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「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」は腫瘍内科医の夢への第一歩
また、私と同じように腫瘍内科医を志す医学生や研修医・専攻医の先生方との交流を通じて、刺激を受けたかったということも理由に挙げられる。このようなセミナーに参加すること自体が初めてで、不安な気持ちはあった。しかし、大学を越えて全国の学生や先生方と交流できる機会は貴重であると強く考え、一歩踏み出した。実際セミナーに参加してみて、同志との交流の時間は私にとって非常に有意義なものであったと考える。
取材担当:福井大学医学部5年 松田 玲奈
腫瘍内科医を目指すためのステップは?「キャリア相談カフェ」も利用可能に
専門研修の実際についてお話しいただいた島根大学の津端 由佳里先生は、まず専門医取得プランの全体像を示してくださった。2年の初期臨床研修後、内科専門研修(医師3-5年目)を経て内科専門医を取得する。内科専門研修と連動して、領域専門研修(医師4-6年目)を行い、各領域の専門医を取得することも可能である。そしてその後サブスペ研修(医師6-8年目)を行う。がん薬物療法専門医はサブスペ研修を経て取得する。 専門研修の実際については、大学病院、がん専門病院、一般病院の3施設での研修を比較してお話いただいた。典型的なプログラムとしては、大学病院と一般病院は腫瘍内科に在籍し,必要時にローテートする“腰落ち着け型”だという。一方、がん専門病院は基本“ローテート”で、プログラムの対象が内科専門研修修了後の医師という点が特徴である。大学院進学に関しては、システム的にやはり大学病院が並行して研修を行いやすいそうだ。ただし、がん専門病院や一般病院でも、連携している大学での取得となるが、大学院進学も可能であるというお話であった。「専門研修において3施設のどれかが秀でているわけではない」と津端先生は話された。各施設での研修のカラーを知り、自身が重要視する点や求める研修内容も含めて決める必要があるという結論に至った。
日本臨床腫瘍学会(JSMO)に入会すると、JSMOの新しい取り組みである「キャリア相談カフェ」を今後利用できるようになるという。キャリアプランに悩み、専門医取得の道筋が構築できていない私のような学生は利用させていただく他ないと考える。
治療だけではない、患者さんの“いえる”を助ける医療者に
絨毛がん経験者の藤田 理代さんのご講演も拝聴させていただいた。藤田さんは14歳から婦人科に通院、29歳で初めての妊娠をされるも、その後流産を経験された。そして間もなくして、絨毛がんが発覚した。藤田さんは自身のがん罹患の経験から、“いえなかった(言えなかった・癒えなかった)場面”と“いえる(言える・癒える)ようになった関わり”についてお話しくださった。がん発覚後、進行が早い絨毛がんの特性上、時間がない中での治療が始まった。それは医療者から「正しい説明」を「される」連続だったという。そんな中、藤田さんは流産やがん罹患による悲しみ、治療や今後に対する不安、副作用や治療環境のつらさに耳を傾けてもらえることもなく、“いえない”状況を強いられた。追い討ちをかけるような周囲からのさまざまな矢印も、藤田さんを“いえない”状況へとさらに追いやった。産婦人科の待合室で目に入る妊婦さん。子育てに奮闘する友人。絨毛がん治療後の妊娠に前向きな医療者たちなど…。周囲からの反応や声が、ご自身の本音とかけ離れており、それがさらに藤田さんを苦しめた。 そうした苦しみの中で自信を喪失した患者さんが、自ら助けを求めることの難しさを藤田さんは訴える。もしもその時、患者さん自身の本音を感じ取り、打ち明けるきっかけとなる医療者からの「声かけ」があったとしたら“いえる”ことができたかもしれないと、当時を振り返りお話された。
藤田さんが“いえた”きっかけは、2人の看護師さんとの出会いだった。それまでのがん治療の旅路で抱えてきたさまざまなつらさを、マギーズ東京の看護師さんに打ち明けた時、「やさしいのね」、そう言われたという。また、治療中の1番つらい時を知る外来化学療法室の看護師さんは特別な存在であり、その人からのひと言が、どんな「支援」よりも力になった、と藤田さんはいう。
患者さんの“病気を治す”ことに焦点を当てるだけでは、医療者として不十分なのである。個々の患者さんの気持ちを感じ取り、本音まで知ろうとする姿勢、そして声に出せるような“場”を提案できることが求められるのだと、私は思った。
初体験の「Cancer Journey」患者さんの人生に寄り添うことの重要性を実感
グループワークでは他の参加者の方と共に、がん患者さんのCancer Journeyに基づくケース・シナリオを作成した。私のグループに充てられた患者設定は「AYA世代の根治可能ながん患者さん(30歳女性)」。がん発症までの人生から、それに基づく本人の価値観や性格、家族構成まで話し合って設定した。根治可能ながんとして、疾患をステージⅠB3の子宮頸がん(脈管浸潤あり)とした。このステージの1次治療は広汎子宮全摘術+術後化学放射線療法であるが、患者さんは挙児希望のある30歳女性、結婚2年目、子ども好きの保育士(という設定)。AYA世代のがんでは、妊孕性の問題がしばしば挙げられる。今回の症例は、医学的に根治可能である、しかし本人の妊孕性の維持は難しい。このような状況における患者さん本人の心境や思い、また家族や主治医の思いについても話し合いを重ねていった。患者さんの年齢が私自身と近かったため、自身と重ねて考えてしまう場面もあった。 患者さんへの説明の仕方は1通りではない。より患者さんに寄り添った説明をするためには、患者さん本人の歩んできた人生を知ること、また知ろうとすることが大切であるとグループワークで再認識した。こんなにも詳細に1人の人生を読み解く取り組みは初めてであった。臨床現場では、疾患そのものに焦点が行きがちであるが、患者さんの人生に寄り添うことが旅路(Cancer Journey)を共にする上で重要であると実感した。
“病気を診る”のではなく“患者さんの人生をみる”医師が私の目標
「多くの人に“がんは治る病気”と認識してもらえるようにしたい、また腫瘍内科医として、そのような治療を確立させたい」これは私が本セミナー参加前に抱いていた目標である。私は祖父をがんで亡くしたことをきっかけに、こう思うようになり、当時通っていた大学を辞め、医学部に進路変更をした。そのような中、本セミナーに参加し、大きな収穫があった。それは、先生方とお話する中で得られた、新たな考えや価値観である。がん研有明病院の高野 利実先生は、お話しさせていただいた際に次のようにおっしゃった。「治すというだけが腫瘍内科医としての仕事ではなく、治らない場合にこそ腫瘍内科医にしかできない仕事がある」「治らない患者さんに手を差し伸べ、共に歩むことができる点が腫瘍内科医の何よりも魅力だ」と。そもそも“治す”とは何を指すのか。この問いを考えたとき、いわゆる完治だけが“治す”ではなく、たとえ治らなくともがんと上手く向き合い、付き合いながら患者さん自身の人生を生きていくこと、それが“治す”であるという答えに至った。
思えば、家族のがん罹患の経験から“がん=悪”という考えが私の心の奥に根付いていたのかも知れないと、ハッとした。病気は誰でもなる、それはがんも同様だ。病気は人生の一部であり、病気によって人生が左右されてはならない。患者さん自身の人生をその人らしく生きることが何より大切である。医師として病気を治すことだけに躍起になるのではなく、同じ方向(治療目標)を向きながら、共に歩むという考えを自分の中におとし込むことができた。つまり、“病気を診る”のではなく、“患者さんの人生をみる”医師になりたいという考えに至った。
患者さんと共に成長できることも腫瘍内科の魅力
「人生の扉は他人が開けてくれる」これは奈良県総合医療センターの東 光久先生が大切にされているお言葉である。東先生は、この言葉の“他人”とは“患者さん”であるという。「医師としても人としても、患者さんとの出会いが私たちを成長させる。そして、患者さんの人生に寄り添い、共に歩む中で、私たちは患者さんから思いがけない新たな気づきやきっかけをいただいている」とお話ししてくださった。私も、患者さんお一人お一人との出会いを大切にしていきたいと改めて感じた。ここまで“患者さんの人生に寄り添い、共に歩む”ことを中心にレポートしてきたが、どんな病気においてもこの考えは基盤になると考える。ただその中でも、がんは患者さんのそれまでの人生、またその後の人生に大きな影響を与える疾患の1つである。だからこそ腫瘍内科医は、がん患者さんの人生に深く、長く寄り添い、その人らしい人生を送るためにその患者さんにとっての最善の提案をする力が求められる。患者さんとの関わり合いの中で、人として成長させていただけること、これは腫瘍内科の魅力だと先生方とお話しさせていただき、強く感じた。また“臓器横断的”に診られることも腫瘍内科の魅力である。私が腫瘍を扱う外科ではなく、腫瘍内科を志望しているのもこの点に魅力を感じているからだ。患者さんの全身を診ることができ、そして人生をみて、共に歩む。これこそが腫瘍内科の魅力であると考える。
福井大学医学部5年 松田 玲奈
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