「乳がん」の記事一覧

治療歴のない局所再発の切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるペムブロリズマブ+化学療法とプラセボ+化学療法の比較(KEYNOTE-355) 無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験
治療歴のない局所再発の切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるペムブロリズマブ+化学療法とプラセボ+化学療法の比較(KEYNOTE-355) 無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験
Pembrolizumab plus chemotherapy versus placebo plus chemotherapy for previously untreated locally recurrent inoperable or metastatic triple-negative breast cancer (KEYNOTE-355): a randomised, placebo-controlled, double-blind, phase 3 clinical trial Lancet. 2020 Dec 5;396(10265):1817-1828. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32531-9. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】転移性トリプルネガティブ乳がんで、ペムブロリズマブ単独療法による抗腫瘍活性の持続と管理可能な安全性が示された。今回、ペムブロリズマブの併用によって、転移性トリプルネガティブ乳がんに用いる化学療法の抗腫瘍活性が増幅するかを明らかにすることを目的とした。 【方法】29カ国209施設で実施したこの無作為化プラセボ対照二重盲検第3相試験では、ブロック法(ブロック数6)と統合ウェブ応答の自動音声応答システムを用いて、未治療の局所再発切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がん患者をペムブロリズマブ(200mg)3週に1回+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセルまたはゲムシタビン+カルボプラチン)とプラセボ+化学療法に無作為に割り付けた。患者を化学療法の種類(タキサンまたはゲムシタビン・カルボプラチン)、試験開始時のPD-L1発現状態(統合陽性スコア[CPS]1点以上または1点未満)および術前または術後補助療法で用いた同等の化学療法による治療歴の有無で層別化した。適格基準を18歳以上、中央判定機関が確定したトリプルネガティブ乳がん、測定可能な腫瘍1個以上、中央検査機関でトリプルネガティブ乳がんの状態およびPD-L1発現を免疫組織学的に確認するために新たに採取した腫瘍検体の提供が可能、米国東海岸癌臨床試験グループの全身状態スコア0または1点、十分な臓器機能とした。スポンサー、治験担当医師、その他の施設職員(治療の割り付けを伏せなかった薬剤師を除く)および患者にペムブロリズマブと生理食塩水の投与の割り付けを伏せた。さらに、スポンサー、治験担当医師、その他の施設職員および患者に患者ごとの腫瘍PD-L1バイオマーカーの結果も知らせずにおいた。PD-L1 CPSが10以上、1以上およびITT集団のそれぞれで評価した無増悪生存期間および総生存期間を主要有効性評価項目とした。無増悪生存期間の最終的な評価はこの中間解析で実施し、総生存期間を評価すべく追跡を継続中である。無増悪生存期間に階層的検定手順を用いて、まずCPSが10以上の患者(この中間解析では事前に規定した統計学的基準がα=0.00111)、次にCPSが1以上の患者(この中間解析ではα=0.00111、CPSが10以上の患者の無増悪生存期間から得たpartial α)、最後にITT集団(この中間解析ではα=0.00111)を評価した。本試験はClinicalTrials.govにNCT02819518で登録されており、現在も進行中である。 【結果】2017年1月9日から2018年6月12日の間に1372例をふるいにかけ、847例を治療に割り付けることとし、566例をペムブロリズマブ+化学療法群、281例をプラセボ+化学療法に割り付けた。2回目の中間解析(2019年12月11日にデータカットオフ)では、追跡期間中央値がペムブロリズマブ+化学療法群25.9カ月(IQR 22.8~29.9)、プラセボ+化学療法群26.3カ月(22.7~29.7)であった。CPSが10以上の患者の無増悪生存期間中央値が、ペムブロリズマブ+化学療法群9.7カ月、プラセボ+化学療法群5.6カ月であった(進行または死亡のハザード比[HR]0.65、95%CI 0.49~0.86、片側のP=0.0012[主要目的達成]。CPSが1以上の患者の無増悪生存期間中央値がそれぞれ7.6カ月と5.6カ月(HR 0.74、0.61~0.90、片側のP=0.0014[有意差なし])、ITT集団で7.5カ月と5.6カ月(HR 0.82、0.69~0.97[検定未実施])であった。ペムブロリズマブの治療効果によってPD-L1発現が増加した。グレード3~5の治療関連有害事象発現率がペムブロリズマブ+化学療法群68%、プラセボ+化学療法群67%であり、そのうちの死亡率がペムブロリズマブ+化学療法群1%未満およびプラセボ+化学療法群0%であった。 【解釈】ペムブロリズマブ+化学療法で、CPSが10以上の転移性トリプルネガティブ乳がんの無増悪生存期間が、プラセボ+化学療法と比べて有意で臨床的意義のある改善が認められた。この結果は、転移性トリプルネガティブ乳がんの1次治療に用いる標準化学療法にペムブロリズマブを上乗せした場合の効果を示唆するものである。 第一人者の医師による解説 化学療法への上乗せ効果が示されたことで 新たな治療選択肢が増える 川端 英孝 虎の門病院乳腺内分泌外科部長 MMJ. June 2021;17(3):87 本論文は2020年に米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された第3相KEYNOTE-355試験の中間解析結果の詳報である。PD-L1発現陽性(Combined Positive Scoreが10以上)の手術不能または転移性のトリプルネガティブ乳がんの1次治療として、抗PD-1モノクローナル抗体ペムブロリズマブと化学療法の併用が、化学療法のみの場合よりも有意に無増悪生存期間(PFS)を延長できるという内容である。なお、PFSはKEYNOTE-355試験の主要評価項目の1つであるが、もう1つの主要評価項目である全生存期間(OS)の評価は未発表で試験は継続されている。 ER陰性、PR陰性、HER2陰性を特徴とするトリプルネガティブ乳がんは他のサブタイプの乳がんに比べ治療ターゲットに欠けており、進行乳がんの治療戦略としては化学療法を主体としたものになるが、早晩治療抵抗性になってしまう。免疫チェックポイント阻害薬に分類されるペムブロリズマブは単剤でも抗腫瘍活性を示し、化学療法との併用が期待されていた。今回この薬剤の化学療法への上乗せ効果が示されたことで、我々は新たな治療選択肢を手に入れたことになる。 同じ免疫チェックポイント阻害薬として先行して2019年9月20日に適応拡大の承認を日本で受けたアテゾリズマブとの比較は重要である。アテゾリズマブは抗PD-L1モノクローナル抗体でIMpassion130試験(1)においてトリプルネガティブ進行乳がんにおける化学療法への上乗せ効果を示した。2つの薬剤の標的は異なっており、それぞれの臨床試験におけるPD-L1陽性例の評価もオーバーラップが多いが別個のコンパニオン診断を用いている。また臨床試験で用いられた化学療法がIMpassion130試験ではnab-パクリタキセルであるのに対してKEYNOTE355試験ではいくつかの化学療法レジメンが用いられている。 KEYNOTE-355試験には当院も含め日本の施設も参加しており、論文発表に先立ちMSD社は2020年10月12日、ペムブロリズマブについて、手術不能または転移性のトリプルネガティブ乳がんへの適応拡大申請を行ったと発表している。執筆時点(2021年4月17日)で審査中となっているが、承認されると、このセッティングの乳がん治療薬としてアテゾリズマブに加えて、新たな免疫チェックポイント阻害薬が加わることになる。なお、マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がんにおいてはがん種横断的にペムブロリズマブの使用が承認されており、この条件を満たせば現在でもペムブロリズマブを乳がんに使用することは可能である。 1. Schmid P, et al. N Engl J Med. 2018;379(22):2108-2121.
標準治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで検討した低用量かつ高頻度のカペシタビン維持療法と経過観察が無病生存率にもたらす効果の比較 SYSUCC-001無作為化臨床試験
標準治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで検討した低用量かつ高頻度のカペシタビン維持療法と経過観察が無病生存率にもたらす効果の比較 SYSUCC-001無作為化臨床試験
Effect of Capecitabine Maintenance Therapy Using Lower Dosage and Higher Frequency vs Observation on Disease-Free Survival Among Patients With Early-Stage Triple-Negative Breast Cancer Who Had Received Standard Treatment: The SYSUCC-001 Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jan 5;325(1):50-58. doi: 10.1001/jama.2020.23370. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】乳がんのサブタイプのうち、トリプルネガティブ乳がんは標準治療後の再発率がいくぶん高く、予後が不良である。再発と死亡リスクを下げる効果的な戦略が求められている。 【目的】早期トリプルネガティブ乳がんで、標準的な術後化学療法後に用いる低用量カペシタビン維持療法の有効性と有害事象を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】2010年4月から2016年12月の間に、中国の大学病院と臨床施設計13施設で実施した無作為化臨床試験。最終追跡調査日は2020年4月30日であった。参加者(443例)は早期のトリプルネガティブ乳がん患者であり、標準的な術後化学療法を終了していた。 【介入】標準的な術後化学療法終了後、適格患者をカペシタビン650mg/m^2を1年間にわたって1日2回投与するグループ(222例)と経過観察するグループ(221例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は無病生存率であった。無遠隔転移生存率、全生存率、局所無再発生存率、有害事象を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した443例のうち、34例を最大の解析対象集団[平均年齢(SD)46(9.9)歳、T1/T2期93.1%、リンパ節転移陰性61.8%]とした(98.0%が試験を完遂)。追跡調査期間中央値61カ月(四分位範囲44~82)の後、イベント94件が発生し、内訳はカペシタビン群38件(再発37例、死亡32例)、経過観察群56件(再発56例、死亡40例)であった。推定5年無病生存率は、カペシタビン群82.8%、観察群73.0%であった(再発または死亡リスクのハザード比[HR]0.64[95%CI 0.42~0.95]、P=0.03)。追跡調査期間中央値61カ月(四分位範囲44-82)の後、イベントが94件発生し、内訳はカペシタビン群38件(再発37件、死亡32件)、観察群56件(再発56件、死亡40件)であった(再発または死亡リスクのHR 0.64、95%CI 0.42~0.95、P=0.03)。カペシタビン群と観察群を比較すると、推定5年無遠隔転移生存率は85.8% vs 75.8%(遠隔転移または死亡リスクのHR 0.60、95%CI 0.38~0.92、P=0.02)、推定5年全生存率は85.5% vs 81.3%(死亡リスクのHR 0.75、95%CI 0.47~1.19、P=0.22)、推定5年局所無再発生存率は85.0% vs 80.8%(局所再発または死亡リスクのHR 0.72、95%CI 0.46~1.13、P =0.15)であった。最も発現頻度が高かったカペシタビン関連の有害事象は手足症候群(45.2%)であり、7.7%からグレード3の有害事象が報告された。 【結論および意義】標準的な術後治療を受けた早期トリプルネガティブ乳がんで、1年間の低用量カペシタビン維持療法によって、経過観察と比べて5年無病生存率が有意に改善した。 第一人者の医師による解説 忍容性高く5年無病生存率を10%上昇 患者選択と至適投与法のさらなる検討必要 三階 貴史 北里大学医学部乳腺・甲状腺外科学主任教授 MMJ. June 2021;17(3):88 近年、乳がん薬物療法の進歩は著しく、ホルモン受容体陽性、またはHER2陽性タイプの転移性乳 がんの予後は年単位で改善した。一方、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に関しては最近、PARP阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬が日本でも保険診療で使用されているが、いまだ予後不良である。 転移性乳がんに対する新たな分子標的治療の開発が進む一方で、経口5-FU製剤はその効果と副作用の少なさから、こと日本では術後療法への応用が1980年代から進められていた。その有効性を示す日本発のエビデンスは2000年代に入って示されたが、高リスク患者に対してはアントラサイクリン系、タキサン系薬剤が国際的な標準治療となるにつれ、高齢者など一部の患者に対する選択肢としての位置づけに留まっていた。しかし、2017年に術前化学療法後に病理学的に腫瘍の残存を認めた患者に対するカペシタビン投与が、特にTNBCで有効であることが日韓国際共同試験の結果で示され(1)、現在NCCNガイドラインでは標準治療として推奨されている(2)。 本論文はTNBC患者に標準的な手術、術前/術後化学療法、放射線療法を行った後、1,300mg/m2/日という低用量(通常2,500mg/m2/日)でカペシタビンを2週内服、1週休薬で1年間投与することの有効性と副作用を明らかにすることを目的として中国で行われた多施設共同試験の結果である。解析対象はカペシタビン群221人、経過観察 群213人、観察期間中央値は61カ月であった。その結果、主要評価項目である5年無病生存率はカペシタビン群で経過観察群よりも有意に高いことが示された(82.8%対73.0%;ハザード比[HR],0.64)。また、副次評価項目である5年無遠隔転移生存率もカペシタビン群の方が有意に高かったが (85.5%対75.8%;HR,0.60)、5年全生存率、5年無局所再発生存率の統計学的有意差は認められなかった。アジア人の経口5-FU製剤に対する忍容性は高いと考えられているが、低用量で行われた本試験でもカペシタビンの相対用量強度(予定投与量に対する実際の投与量の割合)の中央値は85%であり、主な副作用である手足症候群は全グレードで45%、グレード3で8%の発現率であった。 これまでにも乳がん術後カペシタビン投与の有効性を検討する臨床試験はいくつか行われているものの、結果はcontroversialである。いまだ日本では術後療法としての投与は保険適用外であるが、TNBCの予後を改善するためにもカペシタビン投与が必要な患者選択と至適投与法の確立が待たれる。 1. Masuda N, et al. N Engl J Med. 2017;376(22):2147-2159. 2. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology Breast Cancer (Version 4.2021) (https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/breast.pdf)
転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるsacituzumab govitecan
転移性トリプルネガティブ乳がんに用いるsacituzumab govitecan
Sacituzumab Govitecan in Metastatic Triple-Negative Breast Cancer N Engl J Med. 2021 Apr 22;384(16):1529-1541. doi: 10.1056/NEJMoa2028485. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】転移性トリプルネガティブ乳がんは予後が不良である。sacituzumab govitecanは、乳がんの大多数に発現するヒト栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)を標的とする抗体とSN-38(トポイソメラーゼI阻害薬)を特許取得済みの加水分解性リンカーで結合させた抗体薬物複合体である。 【方法】この第III相無作為化試験では、再発または難治性の転移性トリプルネガティブ乳がんを対象に、sacituzumab govitecanと医師が選択した単剤化学療法(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビンのいずれか)を比較した。主要評価項目は、脳転移のない患者の無増悪生存期間(盲検下の独立中央判定委員会が判定)とした。 【結果】脳転移がない患者468例をsacituzumab govitecan群(235例)、化学療法群(233例)に無作為化により割り付けた。年齢中央値は54歳であり、全例にタキサン系薬剤使用歴があった。無増悪期間中央値は、sacituzumab govitecan群が5.6カ月(95%CI、4.3~6.3、166件)、化学療法群が1.7カ月(95%CI、1.5~2.6、150件)であった(進行または死亡のハザード比、0.41;95%CI、0.32~0.52;P<0.001)。総生存期間中央値は、sacituzumab govitecan群が12.1カ月(95%CI、10.7~14.0)、化学療法群で6.7カ月(同5.8~7.7)であった(死亡のハザード比、0.48;95%CI、0.38~0.59、P<0.001)。 客観的奏効率はsacituzumab govitecan群が35%、化学療法群が5%であった。グレード3以上の特記すべき治療関連有害事象は、好中球減少症(sacituzumab govitecan群51%、化学療法群33%)、白血球減少症(10%、5%)、下痢(10%、1%未満)、貧血(8%、5%)、発熱性好中球減少症(6%、2%)であった。有害事象に起因する死亡が各群3例あったが、sacituzumab govitecanと関連があると判断したものはなかった。 【結論】転移性トリプルネガティブ乳がんで、sacituzumab govitecan群の無増悪生存期間および総生存期間が単剤化学療法群よりも有意に長かった。sacituzumab govitecan群の方が骨髄抑制と下痢が多かった。 第一人者の医師による解説 前治療を伴う転移性トリプルネガティブ乳がんに対する単剤での有意な予後延長 井本 滋 杏林大学医学部乳腺外科教授 MMJ. October 2021;17(5):149 ホルモン受容体陰性・HER2陰性のいわゆるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)は予後不良である。遠隔転移を伴わない浸潤がんでは、術前後のアントラサイクリン系およびタキサン系薬剤を用いた薬物療法が標準治療である。転移再発時は残りの化学療法やPD-L1陽性免疫細胞浸潤を伴う腫瘍には抗 PD-L1抗体アテゾリズマブ+ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセルの免疫化学療法が選択されるが、奏効例は限定的である。 サシツズマブゴビテカン(SG)は、トロフォブラスト細胞表面抗原2(Trop-2)を標的とするIgG1抗体とイリノテカンの活性代謝物であるSN-38を加水分解性リンカーで結合させた抗体薬物複合薬である(1)。既治療の転移性 TNBC患者108人を対象とした第1/2相試験では、奏効率は33%で奏効期間の中央値は7.7カ月であった。本論文はその第3相試験(ASCENT)の結果報告である。対象はタキサン系薬剤を含む2レジメン以上が実施された進行再発 TNBCである。進行していない脳転移例も登録されたが、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の解析からは除かれた。SG群と化学療法群(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、またはゲムシタビンの単剤投与)における有効性が比較された。その結果、脳転移を伴わないTNBC患者468人(年齢中央値 54歳)が登録され、SG群は235人、化学療法群は233人であった。PFS中央値はSG群が5.6カ月、化学療法群が1.7カ月であった(ハザード比[HR], 0.41;P<0.001)。全生存期間の中央値はそれぞれ12.1カ月と6.7カ月であった(HR, 0.48;P<0.001)。奏効率はSG群で35%、化学療法群で5%であった。グレード3以上の治療に関連する有害事象の発現率は、それぞれ好中球減少が51%と33%、白血球減少が10%と5%、下痢が10%と1%未満、貧血が8%と5%、発熱性好中球減少が6%と2%であった。有害事象に伴う死亡が各群で3人発生したが、SGに関連する死亡はなかった。サブグループ解析では、前治療におけるPD-1またはPD-L1阻害薬使用の有無、肝転移の有無、前治療の数に関わらず、SG群で化学療法群に比べPFSが改善した。以上から、標準治療が実施された転移性 TNBCでは、骨髄抑制や下痢が高頻度であるものの、SG単剤による有意な生命予後の延長が示された。 1. Bardia A, et al. N Engl J Med. 2019;380(8):741-751.
乳がんの治療法。レビュー
乳がんの治療法。レビュー
Breast Cancer Treatment: A Review JAMA 2019 Jan 22 ;321 (3 ):288 -300 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】乳癌は、生涯を通じて米国女性の12%に診断され、2017年には米国で25万人以上の乳癌の新規症例が診断された。このレビューでは、乳がんの局所および全身療法に関する現在のアプローチと進化する戦略に焦点を当てる。 【観察】乳がんは、エストロゲンまたはプロゲステロン受容体とヒト上皮成長因子2(ERBB2;旧HER2)の分子マーカーの有無に基づいて、ホルモン受容体陽性/ERBB2陰性(70%の患者)、ERBB2陽性(15~20%)、トリプルネガティブ(3つの標準分子マーカーすべてを欠く腫瘍;15%)に大きく分類される。乳がんの90%以上は、診断時に転移を認めません。転移を伴わない場合、治療目標は腫瘍の消失と再発の防止です。トリプルネガティブ乳がんは、他の2つのサブタイプよりも再発しやすく、I期のトリプルネガティブ腫瘍の5年乳がん特異的生存率は85%で、ホルモン受容体陽性およびERBB2陽性では94%~99%となっています。ホルモン受容体陽性の患者さんには内分泌療法を行い、少数派ですが化学療法も行います。ERBB2陽性の患者さんにはERBB2標的抗体または低分子阻害剤と化学療法の併用、トリプルネガティブの患者さんには化学療法単独を行います。非転移性乳癌の局所療法は外科的切除で、腫瘍摘出術を行った場合は術後放射線療法を考慮する。最近では、術前に全身療法を行うことも増えている。術前治療の効果に応じて術後治療を調整することが検討されています。転移性乳がんは、延命と症状緩和を目標に、サブタイプに応じた治療が行われる。転移性トリプルネガティブ乳癌の全生存期間中央値は約1年、他の2つのサブタイプは約5年。 【結論と関連性】乳癌はエストロゲンまたはプロゲステロン受容体の発現と ERBB2 遺伝子増幅により分類される3つの主要な腫瘍サブタイプからなる。この3つのサブタイプは、それぞれ異なるリスクプロファイルと治療戦略を有している。各患者の最適な治療法は、腫瘍のサブタイプ、解剖学的な癌のステージ、患者の嗜好によって異なる。 第一人者の医師による解説 乳がん治療の変遷から学ぶこれからのゲノムによる個別化治療 山内 英子 聖路加国際病院ブレストセンターセンター長 MMJ.June 2019;15(3) 乳がんは世界中で女性が罹患するがんの1位となっている。米国でも生涯において全女性の12% が乳がんに罹患するといわれており、JAMAに乳がん治療のレビューが掲載された。2013年1月 ~18年11月に報告された文献をレビューしたもので、薬物療法に関するレビューのみならず、臨床所見や画像から、さらには人種による違いまでにも言及しており、最新の乳がん診療を知るうえで、 非常にコンパクトにまとめられている。 著者らも「Limitations」で述べているように、米国での現状に即したものになっており、日本の実情とは異なる点もあることは当然加味しての解釈が必要である。その点から、マンモグラムが普及している米国では、半数以上が検診によるマンモグラムの異常が受診契機であり、腫瘤触知は3分の1 である。 乳がんはホルモン受容体の発現の有無、HER2受容体の発現の有無でタイプが分けられ、それによって治療方針が決まってくることは世界共通である。 早くからホルモン受容体の発現の有無によりホルモン療法を加えるか否かという個別化治療が行われてきている。1970年代から化学療法も導入され、時代変遷を経て変化してきている。その後の HER2遺伝子発現をターゲットとした治療法の開発も目をみはるものがあった。また、手術や放射線療法と組み合わせたいわゆる集学的治療も早くから導入されている。さらには、21-Gene Assayのような化学療法の上乗せ効果をみるためのゲノムによるスコアを利用する試みも多くの臨床試験が行われ、実臨床でも用いられている。 このレビューにて乳がん治療の変遷を振り返りながら、ゲノム医療の時代の今、感じることは、乳がんこそが本当に早くからバイオマーカーのタイプに基づく治療法を確立してきた領域と言えよう。まさに、がんが原発の場所による区別ではなく、さまざまな発現遺伝子によって治療法を選択する時代の中で、これからのがん診療におけるゲノムによる個別化医療を学ぶためにも、乳がん治療の変遷を知っておくべきであり、その意味からも JAMAのレビューとして取り上げられている意義深いと思われる。
70歳以上の女性を対象とした年1回のマンモグラフィ検診と乳がん死亡率
70歳以上の女性を対象とした年1回のマンモグラフィ検診と乳がん死亡率
Continuation of Annual Screening Mammography and Breast Cancer Mortality in Women Older Than 70 Years Ann Intern Med . 2020 Mar 17;172(6):381-389. doi: 10.7326/M18-1199. Epub 2020 Feb 25. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】無作為化試験から、50-69歳の間に乳がん検診を開始し、10年間継続することによって乳がん死亡率が低下することが明らかになっている。しかし、マンモグラフィ検診を中止しても安全かどうか、いつ中止したら安全かを検討した試験はない。米国では、75歳以上の女性の推定52%がマンモグラフィ検診を受検している。 【目的】乳がん検診が70-84歳のメディケア受給者の乳がん死亡率にもたらす効果を推定すること。 【デザイン】年1回のマンモグラフィ検診継続と検診中止の2通りの検診法を検討した大規模住民対象観察試験 【設定】2000-08年の米国のメディケアプログラム。 【参加者】平均余命10年以上で、乳がん診断歴がなく、マンモグラフィ検診を受診した70-84歳のメディケア受益者105万8013例。 【評価項目】8年間の乳がんによる死亡、発症率、治療および年齢層別のマンモグラフィ検診の陽性的中率。 【結果】70-84歳の女性で、検診継続と検診中止の間の8年間の乳がんによる死亡リスクの差は1000人当たり-1.0件(95%CI -2.3-0.1)と推定された(ハザード比0.78、95%CI 0.63-0.95、マイナスのリスク差から継続が支持される)。75-84歳では、対応するリスク差は1000人当たり0.07(CI -0.93-1.3)だった(ハザード比1.00、CI 0.83-1.19)。 【欠点】入手できたメディケアデータからは、検診後8年間しか追跡できなかった。観察データを用いた試験と同じように、推定は残存交絡の影響を受けている可能性がある。 【結論】75歳を過ぎてからの年1回の乳がん検診継続によって、継続中止よりも8年間の乳がん死亡率が大幅に低下することは示されなかった。 第一人者の医師による解説 高齢化社会に向け いつ、安全にマンモグラフィ検診を終了できるかを示唆 菊池 真理 がん研有明病院画像診断部 乳腺領域担当部長/大野 真司 がん研有明病院副院長・乳腺センター長 MMJ. December 2020;16(6):170 マンモグラフィ検診の上限の年齢設定に関しては、最新のメタアナリシスで「50~69歳での乳がん検診の開始とその後10年間の継続で10,000人当たり21.3人の乳がん死を防げる」としているが(1)、75歳以上を対象としたランダム化比較試験は存在せず、75歳以上では死亡率低減効果は不明で、いつ安全に検診マンモグラフィを終了できるかどうかを検討した試験はない。米国では75歳以上の女性の52%がマンモグラフィ検診を受診している。また、日本の対策型検診では年齢の上限は規定されていない。女性はどのくらいの期間乳がん検診を継続するべきかという、臨床上重要な問いに対応する研究のエビデンスは限定的であり、今後の研究の展望もはっきりしていない。  本論文は、70~84歳のメディケア加入者(米国の65歳以上の老人や身体障害者を対象とする公的医療保険制度)の乳がん死における乳がん検診の効果の推定を目的とした人口ベースの大規模観察研究の報告である。今後10年以上生存する可能性が高く、マンモグラフィ検診の受診歴があり、乳がんと診断されたことのない70歳以上のメディケア加入女性1,058,013人が参加し、年1回の乳がん検診継続と乳がん検診中止の2つの検診方策群で比較している。その結果、70~74歳で検診を継続する場合、乳がんによる8年死亡率は1,000人当たり1人低減することを示唆した。一方、75歳以上で検診を継続した場合、同リスクの差は1,000人当たり0.07人となり、検診は死亡率に影響しないとみられた。これは、より高齢の女性では、循環器疾患や神経疾患などの競合する原因による死亡率が加齢とともに乳がん死亡率を追い抜くというランダム化臨床試験(1)における仮説と一致していた。研究の限界として、観察データを用いるどの研究とも同様に、残留交絡の影響を受ける点が挙げられる。  日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」では、日本の簡易生命表から算出される年齢ごとの10年後の生存率(60歳95.6%、65歳93.2%、70歳88.5%、75歳78.8%、80歳61.4%)を踏まえて、75歳超では「検診外発見乳がんでの生存率を年齢の因子だけで下回る可能性が高い」との考察より、日本における「乳がんマンモグラフィ検診の至適年齢は40~75歳と考えられる」としており(2)、本論文はこれを裏付ける結果となっている。  高齢化に伴う受給者増加、給付費増大による医療財政の逼迫は米国だけでなく、日本も同様に抱えている問題である。本研究の知見は今後、限られた財源の中で高齢者の対策型検診の扱いを考慮する上で一助になると考える。 1. Nelson HD, et al. Ann Intern Med. 2016;164(4):244-255. 2. 乳癌診療ガイドライン 2 疫学・診断編 2018 年版(第 4 版): 200-202.