「血液のがん」の記事一覧

再発または難治性多発性骨髄腫に用いるカルフィルゾミブ+デキサメタゾンと比較したカルフィルゾミブ+デキサメタゾン+ダラツムマブ(CANDOR) 第III相多施設共同非盲検無作為化試験の結果
再発または難治性多発性骨髄腫に用いるカルフィルゾミブ+デキサメタゾンと比較したカルフィルゾミブ+デキサメタゾン+ダラツムマブ(CANDOR) 第III相多施設共同非盲検無作為化試験の結果
Carfilzomib, dexamethasone, and daratumumab versus carfilzomib and dexamethasone for patients with relapsed or refractory multiple myeloma (CANDOR): results from a randomised, multicentre, open-label, phase 3 study Lancet. 2020 Jul 18;396(10245):186-197. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30734-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】レナリドミドおよびボルテゾミブを用いた1次治療によって、再発または難治性多発性骨髄腫の新たな治療の必要性が高まっている。カルフィルゾミブとダラツムマブの併用は、第I相試験で、再発または難治性多発性骨髄腫での高い有効性が示されている。この試験では、再発または難治性多発性骨髄腫に用いるカルフィルゾミブ、デキサメタゾンおよびダラツムマブの併用をカルフィルゾミブとデキサメタゾンの併用と比較した。 【方法】この第III相多施設共同非盲検無作為化試験では、北米、欧州、オーストラリアおよびアジアの102施設から組み入れた再発または難治性多発性骨髄腫患者466例をカルフィルゾミブ+デキサメタゾン+ダラツムマブ(KdD)とカルフィルゾミブ+デキサメタゾン(Kd)に2対1の割合で無作為に割り付けた。全例にカルフィルゾミブ56mg/m2(第1サイクルの第1、2日は20mg/m2)を週2回投与した。ダラツムマブは、第1サイクルの第1、2日に8mg/kg、残りの第1サイクルと第2サイクルでは週1回16mg/kg、第3-6サイクルでは2週に1回16mg/kg、その後は4週に1回16mg/kgを投与した。デキサメタゾン40mgを週1回(第2週以降、75歳以上の患者に20mg)投与した。主要評価項目は、intention-to-treatで評価した無増悪生存期間とした。安全性解析集団で有害事象を評価した。この試験(NCT03158688)は、ClinicalTrials.govに登録されており、現在進行中であるが、登録は終了している。 【結果】2017年6月13日から2018年6月25日にかけて、適格性を評価した569例のうち466例を組み入れた。追跡期間中央値約17カ月後、KdD群は無増悪生存期間未達であったのに対し、Kd群は15.8カ月であった(ハザード比0.63、95%CI 0.46-0.85、P=0.0027)KdD群の治療期間中央値はKd群よりも長かった(70.1週 vs 40.3週)。KdD群の253例(82%)、Kd群の113例(74%)にグレード3以上の有害事象が報告された。治療中止に至った有害事象の発生頻度は、両群同等であった(KdD群69例[22%]、Kd群38例[25%])。 【解釈】KdD療法によって、Kd療法と比べて再発または難治性多発性骨髄腫患者の無増悪生存期間が長くなり、リスク便益のデータも良好であった。 第一人者の医師による解説 他の3剤併用療法との比較は未実施 併用療法の選択や順番は臨床現場での判断 中澤 英之 信州大学医学部血液内科講師 MMJ. February 2021;17(1):24 多発性骨髄腫(MM)の治療は、20年ほど前まで選択肢が限られていたが、その後、プロテアソーム阻害薬(PI)のボルテゾミブ、免疫調整薬(IMiDs)のレナリドミドが登場し、さらにこの10年間に7種類の新規薬剤が利用可能になった。現在、新規薬剤を含めた複数の選択肢の中から、患者ごとに治療を選ぶことが、臨床医の課題となっている。一方、MM患者の治療開始からの平均余命は約6年とされ、特に再発・難治性 MMの治療にはまだ改善の余地がある。 本論文は、再発・難治性 MMに対する新たな併用療法として、PIのカルフィルゾミブ(K)、抗CD38抗体薬のダラツムマブ(D)、デキサメタゾン(d)の3剤併用療法(KdD療法)の有用性を評価したランダム化国際共同非盲検第 III相 CANDOR試験の報告である。この試験結果に基づき、日本では2020年11月からKdD療法が保険診療で実施可能となった。本試験には北米、欧州、豪州、アジアの102施設から、前治療レジメン数1~3の再発・難治性MM患者が登録され、KdD群とKd(対照)群に割り付けられた。その結果、主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)は追跡期間中央値17カ月時点において、KdD群は未到達、Kd群は15.8カ月(ハザード比[HR], 0.63)で、KdD療法の優位性が示された。頻度の高い有害事象(AE)として血小板減少、貧血、消化管症状、高血圧、感染症、疲労感などが認められ、ほかに注目すべきAEとして、末梢神経障害、注射反応、心不全、急性腎不全、虚血性心疾患などが報告された。有害事象による中止率はKdD群22%、Kd群25%で、Kの中止要因は心不全、Dの中止要因は肺炎が最多であった。 本試験の追跡調査結果が2020年秋の米国血液学会(ASH)で報告された。観察期間およそ28カ月時点の解析(1)によると、PFS中央値はKdD群28.6カ月、Kd群15.2カ月であり、KdD群の優位性はその後も維持されていることが明らかになった(HR, 0.59;95% CI, 0.45~0.78)。サブグループ解析では、細胞遺伝学的に高リスク患者、前治療歴2レジメン以上の患者、レナリドミド不応性患者でもKdD療法の優位性が示された。新たなAEの報告はなかった。 CANDOR試験によって、KdD療法は再発・難治性MMに対して有効で認容性の良好な治療選択肢であることが明らかになった。しかし、他の3剤併用療法との直接比較は現時点では実現していない。どの併用療法を、どのような順番で行うかは、まだ臨床現場での判断に任されている。MMの治療選択肢が劇的に増えたこの10年間は、解決すべき多くの課題を再認識した10年間であったとも言えるだろう。 1. Meletios A Dimopoulos, et al. Blood 2020; 136 (Supplement 1): 26-27.
小児および成人B細胞急性リンパ性白血病に用いるゲノム編集したドナー由来同種CD-19標的キメラ抗原受容体発現T細胞 第1相試験の結果
小児および成人B細胞急性リンパ性白血病に用いるゲノム編集したドナー由来同種CD-19標的キメラ抗原受容体発現T細胞 第1相試験の結果
Genome-edited, donor-derived allogeneic anti-CD19 chimeric antigen receptor T cells in paediatric and adult B-cell acute lymphoblastic leukaemia: results of two phase 1 studies Lancet. 2020 Dec 12;396(10266):1885-1894. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32334-5. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【結果】ゲノム編集したドナー由来同種CD-19標的キメラ抗原受容体発現(CAR)T細胞によって、臨床現場での即時使用が可能なCAR-T細胞製品の新たな形態がもたらされ、利用のしやすさや適応性が広がることになる。UCART19はそのような製品の一つで、小児と成人の再発または治療抵抗性B細胞急性リンパ性白血病で検討されている。多施設共同第1相試験2件で、小児と成人の再発または治療抵抗性B細胞急性リンパ性白血病に用いるUCART19の実行可能性、安全性および抗白血病活性を調べることを目的とした。 【方法】UCART19の安全性および抗白血病活性を評価する進行中の多施設共同第1相試験2件に小児および成人患者を組み入れた。全例にフルダラビンとcyclophosphamideを投与して(一部にアレツムマブ併用)リンパ球を枯渇させてから、小児にUCART19を1.1~2.3×10^6個/kg、成人に6×10^6個/kg、または用量漸増試験で1.8~2.4×10^8個投与した。主要評価項目は、初回投与とデータカットオフ時点の間に認められる有害事象とした。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT02808442とNCT02746952で登録されている。 【結果】2016年6月3日から2018年10月23日の間に、2試験に小児7例および成人14例を組み入れ、UCART19を投与した。サイトカイン放出症候群が最も発言頻度の高い有害事象で、19例(91%)に認められ、そのうち3例(14%)がグレード3~4のサイトカイン放出症候群を来した。他の有害事象として、8例(38%)にグレード1または2の神経毒性、2例(10%)にグレード1の急性移植片対宿主病、6例(32%)にグレード4の遷延する血球減少が発現した。2例が治療のため死亡し、1例はサイトカイン放出症候群と併発した好中球減少性敗血症によるもので、もう1例は血球減少が持続する症例で肺出血が原因であった。21例中14例(67%)が完全寛解または投与28日後の造血機能回復が不十分な完全寛解を得た。アレツムマブを投与しなかった患者(4例)では、UCART19の増殖または抗白血病活性が認められなかった。奏効期間中央値は、同種幹細胞移植前に奏効が認められた14例中10例(71%)で4.1カ月であった。6カ月無増悪生存率が27%、全生存率が55%であった。 【解釈】この2件の試験は、悪性度の高い白血病の治療に用いる同種のゲノム編集したCAR-T細胞の実行可能性を初めて示したものである。UCART19は、複数の治療歴がある小児および成人の再発または治療抵抗性B細胞急性リンパ球性白血病の生体内で増殖および抗白血病活性を示し、安全性も管理可能であった。本試験の結果によって同種CAR-T細胞の分野が一歩前進し、UCART19は、急速に進行する疾患や自家CAR-T細胞療法が利用できない場合にも治療の機会をもたらすものである。 第一人者の医師による解説 ドナーのTリンパ球を用いる同種 CAR-T細胞の開発で より多くの患者にCAR-T細胞療法の機会の増加を期待 金 裕花/森 鉄也 聖マリアンナ医科大学病院小児科 MMJ. June 2021;17(3):85 キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor; CAR)は、がん細胞が発現する抗原などを標的として作製された人工的受容体であり、CARを患者のTリンパ球に遺伝子導入したCAR-T細胞の輸注により、がん細胞に対する特異的な免疫応答による治療効果が期待される(自家CAR-T細胞療法)。 ほとんどのB細胞性急性リンパ芽球性白血病(acute lymphoblastic leukemia;ALL)患者のALL細胞に発現するCD19を標的とした自家CAR-T細胞は、再発・治療抵抗性のCD19陽性ALLに対し高い奏効割合(70〜90%)を示し、日本においても2019年5月に薬事承認された。一方で、自家CAR-T細胞の製造は複雑であり、時間を要し(少なくとも5〜6週)、1回の投与あたりの薬価は3,349万円(保険収載当時)と高額である。 本論文は、健常ドナーのTリンパ球を用いて製造されたCD19標的同種CAR-T細胞(UCART19)の再発・治療抵抗性のCD19陽性ALLに対する第1相試験の報告である。対象患者(小児7人、成人14人)には、リンパ球除去療法後にUCART19が輸注され、主要評価項目である有害事象などが評価された。最も頻度の高い有害事象はサイトカイン放出症候群であり、21人中19人(91%)に生じ、3人(14%)はグレード3以上であった。また、6人(32%)にグレード4の遷延する血球減少、2人(10%)にグレード1の急性移植片対宿主病を認めた。敗血症、肺出血により2人に治療関連死亡が生じた。輸注28日後に、14人(67%)に完全奏効、あるいは造血機能回復が不十分な完全奏効を認めた。6カ月無増悪生存率は27%、6カ月生存率は55%であった。リンパ球除去療法にアレムツズマブ*を使用しなかった4人では、UCART19の増殖および治療効果を認めなかった。UCART19は対応可能な安全性プロファイルのもとで、患者体内で増殖しALLに対する効果を発揮したことから、再発・治療抵抗性のCD19陽性ALL患者に対する同種CAR-T細胞療法の開発に有望な一歩を踏み出したと結論している。 患者ではなくドナーのTリンパ球を用いる同種CAR-T細胞の開発により、必要時に速やかに使用可能な既製(off-the-shelf)製剤として、より多くの患者にCAR-T細胞療法の機会が増加すると期待される。さらなる経験、評価の蓄積が待たれる。 *アレムツズマブ;リンパ球などが発現するCD52に対する抗体製剤であり、日本では同種造血幹細胞移植の前治療などに対する適応が薬事承認されている。
初回再発を認めた高リスクB細胞性急性リンパ性白血病患児の無事象生存期間にもたらすブリナツモマブと化学療法の作用の比較:無作為化臨床試験
初回再発を認めた高リスクB細胞性急性リンパ性白血病患児の無事象生存期間にもたらすブリナツモマブと化学療法の作用の比較:無作為化臨床試験
Effect of Blinatumomab vs Chemotherapy on Event-Free Survival Among Children With High-risk First-Relapse B-Cell Acute Lymphoblastic Leukemia: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Mar 2;325(9):843-854. doi: 10.1001/jama.2021.0987. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】ブリナツモマブは、CD3/CD19を標的とした二重特異性T細胞誘導作用を有する抗体製剤であり、再発または難治性B細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)患児に有効である。 【目的】初回再発を認めた高リスクB-ALL患児で、同種造血幹細胞移植前のブリナツモマブによる3回目地固め療法後の無事象生存期間を地固め化学療法と比較すること。 【デザイン、設定および参加者】この第III相無作為化試験では、2015年11月から2019年7月までの間に患者を登録した(データ打ち切り日、2019年7月17日)。13カ国47施設で、無作為化時に形態学的完全寛解(M1 marrow、骨髄中芽球細胞5%未満)またはM2 marrow(骨髄中芽球細胞5%以上25%未満)で、28日齢を超える18歳未満の初回再発高リスクB-ALL患児を登録した。 【介入】患者をブリナツモマブ1サイクル(54例、15μg/m2/日、4週間、持続点滴静注)と3コース目地固め化学療法(54例)に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は無事象生存率とした(事象:再発、死亡、二次がんまたは完全寛解未達成)。有効性に関する主な副次評価項目は全生存率とした。微小残存病変陰性化および有害事象発現率をその他の副次評価項目とした。 【結果】計108例を無作為化により割り付け(年齢中央値5.0歳[四分位範囲{IQR}4.0~10.5]、女児51.9%、M1 marrow 97.2%)、全例を解析対象とした。本試験への登録は、予め定めた中止基準に従って、早期有効中止となった。追跡期間中央値22.4カ月(IQR 8.1~34.2)での事象発生率は、ブリナツモマブ群31%、地固め化学療法群57%であった(log-rank検定のP<0.001、ハザード比0.33、95%CI 0.18~0.61)。ブリナツモマブ群の8例(14.8%)、地固め化学療法群の16例(29.6%)が死亡した。全生存のハザード比は0.43(95%CI 0.18~1.01)だった。ブリナツモマブ群の微小残存病変陰性化が地固め化学療法群よりも多かった(90%[49例中44例] vs. 54%[48例中26例]、差35.6%[95%CI 15.6~52.5])。致命的な有害事象は報告されなかった。ブリナツモマブ群と地固め化学療法群を比較すると、重篤な有害事象発現率はそれぞれ24.1% vs 43.1%、グレード3以上の有害事象発現率は57.4% vs 82.4%であった。ブリナツモマブ群の2例に治療中止に至る有害事象が報告された。 【結論および意義】初回再発を認めた高リスクB-ALL患児で、同種造血幹細胞移植前のブリナツモマブ1サイクルによる治療によって、多剤強化標準化学療法に比べ、追跡調査期間中央値22.4カ月で無事象生存率が改善した。 第一人者の医師による解説 安全に深い寛解を達成し 同種造血幹細胞移植の成績向上に寄与することを示唆 森 毅彦 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科血液内科学教授 MMJ. October 2021;17(5):150 小児急性リンパ性白血病(ALL)は成人のそれとは異なり、標準的な多剤併用化学療法により高い治癒率を得ることができる。しかし、再発した場合の予後は不良であり、その根治のためには同種造血幹細胞移植(HSCT)が実施される。同種HSCTは移植後の合併症による死亡と移植後のALL再発が、その成績に大きく影響する。移植後再発のリスクは残存腫瘍が少ないほど低いため、深い寛解を達成して移植に臨むのが理想的である。そのために毒性の強い化学療法を行ってきたが、近年、新規治療法が導入されてきている。その1つがブリナツモマブであり、bispecifi c T-cell engager(BiTE)抗体と呼ばれ、異なる抗原結合部位をもつ2重特異性抗体である。B細胞性腫瘍が発現するCD19と抗腫瘍効果を発揮するT細胞表面上のCD3を標的としている。小児再発・治療抵抗性 ALLを対象とした試験において39%の寛解率、そのうちの約半数が微少残存腫瘍の消失を達成した(1)。 本論文は再発後の治療で寛解を達成した小児高リスクALL患者を対象に、同種HSCT前の3回目地固め療法(1コース)をブリナツモマブ単剤と多剤併用化学療法に無作為に割り付けた臨床試験の結果を示したものである。この治療後に同種HSCTを実施する患者が対象であり、年齢中央値は5歳であった。本試験は中間評価にてブリナツモマブ群の成績が優れていたことから、早期に中止となった。24カ月無イベント生存率はブリナツモマブ群66.2%、化学療法群27.1%と有意差がみられた。24カ月再発率も24.9%と70.8%、微少残存腫瘍陰性化率も90%と54%と有意差がみられた。重篤な有害事象はブリナツモマブ群で少なかった。ブリナツモマブにより安全に深い寛解を達成し、同種HSCTの成績向上に寄与することが示唆された。 本研究の限界としては、小児を対象としていること、化学療法により寛解を達成した患者を対象としていること、1コースのブリナツモマブと化学療法を比較している点などが挙げられる。実診療では若年・成人のALL患者も多く、ブリナツモマブを非寛解例に使用することや複数コース使用するケースも多い。またブリナツモマブ以外にもCD19を標的としたchimeric antigen receptor T-cell (CAR-T)療法やCD22を標的とした抗体薬物複合体のイノツズマブ オゾガマイシンも実診療で使用可能となっており、これらの薬剤との比較や併用療法などの有効性・安全性を評価する試験が実施されることで、再発ALLの最適な治療法の発展につながっていくと考えられる。 1.von Stackelberg A, et al. J Clin Oncol. 2016;34(36):4381-4389.
再発または難治性の有毛細胞白血病に用いるベムラフェニブとリツキシマブの併用
再発または難治性の有毛細胞白血病に用いるベムラフェニブとリツキシマブの併用
Vemurafenib plus Rituximab in Refractory or Relapsed Hairy-Cell Leukemia N Engl J Med. 2021 May 13;384(19):1810-1823. doi: 10.1056/NEJMoa2031298. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】有毛細胞白血病(HCL)は、悪性度の低いCD20陽性無痛性B細胞性悪性腫瘍であり、BRAF V600Eキナーゼ活性化変異が病原性の役割を演じている。再発または難治性のHCL患者を対象とした臨床試験で、経口BRAF阻害薬ベムラフェニブでBRAF V600Eを標的とすることで、患者の91%が奏効、35%が完全寛解を得た。しかし、治療中止後の無再発生存期間は中央値でわずか9カ月であった。【方法】この再発または難治性HCL患者を対象とした公益機関単施設第II相試験では、ベムラフェニブ(960mg、1日2回8週間投与)とリツキシマブ(体表面積1m2当たり375mg、18週間で8回投与)の同時および逐次投与の安全性および有効性を評価した。主要評価項目は、計画した治療終了時点の完全奏効とした。【結果】登録したHCL患者30例の前治療数は中央値で3回であった。intention-to-treat(ITT)解析集団では、26例(87%)が完全寛解を得た。化学療法(10例)またはリツキシマブ(5例)に抵抗性を示した全HCL患者およびBRAF阻害薬による治療歴がある全患者(7例)が完全寛解を得た。中央値で2週間後に血小板減少症が解消し、中央値で4週間後に好中球減少症が解消した。完全寛解を得た26例のうち17例(65%)に微小残存病変(MRD)が検出されなかった。全30例の無増悪生存率(PFS)は、中央値で37カ月間の追跡で78%、奏効が得られた26例の無再発生存率は、中央値で34カ月間の追跡で85%であった。事後解析で、MRD陰性およびBRAF阻害薬投与歴がないことに無再発生存期間の改善との相関関係が認められた。毒性は主にグレード1または2で、試験薬剤に既知のものだった。【結論】小規模な試験では、化学療法を使用せず、骨髄毒性のないベムラフェニブとリツキシマブを用いた短期間の併用療法により、再発または難治性HCL患者のほとんどが長期間に及ぶ完全寛解を得た。 第一人者の医師による解説 骨髄抑制のリスクがなく感染症を有する患者でも安全な治療が可能 今井 陽一 東京大学医科学研究所附属病院血液腫瘍内科准教授 MMJ. December 2021;17(6):182 ヘアリー細胞白血病(HCL)は腫瘍細胞に毛髪状の絨毛と細胞膜の波打ちという特徴的な形態を認める慢性Bリンパ球増殖性疾患で、汎血球減少と脾腫を特徴とする。高齢男性が多く罹患する(男性/女性=4/1)(1)。HCLの原因遺伝子変異BRAFV600EはRAS-RAF-MEK-ERKシグナルの恒常的活性化をもたらす。抗がん剤治療として、クラドリビン、ペントスタチンなどのプリンアナログによく反応する。しかし58%は再発し、徐々に感受性が低下し血液毒性や免疫能低下の副作用が進行する(2)。BRAF阻害薬ベムラフェニブ投与の全奏効率(完全奏効[CR]+部分奏効[PR])は91%で、CR率は35%と深い反応が得られた(3)。一方、CRが得られた患者でも骨髄生検の免疫組織染色で5~10%の腫瘍細胞が残存し、再発のリスクが高い。本論文は再発・難治HCLに対するベムラフェニブと抗CD20抗体リツキシマブ併用療法の有効性と安全性を評価した第2相試験の結果を報告している。BRAFV600E変異を有するHCL患者に対してベムラフェニブは8週間投与され、リツキシマブは18週にわたって8回投与された。年齢中央値61歳の31人が参加し、全例にプリンアナログの投与歴があった。治療企図解析(intention-to-treatanalysis)でCRは87%で得られた。アレル特異的PCR検査によるBRAFV600E検出に基づく微小残存病変(MRD)はCRが得られた患者の65%で陰性であった。追跡期間中央値37カ月時点の無増悪生存率は78%であった。治療終了時にMRD陰性であった17人ではMRD陰性を確認してから中央値28.5カ月時点において全例のMRD陰性が維持された。このように長期にわたって病勢がコントロールされた。リツキシマブ関連の副作用として急性輸液反応や一過性の好中球減少がみられ、重篤な副作用は一過性の好中球減少(12.9%)のみであった。ベムラフェニブとリツキシマブの併用療法は短期間で投与でき安全性も高く、深い治療反応を持続することができた。抗がん剤と異なり骨髄抑制のリスクがなく感染症を有する患者でも安全に治療が可能となり、新型コロナウイルス感染症パンデミックにおける治療として注目される。 1. Falini B, et al. Blood. 2016;128(15):1918-1927. 2. Rosenberg JD, et al. Blood. 2014;123(2):177-183. 3. Tiacci E, et al. N Engl J Med. 2015;373(18):1733-1747.
再発または難治性の多発性骨髄腫に用いるB細胞成熟抗原を標的とするキメラ抗原受容体T細胞療法、ciltacabtagene autoleucel(CARTITUDE-1):第Ib/II相非盲検試験
再発または難治性の多発性骨髄腫に用いるB細胞成熟抗原を標的とするキメラ抗原受容体T細胞療法、ciltacabtagene autoleucel(CARTITUDE-1):第Ib/II相非盲検試験
Ciltacabtagene autoleucel, a B-cell maturation antigen-directed chimeric antigen receptor T-cell therapy in patients with relapsed or refractory multiple myeloma (CARTITUDE-1): a phase 1b/2 open-label study Lancet. 2021 Jul 24;398(10297):314-324. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00933-8. Epub 2021 Jun 24. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】CARTITUDE-1試験では、予後が不良である再発または難治性の多発性骨髄腫患者で、2つのB細胞成熟抗原を標的とする単一ドメイン抗体、ciltacabtagene autoleucel(cilta-cel)を用いたキメラ抗原受容体T細胞療法の安全性と臨床活性を評価することを目的とした。 【方法】米国の16施設が参加したこの単群非盲検第Ib/II相試験では、ECOG全身状態スコア0または1であり、3回以上の治療歴またはプロテアソーム阻害薬および免疫調節薬に対する抵抗性があり、かつプロテアソーム阻害薬、免疫調節薬および抗CD38抗体の投与歴がある18歳以上の多発性骨髄腫患者を登録した。リンパ球枯渇開始から5~7日後にcilta-celの単回投与(目標用量CAR発現生T細胞数として0.75×106個/kg)を実施した。主要評価項目は、安全性、第II相試験の推奨用量の確認(第Ib相)および治療した全患者の奏効率(第II相)とした。奏効期間と無増悪生存期間を主な副次評価項目とした。この試験はClinicalTrials.govに登録されている(NCT03548207)。 【結果】2018年7月16日から2019年10月7日までに113例を登録した。97例(第Ib相29例、第II相68例)に、第II相試験の推奨用量となるCAR発現生T細胞として0.75×106個/kgのcilta-celを投与した。2020年9月1日の臨床カットオフ時点で、追跡期間が中央値で12.4カ月(IQR 10.6~15.2)であった。中央値で6カ月間の前治療歴のある97例にcilta-cel療法を実施した。総奏効率が97%(95%CI 91.2~99.4、97例中94例)であった。65例(67%)が厳格な完全寛解を達成し、最初の奏効までの期間は1カ月(IQR 0.9~1.0)であった。効果は経時的に深くなった。奏効期間(95%CI 15.9~評価不能)も無増悪生存期間(16.8~評価不能)も中央値に達しなかった。12ヵ月無増悪生存率は77%(95%CI 66.0~84.3)であり、総生存率が89%(80.2~93.5)であった。血液学的な有害事象が高頻度に発現した。グレード3~4の血液学的有害事象に、好中球減少症(97例中92例[95%])、貧血(66例[68%])、白血球減少症(59例[61%])、血小板減少症(58例[60%])、リンパ球減少症(48例[50%])があった。97例中92例(95%)にサイトカイン放出症候群が発現し(4%がグレード3または4)、発症までの期間が中央値で7.0日(IQR 5~8)、継続期間が中央値で4.0日(IQR 3~6)であった。サイトカイン放出症候群は、グレード5のサイトカイン放出症候群で血球貪食性リンパ組織球症を来した1例を除いて全例が回復した。20例(21%)にCAR T細胞の神経毒性が発現した(9%がグレード3または4)。試験中に14例が死亡した。6例が治療関連有害事象によるもの、5例が病勢進行によるもの、3例が治療と無関連の有害事象によるものであった。 【解釈】目標用量CAR発現生T細胞として0.75×106個/kgのcilta-cel単回投与は、治療歴の多い多発性骨髄腫患者に早期に持続的な深い寛解をもたらし、安全性は管理可能であった。本試験のデータは最近提出した薬事申請の根拠とした。 第一人者の医師による解説 現在は保険適応外 一般臨床では費用対効果を考慮した適正使用が課題 矢野 真吾 東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科教授 MMJ. February 2022;18(1):16 キメラ抗原受容体(CAR)は、腫瘍細胞の抗原を特異的に認識する受容体を人工的に作製したものであり、CAR-Tは患者末梢血由来のT細胞にCARを遺伝子導入させた再生医療等製品である。B細胞成熟抗原(BCMA)はB細胞の成熟と分化に働く膜貫通蛋白で、形質細胞や多発性骨髄腫細胞に発現している。BCMAを標的としたCAR-Tは数種類開発されており、ciltacabtagene autoleucel(cilta-cel)はBCMAの異なる2つのエピトープを認識し高い結合能を有する。 本論文は、米国で行われた再発・難治性多発性骨髄腫に対するcilta-celの第1b/2相試験の報告である。対象は、前治療数が3レジメン以上の患者、または免疫調整薬とプロテアソーム阻害薬の両方に抵抗性を示し抗 CD38抗体薬の投与を受けた患者とした。主要評価項目は第1b相試験では安全性(有害事象)、第2相試験では奏効率とされた。リンパ球除去療法後、97人(第1b相29人、第2相68人)にcilta-cel(推奨用量0.75X106 CAR-T細胞/kg)を投与した。年齢の中央値は61歳、前治療数の中央値は6レジメンであった。観察期間の中央値は12.4カ月で、cilta-celの全奏効は94人(97%)、厳格な完全奏効は65人(67%)で得られ、奏効は中央値1カ月で到達した。微小残存腫瘍は、評価可能な57人のうち53人(93%)で陰性化した。無増悪生存期間および全生存期間は中央値に未到達、12カ月の時点での無増悪生存率および全生存率はそれぞれ77%と89%であった。有害事象は97人(100%)に観察され、最も頻度が高かったのは血液毒性で、グレード 3以上の好中球減少が92人、貧血が66人、血小板減少は58人であった。感染症は56人(58%)に生じ、グレード 3以上の肺炎を8人、敗血症を4人に認めた。サイトカイン放出症候群は92人(95%)に発症したが、87人がグレード 2以下でグレード 3/4は4人であった。グレード5のサイトカイン放出症候群で1人が死亡したが、残りの91人は改善した。神経毒性は20人(21%)に生じ、グレード 3/4を9人に認めた。 Cilta-celは、濃厚な前治療歴を有する多発性骨髄腫に対して、迅速に深い寛解を得ることが期待できる。Cilta-celの投与細胞数が他のCAR-Tよりも少なく設定されているため、比較的安全に投与できる可能性がある。現在、長期的効果の評価、早期の治療ラインでの投与や外来での投与の検討が行われている。日本でもCAR-T細胞療法が普及してきている。現在 BCMAを標的としたCAR-T細胞療法は保険適応外であるが、近い将来一般臨床で用いられるようになる。費用対効果を考慮した適正使用が求められており、最新のエビデンスを蓄積していく必要がある。