ライブラリー 急性尿閉とがんのリスク:デンマークの住民を対象としたコホート試験
Acute urinary retention and risk of cancer: population based Danish cohort study
BMJ. 2021 Oct 19;375:n2305. doi: 10.1136/bmj.n2305.
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上記論文の日本語要約
【目的】急性尿閉初回診断後の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんのリスクを評価すること。
【デザイン】全国民を対象としたコホート試験。
【設定】デンマークの全病院。
【参加者】1995年から2017年までに急性尿閉のため初めて入院した50歳以上の患者75,983例。
【主要評価項目】一般集団と比較した急性尿閉患者の泌尿生殖器がん、大腸がんおよび神経系がんの絶対リスクおよび超過リスク。
【結果】急性尿閉初回診断後の前立腺がんの絶対リスクは、3ヵ月時点で5.1%(3,198例)、1年時点で6.7%(4,233例)、5年時点で8.5%(5,217例)であった。追跡期間が3ヵ月以内の場合、1,000人年当たり218例の前立腺がん超過症例が検出された。3ヵ月から12ヵ月未満の追跡では、1,000人年当たり21例の超過症例数が増加したが、12ヵ月を超えるとこの超過リスクは無視できるものとなった。追跡3ヵ月以内の超過リスクは、尿路がんが1,000人年当たり56例、女性の生殖器がんが1,000人年当たり24例、大腸がんが1,000人年当たり12例、神経系がんが1,000人年当たり2例であった。検討したがん種の多くで、超過リスクは追跡3ヵ月以内に限られていたが、前立腺がんおよび尿路がんのリスクは、追跡期間が3ヵ月から12ヵ月未満でも依然として高かった。女性では、浸潤性膀胱がんの超過リスクが数年にわたって認められた。
【結論】急性尿閉は、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系不顕性がんの臨床マーカーであると考えられる。急性尿閉を発症し、原因がはっきりと分からない50歳以上の患者では、不顕性がんの可能性を検討すべきである。
第一人者の医師による解説
急性尿閉では潜伏がんを考慮すべき 見落とし減らすため画像検査の実施も考慮
宮﨑 淳 国際医療福祉大学医学部腎泌尿器外科主任教授
MMJ. February 2022;18(1):17
急性尿閉は、突然の痛みを伴う排尿不能を特徴とし、直ちに導尿などを行い、膀胱の減圧が必要である。男性における急性尿閉の発症率は年間1,000人当たり2.2 ~ 8.8人で、推定発症率は70代では10%、80代では30%と、年齢とともに著しく上昇する(1)。男女比は13:1と推定されている。急性尿閉の根本的な原因のほとんどは良性であるが、急性尿閉は前立腺がんの徴候でもあり、他の泌尿器がん、消化器がんおよび神経系がんの徴候である可能性を示唆する研究もある。
そこで本論文では、デンマーク全国規模コホートから得たデータを用いて、急性尿閉による初回入院患者約76,000人における泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんのリスクを一般集団と比較・検討した。その結果、急性尿閉の初診後の前立腺がんの絶対リスクは、3カ月後で5.1%、1年後で6.7%、5年後で8.5%であった。追跡期間3カ月以内において、前立腺がんの過剰症例が1,000人・年当たり218人検出された。さらに追跡期間3カ月~12カ月未満において1,000人・年当たり21人の過剰症例が検出されたが、12カ月を超えると過剰リスクは無視できる程度になった。追跡期間3カ月以内において、尿路系がんの過剰リスクは1,000人・年当たり56人、女性の生殖器系がんは1,000人・年当たり24人、大腸がんは1,000人・年当たり12人、神経系がんは1,000人・年当たり2人であった。ほとんどのがんで、過剰リスクは追跡期間3カ月以内に限定されたが、前立腺がんと尿路系がんのリスクは追跡期間3カ月~12カ月未満でも高いままであった。結論として、急性尿閉は、潜伏性尿路性器がん、大腸がん、神経系がんの臨床マーカーとなる可能性があるため、急性尿閉を呈し、明らかな基礎疾患を持たない50歳以上の患者には、潜伏がんを考慮すべきであると考えられた。
本研究が使用したデンマーク全国患者登録(Danish National Patient Registry)には人口約580万人の同国内のあらゆる病院に入院したすべての患者のデータが含まれていることから、今回のような全国規模の研究が可能である。この人口ベースのコホート研究において、泌尿生殖器がん、大腸がん、神経系がんが急性尿閉の原因となることが示唆された。我々泌尿器科医は、急性尿閉の患者を診察した際に前立腺肥大症と前立腺がんは常に念頭においているが、なかなか大腸がんや神経系疾患まで考慮することは少ない。見落としを減らすためにも、CTなどの画像検査を行うように心がける必要があるかもしれない。
1. Oelke M, et al. Urology. 2015;86(4):654-665.