「救急」の記事一覧

院外亜硝酸ナトリウム投与が心停止後病院到着までの生存率にもたらす効果 無作為化臨床試験
院外亜硝酸ナトリウム投与が心停止後病院到着までの生存率にもたらす効果 無作為化臨床試験
Effect of Out-of-Hospital Sodium Nitrite on Survival to Hospital Admission After Cardiac Arrest: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jan 12;325(2):138-145. doi: 10.1001/jama.2020.24326. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】心停止モデル動物で、蘇生時に亜硝酸ナトリウムを投与することによって生存率が改善することが認められているが、ヒトを対象とした臨床試験で有効性が評価されていない。 【目的】院外心停止の蘇生時に救急医療隊員が亜硝酸ナトリウムを非経口投与することによって病院到着までの生存率が改善するかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】米ワシントン州キング郡で、心室細動の有無を問わず院外心停止を来した成人1502例を対象とした第II相二重盲検プラセボ対照無作為化臨床試験。2018年2月8日から2019年8月19日の間に救急医療隊員が蘇生処置を実施した患者を登録した。2019年12月31日までに追跡調査とデータ抽出を終えた。 【介入】適格な院外心停止患者を亜硝酸ナトリウム45mg(500例)、亜硝酸ナトリウム60mg(498例)、プラセボ(499例)を投与する群に(1対1対1の割合で)無作為に割り付け、蘇生処置実施中にできるだけ早くボーラス投与した。 【主要評価項目】主要評価項目は病院到着時の生存率とし、片側仮説検定で評価した。副次評価項目は、院外変数(自己心拍再開率、再心停止率、血圧維持を目的としたノルエピネフリン使用)と院内変数(退院時の生存率、退院時の神経学的転帰、24、48、72時間までの累積生存率、集中治療室在室日数)とした。 【結果】無作為化した院外心停止患者1502例(平均年齢64歳[SD 17]、女性34%)のうち99%が試験を完了した。全体で、亜硝酸ナトリウム45mg群の205例(41%)、同60mg群の212例(43%)、プラセボ群の218例(44%)が病院到着まで生存していた。45mg群とプラセボ群の平均差は-2.9%(片側95%CI -8.0%~∞、P=0.82)、60mg投与群とプラセボ群の平均差は-1.3%(片側95%CI -6.5%~∞、P=0.66)であった。事前に規定した副次評価項目7項目には有意差は認められず、退院時の生存者数が亜硝酸ナトリウム45mg群66例(13.2%)、同60mg群72例(14.5%)、プラセボ群74例(14.9%)で、亜硝酸ナトリウム45mg群とプラセボ群の平均差は-1.7%(両側検定の95%CI -6.0~2.6%、P=0.44)、同60mg群とプラセボ群の平均差は-0.4%(同-4.9~4.0%、P=0.85)であった。 【結論および意義】院外心停止を来した患者で、亜硝酸ナトリウムの投与は、プラセボと比較して病院到着時の生存率が有意に改善することはなかった。この結果から、院外心停止の蘇生時に亜硝酸ナトリウムの使用は支持されない。 第一人者の医師による解説 心肺停止蘇生後の神経障害抑制 他の薬剤も含めさらなる研究の進展を期待 今井 寛 三重大学医学部附属病院救命救急・総合集中治療センター センター長・教授 MMJ. April 2021;17(2):58 心停止患者において脳神経障害は主な死因であり、蘇生された患者のほとんどは意識を取り戻すことはない。心肺蘇生法の進歩にもかかわらず、米国で2005~15年に収集されたデータによると、院外心停止後に自己心拍再開した患者の80%以上が退院前に死亡している。亜硝酸投与療法は虚血と再灌流後の細胞障害とアポトーシスを抑制し、また多数の動物モデルにおいて細胞保護効果を認めている。げっ歯類の心停止モデルでは、蘇生中に低用量亜硝酸塩を単回静脈内投与すると生存率が48%向上したと報告されている。他の動物モデルでは、心停止後の再灌流初期の亜硝酸塩濃度が10~20μMの間であれば生存率の改善と関連していることが示唆された。院外心停止患者125人を対象とした第1相非盲検試験の結果では、心停止の場合、蘇生中に亜硝酸ナトリウム45mgまたは60mgを投与すると投与後10~15分以内に血清中亜硝酸濃度が10~20μMに到達した(1)。 本研究はこれらの知見に基づき、院外心肺停止の傷病者に対して蘇生中に亜硝酸ナトリウムを急速静注することによって生存入院率が上がるかどうかについて第2相無作為化二重盲検プラセボ対照試験として検討された。ワシントン州キング郡で2018年2月8日~19年8月19日に登録された院外心停止患者(すべての初期波形を対象、外傷を除く)は1,502人で、亜硝酸ナトリウム45mg群(500人)、60mg群(498人)、プラセボ群(生食、499人)に無作為に割り付けられ、救急隊員が蘇生中にできる限り早く静注した。その結果、生存入院した患者は亜硝酸ナトリウム45mg群205人(41%)、60mg群212例(43%)、プラセボ群218人(44%)であり、プラセボ群との平均差は45mg群で-2.9%(片側95% CI, -8.0%~∞;P=0.82)、60mg群で-1.3%(片側95% CI, -6.5%~∞;P=0.66)といずれも有意差を認めなかった。事前に設定した7つの副次評価項目(再心停止率、救急隊員によるノルアドレナリン使用、自己心拍再開率、集中治療室[ICU]滞在日数、24・48・72時間までの累積生存率、退院までの生存率、および退院時の神経学的状態)についても有意差を認めなかった。したがって、著者らは院外心肺停止に対する蘇生中の亜硝酸ナトリウム静注は支持されないと結論付けている。 心肺停止蘇生後の神経障害抑制は重要な課題であり、亜硝酸ナトリウムだけでなく他の薬剤も含めてさらなる研究が進むことを期待する。 1. Kim F, et al. Circulation. 2007;115(24):3064-3070.
一過性脳虚血性発作後の脳卒中リスクを評価するカナダTIAスコアの前向き検証とABCD2およびABCD2iとの比較 多施設共同前向きコホート研究
一過性脳虚血性発作後の脳卒中リスクを評価するカナダTIAスコアの前向き検証とABCD2およびABCD2iとの比較 多施設共同前向きコホート研究
Prospective validation of Canadian TIA Score and comparison with ABCD2 and ABCD2i for subsequent stroke risk after transient ischaemic attack: multicentre prospective cohort study BMJ. 2021 Feb 4;372:n49. doi: 10.1136/bmj.n49. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】前回作成したカナダTIAスコアを検証し、救急科を受診した一過性脳虚血性発作患者の新たなコホートでその後の脳卒中リスクを層別化すること。 【デザイン】前向きコホート研究。 【設定】5年以上追跡したカナダの13の救急科。 【参加者】一過性脳虚血発作または軽微な脳梗塞で救急科を受診した連続成人患者7607例。 【主要評価項目】主要評価項目は、7日以内の脳梗塞または頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術の施行とした。副次評価項目は、7日以内の(頸動脈内膜剥離術および頸動脈ステント留置術の有無別の)脳梗塞とした。7日後および90日後の電話による追跡調査でQuestionnaire for Verifying Stroke Free Status(脳卒中症状の有無を検証する質問票)を用いた。初回の救急科受診を知らせずにおいた3人の脳卒中専門医が全評価項目を判定した。 【結果】7607例のうち108例(1.4%)が7日以内に脳梗塞を発症し、83例(1.1%)に7日以内に頚動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術を施行し、そのうち9例には頸動脈内膜剥離術と頸動脈ステント留置術いずれも施行した。カナダTIAスコアは7日以内の脳梗塞、頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術のリスクを低リスク(0.5%以下、区間尤度比0.20、95%CI 0.09~0.44)、中リスク(リスク2.3%、区間尤度比0.94、0.85~104)、高リスク(リスク5.9%、区間尤度比2.56、2.02~3.25)に層別化し、ABCD2(0.60、0.55~0.64)やABCD2i(0.64、0.59~0.68)よりも正確であった(AUC 0.70、95%CI 0.66~0.73)。7日以内の頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術に関係なく、その後の脳梗塞リスクの結果がほぼ同じであった。 【結論】カナダTIAスコアは、患者の7日以内の脳梗塞リスクを頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術に関係なく層別化し、今や臨床現場での使用の準備が整ったと言える。この検証した推定リスクを管理計画に組み込めば、初回救急外来受診時の入院や調査の時期、専門医への紹介の優先順位付けに関する早期意思決定が改善するであろう。 第一人者の医師による解説 項目多くやや煩雑だが 実臨床への適応はさほど困難ではない 上坂 義和 虎の門病院脳神経内科部長・脳卒中センター長 MMJ. August 2021;17(4):110 一過性脳虚血発作(TIA)は完成型脳梗塞の危険信号として重要である。内科的治療の進歩により以前は4~10%といわれていたTIA後7日以内の脳梗塞発症リスクは現在低下している(1)。TIAで救急外来を受診する患者全員に包括的な検査や入院加療を行うことは、各国の事情にもよるが医療システム上困難なこともある。ABCD2スコアはTIA患者に対する最もよく知られたトリアージツールであるが、前向き検証の結果では低リスクと高リスクの識別能が低いことが指摘されている(2)。 本論文の著者らは、9項目の臨床情報の有無(初回か否か2点、持続時間10分以上2点、頸動脈狭窄の既往2点、抗血小板薬治療3点、歩行障害1点、片側の筋力低下1点、回転性めまい-3点、拡張期血圧110 mmHg以上3点、構語障害ないし失語1点)と4項目の検査所見の有無(心電図での心房細動2点、CT上の脳梗塞[新旧問わない]1点血小板数40万 /μ L以上2点、血糖270 mg/dL以上3点)からなるCanadian TIAスコア(-3~23点)を報告した(3)。 本研究は2012年10月31日~17年5月30日にカナダの13の救急施設に来院した18歳以上 のTIAや軽症の脳梗塞患者7,607人を対象とした前向き研究である。Canadian TIAスコアとABCD2スコアおよび画像情報を加えたABCD2iスコアを算出し、TIA発症後7日以内の脳梗塞および頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術などの血行再建を合わせたものを主要評価項目、TIA発症後7日以内の脳梗塞のみを副次評価項目に設定した。主要評価項目の発生率が1%未満の場合を低リスク、1~5%の場合を中リスク、5%超を高リスクとした。Canadian TIAスコアは低リスク(-3~3点)が全体の16.3%を占め、中リスク(4~8点)は全体の72.1%、高リスク(9点以上)は11.6%を占めた。ABCD2スコア、ABCD2iスコアではいずれも低リスクに分類された患者は皆無であり、3~7%が高リスクで大半が中リスクに分類された。 Canadian TIAスコア自体に頸動脈狭窄に関する項目が含まれており、血行再建に関する層別化能がよいのは当然と考えられるが、脳梗塞だけに限定した副次評価項目においてもCanadian TIAスコアによるリスク層別化能は優れていた。ABCD2スコアに比べ項目が多くやや煩雑ではあるが、救急診療で通常確認している項目からなっており実臨床への適応もさほど困難ではないだろう。 1. Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2016;374(16):1533-1542. 2. Perry JJ, et al. CMAJ. 2011;183(10):1137-1145. 3. Perry JJ, et al. Stroke. 2014;45(1):92-100.
重篤患者に用いる人工呼吸器のウィーニングおよび離脱の実践
重篤患者に用いる人工呼吸器のウィーニングおよび離脱の実践
Ventilator Weaning and Discontinuation Practices for Critically Ill Patients JAMA. 2021 Mar 23;325(12):1173-1184. doi: 10.1001/jama.2021.2384. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】重篤な患者のほとんどが侵襲的人工呼吸療法(invasive mechanical ventilation:IMV)を受けるが、実臨床でどのようにIMVから離脱しているかを明らかにした研究はほとんどない。 【目的】地域によるIMV離脱法のばらつき、初回離脱と予後の関連性、離脱方法の選定と初回自発呼吸トライアル(SBT)不成功の関連因子を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】世界6地域19カ国の142の集中治療室(ICU)(カナダ27施設、インド23施設、英国22施設、欧州26施設、オーストラリア・ニュージーランド21施設、米国23施設)で、24時間以上IMVを受ける重篤患者を検討した国際共同前向き観察研究。 【曝露】IMV。 【主要評価項目】主解析で、初回IMV離脱方法(抜管、自発呼吸トライアル[SBT]または気管切開)と臨床転帰(人工呼吸期間、ICUおよび院内死亡率、ICU入室および入院日数)の関連性を明らかにした。副次解析で、SBTの結果とSBTのタイミングおよび臨床転帰の関連性を検討した。 【結果】1,868例(年齢中央値[四分位範囲]、61.8(48.9~73.1)歳;男性1,173例[62.8%])のうち、424例(22.7%)に直接抜管、930例(49.8%)に初回SBT実施(761例[81.8%]が成功)、150例(8.0%)に気管切開を実施し、364例(19.5%)が離脱前に死亡した。各地域で、治療、毎日のスクリーニング、SBTの手法、換気モードに関する指示書の使用および離脱に携わる臨床医が果たす役割に差があった。直接抜管と比べると、初回SBTの方がICU死亡率が高く(20例[4.7%] vs 96例[10.3%]、絶対差5.6%[95%CI、2.6~8.6])、人工呼吸器装着期間が長く(中央値2.9日 vs 4.1日;絶対差1.2日、[95%CI、0.7~1.6])、ICU在室期間が長かった(中央値6.7日 vs 8.1日;絶対差1.4日[95%CI、0.8~2.4])。初回SBTが不成功の患者は、成功した患者よりもICU死亡率が高く(29例[17.2%] vs 67例[8.8%]、絶対差8.4%[95%CI、2.0~14.7])、人工呼吸器装着期間(中央値6.1日 vs 3.5日;絶対差2.6日[95%CI、1.6~3.6])およびICU在室期間が長かった(中央値10.6日 vs 7.7日;絶対差2.8日[95%CI、1.1~5.2])。早期に初回SBTを実施した患者に比べると、後期(挿管から2.3日以降)に実施した患者の方が人工呼吸器装着期間(中央値2.1日 vs 6.1日;絶対差4.0日[95%CI、3.7~4.5])およびICU在室期間が長く(中央値5.9日 vs 10.8日;絶対差4.9日[95%CI、4.0~6.3])、入院期間が長かった(中央値14.3日 vs 22.8日;絶対差8.5日[95%CI、6.0~11.0])。 【結論および意義】2013~2016年にカナダ、インド、英国、欧州、オーストラリア・ニュージーランド、米国のICU 142施設で侵襲的人工呼吸療法の離脱を検討した観察研究では、地域間で離脱方法にばらつきがあることが示された。 第一人者の医師による解説 直接抜管群が転帰良好 しかし優位性を示すのではなく地域間でウィーニング手技実践にバラツキ 佐々木 勝教 医療法人 横浜未来ヘルスケアシステム 戸塚共立第2病院救急科部長 MMJ. October 2021;17(5):156 本研究は世界6地域19カ国にある142の集中治療室(ICU)で24時間以上人工呼吸管理を受けた患者を対象に人工呼吸器からの離脱法、転帰を前向き観察研究で以下の項目を検討した:主解析では①人工呼吸器からの離脱法(直接抜管[自発呼吸トライアルせずに抜管]、自発呼吸トライアル= SBT、気管切開)②臨床転帰(人工呼吸管理期間、ICUおよび院内死亡率、ICU滞在および入院日数)、副次解析ではSBTのアウトカム、施行のタイミングと臨床転帰の関連。 結果、対象患者1,868人中、22.7%に直接抜管、49.8%に初回 SBT、8.0%に気管切開が実施された。離脱前に死亡した患者は19.5%であった。ただし、地域間で、離脱に関する手順書の使用、毎日のスクリーニング、SBTの手法、換気モード、離脱において臨床医の果たす役割に関して差異がみられた。直接抜管群と比較し、初回SBT群の方が、ICU死亡率が高く(4.7 対 10.3%)、人工呼吸器装着期間(中央値2.9 対 4.1日)、ICU滞在日数(中央値6.7 対 8.1日)も長かった。また、初回 SBTが不成功だった群は、成功した群と比較し、ICU死亡率が高く(17.2 対 8.8%)、人工呼吸器装着期間(中央値6.1 対 3.5日)、ICU滞在日数もより長い傾向だった(中央値10.6 対 7.7日)。早期にSBTが成功した群と、挿管から3.3日以降の時期(後期)に成功した群との比較でも同様の傾向がみられ、人工呼吸器装着期間(中央値2.1 対 6.1日)、ICU滞在期間(中央値5.9 対 10.8日)、入院日数(中央値14.3 対 22.8日)は長かった。 結果を表層的に解釈すると、SBTより直接抜管(しかも8.5%が計画外抜管)を選択した方が、転帰が良好な印象を受ける。この点は併載された論説1でも指摘しており、背景としてSBT施行群の方が、より高齢で、悪性腫瘍、高血圧の合併率が高い可能性があることが問題とされている。同様に早期 vs 後期のSBTの比較でも、早期 SBTを実施できない理由が明確になっていない。また、各地域間でウィーニング手技のバラツキが結果に影響した可能性がある。例えば、直接抜管は米国で同国全体の約4%であったが、オーストラリア/ニュージーランドでは両国全体のおよそ6割であった。このように、本論文の結語においては、バラツキの補正が十分ではないため、直接抜管の優位性を示すのではなく、各地域、施設でのウィーニング手技はさまざまであったと結論づけている。
院外心停止後の低体温と正常体温の比較
院外心停止後の低体温と正常体温の比較
Hypothermia versus Normothermia after Out-of-Hospital Cardiac Arrest N Engl J Med. 2021 Jun 17;384(24):2283-2294. doi: 10.1056/NEJMoa2100591. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】心停止後の患者に体温管理療法が推奨されているが、それを裏付ける根拠は確実性が低い。【方法】盲検下で転帰を評価する試験で、心原性または原因不明の院外心停止を起こし蘇生後に昏睡状態に陥った成人患者1,900例を33℃の低体温目標(その後制御下で復温)と正常体温目標(37.8℃以上の発熱を早期に治療)に無作為化により割り付けた。主要評価項目は、6カ月時の全死因死亡とした。6カ月時の機能的転帰を副次評価項目とし、修正Rankin尺度で評価した。性別、年齢、初期心調律、自己心拍再開までの時間、入院時のショックの有無に従って部分集団を事前に定義した。肺炎、敗血症、出血、血行動態を損なう不整脈、体温管理装置による皮膚合併症を有害事象とした。【結果】計1,850例で主要評価項目を評価した。6カ月時点で、低体温群925例中465例(50%)が死亡していたのに対して、正常体温群では925例中446例(48%)が死亡していた(低体温群の相対リスク、1.04;95%CI、0.94~1.14;P=0.37)。機能的転帰を評価した1,747例のうち、中等度以上(修正Rankin尺度スコア4点以上)の障害が認められたのは、低体温群では881例中488例(55%)であったのに対し、正常体温群では866例中479例(55%)であった(低体温群の相対リスク、1.00;95%CI、0.92~1.09)。事前に定めた部分集団でも転帰が一定であった。低体温群の方が正常体温群よりも血行動態を損なう不整脈の発現率が高かった(24% vs. 17%、P<0.001)。その他の有害事象の発現率に両群間で有意差は認められなかった。【結論】院外心停止後の昏睡患者で、低体温療法により6カ月後までの死亡率が常温療法より改善することはなかった。 第一人者の医師による解説 心停止蘇生後の体温管理 上昇させないことが大切 櫻井 淳 日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野診療教授 MMJ. December 2021;17(6):187 心停止蘇生後の脳障害に対する治療として、2002年に蘇生後の低体温管理群は体温管理をしない群より神経学的転帰が有意に良かったと報告され(1)、2013年には体温管理目標で常温(36℃)と低体温(33℃)で転帰に差がないと報告された(2)。心停止蘇生後は体温管理療法(targetedtemperaturemanagement;TTM)が必要であるが、最適な目標温度に関してはいまだ議論中である。本論文はこの最適な体温決定のための国際共同多施設ランダム化比較試験の報告である。対象は18歳以上の成人で、心原性か心停止の原因が不明の院外心停止蘇生後で、従命反応がない患者であった。低体温群と常温群で死亡率や機能的な回復に関して比較が行われた。低体温群では割り付け後直ちに33℃まで体温を低下させ、28時間維持した後に3時間に1℃で37℃まで復温した。常温群では37.5℃以下を維持するように薬剤を用いて40時間体温を管理し、37.8℃以上となった際には冷却器具で体温を低下させた。両群とも、TTM終了後に割り付け時点から72時間までは36.5~37.7℃の常温を維持した。1,850人の生命予後が比較され、低体温群の死亡率は50%(465/925人)であり、正常体温群の48%(446/925人)と比較し有意差はなかった(相対リスク[RR],1.04;95%信頼区間[CI],0.94?1.14;P=0.37)。1,747人の機能的予後が評価され、低体温群では55%(488/881人)に中等度の機能障害以上の障害があり、常温群では55%(479/866人)と差はみられなかった(RR,1.00;95%CI,0.92?1.09)。性別、年齢、心停止時間、初期心電図波形といったサブグループ解析でも両群間に差はなかった。一方、低体温群では常温群に比べ合併症として循環に影響のある不整脈が多かった(24%対17%;P<0.001)。本論文の出版前に出された日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2020では、TTM実施時は32~36℃の間で目標体温を設定し一定期間維持することが推奨されている。本ガイドラインではTTMの精度として、目標体温への到達時間や維持期の厳格な体温管理の重要性が述べられており(3)、本検討に関しこの部分で批判的な意見もある。また、脳障害の程度によっては低体温療法の方が有効である群が存在する可能性も否定できない。ただ、本試験は十分な患者数の検討であり、GRADEシステムによる今後のガイドライン作成には大きな影響があると考えられる。今回の結果を踏まえると、心停止蘇生後の集中治療でのTTMでは正常体温より上昇させないことが重要であるといえる。 1.Hypothermia after Cardiac Arrest Study Group. N Engl J Med.2002;346(8):549-556. 2.Nielsen N, et al. N Engl J Med. 2013;369(23):2197-2206. 3. 一般社団法人日本蘇生協議会.JRC 蘇生ガイドライン 2020. 医学書院 .2021.
原発性自然気胸の外来治療:非盲検無作為化対照試験
原発性自然気胸の外来治療:非盲検無作為化対照試験
Ambulatory management of primary spontaneous pneumothorax: an open-label, randomised controlled trial Lancet. 2020 Jul 4;396(10243):39-49. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31043-6. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】原発性自然気胸は健康な若年患者にも起こる。最適な管理法は定義されておらず、入院期間が長引くことが多い。外来治療の有効性に関するデータは少ない。著者らは、外来治療による入院期間および安全性を標準治療と比較することを目的とした。【方法】この非盲検無作為化試験では、英国の病院24施設で3年間にわたり、症候性の原発性自然気胸成人患者(16~55歳)を登録した。患者を外来用デバイスと標準ガイドラインに従った管理(吸引および標準的な胸腔チューブ挿入、またはそのいずれか)に無作為化により(1対1の割合で)割り付けた。主要評価項目は、無作為化後最長30日間の再入院を含めた入院期間とした。主解析はデータが入手できた患者を対象とし、安全性解析は割り付けた全患者を対象とした。この試験はInternational Standard Randomised Clinical Trialsの番号ISRCTN79151659で前向きに登録されている。【結果】2015年7月から2019年5月までの間にスクリーニングした776例のうち236例(30%)を外来治療(117例)、標準治療(119例)に無作為化により割り付けた。30日時点で、入院期間中央値は、外来治療を受けデータが入手できた114例(0日[IQR 0~3])の方が標準治療を受けデータを入手できた113例(4日[IQR 0~8])よりも短かった(P<0.0001;差の中央値2日[95%CI 1~3])。236例中110例(47%)に有害事象が発現し、内訳は外来治療群117例中64例(55%)、標準治療群119例中46例(39%)であった。外来治療を受けた患者に重篤な有害事象が計14件発現し、このうち8件(54%)が気胸の増大、無症候性の肺浮腫およびデバイスの不具合、漏出、ずれなどの介入によるものであった。【解釈】原発性自然気胸の外来治療によって最初の30日間の再入院を含め入院期間が有意に減少したが、有害事象が増えた。このデータからは、原発性自然気胸は、介入が必要な患者に外来用デバイスを用いることにより、外来での治療が可能であることを示唆している。 第一人者の医師による解説 患者自身の自己管理のため 合併症や事故のリスクが大きいことに留意 栗原 正利 公益財団法人日産厚生会玉川病院 気胸研究センター 気胸研究センター長 MMJ. December 2021;17(6):175 原発性自然気胸患者の外来通院ドレナージ治療は次第に普及しつつあるがその評価はまだ明確でない。本論文は、原発性自然気胸に対する外来通院治療の安全性と入院期間短縮効果を入院標準治療と比較した、英国の多施設共同ランダム化非盲検対照試験(RandomisedAmbulatoryManagementofPrimaryPneumothorax;RAMPP)の報告である。入院標準治療は英国胸部疾患学会(BTS)ガイドラインに準じた初期治療を意味し、胸部X線写真において肺門のレベルで胸壁から肺の輪郭までの距離が2cm以上の患者および/または呼吸器症状のある患者に対して、1回吸引治療または胸腔ドレナージ治療を行うものである。それに対して外来通院治療では携帯型ドレナージキットとしてハイムリッヒバルブとボトルがついたRocketPleuralVent(RocketMedical社、英国)が用いられた。RAMPP試験には英国の病院24施設が参加し、携帯型ドレナージキットによる外来通院治療群(117人)と入院標準治療群(119人)の間で有用性が比較検討された。主要評価項目として30日までの入院期間、副次評価項目として追加治療の必要性、有害事象、痛み・息切れの評価、再発率、欠勤期日などが検討された。その結果、外来通院治療群では、入院標準治療群に比べ、入院期間は有意に短縮し、再発率(7日目:7%対19%)は低く、手術紹介の頻度は同程度であった(28%対22%)。著者らは、ドレーンにまつわる有害事象はやや認められるものの、携帯型の胸腔ドレナージキットによる外来通院治療は推奨できると結論づけている。多施設共同ランダム化試験で、外来通院ドレナージ治療の有用性を科学的に検討した試みは評価したい。一方で、外来通院ドレナージ治療は、患者自身の自己管理になる。したがって合併症や事故のリスクは入院治療の場合よりはるかに大きい。ドレナージ装置取り扱いの十分な説明と問題が生じた時には24時間病院に連絡できる体制を取らなければならない。外来通院治療はリスクを伴うことを肝に銘じておくことが重要である。今回の外来通院治療は英国BTSのガイドラインに基づいて行われているが、米国には米国胸部疾患学会(ACCP)によるガイドライン(1)があり、日本には独自のガイドラインがある。各国の医療制度の違いにより診断および治療方針が異なるので、今後は各国で共有できる情報の整理を行っていく方向性が重要と考えられる。外来通院ドレナージ治療は、その携帯装置が日本でいち早く開発され世界に先駆けて導入されている(2)。日本において携帯型ドレナージキット治療が一番進んでいるのが実情である。 1. Baumann MH, et al. Chest. 2001;119(2):590-602. 2. 江花弘基 , et al. 日救急医会誌(JJAAM). 2011; 22: 803-809.
院外心停止患者への体温管理療法 目標体温31℃は34℃と比べ優位性なし
院外心停止患者への体温管理療法 目標体温31℃は34℃と比べ優位性なし
Effect of Moderate vs Mild Therapeutic Hypothermia on Mortality and Neurologic Outcomes in Comatose Survivors of Out-of-Hospital Cardiac Arrest: The CAPITAL CHILL Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Oct 19;326(15):1494-1503. doi: 10.1001/jama.2021.15703. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】院外心停止の昏睡生存者は、高い確率で死亡と重度の神経学的損傷を経験する。現在のガイドラインでは、24時間32℃~36℃の標的体温管理を推奨している。しかし、小規模の研究では、より低い体温を目標とすることの潜在的な有益性が示唆されている。 【目的】軽度の低体温(34℃)と比較して中等度の低体温(31℃)が院外心停止の昏睡生存者の臨床転帰を改善するかどうかを判断する。 【デザイン、設定および参加者】カナダ、オンタリオ東部の三次心臓ケアセンターで行われた単施設、二重盲検、無作為、臨床優越試験の実施。2013年8月4日~2020年3月20日に院外心停止患者計389名を登録し、2020年10月15日に最終フォローアップを行った。 【介入】患者を24時間、目標体温を31℃(n=193)または34℃(n=196)に設定して温度管理する方法にランダムに割り付けた。 主要転帰・評価]主要転帰は180日後の全死亡または神経学的転帰不良であった。神経学的転帰は障害評価尺度を用いて評価し,神経学的転帰不良はスコア5以上(範囲:0~29,29は最悪の転帰[植物状態])と定義された。180日後の死亡率や集中治療室滞在期間など19の副次的転帰があった。 【結果】一次解析に含まれた367例(平均年齢61歳,女性69例[19%])のうち,366例(99.7%)が試験を完遂した。主要転帰は31℃群では184例中89例(48.4%),34℃群では183例中83例(45.4%)で発生した(リスク差,3.0%[95%CI, 7.2%-13.2%]; 相対リスク,1.07[95%CI, 0.86-1.33]; P = 0.56)。19の副次的転帰のうち、18は統計的に有意ではなかった。180日後の死亡率は,目標体温を31 ℃と34 ℃に設定して治療した患者では,それぞれ43.5%と41.0%であった(P = 0.63).集中治療室での入院期間の中央値は31 ℃の群で長かった(10日対7日;P = 0.004)。31 ℃群と34 ℃群の有害事象のうち、深部静脈血栓症は11.4%と10.9%に、下大静脈の血栓は3.8%と7.7%に発生した。 【結論と関連性】病院外心停止の昏睡生存者において、目標温度31 ℃は目標温度34℃と比較して180日の死亡率または神経学的転帰不良率を有意には減少させなかった。しかし,臨床的に重要な差を検出するには,この試験は力不足であった可能性がある。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT02011568 第一人者の医師による解説 一律ではなく蘇生後脳障害の重症度に応じた体温管理療法を目指すべき 多村 知剛 Pulmonary and Critical Care Medicine, Brigham and Women’s Hospital/Harvard Medical School(research fellow) MMJ. April 2022;18(2):46 院外心停止は日本で年間12万件以上発生するが、1カ月後の生存率は10%未満で極めて予後不良である。虚血再灌流障害に起因した重篤な脳障害が主な死因である。心停止後昏睡状態の患者に対しては32 ~ 36℃の目標体温を24時間維持する体温管理療法が推奨されている。動物実験や小規模な観察研究では、より低い28 ~ 2℃を目標体温とすることが神経学的転帰改善に有益である可能性が示唆されているが、32℃未満を目標体温とした無作為化試験は行われていない。 本論文は院外心停止患者に対する体温管理療法において、目標体温を31℃(中等度低体温)とすることが、34℃(軽度低体温)に比べ、転帰改善に有用であるか否かを検討した単施設無作為化二重盲検比較試験の報告である。2013年8月4日~20年3月20日に、カナダの3次心臓病治療センターに入院した院外心停止後昏睡状態(入院時のGlasgow Coma Scaleが8点以下)の18歳以上の患者389人を、目標体温31℃群(193人)または34℃群(196人)に無作為に割り付け、血管内に留置したカテーテルを用いた体温冷却装置により24時間の体温管理療法を行った。主要評価項目は180日時点での全死亡または神経学的転帰不良の複合エンドポイント、副次評価項目は180日死亡、集中治療室(ICU)滞在日数など19項目とした。389人のうち、割り付けられた治療を受け主要評価項目の解析対象となったのは367人(平均年齢61歳、男性298人[81%])であった。主要評価項目のイベントは31℃群で48.4%、34℃群で45.4%に発生し、有意差を認めなかった。副次評価項目のうち、ICU滞在日数のみ31℃群で有意に延長した(中央値 10日 対 7日)が、他の18項目に統計学的有意差は認めなかった。低体温療法の有害事象である血栓症については、深部静脈血栓症の発現率は31℃群11.4%、34℃群10.9%、下大静脈血栓症はそれぞれ3.8%と7.7%と、いずれも有意な群間差を認めなかった。 無作為化前から氷嚢によって冷却する努力がされたこと、体温の変動が小さい血管内冷却法を用いて厳密に体温管理が行われた点で本研究は評価に値する。しかし他の体温管理療法の大規模研究(1),(2)と同様に、心原性心停止(急性心筋梗塞や致死性不整脈)かつ約80%が男性と対象に偏りがある点で、本研究結果の一般化は難しい。また蘇生後脳障害の重症度は患者ごとに異なり、重症度の高い患者では中等度低体温が有益である可能性が残る。蘇生後脳障害の改善には重症度評価法の開発とそれに応じたテーラーメイドな体温管理療法を目指す必要がある。 1. Dankiewicz J, et al. N Engl J Med. 2021;384(24):2283-2294. 2. Kirkegaard H, et al. JAMA. 2017;318(4):341-350.
肺塞栓症の救急外来患者に対する安全な外来管理の増加。プラグマティックな対照試験。
肺塞栓症の救急外来患者に対する安全な外来管理の増加。プラグマティックな対照試験。
Increasing Safe Outpatient Management of Emergency Department Patients With Pulmonary Embolism: A Controlled Pragmatic Trial Ann Intern Med 2018 Dec 18 ;169 (12):855 -865 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】救急部(ED)で急性肺塞栓症(PE)を発症した低リスク患者の多くは、外来診療が可能であるにもかかわらず、入院している。在宅退院の阻害要因の一つは、どの患者が安全に入院を見送ることができるかを特定することの難しさである。 【目的】急性肺塞栓症患者のケア現場でのリスク層別化と意思決定を促進する統合電子臨床判断支援システム(CDSS)の効果を評価する。 【デザイン】対照的プラグマティック試験である。(ClinicalTrials. gov: NCT03601676)。 【設定】統合医療提供システム(Kaiser Permanente Northern California)の地域ED全21施設。 【患者】急性PEを有する成人ED患者。【Intervention】便宜上選択した10施設の介入施設で、16か月の試験期間の9か月目(2014年1月から2015年4月)に多角的な技術・教育介入を行い、残りの11施設を同時対照として使用。 【測定法】主要アウトカムとしてEDまたはEDに基づく短期(24時間未満)外来観察ユニットからの自宅退院を挙げた。有害事象は、5日以内のPE関連症状による再診、30日以内の静脈血栓塞栓症の再発、大出血、全死因死亡であった。 【結果】介入施設でPEと診断された適格患者881名と対照施設822名において、介入施設では調整後の自宅退院が増加したが(介入前17.4%、介入後28.0%)、対照施設では同時に増加せず(介入前15.1%、介入後14.5%)、差分法にて比較した。差分比較では11.3%ポイント(95%CI、3.0~19.5%ポイント、P = 0.007)であった。CDSSの導入に伴うPEに関連した5日間の再診や30日間の主要な有害転帰の増加は認められなかった。 【結論】急性PEを有するED患者に対する医療現場の意思決定を医師が支援するCDSSの導入と構造的な推進により、外来管理が安全に増加した。 【Primary funding source】Garfield Memorial National Research FundとThe Permanente Medical Group Delivery Science and Physician Researcher Programsを基に作成。 第一人者の医師による解説 妥当な結論 ガイドラインの内容に保証を与える有意義な研究 佐藤 徹 杏林大学病院循環器内科教授 MMJ.June 2019;15(3) 本論文は、世界中のガイドラインで使用されている急性肺塞栓症の重症度指標(Pulmonary Embolism Severity Index;PESI)スコアが 低値で在宅治療の除外項目に該当しない患者を入院させずに在宅治療とするデジタル判定戦略(integrated electronic clinical decision support system;CDSS)の妥当性と安全性を検討したeSPEED試験の報告である。米国の21の 一般病院で前向きに、CDSSを使う病院と使わない病院、使う前と後で比較しており、結論はCDSSを使用した方が在宅治療の割合が高く、安全性は変わらなかった、というものである。 PESIは10の臨床的特徴とバイタルサインからなり、その合計得点によりⅠ~Ⅴに重症度が分類され、ⅠとIIで在宅治療が推奨される。介入前8カ 月の 観察期間の後、16カ 月 のCDSSによる 技術的・教育的介入期間があり、介入後8カ月の観察期間が設けられている。11病院がCDSSを使用し、10病院が使用していない。使用した病院はCDSS を病院内で推進できる指導者がいる病院としており、無作為に決められたものではない。使用した病院の患者の方が結果的にやや軽症であった。介入群881人、対照群822人の患者が対象となり、 在宅治療を受けた割合は前者で17.4%、後者が 15.1%であったが、前者の在宅治療達成率は介入 期間後に28%へと有意に上昇した。5日以内の再入院が介入群で介入前9人、介入後8人、対照群でそれぞれ6人と3人で、1カ月以内の有害事象も両群とも1人とわずかであった。 CDSSを使うかどうかは担当医師がこのアルゴリズムにアクセスするかどうかで決まり、実際3 分の2の患者で使用されていた。判定は「在宅/入院を推奨する」という形で提示され、最終決定は主治医が行うようになっている。このシステムの教育と使用率向上のために複数の手段が講じられおり、多施設研究ながら細かいところまで方法の均一性が図られている。 筆者の評価は、結果については先行研究(1)のとおりでPESIが低値で除外項目を考慮すれば在宅治療で構わないという結論は妥当であり、ガイドラインの内容に保証を与える有意義な研究と考える。 それにしても、治療法の有効性に関する前向き試験の施行能力は欧米とますます差がついていると感じ、新しい治療法の試験施設として日本が一層避けられる現状をみると寂しくなる。欧米への追従がすべて正しいとは言えないが、新しい治療法の エビデンス作りは日本でも必要なものと私は思う。 1. Vinson DR, et al. Appl Clin Inform. 2015;6(2):318-333.
救急外来を受診した急性心房細動患者に用いる電気的除細動と薬物的除細動の比較(RAFF2) 部分要因無作為化試験
救急外来を受診した急性心房細動患者に用いる電気的除細動と薬物的除細動の比較(RAFF2) 部分要因無作為化試験
Electrical versus pharmacological cardioversion for emergency department patients with acute atrial fibrillation (RAFF2): a partial factorial randomised trial Lancet. 2020 Feb 1;395(10221):339-349. doi: 10.1016/S0140-6736(19)32994-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】急性心房細動は、救急部で治療する最も頻度の高い不整脈である。著者らの主要目的は、電気駅除細動前の薬物による除細動(薬物ショック)と電気的除細動単独(ショック単独)の洞調律復帰を比較することであった。第二の目的は、電気的除細動時の2つのパッド位置の有効性を比較することであった。 【方法】カナダの大学病院11施設の救急部で、急性心房細動患者を対象とした2通りのプロトコールを用いた部分要因試験を実施した。成人急性心房細動患者を組み入れた。プロトコール1では、プロカインアミド静注(15mg/kgを30分かけて投与)による薬物的除細動後の必要に応じた電気的除細動実施(3回まで、いずれも200J以上)とプラセボ投与後の電気的除細動実施を無作為化プラセボ対照盲検下で比較した。電気的除細動を実施する際、前後と前外側のパッド位置を無作為化非盲検コホート内で比較するプロトコール2を用いた。プロトコール1では、オンライン電子データ収集システムを用いて現場の研究員が患者を無作為に(1対1の割合、試験施設で層別化)割り付けた。薬物投与30分後に洞調律に復帰しない患者をプロトコール2で無作為化し、試験施設とプロトコール1の割り付けで層別化した。患者を全研究員と救急部職員にプロトコール1の治療割り付けを伏せた。主要転帰は、無作為化後30分以降および3回のショック直後の正常洞調律復帰とした。プロトコール1はintention-to-treatで解析し、プロトコール2は電気的除細動を実施しなかった患者を除外した。この試験はClinicalTrials.govにNCT01891058番で登録されている。 【結果】2013年7月18日から2018年10月17日にかけて、396例を組み入れ、追跡脱落例はなかった。薬剤ショック群(204例)では196例(96%)、ショック単独群(192例)では176例(92%)が洞調律に復帰した(絶対差4%、95%CI 0-9、P=0.07)。退院した患者の割合は、97%(198例)と95%(183例)だった(P=0.60)。薬物ショック群の106例(52%)が、薬物注入単独で洞調律に復帰した。追跡中、重度の有害事象が発現した患者はいなかった。プロトコール2(244例)の2通りのパッド位置の洞調律復帰率は同等であった[前後群127例中119例(94%)と前外側群117例中108例(92%)]。 【解釈】救急部を受診した急性心房細動患者で、薬物ショックとショック単独戦略ともに洞調律復帰の有効性が高く、迅速で安全で、再受診を回避できた。薬物注入は、約半数に有効であり、電気的除細動を要する資源集約的な処置時の鎮静が回避できた。このほか、電気的除細動時の前後と前外側のパッド位置による有意な差は見られなかった。救急部を受診する急性心房細動の即時洞調律維持が良好な転帰をもたらすことになる。 第一人者の医師による解説 Ic群抗不整脈薬の効果はより高いと推測 日本の救急現場での治療方針は妥当 井上 博 富山県済生会富山病院顧問 MMJ. October 2020; 16 (5):127 心房細動発作で救急受診した患者では、血圧低下や心不全悪化など特別な事情がなければ、まず抗不整脈薬を静注し30分ほど様子をみて、洞調律化しない場合は電気的除細動を試みることが通例である。この2段階のアプローチは臨床現場では特に疑問視されることなく行われているが、最初から電気的除細動を試みるアプローチと厳密に比較した成績は乏しい。  本試験は、カナダの大学病院救急外来11施設で、2013年7月~18年10月に行われた無作為対照試験(RAFF2)である。心房細動が3時間以上持続し、除細動を必要とする、状態の安定した成人患者396人(平均年齢60歳)を対象とした。プロトコール1では、プロカインアミド 15mg/kg(最大1,500mg)を30分で静注し無効な場合に電気的除細動(二相性波形、200J以上で3回まで)を行うdrug-shock群(204人)と最初から電気的除細動を行うshock群(192人)に無作為化した。プロトコール2では、プロトコール1で電気的除細動を行う患者を電極配置が前-後(右鎖骨下と左肩甲骨下)と前-外側(右鎖骨下と左前腋窩)の2群に無作為化した。その結果、除細動され洞調律が30分以上持続した患者は、drug-shock群で196人(96%)、shock群で176人(92%)と両群間で有意差はなかった(P=0.07)。Drug-shock群の52%では、プロカインアミド静注のみで静注開始から中央値で23分後に洞調律化した。14日間の追跡期間終了時点で306人(77%)が洞調律であり、重篤な有害事象や脳卒中の発生はみられなかった。2種類の電極配置の間で洞調律化率に差はなかった(前-後群92% 対 前-外側群94%;P=0.68)。  発症後間もない心房細動発作を救急外来で除細動する場合、薬理学的除細動+電気的除細動あるいは電気的除細動のみを行う方法のいずれも、高い有効性と安全性を示した。薬理学的除細動のみで約半数の患者で洞調律化が可能であったことから、臨床現場ではまず薬理学的除細動を試み、無効な場合に電気的除細動を行う方針が効果的と考えられる。電極の配置は洞調律化率には影響しない。  以上の結果は、日本の救急現場で経験的に行われる治療方針が妥当であることを無作為化対照試験で改めて示したものである。注意すべき点は、わが国では心房細動の洞調律化にはプロカインアミドが使用されることはまれで、Ic群抗不整脈薬などが選択されることが多く、薬理学的除細動率は本試験の成績より高いと推測される。また、除細動とは別の治療方針として、発症後間もない心房細動発作は薬物による心拍数コントロールのみで48時間以内に69%が洞調律化するという報告(1)もあり、救急現場ではこれらの成績も考慮に入れて治療方針を選択することが望ましい。 1. Pluymaekers NAHA et al. N Engl J Med 2019;380(16):1499-1508.
せん妄~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月6日号)
せん妄~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月6日号)
今回は、せん妄に関する最新論文を取り上げています。日本人せん妄患者の特徴、注意が必要な薬剤、経皮吸収型製剤によるせん妄予防の可能性など注目論文をご紹介。また、麻酔薬セボフルランの投与量が術後せん妄の発現に影響するか、高齢泌尿器科患者のせん妄リスク因子の情報もピックアップしました。せん妄予防の参考にしていただけると幸いです。(エクスメディオ 鷹野 敦夫) 『BIBGRAPH SEARCH』では、エクスメディオが提供する文献検索サービス「Bibgraph」より、注目キーワードで検索された最新論文をまとめてご紹介しています。 日本のせん妄患者、その臨床的特徴は~全国医療データベース分析 Ueda N, et al. BMJ Open. 2022; 12: e060630. ≫Bibgraphを読む 注意が必要なせん妄を誘発する薬剤~メタ解析 Reisinger M, et al. Acta Psychiatr Scand. 2022 Sep 28. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 経口薬を拒否する患者へのせん妄予防における経皮吸収型抗精神病薬の可能性~日本におけるレトロスペクティブ観察研究 Hatta K, et al. Int Clin Psychopharmacol. 2022 Aug 12. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む セボフルランの投与量は術後せん妄に影響するのか~プロスペクティブコホート Taylor J, et al. Br J Anaesth. 2022 Sep 30. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 高齢泌尿器科患者における術後せん妄のリスク因子~メタ解析 Hua Y, et al. Medicine (Baltimore). 2022; 101: e30696. ≫Bibgraphを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら
呼吸補助が必要な急性期小児患者で高流量鼻カニューレ療法はCPAPに非劣性
呼吸補助が必要な急性期小児患者で高流量鼻カニューレ療法はCPAPに非劣性
Effect of High-Flow Nasal Cannula Therapy vs Continuous Positive Airway Pressure Therapy on Liberation From Respiratory Support in Acutely Ill Children Admitted to Pediatric Critical Care Units: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2022 Jul 12;328(2):162-172. doi: 10.1001/jama.2022.9615. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 [重要] 急性期の小児に対する非侵襲的呼吸補助の最適な一次モードは不明です。 [デザイン、設定、および参加者] 英国の 24 の小児救命救急ユニットで実施された実用的、多施設、無作為化非劣性の臨床試験2019 年 8 月から 2021 年 11 月の間に募集され、2022 年 3 月に最後のフォローアップが完了した、非侵襲的呼吸補助が必要であると臨床的に評価された 0 歳から 15 歳までの 600 人の急性疾患の子供の中で。患者の体重 (n = 301) に基づく流量での HFNC または 7 ~ 8 cm H2O の CPAP (n = 299)。これは、参加者があらゆる形態の呼吸補助 (侵襲的または非侵襲的) から解放された 48 時間の期間の開始として定義され、0.75 の調整済みハザード比の非劣性マージンに対して評価されました。救命救急室退院時の死亡率、48 時間以内の挿管、鎮静の使用など、7 つの副次評価項目が評価されました。サポートは 22 で開始されませんでした (HFNC: 5; CPAP: 17)。 573 人の子供 (HFNC: 295; CPAP: 278) が一次分析に含まれました (年齢の中央値、9 か月; 226 人の女の子 [39%])。 HFNC グループの解放までの時間の中央値は 52.9 時間 (95% CI、46.0 ~ 60.9 時間) であったのに対し、CPAP グループでは 47.9 時間 (95% CI、40.5 ~ 55.7 時間) (絶対差、5.0 時間 [95% CI - 10.1 ~ 17.4 時間]; 調整ハザード比 1.03 [片側 97.5% CI、0.86-∞])。これは非劣性の基準を満たしていました。事前に指定された 7 つの副次的転帰のうち、3 つが HFNC グループで有意に低かった。救命救急入院の平均期間 (5 日対 7.4 日、調整平均差、-3 日 [95% CI、-5.1 ~ -1 日]);および平均急性入院期間 (13.8 日 vs 19.5 日; 調整平均差、-7.6 日 [95% CI、-13.2 ~ -1.9 日])。最も一般的な有害事象は鼻の外傷でした (HFNC: 6/295 [2.0%]; CPAP: 18/278 [6.5%])。ケアユニットでは、CPAP と比較した HFNC は、呼吸補助から解放されるまでの時間について非劣性の基準を満たしていました。[試験登録]ISRCTN.org 識別子: ISRCTN60048867. 第一人者の医師による解説 高流量鼻カニューレ療法の使いどころはステップアップ 不快感を軽減し鎮静薬使用の頻度が低い 志馬 伸朗 広島大学大学院医系科学研究科救急集中治療医学教授 MMJ.February 2023;19(1):9 呼吸サポートは、集中治療を要する小児患者において、最も頻繁に適用される臓器補助である。近年、気管挿管による侵襲的換気の弊害の認識が高まり、非侵襲的換気の適用により挿管を回避する試みが重要視されている。従来、小児患者に対する非侵襲的換気サポートは経鼻プロングあるいはマスクを用いた持続気道陽圧(CPAP)であったが、患者認容度が高く使いやすい高流量鼻カニューレ療法(HFNC)が普及してきた(1)。 非侵襲的換気の適用は、「ステップアップ」=気管挿管前の使用と、「ステップダウン」=抜管後の使用に分けられる。FIRST-ABC研究ではこの2つの状態を対象に、独立したランダム化比較試験を行った。既報 の ス テップ ダ ウン 研究 で はHFNCはCPAPに対する非劣性を示せなかった(2)。本研究では「ステップアップ」時のHFNCがCPAPに非劣性であるか検討した。24ユニットから登録された小児患者573人のデータが解析された。原疾患の約半数は急性細気管支炎で、残りは他の呼吸器疾患、喘息、心疾患、敗血症など多彩であった。HFNC群の開始流量は体重12kg未満では2L/kg/分、12kg以上ではプロトコールにより設定され、離脱に際して流量を50%減らした。CPAP群は、7 ~ 8cmH2Oの空気圧で開始され、離脱時には5cmH2Oまで下げられた。HFNC群の33.1%、CPAP群の53.3%において、中央値でそれぞれ6.1、4.5時間後に治療失敗が生じた。CPAPからHFNCへの切り替えは、HFNCからCPAPへの切り替えよりも多かった(30.9% 対 20.0%)。切り替えの理由は、HFNC群では主に臨床的悪化、CPAP群では患者の不快感に関連していた。鎮静薬の使用頻度はHFNC群(27.7%)がCPAP群(37.0%)よりも低かった。 本研究は、呼吸補助を必要とする小児呼吸不全患者において、HFNCはCPAPと同様に気管挿管を回避する一手段となりうることを示している。より重要なことに、HFNCは不快感に関連する治療失敗率が低いことに加え、不快感を軽減しデバイス装着を維持するために鎮静薬を要する頻度が低い。“こどもに優しい”は、小児医療における不変のキーワードであり、洗練されたデバイスを用いたより非侵襲的な介入により高い効果が得られることは、小児患者にとって何よりも福音である。ステップアップにおける効果発現にも、この認容性の良さが関係しているだろう。HFNCは日本の臨床現場に急速に普及したが、まだ標準化の余地がある(3)。幸いにもクリニカルエビデンスの集積は盛んであり、より良い使用法、適応、あるいは限界が明確化されることを望む。 1. Kwon JW. Clin Exp Pediatr. 2020;63(1):3-7. 2. Ramnarayan P, et al. JAMA. 2022;327(16):1555-1565. 3. Kawaguchi A, et al. Pediatr Crit Care Med. 2020;21(5):e228-e235.