「心停止」の記事一覧

COVID-19重症患者の院内心停止 多施設共同コホート研究
COVID-19重症患者の院内心停止 多施設共同コホート研究
In-hospital cardiac arrest in critically ill patients with covid-19: multicenter cohort study BMJ. 2020 Sep 30;371:m3513. doi: 10.1136/bmj.m3513. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症患者の院内心停止および心肺蘇生の発生率、危険因子および転帰を推定すること。 【デザイン】多施設共同コホート研究。 【設定】米国の地理的に離れた病院68施設の集中治療科。 【参加者】検査で確定したCOVID-19重症患者(18歳以上)。 【主要評価項目】集中治療室(ICU)入室後14日以内の院内心停止および院内死亡。 【結果】COVID-19重症患者5019例のうち14.0%(5019例中701例)が院内心停止を来し、57.1%(701例中400例)に心肺蘇生を実施した。院内心停止を来した患者は、院内心停止がない患者と比べて高齢で(平均年齢63[標準偏差14]歳 vs. 60[15]歳)、併存疾患が多く、ICU病床数が少ない病院に入院していた傾向にあった。心肺蘇生を受けた患者は、受けなかった患者と比べて若年齢であった(平均年齢61[標準偏差14]歳 vs. 67[14]歳)。心肺蘇生時によく見られた波形は、無脈性電気活動(49.8%、400例中199例)および心静止(23.8%、400例中95例)であった。心肺蘇生を受けた患者400例中48例(12.0%)が生存退院し、わずか7.0%(400例中28例)に退院時神経学的所見が正常または軽度の障害があった。年齢によって生存退院率に差があり、45歳未満で21.2%(52例中11例)であったのに対し、80歳以上では2.9%(34例中1例)であった。 【結論】COVID-19重症患者に心停止がよく見られ、特に高齢患者で生存率が不良である。 第一人者の医師による解説 若年者では助かる見込みが高く 医療従事者の安全確保し標準的蘇生行為の実施を 遠藤 智之 東北医科薬科大学救急・災害医療学教室准教授 MMJ. April 2021;17(2):45 集中治療室(ICU)で治療を要する重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の予期せぬ院内心停止の頻度と予後に関する報告は、本研究発表前までは、武漢の1施設151例とニューヨークの1施設31例の報告に限られていた。重症COVID-19患者が心停止に陥った場合、心肺蘇生法(CPR)施行前の個人防護具(PPE)装着に時間を要し、CPRの遅れが患者転帰に影響しうる。また医療従事者にとってはCPRによるエアロゾル発生が感染のリスクとなる。心停止に陥るリスクが高く、CPRを行っても救命の見込みが乏しい患者では、事前に患者・家族と医療チーム内で協議を行い、無益な蘇生行為を差し控えるという意思決定が尊重されるだろう。このような議論を行う際、リアルワールドでの院内心停止例の疫学情報が必要となる。 本研究は、2020年3月4日~6月1日に米国68病院のICUに入室した重症COVID-19患者のレジストリデータを解析した多施設共同研究である。登録期間はデキサメタゾン治療の普及前である。ICU入室14日以内の予期せぬ心停止患者について、薬物療法、人工呼吸器、腎代替療法、血液データ、バイタルサイン、併存症、修正 SOFAスコア、CPRで使用した薬剤などのデータを解析した。結果は、ICU入室患者5,019人中701人(14%)が院内心停止を来し、そのうち93.2%が死亡した。院内心停止例の57.1%がCPRを受け、残りは心停止時にDNACPR(Do Not Attempt Resuscitation)コードであった。CPR施行例の33.8%で心拍再開が得られ、12%は病院退院、7%はCPC(cerebral performance category)スコア1/2であった。45歳未満の生存率は21.2%で、80歳以上の2.9%に比べ有意に高かった。初期調律は無脈性電気活動49.8%、心静止23.8%、心室細動3.8%、心室頻拍8.3%であり、心停止の原因は非心原性(呼吸由来や血栓症)である可能性が高いと考えられた。ICU入室から心停止までの期間中央値は7日であり、CPR施行例は若年者に多く、平均CPR実施時間は10分であった。ICUベッドが少ない(50床未満)の病院では死亡率が高く、非心停止例に比べて心停止例は心血管危険因子を有し、血液データが不良、2剤以上の血管収縮薬を投与されていた。日本と異なる患者背景として、3分の2以上がBMI30以上の肥満であった。高齢者はCPRされないことが多く、生存率も低かった。 このようなリアルワールドでの院内心停止のデータは、重症COVID-19患者とその家族との終末期ケアの議論に有益な情報である。対象患者は肥満が多く、そのまま日本のICU患者に当てはめることはできないが、若年者では重症COVID-19であっても助かる見込みが高く、医療従事者の安全を確保しつつ標準的蘇生行為を行う重要性を示している。
院外亜硝酸ナトリウム投与が心停止後病院到着までの生存率にもたらす効果 無作為化臨床試験
院外亜硝酸ナトリウム投与が心停止後病院到着までの生存率にもたらす効果 無作為化臨床試験
Effect of Out-of-Hospital Sodium Nitrite on Survival to Hospital Admission After Cardiac Arrest: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jan 12;325(2):138-145. doi: 10.1001/jama.2020.24326. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】心停止モデル動物で、蘇生時に亜硝酸ナトリウムを投与することによって生存率が改善することが認められているが、ヒトを対象とした臨床試験で有効性が評価されていない。 【目的】院外心停止の蘇生時に救急医療隊員が亜硝酸ナトリウムを非経口投与することによって病院到着までの生存率が改善するかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】米ワシントン州キング郡で、心室細動の有無を問わず院外心停止を来した成人1502例を対象とした第II相二重盲検プラセボ対照無作為化臨床試験。2018年2月8日から2019年8月19日の間に救急医療隊員が蘇生処置を実施した患者を登録した。2019年12月31日までに追跡調査とデータ抽出を終えた。 【介入】適格な院外心停止患者を亜硝酸ナトリウム45mg(500例)、亜硝酸ナトリウム60mg(498例)、プラセボ(499例)を投与する群に(1対1対1の割合で)無作為に割り付け、蘇生処置実施中にできるだけ早くボーラス投与した。 【主要評価項目】主要評価項目は病院到着時の生存率とし、片側仮説検定で評価した。副次評価項目は、院外変数(自己心拍再開率、再心停止率、血圧維持を目的としたノルエピネフリン使用)と院内変数(退院時の生存率、退院時の神経学的転帰、24、48、72時間までの累積生存率、集中治療室在室日数)とした。 【結果】無作為化した院外心停止患者1502例(平均年齢64歳[SD 17]、女性34%)のうち99%が試験を完了した。全体で、亜硝酸ナトリウム45mg群の205例(41%)、同60mg群の212例(43%)、プラセボ群の218例(44%)が病院到着まで生存していた。45mg群とプラセボ群の平均差は-2.9%(片側95%CI -8.0%~∞、P=0.82)、60mg投与群とプラセボ群の平均差は-1.3%(片側95%CI -6.5%~∞、P=0.66)であった。事前に規定した副次評価項目7項目には有意差は認められず、退院時の生存者数が亜硝酸ナトリウム45mg群66例(13.2%)、同60mg群72例(14.5%)、プラセボ群74例(14.9%)で、亜硝酸ナトリウム45mg群とプラセボ群の平均差は-1.7%(両側検定の95%CI -6.0~2.6%、P=0.44)、同60mg群とプラセボ群の平均差は-0.4%(同-4.9~4.0%、P=0.85)であった。 【結論および意義】院外心停止を来した患者で、亜硝酸ナトリウムの投与は、プラセボと比較して病院到着時の生存率が有意に改善することはなかった。この結果から、院外心停止の蘇生時に亜硝酸ナトリウムの使用は支持されない。 第一人者の医師による解説 心肺停止蘇生後の神経障害抑制 他の薬剤も含めさらなる研究の進展を期待 今井 寛 三重大学医学部附属病院救命救急・総合集中治療センター センター長・教授 MMJ. April 2021;17(2):58 心停止患者において脳神経障害は主な死因であり、蘇生された患者のほとんどは意識を取り戻すことはない。心肺蘇生法の進歩にもかかわらず、米国で2005~15年に収集されたデータによると、院外心停止後に自己心拍再開した患者の80%以上が退院前に死亡している。亜硝酸投与療法は虚血と再灌流後の細胞障害とアポトーシスを抑制し、また多数の動物モデルにおいて細胞保護効果を認めている。げっ歯類の心停止モデルでは、蘇生中に低用量亜硝酸塩を単回静脈内投与すると生存率が48%向上したと報告されている。他の動物モデルでは、心停止後の再灌流初期の亜硝酸塩濃度が10~20μMの間であれば生存率の改善と関連していることが示唆された。院外心停止患者125人を対象とした第1相非盲検試験の結果では、心停止の場合、蘇生中に亜硝酸ナトリウム45mgまたは60mgを投与すると投与後10~15分以内に血清中亜硝酸濃度が10~20μMに到達した(1)。 本研究はこれらの知見に基づき、院外心肺停止の傷病者に対して蘇生中に亜硝酸ナトリウムを急速静注することによって生存入院率が上がるかどうかについて第2相無作為化二重盲検プラセボ対照試験として検討された。ワシントン州キング郡で2018年2月8日~19年8月19日に登録された院外心停止患者(すべての初期波形を対象、外傷を除く)は1,502人で、亜硝酸ナトリウム45mg群(500人)、60mg群(498人)、プラセボ群(生食、499人)に無作為に割り付けられ、救急隊員が蘇生中にできる限り早く静注した。その結果、生存入院した患者は亜硝酸ナトリウム45mg群205人(41%)、60mg群212例(43%)、プラセボ群218人(44%)であり、プラセボ群との平均差は45mg群で-2.9%(片側95% CI, -8.0%~∞;P=0.82)、60mg群で-1.3%(片側95% CI, -6.5%~∞;P=0.66)といずれも有意差を認めなかった。事前に設定した7つの副次評価項目(再心停止率、救急隊員によるノルアドレナリン使用、自己心拍再開率、集中治療室[ICU]滞在日数、24・48・72時間までの累積生存率、退院までの生存率、および退院時の神経学的状態)についても有意差を認めなかった。したがって、著者らは院外心肺停止に対する蘇生中の亜硝酸ナトリウム静注は支持されないと結論付けている。 心肺停止蘇生後の神経障害抑制は重要な課題であり、亜硝酸ナトリウムだけでなく他の薬剤も含めてさらなる研究が進むことを期待する。 1. Kim F, et al. Circulation. 2007;115(24):3064-3070.
院外心停止後の低体温と正常体温の比較
院外心停止後の低体温と正常体温の比較
Hypothermia versus Normothermia after Out-of-Hospital Cardiac Arrest N Engl J Med. 2021 Jun 17;384(24):2283-2294. doi: 10.1056/NEJMoa2100591. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】心停止後の患者に体温管理療法が推奨されているが、それを裏付ける根拠は確実性が低い。【方法】盲検下で転帰を評価する試験で、心原性または原因不明の院外心停止を起こし蘇生後に昏睡状態に陥った成人患者1,900例を33℃の低体温目標(その後制御下で復温)と正常体温目標(37.8℃以上の発熱を早期に治療)に無作為化により割り付けた。主要評価項目は、6カ月時の全死因死亡とした。6カ月時の機能的転帰を副次評価項目とし、修正Rankin尺度で評価した。性別、年齢、初期心調律、自己心拍再開までの時間、入院時のショックの有無に従って部分集団を事前に定義した。肺炎、敗血症、出血、血行動態を損なう不整脈、体温管理装置による皮膚合併症を有害事象とした。【結果】計1,850例で主要評価項目を評価した。6カ月時点で、低体温群925例中465例(50%)が死亡していたのに対して、正常体温群では925例中446例(48%)が死亡していた(低体温群の相対リスク、1.04;95%CI、0.94~1.14;P=0.37)。機能的転帰を評価した1,747例のうち、中等度以上(修正Rankin尺度スコア4点以上)の障害が認められたのは、低体温群では881例中488例(55%)であったのに対し、正常体温群では866例中479例(55%)であった(低体温群の相対リスク、1.00;95%CI、0.92~1.09)。事前に定めた部分集団でも転帰が一定であった。低体温群の方が正常体温群よりも血行動態を損なう不整脈の発現率が高かった(24% vs. 17%、P<0.001)。その他の有害事象の発現率に両群間で有意差は認められなかった。【結論】院外心停止後の昏睡患者で、低体温療法により6カ月後までの死亡率が常温療法より改善することはなかった。 第一人者の医師による解説 心停止蘇生後の体温管理 上昇させないことが大切 櫻井 淳 日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野診療教授 MMJ. December 2021;17(6):187 心停止蘇生後の脳障害に対する治療として、2002年に蘇生後の低体温管理群は体温管理をしない群より神経学的転帰が有意に良かったと報告され(1)、2013年には体温管理目標で常温(36℃)と低体温(33℃)で転帰に差がないと報告された(2)。心停止蘇生後は体温管理療法(targetedtemperaturemanagement;TTM)が必要であるが、最適な目標温度に関してはいまだ議論中である。本論文はこの最適な体温決定のための国際共同多施設ランダム化比較試験の報告である。対象は18歳以上の成人で、心原性か心停止の原因が不明の院外心停止蘇生後で、従命反応がない患者であった。低体温群と常温群で死亡率や機能的な回復に関して比較が行われた。低体温群では割り付け後直ちに33℃まで体温を低下させ、28時間維持した後に3時間に1℃で37℃まで復温した。常温群では37.5℃以下を維持するように薬剤を用いて40時間体温を管理し、37.8℃以上となった際には冷却器具で体温を低下させた。両群とも、TTM終了後に割り付け時点から72時間までは36.5~37.7℃の常温を維持した。1,850人の生命予後が比較され、低体温群の死亡率は50%(465/925人)であり、正常体温群の48%(446/925人)と比較し有意差はなかった(相対リスク[RR],1.04;95%信頼区間[CI],0.94?1.14;P=0.37)。1,747人の機能的予後が評価され、低体温群では55%(488/881人)に中等度の機能障害以上の障害があり、常温群では55%(479/866人)と差はみられなかった(RR,1.00;95%CI,0.92?1.09)。性別、年齢、心停止時間、初期心電図波形といったサブグループ解析でも両群間に差はなかった。一方、低体温群では常温群に比べ合併症として循環に影響のある不整脈が多かった(24%対17%;P<0.001)。本論文の出版前に出された日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2020では、TTM実施時は32~36℃の間で目標体温を設定し一定期間維持することが推奨されている。本ガイドラインではTTMの精度として、目標体温への到達時間や維持期の厳格な体温管理の重要性が述べられており(3)、本検討に関しこの部分で批判的な意見もある。また、脳障害の程度によっては低体温療法の方が有効である群が存在する可能性も否定できない。ただ、本試験は十分な患者数の検討であり、GRADEシステムによる今後のガイドライン作成には大きな影響があると考えられる。今回の結果を踏まえると、心停止蘇生後の集中治療でのTTMでは正常体温より上昇させないことが重要であるといえる。 1.Hypothermia after Cardiac Arrest Study Group. N Engl J Med.2002;346(8):549-556. 2.Nielsen N, et al. N Engl J Med. 2013;369(23):2197-2206. 3. 一般社団法人日本蘇生協議会.JRC 蘇生ガイドライン 2020. 医学書院 .2021.