD服用群とプラセボ群の間で、ハザード比は有意とならなかった。また、質問票で測ったうつ症状の点数も、2群間に有意差は認められなかった。これは、介入期間中のどの時点でも同様であった。 今回の結果は、10,000人を超える非常に多くの一般住民に対して、5年という長期の介入を続けたランダム化試験によるものである。著者らはこれらの点をVITAL-DEP試験の強みとして挙げており、得られた結果は、成人のうつ病予防のためにビタミンDを服用させることを支持するものではなかったと結論している。 1. Mathers CD, et al. PLoS Med. 2006;3(11):e442. 2. Unutzer J, et al. J Am Geriatr Soc. 2000;48(8):871-878. 3. Li H, et al. Am J Geriatr Psychiatry. 2019;27(11):1192-1202.
ビタミンD低値喘息患児の重度喘息増悪にもたらすビタミンD3補給の効果 VDKA無作為化臨床試験
ビタミンD低値喘息患児の重度喘息増悪にもたらすビタミンD3補給の効果 VDKA無作為化臨床試験
Effect of Vitamin D3 Supplementation on Severe Asthma Exacerbations in Children With Asthma and Low Vitamin D Levels: The VDKA Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Aug 25;324(8):752-760. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】重度の喘息増悪は死に至ることがあり、医療費もかかる。ビタミンD3補給によって小児期の重度喘息増悪が抑制できるかは明らかになっていない。 【目的】ビタミンD3補給によって、ビタミンD低値喘息患児の重度増悪までの時間が改善するかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】Vitamin D to Prevent Severe Asthma Exacerbations(VDKA)試験は、血清25-ヒドロキシビタミンD値が30ng/mL未満で低用量吸入ステロイドを投与している6~16歳の高リスク喘息患児で、ビタミンD3補給によって重度増悪までの時間が改善するかを検討した二重盲検プラセボ対照無作為化臨床試験である。米国7施設から被験者を組み入れた。2016年2月に、400例を目標に登録を開始した。試験は無益性のため早期に(2019年3月)中止され、2019年9月に追跡を終了した。 【介入】被験者をビタミンD3群(1日当たり4000IU、96例)とプラセボ群(96例)に割り付け、48週間にわたって投与し、フルチカゾン176μg/日(6~11歳)または220μg/日(12~16歳)投与を継続した。 【主要評価項目】主要評価項目は、重度喘息増悪までの時間とした。ウイルス誘発重度増悪までの時間、試験期間の中間時点で吸入ステロイド用量が減少した被験者の割合および期間中のフルチカゾン累積投与量を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した192例(平均年齢9.8歳、女児88例[40%])のうち180(93.8%)が試験を完遂した。ビタミンD3群の36例(37.5%)およびプラセボ群の33例(34.4%)が1回以上の重度増悪を来した。プラセボと比べると、ビタミンD3補給による重度増悪までの時間の有意な短縮は見られず、増悪までの平均期間はビタミンD3群240日、プラセボ群253日だった。(平均群間差-13.1日、95%CI -42.6~16.4、調整ハザード比1.13、95%CI 0.69~1.85、P=0.63)。同様に、プラセボと比較したビタミンD3補給によるウイルス誘発重度増悪、試験期間の中間時点で吸入ステロイド用量が減少した被験者の割合および期間中のフルチカゾン累積投与量の改善度に有意差はなかった。両群の重度有害事象発現率はほぼ同じだった(ビタミンD3群11例、プラセボ群9例)。 【結論および意義】喘息が持続する低ビタミンD値の小児で、プラセボと比べてビタミンD3補給によって重度喘息増悪まで時間の有意な改善は認められなかった。この結果からは、この患者群に重度喘息増悪予防のためビタミンD3を補給することは支持されない。 第一人者の医師による解説 小児に対するプラクティスとしてのビタミンD投与は中止すべき 横山 彰仁 高知大学医学部呼吸器 ・アレルギー内科学教授 MMJ. February 2021;17(1):17 ビタミンDは肺の重要な成長因子であり、また免疫系において制御性T細胞の誘導、Th2やTh17反応の抑制、IL-10産生などを引き起こすことが知られている。さらに、気道のマイクロバイオームに影響し、平滑筋肥大を抑制しコラーゲン沈着を抑制することで気道リモデリングに抑制的に働くことも報告されている。こうした研究に一致するように、血中ビタミン D濃度が低下した患者では、重症の喘息増悪、肺機能低下、ステロイド反応性の低下などが生じることも知られている。 以上から、ビタミンDには喘息の1次予防効果が期待されるが、残念ながらその有用性は不明である。妊婦や幼児へのビタミンD補充は後年の家ダニへの感作抑制につながるとの報告もあるが、喘息発症を抑制するかは不明である。ただし、ビタミンDには、ライノウイルスの増殖を抑制し、インターフェロンによる抗ウイルス作用を促進するなど、ウイルス感染による発作を抑制する可能性はある。実際にメタ解析ではビタミンD補充は、喘息増悪のリスクを有意に低下させることが示されている。ただ、16歳以下に関しては有意な結果は得られていない。以上から、小児へのビタミンD投与は推奨されるに至っていないが、これまでの研究では、血中濃度が低い、重症増悪リスクが高い患児を対象としていないなどの問題点が指摘されていた。 本研究の利点として以下の3点が挙げられる:①参加者の血中ビタミンD濃度を測定し、濃度が低いことを確認した上で試験に登録している、②補充により実際に血中濃度が上昇したことを確認している、③前年に重症増悪歴のあるリスクが高い患児を対象とし、重症増悪発症までの期間を主要評価項目としている。 当初、本試験では重症増悪発症率で16%の絶対差を検出できるサンプルサイズの400人を目標として設定したが、予定されていた中間解析で有効性が認められず早期中止となった。最終的には目標の半分以下の192人を、48週間のプラセボ群またはビタミンD群に1:1に割り付けた。結果として、重症増悪はビタミン群で36人(37.5%)、プラセボ群で33人(34.4%)に認められ、主要評価項目である発症までの期間はもとより、ウイルス感染による重症増悪、吸入ステロイド薬の減量や累積使用量に関しても有意差は認められず、ビタミンD投与の有効性は認められなかった。 今回の結果を踏まえると、既報から小児に対しプラクティスとしてビタミン D濃度を測定し、投与する施設があるならば、中止すべきであろう。
基礎インスリン療法を実施している2型糖尿病患者の血糖制御に用いる持続血糖モニタリングの効果:無作為化比較試験
基礎インスリン療法を実施している2型糖尿病患者の血糖制御に用いる持続血糖モニタリングの効果:無作為化比較試験
Effect of Continuous Glucose Monitoring on Glycemic Control in Patients With Type 2 Diabetes Treated With Basal Insulin: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jun 8;325(22):2262-2272. doi: 10.1001/jama.2021.7444. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】持続血糖モニタリング(CGM)は、強化インスリン療法中の2型糖尿病成人患者にとって便益があることが示されているが、食前インスリン療法を実施していない基礎インスリン療法中の2型糖尿病患者でのCGM使用は検討されていない。【目的】プライマリケア診療で、食前インスリン療法を実施していない基礎インスリン療法中の2型糖尿病成人患者でCGMの有効性を検討すること。【デザイン、設定および参加者】この無作為化臨床試験は、米15施設(登録期間2018年7月30日から2019年10月30日;最終追跡調査日2020年7月7日)で実施し、プライマリケア医から糖尿病治療を受けており、食前インスリン療法を実施せず持効型または中間型の基礎インスリン製剤を1日1~2回投与している2型糖尿病成人患者を登録した。インスリン以外の血糖降下薬による薬物療法の有無は問わなかった。【介入】CGM群(116例)と従来の血糖測定器によるモニタリング(BGM)群(59例)に2対1の割合で無作為化により割り付けた。【主要評価項目】主要評価項目は、8カ月時点のヘモグロビンA1c(HbA1c)とした。CGMで測定した血糖目標値が70~180mg/dLの範囲内にある時間(の割合)(TIR)、血糖値が250mg/dLを超える時間、8カ月時の平均血糖値を主な副次評価項目とした。【結果】無作為化により割り付けた175例(平均年齢[SD]57歳[9];女性88例[50%];人種・民族的マイノリティ92例[53%]、治療前のHbA1c平均値[SD]9.1%[0.9%])のうち、165例(94%)が試験を完了した。CGM群のHbA1c平均値が治療前の9.1%から8カ月後の8.0%に、BGM群では9.0%から8.4%に低下した(調整後群間差、-0.4%[95%CI、-0.8~-0.1];P=0.02)。CGM群をBGM群と比較すると、CGMで測定した平均TIRは59%に対して43%(調整後群間差、15%[95%CI、8~23];P<0.001)、血糖値が250mg/dLを超える時間の割合は11%に対して27%(調整後群間差、-16%[95%CI、-21~-11];P<0.001)、平均血糖値の平均は179mg/dLに対して206mg/dL(調整後群間差、-26mg/dL[95%CI、-41~-12];P<0.001)であった。CGM群1例(1%)、BGM群1例(2%)に重度の低血糖が発現した。【結論および意義】食事前インスリン投与を実施しておらず、基礎インスリン療法のみでは血糖制御不良の2型糖尿病成人患者で、従来の血糖モニタリングよりも持続血糖モニタリングの方が8カ月後のHbA1c値が有意に低下した。 第一人者の医師による解説 日本ではこの数年にFGMが普及 新たなデバイスで糖尿病診療が進化 石原 寿光 日本大学医学部糖尿病代謝内科教授 MMJ. December 2021;17(6):179 持続的血糖モニタリング(CGM)は、1型糖尿病患者はもちろん、強化インスリン治療中の2型糖尿病患者に用いた場合、血糖コントロールに有効であることが示されているが、ボーラスインスリン注射を行わない、基礎インスリン補充のみで治療されている2型糖尿病患者における有効性は検証されていない。そこで、本論文の著者らは、持効型あるいは中間型インスリンの1日1回または2回注射で治療中の2型糖尿病患者(インスリン以外の血糖降下薬併用の有無は問わない)におけるCGMの有効性を、従来の指先などで採血して行う自己血糖測定(SMBG)を対照として、ランダム化対照試験(MOBILE試験)により検討した。米国の15施設で、2018年7月30日~19年10月30日に175人の患者の組み入れが行われ、主要評価項目として8カ月後のHbA1cが評価された。CGM群の患者にはDexcomG6CGMシステムが装着され、適宜SMBGも併用された。その結果、8カ月後のHbA1cは、CGM群ではベースラインの9.1%から8.0%、SMBG群で9.0%から8.4%に低下し、低下の度合いは有意にCGM群で大きかった(群間差のP=0.02)。また、グルコース値が70~180mg/dLに入っている1日のうちの時間の割合は、CGM群では59%、SMBG群では43%とCGM群の方が有意に高く(P<0.001)、250mg/dL超の時間の割合はそれぞれ11%と27%とCGM群の方が有意に低かった(P<0.001)。重症な低血糖の発生率はそれぞれ1%と2%のみであった。したがって、持効型あるいは中間型インスリンの1日1回または2回注射で治療中の2型糖尿病患者においても、CGMは有効であると考えられた。今後、数年単位でこの効果が持続するかなどを検証していく必要があると思われる。日本では、この数年にFreestyleリブレTMによるFlashGlucoseMonitoring(FGM)が普及してきている。現在の保険適用は、強化インスリン療法施行中の患者が主体であるが、基礎インスリンのみの患者への適用拡大も検討されている。また、インスリンを使っていない経口糖尿病薬のみの患者でのFGMの有効性も報告されており(1)、新たなデバイスが糖尿病診療を進化させつつある。 1. Wada E, et al. BMJ Open Diabetes Res Care. 2020;8(1):e001115.
虚血性脳卒中患者の心房細動検出に用いる植込み型ループレコーダーと体外式ループレコーダーの比較:PER DIEM無作為化臨床試験
虚血性脳卒中患者の心房細動検出に用いる植込み型ループレコーダーと体外式ループレコーダーの比較:PER DIEM無作為化臨床試験
Effect of Implantable vs Prolonged External Electrocardiographic Monitoring on Atrial Fibrillation Detection in Patients With Ischemic Stroke: The PER DIEM Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jun 1;325(21):2160-2168. doi: 10.1001/jama.2021.6128. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】体外式ループレコーダーまたは植込み型ループレコーダーを用いた心電図モニタリングによる虚血性脳卒中後の心房細動(AF)または心房粗動の相対検出率は明らかになっていない。【目的】虚血性脳卒中を発症して間もない患者で、植込み型ループレコーダーを用いた12カ月間のモニタリングが従来の体外式ループレコーダーを用いた30日間のモニタリングよりもAF発生を多く検出できるかを明らかにすること。【デザイン、設定および参加者】カナダ・アルバータ州の大学病院2施設および市中病院1施設で、2015年5月から2017年11月にかけて虚血性脳卒中発症6カ月以内でAFの既往歴がない患者300例を登録し、医師主導型非盲検無作為化臨床試験を実施した。最終追跡が2018年10月であった。【介入】参加者を植込み型ループレコーダー(150例)と体外式ループレコーダー(150例)による持続的心電図モニタリングに1対1の割合で無作為化により割り付けた。参加者は、経過観察のため30日後、6カ月後および12カ月後に受診した。【主要評価項目】主要評価項目は、AF確定(definite AF)またはほぼ確実なAF(highly probable AF)(無作為化後12カ月以内に2分以上持続する新たなAFの判定)とした。新規AFのtime to event解析、虚血性脳卒中の再発、頭蓋内出血、死亡および12カ月以内に発生した機器関連の重篤な有害事象などの8項目を事前に定めた副次評価項目とした。【結果】無作為化により割り付けた300例(年齢中央値64.1歳[四分位範囲、56.1~73.7];女性121例[40.3%];CHA2DS2-VASc[うっ血性心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病、脳卒中または一過性虚血発作、血管疾患、65~74歳、性別]スコア中央値4点[四分位範囲、3~5]の原因不明の脳卒中66.3%)のうち273例(91.0%)が24時間以上の心臓モニタリングを完了し、259例(86.3%)が割り付けたモニタリングおよび12カ月間の経過観察を完遂した。主要評価項目は、植込み型ループレコーダー群の15.3%(150例中23例)、体外式ループレコーダー群の4.7%(150例中7例)に発現した(群間差、10.7%[95%CI、4.0~17.3%];リスク比、3.29[95%CI、1.45~7.42];P=0.003)。8項目の副次評価項目のうち、6項目に有意差が認められなかった。植込み型ループレコーダー群の5例(3.3%)に虚血性脳卒中が再発したのに対して、体外式ループレコーダー群では8例(5.3%)に再発を認めた(群間差、-2.0%[95%CI、-6.6~2.6%])。各群1例(0.7%)に頭蓋内出血が発生し(群間差、0%[95%CI、-1.8~1.8%])、各群3例(2.0%)が死亡し(群間差、0%[95%CI、-3.2~3.2%])、それぞれ1例(0.7%)と0例(0%)に機器関連の重篤な有害事象が発現した。【結論および意義】AFの既往歴がない虚血性脳卒中患者で、植込み型ループレコーダーによる12カ月間の心電図モニタリングのAF検出率が、30日間の体外式ループレコーダーによるモニタリングよりも有意に高かった。このモニタリング法による臨床成績および相対的な費用効果を比較する詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 社会的経済的状態と疾病の発症について 生活習慣との相互作用を含めた研究が必要 門脇 孝 虎の門病院院長 MMJ. December 2021;17(6):188 心原性脳塞栓症は最重症のノックアウト型脳梗塞をきたす。原因の大部分は高齢化で増加が予想される心房細動(AF)だが、幸い抗凝固療法によりリスクを約3分の1に低減することができる。したがって、AF診断の強化が要介護削減、健康寿命延伸のカギを握る。虚血性脳卒中(IS)は心原性に限らずAF有病率が高い。再発予防の観点からAF診断が重要だが、ホルター心電図などでは検出困難な発作性AFが多数潜在している。このような潜在性AFの検出には植込み型ループレコーダー(ILR)が極めて有用だが、その保険適用は発症原因が特定できない潜因性脳梗塞(CS)に限られる。本研究は、既知のAFがない発症半年以内のISを対象とし、4週間可能な限り体外式ループレコーダー(ELR)を装着する群と、ILRで1年間監視する群とに無作為に割り付け、2分間以上持続するAFの検出率を比較検討したものである(各群150人)。その結果、AF検出率はELR群の4.7%に対し、ILR群では15.3%と10.7%高く、リスク比は3.29であった(P=0.003)。ILRはELRより有意にAF検出率を高められるという結果が示されたことから、ILRの適応をすべてのISに拡大すべきかどうかが議論となるが、本研究の対象患者は66%がCSである上に、病型別の検出率も示されていないため、CS以外のISでの有用性は明らかでない。長時間の心電図モニタで病型別のAF検出率を検討した報告はほとんどない。参考までに、当院では入院時心電図でAFが認められないすべてのISに対し、原則1週間デュランタR(ZAIKEN)による非侵襲的心電図モニタを行っており、Stroke2021で筆者が当院の臨床データを発表した時点で7日目まで監視しえた患者は1,066人に達する(1)。病型別のAF検出率は、TIA0%、ラクナ梗塞3.9%、アテローム血栓性脳梗塞5.4%、CS10.5%であり、CS以外の病型におけるAF検出率はCSのおよそ半分以下となっている。したがって、CS以外のISではILRによるAF検出率の上乗せ効果はさほど大きくなく、侵襲的で高額なILRの適応をすべてのISに拡大するほどのメリットは得られないと予想される。潜在性AFの検出は「Thelonger,thebetter」であり、検出力の観点からはILRが最も優れるものの検査数は限られる。重要なのは検出数を増やすことであり、まずは広く実施可能で、検出力も比較的高い非侵襲的長時間心電図モニタによるAF監視の強化を優先すべきであろう。 1. 第 46 回日本脳卒中学会学術集会:虚血性脳卒中急性期の非侵襲的長時間心電図モニタによる悉皆的心房細動スクリーニングの有用性(抄録番号:卒中 O-061-2)
中等症ないし重症の喘息に用いる2剤併用または3剤併用の吸入療法と喘息の転帰:系統的レビューおよびメタ解析
中等症ないし重症の喘息に用いる2剤併用または3剤併用の吸入療法と喘息の転帰:系統的レビューおよびメタ解析
Triple vs Dual Inhaler Therapy and Asthma Outcomes in Moderate to Severe Asthma: A Systematic Review and Meta-analysis JAMA. 2021 Jun 22;325(24):2466-2479. doi: 10.1001/jama.2021.7872. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】中等症ないし重症の喘息に対して、吸入コルチコステロイド(ICS)および長時間作用型β2刺激薬(LABA)への長時間作用型抗コリン薬(LAMA)追加による便益と害は明らかになっていない。【目的】制御不良の喘息が持続する小児および成人を対象に、3剤併用療法(ICS、LABA、LAMA)と2剤併用療法(ICS、LABA)の転帰と有害事象を系統的に統合し比較すること。【データ入手元】2017年11月から2020年12月8日までのMEDLINE、Embase、CENTRAL、ICTRP、FDA、EMAのデータベース。言語による制約を設けなかった。【試験の選択】独立した2名の研究者が、中等症ないし重症の喘息に用いる3剤併用療法と2剤併用療法を比較した無作為化臨床試験(RCT)を選択した。【データの抽出および統合】レビュアー2名が独立してデータの抽出とバイアスのリスクを評価した。個々の患者の増悪データを含めランダム効果メタ解析を用いた。GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いて科学的根拠の確実性(質)を評価した。【主要評価項目】重度の増悪、喘息制御(7項目の喘息制御に関する質問票[ACQ-7]で測定、各項目のスコア0~6[完全に制御~重度の制御不良]、最小重要差0.5)、生活の質(喘息関連の生活の質[AQLQ]ツールで測定、1~7点[重度障害~障害なし]、最小重要差0.5)、死亡率および有害事象。【結果】3種類のLAMAを用いて小児と成人計11,894例(平均年齢52歳[範囲、9~71];女性57.7%)を登録したRCT 20件を対象とした。確実性の高い根拠で、3剤併用療法を2剤併用療法と比較すると、重度増悪リスクの低下(試験9件[9,932例];22.7% vs 27.4%;リスク比、0.83[95%CI、0.77~0.90])および喘息制御の改善(14試験[1万1,230例];標準化平均差[SMD]、-0.06[95% CI、-0.10~-0.02])、ACQ-7尺度の平均差-0.04[95% CI -0.07~-0.01])に有意な関連を認めた。2剤併用療法と3剤併用療法の間に、喘息関連QOL(7試験[5,247例)];SMD、0.05[95%CI -0.03~0.13];AQLQスコアの平均差、0.05[95%CI、-0.03~0.13];確実性中等度の根拠)または死亡率(試験17件[11,595例];0.12% vs 0.12%;リスク比、0.96[95%CI 0.33~2.75];確実性の高い根拠)の有意差は認められなかった。3剤併用療法に口腔乾燥および発声障害との関連を認めた(10試験[7,395例];3.0% vs 1.8%;リスク比、1.65[95% CI 1.14~2.38]、確実性の高い根拠]。しかし、治療関連の有害事象と重篤な有害事象に群間差は認められなかった(確実性中等度の根拠)。【結論および意義】中等症ないし重症の喘息の小児(6~18歳)および成人で、3剤併用療法は2剤併用療法と比較して、重度増悪の減少および喘息制御改善の中等度改善との有意な関連を認め、QOLや死亡に有意差はなかった。 第一人者の医師による解説 LAMAの効果が高い集団や副作用の少ない集団が判明すれば 有用なエビデンス 入江 美聡(助教)/福永 興壱(教授) 慶應義塾大学医学部呼吸器内科 MMJ. December 2021;17(6):174 喘息はどの年齢においても有病率の高い慢性呼吸器疾患である。国際的なガイドラインでは6歳以上の中等症・重症喘息患者に適した長期管理薬として吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用型β2刺激薬(LABA)の配合剤による治療(2剤併用療法)が推奨されている。長時間作用型抗コリン薬(LAMA)はLABAと異なる機序での気管支拡張作用を有するが、2剤併用療法でもコントロールが不良な場合におけるLAMA追加投与の効果や有害事象については不明確である。そのため、ICS/LABA/LAMAの3剤併用療法は弱い推奨とされている。これまで、3剤併用療法と2剤併用療法を比較した系統的レビューは2017年までの検索に限られていた。対象研究はチオトロピウムを用いた少数の研究のみに限られており、有害事象についての言及がなされず、喘息増悪における3剤併用療法の有効性は明らかではなかった。2017年以降、米食品医薬品局(FDA)による小児におけるチオトロピウムの使用が認可され、3剤併用療法について多くの試験がなされてきた。今回の論文はコントロール不良な小児および成人の中等症・重症喘息における3剤併用療法と2剤併用療法の効果と有害事象についての系統的レビューおよびメタ解析である。3種類のLAMAを対象とした20件の無作為化試験(小児・成人患者計11,894人)について解析が行われた。主要評価項目は重症増悪、喘息コントロール、生活の質(QOL)、死亡率、有害事象である。結果は重症増悪のリスクが3剤併用療法で有意に低下し(リスク比[RR],0.83)、AsthmaControlQuestionnaire(ACQ)やAsthmaControlTest(ACT)で評価した喘息コントロールが改善した(標準化平均差,-0.06)。一方、喘息関連のQOLや死亡率に差はなかった。また有害事象に関しては3剤併用療法で口渇と発声障害が有意に増加したが、重篤な有害事象について有意差はなかった。GlobalInitiativeforAsthma(GINA)のガイドラインや日本の「喘息予防・管理ガイドライン2018」でもICS/LABAの2剤併用療法における追加療法としてロイコトリエン拮抗薬(LTRA)、LAMA、各種抗体製剤、経口ステロイド薬が挙げられているが、優先順位は示されていない。現実的には各種抗体製剤は薬剤費用の観点から、経口ステロイド薬は長期使用に伴う副作用の観点からそれぞれ第1選択とはなりにくく、LTRAとLAMAのどちらかを(あるいは両薬同時を)追加治療として優先的に選択することが多い。今後、LTRAと比較しLAMAの効果が高い集団や、LAMAの副作用が出現しにくい集団が判明すれば、喘息増悪予防や症状コントロールにおいて有用なエビデンスとなると考える。
成人の反復性片頭痛に用いる急性期治療:系統的レビューとメタ解析
成人の反復性片頭痛に用いる急性期治療:系統的レビューとメタ解析
Acute Treatments for Episodic Migraine in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis JAMA. 2021 Jun 15;325(23):2357-2369. doi: 10.1001/jama.2021.7939. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】片頭痛は頻度が高く著しい病的状態を引き起こすことがあり、急性期治療に幾つか選択肢がある。【目的】成人の反復性片頭痛に用いる急性期治療の便益と害を評価すること。【データ入手元】開始時から2021年2月24日までの多数のデータベース。【試験の選択】片頭痛発作に用いる急性期治療の効果または害を評価した無作為化臨床試験と系統的レビュー。【データ抽出および統合】独立したレビュアーが試験を選択し、データを抽出した。Hartung-Knapp-Sidik-Jonkman法による分散補正およびDerSimonian-Lairdのランダム効果モデルを用いてメタ解析を実施し、試験数が少ない場合はMantel-Haenszel法に基づく固定効果モデルを用いた。【主要評価項目】主要評価項目は、疼痛消失、疼痛緩和、疼痛消失の持続、疼痛緩和の持続、有害事象とした。科学的根拠の強さ(SOE)をAgency for Healthcare Research and Quality Methods Guide for Effectiveness and Comparative Effectiveness Reviewsを用いて各等級に分類した。【結果】系統的レビュー15報からトリプタンと非ステロイド抗炎症薬に関する科学的根拠を要約した。他の介入について、患者2万8,803例を対象とした無作為化臨床試験115件を対象とした。プラセボと比較すると、トリプタンと非ステロイド抗炎症薬を別々に使用した場合に、2時間後および翌日の疼痛軽減(中程度ないし高度のSOE)および軽度で一過性の有害事象のリスク上昇との有意な関連を認めた。プラセボと比較すると、カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体拮抗薬(低度ないし高度のSOE)、lasmiditan(5-HT1F受容体作動薬;高度のSOE)、dihydroergotamine(中等度ないし高度のSOE)、ergotamine+カフェイン(中等度のSOE)、アセトアミノフェン(中等度のSOE)、制吐薬(低度のSOE)、butorphanol(低度のSOE)、トラマドールとアセトアミノフェンの併用(低度のSOE)に疼痛軽減および軽度の有害事象増加との有意な関連があった。オピオイドに関する結果は、低度または不十分なSOEに基づくものであった。遠隔電気神経調節(中等度のSOE)、経頭蓋磁気刺激(低度のSOE)、外部三叉神経刺激(低度のSOE)、非侵襲的迷走神経刺激(低度のSOE)などの非薬物療法に疼痛改善との有意な関連があった。非薬物療法群とシャム群との間に有害事象の有意差は認められなかった。【結論および意義】片頭痛の急性期治療が幾つかあるが、それぞれの治療を裏付ける科学的根拠の強さにばらつきがある。トリプタン、非ステロイド抗炎症薬、アセトアミノフェン、dihydroergotamine、カルシトニン遺伝子関連ペプチド拮抗薬、lasmiditanおよび一部の非薬物療法に疼痛および機能の改善との有意な関連を認めた。オピオイドを始めとするその他多くの介入に関する科学的根拠は少なかった。 第一人者の医師による解説 ゲパント系薬剤やディタン系薬剤の国内承認で 片頭痛の急性期治療は大きな変革 北村 英二 北里大学医学部脳神経内科学講師 MMJ. December 2021;17(6):173 2016年の世界の疾病負荷研究(GlobalBurdenofDiseaseStudy)によると、世界人口のおよそ14.4%が片頭痛に罹患しており、片頭痛は障害生存年数の第2位に位置する疾患である。片頭痛診療では生活習慣や環境要因に対する生活指導に加え、急性期治療と予防療法が行われる。日本では2021年に抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体、抗CGRP受容体抗体による予防療法が承認され、片頭痛診療の大きな変革期が到来している。本論文の目的は成人の反復性片頭痛(国際頭痛分類第3版[ICHD-3]片頭痛診断基準に準じ、片頭痛日数が月に15日未満で慢性片頭痛に該当しないもの)に対する急性期治療の有益性と有害性を評価することである。トリプタンと非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)に関するエビデンスについて15の系統的レビューを、その他の介入研究については115の無作為化臨床試験(患者数28,803人)を評価した。プラセボと比較して、トリプタンとNSAIDsを個別に使用した場合、それぞれ2時間後と1日後の痛みが有意に減少し(エビデンスの強さ[SOE]:中~高)、軽度・一過性有害事象のリスクが上昇した。またプラセボと比較して、CGRP受容体拮抗薬(SOE:低~高)、ラスミディタン(5-HT1F受容体作動薬)(SOE:高)、ジヒドロエルゴタミン(SOE:中~高)、エルゴタミン+カフェイン(SOE:中)、アセトアミノフェン(SOE:中)、制吐薬(SOE:低)、ブトルファノール(SOE:低)、およびトラマドールとアセトアミノフェンの併用(SOE:低)は有意に痛みを軽減し、軽度有害事象の増加を認めた。オピオイドに関してはSOEが低いか不十分であった。一方、片頭痛の非薬物療法については、ニューロモデュレーション(REN)(SOE:中)、経頭蓋磁気刺激装置(TMS)(SOE:低)、経皮的三叉神経刺激装置(e-TNS)(SOE:低)、非侵襲的迷走神経刺激装置(nVNS)(SOE:中)が有意に痛みを改善した。有害事象については、非薬物療法と偽(sham)治療で有意差はなかった。片頭痛に対していくつかの急性期治療があるが、今回の結果から、そのエビデンスの強さはさまざまであることが示された。日本でもゲパント系薬剤(CGRP受容体拮抗薬)(1),(2)、ディタン系薬剤(選択的5-HT1F受容体作動薬)(3)が承認されれば、片頭痛の予防療法のみならず急性期治療も大きな変革期を迎えることが予想される。 1. Croop R, et al. Lancet. 2021;397(10268):51-60.2. Lipton RB, et al. N Engl J Med. 2019;381(2):142-149.3. Goadsby PJ, et al. Brain. 2019;142(7):1894-1904.
妊娠中のインフルエンザワクチン接種と小児期早期の健康転帰との関連
妊娠中のインフルエンザワクチン接種と小児期早期の健康転帰との関連
Association of Maternal Influenza Vaccination During Pregnancy With Early Childhood Health Outcomes JAMA. 2021 Jun 8;325(22):2285-2293. doi: 10.1001/jama.2021.6778. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】妊娠中の季節性インフルエンザワクチン接種によって、妊婦と新生児のインフルエンザによる疾患が減少する。妊娠中の季節性インフルエンザワクチン接種と小児期の有害な健康転帰との関連性については科学的根拠が少ない。【目的】妊娠中のインフルエンザワクチン接種と小児期早期の健康転帰との関連を評価すること。【デザイン、設定および参加者】健康管理データと紐付けた出生登録を用いた後ろ向きコホート研究。2010年10月1日から2014年3月31日までの間に記録されたカナダ・ノバスコシア州の全生児出生を2016年3月31日まで追跡した。逆確率による重み付けを用いて母体の病歴や可能性のあるその他の交絡因子を調整し、調整ハザード比(HR)と発生率比(IRR)を推定し95%CIを添えた。【曝露】妊娠中の季節性インフルエンザワクチン接種。【主要評価項目】免疫関連転帰(喘息、感染症)、非免疫関連転帰(悪性新生物、感覚障害)および非特異的転帰(緊急医療または入院医療の利用)を小児期の転帰とし、救急診療部門と入院のデータベースから測定した。【結果】小児28,255例(女児49%、在胎37週以降の出生92%)のうち10,227例(36.2%)が妊娠中に季節性インフルエンザワクチン接種を受けた母親から出生した。平均3.6年の追跡期間中、母親のインフルエンザワクチン接種と小児期の喘息(発生率、1,000人年当たり3.0 vs. 2.5;差0.53、95%CI ?0.15-1.21];調整済みハザード比1.22[95%CI 0.94~1.59])、悪性新生物(1,000人年当たり0.32 vs. 0.26、差0.06/人年[95%CI -0.16~0.28]、調整済みハザード比1.26[95%CI 0.57~2.78])および感覚障害(1000人年当たり0.80 vs. 0.97;差-0.17[95%CI -0.54~0.21];調整済みハザード比0.82[95%CI 0.49~1.37])との間に有意な関連は認められなかった。妊娠中の母親のインフルエンザワクチン接種と小児期早期の感染症(発生率、1,000人年当たり184.6 vs. 179.1、差5.44[95%CI 0.01~10.9];調整済み発生率比1.07[95%CI 0.99~1.15])、緊急医療または入院医療の利用(1,000人年当たり511.7 vs. 477.8/人年;差33.9/人年[95%CI 24.9~42.9];調整済み発生率比1.05[95%CI 0.99~1.16])との間に有意な関連は認められなかった。【結論および意義】平均追跡期間3.6年の住民を対象としたコホート研究で、妊娠中のインフルエンザワクチン接種に小児期早期の有害健康転帰との有意な関連は認められなかった。 第一人者の医師による解説 妊婦へのインフルエンザワクチン接種推奨 参考となる報告 三鴨 廣繁 愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学教授 MMJ. December 2021;17(6):186 妊婦が特にインフルエンザに罹患しやすいわけではないが、感染すると、重症化や合併症を起こすリスクが高く、2009年新型インフルエンザは胎児死亡や早産のリスク上昇をもたらした。妊娠中の季節性インフルエンザワクチン接種は母体および新生児のインフルエンザ罹患抑制に有効であるが、妊婦のインフルエンザワクチン接種が小児期の健康への悪影響と関連しているかどうかについての証拠は限られている。著者らは、妊娠中の母親のインフルエンザワクチン接種と幼児期の健康転帰との関連を評価した。2010年10月1日~14年3月31日にカナダ・ノバスコシアで出生したすべての子どもが登録され、16年3月31日まで追跡調査された。本研究は、健康管理データにリンクされた出生登録を使用した後ろ向きコホート研究である。調整ハザード率(HR)と発生率比(IRR)は母親の病歴およびその他の潜在的な交絡因子に対して補正しながら推定された。解析対象となった28,255人の子ども(49%が女性、92%が妊娠37週以上で出生)のうち、10,227人(36.2%)が妊娠中に季節性インフルエンザワクチン接種を受けた女性が出産した。平均3.6年間の追跡期間中、妊婦のインフルエンザワクチン接種と小児喘息の間に有意な関連は認められなかった(1,000人・年あたり3.0対2.5;差0.53;調整済みHR,1.22)、悪性新生物(0.32対0.26;差0.06;調整済みHR,1.26)、感覚障害(1,000人・年あたり0.80対0.97;差?0.17;調整済みHR,0.82)。妊婦のインフルエンザワクチン接種は幼児期の感染症(1,000人・年あたり184.6対179.1;差5.44;調整済みIRR,1.07)、救急や入院患者の医療サービスの利用(1,000人・年あたり511.7対477.8;差33.9;調整済みIRR,1.05)と有意に関連していなかった。したがって、著者らは、妊婦のインフルエンザワクチン接種は、幼児期の健康への悪影響のリスク上昇と有意に関連していなかった、と結論している。妊娠中の季節性インフルエンザワクチン接種により、母体および新生児のインフルエンザ感染を減らすことが可能である。妊娠中の季節性インフルエンザワクチン接種が小児期の健康へ与える影響に関する証拠は限られているが、今回のカナダでのデータベースコホート研究では、妊娠中の母体インフルエンザワクチン接種は、幼児期の健康への影響は認められなかった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期においてもインフルエンザワクチン接種の重要性が叫ばれているが、妊婦へのインフルエンザワクチン接種推奨にあたって参考となる報告と考える。
寛解期の関節リウマチに用いる従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬の半用量と一定用量が再燃に及ぼす作用の比較:ARCTIC REWIND無作為化臨床試験
寛解期の関節リウマチに用いる従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬の半用量と一定用量が再燃に及ぼす作用の比較:ARCTIC REWIND無作為化臨床試験
Effect of Half-Dose vs Stable-Dose Conventional Synthetic Disease-Modifying Antirheumatic Drugs on Disease Flares in Patients With Rheumatoid Arthritis in Remission: The ARCTIC REWIND Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 May 4;325(17):1755-1764. doi: 10.1001/jama.2021.4542. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(csDMARD)を投与している関節リウマチ(RA)患者で寛解維持が達成可能な治療目標となっているが、臨床的寛解患者をどう治療するのが最適であるかは明らかになっていない。【目的】寛解を維持しているRA患者を対象に、csDMARD漸減が再燃リスクに及ぼす影響をcsDMARD一定量継続と比較すること。【デザイン、設定および参加者】ARCTIC REWINDは、ノルウェーの病院内リウマチ診療所10施設で実施した多施設共同並行群間非盲検無作為化非劣性試験であった。2013年6月から2018年6月までの間に、csDMARD一定用量を投与し12カ月間寛解を維持しているRA患者160例を登録した。最終来院は2019年6月であった。【介入】患者をcsDMARD半用量群(80例)とcsDMARD一定用量群(80例)に無作為化により割り付けた。【主要評価項目】主要評価項目は、試験開始から12カ月後の追跡調査までに再燃を認めた患者の割合とし、Disease Activity Score(DAS)スコア1.6超(RA寛解の閾値)、DASスコア0.6以上増加、腫脹関節数2カ所以上を再燃と定義した。このほか、患者および医師がともに臨床的に重大な再燃が生じたことを合意した場合も疾患の再燃とした。リスク差20%を非劣性マージンと定義した。【結果】登録した患者160例(平均年齢55.1歳[SD 11.9];女性66%)のうち、156例に割り付けた治療を実施し、このうち重大なプロトコールの逸脱が認められなかった155例を主要解析集団とした(半用量群77例、一定用量群78例)。csDMARD半用量群の19例(25%)が再燃したのに対して、一定用量群では5例(6%)に再燃を認めた(リスク差18%、95%CI 7-29)。半用量群の34例(44%)および一定用量群の42例(54%)に有害事象が発現したが、試験中止に至る患者はいなかった。死亡は認められなかった。【結論および意義】csDMARDを投与している寛解期RA患者で、12カ月間で再燃した患者の割合について、半用量による治療の一定用量に対する非劣性が示されなかった。一定用量群の方が再燃した患者数が有意に少なかった。以上の結果から、半用量投与は支持されない。 第一人者の医師による解説 寛解維持でリウマチ薬減量を希望する患者は多く 医師の丁寧な説明が必要 伊藤 聡 新潟県立リウマチセンター副院長 MMJ. December 2021;17(6):181 欧州リウマチ学会(EULAR)の推奨では、関節リウマチ(RA)患者が従来型抗リウマチ薬(csDMARDs)を使用し寛解を維持していた場合、csDMARDsの減量を考慮することが示唆されている(1)。しかしその根拠となる確固としたエビデンスはない。本論文は、ノルウェーの病院リウマチ科10施設で行われた、36カ月間の多施設共同、無作為化、非盲検、並行群間比較、非劣性試験(ARCTICREWIND試験)の報告である。寛解を維持しているRA患者を、csDMARDsを半量に減量する群と、減量しない群に分けて、再燃のリスクについて検討した。主要評価項目は、ベースラインから12カ月後までの再燃である。再燃の定義は、(1)DiseaseActivityScore(DAS)が1.6を超える(2)DASが0.6以上増加する(3)腫脹関節が2カ所以上ある(4)患者と主治医の双方が臨床的に再燃したと判断した──の組み合わせとし、非劣性マージンは20%とした。減量群77人、非減量群78人が主要評価項目の解析対象とされた。両群ともに、メトトレキサート(MTX)の単剤療法が多く(減量群:経口52人、皮下注14人、非減量群:経口51人、皮下注10人)、その他スルファサラゾピリジンやヒドロキシクロロキンの併用、他のcsDMARDsの単剤あるいは併用療法が行われていた。MTX使用量は平均で19mg/週程度であった。結果、再燃は減量群の25%、非減量群の6%に認められた(リスク差18%)。有害事象は減量群で44%、非減量群で54%に発現し、主に上気道感染などの軽度の感染症であった。重篤な有害事象の発現率は減量群5%、非減量群3%で、治療中止例や死亡例はなかった。本試験は、寛解維持患者においてcsDMARDsの半量減量は、12カ月間の再燃率に関して非減量に対する非劣性を示すことができず、再燃は非減量群で有意に少なかった。このことは、寛解を維持していても、csDMARDsを半量に減量する戦略を支持しない結果となった。RA患者は臨床的寛解を導入し維持できると、治療費、副作用の懸念などから抗リウマチ薬の減量や中止を希望することが多い。当院では生物学的製剤を中止する、いわゆるバイオフリーを実践し維持しているが(2)、本研究の結果からは、csDMARDsの減量は行わない方がよいだろう。筆者は、患者には「再燃すると再び寛解に導入するのは難しいので、寝た子は起こさないようにしましょう」と説明している。 1. Smolen JS,et al.Ann Rheum Dis.2020;79(6):685-699.2. Ito S,et al.Mod Rheumatol.2021;31(4):919-923.