「NSAIDs」の記事一覧

III期大腸がんで標準補助療法と併用するセレコキシブとプラセボが無病生存率にもたらす効果の比較:CALGB/SWOG 80702(Alliance)無作為化比較試験
III期大腸がんで標準補助療法と併用するセレコキシブとプラセボが無病生存率にもたらす効果の比較:CALGB/SWOG 80702(Alliance)無作為化比較試験
Effect of Celecoxib vs Placebo Added to Standard Adjuvant Therapy on Disease-Free Survival Among Patients With Stage III Colon Cancer: The CALGB/SWOG 80702 (Alliance) Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Apr 6;325(13):1277-1286. doi: 10.1001/jama.2021.2454. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】観察研究や無作為化試験から、アスピリンとシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)阻害薬に大腸のポリープおよびがんのリスク低下に関連があることが明らかになっている。転移のない大腸がんの治療に用いるCOX-2阻害薬、セレコキシブの効果は明らかになっていない。 【目的】III期大腸がんで、フルオロウラシル、ロイコボリンおよびオキサリプラチン(FOLFOX)による術後補助化学療法にセレコキシブを追加すると無病生存期率が改善するかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】Cancer and Leukemia Group B (Alliance)/Southwest Oncology Group(CALGB/SWOG) 80702試験は、米国およびカナダの市中病院および大学病院654施設で実施された2×2要因デザインの第III相試験である。2010年6月から2015年11月にかけてIII期大腸がん患者計2,526例を組み入れ、2020年8月10日まで追跡した。 【介入】患者をFOLFOX補助化学療法(2週間に1回)を3カ月実施するグループと6カ月実施するグループ、セレコキシブ(400mgを1日1回経口投与)を3年間投与する群(1,263例)とプラセボ群(1,261例)に割り付けた。本稿は、セレコキシブの無作為化の結果を中心に報告する。 【主要評価項目】主要評価項目は、無作為化から再発または全死亡が報告されるまでを評価した無病生存率とした。総生存率、有害事象、心血管系特異的事象を副次的評価項目とした。 【結果】無作為化により割り付けた2,526例(平均値[SD]年齢61.0歳[11歳]、女性1,134例[44.9%])のうち2,524例を主解析の対象とした。プロトコールの治療遵守率(セレコキシブまたはプラセボを2.75年以上投与、再発、死亡または許容できない有害事象発生までの治療継続と定義)は、セレコキシブ投与群70.8%、プラセボ群69.9%だった。セレコキシブ群の337例、プラセボ群の363例に再発または死亡が発生し、追跡期間中央値6年で、3年無病生存率はセレコキシブ群76.3%、プラセボ群73.4%であった(再発または死亡のハザード比[HR]0.89;95%CI、0.76~1.03、P=0.12)。割り付けた術後補助化学療法の継続期間中、無病生存率に対するセレコキシブ治療の効果に有意な変化は見られなかった(交互作用のP=0.61)。5年時の総生存率は、セレコキシブ群84.3%、プラセボ群81.6%であった(死亡のHR 0.86、95%CI、0.72~1.04;P=0.13)。FOLFOX投与期間中、セレコキシブ群の14.6%、プラセボ群の10.9%に高血圧(全グレード)が生じ、FOLFOX終了後、それぞれ1.7%と0.5%にグレード2以上のクレアチニン値上昇が生じた。 【結論および意義】III期大腸がん患者の標準術後補助化学療法に3年間セレコキシブ併用しても、プラセボより無病生存率を有意に改善することができなかった。 第一人者の医師による解説 COX-2阻害薬の上乗せ効果 本当にないのかの確認はさらなる検証が必要 山本 聖一郎 東海大学医学部消化器外科教授 MMJ. October 2021;17(5):151 アスピリンやシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)阻害薬を長期服用することで、大腸腺腫や大腸がんの発生のみならず、大腸がん術後の再発率が低下するとの報告がある。結腸がんステージIII術後の予後改善目的の標準補助化学療法は5-フルオロウラシル系薬剤+オキサリプラチン療法(FOLFOX療法)である。本臨床試験 はFOLFOX療法にCOX-2阻害薬セレコキシブの3年間併用で予後が改善するかを検証する優越性試験である。3年無病生存率をプラセボ群(P群)で72%、セレコキシブ群(C群)で77%と想定し、2,500人の患者登録を予定した。2,526人の登録があり、3年無病生存率はP群73.4%、C群76.3%と、C群の優越性を示すことはできなかった(ハザード比[HR],0.89;95%信頼区間[CI],0.76〜1.03;P=0.12)。また5年全生存率もP群81.6%、C群84.3%と、C群の優越性を示せなかった(HR,0.86;95% CI,0.72〜1.04;P=0.13)。有害事象に関しては、C群で高血圧のリスクがFOLFOX療法中(14.6% 対 10.9%;P=0.01)ならびに終了後(13.0%対10.0%;P=0.04)に有意に高かった。また、グレード2以上の血中クレアチニン値の上昇がFOLFOX療法終了後にC群で有意に高率であった(1.7%対0.5%;P=0.01)。これらの結果を踏まえ、本論文の結論は「結腸がんステージIII術後の補助化学療法(FOLFOX療法)にセレコキシブを3年間併用することは3年無病生存率を有意に改善しなかった」と簡潔に記載している。研究者としては、ネガティブな結果は否定できないが、影響を最小限に留めたい想いであろう。 その理由としては無病生存曲線でも全生存曲線でも常にC群の方が生存率が高く推移していること、さらに補遺資料(ウエブ上で公開)の3年無病生存率に影響を与える臨床因子のサブグループ解析では、ほぼすべての因子でC群の方が優位であった。これらの結果より、真にCOX-2阻害薬が予後を改善しないと判断するよりは3年無病生存率をP群で72%、C群で77%と想定したが、結果として2.9%の差しか得られなかったことが大きく影響したと考えられる。もしそれぞれ73%、76%と当初から想定して臨床試験を行い、実現可能性は乏しいものの6,600人以上登録できれば有意な予後改善結果を証明できた可能性が高い。73%対76%の3%の予後改善効果を実感することは困難だが、逆に言えば実感できないほどではあるがわずかな予後改善効果を有する可能性が残った、と判断するのが妥当であろう。
成人の反復性片頭痛に用いる急性期治療:系統的レビューとメタ解析
成人の反復性片頭痛に用いる急性期治療:系統的レビューとメタ解析
Acute Treatments for Episodic Migraine in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis JAMA. 2021 Jun 15;325(23):2357-2369. doi: 10.1001/jama.2021.7939. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】片頭痛は頻度が高く著しい病的状態を引き起こすことがあり、急性期治療に幾つか選択肢がある。【目的】成人の反復性片頭痛に用いる急性期治療の便益と害を評価すること。【データ入手元】開始時から2021年2月24日までの多数のデータベース。【試験の選択】片頭痛発作に用いる急性期治療の効果または害を評価した無作為化臨床試験と系統的レビュー。【データ抽出および統合】独立したレビュアーが試験を選択し、データを抽出した。Hartung-Knapp-Sidik-Jonkman法による分散補正およびDerSimonian-Lairdのランダム効果モデルを用いてメタ解析を実施し、試験数が少ない場合はMantel-Haenszel法に基づく固定効果モデルを用いた。【主要評価項目】主要評価項目は、疼痛消失、疼痛緩和、疼痛消失の持続、疼痛緩和の持続、有害事象とした。科学的根拠の強さ(SOE)をAgency for Healthcare Research and Quality Methods Guide for Effectiveness and Comparative Effectiveness Reviewsを用いて各等級に分類した。【結果】系統的レビュー15報からトリプタンと非ステロイド抗炎症薬に関する科学的根拠を要約した。他の介入について、患者2万8,803例を対象とした無作為化臨床試験115件を対象とした。プラセボと比較すると、トリプタンと非ステロイド抗炎症薬を別々に使用した場合に、2時間後および翌日の疼痛軽減(中程度ないし高度のSOE)および軽度で一過性の有害事象のリスク上昇との有意な関連を認めた。プラセボと比較すると、カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体拮抗薬(低度ないし高度のSOE)、lasmiditan(5-HT1F受容体作動薬;高度のSOE)、dihydroergotamine(中等度ないし高度のSOE)、ergotamine+カフェイン(中等度のSOE)、アセトアミノフェン(中等度のSOE)、制吐薬(低度のSOE)、butorphanol(低度のSOE)、トラマドールとアセトアミノフェンの併用(低度のSOE)に疼痛軽減および軽度の有害事象増加との有意な関連があった。オピオイドに関する結果は、低度または不十分なSOEに基づくものであった。遠隔電気神経調節(中等度のSOE)、経頭蓋磁気刺激(低度のSOE)、外部三叉神経刺激(低度のSOE)、非侵襲的迷走神経刺激(低度のSOE)などの非薬物療法に疼痛改善との有意な関連があった。非薬物療法群とシャム群との間に有害事象の有意差は認められなかった。【結論および意義】片頭痛の急性期治療が幾つかあるが、それぞれの治療を裏付ける科学的根拠の強さにばらつきがある。トリプタン、非ステロイド抗炎症薬、アセトアミノフェン、dihydroergotamine、カルシトニン遺伝子関連ペプチド拮抗薬、lasmiditanおよび一部の非薬物療法に疼痛および機能の改善との有意な関連を認めた。オピオイドを始めとするその他多くの介入に関する科学的根拠は少なかった。 第一人者の医師による解説 ゲパント系薬剤やディタン系薬剤の国内承認で 片頭痛の急性期治療は大きな変革 北村 英二 北里大学医学部脳神経内科学講師 MMJ. December 2021;17(6):173 2016年の世界の疾病負荷研究(GlobalBurdenofDiseaseStudy)によると、世界人口のおよそ14.4%が片頭痛に罹患しており、片頭痛は障害生存年数の第2位に位置する疾患である。片頭痛診療では生活習慣や環境要因に対する生活指導に加え、急性期治療と予防療法が行われる。日本では2021年に抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体、抗CGRP受容体抗体による予防療法が承認され、片頭痛診療の大きな変革期が到来している。本論文の目的は成人の反復性片頭痛(国際頭痛分類第3版[ICHD-3]片頭痛診断基準に準じ、片頭痛日数が月に15日未満で慢性片頭痛に該当しないもの)に対する急性期治療の有益性と有害性を評価することである。トリプタンと非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)に関するエビデンスについて15の系統的レビューを、その他の介入研究については115の無作為化臨床試験(患者数28,803人)を評価した。プラセボと比較して、トリプタンとNSAIDsを個別に使用した場合、それぞれ2時間後と1日後の痛みが有意に減少し(エビデンスの強さ[SOE]:中~高)、軽度・一過性有害事象のリスクが上昇した。またプラセボと比較して、CGRP受容体拮抗薬(SOE:低~高)、ラスミディタン(5-HT1F受容体作動薬)(SOE:高)、ジヒドロエルゴタミン(SOE:中~高)、エルゴタミン+カフェイン(SOE:中)、アセトアミノフェン(SOE:中)、制吐薬(SOE:低)、ブトルファノール(SOE:低)、およびトラマドールとアセトアミノフェンの併用(SOE:低)は有意に痛みを軽減し、軽度有害事象の増加を認めた。オピオイドに関してはSOEが低いか不十分であった。一方、片頭痛の非薬物療法については、ニューロモデュレーション(REN)(SOE:中)、経頭蓋磁気刺激装置(TMS)(SOE:低)、経皮的三叉神経刺激装置(e-TNS)(SOE:低)、非侵襲的迷走神経刺激装置(nVNS)(SOE:中)が有意に痛みを改善した。有害事象については、非薬物療法と偽(sham)治療で有意差はなかった。片頭痛に対していくつかの急性期治療があるが、今回の結果から、そのエビデンスの強さはさまざまであることが示された。日本でもゲパント系薬剤(CGRP受容体拮抗薬)(1),(2)、ディタン系薬剤(選択的5-HT1F受容体作動薬)(3)が承認されれば、片頭痛の予防療法のみならず急性期治療も大きな変革期を迎えることが予想される。 1. Croop R, et al. Lancet. 2021;397(10268):51-60.2. Lipton RB, et al. N Engl J Med. 2019;381(2):142-149.3. Goadsby PJ, et al. Brain. 2019;142(7):1894-1904.