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70歳以上の女性を対象とした年1回のマンモグラフィ検診と乳がん死亡率
70歳以上の女性を対象とした年1回のマンモグラフィ検診と乳がん死亡率
Continuation of Annual Screening Mammography and Breast Cancer Mortality in Women Older Than 70 Years Ann Intern Med . 2020 Mar 17;172(6):381-389. doi: 10.7326/M18-1199. Epub 2020 Feb 25. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】無作為化試験から、50-69歳の間に乳がん検診を開始し、10年間継続することによって乳がん死亡率が低下することが明らかになっている。しかし、マンモグラフィ検診を中止しても安全かどうか、いつ中止したら安全かを検討した試験はない。米国では、75歳以上の女性の推定52%がマンモグラフィ検診を受検している。 【目的】乳がん検診が70-84歳のメディケア受給者の乳がん死亡率にもたらす効果を推定すること。 【デザイン】年1回のマンモグラフィ検診継続と検診中止の2通りの検診法を検討した大規模住民対象観察試験 【設定】2000-08年の米国のメディケアプログラム。 【参加者】平均余命10年以上で、乳がん診断歴がなく、マンモグラフィ検診を受診した70-84歳のメディケア受益者105万8013例。 【評価項目】8年間の乳がんによる死亡、発症率、治療および年齢層別のマンモグラフィ検診の陽性的中率。 【結果】70-84歳の女性で、検診継続と検診中止の間の8年間の乳がんによる死亡リスクの差は1000人当たり-1.0件(95%CI -2.3-0.1)と推定された(ハザード比0.78、95%CI 0.63-0.95、マイナスのリスク差から継続が支持される)。75-84歳では、対応するリスク差は1000人当たり0.07(CI -0.93-1.3)だった(ハザード比1.00、CI 0.83-1.19)。 【欠点】入手できたメディケアデータからは、検診後8年間しか追跡できなかった。観察データを用いた試験と同じように、推定は残存交絡の影響を受けている可能性がある。 【結論】75歳を過ぎてからの年1回の乳がん検診継続によって、継続中止よりも8年間の乳がん死亡率が大幅に低下することは示されなかった。 第一人者の医師による解説 高齢化社会に向け いつ、安全にマンモグラフィ検診を終了できるかを示唆 菊池 真理 がん研有明病院画像診断部 乳腺領域担当部長/大野 真司 がん研有明病院副院長・乳腺センター長 MMJ. December 2020;16(6):170 マンモグラフィ検診の上限の年齢設定に関しては、最新のメタアナリシスで「50~69歳での乳がん検診の開始とその後10年間の継続で10,000人当たり21.3人の乳がん死を防げる」としているが(1)、75歳以上を対象としたランダム化比較試験は存在せず、75歳以上では死亡率低減効果は不明で、いつ安全に検診マンモグラフィを終了できるかどうかを検討した試験はない。米国では75歳以上の女性の52%がマンモグラフィ検診を受診している。また、日本の対策型検診では年齢の上限は規定されていない。女性はどのくらいの期間乳がん検診を継続するべきかという、臨床上重要な問いに対応する研究のエビデンスは限定的であり、今後の研究の展望もはっきりしていない。  本論文は、70~84歳のメディケア加入者(米国の65歳以上の老人や身体障害者を対象とする公的医療保険制度)の乳がん死における乳がん検診の効果の推定を目的とした人口ベースの大規模観察研究の報告である。今後10年以上生存する可能性が高く、マンモグラフィ検診の受診歴があり、乳がんと診断されたことのない70歳以上のメディケア加入女性1,058,013人が参加し、年1回の乳がん検診継続と乳がん検診中止の2つの検診方策群で比較している。その結果、70~74歳で検診を継続する場合、乳がんによる8年死亡率は1,000人当たり1人低減することを示唆した。一方、75歳以上で検診を継続した場合、同リスクの差は1,000人当たり0.07人となり、検診は死亡率に影響しないとみられた。これは、より高齢の女性では、循環器疾患や神経疾患などの競合する原因による死亡率が加齢とともに乳がん死亡率を追い抜くというランダム化臨床試験(1)における仮説と一致していた。研究の限界として、観察データを用いるどの研究とも同様に、残留交絡の影響を受ける点が挙げられる。  日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」では、日本の簡易生命表から算出される年齢ごとの10年後の生存率(60歳95.6%、65歳93.2%、70歳88.5%、75歳78.8%、80歳61.4%)を踏まえて、75歳超では「検診外発見乳がんでの生存率を年齢の因子だけで下回る可能性が高い」との考察より、日本における「乳がんマンモグラフィ検診の至適年齢は40~75歳と考えられる」としており(2)、本論文はこれを裏付ける結果となっている。  高齢化に伴う受給者増加、給付費増大による医療財政の逼迫は米国だけでなく、日本も同様に抱えている問題である。本研究の知見は今後、限られた財源の中で高齢者の対策型検診の扱いを考慮する上で一助になると考える。 1. Nelson HD, et al. Ann Intern Med. 2016;164(4):244-255. 2. 乳癌診療ガイドライン 2 疫学・診断編 2018 年版(第 4 版): 200-202.