「スタチン」の記事一覧

高心血管リスク患者の主要有害心血管イベントに対する高用量オメガ3脂肪酸とコーン油の比較 STRENGTH無作為化臨床試験
高心血管リスク患者の主要有害心血管イベントに対する高用量オメガ3脂肪酸とコーン油の比較 STRENGTH無作為化臨床試験
Effect of High-Dose Omega-3 Fatty Acids vs Corn Oil on Major Adverse Cardiovascular Events in Patients at High Cardiovascular Risk: The STRENGTH Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Dec 8;324(22):2268-2280. doi: 10.1001/jama.2020.22258. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】オメガ3脂肪酸エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)によって心血管リスクが低下するかはいまだに明らかになっていない。 【目的】EPAとDHA(オメガ3 CA)のカルボン酸製剤が心血管転帰にもたらす効果、および心血管リスクが高いアテローム性異常脂質血症患者の脂質および炎症マーカーにもたらす文書化された良好な作用を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】心血管リスクが高く、高トリグリセリド血症があり、高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)が低いスタチン治療中の患者でオメガ3 CAとコーン油を比較した多施設共同二重盲検無作為化試験(2014年10月30日から2017年6月14日の間に登録、2020年1月8日に試験終了、最終患者診療日2020年5月14日)。北米、欧州、南米、アジア、オーストラリア、ニュージーランドおよび南アフリカの22カ国の大学病院および市中病院675施設で計1万3078例を無作為化した。 【介入】スタチンを含む通常治療に加えてオメガ3 CA 4g/日(6539例)と不活性対照のコーン油(6539例)を投与するグループに患者を無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要有効性評価項目は、心血管死、非致命的心筋梗塞、非致命的脳卒中、冠動脈血行再建、入院を要する不安定狭心症の複合とした。 【結果】(予定していたイベント1600件のうち)1384例に主要評価項目のイベントが発生した時点で、オメガ3 CAの臨床的便益の可能性が対照のコーン油よりも低いことが示唆された中間解析に基づき、試験は早期に中止された。1万3078例(平均年齢[SD]62.5[9.0]歳、女性35%、糖尿病70%、低比重リポタンパク質[LDL]コレステロール中央値75.0mg/dL、トリグリセリド中央値240mg/dL、HDL-C中央値36mg/dL、高感度CRP中央値2.1mg/L)のうち1万2633例(96.6%)が試験を完了し、主要評価項目の発生状況を確認した。主要評価項目は、オメガ3 CAで治療した患者の785例(12.0%)、コーン油で治療した患者の795例(12.2%)に発生した(ハザード比0.99[95%CI 0.90~1.09]、P =0.84)。オメガ3 CA群(24.7%)の方がコーン油群(14.7%)よりも、消化器系有害事象の発現率が高かった。 【結論および意義】スタチンで治療している心血管リスクが高い患者で、通常治療へのオメガ3 CA追加は、コーン油と比較した主要有害心血管イベントの複合転帰の有意差がなかった。この結果は、高リスク患者の主要有害心血管イベント減少を目的としたこのオメガ3脂肪酸製剤の使用を支持するものではない。 第一人者の医師による解説 評価が分かれるω -3脂肪酸製剤 さらなる検証と代理エンドポイントの再検討が必要 原 眞純 帝京大学医学部附属溝口病院・病院長、第四内科学講座主任教授 MMJ. June 2021;17(3):79 大規模介入試験の結果から、高用量のスタチンで低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)を十分に低下させても、心血管疾患(CVD)発症は30%程度しか減少せず、LDL-C低下だけでは解決しない残余リスクが指摘されてきた。高トリグリセライド(TG)血症は残余リスクの1つとされフィブラートやω-3脂肪酸製剤などを用いてTGを低下させる介入が試みられてきた。 本研究では、CVD既往のある2次予防患者を50%以上、糖尿病患者も約70%含む高リスク群に、最大限のスタチン投与に加えてエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の両方を含むω-3脂肪酸のカルボン酸製剤を追加投与し、心血管イベント抑制効果を検証している。その結果、心血管複合エンドポイント減少効果を示すことができない見通しとなり、研究は早期終了となった。 ω-3脂肪酸製剤に関する先行大規模試験の結果には相違がある。効果を示した研究としては、EPAのみを投与した日本のJELIS研究(1)と海外のREDUCE-IT研究(2)があるが、その他多くの研究では心血管イベント抑制効果は証明されなかった。本研究では、従来のエステル化製剤と異なり膵リパーゼによる加水分解を経ずに吸収されるカルボン酸製剤が用いられたが、この製剤が効果に影響を及ぼしたかどうかについては明らかでない。また、DHAが動脈硬化を促進するという知見は報告されていないが、DHAを含むω-3脂肪酸製剤では心血管イベント減少は証明されていない。なお、REDUCE-IT研究では、対照群においてC反応性蛋白(CRP)の上昇がみられることから、対照薬として用いた鉱物油の投与により心血管イベントが増加した結果、EPA群との有意差が得られたとの見方もある。このため、本研究では対照薬としてコーン油が選択されている。 本研究では、脂質改善効果やC反応性蛋白の低下など、ω-3脂肪酸製剤に期待される代理エンドポイントの改善は得られている。にもかかわらず心血管イベントが減少しなかったことは、これらが代理エンドポイントとして妥当でない可能性が示唆される。メンデルランダム化研究の結果などから、TGを低下させる介入がCVD発症を抑制することが示唆されているものの、TG上昇がどのような機序で動脈硬化に関わっているかには諸説あり、TG上昇に伴って増加するレムナントやsmall dense LDLなどが真の動脈硬化促進因子であることも示唆されている。評価が分かれるω-3脂肪酸製剤については、今後さらなる検証が必要であると同時に、ペマフィブラートなど、残余リスクに対する他の介入でも作用機序や有効性の指標とすべき代理エンドポイントの再検討が必要であろう。 1. Saito Y, et al. Atherosclerosis. 2008;200(1):135-140. 2. Bhatt DL, et al. N Engl J Med. 2019;380(1):11-22.
スタチン治療と筋症状 連続無作為化プラセボ対照N-of-1試験
スタチン治療と筋症状 連続無作為化プラセボ対照N-of-1試験
Statin treatment and muscle symptoms: series of randomised, placebo controlled n-of-1 trials BMJ. 2021 Feb 24;372:n135. doi: 10.1136/bmj.n135. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】スタチン服用時に筋症状を経験した患者で、筋肉症状に対するスタチンの影響を明らかにすること。 【デザイン】連続した無作為化プラセボ対照N-of-1試験。 【設定】2016年12月から2018年4月の英国プライマリケア50施設。 【参加者】筋症状を理由にスタチン服用を中止して間もない患者およびスタチン服用中止を検討している患者計200例。 【介入】患者をアトルバスタチン1日1回20mg投与とプラセボに二重盲検化した連続する6つの治療期間(各2カ月)に割り付けた。 【主要評価項目】各治療期間終了時に被験者が視覚的アナログ尺度(0-10)で筋症状を評価した。主要解析では、スタチン投与期間中とプラセボ投与期間中の症状スコアを比較した。 【結果】スタチンとプラセボそれぞれ1期間以上の症状スコアを提出した患者151例を主要解析の対象とした。全体で、スタチン期間とプラセボ期間の筋症状スコアに差はなかった(スタチン-プラセボの平均差-0.11点、95%CI -0.36-0.14、P=0.40)。忍容できない筋症状による脱落は、スタチン期間で18例(9%)、プラセボ期間で13例(7%)だった。試験を完遂した患者の3分の2がスタチンによる長期治療の再開を報告した。 【結論】スタチン服用時の重度筋症状の経験を報告したことがある参加者で、アトルバスタチン20mg投与によるプラセボと比較した筋症状への全体的な影響は認められなかった。試験を完遂した参加者のほとんどが、スタチンによる治療の再開を希望した。N-of-1試験は集団単位で薬物の作用を評価でき、個人の治療の指針となる。 第一人者の医師による解説 ノセボ効果の見える化により、研究参加者の多くがスタチン再開 岡㟢 啓明 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科助教 MMJ. August 2021;17(4):116 クレアチンキナーゼ(CK)上昇を伴う筋炎や横紋筋融解症はスタチン投与に伴い一定の頻度で起きるものの、CK上昇を伴わない軽度な筋症状はスタチンで増えるのか? ノセボ効果(スタチンによって筋症状が増えるかもしれないとの懸念から、偶然の筋症状の原因をスタチンだと思ってしまう)のために、スタチン中止に至ることもあり、特に心血管リスクが高い場合などで、治療上のデメリットになる。 本論文は、スタチンによる筋症状の真偽に答えるべく実施されたN-of-1試験(StatinWISE)の報告である。N-of-1試験は患者内比較試験で、投与期間、プラセボ投与期間をランダムに複数回設定し、1人の患者内で実薬とプラセボの効果を比較、その結果をすべての患者(n)で集計する。本研究では、研究期間12カ月を2カ月 X6回に分け、アトルバスタチン20mgまたはプラセボをそれぞれ3回ずつランダムに割り付けた。対象者は、筋症状が理由でスタチンを中止したか、中止を検討している患者である(CK高値を伴う患者は除外)。なお、70%は心血管疾患既往を有し、スタチン投与が望ましい患者であった。 結果、スタチン vs.プラセボ投与期間の比較では患者評価の筋症状スコアに有意差はなかった。筋症状による投与中止の割合は、スタチン投与期間とプラセボ投与期間で有意差はみられなかった。また、試験終了後、患者に筋症状がスタチン、プラセボどちらの投与期間で起きたのかを知らせた結果、患者の3分の2は今後長期間にわたりスタチンを服用したいと答えた。 今回、CK上昇を伴う筋炎や横紋筋融解症以外の筋症状はスタチンにより有意に増加しているとは言えなかったが、この結果は、最近の他の試験でも裏付けられている(1ー3)。また、本試験では患者の多くがスタチン再開を希望したことから、筋症状が必ずしも薬によるものではないことをこのような方法で理解するのは有用と考えられる。スタチン不耐でスタチン再開を検討したい場合、N-of-1試験の方法は日常臨床にも応用できるのではないかと筆者らは推察している。 他のスタチンや別の用量でも同様な結果が得られるかは不明だが、スタチンによる筋症状が多くの場合ノセボ効果に由来することが示唆された。N-of-1試験デザインが日常臨床でも有用である可能性が示された点でも意義深い。しかし一方で、臨床的には、スタチンとの因果関係がやはり疑われるような、CK上昇を伴わない筋症状にも実際に遭遇する。そのようなケースにも十分注意しながら、本試験の結果を活用することが大切と思われる。 1. Wood FA, et al. N Engl J Med. 2020;383(22):2182-2184. 2. Moriarty PM, et al. J Clin Lipidol. 2014;8(6):554-561. 3. Nissen SE, et al. JAMA. 2016;315(15):1580-1590.
HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害と上皮性卵巣がんの関連
HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害と上皮性卵巣がんの関連
Association Between Genetically Proxied Inhibition of HMG-CoA Reductase and Epithelial Ovarian Cancer JAMA. 2020 Feb 18;323(7):646-655. doi: 10.1001/jama.2020.0150. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】前臨床および疫学的試験から、スタチンによる上皮性卵巣がんリスクの化学的予防作用の可能性が示唆されている。 【目的】一般住民とBRCA1/2遺伝子変異保持者の間で、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)還元酵素(スタチンの標的となるHMG-CoA還元酵素の機能低下による遺伝子変異など)と上皮性卵巣がんの関連を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】ゲノムワイド関連研究(GWAS)のメタ解析(19万6475例)でLDLコレステロールとの関連が示されているHMGCR、Niemann-Pick C1-Like 1(NPC1L1)およびプロタンパク転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)の一塩基多型(SNP)を用いて、HMG-CoA還元酵素、NPC1L1およびPCSK9それぞれの治療による代替阻害を実施した。Ovarian Cancer Association Consortium(OCAC、6万3347例)に登録された浸潤性上皮性卵巣がんの症例対象解析のGWASメタ解析およびConsortium of Investigators of Modifiers of BRCA1/2(CIMBA、3万1448例)に登録されたBRCA1/2変異陽性上皮性卵巣がんの後ろ向きコホート解析のGWASメタ解析から要約統計量を取得。2つのコンソーシウムで、1973年から2014年にかけて参加者を登録し、2015年まで追跡した。OCACは14カ国、CIMBAは25カ国から参加者を登録した。SNPを複数対立遺伝子モデル(multi-allelic model)に統合し、逆分散法ランダム効果モデルを用いて標的の終生阻害(lifelong inhibition)を表すメンデル無作為化推定値を求めた。 【曝露】HMG-CoAの遺伝的代替阻害を主要曝露、NPC1L1およびPCSK9の遺伝的代替阻害および遺伝的代替循環LDLコレステロール値を副次曝露とした。 【主要転帰および評価項目】全体および組織型別の浸潤性上皮性卵巣がん(一般集団)および上皮性卵巣がん(BRCA1/2遺伝子変異保持者)とし、卵巣がんオッズ(一般集団)とハザード比(BRCA1/2遺伝子変異保持者)で測定した。 【結果】OCAC標本には浸潤性上皮性卵巣がん女性2万2406例および対照4万941例、CIMBA標本には上皮性卵巣がん女性3887例および対照2万7561例を対象とした。2件のコホートの年齢中央値は41.5歳から59.0歳までと幅があり、全参加者が欧州系であった。主要解析では、LDLコレステロール値1mmol/L(38.7mg/dL)に相当するHMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害で上皮性卵巣がんリスクが低下した(オッズ比[OR]0.60、95%CI 0.43-0.83、P=0.002)。BRCA1/2遺伝子変異保持者では、HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害で卵巣がんリスクが低下した(ハザード比0.69、95%CI 0.51-0.93、P=0.91)。副次解析で、NPC1L1(OR 0.97、95%CI 0.53-1.75、P=0.91)、PCSK9(OR 0.98、95%CI 0.85-1.13、P=0.80)および循環LDLコレステロール(OR 0.98、95%CI 0.91-1.05、P=0.55)の遺伝的代替阻害と上皮性卵巣がんに有意な関連はなかった。 【結論および意義】HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害があると上皮性卵巣がんのオッズが低下した。しかし、この結果は、HMG-CoA還元酵素を阻害する薬剤によってリスクが低下することを示唆するものではなかった。このような薬剤に同等の関連があるかを理解するために、詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 スタチンの卵巣がん治療への応用につながる可能性 青木大輔 慶應義塾大学医学部産婦人科教授 MMJ. October 2020; 16 (5):142 スタチンはメバロン酸合成経路の上流に位置するヒドロキシメチルグルタリル補酵素 A(HMG-CoA)還元酵素を阻害することによって、血液中のコレステロール値を低下させるため、脂質異常症治療薬として世界中で汎用されている薬物である。加えて、抗炎症作用や血管拡張、凝固・線溶などの血管リモデリング抑制作用など多面的作用を発揮し、冠動脈疾患や心不全、不整脈などへの予防効果も明らかとなりつつある。さらに、デンマークの疫学研究により、がんと診断される前にスタチンを使用したがん患者は、がんによる死亡のリスクが15%低いという解析結果が報告されたことにより(1)、スタチンの抗腫瘍効果に注目が集まることとなった。この報告を皮切りに、大腸がん、前立腺がん、乳がんなどにおいて同様の疫学研究や基礎実験で抗腫瘍効果が報告されてきている。卵巣がんに対しても、その有用性が基礎的実験レベルで明らかとなりつつあり(2)、臨床への応用も期待されてきている。一方で、スタチンとがん発症率・死亡率との間に因果関係を認めないとの報告もあり議論が続いていた。  本研究は、上皮性卵巣がん患者22,406人と対照者 40,941人、BRCA1/2 変異陽性上皮性卵巣がん患者3,887人と対照者27,561人を対象に、HMG-CoA還元酵素の機能低下に関連する遺伝子の一塩基多型(SNP)により同酵素が遺伝的代替阻害を受けている人の上皮性卵巣がん発症リスクについて検討した。その結果、LDLコレステロール1mmol/L(38.7mg/dL)低下に相当するHMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害により上皮性卵巣がん発症リスクが40%低くなること(オッズ比 ,0 .60;95 % CI, 0 .43 ~ 0 .83;P= 0 .002)、BRCA1/2変異保持者でも上皮性卵巣がん発症リスクが31%低くなること(ハザード比 , 0.69;95% CI, 0.51~0.93;P=0.01)が示された。  本研究はこれまで議論の続いていたスタチンと卵巣がん抑制の関連性について遺伝子レベルから検討している点が非常に興味深く、その研究成果からHMG-CoA還元酵素を薬理的に阻害しているスタチンでも同様の効果が得られる可能性が想起される。一方で、スタチン投与により卵巣がん発症リスクを抑制したとの臨床試験データは依然として得られていない。今後はスタチンが奏効する卵巣がんの臨床病理・分子生物学的因子の探索が必要である。 1. Nielsen SF, et al. N Engl J Med. 2012;367(19):1792-1802. 2. Kobayashi Y, et al. Clin Cancer Res. 2015;21(20):4652-4662.