「移植」の記事一覧

月経周期が規則的な女性の顕微鏡受精中の全胚凍結と新鮮胚移植戦略の比較 多施設共同無作為化比較試験
月経周期が規則的な女性の顕微鏡受精中の全胚凍結と新鮮胚移植戦略の比較 多施設共同無作為化比較試験
Freeze-all versus fresh blastocyst transfer strategy during in vitro fertilisation in women with regular menstrual cycles: multicentre randomised controlled trial BMJ. 2020 Aug 5;370:m2519. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】生殖補助医療で用いる全胚凍結戦略と新鮮胚移植戦略の妊娠継続率を比較すること。 【デザイン】多施設共同無作為化対象優越性試験。 【設定】デンマーク、スウェーデンおよびスペインの公立病院8施設内の外来不妊治療クリニック。 【参加者】月経周期が規則的で体外受精または卵細胞質内精子注入法いずれかで第1~3治療サイクルを開始する18~39歳の女性460例。 【介入】女性をサイクルの2日目または3日目のベースラインで、トリガーにゴナドトロピン放出ホルモン作動薬を用いて、続く自然サイクルで単一凍結融解胚盤胞を移植する全胚凍結群(全胚の選択的凍結)と、トリガーにヒト絨毛性ゴナドトロピンを用いて、次のサイクルで単一胚盤胞を移植する後新鮮胚移植群に無作為に割り付けた。トリガー投与時に11mm超の卵胞が18個以上あった新鮮胚移植群の女性で、安全策として全胚を凍結し、移植を延期した。 【主要評価項目】主要評価項目は、妊娠8週後の胎児心拍確認と定義した妊娠の継続率とした。生児出生率、ヒト絨毛性ゴナドトロピン陽性率、妊娠までの期間および妊娠関連の母体および新生児の合併症を副次評価項目とした。腫瘍塊性はintention-to-treat原理に従って実施した。 【結果】全胚凍結群と新鮮胚移植群の妊娠継続率に有意な差はなかった(27.8%[223例中62例]vs 29.6%[230例中68例]リスク比0.98、95%CI 0.87~1.10、P=0.76)。さらに、生児出生率にも有意差はなかった(全胚凍結群27.4%[223例中61例]、新鮮胚移植群28.7%[230例中66例]、リスク比0.98、95%CI 0.87~1.10、P=0.83)。ヒト絨毛性ゴナドトロピン陽性率および妊娠喪失にも群間差は見られず、重度卵巣過剰刺激症候群を来した女性は1例もなかった。新鮮胚移植群で、この処置に関連する入院がわずか1例あったのみである。妊娠関連の母体および新生児の合併症リスクは、凍結胚盤胞移植後の平均出生体重が多かった点および新鮮胚移植後に早産のリスクが上昇する点を除き、差は認められなかった。全胚凍結群のほうが妊娠までの期間が長かった。 【結論】規則的な月経がある女性で、卵成熟のためにゴナドトロピン放出ホルモン作動薬を用いた全胚凍結戦略で、新鮮胚移植戦略よりも妊娠継続率および生児出生率が上昇することはなかった。この結果を鑑みると、卵巣過剰刺激症候群の明らかなリスクがない場合でも見境なく全胚凍結戦略をとることに対して注意が必要である。 第一人者の医師による解説 卵巣過剰症候群のリスクがなければ 新鮮胚移植を優先すべきである 末岡 浩 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター MMJ. February 2021;17(1):29 近年、不妊で悩むカップルは増加傾向にあり、さらに女性の社会進出によって不妊治療の機会が十分に得られずに離職を選ぶ人がいることも大きな課題である。生殖補助医療の発展・普及は目覚ましく、日本の出生児の16人に1人は体外受精で妊娠に至っており、そのうち70%は凍結胚移植である。海外では凍結胚の妊娠は日本ほど多くはないが、メリットの観点から増え続けている。胚の凍結は、余剰胚の有効活用に加えて、多胎の防止、排卵誘発に伴う通常周期よりも高レベルのホルモン環境中の胚移植を避け、時には重篤な状態を引き起こす可能性のある卵巣過剰刺激症候群の発生を防ぐことができるなど、有益な点が少なくないと考えられてきた。一方、凍結融解による胚への侵襲と妊娠成績への影響が懸念されている。 本論文は、欧州3カ国8施設で18~39歳の正常排卵周期を有する女性460人を対象に凍結胚移植の新鮮胚移植に対する優越性を検討した多施設共同無作為化対照試験の報告である。患者に対して排卵誘発剤による卵巣刺激を行い、最終的にヒト絨毛ホルモン(hCG)注射による排卵誘導を行った後、採卵し、通常の体外受精または顕微授精によって得られた胚を5~6日間体外で胚盤胞に至るまで培養し、新鮮胚移植群では5~6日目に移植した。凍結胚移植群では排卵時期を特定するため排卵誘導にはhCGの代わりにゴナドトロピン分泌ホルモンアゴニスト(GnRHa)を投与し、排卵の上で同期化した時期に子宮に移植した。妊娠率、分娩に至った割合、流産率のほか、排卵誘発剤による副作用としての卵巣過剰刺激症候群、出生体重の変化などを検討した。 その結果、凍結胚移植群と新鮮胚移植群で妊娠率、出生率、流産率には差がなく、凍結周期が妊娠成績に好結果をもたらすとした既報とは異なる結論が得られた。懸念されていた卵巣過剰刺激症候群の発生については、1例を除き、排卵誘発した周期に行った新鮮胚移植でも腹水貯留や入院管理を必要とする重症例は認められなかった。ただし、採卵周期の排卵誘発時から医療サイドの注意したことが功を奏した可能性はある。一方、凍結胚移植では有意な児体重の増加および早産率の上昇がみられ、妊娠までの期間が長くなった。今回の検討結果からGnRHaとhCGの排卵誘導に関して、また新鮮胚移植と比較して、凍結胚移植による妊娠出産率への効果に有意差はなかったことが示された。このことから、卵巣過剰刺激症候群のリスクがない時にまですべての胚で凍結胚移植を選択すべきではなく、新鮮胚移植を優先すべきであることが示唆された。
腎移植の免疫抑制を制御性T細胞 第I/IIa相臨床試験
腎移植の免疫抑制を制御性T細胞 第I/IIa相臨床試験
Regulatory T cells for minimising immune suppression in kidney transplantation: phase I/IIa clinical trial BMJ. 2020 Oct 21;371:m3734. doi: 10.1136/bmj.m3734. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】腎移植後の自己内在性制御性T細胞(nTreg)注入による免疫バランスの再形成の安全性および実行可能性を評価すること、有効性が低い割に有害事象があり直接的および間接的コストも高い高用量免疫抑制薬を減量できる可能性を見きわめること。有益な概念実証モデルで、容易で安定した製造、過剰免疫抑制の危険、標準治療薬との相互作用および炎症性環境での機能の安定性などのnTreg治療の課題を検討すること。 【デザイン】医師主導単施設nTreg用量漸増第I/IIa相臨床試験(ONEnTreg13)。 【設定】ONE Study内のCharité大学病院(ドイツ・ベルリン、EUが資金提供)。 【参加者】生体ドナー腎移植レシピエント(ONEnTreg13、11例)および対応する参照群(ONErgt11-CHA、9例)。 【介入】腎移植7日後にCD4+ CD25+ FoxP3+ nTregを0.5、1.0、2.5-3.0×106個/体重kgのいずれかの用量を静脈内投与し、その後48週後まで3剤併用免疫抑制療法から低用量タクロリムス単独療法へと段階的に減量した。 【主要評価項目】主要臨床的および安全性評価項目は、60週時の複合評価項目とし、さらに3年間追跡した。評価には、生検で確認した急性拒絶反応の発生、nTreg注入による有害事象の評価、過剰免疫抑制の徴候などを含めた。移植腎機能を副次評価項目とした。付随する研究に包括的な探索的バイオマーカーのポートフォリオを含めた。 【結果】全例で、腎臓移植2週間前に採取した末梢血40-50mLから十分な量、純度、機能のnTreg細胞が作製できた。3通りのnTreg用量漸増群いずれでも用量規制毒性を認めなかった。nTregおよび参照群の3年後同種移植片生着率はいずれも100%で、臨床および安全性に関する特徴もほぼ同じだった。nTreg群の11例中8例(73%)が単剤による安定した免疫抑制を達成した一方で、参照群では標準的な2剤または3剤併用による免疫抑制療法を継続していた(P=0.002)。従来のT細胞活性化は低下し、nTregが体内でポリクローナルからオリゴクローナルT細胞受容体レパートリーに変化した。 【結論】自己nTregの投与は、腎移植後に免疫抑制療法を実施している患者でも安全で実行可能であった。この結果は、Tregの有効性をさらに詳細に評価することの必要性を裏付け、移植および免疫病理学での次世代nTregアプローチの開発の基盤となるものである。 第一人者の医師による解説 腎移植後の免疫抑制療法の減少のため 今後の実用化に期待 越智 敦彦 亀田総合病院泌尿器科・腎移植科医長 MMJ. April 2021;17(2):53 免疫抑制療法の進歩により腎移植後の長期腎生着率の成績は向上したが、その半面で長期の免疫抑制薬の使用による感染症、悪性腫瘍、心血管障害の発症や薬剤の腎毒性による移植腎機能障害などが問題となった。そこで長期腎生着とともに免疫抑制薬の最少化が課題となっている。これまでの研究により、内在性制御性T細胞(nTreg)に固形臓器移植後の拒絶反応を遅延、防止する働きがあることが示されている。すでに末梢血、臍帯血、または胸腺から十分な量と純度のTregが作製できることも報告されている。しかし、腎移植後の免疫抑制療法へのnTregの導入には容易で安定したnTreg製造手順の作成と、安全性の確立のためnTreg投与による過剰免疫抑制の危険性、標準薬剤との相互作用などを明らかにする必要があった。 本論文は、自己血液中から作製したnTregの腎移植後投与の安全性と有効性について検討した医師主導型単施設nTreg用量漸増第I/IIa相臨床試験(ONEnTreg13試験)の報告である。生体腎移植のレシピエント11例をnTreg投与群とし、以前行われた試験(ONErgt11-CHA試験)の9例を参照群とすることで比較した。nTreg投与群では腎移植手術の2週間前に40~50mLの末梢血からnTreg(CD4+CD25+FoxP3+)を作製し、腎移植の7日後に体重(kg)あたり0.5、1.0、または2.5~3.0×106個の細胞を静脈内へ単回投与した。移植後に3剤の免疫抑制薬(プレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス)を開始し、48週かけて低用量のタクロリムス単剤へと漸減した。臨床所見および安全性の複合主要評価項目には、生検で確認された急性拒絶反応の発生率、nTreg投与に関連する有害作用および過剰免疫抑制の徴候が含まれ、移植後60週目に評価し、さらに3年間の追跡調査を行った。また移植腎の機能を副次評価項目とした。結果では、すべての患者で十分な量と純度、機能のあるnTregの作製が可能であった。nTreg用量を漸増した3つの投与群において用量規定毒性は確認されなかった。3年後の移植腎生着率はnTreg投与群、参照群ともに100%であり、臨床所見および安全性のデータに差を認めなかった。nTreg投与群では11例中8例(73%)でタクロリムス単剤での安定した免疫制御が達成されたが、参照群では標準的な2剤以上の免疫抑制療法が継続された(P=0.002)。 本研究はまだ症例数が少なく、臨床での実用化には今後さらにデータの蓄積が必要であるが、腎移植後の従来の免疫抑制療法に対して新しい知見をもたらす研究と考えられる。
原発性高シュウ酸尿症1型に用いるRNAi治療薬lumasiran
原発性高シュウ酸尿症1型に用いるRNAi治療薬lumasiran
Lumasiran, an RNAi Therapeutic for Primary Hyperoxaluria Type 1 N Engl J Med. 2021 Apr 1;384(13):1216-1226. doi: 10.1056/NEJMoa2021712. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】原発性高シュウ酸尿症1型(PH1)は、肝臓でシュウ酸が過剰に産生されることによって生じるまれな遺伝性疾患であり、腎結石や腎石灰化症、腎不全、全身性シュウ酸症を引き起こす。開発中のRNA干渉(RNAi)治療薬、lumasiranは、グリコール酸オキシダーゼを標的として肝臓でのシュウ酸の産生を抑制する。 【方法】この第III相二重盲検試験では、6歳以上のPH1患者をlumasiran群とプラセボ群に(2対1の割合で)割り付け、6カ月間皮下投与した(ベースラインと1、2、3、6カ月時に投与)。主要評価項目は、ベースラインから6カ月時までの24時間尿中シュウ酸排泄量の変化率(3~6カ月時までの平均変化率)とした。ベースラインから6カ月時までの血漿中シュウ酸値の変化率(3~6カ月時までの平均変化率)と6カ月時に24時間尿中シュウ酸排泄量が正常範囲上限の1.5倍以下であった患者の割合を副次評価項目とした。 【結果】計39例を無作為化し、26例をlumasiran群、13例をプラセボ群に割り付けた。24時間尿中シュウ酸排泄量の変化率の最小二乗平均差(lumasiran-プラセボ)は-53.5%ポイントであり(P<0.001)、lumasiran群では65.4%低下し、1カ月時に効果が認められた。階層的に検討した全副次評価項目の群間差は有意であった。血漿中シュウ酸値の変化率の差(lumasiran-プラセボ)は-39.5%ポイントであった(P<0.001)。6カ月時の24時間尿中シュウ酸排泄量が正常範囲上限の1.5倍以下であった患者の割合は、lumasiran群84%、プラセボ群0%であった(P<0.001)。lumasiran群の38%に軽度かつ一過性の注射部位反応が報告された。 【結論】lumasiranは、PH1の進行性腎不全の原因となる尿中シュウ酸排泄を抑制した。lumasiranを投与した患者の大多数は、6カ月間の治療後に正常値または正常値に近い値を示した。 第一人者の医師による解説 臓器移植に代わるPH1患者の革新的根治治療薬 他の希少疾患でのRNAi治療薬の開発を期待 笠原 群生 国立成育医療研究センター臓器移植センター長・副院長 MMJ. August 2021;17(4):125 高シュウ酸尿症1型(PH1)は常染色体劣性遺伝疾患で、肝臓のペルオキシソームに局在するアラニン・グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ(AGT)の欠損により、シュウ酸が過剰に産生される疾患である。過剰なシュウ酸はシュウ酸カルシウムとなり、腎結石・腎不全・全身のシュウ酸カルシウム沈着(皮膚、骨、網膜、心血管など)をきたす予後不良の疾患である。発症頻度は10万人に1人~100万人に1人の希少疾患である。小児期に腎結石で発症する患者が多いが、診断が困難で43%の患者が腎不全となってから診断され、14%が15.5歳(中央値)で死亡すると報告されている(1)。根治手術には肝移植が有効であるが、併存する進行性の腎不全により肝腎同時移植が必要な患者もある。 ルマシランはRNA干渉治療薬でAGT上流にあるグリコール酸オキシダーゼをエンコードするmRNAを阻害することで、肝臓でのシュウ酸産生を抑制する。今回の研究は、6歳以上で慢性腎臓病(CKD)ステージ 3以下の遺伝子診断されたPH1患者にルマシランを6カ月間使用し、皮下(3mg/kgを最初の1 ~ 3カ月は月1回、その後3カ月ごとに1回)投与群(26人)とプラセボ群(13人)に割り付け比較検討する、無作為化二重盲検第3相試験として実施された。ルマシラン投与群で推定糸球体濾過量(eGFR)に変化を認めなかったが、24時間尿中シュウ酸排泄量および血漿シュウ酸濃度で有意な低下を認めた。腎結石症状もルマシラン投与群で減少した。ルマシラン投与による主な有害事象は皮下注射部位の発赤・痛み・掻痒感であったが、一過性であった。ルマシランはPH1患者に安全に投与可能で、尿中シュウ酸排泄量を正常値近くまで減少することが可能であった。 PH1患者にはビタミン B6内服や水分摂取などの治療法が試みられてきたが、進行性の腎障害、腎不全、骨病変、眼病変、心機能不全を認めることがあり、肝移植や肝腎移植が適用されてきた。ルマシランは臓器移植に代わるPH1患者の革新的な根治治療薬になりえ、希少疾患患者のアンメット・メディカル・ニーズに応える薬剤である。今後他の希少疾患でRNAi治療薬の基礎的研究・臨床応用が期待される。 1. Mandrile G, et al. Kidney Int. 2014;86(6):1197-1204.
初回再発を認めた高リスクB細胞性急性リンパ性白血病患児の無事象生存期間にもたらすブリナツモマブと化学療法の作用の比較:無作為化臨床試験
初回再発を認めた高リスクB細胞性急性リンパ性白血病患児の無事象生存期間にもたらすブリナツモマブと化学療法の作用の比較:無作為化臨床試験
Effect of Blinatumomab vs Chemotherapy on Event-Free Survival Among Children With High-risk First-Relapse B-Cell Acute Lymphoblastic Leukemia: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Mar 2;325(9):843-854. doi: 10.1001/jama.2021.0987. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】ブリナツモマブは、CD3/CD19を標的とした二重特異性T細胞誘導作用を有する抗体製剤であり、再発または難治性B細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)患児に有効である。 【目的】初回再発を認めた高リスクB-ALL患児で、同種造血幹細胞移植前のブリナツモマブによる3回目地固め療法後の無事象生存期間を地固め化学療法と比較すること。 【デザイン、設定および参加者】この第III相無作為化試験では、2015年11月から2019年7月までの間に患者を登録した(データ打ち切り日、2019年7月17日)。13カ国47施設で、無作為化時に形態学的完全寛解(M1 marrow、骨髄中芽球細胞5%未満)またはM2 marrow(骨髄中芽球細胞5%以上25%未満)で、28日齢を超える18歳未満の初回再発高リスクB-ALL患児を登録した。 【介入】患者をブリナツモマブ1サイクル(54例、15μg/m2/日、4週間、持続点滴静注)と3コース目地固め化学療法(54例)に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は無事象生存率とした(事象:再発、死亡、二次がんまたは完全寛解未達成)。有効性に関する主な副次評価項目は全生存率とした。微小残存病変陰性化および有害事象発現率をその他の副次評価項目とした。 【結果】計108例を無作為化により割り付け(年齢中央値5.0歳[四分位範囲{IQR}4.0~10.5]、女児51.9%、M1 marrow 97.2%)、全例を解析対象とした。本試験への登録は、予め定めた中止基準に従って、早期有効中止となった。追跡期間中央値22.4カ月(IQR 8.1~34.2)での事象発生率は、ブリナツモマブ群31%、地固め化学療法群57%であった(log-rank検定のP<0.001、ハザード比0.33、95%CI 0.18~0.61)。ブリナツモマブ群の8例(14.8%)、地固め化学療法群の16例(29.6%)が死亡した。全生存のハザード比は0.43(95%CI 0.18~1.01)だった。ブリナツモマブ群の微小残存病変陰性化が地固め化学療法群よりも多かった(90%[49例中44例] vs. 54%[48例中26例]、差35.6%[95%CI 15.6~52.5])。致命的な有害事象は報告されなかった。ブリナツモマブ群と地固め化学療法群を比較すると、重篤な有害事象発現率はそれぞれ24.1% vs 43.1%、グレード3以上の有害事象発現率は57.4% vs 82.4%であった。ブリナツモマブ群の2例に治療中止に至る有害事象が報告された。 【結論および意義】初回再発を認めた高リスクB-ALL患児で、同種造血幹細胞移植前のブリナツモマブ1サイクルによる治療によって、多剤強化標準化学療法に比べ、追跡調査期間中央値22.4カ月で無事象生存率が改善した。 第一人者の医師による解説 安全に深い寛解を達成し 同種造血幹細胞移植の成績向上に寄与することを示唆 森 毅彦 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科血液内科学教授 MMJ. October 2021;17(5):150 小児急性リンパ性白血病(ALL)は成人のそれとは異なり、標準的な多剤併用化学療法により高い治癒率を得ることができる。しかし、再発した場合の予後は不良であり、その根治のためには同種造血幹細胞移植(HSCT)が実施される。同種HSCTは移植後の合併症による死亡と移植後のALL再発が、その成績に大きく影響する。移植後再発のリスクは残存腫瘍が少ないほど低いため、深い寛解を達成して移植に臨むのが理想的である。そのために毒性の強い化学療法を行ってきたが、近年、新規治療法が導入されてきている。その1つがブリナツモマブであり、bispecifi c T-cell engager(BiTE)抗体と呼ばれ、異なる抗原結合部位をもつ2重特異性抗体である。B細胞性腫瘍が発現するCD19と抗腫瘍効果を発揮するT細胞表面上のCD3を標的としている。小児再発・治療抵抗性 ALLを対象とした試験において39%の寛解率、そのうちの約半数が微少残存腫瘍の消失を達成した(1)。 本論文は再発後の治療で寛解を達成した小児高リスクALL患者を対象に、同種HSCT前の3回目地固め療法(1コース)をブリナツモマブ単剤と多剤併用化学療法に無作為に割り付けた臨床試験の結果を示したものである。この治療後に同種HSCTを実施する患者が対象であり、年齢中央値は5歳であった。本試験は中間評価にてブリナツモマブ群の成績が優れていたことから、早期に中止となった。24カ月無イベント生存率はブリナツモマブ群66.2%、化学療法群27.1%と有意差がみられた。24カ月再発率も24.9%と70.8%、微少残存腫瘍陰性化率も90%と54%と有意差がみられた。重篤な有害事象はブリナツモマブ群で少なかった。ブリナツモマブにより安全に深い寛解を達成し、同種HSCTの成績向上に寄与することが示唆された。 本研究の限界としては、小児を対象としていること、化学療法により寛解を達成した患者を対象としていること、1コースのブリナツモマブと化学療法を比較している点などが挙げられる。実診療では若年・成人のALL患者も多く、ブリナツモマブを非寛解例に使用することや複数コース使用するケースも多い。またブリナツモマブ以外にもCD19を標的としたchimeric antigen receptor T-cell (CAR-T)療法やCD22を標的とした抗体薬物複合体のイノツズマブ オゾガマイシンも実診療で使用可能となっており、これらの薬剤との比較や併用療法などの有効性・安全性を評価する試験が実施されることで、再発ALLの最適な治療法の発展につながっていくと考えられる。 1.von Stackelberg A, et al. J Clin Oncol. 2016;34(36):4381-4389.
男性パートナーの総精子数および精子運動率が正常な不妊カップルに用いる卵細胞質内精子注入法と標準体外受精の比較:非盲検無作為化比較試験
男性パートナーの総精子数および精子運動率が正常な不妊カップルに用いる卵細胞質内精子注入法と標準体外受精の比較:非盲検無作為化比較試験
Intracytoplasmic sperm injection versus conventional in-vitro fertilisation in couples with infertility in whom the male partner has normal total sperm count and motility: an open-label, randomised controlled trial Lancet. 2021 Apr 24;397(10284):1554-1563. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00535-3. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】卵細胞質内精子注入法の使用は世界で大幅に増加している。しかし、このアプローチを標準体外受精(IVF)と比較した無作為化比較試験のデータが不足している。そこで、卵細胞質内精子注入法が標準IVFと比較して生産率が高いかを明らかにすることを目的とした。 【方法】この非盲検多施設共同無作為化試験は、ベトナム・ホーチミン市のIVFセンター2施設(IVFMD、My Duc HospitalおよびIVFAS、An Sinh Hospital)で実施された。男性パートナーの精子数および精子運動率(直進運動)が2010年のWHO基準から見て正常な18歳以上のカップルを適格とした。標準IVFまたは卵細胞質内精子注入法による治療歴が2回以下であり、卵巣刺激にアンタゴニスト法を用いており、胚移植数が2個以下であることとした。ブロックサイズが2、4または8のブロック置換法および電話による中央無作為化法を用いて、カップルを卵細胞質内精子注入法と標準IVFに(1対1の割合で)割り付けた。コンピュータ生成無作為化リストは、試験に関与していない独立の統計家が用意した。介入法および病院での支払いに差があるため、胚培養士およびカップルに試験群を伏せなかったが、胚移植を実施する臨床医には試験群の割り付けを伏せた。主要評価項目は、初回採卵周期で得た初回胚移植後の生産率とした。intention-to-treat集団で解析した。この試験はClinicalTrials.gov,にNCT03428919として登録されている。 【結果】2018年3月16日から2019年8月12日までの間に、1,064組を卵細胞質内精子注入法(532組)と標準IVF(532組)に割り付けた。卵細胞質内精子注入法に割り付けたカップル532組中284組(35%)および標準IVFに割り付けたカップル532組中166組(31%)が初回採卵周期で得た初回胚移植後に生児を出生した(絶対差3.4%、95%CI -2.4~9.2、リスク比[RR]1.11、95%CI 0.93~1.32;P=0.27)。卵細胞質内精子注入法群の29組(5%)と標準IVF群の34組(6%)で受精が失敗した(絶対差-0.9%、RR 0.85、95%CI 0.53~1.28;P=0.60)。 【解釈】男性パートナーの総精子数および運動率が正常な不妊カップルで、卵細胞質内精子注入法の生産率に標準IVFと比べて改善が見られなかった。この結果は、この集団に用いる生殖補助技術として卵細胞質内精子注入法のルーチンの使用を再考する必要性を示すものである。 第一人者の医師による解説 男性不妊因子のないカップルへの顕微授精は再考が必要 通常の体外受精で対応可 丸山 哲夫 慶應義塾大学医学部産婦人科学教室准教授 MMJ. October 2021;17(5):155 健常と思われる単一の精子を卵子に注入して受精卵を作成する顕微授精(ICSI)は、精液所見が不良のために通常の体外受精(cIVF)では妊娠が困難な不妊カップルを治療する目的で1990年代に開発された。本技術はこの約20年間世界中で広く用いられ、精液所見による男性不妊因子の割合はほぼ一定であるにもかかわらず、ICSI実施件数は増加の一途をたどっている(1)。この増加は、男性不妊因子のない不妊カップルに実施される割合が大幅に高まっていることに起因し、米国では1996年の15.4%から2012年には66.9%へと上昇した(2)。このような本来の目的以外でICSIが用いられる背景には、確実に受精させることで受精卵を効率的に増やし、生児が得られる確率を高めるという考えがある。しかし、その考えを裏付ける確かなエビデンスはこれまで得られていない。男性不妊因子のない不妊カップルを対象にICSIとcIVFを比較したランダム化試験(3)は報告されている。主要評価項目である着床率はcIVFの方が高かったが(30%対22%)、統計学的検出力が不十分であり、不妊カップルにとって最も重要な関心事である生児獲得率(生産率)のデータがないことから、これらの諸問題を解決する新たなランダム化試験が望まれていた。 今回のランダム化非盲検対照試験は、2018〜19年にベトナムのIVFセンター2施設で行われた。世界保健機関(WHO)2010基準で総精子数および精子運動率が正常、過去のcIVFまたはICSIの治療歴は2回以下などを組み入れ条件とし、卵巣刺激はアンタゴニスト法で移植胚数は2個以下と設定した。cIVFとICSIの介入方法と治療コストは両者で明らかに異なるので、胚培養士および対象カップルへの盲検化は不可のため非盲検となった。主要評価項目は、初回採卵周期で得られた最初の胚の移植での生産率とされた。6,440組の不妊カップルを絞り込んでいった結果、最終的にICSI群に532組、cIVF群に532組が割り当てられた。その結果、生産率は、ICSI群で35%、cIVF群で31%で、両群間に有意差は認められなかった。受精失敗率についても両群間で有意差はなかった(5%対6%)。 本研究の結果から、男性不妊因子のない不妊カップルにICSIを行っても生産率が向上することはなく、昨今の男性不妊因子を考慮しないICSIのルーチン的な使用については再考する必要性が示された。 1. Zagadailov P, et al. Obstet Gynecol. 2018;132(2):310-320. 2. Boulet SL, et al. JAMA. 2015;313(3):255-263. 3. Bhattacharya S, et al. Lancet. 2001;357(9274):2075-2079.
血液内科 Journal Check Vol.19(2022年10月7日号)
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再発難治性多発性骨髄腫に対する新規CAR-T細胞療法シルタカブタゲン オートルユーセル Chekol Abebe E, et al. Front Immunol. 2022;13:991092. ≫血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ≫Bibgraphを読む 未治療DLBCLに対するポラツズマブの第III相臨床試験結果 Flowers C, et al. Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2022;22 Suppl 2:S358-S359. ≫血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ≫Bibgraphを読む 再発難治性の成人T細胞白血病リンパ腫に対するバレメトスタットの国内第II相臨床試験 Izutsu K, et al. Blood. 2022 Sep 23. [Online ahead of print] ≫血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ≫Bibgraphを読む 高リスクMDSの移植後維持療法としてのアザシチジン用量設定試験~関東造血幹細胞移植共同研究グループによる研究 Najima Y, et al. Ann Hematol. 2022 Sep 23. [Online ahead of print] ≫血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ≫Bibgraphを読む 悪性リンパ腫に対するFlu/Melベースの低強度コンディショニングによる臍帯血移植、最適な投与量は? Sakatoku K, et al. Ann Hematol. 2022 Oct 5. [Online ahead of print] ≫血液内科 Pro(血液内科医限定)へ ≫Bibgraphを読む 血液内科 Pro(血液内科医限定)へ アンケート:ご意見箱 ※「血液内科 Pro」は血液内科医専門のサービスとなっております。他診療科の先生は引き続き「知見共有」をご利用ください。新規会員登録はこちら
日本骨髄バンク~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月17日号)
日本骨髄バンク~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月17日号)
毎年10月は「骨髄バンク推進月間」ということで、少し古いですが日本骨髄バンク(Japan Marrow Donor Program:JMDP)に関する論文を取り上げました。エクスメディオでは、現在「骨髄バンクへの寄付プロジェクト」を実施しており、より多くの方々のご協力を募っています。Twitter企画も実施していますので、まずはフォローをしていただけると幸いです。(エクスメディオ 鷹野 敦夫) 『BIBGRAPH SEARCH』では、エクスメディオが提供する文献検索サービス「Bibgraph」より、注目キーワードで検索された最新論文をまとめてご紹介しています。 JMDPの国内実績:骨髄移植25年間で2万件超 Saito H, et al. Bone Marrow Transplant. 2018; 53: 609-616. ≫Bibgraphを読む 日本における骨髄移植の現状~JMDP調査 Hirakawa T, et al. Rinsho Ketsueki. 2018; 59: 153-160. ≫Bibgraphを読む 非血縁ドナーからの骨髄採取における自己血輸血の臨床的意義 Fujioka SI, et al. Int J Hematol. 2020; 111: 833-839. ≫Bibgraphを読む 日本における同種造血幹細胞移植の治療成績~レトロスペクティブ分析 Kawashima N, et al. Int J Hematol. 2018; 107: 551-558. ≫Bibgraphを読む 日本における非血縁者間末梢血幹細胞移植51例に関するプロスペクティブ観察研究 Goto T, et al. Int J Hematol. 2018; 107: 211-221. ≫Bibgraphを読む 参考:【Twitterフォロー】骨髄バンクへの寄付プロジェクト     骨髄バンクへの寄付プロジェクト概要 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら