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潰瘍性大腸炎における大腸がん:スカンジナビアの人口ベースコホート研究。
潰瘍性大腸炎における大腸がん:スカンジナビアの人口ベースコホート研究。
Colorectal cancer in ulcerative colitis: a Scandinavian population-based cohort study Lancet 2020 Jan 11;395(10218):123-131. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】潰瘍性大腸炎(UC)は大腸癌(CRC)の危険因子である。)しかし、利用可能な研究は、古い治療とサーベイランスパラダイムを反映しており、腫瘍ステージ別のCRC発生率やCRCによるステージ調整死亡率を評価するなど、サーベイランスとリードタイムのバイアスを考慮せずにCRC発生リスクを評価したものがほとんどである。我々は、UC患者におけるCRC死亡率及びCRC発症の全体的及び国別のリスクの両方を比較することを目的とした。 【方法】デンマーク(n=32 919)及びスウェーデン(n=63 528)のUC患者96 447人の人口ベースのコホート研究において、患者は、CRC発症及びCRC死亡率について1969年1月1日から2017年12月31日の間に追跡され、一般集団のマッチした参照人(n=949 207)と比較された。UC患者を国の登録から選び、(当該国の)患者登録に関連する国際疾病分類の記録が2つ以上ある場合、またはそのような記録1つと炎症性腸疾患を示唆する形態コードを持つ大腸生検報告書がある場合に解析に含めました。UC患者全員について、デンマークとスウェーデンの総人口登録から、性、年齢、出生年、居住地が一致した参照人物を選んだ。Cox回帰を用いて、腫瘍の病期を考慮したCRC発症およびCRC死亡のハザード比(HR)を算出した。 【所見】追跡期間中に、UCコホートでは1336例のCRC発症(1000人年当たり1-29例)、参照個人では9544例のCRC発症(1000人年当たり0-82例、HR1-66、95%CI1-57-1-76)が観察された。UCコホートでは、同期間に639人の患者がCRCで死亡した(1000人年当たり0-55人)のに対し、参照群では4451人(1000人年当たり0-38人、HR 1-59、95%CI 1-46-1-72)であった。UC患者のCRC病期分布は、マッチさせた参照群よりも進行していなかったが(p<0-0001)、腫瘍病期を考慮すると、UCおよびCRC患者はCRC死亡のリスクが依然として高かった(HR 1~54、95%CI 1~33~1~78)。過剰リスクは暦年間で減少した:追跡の最後の5年間(2013~17年,スウェーデンのみ),UC患者のCRC発症のHRは1~38(95%CI 1-20~1-60,または5年ごとにUC患者1058人に1例の追加),CRCによる死亡のHRは1~25(95%CI 1-03~1-51,または5年ごとにUC患者3041人に1例の追加)であった。 【解釈】UCのない人に比べて、UCのある人はCRCを発症するリスクが高く、CRCと診断されてもあまり進行しておらず、CRCによる死亡のリスクも高いが、これらの過剰リスクは時間とともに大幅に減少している。国際的なサーベイランスガイドラインにはまだ改善の余地があるようだ。 【財源】スウェーデン医学協会、カロリンスカ研究所、ストックホルム県議会、スウェーデン研究会議、スウェーデン戦略研究財団、デンマーク独立研究基金、フォルテ財団、スウェーデンがん財団 第一人者の医師による解説 長期の追跡による成果 潰瘍性大腸炎の診療ガイドライン改訂に役立つ 中山 富雄 国立がん研究センター社会と健康研究センター検診研究部部長 MMJ.August 2020;16(4) 潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の大腸がんリスクについては、これまで4件のメタアナリシスが報告されているが、うち3件は2004年までの古いデータに基づいていた。今回の研究はスウェーデンとデンマークで1969~2017年に診断された95 ,000 人強の潰瘍性大腸炎患者と性・年齢・居住地をマッチさせた一般集団95万人強を最長約50年追跡して、リスクを評価した。潰瘍性大腸炎診断後の大腸がん罹患のみに限定して解析した。 その結果、潰瘍性大腸炎の患者が一般集団に比べて罹患リスクが1.66倍、死亡リスクが1.59倍高いことが示されたが、この成績は先行研究と同等であった。個別の因子として、18歳未満の潰瘍性大腸炎発症、全大腸型大腸炎、原発性硬化性胆管炎の合併、1親等の大腸がん家族歴が一般集団に比べて特にリスクが高いことが確認された。また潰瘍性大腸炎診断後の1年以内に大腸がんの診断および死亡のリスクが特に高かった。 罹患のみが高いのであれば、潰瘍性大腸炎に対する内視鏡検査で偶発的に大腸がんが見つかったというサーベイランスバイアスの可能性が高いが、死亡が増加していることは、必ずしもバイアスで説明できるものではなく、大腸炎の発病自体が発がんに影響しているのだろう。若年発症は確かにリスクが高いが、40歳以上で潰瘍性大腸炎と診断された場合は、診断後5年以降の大腸がん死亡リスクは一般集団とあまり変わらず、60歳以上での診断例は、診断直後から一般集団と差がなかった。 この長い追跡期間の間に、大腸がん罹患・死亡リスク自体は大幅に低下していた。これは前がん病変の検出やサーベイランスの変遷によるものかもしれないが、食習慣や運動などの予防の影響かもしれない。 今回の研究結果は、住民を対象とし50年近い長期の追跡期間によるもので、結果を一般化しやすい。潰瘍性大腸炎早期発症や病変範囲の広い大腸炎などが際立ってリスクが高いこと、追跡が長期化した場合は罹患も死亡もリスクが一般集団と同レベルに低下することなど、個別のリスクに応じた詳細なサーベイランス方法の設定が可能となる非常に有用なデータである。これまで高リスク者に1~2年に1回の内視鏡検査が推奨されてきたが、いつまで続けるのかは示されていなかった。今回の成績が、潰瘍性大腸炎患者の診療ガイドラインの改訂に役立つこととなるだろう。