「ICU」の記事一覧

COVID-19重症患者の院内心停止 多施設共同コホート研究
COVID-19重症患者の院内心停止 多施設共同コホート研究
In-hospital cardiac arrest in critically ill patients with covid-19: multicenter cohort study BMJ. 2020 Sep 30;371:m3513. doi: 10.1136/bmj.m3513. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症患者の院内心停止および心肺蘇生の発生率、危険因子および転帰を推定すること。 【デザイン】多施設共同コホート研究。 【設定】米国の地理的に離れた病院68施設の集中治療科。 【参加者】検査で確定したCOVID-19重症患者(18歳以上)。 【主要評価項目】集中治療室(ICU)入室後14日以内の院内心停止および院内死亡。 【結果】COVID-19重症患者5019例のうち14.0%(5019例中701例)が院内心停止を来し、57.1%(701例中400例)に心肺蘇生を実施した。院内心停止を来した患者は、院内心停止がない患者と比べて高齢で(平均年齢63[標準偏差14]歳 vs. 60[15]歳)、併存疾患が多く、ICU病床数が少ない病院に入院していた傾向にあった。心肺蘇生を受けた患者は、受けなかった患者と比べて若年齢であった(平均年齢61[標準偏差14]歳 vs. 67[14]歳)。心肺蘇生時によく見られた波形は、無脈性電気活動(49.8%、400例中199例)および心静止(23.8%、400例中95例)であった。心肺蘇生を受けた患者400例中48例(12.0%)が生存退院し、わずか7.0%(400例中28例)に退院時神経学的所見が正常または軽度の障害があった。年齢によって生存退院率に差があり、45歳未満で21.2%(52例中11例)であったのに対し、80歳以上では2.9%(34例中1例)であった。 【結論】COVID-19重症患者に心停止がよく見られ、特に高齢患者で生存率が不良である。 第一人者の医師による解説 若年者では助かる見込みが高く 医療従事者の安全確保し標準的蘇生行為の実施を 遠藤 智之 東北医科薬科大学救急・災害医療学教室准教授 MMJ. April 2021;17(2):45 集中治療室(ICU)で治療を要する重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の予期せぬ院内心停止の頻度と予後に関する報告は、本研究発表前までは、武漢の1施設151例とニューヨークの1施設31例の報告に限られていた。重症COVID-19患者が心停止に陥った場合、心肺蘇生法(CPR)施行前の個人防護具(PPE)装着に時間を要し、CPRの遅れが患者転帰に影響しうる。また医療従事者にとってはCPRによるエアロゾル発生が感染のリスクとなる。心停止に陥るリスクが高く、CPRを行っても救命の見込みが乏しい患者では、事前に患者・家族と医療チーム内で協議を行い、無益な蘇生行為を差し控えるという意思決定が尊重されるだろう。このような議論を行う際、リアルワールドでの院内心停止例の疫学情報が必要となる。 本研究は、2020年3月4日~6月1日に米国68病院のICUに入室した重症COVID-19患者のレジストリデータを解析した多施設共同研究である。登録期間はデキサメタゾン治療の普及前である。ICU入室14日以内の予期せぬ心停止患者について、薬物療法、人工呼吸器、腎代替療法、血液データ、バイタルサイン、併存症、修正 SOFAスコア、CPRで使用した薬剤などのデータを解析した。結果は、ICU入室患者5,019人中701人(14%)が院内心停止を来し、そのうち93.2%が死亡した。院内心停止例の57.1%がCPRを受け、残りは心停止時にDNACPR(Do Not Attempt Resuscitation)コードであった。CPR施行例の33.8%で心拍再開が得られ、12%は病院退院、7%はCPC(cerebral performance category)スコア1/2であった。45歳未満の生存率は21.2%で、80歳以上の2.9%に比べ有意に高かった。初期調律は無脈性電気活動49.8%、心静止23.8%、心室細動3.8%、心室頻拍8.3%であり、心停止の原因は非心原性(呼吸由来や血栓症)である可能性が高いと考えられた。ICU入室から心停止までの期間中央値は7日であり、CPR施行例は若年者に多く、平均CPR実施時間は10分であった。ICUベッドが少ない(50床未満)の病院では死亡率が高く、非心停止例に比べて心停止例は心血管危険因子を有し、血液データが不良、2剤以上の血管収縮薬を投与されていた。日本と異なる患者背景として、3分の2以上がBMI30以上の肥満であった。高齢者はCPRされないことが多く、生存率も低かった。 このようなリアルワールドでの院内心停止のデータは、重症COVID-19患者とその家族との終末期ケアの議論に有益な情報である。対象患者は肥満が多く、そのまま日本のICU患者に当てはめることはできないが、若年者では重症COVID-19であっても助かる見込みが高く、医療従事者の安全を確保しつつ標準的蘇生行為を行う重要性を示している。
院外亜硝酸ナトリウム投与が心停止後病院到着までの生存率にもたらす効果 無作為化臨床試験
院外亜硝酸ナトリウム投与が心停止後病院到着までの生存率にもたらす効果 無作為化臨床試験
Effect of Out-of-Hospital Sodium Nitrite on Survival to Hospital Admission After Cardiac Arrest: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jan 12;325(2):138-145. doi: 10.1001/jama.2020.24326. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】心停止モデル動物で、蘇生時に亜硝酸ナトリウムを投与することによって生存率が改善することが認められているが、ヒトを対象とした臨床試験で有効性が評価されていない。 【目的】院外心停止の蘇生時に救急医療隊員が亜硝酸ナトリウムを非経口投与することによって病院到着までの生存率が改善するかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】米ワシントン州キング郡で、心室細動の有無を問わず院外心停止を来した成人1502例を対象とした第II相二重盲検プラセボ対照無作為化臨床試験。2018年2月8日から2019年8月19日の間に救急医療隊員が蘇生処置を実施した患者を登録した。2019年12月31日までに追跡調査とデータ抽出を終えた。 【介入】適格な院外心停止患者を亜硝酸ナトリウム45mg(500例)、亜硝酸ナトリウム60mg(498例)、プラセボ(499例)を投与する群に(1対1対1の割合で)無作為に割り付け、蘇生処置実施中にできるだけ早くボーラス投与した。 【主要評価項目】主要評価項目は病院到着時の生存率とし、片側仮説検定で評価した。副次評価項目は、院外変数(自己心拍再開率、再心停止率、血圧維持を目的としたノルエピネフリン使用)と院内変数(退院時の生存率、退院時の神経学的転帰、24、48、72時間までの累積生存率、集中治療室在室日数)とした。 【結果】無作為化した院外心停止患者1502例(平均年齢64歳[SD 17]、女性34%)のうち99%が試験を完了した。全体で、亜硝酸ナトリウム45mg群の205例(41%)、同60mg群の212例(43%)、プラセボ群の218例(44%)が病院到着まで生存していた。45mg群とプラセボ群の平均差は-2.9%(片側95%CI -8.0%~∞、P=0.82)、60mg投与群とプラセボ群の平均差は-1.3%(片側95%CI -6.5%~∞、P=0.66)であった。事前に規定した副次評価項目7項目には有意差は認められず、退院時の生存者数が亜硝酸ナトリウム45mg群66例(13.2%)、同60mg群72例(14.5%)、プラセボ群74例(14.9%)で、亜硝酸ナトリウム45mg群とプラセボ群の平均差は-1.7%(両側検定の95%CI -6.0~2.6%、P=0.44)、同60mg群とプラセボ群の平均差は-0.4%(同-4.9~4.0%、P=0.85)であった。 【結論および意義】院外心停止を来した患者で、亜硝酸ナトリウムの投与は、プラセボと比較して病院到着時の生存率が有意に改善することはなかった。この結果から、院外心停止の蘇生時に亜硝酸ナトリウムの使用は支持されない。 第一人者の医師による解説 心肺停止蘇生後の神経障害抑制 他の薬剤も含めさらなる研究の進展を期待 今井 寛 三重大学医学部附属病院救命救急・総合集中治療センター センター長・教授 MMJ. April 2021;17(2):58 心停止患者において脳神経障害は主な死因であり、蘇生された患者のほとんどは意識を取り戻すことはない。心肺蘇生法の進歩にもかかわらず、米国で2005~15年に収集されたデータによると、院外心停止後に自己心拍再開した患者の80%以上が退院前に死亡している。亜硝酸投与療法は虚血と再灌流後の細胞障害とアポトーシスを抑制し、また多数の動物モデルにおいて細胞保護効果を認めている。げっ歯類の心停止モデルでは、蘇生中に低用量亜硝酸塩を単回静脈内投与すると生存率が48%向上したと報告されている。他の動物モデルでは、心停止後の再灌流初期の亜硝酸塩濃度が10~20μMの間であれば生存率の改善と関連していることが示唆された。院外心停止患者125人を対象とした第1相非盲検試験の結果では、心停止の場合、蘇生中に亜硝酸ナトリウム45mgまたは60mgを投与すると投与後10~15分以内に血清中亜硝酸濃度が10~20μMに到達した(1)。 本研究はこれらの知見に基づき、院外心肺停止の傷病者に対して蘇生中に亜硝酸ナトリウムを急速静注することによって生存入院率が上がるかどうかについて第2相無作為化二重盲検プラセボ対照試験として検討された。ワシントン州キング郡で2018年2月8日~19年8月19日に登録された院外心停止患者(すべての初期波形を対象、外傷を除く)は1,502人で、亜硝酸ナトリウム45mg群(500人)、60mg群(498人)、プラセボ群(生食、499人)に無作為に割り付けられ、救急隊員が蘇生中にできる限り早く静注した。その結果、生存入院した患者は亜硝酸ナトリウム45mg群205人(41%)、60mg群212例(43%)、プラセボ群218人(44%)であり、プラセボ群との平均差は45mg群で-2.9%(片側95% CI, -8.0%~∞;P=0.82)、60mg群で-1.3%(片側95% CI, -6.5%~∞;P=0.66)といずれも有意差を認めなかった。事前に設定した7つの副次評価項目(再心停止率、救急隊員によるノルアドレナリン使用、自己心拍再開率、集中治療室[ICU]滞在日数、24・48・72時間までの累積生存率、退院までの生存率、および退院時の神経学的状態)についても有意差を認めなかった。したがって、著者らは院外心肺停止に対する蘇生中の亜硝酸ナトリウム静注は支持されないと結論付けている。 心肺停止蘇生後の神経障害抑制は重要な課題であり、亜硝酸ナトリウムだけでなく他の薬剤も含めてさらなる研究が進むことを期待する。 1. Kim F, et al. Circulation. 2007;115(24):3064-3070.
重篤患者に用いる人工呼吸器のウィーニングおよび離脱の実践
重篤患者に用いる人工呼吸器のウィーニングおよび離脱の実践
Ventilator Weaning and Discontinuation Practices for Critically Ill Patients JAMA. 2021 Mar 23;325(12):1173-1184. doi: 10.1001/jama.2021.2384. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】重篤な患者のほとんどが侵襲的人工呼吸療法(invasive mechanical ventilation:IMV)を受けるが、実臨床でどのようにIMVから離脱しているかを明らかにした研究はほとんどない。 【目的】地域によるIMV離脱法のばらつき、初回離脱と予後の関連性、離脱方法の選定と初回自発呼吸トライアル(SBT)不成功の関連因子を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】世界6地域19カ国の142の集中治療室(ICU)(カナダ27施設、インド23施設、英国22施設、欧州26施設、オーストラリア・ニュージーランド21施設、米国23施設)で、24時間以上IMVを受ける重篤患者を検討した国際共同前向き観察研究。 【曝露】IMV。 【主要評価項目】主解析で、初回IMV離脱方法(抜管、自発呼吸トライアル[SBT]または気管切開)と臨床転帰(人工呼吸期間、ICUおよび院内死亡率、ICU入室および入院日数)の関連性を明らかにした。副次解析で、SBTの結果とSBTのタイミングおよび臨床転帰の関連性を検討した。 【結果】1,868例(年齢中央値[四分位範囲]、61.8(48.9~73.1)歳;男性1,173例[62.8%])のうち、424例(22.7%)に直接抜管、930例(49.8%)に初回SBT実施(761例[81.8%]が成功)、150例(8.0%)に気管切開を実施し、364例(19.5%)が離脱前に死亡した。各地域で、治療、毎日のスクリーニング、SBTの手法、換気モードに関する指示書の使用および離脱に携わる臨床医が果たす役割に差があった。直接抜管と比べると、初回SBTの方がICU死亡率が高く(20例[4.7%] vs 96例[10.3%]、絶対差5.6%[95%CI、2.6~8.6])、人工呼吸器装着期間が長く(中央値2.9日 vs 4.1日;絶対差1.2日、[95%CI、0.7~1.6])、ICU在室期間が長かった(中央値6.7日 vs 8.1日;絶対差1.4日[95%CI、0.8~2.4])。初回SBTが不成功の患者は、成功した患者よりもICU死亡率が高く(29例[17.2%] vs 67例[8.8%]、絶対差8.4%[95%CI、2.0~14.7])、人工呼吸器装着期間(中央値6.1日 vs 3.5日;絶対差2.6日[95%CI、1.6~3.6])およびICU在室期間が長かった(中央値10.6日 vs 7.7日;絶対差2.8日[95%CI、1.1~5.2])。早期に初回SBTを実施した患者に比べると、後期(挿管から2.3日以降)に実施した患者の方が人工呼吸器装着期間(中央値2.1日 vs 6.1日;絶対差4.0日[95%CI、3.7~4.5])およびICU在室期間が長く(中央値5.9日 vs 10.8日;絶対差4.9日[95%CI、4.0~6.3])、入院期間が長かった(中央値14.3日 vs 22.8日;絶対差8.5日[95%CI、6.0~11.0])。 【結論および意義】2013~2016年にカナダ、インド、英国、欧州、オーストラリア・ニュージーランド、米国のICU 142施設で侵襲的人工呼吸療法の離脱を検討した観察研究では、地域間で離脱方法にばらつきがあることが示された。 第一人者の医師による解説 直接抜管群が転帰良好 しかし優位性を示すのではなく地域間でウィーニング手技実践にバラツキ 佐々木 勝教 医療法人 横浜未来ヘルスケアシステム 戸塚共立第2病院救急科部長 MMJ. October 2021;17(5):156 本研究は世界6地域19カ国にある142の集中治療室(ICU)で24時間以上人工呼吸管理を受けた患者を対象に人工呼吸器からの離脱法、転帰を前向き観察研究で以下の項目を検討した:主解析では①人工呼吸器からの離脱法(直接抜管[自発呼吸トライアルせずに抜管]、自発呼吸トライアル= SBT、気管切開)②臨床転帰(人工呼吸管理期間、ICUおよび院内死亡率、ICU滞在および入院日数)、副次解析ではSBTのアウトカム、施行のタイミングと臨床転帰の関連。 結果、対象患者1,868人中、22.7%に直接抜管、49.8%に初回 SBT、8.0%に気管切開が実施された。離脱前に死亡した患者は19.5%であった。ただし、地域間で、離脱に関する手順書の使用、毎日のスクリーニング、SBTの手法、換気モード、離脱において臨床医の果たす役割に関して差異がみられた。直接抜管群と比較し、初回SBT群の方が、ICU死亡率が高く(4.7 対 10.3%)、人工呼吸器装着期間(中央値2.9 対 4.1日)、ICU滞在日数(中央値6.7 対 8.1日)も長かった。また、初回 SBTが不成功だった群は、成功した群と比較し、ICU死亡率が高く(17.2 対 8.8%)、人工呼吸器装着期間(中央値6.1 対 3.5日)、ICU滞在日数もより長い傾向だった(中央値10.6 対 7.7日)。早期にSBTが成功した群と、挿管から3.3日以降の時期(後期)に成功した群との比較でも同様の傾向がみられ、人工呼吸器装着期間(中央値2.1 対 6.1日)、ICU滞在期間(中央値5.9 対 10.8日)、入院日数(中央値14.3 対 22.8日)は長かった。 結果を表層的に解釈すると、SBTより直接抜管(しかも8.5%が計画外抜管)を選択した方が、転帰が良好な印象を受ける。この点は併載された論説1でも指摘しており、背景としてSBT施行群の方が、より高齢で、悪性腫瘍、高血圧の合併率が高い可能性があることが問題とされている。同様に早期 vs 後期のSBTの比較でも、早期 SBTを実施できない理由が明確になっていない。また、各地域間でウィーニング手技のバラツキが結果に影響した可能性がある。例えば、直接抜管は米国で同国全体の約4%であったが、オーストラリア/ニュージーランドでは両国全体のおよそ6割であった。このように、本論文の結語においては、バラツキの補正が十分ではないため、直接抜管の優位性を示すのではなく、各地域、施設でのウィーニング手技はさまざまであったと結論づけている。
重症急性腎障害に用いる2通りの腎代替療法開始遅延戦略の比較(AKIKI 2試験):多施設共同非盲検無作為化対照試験
重症急性腎障害に用いる2通りの腎代替療法開始遅延戦略の比較(AKIKI 2試験):多施設共同非盲検無作為化対照試験
Comparison of two delayed strategies for renal replacement therapy initiation for severe acute kidney injury (AKIKI 2): a multicentre, open-label, randomised, controlled trial Lancet. 2021 Apr 3;397(10281):1293-1300. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00350-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】重度の合併症がない重症急性腎障害で腎代替療法(RRT)開始をある程度遅らせることは安全であり、医療機器の使用が最適化できる。リスクがなくRRTを延期できる期間についてはいまだに明らかになっていない。本試験の目的は、開始をさらに遅らせることでRRTを受けない日数が長くなるという仮説を検証することであった。 【方法】本試験は、フランスの39の集中治療室で実施された多施設共同非遮蔽前向き非盲検無作為化対照試験であった。重症急性腎障害(Kidney Disease: Improving Global Outcomesステージ3と定義)の重篤患者を乏尿が72時間を超えるまで、または血中尿素窒素濃度が112mg/dLを超えるまでモニタリングした。その後、患者を直後にRRTを開始する戦略(遅延戦略)と長期遅延戦略に(1対1の割合で)割り付けた。長期遅延戦略では、必須の適応症(顕著な高カリウム血症、代謝性アシドーシスまたは肺水腫)が生じるか血中尿素窒素濃度が140mg/dLに達するまでRRTの開始を延期した。主要評価項目は、無作為化から第28日まで生存しRRTを受けなかった日数とし、intention-to-treat集団で評価した。本試験はClinicalTrial.govに登録され(NCT03396757)、終了している。 【結果】2018年5月7日から2019年10月11日までの間に、評価した5,336例のうち278例を無作為化し、137例を遅延群、141例を長期遅延群に割り付けれた。急性腎障害またはRRT関連の可能性がある合併症数は、両群同等であった。RRTを受けなかった日数中央値は、遅延群では12日(IQR 0~25)、長期遅延群では10日(IQR 0~24)であった(P=0.93)。多変量解析で、遅延群に対する長期遅延群の60日時の死亡のハザード比は1.65(95% CI 1.09~2.50、P=0.018)であった。急性腎障害またはRRTに関連する可能性のある合併症の数には両群間で差がなかった。 【解釈】乏尿が72時間を超えるか血中尿素窒素濃度が112mg/dLを超える重症急性腎障害患者で、即時RRTを要する重度合併症がない場合、RRT開始を長く延期しても便益は得られず、有害となる可能性がある。 第一人者の医師による解説 エビデンスの蓄積で透析開始基準のより明確化を期待 根本佳和(助教)/寺脇博之(教授) 帝京大学ちば総合医療センター第三内科(腎臓内科) MMJ. October 2021;17(5):147 急性腎障害(AKI)における緊急透析の適応基準は存在するものの、それに該当しない重症患者に対する腎代替療法(RRT)開始タイミングについては議論が分かれる。「透析はまだ待てる」、逆に「もう少し早くに連絡して欲しかった」とコンサルテーションを依頼した専門医に言われ、一体どのタイミングが正解だったのかと思い悩んだ医師も多いのではないだろうか。本論文はこの、「透析はどこまで待つか」というシンプルだがいまだ答えが曖昧な疑問に対する重要なエビデンスである。 著者らはフランスの39施設の集中治療室(ICU)において多施設共同ランダム化対照試験を実施した。重症 AKI(Kidney Disease: Improving Global Outcomes[KDIGO]分類のstage3)患者を、72時間以上の乏尿または尿素窒素(BUN)112 mg/dL超になるまでモニターした後、遅延群(delayed strategy:ランダム化直後にRRTを開始)と長期遅延群(more-delayed strategy:いわゆる緊急導入徴候[高カリウム血症・代謝性アシドーシス・肺水腫]の出現、またはBUN140mg/dL超でRRTを開始)の2群にランダムに割り付けた。評価対象となった患者は5,336人であり、そのうち278人がランダム化を受け、137人が遅延群、141人が長期遅延群に割り付けられた。主要評価項目のRRT-free daysは生存とRRTの期間の複合アウトカムであり、ランダム化から28日目までの期間において生存患者でRRTを実施しなかった日数がカウントされた。結果、RRT-free days中央値に関して遅延群と長期遅延群で有意差はなかった(12日対10日;P=0.93)。また、副次評価項目の1つである60日後の死亡率は、遅延群44%、長期遅延群55%と有意差はなかったが(P=0.071)、長期遅延群は60日後の死亡に関する有意な危険因子であることが多変量解析で示された(ハザード比,1.65;95%信頼区間,1.09〜2.50;P=0.018)。すなわち、透析開始を必要以上に遅延させることの有益性はなく、むしろ有害性と関連している、と著者らは結論づけている。 日本の臨床では、本試験の長期遅延群に該当するまでRRT開始を延期することは少ないと思われる。遅延群もしくはそれ以前の段階において緊急導入徴候が出現した際にRRTを開始することが多いのではないだろうか。著者のGaudryらは、AKIにおけるRRTの早期導入と晩期導入に関するメタ解析で、28日全死亡率に有意差がなかったとも報告している(1)。RRT開始は『早すぎず遅すぎず』のスタンスで良いことはわかってきたが、本論文のようなエビデンスがさらに蓄積されることで開始基準がより明確化されることに期待したい。 1. Gaudry S, et al. Lancet. 2020;395(10235):1506-1515. (MMJ 2020年12月号で紹介)
帝王切開術を受ける肥満女性に用いる局所陰圧閉鎖療法と標準的創傷被覆の比較:多施設共同並行群間無作為化対照試験
帝王切開術を受ける肥満女性に用いる局所陰圧閉鎖療法と標準的創傷被覆の比較:多施設共同並行群間無作為化対照試験
Closed incision negative pressure wound therapy versus standard dressings in obese women undergoing caesarean section: multicentre parallel group randomised controlled trial BMJ. 2021 May 5;373:n893. doi: 10.1136/bmj.n893. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】帝王切開術を受ける肥満女性で、創部陰圧療法(NPWT)の手術部位感染(SSI)予防効果を標準的創傷被覆と比較すること。 【デザイン】多施設共同、実用的、無作為化、並行群間対照、優越性試験。 【設定】2015年10月から2019年11月、オーストラリアの三次病院4施設。 【参加者】妊娠前のBMIが30以上で、選択的または準緊急の帝王切開術を受けて出産した女性を適格とした。 【介入】同意を得た女性2035例を帝王切開術施行前に閉鎖切開創NPWT群(1,017例)と標準的ドレッシング群(1,018例)に無作為化により割り付けた。皮膚が閉鎖するまで割り付けを秘匿した。 【主要評価項目】主要評価項目はSSIの累積発生率とした。SSIの深度(表層、深部、臓器・体腔)、創部合併症(離開、血腫、漿液種、出血、皮下出血)発現率、入院期間、被覆関連の有害事象発現率を副次評価項目とした。参加女性と医師は盲検化しなかったが、評価者と統計家には治療の割り付けを盲検化した。事前に定めたintention to treat主解析は、データが欠落している症例(28例)にSSIが発生しなかったとする保守的な仮定に基づくこととした。事後感度分析に最良症例分析と完全症例分析を用いた。 【結果】主解析では、NPWT群の75例(7.4%)、標準的創傷被覆群の99例(9.7%)にSSIが発生した(リスク比0.76、95%CI 0.57~1.01;P=0.06)。欠落データの影響を探索する事後感度分析で、同方向の効果(NPWTによるSSIの予防効果)が統計的有意性をもって認められた。NPWT群996例中40例(4.0%)、標準的創傷被覆群983例中23例(2.3%)に皮膚水疱形成が見られた(リスク比1.72、1.04~2.85;P=0.03)。 【結論】帝王切開術後の肥満女性に用いる予防的閉鎖切開創NPWTで、標準的創傷被覆よりもSSIリスクが24%低下した(絶対リスク3%低下)。この差は統計的有意性には届かなかったが、この集団でのNPWTの有効性を過小評価していると思われる。保守的な主解析、多変量調整解析および事後感度分析の結果を検討する際は、閉鎖切開創NPWTの便益に関する科学的根拠が蓄積されつつあることや、世界で帝王切開術を受ける肥満女性の数を考慮に入れる必要がある。NPWTの使用は、皮膚水疱形成の増加や経済的配慮との兼ね合いも考え、患者との共有意思決定に基づき決定しなければならない。 第一人者の医師による解説 帝王切開後の予防的局所陰圧閉鎖療法 経済的効果と併せて有害事象も検討する必要あり 渡邉 学 東邦大学医学部医学科外科学講座 一般・消化器外科学分野教授 MMJ. October 2021;17(5):153 手術部位感染(surgical site infection;SSI)とは手術操作が直接及ぶ部位の感染症であり、一旦発症すると患者の予後に影響を及ぼすだけでなく、入院期間の延長や経済的負担の増加をもたらす。日本外科感染症学会による調査研究(1)では、腹部手術におけるSSI発症患者では術後平均在院日数が18日延長し、術後平均医療費は658,801円高額になることが報告され、SSI対策の医療経済的な重要性が示された。 一方、世界における帝王切開実施率は地域によって大きく異なり、北欧諸国と比較し、オーストラリア、カナダ、英国、米国などの西側諸国では実施率が高いと報告されている(15~17% 対 25~32%)(2)。また、オーストラリアでは女性の50%以上が妊娠に入ると肥満になると報告されている。 本論文は、オーストラリアの4つの病院で実施された多施設ランダム化対照試験の報告である。2015年10月~19年11月に、世界保健機関(WHO)の定義による体格指数(BMI)30.0以上の肥満患者で帝王切開にて出産した女性2,035人を対象とし、創閉鎖後の創処置としてランダムに割り付けた局所陰圧閉鎖療法(NPWT)群(n = 1,017)と対照群(n = 1,018)の間でSSI発生率の比較を行った。NPWT群は80 mmHgの連続的な負圧を適用し、対照群は通常使用している標準的創傷被覆(ドレッシング)材を使用し、両群とも5?7日間そのままとした。その結果、手術後30日までのSSI発生率は、全体で8.6%、NPWT群7.4%、対照群9.7%であった。対照群と比較し、NPWT群のSSI発生の相対リスクは24%低下し、統計学的に有意ではなかったが絶対リスクは3%低下することが示された。一方、ドレッシング関連の有害事象として、NPWT群では対照群と比較し皮膚水疱発生の相対リスクが72%上昇し、絶対リスクは有意に2%上昇していた。 本研究にて、帝王切開後の予防的 NPWTはSSI発生低減に効果的である可能性が示された。しかし、世界で約2,970万人の出生が帝王切開であることを考えると、この有害事象発生結果は臨床的に重要であり、予防的 NPWTの実施については経済的効果と併せて検討する必要がある。 日本でも帝王切開を含む腹部手術創に対する予防的 NPWTが保険収載されたが、集中治療室(ICU)管理が必要である切開創 SSI高リスク患者で、BMI30 以上の肥満患者や糖尿病などの全身疾患を有する患者などが対象であり、現状では適応症例は限定されている。 1. 草地信也ら . 日本外科感染症学会雑誌 . 2010;7: 185-190. 2. OECD (2019), Health at a Glance 2019: OECD Indicators, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/4dd50c09-en.
重症患者における消化管出血予防の有効性と安全性:システマティックレビューとネットワークメタアナリシス
重症患者における消化管出血予防の有効性と安全性:システマティックレビューとネットワークメタアナリシス
Efficacy and safety of gastrointestinal bleeding prophylaxis in critically ill patients: systematic review and network meta-analysis BMJ 2020 Jan 6;368:l6744. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】重症患者において、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、ヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)、スクラルファート、または消化管出血予防薬(またはストレス性潰瘍予防薬)なしの、患者にとって重要なアウトカムへの相対影響を明らかにする。 【デザイン】系統的レビューとネットワークメタ解析。 【データソース】2019年3月までのMedline、PubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、試験登録、グレー文献。 【ELIGIBILITY CRITERIA FOR SELECTING STUDIES AND METHODS]】成人の重症患者においてPPI、H2RA、スクラルファートの消化管出血予防と他、プラシーボ、予防薬なしを比較したランダム化対照臨床試験を対象とした。2名の査読者が独立して研究の適格性を審査し、データを抽出し、バイアスのリスクを評価した。並行して行われたガイドライン委員会(BMJ Rapid Recommendation)が,患者にとって重要なアウトカムの特定など,システマティックレビューの重要な監視を行った。ランダム効果ペアワイズメタ解析とネットワークメタ解析を行い,GRADEを用いて各アウトカムのエビデンスの確からしさを評価した.低リスクの研究と高バイアスリスクの研究で結果が異なる場合は、前者を最良推定値とした。出血のリスクが最も高い(8%以上)または高い(4~8%)患者では、PPIとH2RAの両方が、プラセボまたは予防薬なしに比べて、臨床的に重要な消化管出血をおそらく減らす(PPIのオッズ比 0.61(95% 信頼区間 0.42~0.89)、3.42 to 0.89)、最高リスク患者で3.3%少なく、高リスク患者で2.3%少なく、中程度の確実性;H2RAに関するオッズ比0.46(0.27 to 0.79)、最高リスク患者で4.6%少なく、高リスク患者で3.1%少なく、中程度の確実性).両者とも無予防に比べ肺炎のリスクを高める可能性がある(PPIのオッズ比 1.39 (0.98 to 2.10), 5.0% 増、確実性低、H2RAのオッズ比 1.26 (0.89 to 1.85), 3.4% 増、確実性低)。どちらも死亡率には影響しないと思われる(PPI 1.06 (0.90 to 1.28), 1.3% 増, 中程度; H2RA 0.96 (0.79 to 1.19), 0.9% 減, 中程度)。それ以外では、死亡率、Clostridium difficile感染、集中治療室滞在期間、入院期間、人工呼吸期間への影響を裏付ける結果は得られなかった(証拠の確実性は様々)。 【結論】リスクの高い重症患者では、PPIとH2RAは予防薬なしと比較して消化管出血の重要な減少につながると考えられる;リスクの低い患者では、出血の減少は重要でない可能性がある。PPIとH2RAの両方が肺炎の重要な増加をもたらす可能性がある。死亡率やその他の院内罹患アウトカムに対する介入の重要な効果はないことが、質の低いエビデンスによって示唆された。 第一人者の医師による解説 肺炎のリスクを高める可能性について さらなるRCTが必要 川邊 隆夫 かわべ内科クリニック院長 MMJ.August 2020;16(4) 集中治療室(ICU)に入院を要するような重篤な患者では、消化管出血(ストレス潰瘍)が大きな問題となり、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2RA)を投与することが推奨されている。 しかし、PPIやH2 RAを投与しても死亡率は改善しないという報告が多く、肺炎やClostridium difficile 感染症(CDI)のリスクが高まる可能性なども指摘されており、ストレス潰瘍予防(SUP)の是非について明確な結論は得られていない。 2018年に、国際的な大規模多施設ランダム化比較試験(SUP-ICU)の結果(1)が発表された。この最もエビデンスレベルの高いとされる研究では、PPIは出血を減少させたが、死亡率には影響しなかった。近年、SUP-ICUのほかにも、いくつかの大規模ランダム化比較試験(RCT)が行われており、これらの研究を加えて、ネットワークメタアナリシス(NMA)を行ったのが本論文である。 著者らは2017年1月~19年3月の研究から、12,660人の患者を含む72件(7件はICU外の重症患者)を選択し、PPI、H2RA、スクラルファートについて、死亡、消化管出血、肺炎、CDIなどへの影響を検討している。 その結果、死亡率については、プラセボまたは予防薬なし(無SUP)と比較し、PPI、H2RA、スクラルファートのいずれも改善あるいは増悪の影響は認められなかった。重篤な出血については、出血リスクを最高、高、中、低の4段階に分けた検討において、最高リスク群、高リスク群ではPPIおよびH2RAはともに、プラセボ(無SUPを含む)に比べ、重篤な出血の減少効果が示されたが、中リスク群、低リスク群では効果がみられなかった。スクラルファートの効果ははっきりしなかった。 肺炎については、無SUP と比較し、PP(I オッズ比[OR], 1.39;95% CI, 0.98~2.10)、H2RA(1.26;0.89~1.85)に有意差を認められなかった。しかし、スクラルファートとの比較で、PPI (1.63;1.12~2.46)とH2RA(1.47;1.11~2.03)のほうがリスクは高く、これらの肺炎に対するリスクは否定できないとしている。CDIについては検討している研究は5件のみで、CDI発生率も低く、有意なデータは得られていない。 以上から著者らは、PPIやH2RAは死亡率には影響しない、消化管出血のリスクの高い患者(慢性肝障害、人工呼吸器使用で経腸栄養なし、凝固障害)においてPPI、H2RAは出血を減少させるが、低~中リスクの患者では効果が期待できず有益ではないかもしれない、PPIやH2RAは肺炎のリスクを高める可能性については、さらなるRCTが必要である、と結論している。 1. Krag M et al. N Engl J Med. 2018;379(23):2199-2208.
2017年の集中治療室患者における感染症の有病率および転帰。
2017年の集中治療室患者における感染症の有病率および転帰。
Prevalence and Outcomes of Infection Among Patients in Intensive Care Units in 2017 JAMA 2020 Apr 21;323(15):1478-1487. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】集中治療室(ICU)の患者では、感染が頻繁に発生している。)感染の種類、原因病原体、転帰に関する最新の情報は、予防、診断、治療、資源配分の政策立案に役立ち、介入研究のデザインに役立つ可能性がある。 【目的】世界のICUにおける感染の流行と転帰、利用可能な資源に関する情報を提供する。 【デザイン、設定、参加者】88か国1150施設での縦断追跡調査付き24時間点有病率調査。2017年9月13日08:00から始まる24時間の間に参加ICUで治療を受けたすべての成人患者(18歳以上)を対象とした。最終フォローアップ日は2017年11月13日。 【曝露】感染症診断および抗生物質の受領。 【主要アウトカムおよび測定】感染症と抗生物質曝露の有病率(横断的デザイン)および全原因院内死亡(経時的デザイン)。 【結果】対象患者15202例(平均年齢61.1歳[SD、17.3歳]、男性9181例[60.4%])において、感染症データが得られたのは15165例(99.8%)で、8135例(54%)が感染症の疑いまたは証明、そのうちICU感染症の1760例(22%)であった。合計10 640人(70%)の患者が少なくとも1種類の抗生物質を投与された。感染が疑われるまたは証明された患者の割合は,オーストラレーシアの43%(141/328)からアジアおよび中東の60%(1892/3150)であった.感染が疑われたまたは証明された8135人の患者のうち,5259人(65%)が少なくとも1つの微生物学的培養が陽性であった。これらの患者の67%(n=3540)でグラム陰性微生物が,37%(n=1946)でグラム陽性微生物が,16%(n=864)で真菌性微生物が同定された。感染が疑われる,あるいは感染が証明された患者の院内死亡率は30%(2404/7936)であった.マルチレベル解析では,ICU 内感染は市中感染と比較して高い死亡リスクと独立して関連していた(オッズ比 [OR], 1.32 [95% CI, 1.10-1.60]; P = 0.003).抗生物質耐性微生物のうち,バンコマイシン耐性腸球菌(OR,2.41 [95% CI,1.43-4.06]; P = .001),第3世代セファロスポリンおよびカルバペネム系抗生物質を含むβラクタム系抗生物質に耐性を示すクレブシエラ(OR,1.29 [95% CI,1.02-1.63]; P = .03)またはカルバペネム耐性アシネトバクター種への感染(OR,1.40 [95% CI, 1.08-1.81]; P = .01)は、他の微生物による感染と比較して、死亡リスクの高さと独立して関連していた。 【結論と関連性】2017年9月にICUに入院した世界中の患者のサンプルにおいて、感染の疑いまたは証明がある割合は高く、院内死亡のかなりのリスクを伴うものであった。 第一人者の医師による解説 88カ国、1 ,150施設での自発調査 患者背景などに差 解釈には考慮必要 萬 知子 杏林大学医学部麻酔科学教室主任教授 MMJ.August 2020;16(4) 本論文は、世界の集中治療室(ICU)における感染率観察調査研究の報告である。2017年9月13日午前8時から24時間の調査を、88カ国、1,150施設で行った。総患者数15,202人の感染率は54%であった。地域別では、最も低いオーストラリアの43%から、最も高いアジア・中東の60%までと幅があった。国民総所得別のICU患者感染率は、低~下位中所得国58%、上位中所得国59%、高所得国50%であった。 感染のうち市中感染は44 %、病院関連感染は35%、ICU関連感染は22%であった。感染部位は気道60%、腹腔18%、血液(血流感染)15%であった。抗菌薬投与の実施率は70%(予防的28%、治療目的51%)であった。 検体培養陽性率は65%で、検出菌はグラム陰性菌67%、グラム陽性菌37%、真菌16%であった。市中感染の57 %、病院関連感染の71%、ICU関連感染の78%からグラム陰性菌が分離され、その内訳はクレブジエラ属27 %、大腸菌 25 %、緑膿菌属24%、アシネトバクター属17%であった。グラム陽性菌陽性患者の割合は、市中感染42%、病院関連感染37%、ICU関連感染31%であった。感染の危険因子は、男性、合併症(慢性閉塞性肺疾患、がん、糖尿病、慢性腎不全、HIV、免疫抑制)、調査日前のICU長期滞在であった。感染率は各国内の病院間でバラツキが有意に大きかった。 感染者の院内死亡率は30 %であった。院内死亡の危険因子は、ICU関連感染(対市中)、高齢、Simplified Acute Physiological Score II高値、転移がん、心不全(NYHA III ~ IV)、HIV感染、肝硬変、人工呼吸、腎代替療法、院内急変(対術後)であった。薬剤耐性菌のみに限ると、バンコマイシン耐性腸球菌、広域(第3世代セフェム、カルバペネムを含む)βラクタマーゼ産生クレブジエラ属、カルバペネム耐性アシネトバクター属が独立した院内死亡の危険因子であった。したがって、抗菌薬の適正使用監視が重要である。 本研究の限界は、自発参加のため世界のICUを網羅していないことである。大多数の参加施設は欧州、中国、南米であり、低~下位中所得国の施設は全体の6%のみである。地域により、患者背景、疾患、医療体制、ICU入室基準、医療資源、看護師数、感染防御対策、抗菌薬適正使用監視体制などに差があった。感染に対するこれらの影響は本研究では明らかでないが、調査結果の解釈にはこれらの要素を考慮する必要はあろう。