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重症患者における消化管出血予防の有効性と安全性:システマティックレビューとネットワークメタアナリシス
重症患者における消化管出血予防の有効性と安全性:システマティックレビューとネットワークメタアナリシス
Efficacy and safety of gastrointestinal bleeding prophylaxis in critically ill patients: systematic review and network meta-analysis BMJ 2020 Jan 6;368:l6744. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】重症患者において、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、ヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)、スクラルファート、または消化管出血予防薬(またはストレス性潰瘍予防薬)なしの、患者にとって重要なアウトカムへの相対影響を明らかにする。 【デザイン】系統的レビューとネットワークメタ解析。 【データソース】2019年3月までのMedline、PubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、試験登録、グレー文献。 【ELIGIBILITY CRITERIA FOR SELECTING STUDIES AND METHODS]】成人の重症患者においてPPI、H2RA、スクラルファートの消化管出血予防と他、プラシーボ、予防薬なしを比較したランダム化対照臨床試験を対象とした。2名の査読者が独立して研究の適格性を審査し、データを抽出し、バイアスのリスクを評価した。並行して行われたガイドライン委員会(BMJ Rapid Recommendation)が,患者にとって重要なアウトカムの特定など,システマティックレビューの重要な監視を行った。ランダム効果ペアワイズメタ解析とネットワークメタ解析を行い,GRADEを用いて各アウトカムのエビデンスの確からしさを評価した.低リスクの研究と高バイアスリスクの研究で結果が異なる場合は、前者を最良推定値とした。出血のリスクが最も高い(8%以上)または高い(4~8%)患者では、PPIとH2RAの両方が、プラセボまたは予防薬なしに比べて、臨床的に重要な消化管出血をおそらく減らす(PPIのオッズ比 0.61(95% 信頼区間 0.42~0.89)、3.42 to 0.89)、最高リスク患者で3.3%少なく、高リスク患者で2.3%少なく、中程度の確実性;H2RAに関するオッズ比0.46(0.27 to 0.79)、最高リスク患者で4.6%少なく、高リスク患者で3.1%少なく、中程度の確実性).両者とも無予防に比べ肺炎のリスクを高める可能性がある(PPIのオッズ比 1.39 (0.98 to 2.10), 5.0% 増、確実性低、H2RAのオッズ比 1.26 (0.89 to 1.85), 3.4% 増、確実性低)。どちらも死亡率には影響しないと思われる(PPI 1.06 (0.90 to 1.28), 1.3% 増, 中程度; H2RA 0.96 (0.79 to 1.19), 0.9% 減, 中程度)。それ以外では、死亡率、Clostridium difficile感染、集中治療室滞在期間、入院期間、人工呼吸期間への影響を裏付ける結果は得られなかった(証拠の確実性は様々)。 【結論】リスクの高い重症患者では、PPIとH2RAは予防薬なしと比較して消化管出血の重要な減少につながると考えられる;リスクの低い患者では、出血の減少は重要でない可能性がある。PPIとH2RAの両方が肺炎の重要な増加をもたらす可能性がある。死亡率やその他の院内罹患アウトカムに対する介入の重要な効果はないことが、質の低いエビデンスによって示唆された。 第一人者の医師による解説 肺炎のリスクを高める可能性について さらなるRCTが必要 川邊 隆夫 かわべ内科クリニック院長 MMJ.August 2020;16(4) 集中治療室(ICU)に入院を要するような重篤な患者では、消化管出血(ストレス潰瘍)が大きな問題となり、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2RA)を投与することが推奨されている。 しかし、PPIやH2 RAを投与しても死亡率は改善しないという報告が多く、肺炎やClostridium difficile 感染症(CDI)のリスクが高まる可能性なども指摘されており、ストレス潰瘍予防(SUP)の是非について明確な結論は得られていない。 2018年に、国際的な大規模多施設ランダム化比較試験(SUP-ICU)の結果(1)が発表された。この最もエビデンスレベルの高いとされる研究では、PPIは出血を減少させたが、死亡率には影響しなかった。近年、SUP-ICUのほかにも、いくつかの大規模ランダム化比較試験(RCT)が行われており、これらの研究を加えて、ネットワークメタアナリシス(NMA)を行ったのが本論文である。 著者らは2017年1月~19年3月の研究から、12,660人の患者を含む72件(7件はICU外の重症患者)を選択し、PPI、H2RA、スクラルファートについて、死亡、消化管出血、肺炎、CDIなどへの影響を検討している。 その結果、死亡率については、プラセボまたは予防薬なし(無SUP)と比較し、PPI、H2RA、スクラルファートのいずれも改善あるいは増悪の影響は認められなかった。重篤な出血については、出血リスクを最高、高、中、低の4段階に分けた検討において、最高リスク群、高リスク群ではPPIおよびH2RAはともに、プラセボ(無SUPを含む)に比べ、重篤な出血の減少効果が示されたが、中リスク群、低リスク群では効果がみられなかった。スクラルファートの効果ははっきりしなかった。 肺炎については、無SUP と比較し、PP(I オッズ比[OR], 1.39;95% CI, 0.98~2.10)、H2RA(1.26;0.89~1.85)に有意差を認められなかった。しかし、スクラルファートとの比較で、PPI (1.63;1.12~2.46)とH2RA(1.47;1.11~2.03)のほうがリスクは高く、これらの肺炎に対するリスクは否定できないとしている。CDIについては検討している研究は5件のみで、CDI発生率も低く、有意なデータは得られていない。 以上から著者らは、PPIやH2RAは死亡率には影響しない、消化管出血のリスクの高い患者(慢性肝障害、人工呼吸器使用で経腸栄養なし、凝固障害)においてPPI、H2RAは出血を減少させるが、低~中リスクの患者では効果が期待できず有益ではないかもしれない、PPIやH2RAは肺炎のリスクを高める可能性については、さらなるRCTが必要である、と結論している。 1. Krag M et al. N Engl J Med. 2018;379(23):2199-2208.