「免疫抑制薬」の記事一覧

腎移植の免疫抑制を制御性T細胞 第I/IIa相臨床試験
腎移植の免疫抑制を制御性T細胞 第I/IIa相臨床試験
Regulatory T cells for minimising immune suppression in kidney transplantation: phase I/IIa clinical trial BMJ. 2020 Oct 21;371:m3734. doi: 10.1136/bmj.m3734. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】腎移植後の自己内在性制御性T細胞(nTreg)注入による免疫バランスの再形成の安全性および実行可能性を評価すること、有効性が低い割に有害事象があり直接的および間接的コストも高い高用量免疫抑制薬を減量できる可能性を見きわめること。有益な概念実証モデルで、容易で安定した製造、過剰免疫抑制の危険、標準治療薬との相互作用および炎症性環境での機能の安定性などのnTreg治療の課題を検討すること。 【デザイン】医師主導単施設nTreg用量漸増第I/IIa相臨床試験(ONEnTreg13)。 【設定】ONE Study内のCharité大学病院(ドイツ・ベルリン、EUが資金提供)。 【参加者】生体ドナー腎移植レシピエント(ONEnTreg13、11例)および対応する参照群(ONErgt11-CHA、9例)。 【介入】腎移植7日後にCD4+ CD25+ FoxP3+ nTregを0.5、1.0、2.5-3.0×106個/体重kgのいずれかの用量を静脈内投与し、その後48週後まで3剤併用免疫抑制療法から低用量タクロリムス単独療法へと段階的に減量した。 【主要評価項目】主要臨床的および安全性評価項目は、60週時の複合評価項目とし、さらに3年間追跡した。評価には、生検で確認した急性拒絶反応の発生、nTreg注入による有害事象の評価、過剰免疫抑制の徴候などを含めた。移植腎機能を副次評価項目とした。付随する研究に包括的な探索的バイオマーカーのポートフォリオを含めた。 【結果】全例で、腎臓移植2週間前に採取した末梢血40-50mLから十分な量、純度、機能のnTreg細胞が作製できた。3通りのnTreg用量漸増群いずれでも用量規制毒性を認めなかった。nTregおよび参照群の3年後同種移植片生着率はいずれも100%で、臨床および安全性に関する特徴もほぼ同じだった。nTreg群の11例中8例(73%)が単剤による安定した免疫抑制を達成した一方で、参照群では標準的な2剤または3剤併用による免疫抑制療法を継続していた(P=0.002)。従来のT細胞活性化は低下し、nTregが体内でポリクローナルからオリゴクローナルT細胞受容体レパートリーに変化した。 【結論】自己nTregの投与は、腎移植後に免疫抑制療法を実施している患者でも安全で実行可能であった。この結果は、Tregの有効性をさらに詳細に評価することの必要性を裏付け、移植および免疫病理学での次世代nTregアプローチの開発の基盤となるものである。 第一人者の医師による解説 腎移植後の免疫抑制療法の減少のため 今後の実用化に期待 越智 敦彦 亀田総合病院泌尿器科・腎移植科医長 MMJ. April 2021;17(2):53 免疫抑制療法の進歩により腎移植後の長期腎生着率の成績は向上したが、その半面で長期の免疫抑制薬の使用による感染症、悪性腫瘍、心血管障害の発症や薬剤の腎毒性による移植腎機能障害などが問題となった。そこで長期腎生着とともに免疫抑制薬の最少化が課題となっている。これまでの研究により、内在性制御性T細胞(nTreg)に固形臓器移植後の拒絶反応を遅延、防止する働きがあることが示されている。すでに末梢血、臍帯血、または胸腺から十分な量と純度のTregが作製できることも報告されている。しかし、腎移植後の免疫抑制療法へのnTregの導入には容易で安定したnTreg製造手順の作成と、安全性の確立のためnTreg投与による過剰免疫抑制の危険性、標準薬剤との相互作用などを明らかにする必要があった。 本論文は、自己血液中から作製したnTregの腎移植後投与の安全性と有効性について検討した医師主導型単施設nTreg用量漸増第I/IIa相臨床試験(ONEnTreg13試験)の報告である。生体腎移植のレシピエント11例をnTreg投与群とし、以前行われた試験(ONErgt11-CHA試験)の9例を参照群とすることで比較した。nTreg投与群では腎移植手術の2週間前に40~50mLの末梢血からnTreg(CD4+CD25+FoxP3+)を作製し、腎移植の7日後に体重(kg)あたり0.5、1.0、または2.5~3.0×106個の細胞を静脈内へ単回投与した。移植後に3剤の免疫抑制薬(プレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス)を開始し、48週かけて低用量のタクロリムス単剤へと漸減した。臨床所見および安全性の複合主要評価項目には、生検で確認された急性拒絶反応の発生率、nTreg投与に関連する有害作用および過剰免疫抑制の徴候が含まれ、移植後60週目に評価し、さらに3年間の追跡調査を行った。また移植腎の機能を副次評価項目とした。結果では、すべての患者で十分な量と純度、機能のあるnTregの作製が可能であった。nTreg用量を漸増した3つの投与群において用量規定毒性は確認されなかった。3年後の移植腎生着率はnTreg投与群、参照群ともに100%であり、臨床所見および安全性のデータに差を認めなかった。nTreg投与群では11例中8例(73%)でタクロリムス単剤での安定した免疫制御が達成されたが、参照群では標準的な2剤以上の免疫抑制療法が継続された(P=0.002)。 本研究はまだ症例数が少なく、臨床での実用化には今後さらにデータの蓄積が必要であるが、腎移植後の従来の免疫抑制療法に対して新しい知見をもたらす研究と考えられる。
ANCA関連血管炎治療に用いるavacopan
ANCA関連血管炎治療に用いるavacopan
Avacopan for the Treatment of ANCA-Associated Vasculitis N Engl J Med. 2021 Feb 18;384(7):599-609. doi: 10.1056/NEJMoa2023386. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】C5a受容体阻害薬avacopanは、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の治療薬として研究中である。 【方法】この無作為化比較試験では、ANCA関連血管炎患者をavacopan 30mg 1日2回投与とprednisoneの用量漸減法による経口投与群に1対1の割合で割り付けた。全例にシクロホスファミド(その後アザチオプリン)またはリツキシマブを併用した。1つ目の主要評価項目は寛解とし、26週時のバーミンガム血管炎活動性スコア(BVAS)が0点(範囲0-63点、スコアが高いほど疾患活動性が高い)および直前4週間のグルココルチコイド不使用と定義した。2つ目の主要評価項目は寛解維持とし、26週時および52週時の寛解と定義した。両評価項目で非劣性(マージン20%ポイント)および優越性を評価した。 【結果】計331例を無作為化し、166例をavacopan群、165例をprednisone群に割り付けた。試験開始時のBVAS平均スコアは両群とも16点であった。avacopan群166例中120例(72.3%)、prednisone群164例中115例(70.1%)が26週時に寛解(1つ目の主要評価項目)を得た(推定公差3.4%ポイント、95%CI -6.0-12.8、非劣性のP<0.001、優越性のP=0.24)。avacopan群166例中109例(65.7%)、prednisone群164例中90例(54.9%)が52週時に寛解を維持していた(2つ目の主要評価項目、推定公差12.5%ポイント、95%CI 2.6-22.3、非劣性のP<0.001、優越性のP=0.007)。avacopan群の37.3%、prednisone群の39.0%に重篤な有害事象(血管炎悪化を除く)が発生した。 【結論】ANCA関連血管炎患者を対象とした本試験で、avacopanは26週時の寛解でprednisone漸減投与に対して非劣性が示されたが優越性は示されず、52週時の寛解維持では優越性が示された。全例がシクロホスファミドまたはリツキシマブを併用していた。52週以降のavacopanの安全性および臨床効果は、本試験では評価しなかった。 第一人者の医師による解説 グルココルチコイドの副作用を低減 ANCA関連血管炎の新治療法に期待 三森 経世 医療法人医仁会武田総合病院院長 MMJ. August 2021;17(4):121 ANCA関連血管炎(AAV)は小動脈が侵され抗好中球細胞質抗体(ANCA)が陽性となる自己免疫疾患で、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)および好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)が含まれ、急速に進行する糸球体腎炎、間質性肺炎、末梢神経炎などの多彩な臓器病変を呈する重篤な疾患である。従来、AAVの治療は大量グルココルチコイド(GC)とシクロホスファミドまたはリツキシマブなどの免疫抑制薬の併用が主体であった。しかし、再燃が多く、長期にわたるGCの副作用が問題となっている。 AAVの病態にはANCAと補体が関与し、ANCAが好中球表面に発現した自己抗原に結合するとともに、C5aがC5a受容体に結合して好中球のケモタキシスと活性化を引き起こすと考えられている。アバコパンは低分子経口 C5a受容体アンタゴニストであり、C5a受容体に選択的に結合して、C5aとANCAによる好中球の活性化を抑制すると考えられる。 本論文は、世界の143施設が参加し、AAVに対するアバコパンの有効性と安全性を検討した第3相試験の報告である。アバコパン 30mgの1日2回経口投与(A群)166人とプレドニゾン漸減療法(P群:1日60mgで 開始し21週までに中止)164人が二重プラセボ二重盲検試験で比較された。GPA181人とMPA149人がエントリーされ、PR3-ANCAが43%、MPO-ANCAが57%を占めたが、解析では両者は区別されていない。全例で免疫抑制薬(シクロホスファミドまたはリツキシマブ)が併用され、途中増悪時のGC救済療法は許容されている。 26週目の寛解達成率(Birmingham Vasculitis Activity Score[BVAS]=0および4週間前までのGC中止)はA群72.3%、P群70.1%であり、A群のP群に対する非劣性が証明された。52週目の寛解維持率はA群65.7%、P群54.9%で、A群の非劣性のみならず優越性も認められた。また、A群はP群より52週目までの再燃率が有意に低く、推算糸球体濾過量(eGFR)、蛋白尿、生活の質(QOL)の改善でも上回っていた。GCによる副作用の発現率は当然ながら、P群でA群よりも高かった。死亡例はA群2例、P群4例で、肝機能障害がA群で9例にみられたが、安全性に関して両群間で有意差はみられなかった。 本試験で、AAVにおいて補体阻害薬であるアバコパンのプレドニゾン漸減療法に対する非劣性と、52週での優越性が証明されたことは、将来の治療戦略に大きな変革をもたらす可能性があり、GCの使用を減らし副作用を低減できることにも大きな利点がある。長期成績と長期安全性、寛解導入後の薬剤減量・中止の可能性などが今後の課題である。
ループス腎炎に用いるvoclosporinとプラセボの有効性および安全性の比較(AURORA 1) 多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験
ループス腎炎に用いるvoclosporinとプラセボの有効性および安全性の比較(AURORA 1) 多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験
Efficacy and safety of voclosporin versus placebo for lupus nephritis (AURORA 1): a double-blind, randomised, multicentre, placebo-controlled, phase 3 trial Lancet. 2021 May 29;397(10289):2070-2080. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00578-X. Epub 2021 May 7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】ループス腎炎成人患者の治療薬として承認された新たなカルシニューリン阻害薬voclosporinによって、第II相試験でループス腎炎患者の腎奏効が改善した。この試験は、ループス腎炎の治療に用いるvoclosporinの有効性と安全性を評価することを目的とした。【方法】この多施設共同、二重盲検、無作為化第III相試験は、27カ国の142施設で実施された。米国リウマチ学会の基準に基づきループス腎炎を呈する全身性エリテマトーデスと診断され、2年以内の腎生検でクラスIII、IVまたはV(単独またはクラスIII、IVとの併存)の患者を適格とした。自動ウェブ応答システムを用いて、ミコフェノール酸モフェチル(MMF、1gを1日2回)と急速に減量する低用量経口ステロイドによる基礎治療を実施した上で、患者を経口voclosporinとプラセボに(1対1の割合で)無作為化により割り付けた。主要評価項目は、52週時の腎の完全寛解とし、主要評価項目評価直前の尿蛋白/クレアチニン比0.5mg/mg未満、腎機能安定(eGFR値60mL/min/1.73m^2または治療前からの低下度20%以下と定義)、レスキュー薬非投与および44~52週に3日以上連続または7日間以上にわたるprednisone 10mg/日相当量未満の投与の複合と定義した。このほか、安全性を評価した。intention-to-treatで有効性解析、無作為化し試験治療を1回以上実施した患者で安全性解析を実施した。試験は、ClinicalTrials.govにNCT03021499で登録されている。【結果】2017年4月13日から2019年10月10日の間に、179例をvoclosporin群、178例をプラセボ群に割り付けた。主要評価項目に定めた腎の完全寛解は、voclosporin群の患者の方がプラセボ群の患者よりも多く達成した(179例中73例[41%]vs. 178例中40例[23%];オッズ比2.65;95%CI 1.64~4.27;P<0.0001)。有害事象は両群が拮抗していた。voclosporin群178例中37例(21%)とプラセボ群178例中38例(21%)に重篤な有害事象が発現した。最も多く見られた感染症などの重篤な有害事象は肺炎であり、voclosporin群の7例(4%)とプラセボ群の8例(4%)に発現した。試験期間中または試験追跡期間中に計6例が死亡した(voclosporin群1例[1%未満]とプラセボ群5例[3%])。死亡に至る事象に、試験担当医師が試験治療に関連があると考えたものはなかった。【解釈】MMF+低用量ステロイドとvoclosporinの併用は、MMF+低用量ステロイドのみよりも、臨床的にも統計的にも腎の完全寛解率が良好であり、安全性のデータも同等であった。この結果は、活動性ループス腎炎治療の重要な成果である。 第一人者の医師による解説 標準薬のMMFにボクロスポリン併用で寛解率改善 国内での保険収載を期待 廣村 桂樹 群馬大学大学院医学系研究科内科学講座腎臓・リウマチ内科学分野教授 MMJ. December 2021;17(6):180 活動性ループス腎炎の治療では、まず寛解導入療法を実施して腎炎を鎮静化し、その後維持療法により長期間の寛解維持を目指す。寛解導入療法は、中等量~大量のグルココルチコイドと免疫抑制薬の投与が基本である。2009年に報告されたALMS試験では、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)とシクロホスファミド静注療法(IVCY)が比較され、両者がほぼ同等の寛解率を示し(1)、その結果をもとにMMFまたはIVCYが寛解導入における免疫抑制薬の標準薬となった。その後、より高い有効性を求め、標準薬に生物学的製剤などを併用する臨床試験がいろいろ試みられたが、ほとんどの試験が失敗に終わっている。そうした中、2015年に、MMFとカルシニューリン阻害薬であるタクロリムスの併用により、IVCYに比べ、寛解率が有意に高まることが中国の多施設共同試験で示され注目を集めた(2)。本論文で報告されたAURORA1試験は、シクロスポリン誘導体で新規カルシニューリン阻害薬のボクロスポリン(VCS)とMMFの併用療法の効果を検討した、日本も含めた国際的な第3相臨床試験である。ISN/RPS2003年分類III、IV、V型のループス腎炎患者357人を対象に、MMF(1回1g、1日2回)をベース薬としてVCS(1回23.7mg、1日2回)投与群とプラセボ投与群の2群に無作為に割り付け(1;1)、検討がなされた。なお本試験ではグルココルチコイド投与量がかなり少ないことが特徴である。治療開始時にメチルプレドニゾロン(0.5g/日、2日間)を投与後、プレドニゾン25mg/日(体重45kg以上の場合)から開始して漸減し、16週目以降は2.5mg/日に減量するプロトコールであり、通常投与量の半分以下となる。主要評価項目である52週後の完全腎奏効(早朝尿での尿蛋白/尿Cr比0.5mg/mgCr以下、eGFR60mL/分/1.73m2以上またはベースラインからのeGFR低下20%以下など)が得られた患者は、VCS群41%に対してプラセボ群23%であり、VCS群が有意に優れていた(オッズ比,2.65;95%信頼区間,1.64~4.27;P<00001)。一方、有害事象は両群で差がみられず、感染症関連の重篤な有害事象として肺炎が最も多くみられたが、VCS群、プラセボ群ともに4%であった。本試験の結果を受けて、2021年1月に米食品医薬品局(FDA)はループス腎炎の治療薬としてボクロスポリンを承認し、米国では販売されている。日本の大塚製薬は日本と欧州でのVCSの独占販売権を取得しており、今後国内での保険収載が期待される。 1. Appel GB, et al. J Am Soc Nephrol. 2009;20(5):1103-1112. 2. Liu Z, et al. Ann Intern Med. 2015;162(1):18-26.