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HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害と上皮性卵巣がんの関連
HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害と上皮性卵巣がんの関連
Association Between Genetically Proxied Inhibition of HMG-CoA Reductase and Epithelial Ovarian Cancer JAMA. 2020 Feb 18;323(7):646-655. doi: 10.1001/jama.2020.0150. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】前臨床および疫学的試験から、スタチンによる上皮性卵巣がんリスクの化学的予防作用の可能性が示唆されている。 【目的】一般住民とBRCA1/2遺伝子変異保持者の間で、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)還元酵素(スタチンの標的となるHMG-CoA還元酵素の機能低下による遺伝子変異など)と上皮性卵巣がんの関連を評価すること。 【デザイン、設定および参加者】ゲノムワイド関連研究(GWAS)のメタ解析(19万6475例)でLDLコレステロールとの関連が示されているHMGCR、Niemann-Pick C1-Like 1(NPC1L1)およびプロタンパク転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)の一塩基多型(SNP)を用いて、HMG-CoA還元酵素、NPC1L1およびPCSK9それぞれの治療による代替阻害を実施した。Ovarian Cancer Association Consortium(OCAC、6万3347例)に登録された浸潤性上皮性卵巣がんの症例対象解析のGWASメタ解析およびConsortium of Investigators of Modifiers of BRCA1/2(CIMBA、3万1448例)に登録されたBRCA1/2変異陽性上皮性卵巣がんの後ろ向きコホート解析のGWASメタ解析から要約統計量を取得。2つのコンソーシウムで、1973年から2014年にかけて参加者を登録し、2015年まで追跡した。OCACは14カ国、CIMBAは25カ国から参加者を登録した。SNPを複数対立遺伝子モデル(multi-allelic model)に統合し、逆分散法ランダム効果モデルを用いて標的の終生阻害(lifelong inhibition)を表すメンデル無作為化推定値を求めた。 【曝露】HMG-CoAの遺伝的代替阻害を主要曝露、NPC1L1およびPCSK9の遺伝的代替阻害および遺伝的代替循環LDLコレステロール値を副次曝露とした。 【主要転帰および評価項目】全体および組織型別の浸潤性上皮性卵巣がん(一般集団)および上皮性卵巣がん(BRCA1/2遺伝子変異保持者)とし、卵巣がんオッズ(一般集団)とハザード比(BRCA1/2遺伝子変異保持者)で測定した。 【結果】OCAC標本には浸潤性上皮性卵巣がん女性2万2406例および対照4万941例、CIMBA標本には上皮性卵巣がん女性3887例および対照2万7561例を対象とした。2件のコホートの年齢中央値は41.5歳から59.0歳までと幅があり、全参加者が欧州系であった。主要解析では、LDLコレステロール値1mmol/L(38.7mg/dL)に相当するHMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害で上皮性卵巣がんリスクが低下した(オッズ比[OR]0.60、95%CI 0.43-0.83、P=0.002)。BRCA1/2遺伝子変異保持者では、HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害で卵巣がんリスクが低下した(ハザード比0.69、95%CI 0.51-0.93、P=0.91)。副次解析で、NPC1L1(OR 0.97、95%CI 0.53-1.75、P=0.91)、PCSK9(OR 0.98、95%CI 0.85-1.13、P=0.80)および循環LDLコレステロール(OR 0.98、95%CI 0.91-1.05、P=0.55)の遺伝的代替阻害と上皮性卵巣がんに有意な関連はなかった。 【結論および意義】HMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害があると上皮性卵巣がんのオッズが低下した。しかし、この結果は、HMG-CoA還元酵素を阻害する薬剤によってリスクが低下することを示唆するものではなかった。このような薬剤に同等の関連があるかを理解するために、詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 スタチンの卵巣がん治療への応用につながる可能性 青木大輔 慶應義塾大学医学部産婦人科教授 MMJ. October 2020; 16 (5):142 スタチンはメバロン酸合成経路の上流に位置するヒドロキシメチルグルタリル補酵素 A(HMG-CoA)還元酵素を阻害することによって、血液中のコレステロール値を低下させるため、脂質異常症治療薬として世界中で汎用されている薬物である。加えて、抗炎症作用や血管拡張、凝固・線溶などの血管リモデリング抑制作用など多面的作用を発揮し、冠動脈疾患や心不全、不整脈などへの予防効果も明らかとなりつつある。さらに、デンマークの疫学研究により、がんと診断される前にスタチンを使用したがん患者は、がんによる死亡のリスクが15%低いという解析結果が報告されたことにより(1)、スタチンの抗腫瘍効果に注目が集まることとなった。この報告を皮切りに、大腸がん、前立腺がん、乳がんなどにおいて同様の疫学研究や基礎実験で抗腫瘍効果が報告されてきている。卵巣がんに対しても、その有用性が基礎的実験レベルで明らかとなりつつあり(2)、臨床への応用も期待されてきている。一方で、スタチンとがん発症率・死亡率との間に因果関係を認めないとの報告もあり議論が続いていた。  本研究は、上皮性卵巣がん患者22,406人と対照者 40,941人、BRCA1/2 変異陽性上皮性卵巣がん患者3,887人と対照者27,561人を対象に、HMG-CoA還元酵素の機能低下に関連する遺伝子の一塩基多型(SNP)により同酵素が遺伝的代替阻害を受けている人の上皮性卵巣がん発症リスクについて検討した。その結果、LDLコレステロール1mmol/L(38.7mg/dL)低下に相当するHMG-CoA還元酵素の遺伝的代替阻害により上皮性卵巣がん発症リスクが40%低くなること(オッズ比 ,0 .60;95 % CI, 0 .43 ~ 0 .83;P= 0 .002)、BRCA1/2変異保持者でも上皮性卵巣がん発症リスクが31%低くなること(ハザード比 , 0.69;95% CI, 0.51~0.93;P=0.01)が示された。  本研究はこれまで議論の続いていたスタチンと卵巣がん抑制の関連性について遺伝子レベルから検討している点が非常に興味深く、その研究成果からHMG-CoA還元酵素を薬理的に阻害しているスタチンでも同様の効果が得られる可能性が想起される。一方で、スタチン投与により卵巣がん発症リスクを抑制したとの臨床試験データは依然として得られていない。今後はスタチンが奏効する卵巣がんの臨床病理・分子生物学的因子の探索が必要である。 1. Nielsen SF, et al. N Engl J Med. 2012;367(19):1792-1802. 2. Kobayashi Y, et al. Clin Cancer Res. 2015;21(20):4652-4662.