ライブラリー 再発または難治性の有毛細胞白血病に用いるベムラフェニブとリツキシマブの併用
Vemurafenib plus Rituximab in Refractory or Relapsed Hairy-Cell Leukemia
N Engl J Med. 2021 May 13;384(19):1810-1823. doi: 10.1056/NEJMoa2031298.
原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む
上記論文の日本語要約【背景】有毛細胞白血病(HCL)は、悪性度の低いCD20陽性無痛性B細胞性悪性腫瘍であり、BRAF V600Eキナーゼ活性化変異が病原性の役割を演じている。再発または難治性のHCL患者を対象とした臨床試験で、経口BRAF阻害薬ベムラフェニブでBRAF V600Eを標的とすることで、患者の91%が奏効、35%が完全寛解を得た。しかし、治療中止後の無再発生存期間は中央値でわずか9カ月であった。【方法】この再発または難治性HCL患者を対象とした公益機関単施設第II相試験では、ベムラフェニブ(960mg、1日2回8週間投与)とリツキシマブ(体表面積1m2当たり375mg、18週間で8回投与)の同時および逐次投与の安全性および有効性を評価した。主要評価項目は、計画した治療終了時点の完全奏効とした。【結果】登録したHCL患者30例の前治療数は中央値で3回であった。intention-to-treat(ITT)解析集団では、26例(87%)が完全寛解を得た。化学療法(10例)またはリツキシマブ(5例)に抵抗性を示した全HCL患者およびBRAF阻害薬による治療歴がある全患者(7例)が完全寛解を得た。中央値で2週間後に血小板減少症が解消し、中央値で4週間後に好中球減少症が解消した。完全寛解を得た26例のうち17例(65%)に微小残存病変(MRD)が検出されなかった。全30例の無増悪生存率(PFS)は、中央値で37カ月間の追跡で78%、奏効が得られた26例の無再発生存率は、中央値で34カ月間の追跡で85%であった。事後解析で、MRD陰性およびBRAF阻害薬投与歴がないことに無再発生存期間の改善との相関関係が認められた。毒性は主にグレード1または2で、試験薬剤に既知のものだった。【結論】小規模な試験では、化学療法を使用せず、骨髄毒性のないベムラフェニブとリツキシマブを用いた短期間の併用療法により、再発または難治性HCL患者のほとんどが長期間に及ぶ完全寛解を得た。
第一人者の医師による解説
骨髄抑制のリスクがなく感染症を有する患者でも安全な治療が可能
今井 陽一 東京大学医科学研究所附属病院血液腫瘍内科准教授
MMJ. December 2021;17(6):182
ヘアリー細胞白血病(HCL)は腫瘍細胞に毛髪状の絨毛と細胞膜の波打ちという特徴的な形態を認める慢性Bリンパ球増殖性疾患で、汎血球減少と脾腫を特徴とする。高齢男性が多く罹患する(男性/女性=4/1)(1)。HCLの原因遺伝子変異BRAFV600EはRAS-RAF-MEK-ERKシグナルの恒常的活性化をもたらす。抗がん剤治療として、クラドリビン、ペントスタチンなどのプリンアナログによく反応する。しかし58%は再発し、徐々に感受性が低下し血液毒性や免疫能低下の副作用が進行する(2)。BRAF阻害薬ベムラフェニブ投与の全奏効率(完全奏効[CR]+部分奏効[PR])は91%で、CR率は35%と深い反応が得られた(3)。一方、CRが得られた患者でも骨髄生検の免疫組織染色で5~10%の腫瘍細胞が残存し、再発のリスクが高い。本論文は再発・難治HCLに対するベムラフェニブと抗CD20抗体リツキシマブ併用療法の有効性と安全性を評価した第2相試験の結果を報告している。BRAFV600E変異を有するHCL患者に対してベムラフェニブは8週間投与され、リツキシマブは18週にわたって8回投与された。年齢中央値61歳の31人が参加し、全例にプリンアナログの投与歴があった。治療企図解析(intention-to-treatanalysis)でCRは87%で得られた。アレル特異的PCR検査によるBRAFV600E検出に基づく微小残存病変(MRD)はCRが得られた患者の65%で陰性であった。追跡期間中央値37カ月時点の無増悪生存率は78%であった。治療終了時にMRD陰性であった17人ではMRD陰性を確認してから中央値28.5カ月時点において全例のMRD陰性が維持された。このように長期にわたって病勢がコントロールされた。リツキシマブ関連の副作用として急性輸液反応や一過性の好中球減少がみられ、重篤な副作用は一過性の好中球減少(12.9%)のみであった。ベムラフェニブとリツキシマブの併用療法は短期間で投与でき安全性も高く、深い治療反応を持続することができた。抗がん剤と異なり骨髄抑制のリスクがなく感染症を有する患者でも安全に治療が可能となり、新型コロナウイルス感染症パンデミックにおける治療として注目される。
1. Falini B, et al. Blood. 2016;128(15):1918-1927.
2. Rosenberg JD, et al. Blood. 2014;123(2):177-183.
3. Tiacci E, et al. N Engl J Med. 2015;373(18):1733-1747.