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根治的前立腺全摘除術後の放射線治療のタイミング(RADICALS-RT) 第III相無作為化比較試験
根治的前立腺全摘除術後の放射線治療のタイミング(RADICALS-RT) 第III相無作為化比較試験
Timing of radiotherapy after radical prostatectomy (RADICALS-RT): a randomised, controlled phase 3 trial Lancet. 2020 Oct 31;396(10260):1413-1421. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31553-1. Epub 2020 Sep 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】前立腺がんの根治的前立腺全摘除術後の放射線治療の最適なタイミングは明らかになっていない。著者らは、前立腺特異的抗原(PSA)生化学的再発時の救済放射線療法と併用する経過観察と比較した補助放射線療法の有効性と安全性を比較すること。 【方法】根治的前立腺全摘除術後に生化学的進行が見られる1項目以上の危険因子(病理学的T分類3または4、グリーソンスコア7-10点、断端陽性、術前PSAが10ng/mL以上のいずれか)がある患者を組み入れた無作為化比較試験を実施した(RADICALS-RT試験)。試験は、試験実施の認可を受けたカナダ、デンマーク、アイルランドおよび英国の施設で実施した。患者を補助放射線療法とPSAで判定した再発(PSA 0.1ng/mL以上または連続3回以上で上昇)に応じて救済放射線療法を用いる経過観察に1対1の割合で無作為に割り付けた。盲検化は実効不可能と判断した。グリーソンスコア、切除断端、予定していた放射線スケジュール(52.5Gy/20分割または66Gy/33分割)および施設を層別化因子とした。主要評価項目は無遠隔転移生存期間に規定し、救済放射線療法(対照)による90%の改善から補助放射線療法による10年時の95%の改善を検出するデザイン(検出力80%)とした。生化学的無増悪生存期間、プロトコールにないホルモン療法非実施期間および患者方向転帰を報告する。標準的な生存解析法を用いた。ハザード比(HR)1未満を補助放射線療法良好とした。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT00541047で登録されている。 【結果】2007年11月22日から2016年12月30日の間に、1396例を無作為化し、699例(50%)を救済放射線療法群、697例(50%)を補助放射線療法群に割り付けた。割り付け群は年齢中央値65歳(IQR 60-68)で釣り合いがとれていた。追跡期間中央値4.9年(IQR 3.0-6.1)であった。補助放射線療法群に割り付けた697例中649例(93%)が6カ月以内、救済放射線療法群に割り付けた699例中228例(33%)が8カ月以内に放射線療法を実施したことを報告した。イベント169件で、5年生化学的無増悪生存率が補助放射線療法群で85%、救済放射線療法群で88%であった(HR 1.10、95%CI 0.81-1.49、P=0.56)。5年時のプロトコールにないホルモン療法非実施期間が補助放射線療法群で93%、救済放射線療法群で92%であった(HR 0.88、95%CI 0.58-1.33、P=0.53)。1年時の自己報告の尿失禁は補助放射線療法群の方が不良であった(平均スコア4.8 vs. 4.0、P=0.0023)。が補助放射線療法群の6%、救済放射線療法群の4%に2年以内にグレード3-4の尿道狭窄が報告された(P=0.020)。 【解釈】この初期結果は、根治的前立腺全摘除術後の補助放射線療法のルーチンの実施を支持するものではない。補助放射線療法によって泌尿器合併症リスクが上昇する。PSA生化学的再発時に救済放射線療法を実施する経過観察を根治的前立腺全摘除術後の現行の標準治療とすべきである。 第一人者の医師による解説 適切な救済放射線治療により 補助放射線治療とPSA制御に差はない 伊丹 純 元国立がん研究センター中央病院放射線治療科科長 MMJ. April 2021;17(2):54 前立腺全摘術は前立腺がんに対する根治療法の1つであるが、高リスク患者では半分程度に前立腺特異抗原(PSA)再発が見られる。切除断端陽性、前立腺被膜外浸潤陽性、精嚢浸潤陽性、Gleason score8以上などの再発高リスク患者には、手術に引き続き補助放射線治療が実施されることがある。それに対して、術後は経過観察とし、PSA再発をきたした場合にのみ救済放射線治療を実施する方が、放射線治療の対象を限定することができ、長期成績は補助放射線治療と変わらないとするものもある。 今回報告されたRADICALS-RT試験は術後の補助放射線治療群と経過観察群を比較した無作為化第3相試験であり、対象は再発危険因子としてpT3/pT4、Gleason score 7~10、断端陽性、治療前PSA 10ng/mL以上のいずれか1個以上を持つ前立腺全摘術の前立腺がん患者で、通常の術後照射の対象より再発リスクの低い患者も含まれる。無作為割り付け後、補助放射線治療群は2カ月以内に前立腺床に対する放射線治療を開始し、経過観察群はPSAが2回続けて0.1ng/mL以上に上昇した場合、2カ月以内に救済放射線治療を開始した。救済放射線治療はPSA 0.2ng/mL以下でより有効であることが示されており当試験の重要なポイントである。補助放射線治療、救済放射線治療ともに前立腺床±骨盤リンパ節に66Gy/33分割、または52.5Gy/20分割(約62Gy/31分割相当)の照射が実施された。2007年11月~16年12月に英連邦諸国およびデンマークから1,396人が登録され、追跡期間中央値は4.9年。無作為割り付け後5年で経過観察群のうち32%の患者で救済放射線治療が開始されていた。5年PSAの無増悪生存率は 補助放射線治療群で85%、経過観察群88%で有意差はなかった。しかし、泌尿器症状、消化器症状などは2年以内の早期およびそれ以降の晩期ともに経過観察群で有意に少なかった。 今回の試験と同時期にLancet Oncologyに同様な2件の第3相試験(1),(2)が報告され、それらを併せた3試験のメタアナリシス(3)も発表された。いずれの報告でもPSA値が0.2ng/mL程度の段階で救済療法が実施されれば経過観察群はPSA無増悪生存率で補助放射線治療群と差はないという結果であった。術後照射を必要とする高リスク群も抽出できなかった。これら3件の第3相試験とそのメタアナリシスを踏まえると、前立腺全摘術後の補助放射線治療はルーティンで実施されるべきではなく、救済療法はPSAが0.2ng/mL程度の段階で早期に開始すべきである。また、救済放射線治療の際にはホルモン療法の同時併用も考慮されるべきである。 1. Kneebone A, et al. Lancet Oncol. 2020;21(10):1331-1340. 2. Sargos P, et al. Lancet Oncol. 2020;21(10):1341-1352. 3. Vale CL, et al. Lancet. 2020;396(10260):1422-1431.
限局性前立腺がん患者の15年間のQOL転帰 オーストラリアの住民対象前向き研究
限局性前立腺がん患者の15年間のQOL転帰 オーストラリアの住民対象前向き研究
Fifteen year quality of life outcomes in men with localised prostate cancer: population based Australian prospective study BMJ. 2020 Oct 7;371:m3503. doi: 10.1136/bmj.m3503. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】限局性前立腺がんの診断後15年間の治療関連QOLの変化を評価すること。 【デザイン】追跡期間15年以上の住民対象前向きコホート研究。 【設定】オーストラリア・ニューサウスウェールズ州。 【参加者】ニューサウスウェールズ州の有権者名簿から無作為に募集し、New South Wales Prostate Cancer Care and Outcomes Study(PCOS)に登録した70歳未満の限局性前立腺がん患者1642例と対照786例。 【主要評価項目】12項目のShort Form Health Survey(SF12)尺度、カリフォルニア大学ロサンゼルス校前立腺がん指数、拡張前立腺がん複合指標(EPIC-26)を用いて、15年間で7回の測定時に一般的な健康状態と疾患別QOLを自己申告した。比較群とした対照との調整平均差を算出した。ベースラインスコアから標準偏差(SD)の3分の1と定義した最小重要差をもって、調整平均差の臨床的重要性を評価した。 【結果】15年時、全治療群が高水準の勃起不全を報告し、62.3%(積極的監視・経過観察、53例中33例)から83.0%(神経非温存根治的前立腺摘除、141例中117例)までと治療によって異なるが、いずれも対照群(42.7%、103例中44例)よりも高率であった。1次治療に外部照射法、高線量率近接照射療法、アンドロゲン除去療法を実施した患者に腸管障害の報告が多かった。外科手術を施行した患者で特に尿失禁の自己申告率が高く、アンドロゲン除去療法を実施した患者で、10~15年時に排尿障害の報告が増加した(10年目:調整平均差-5.3、95%信頼区間-10.8~0.2、15年目:-15.9、-25.1~-6.7)。 【結論】初期に積極的治療を受けた限局性前立腺がん患者で、前立腺がん診断を受けていない対照と比べて、自己報告による長期QOLが全般的に悪化した。根治的前立腺摘除術を受けた患者では特に、長期的な性生活転帰が不良であった。治療方法を決定する際、このような長期的QOLを考慮すべきである。 第一人者の医師による解説 長期的な性機能低下と尿失禁に関して 事前に十分な情報提供が必要 米瀬 淳二 公益財団法人がん研究会有明病院泌尿器科部長 MMJ. April 2021;17(2):55 前立腺がんは、前立腺特異抗原(PSA)検診により早期発見が増え男性のがんの中で肺がんに次いで2番目に高い罹患率となった。転移のない限局がんの予後は一般的に良好で、10年の疾患特異的生存率は本論文にもあるように、ほぼ100%である。良好な生存率の陰には不必要な過剰治療が生活の質(QOL)を低下させるという反省があり、低リスク限局性前立腺がんには監視療法が行われるようになった(1)。一方、米国では過剰な早期診断は益よりも害をもたらすとして2012年にPSA検診は有害とする勧告が出され、近年転移性前立腺がんの再増加が観察されている(2)。 住民に対するPSA検診の是非はさておき、先進国では毎日多くの男性が限局性前立腺がんと診断される。この早期発見が害ではなく益をもたらすためには、早期限局がんの治療選択において本論文のようなQOL調査の結果が参考になる。限局性前立腺がんの治療には、そのリスクに応じて、即座に根治治療を行わない監視療法から、前立腺全摘術、外照射、小線源治療、内分泌療法などの選択肢がある。これまでの前立腺がん治療後のQOL調査と同様、前立腺全摘では、尿失禁、性機能障害が長期にわたって継続し、外照射では腸のわずらわしさが他の治療より強く、小線源では排尿のわずらわしさが強く、時間経過とともに性機能低下はやがて受け入れられていくという結果が示されている。この点は実臨床での印象どおりで、やはりそうかと思わせるものである。 一方、本論文の限界としては初回治療後の追加治療に関する情報がないことである。監視療法も15年の間には半数以上が何らかの介入を受けている可能性があり、外照射のほとんどは一時的なホルモン療法が先行および併用されていると考えられる。このため、これらの初回治療群のQOLの結果の解釈に注意が必要と思われる。例えばホルモン療法群に腸のわずらわしさが多いのは放射線療法を受けた患者が多く含まれていると考えられ、逆に外照射の早期の性機能低下は内分泌療法併用の影響もあるのではないかと推測される。もちろん前立腺全摘術も再発時には追加治療を受けているのでどの群でも複数治療の影響があると思われる。しかし初回治療の選択から追加治療を含めての長期QOLは貴重なデータであり、治療選択の際には提示すべき結果である。ただあくまで個人的見解であるが、15年先のQOLよりもより短期間のQOLを重視する患者さんも多いと感じている。 1. Chen RC, et al. J Clin Oncol. 2016;34(18):2182-2190. 2. Butler SS, et al. Cancer. 2020;126(4):717-724.
深層学習と標準法を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による前立腺がんと悪性黒色腫患者の病原性変異検出の比較
深層学習と標準法を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による前立腺がんと悪性黒色腫患者の病原性変異検出の比較
Detection of Pathogenic Variants With Germline Genetic Testing Using Deep Learning vs Standard Methods in Patients With Prostate Cancer and Melanoma JAMA. 2020 Nov 17;324(19):1957-1969. doi: 10.1001/jama.2020.20457. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】検出可能な生殖細胞系列変異があるがん患者が10%に満たず、これは病原性変異の検出が不完全であることが原因の一つになっていると思われる。 【目的】深層学習によってがん患者の病原性生殖細胞系列変異がさらに多く特定できるかを評価すること。 【デザイン、設定および参加者】2010年から2017年の間に米国と欧州で組み入れた前立腺がんと悪性黒色腫の2つのコホートの便宜的標本で、標準生殖細胞検出法と深層学習法を検討する横断的研究。 【曝露】標準法または深層学習法を用いた生殖細胞系列変異の検出。 【主要評価項目】主要評価項目は、がん素因遺伝子118個の病原性変異の検出能とし、感度、特異度、陽性適中率(PPV)および陰性適中率(NPV)で推定した。副次評価項目は、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)が指定している治療可能な遺伝子59個および臨床的に重要なメンデル遺伝子5197個の検出能とした。感度および真の特異度は、標準基準がないため算出できなかったが、真陽性変異と真陰性変異の割合を推定することとし、いずれかの方法で有効と判断した全変異で構成された参照変異一式の中から各方法を用いて特定した。 【結果】前立腺がんコホートは1072例(診断時の平均[SD]年齢63.7[7.9]歳、欧州系857例[79.9%])、悪性黒色腫コホートは1295例(診断時の平均[SD]年齢59.8[15.6]歳、女性488例[37.7%]、欧州系1060例[81.9%])を組み入れた。深層学習法の法が標準法よりも、がん素因遺伝子の病原性変異が多く検出された(前立腺がん:198個 vs. 182個、悪性黒色腫:93個 vs. 74個)。感度は、前立腺がん94.7% vs. 87.1%(差7.6%、95%CI 2.2~13.1%)、悪性黒色腫74.4% vs. 59.2%(同15.2%、3.7~26.7%)、特異度は、前立腺がん64.0% vs. 36.0%(同28.0%、1.4~54.6%)、悪性黒色腫63.4% vs. 36.6%(同26.8%、95%CI 17.6~35.9%)、PPVは前立腺がん95.7% vs. 91.9%(同3.8%、-1.0~8.4%)、悪性黒色腫54.4% vs. 35.4%(同19.0%、9.1~28.9%)、NPVは前立腺がん59.3% vs. 25.0%(差34.3%、10.9~57.6%)、悪性黒色腫80.8% vs. 60.5%(同20.3%、10.0~30.7%)であった。ACMG遺伝子をみると、前立腺がんコホートでは両方法の感度に有意差がなかったが(94.9 vs. 90.6%[差4.3%、95%CI -2.3~10.9%])、悪性黒色腫コホートでは、深層学習法の方が感度が高かった(71.6% vs. 53.7%[同17.9%、1.82~34.0%])。深層学習法はメンデリアン遺伝子でも感度が高かった(前立腺がん99.7% vs. 95.1%[同4.6%、3.0~6.3%]、悪性黒色腫91.7% vs. 86.2%[同5.5%、2.2~8.8%])。 【結論および意義】前立腺がん患者と悪性黒色腫患者を組み入れた2つの独立のコホートから成る便宜的標本で、深層学習を用いた生殖細胞系列遺伝子検査による病原性変異検出の感度および特異度が、現行の標準遺伝子検査法よりも高かった。臨床転帰の観点からこの結果の意義を理解するには、さらに詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 バリアントの検出手法は 新たな手法によって改善する余地あり 水上 圭二郎(研究員)/桃沢 幸秀(チームリーダー) 理化学研究所生命医科学研究センター基盤技術開発研究チーム MMJ. June 2021;17(3):92 現在行われている遺伝学的検査の多くは、患者のDNAを次世代シークエンサーと呼ばれる機械を用いて解読し、そのデータをコンピュータを用いて解析することによって、患者の遺伝子における塩 基配列の違い(バリアント)を検出する。このようにして検出されたバリアント情報は、疾患との関連性などの臨床的な解釈を付与された後、検査結 果として報告される。医師はこの検査結果に基づき疾患の発症予測や予後判定、治療方針の決定などを行う。遺伝学的検査の過程をバリアント検出と臨床的な解釈付けの2つに分けた場合、一般的に前者は高い正確性があると認識されているため、多くの研究は後者に焦点を当てたものになっているのが現状である。 しかしながら、前者についても重要な研究が行われており、2018年にGoogle Brainチームという人工知能の研究チームより、DeepVariantというバリアント検出に深層学習を用いたソフトウエア が報告された1 。このソフトウエアは、次世代シークエンサーの生データからバリアントを検出するまでの途中過程で生じる画像を大量に学習し、未知のバリアント検出に利用するという、とてもユニークな手法を用いている。本研究では、前立腺がんとメラノーマ患者由来の大規模データを用いて、このソフトウエアとヒトゲノム解析において世界の中心的な役割を果たしてきているBroad Instituteが開発したGenome Analysis Toolkit(GATK)のHaplotypeCallerという現在最も汎用されているソフトウエアを、臨床的に重要な遺伝子のバリアントに着目し、バリアント保有者数 、感度 、特異度 、陽性・陰性的中率について比較した。 これら2つの手法を比較した結果、特にBRCA1/2などの遺伝性腫瘍関連遺伝子群において、DeepVariantは全評価項目において従来法のHaplotypeCallerに比べ性能が良いことが示された。例えば、前立腺がん患者データにおいて検出されたバリアント保有者は、DeepVariantで198人、従来法で182人だった。この要因の1つとして、DeepVariantでは集団において保有者が1人しかいないような極めて頻度が低いバリアントも高感度に検出できたことが挙げられる。一方、 DeepVariantだけ検出できないバリアントも存在したことから、検出感度を最大にするためには両者の併用も考慮する必要があるとしている。 以上のように、バリアントの検出手法はすでに確立されたものと一般的には考えられているが、深層学習など新たな手法を用いることによってま だまだ改善する余地が残されていることが、本論文では示されていた。 1. Poplin R, et al. Nat Biotechnol. 2018;36(10):983-987.
男性パートナーの総精子数および精子運動率が正常な不妊カップルに用いる卵細胞質内精子注入法と標準体外受精の比較:非盲検無作為化比較試験
男性パートナーの総精子数および精子運動率が正常な不妊カップルに用いる卵細胞質内精子注入法と標準体外受精の比較:非盲検無作為化比較試験
Intracytoplasmic sperm injection versus conventional in-vitro fertilisation in couples with infertility in whom the male partner has normal total sperm count and motility: an open-label, randomised controlled trial Lancet. 2021 Apr 24;397(10284):1554-1563. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00535-3. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】卵細胞質内精子注入法の使用は世界で大幅に増加している。しかし、このアプローチを標準体外受精(IVF)と比較した無作為化比較試験のデータが不足している。そこで、卵細胞質内精子注入法が標準IVFと比較して生産率が高いかを明らかにすることを目的とした。 【方法】この非盲検多施設共同無作為化試験は、ベトナム・ホーチミン市のIVFセンター2施設(IVFMD、My Duc HospitalおよびIVFAS、An Sinh Hospital)で実施された。男性パートナーの精子数および精子運動率(直進運動)が2010年のWHO基準から見て正常な18歳以上のカップルを適格とした。標準IVFまたは卵細胞質内精子注入法による治療歴が2回以下であり、卵巣刺激にアンタゴニスト法を用いており、胚移植数が2個以下であることとした。ブロックサイズが2、4または8のブロック置換法および電話による中央無作為化法を用いて、カップルを卵細胞質内精子注入法と標準IVFに(1対1の割合で)割り付けた。コンピュータ生成無作為化リストは、試験に関与していない独立の統計家が用意した。介入法および病院での支払いに差があるため、胚培養士およびカップルに試験群を伏せなかったが、胚移植を実施する臨床医には試験群の割り付けを伏せた。主要評価項目は、初回採卵周期で得た初回胚移植後の生産率とした。intention-to-treat集団で解析した。この試験はClinicalTrials.gov,にNCT03428919として登録されている。 【結果】2018年3月16日から2019年8月12日までの間に、1,064組を卵細胞質内精子注入法(532組)と標準IVF(532組)に割り付けた。卵細胞質内精子注入法に割り付けたカップル532組中284組(35%)および標準IVFに割り付けたカップル532組中166組(31%)が初回採卵周期で得た初回胚移植後に生児を出生した(絶対差3.4%、95%CI -2.4~9.2、リスク比[RR]1.11、95%CI 0.93~1.32;P=0.27)。卵細胞質内精子注入法群の29組(5%)と標準IVF群の34組(6%)で受精が失敗した(絶対差-0.9%、RR 0.85、95%CI 0.53~1.28;P=0.60)。 【解釈】男性パートナーの総精子数および運動率が正常な不妊カップルで、卵細胞質内精子注入法の生産率に標準IVFと比べて改善が見られなかった。この結果は、この集団に用いる生殖補助技術として卵細胞質内精子注入法のルーチンの使用を再考する必要性を示すものである。 第一人者の医師による解説 男性不妊因子のないカップルへの顕微授精は再考が必要 通常の体外受精で対応可 丸山 哲夫 慶應義塾大学医学部産婦人科学教室准教授 MMJ. October 2021;17(5):155 健常と思われる単一の精子を卵子に注入して受精卵を作成する顕微授精(ICSI)は、精液所見が不良のために通常の体外受精(cIVF)では妊娠が困難な不妊カップルを治療する目的で1990年代に開発された。本技術はこの約20年間世界中で広く用いられ、精液所見による男性不妊因子の割合はほぼ一定であるにもかかわらず、ICSI実施件数は増加の一途をたどっている(1)。この増加は、男性不妊因子のない不妊カップルに実施される割合が大幅に高まっていることに起因し、米国では1996年の15.4%から2012年には66.9%へと上昇した(2)。このような本来の目的以外でICSIが用いられる背景には、確実に受精させることで受精卵を効率的に増やし、生児が得られる確率を高めるという考えがある。しかし、その考えを裏付ける確かなエビデンスはこれまで得られていない。男性不妊因子のない不妊カップルを対象にICSIとcIVFを比較したランダム化試験(3)は報告されている。主要評価項目である着床率はcIVFの方が高かったが(30%対22%)、統計学的検出力が不十分であり、不妊カップルにとって最も重要な関心事である生児獲得率(生産率)のデータがないことから、これらの諸問題を解決する新たなランダム化試験が望まれていた。 今回のランダム化非盲検対照試験は、2018〜19年にベトナムのIVFセンター2施設で行われた。世界保健機関(WHO)2010基準で総精子数および精子運動率が正常、過去のcIVFまたはICSIの治療歴は2回以下などを組み入れ条件とし、卵巣刺激はアンタゴニスト法で移植胚数は2個以下と設定した。cIVFとICSIの介入方法と治療コストは両者で明らかに異なるので、胚培養士および対象カップルへの盲検化は不可のため非盲検となった。主要評価項目は、初回採卵周期で得られた最初の胚の移植での生産率とされた。6,440組の不妊カップルを絞り込んでいった結果、最終的にICSI群に532組、cIVF群に532組が割り当てられた。その結果、生産率は、ICSI群で35%、cIVF群で31%で、両群間に有意差は認められなかった。受精失敗率についても両群間で有意差はなかった(5%対6%)。 本研究の結果から、男性不妊因子のない不妊カップルにICSIを行っても生産率が向上することはなく、昨今の男性不妊因子を考慮しないICSIのルーチン的な使用については再考する必要性が示された。 1. Zagadailov P, et al. Obstet Gynecol. 2018;132(2):310-320. 2. Boulet SL, et al. JAMA. 2015;313(3):255-263. 3. Bhattacharya S, et al. Lancet. 2001;357(9274):2075-2079.
前立腺がんの救済放射線治療の決定に用いる18F-フルシクロビンPET/CT検査と従来の画像検査単独の比較:単一施設、非盲検、第II/III相無作為化比較試験
前立腺がんの救済放射線治療の決定に用いる18F-フルシクロビンPET/CT検査と従来の画像検査単独の比較:単一施設、非盲検、第II/III相無作為化比較試験
18 F-fluciclovine-PET/CT imaging versus conventional imaging alone to guide postprostatectomy salvage radiotherapy for prostate cancer (EMPIRE-1): a single centre, open-label, phase 2/3 randomised controlled trial Lancet. 2021 May 22;397(10288):1895-1904. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00581-X. Epub 2021 May 7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】前立腺がんの治療の決定や計画分子イメージングを用いることが多くなっている。著者らは、救済放射線治療の癌制御率改善に果たす18F-フルシクロビンPET/CT検査の役割を従来の画像検査(骨シンチグラフィとCT検査またはMRI検査)を比較することを目的とした。 【方法】単一施設非盲検第II/III相無作為化試験、EMPIRE-1では、前立腺摘除後に前立腺特異抗原(PSA)が検出されたが従来の画像検査結果で陰性(骨盤外転移、骨転移なし)であった前立腺がん患者を放射線治療決定に従来の画像検査単独に用いるグループと放射線治療+18F-フルシクロビン-PET/CT検査を用いるグループに割り付けた。コンピュータが生成した無作為化をPSA濃度、異常が示唆される病理学的所見およびアンドロゲン除去療法の意図で層別化した。18F-フルシクロビン-PET/CT検査群では、標的の描写にも用いたPET画像で放射線治療を厳格に決定した。主要評価項目は3年無事象生存率とし(生化学的再発または進行、臨床的再発または進行、全身療法の開始を事象と定義)、放射線治療を受けた患者で単変量解析および多変量解析を実施した。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT01666808として登録されており、患者の登録が終了している。 【結果】2012年9月18日から2019年3月14日にかけて165例を無作為化により割り付け、追跡期間が中央値3.52年(95%CI 2.98~3.95)となった。PET検査の結果から、18F-フルシクロビン-PET-CT検査群の4例が放射線治療を回避し、この4例は生存解析から除外した。生存期間中央値は、従来検査群(95% CI 35.2~未到達;81例中33%に事象発生)、18F-フルシクロビン-PET/CT検査群(95%未到達~未到達;76例中20%に事象発生)ともに未到達であり、3年無事象生存率が従来検査群63.0%(95%CI 49.2~74.0)、18F-フルシクロビン-PET-CT検査群75.5%(95%CI 62.5~84.6)であった(差difference 12.5; 95%CI 4.3~20.8;P=0.0028)。調整した解析で、試験群(ハザード比2.04[95%CI 1.06~3.93]、P=0.0327)に無事象生存との有意な関連が見られた。両群の毒性がほぼ同じであり、最も多い有害事象が遅発性頻尿および尿意切迫感(従来検査群81例中37例[46%]、PET群76例中31例[41%])および急性下痢(11例[14%]、16例[21%])であった。 【解釈】前立腺摘除後の救済放射線治療の方針決定や計画に18F-フルシクロビン-PET/CT検査を用いることによって生化学的再発や持続のない生存率が改善した。前立腺がん放射線治療の方針決定や計画に新たなPET放射性核種を組み込むことについて、新たな試験で検討する必要がある。 第一人者の医師による解説 新しいPET放射性核種を使用した治療決定や治療計画を期待 吉田 宗一郎 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器外科学講師 MMJ. October 2021;17(5):148 前立腺がんに対する前立腺全摘除後の放射線治療は、術後追加治療、または生化学的再発が認められた際の救済治療として行われることが多い。これらの放射線治療を行うかどうか、またいつ行うかの判断は、リスク群や病理所見、術後前立腺特異抗原(PSA)の推移などに応じて検討されている。18 F-フルシクロビン -PET/CTは、生化学的に再発した前立腺がんの再病期診断において、CTやMRIよりも優れた診断性能を有し、前立腺全摘除術後の生化学的再発に対し、3分の1以上の患者で、18 F-フルシクロビン -PET/CTにより救済放射線治療の方針が変更になることが報告されている(1)。 今回報告されたEMPIRE-1試験の目的は、前立腺全摘除後にPSA上昇が検知されるも、従来の画像検査が陰性である患者を対象とした単施設、非盲検、第2/3相無作為化試験により、18 F-フルシクロビン -PET/CTが、3年間の無イベント生存率を改善させるかどうかを明らかにすることである。対象患者は、PSA値、病理組織学的所見、ホルモン療法実施の意図で層別化され、従来の画像診断のみで行う放射線治療群、もしくは従来の画像診断に加え18 F-フルシクロビン -PET/CTを併用する放射線治療群に割り付けられた。主要評価項目は3年無イベント生存率で、イベントの定義は生化学的または臨床的な再発・進行、あるいは全身療法の開始とした。結果として、165人の患者が割り付けられ、追跡期間の中央値は3.52年であった。3年無イベント生存率は、従来の画像診断群の63.0%に対し、18 F-フルシクロビン -PET/CT群では75.5%と有意に高かった。調整後解析では、18 F-フルシクロビン -PET/CTの併用が無イベント生存率と有意に関連していた(ハザード比 , 2.04;95%信頼区間 ,1.06?3.93)。毒性は両群でほぼ同様であり、主な有害事象は遅発性の頻尿・尿意切迫感、急性下痢であった。 これまでも新規 PET放射性核種による診断精度や治療方針決定の変化についての検討が行われてきたが、今回の制がん効果を主要評価項目とした初めての前向き無作為化試験によって、前立腺全摘除術後の放射線治療の決定プロセスにおける18 Fフルシクロビン -PET/CTの導入が無イベント生存率を改善する可能性が示唆された。現在、多くの研究により前立腺特異的膜抗原を標的としたPSMAPETの良好な診断精度が示され、前立腺全摘除後の再発巣検知でもその有効性に大きな関心が寄せられている。今後、新しいPET放射性核種を使用した治療決定や治療計画についてさらなる研究が必要である。 1. Abiodun-Ojo OA, et al. J Nucl Med. 2021;62(8):1089-1096
筋層浸潤尿路上皮がんに用いるニボルマブ補助療法とプラセボの比較
筋層浸潤尿路上皮がんに用いるニボルマブ補助療法とプラセボの比較
Adjuvant Nivolumab versus Placebo in Muscle-Invasive Urothelial Carcinoma N Engl J Med. 2021 Jun 3;384(22):2102-2114. doi: 10.1056/NEJMoa2034442. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【目的】高リスク筋層浸潤尿路上皮がんの根治的手術後に用いる術後補助療法の役割は明らかになっていない。【方法】第III相多施設共同二重盲検無作為化比較試験で、根治的手術を受けた筋層浸潤尿路上皮がん患者をニボルマブ(240mg静脈内投与)群とプラセボ群に1対1の割合で割り付け、2週間ごとに最長1年間投与した。試験登録前にシスプラチンを用いた術前化学療法を実施していてもよいこととした。主要評価項目は、全患者(intention-to-treat集団)および腫瘍のPD-L1発現レベル1%以上の患者の無病生存とした。尿路外無再発生存を副次的評価項目とした。【結果】計353例をニボルマブ群、356例をプラセボ群に割り付けた。intention-to-treat集団の無病生存期間中央値は、ニボルマブ群が20.8カ月(95%CI、16.5~27.6)、プラセボ群が10.8カ月(95%CI、8.3~13.9)であった。6カ月時の無病生存率はニボルマブ群が74.9%、プラセボ群が60.3%であった(再発または死亡のハザード比、0.70;98.22%CI、0.55~0.90;P<0.001)。PD-L1発現レベルが1%以上の患者では、割合はそれぞれ74.5%と55.7%であった(ハザード比、0.55、98.72%CI、0.35~0.85、P<0.001)。intention-to-treat集団の尿路外無再発生存期間の中央値は、ニボルマブ群が22.9カ月(95%CI、19.2~33.4)、プラセボ群が13.7カ月(95%CI、8.4~20.3)であった。6カ月時の尿路外無再発生存率は、ニボルマブ群が77.0%、プラセボ群が62.7%(尿路外の再発または死亡のハザード比、0.72;95%CI、0.59~0.89)。PD-L1発現レベル1%以上の患者では、それぞれ75.3%および56.7%であった(ハザード比、0.55;95%CI 0.39~0.79)。ニボルマブ群の17.9%とプラセボ群の7.2%にグレード3以上の治療関連有害事象が発現した。ニボルマブ群では、間質性肺炎による治療関連死が2件報告された。【結論】根治的手術を受けた高リスク筋層浸潤尿路上皮がん患者を対象とした本試験では、術後ニボルマブによりintention-to-treat集団およびPD-L1発現レベル1%以上の患者の無病生存期間がプラセボよりも長くなった。 第一人者の医師による解説 日本でも21年3月に適応拡大申請 手術療法+ニボルマブがいずれ標準治療に 水野 隆一 慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室准教授 MMJ. December 2021;17(6):183 筋層浸潤性尿路上皮がんに対する標準治療は、膀胱がんであれば膀胱全摘除術、腎盂尿管がんであれば腎尿管全摘除術とされている。これらは根治を目的とした術式であるが、病理学的に固有筋層浸潤や所属リンパ節転移を認める患者における術後再発率は50%以上と報告されており、再発抑制を目的とした術後補助療法の確立は緊急の課題である。今回報告されたCheckMate274試験は、根治切除後の再発リスクが高い筋層浸潤性尿路上皮がん患者を、ニボルマブ(240mg)群とプラセボ群に1:1に割り付けて比較評価した第3相試験である。根治切除後120日以内で画像再発がない、病理学的に尿路上皮がんが確認された患者を対象とした。ニボルマブ、プラセボともに2週間ごとに最長1年間投与された。主要評価項目は、全無作為化患者(ITT)およびPD-L1発現レベル1%以上の患者における無病生存期間(DFS)、副次評価項目は尿路外無再発生存期間(NUTRFS)、疾患特異的生存期間(DSS)、全生存期間(OS)であった。探索的評価項目は、無遠隔転移生存期間(MFS)、安全性、健康関連の生活の質(QOL)などであった。その結果、ITT解析による主要評価項目DFSは、ニボルマブ群において20.8カ月と、プラセボ群10.8カ月に比べ有意に延長していた(ハザード比[HR],0.70;P<0.001)。PD-L1発現レベル1%以上の集団における6カ月時点の無病生存率もニボルマブ群74.5%、プラセボ群55.7%とニボルマブ群で有意に改善していた(HR,0.55;P<0.001)。NUTRFS、DSS、OS、MFSについても、ITT、PD-L1発現レベル1%以上の集団のどちらでもニボルマブ群で延長が認められた。グレード3以上の治療関連有害事象はニボルマブ群で17.9%、プラセボ群で7.2%に認められた。治療関連有害事象による投薬中止はニボルマブ群12.8%、プラセボ群2.0%であった。ITT、PD-L1発現レベル1%以上の集団ともに、ニボルマブ群ではプラセボ群に比べ健康関連QOLの悪化は認められなかった。本試験の結果から高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの術後補助療法として、ニボルマブがプラセボよりも有意にDFSを延長できることが明らかとなった。局所進行腎盂尿管がん患者に対するプラチナ製剤の術後補助療法によるDFS延長は示されているが、コンセンサスはない。ニボルマブは、高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの術後補助療法として2021年8月に米食品医薬品局(FDA)が承認し、日本でも21年3月に適応拡大が申請された。手術療法+ニボルマブ術後補助療法が高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの標準治療になる日は近い。
発熱がない尿路感染症男性に用いる7日間と14日間の抗菌薬治療の症状消失に対する効果の比較:無作為化臨床試験
発熱がない尿路感染症男性に用いる7日間と14日間の抗菌薬治療の症状消失に対する効果の比較:無作為化臨床試験
Effect of 7 vs 14 Days of Antibiotic Therapy on Resolution of Symptoms Among Afebrile Men With Urinary Tract Infection: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jul 27;326(4):324-331. doi: 10.1001/jama.2021.9899. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】一般的な感染症の最適な治療期間を明らかにすることが、抗菌薬の効果を維持するための重要な戦略である。 【目的】発熱がない男性の尿路感染症(UTI)の治療にシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールを使用する場合、7日間の治療が14日間の治療に対し非劣性であるかを明らかにする。 【デザイン、設定および参加者】米国退役軍人省の2つの医療センターで、症候性UTIと推定された発熱のない男性にシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールを投与した無作為化二重盲検プラセボ対照非劣性試験(2014年4月から2019年12月にかけて登録;最終追跡日2020年1月28日)。適格男性1058例中272例を無作為化した。 【介入】担当医が処方した抗菌薬を7日間継続したのち、参加者を無作為化により8~14日目に抗菌薬治療を継続するグループ(136例)とプラセボを投与するグループ(136例)に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、実際の抗菌薬治療終了から14日後までのUTI症状消失とした。非劣性マージンを10%とした。主解析にはas-treated集団(28回中26回以上服薬し、連続未服薬が2回以下の参加者)を用いた。治療のアドヒアランスに関係なく無作為化した全患者を副次解析の対象とした。試験薬投与中止後28日以内のUTI症状再発または有害事象を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した272例(年齢中央値[四分位範囲]69[62~73]歳)のうち、100%が試験を完了し、254例(93.4%)をas-treated集団として主解析の対象とした。7日群の131例中122例(93.1%)および14日群の123例中111例(90.2%)に症状の消失が認められ(差2.9%[片側97.5%CI -5.2%~∞])、非劣性の基準を満たした。無作為化した患者を対象とした副次解析では、7日群の136例中125例(91.9%)および14日群の136例中123例(90.4%)に症状の消失が認められた(差、1.5%[片側97.5%CI -5.8%~∞])。7日群の131例中13例(9.9%)および14日群の123例中15例(12.9%)にUTI症状再発が認められた(差、-3.0%[95%CI -10.8~6.2%];P=0.70)。7日群の136例中28例(20.6%)および14日群136例中33例(24.3%)に有害事象が発現した。 【結論および意義】発熱はないがUTIが疑われる男性に対するシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールの7日間投与が、抗菌薬治療後14日目までのUTI症状消失で14日間投与に対し非劣性であった。この結果は、発熱がない男性のUTI治療に用いるシプロフロキサシンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールの14日間投与の代案として7日間投与を支持するものである。 第一人者の医師による解説 短期間でも効果は劣らないが白人の高齢者が多いなどさまざまな前提条件に留意 石倉 健司 北里大学医学部小児科学主任教授 MMJ. February 2022;18(1):21 さまざまな感染症で、抗菌薬投与は従来から行われているより短期間でも有効であることが示されている。しかし男性の無熱性尿路感染症に対する同様の検討は行われておらず、短期間投与の有効性が示されれば、特にグラム陰性菌に対する抗菌薬使用量の減少に寄与することが期待される。そこで本論文の著者らは、これらの患者を対象に米国の2つの退役軍人病院で、抗菌薬の7日間と14日間投与の非劣性検証デザインによる無作為化プラセボ対照試験を計画した。 試験方法はpragmaticであり、対象者は無熱性尿路感染症に対してすでに臨床的診断のもとにシプロフロキサシンまたはトリメトプリル /スルファメトキサゾールによる治療が開始されている男性患者の中から登録された。尿路感染症は症状により診断され、尿培養は推奨されているが必須でなかった。対象者は8日以降の治療に関して、すでに使用されている抗菌薬の継続群もしくはプラセボ投与群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は治療遵守群における抗菌薬投与終了14日後の症状改善率とされ、非劣性マージンは効果の差10%以内と設定された。 計画では290人の登録が必要であったが、実際には272人が無作為化された(各群136人)。年齢中央値は各群とも70歳、白人は79%(7日治療群)と78%(14日治療群)、間歇的カテーテル使用は18%と17%、糖尿病の合併率は34%と44%、最も頻度の高い症状はともにdysuriaで68%と65%であった。主要評価項目である抗菌薬終了14日後の症状消失(治療遵守例254人で評価)は、7日治療群で93.1%、14日治療群で90.2%(群間差 ,2.9%;95% CI, -5.2%~∞)であり、事前に定めた非劣性の定義を満たしていた。272人全体での評価、試験終了後14日後での評価などでも結果は変わらなかった。有害事象でも大きな差はなかった。以上から、男性無熱性尿路感染症の症状改善効果に関して、抗菌薬の7日間投与は14日間投与に対して非劣性であることが示された。 本試験の結果に関しては、さまざま前提条件に留意することが必要である。すなわち、米国における白人の男性退役軍人を主な対象にしていること、糖尿病合併が多いこと、抗菌薬が2剤に限られていることなどである。一方、試験の実施には学ぶ点が多い。Pragmaticなことに加え、study personnelの協力の下、データベースから患者候補をリストアップして積極的に患者にアプローチして登録している。さらに電話、メールに加え、状況によっては実際に患者宅に訪問するなど、その後の進捗管理も整備されている。日本での臨床試験の実施においても、大いに参考にしたい。
急性尿閉とがんのリスク:デンマークの住民を対象としたコホート試験
急性尿閉とがんのリスク:デンマークの住民を対象としたコホート試験
Acute urinary retention and risk of cancer: population based Danish cohort study BMJ. 2021 Oct 19;375:n2305. doi: 10.1136/bmj.n2305. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】急性尿閉初回診断後の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんのリスクを評価すること。 【デザイン】全国民を対象としたコホート試験。 【設定】デンマークの全病院。 【参加者】1995年から2017年までに急性尿閉のため初めて入院した50歳以上の患者75,983例。 【主要評価項目】一般集団と比較した急性尿閉患者の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんの絶対リスクおよび超過リスク。 【結果】急性尿閉初回診断後の前立腺がんの絶対リスクは、3ヵ月時点で5.1%(3,198例)、1年時点で6.7%(4,233例)、5年時点で8.5%(5,217例)であった。追跡期間が3ヵ月以内の場合、1,000人年当たり218例の前立腺がん超過症例が検出された。3ヵ月から12ヵ月未満の追跡では、1,000人年当たり21例の超過症例数が増加したが、12ヵ月を超えるとこの超過リスクは無視できるものとなった。追跡3ヵ月以内の超過リスクは、尿路がんが1,000人年当たり56例、女性の生殖器がんが1,000人年当たり24例、大腸がんが1,000人年当たり12例、神経系がんが1,000人年当たり2例であった。検討したがん種の多くで、超過リスクは追跡3ヵ月以内に限られていたが、前立腺がんおよび尿路がんのリスクは、追跡期間が3ヵ月から12ヵ月未満でも依然として高かった。女性では、浸潤性膀胱がんの超過リスクが数年にわたって認められた。 【結論】急性尿閉は、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系不顕性がんの臨床マーカーであると考えられる。急性尿閉を発症し、原因がはっきりと分からない50歳以上の患者では、不顕性がんの可能性を検討すべきである。 第一人者の医師による解説 急性尿閉では潜伏がんを考慮すべき 見落とし減らすため画像検査の実施も考慮 宮﨑 淳 国際医療福祉大学医学部腎泌尿器外科主任教授 MMJ. February 2022;18(1):17 急性尿閉は、突然の痛みを伴う排尿不能を特徴とし、直ちに導尿などを行い、膀胱の減圧が必要である。男性における急性尿閉の発症率は年間1,000人当たり2.2 ~ 8.8人で、推定発症率は70代では10%、80代では30%と、年齢とともに著しく上昇する(1)。男女比は13:1と推定されている。急性尿閉の根本的な原因のほとんどは良性であるが、急性尿閉は前立腺がんの徴候でもあり、他の泌尿器がん、消化器がんおよび神経系がんの徴候である可能性を示唆する研究もある。 そこで本論文では、デンマーク全国規模コホートから得たデータを用いて、急性尿閉による初回入院患者約76,000人における泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんのリスクを一般集団と比較・検討した。その結果、急性尿閉の初診後の前立腺がんの絶対リスクは、3カ月後で5.1%、1年後で6.7%、5年後で8.5%であった。追跡期間3カ月以内において、前立腺がんの過剰症例が1,000人・年当たり218人検出された。さらに追跡期間3カ月~12カ月未満において1,000人・年当たり21人の過剰症例が検出されたが、12カ月を超えると過剰リスクは無視できる程度になった。追跡期間3カ月以内において、尿路系がんの過剰リスクは1,000人・年当たり56人、女性の生殖器系がんは1,000人・年当たり24人、大腸がんは1,000人・年当たり12人、神経系がんは1,000人・年当たり2人であった。ほとんどのがんで、過剰リスクは追跡期間3カ月以内に限定されたが、前立腺がんと尿路系がんのリスクは追跡期間3カ月~12カ月未満でも高いままであった。結論として、急性尿閉は、潜伏性尿路性器がん、大腸がん、神経系がんの臨床マーカーとなる可能性があるため、急性尿閉を呈し、明らかな基礎疾患を持たない50歳以上の患者には、潜伏がんを考慮すべきであると考えられた。 本研究が使用したデンマーク全国患者登録(Danish National Patient Registry)には人口約580万人の同国内のあらゆる病院に入院したすべての患者のデータが含まれていることから、今回のような全国規模の研究が可能である。この人口ベースのコホート研究において、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんが急性尿閉の原因となることが示唆された。我々泌尿器科医は、急性尿閉の患者を診察した際に前立腺肥大症と前立腺がんは常に念頭においているが、なかなか大腸がんや神経系疾患まで考慮することは少ない。見落としを減らすためにも、CTなどの画像検査を行うように心がける必要があるかもしれない。 1. Oelke M, et al. Urology. 2015;86(4):654-665.
せん妄~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月6日号)
せん妄~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月6日号)
今回は、せん妄に関する最新論文を取り上げています。日本人せん妄患者の特徴、注意が必要な薬剤、経皮吸収型製剤によるせん妄予防の可能性など注目論文をご紹介。また、麻酔薬セボフルランの投与量が術後せん妄の発現に影響するか、高齢泌尿器科患者のせん妄リスク因子の情報もピックアップしました。せん妄予防の参考にしていただけると幸いです。(エクスメディオ 鷹野 敦夫) 『BIBGRAPH SEARCH』では、エクスメディオが提供する文献検索サービス「Bibgraph」より、注目キーワードで検索された最新論文をまとめてご紹介しています。 日本のせん妄患者、その臨床的特徴は~全国医療データベース分析 Ueda N, et al. BMJ Open. 2022; 12: e060630. ≫Bibgraphを読む 注意が必要なせん妄を誘発する薬剤~メタ解析 Reisinger M, et al. Acta Psychiatr Scand. 2022 Sep 28. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 経口薬を拒否する患者へのせん妄予防における経皮吸収型抗精神病薬の可能性~日本におけるレトロスペクティブ観察研究 Hatta K, et al. Int Clin Psychopharmacol. 2022 Aug 12. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む セボフルランの投与量は術後せん妄に影響するのか~プロスペクティブコホート Taylor J, et al. Br J Anaesth. 2022 Sep 30. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 高齢泌尿器科患者における術後せん妄のリスク因子~メタ解析 Hua Y, et al. Medicine (Baltimore). 2022; 101: e30696. ≫Bibgraphを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら
第88回日本泌尿器科学会東部総会 高校生参加企画密着レポート
第88回日本泌尿器科学会東部総会 高校生参加企画密着レポート
掲載日:2023年10月20日 はじめに  さる2023年10月5~7日(於:札幌)の日程で開催された第88回日本泌尿器科学会東部総会において、 これまでには出会ったことがない、先進的な企画が実施されました。 その名も「アカデミックチャレンジ」。企画内容は地元の高校生に《医師とは?》《学会とは?》そして《泌尿器科医とは?》を学会参加を通して体感してもらうというもの。 企画担当の千葉博基先生(北海道大学)は「やってみないとわからないですが、まずはやってみることが大事」とアカデミックチャレンジを未知の企画としながらも、年明けから準備を重ねていらっしゃいました。 学会に高校生を招待するという前例のない企画でしたが、密着して見えたのは、熱い想いを持った医師たちが未来の日本医療界のため、次世代に期待を寄せる姿でした。 学会とは?  朝一番、集合した高校生たちの顔は緊張でかなり強張っているように見えました。 それもそのはず。周りは医師ばかりで、これまでに体感したことがない空気に包まれていたので無理もありません。傍から見ても制服姿の高校生が受付に集まっている様子はとても珍しい光景で、参加する高校生からも「楽しみですが、それよりも緊張が・・・」という言葉が漏れていました。 最初のプログラムはオリエンテーション。千葉先生から今回の企画主旨や学術集会、泌尿器科医とは何かという視点でお話がありました。 そもそも「学会とは?」という医療関係者にとっては「そんなこと考えたことなかったなぁ」と思わず口から漏れてしまうテーマから、研究することの意義などが高校生たちに伝えられました。 「この機械はいくらしますか?」  次に一行が向かったのは企業展示スペース。数々のメーカー企業が展示している医療機器、特に内視鏡機器を中心に見学し、最新技術に触れることでメーカーの役割や「医学の進歩=技術の進歩」であるということを身に染みて感じている高校生たちの背中が印象的でした。 とあるメーカー担当者に「この機械はいくらしますか?」と聞いた高校生が答えを聞いて、目を丸くしていた姿もあった一方で、硬性鏡を手に取った高校生が「これじゃ出血しちゃいませんか?」と先生に質問。先生も「鋭い!」と驚きの表情をされていたのは、この企画ならではの場面だったと思います。 好奇心を持ち続けることの大切さ  いよいよ、メインとなる演題聴講に向かった一行。 招請講演で腎移植に関するお話を聞いたとある高校が「全然わからなかったです」と率直に感想を述べていましたが、知的好奇心がくすぐられていたのか、わからないことが悔しいと感じているようにも見え、未知のものに触れる重要性を感じた一瞬でした。 その後は一般演題を聴講、質疑応答の時間では何が起きているんだとばかりに座長席と演者席を交互に目で追う姿がとても可愛らしく、高校生らしさが溢れていました。お昼の講演では、朝触れた内視鏡を使った処置の実映像を視聴。実際に触れたものがどうやって使われているのかわかり、すごく勉強になりましたと先生に感想を伝えている様子も見られました。 この日最後の聴講は恐竜学に関するものでした。「恐竜学」という医学とは関係のないところにあるようにも見えるテーマでしたが、高校生たちと同様に聴講している医師たちが大きく頷き、感心されている姿に、好奇心を持ち続けることの大切さを垣間見たプログラムとなりました。 次世代への期待  一日の終わりに、プログラムに参加した理由を高校生に聞いてみると「学校でチラシが配られたから」「主治医の先生に誘われたから」「医師という職業に興味があったから」と答えは様々でした。それぞれの背景がありながらも、参加した高校生全員が最後に口を揃えて述べていたのは、貴重な体験が出来たことへの感謝の言葉でした。解散後、高校生たちを見送った千葉先生は「参加した理由は色々あると思うけど、医師になるきっかけは本当に人それぞれ。この企画への参加がきっかけで、一人でも医師になってくれる人がいたら、次世代のための学会企画として、非常に大きな功績になります」と仰っていました。 「やってみないとわからない」という言葉とともに始動された企画でしたが、本総会のテーマ『次世代への期待』にも表れているように「期待=望みをかけて待ち受けること」であり、すぐに目に見える成果が得られるわけではありません。そう考えると「やってみないとわからない」ことを実践することが、これからの日本医療、医学界に大きな何かをもたらすことに繋がるのかもしれません。そんな期待を抱かせていただいたアカデミックチャレンジでした。  最後に、本取材をご快諾いただきました、大会長の篠原信雄先生、企画担当の千葉博基先生に改めて感謝申し上げます。誠にありがとうございました。 文責:ヒポクラ学会担当 カワウソくん ヒポクラ × マイナビ無料会員登録はこちら ▶https://www.marketing.hpcr.jp/hpcr 第88回日本泌尿器科学会東部総会HP ▶https://site2.convention.co.jp/88ejua 日本泌尿器科学会HP ▶https://www.urol.or.jp/