医学会関連コンテンツ 日本救急医学会 第9回全国医学生BLS選手権大会~決勝大会~ 現地レポート
掲載日:2023年12月11日
はじめに
さる2023年11月26日(於:国立国際医療研究センター病院)、第9回全国医学生BLS選手権大会 決勝大会が開催されました。
この大会は全国医学生の心肺蘇生法(CPR:cardiopulmonary resuscitation)を含めた一次救命処置(BLS:basic life support)の知識・技術の向上を目的として、2015年から開催されていました。コロナ禍による影響もあり、4年ぶりの開催ということで参加する医学生の方はもちろんのこと、ご準備をされている先生方や運営事務局の方からも緊張感が伝わってくる独特な雰囲気の中、今年は、地方大会に出場した35大学(41チーム)のうち、上位18大学が決勝の舞台に集まり、大会が始まりました。
冒頭、開会挨拶で笠岡俊志先生(熊本大学病院)から語られたのは「みなさんの“目標”は優勝だと思いますが、“目的”はCPR・BLSの知識・技術を高め、その重要性を一般の方や後輩に伝えることです。“目的”と“目標”を混同することなく、大会に臨んでください」というお言葉でした。
この大会を通じて、語られた“目的”と“目標”。これこそが、この大会の意義を示すキーワードであり、日本救急医学会から医学生たちへの熱い想いの核となる言葉でした。
「実際の患者さんだと思ってください」
開会式では、もうひとつ、参加医学生の熱気を感じる場面がありました。
本大会ご担当の澤田悠輔先生(群馬大学医学部附属病院)がルール説明を終え、質疑応答の時間に移るや否や、医学生たちが一斉に手を上げ、質問をしていきました。質問の内容としてはルールの疑問・不明点や当日使用する機器の具合など様々。その一つ一つに丁寧に答えていく澤田先生の返答には一貫したものがあり、「実際の患者さんだと思ってください。そうすれば自ずと答えは出るはずです」「実際の患者さんにそんなことはしないですよね?」と、目の前のレサシアンを実際の患者さんとして扱っているかを審判員はみていることを、何度も何度もお伝えしていました。
もちろん、競技である以上は採点ルールが存在しますが、あくまでも賞を取ることは“目標”であり、大会の“目的”はBLSの知識・技術の向上で、参加学生同士、切磋琢磨することが大事なことである、という徹底した認識共有が行われたのも印象的でした。
後々、澤田先生が「毎回この時間はものすごく緊迫感に包まれるんですよ」と笑顔で誇らしげにお話されていたのも、この大会の醍醐味を象徴する素敵な場面だったと思います。
競技概要
競技概要(ルール)についてお伝えしたいと思います。
・大学単位での参加で1大学から参加できるチームは1チーム(地方大会あり)
・1チーム5名編成の団体戦(うち医学科学生は3名以上)
・競技種目は下記の3つ(競技者は3名ずつ・成人は10分・乳児は8分)
① 2人法による成人BLS(胸骨圧迫+人工呼吸(BVM使用)+AED使用)(硬さ:スタンダード)
② 2人法による成人BLS(胸骨圧迫+人工呼吸(BVM使用)+AED使用)(硬さ:ハード)
③ 2人法による乳児BLS(胸骨圧迫+人工呼吸(BVM使用)+AED使用)
・当日受付時に抽選が行われ、各種目にどのメンバーが参加するかが決定
・BLSは評価シートを使用し、学会所管の審査委員(先生方)にて採点。
・CPRはレサシアン with QCPRマネキン(レールダルメディカル社)、レサシベビー QCPRマネキン(レールダルメディカル社)を使用して、評価。
・使用するガイドラインは、日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2020。また、医療者用BLSアルゴリズムを採用。
※その他詳細は割愛いたします
この内容で2時間半にわたり、熱戦が繰り広げられました。
競技開始
いざ、競技がスタートすると会場は救急現場さながらに緊迫感の漂う空間となりました。
競技者の一挙手一投足、どれにおいても真剣さが籠っており、質の高いBLSを行おうという想いが全チームから感じられる雰囲気でした。胸骨圧迫のテンポを保つために一定のリズムで手拍子を入れながら応援をする医学生たちの手のひらが真っ赤になっていたり、優勝を“目標”に一緒に練習をしてきた仲間を鼓舞する姿は、いかにも青春という様子で、心揺さぶられる場面でした。
その一方で、競技が終わったあとすぐに集まって反省点を話し込む姿や、各大学の引率の先生にアドバイスを求める姿は、医学生であっても一人の医療従事者なんだという高い志を感じる素晴らしい時間であったと思います。この競技会場の雰囲気が文章で伝えきれないかも、という歯がゆさも残りますが、ぜひ、この記事を読んだ医学生には来年以降、実際に参加して、肌で感じていただきたいなと思いました。
競技と実際の間で
2時間半にわたる競技時間を終え、医学生たちの表情は達成感と開放感に溢れたものとなっていました。表彰式のために参加者全員が再度会場に集い、隣に並ぶ他大の参加者と会話を交わす様子を見ていると、こうして現地に集まり、お互いの顔が見える中で知識・技術を高めあうということの重要性を改めて感じた、大変貴重な場となりました。
表彰は4部門(成人スタンダード・成人ハード・乳児・総合)にわたり、発表されました。
表彰式後、総合優勝を果たした琉球大学の方に“大会に臨むうえで一番大切にしていたこと”を聞いてみると「とにかくメンバーみんなでやる。マネキンではなく、実際の人だと思って。競技ルールはあるものの、とにかく目の前にいるのは人なんだと思ってやることを徹底して臨みました」と素敵な笑顔で答えてくれました。また、練習の一環として、実際に活躍している救急隊の方を訪ね、リアルな現場の状況などに即したBLSの方法や実技を学んだというお話もしてくださいました。
もう一つ、この琉球大学チームから非常に興味深いお話がありました。普段所属する《Off The Clock》というサークルは救急医療と総合診療の2本柱で活動しているというのです。「自分たちでも珍しいサークルだと思います。昨日もみんなで総合診療の講演を受けて、朝8時の飛行機で東京にきました!」と仰っていたところに学生らしい勢いを感じた一方、日頃から人を助けるんだ、という想いを持って、コツコツと練習や実習、サークル活動に励んでいるというところに、このチームが総合優勝できた理由を垣間見た気がしました。
閉会式、笠岡先生は全体総評で「“目標”としていた優勝はできなかったかもしれない、でも“目的”としていたことは全員が達成できたと思います」「今日、何人の人を救うことが出来たか、何人の人が救われたか。私はその目線で競技を見ていました。救急を専門にしているからではなく、医師にとって大事な蘇生法を学べたことが重要です」と医学生たちに激励のお言葉をかけていました。
改めて振り返ると、大会を通して語られた“目的”を日頃から念頭に置き、実践できているかどうか、この点が、賞を取れるかどうか、つまり“目標”達成をなし得るかの微妙な差を生んだのではないかと思います。もちろん、医療は競い合うものではありません。しかしながら知識・技術を高め合うことは、間違いなく、これからの医療を明るくしてくれる要素であると考えます。
こんなに志の高い医学生たちが、それぞれの地域で生活している。それが感じられただけでも、数多くの人命が救われる希望がある、と認識させていただける素晴らしい機会となりました。
今後もこの大会が続いていくことを心より願うとともに、来年は地方大会から見てみたいと思える、とても熱気溢れる大会でございました。
最後に、本取材をご快諾いただきました、日本救急医学会理事の先生方、学生・研修医部会運用委員会委員長の笠岡俊志先生、国立国際医療研究センター病院の木村昭夫先生・船登有未先生、大会担当の澤田悠輔先生に改めて感謝申し上げます。誠にありがとうございました。
文責:ヒポクラ学会担当 カワウソくん
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