ライブラリー 院外心停止患者への体温管理療法 目標体温31℃は34℃と比べ優位性なし
Effect of Moderate vs Mild Therapeutic Hypothermia on Mortality and Neurologic Outcomes in Comatose Survivors of Out-of-Hospital Cardiac Arrest: The CAPITAL CHILL Randomized Clinical Trial
JAMA. 2021 Oct 19;326(15):1494-1503. doi: 10.1001/jama.2021.15703.
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【重要性】院外心停止の昏睡生存者は、高い確率で死亡と重度の神経学的損傷を経験する。現在のガイドラインでは、24時間32℃~36℃の標的体温管理を推奨している。しかし、小規模の研究では、より低い体温を目標とすることの潜在的な有益性が示唆されている。
【目的】軽度の低体温(34℃)と比較して中等度の低体温(31℃)が院外心停止の昏睡生存者の臨床転帰を改善するかどうかを判断する。
【デザイン、設定および参加者】カナダ、オンタリオ東部の三次心臓ケアセンターで行われた単施設、二重盲検、無作為、臨床優越試験の実施。2013年8月4日~2020年3月20日に院外心停止患者計389名を登録し、2020年10月15日に最終フォローアップを行った。
【介入】患者を24時間、目標体温を31℃(n=193)または34℃(n=196)に設定して温度管理する方法にランダムに割り付けた。 主要転帰・評価]主要転帰は180日後の全死亡または神経学的転帰不良であった。神経学的転帰は障害評価尺度を用いて評価し,神経学的転帰不良はスコア5以上(範囲:0~29,29は最悪の転帰[植物状態])と定義された。180日後の死亡率や集中治療室滞在期間など19の副次的転帰があった。
【結果】一次解析に含まれた367例(平均年齢61歳,女性69例[19%])のうち,366例(99.7%)が試験を完遂した。主要転帰は31℃群では184例中89例(48.4%),34℃群では183例中83例(45.4%)で発生した(リスク差,3.0%[95%CI, 7.2%-13.2%]; 相対リスク,1.07[95%CI, 0.86-1.33]; P = 0.56)。19の副次的転帰のうち、18は統計的に有意ではなかった。180日後の死亡率は,目標体温を31 ℃と34 ℃に設定して治療した患者では,それぞれ43.5%と41.0%であった(P = 0.63).集中治療室での入院期間の中央値は31 ℃の群で長かった(10日対7日;P = 0.004)。31 ℃群と34 ℃群の有害事象のうち、深部静脈血栓症は11.4%と10.9%に、下大静脈の血栓は3.8%と7.7%に発生した。
【結論と関連性】病院外心停止の昏睡生存者において、目標温度31 ℃は目標温度34℃と比較して180日の死亡率または神経学的転帰不良率を有意には減少させなかった。しかし,臨床的に重要な差を検出するには,この試験は力不足であった可能性がある。
【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT02011568
第一人者の医師による解説
一律ではなく蘇生後脳障害の重症度に応じた体温管理療法を目指すべき
多村 知剛 Pulmonary and Critical Care Medicine, Brigham and Women’s Hospital/Harvard Medical School(research fellow)
MMJ. April 2022;18(2):46
院外心停止は日本で年間12万件以上発生するが、1カ月後の生存率は10%未満で極めて予後不良である。虚血再灌流障害に起因した重篤な脳障害が主な死因である。心停止後昏睡状態の患者に対しては32 ~ 36℃の目標体温を24時間維持する体温管理療法が推奨されている。動物実験や小規模な観察研究では、より低い28 ~ 2℃を目標体温とすることが神経学的転帰改善に有益である可能性が示唆されているが、32℃未満を目標体温とした無作為化試験は行われていない。
本論文は院外心停止患者に対する体温管理療法において、目標体温を31℃(中等度低体温)とすることが、34℃(軽度低体温)に比べ、転帰改善に有用であるか否かを検討した単施設無作為化二重盲検比較試験の報告である。2013年8月4日~20年3月20日に、カナダの3次心臓病治療センターに入院した院外心停止後昏睡状態(入院時のGlasgow Coma Scaleが8点以下)の18歳以上の患者389人を、目標体温31℃群(193人)または34℃群(196人)に無作為に割り付け、血管内に留置したカテーテルを用いた体温冷却装置により24時間の体温管理療法を行った。主要評価項目は180日時点での全死亡または神経学的転帰不良の複合エンドポイント、副次評価項目は180日死亡、集中治療室(ICU)滞在日数など19項目とした。389人のうち、割り付けられた治療を受け主要評価項目の解析対象となったのは367人(平均年齢61歳、男性298人[81%])であった。主要評価項目のイベントは31℃群で48.4%、34℃群で45.4%に発生し、有意差を認めなかった。副次評価項目のうち、ICU滞在日数のみ31℃群で有意に延長した(中央値 10日 対 7日)が、他の18項目に統計学的有意差は認めなかった。低体温療法の有害事象である血栓症については、深部静脈血栓症の発現率は31℃群11.4%、34℃群10.9%、下大静脈血栓症はそれぞれ3.8%と7.7%と、いずれも有意な群間差を認めなかった。
無作為化前から氷嚢によって冷却する努力がされたこと、体温の変動が小さい血管内冷却法を用いて厳密に体温管理が行われた点で本研究は評価に値する。しかし他の体温管理療法の大規模研究(1),(2)と同様に、心原性心停止(急性心筋梗塞や致死性不整脈)かつ約80%が男性と対象に偏りがある点で、本研究結果の一般化は難しい。また蘇生後脳障害の重症度は患者ごとに異なり、重症度の高い患者では中等度低体温が有益である可能性が残る。蘇生後脳障害の改善には重症度評価法の開発とそれに応じたテーラーメイドな体温管理療法を目指す必要がある。
1. Dankiewicz J, et al. N Engl J Med. 2021;384(24):2283-2294.
2. Kirkegaard H, et al. JAMA. 2017;318(4):341-350.